以下、本発明に係るポリマー溶液(ドープ)の濾過方法及び製造方法並びにそのポリマー溶液を用いた溶液製膜方法について説明する。説明は、ドープの原料(ポリマー、溶媒、添加剤)、ドープの濾過方法、ドープの製造方法の順に行う。そして、そのドープを用いた溶液製膜方法によるフイルムの製膜方法を説明し、最後にそのフイルムを用いた製品について説明する。
[ポリマー]
本発明に用いられるポリマーは特に限定されないが、セルロースエステルを用いることが好ましい。また、セルロースエステルの中では、セルロースアシレートを用いることが好ましく、特に、セルロースアセテートを使用することが好ましい。さらに、このセルロースアセテートの中では、その平均酢化度が57.5ないし62.5%(置換度:2.6ないし3.0)のセルローストリアセテート(TAC)を使用することが最も好ましい。なお、セルローストリアセテートの場合には、その原料が綿花リンタのものと木材パルプのものがあり、本発明では綿花リンタ、木材パルプのいずれをも用いることが可能であり、それらを混合したものを用いてもよい。酢化度とは、セルロースアセテート中の結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。本発明では、セルロースアシレート粒子を使用し、使用する粒子の90重量%以上が0.1mmないし4mmの粒子径、好ましくは1mmないし4mmを有する。また、好ましくは95重量%以上、より好ましくは97重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上、最も好ましくは99重量%以上の粒子が0.1mmないし4mmの粒子径を有する。さらに、使用する粒子の50重量%以上が2mmないし3mmの粒子径を有することが好ましい。より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上の粒子が2mmないし3mmの粒子径を有する。セルロースアシレートの粒子形状は、なるべく球に近い形状を有することが好ましい。
前記セルロースアシレートの原料が綿花リンタ及び/または木材パルプであることが好ましい。また、前記綿花リンタ及び/または前記木材パルプが精製されたセルロース原料であることが更に好ましい。この場合、前記綿花リンタと前記木材パルプの混合比が0/100〜100/0であることが好ましい。前記綿花リンタ及び/又は木材パルプが、α−セルロースを80%以上含有することが好ましい。また、前記綿花リンタ及び/又は前記木材パルプが、マンノース/キシロース=0.35/1〜3.0/1(モル比)であり、その総含有量が0.01〜5モル%であることが好ましい。
前記セルロースアシレートが、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルであることが好ましい。また、前記セルロースアシレートが、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートステアレート、セルロースアセテートベンゾエートであることが好ましい。
前記セルロースアシレートが、活性化工程(前処理工程)、アシル化工程(アセチルの場合は酢化工程)、熟成工程、沈殿工程、精製工程、乾燥工程、粉砕工程の中の組み合わせによって製造されたことが好ましい。前記セルロースアシレートが、残存酢酸量あるいは炭素数3〜22の脂肪酸が0.5質量%以下であることが好ましい。
前記セルロースアシレートの25℃でのアセトン抽出量が15質量%以下であることが好ましい。また、前記セルロースアシレートの6位のアシル基の置換度が全体のアシル基の32%以上であることが好ましい。さらに、前記セルロースアシレートの6位のアシル基の置換度が0.88以上であることが好ましい。また、前記セルロースアシレートが、セルロースアセテートであることが好ましい。さらには、前記セルロースアシレートがセルローストリアセテートであることが好ましい。
前記セルロースアシレートの粘度平均重合度が200〜700であることが好ましい。また、前記セルロースアシレートの重量平均分子量と数平均分子量の比が0.8〜2であることが好ましい。さらに、前記セルロースアシレートが酸解離指数1.93〜4.5の酸またはその塩を含有することが好ましい。
前記セルロースアシレートの含水率が2質量%以下であることが好ましい。また、前記セルロースアシレートのイエローネスインデックスが0.1〜10であることが好ましい。さらに、前記セルロースアシレートのヘイズが0.05%〜5%であることが好ましい。
前記セルロースアシレートの透明度が85%以上であることが好ましい。また、前記セルロースアシレートのTg(ガラス転移温度)が80℃〜200℃であることが好ましい。さらに、前記セルロースアシレートの結晶化発熱量が2J/g〜20J/gであることが好ましい。
本発明に用いられるセルロースアシレートについて、以下に記す。本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えばプラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)に見られる。
それによると、セルロースの分子量は広範囲であり例えば天然セルロースは60万〜150万(重合度概算3500〜1万)であり、精製リンタは8万〜50万(重合度概算500〜3000)であり、木材パルプは8万〜134万(重合度概算500〜2100)である。ここで分子量は、セルロースあるいはその誘導体の強度的性質は大きく影響し、分子量が小さくなるとある重合度から急にその力学的強度が低下する。
本発明においてはセルロースからエステル化してセルロースアシレートを作製する。原料となるセルロースは、リンタやパルプを精製して精製リンタと精製高級木材パルプとした後に用いられる。リンタは綿実の綿繊維の中で繊維長が短い短繊維でありα−セルロース含量(例えば88質量%〜92質量%)が多く純度が高く、原料不純物も少ない。この粗リンタはゴミ取り、アルカリ蒸煮、漂白、酸処理、脱水および乾燥によって精製リンタを得ることができる。これらの詳細はプラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)の25〜28頁に記述され、表2・3にその特性が記載されており、本発明で好ましい精製リンタが得られる。
さらに、精製パルプについても同著の28〜32頁に記述されており、表2・4に特性も記載されており、該手法などで精製されたパルプもセルロースアシレート原料として好ましい。ここで、精製された綿花リンタと木材パルプを混合して用いることも好ましく、その割合は特に限定されない。いずれか一方のみを原料として用いても良いい。混合することによって溶解性を向上させることができ、またセルロースアシレートフイルムの面状、機械的特性や光学特性を改良することができる。
ここで、本発明でも利用されるセルロースはその分析については種々行われており、ASTM standard Part 15、 TAPPI Standard (Technical Association of the Pulp and Paper Industry)やJIS P 8101などに詳細に掲げられている。測定項目としては、灰分、酸化カルシウムと酸化マグネシウムの含量、α−セルロース、β−セルロース、銅価などである。
この中で、パルプの純度の指標となるα−セルロース含有量は、例えば80質量%〜100質量%程度の範囲から選択でき、木材パルプでは、通常85質量%〜98質量%程度である。本発明では低純度パルプ、例えばα−セルロース含有量80質量%〜96質量%(特に92質量%〜96質量%)程度のパルプも使用できる。なお、広葉樹パルプを原料とするセルロースアシレートは、流延法によるフイルムの剥離性が不足気味であり、針葉樹パルプは透明性などの光学的特性で若干悪化気味であるが、特に光学用途や写真フイルムへの応用に対しては問題なく使用できる。
さらに本発明においては、特開平11−130301号公報に記載のように、パルプあるいは綿花中の中性の糖成分には、グルコースが主成分であるがマンノースとキシロースとを含んでいてもよい。その比率は特に限定されないが、マンノース/キシロース(モル比)=0.35/1〜3.0/1、好ましくは0.35/1〜2.5/1、さらに好ましくは0.35/1〜2/1である。その場合に作製されたセルローストリアセテートにおいて、マンノースおよびキシロースの総含有量は、0.01モル%〜5モル%、好ましくは0.1モル%〜4モル%である。なお、「マンノース」「キシロース」は、パルプ中に含まれるヘミセルロース(キシラン,グルコマンナンなど)の主たる構成糖である。これらの原料パルプおよび得られたセルロースアシレート(セルローストリアセテートについて)の構成糖成分は、具体的には特開平11−130301号に記載の方法で分析できる。
一方、セルロースの構造を評価する手段として、X線結晶解析法もまた用いられる。それによるとセルロース分子は繊維軸方向に平行に配列し水素結合によって引き合い、5個のセルロース分子が有するそれぞれのセルビオース単位によって1個の単位胞を形成していることが記載されている。また、X線結晶解析法によればその結晶化度は天然セルロースで約70%であることが示されており、これらのセルロースも本発明のセルロースアシレート作製に対して使用できる。
以上記述したセルロースアシレートについては、特開平10−45803、特開平11−269304、特開平8−231761、特開平10−60170、特開平9−40792、特開平11−5851、特開平11−269304、特開平9−90101、特開昭57−182737、特開平4−277530、特開平11−292989、特開平12−131524、特開平12−137115号公報などに記載のセルロースアシレートを利用することも好ましい。これらの素材も、本発明の非塩素系有機溶媒を用いて作製されるセルロースアシレートフイルムに対しては特に限定されるものではない。
次に上述のセルロースを原料として製造される本発明のセルロースアシレートについて記載する。本発明のセルロースアシレートは、セルロースをアシル化し、水酸基の末端水素がアシル基に置換される置換度(以下、アシル基の置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものが好ましい。
(I) 2.6≦A+B≦3.0
(II) 2.0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦0.8
ここで、式中A及びBはセルロースの水酸基の末端水素を置換したアシル基の置換基を表し、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。セルロースには1グルコース単位に3個の水酸基があり、上記の数字はその水酸基3.0に対する置換度を表すもので、最大の置換度が3.0である。セルローストリアセテートは一般にAの置換度が2.6〜3.0であり(この場合、置換されなかった水酸基が最大0.4である)、B=0の場合がセルローストリアセテートである。本発明のセルロースアシレートは、アシル基が全部アセチル基のセルローストリアセテート、及びアセチル基が2.0以上で、炭素原子数が3〜22のアシル基が0.8以下、置換されなかった水酸基が0.4以下のものが好ましい。炭素原子数3〜22のアシル基の場合、0.3以下が物性の点から特に好ましい。なお、置換度は、セルロースの水酸基に置換する酢酸または/及び炭素原子数3〜22の脂肪酸の結合されている度合いを測定し、計算によって得られる。測定方法としては、ASTMのD−817−91に準じて実施することが出来る。
なお、アシル基がすべてアセチル基の場合は、その水酸基の置換度(以下、本発明において、水酸基の置換度とは、水酸基をアシル化して水酸基の末端水素をアシル基に置換したものを意味する)を酢化度であらわすことが通常おこなわれている。すなわち、セルロースアセテートにおいて平均酢化度は、用途や特性に応じて58%〜62.5%(アセチル基の平均置換度2.64〜3.0)程度の範囲が好ましい。さらに好ましくは59%〜62%(例えば、60%〜61%)程度である。ここで酢化度は、結合酢酸量を意味し、セルロース単位重量当たりの結合酢酸の重量百分率をいい、ASTM:D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)のアセチル化度の測定法に準じて測定できる。具体的には、乾燥したセルロースアセテート1.9gを精秤して、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶媒(容量比4:1)150mlに溶解した後、1N水酸化ナトリウム水溶液30mlを添加し、25℃で2時間ケン化する。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定する。また、上記と同様の方法でブランク試験を行い、下記式に従って酢化度を算出することで求められる。
酢化度(%)=[6.5×(B−A)×F]/W
(式中、Aは試料での1N硫酸の滴定量(ml)、Bはブランク試験での1N硫酸の滴定量(ml)、Fは1N硫酸の濃度ファクター、Wは試料の重量を示す)。
また、本発明ではセルロースアシレートの6位水酸基の置換度が、2,3位に比べて多いほうが好ましい。一般には、2,3,6位の水酸基は全体の置換度の1/3づつに均等に分配されるわけではなく、6位水酸基の置換度が小さくなる傾向がある。全体の置換度を100%とした場合に、6位の水酸基が32%以上アシル基で置換されていることが好ましく、更には33%以上が好ましく、特には34%以上であることが好ましい。各位置の置換度の測定は、NMRによって求める事ができる。更に6位水酸基は、アセチル基以外に炭素数4以上のアシル基であることが好ましく、プロピオニル基、ブチロイル基、バレロイル基、ベンゾイル基、アクリロイル基などを用いることができる。
本発明のセルロースアシレートのアシル基としては、脂肪族基でもアリール基(以下、芳香族基とも称する)でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよく、総炭素数が22以下のアシル基が好ましい。これらの好ましいセルロースアシレートとしては、総炭素数が22以下のアシル基(例えば、アセチル、プロピオニル、ブチロイル、バレリル、ヘプタノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイルなど)、アリルカルボニル基(アクリル、メタクリルなど)、芳香族カルボニル基(ベンゾイル、ナフタロイルなど)、シンナモイル基を挙げることが出来る。これらの中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートステアレート、セルロースアセテートベンゾエートなどであり、混合エステルの場合はその比率は特に限定されないが、好ましくはアセテートが総エステルの30モル%以上であることが好ましい。
これらの中でも、セルロースアシレートが好ましい。それを用いると特に写真用グレードのものに適用できる。市販の写真用グレードのものは粘度平均重合度、置換度等の品質を満足して入手することができる。写真用グレードのセルローストリアセテートのメーカーとしては、ダイセル化学工業(株)(例えばLT−20,30,40,50,70,35,55,105など)、イーストマンコダック社(例えば、CAB−551−0.01、CAB−551−0.02、CAB−500−5、CAB−381−0.5、CAB−381−02、CAB−381−20、CAB−321−0.2、CAP−504−02、CAP−482−20、CA−398−3など)、コートルズ社、ヘキスト社等があり、何れも写真用グレードのセルロースアシレートを使用できる。
本発明で用いられるセルロースアシレートの製法について記す。本発明の好ましいセルロースアシレートの中でも、より好ましいセルロースアセテートについて記述するが、他のエステルについてもその製造については同様に実施できる。なお、セルロースアシレートの代表であるセルロースアセテートについての一般的な記載は前述のプラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂(丸澤、宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)の54〜107頁に記述されており、これらのセルロースアセテート類も好ましく用いられる。
すなわち、セルロースアセテートの製法は特に限定されないが、例えば硫酸触媒法、酢酸法、メチレンクロライド法などの方法で製造できる。セルロースアセテートは、リンタやパルプのセルロース原料を酢酸などで処理した後(活性化工程)、酢化工程では酸触媒である硫酸などを用いて無水酢酸によりアセチル化しトリアセテートを作製する。しかる後に、所定の酢化度になるように加水分解・熟成、沈殿工程、精製工程さらに乾燥工程の処理によりセルロースアセテートとして製造される。活性化工程は、例えば酢酸の噴霧, 浸漬などで、パルプ(セルロース)を処理することにより行うことができる。酢酸は、パルプ(セルロース)100重量部に対して10重量部〜100重量部、好ましくは20重量部〜80重量部、さらに好ましくは30重量部〜60重量部が利用される。アセチル化工程における無水酢酸量は、パルプ(セルロース)100重量部に対して230重量部〜300重量部、好ましくは240重量部〜290重量部、さらに好ましくは250重量部〜280重量部である。アセチル化工程において、通常溶媒として酢酸が使用されその使用量は、例えばパルプ(セルロース)100重量部に対して200重量部〜700重量部、好ましくは300重量部〜600重量部、さらに好ましくは350重量部〜500重量部程度である。アセチル化又は熟成触媒としては、好ましくは硫酸が使用され、その使用量は、セルロース100重量部に対して、1重量部〜15重量部、好ましくは5重量部〜15重量部、特に5重量部〜10重量部である。
セルロースアセテートの光学的特性をさらに改善するためには、セルロースアセテートの製造工程のうち適当な段階、例えば、酢化やケン化終了後、生成したセルロースアセテートを酸化剤で処理するのが有用である。なお、酸化剤による処理は、前記酢化工程における酢酸量の多少の如何に拘らず有効であるが、酢化工程での酢酸溶媒量を多くしてアセチル化したセルロースアセテートに適用すると、さらに光学的特性を向上できる。酸化剤としては、例えば、過酸化水素,過ギ酸,過酢酸,過安息香酸,過酸化ラウロイル,過酸化ベンゾイル,過酸化ジアセチルなどの過酸化物などが例示できる。これらの酸化剤は単独で又は二種以上を併用して使用できる。好ましい酸化剤には、セルロースアセテートからの除去が容易であり、かつ残留性が小さな酸化剤、例えば、過酸化水素、過ギ酸、過酢酸が挙げられ、過酸化水素や過酢酸が特に好ましい。酸化剤の使用量は、所望する光学的特性のレベルに応じて選択でき、例えは、セルロースアセテート100重量部に対して、0.01重量部〜5重量部、好ましくは0.1重量部〜2.5重量部、特に0.1重量部〜1重量部程度である。酸化剤による処理は、酸化剤の種類に応じて、例えば、20℃〜100℃、好ましくは30℃〜70℃で行うことができる。また、ケン化・熟成は、特にその温度は限定されないが40℃〜90℃、より好ましくは50℃〜80℃である。
次に沈殿工程は、一般にセルロースアシレートの貧溶媒を反応溶液に添加することで達成できる。この時使用される貧溶媒は、水,アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなど)、アセトンなどである。得られた沈殿セルロースアシレート固形物は、更に前述の溶媒で洗浄することが好ましく、精製工程が一般的に実施される。洗浄が十分であるかどうかは、洗浄液のpHを測定することで判断できる。すなわち洗浄が不十分である場合は、洗浄液が酸性を示すことで判断できる。さらに洗浄に当たっては、沈殿したセルロースアシレートを細分化して洗浄することが好ましく、例えばセルロースアシレートの塊が10mm以下であることが好ましく、破砕攪拌機などで実施できる。なお、アシル基が長鎖アルキルなどの場合は、ヘキサンなどでもよい。
次に乾燥工程は、セルロースアシレートに必須である。その乾燥については特に限定されず、常圧でも減圧下でも良い。また減圧で乾燥される場合は100Pa〜5万Paがこのましく、より好ましくは1000Pa〜3万Paが好ましい。減圧を達成するためには水流ポンプを用いてもよく、また機械的に減圧してもよい。乾燥温度は30℃〜250℃が任意に選ばれる。ここで、セルロースアシレート固形物の温度が30℃〜250℃であれば、その方法は高温度の風を送ることでもよく、搬送ローラーの温度を高温にすることでセルロースアシレートを加熱してもよい。さらには、超音波などの電子線照射をあたえることで実施し乾燥してもよい。乾燥時間は生産性を考えると短いほど好ましく、0.1時間〜1000時間が好ましい。更には1時間〜100時間が特に好ましい。
さらに、セルロースアシレートの安定性を向上させるため、生成したセルロースアシレートには、耐熱安定剤、例えば、アルカリ金属塩(カリウム塩やナトリウム塩など)やアルカリ土類金属塩(カルシウム塩,マグネシウム塩,ストロンチウム塩,バリウム塩など)を添加してもよい。その含有量は特に限定されないが、セルロースアシレートに対してアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩の金属が1ppb〜10000ppmの範囲であればよく、さらには10ppb〜1000ppmであり、特には50ppb〜500ppmが好ましい。また鉄化合物として存在する鉄原子の含有量も好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは100ppm以下、更には20ppm以下であり、特には1ppm以下が好ましい。その他の金属類(例えば亜鉛、スズ、鉛、ニッケル、銅などの重金属)も本発明に支障のない限り特にその含有されることに対して問題ないが、好ましくは1000ppm以下であり、さらには100ppm以下である。
(セルロースアシレートの好ましい特性)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度200〜700、好ましくは200〜500、より好ましくは200〜400である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。更に特開平9−95538に詳細に記載されている。粘度平均重合度は、オストワルド粘度計にて測定したセルロースアセテートの固有粘度[η]から、下記の式により求める。
(a1) DP=[η]/Km
式中、[η]は、セルロースアセテートの固有粘度であり、Kmは、定数6×10-4である。
粘度平均重合度(DP)が290以上である場合、粘度平均重合度と落球式粘度法による濃厚溶液粘度(η)とが下記式(a2)の関係を満足することが好ましい。
(a2) 2.814×ln(DP)−11.753≦ln(η)≦6.29×ln(DP)−31.469
式中、DPは290以上の粘度平均重合度の値であり、ηは落球式粘度法における標線間の通過時間(sec)である。上記式(a2)は、粘度平均重合度と濃厚溶液粘度をプロットし、その結果から算出したものである。粘度平均重合度が290以上のセルロースアセテートにおいては、一般に重合度が高くなると濃厚溶液の粘度が指数的に増加する。これに対して、上記式を満足するセルロースアセテートでは、粘度平均重合度に対する濃厚溶液粘度の増加が直線的である。
また、本発明に使用するセルロースアシレートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、0.8〜11.0であることが好ましく、1.5〜8.0であることがさらに好ましく、2.0〜7.0であることが最も好ましい。
さらに低分子成分が少ないセルロースアシレートは、粘度平均重合度(DP)と濃厚溶液粘度(η)の関係、Mw/Mnの分子量分布あるいは結晶化発熱量の範囲が小さくなり分散度が小さいセルロースアシレートを得ることができる。低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)は高くなり、粘度は通常のセルロースアシレートよりも高くなるため有用である。低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。
低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。有機溶媒の例としては、ケトン類(例、アセトン)、酢酸エステル類(例、メチルアセテート)およびセロソルブ類(例、メチルセロソルブ)が含まれる。本発明においては、ケトン類、特にアセトンを用いることが好ましい。通常の方法により得られるセルロースアシレートを有機溶媒で一回洗浄すると、原料重量に対して5質量%〜15質量%程度の低分子セルロースアセテートが得られる。ここで最終のセルロースアシレートのアセトン抽出分は、5質量%以下であることがさらに好ましい。低分子成分の除去の効率を高めるために、洗浄前に、セルロースアセテートの粒子を粉砕あるいは篩にかけることで、粒子サイズを調節することが好ましい。具体的には、20メッシュを通過する粒子が70%以上となるように調節することが好ましい。洗浄方法としては、ソックスレー抽出法のような溶剤循環方式を採用することができる。また、通常の攪拌槽にて溶媒と共に攪拌し、溶媒と分離することにより洗浄を実施することもできる。
なお、低分子成分の少ないセルロースアセテートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100重量部に対して10重量部乃至15重量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲(比較的多量)にすると、分子量部分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
本発明のセルロースアシレートは、水溶液中での酸解離指数pKaが1.93〜4.50である少なくとも一種の酸、この酸のアルカリ金属塩および前記酸のアルカリ土類金属塩から選択された少なくとも一種を含んでもよい。その場合、セルロースアシレート1g中のアルカリ金属およびアルカリ土類金属の総含有量が、1×10-8〜5.5×10-6当量(イオン当量換算)であるセルロースアセテートであることが好ましい。この場合セルロースアシレート及び/又はヘミセルロースアシレートに結合したカルボキシル基のうち少なくとも一部が酸型で存在するセルロースアシレートとして存在する。
本発明のセルロースアシレートの含水率は2質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以下であり、特には0.7質量%以下の含水率を有するセルロースアシレートである。一般に、セルロースアシレートは、水を含有しており2.5質量%〜5質量%の範囲であることが知られている。本発明でこのセルロースアシレートの含水率にするためには、乾燥することが必要であり、その方法は目的とする含水率になれば特に限定されない。例えば、乾燥機中で高温にしたり、高温の風を送って乾燥したりしてもよく、さらには減圧状態で低温での乾燥でもよい。好ましい乾燥温度は、50℃〜150℃であり、さらには70℃〜120℃である。減圧状態を実施する場合は、1Pa〜0.05MPaであり更には10Pa〜0.02MPaであり、特には50Pa〜0.01MPaである。また、乾燥剤を用いて乾燥剤に水分を吸収させることで、セルロースアシレートの水分を低下させ、本発明の含水率を有するセルロースアシレートを得てもよい。なお、乾燥時間は特に限定されず本発明のセルロースアシレートの含水率となるように実施される。これらのセルロースアシレートの含水量は、一定量のセルロースアシレートを採取してカールフィッシャー法で測定することで求めることが出来る。
本発明のセルロースアシレートにおいて、黄色度の指標となるイエローネスインデックス(Yellowness Index,YI)は、例えば、0.1〜10、好ましくは0.1〜7であり、ヘイズは0.05%〜5%、好ましくは0.051%〜2%である。また、セルローストリアセテートの透明度は、例えば、60%〜100%であり、好ましくは80%〜100%,さらに好ましくは85%〜100%である。なお、YI、ヘイズ、透明度の測定方法は次の通りである。
(セルロースアシレート単独のイエローネスインデックス(YI))
乾燥したセルロースアシレート12.0gを正確に秤量し、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶媒88.0gを加えて完全に溶解させる(ポリマー濃度が12質量%の溶液)。色差計(日本電色工業製,色差計Σ90)と、ガラスセル(横幅45mm,高さ45mm,光路長10mm)を用い、以下の計算式によりYIを算出する。
YI=YI2−YI1
(式中、YI1 はメチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶媒のYI値,YI2は、CTA12質量%溶液のYI値を示す)。
(セルロースアシレート(単独)のヘイズ)
乾燥したセルロースアシレート12.0gを正確に秤量し、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶媒88.0gを加えて完全に溶解させる(CTA12質量%溶液)。濁度計(日本電色工業製)を用い、ガラスセル(横幅45mm,高さ45mm,光路長10mm)を使用し、次のようにして測定する。メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶媒をガラスセルに入れて濁度計にセットし、0点合わせと標準合わせを行う。次いで、ガラスセルにCTA12質量%溶液を入れて濁度計にセットし、数値を読み取る。
(セルロースアシレート(単独)の透明度)
乾燥したセルロースアシレート8.0gを正確に秤量し、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶媒125.3gを加えて、完全に溶解させる(CTA6質量%溶液)。セシウム光電管、フィルターNo.12を備えたAKA光電比色計を用い、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶媒を光路長100mmのガラスセルに入れて透過率を測定しブランクとする。次いで、CTA6質量%溶液を光路長100mmのガラスセルに入れて透過率を測定し、ブランクを100%としたときの試料溶液の透過率を試料の透明度とする。
(セルロースアシレート(単独)の熱物性)
本発明のセルロースアシレートは、そのガラス転移温度(Tg)が70℃〜200℃であることが好ましく、より好ましくは100℃〜180℃である。一般にセルローストリアセテートのTgは約150℃〜170℃であり、その酢化度や重合度によって若干の影響を受ける。Tgが低すぎると取り扱い時の高温で力学的な耐久性を失い、またTgが高すぎると溶解せが不良であったり作製されたセルロースアシレートフイルムがもろかったりして利用が困難である。
本発明のセルロースアシレートは、結晶化発熱量の点でも特に限定されない。一般に結晶化度が小さいセルロースアシレートは、溶媒に対する溶解性が高く、高い成形性を示すという特色がある。しかし、反面フイルムにした場合フイルム強度が劣る方向になり注意を要する、本発明におけるセルロースアシレートは、溶融状態からの結晶化発熱量(ΔHcr)が2J/g〜20J/g、好ましくは3J/g〜18J/g、さらに好ましくは3.5J/g〜15J/gのセルロースアシレートである。ここで、セルロースアシレートの結晶化発熱量は、以下の如く評価した。まず、セルロースアシレートをジクロロメタン/エタノール=9/1(重量比)にて13質量%の溶液を調製し、10μmの布フィルターにて0.5kgf/cm2 で加圧濾過する。得られたドープをガラス板上に押し出しコーターを用いて流延し、35℃で20分乾燥した後ガラス板から剥離し、100℃で0.5時間真空乾燥した。得られた試料約10mgを標準アルミパンに詰め、熱補償型示差走査熱量計(DSC)の試料台に載せて、適正な溶融温度で短時間保持しセルロースアシレートを溶融させた後、降温速度4℃/分で室温まで冷却し結晶化させた。得られたDSC曲線の発熱ピーク面積から結晶化発熱量(ΔHcr)を求めた。なお、DSCの測定は、窒素雰囲気下で行われ、温度較正は、In(融点:156.60℃)Sn(融点:231.88℃)の2点較正により行われるとともに、熱量較正はIn(融解熱量:28.45 J/g)の1点較正により行われる。また、結晶化温度の解析法については、JIS K 7121−1987の規定に準拠し、結晶化発熱量の解析法については、JIS K 7122−1987の規定に準拠する。
本発明のセルロースアシレートは、耐湿性及び寸法安定性が高いとともに、酢化度が高いにも拘らず、前記のような結晶化発熱量を有しているため、溶媒に対する溶解性が高いとともに、溶液粘度が低く、高速での成形加工性が高い。本発明のセルロースアシレートは本質的に結晶性が低いので、フイルム成形などに際して特殊な処理を施すことなく、高い成形性を維持しつつ、効率よく成形品を得ることができる。セルロースアシレートは、成形法の種類に応じた種々の形態(例えば、粉末状、ペレット状など)で成形に供してもよいが、通常、セルロースアシレート溶液(ドープ)として使用する場合が多い。
[溶媒]
本発明に用いられる溶媒を、塩素系有機溶媒を主溶媒とすることも、非塩素系有機溶媒を主溶媒とすることも可能である。塩素系有機溶媒とは、一般的にハロゲン化炭化水素化合物を意味しており、代表的な例として、ジクロロメタン、クロロホルムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明において、ジクロロメタンが70重量%〜95重量%の範囲であり、アルコール類,ケトン類が5重量%〜30重量%の範囲の混合溶媒を用いることが最も好ましい。しかしながら、本発明においてドープを構成する塩素系有機溶媒(代表的なものとしてジクロロメタンが挙げられる)を主溶媒としたときに、他の溶媒との混合比は、前述した範囲に限定されるものではない。また、塩素系有機溶媒を単独(100重量%)で用いても良い。
また非塩素系有機溶媒としては、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類などがあるが、これらに限定されるものではない。溶媒は、市販品の純度であれば、特に制限される要因はない。溶媒は、単独(100重量%)で使用しても良いし、炭素数1ないし6のエステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類を混合して使用するものでもよい。使用できる溶媒の例には、エステル類(例えば、酢酸メチル、メチルホルメート、エチルアセテート、アミルアセテート、ブチルアセテートなど)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(例えば、ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル,メチル−tert−ブチルエーテルなど)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1−ブタノールなど)などが挙げられる。なお、本発明に用いられる有機溶媒には、前述した塩素系有機溶媒と非塩素系有機溶媒とを混合して用いることも可能である。
本発明において、酢酸メチルが70重量%〜90重量%の範囲とし、アセトンが5重量%〜15重量%の範囲とし、アルコール類(特に、メタノール、1−ブタノール)が5重量%〜15重量%の範囲として混合溶媒を調製することが最も好ましい。しかしながら、本発明においてドープを構成する非塩素系有機溶媒(酢酸メチル)を主溶媒としたときに、他の溶媒との混合比は、前述した範囲に限定されるものではない。
[添加剤]
本発明のドープ中には添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤などがある。可塑剤としては、リン酸エステル系(例えば、トリフェニルホスフェート(以下、TPPと称する)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート(以下、BDPと称する)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートなど)、フタル酸エステル系(例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレートなど)、グリコール酸エステル系(例えば、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレートなど)及びその他の可塑剤を用いることができる。
紫外線吸収剤としては例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物及びその他の紫外線吸収剤を用いることができる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。
さらにドープには、必要に応じてその他の種々の添加剤、例えば、離型剤、剥離促進剤、疎水化剤。フッ素系界面活性剤などをドープの調製前から調製後のいずれかの段階で添加してもよい。
[ドープの濾過方法]
本発明においては、所定サイズ未満の不溶解物は、濾材により除去されないようにすることで、濾材の寿命を延ばすことが可能となる。本発明では、(1)ドープ中で酸の性質を有する物質(以下、酸性物質と称する)を添加して、不溶解物が濾材の孔面に付着することを抑制する。(2)濾材の孔面から露出している官能基を、不溶解物との間に第1タイプ水素結合が生じ難いものに置換して不溶解物が付着することを抑制する。(3)前記(1)及び(2)を共に行うことで、所定サイズ未満の不溶解物の濾材孔面への付着を最も抑制する。(4)濾材の孔面で露出している官能基を酸の性質を有するものに置換して、酸性物質の添加を行うことなく、不溶解物が濾材の孔面に付着することを抑制する。本発明のポリマー溶液の濾過方法は、これら(1)〜(4)の形態によって、濾材寿命を延ばすことが可能となる。
(濾材)
本発明に用いられる濾材は、その表面積を大きくするために、繊維から形成されていることが好ましい。その繊維の素材としては、特に限定されるものではないが、天然高分子繊維(例えば、セルロース繊維など)、再生高分子繊維(例えば、ビスコースレーヨンなど)、半合成高分子繊維(例えば、アセテート繊維)、合成高分子繊維(例えば、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維など)、金属繊維(例えば、ステンレス繊維など)が挙げられる。本発明においては、前述したものに限定されるものではないが、前記(2)〜(4)の形態を容易に行うためにセルロース繊維を用いることが好ましい。前述した各種の繊維を単独で用いたものであっても良く、種類が異なる複数の繊維から濾材を形成しても良い。なお、本発明に用いられる濾材の材料の形態は、繊維状のものに限定されるものではない。
(不溶解物の所定サイズ)
ドープ中に含まれていても製膜されたフイルムに影響を及ぼさない不溶解物の所定サイズは、1μm以上10μm以下であることが好ましいが、フイルムの用途に応じて任意の値を選択することが可能である。以上、説明したように、ドープ中に含まれている不溶解物を除去しなければならないサイズは、製膜されたフイルムの用途により異なるため、前述したものに限定されるものではない。また、所定サイズ以上のサイズの不溶解物は、本発明で用いられる濾材により除去されることが好ましい。なお本発明において不溶解物のサイズとは、原子団または分子における最大2点間距離を意味している。
(1)ドープ中へ酸性物質を添加する
ポリマーにTACを用いた場合に、所定サイズ未満の不溶解物は、主にカルボン酸カルシウム及びカルボン酸マグネシウム並びにそれらの誘導体である。従来の濾過方法では、これら化合物によって濾材の孔の閉塞を招いていた。しかしながら、これらの化合物がドープ中に含まれていても、その分子サイズ(なお、本発明では、分子とは会合体など1つの集合体になっているものも含む意味で用いる)が小さいため製膜されたフイルムの光学特性に影響を与えることはほとんど無い。そこで、これら化合物は濾材により除去しないことにより、濾材が使用できる時間(以下、濾材の寿命とも称する)を延ばすことが可能となる。なお、本発明において不溶解物は、濾材の孔面に付着することを抑制して濾材の寿命を延ばすことが好ましいが、濾材の孔面への付着を抑制するだけでなく、その他の要因によって濾材の孔を塞ぐことを抑制する方法も含まれる。例えば、前記不溶解物に分子サイズが小さい酸性物質が凝集することで、不溶解物同士の凝集や会合を抑制し、孔面に不溶解物が積層することを抑制できる。酸性物質により前記不溶解物の分解がさらに進行し、不溶解物のサイズが小さくなり孔面の閉塞を抑制できる。
前述した酸性物質は、その物質を水に溶解させて、その水溶液が25℃のときの電離定数(pKa)が4.8以下のものを用いることが好ましい。なお、多塩基酸(多プロトン酸)を用いる場合には、その第1電離定数(pKa1 )が前記条件のもとで4.8以下のものを用いることが好ましい。具体的には、無機酸(例えば、塩酸など)、有機酸(例えば、フェノールなど)、有機カルボン酸(例えば、酢酸、乳酸など)、多価有機カルボン酸(例えば、クエン酸、酒石酸など)、多価有機カルボン酸誘導体、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、多価有機カルボン酸誘導体については、後に詳細に説明する。
多価有機カルボン酸誘導体の基本骨格(多価有機カルボン酸)は、脂肪族炭化水素系(例えば、直鎖飽和、分岐飽和、直鎖不飽和、分岐不飽和、単環式、芳香族、縮合多環式、橋かけ環式、スピロ、環集合、テルペンなど)や、芳香族系炭化水素系(芳香族、縮合多環式など)や、複素環式(ヘテロ環)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、多価有機カルボン酸誘導体は、少なくとも1つのカルボン酸基(−COOH)とし、少なくとも1つのカルボン酸塩(−COOM;なお、Mは解離すると陽イオンとなるものを意味している)とを有している。また、さらに他のカルボン酸基が、エステル化(−C(=O)O−Q;Qは、例えば、アルキル基,アリール(aryl)基などを意味している。),アミド化(−CO−NH2 )しているものを用いることが好ましい。例えば、多価有機カルボン酸エステルは、クエン酸エチルエステル(なお、本発明ではクエン酸とエチルアルコールのエステル反応物を意味する)が挙げられる。しかしながら、本発明で用いられる多価有機カルボン酸誘導体は、前述したものに限定されるものではない。なお、本発明においては、3基のカルボン酸基を有し溶媒に溶解し易く、その末端を置換することで、電離定数の調整を行うことが容易なクエン酸及びその誘導体を酸性物質として用いることが好ましい。例えば、その誘導体としては、化1に示すようなクエン酸−1−エチルエステル(1位の炭素のカルボン酸基をエステル化したもの)が挙げられる。なお、2位の炭素(化1中のC2 )のカルボン酸基をエステル化したクエン酸−2−エチルエステルも用いることができる。また、クエン酸とエタノールとを反応させて得られるクエン酸エチルエステル混合物を用いることも可能である。
本発明において酸性物質は、前述したものに限定されるものではない。また、ドープに酸性物質を添加する量は、過剰であると製膜されたフイルムの特性が変わることがあり好ましくない。また、添加量が少ないと、後に説明する図2及び図4のモデルに従った濾過が進行し難い場合が生じる。そこで、本発明において、酸性物質にクエン酸またはクエン酸エチルエステルを用い、前記ポリマーにTACを用いた場合にはドープ中のCa,Mgイオンと同イオン当量であることが最も好ましい。一例としては、TACの重量に対して、クエン酸またはクエン酸エチルエステルのいずれかの添加重量比を300ppm〜600ppmの範囲とすることが、図2及び図4のモデルに従った濾過が進行しやすくなるために好ましい。しかしながら、本発明において酸性物質の添加重量比は、前述した範囲に限定されるものではない。
図2を参考に本発明に係るドープの濾過方法について説明する。濾材10には、セルロース繊維を用いており、孔面10aから孔11に対して、水酸基(−OH)とカルボン酸基(−COOH)とが露出している。ドープ20中に酸性物質(H−BA;なお、本発明においてBA- は、共役塩基を示している)21が添加されていると、図2(a)に示すように水素イオン(H+ )21aと陰イオン(BA- )21bとに解離する。これによりドープ20中に過剰の水素イオン(H+ )が存在することとなり、図2(a),(b)に示すようにカルボン酸基14,18から水素イオン(H+ )の解離が抑制される。また、不溶解物15は、ドープ20中でカルボン酸カルシウム陽イオン(R−COOCa+ )15aと陰イオン(X- )15bとに解離する。
孔面10aには、陽イオンとイオン結合しやすい陰イオン(例えば、カルボン酸陰イオン)がほとんど存在していないので、カルボン酸カルシウム陽イオン(R−COOCa+ )15aは、図2(c)に示すように溶液中で最も安定して存在する+2価のカルシウム陽イオン(Ca2+)15dを放出する。そして、残ったカルボン酸陰イオン(R−COO- )は、ドープ20中に添加された水素イオン(H+ )21aと結合し、安定したカルボン酸(R−COOH)15cとなる。このカルボン酸15cのC=O結合の酸素と水酸基17の末端水素との間には第1タイプ水素結合17aが生じ、カルボン酸基18の末端水素との間で第2タイプ水素結合18aが生じる。すなわち、カルボン酸15cと濾材10との間には、水素結合による付着のみが生じることになり、孔面に不溶解物が付着することが抑制される。また、孔の閉塞の原因となる不溶解物は天然高分子の一種であると考えられ、不溶解物の分子サイズは大きくまた凝集体や会合体を形成しやすいので孔の閉塞の進行を招き易い。しかしながら、図2に示されているように本実施形態によれば、孔面に微量付着するカルボン酸15cは、分子サイズが小さくなっていると共にカルシウム原子を有していないので、凝集体や会合体の形成が生じ難く、孔面の閉塞の進行を遅らせることが可能となる。
このように、本実施形態のポリマー溶液の濾過方法では、不溶解物が濾材の孔面に付着する原因の1つであったイオン結合(図1参照)の寄与が無くなるため、不溶解物15の濾材10への付着が抑制される。なお、カルシウム陽イオン(Ca2+)15d、水素イオン(H+ )21aと、陰イオン(BA- )21bとは、結合して塩を形成する場合もあるが、イオンのままドープ20中で存在していることもある。いずれの場合であっても、それらがドープ20中に存在していても、実用上の範囲においては、製膜されたフイルムの特性に影響を及ぼすことはない。
(2)孔面から露出している官能基を他の置換基で置換
図3を参考に本発明に係るドープの濾過方法について他の実施形態を説明する。セルロース繊維は、化2に示すようにセルロースのセルビオーズ基中には6個の水酸基(−OH2 、−OH3 、−CH2 - OH6 、−OH2'、−OH3'、−CH2-OH6')が存在している。
化2に示したセルロース繊維から形成された濾材30の孔面30aから孔31に露出している水酸基(−O−H)の末端水素(−H)を置換する置換基(−R’)としては、飽和炭化水素基(例えば、メチル基(−CH3 )、エチル基(−CH2 CH3 )、tert−ブチル基(−C(CH3 )3 )など)または飽和炭化水素基誘導体であるアシレート基(例えば、アセチル基(−CO−CH3 )、プロピオニル基(−CO−CH2 −CH3 )、イソブチリル基(−CO−CH(CH3 )2 )、バレリル基(−CO−(CH2 )3 −CH3 )など)、不飽和炭化水素基(例えば、ビニル基(−CH=CH2 )、イソプロペニル基(−C(CH2 )=CH2 )など)または不飽和炭化水素基の誘導体、芳香族炭化水素基(例えば、フェニル基(−C6 H5 )など)、芳香族炭化水素基の誘導体などの疎水性の置換基が挙げられる。なお、本発明において、置換基のうち、バレリル基を用いることが好ましいが、前記末端水素を置換する置換基は前述したものに限定されるものではない。また、本発明において、置換基には、複数の原子が結合、会合などにより構成されている原子団も含まれる。
末端水素の置換方法は、置換基R’がバレリル基(Valeryl ;−CO−(CH2 )3 −CH3 )の場合、セルロースから形成された濾材30とバレリアン酸(Valeric acid ;CH3 −(CH2 )3 −COOH)とを用いて70%の水酸基をエステル化することが好ましいが、これに限定されるものではない。
図3(a)に示すように、ドープ12は孔31中を流れている。このドープ20には、不溶解物15が含まれている。また、孔面30aからは、置換基(−O−R’)32と置換されなかった水酸基(−OH)33とセルロース中の不純物として含有していたカルボン酸基34,35とが孔31に露出している。また、カルボン酸基34は、ドープ12中で、水素イオン(H+ )34aを放出してカルボン酸陰イオン(−COO- )34bとなっている。不溶解物15は、イオンがドープ12中に含まれることにより、図3(b)に示すようにカルボン酸カルシウム陽イオン(R−COOCa+ )15aと、陰イオン(X- )15bとに容易に解離する。
図3(c)に示すようにカルボン酸カルシウム陽イオン15aは、孔面30aに存在しているカルボン酸陰イオン34bに引きつけられてイオン結合16a,16bにより結合し、ジカルボン酸カルシウム15eとなる。また、近接した位置にあるカルボン酸基35の末端水素と、ジカルボン酸カルシウム15eのC=O結合との間には、第2タイプ水素結合35aが生じる。しかしながら、前述したように孔面30aに存在しているカルボン酸陰イオン34bは、水酸基33よりもはるかに少ないため、この結合は不溶解物の濾材への付着にほとんど寄与しない。このように、本実施形態では、不溶解物が濾材の孔面に付着する原因の1つであった第1タイプ水素結合の寄与がほとんど生じないため、不溶解物15の濾材30への付着が抑制される。
(3)酸性物質の添加(1)と官能基を他の置換基で置換(2)との併用
前述した酸性物質のドープへの添加(図2参照)と、水酸基の末端水素の置換(図3参照)とを併用して行うことが、本発明においては最も好ましい形態である。以上説明したように、セルロース繊維の末端水素を炭化水素系の原子団で置換することにより、濾材の孔面を疎水化することが可能となる。また、その疎水化の指標としては、水との接触角が40°以上であることが好ましい。また、併用した例を図4を用いて説明する。なお、本実施形態は、図示したものに限定されるものでない。
図4(a)に示すようにカルボン酸基34,35は、ドープ20中に含有している水素イオン(H+ )21aにより、末端水素原子が水素イオンとしてドープ中に放出されることが抑制されている。また、不溶解物15は、図4(b)に示すようにドープ20中でカルボン酸カルシウム陽イオン(R−COOCa+ )15aと陰イオン(X- )15bとに解離する。
孔面30aには、陽イオンとイオン結合しやすい陰イオンがほとんど存在していないので、カルボン酸カルシウム陽イオン(R−COOCa+ )15aは、図4(c)に示すように溶液中で最も安定して存在する+2価のカルシウム陽イオン(Ca2+)15dを放出する。そして、残ったカルボン酸陰イオン(R−COO- )は、ドープ20中に添加された水素イオン(H+ )21aと結合し、安定したカルボン酸(R−COOH)15cとなる。カルボン酸15cとカルボン酸基34の末端水素との間で第2タイプ水素結合34cが生じるが、第1タイプの水素結合は、水酸基33が置換基(−O−R’)に置換されているのでほとんど生じない。そこで、本実施形態のポリマー溶液の濾過方法では、不溶解物が濾材の孔面に付着する原因であったイオン結合の寄与と、第1タイプ水素結合との両方が無くなるため、不溶解物15の濾材30への付着が最も抑制される。なお、カルシウム陽イオン(Ca2+)15d、水素イオン(H+ )21aと、陰イオン(BA- )21bとは、結合して塩を形成する場合もあるが、イオンのままドープ20中で存在していることもある。いずれの場合であっても、それらがドープ20中に存在していても、実用上の範囲においては、製膜されたフイルムの特性に影響を及ぼすことはない。
(4)水酸基の末端水素を酸の性質をもつものに置換
図5を参考に本発明に係るドープの濾過方法について他の実施形態を説明する。前記化2に示したようにセルロースのセルビオーズ基中には6個の水酸基(−OH2 、−OH3 、−CH2-OH6 、−OH2'、−OH3'、−CH2-OH6')が存在している。
前記酸の性質を有する原子団として、カルボン酸基(−Z−COOHが挙げられる。なおZは、アルキル鎖(R1、例えば、−CH2 −、−CH2 −CH2 −、−CH=CH−、など)またはその誘導体(−CO−R1;R1は前述のアルキル鎖を意味している)、アリール(aryl)基などを示している。Zは以下の説明においても同じ意味で用いる。または、カルボン酸塩(−Z−COO−MI 、(−Z−COO)2 MII;MI はアルカリ金属などを示し、MIIは、マグネシウムやアルカリ土類金属などを示している。これらの表記は、以下の説明においても同様である。)も挙げられる。スルホン酸基(−Z−SO3 H)も用いることが可能である。または、スルホン酸塩(−Z−SO3 MI )なども用いることが可能である。なお、本発明に用いられる原子団としてはZが、(CO−(CH2 )2 )である3−カルボキシプロパニル基(−CO−(CH2 )2 −COOH)を用いることが好ましい。本発明において、酸を付与することにより濾材側の酸と不溶解物の酸との間に斥力が働き、不溶解物の付着を抑制していると思われる。
末端水素の置換方法は、酸の性質を有する官能基として3−カルボキシプロパイノル基(−CO−(CH2 )2 −COOH)に置換する場合、セルロースから形成された濾材50とコハク酸( HOOC−(CH2 )2 −COOH)とを反応させて50%の水酸基を置換することが好ましい。なお、本発明において水酸基の末端水素を酸の性質を有する官能基、原子団に置換する方法は、前述したものに限定されるものではない。
図5(a)に示すように、ドープ12は孔51を流れ、前述した不溶解物15が含まれている。また、孔面50aからは、置換基(−O−Z−COOH)52と置換されなかった水酸基(−OH)53とセルロース中の不純物であるカルボン酸基54,55とが孔51に露出している。また、置換基52は、ドープ12中に、水素イオン(H+ )52aを放出してカルボン酸陰イオン(−O−Z−COO- )52bとなる(図5(b)参照)。不溶解物15は、水素イオン52aがドープ12中に含まれることにより、図5(b)に示すようにカルボン酸カルシウム陽イオン(R−COOCa+ )15aと、陰イオン(X- )15bとに容易に解離する。また、カルボン酸基54,55は、置換基52から水素イオン52aが放出されているので、水素イオンの放出をほとんど行わない。
孔面50aからは、置換基52が水素イオン52aを放出したカルボン酸陰イオン52bが存在しているが、このカルボン酸陰イオン52bはドープ12中では安定に存在するためカルボン酸カルシウム陽イオン15aとは、ほとんどイオン結合が生じない。そこで、カルボン酸カルシウム陽イオン(R−COOCa+ )15aは、図5(c)に示すように溶液中で最も安定して存在する+2価のカルシウム陽イオン(Ca2+)15dを放出し、残ったカルボン酸陰イオン(R−COO- )は、ドープ12中に存在している水素イオン(H+ )52aと結合し、安定したカルボン酸(R−COOH)15cとなる。カルボン酸15cのC=O結合の酸素と水酸基53の末端水素との間に第1タイプ水素結合53aが生じ、カルボン酸基55の末端水素との間で第2タイプ水素結合55aが生じる。すなわち、カルボン酸15cと濾材50との間には、水素結合による付着のみが生じることになる。
このように、本実施形態のポリマー溶液の濾過方法では、不溶解物が濾材の孔面に付着する原因の1つであったイオン結合の寄与が無くなり、また第1タイプ水素結合53aも、半数の水酸基が置換されているために、付着への寄与がかなり低下するため、不溶解物15の濾材50への付着が抑制される。なお、カルシウム陽イオン(Ca2+)15d、陰イオン(X- )15bとは、結合して塩を形成する場合もあるが、イオンのままドープ20中で存在していることもある。いずれの場合であっても、それらがドープ20中に存在していても、実用上の範囲においては、製膜されたフイルムの特性に影響を及ぼすことはない。
本実施形態によれば、ドープ中に酸性物質を添加することなく、不溶解物が濾材に付着することを抑制できる。そこで、ドープに添加する酸性物質、特にドープ中に残存する共役塩基から形成された陰イオン(BA- )が存在しないために、製膜されたフイルムの光学特性などを変化させる因子を減らすことが可能となる方法である。
以上、本発明に係るポリマー溶液の濾過方法について説明した。これらの濾過方法を行うことで、所定サイズ以上の不溶解物を濾材で除去することができる。本発明は、前述の図面を用いて説明した形態に限定されるものではない。例えば、図5で示した(4)水酸基の末端水素を酸の性質をもつものに置換してポリマー溶液を濾過する方法で、ドープ中に酸性物質を添加したものを用いることも可能である。また、ドープを濾過する際の送液量は、一定流量であることが、均一にドープを濾過するために好ましい。その流量は、50L/(m2 ・hr)〜250L/(m2 ・hr)の範囲で一定流量であることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。また、ポリマー溶液(ドープ)を濾過する際に、本発明に係る濾過方法のモデルに従うためには、ドープの温度が20℃〜50℃の数値範囲であることが、好ましいがこの数値範囲に限定されるものではない。それは、用いられるドープ用溶媒、除去する不溶解物、除去しない不溶解物などに応じて、最も適切な温度範囲を決めることが最も好ましい。
[ポリマー溶液の製造方法]
図6に本発明に係るポリマー溶液(ドープ)の製造方法に用いられるドープ製造ライン60を示す。なお、製造ライン60では、前述した図4に示したようにドープ中に酸性物質を添加し、濾過装置の濾材にセルロース繊維を用いて水酸基の末端水素を置換するポリマー溶液(ドープ)の濾過方法を用いている。ドープの製造方法は、始めに前述した溶媒に前述した酸性物質を添加し、均一に混合した酸性物質含有溶媒(以下、単に溶媒と称する)調整工程を行った後に、その溶媒を溶媒タンク61に入れる。なお、酸性物質の添加量は後述するポリマーの重量に対して50ppm〜2000ppmの重量比の範囲になるように予め算出し、溶媒に添加することが好ましい。しかしながら本発明は、その範囲に限定されるものではない。また以下の説明においては溶媒に混合溶媒を用いるときも、単に溶媒と称する場合もある。次に、溶媒タンク61から必要な量の溶媒を溶解タンク62に送液する。この溶媒は、溶媒タンク61と溶解タンク62との間に取り付けられている溶媒タンク開閉バルブ63により、送液量を調整しながら送液される。
次に、ホッパ64に仕込まれているポリマーを溶解タンク62に計量しながら送り込む。ポリマーは、前述した溶媒に対して12重量%〜28重量%仕込むことが好ましく、より好ましくは15重量%〜25重量%であり、最も好ましくは17重量%〜23重量%仕込むことである。これにより調製されたドープを製膜して得られるフイルムの品質が良好なものが得られる。しかしながら、本発明において溶媒に仕込むポリマー量は前述した範囲に限定されるものではない。なお、ポリマーにはTACを用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。
さらに、可塑剤タンク65から可塑剤を溶解タンク62に送り込む。可塑剤タンク65と溶解タンク62との間には、可塑剤タンク開閉バルブ66が取り付けられており、必要量の可塑剤を溶解タンク62に送り込むことが可能となっている。なお、可塑剤には、TPP,BDPを用いることが好ましいが、これらに限定されるものではない。
図6では、可塑剤を溶媒に溶解させた溶液として、溶解タンク62に送り込んでいるが、本発明はこの方法に限定されない。可塑剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンク62に送り込むことも可能である。また、可塑剤が固体の場合には、ホッパを用いて溶解タンク62に送り込むことも可能である。なお、本発明において溶解タンク62に送り込む可塑剤の量は、前述したポリマーに対して5重量%〜20重量%であると、調製されたドープから製膜されたフイルムの可塑性が製品として最も好ましい柔軟性を持つものが得られる。しかしながら、本発明において溶解タンクに送り込む可塑剤の量は前述した範囲に限定されるものではない。
また、前述した説明においては、溶解タンク62に仕込む順番が、溶媒、ポリマー、可塑剤の順であったが、本発明は必ずしもこの順に限定されるものではない。例えば、ポリマーを計量して溶解タンク62に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することも可能である。また、可塑剤は必ずしも溶解タンク62に予め送り込む必要はなく、後の工程でポリマーと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープまたはドープ原液と称する場合がある)に、混合することもできる。また、溶解タンク62に可塑剤以外の前述した添加剤(例えば、紫外線吸収剤など)を送り込むことも可能である。
溶解タンク62には、モータ67により回転する撹拌翼68が備えられている。撹拌翼68が回転することにより、溶解タンク62内に送り込まれていた溶媒、ポリマー、必要に応じて送り込まれていた可塑剤及びその他の添加剤を撹拌することで、溶媒にポリマーなどの溶質を粗溶解させる。粗溶解とは、溶質が完全に溶媒に溶解していない状態を意味している。以下の説明においてこの粗溶解した液を粗溶解液69と称する。なお、本発明において粗溶解液69を調製するために、溶解タンク62中で撹拌翼68により撹拌する時間は、30分〜90分であることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
貯蔵タンク70に一旦粗溶解液69を送り込み、溶解タンク62内を空にして、粗溶解液69を形成する工程を繰り返す連続バッチ式で行うことが、コストの点から好ましい。貯蔵タンク70にも、モータ71で回転する撹拌翼72が備えられており、送り込まれた粗溶解液69を撹拌し、均一にする。貯蔵タンク70内の粗溶解液69は、ポンプ73により配管74を通り加熱機75に送液される。なお、本工程は、図示したものに限定されるものではない。
ポンプ73から加熱機75へ粗溶解液69を送液する際に、配管74が保温あるいは加熱されていることが好ましい。粗溶解液69が配管74内を送液される際にも加熱されることで、粗溶解液69中の溶媒に溶解していないポリマーなどの溶質の溶解が進行するために、短時間でドープを調製することができる。
次に、加熱機75により粗溶解液69を加熱することでフイルムの製膜に必要なポリマーなどの溶質が溶解したドープを調製することができる。加熱時間は5分〜30分、加熱温度は60℃〜150℃であることが好ましく、60℃〜120℃であることがより好ましいが、これら範囲に限定されるものではない。5分未満であると、ドープの調製が完全に行われないおそれが生じ、30分を超えて加熱しても、完全に必要な溶質成分が溶媒に溶解しているために時間の無駄であるとともに、調製されたドープの変質を招くおそれがあるからである。また、加熱温度も50℃未満であると、ドープの調製が完全に行われないおそれが生じ、150℃を超えると必要な溶質成分の変性を招くおそれがあるからである。
加熱機75には、ドープを効率良く調製するために多管式熱交換器(シェル&チューブ方式)や2重管以上の管を備え加熱手段を有する静的混合撹拌器(スタチックミキサとも称する)などのインラインミキサを用いることが、ドープ調製時間を短縮するために好ましい。特に熱交換効率の観点から、スパイラル式熱交換器を用いることがより好ましい。スパイラル式熱交換器は、2枚の板を中心部から渦巻状に巻きあげ、2つの流路から構成されている。この構造は、プロセス液の流路断面積に対して、伝熱面積を広くとれるために、熱交換効率に極めて優れた機器である。また、加熱機75の材質は、耐食性の高いものを用いることが好ましく、具体的にはステンレス、チタン、ハステロイ(商品名)などから形成されたものを用いることがより好ましい。これにより、溶解タンク62の容量を変更することなく、ドープの量産のためのスピードアップが可能となる。
加熱部(図6では、配管74及び加熱機75)の内壁面をステンレスで作製されているものを用いると、ステンレスは、鉄とクロムとを含む合金であり、耐食性に優れている。しかしながら、ドープ、特にジクロロメタンを主溶媒とするドープを加熱することで発生する塩酸またはその類似化合物により腐食されるおそれが生じる。特に、ステンレスが高温となると腐食の進行が速まる。腐食により鉄,クロム及びそれらを含む化合物が析出し、ドープ中に不純物として混合するおそれが生じる。そこで、本発明ではドープを作製する際の加熱部(図6では、配管74及び加熱機75)の内壁の最高温度Tmax を規定する。耐食性を保持する点からは、壁面最高温度Tmax は、低温であることがより好ましいが、あまり低温であると加熱することにより固形分、特にポリマーを溶媒に溶解させるという効果が減ずるおそれが生じる。そこで、本発明では、壁面最高温度Tmax を150℃以下、より好ましくは110℃以下、最も好ましくは100℃以下とする。なお、下限値は特に限定されるものではないが、溶解性が充分に発現する温度を下限値とする。例えば、ジクロロメタンを主溶媒としてドープを調製する際には、35℃以上とすることが好ましく、より好ましくは60℃以上、最も好ましくは70℃以上とする。
加熱機75により調製されたドープを冷却機76に送り、ドープを構成している主要溶媒の沸点以下まで冷却することが、良好な品質のフイルムを製膜するためのドープを調製するために好ましい。なお、本発明において粗溶解液69からドープを調製する方法は、必ずしも前述した加熱機75により行う必要はない。例えば、配管74を加熱して粗溶解液69を送液するだけで、ドープを調製できることも場合によっては可能である。または貯蔵タンク70で、撹拌翼72を急速回転することでドープを調製することも場合によっては可能である。これらのように粗溶解液69からドープを調製する方法は、必ずしも前述した加熱機75による加熱方法に限定されるものではない。
前述した方法で調製されたドープは、ポンプ77により切替機79を介して選択された濾過装置80に送液される。図では、濾過装置を2台示したが、本発明は図示した形態に限定されず、切替機を用いずに1台であってもよいし、3台以上の濾過装置を配置して切替機により、任意の濾過装置を使用してもよい。
濾過装置80の断面概略図を図7に示す。濾過装置80には、図4で示した濾材30が設けられている。先に詳細に説明したように、ドープ20中に含まれている所定サイズ以上のサイズの不溶解物は、濾材30により捕捉されて除去される。また、所定サイズ未満の不溶解物は、ほとんど濾材30に捕捉されることなく濾過済みドープ(以下、この濾過済みドープも単にドープと称する場合もある)20aとして濾過装置80から送り出される。このように、本発明に係るドープ(ポリマー溶液)の濾過方法を用いることにより、濾材30の使用可能な時間(寿命)を1.2倍〜2.0倍程度伸ばすことが可能となる。そのため、濾材交換のために切替機79で濾過装置を変更する際に生じるドープの組成変動などが生じる回数を減らすことが可能となり、ドープ製造ライン60を安定的に連続運転することが可能となる。
なお、ドープ20を濾過装置80に一定流量で送液するために、濾過装置80の下流側に流量計81が取り付けられていることが好ましい。流量計81で測定された濾過済みドープ20aの流量値がポンプ77に送信され、ポンプ77の流量調整機構により、ドープの流量が調整された定量濾過方法にすることが、本発明においてはより好ましい。また、その流量は、50L/(m2 ・hr)〜250L/(m2 ・hr)の範囲において、一定流量であることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。なお、本発明は、他の濾過方法、例えば定圧濾過方法などの他の公知の方法にも適用することが可能であり、またドープを濾過装置80に送液する場合に、一定流量で送液することに限定されるものではない。濾過装置80を通過して、所定サイズ以上の不溶解物が除去された濾過済みドープ20aはドープ用タンク83に送液される。
濾過装置80を洗浄した後の廃液は、図示しない配管により濾材を洗浄した後に、溶媒再生タンク84に送り込まれる。この廃液は、図示しない溶液処理装置により処理された後に、ポンプ85によりリサイクル溶媒タンク86に送液される。このリサイクルされた溶媒は、ドープ調製用の溶媒として、溶解タンク62へ送り込まれて使用されることがコストの点から好ましい。なお、図では省略したが、濾過装置80を切り替える前に、新たに用いる濾過装置に予め調製されたドープを流しておくことが、ドープ製造ライン60を連続運転するためにより好ましい操作方法である。
以上に、ドープ中への酸性物質の添加と、濾材の孔面から孔に露出している水酸基の末端水素を疎水性原子団(置換基も含む)に置換するポリマー溶液の濾過方法(図4参照)を用いたポリマー溶液(ドープ)の製造方法について説明した。本発明に係るポリマー溶液の製造方法には、他のポリマー溶液の濾過方法を用いることも可能である。例えば、ドープ中で酸の性質を有する物質を添加するポリマー溶液の濾過方法(図2参照)、濾材の孔面から露出している官能基を水素結合が生じ難いものに置換するポリマー溶液の濾過方法(図3参照)、濾材の孔面から露出している官能基を酸の性質を有する原子団に置換して、酸性物質の添加を行うこと必要がないポリマー溶液の濾過方法(図5参照)などが挙げられる。図3及び図5を用いて説明した本発明に係るポリマー溶液の濾過方法を用いてポリマー溶液の製造を行う際には、図6中の溶媒タンク61中へ仕込まれる溶媒に酸性物質の添加は不要である。なお、図5を用いて説明した本発明に係るポリマー溶液の濾過方法を用いてポリマー溶液(ドープ)の製造を行う際には、溶媒タンクに仕込まれる溶媒中に酸性物質を添加しても良い。
また、図6に示したように溶媒中に酸性物質を添加してポリマー溶液を製造(図2及び図4参照)する際に、前記説明では溶媒を溶媒タンク61に仕込む前に酸性物質を添加する工程を行っていた。しかしながら、本発明に係るポリマー溶液の製造方法を行う際には、酸性物質を添加する工程は、その工程に限定されず、図6のドープ製造ライン60中で、濾過装置80よりも上流側の任意の位置で添加することが可能である。なお、その添加位置がドープ中に酸性物質を均一にし難い箇所である場合には、その箇所から下流の位置にスタチックミキサ(図示しない)をドープ製造ライン60中に取り付けることで、酸性物質をドープに均一に混合することが可能になる。
[溶液製膜方法]
図8に本発明に係る溶液製膜方法に用いられるフイルム製膜装置90を示す。フイルム製膜装置90は、バンドゾーン91と乾燥ゾーン92とから構成されているものを示したが、本発明に用いられるフイルム製膜装置90は図示したものに限定されるものではない。前述した濾過済みドープ20aが仕込まれているドープ用タンク83(図6参照)は、ポンプ93と濾過装置94とを介してフイルム製膜装置90に接続している。また、ドープ用タンク83には、モータ95により回転する撹拌翼96が取り付けられ、濾過済みドープ20aを均一にしている。また、バンドゾーン91と乾燥ゾーン92との空気に含まれる揮発した溶媒を回収再利用するための溶媒回収ライン130が取り付けられている。
ドープ20a中に含まれる不純物を除去するために、流延する直前に濾過装置94でろ過することがより好ましい。この不純物がフイルム中の茶色から黒色の錆状の異物の発生原因となると思われる。この不純物は、鉄,クロム及び塩素を含み、フイルム中に残るとフイルムの光学特性に影響を及ぼす。濾過装置94の濾材の孔径(公称孔径)は、1μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは、5μm以上40μm以下のものを用いることである。1μm未満の孔径を有する濾材を用いると、濾過負荷が増加するが、得られるフイルム中に含まれる異物の減少は顕著には見られない。そのため濾材の交換を行う頻度に対してフイルムの特性の向上が無く、生産性の悪化を招くおそれがある。また、孔径が50μmより大きなものを用いると、フイルム中に残存が許容されるサイズの異物の発生原因となるドープ20a中の不純物を除去することができないからである。また、濾材は、金属製,非金属製のいずれであっても、微小な不純物がドープ20a中に流れ出るおそれがある。このような場合には、濾過装置94によるドープ20aの濾過工程は省略することも可能である。
なお、この濾過装置94が備えている濾材(フィルタ)にデプスタイプのフィルタ(以下、デプスフィルタと称する)を用いることが好ましい。デプスフィルタとは深層濾過または体積濾過タイプのフィルタとも称される。このデプスフィルタの特徴は、フィルタがいわゆる多層構造の状態となっている。各層には、公称孔径の数倍の孔が形成されている(例えば、公称孔径が10μmの場合には、20μm〜30μm)。そして、各層が積層することで、積層方向に確率的に公称孔径の孔が形成されているとみなすことができるものである。そのため、孔の一部に不純物が補足されて閉塞されても、他の孔を通ることにより液流路が確保されるため、濾材の寿命が長いという利点を有する。なお、デプスフィルタとしては、ワインドカートリッジフィルターTCWタイプ(アドバンテック東洋(株)製),デプスカートリッジフィルターTCPDタイプ,ファインポアNFシリーズ(日本精線(株)製)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、デプスタイプの濾材を複数用いることも有効である。その場合には、公称孔径が異なる濾材を用いることが好ましい。すなわち、上流側には、公称孔径が大きな濾材を備え、下流側には小さな濾材を備えさせる。また、このときにもデプスタイプの濾材を用いることが好ましい。なお、本発明においては、濾材の公称孔径は、特に限定されるものではないが、濾材の絶対濾過精度が6μm以下のものを用いることが好ましい。なお、下限値は、ドープ中の不純物を除去するという点からは、濾材の絶対濾過精度は、小さい方がより好ましい。しかしながら、絶対濾過精度が小さい濾材にドープを通すと、濾材の寿命が極端に短くなるが、製膜されるフイルムの光学特性を良好にする効果がそれに反比例するものでもない。そこで、目的とするフイルムの光学特性(光学等方性又は光学異方性,ヘイズ示される光透過性など)と生産コストから3μm以上であることが好ましいときや、1μm以上であることが好ましいときもある。
また、濾材の材質は、特に限定されるものではない。例えばポリプロピレン,テフロン(登録商標)などの合成繊維,ステンレスなどの金属繊維を用いることができ、好ましくはポリプロピレン繊維を用いることである。また、濾材には濾紙を用いることもできる。、濾材から不純物の析出が生じないために好ましい。
なお、濾材に濾紙を用いた場合には、保留粒子径が8μm以下のものを用いることが好ましく、より好ましくは7μm以下の用いることであり、最も好ましくは6μm以下のものを用いることである。また、その材質は、コットンリンターパルプやウッドパルプを主原料とした天然繊維を用いることが好ましい。また、濾水時間は、20秒以上が好ましく、より好ましくは40秒以上のものを用いることである。また、濾紙の厚みは0.75mm以上が好ましく、より好ましくは1.0mm以上のものを用いることである。また、濾過圧力は16kgf/cm2 (≒1.6MPa)以下が好ましく、12kgf/cm2 (≒1.2MPa)以下がより好ましく、10kgf/cm2 (≒1.0MPa)以下がさらに好ましく最も好ましくは2kgf/cm2 (≒0.2MPa)以下とすることである。
本発明において、保留粒子径は、JIS Z 8901に従い測定される値を用いる。また、濾水時間は、JIS P 3801 7.5に従い測定される値を用い、厚みはJIS P 8118に従い測定される値を用いることとする。さらに、濾過圧力とは、濾過装置の入口側に圧力計を設置し、その値を測定するものを意味する。
バンドゾーン91には、支持ローラ97、98に掛け渡された流延バンド99が設けられている。この流延バンド99は、図示しない駆動装置により支持ローラ97、98が回転すると、無端で移動し続ける。流延バンド99の上には、流延ダイ100が設けられている。濾過済みドープ20aは、ドープ用タンク83からポンプ93により送液され、濾過装置94で不純物が除去された後に流延ダイ100に送られる。濾過装置94は、ドープ用タンク83に濾過済みドープ20aが仕込まれている間に空気中に含まれているゴミ、ホコリなどを除去するために取り付けられているが、この濾過装置94を省略することも可能である。
流延ダイ100は、濾過済みドープ20aを流延バンド99上に流延する。なお、流延幅は、特に限定されるものではないが、1400mm以上2000mm以下の範囲に好ましく適用できる。濾過済みドープ20aは、流延バンド99で搬送されながら自己支持性を有するまで徐々に乾燥し、剥取ローラ101により支持されながら流延バンド99から剥ぎ取られフイルム102が形成される。このフイルム102は、テンタ式乾燥機(以下、テンタと称する)103により搬送されながら乾燥される。なお、この際に少なくとも一軸以上が所定の幅に引き伸ばされることが好ましい。
テンタ103から乾燥ゾーン92に送られたフイルム102は、乾燥ゾーン92内で、複数のローラ104に巻き掛けられて搬送しながら乾燥する。乾燥後のフイルム102は、巻取機105に巻き取られる。乾燥ゾーン92内の温度は、50℃〜150℃の範囲に制御されていることが、フイルム102の均一な乾燥のために好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
なお、本発明において乾燥ゾーン92と巻取機105との間に冷却ゾーン(図示しない)を設けてフイルム102を冷却することもできる。この場合に、フイルム102を室温程度まで冷却することが好ましいが、その温度に限定されるものではない。また、フイルム102にナーリングを付与したり、耳切装置(図示しない)によりフイルム102を耳切り処理を行ったりしても良い。なお、本発明の溶液製膜方法は、得られるフイルムの幅が1300mm以上1800mm以下のいわゆる幅広のフイルムの製膜に好ましく用いることができる。また、1800mmを超える幅のフイルムの製膜や、1300mm未満の幅のフイルムの製膜にも効果がある。
なお、図8では、単層の流延ダイ100を用いた溶液製膜方法を示した。しかしながら、本発明は、その他の溶液製膜方法にも適用可能である。例えば、図9には示すようなマルチマニホールドを備えた流延ダイ110による共流延による溶液製膜方法についても適用することができる。この流延ダイ110は、複数(図9では、3個)のマニホールドが設けられているマルチマニホールド型流延ダイである。マニホールド111、112、113に、それぞれ前述したドープの製造方法により調製された裏面層用ドープ、中間層用ドープ、表面層用ドープが注入されており、流延ダイ110の内部でそれぞれのドープを合流させた後に、流延リボン114を流延バンド115上に流延してフイルムを形成する。なお、本発明において、共流延する際の積層するドープの層数は、図示した3層に限定されるものではない。また、共流延法は図示したマルチマニホールド方法に限定されず、フィードブロック方法などの公知のいずれの方法により行っても良い。
図10には、本発明を逐次的に流延(逐次流延)する溶液製膜方法に適用した例の概略の一部を示す。本方法では、バンドゾーン内に備えられた支持ローラ120、121に掛け渡された流延バンド122が設けられており、支持ローラ120、121が図示しない駆動装置により回転すると、流延バンド122も無端で移動する。流延バンド122の上には、2個の流延ダイ123、124が配置されている。各流延ダイ123、124からは、前述したドープ調製方法によりそれぞれ調製された裏面層用ドープ、表面層用ドープが流延され、フイルムが形成される。なお、本発明において、逐次流延による製膜は図示した2個の流延ダイを用いた実施形態に限定されず、3個以上の流延ダイを流延バンド122上に配置したものでも良い。また、本発明の溶液製膜方法には、前述した共流延法と逐次流延法をとを組み合わせた多層流延法も含まれる。なお、この多層流延法は、公知の装置(図示しない)を用いた方法により行うことが可能である。
[溶媒回収再利用工程]
溶媒回収再利用ライン130の一実施形態を図11に示して説明する。ドープ20a中の溶媒が揮発した揮発溶媒を含む空気は、バンドゾーン91から熱交換器140に送り出される。バンドゾーン91内では、乾燥初期であるため多量の溶媒が揮発している。多量の揮発した有機溶媒を含む空気は、凝縮回収用の凝縮器141で凝縮液化され、液体は、回収溶媒142として凝縮回収される。また、液化しなかった揮発溶媒を含む空気は、送風機143により熱交換器140に送られて、熱交換がなされ温度が上昇する。さらに、加熱機145で所望の温度まで加熱されて再度バンドゾーン91に送られ、乾燥風として再利用される。
回収溶媒142は、溶媒処理装置145に送られ水分が除去された精製溶媒146と廃液147とに分離される。廃液147は、廃棄処理がなされる。溶媒処理装置145における精製溶媒146と廃液147との分離は、溶媒,水などの沸点の違いを利用した蒸留分離により水分を除去する方法により行なわれることが好ましい。なお、蒸留分離の代表的な装置として、連続精留装置が挙げられるが、この装置に限定されるものではない。また、その装置を用いずに、例えばシリカゲルなどに水分を除去することによって精製溶媒146を得ることもできる。
フイルム102は、乾燥ゾーン92内で、複数のローラ104に巻き掛けられて乾燥する。乾燥ゾーン92内で揮発した溶媒を含む空気150は、熱交換器151に送り込まれた後に、送風機152により冷却機153に送風される。冷却された空気150は、前処理活性炭154により添加剤など比較的分子量が大きく揮発している化合物が吸着されて除去される。次に、除湿機155によって空気150中に含まれる水分が除去される。さらに、空気150は、送風機156により吸着層157,158,159のいずれかに切替バルブ(図示しない)により選択的に送られ、空気150中に含まれている揮発溶媒が吸着層157〜159によって吸着される。また、吸着処理後の空気150aは、温度調節機160により所定の温度に調節される。この空気150aは、乾燥風161として送風機162により熱交換器151に送り込まれ、空気150と熱交換がなされ加熱される。さらに加熱機163によって所望の温度まで加熱され、再度、乾燥ゾーン92内に送り込まれ、乾燥風161として再利用される。
吸着層157〜159に吸着されている溶媒は、脱着ガス164により脱着し、吸着回収用の凝縮器165へ送り出される。脱着ガス164は凝縮器165で凝縮液化され、液体は回収溶媒166として吸着回収される。また、液化しないガス成分は、再度、送風機156に送り出され、吸着層157〜159に送り込まれる。
回収溶媒166は、抽出塔167に送られ有機相と水相とに分離する。この際に、アルカリ溶液168を加えることで溶媒を充分に有機相に移行させることができる。また、溶媒がアルカリ性になることで、管や各種装置の素材であるステンレスなど金属の腐食を抑制できる。アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液,炭酸ナトリウム(Na2 CO3 )水溶液,水酸化カルシウム(Ca(OH)2 ),酸化カルシウム(CaO)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。水相は、廃液169として抜き取られ、廃液処理がなされた後に廃棄される。また、有機相は、脱水装置170に送液され、有機相中に微量に混合している水分が除去されて精製溶媒171となる。この水分は、廃液172として抜き出され処理がなされた後に廃棄される。そして、精製溶媒146,171は、溶媒成分調整装置173に送液される。なお、回収溶媒166が酸性(弱酸性も含む)である場合には、アルカリ水溶液による抽出操作は省略することができる。また、回収溶媒166の水素イオン指数(pH)を小さく(酸性を強める)する際には、酢酸水溶液でpHを調整することが好ましい。
図12に示すように精製溶媒146,171は、ポンプ180により調整タンク181に送液される。調整タンク181には、溶媒182を攪拌するための攪拌翼183が設けられている。この攪拌翼183は、モータ184と接続し、モータ184の回転に伴って回転し、溶媒182を攪拌混合する。また、調整タンク181には、酸溶液用タンク185,アルカリ溶液用タンク186がそれぞれバルブ187,188を介して取り付けられている。さらに、調整タンク181には、水用タンク189がバルブ190を介して接続されている。また、調整タンク181には、溶媒182の脱水を行うための循環式の蒸留塔191を備えている。
溶媒182の一部は取り出されてサンプリング溶媒182aとして、水200と共に抽出塔201に送液される。水200は、蒸留水,イオン交換水などを用いることが好ましい。また、抽出塔201へ送液する水200の量は、サンプリング溶媒182aの体積に対して0.1倍以上10倍以下であることが好ましく、より好ましくは0.5倍以上2倍以下であり、最も好ましくは略同一体積である。抽出塔201によりサンプリング溶媒182a中の水溶性成分が水200中に抽出される。そして、水相202と有機相203とに相分離がなされた後にそれぞれの相が取り出される。水相202は、pH測定計204に送液されて水素イオン濃度または水素イオン指数(pH)が測定される。なお、有機相203は、環境悪化を抑制し、溶媒の回収効率を上げるために調整タンク181に戻すことが好ましい。このときに一度除湿(脱水)操作を行うことが調整タンク181内の溶媒182の品質を一定に保持するために好ましい。水素イオン濃度または水素イオン指数の測定値は、コントローラ205に送信される。pH測定計204で水相202の水素イオン濃度が測定されているときには、コントローラ205により水素イオン指数(pH)が算出される。なお、本発明に用いられるpH測定計204には、pH METER F−13(堀場製作所製),AN570(日立製)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
溶媒182の一部は、水分量測定計206に送液される。水分量測定計206では、溶媒182中の水分量が測定され、その測定値はコントローラ205に送信される。コントローラ205は、その測定値に基づき、含水率(重量%)を算出する。なお、本発明において含水率(重量%)とは、(水の重量/(水を含む全溶媒の重量))×100で算出されるものを意味する。水分量測定計206には、KEM製カールフィッシャー水分計などが挙げられるがそれに限定されるものではない。例えば、オンラインの水分量測定計としてはFT−IR(フーリエ変換赤外吸収分析計)であるNR−800(横河電機社製)などが挙げられる。
コントローラ205には、予め溶媒182の水素イオン指数(pH)xと含水率(重量%)yとの好ましい関係式が入力されている。本発明では、その関係式は、
y<0.0032x2 −0.093x+1.20とする。
また、さらに好ましい関係式としては、
y<0.0031x2 −0.087x+1.02とする。
また、水素イオン指数(pH)xは、3≦x≦12の範囲とすることが好ましく、より好ましくは3≦x≦9の範囲とする。水素イオン指数(pH)xが、x<3であると強酸性の溶媒となり管及び各種装置の内壁面の腐食を進行させるおそれがあり好ましくない。また、水素イオン指数(pH)xが、x>12であると強アルカリ性であり、水の存在下でセルロースアシレートのエステル結合が切断される加水分解が生じるおそれがある。
さらに、含水率(重量%)yを0.2≦yとすることが好ましい。ドープ中の含水率は低い方が、フイルムが水の影響による光学特性の悪化が生じないフイルムを得ることができる。光学特性の悪化は、例えば水の含有箇所におけるフイルム組成の不均一化による光学異方性の発生,透過率の悪化などが挙げられる。しかしながら、ドープ中に水を含まないと、鉄,クロム及び塩素などのイオンが有機溶媒中で不溶解となりそれらイオンを核として不純物が生じるおそれがあることを本発明者は見出した。そこで、本発明では、ドープ中に一定量の水を含有させることにより極性溶媒である水に鉄,クロム及び塩素などのイオンを溶解させることにより不純物発生の核が生じることを抑制する。また、ドープの主溶媒であるジクロロメタンは、水に難溶性の特性を有する。そこで本発明では、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素をドープ調製用の溶媒として用いる際には、親水性の溶媒であるアルコール類(例えば、メタノール,エタノール,n−ブタノールなど)やケトン類(例えば、アセトンなど)を混合させることにより、主溶媒であるジクロロメタンと水との混合を可能とする。そこで、本発明では、含水率(重量%)yを0.2≦yとすることで、ドープ中に不純物が溶解しやすくなり、異物の発生を抑制できる。
図13に横軸を水素イオン指数(pH)x、縦軸を含水率(重量%)yとしたグラフを示す。
曲線C1は、y=0.0031x2 −0.087x+1.02であり、
曲線C2は、y=0.0032x2 −0.093x+1.20を示している。
本発明では、濾過装置80の濾材30に不溶解物が付着することを抑制するためにドープ20a中に酸性物質が添加されていることが好ましい。そこで、図12の溶媒182が酸性すなわち3≦x<7の範囲で且つ、0.2≦y≦C2の領域(a+b)の関係を満たすように溶媒の水素イオン指数と含水率とを調整することが好ましく、より好ましくは3≦x<7の範囲で且つ、0.2≦y≦C1の領域aの範囲とすることである。水素イオン指数の調整(溶媒182の水素イオン濃度の調整)は、水素イオン指数(pH)が所望の値より大きい場合には、酸溶液用タンク185に入れられている酸液207を調整タンク181に送液する。酸溶液207の送液量は、コントローラ205の信号によりバルブ187の開閉操作がなされて所望の量が供給される。調整タンク181内で溶媒182に酸溶液207が添加され、攪拌翼183により攪拌することで均一に混合される。また、水素イオン指数(pH)が所望の値より小さい場合には、アルカリ液用タンク186に入れられているアルカリ液208をバルブ188の開閉操作により溶媒182中に供給して攪拌し均一に混合する。
酸液としては、酢酸,クエン酸,クエン酸エチルエステル(以下、クエン酸とエチルアルコールとのエステル反応物を含めた意味で用いる),塩酸などを用いることができる。また、硫酸を用いることもできる。硫酸は、供給が容易で処理が簡単という利点を有する。本発明では、溶媒182の水素イオン指数の調整と共に溶媒182を用いて調整されるドープ中の酸性物質による濾材30の閉塞を抑制する(図6参照)ために、クエン酸,クエン酸エチルエステルを用いることがより好ましい。また、酢酸は、TACの原料である原料綿にも含まれているため、ドープ中の予期しない不純物の発生原因となることが少ないために好ましい。また、アルカリ液208としては、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム水溶液,酢酸ナトリウム水溶液,サリチル酸ナトリウム水溶液を用いることで、ドープ中のポリマー(TAC),添加剤などの分解が生じることが抑制されるために好ましい。
なお、先に説明されているようにドープ製造ライン10(図6参照)のタンクや管などはステンレスが用いられる。ステンレスは、耐食性に優れているためにドープまたは溶媒などの液が接している箇所から析出する成分は問題とならない。しかしながら、連続運転を行うと極微量の不純物、例えば鉄または鉄イオン,クロムまたはクロムイオンが生じてドープ中の不純物の発生原因となるおそれがある。また、ドープの溶媒の主溶媒にジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素を用いると、溶媒分子が分解して塩素イオンまたは塩酸などが生じ、これがさらにステンレスの腐食を進行させるおそれがある。そこで、本発明者は鋭意検討した結果、ドープの溶媒またはドープを中性またはアルカリ性、すなわちpH≧7の範囲でも溶解性に影響を及ぼさず、また不純物の発生を抑制できることを見出した。
図13のグラフ中で、水素イオン指数xが、x≧7以上(すなわち中性,アルカリ性)で且つ含水率yが、0.2≦y≦C2の範囲である領域(c+d)とすることが好ましく、より好ましくは、x≧7且つ0.2≦y≦C1の領域cとすることである。これにより、ドープ製造ライン60(図6参照)及びフイルム製膜装置90(図8参照)を用いる連続製膜において、濾過装置80より上流側はアルカリ性の状態の溶媒を含むため、ステンレスからの鉄,クロムなどの不純物の析出を抑制できる。なお、アルカリ液204としては、水酸化ナトリウム水溶液,酢酸ナトリウム水溶液,サリチル酸ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
また、溶媒182の含水率(重量%)を所望の範囲とするために溶媒182の脱水操作または水の添加操作のいずれかを行う。脱水操作は、調整タンク181に取り付けられている蒸留塔191により蒸留で行うことがコストの低減のために好ましい。なお、より厳密に水分量を調整する際には、精留塔を用いることがより好ましい。また、蒸留塔191に代えて、分離膜により水分を分離する方法を適用することもできる。分離膜としては、旭化成ユーテックの油水分離フィルターが挙げられるがこれに限定されるものではない。また、モレキュラーシーブ(結晶性ゼオライト)などの脱水剤を用いることもできる。
溶媒182へ水を添加する方法は、水用タンク189から調整タンク181へ水209を送液する。送液量は、コントローラ205がバルブ190の開閉操作を行い、適切な量の水209を送液する。なお、水209には、溶媒182の水素イオン濃度の変化を抑制するために、イオン交換水(pH=5.5〜7.5)を用いることが好ましい。
ところで、本発明においては、濾過装置80の濾材30の閉塞を抑制するためドープ中に酸性物質を添加している。そこで、回収された溶媒182をアルカリ性または中性にする際には、濾過装置80の濾材の種類を問わずに、濾材の閉塞を防ぐ効果を発現させるため、溶媒を回収した後から、その溶媒を含むドープをろ過するまでの間に、酸性物質が含まれている状態、すなわち酸性(pH<7)とする調整工程を行う。もっとも回収された後に調整された溶媒182が中性またはアルカリ性である場合には、ドープ中に酸の性質を有する物質を添加させない方法(図3参照)や濾材50の表面に酸の性質を備える原子団に置換させる方法(図5参照)を行うことで酸性とする工程を省略することもできる。
図14に支持体として回転ドラム(流延ドラムとも称される)を用いるフイルム製膜設備220を示し説明する。フイルム製膜設備220は、ドープ製造ライン60,溶媒回収再利用ライン130,溶媒成分調整装置173を備えている。ドープ製造ライン60により製造されるドープ221がミキシングタンク222に入れられる。ミキシングタンク222にはモータ223の回転に伴って回転する攪拌翼224が設けられている。攪拌翼224が回転することで、ドープ221を攪拌混合して均一にしている。ドープ221は、ポンプ225により濾過装置226に送られて不純物が除去される。なお、この濾過装置226も濾過装置94と同様に濾過装置94の濾材の孔径(公称孔径)は、1μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは、5μm以上40μm以下のものを用いることである。その後に、ドープ221は、流延ダイ227に一定流量で送液される。
流延ダイ227は、支持体である回転ドラム230上に配置している。回転ドラム230は、図示しない駆動装置により無端で回転駆動する。また、回転ドラム230に温度調整装置231を接続し、その表面温度を調整することが可能となっていることが好ましい。回転ドラム230の表面温度は特に限定されるものではない。例えば、回転ドラム230上でドープをゲル状とする冷却流延法を行う際には、その表面温度を−50℃〜3℃の温度範囲に調整することが好ましい。なお、ジクロロメタンを主溶媒としたドープを流延する際には、−15℃〜3℃の温度範囲に調整することが好ましい。また、回転ドラム230の回転速度も特に限定されないが、10m/min〜200m/minの広範囲にわたって本発明の溶液製膜方法を適用することが可能である。特に、50m/min〜200m/minの範囲のいわゆる高速製膜を行うことも可能である。
流延ダイ230からドープ221を回転ドラム230上に流延してゲル膜232を形成する。ゲル膜232が自己支持性を有するものとなった後に、剥取ローラ233で支持しながらフイルム234として回転ドラム230から剥ぎ取る。フイルム234をローラ235によりテンタ式乾燥機236まで搬送する。テンタ式乾燥機236によりフイルム234の両縁を保持して搬送しながらフイルム234の乾燥を行う。なお、剥取ローラ233からテンタ式乾燥機236の入口までは通常渡り部と称される。この渡り部に設けられているローラ233,235の回転速度を調整することでフイルム234の長手方向に所望の延伸を付与することが可能となる。また、テンタ式乾燥機236は、フイルムの両縁を保持して幅方向に延伸が可能な構成となっており、テンタ式乾燥機236によりフイルム234の幅方向にも所望の延伸を付与することが可能である。
フイルム234は、多数のローラ240を備えている乾燥室241に送り込まれる。乾燥室241では、フイルム234はローラ240に巻き掛けられながら搬送され乾燥が進行する。フイルム234の残留溶媒量が所望の量まで低下した後に巻取機242により巻き取られる。流延ダイ227から流延されたドープ221から形成されるゲル膜232,フイルム234から揮発する溶媒は溶媒回収再利用ライン130により回収される。回収された溶媒は、溶媒成分調整装置173で所望の水素イオン濃度,含水率を有するものに調整された後にドープ製造ライン60に送られ、ドープ調製用の溶媒として再利用される。なお、揮発した溶媒を回収,調整,再利用の各工程については、前記方法と同様に行われるので説明は省略する。
[フイルム及びそのフイルムを用いた製品]
前述した溶液製膜方法で製膜されたフイルムは、偏光板保護膜(偏光板保護フイルム)として用いることができる。この偏光板保護膜をポリビニルアルコールなどから形成された偏光膜の両面に貼付することで偏光板を形成することができる。さらに、フイルム上に光学補償シートを貼付した光学補償フイルム、防眩層をフイルム上に積層させた反射防止膜などの光機能製膜として用いることもできる。これら製品から、液晶表示装置の一部を構成することも可能である。さらに、本発明の溶液製膜方法により得られたフイルムを写真感光材料のフイルムベース(支持体)として用いることも可能である。
また、本発明に係る溶液製膜方法により得られるフイルム102は、ドープに含有している不純物の量が極めて減少されており、フイルム中の異物の含有が抑制されている。具体的には、最大距離が20μm以上の異物がフイルム中に0.03個/m2 以下に抑制される。条件をさらに調整することで0.02個/m2 以下に抑制されるフイルムを得ることができる。本発明のドープ調製用に用いられる溶媒は、含水率(重量%)と水素イオン指数(pH)とを規定する(図13参照)ことで異物の発生原因となるドープ中の不純物を抑制できる。また、加熱装置などの加熱部の壁面の最高温度Tmax を所定の温度以下とすることで、装置を構成している素材、例えば鉄,クロムを含む不純物がドープ中に含有することが抑制される。そのため、ドープ,溶媒の温度もその最高温度Tmax 以下となるので、溶媒例えばジクロロメタンに起因する塩酸,セルローストリアセテートに起因する酢酸,添加剤例えばTPP,BDPに起因するリン酸のなどの不純物の発生がさらに抑制される。
[溶媒の水素イオン濃度測定方法]
有機溶媒または有機溶媒中に含有している水などにヒドロキソニウムイオン(H3 O+ 、以下、単にH+ で表わし、水素イオンと称する)が含まれる場合がある。水素イオンの含有の有無により、その有機溶媒を用いて調製される溶液に不純物が生じるおそれがある。しかしながら、直接、有機溶媒の水素イオン濃度を知ることができれば良いが、従来はその方法が知られていない。
そこで、本発明では、水溶性成分が溶媒よりも水に溶解し易い性質を利用して、溶媒か水に水溶性成分を抽出する方法により、溶媒特に水に難溶性の有機溶媒の水素イオン濃度を簡便に知ることが可能となる。水に難溶性の有機溶媒として具体的には、ジクロロメタン,クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素,ヘキサンなどの脂肪族炭化水素,ベンゼンなどの芳香族炭化水素などを挙げることができる。測定する有機溶媒に対して水を0.1倍以上10倍以下用いることが好ましく、より好ましくは0.5倍以上2倍以下の範囲であり、最も好ましくは等倍の水を用いることである。また、水には、蒸留水,イオン交換水などを用いる。
始めに、10mL〜1000mLの有機溶媒と前記範囲の量の水とを接触あるいは接触攪拌する。接触あるいは接触攪拌する時間は、特に限定されるものではないが、0.1分以上100分以下が好ましく、より好ましくは0.2分以上10分以下の範囲であり、最も好ましくは、0.5分以上5分以下である。0.1分以下であると、溶媒の水溶性成分が水中に完全に抽出しないおそれがある。また、100分を超えると、抽出操作中において、含有成分の変成が生じるおそれがある。また、定法に従い操作を行っている場合には、水溶性成分は溶媒から水に抽出されるため時間の無駄が生じてコスト高の原因となる。なお、抽出法は定法に従い行い、水素イオン濃度測定法は、JIS Z 8802で規定されている方法に従い行うことで、溶媒、特に水に難溶,不溶の溶媒の水素イオン濃度を知ることが可能となり、水素イオン指数(pH)を評価することができる。