以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る制御回路を誘導加熱装置のインバータ装置に用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
図1は、第1実施形態に係る誘導加熱装置Aの全体構成を説明するための図である。
誘導加熱装置Aは、直流電源1、インバータ装置、コイル5、および、共振コンデンサ6を備えている。誘導加熱装置Aは、電磁誘導を利用して加熱対象物Bを加熱するものである。
直流電源1は、直流電流を出力するものであり、例えば、電力系統から入力される交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。なお、直流電源1は、交流電流を直流電流に変換して出力するものに限られず、例えば、燃料電池、蓄電池、太陽電池などの直流電流を出力するものであってもよい。
インバータ装置は、直流電源1から入力される直流電流を高周波電流に変換して、コイル5に出力するものである。インバータ装置は、インバータ回路2と制御回路7とを備えており、以下では「インバータ装置8」と記載する。インバータ装置8の詳細については、後述する。
コイル5は、磁界を発生させるためのものであり、導体線を螺線状に巻いたものである。本実施形態では、誘導加熱装置Aを加熱調理用のものとして、コイル5の上部に鍋などを配置するので、コイル5を平面的に螺線状に巻いた渦巻形状としているが、これに限られない。コイル5の形状は、加熱対象物Bの形状や配置の状態に応じたものとすればよい。例えば、コイル5を円筒形状に巻いたいわゆるコイル形状として、その中央に加熱対象物Bを配置するようにしてもよい。コイル5は、インバータ装置8から入力される高周波電流が流れることで磁界を変化させる。そして、この磁界に配置された例えば鍋などの加熱対象物Bに、渦電流が発生する。加熱対象物Bには、渦電流が流れることで電気抵抗によるジュール熱が発生し、自己発熱によって加熱対象物Bは加熱される。
共振コンデンサ6は、コイル5によるインピーダンスを打ち消すためのものであり、コイル5に直列接続されることで直列共振回路を構成している。
コイル5と加熱対象物Bとは磁気結合しているので、コイル5、共振コンデンサ6および加熱対象物Bをまとめて、インバータ装置8に接続された負荷と考えることができる。つまり、誘導加熱装置Aは、直流電源1が出力する直流電流をインバータ装置8が交流電流に変換して、負荷に供給するものである。インバータ装置8は、負荷に供給する電力を制御することができる。本実施形態では、インバータ装置8は、フェーズシフト制御により出力電力を制御する。
インバータ装置8は、単相フルブリッジ型のインバータ回路2と制御回路7とを備えている。インバータ回路2は、4個のスイッチング素子2a〜2d、フライホイールダイオード3a〜3d、および、スナバコンデンサ4a〜4dを備えている。本実施形態では、スイッチング素子2a〜2dとしてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用している。なお、スイッチング素子2a〜2dはMOSFETに限定されず、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)などであってもよい。また、フライホイールダイオード3a〜3dおよびスナバコンデンサ4a〜4dの種類も限定されない。
スイッチング素子2aと2bとは、スイッチング素子2aのソース端子とスイッチング素子2bのドレイン端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子2aのドレイン端子は直流電源1の正極側に接続され、スイッチング素子2bのソース端子は直流電源1の負極側に接続されて、ブリッジ構造を形成している。同様に、スイッチング素子2cと2dとが直列接続されてブリッジ構造を形成している。スイッチング素子2aと2bで形成されているブリッジ構造を第1アームとし、スイッチング素子2cと2dで形成されているブリッジ構造を第2アームとする。第1アームのスイッチング素子2aと2bとの接続点には出力ラインが接続され、第2アームのスイッチング素子2cと2dとの接続点にも出力ラインが接続されている。これら2つの出力ラインの間に、コイル5と共振コンデンサ6とが直列接続されている。各スイッチング素子2a〜2dのゲート端子には、制御回路7から出力される駆動信号Pa’〜Pd’(後述)が入力される。
各スイッチング素子2a〜2dは、それぞれ駆動信号Pa’〜Pd’に基づいて、オン状態とオフ状態とを切り替えられる。各アームの両端はそれぞれ直流電源1の正極と負極とに接続されているので、正極側のスイッチング素子がオン状態で負極側のスイッチング素子がオフ状態の場合、当該アームの出力ラインの電位は直流電源1の正極側の電位となる。一方、正極側のスイッチング素子がオフ状態で負極側のスイッチング素子がオン状態の場合、当該アームの出力ラインの電位は直流電源1の負極側の電位となる。これにより、直流電源1の正極側の電位と負極側の電位とが切り替えられたパルス状の電圧信号が各出力ラインから出力され、2つの出力ライン間の電圧である線間電圧が交流電圧となる。
フライホイールダイオード3a〜3dは、スイッチング素子2a〜2dのドレイン端子とソース端子との間に、それぞれ逆並列に接続されている。すなわち、フライホイールダイオード3a〜3dのアノード端子はそれぞれスイッチング素子2a〜2dのソース端子に接続され、フライホイールダイオード3a〜3dのカソード端子はそれぞれスイッチング素子2a〜2dのドレイン端子に接続されている。フライホイールダイオード3a〜3dは、それぞれスイッチング素子2a〜2dの切り替えによって発生する逆起電力による逆方向の高い電圧がスイッチング素子2a〜2dに印加されないようにするためのものである。
スナバコンデンサ4a〜4dは、スイッチング素子2a〜2dのドレイン端子とソース端子との間に、それぞれ接続されている。スナバコンデンサ4a〜4dは、スイッチング素子2a〜2dの切り替えによってドレイン端子とソース端子との間に印加されるサージ電圧を吸収するものである。なお、スナバコンデンサ4a〜4dにそれぞれ抵抗を直列接続してスナバ回路としてもよい。
なお、フライホイールダイオード3a〜3dおよびスナバコンデンサ4a〜4dは、いずれか一方のみを備えるようにしてもよいし、いずれも備えないようにしてもよい。
制御回路7は、インバータ回路2の制御を行うものであり、直流電源1に入力される交流電力が目標電力になるように制御することで、インバータ回路2の出力電力を制御する。制御回路7は、フェーズシフト制御によってインバータ回路2の制御を行う。すなわち、一方のアームのスイッチング素子(例えば2c(2d))に出力する駆動信号の位相を他方のアームのスイッチング素子(例えば、2a(2b))に出力する駆動信号の位相より遅らせるが、この位相差を変化させることで、出力電力の制御を行う。
図2は、フェーズシフト制御を行うインバータ装置の駆動信号の波形を示す図であり、位相差の変化により出力電力が変化することを説明するための図である。
同図においては、駆動信号の周波数を25kHzに固定して、2つの駆動信号の位相差θを変化させており、同図(a)は同図(b)より位相差θが大きい場合であり、同図(c)は同図(b)より位相差θが小さい場合である。
各図2(a)、(b)、(c)において、一番上は第1アームのスイッチング素子2aに入力される駆動信号Pa’の波形を示し、その下は第2アームのスイッチング素子2cに入力される駆動信号Pc’の波形を示し、その下はコイル5に流れる電流の電流信号Iを示し、一番下は負荷に印加される電圧の電圧信号Vを示している。
図2に示すように、位相差θを小さくすると、負荷に電圧が印加される時間が短くなり(電圧信号V参照)、電流信号Iの振幅が小さくなって、インバータ回路2の出力電力が小さくなる。逆に、位相差θを大きくすると、負荷に電圧が印加される時間が長くなり、電流信号Iの振幅が大きくなって、インバータ回路2の出力電力が大きくなる。位相差θは、0からπまで変化可能であり、位相差θ=πのとき出力電力が最大になり、位相差θ=0のとき出力電力が最小になる。
また、制御回路7は、位相を遅らせる側のアーム(追従アーム)を切り替える機能を有する。すなわち、第2アームのスイッチング素子2c(2d)に出力する駆動信号の位相を第1アームのスイッチング素子2a(2b)に出力する駆動信号の位相より遅らせる状態(第2アームが追従アームで第1アームが先行アームである状態)と、第1アームのスイッチング素子2a(2b)に出力する駆動信号の位相を第2アームのスイッチング素子2c(2d)に出力する駆動信号の位相より遅らせる状態(第1アームが追従アームで第2アームが先行アームである状態)とを切り替える。先行アーム側(位相が進んでいる側)のスイッチング素子に電流が流れる時間は、追従アーム側(位相が遅れている側)のスイッチング素子に電流が流れる時間より長くなり、先行アーム側のスイッチング素子の方がより発熱して、スイッチング素子の熱損失に大きな差が生じる。本実施形態では、先行アームと追従アームとを交互に切り替えることで、各スイッチング素子に電流が流れる時間を平準化し、熱損失の差を小さくしている。
さらに、制御回路7は、先行アームと追従アームとを切り替える前に、すべての駆動信号をローレベルにする全停止期間を設ける。全停止期間を設けるのは、各駆動信号のデューティ比(ハイレベル期間をパルス周期で割ったもの)が50%を超えて、ドライブ回路の故障やインバータ装置の不安定動作を防止するためである。
また、制御回路7は、電圧と電流との位相差(以下では、「電圧電流位相差」とする)が所定の位相差以下にならないように制御を行う。制御回路7は、電流信号の位相が電圧信号の位相より遅れる遅れ位相の状態を維持するために、電圧電流位相差φを所定値φ*と比較して、電圧電流位相差φが所定値φ*より小さくならないようにしている。所定値φ*には、ゼロまたはゼロより少し大きい値が設定される。第1アームにおいて電流信号が進み位相にならないようにする必要があり、また、第2アームにおいても電流信号が進み位相にならないようにする必要がある。
図2に示すように、駆動信号Pa’の位相と電流信号Iの位相との位相差φ1と、駆動信号Pc’の位相と電流信号Iの位相との位相差φ2とは異なっている。図2に示す電流信号Iは、第1アームから第2アームに流れる方を正として表示している。したがって、位相差φ1は駆動信号Pa’の立ち上がりから電流信号Iの負から正へのゼロクロスまでの位相差とし、位相差φ2は駆動信号Pc’の立ち上がりから電流信号Iの正から負へのゼロクロスまでの位相差としている。駆動信号Pa’の位相は第1アームの電圧信号の位相に一致し、駆動信号Pc’の位相は第2アームの電圧信号の位相に一致するので、位相差φ1および位相差φ2は各アームでの電圧電流位相差を意味している。したがって、以下では、それぞれ「電圧電流位相差φ1」および「電圧電流位相差φ2」とする。
また、図2に示すように、位相差θを小さくすると、電圧電流位相差φ1は小さくなり、電圧電流位相差φ2は大きくなる。逆に、位相差θを大きくすると、電圧電流位相差φ1は大きくなり、電圧電流位相差φ2は小さくなる。そして、位相差θが最大のπになった時に、電圧電流位相差φ1と電圧電流位相差φ2とが一致する。したがって、電圧電流位相差φ1は、常に、電圧電流位相差φ2以下になる。つまり、第1アームが先行アームの場合、電圧電流位相差φ1を検出して所定値φ*以下にならないようにすれば、電圧電流位相差φ2は所定値φ*以下にならない。しかし、本実施形態では、先行アームと追従アームとが切り替わるので、2つの電圧電流位相差のうち、より小さい方の電圧電流位相差φを検出し、電圧電流位相差φが所定値φ*以下にならないように制御する。
制御回路7は、電力算出部71、電力設定部72、電流検出部75、位相差検出部76、パルス信号生成部73、および、ドライバ74を備えている。
電力算出部71は、電力系統から直流電源1に入力される交流電力の電力値を算出するものである。図1においては図示されていないが、直流電源1には電力系統と整流回路との間に電流センサおよび電圧センサが設けられている。当該電流センサは、電力系統から直流電源1に入力される交流電流を検出して、電力算出部71に出力している。また、当該電圧センサは、電力系統から直流電源1に入力される交流電圧を検出して、電力算出部71に出力している。電力算出部71は、電流センサおよび電圧センサからの入力に基づいて、直流電源1に入力される交流電力の電力値Pを算出して、パルス信号生成部73に出力する。なお、電力算出部71を直流電源1に設けて、電力値Pを直流電源1から制御回路7に入力するようにしてもよい。
電力設定部72は、電力値Pの目標値P*を設定するものであり、設定された目標値P*をパルス信号生成部73に出力する。電力設定部72は、図示しない操作手段の操作に応じて、目標値P*を設定する。操作手段は、例えば、つまみの回転により火力を変化させるものであり、一方方向(例えば反時計回り)につまみを回転させると目標値P*が小さい値に設定され、他方方向(例えば時計回り)につまみを回転させると目標値P*が大きい値に設定される。
電流検出部75は、インバータ回路2の第1アームの出力ラインに設けられた電流センサによって、第1アームの出力電流を検出し、検出した電流信号Iを位相差検出部76に出力するものである。
位相差検出部76は、小さい方の電圧電流位相差φを検出するものである。すなわち、第1アームにおける電圧電流位相差φ1と第2アームにおける電圧電流位相差φ2のうち、より小さい方を電圧電流位相差φとして検出する。位相差検出部76には、第1パルス信号生成部734(後述)が出力するパルス信号Paと、第2パルス信号生成部735(後述)が出力するパルス信号Pcと、電流検出部75が出力する電流信号Iとが入力される。パルス信号Pa(Pc)は、駆動信号Pa’(Pc’)の元になる信号であり、位相が一致している。また、駆動信号Pa’(Pc’)の位相は第1アーム(第2アーム)の電圧信号の位相に一致している。したがって、各アームの電圧信号を検出する代わりに、パルス信号Pa(Pc)を用いている。位相差検出部76は、パルス信号Paと電流信号Iとから第1アームにおける電圧電流位相差φ1を検出し、パルス信号Pcと電流信号Iとから第2アームにおける電圧電流位相差φ2を検出し、電圧電流位相差φ1と電圧電流位相差φ2のうち、より小さい方を電圧電流位相差φとして検出する。
図3(a)は、位相差検出部76の内部構成を説明するための図である。
位相差検出部76は、二値化回路761、否定回路762、論理積回路763a,763b、平滑回路764a,764b、および、ダイオード765a,765bを備えている。
二値化回路761は、電流検出部75より入力される電流信号Iの正負に応じて二値化したディジタル信号である電流二値化信号を生成するものである。否定回路762は、論理回路であり、二値化回路761より入力される電流二値化信号を反転させるものである。第2アームの出力電流信号は第1アームの出力電流信号を反転したものになるので、否定回路762が出力する信号は、第2アームの出力電流信号を二値化した信号に相当する。
論理積回路763aは、論理回路であり、第1パルス信号生成部734より入力されるパルス信号Paと、二値化回路761より入力される電流二値化信号との論理積を出力する。論理積回路763aの出力は、パルス信号Paおよび電流二値化信号が共にハイレベルの場合にのみハイレベルになり、それ以外の場合はローレベルになる。パルス信号Paと電流二値化信号との位相差が小さい場合、ハイレベル期間が重なる時間が長くなるので、論理積回路763aの出力がハイレベルになる時間が長くなる。逆に、パルス信号Paと電流二値化信号との位相差が大きい場合、ハイレベル期間が重なる時間が短くなるので、論理積回路763aの出力がハイレベルになる時間が短くなる。
平滑回路764aは、積分回路であり、論理積回路763aが出力する信号を平滑化して、アナログ電圧信号として出力する。論理積回路763aの出力がハイレベルになる時間が長いほど、すなわち、パルス信号Paと電流二値化信号との位相差が小さいほど、平滑回路764aの出力は大きくなる。パルス信号Paの波形は第1アームの電圧信号の波形に一致し、電流信号Iは第1アームの電流信号である。したがって、第1アームにおける電圧電流位相差φ1が小さいほど、平滑回路764aの出力電圧は大きくなる。
論理積回路763bは、論理回路であり、第2パルス信号生成部735より入力されるパルス信号Pcと、否定回路762より入力される電流二値化信号を反転させた信号(以下では、「反転信号」とする)との論理積を出力する。論理積回路763bの出力は、パルス信号Pcおよび反転信号が共にハイレベルの場合にのみハイレベルになり、それ以外の場合はローレベルになる。パルス信号Pcと反転信号との位相差が小さい場合、ハイレベル期間が重なる時間が長くなるので、論理積回路763bの出力がハイレベルになる時間が長くなる。逆に、パルス信号Pcと反転信号との位相差が大きい場合、ハイレベル期間が重なる時間が短くなるので、論理積回路763bの出力がハイレベルになる時間が短くなる。
平滑回路764bは、積分回路であり、論理積回路763bが出力する信号を平滑化して、アナログ電圧信号として出力する。論理積回路763bの出力がハイレベルになる時間が長いほど、すなわち、パルス信号Pcと反転信号との位相差が小さいほど、平滑回路764bの出力は大きくなる。パルス信号Pcの波形は第2アームの電圧信号の波形に一致し、電流信号Iを反転した信号が第2アームの電流信号である。したがって、第2アームにおける電圧電流位相差φ2が小さいほど、平滑回路764bの出力電圧は大きくなる。
平滑回路764aの出力電圧がダイオード765aのアノード端子に入力され、平滑回路764bの出力電圧がダイオード765bのアノード端子に入力される。ダイオード765aのカソード端子とダイオード765bのカソード端子とは接続されて、位相差検出部76の出力になっている。平滑回路764aの出力電圧と平滑回路764bの出力電圧のうち大きい方が、位相差検出部76の出力電圧になる。したがって、位相差検出部76は、電圧電流位相差φ1と電圧電流位相差φ2のうち小さい方の電圧電流位相差φに対応する電圧を出力する。位相差検出部76の出力電圧は、電圧電流位相差φが小さいほど大きな電圧になる。
図4は、位相差検出部76の入出力信号を説明するための波形図である。
同図(a)はパルス信号Paを示し、同図(b)はパルス信号Pcを示し、同図(c)は電流信号Iを示している。そして、同図(d)は、二値化回路761によって電流信号Iを二値化した電流二値化信号であり、同図(e)は、否定回路762によって二値化信号を反転させた反転信号を示している。
同図(f)は、論理積回路763aの出力であり、パルス信号Pa(同図(a)参照)と電流二値化信号(同図(d)参照)との論理積である。パルス信号Paおよび電流二値化信号が共にハイレベルの期間のみハイレベルになっている。同図(g)は、平滑回路764aの出力電圧であり、論理積回路763aの出力(同図(f)参照)を平滑化したものである。
同図(h)は、論理積回路763bの出力であり、パルス信号Pc(同図(b)参照)と反転信号(同図(e)参照)との論理積である。パルス信号Pcおよび反転信号が共にハイレベルの期間のみハイレベルになっている。同図(i)は、平滑回路764bの出力電圧であり、論理積回路763bの出力(同図(h)参照)を平滑化したものである。
パルス信号Pa(同図(a)参照)と電流二値化信号(同図(d)参照)との位相差は、パルス信号Pc(同図(b)参照)と反転信号(同図(e)参照)との位相差より小さいので、論理積回路763aの出力波形(同図(f)参照)は、論理積回路763bの出力波形(同図(h)参照)と比べて、ハイレベル期間が長い。したがって、平滑回路764aの出力電圧(同図(g)参照)は、平滑回路764bの出力電圧(同図(i)参照)より大きくなっている。
位相差検出部76は、より大きい方の、平滑回路764aの出力電圧(同図(g)参照)を出力する。
なお、図3(a)は位相差検出部76の内部構成の一例を示しているだけであり、位相差検出部76の内部構成は、これに限られない。また、ダイオード765a,765bは、図3(b)に示すような理想ダイオード回路と反転増幅回路とを組み合わせた回路にするのが望ましい。
位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φと所定値φ*との差分Δφがパルス信号生成部73に出力される。具体的には、位相差検出部76が出力する電圧電流位相差φに対応する電圧と、所定値φ*に対応する電圧との差分電圧がデジタル値に変換されて、パルス信号生成部73に出力される。
パルス信号生成部73は、パルス信号Pa〜Pdを生成するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。パルス信号生成部73は、電力算出部71から入力される電力値Pと、電力設定部72から入力される目標値P*とに基づいてパルス信号Pa〜Pdを生成し、ドライバ74に出力する。また、パルス信号生成部73は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*より小さくならないようにする。パルス信号生成部73は、電力制御部731、タイマ部732、切替部733、第1パルス信号生成部734、および、第2パルス信号生成部735を備えている。
電力制御部731は、インバータ回路2に入力される電力の制御を行うためのものである。電力制御部731は、電力算出部71より出力される電力値Pと、電力設定部72より出力される目標値P*との電力偏差ΔP(=P*−P)を入力されて、当該電力偏差ΔPをゼロにするための電力補償値Xを切替部733に出力する。電力制御部731は、例えば、PI制御を行っている。また、電力制御部731は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*になった場合、駆動信号の位相差をそれ以上小さくしないようにするために、電力補償値Xを調整する。具体的には、電圧電流位相差φと所定値φ*との差分Δφが正の値の間(電圧電流位相差φに対応する電圧が所定値φ*に対応する電圧より小さい間)は、電力補償値Xをそのまま出力するが、差分Δφがゼロになると(電圧電流位相差φに対応する電圧が所定値φ*に対応する電圧に一致すると)、電力補償値Xを負の値にしないようにする。
タイマ部732は、すべての駆動信号をローレベルにする全停止期間を設けるためのタイマ信号を生成するものである。タイマ信号は、所定時間(例えば数時間)のローレベル期間と別の所定時間(例えば、数百ミリ秒)のハイレベル期間とを繰り返すパルス信号である。本実施形態では、当該ハイレベル期間を全停止期間としている。なお、ローレベル期間とハイレベル期間の長さは限定されない。ローレベル期間は、先行アームと追従アームとを切り替えなくても問題にならない時間が設定される。また、ハイレベル期間は、インバータ回路2のスイッチングが停止してから振動電流が減衰して、出力電流の実効値がゼロになる時間が設定される。また、タイマ信号は、先行アームと追従アームとを切り替えるタイミング信号でもある。タイマ部732は、生成したタイマ信号を切替部733に出力する。
切替部733は、電力制御部731より入力される電力補償値Xの出力先を切り替えるものである。切替部733は、タイマ部732から入力されるタイマ信号に基づいて、第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735に出力する信号を切り替える。すなわち、切替部733は、タイマ信号がローレベルの間(タイマOFF)、第1パルス信号生成部734または第2パルス信号生成部735のいずれか一方に電力補償値Xを出力し、タイマ信号がハイレベルの間(タイマON)、第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735に全停止信号を出力する。また、切替部733は、タイマ信号がハイレベルからローレベルに切り替わるときに、電力補償値Xを出力する先を、第1パルス信号生成部734と第2パルス信号生成部735との間で切り替える。つまり、タイマ信号がハイレベルを継続している間(ローレベルになるまで)、全停止信号の出力が継続し、タイマ信号がローレベルになったときに、電力補償値Xを出力する先の切り替えが行われる。なお、切替部733が行う切替処理は、上述したものに限定されない。
第1パルス信号生成部734は、第1アームのスイッチング素子2aおよび2bに入力される駆動信号Pa’およびPb’の元になるパルス信号PaおよびPbを生成して、ドライバ74に出力する。第1パルス信号生成部734は、切替部733から電力補償値Xおよび全停止信号が入力されていない期間、所定の周期でデューティ比が50%であるパルス信号Paを生成して出力する。また、切替部733から電力補償値Xが入力されている期間、電力補償値Xに応じてパルス信号Paの位相を遅らせて出力する。また、第1パルス信号生成部734は、これらの期間、パルス信号Paを反転させた信号をパルス信号Pbとして出力する。一方、切替部733から全停止信号が入力されている期間は、パルス信号PaおよびPbをローレベル信号として出力する。
第2パルス信号生成部735は、第2アームのスイッチング素子2cおよび2dに入力される駆動信号Pc’およびPd’の元になるパルス信号PcおよびPdを生成して、ドライバ74に出力する。第2パルス信号生成部735は、切替部733から電力補償値Xおよび全停止信号が入力されていない期間、所定の周期でデューティ比が50%であるパルス信号Pcを生成して出力する。また、切替部733から電力補償値Xが入力されている期間、電力補償値Xに応じてパルス信号Pcの位相を遅らせて出力する。また、第2パルス信号生成部735は、これらの期間、パルス信号Pcを反転させた信号をパルス信号Pdとして出力する。一方、切替部733から全停止信号が入力されている期間は、パルス信号PcおよびPdをローレベル信号として出力する。
インバータ装置8の起動時には、パルス信号PaおよびPc(PbおよびPd)の位相は一致している。操作部の操作により、電力設定部72が目標値P*をゼロから大きくすることにより、第1パルス信号生成部734または第2パルス信号生成部735がパルス信号の位相を遅らせることで、インバータ回路2から電力が出力される。
例えば、電力補償値Xが第1パルス信号生成部734に入力されている場合、第1パルス信号生成部734が出力するパルス信号Pa(Pb)は、第2パルス信号生成部735が出力するパルス信号Pc(Pd)より、位相を遅らせて出力される。これにより、第2アームが先行アームで、第1アームが追従アームになる。逆に、電力補償値Xが第2パルス信号生成部735に入力されている場合、第2パルス信号生成部735が出力するパルス信号Pc(Pd)は、第1パルス信号生成部734が出力するパルス信号Pa(Pb)より、位相を遅らせて出力される。これにより、第1アームが先行アームで、第2アームが追従アームになる。
また、全停止信号が第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735に入力されている場合、パルス信号Pa,Pb,Pc,Pdはすべてローレベル信号になる。そして、全停止信号の入力が終了したとき(タイマ信号がハイレベルからローレベルに切り替わるとき)、電力補償値Xの出力先が切り替わり、先行アームと追従アームとが切り替わる。
なお、パルス信号生成部73によるパルス信号の生成方法は、上述したものに限られない。電力制御部731より出力される電力補償値Xに応じて、パルス信号Pa,Pbまたはパルス信号Pc,Pdの位相を遅らせることができ、全停止期間(パルス信号Pa,Pb,Pc,Pdをいずれもローレベルとする期間)を挟んで、パルス信号Pa,Pbの位相を遅らせた状態と、パルス信号Pc,Pdの位相を遅らせた状態とを切り替えることができればよい。
本実施形態では、パルス信号生成部73をディジタル回路として実現した場合について説明したが、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータをパルス信号生成部73として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
ドライバ74は、パルス信号生成部73から入力されるパルス信号Pa〜Pdを増幅して、各スイッチング素子2a〜2dを駆動できるレベルの駆動信号Pa’〜Pd’として出力する。本実施形態では、ドライバ74を、パルストランス方式のゲートドライブ回路としている。なお、ドライバ74は、パルストランス方式のゲートドライブ回路に限定されず、フォトカプラ方式などの他の方式のゲートドライブ回路としてもよい。ドライバ74は、入力されるパルス信号Pa〜Pdのデューティ比が50%であることを想定して設計される。すなわち、デューティ比が50%の場合に問題なく動作し得る最も経済的な設計がなされる。なお、スイッチング素子2aおよび2b(2cおよび2d)が瞬間的に両方ともオン状態になってしまうことを防ぐために、駆動信号Pa’〜Pd’にデッドタイムを設けるようにしてもよい。
次に、誘導加熱装置Aの作用と効果について説明する。
誘導加熱装置Aは、電力算出部71が算出する電力値Pが、電力設定部72によって設定される目標値P*になるようにフィードバック制御される。直流電源1に入力される交流電力が変動して電力値Pが目標値P*より大きくなった場合や、操作部の操作により目標値P*が小さい値に変更された場合、電力偏差ΔPが負の値になる。この場合、電力制御部731から出力される電力補償値Xが負の値になり、切替部733から電力補償値Xを入力された第1パルス信号生成部734または第2パルス信号生成部735が出力するパルス信号の位相が進んで位相差が小さくなる。これにより、インバータ回路2の出力電力が小さくなって、直流電源1に入力される電力が小さくなり、電力値Pが目標値P*に一致するようになる。逆に、直流電源1に入力される交流電力が変動して電力値Pが目標値P*より小さくなった場合や、操作部の操作により目標値P*が大きい値に変更された場合、電力偏差ΔPが正の値になる。この場合、電力制御部731から出力される電力補償値Xが正の値になり、切替部733から電力補償値Xを入力された第1パルス信号生成部734または第2パルス信号生成部735が出力するパルス信号の位相が遅れて位相差が大きくなる。これにより、インバータ回路2の出力電力が大きくなって、直流電源1に入力される電力が大きくなり、電力値Pが目標値P*に一致するようになる。
制御回路7は、全停止期間を設けて、その前後で先行アームと追従アームとを切り替える機能を有する。パルス信号生成部73の切替部733は、タイマ部732から入力されるタイマ信号に基づいて、第1パルス信号生成部734に電力補償値Xを出力する状態と、第2パルス信号生成部735に電力補償値Xを出力する状態と、第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735に全停止信号を出力する状態とを切り替える。第1パルス信号生成部734が電力補償値Xを入力されている間、パルス信号Pa(Pb)の位相がパルス信号Pc(Pd)の位相より遅れるので、第1アームが追従アームになり、第2アームが先行アームになる。逆に、第2パルス信号生成部735が電力補償値Xを入力されている間、パルス信号Pc(Pd)の位相がパルス信号Pa(Pb)の位相より遅れるので、第2アームが追従アームになり、第1アームが先行アームになる。また、第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735は、全停止信号を入力されている間、パルス信号Pa,Pb,Pc,Pdはすべてローレベル信号になり、インバータ回路2のスイッチング動作が停止された状態になる。
位相差検出部76は、第1アームにおける電圧電流位相差φ1と第2アームにおける電圧電流位相差φ2のうち、より小さい方を電圧電流位相差φとして検出する。そして、パルス信号生成部73は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*より小さくならないように制御する。
本実施形態において、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*より小さくならないように制御するので、大きい方の電圧電流位相差も所定値φ*より小さくならない。したがって、第1アームおよび第2アームのどちらにおいても、進み位相にならないように制御することができる。
なお、位相差検出部76の内部構成は、図3に示すものに限定されない。第1アームにおける電圧電流位相差φ1と第2アームにおける電圧電流位相差φ2のうち、より小さい方を電圧電流位相差φとして検出することができるものであればよい。
図5(a)は、第1実施形態に係る位相差検出部76の他の実施例を説明するための図である。
図2に示すように、第1アームが先行アームの場合、電圧電流位相差φ1は、常に、電圧電流位相差φ2以下になる。逆に、第2アームが先行アームの場合、電圧電流位相差φ2は、常に、電圧電流位相差φ1以下になる。つまり、先行アームの電圧電流位相差が常に小さい方の電圧電流位相差になる。図5に示す位相差検出部76’は、これを利用して、小さい方の電圧電流位相差φを検出する。
位相差検出部76’には、切替部733より切替信号が入力される。切替信号は、第1アームが先行アームである間ハイレベルになり、第1アームが追従アームである間ローレベルになる信号である。否定回路766は、論理回路であり、切替部733が出力する切替信号を反転させるものである。つまり、否定回路766が出力する信号は、第2アームが先行アームである間ハイレベルになり、第2アームが追従アームである間ローレベルになる信号になる。
論理積回路767aは、論理回路であり、第1パルス信号生成部734より入力されるパルス信号Paと、切替部733より入力される切替信号との論理積を出力する。つまり、論理積回路767aは、第1アームが先行アームである間、パルス信号Paを出力し、第1アームが追従アームである間、ローレベル信号を出力する。論理積回路763aは、図3(a)に示す論理積回路763aと同様であり、論理積回路767aより入力される信号と、二値化回路761が出力する電流二値化信号との論理積を出力する。したがって、第1アームが先行アームである間だけ、パルス信号Paと電流二値化信号のハイレベル期間の重なりを検出する。
論理積回路767bは、論理回路であり、第2パルス信号生成部735より入力されるパルス信号Pcと、否定回路766より入力される信号との論理積を出力する。つまり、論理積回路767bは、第2アームが先行アームである間、パルス信号Pcを出力し、第2アームが追従アームである間、ローレベル信号を出力する。論理積回路763bは、図3(a)に示す論理積回路763bと同様であり、論理積回路767bより入力される信号と、否定回路762が出力する反転信号との論理積を出力する。したがって、第2アームが先行アームである間だけ、パルス信号Pcと反転信号のハイレベル期間の重なりを検出する。
論理和回路768は、論理回路であり、論理積回路763aの出力と論理積回路763bの出力との論理和を出力する。したがって、論理和回路768は、第1アームが先行アームである間、パルス信号Paと電流二値化信号のハイレベル期間の重なりを検出し、第2アームが先行アームである間、パルス信号Pcと反転信号のハイレベル期間の重なりを検出する。平滑回路764は、図3(a)に示す平滑回路764a,764bと同様であり、論理和回路768が出力する信号を平滑化して、アナログ電圧信号として出力する。したがって、位相差検出部76’は、第1アームが先行アームである(電圧電流位相差φ1が電圧電流位相差φ2以下である)間、電圧電流位相差φ1に対応する電圧を出力し、第2アームが先行アームである(電圧電流位相差φ2が電圧電流位相差φ1以下である)間、電圧電流位相差φ2に対応する電圧を出力する。つまり、位相差検出部76’は、電圧電流位相差φ1と電圧電流位相差φ2のうち小さい方の電圧電流位相差φを検出することができる。
図5(b)は、第1実施形態に係る位相差検出部76のさらに他の実施例を説明するための図である。
位相差検出部76”は、図3(a)に示す位相差検出部76の論理積回路763a,763b、平滑回路764a,764b、およびダイオード765a,765bに代えて、計時回路769a,769bおよび選択回路770を設けたものである。位相差検出部76”は、電圧信号と電流信号のハイレベル期間の重なりを検出する代わりに、電圧信号と電流信号のゼロクロス点の時間差を検出することで電圧電流位相差を検出している。
計時回路769aは、第1パルス信号生成部734より入力されるパルス信号Paの立ち上がりのゼロクロス点から、二値化回路761より入力される電流二値化信号の立ち上がりのゼロクロス点までの時間差を検出して出力する。つまり、計時回路769aは、電圧電流位相差φ1に対応する時間差を出力する。
計時回路769bは、第2パルス信号生成部735より入力されるパルス信号Pcの立ち上がりのゼロクロス点から、否定回路762より入力される反転信号の立ち上がりのゼロクロス点までの時間差を検出して出力する。つまり、計時回路769bは、電圧電流位相差φ2に対応する時間差を出力する。
選択回路770は、計時回路769aより入力される時間差と、計時回路769bより入力される時間差とのうち、小さい方の時間差を選択して出力する。したがって、位相差検出部76”は、電圧電流位相差φ1と電圧電流位相差φ2のうち小さい方の電圧電流位相差φに対応する時間差を出力する。位相差検出部76”の出力値は、電圧電流位相差φが小さいほど小さな値になる。電力制御部731(図1参照)は、電圧電流位相差φに対応する時間差が所定値φ*に対応する時間差より小さくならないように、電力補償値Xを調整する。
本実施形態においては、デューティ比を50%にした場合について説明しているが、これに限られない。50%はあくまで例示であって、50%以外の所定値としてもよい。
本実施形態においては、直流電源1に入力される交流電力がインバータ回路2の出力電力とほぼ同じであることを利用して、直流電源1に入力される交流電力を制御することで、インバータ回路2の出力電力を制御しているが、これに限られない。例えば、インバータ回路2の出力電力を直接制御するようにしてもよい。すなわち、電力算出部71がインバータ回路2の出力電流および出力電圧から出力電力を算出し、電力設定部72が出力電力の目標値を設定するようにしてもよい。また、直流電源1からインバータ回路2に入力される直流電力を制御するようにしてもよい。また、直流電源1に入力される交流電流を制御するようにしてもよいし、当該交流電流から推定される交流電力を制御するようにしてもよい。
本実施形態においては、所定時間ごとに先行アームと追従アームとの切り替えを行う場合について説明したが、これに限られない。所定時間ごとに先行アームと追従アームとの切り替えを行ったとしても、場合によっては一方のアーム側のスイッチング素子の熱損失が大きくなる場合がある。これを抑制するために、スイッチング素子の温度を監視して、これに基づいて先行アームと追従アームとの切り替えを行うようにしてもよい。また、連続使用時間が限られている場合、例えば数時間程度しか連続使用しない場合、使用の途中で切り替えを行う必要はなく、使用開始時に切り替えを行うようにしてもよい。
また、アームの切り替えの前に全停止期間を設けないようにしてもよい。また、アームの切り替えを行わないようにしてもよい。これらの場合でも、2つのアームの電圧電流位相差のうち小さい方の電圧電流位相差を検出することができる。
上記第1実施形態においては、フェーズシフト制御を行う場合について説明したが、これに限られない。本発明は、周波数制御を行う場合においても、2つのアームのスイッチング素子に入力する駆動信号の位相をずらして制御する場合に有効である。周波数制御を行う場合を、第2実施形態として、以下に説明する。
図6は、周波数制御を行うインバータ装置の駆動信号の波形を示す図であり、周波数の変化により出力電力が変化することを説明するための図である。
同図においては、2つの駆動信号の位相差を(3/4)πに固定して、これら駆動信号の周波数f(周期T)を変化させており、同図(a)は同図(b)より周波数fが大きい(周期Tが小さい)場合であり、同図(c)は同図(b)より周波数fが小さい(周期Tが大きい)場合である。
各図6(a)、(b)、(c)において、一番上は第1アームのスイッチング素子2aに入力される駆動信号Pa’の波形を示し、その下は第2アームのスイッチング素子2cに入力される駆動信号Pc’の波形を示し、その下はコイル5に流れる電流の電流信号Iを示し、一番下は負荷に印加される電圧の電圧信号Vを示している。
図6に示すように、周波数fを小さく(周期Tを大きく)すると、負荷に電圧が印加される時間が長くなり(電圧信号V参照)、電流信号Iの振幅が大きくなって、インバータ回路2の出力電力が大きくなる。逆に、周波数fを大きく(周期Tを小さく)すると、負荷に電圧が印加される時間が短くなり、電流信号Iの振幅が小さくなって、インバータ回路2の出力電力が小さくなる。
また、図6に示すように、周波数fを小さく(周期Tを大きく)すると、電圧電流位相差φ1は小さくなり、電圧電流位相差φ2は大きくなる。逆に、周波数fを大きく(周期Tを小さく)すると、電圧電流位相差φ1は大きくなり、電圧電流位相差φ2は小さくなる。
図7は、第2実施形態に係る誘導加熱装置A2を説明するための図である。同図においては、第1実施形態に係る誘導加熱装置A(図1参照)と共通する部分の記載を省略して、パルス信号生成部73’を中心に記載しており、誘導加熱装置Aと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図7に示す誘導加熱装置A2は、周波数制御を行う点で、第1実施形態に係る誘導加熱装置Aと異なる。
電力制御部731’は、電力値Pと目標値P*との電力偏差ΔP(=P*−P)を入力されて、当該電力偏差ΔPをゼロにするための電力補償値Xを周波数指令部736に出力する。また、電力制御部731’は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*になった場合、駆動信号の周波数をそれ以上小さくしないようにするために、電力補償値Xを調整する。具体的には、電圧電流位相差φと所定値φ*との差分Δφが正の値の間(電圧電流位相差φに対応する電圧が所定値φ*に対応する電圧より小さい間)は、電力補償値Xをそのまま出力するが、差分Δφがゼロになると(電圧電流位相差φに対応する電圧が所定値φ*に対応する電圧に一致すると)、電力補償値Xを正の値にしないようにする。
周波数指令部736は、パルス信号Pa〜Pdの周波数を指令するものである。周波数指令部736は、電力制御部731’より入力される電力補償値Xに応じて変化させた周波数を第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735に出力する。周波数指令部736は、電力補償値Xが正の値の場合、値に応じて周波数を小さくし、電力補償値Xが負の値の場合、その絶対値に応じて周波数を大きくする。
切替部733は、電力補償値Xを出力する代わりに、追従アームになることを指令する遅延信号を出力する点で、第1実施形態に係る切替部733と異なる。切替部733は、タイマ部732から入力されるタイマ信号がローレベルの間(タイマOFF)、第1パルス信号生成部734または第2パルス信号生成部735のいずれか一方に遅延信号を出力し、タイマ信号がハイレベルの間(タイマON)、第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735に全停止信号を出力する。また、切替部733は、タイマ信号がハイレベルからローレベルに切り替わるときに、遅延信号を出力する先を、第1パルス信号生成部734と第2パルス信号生成部735との間で切り替える。つまり、タイマ信号がハイレベルを継続している間(ローレベルになるまで)、全停止信号の出力が継続し、タイマ信号がローレベルになったときに、遅延信号を出力する先の切り替えが行われる。なお、切替部733が行う切替処理は、上述したものに限定されない。
第1パルス信号生成部734は、周波数指令部736が指令する周波数で、パルス信号PaおよびPbを生成して、ドライバ74に出力する。第1パルス信号生成部734は、切替部733から遅延信号および全停止信号が入力されていない期間、パルス信号Paを生成して出力する。また、切替部733から遅延信号が入力されている期間、パルス信号Paの位相を所定の位相だけ遅らせて出力する。また、第1パルス信号生成部734は、これらの期間、パルス信号Paを反転させた信号をパルス信号Pbとして出力する。一方、切替部733から全停止信号が入力されている期間は、パルス信号PaおよびPbをローレベル信号として出力する。
第2パルス信号生成部735は、周波数指令部736が指令する周波数で、パルス信号PcおよびPdを生成して、ドライバ74に出力する。第2パルス信号生成部735は、切替部733から遅延信号および全停止信号が入力されていない期間、パルス信号Pcを生成して出力する。また、切替部733から遅延信号が入力されている期間、パルス信号Pcの位相を所定の位相だけ遅らせて出力する。また、第2パルス信号生成部735は、これらの期間、パルス信号Pcを反転させた信号をパルス信号Pdとして出力する。一方、切替部733から全停止信号が入力されている期間は、パルス信号PcおよびPdをローレベル信号として出力する。
誘導加熱装置A2は、電力算出部71が算出する電力値Pが、電力設定部72によって設定される目標値P*になるようにフィードバック制御される。直流電源1に入力される交流電力が変動して電力値Pが目標値P*より大きくなった場合や、操作部の操作により目標値P*が小さい値に変更された場合、電力偏差ΔPが負の値になる。この場合、電力制御部731’から出力される電力補償値Xが負の値になり、周波数指令部736が指令する周波数は大きくなり、第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735が出力するパルス信号の周波数は大きくなる。これにより、インバータ回路2の出力電力が小さくなって、直流電源1に入力される電力が小さくなり、電力値Pが目標値P*に一致するようになる。逆に、直流電源1に入力される交流電力が変動して電力値Pが目標値P*より小さくなった場合や、操作部の操作により目標値P*が大きい値に変更された場合、電力偏差ΔPが正の値になる。この場合、電力制御部731’から出力される電力補償値Xが正の値になり、周波数指令部736が指令する周波数は小さくなり、第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735が出力するパルス信号の周波数は小さくなる。これにより、インバータ回路2の出力電力が大きくなって、直流電源1に入力される電力が大きくなり、電力値Pが目標値P*に一致するようになる。
制御回路7は、全停止期間を設けて、その前後で先行アームと追従アームとを切り替える機能を有する。パルス信号生成部73’の切替部733は、タイマ部732から入力されるタイマ信号に基づいて、第1パルス信号生成部734に遅延信号を出力する状態と、第2パルス信号生成部735に遅延信号を出力する状態と、第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735に全停止信号を出力する状態とを切り替える。第1パルス信号生成部734が遅延信号を入力されている間、パルス信号Pa(Pb)の位相がパルス信号Pc(Pd)の位相より遅れるので、第1アームが追従アームになり、第2アームが先行アームになる。逆に、第2パルス信号生成部735が遅延信号を入力されている間、パルス信号Pc(Pd)の位相がパルス信号Pa(Pb)の位相より遅れるので、第2アームが追従アームになり、第1アームが先行アームになる。また、第1パルス信号生成部734および第2パルス信号生成部735は、全停止信号を入力されている間、パルス信号Pa,Pb,Pc,Pdはすべてローレベル信号になり、インバータ回路2のスイッチング動作が停止された状態になる。
位相差検出部76は、第1アームにおける電圧電流位相差φ1と第2アームにおける電圧電流位相差φ2のうち、より小さい方を電圧電流位相差φとして検出する。そして、パルス信号生成部73’は、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*より小さくならないように制御する。
第2実施形態においても、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*より小さくならないように制御するので、大きい方の電圧電流位相差も所定値φ*より小さくならない。したがって、第1アームおよび第2アームのどちらにおいても、進み位相にならないように制御することができる。
第1実施形態においては、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*より小さくならないようにするために、差分Δφがゼロになると、電力補償値Xを負の値にしないようにして、先行アーム側のパルス信号と追従アーム側のパルス信号との位相差をそれ以上小さくしないようにする。この場合、位相差を小さくすることができないため、出力電力を小さくすることができない。逆に、第2実施形態においては、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*より小さくならないようにするために、差分Δφがゼロになると、電力補償値Xを正の値にしないようにして、各パルス信号の周波数をそれ以上小さくしないようにする。この場合、周波数を小さくすることができないため、出力電力を大きくすることができない。
通常はフェーズシフト制御を行い、差分Δφがゼロになった状態で出力電力を小さくする場合に、周波数制御に切り替えるようにしてもよい。この制御を切り替える場合を、第3実施形態として、以下に説明する。
図8は、第3実施形態に係る誘導加熱装置A3を説明するための図である。同図においては、第1実施形態に係る誘導加熱装置A(図1参照)と共通する部分の記載を省略して、パルス信号生成部73”を中心に記載しており、誘導加熱装置Aと同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図8に示す誘導加熱装置A3は、フェーズシフト制御と周波数制御とを切り替える点で、第1実施形態に係る誘導加熱装置Aと異なる。
電力制御部731”は、電力値Pと目標値P*との電力偏差ΔP(=P*−P)を入力されて、当該電力偏差ΔPをゼロにするための電力補償値Xを制御切替部737に出力する。
制御切替部737は、電力補償値Xの出力先を切り替えて、フェーズシフト制御と周波数制御とを切り替えるものである。制御切替部737は、通常時は、電力補償値Xを切替部733に出力して、第1実施形態に係るパルス信号生成部73と同様にフェーズシフト制御を行うようにする。しかし、位相差検出部76が検出した電圧電流位相差φが所定値φ*になった場合で、電力補償値Xが負の値の場合、電力補償値Xを周波数指令部736に出力して、第2実施形態に係るパルス信号生成部73’と同様に周波数制御を行うようにする。これにより、パルス信号の周波数を大きくして、出力を小さくすることができる。
フェーズシフト制御から周波数制御に切り替えられたときに、先行アーム側のパルス信号と追従アーム側のパルス信号との位相差は固定され、当該位相差のままで周波数制御が行われる。また、切替部733によって、先行アームと追従アームとが切り替えられる。しかし、位相差検出部76は、第1アームにおける電圧電流位相差φ1と第2アームにおける電圧電流位相差φ2のうち、より小さい方を電圧電流位相差φとして検出することができる。したがって、第3実施形態においても、パルス信号生成部73”が、電圧電流位相差φが所定値φ*より小さくならないように制御することで、第1アームおよび第2アームのどちらにおいても、進み位相にならないように制御することができる。
第1ないし第3実施形態においては、誘導加熱装置のインバータ装置8に、本発明を用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明は、フェーズシフト制御を行うすべてのインバータ装置に用いることができる。例えば、電源装置(高周波電源装置や溶接電源装置、非接触給電装置など)や駆動装置のインバータ装置に本発明を用いるようにしてもよい。つまり、図1における負荷(コイル5、共振コンデンサ6および加熱対象物B)に代えて、別の負荷にインバータ装置8が電力を供給する場合にも、本発明を用いることができる。
本発明に係るインバータ回路の制御回路、この制御回路を備えたインバータ装置、このインバータ装置を備えた誘導加熱装置、および、制御方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るインバータ回路の制御回路、この制御回路を備えたインバータ装置、このインバータ装置を備えた誘導加熱装置、および、制御方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。