JP6928221B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
そして、被覆工具の切削性能改善を目的として、従来から、数多くの提案がなされている。
−Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W;
からなる化学元素群の少なくとも一種類の元素であり、AXが、元素周期表の、
− H、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr;及び
− Be、Ca、Sr、Ba;及び
− Mn、Tc、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Sc、Y、La、Ac;及び
− ランタノイド系の元素;
からなる化学元素群の少なくとも一種類の元素であり、0.004≦m<60、及び0.4≦a≦58、及び0.04≦b≦12、及び18≦c≦42、4≦d≦54、kは最大で24である〕が提案されている。
そして、特に、段落0021には、アルミニウム(Al)の割合を0.4≦a≦58に限定し、同時にマグネシウム(Mg)の割合を0.04≦b≦12に限定し、クロム(Cr)の割合を、18≦c≦42に限定することにより、硬質膜についての硬度、残留圧縮応力、耐酸化性、及び1200℃以上までの温度での相安定性が著しく改良されると記載されている。
前記特許文献1〜3で提案されている従来被覆工具においては、これを、炭素鋼や合金鋼などの通常の切削条件での切削加工に用いた場合には、特段の問題は生じないが、Ti基合金などの難削材の切削加工に用いた場合には、切削時の発熱によって被削材および切粉は高温に加熱されて粘性が増大し、これに伴って、被覆工具の硬質被覆層表面に対する溶着性が一段と増すようになり、その結果、切刃部における溶着、チッピングの発生が急激に増加し、これが原因で比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体あるいは高速度工具鋼等からなる工具基体の表面に、AlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を設けた被覆工具は、高温硬さと耐酸化性を備えることから耐摩耗性にすぐれる被覆工具としてよく知られている。
本発明者らは、前記AlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層を被覆した被覆工具において、切削加工時の硬質被覆層の潤滑性を高め、被削材と硬質被覆層とが潤滑膜を介して接触するようにすることで、熱伝導率が低く、工具材料との化学親和性の高い被削材であるTi基合金などの難削材への切削工具としての適用性を高めることができ、その結果、Ti基合金などの難削材の高能率切削加工において、溶着、チッピング等の発生を防止することができるとともに、長期の使用にわたって、すぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を得られることを見出した。
まず、被削材であるTi基合金への固溶度が低いBを硬質被覆層構成成分として特定量含有させることにより、熱伝導率が低いTi基合金の切削加工に際し、硬質被覆層が高温状態となって硬質被覆層表面が酸化した際、融点が約450℃の酸化硼素を形成し、これが切削加工時の発熱によって液化することで硬質被覆層表面に潤滑性を付与することができる。
さらに、硬質被覆層構成成分として特定量のAgあるいはさらに特定量のWを含有させることによって、硬質被覆層が高温状態になった際に、前記酸化硼素に加えて、融点が約100℃の酸化銀、あるいは、550℃以上で潤滑性を有するマグネリ相WnO3n−1を生成し、さらにマグネリ相は680℃で融点となるため(G.Gassner et al.「Surface & Cortings Technology」201 (2006) 3335 - 3341参照)、これらが切削加工時の発熱によって液化することで硬質被覆層表面に潤滑性を付与することができる。
このように、硬質被覆層表面で、融点あるいはマグネリ相の生成温度がそれぞれ異なる酸化物が低温から高温までの幅広い温度領域において、硬質被覆層表面に潤滑性を付与することができる。
「(1)炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体および高速度工具鋼のいずれかからなる工具基体の表面に、硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層は、少なくとも、AlとCrとBとWとAgの複合窒化物層を含み、
前記複合窒化物を、
組成式:(AlaCr1−a−b−c−dBbWcAgd)N
で表したとき、0.4≦a≦0.85、0.005≦b≦0.1、0≦c≦0.1、
0.005≦d≦0.05(ただし、a、b、c、dは、いずれも原子比)を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記組成式:(AlaCr1−a−b−c−dBbWcAgd)NにおけるAlの含有割合aは、0.55≦a≦0.68を満足することを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
本発明の硬質被覆層は、少なくとも、AlとCrとBとWとAgの複合窒化物(以下、「(Al,Cr,B,W,Ag)N」で示す場合がある)層を含むが、(Al,Cr,B,W,Ag)N層の平均層厚が0.5μm未満の場合には、長期の使用にわたって十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、平均層厚が10μmを超えると、チッピング、欠損等の異常損傷を発生する恐れがあるので、(Al,Cr,B,W,Ag)N層の平均層厚は、0.5〜10μmとすることが望ましい。
(Al,Cr,B,W,Ag)N層を構成する成分の組成を、
組成式:(AlaCr1−a−b−c−dBbWcAgd)N
で表したとき、0.4≦a≦0.85(好ましくは、0.55≦a≦0.68)、0.005≦b≦0.1、0≦c≦0.1、0.005≦d≦0.05(ただし、a、b、c、dは、いずれも原子比)を満足することが必要であるが、これは次の理由による。
しかし、Al成分の含有割合aが0.4未満では、Alの含有割合が少なくなり過ぎて、所望のすぐれた高温硬さおよび耐熱性を確保することができず、一方、Al成分の含有割合aが0.85を超えると、Crの含有割合が少なくなりすぎて急激に高温強度が低下し、切刃にチッピング(微小欠け)などが発生し易くなるとともに、六方晶構造の相が生成され高温硬さも低下することから、Al成分の含有割合aは、0.4≦a≦0.85と定める。
なお、耐溶着性、耐チッピング性を維持しつつ、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するためには、0.55≦a≦0.68を満足することが好ましい。
そして、前記酸化物は、それぞれが異なる温度で液化し(酸化硼素は約450℃、酸化銀は約100℃、酸化タングステンは約680℃でそれぞれ液化する)、また、550℃以上でWの酸化物は潤滑性を有するマグネリ相を生成するため、切削加工に際して、低温から高温までの幅広い温度領域において、硬質被覆層表面に潤滑性を付与することができる。
ただ、B成分の含有割合b及びAgの含有割合dが0.005未満では、十分な酸化物が形成されないため潤滑性向上効果が十分ではない。
一方、B成分の含有割合bが0.1を超える場合には、脆化するため、チッピングが発生しやすくなる。
また、Agの含有割合dが0.05を超える場合には、硬さが低下する。
よって、B成分の含有割合b及びAgの含有割合dは、0.005≦b≦0.1、0.005≦d≦0.05とする。
ただ、W成分の含有割合cが0.1を超えると、硬質被覆層の硬さは低下し、耐摩耗性が低下することから、W成分の含有割合cは、0≦c≦0.1とする。
しかし、Ti基合金等の難削材の高能率切削加工において、前記特許文献3に開示されているMgを含有する硬質被覆層を被覆形成した被覆工具を用いると、切削加工時の高熱により生成した酸化マグネシウム(MgOの融点約2850℃)と、被削材であるTi基合金の酸化によって生じた酸化チタン(TiO2の融点約1850℃)との摩擦係数が大きいために、硬質被覆層の潤滑性向上を図ることができないばかりか、摩擦によって硬質被覆層が損傷を受け、チッピング、欠損、剥離等が発生しやすくなるため、工具寿命はむしろ短命化する。
したがって、本発明の硬質被覆層は、酸化マグネシウムの生成等による硬質被覆層の損傷を防止し、工具の長寿命化を図るために、その構成成分としてのMg含有を避けなければならない。
(a)まず、炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体または高速度工具鋼のいずれかで構成された工具基体を洗浄・乾燥した状態で、AIP装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着する。
(b)装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、0.5〜2.0PaのArガス雰囲気に設定し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200〜−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによって5〜30分間ボンバード処理する。
(c)ついで、装置内を10−2Pa以下の真空に保持しながら、また、ヒーターで装置内を、620℃〜650℃の温度に維持する。次いで、装置内に配置した所定組成のAl−Cr−B−W−Ag合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極の間に、例えば、電流:110Aの条件でアーク放電を発生させ、同時に装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して、例えば、3Paの反応雰囲気とし、一方、前記工具基体には、例えば、−50Vのバイアス電圧を印加した条件で蒸着することにより、前記工具基体の表面に、目標組成、目標平均層厚の(Al,Cr,B,W,Ag)N層を形成する。
上記工程(a)〜(c)により、本発明の被覆工具を作製することができる。
以下の実施例では、本発明の被覆工具をフライス加工で使用した場合について説明するが、旋削加工、ドリル加工等で用いることを何ら排除するものではない。
また、工具基体としては、WC基超硬合金を用いた場合について説明するが、TiCN基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体、高速度工具鋼を工具基体として用いた場合であっても同様の効果が得られる。
(b)まず、装置内を排気して真空に保持しながら、ヒーターで工具基体を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加して、工具基体表面をアルゴンイオンによって5〜30分間ボンバード洗浄し、
(c)ついで、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表2に示す窒素圧とし、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体の温度を表2に示す温度範囲内に維持するとともに表2に示す直流バイアス電圧を印加し、かつ前記Al−Cr−B−W−Ag合金ターゲットとアノード電極との間に表2に示すアーク電流を流してアーク放電を発生させて(Al,Cr,B,W,Ag)N層を蒸着形成することにより、表3に示す硬質被覆層を備えた本発明被覆工具(以下、本発明工具という)1〜7を作製した。
即ち、本発明工具1〜7の(Al,Cr,B,W,Ag)N層について、工具基体表面と平行方向に20μmの観察範囲において、上部層縦断面に対して0.01μm以下の空間分解能の元素マッピングを行い、被覆した(Al,Cr,B,W,Ag)N層の組成を測定した。
さらに、(Al,Cr,B,W,Ag)N層の平均層厚を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した。
表3に、これらの測定値をそれぞれ示す。
また、参考のために、前記特許文献3に示される成分組成を満足する硬質被覆層(具体的には、(Al,Mg,Cr,B,W,Ag)N層)をアークイオンプレーティング法で形成した従来被覆工具(以下、従来工具という)を作製した。
また、従来工具についても、硬質被覆層の組成分析、平均層厚の測定を行った。
表5に、これらの値をそれぞれ示す。
断続切削の一種である湿式正面フライス、センターカット切削加工試験を実施し、切れ刃の損傷状況を観察した。
切削試験:湿式正面フライス、センターカット切削加工、
被削材:JIS・Ti−6Al−4V合金(60種) ブロック材
幅60mm、長さ250mm、
カッタ径:85mm、
切削速度:64m/min.、
切り込み:3mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:14分、
表6に、前記切削試験の結果を示す。
これに対して、比較工具1〜7は、硬質被覆層の潤滑性が十分でないため、溶着、チッピング発生によって、工具寿命が短命である。
また、従来工具は、必須の成分としてMgを含有しているため、切削初期段階で切削抵抗が増加し、欠損に至った。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメット、立方晶窒化硼素焼結体および高速度工具鋼のいずれかからなる工具基体の表面に、硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
前記硬質被覆層は、少なくとも、AlとCrとBとWとAgの複合窒化物層を含み、
前記複合窒化物を、
組成式:(AlaCr1−a−b−c−dBbWcAgd)N
で表したとき、0.4≦a≦0.85、0.005≦b≦0.1、0≦c≦0.1、
0.005≦d≦0.05(ただし、a、b、c、dは、いずれも原子比)を満足することを特徴とする表面被覆切削工具。 - 前記組成式:(AlaCr1−a−b−c−dBbWcAgd)NにおけるAlの含有割合を表すaは、0.55≦a≦0.68を満足することを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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