JP6337733B2 - 超硬工具 - Google Patents
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Description
図1は本実施形態による超硬工具の断面図である。図1を参照して、超硬工具1は焼結体2からなる。焼結体2は、下窒化層3と上窒化層4とを備える。下窒化層3は焼結体2表面に形成されている。上窒化層4は下窒化層3上に形成されている。
焼結体2は、超硬合金成分と、窒化物生成成分とを含有する。
超硬合金成分は、WC、Co、TiC及びTaCからなる群から選択される2種以上からなり、少なくともWC及びCoを含有する。
窒化物生成成分は、Al、Cr及びSiからなる群から選択される1種以上の特定元素と、Bとを含有する。
アルミニウム(Al)、クロム(Cr)及びシリコン(Si)からなる特定元素は、Nとの親和力が大きい。そのため、焼結体2を窒化処理した場合に、特定元素は安定な窒化物を形成する。以下、特定元素の窒化物を「特定窒化物」という。特定窒化物は優れた硬さを有するため、焼結体2を窒化処理すれば、表層に形成される下窒化層3の硬さが高まる。さらに、上窒化層4にも、特定窒化物が含まれるため、上窒化層4の硬さが高まる。
ボロン(B)はNとの親和力が大きい。そのため、焼結体2を窒化処理した場合に、安定な窒化物である窒化ホウ素を形成する。窒化ホウ素には、六方晶窒化ホウ素(h−BN)及び立方晶窒化ホウ素(c−BN)を含むいくつかの結晶形が存在する。Bを含む焼結体2を周知の方法で窒化処理すると、六方晶窒化ホウ素を含む下窒化層3が焼結体2の表層に生成する。六方晶窒化ホウ素の硬度は比較的低い。下窒化層3を備える焼結体2を真空熱処理すると、下窒化層3表層に含まれる六方晶窒化ホウ素の一部が立方晶窒化ホウ素に転移する。したがって、下窒化層3上に立方晶窒化ホウ素を含む上窒化層4が形成される。立方晶窒化ホウ素は硬度が非常に高く、さらに、熱伝導率も高い。そのため、下窒化層3を備える焼結体2を真空熱処理することにより、下窒化層3よりも硬い上窒化層4が形成される。
超硬合金成分を100質量%とした場合に、特定元素の総含有量は0.03〜0.30質量%であり、Bの含有量は0.10〜1.00質量%である。特定元素の総含有量及びBの含有量のいずれかが低すぎれば、窒化処理により下窒化層3に生成される窒化物が少なすぎる。この場合、下窒化層3の硬度が低い。さらに、下窒化層3上に形成される上窒化層4の硬度も低い。硬度が低いと、耐摩耗性が低下する。一方、特定元素の総含有量及びBの含有量のいずれかが高すぎれば、下窒化層3に過剰の窒化物が生成される。この場合、下窒化層3の表面粗さが粗くなる。下窒化層3の影響を受け、上窒化層4の表面粗さが粗くなる。表面粗さが粗ければ、潤滑性が低下する。したがって、特定元素の総含有量が0.03〜0.30質量%であり、Bの含有量が0.10〜1.00質量%である。
上述のとおり、焼結体2は、下窒化層3を含む。下窒化層3は焼結体2を窒化処理することにより、焼結体2表面に形成される。下窒化層3は、六方晶窒化ホウ素と、特定窒化物とを含有する。下窒化層3は、特定窒化物を含むため硬度が高い。下窒化層3の厚さはたとえば、50μm以下である。下窒化層3の厚さの好ましい下限は30μmである。
焼結体2はさらに、上窒化層4を含む。上窒化層4は、下窒化層3を備える焼結体2を真空熱処理することにより、下窒化層3上に形成される。上窒化層4は、立方晶窒化ホウ素と、六方晶窒化ホウ素と、特定窒化物とを含有する。上窒化層4は、立方晶窒化ホウ素を含むため、下窒化層3よりもさらに硬度が高い。上窒化層4の厚さはたとえば、5μm以下である。上窒化層4の厚さの好ましい下限は3μmである。
図2は、図1とは異なる他の超硬工具10の断面図である。図2の超硬工具10は、図1の超硬工具1と比較して、硬質保護層5を上窒化層4上に備える。超硬工具10のその他の構成は、超硬工具1と同じである。
本実施形態の超硬工具の製造方法の一例を説明する。本実施形態の超硬工具の製造方法は、焼結体を製造する工程と、窒化処理工程と、真空熱処理工程とを備える。超硬工具が硬質保護層5を備える場合はさらに、成膜工程を備える。以下、各工程を詳述する。
初めに、焼結体2を製造する。焼結体2の製造方法は特に限定されない。たとえば、上述の超硬合金成分及び窒化物生成成分を含有した原料の炭化物及び金属粉末を、整粒及び混合して混合原料を製造する。混合原料を所定形状の金型で加圧成形して打ち抜きする。得られた成形体を真空中で焼成して、焼結体2を製造する。
焼結体2に対して窒化処理を実施する。窒化処理は周知の方法を採用できる。たとえば、電気炉内に焼結体2、NH3ガス、N2ガス及び必要に応じてCO2ガスを導入する。電気炉内を500〜550℃に加熱して窒化処理を実施する。加熱時間は特に限定されないが、2時間程度が好ましい。加熱により、NH3ガスからN原子が乖離する。乖離したN原子が焼結体2の表面から内部に侵入し、拡散する。さらに、焼結体2内部に存在する窒化物生成成分がN原子と結合して、窒化物が形成され、焼結体2の表層に、窒化物を含有する下窒化層3が形成される。CO2ガスを炉内へ導入した場合は、C原子が乖離する。乖離したC原子は、窒化物の生成領域を拡げ、窒化層3の安定的な形成を促進させる。
下窒化層3を備えた焼結体2に対して真空熱処理を実施する。真空熱処理はたとえば、真空炉に下窒化層3を備えた焼結体2を入れ、炉内を排気ポンプにより1Pa以下に減圧する。減圧することによって、炉内の酸素分圧が下がる。そのため、酸化層の形成が抑制される。減圧に加えて、真空炉内を1000〜1200℃に加熱することで真空熱処理を実施する。加熱時間は特に限定されないが、2時間程度が好ましい。真空熱処理により、下窒化層3表層に含有される六方晶窒化ホウ素の一部が立方晶窒化ホウ素に転位する。そして、立方晶窒化ホウ素を含む上窒化層4が下窒化層3上に形成される。以上の工程により、本実施形態の超硬工具1を製造できる。
さらに、上窒化層4の上に硬質保護層5を形成する場合、成膜工程を実施する。具体的には、上窒化層4を備えた焼結体2に対して、周知の成膜工程を実施する。たとえば、物理蒸着法、化学蒸着法及び溶融塩浴処理法のいずれかを実施する。物理蒸着は、たとえば以下の方法で行うことができる。硬質保護層5を構成する金属元素を用いた混合粉末を、円板形状に加圧成形して成形体を製造する。成形体を真空焼結後、スパッタ法又はアークイオンプレーテイング法を用いて、金属成分から金属イオンを電磁気的に励起させる。その後、装置気相中に窒素ガス等を充填させる。充填された窒素ガスは、分解して窒素イオンとなる。励起した金属イオンは、直流バイアス電源制御により負に帯電した焼結体2の表面に引き付けられる。上述の窒素イオンと金属イオンとが焼結体2の表面で化学結合することにより、上窒化層4の表面に硬質保護層5が形成される。
超硬合金成分として、WC:85質量%、Co:10質量%、TiC:3質量%、TaC:2質量%の比率で混合した原料を準備した。表1に示す窒化物生成成分を原料に添加し、各試験番号の混合原料を製造した。
得られた焼結体をNH3ガス、N2ガスとCO2ガスを導入した電気炉で500〜550℃に加熱して窒化処理を実施し、下窒化層を形成した。窒化処理における均熱時間は2時間であった。
下窒化層を形成した各焼結体を真空炉に入れ、炉内を排気ポンプにより1Pa以下に減圧した。減圧に加えて、真空炉内を1000〜1200℃に加熱することで真空熱処理を実施し、上窒化層を形成した。真空熱処理における均熱時間は2時間であった。試験番号14においては、真空熱処理を実施しなかった。
試験番号13の超硬工具に、成膜工程を実施した。成膜工程として物理蒸着法(PVD)を用いた。Ti及びAlを用いた混合粉末を、円板形状に加圧成形して成形体を製造した。成形体を真空焼結後、スパッタ法を用いて、金属成分を電気的に励起させた。その後、装置気相中に窒素ガスを充填させた。励起させた金属成分と焼結体の成分とを、窒化層の表面上にて化学結合させて、TiAl−Nからなる硬質保護層を3.0μm厚で成膜した。
各試験番号の超硬工具の上窒化層中の窒化ホウ素含有量及び他の窒化物の含有量を測定した。測定はエネルギー分散形X線分析装置付き走査型電子顕微鏡(日本電子製、JSM−7100型FESEM)を用いて行った。上窒化層の任意の5箇所を走査型電子顕微鏡にて観察し、組成を分析した。5箇所の平均組成を上窒化層の組成とした。測定倍率5000倍で、加速電圧;20kV、照射電流;最大100nAの電子ビームを照射し、B−kα線、Al−kα線、Cr−kα線及びSi−kα線の各X線強度を測定した。各元素のX線強度をもとに、それぞれの窒化物量(質量%)を算出し、測定値とした。結果を表1に示す。
各試験番号の超硬工具の窒化層中の窒化ホウ素の結晶構造解析を行った。測定は、X線回折装置(リガク製、AutoMATEII型X線測定装置)を用いて行った。X線源はCr−kα線、直径0.5mmの入射コリメータを用い、管電圧は40kV、管電流は40mAでX線を発生させた。走査範囲(2θ)は最大150°として測定を実施し、X線回折チャートを得た。得られたX線回折チャートのピーク形状から、窒化層における立方晶窒化ホウ素(c−BN)の有無を確認した。試験番号1〜13及び試験番号15〜23においては、上窒化層中の立方晶窒化ホウ素の有無を確認した。試験番号14においては、下窒化層中の立方晶窒化ホウ素の有無を確認した。結果を表1に示す。表1中、立方晶窒化ホウ素が確認されたものは「D」と表示し、確認されなかったものは「ND」と表示した。
各試験番号の超硬工具のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さはJIS規格Z2244(2009)に基づいて実施し、試験荷重は9.80N(1kgf)とした。測定結果を表1に示す。
各試験番号の超硬工具の表面粗さを測定した。具体的には、表面粗さを触針(ダイアモンド製;外径25μm)を用い、室温、荷重;0.1N、測定速度;0.5mm/秒として、超硬工具の任意表面を試験片の長手方向及び長手方向と直交する方向の双方10mm長で計測し、双方向の平均値を以て表面粗さとした。表面粗さは、JIS B0601(1994)に定める「算術平均粗さ;Ra」を採用した。測定結果を表1に示す。
各試験番号の超硬工具を用いて切削試験を実施し、切削後における被削材の超硬工具刃先への凝着量を測定した。切削は以下の条件で行った。直径30mm、長さ300mmの円柱形合金材を準備した。円柱形合金材の材質はインコネル−625(Ni含有量が58質量%以上、Fe含有量が5質量%以下のNi基高合金)であった。超硬工具の形状は、12.7mm×12.7mm×厚さ4.8mmであった。この超硬工具を用いて、円柱形合金材の長手方向に外削加工を実施した。切削時の切込量は0.5mm以下、周速は100m/分以下、送り速度は0.1mm/回転、切削長は200mmであり、潤滑剤は使用しなかった。
評価結果を表1に示す。表1を参照して、試験番号1〜12の超硬工具の特定元素の総含有量及びBの含有量は適切であり、さらに、上窒化層が形成されていた。そのため、試験番号1〜13のビッカース硬さは2000以上であり、優れた耐摩耗性を示した。さらに、試験番号1〜13の超硬工具の表面粗さRaは0.10μm以下であり、優れた潤滑性を示した。さらに、試験番号1〜13の超硬工具と被削材との凝着量比は2.0以下であり、凝着の抑制に優れていた。
2 焼結体
3 下窒化層
4 上窒化層
5 硬質保護層
Claims (3)
- WC、Co、TiC及びTaCからなる群から選択される2種以上からなり、少なくともWC及びCoを含有する超硬合金成分と、Al、Cr及びSiからなる群から選択される1種以上の特定元素と、Bとを含有し、前記超硬合金成分を100質量%とした場合に、前記特定元素の総含有量は0.03〜0.30質量%であり、前記Bの含有量は0.10〜1.00質量%である、窒化物生成成分とを含有する焼結体と、
前記焼結体表面に形成され、六方晶窒化ホウ素と、前記特定元素の窒化物とを含有する下窒化層と、
前記下窒化層上に形成され、立方晶窒化ホウ素と、六方晶窒化ホウ素と、前記特定元素の窒化物とを含有し、前記立方晶窒化ホウ素及び前記六方晶窒化ホウ素の合計含有量が70〜90質量%であり、前記特定元素の窒化物の含有量が10〜30質量%である、上窒化層とを備える、超硬工具。 - 請求項1に記載の超硬工具であって、
前記上窒化層は、前記下窒化層を備える前記焼結体を真空熱処理することにより形成される、超硬工具。 - 請求項1又は請求項2に記載の超硬工具であってさらに、
金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物及び金属酸化物からなる群から選択される1種以上を含有する硬質保護層を前記上窒化層上に備える、超硬工具。
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