JP5910390B2 - セルロースナノファイバーフィルムおよびその製造方法 - Google Patents

セルロースナノファイバーフィルムおよびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、セルロースナノファイバーフィルムおよびその製造方法に関する。
強度および剛性を向上させることを目的として、各種繊維材料を含むフィルム形態の繊維強化材が、電気・電子、機械、自動車、建材等の産業分野で広く用いられている。当該繊維強化材としては、優れた強度と軽量性を有するガラス繊維が主に用いられている。しかし、ガラス繊維を用いた繊維強化材では、高剛性化は達成されるが、比重が大きくなるため軽量化に限界があった。
これに対し、軽量化を確保する観点から、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維等の有機材料からなる繊維材料を用いることが検討されてきた。しかし、これらの繊維材料を含む繊維強化材は軽量性を確保できるものの、機械的強度が十分ではないという問題があった。
そこで、近年、高強度、高剛性、および軽量化をいずれも実現することができる繊維材料として、セルロース繊維を用いることが提案されている。セルロース繊維は、植物繊維を解繊してフィブリル化することで得ることができる植物由来材料であり、カーボンニュートラルの観点から好ましい。セルロース繊維を用いた繊維強化材として、マトリックス樹脂にセルロース繊維を混合または含浸した繊維複合材料が報告されている。前記繊維複合材料は、高強度、高剛性、および軽量化を実現することができ、透明性を有することから、電子デバイス等に好適に使用されうる。
上述のような繊維複合材料として、例えば、特許文献1には、セルロース繊維(平均繊維径がナノオーダーのいわゆるセルロースナノファイバー)とマトリクス材料とを含むセルロース繊維複合材料であって、セルロース繊維含有量が40重量%以上で、厚み50μmにおける位相差が20nm以下で、膜厚10μm以上200μm以下のいずれかにおいてJIS K7136によるヘイズが5%以下であることを特徴とするセルロース繊維複合材料が開示されている。特許文献1には、セルロースが伸びきり鎖結晶を有することから、低熱線膨張係数、高弾性、高強度を発現することが記載されている。また、セルロース繊維を微細化し、その繊維の隙間をマトリクス材料で埋めることで高い透明性を有する繊維複合材料が得られることが記載されている。そして、特許文献1に記載のセルロース繊維複合材料によれば、セルロース繊維の配向性を小さくすることにより、光学特性に優れることが記載されている。
また、特許文献2には、繊維複合材料として、カルボキシル基およびアシル基を有するセルロースを含むセルロースナノファイバーと、樹脂(マトリクス材料)を含有することを特徴とする繊維複合材料(ただし、該アシル基の炭素数は2〜30であり、該カルボキシル基は金属塩であってもよい)が開示されている。特許文献2に記載の繊維複合材料によれば、フィルム変形による故障の改善、およびリタデーションの変動の抑制が可能であることが記載されている。
特開2010−24376号公報 特開2011−148914号公報
しかしながら、セルロース繊維およびマトリクス材料を含む繊維複合材料は、使用態様、使用環境等によって高温となりうる製品に適用すると、熱により膨張が生じうることが判明した。このような繊維複合材料の熱膨張は使用態様等によって高温となりうる製品に適用する場合に問題となりうる。
他方、特許文献1および2に記載の繊維複合材料のように、繊維強化材には、高い透明性や優れた光学特性(特に、複屈折を生じない)等を実現することが望まれる。
そこで本発明は、高い透明性および優れた光学特性(複屈折の防止)を維持しつつ、熱膨張の発生を防止しうるセルロースナノファイバーフィルムを提供することを目的とする。
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、上述の繊維複合材料の熱膨張は、その要因の一つとして、繊維複合材料に含有されるマトリクス材料(樹脂)にあることを見出した。他方、繊維複合材料から樹脂を取り除くと、従来の高い透明性および優れた光学特性が維持できない可能性がある。そこで、本発明者が検討を行ったところ、所定のセルロースナノファイバーを用い、かつ、フィルムの厚さ方向の繊維配向度を制御することで、セルロースナノファイバーフィルム中に樹脂を実質的に含まなくとも、高い透明性および優れた光学特性(複屈折の防止)を維持しつつ、熱膨張の発生を防止できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の上記課題は以下の手段により達成される。
1.少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバーを含む、セルロースナノファイバーフィルムであって、前記セルロースナノファイバーフィルムの厚み方向の繊維配向度が50%以下であり、かつ、実質的に樹脂を含まない、セルロースナノファイバーフィルム;
2.前記セルロースナノファイバーの置換度が0.5〜2.5であり、かつ、前記セルロースナノファイバーの結晶化度が30〜90%である、1に記載のセルロースナノファイバーフィルム;
3.熱線膨張係数が20ppm/K以下である、1または2に記載のセルロースナノファイバーフィルム;
4.下記数式(1)および(2):
で表されるリタデーションRoが10以下であり、かつ、リタデーションRtが10以下である、1〜3のいずれか1つに記載のセルロースナノファイバーフィルム;
5.少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバー、セルロースナノファイバーに対する良溶媒、およびセルロースナノファイバーに対する貧溶媒を含み、実質的に樹脂を含まないドープを調製する工程(1)と、前記ドープを支持体上に流延してフィルム前駆体を形成する工程(2)と、前記フィルム前駆体を乾燥する工程(3)と、を含む、1〜4のいずれか1つに記載のセルロースナノファイバーフィルムの製造方法;
6.前記良溶媒が、塩化メチレン、アセトン、メチルエチルケトン、アセト酢酸メチル、およびテトラヒドロフランからなる群から選択される少なくとも1種を含む、5に記載の製造方法;
7.前記貧溶媒が、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサンエタノール、およびイソプロピルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、5または6に記載の製造方法;
8.前記ドープが、膨潤状態で流延される、5〜7のいずれか1つに記載の製造方法。
本発明によれば、透明性が高く、熱膨張および複屈折の発生を防止することができるセルロースナノファイバーフィルムが提供される。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
本発明の一形態によれば、少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバーを含む、セルロースナノファイバーフィルムが提供される。この際、前記セルロースナノファイバーフィルムの厚み方向の繊維配向度が50%以下であり、かつ、前記セルロースナノファイバーフィルムが実質的に樹脂を含まないことを特徴とする。
<セルロースナノファイバーフィルム>
セルロースナノファイバーフィルムは、少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバーを含み、実質的に樹脂を含まないことを特徴とする。
セルロースナノファイバーフィルムの厚み方向の繊維配向度は、50%以下であり、好ましくは45%以下であり、より好ましくは35%以下である。繊維配向度の下限について、効果が確認できている繊維配向度は10%までであるが、繊維配向度10%未満のセルロースナノファイバーについても本発明に好適に適用できるものと考えられる。繊維配向度が50%超であると、複屈折が発生してしまう場合がある。なお、本明細書において、「繊維配向度」とは、セルロースナノファイバーフィルムにおいて基準として設定した方向に対するセルロースナノファイバーの配向度の度合いを示すものである。より詳細には、セルロースナノファイバーフィルムの任意のエリア内における、全セルロースナノファイバーの数に対する、基準として設定した方向から±15度以内に配向しているセルロースナノファイバーの数を示すものであり、下記数式(3)によって算出される。
上記数式(3)において、Naは任意のエリア内における基準方向から±15度以内に配向しているセルロースナノファイバーの数であり、Ntは、任意のエリア内における全セルロースナノファイバーの数である。この際、NaおよびNtは、透過型電子顕微鏡であるH−1700FA型(株式会社日立製作所製)を用いて、任意のエリアについて10000倍の倍率で観察した画像から無作為に繊維を300本選び、画像処理ソフトWINROOFを用いて一本毎の繊維配向方向を解析することで求めることができる。なお、セルロースナノファイバーの平均繊維径サイズの幅が広いため、観察が困難な場合には、必要に応じて拡大倍率を前後させて300本の配向の測定を行い、繊維配向度を求めてもよい。
[セルロースナノファイバー]
セルロースナノファイバーとは、一般的に、ナノオーダーの平均繊維径を有し、セルロースの構成単位を有する繊維(ファイバー)である。
本形態に係るセルロースナノファイバーは、少なくとも一部の水酸基がエステル化されている。
セルロースとは、多数のβ−グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合したものであり、C2位、C3位、およびC6位に水酸基を有する。よって、一般的に、セルロースナノファイバーは、下記化学式(1)を繰り返し単位として含む。
本形態に係るセルロースナノファイバーは、上記セルロースナノファイバーのC2位、C3位、およびC6位の少なくとも一つの水酸基がエステル化されている。すなわち、本形態に係るセルロースナノファイバーは、C2位、C3位、およびC6位の少なくとも一つにアシル基を有している。
前記アシル基としては、特に制限されないが、C1〜C8のアシル基が挙げられる。前記C1〜C8のアシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブタノイル基(ブチリル基)、イソブタノイル基(イソブチリル基)、バレリル基、イソバレリル基、2−メチルバレリル基、3−メチルバレリル基、4−メチルバレリル基、t−ブチルアセチル基、ピバロイル基、カプロイル基、2−エチルヘキサノイル基、2−メチルヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。これらのうち、C2〜C4アシル基であることが好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基であることがより好ましく、プロピオニル基であることが特に好ましい。プロピオニル基を有することにより、セルロースナノファイバーフィルムの製造時にドープの流動性が良好となり、透明性および平滑性が向上しうる。
また、C6位は、酸化されてアルデヒド基、カルボキシ基となっていてもよい。
上記セルロースナノファイバーは自ら調製してもよいし、市販品を用いてもよい。
セルロースナノファイバーを自ら調製する方法としては、特に制限されないが、原料セルロース繊維を解繊して微細化したミクロフィブリル状のセルロースナノファイバーを得て、これをエステル化することにより調製する方法等が挙げられる。
前記原料セルロース繊維としては、特に制限されないが、植物由来のパルプ、木材、コットン、麻、竹、綿、ケナフ、ヘンプ、ジュート、バナナ、ココナツ、海草、お茶葉等の植物繊維から分離した繊維、海産動物であるホヤが産生する動物繊維から分離した繊維、あるいは酢酸菌より産生させたバクテリアセルロース等が挙げられる。これらのうち、植物繊維から分離した繊維を用いることが好ましく、パルプ、コットン等の植物繊維から得られる繊維を用いることがより好ましい。
解繊処理の方法としては、解繊繊維(ナノファイバー)が繊維状態を保持できるものであれば特に制限されないが、機械的解繊処理、化学的解繊処理が挙げられる。木材のような硬いもののようにホモジナイザーで直接処理できない場合には、プレ解砕として乾式粉砕機で粉体化してもよい。また、解繊処理を促進するために酵素等を利用してもよい。
機械的解繊処理の具体的な方法としては、例えば、パルプ等の原料セルロース繊維を、水を入れた分散容器に0.1〜3質量%となるように投入し、これを高圧ホモジナイザーで解繊処理して、平均繊維径0.1〜10μm程度のミクロフィブリルに解繊された繊維の水分散液を得る。次いで、グラインダー等で繰り返し磨砕処理することで、平均繊維径2〜200nmの解繊繊維(ナノファイバー)を得ることができる。上記磨砕処理に用いられるグラインダーとしては、例えば、ピュアファインミル(株式会社栗田機械製作所製)等が挙げられる。
また、別の方法として、セルロース繊維の分散液を一対のノズルから250MPa程度の高圧でそれぞれ噴射させ、その噴射流を互いに高速で衝突させることによってセルロース繊維を粉砕する、いわゆる高圧ホモジナイザーを用いる方法が知られている。用いられる装置としては、例えば、ホモジナイザー(三和機械株式会社製)、アルテマイザーシステム(株式会社スギノマシン製)等が挙げられる。
化学的解繊処理の具体的な方法としては、例えば、酸化触媒および必要に応じて共酸化剤を使用し、セルロース繊維を酸化処理する方法が挙げられる。これにより、セルロース単位の第一級水酸基を有するC6位の炭素原子(ヒドロキシメチル基)がカルボキシ基へと酸化され、フィブリル相互の静電反発により化学的に解繊される。なお、酸化反応処理を経ることにより、セルロース繊維の分子にはカルボキシ基が導入されるが、酸化処理の進行度合いによっては、部分的にアルデヒド基が導入される場合もある。したがって、酸化処理後の解繊繊維のC6位のヒドロキシメチル基は、酸化されてアルデヒド基およびカルボキシ基の少なくとも一方に変換されていることになる。
酸化触媒としては、N−オキシル化合物が使用できる。前記N−オキシル化合物の例としては、2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO、2−アザアダマンタン−N−オキシル、1−メチル−2−アザアダマンタン−N−オキシル、および1,3−ジメチル−2−アザアダマンタン−N−オキシル(DMAO)等が挙げられる。これらのN−オキシル化合物は、常温での反応速度が速いことから好ましい。上記N−オキシル化合物のなかでも、フィルムの高い透明性と熱膨張の防止を実現する観点から、TEMPOを用いることが好ましい。
共酸化剤としては、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、および過有機酸等が挙げられる。上記の共酸化剤のうち塩であるものについてはアルカリ金属、マグネシウム、アルカリ土類金属の塩であることが好ましい。これらのうち、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩を用いることがより好ましい。次亜塩素酸ナトリウムのような次亜ハロゲン酸塩を使用する場合には、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが反応速度を高めることから特に好ましい。共酸化剤を酸化触媒と共に作用させて酸化反応を進行させた場合には、セルロース単位から構成される高分子鎖が分子鎖レベルで、しかも第一級水酸基を有するC6位が位置選択的に酸化され、アルデヒドを経由してカルボキシ基にまで酸化されるため好ましい。
上記酸化反応は、セルロース繊維を溶媒中に分散させて行うことが好ましい。溶媒としてはセルロース繊維、酸化触媒、および共酸化剤と酸化反応や取り扱いの条件下で顕著な反応性を示さず、かつ、解繊繊維とカルボキシ基導入後の繊維が良好に分散するものを使用することが好ましい。安価で扱い易いなどの観点から溶媒として水を用いることが最も好ましい。この際、溶媒である水に対するセルロース繊維の濃度は0.1〜3質量%とすることが好ましい。
解繊繊維に、上記酸化触媒、および、必要に応じて共酸化剤を作用させ、カルボキシ基が導入された修飾解繊繊維を得る際の具体的な方法、条件等については、特開2008−1728号公報に開示されたものを好適に使用することができる。
このようなC6位のカルボキシ基の静電反発に基づく化学的解繊は、機械的解繊に比べて、均一でより小さな繊維径を得ることができる。
前記エステル化(アシル化)を行う方法としては、特に制限されず、公知の方法で行うことができる。
例えば、セルロースナノファイバーを水、または適当な溶媒に添加して分散させた後、これにカルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物、カルボン酸、またはアルデヒドを添加して適当な反応条件下で反応させる方法が挙げられる。
例えば、ピラノース構造の水酸基の水素原子の一部をアシル基で置換する場合には、上記C6位にカルボキシ基を有するナノファイバーを、水、または適当な溶媒に添加して分散させた後、これにカルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物、カルボン酸、またはアルデヒドを添加して適当な反応条件下で反応させればよい。
この際、必要に応じて、反応触媒を添加してもよい。反応触媒としては、例えば、ピリジン、N,N−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、水酸化ナトリウム等の塩基性触媒;酢酸、硫酸、過塩素酸等の酸性触媒が挙げられる。これらのうち、反応速度や重合度の低下を防止する観点から、ピリジン等の塩基性触媒を用いることが好ましい。
反応温度は、40〜100℃であることが好ましい。反応温度を上記範囲とすることで、セルロースナノファイバーの黄変や重合度の低下等の変質を抑制し、反応速度を確保することができる。
反応時間については用いる原料や処理条件等により適宜設定されうる。
エステル化の導入部位については、特に制限されず、原料の種類、当量、反応温度、反応時間等によって適宜制御されうる。また、必要に応じて保護基を用いてもよい。
セルロースナノファイバーのC2位、C3位、およびC6位の少なくとも一部の水酸基がエステル化されていることにより、結晶性のナノファイバー成分(水酸基成分)がコアに、非晶性の修飾した樹脂成分(アシル基成分)がシェルになったコアシェル形の断面を有するファイバーになっていると考えられる。当該セルロースナノファイバーの水酸基の一部をエステル化(アシル基で置換)することにより、セルロースナノファイバーの表層を非晶化(樹脂化)することができる。これにより、実質的に樹脂を含まない場合であっても、セルロースナノファイバー成分の絡み合いを維持しつつ、結晶性のセルロースナノファイバーに柔軟性が付与され、均一な製膜が可能となるとともに、優れた透明性が実現されうる。ナノファイバーの表層(シェル部)にある非晶性樹脂成分(アシル基成分)が多いほど、製膜性および透明性が向上する傾向にある。一方、内部(コア部)の結晶性成分(水酸基成分)が多いほど、ナノファイバーの絡み合いが増大して、熱線膨張性が優れる傾向にある。
セルロースナノファイバーの置換度としては、0.5〜2.5であることが好ましく、0.5〜2.0であることがより好ましい。置換度が0.5以上であると、ファイバー表面の樹脂成分(アシル成分)に起因する製膜性および透明性の向上効果を得ることができ、また、欠陥を防止しうることから好ましい。一方、置換度が2.5以下であると、結晶性ナノファイバー部分(コア部)に起因するナノファイバーの絡み合いの増大により、低い熱線膨張係数のセルロースナノファイバーフィルムが得られうることから好ましい。なお、本明細書において、「置換度」とは、セルロースナノファイバーの構成単位(セルロース単位)あたりの水酸基の置換の程度の平均数を示し、下記数式(4)により算出される。
具体例を挙げると、C2位、C3位、およびC6位の水酸基がすべてアシル基で置換されている場合には、当該置換度(最大値)は3.0となる。セルロースナノファイバーのアシル基は、セルロース構成単位のC2位、C3位、およびC6位に平均的に置換していてもよいし、分布をもって置換していてもよい。なお、「置換度」の値は、特に断りのない限り、ASTM−D817−96(2010)に規定の方法により測定された値を採用するものとする。
セルロースナノファイバーの結晶化度は、30〜90%であることが好ましく、50〜90%であることがより好ましく、40〜90%であることがさらに好ましい。セルロースナノファイバーの結晶化度が30%以上であると、熱線膨張特性の劣化が抑制されうることから好ましい。一方、セルロースナノファイバーの結晶化度が90%以下であると、高い製膜性および高い透明性を得ることができ、また、表面平滑性の低下が抑制されうることから好ましい。なお、本明細書において、結晶化度は下記方法によって測定された値を採用するものとする。具体的には、X線回折強度を測定し、下記数式(5)に基づき結晶化度CrIを算出する。
上記数式(5)において、Iは2θ=8°回折ピーク強度を示し、I18は2θ=18°の回折ピーク強度を示す。なお、回折ピーク強度は樹脂により異なるが、各スペクトルのピークの強度からベースラインの強度を差し引くことにより算出することができる。
セルロースナノファイバーの平均繊維径は、2〜200nmであることが好ましく、2〜150nmであることがより好ましく、2〜100nmであることがさらに好ましい。セルロースナノファイバーの平均繊維径が2nm以上であると、取り扱いが容易となることから好ましい。一方、セルロースナノファイバーの平均繊維径が200nm以下であると、セルロースナノファイバーフィルムが高い強度および高い透明性が得られることから好ましい。
また、セルロースナノファイバーの平均繊維長は、特に限定されないが、50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。セルロースナノファイバーの平均繊維長が50nm以上であると、繊維の絡み合いが良好となることで補強効果が高くなり、熱膨張の増大を抑制しうることから好ましい。
なお、本明細書において、「平均繊維径」および「平均繊維長」は、セルロースナノファイバーを透過型電子顕微鏡(TEM)であるH−1700FA型(株式会社日立製作所製)を用いて10000倍の倍率で観察した画像から無作為に繊維を100本選び、画像処理ソフトWINROOFを用いて一本毎の繊維径(直径)および繊維長を解析し、これらの単純な数平均値として算出されたものを採用するものとする。
[実質的に樹脂を含まない]
本形態において、セルロースナノファイバーフィルムは、実質的に樹脂を含まないことを特徴とする。これにより、セルロースナノファイバーフィルムの熱線膨張係数が低くなり、熱膨張を防止することができる。
なお、本明細書において、「樹脂」とは、従来のセルロースナノファイバーフィルムにマトリクス材料として使用される樹脂を意味する。具体的には、セルロースナノファイバー以外の樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等)が挙げられる。
前記熱可塑性樹脂としては、セルロースエステル樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂が挙げられる。
前記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の前駆体が挙げられる。
前記光硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂等の前駆体が挙げられる。
また、本明細書において、「実質的に樹脂を含まない」とは、本発明の効果に悪影響を及ぼさないと考えられる量、すなわち、セルロースナノファイバーフィルム全質量に対して1質量%以下、好ましくは0〜0.95質量%の樹脂を含むことをいう。例えば、特許文献1の段落「0167」では、セルロースナノファイバーフィルム全質量に対して30質量%以上であることが好ましいと記載されていることから、1質量%以下の樹脂を含有するセルロースナノファイバーフィルムは、実質的に樹脂を含まないと評価することができる。
[添加物]
セルロースナノファイバーフィルムは、必要に応じてさらに添加物を含んでいてもよい。当該添加物としては、炭素ラジカル捕捉剤、一次酸化防止剤、二次酸化防止剤、酸捕捉剤、紫外線吸収剤、可塑剤、マット剤、光学異方性コントロール剤、架橋剤等が挙げられる。
(炭素ラジカル捕捉剤)
炭素ラジカル捕捉剤は、炭素ラジカル付加後に重合等の後続反応が起こらない安定な生成物を与える機能を有する。
炭素ラジカル捕捉剤としては、特に制限されないが、炭素ラジカルが速やかに付加反応しうる基(例えば2重結合、3重結合等の不飽和基)を有する化合物が挙げられる。具体例としては、(メタ)アクリロイル基、アリール基等の不飽和基を有する化合物;フェノール系化合物;ラクトン系化合物等のラジカル重合禁止能を有する化合物が挙げられる。これらの炭素ラジカル捕捉剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
炭素ラジカル捕捉剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対して、0.001〜10.0質量部であることが好ましく、0.01〜5.0質量部であることがより好ましく、0.1〜1.0質量部であることが特に好ましい。
(一次酸化防止剤)
一次酸化防止剤は、パーオキシラジカルに対する水素ラジカル供与能を有する。
一次酸化防止剤は、パーオキシラジカルによって速やかに引き抜かれる水素原子を分子内に少なくとも1つ以上有する化合物である。具体例としては、水酸基または第一級もしくは第2級のアミノ基によって置換された芳香族化合物、立体障害性基を有する複素環化合物が挙げられる。これらのうち、オルト位にアルキル基を有するフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物を用いることが好ましい。これらの一次酸化防止剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
一次酸化防止剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対して、0.001〜10.0質量部であることが好ましく、0.05〜5.0質量部であることがより好ましく、0.1〜2.0質量部であることが特に好ましい。
(二次酸化防止剤)
二次酸化防止剤は、パーオキサイドに対する還元作用を有する。
二次酸化防止剤は、パーオキサイドを速やかに還元して水酸基に変換する還元剤である。具体例としては、リン系化合物、硫黄系化合物等が挙げられる。これらの二次酸化防止剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
二次酸化防止剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対して、0.001〜10.0質量部であることが好ましく、0.05〜5.0質量部であることがより好ましく、0.05〜2.0質量部であることが特に好ましい。
(酸捕捉剤)
酸捕捉剤は、溶融製膜時等の高温環境下においてセルロースナノファイバーの酸による分解を防止する機能を有する。
酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば特に制限されないが、米国特許第4,137,201号明細書に記載のエポキシ基を有する化合物等を用いることが好ましい。具体的には、ポリグリコールのジグリシジルエーテル、ポリグリコール、金属エポキシ化合物、エポキシ化エーテル縮合生成物等が挙げられる。これらの酸捕捉剤は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
酸捕捉剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対して、0.001〜10.0質量部であることが好ましく、0.05〜5.0質量部であることがより好ましく、0.05〜2.0質量部であることが特に好ましい。
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤は、400nm以下の紫外線を吸収することで、セルロースナノファイバーフィルムの耐久性を向上させる機能を有する。当該紫外線吸収能は、波長370nmでの紫外線透過率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましくは、2%以下であることがさらに好ましい。なお、セルロースナノファイバーが液晶表示装置に用いられる場合には、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光透過率が低いことが好ましい。
紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。これらのうち、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物を用いることが好ましく、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物を用いることがより好ましい。これらの紫外線吸収剤は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
紫外線吸収剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対して、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.2〜3質量部であることがより好ましく、0.2〜3質量部であることが特に好ましい。
(可塑剤)
可塑剤は、セルロースナノファイバーの親水性を改善し、透湿防止剤としての機能を有する。また、セルロースナノファイバーフィルムが、後述するように、溶融押出法で製造される場合には、溶融押し出時のフィルム構成材料の溶融温度や溶融粘度を低下させる機能を有する。
可塑剤は、分子量が500〜10,000であり、セルロースナノファイバーフィルムの脆弱性を改善し、柔軟性を付与しうる化合物である。具体例としては、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、炭水化物エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。これらの可塑剤は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
可塑剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対して、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.2〜10質量部であることがさらに好ましい。
(マット剤)
マット剤は、セルロースナノファイバーフィルムに滑り性や光学的機能、機械的機能を付与する機能を有する。
マット剤としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。具体例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の金属の酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩等の無機微粒子や架橋高分子微粒子が挙げられる。これらのうち、フィルムのヘイズを低下させる観点から、二酸化ケイ素を用いることが好ましい。
マット剤は、有機物により表面処理がされたものであってもよい。表面処理がなされたマット剤を使用することにより、フィルムのヘイズを低下させうる。当該表面処理に使用されうる有機物としては、特に制限されないが、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等が挙げられる。
上記のマット剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
マット剤を添加するほど、得られるセルロースナノファイバーフィルムの滑り性は向上するが、これに伴いヘイズも上昇することから、マット剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。一実施形態において、マット剤の配合量は、セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対して、0.001〜5質量部であることが好ましく、0.005〜1質量部であることがより好ましく、0.01〜0.5質量部であることがさらに好ましい。
(光学異方性コントロール剤)
光学異方性コントロール剤は、リタデーションを調整する機能を有する。
当該光学異方性コントロール剤としては、特に制限されないが、少なくとも二つの芳香族環を有する芳香族化合物が挙げられる。当該芳香族環としては、特に制限されないが、ベンゼン等の単素環式化合物、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環等のヘテロ環式化合物等が挙げられる。光学異方性コントロール剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
光学異方性コントロール剤の配合量は、セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対して、0.01〜20質量部であることが好ましく、0.05〜15質量部であることがより好ましく、0.1〜10質量部であることがさらに好ましい。
(架橋剤)
架橋剤は、セルロースナノファイバー間の絡み合いを密にすることができ、透明性および熱膨張性を向上させる機能を有する。
架橋剤としては、特に制限されないが、金属酸化物、ビニルスルホン基を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、ブロックドイソシアネート基を有する化合物、活性ハロゲン基を有する化合物、アルデヒド基を有する化合物、エチレンイミン基を有する化合物、および活性エステル生成基を有する化合物が挙げられる。これらのうち、金属酸化物、ビニルスルホン基を有する化合物、エチレンイミン基を有する化合物、エポキシ基を用いることが好ましい。これらの架橋剤は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
架橋剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースナノファイバーの総質量(100質量部)に対して、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることが好ましい。
本形態に係るセルロースナノファイバーフィルムの熱線膨張係数は、20ppm/K以下であることが好ましく、10ppm/K以下であることがより好ましく、8ppm/K以下であることがさらに好ましい。熱線膨張係数が20ppm/K以下であると、セルロースナノファイバーフィルムを種々の用途に適用することができる。
また、セルロースナノファイバーのリタデーションRoは、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。また、リタデーションRtは10以下であることが好ましく、5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。リタデーションRoおよび/またはRtが上記範囲にあると、セルロースナノファイバーフィルムの複屈折の発生を防止しうることから好ましい。なお、本明細書において、「リタデーションRo」および「リタデーションRt」は以下の方法によって測定された値を採用するものとする。具体的には、リタデーションRoは下記数式(1)により、リタデーションRtは下記数式(2)により算出される。
上記数式(1)および(2)において、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚さ方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)である。この際、nx、ny、nzは、自動複屈折計KOBURA・21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、23℃、55%RHの条件下、波長590nmで測定したものである。また、dはマイクロメーターを用いて測定したものである。
「リタデーションRo」は面内リタデーションを示し、「リタデーションRt」は厚さ方向リタデーションを示す。リタデーションRoおよびRtの値が小さいほど、セルロースナノファイバーはランダムに配向しており、複屈折が起こりにくい傾向がある。
<セルロースナノファイバーフィルムの製造方法>
一実施形態において、セルロースナノファイバーフィルムは、公知の方法によって製造することができる。当該製造方法としては、溶融押出法および溶媒キャスト法が挙げられる。
溶融押出法(溶融流延法)とは、セルロースナノファイバーおよび必要に応じて添加剤を含むフィルム前駆体を高温で溶融し、得られた溶融物を押出しすることで流延用支持体に流延して成膜する方法である。また、混練機を用いてフィルム前駆体を一度ペレットとしてから溶融成膜を行ってもよい。
一方、溶媒キャスト法とは、セルロースナノファイバーおよび必要に応じて添加剤を溶媒に溶解させてドープを調製し、得られたドープを金属支持体上に流延、乾燥する方法である。
上記溶融押出法および溶媒キャスト法のうち、高い繊維配向度を得る観点から、溶媒キャスト法によりセルロースナノファイバーフィルムを製造することが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態によれば、溶媒キャスト法によるセルロースナノファイバーフィルムの製造方法が提供される。
本形態に係る溶媒キャスト法は、より詳細には、少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバー、セルロースナノファイバーに対する良溶媒、およびセルロースナノファイバーに対する貧溶媒を含み、実質的に樹脂を含まないドープを調製する工程(1)と、前記ドープを支持体上に流延してフィルム前駆体を形成する工程(2)と、前記フィルム前駆体を乾燥する工程(3)と、を含む。
一実施形態において、上記溶媒キャスト法は、前記支持体上からセルロースナノファイバーフィルムを剥離する工程(4)、セルロースナノファイバーフィルムを延伸する工程(5)、セルロースナノファイバーフィルムを巻取る工程(6)をさらに含んでいてもよい。
[工程(1)]
工程(1)は、少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバー、セルロースナノファイバーに対する良溶媒、およびセルロースナノファイバーに対する貧溶媒を含み、実質的に樹脂を含まないドープを調製する工程である。
(セルロースナノファイバー)
セルロースナノファイバーは上述したものと同様のものが用いられうることから、ここでは説明を省略する。
ドープ中のセルロースナノファイバーの含有量は、ドープの全質量に対して、10〜35質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。セルロースナノファイバーの含有量が10質量%以上であると、後述する工程(3)における乾燥時の負荷が低減されうることから好ましい。一方、セルロースナノファイバーの含有量が35質量%以下であると、後述するドープのろ過の精度が向上しうることから好ましい。
(良溶媒)
ドープは、貧溶媒とともに良溶媒を含む。良溶媒を含むことにより、ドープの製膜性が向上しうる。ここで、良溶媒とは、単独でセルロースナノファイバーの少なくとも一部、好ましくは全部を溶解することができる溶媒を意味する。
用いられうる良溶媒としては、特に制限されないが、塩化メチレン、アセトン、メチルエチルケトン、アセト酢酸メチル、テトラヒドロフラン、ジオキソラン等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
本形態に係るドープは実質的に樹脂を含まないことから、セルロースナノファイバーどうしが凝集しやすい状態となっている。しかし、上記良溶媒を用いることにより、セルロースナノファイバーを好適に溶解することができ、凝集を抑制することができる。
ドープ中の良溶媒の含有量は、良溶媒と貧溶媒の全溶媒量に対して、70〜95質量%であることが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましい。良溶媒の含有量が70質量%以上であると、製膜が容易となりうることから好ましい。一方、良溶媒の含有量が95質量%以下であると、繊維配向度が低下しうることから好ましい。
(貧溶媒)
ドープは、良溶媒とともに貧溶媒を含む。貧溶媒を含むことにより、ドープが膨潤状態(ゲル状態)となり、後述する工程(2)で流延する際に、セルロースナノファイバーフィルム中の繊維配向度が向上しうる。ここで、貧溶媒とは、単独ではセルロースナノファイバーを溶解しない、またはセルロースナノファイバーを膨潤させる溶媒を意味する。
用いられうる貧溶媒としては、特に制限されないが、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、およびシクロヘキサンエタノール等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
ドープ中の貧溶媒の含有量は、セルロースナノファイバーの置換度等に応じて適宜調節されうるが、良溶媒と貧溶媒の全溶媒量に対して、5〜30質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましい。貧溶媒の含有量が5質量%以上であると、セルロースナノファイバーが膨潤(ゲル化)して、繊維配向度を低減できることから好ましい。一方、貧溶媒の含有量が30質量%以下であると、過度の膨潤(ゲル化)を防止し、製膜が容易となりうることから好ましい。
(樹脂)
工程(1)で調製されるドープは実質的に樹脂を含まないことを特徴とする。ドープが、少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバー、良溶媒、および貧溶媒を含むことで、実質的に樹脂を含まなくとも、好適に製膜することができる。特に、ドープが実質的に樹脂を含まず、セルロースナノファイバーおよび貧溶媒を含むことにより、セルロースナノファイバーの少なくとも一部がゲル状態となるため、下記工程(2)における流延時にセルロースナノファイバーがランダムに配向し、得られるセルロースナノファイバーフィルムの繊維配向度の値は低い値となりうる。その結果、セルロースナノファイバーフィルムのリタデーションRoおよび/またはRtの値は低くなり、複屈折の発生が防止されうる。
(その他の添加剤)
ドープは、必要に応じて、添加物を含んでいてもよい。当該添加物は、上述したものと同様のものが用いられうることから、ここでは説明を省略する。
(ドープの調製方法)
ドープは、セルロースナノファイバー、セルロースナノファイバーに対する良溶媒、およびセルロースナノファイバーに対する貧溶媒を混合することで調製することができる。混合方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。例えば、セルロースナノファイバーを良溶媒と混合し、セルロースナノファイバーを溶解した後に、貧溶媒を添加する方法、良溶媒および貧溶媒の混合溶媒にセルロースナノファイバーを添加、混合する方法、セルロースナノファイバーを貧溶媒により膨潤させた後、良溶媒を添加してセルロースナノファイバーを溶解する方法等が挙げられる。
また、セルロースナノファイバーが原料セルロース繊維等から調製され、セルロースナノファイバー水溶液として準備された場合には、溶媒置換によりセルロースナノファイバーと良溶媒および貧溶媒とを混合してもよい。ここで、溶媒置換とは、ある溶媒から異なった溶媒に置換する方法を意味する。本明細書においては、もとにあった溶媒の残存率が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下となった時点で溶媒置換が終了したと判断する。溶媒置換の具体的な方法としては、限外濾過方法、減圧蒸留方法、デカンテーション方法、共沸方法による水の除去、エバポレーター、凍結乾燥、膜分離方法が挙げられる。これらのうち、膜分離方法を用いることが好ましい。
得られたドープは、通常、セルロースナノファイバーが分散した分散液の形態をとりうる。
セルロースナノファイバーの分散または溶解が不十分である場合には、必要に応じて、加熱、加圧等を組み合わせてドープを調製してもよい。例えば、加圧下において、溶媒の常圧における沸点以上の温度で加熱しながら撹拌溶解する方法が挙げられる。前記方法は、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止しうることから好ましい。加圧方法は、特に制限されないが、窒素ガス等の不活性基体を圧入する方法、加熱により生じる溶媒の蒸気圧を利用する方法等が挙げられる。また、加熱方法についても特に制限されないが、ジャケットタイプの装置を用いて外部から加熱する方法を適用することが好ましい。
前記ドープに添加物を添加する場合には、バッチ添加により添加してもよいし、インライン添加してもよい。バッチ添加とは、別途溶媒に添加物を溶解または分散した溶液をドープと混合する方法である。一方、インライン添加とは、調製中または調製されたドープに添加物を添加する方法である。このうち、後述するドープのろ過時に使用するろ過材への負担を低減する観点から、添加物はインライン添加により添加されることが好ましい。インライン添加には、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング株式会社製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサーが用いられうる。
調製されたドープに対しては、ろ過を行ってもよい。ろ過を行うことで、ドープ中に含有されうる不純物、特に輝点異物を除去・低減しうる。なお、輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)を意味する。ろ過を行うことにより、ドープが0.01mm以上の径を有する輝点数が好ましくは200個/cm以下、より好ましくは100個/cm以下、さらに好ましくは50個/m以下、特に好ましくは0〜10個/cm以下となりうる。なお、前記ドープは0.01mm以下の径を有する輝点についても少ないことが好ましい。
ろ過の方法としては、特に制限されず、公知の方法により行うことができる。例えば、ろ紙等のろ過材を用いてろ過する方法が挙げられる。
ドープのろ過に用いられうるろ過材としては、特に制限されないが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製のろ過材;ステンレススティール等の金属製のろ過材等が用いられうる。
前記ろ過材は、不溶物等を好適に除去する観点から、絶対ろ過精度が小さいものであることが好ましい。当該ろ過精度としては、0.001〜0.008mmであることが好ましく、0.003〜0.006mmであることがより好ましい。絶対ろ過精度が0.001mm以上であると、ろ過材の目詰まりを防止しうることから好ましい。一方、絶対ろ過精度が0.008mm以下であると、好適に不純物が除去されうることから好ましい。
ろ過条件としては、特に制限されないが、溶媒が沸騰しない範囲で加圧、加熱条件下でろ過を行うことが好ましい。当該ろ過条件であれば、ろ過前後でろ過圧の差(差圧)が小さくなりうることから好ましい。好適なろ過温度やろ過圧は、使用する溶媒によっても異なるが、ろ過温度としては、45〜120℃であることが好ましく、45〜70℃であることがより好ましく、45〜55℃であることがさらに好ましい。ろ過圧としては、1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることがさらに好ましい。
[工程(2)]
工程(2)は、工程(1)で調製したドープを金属支持体上に流延(キャスト)してフィルム前駆体を形成する工程である。
金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルトもしくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることができる。
[工程(3)]
工程(3)は、工程(2)で形成されたフィルム前駆体を乾燥する工程である。
(乾燥)
流延して得られたフィルム前駆体を乾燥させることで、セルロースナノファイバーフィルムを製造することができる。なお、乾燥とは、フィルム前駆体に含有される溶媒の少なくとも一部を除去することをいう。乾燥の程度は、後述する工程(4)〜(6)の有無等を考慮して適宜設定されうる。
乾燥方法としては、特に制限されないが、ロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でフィルム前駆体を搬送させながら乾燥する方法であることが好ましい。
乾燥温度は、特に制限されないが、通常、−50℃以上、溶媒の沸点未満の温度であり、0〜40℃であることが好ましく、5〜30℃であることがより好ましい。乾燥温度が−50℃以上であると、フィルム前駆体の乾燥速度が速くなることから好ましい。一方、溶媒の沸点未満の温度未満であると、フィルム前駆体に含有されうる溶媒等の発泡等を防止し、高い平滑性を有するフィルムが得られうることから好ましい。
乾燥温度を制御する方法としては、特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法、温水を支持体の裏側に接触させる方法等が挙げられる。温水を支持体の裏側に接触させる方法は、熱の伝達が効率的に行われることから、支持体の温度が一定になるまでの時間が短くなることから好ましい。なお、温風を用いる場合には、当該温風は、目的の温度よりも高い温度のものを用いる場合がある。
乾燥工程は、後述する工程(4)におけるセルロースナノファイバーを考慮し、溶媒を一部残留させることが好ましい。溶媒を残留させることにより、セルロースナノファイバーフィルムが良好な平面性を有しうる。この際の残留溶媒量としては、特に制限されないは、10〜150質量%であることが好ましく、20〜40質量%または60〜130質量%であることが好ましく、20〜30質量%または70〜120質量%であることが特に好ましい。なお、本明細書において、「残留溶媒量」は、下記数式(6)により算出される値を採用するものとする。
上記数式(6)中、Mは試料の質量であり、Nは試料を115℃で1時間の加熱した後の質量である。
乾燥工程において除去した溶媒は回収して工程(1)のドープに使用される溶媒として再利用することができる。なお、回収溶媒中に添加剤等が微量含有されている場合には、そのまま回収溶媒を用いてもよいし、精製してから使用してもよい。
[工程(4)]
工程(4)は、工程(3)で形成されたセルロースナノファイバーフィルムを支持体上から剥離する工程である。本工程は工程(3)の後に行われうる任意の工程である。
工程(4)では、好ましくは溶媒が残存したセルロースナノファイバーフィルムを剥離する。この際、セルロースナノファイバーフィルムは、ゲル化されたものであってもよい。
剥離して得たセルロースナノファイバーフィルムは、さらに乾燥を行うことが好ましい。剥離後に乾燥したセルロースナノファイバーフィルム中の残留溶媒の含有量は、セルロースナノファイバー全質量に対して、1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0〜0.01質量%であることが特に好ましい。
[工程(5)]
工程(5)は、工程(4)により支持体から剥離されたセルロースナノファイバーフィルムを延伸する工程である。セルロースナノファイバーフィルムを延伸することにより、リタデーションを調整することができ、複屈折が生じない等優れた光学特性を有するセルロースナノファイバーフィルムが得られうる。本工程は工程(3)の後に行われうる任意の工程である。
延伸方法としては、特に制限されないが、工程(4)で得られたセルロースナノファイバーフィルム(未延伸)を複数のロール群および/または赤外線ヒーター等の加熱装置を介して加熱条件下、フィルム搬送方向(以下、「長手方向」とも称する)に、一段または多段縦延伸する方法が挙げられる。多段階延伸(例えば、二段階延伸)する場合には、一段延伸フィルムのフィルム搬送方向に直交する方向(以下、「幅手方向」とも称する)に延伸する。なお、セルロースナノファイバーフィルムを幅手方向に延伸するには、テンター装置を用いることが好ましい。
前記加熱温度は、エステル化された部分のセルロースナノファイバーのガラス転移温度(Tg)−50℃〜Tg+100℃の範囲内であることが好ましい。
長手方向および/または幅手方向に延伸する場合には、セルロースナノファイバーフィルムの延伸倍率は、2.5倍以下であることが好ましく、1.1〜2.0倍のあることがより好ましい。延伸倍率が2.5倍以下であると、ナノファイバーフィルム周辺の空隙を埋めることができ、高い透明性が得られうることから好ましい。
また、延伸に引き続き、加熱処理を行ってもよい。加熱処理の加熱温度は、Tg−100℃〜Tg+50℃の範囲内であることが好ましい。また加熱処理の加熱時間は、0.5〜300秒間であることが好ましい。
また、延伸によって得られたセルロースナノファイバーフィルムは、アニール処理を行ってもよい。アニール温度は、60〜200℃であることが好ましく、70〜160℃であることがより好ましい。また、アニール時間は、5秒〜24時間であることが好ましく、10秒〜2時間であることがより好ましい。
加熱処理手段としては、特に制限されないが、熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等により行うことができる。これらのうち、簡便さの観点から、熱風で行うことが好まし。フィルムの加熱は段階的に高くしていくことが好ましい。
[工程(6)]
工程(6)は、工程(4)または工程(5)により得られた未延伸または延伸セルロースナノファイバーフィルムを巻取る工程である。本工程は工程(3)の後に行われうる任意の工程である。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
[セルロースナノファイバーフィルムの製造]
(調製例1:水分散液1の調製)
針葉樹から得られた亜硫酸漂白パルプ(セルロース繊維)に対し、濃度が1.0質量%となるように純水を添加した。エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製)を用い、3000回転/分、15分の条件で得られた溶液を撹拌し、解繊されたセルロース繊維を含む水分散液1を得た。
得られた水分散液1の一部を取り出し、水を蒸発させてセルロースナノファイバーを得た。当該セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長を、透過型電子顕微鏡(TEM)であるH−1700FA型(株式会社日立製作所製)を用いて測定したところ平均繊維径は250nmであり、平均繊維長は1500nmであり、ミクロフィブリル化していることを確認した。
(調製例2:水分散液2の調製)
調製例1で得た水分散液1の乾燥質量1g相当分に対し、0.0125gのTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル)および0.125gの臭化ナトリウムを水100mLに分散させた。次いで、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなる量)を添加して反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。pH変化が確認されなくなった時点で反応が終了したと判断した。反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗およびろ過を5回繰り返し、その後、セルロースナノファイバーの濃度が0.1質量%となるよう水で希釈した。さらに超音波分散機にて1時間処理をして水分散液2を得た。セルロースナノファイバーをTEMPOと反応させることにより、セルロース単位の第一級水酸基を有するC6位は、酸化反応によりカルボキシ基に変換されている。
水分散液2の一部を取り出し、水を蒸発させた後、調製例1と同様の方法でセルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長を算出したところ、平均繊維径は4nmであり、平均繊維長は200nmであった。
(調製例3:水分散液3の調製)
調製例1で得た水分散液1をグラインダー(増幸産業株式会社製)で1回処理した。セルロースナノファイバーが1質量%となるように水で調整し、水分散液3を得た。
水分散液3の一部を取り出し、水を蒸発させた後、調製例1と同様の方法でセルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長を算出したところ、平均繊維径は150nmであり、平均繊維長は750nmであった。
(調製例4:水分散液4の調製)
調製例1で得た水分散液1をグラインダー(増幸産業株式会社製)で2回処理したことを除いては、調製例3と同様の方法で水分散液4を調製した。
水分散液4の一部を取り出し、水を蒸発させた後、調製例1と同様の方法でセルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長を算出したところ、平均繊維径は50nmであり、平均繊維長は500nmであった。
(合成例1:セルロースナノファイバー1(CNF−1)の合成)
調製例1で調製した水分散液1をろ過し、500質量部の水で3回水洗した後、200質量部のエタノールで2回洗浄した。さらに、500質量部の水で2回水洗を行った後、固形分濃度が2質量%になるように純水で調整することで、CNF−1を合成した。
CNF−1では、セルロースの構成単位であるC2位、C3位、およびC6位がいずれも水酸基である。CNF−1の置換度をASTM−D817−96(2010)に規定の方法により測定したところ0であった。また、結晶化度はX線発生装置RINT TTR2(理学電機株式会社製)下記装置を用いて、X線回折法により測定した回折ピーク強度から算出したところ98%であった。なお、CNF−1の平均繊維径は250nmであり、平均繊維長は1500nmである。
結晶化度測定条件
X線発生装置 :理学電機製
X線源 :CuKα
出力 :50kV/300mA
1stスリット:0.04mm
2ndスリット:0.03mm
受光スリット:0.1mm
〈計数記録装置〉
2θ/θ :連続スキャン
測定範囲 :2θ=2〜45度
サンプリング :0.02度
積算時間 :1.2秒。
(合成例2:CNF−2の合成)
調製例1で調製した水分散液1を凍結乾燥により乾燥した。この乾燥ファイバー10質量部を、無水プロピオン酸/ピリジン(モル比1/1)溶液500質量部に添加して分散させ、室温で3時間攪拌した。
次に、分散した繊維をろ過し、500質量部の水で3回水洗した後、200質量部のエタノールで2回洗浄した。さらに、500質量部の水で2回水洗を行った後、固形分濃度が2質量%になるように純水で調整することで、CNF−2を合成した。
CNF−2は、セルロースの構成単位であるC2位、C3位、および/またはC6位の水酸基の水素原子がプロパノイル基で置換されたものである。CNF−2の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は2であり、結晶化度は80%であった。なお、CNF−2の平均繊維径は250nmであり、平均繊維長は1500nmである。
(合成例3:CNF−3の合成)
調製例2で調製した水分散液2を用いたことを除いては合成例1と同様の方法でCNF−3を合成した。
CNF−3は、セルロースの構成単位であるC6位のヒドロキシメチル基が酸化されてカルボキシ基となったものである。CNF−3の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は1であり、結晶化度は90%であった。なお、CNF−3の平均繊維径は4nmであり、平均繊維長は200nmである。
(合成例4:CNF−4の合成)
調製例2で調製した水分散液2を用いたことを除いては、合成例2と同様の方法でCNF−4を合成した。
CNF−4は、セルロースの構成単位であるC2位および/またはC3位の水酸基の水素原子がプロパノイル基で置換され、C6位のヒドロキシメチル基が酸化されてカルボキシ基となったものである。CNF−4の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は2であり、結晶化度は80%であった。なお、CNF−4の平均繊維径は4nmであり、平均繊維長は200nmである。
(合成例5:CNF−5の合成)
調製例3で調製した水分散液3を用いたことを除いては、合成例1と同様の方法でCNF−5を合成した。
CNF−5は、セルロースの構成単位であるC2位、C3位、およびC6位がいずれも水酸基である。CNF−5の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は0であり、結晶化度は95%であった。なお、CNF−5の平均繊維径は150nmであり、平均繊維長は750nmである。
(合成例6:CNF−6の合成)
調製例3で調製した水分散液3を用いたことを除いては、合成例2と同様の方法でCNF−6を合成した。
CNF−6は、セルロースの構成単位であるC2位、C3位、および/またはC6位の水酸基の水素原子がプロパノイル基で置換されたものである。CNF−6の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は2であり、結晶化度は80%であった。なお、CNF−6の平均繊維径は150nmであり、平均繊維長は750nmである。
(合成例7:CNF−7の合成)
調製例4で調製した水分散液4を用いたことを除いては、合成例1と同様の方法でCNF−7を合成した。
CNF−7は、セルロースの構成単位であるC2位、C3位、およびC6位がいずれも水酸基である。CNF−7の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は0であり、結晶化度は95%であった。なお、CNF−7の平均繊維径は50nmであり、平均繊維長は500nmである。
(合成例8:CNF−8の合成)
調製例4で調製した水分散液4を用い、無水プロピオン酸/ピリジン(モル比1/1)との反応時間を1時間に変更したことを除いては、合成例2と同様の方法でCNF−8を合成した。
CNF−8は、セルロースの構成単位であるC2位、C3位、および/またはC6位の水酸基の水素原子がプロパノイル基で置換されたものである。CNF−8の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は0.5であり、結晶化度は95%であった。なお、CNF−8の平均繊維径は50nmであり、平均繊維長は500nmである。
(合成例9:CNF−9の合成)
無水プロピオン酸/ピリジン(モル比1/1)との反応時間を3時間に変更したことを除いては、合成例8と同様の方法でCNF−9を合成した。
CNF−9は、セルロースの構成単位であるC2位、C3位、および/またはC6位の水酸基の水素原子がプロパノイル基で置換されたものである。CNF−9の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は2であり、結晶化度は80%であった。なお、CNF−9の平均繊維径は50nmであり、平均繊維長は500nmである。
(合成例10:CNF−10の合成)
無水プロピオン酸/ピリジン(モル比1/1)との反応時間を4時間に変更したことを除いては、合成例8と同様の方法でCNF−10を合成した。
CNF−10は、セルロースの構成単位であるC2位、C3位、および/またはC6位の水酸基の水素原子がプロパノイル基で置換されたものである。CNF−10の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は2.5であり、結晶化度は30%であった。なお、CNF−10の平均繊維径は50nmであり、平均繊維長は500nmである。
(合成例11:CNF−11の合成)
無水プロピオン酸/ピリジン(モル比1/1)との反応時間を10時間に変更したことを除いては、合成例8と同様の方法でCNF−11を合成した。
CNF−11は、セルロースの構成単位であるC2位、C3位、およびC6位の水酸基の水素原子がプロパノイル基で置換されたものである。CNF−11の置換度および結晶化度を合成例1と同様の方法で測定したところ、置換度は3であり、結晶化度は5%であった。なお、CNF−11の平均繊維径は50nmであり、平均繊維長は500nmである。
(比較例1)
工程(1)
CNF−1の水を膜分離方法により、良溶媒である塩化メチレンおよび貧溶媒であるメタノールに置換し、セルロースナノファイバーの濃度が2質量%となるように調整して、ドープを調製した。この際、良溶媒および貧溶媒の体積比(良溶媒/貧溶媒)は、7/3であった。
工程(2)
工程(1)で得られたドープを、ベルト流延装置を用いてステンレスベルト支持体上に均一に流延してフィルム前駆体を形成した。この際、装置内の温度は35℃であり、支持体上の温度は30℃であった。
工程(3)
工程(2)で形成したフィルム前駆体を、支持体から剥離できるまで乾燥させてセルロースナノファイバーフィルムを製造した。
工程(4)
工程(3)で形成したセルロースナノファイバーフィルムを支持体上から剥離した。この際、残留溶媒量は80質量%であった。
工程(5)
工程(4)で支持体から剥離されたセルロースナノファイバーフィルムを延伸した。具体的には、85℃の乾燥ゾーンをロール搬送しながらセルロースナノファイバーフィルムを乾燥させた。残留溶媒量が35質量%未満となったところで、予熱後、ロール速度差によりフィルム搬送方向に延伸(長手延伸)し、次いでテンター式延伸機に導き、フィルム搬送方向に直交する方向に延伸(幅手延伸)した。延伸倍率は長手延伸1.5倍、幅手延伸1.5倍とした。
これにより、厚さ125μmのセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を透過型電子顕微鏡であるH−1700FA型(株式会社日立製作所製)を用いて測定したところ、繊維配向度は40%であった。
(比較例2)
セルロースナノファイバーとしてCNF−3を用い、良溶媒/貧溶媒を10/0に変更したことを除いては、比較例1と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、80%であった。
(比較例3)
良溶媒/貧溶媒を0/10に変更したことを除いては、比較例2と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、5%であった。
(実施例1)
セルロースナノファイバーとしてCNF−2を用いたことを除いては、比較例1と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、45%であった。
(実施例2)
セルロースナノファイバーとしてCNF−4を用い、良溶媒/貧溶媒を3/7に変更したことを除いては、比較例1と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、10%であった。
(実施例3)
良溶媒/貧溶媒を5/5に変更したことを除いては、実施例2と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、12%であった。
(実施例4)
良溶媒/貧溶媒を7/3に変更したことを除いては、実施例2と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、40%であった。
(実施例5)
良溶媒/貧溶媒を9/1に変更したことを除いては、実施例2と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、50%であった。
(実施例6)
溶融押出法によりセルロースナノファイバーフィルムを製造した。具体的には、セルロースナノファイバーとしてCNF−4を用い、100質量部(固形分)のCNF−4を除湿熱風式乾燥機(株式会社松井製作所製)により熱風温度150℃、露点−36℃で乾燥した。次いで、得られた乾燥物を、可塑剤であるトリメチロールプロパントリベンゾエート8質量部、酸化防止剤であるIRGANOX−1010(BASFジャパン株式会社製)およびスミライザーGP(住友化学株式会社製)をそれぞれ1質量部および0.5質量部添加し、V型タンブラーで30分間混合した。
次に、二軸押出し機(株式会社テクノベル製)に120kg/hrで供給した。スクリューデザインはニーディングディスクを少なめに設定して、樹脂の混練発熱を抑えた。バレルの温度は180〜250℃に設定し、先端近傍に設けられたベント口から揮発分を除去した。押出し機下流にフィルター、ギヤポンプ、フィルターを配置し、コートハンガー型Tダイから押出し、120℃に温調した2本のクロムメッキ鏡面ロールの間に落として引取り、3本ロール間を通してエッジをスリットした後ワインダーに巻き取り、セルロースナノファイバーフィルムを製造した。巻き取り後のセルロースナノファイバーフィルムの厚さが125μmになるように押出し量と引取りロールの回転速度を調整した。
得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、43%であった。
(実施例7)
貧溶媒をイソプロピルアルコールに変更したことを除いては、実施例4と同様の方法で、セルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、18%であった。
(実施例8)
貧溶媒をエタノールに変更したことを除いては、実施例4と同様の方法で、セルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、18%であった。
(実施例9)
良溶媒をメチルエチルケトンに変更したことを除いては、実施例4と同様の方法で、セルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、17%であった。
(実施例10)
延伸を行わなかったことを除いては、実施例4と同様の方法で、セルロースナノファイバーフィルムを製造した。具体的には、工程(3)において、得られたフィルム前駆体を、残留溶媒量が1質量%未満となるまで85℃の乾燥ゾーンをロール搬送しながら乾燥させてセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、20%であった。
(比較例4)
セルロースナノファイバーとしてCNF−5を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、45%であった。
(実施例11)
セルロースナノファイバーとしてCNF−6を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、40%であった。
(比較例5)
セルロースナノファイバーとしてCNF−7を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、60%であった。
(実施例12)
セルロースナノファイバーとしてCNF−8を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、20%であった。
(実施例13)
セルロースナノファイバーとしてCNF−9を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、22%であった。
(実施例14)
セルロースナノファイバーとしてCNF−10を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、25%であった。
(実施例15)
セルロースナノファイバーとしてCNF−11を用いたことを除いては、実施例4と同様の方法でセルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、27%であった。
(比較例6)
セルロースナノファイバーとしてCNF−3を用い、樹脂を含浸させてセルロースナノファイバーフィルムを製造した。
具体的には、CNF−3をセルロースナノファイバーの固形分が0.13質量%となるように水で希釈した。得られた溶液150gを、孔径1μmのPTFEメンブレンフィルターT100A090C(アドバンテック株式会社製)を用いた90mm径の減圧ろ過器KG−90(200kPaの差圧をかけた際の空気の透過度は18100cm/cm/minであり、124.5Paの差圧をかけた際の空気の透過度(外挿値)は4.6cm/cm/minである、アドバンテック株式会社製)に投入した。減圧条件下(−0.09MPa)でろ過を開始し、その直後に、イソプロピルアルコールを30mL投入して洗浄した。120分後、ろ過が完了し、PTFEメンブレンフィルター上に残存するセルロース繊維ゲルを得た。
得られたセルロース繊維ゲルを、96質量部のビス(メタクリロイルオキシメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、6質量部のペンタエリスリトールテトラキス(β−チオプロピオネート)、0.05質量部の2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(ルシリンTPO、BASF社製)、および0.05質量部のベンゾフェノンを混合した溶液内に浸漬させ、減圧下で静置した。1時間後、得られた繊維複合材料を2枚のガラス板にはさみ、無電極水銀ランプDバルブ(フュージョンUVシステムズ社製)を用いて、放射照度1900mW/cm、ライン速度7m/minで光照射した。このときの放射照射量は0.8J/cmであった。当該照射を、ガラス面を反転させて2回行った。紫外線照射後のガラス面の温度は25℃であった。次に、放射照度1900mW/cm、ライン速度2m/minで再度紫外線照射を行った。このときの放射照射量は2.7J/cmであった。この操作を、ガラス面を反転させて8回行った。紫外線照射後のガラス面の温度は47℃であった。全放射照射量は23.2J/cmであった。紫外線照射終了後、ガラス板を外して、セルロース繊維含有量14.5質量%、厚さ125μmの繊維複合材料を製造した。
(比較例7)
セルロースナノファイバーとしてCNF−4を用い、樹脂を含有するドープを用いて溶媒キャスト法によりセルロースナノファイバーフィルムを製造した。
具体的には、比較例1の工程(1)において、はじめに、5質量部の樹脂であるセルロースジアセテートL−20(置換度:2.41、株式会社ダイセル製)、および80質量部の塩化メチレンを密閉容器に投入し、加熱、撹拌しながら完全に溶解させた。次いで、得られた溶液をろ過し、15質量部のCNF−4を撹拌しながら添加した。30分間撹拌した後、超音波処理を行い、添加液Aを調製した。
一方で、20質量部のトリフェニルフォスフェート、640質量部の塩化メチレン、120質量部のエタノール、および220質量部のセルロースジアセテートL−20を密閉容器に投入し、加熱、撹拌しながら完全に溶解させて、ろ過した。得られた溶液に対し、セルロースナノファイバーの固形分が5質量%となるように上記調製した添加液Aを添加し、混合した。流延温度まで冷却して一晩静置し、脱泡操作を施した後、安積濾紙株式会社製の安積濾紙No.244を用いてろ過を行うことでドープを調製した。この際、良溶媒および貧溶媒の体積比(良溶媒/貧溶媒)は、7/3であった。
上記で調製したドープを用い、比較例1と同様の方法で、セルロースナノファイバーフィルムを製造した。得られたセルロースフィルムの繊維配向度を比較例1と同様の方法で測定したところ、95%であった。
[セルロースナノファイバーフィルムの性能評価]
実施例および比較例で製造したセルロースナノファイバーフィルムを用いて以下の性能評価を行った。
(光線透過率)
分光光度計UV−2500PC(株式会社島津製作所製)を用いて550nmにおける可視光線の入射光量に対する全透過光量を測定した。
得られた結果を下記表2に示す。
(熱線膨張係数)
40〜200℃の範囲内で温度を変化させて、セルロースナノファイバーフィルムの熱線膨張係数を測定した。測定装置としては、SII EXSTAR6000 TMA/SS6100(セイコーインスツルメンツ社製)を用いた。この際、試験片は、長さは2cm、幅2mmで行った。
得られた結果を下記表2に示す。
(リタデーションRtおよびRo)
製造したセルロースナノファイバーフィルムについて、幅手方向に1cm間隔で3次元方向の屈折率を測定した。下記数式(1)および(2)より得られた面内リタデーションの平均値(Ro)、厚み方向のリタデーションの平均値(Rt)を求めた。
上記数式(1)および(2)において、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルムの厚さ方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)である。この際、nx、ny、nzは、自動複屈折計KOBURA・21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、23℃、55%RHの条件下、波長590nmで測定したものである。また、dはマイクロメーターを用いて測定したものである。
得られた結果を下記表2に示す。
比較例4および実施例11、比較例5および実施例12をそれぞれ対比すると、セルロースナノファイバーがエステル化されると、いずれも透明性が向上する結果となった。
また、比較例2と、実施例2〜5とを対比すると、繊維配向度の値が80%と大きいとリタデーションRoおよびRtの値も高くなって複屈折が生じうるが、繊維配向度の値が50%以下の範囲であればRoおよびRtも低くなり、複屈折が生じにくくなっている。
実施例4および比較例7を対比すると、樹脂を含むことによって、熱線係数の値が大きく上昇していることが分かる。
そして、表2の結果からも明らかなように、高い透明性(高い光線透過率)、熱膨張の防止(低い熱線膨張係数)、および複屈折の発生の防止(低いリタデーション値)をいずれも実現するためには、(1)少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバーを用い、(2)得られたセルロースナノファイバーフィルムの厚み方向の繊維配向度が50%以下であり、さらに(3)セルロースナノファイバーフィルムが実質的に樹脂を含まないことが必要となると考えられる。この際、表2の結果から、上記(1)〜(3)の構成は相互に連関して上記効果を発現していると考えられる。
ところで、製造方法に着目すると、比較例2および3、並びに実施例2〜5を対比すると、ドープ中に含有される貧溶媒の割合が高くなるほど、繊維配向度の値が低下していることが分かる。この結果は、貧溶媒により、ドープ中のセルロースナノファイバーに膨潤が生じた状態で流延したためであると考えられる。なお、比較例2では貧溶媒を含まないことから、繊維配向度が80%と高い値を示した。一方、比較例3では貧溶媒のみを含み、良溶媒を含まないことから、繊維配向度が5%と極めて低い値を示した。ただし、比較例3では、良溶媒を含まなかったため、製膜をうまく行うことができず、リタデーションがやや高い値を示した。
なお、実施例6では、溶融押出法によりセルロースナノファイバーフィルムを製造していることから、他の実施例のように、ドープを膨潤状態で流延させることによる繊維配向度の低下という効果を得ることはできない。しかし、溶融押出法であっても、繊維配向度を所望の値に調整することができることが分かった。ただし、実施例6に係るセルロースナノファイバーフィルムは延伸していないため、製造方法のみ異なる実施例4の結果と対比すると、光線透過率が相対的に低い値となった。

Claims (7)

  1. 少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバーを含む、セルロースナノファイバーフィルムであって、
    前記セルロースナノファイバーフィルムの厚み方向の繊維配向度が50%以下であり、かつ、前記セルロースナノファイバーフィルムが実質的に樹脂を含まず、
    下記数式(1)および(2):
    で表されるリタデーションRoが10以下であり、かつ、リタデーションRtが10以下である、セルロースナノファイバーフィルム。
  2. 前記セルロースナノファイバーの置換度が0.5〜2.5であり、かつ、前記セルロースナノファイバーの結晶化度が30〜90%である、請求項1に記載のセルロースナノファイバーフィルム。
  3. 熱線膨張係数が20ppm/K以下である、請求項1または2に記載のセルロースナノファイバーフィルム。
  4. 少なくとも一部の水酸基がエステル化されたセルロースナノファイバー、セルロースナノファイバーに対する良溶媒、およびセルロースナノファイバーに対する貧溶媒を含み、実質的に樹脂を含まないドープを調製する工程(1)と、
    前記ドープを支持体上に流延してフィルム前駆体を形成する工程(2)と、
    前記フィルム前駆体を乾燥する工程(3)と、
    を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載のセルロースナノファイバーフィルムの製造方法。
  5. 前記良溶媒が、塩化メチレン、アセトン、メチルエチルケトン、アセト酢酸メチル、およびテトラヒドロフランからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項に記載の製造方法。
  6. 前記貧溶媒が、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサンエタノール、およびイソプロピルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項またはに記載の製造方法。
  7. 前記ドープが、膨潤状態で流延される、請求項のいずれか1項に記載の製造方法。
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