JP2015110259A - 被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は上記のような事情に鑑み行われたものであり、高硬度な冷間工具鋼や超耐熱合金等の加工において、耐久性に優れる被覆切削工具を提供することを目的とする。
前記相互積層皮膜は、金属元素(半金属を含む)の総量に対し、Alの含有比率(原子%)が50%以上70%以下のAlとTiの窒化物または炭窒化物からなるb層と、
金属元素(半金属を含む)の総量に対し、Alの含有比率(原子%)が70%以上のAlとTiの窒化物または炭窒化物からなるc層とが交互に形成されたものであり、
前記b層と前記c層のAlの含有比率(原子%)の差が10%以上30%以下である被覆切削工具である。
前記相互積層皮膜の上に、前記b層または前記c層と組成が異なる窒化物または炭窒化物からなるd層を設けてもよい。前記d層は、金属元素の総量に対し、Tiの含有比率(原子%)が60%以上80%以下、Siの含有比率(原子%)が20%以上40%以下の窒化物または炭窒化物であることが好ましい。
b層は、相互積層皮膜の結晶構造の主体をfcc構造(fcc構造:面心立方格子構造)とするための皮膜である。b層のAlの含有比率(原子%)が70%よりも大きくなると相互積層皮膜の全体に含まれるhcp構造のAlNが増加して工具の耐久性が低下する。但し、b層のAlの含有比率(原子%)が50%よりも小さくなれば、相互積層皮膜の全体に含まれるAlの含有量が低下することで、耐熱性が低下するとともに、工具刃先への溶着が増加して、加工中の切削抵抗も増加する傾向にある。
相互積層皮膜のAlの含有比率(原子%)を高めつつ結晶構造をfcc構造主体として、被覆切削工具の耐久性を向上させるため、本発明のb層は、金属元素の総量に対し、Alの含有比率(原子%)が50%以上70%以下のAlとTiの窒化物または炭窒化物とする。
c層は、相互積層皮膜の耐摩耗性を高めるため、金属元素の総量に対し、Tiの含有比率(原子%)を5%以上とすることが好ましい。更には、Tiの含有比率(原子%)は10%以上とすることが好ましい。
b層とc層は、耐熱性が優れる皮膜種である窒化物であることがより好ましい。また、b層の膜厚をc層よりも厚膜とすることで、相互積層皮膜の結晶構造がfcc構造が主体となり易い傾向にある。
本発明の相互積層皮膜は、X線回折等で特定される結晶構造において、fcc構造に対応するピーク強度が最大であれば、hcp構造に起因するピークが確認されてもよい。本発明において、fcc構造が主体とは、例えば、X線回折においてfcc構造に対応するピーク強度が最大であることをいう。X線回折による結晶構造の同定が困難な場合、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた制限視野回折法によって結晶構造の同定することができる。
a層が、ナノビーム回折パターンがWCの結晶構造に指数付けされ、Wを含んだ炭化物であれば基材であるWC基超硬合金との親和性が強くなり密着性が優れると考えられる。また、a層がTiを含有することで、相互積層皮膜がfcc結晶構造となり易く工具の耐久性が改善されると考えられる。a層は、金属元素の総量に対してTiの含有比率(原子%)が10%以上25%以下であることが好ましい。
但し、a層が薄くなり過ぎたり、厚くなり過ぎれば基材との密着性を向上させるのに十分でない。よって、a層は1nm以上10nm以下とする。a層は2nm以上であることが好ましい。a層は5nm以下であることが好ましい。
a層は、工具刃先の透過型電子顕微鏡観察による断面観察、組成分析、ナノビーム回折パターンより確認することができる。
また、Tiボンバードの際に基材に印加する負のバイアス電圧およびターゲットへ投入する電流が低いとWおよびTiを含む炭化物が形成され難い。そのため、基材に印加する負のバイアス電圧は−1000V〜−700Vとすることが好ましい。また、ターゲットへ投入する電流は80A〜180Aとすることが好ましい。
ボンバードはアルゴンガス、窒素ガス、水素ガス、炭化水素系ガス等を導入しながら実施してもよいが、炉内雰囲気を1.0×10−2Pa以下の真空下で実施することで基材表面が清浄化され、更には拡散層が形成され易くなるため好ましい。
表1に成膜に用いたカソードおよびバイアス条件について示す。本発明のb層、c層を被覆するには、ターゲットの外周および背面に永久磁石を配備し、20.2mTの平均磁束密度のカソード(以下、C1、C2と記載する。)を用いた。メタルボンバード処理には、ターゲットの外周にコイル磁石を配備したカソード(以下、C3と記載する。)を用いた。
その後、炉内に窒素ガスを導入し、C1に電力を投入して、窒化物からなる硬質皮膜を約300nm被覆した。その後に、b層とc層の個々の膜厚が20nmになるようにC1とC2に電力を投入して、約2.5μmの相互積層皮膜を被覆して本発明例1〜3、比較例1を作製した。
比較例2〜4は単層皮膜からなるAlTiの窒化物を約2.5μm被覆して作製した。
EDSスペクトル分析およびナノビーム回折パターンから、本発明例のa層はWCの結晶構造に指数付けされ、タングステン(W)とチタン(Ti)を含有する炭化物であることを確認した。a層の膜厚は断面観察における5視野以上の平均から求めた。何れの試料もa層の膜厚は3nmであることを確認した。
比較例1〜3は、X線回折からfcc構造とhcp構造に起因するピークが確認され、hcp構造に起因するピークが最大強度を示した。本発明例1と比較例3の皮膜全体のAlの含有比率は同程度であるが、相互積層皮膜とした本発明例1はfcc構造が主体となり、一方で単層皮膜である比較例3はhcp構造が主体となった。
比較例4は、X線回折からfcc構造に起因するピークのみ確認された。
hcp構造に起因するピーク強度が確認されなかった本発明例3と比較例4は、他の試料に比べて硬度が高くなった。
<切削試験 条件1>
工具:ソリッドエンドミル
φ10×2枚刃(日立ツール株式会社製 HES2100)
基材:WC(bal.)−Co(11質量%)−TaC(0.4質量%)−Cr3C2(0.9質量%)、WC平均粒径0.6μm、硬度92.4HRAの超硬合金
切削方法:側面切削
被削材:質量%で、Ni−19%Cr−18.7%Fe−3.0%Mo−5.0%(Nd+Ta)−0.8%Ti−0.5%Al−0.03%Cの組成を有するNi基合金(時効硬化処理済み)
切込み:軸方向6mm、径方向0.3mm
切削速度:40m/min
一刃送り量:0.04mm/tooth
切削油:水溶性切削油
切削距離:0.2m
工具:インサート式ラジアスエンドミル
φ12×R2×3枚刃(日立ツール株式会社製)
基材:組成が、WC(bal.)−Co(8質量%)−TaC(0.25質量%)−Cr3C2(0.9質量%)であり、WC平均粒径0.6μm、硬度93.4HRAの超硬合金
カッター型番:ASRM−1012R−3−M6
インサート型番:EPHN0402TN−2
切削方法:底面切削
被削材:SKD11(60HRC)
切込み:軸方向0.15mm、径方向6mm
切削速度:180m/min
一刃送り量:0.4mm/tooth
切削油:エアーブロー
切削距離:25m
工具:インサート式ラジアスエンドミル
φ32×R8×5枚刃(日立ツール株式会社製)
基材:組成が、WC(bal.)−Co(8質量%)−TaC(0.25質量%)−Cr3C2(0.9質量%)であり、WC平均粒径0.6μm、硬度93.4HRAの超硬合金
カッター型番:ASRS2032R−5
インサート型番:EPMT0603EN−8LF
切削方法:底面切削
被削材:SUS304(180HB)
切込み:軸方向0.5mm、径方向22mm
切削速度:180m/min
一刃送り量:0.5mm/tooth
切削油:エアーブロー
切削距離:12.5m
比較例1は、Al含有量が多いfcc構造が主体の相互積層皮膜であるが、相互積層皮膜を構成する個々の皮膜のAl含有量の差が大きいためb層とc層の整合性が悪く、切削中の機械的負荷に皮膜の強度が耐えられずに破壊損傷した。
比較例2、3はhcp構造が主体の単層皮膜であり、切削中の機械的負荷に皮膜の強度が耐えられずに破壊損傷した。
比較例4は安定なfcc構造であり硬度も高いが、皮膜中のAl含有量が少ないため、本発明例に比べて切削抵抗が高くなり工具摩耗が大きくなった。
本発明例20は、Tiボンバード処理後に、炉内に窒素ガスを導入し、個々の膜厚が20nmになるようにC1とC2に電力を投入して、a層の直上に約2.5μmの相互積層皮膜を直接被覆した。
本発明例21は、Tiボンバード処理後に、炉内に窒素ガスを導入し、C1に電力を投入して、約300nmの窒化物からなる硬質皮膜を被覆した後に、個々の膜厚が20nmになるようにC1とC2に電力を投入して、約2.5μmの相互積層皮膜を被覆した。
本発明例22は、Tiボンバード処理後に、炉内に窒素ガスを導入し、C2に電力を投入して、約300nmの窒化物からなる硬質皮膜を被覆した後に、個々の膜厚が20nmになるようにC1とC2に電力を投入して、約2.5μmの相互積層皮膜を被覆した。
比較例20は、Tiボンバード処理をせずに、Arプラズマによるクリーニングを行った後に炉内に窒素ガスを導入し、基材の直上に個々の膜厚が20nmになるようにC1とC2に電力を投入して、約2.5μmの相互積層皮膜を被覆した。
そして、実施例1の条件3と同じ条件で切削試験を実施した。試験結果を表5に示す。
本発明例21、22は、a層と個々の膜厚が50nm以下の相互積層皮膜の間に、膜厚が200nmのb層またはc層を設けた皮膜構造であるが、a層を設けていない比較例に比べて最大摩耗幅が小さくなることが確認された。
一方、比較例20は、相互積層皮膜は本発明例20と同じであるが、a層を設けていないため工具刃先の最大摩耗幅が大きくなった。
本発明例1の上にTi75Si25Nを設けた試料を、本発明例30とした。本発明例3の上にTi75Si25Nを設けた試料を、本発明例31とした。比較例3の上にTi75Si25Nを設けた試料を、比較例30とした。そして、実施例1と同様の試験条件で評価した。
試験結果を表6に示す。
Claims (4)
- 基材と、前記基材の上に配置され、ナノビーム回折パターンがWCの結晶構造に指数付けされ、WとTiを含有する炭化物からなるa層と、前記a層の上に配置される相互積層皮膜と、を有し、
前記a層は、膜厚が1nm以上10nm以下であり、
前記相互積層皮膜は、金属元素(半金属を含む)の総量に対し、Alの含有比率(原子%)が50%以上70%以下のAlとTiの窒化物または炭窒化物からなるb層と、
金属元素(半金属を含む)の総量に対し、Alの含有比率(原子%)が70%以上のAlとTiの窒化物または炭窒化物からなるc層とが交互に形成されたものであり、
前記b層と前記c層のAlの含有比率(原子%)の差が10%以上30%以下である被覆切削工具。 - 前記b層と前記c層の個々の膜厚は50nm以下である請求項1に記載の被覆切削工具。
- 前記相互積層皮膜の上に、前記b層または前記c層と組成が異なる窒化物または炭窒化物からなるd層を設けた請求項1または2に記載の被覆切削工具。
- 前記d層は、金属元素(半金属を含む)の総量に対し、Tiの含有比率(原子%)が60%以上80%以下、Siの含有比率(原子%)が20%以上40%以下の窒化物または炭窒化物である請求項3に記載の被覆切削工具。
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