JP4184579B2 - セルロースアセテートの冷却混合物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セルロースアセテート溶液の製造に利用するセルロースアセテートの冷却混合物に関する。
【0002】
【従来の技術】
セルロースアセテートフイルムは、その強靭性と難燃性から各種の写真材料や
光学材料に用いられている。セルロースアセテートフイルムは、代表的な写真感光材料の支持体である。また、セルロースアセテートフイルムは、その光学的等方性から、近年市場の拡大している液晶表示装置にも用いられている。液晶表示装置における具体的な用途としては、偏光板の保護フイルムおよびカラーフィルターが代表的である。
セルロースアセテートの酢化度や重合度(粘度と相関関係あり)は、得られる
フイルムの機械的強度や耐久性と密接な関係がある。酢化度や重合度が低下するにつれて、フイルムの弾性率、耐折強度、寸度安定性および耐湿熱性も低下する。写真用支持体や光学フイルムとして要求される品質を満足するためには、セルロースアセテートの酢化度は58%以上(好ましくは59%以上)が必要であるとされる。酢化度が58%以上のセルロースアセテートは、一般にトリアセチルセルロース(TAC)に分類される。重合度は、粘度平均重合度として270以上が好ましく、290以上がさらに好ましいと考えられている。
【0003】
セルロースアセテートフイルムは、一般にソルベントキャスト法またはメルトキャスト法により製造する。ソルベントキャスト法では、セルロースアセテートを溶媒中に溶解した溶液(ドープ)を支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。メルトキャスト法では、セルロースアセテートを加熱により溶融したものを支持体上に流延し、冷却してフイルムを形成する。ソルベントキャスト法の方が、メルトキャスト法よりも平面性の高い良好なフイルムを製造することができる。このため、実用的には、ソルベントキャスト法の方が普通に採用されている。
ソルベントキャスト法に用いる溶媒は、単にセルロースアセテートを溶解することだけでなく、様々な条件が要求される。すなわち、平面性に優れ、厚みの均一なフイルムを、経済的に効率よく製造するためには、適度な粘度とポリマー濃度を有する保存安定性に優れた溶液(ドープ)を調製する必要がある。ドープについては、ゲル化が容易であることや支持体からの剥離が容易であることも要求される。そのようなドープを調製するためは、溶媒の種類の選択が極めて重要である。溶媒については、蒸発が容易で、フイルム中の残留量が少ないことも要求される。
【0004】
セルロースアセテートの溶媒として、様々な有機溶媒が提案されているが、以上の要求を全て満足する溶媒は、実質的にはメチレンクロリドに限られていた。言い換えると、メチレンクロリド以外の溶媒は、ほとんど実用化されていない。
メチレンクロリドは、以上のような問題がない非常に優れた有機溶媒である。
しかしながら、メチレンクロリドのようなハロゲン化炭化水素は、近年、地球環境保護の観点から、その使用は著しく規制される方向にある。また、メチレンクロリドは、低沸点(41℃)であるため、製造工程において揮散しやすい。このため、作業環境においても問題である。これらの問題を防止するため、製造工程のクローズド化が行なわれているが、密閉するにしても技術的な限界がある。従って、メチレンクロリドの代替となるような、セルロースアセテートの溶媒を捜し求めることが急務となっている。
【0005】
ところで、汎用の有機溶剤であるアセトン(沸点:56℃)は、適度の沸点を有し、乾燥負荷もそれほど大きくない。また、人体や地球環境に対しても、塩素系有機溶剤に比べて問題が少ない。
しかし、アセトンは、セルロースアセテートに対する溶解性が低い。置換度2.70(酢化度58.8%)以下のセルロースアセテートに対しては、アセトンは若干の溶解性を示す。セルロースアセテートの置換度が2.70を越えると、アセトンの溶解性がさらに低下する。置換度2.80(酢化度60.1%)以上のセルロースアセテートとなると、アセトンは膨潤作用を示すのみで溶解性を示さない。
【0006】
J.M.G.Cowie他の論文、Makromol,chem.,143巻、105頁(1971年)は、置換度2.80(酢化度60.1%)から置換度2.90(酢化度61.3%)のセルロースアセテートを、アセトン中で約−83℃(約190K)に冷却した後、加温することにより、アセトン中にセルロースアセテートが0.5乃至5重量%に溶解している希薄溶液が得られたことを報告している。以下、このように、セルロースアセテートとアセトンとの混合物を冷却して、溶液を得る方法を「冷却溶解法」と称する。ただし、同論文に記載されている0.5乃至5重量%の希薄溶液は、セルロースアセテートフイルムを製造するためには不適当である。フイルムを製造するためのドープは、10乃至30重量%のセルロースアセテートの濃度が必要とされる。
【0007】
また、セルロースアセテートのアセトン中への溶解については、上出健二他の論文「三酢酸セルロースのアセトン溶液からの乾式紡糸」、繊維機械学会誌、34巻、57〜61頁(1981年)にも記載がある。この論文は、その標題のように、冷却溶解法を紡糸方法の技術分野に適用したものである。論文では、得られる繊維の力学的性質、染色性や繊維の断面形状に留意しながら、冷却溶解法を検討している。この論文に記載の方法では、セルロースアセテートとアセトンとの混合物を−70℃まで冷却してから、50℃まで加温している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者が冷却溶解法の実用化を検討したところ、冷却溶解法で必要とされる冷却温度(−70℃)が低過ぎて、実用化の障害になることが判明した。
一般に利用されている冷却設備は、中温と呼ばれる分類に属し、−40℃前後が限界とされている。それ以下の温度は、低温と呼ばれる分類に属し、特殊な装置を必要とする。そのため、冷却温度が低いと、設備の費用や製造に必要な費用(特に冷却に要するエネルギー)が大幅に上昇する。さらに、−50℃以下は超低温と呼ばれる分類に属し、さらに大きな費用がかかる。そのため、従来技術の冷却溶解法で実施されている冷却温度(−70℃)では、実用化が非常に困難である。
本発明者が、冷却溶解法について研究を進めたところ、−70℃のような超低温でなくても、中温と呼ばれる温度範囲で冷却溶解法の実施が可能であることが判明した。もちろん、非常に高い温度では、冷却溶解法の効果が得られず、溶液を製造することができない。また、かなり高い温度で溶液を製造するためには、冷却時間を延長したり、溶液濃度を低下させるような処理や対策が必要になる。本発明者が、さらに研究を進めたところ、比較的簡単に実施可能な冷却温度は、セルロースアセテートの平均酢化度に応じて変化することが判明した。
本発明の目的は、冷却溶解法が比較的簡単な処理で実施可能な範囲で高めの温度に冷却したセルロースアセテートの冷却混合物を提供することすることである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、58.25乃至62.5%の平均酢化度を有するセルロースアセテートと有機溶媒からなる混合物であって、混合物中に10乃至40重量%のセルロースアセテートが含まれ、−40℃以上かつ下記式(1a)または(1b)で定義する温度(T)において、有機溶媒が炭素原子数が3乃至12のエーテル類、炭素原子数が3乃至12のケトン類および炭素原子数が3乃至12のエステル類から選ばれ、ハロゲン化炭化水素を実質的に含まない溶媒であり、セルロースアセテートが有機溶媒中に溶解せずに膨潤していることを特徴とするセルロースアセテートの冷却混合物を提供する。
【0010】
(1a)セルロースアセテートの平均酢化度(Dac)が58.25%以上、60.0%未満である場合
−16×Dac+919≦T(℃)≦−16×Dac+929
(1b)セルロースアセテートの平均酢化度(Dac)が60.0%以上、62.5%以下である場合
−40≦T(℃)≦−Dac+29
【0011】
【発明の実施の形態】
[セルロースアセテート]
本発明に用いるセルロースアセテートは、平均酢化度(アセチル化度)が58.0から62.5%である。酢化度とは、セルロース単位重量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
このセルロースアセテートの酢化度の範囲は、写真用支持体や光学フイルムとして要求される品質を満足するために必要とされる値である。
【0012】
セルロースアセテートは、綿花リンターまたは木材パルプから合成することができる。綿花リンターと木材パルプを混合して用いてもよい。一般に木材パルプから合成する方が、コストが低く経済的である。ただし、綿花リンターを混合することにより、剥ぎ取り時の負荷を軽減できる。また、綿花リンターを混合すると、短時間に製膜しても、フイルムの面状があまり悪化しない。
セルロースアセテートは、一般に、酢酸−無水酢酸−硫酸でセルロースを酢化して合成する。工業的には、メチレンクロリドを溶媒とするメチクロ法あるいはセルロースアセテートの非溶媒(例、ベンゼン、トルエン)を添加して繊維状で酢化する繊維状酢化法が用いられる。
【0013】
セルロースアセテートの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。重合度が250未満のセルロースアセテートでは、得られるフイルムの強度が悪化する。粘度平均重合度は、オストワルド粘度計にて測定したセルロースアセテートの固有粘度[η]から、下記の式により求める。
(1)
DP=[η]/Km
式中、[η]は、セルロースアセテートの固有粘度であり、Kmは、定数6×10-4である。
【0014】
粘度平均重合度(DP)が290以上である場合、粘度平均重合度と落球式粘度法による濃厚溶液粘度(η)とが下記式(2)の関係を満足することが好ましい。
(2)
2.814×ln(DP)−11.753≦ln(η)≦6.29×ln(DP)−31.469
式中、DPは290以上の粘度平均重合度の値であり、ηは落球式粘度法における標線間の通過時間(秒)である。
上記式(2)は、本発明者が行なった実験のデータから、粘度平均重合度と濃厚溶液粘度をプロットし、その結果から算出したものである。粘度平均重合度が290以上のセルロースアセテートにおいては、一般に重合度が高くなると濃厚溶液の粘度が指数的に増加する。これに対して、上記式を満足するセルロースアセテートでは、粘度平均重合度に対する濃厚溶液粘度の増加が直線的である。言い換えると、高い粘度平均重合度を有するセルロースアセテートの場合は、上記式(1)を満足するように濃厚溶液粘度の増加を抑制することが好ましい。
【0015】
また、本発明に使用するセルロースアセテートは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0乃至1.7であることが好ましく、1.3乃至1.65であることがさらに好ましく、1.4乃至1.6であることが最も好ましい。Mw/Mnの値が1.7を越えると、ドープ粘度が大きくなり過ぎて、フイルムの平面性が低下する場合がある。なお、Mw/Mnの値が1.0乃至1.4の値のセルロースアセテートは、一般に製造が困難である。この範囲の値のセルロースアセテートを得ようとしても、実際には分子量が著しく低いものしか得られない。従って、そのようなセルロースアセテートから製造したフイルムは、分子量の低下によりフイルムの機械物性も低下する場合が多い。
【0016】
セルロースアセテートの結晶化発熱量は、小さい値であることが好ましい。結晶化は発熱量が小さいことは、結晶化度が小さいことを意味する。具体的な結晶化発熱量(ΔHc)は、5乃至17J/gであることが好ましく、6乃至16J/gであることがさらに好ましく、10乃至16J/gであることが最も好ましい。結晶化発熱量が17J/gを越えると、フイルム中に多くの微結晶成分が存在することになる。微結晶があると、溶媒であるアセトンへの溶解性が低下する。また、得られた溶液(ドープ)の安定性も低く、再び微結晶が生じやすい。さらに、得られるフイルムの加工適性や光学特性も低下する。一方、結晶化発熱量が5J/g未満であると、得られるフイルムの機械的強度が低下する。また、結晶化発熱量が低いと、ドープのゲル化に時間を要するとの問題もある。
【0017】
低分子成分が少ないセルロースアセテートは、以上述べたような粘度平均重合度(DP)と濃厚溶液粘度(η)の関係、Mw/Mnの分子量分布あるいは結晶化発熱量の範囲を、容易に満足することができる。
低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアセテートよりも低くなる。従って、前記のDPとηの関係を満足することができる。また、低分子成分が除去されると、分子量の分布も均一になる。さらに、低分子成分は結晶化しやすいため、これを除去することにより、結晶化発熱量を低下させることができる。
低分子成分の少ないセルロースアセテートは、通常の方法で合成した(例えば、市販の)セルロースアセテートから低分子成分を除去することにより得ることができる。
【0018】
低分子成分の除去は、セルロースアセテートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。有機溶媒の例としては、ケトン類(例、アセトン)、酢酸エステル類(例、メチルアセテート)およびセロソルブ類(例、メチルセロソルブ)が含まれる。ケトン類、特にアセトンを用いることが好ましい。
通常の方法により得られるセルロースアセテートを有機溶媒で一回洗浄すると、原料重量に対して10乃至15重量%程度の低分子セルロースアセテートが洗浄液中に除去される。洗浄後のセルロースアセテートに2回目の洗浄を実施すると、洗浄液中に除去される低分子セルロースアセテートは、一般に10重量%以下になる。アセトン抽出分が10重量%以下であれば、低分子成分が充分に少ないセルロースアセテートである。従って、通常は、一回の洗浄で低分子成分が充分に少ないセルロースアセテートが得られる。アセトン抽出分は、5重量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
低分子成分の除去の効率を高めるために、洗浄前に、セルロースアセテートの粒子を粉砕あるいは篩にかけることで、粒子サイズを調節することが好ましい。具体的には、20メッシュを通過する粒子が70%以上となるように調節することが好ましい。
洗浄方法としては、ソックスレー抽出法のような溶剤循環方式を採用することができる。また、通常の攪拌槽にて溶媒と共に攪拌し、溶媒と分離することにより洗浄を実施することもできる。なお、一回目の洗浄では、10乃至15%程度の低分子成分が溶媒中に溶解するため、液が粘稠になりやすい。このため、処理の操作を考慮し、溶媒に対するセルロースアセテートの割合は、10重量%以下のすることが好ましい。
【0020】
低分子成分の少ないセルロースアセテートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100重量部に対して10乃至15重量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲(比較的多量)にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアセテートを合成することができる。
【0021】
[有機溶媒]
本発明では、セルロースアセテート溶液の調製に有機溶媒を使用する。この有機溶媒は、メチレンクロリドのようなハロゲン化炭化水素を実質的に含まないことが好ましい。「実質的に含まない」とは、有機溶媒中のハロゲン化炭化水素の割合が5重量%未満(好ましくは2重量%未満)であることを意味する。
好ましい有機溶媒は、炭素原子数が3乃至12のエーテル類、炭素原子数が3乃至12のケトン類および炭素原子数が3乃至12のエステル類から選ばれる。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0022】
炭素原子数が3乃至12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3乃至12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
【0023】
エーテル、ケトンおよびエステルに加えて、他の有機溶媒を併用してもよい。併用できる有機溶媒の例には、ニトロメタンおよび炭素原子数が1乃至6のアルコール類(例、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール)が含まれる。
エーテル、ケトンおよびエステルと他の有機溶媒を併用する場合、混合溶媒中のエーテル、ケトンおよびエステルの割合は、10乃至99.5重量%であることが好ましく、20乃至99重量%であることがより好ましく、40乃至98.5重量%であることがさらに好ましく、60乃至98重量%であることが最も好ましい。
【0024】
[ドープ形成(冷却溶解法)]
本発明では冷却溶解法により、有機溶媒中にセルロースアセテートを溶解して、溶液(ドープ)を形成する。
ドープ形成においては、最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアセテートを攪拌しながら徐々に添加する。この段階では、セルロースアセテートは、有機溶媒中で膨潤するが、溶解していない。セルロースアセテートの量は、この混合物中に10乃至40重量%含まれるように調整する。セルロースアセテートの量は、10乃至30重量%であることがさらに好ましい。有機溶媒中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合物を−40℃以上、かつ下記式(1a)または(1b)で定義する温度(T)まで冷却して、冷却混合物を得る。
(1a)セルロースアセテートの平均酢化度(Dac)が58.25%以上、60.0%未満である場合
−16×Dac+919≦T(℃)≦−16×Dac+929
(1b)セルロースアセテートの平均酢化度(Dac)が60.0%以上、62.5%以下である場合
−40≦T(℃)≦−Dac+29
上記の温度範囲を図1に示した。図1は、縦軸を冷却温度(T)、横軸をセルロースアセテートの平均酢化度(Dac)とする冷却温度の範囲を示すグラフである。図1に示されるように、従来技術よりも高めの冷却温度(最低でも−40℃)でも、比較的簡単な処理で冷却溶解法の実施が可能である。図1のグラフには、後述する実施例の値も1〜5として示した。
【0025】
さらに、これを5乃至50℃に加温すると、有機溶媒中にセルロースアセテートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。このようにして、均一な溶液状態であるドープが得られる。なお、溶解が不充分である場合は、冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視によりドープの外観を観察するだけで判断することができる。
冷却溶解方法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時の減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
得られたドープの安定性は、フイルム製造における重要な条件である。ドープの移送時に、配管中で未溶解物が発生したり、製造装置の保守管理のための停止期間中に凝固が起きることは避けねばならない。ドープの経時安定性は、前述したセルロースアセテートの性質に加えて、保存温度やドープ濃度も関連する。
【0026】
[流延、乾燥]
ドープは、支持体上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成することができる。流延前のドープは、固形分量が18乃至35%となるように濃度を調整することが好ましい。支持体表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。支持体としては、ドラムまたはバンドが用いられる。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号各公報に記載がある。
【0027】
ドープは、表面温度が10℃以下の支持体上に流延することが好ましい。流延した2秒上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムを支持体から剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時の支持体表面温度においてドープがゲル化することが必要である。本発明に従い製造したドープは、この条件を満足する。
製造するフイルムの厚さは、5乃至500μmであることが好ましく、20乃
至200μmであることがさらに好ましく、60乃至120μmであることが最も好ましい。
【0028】
[その他の添加剤]
セルロースアセテートフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート、(DOP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、クエン酸アセチルトリエチル(OACTE)およびクエン酸アセチルトリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPが特に好ましい。
【0029】
【実施例】
各実施例において、セルロースアセテートおよびドープの化学的性質および物理的性質は、以下のように測定および算出した。
【0030】
(1)セルロースアセテートの酢化度(%)
酸化度はケン化法により測定した。乾燥したセルロースアセテートを精秤し、アセトンとジメチルスルホキシドとの混合溶媒(容量比4:1)に溶解した後、所定量の1N−水酸化ナトリウム水溶液を添加し、25℃で2時間ケン化した。フェノールフタレインを指示薬として添加し、1N−硫酸(濃度ファクター:F)で過剰の水酸化ナトリウムを滴定した。また、上記と同様の方法により、ブランクテストを行った。そして、下記式に従って酢化度(%)を算出した。
酢化度(%)=(6.005×(B−A)×F)/W
式中、Aは試料の滴定に要した1N−硫酸量(ml)、Bはブランクテストに要した1N−硫酸量(ml)、Fは1N−硫酸のファクター、Wは試料重量を示す。
【0031】
(2)セルロースアセテートの平均分子量および分子量分布
ゲル濾過カラムに、屈折率、光散乱を検出する検出器を接続した高速液体クロマトグラフィーシステム(GPC−LALLS)を用い測定した。測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロリド
カラム: GMH×1(東ソー(株)製)
試料濃度: 0.1W/v%
流量: 1ml/min
試料注入量:300μl
標準試料: ポリメタクリル酸メチル(Mw=188,200)
温度: 23℃
【0032】
(3)セルロースアセテートの粘度平均重合度(DP)
絶乾したセルロースアセテート約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(重量比)の混合溶媒100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
【0033】
(4)セルロースアセテートの濃厚溶液粘度(η)
セルロースアセテートを15重量%となるように、メチレンクロリド:メタノール=8:2(重量比)の混合溶媒に溶解し、溶液を内径2.6cmの粘度管に注入し、25℃に調温後、溶液中に直径3.15mm、0.135gの剛球を落下させて、間隔10cmの標線管を通過する時間(秒)を粘度とした。
【0034】
(5)セルロースアセテートの結晶化発熱量(ΔHc)
セルロースアセテートを、メチレンクロリド:エタノール=9:1(重量比)の混合溶媒に溶解して、セルロースアセテート15重量%のドープを調製した。ドープを不織布を用いて加圧濾過し、平滑なガラス板上にバーコーターを用いて流延した。一日風乾後、ガラス板から剥離して80℃で4時間真空乾燥した。得られたフイルム試料10mgを標準アルミパンに詰め、熱補償型示差走査熱量計(DSC)の試料台に載せた。溶融温度で短時間保持して、試料を溶融させた後、降温速度4℃/minで室温まで冷却して結晶化させた。
このようにして得られたDSC曲線の発熱ピーク面積から結晶化発熱量(ΔHc)を求めた。DSC測定は窒素雰囲気下で行ない、温度較正は、In(融点:156.60℃)、Sn(融点:231.88℃)の二点較正で、熱量較正は、In(融解熱量:28.45J/g)の一点較正で、それぞれ行なった。また、結晶化温度の解析法は、JIS−K−7121(1987)の規定に、結晶化発熱量の解析法は、JIS−K−7122(1987)の規定に、それぞれ準拠した。
【0035】
(6)セルロースアセテートのアセトン抽出分(%)
セルロースアセテートの重量(A)を測定した後、10倍重量のアセトン中、室温で30分間攪拌した後、フィルターにて加圧濾過した。得られた濾液を乾燥し、固形分重量(B)を計量した。アセトン抽出分は、下記式により計算した。
アセトン抽出分=(B÷A)×100
【0036】
(7)ドープの粘度測定とゲル化の有無の判定
粘度計(HAAKE社製)により、下記アンドレードの式における係数Aの変化点を求めた。変化点と到達粘度からゲル化を判断した。
ローター:sv−DIN
剪断速度:0.1(1/sec)
降温速度:0.5℃/min
η=Aexp(B/T)
式中、Tは測定温度、AおよびBは、それぞれポリマーの状態により決まる任意の定数である。
ゲル化の有無は、係数Aの変化点の有無(粘度と温度のグラフが屈曲点を有するか否か)で判断できる。
【0037】
[実施例1]
室温において、平均酢化度:60.2、粘度平均重合度:323のセルロースアセテート30重量部およびアセトン170重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。室温では、セルロースアセテートは溶解せずに溶媒中で膨潤した。得られた膨潤混合物は、スラリーを形成していた。
次に、膨潤混合物を二重構造の容器に入れた。混合物をゆっくり攪拌しながら外側のジャケットに冷媒として塩化カルシウム飽和水溶液(−35℃)を流し込んだ。これにより内側容器内の混合物を20分間かけて−35℃まで冷却し、さらに40分間その温度を保持した。
【0038】
容器の外側のジャケット内の冷媒を除去し、代わりに温水をジャケットに流し込んだ。内容物のゾル化がある程度進んだ段階で、内容物の攪拌を開始した。このようにして、30分間かけて室温まで加温した。
さらに、以上の冷却および加温の操作をもう一回繰り返した。
得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て溶媒中に溶解しており、均一なドープが得られた。
ドープを(7)の測定方法で、ゲル化の有無の判定したところ、低温でのゲル化が認められた。
【0039】
ドープを、有効長6mのバンド流延機を用いて、乾燥膜厚が100μmになるように流延した。バンド温度は0℃とした。乾燥のため、2秒風に当てた後、フイルムをバンドから剥ぎ取り、さらに100℃で3分、130℃で5分、そして160℃で5分、フイルムの端部を固定しながら段階的に乾燥して、残りの溶剤を蒸発させた。このようにして、セルロースアセテートフイルムを製造した。
【0040】
[実施例2]
室温において、平均酢化度:59.5、粘度平均重合度:295のセルロースアセテート30重量部およびアセトン170重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。室温では、セルロースアセテートは溶解せずに溶媒中で膨潤した。得られた膨潤混合物は、スラリーを形成していた。
冷却温度を−25℃に変更した以外は、膨潤混合物を実施例1と同様に処理して、ドープを形成した。
膨潤混合物を実施例1と同様に処理して、ドープを形成した。
得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て溶媒中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0041】
[実施例3]
室温において、平均酢化度:60.9、粘度平均重合度:299のセルロースアセテート30重量部およびアセトン170重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。室温では、セルロースアセテートは溶解せずに溶媒中で膨潤した。得られた膨潤混合物は、スラリーを形成していた。
冷却温度を−40℃に変更した以外は、膨潤混合物を実施例1と同様に処理して、ドープを形成した。
得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て溶媒中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0042】
[比較例1]
室温(20℃)において、平均酢化度:60.2、粘度平均重合度:323のセルロースアセテート30重量部およびアセトン170重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。膨潤混合物を実施例1で用いた二重容器に投入した。混合物をゆっくり攪拌しながら、外側のジャケットに室温(20℃)の水を流し込んだ。このようにして混合物を室温で30分間攪拌を続けた。膨潤混合物は依然として、溶解せずにスラリーを形成していた。30分間の攪拌操作をさらに3回繰り返したが、膨潤混合物は依然として、溶解せずにスラリーを形成していた。
【0043】
[比較例2]
室温(20℃)において、平均酢化度:59.5、粘度平均重合度:295のセルロースアセテート30重量部およびアセトン170重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。膨潤混合物を比較例1と同様に処理して、室温において溶液の作成を試みた。しかし、セルロースアセテートは、溶媒中に溶解せずに膨潤するだけであった。
【0044】
[比較例3]
室温(20℃)において、平均酢化度:60.9、粘度平均重合度:299のセルロースアセテート30重量部およびアセトン170重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。膨潤混合物を比較例1と同様に処理して、室温において溶液の作成を試みた。しかし、セルロースアセテートは、溶媒中に溶解せずに膨潤するだけであった。
【0045】
[比較例4]
平均酢化度:57.0、粘度平均重合度:280のセルロースアセテートを用いた以外は、比較例1と同様にして、室温において溶液の作成を試みたところ、セルロースアセテートをアセトン中に溶解することができた。ドープを(7)の測定方法で、ゲル化の有無の判定したところ、低温でのゲル化は認められなかった。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、セルロースアセテートフイルムを製造したところ、低温でのゲル化がないため、フイルムの乾燥がほぼ終了するまでフイルムを支持体から剥離することができなかった。また、乾燥工程の間、フイルムが支持体上に置かれているため、厚み方向にのみ収縮が生じ、平面方向に延伸したフイルムが得られた。このフイルムは、破断しやすく、物性強度が不充分であった。
【0046】
[実施例4]
室温において、平均酢化度:60.2、粘度平均重合度:323のセルロースアセテート30重量部、アセトン165時量部およびジエチルフタレート(DEP、可塑剤)5重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。室温では、セルロースアセテートは溶解せずに溶媒中で膨潤した。得られた膨潤混合物は、スラリーを形成していた。
膨潤混合物を実施例1と同様に処理して、ドープを形成した。
得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て溶媒中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0047】
[実施例5]
室温において、平均酢化度:60.9、粘度平均重合度:299のセルロースアセテート30重量部、アセトン150重量部および酢酸メチル30重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、14.3重量%である。室温では、セルロースアセテートは溶解せずに溶媒中で膨潤した。得られた膨潤混合物は、スラリーを形成していた。
膨潤混合物を実施例1と同様に処理して、ドープを形成した。
得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て溶媒中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0048】
[実施例6]
室温において、平均酢化度:60.2、粘度平均重合度:323のセルロースアセテート30重量部、アセトン160重量部およびシクロヘキサノン20重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、14.3重量%である。室温では、セルロースアセテートは溶解せずに溶媒中で膨潤した。得られた膨潤混合物は、スラリーを形成していた。
冷却温度を−40℃に変更した以外は、膨潤混合物を実施例1と同様に処理して、ドープを形成した。
得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て溶媒中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0049】
[実施例7]
室温において、平均酢化度:60.2、粘度平均重合度:313のセルロースアセテート100重量部、アセトン470重量部および酢酸メチル85重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15.3重量%である。室温では、セルロースアセテートは溶解せずに溶媒中で膨潤した。得られた膨潤混合物は、スラリーを形成していた。
膨潤混合物を実施例1と同様に処理して、ドープを形成した。
得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て溶媒中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0050】
[実施例8]
室温において、平均酢化度:60.2、粘度平均重合度:323のセルロースアセテート30重量部および酢酸メチル170重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。室温では、セルロースアセテートは溶解せずに溶媒中で膨潤した。得られた膨潤混合物は、スラリーを形成していた。
冷却温度を−40℃に変更した以外は、膨潤混合物を実施例1と同様に処理して、ドープを形成した。
得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て溶媒中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0051】
[実施例9]
室温において、平均酢化度60.9%、粘度平均重合度299のセルロースアセテート30重量部および1,3−ジオキソラン170重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。
混合物を室温で4時間攪拌したところ、セルロースアセテートは全て1,3−ジオキソラン中に溶解した。
混合後30分間では、セルロースアセテートの一部が溶解するものの、大半は膨潤しているのみであった。これを、実施例1と同様に冷却溶解法により処理してドープを形成した。得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て1,3−ジオキソラン中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
冷却溶解法を用いると、室温で攪拌を継続する場合よりも短時間(2時間)で、セルロースアセテートを全て溶解することできた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0052】
[実施例10]
室温において、平均酢化度60.9%、粘度平均重合度299のセルロースアセテート30重量部および1,4−ジオキサン170重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15重量%である。
混合物を室温で5時間攪拌したところ、セルロースアセテートは全て1,4−ジオキサン中に溶解した。
混合後30分間では、セルロースアセテートの一部が溶解するものの、大半は膨潤しているのみであった。これを、実施例1と同様に冷却溶解法により処理してドープを形成した。得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て1,4−ジオキサン中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
冷却溶解法を用いると、室温で攪拌を継続する場合よりも短時間(21時間)で、セルロースアセテートを全て溶解することできた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0053】
[実施例11]
実施例3で用いたセルロースアセテート(平均酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を、10倍量のアセトン中、室温で30分間攪拌し、脱液および乾燥させた。
得られた(低分子成分を除去した)セルロースアセテート(平均酢化度:60.9%、粘度平均重合度:322)を用いた以外は、実施例3と同様にして、冷却溶解法によりドープを形成した。さらに、得られたドープを用いて実施例1と同様にして、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0054】
[実施例12]
セルロース100重量部を、硫酸11.7重量部、無水酢酸260重量部および酢酸450重量部を用いて、通常の方法によりエステル化および加水分解を行ない、平均酢化度:60.2%、粘度平均重合度:313のセルロースアセテートを合成した。
得られた(低分子成分の少ない)セルロースアセテートを用いた以外は、実施例3と同様にして、冷却溶解法によりドープを形成した。さらに、得られたドープを用いて実施例1と同様にして、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0055】
[実施例13]
室温において、平均酢化度:59.5、粘度平均重合度:295のセルロースアセテート18重量部、酢酸メチル87重量部およびエタノール13重量部を混合した。混合物中のセルロースアセテートの割合は、15.3重量%である。室温では、セルロースアセテートは溶解せずに溶媒中で膨潤した。得られた膨潤混合物は、スラリーを形成していた。
冷却温度を−25℃に変更した以外は、膨潤混合物を実施例1と同様に処理して、ドープを形成した。
得られたドープを目視により観察したところ、セルロースアセテートが全て溶媒中に溶解しており、均一なドープが得られた。また、低温でのゲル化も認められた。
ドープを実施例1と同様に流延、乾燥し、厚さが100μmのセルロースアセテートフイルムを製造した。
【0056】
以上の各実施例の結果を下記第1表にまとめて示す。
【0057】
【表1】
【0058】
(註)MA: 酢酸メチル
オキソラン:1,3−ジオキソラン
オキサン: 1,4−ジオキサン
実施例4: ジエチルフタレート5重量部添加
実施例11:低分子成分を除去したセルロースアセテート
実施例12:低分子成分の少ないセルロースアセテート
【0059】
以上の各実施例における平均酢化度と冷却温度との関係を図1にプロットした。図1の1〜5の点は以下の実施例に相当する。
1(平均酢化度:59.5%、冷却温度−25℃):実施例2、13
2(平均酢化度:60.2%、冷却温度−35℃):実施例1、4、7
3(平均酢化度:60.2%、冷却温度−40℃):実施例6、8、12
4(平均酢化度:60.9%、冷却温度−35℃):実施例5、9、10
5(平均酢化度:60.9%、冷却温度−40℃):実施例3、11
【0060】
【発明の効果】
本発明に従うと、比較的高い冷却温度の冷却混合物であっても、加熱するだけで冷却溶解法によりセルロースエステル溶液を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】縦軸を冷却温度、横軸をセルロースアセテートの平均酢化度とする冷却温度の範囲を示すグラフである。
【符号の説明】
1 実施例2、13
2 実施例1、4、7
3 実施例6、8、12
4 実施例5、9、10
4 実施例3、11
Claims (10)
- 58.25乃至62.5%の平均酢化度を有するセルロースアセテートと有機溶媒からなる混合物であって、混合物中に10乃至40重量%のセルロースアセテートが含まれ、−40℃以上かつ下記式(1a)または(1b)で定義する温度(T)において、有機溶媒が炭素原子数が3乃至12のエーテル類、炭素原子数が3乃至12のケトン類および炭素原子数が3乃至12のエステル類から選ばれ、ハロゲン化炭化水素を実質的に含まない溶媒であり、セルロースアセテートが有機溶媒中に溶解せずに膨潤していることを特徴とするセルロースアセテートの冷却混合物。
(1a)セルロースアセテートの平均酢化度(Dac)が58.25%以上、60.0%未満である場合
−16×Dac+919≦T(℃)≦−16×Dac+929
(1b)セルロースアセテートの平均酢化度(Dac)が60.0%以上、62.5%以下である場合
−40≦T(℃)≦−Dac+29 - セルロースアセテートが、250乃至400の粘度平均重合度を有する請求項1に記載の冷却混合物。
- セルロースアセテートが、290乃至400の粘度平均重合度を有する請求項1に記載の冷却混合物。
- セルロースアセテートが、下記式(2)の関係を満足する粘度平均重合度(DP)と落球式粘度法による濃厚溶液粘度(η)とを有する請求項3に記載の冷却混合物。
(2)
2.814×ln(DP)−11.753≦ln(η)≦6.29×ln(DP)−31.469
式中、DPは290以上の粘度平均重合度の値であり、ηは落球式粘度法における標線間の通過時間(秒)である。 - セルロースアセテートが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が、1.0乃至1.7である請求項1に記載の冷却混合物。
- セルロースアセテートが、5乃至17J/gの結晶化発熱量(ΔHc)を有する請求項1に記載の冷却混合物。
- セルロースアセテートが、アセトン抽出分10重量%以下であるような低分子成分が少ないセルロースアセテートである請求項1に記載の冷却混合物。
- 有機溶媒が、上記エーテル類、上記ケトン類または上記エステル類に加えて、炭素原子数が1乃至6のアルコール類を含む請求項1に記載の冷却混合物。
- 有機溶媒が、上記エーテル類、上記ケトン類または上記エステル類と他の有機溶媒との混合物であり、混合物中の上記エーテル類、上記ケトン類および上記エステル類の割合が10乃至99.5重量%である請求項1に記載の冷却混合物。
- 混合物中に10乃至30重量%のセルロースアセテートが含まれる請求項1に記載の冷却混合物。
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