JP5999362B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents

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Description

この発明は、TiCN基サーメットとWC基超硬合金の複合焼結体を工具基体とする耐異常損傷性に優れた表面被覆切削工具(以下、「被覆工具」という)に関するものである。
鋼や鋳鉄の切削加工用工具としては、WC基超硬合金が広く利用されているが、希少金属であるタングステンの使用量を削減し所望の切削性能を得るために、従来から各種の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、刃先部分を超硬合金で作製し、これを超硬合金の台金に着脱可能に嵌合支持させたスローアウェイチップが提案されており、この構造によって、1切刃当たりの価格と資源の削減を図ることが記載されている。
また、例えば、特許文献2には、中央部に空洞部を形成したスローアウェイチップの空洞部に挿入体を嵌合させ、該挿入体とともにスローアウェイチップをバイトホルダに固定する切削工具が提案されており、この工具によれば、挿入体は切削作用には直接関与しないため、安価な材料を使用することができ、高価なタングステン等の使用量を低減できることが記載されている。
また、例えば、特許文献3には、超硬合金粉末とサーメット粉末からそれぞれプレス成形体を形成し、このプレス成形体を積層して、真空雰囲気で1300〜1500℃×0.5〜3時間保持する焼結を行って工具基体を作製するにあたり、超硬合金層とサーメット層との境界の凹凸状態を特定の範囲とし、あるいは、両層の結合相量を特定の範囲に調整することにより、超硬合金とサーメットの接合性を高め、また、焼結時に生じる変形を抑制し、被覆工具の耐摩耗性と靭性を改善することが記載されている。
特開昭58−4302号公報 特開昭57−8003号公報 国際公開第2009/034716号
上記特許文献1、2に示すような、刃先が着脱可能な切削工具では、タングステン使用量の低減は図られるものの、この切削工具を、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する断続切削条件で使用した場合には、嵌合強度が不十分であるため、十分な切削特性が得られず、また、靭性が足りないため繰り返し使用をすると、台金が穴部分から破壊を生じるという問題点があった。
また、上記特許文献3に示す超硬合金とサーメットからなる複合焼結体において、超硬合金層とサーメット層との境界に凹凸を形成する必要があるばかりか、焼結時の変形が少ない複合焼結体を得るためには、プレス体の焼結時の収縮特性が異種材料間で揃っている必要があり、そのため、かかる複合焼結体から作製した切削工具では、タングステン使用量の低減はせいぜい30%程度に留まっており、省資源の観点からは十分満足できるものではないばかりか、湿式断続切削などの激しい熱履歴を受ける切削条件下では、クラックの進展等により刃先の超硬合金が破壊する恐れがあり、十分な信頼性があるとはいえなかった。
そこで、本発明では、TiCN基サーメットとWC基超硬合金からなる複合焼結体を工具基体とする被覆工具において、希少金属であるタングステンの使用量の低減を図るとともに、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する断続切削に用いた場合でも、クラック進展抑制作用を備え、耐異常損傷性に優れた被覆工具を提供することを目的とする。
本発明者等は、上述のような観点から、TiCN基サーメットとWC基超硬合金からなる複合焼結体を工具基体とし、これに硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具について、タングステン使用量の低減を図るとともに、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する断続切削に用いた場合でも、クラックの伝播・進展抑制作用に優れ、もって、長期の使用に亘ってチッピング、欠損、剥離等の異常損傷を発生しない被覆工具について鋭意検討したところ、次のような知見を得た。
工具基体を構成するTiCN基サーメットとWC基超硬合金の複合焼結体を作製するにあたって、焼結条件を適切に選定することによって、TiCN基サーメットとWC基超硬合金の界面部分においては、TiCN基サーメット側から界面に向かって鉄族金属含有量が漸次減少する濃度勾配となる界面構造を形成するとともに、また、すくい面を構成するWC基超硬合金と硬質被覆層の界面部分においては、WC基超硬合金側の界面近傍位置における鉄族金属成分の含有量を、WC基超硬合金内部のそれの1.2〜3.0倍とする鉄族金属富化層を形成することによって、すくい面の刃先の先端部から1mm以内の領域における鉄族金属富化層のWCの圧縮残留応力値を、鉄族金属富化層と界面をなす硬質被覆層の圧縮残留応力値以上とし、WC基超硬合金内部の圧縮残留応力値以下とすることができる。
そして、上記のようなTiCN基サーメット−WC基超硬合金間における界面構造の形成、さらに、WC基超硬合金−硬質被覆層間における鉄族金属富化層の形成によって、TiCN基サーメットとWC基超硬合金との界面部分の靭性低下を防止しつつ、熱衝撃等による刃先の破損を防止し得ることができるとともに、さらに、WC基超硬合金の鉄族金属富化層において、十分な硬さを保持したままでクラックの伝播・進展を防止することができる。
その結果、上記複合焼結体を工具基体とする被覆工具においては、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する断続切削においても、クラックの伝播・進展が防止され、長期の使用に亘って、すぐれた耐異常損傷性、耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) TiCN基サーメットとWC基超硬合金との複合焼結体からなる工具基体に、硬質被覆層が被覆形成された表面被覆切削工具において、
(a)上記複合焼結体は、その成分元素として少なくとも6〜25原子%の鉄族金属成分を含有するTiCN基サーメットと、鉄族金属成分を6〜20原子%、Ti、Zr、Nb及びTaのうちから選ばれる少なくとも一種以上の成分を2〜15原子%含有し、残部はWCを主成分とするWC基超硬合金とで構成され、
(b)上記TiCN基サーメットの表面には、0.3〜1.0mmの平均厚みで上記WC基超硬合金からなる刃先材料によりすくい面が形成され、また、該WC基超硬合金からなる刃先材料の表面には、厚さ8〜30μmの範囲に亘って、鉄族金属の含有量が富化された鉄族金属富化層が形成され、該鉄族金属富化層の表面には、少なくとも一層以上の硬質被覆層が被覆形成され、
(c)すくい面の刃先の先端部から1mmの位置であって、かつ、すくい面のWC基超硬合金と硬質被覆層の界面部分においては、該界面からWC基超硬合金側に5μmの位置における鉄族金属成分の含有量は、該界面からWC基超硬合金側に100μmの位置における鉄族金属成分の含有量の1.2〜3.0倍であり、
(d)上記TiCN基サーメットとWC基超硬合金の界面部分においては、TiCN基サーメット側から界面に向かって鉄族金属の含有量が漸次減少する濃度勾配が形成され、かつ、上記界面からTiCN基サーメット側に5μmの位置における鉄族金属成分の含有量は、上記界面からTiCN基サーメット側に100μmの位置における鉄族金属成分の含有量の0.1〜0.7倍であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)前記(1)に記載の硬質被覆層がいずれも化学蒸着されたものであり、WC基超硬合金に接して3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を備え、該Ti化合物層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、少なくとも3μm以上の合計平均層厚を有する炭窒化物層を1層以上含み、該Ti化合物層の表面に0.8〜10.0μmの平均層厚のAl層を有し、1層以上のTi炭窒化物層に圧縮残留応力が発生しており、かつAl層に圧縮残留応力が発生していることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)すくい面の刃先の先端部から1mm以内の領域における上記鉄族金属富化層のWCの平均圧縮残留応力値が0.10〜2.00GPaであり、さらに、この値が、Ti炭窒化物層の平均圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上大きく、また、上記鉄族金属富化層と硬質被覆層との界面からWC基超硬合金側に100μmの位置におけるWCの平均圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上小さいことを特徴とする前記(2)に記載の表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
以下、この発明について、詳細に説明する。
図1に、この発明の被覆工具の概略模式図を示す。
図1に示すように、この発明の被覆工具は、工具基体全体をWC基超硬合金で構成するのではなく、TiCN基サーメットを母体とし、そのすくい面に、WC基超硬合金からなる刃先材料を形成した複合焼結体を工具基体とし、この上に、例えば、化学蒸着法により、硬質被覆層が被覆形成された構造を備えている。
この発明の被覆工具の製造方法の詳細については、後記するが、その概略は以下のとおりである。
まず、所定組成のTiCN基サーメット粉末と、同じく所定組成のWC基超硬合金粉末を用意し、これらの粉末をプレスすることで、複合プレス体を作製し、ついで、この複合プレス体を、昇温温度、昇温速度等を制御しながら焼結して複合焼結体を作製し、ついで、得られた複合焼結体を所定の形状に加工することにより工具基体を作製し、ついで、例えば、化学蒸着法により、Ti化合物層、Al層等の硬質被覆層を蒸着形成することにより製造される。
TiCN基サーメットの成分組成:
この発明で用いられるTiCN基サーメットは、TiCNを主たる硬質成分とし、鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)を主たる結合相成分とするサーメットであるが、その他に、サーメットに通常含有される成分、例えば、TiN、TiC、ZrC、NbC、TaC、WC、MoC等、については通常含有される範囲内で含有させることができる。
ただ、図2に示すようにWC基超硬合金とTiCN基サーメットの界面において、TiCN基サーメット側から上記界面に向かって鉄族金属含有量が漸次減少する濃度勾配となる界面構造を形成(図2(a)参照)することにより、WC基超硬合金との熱膨張係数差を低減(図2(b)参照)し、WC基超硬合金との接合性を高めるためには、TiCN基サーメット中に含有される鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)については、WC基超硬合金中に含有される鉄族金属の含有量にもよるが、6〜25原子%、特に8〜12原子%であることが望ましい。またTiCN基サーメット中に含有されるWについては8.0原子%以下、特に4原子%以下であることが望ましい。
これは、TiCN基サーメット中に含有されるW含有量が高すぎると、後記するように、液相に溶解した超硬合金由来のWが濃度勾配によってTiCN基サーメット側に拡散し難くなり、また、サーメット内全域でTiCNが膨張するために、「超硬合金-サーメット界面付近のTiCN粒のみを粒成長させる」ということが出来なくなり、鉄族金属富化層における鉄族金属含有量の分布が形成できなるという理由によるものである。
WC基超硬合金の成分組成:
すくい面の刃先材料を構成するWC基超硬合金は、主たる硬質成分であるWCと主たる結合相成分である鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)とで構成される。結合相成分は、硬質相成分と強固に結合し、工具基体の強度および靭性を向上させる作用があるが、その含有量が6原子%未満では前記作用に所望の効果が得られず、また、後述する鉄族金属富化層に関して所望の層を得ることが難しい。一方、その含有量が25原子%を越えると、耐摩耗性が低下するようになることから、結合相成分である鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)の含有量合計は、6〜25原子%とする。
また、Ti、Zr、NbおよびTaの各成分は、炭化物、窒化物、炭窒化物等を形成して、WC基超硬合金の硬さを高め、耐摩耗性を向上させる作用があるが、これらの硬質相成分の含有量が2原子%未満では所望の耐摩耗性向上効果が得られず、一方その含有量が15原子%を越えると靭性が低下するようになることから、Ti、Zr、NbおよびTaの各成分の含有量合計は2〜15原子%とすることが必要である。
すくい面を構成する刃先材料としてのWC基超硬合金:
工具基体の母体であるTiCN基サーメットの表面のすくい面に、刃先材料として上記WC基超硬合金を0.3〜1.0mmの厚さで形成するが、厚さが0.3mm未満では、十分な強度と靭性を確保することができず、一方、その厚さが1.0mmを超えると、W使用量削減の効果が少なくなるばかりか、工具基体を複合焼結体で構成し、圧縮残留応力を付与したことによりもたらされる工具特性の向上効果が低減されることから、すくい面に、WC基超硬合金で構成する刃先材料の厚さは0.3〜1.0mmと定めた。
また、図1、図2に示すように刃先材料を構成する上記WC基超硬合金の表面(即ち、硬質被覆層側の表面)には、8〜30μmの厚さで鉄族金属富化層を形成するが、これは、刃先表面に形成された鉄族金属富化層が被覆工具の耐欠損性向上に寄与するという理由からである。
ただ、鉄族金属富化層の厚さが8μm未満では、その効果が小さく、一方、その厚さが30μmを超えると、硬さが低下するため長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮できなくなることから、鉄族金属富化層の厚さは、8〜30μmと定めた。
また、WC基超硬合金からなる刃先材料が形成されたすくい面上には、少なくとも一層以上の硬質被覆層が被覆形成されるが、ここで言う少なくとも一層以上の硬質被覆層とは、例えば、化学蒸着法により形成されるTi化合物層(TiN層、TiC層、TiCN層、TiCNO層等)やAl層等であるが、被覆する膜材質はこれらに限定されるものではなく、また、硬質被覆層の成膜法、層構造等についても制限されるものではない。
なお、Ti化合物層の合計平均層厚を3μm以上としたのは高温硬さを向上させるためであり、20μm以下とした理由は20μmを超えると耐剥離性が低下するためである。また、特に高温硬さに優れるTi炭窒化物層の合計平均層厚については3μm以上とすることで、十分な高温硬さを有するTi化合物層を得ることが出来る。なお、膜中へのクラック進展が問題となる場合には、複数のTiCN層を設けることでクラック進展を抑制することができる場合がある。
一方、Al層の層厚を0.8μm以上とした理由は十分な耐酸化性を確保するためであり、10.0μm以下とした理由は10.0μmを超えると耐剥離性が低下するためである。
以上の要件を満たす層構造としては、例えば下記のものが考えられる。
TiCNO(0.1μm)/TiCN(8μm)/TiCNO(0.1μm)
/Al(5μm)/TiN(0.1μm)
また、Ti炭窒化物層とAl層に圧縮残留応力を発生させる理由は膜中へのクラック進展の抑制のためであり、残留応力が圧縮の値であればクラック進展の抑制効果を発揮する。
また、すくい面の刃先の先端部から1mmの位置であって、かつ、すくい面のWC基超硬合金と上記硬質被覆層の界面部分においては、図2(a)に示すように該界面からWC基超硬合金側に5μmの位置における鉄族金属成分の含有量は、該界面からWC基超硬合金側に100μmの位置における鉄族金属成分の含有量の1.2〜3.0倍とする。
これは、界面からWC基超硬合金側に5μmの位置における鉄族金属成分の含有量が、該界面からWC基超硬合金側に100μmの位置における鉄族金属成分の含有量の1.2倍未満である場合には、クラックの進展を抑制する効果が十分でないため耐異常損傷性の向上を期待することができず、一方、3.0倍を超える場合には、十分な硬さが得られなくなり、耐塑性変形性が低下するため、加工精度劣化の原因となったり、耐摩耗性低下の原因となるという理由による。
また、図2(a)に示すように、上記WC基超硬合金からなる刃先材料とTiCN基サーメットとの界面においては、TiCN基サーメット側から界面に向かって鉄族金属の含有量が漸次減少する濃度勾配を形成するとともに、上記界面からTiCN基サーメット側に5μmの位置における鉄族金属成分の含有量が、上記界面からWC基超硬合金側に100μmの位置における鉄族金属成分の含有量の0.1〜0.7倍となるようにする。
これは、界面からTiCN基サーメット側に5μmの位置における鉄族金属成分の含有量が、界面からWC基超硬合金側に100μmの位置における鉄族金属成分の含有量の0.1倍未満であると、その領域の靭性が低くなりすぎるために、大きな衝撃が作用する切削加工時に破壊を生じる恐れがあり、一方、0.7倍を超えると、TiCN基サーメットとWC基超硬合金との熱膨張差が大きくなり、熱衝撃が発生する切削加工では、刃先のWC超硬合金が破壊する恐れがあるという理由による。
図2(b)に、熱膨張率の変化の概略を示す。
TiCN基サーメット−WC基超硬合金(鉄族金属富化層)−硬質被覆層間のそれぞれの界面における鉄族金属含有量を前記のように調整することによって、すくい面の刃先の先端部から1mm以内の領域における鉄族金属富化層のWCの圧縮残留応力値を0.10〜2.00GPaとすることができるとともに、さらに、この値が、Ti炭窒化物層の圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上大きく、また、上記鉄族金属富化層と硬質被覆層との界面からWC基超硬合金側に100μmの位置におけるWCの圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上小さくなるような圧縮残留応力の分布を形成することができる。
そして、TiCN基サーメットとWC基超硬合金の界面においてこのような鉄族金属含有量分布を形成することによって、TiCN基サーメットとWC基超硬合金の熱膨張率差の急激な変化を避けることで高負荷が作用する切削条件下においても、TiCN基サーメットとWC基超硬合金界面での剥離発生を防止することができる。また、硬質被覆層のTi炭窒化物層から基体に向かうクラックの進展を鉄族金属富化層で抑制阻止することができる。さらに、WC基超硬合金に圧縮応力が発生していることで、鉄族金属富化層にクラックが発生した際にも基体までの進展を抑制することができるため、ダクタイル鋳鉄等の高速断続切削加工において、すぐれた耐異常損傷性を示す。
即ち、すくい面の刃先の先端部から1mm以内の領域における鉄族金属富化層のWCの圧縮残留応力値が0.10GPa未満、あるいは、この値がTi炭窒化物層の圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上大きな値でない場合には、Ti炭窒化物層からのクラックの進展を抑制阻止することができない。すなわち、鉄族金属富化層の圧縮残留応力値がTi炭窒化物層の圧縮残留応力より十分大きい場合は、Ti炭窒化物層にクラックが入った際にも鉄族金属富化層がクラック進展を止めることができるが、鉄族金属富化層の圧縮残留応力値が小さい、あるいはTi炭窒化物層の圧縮残留応力値よりも十分大きくない場合にはこのような効果は現れない。なお、この効果は鉄族金属富化層とTiCN層との間に、TiN層やTiCNO層などが介在形成された場合においても、ほぼ影響を受けない。これは硬質被覆層の厚みはWC基超硬合金の厚みに対して非常に小さいために、それぞれの被膜に発生する応力は基体との熱膨張率の差によって決定されるためである。
一方、すくい面の刃先の先端部から1mm以内の領域における鉄族金属富化層のWCの圧縮残留応力値が2.0GPaを超える場合、圧縮残留応力が大きすぎるために断続切削時に被膜の剥離を生じる恐れがある。
また、すくい面の刃先の先端部から1mm以内の領域における上記鉄族金属富化層のWCの平均圧縮残留応力値が上記鉄族金属富化層と硬質被覆層との界面からWC基超硬合金側に100μmの位置におけるWCの平均圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上小さな値でない場合、鉄族金属富化層にクラックが発生した際には基体内部までクラックが進展し、欠損を生じ易くなる。
よって、鉄族金属富化層のWCの圧縮残留応力値を0.10〜2.00GPaとするとともに、さらに、この値が、Ti炭窒化物層の圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上大きく、かつ、鉄族金属富化層と硬質被覆層との界面からWC基超硬合金側に100μmの位置におけるWCの圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上小さくなるような圧縮残留応力の分布を形成することが必要である。
図2(c)に、(圧縮)残留応力分布の概略を示す。
なお、Al層の引張応力の緩和や、表面の平滑化を目的としてブラスト等の処理を行うことが一般的に行われているが、本発明被覆工具にこれらの処理を施しても良い。
今までに述べてきたような鉄族金属含有量分布形態(図2(a)参照)、圧縮残留応力分布形態(図2(c)参照)を備える被覆工具は、例えば、以下のような製造方法により作製することができる。
まず、所定量の鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)粉末、TiCN粉末、その他、サーメットに通常含有される成分、例えば、TiN、TiC、ZrC、NbC、TaC、WC、MoC、等の粉末を配合したTiCN基サーメット原料粉末を用意する。
また、所定量の鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)粉末、WC粉末に加え、所定の組成となるようにTi、Zr、Nb及びTaの内の少なくとも1種以上からなる炭化物粉末、窒化物粉末、炭窒化物粉末を配合したWC基超硬合金原料粉末を用意する。
上記TiCN基サーメット原料粉末と上記WC基超硬合金原料粉末を積層プレスして、複合プレス体を作製する。
ついで、上記複合プレス体を真空中にて焼結するが、室温より1280℃までは5℃/minで昇温し、液相が出現する1280℃から1380℃までの温度域を30℃/min以上の昇温速度で高速昇温し、1380℃から所定の焼結温度(例えば、1400℃)までの昇温速度を5℃/minとし、所定の焼結温度で1時間保持後炉冷する。なお、窒化物(例えばTiN)を含有した超硬合金を真空中で焼結することにより鉄族金属富化層が形成される。この形成については下記(1)〜(3)のようなメカニズムが考えられる。
(1)真空焼結によって表面部ではTiNが分解し、Tiが液相(鉄族金属富化層が融解したもの)中に溶け込む。
(2)表面部のみがTi濃度が高くなる。この濃度分布を緩和するためにTiは表面から内部に移動し、液相は内部から表面に移動する。
(3)濃度分布を有したまま液相が凝固すると鉄族金属富化層が形成される。
ついで、得られた複合焼結体を所定形状に加工し、これを工具基体としてその表面に、例えば、化学蒸着法により硬質被覆層を蒸着形成することにより、所定の鉄族金属含有量分布形態及び所定の圧縮残留応力分布形態を備える本発明の被覆工具を作製することができる。
本発明で規定する所定の鉄族金属含有量分布形態、圧縮残留応力分布形態は、上記製造工程における下記(1)〜(6)のメカニズムによって形成されるものと推測される。
(1)超硬合金に液相が出現、収縮を開始するとともに、サーメット側に液相が浸み出す。
(2)液相に溶解した超硬合金由来のWが濃度勾配によってTiCN基サーメット側に拡散する。
(3)Wがサーメット側に拡散した場合、サーメットのTiCNに速やかに取り込まれ、TiCNを大きく膨張させつつリムを形成する。(TiCNがWを取り込むことで膨張する)
(4)サーメットの収縮が十分に進んでいた場合、TiCNが大きく膨張したことで液相は行き場を失い、超硬合金、もしくはサーメット側に移動する。
(5)サーメット側界面付近の液相の量が減少(1/10程度まで減少)するため、液相を介した相互拡散が抑制される。この時点までにサーメット側に流れ込んだWは内部から界面にかけて濃度分布を形成しており、それに伴ってTiCNの粒も内部から界面にかけて徐々に大きくなる。一方、TiCNが膨張すると液相が占有可能な体積は小さくなるため、液相量は内部から界面に掛けて徐々に減少する。
(6)この状態で冷却を行うと液相が凝固し、鉄族金属含有量分布形態が形成される。
すなわち(3)から(4)に至るまでの時間を調整することでサーメット側界面付近の濃度分布の大小を調整することが出来る。
前述のように、1280℃から1380℃を高速で昇温した場合には(3)から(4)に至る時間が短く、サーメット側に流入するWの量は限定的になり、超硬合金−サーメットの界面近傍のTiCNのみが大きく膨張する。そしてこれにともなって鉄族金属含有量分布が形成される。
しかし、例えば、上記製造工程において、液相が出現する1280℃から1380℃までの温度域を従来通り5℃/minで昇温し、所定の焼結温度で1時間保持後炉冷した場合には(3)〜(4)に至る時間が長い。この場合、サーメットの収縮が始まるまでに多量のWが流れ込むため、サーメット内全域でTiCNが膨張し、鉄族金属含有量分布は形成されない。
しかし、例えば、上記製造工程において、液相が出現する1280℃から1380℃までの温度域を従来通り5℃/minで昇温し、所定の焼結温度で1時間保持後炉冷した場合には、(1)から(5)に至る時間が長いために、TiCNは粒成長するものの緻密化が進行していないために液相の浸み出しを止めることが出来ない。よってサーメット側全体にWが拡散し、このような界面は形成されない。
従ってサーメット中のW量および、液相が出現してからサーメットが緻密化するまでの時間(すなわち当温度域での昇温速度)を調整することによって、TiCN基サーメットと超硬合金の界面において、所望の鉄族金属含有量分布形態を備える被覆工具を作製することができる。
本発明の被覆工具によれば、工具基体として、TiCN基サーメットとWC基超硬合金との複合焼結体を用い、該複合焼結体中の鉄族金属含有量分布を適正化するとともに、圧縮残留応力についても所定の分布形態を形成させていることにより、タングステン使用量を削減することが可能になる(一個当たり80%程度削減可)とともに、切れ刃に衝撃的・断続的な高負荷が作用するダクタイル鋳鉄等の断続切削加工において、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷を発生することなく長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することができる。
TiCN基サーメットとWC基超硬合金との複合焼結体を工具基体とする本発明被覆工具の縦断面概略模式図を示す。 本発明被覆工具の縦断面方向に沿った諸特性の変化を概略図示したものであり、(a)は、TiCN基サーメットとWC基超硬合金(鉄族金属富化層も含む)における鉄族金属の含有量変化の概略を示し、(b)は、TiCN基サーメット、WC基超硬合金(鉄族金属富化層も含む)及び硬質被覆層としてTiCN層とAl層を被覆した際の熱膨張係数の変化の概略を示し、(c)は、TiCN基サーメット、WC基超硬合金(鉄族金属富化層も含む)及び硬質被覆層としてTiCN層とAl層を被覆した際の残留応力の値の変化の概略を示す。
以下、この発明を実施例に基づいて、具体的に説明する。
(a) 表1に示す配合組成の平均粒径0.5〜3μmのTiCN基サーメット原料粉末を用意する。
また、表2に示す配合組成の平均粒径0.5〜3μmのWC基超硬合金原料粉末を用意する。
上記TiCN基サーメット原料粉末およびWC基超硬合金原料粉末を、表3に示す組合せでISOインサート形状CNGA120408の素材用金型で積層プレスし、複合プレス体を作製した。なお、WC基超硬合金原料粉末、TiCN基サーメット原料粉末、WC基超硬合金原料粉末の3層積層としている。例えば表3中の種別1では焼結後0.4mmになる量のWC基超硬合金原料粉末A、焼結後3.2mmになる量のTiCN基サーメット原料粉末A、焼結後0.4mmになる量のWC基超硬合金原料粉末A、を投入した。
ついで、この複合プレス体を、同じく表3に示す条件で焼結して複合焼結体を作製した。より具体的にいえば、複合プレス体を焼結温度にまで昇温するに際し、室温から1280℃までは5℃/minの昇温速度で昇温し、液相が出現する1280℃から1380℃までの温度域は、いずれも30℃/min以上の昇温速度で高速昇温し、1380℃から所定の焼結温度までは5℃/minの昇温速度で昇温し、10Paの真空中で所定の焼結温度に1時間保持後、冷却した。
ついで、得られた複合焼結体について、WC基超硬合金が刃先材料のすくい面となるように着座面、外周、ホーニング部を研削加工し、CNGA120408形状の複合焼結体からなる工具基体を作製した。
そして、上記複合焼結体からなる工具基体の表面に、表5に示す所定の硬質被覆層を表6に示す条件で化学蒸着法により蒸着形成することにより、所定の鉄族金属含有量分布形態及び所定の圧縮残留応力分布形態を備える本発明の被覆工具1〜16(以下、本発明工具1〜16という)を作製した。
ついで、上記本発明工具1〜16について、硬質被覆層とWC基超硬合金の界面から、WC基超硬合金側へ5μmの位置(これは、鉄族金属富化層の領域である)の層厚方向縦断面における鉄族金属含有量X(原子%)、また、同界面からWC基超硬合金側へ100μmの位置の層厚方向縦断面における鉄族金属含有量X(原子%)を測定するとともに、X/Xの値を求めた。
さらに、WC基超硬合金とTiCN基サーメットの界面から、TiCN基サーメット側へ5μmの位置の層厚方向縦断面における鉄族金属含有量Y(原子%)、また、同界面からWC基超硬合金へ100μmの位置の層厚方向縦断面における鉄族金属含有量Y(原子%)を測定するとともに、Y/Yの値を求めた。
表7に、これらの値を示す。
なお、具体的な測定手法は、以下のとおりである。すくい面のノーズR先端付近からインサートすくい面の中央に向かって1mmの位置を通過し、かつすくい面と垂直な直線(直線A)を含む平面でインサートのノーズR先端部を切断し#5000番の砥石で鏡面研磨仕上げした。直線Aに沿って超硬合金とサーメットの界面から±200μmの範囲で波長分散型の電子線マイクロアナライザ組成分析装置によるラインスキャンを行った。なお、ラインの幅は50μm、スポットサイズは2×2μmとし、X、X、Y、Yついては異なる3本のラインの測定の平均値を用いた。
ついで、WC基超硬合金中に含有されるTi、Zr、Nb及びTaの合計含有量を上記と同様に測定したところ、Ti、Zr、Nb及びTaの合計含有量は2〜15原子%であることを確認した。
ついで、Ti炭窒化物層の圧縮残留応力の値σ、Al層の圧縮残留応力の値σa、Ti炭窒化物層の圧縮残留応力の値σ、WC基超硬合金の鉄族金属富化層における圧縮残留応力の値σ、さらに、硬質被覆層とWC基超硬合金との界面からWC基超硬合金側へ100μmの位置における圧縮残留応力の値σを測定するとともに、σ、σ、σの大小関係を求めた。
表7に、これらの値を示す。
圧縮残留応力の具体的な測定法は、以下のとおりである。
最初に、この分析は、X、X、Y、Yの組成分析を行ったコーナとは別のコーナを用いた。測定にはCu管球を有するXRD装置を利用し、σとσについては硬質被覆層を残したまま測定する。なおX線の照射域をすくい面の刃先の先端部から1mm以内の領域とすることで、該領域における平均応力値を求めることができる。
まず、TiCN(4 2 2)のピークを用い、並傾法にて圧縮残留応力の値σを測定した。なお本測定では、複数の炭素と窒素の含有比率が近いTi炭窒化物層が存在する場合に、各Ti炭窒化物層の応力を完全に分離して測定できないことがある。しかしTiCN層に発生する残留応力は、基体(TiCN基サーメットとWC基超硬合金の複合焼結体)とTiCN層の熱膨張係数の差によって決定されることから、複数のTiCN層が存在する場合でも熱膨張係数が近ければ残留応力の大きさの差は小さいと考えられる。このため本測定の測定値をTi炭窒化物層の圧縮残留応力の値σとして差し支えは無い。
さらに、Alの(1 3 −4 10)のピークを用いてAl層の圧縮残留応力σaを測定した。
次に、WC(1 0 3)のピークを用いて並傾法にてWC基超硬合金の鉄族金属富化層における圧縮残留応力の値σを測定した。(なお、硬質被覆層の厚さが大きすぎる場合、WCのピークが検出されない場合があるが、この場合には#1500以上の番手の砥石を使用し、総層厚が12-15μmになるまで研磨してから#5000番で研磨し、測定を行えばよい。)
この測定の後、硬質被覆層とWC基超硬合金との界面からWC基超硬合金側#1500の砥石にて100μmの位置まで研磨、#5000番で鏡面研磨した後、WC(1 0 3)のピークを用いて並傾法にてWC基超硬合金の残留応力σを測定した。
さらに、刃先材料を構成するWC基超硬合金について、刃先材料の厚さと鉄族金属富化層の平均厚さを測定した。
表7に、これらの値を示す。
これらの厚さは、鉄族金属含有量X、X、Y、Yの組成分析を行った工具基体の研磨面を光学顕微鏡で観察して測定した。なお、異なる5点で厚み測定し、平均して平均厚みとした。
比較のため、表1に示す配合組成のTiCN基サーメット原料粉末および表2に示す配合組成のWC基超硬合金原料粉末を、表4に示す組合せで積層プレスし、複合プレス体を作製した後、この複合プレス体を、同じく表4に示す条件で焼結して複合焼結体を作製した。なお、表4の種別12、13については1280℃から1380℃までの温度域での昇温速度以外、表3の種別2、3と同じである。ついで、上記複合焼結体からなる工具基体の表面に、表5に示す所定の硬質被覆層を蒸着形成することにより、比較例の被覆工具1〜23(以下、比較例工具1〜23という)を作製した。ただし焼結後に破壊が見られたものについては硬質被膜の形成を行っておらず、以後の分析も実施していない。
次いで、本発明工具1〜16の場合と同様にして、比較例工具1〜16のうち、破壊が見られなかったものについて、硬質被覆層とWC基超硬合金の界面から、WC基超硬合金側へ5μmの位置の層厚方向縦断面における鉄族金属含有量X(原子%)、同界面からWC基超硬合金側へ100μmの位置の層厚方向縦断面における鉄族金属含有量X(原子%)を測定し、さらに、WC基超硬合金とTiCN基サーメットの界面から、TiCN基サーメット側へ5μmの位置の層厚方向縦断面における鉄族金属含有量Y(原子%)、同界面からTiCN基サーメット側へ100μmの位置の層厚方向縦断面における鉄族金属含有量Y(原子%)を測定し、X/Xの値、Y/Yの値を求めた。
また、硬質被覆層の圧縮残留応力の値σ、Al層の圧縮残留応力の値σa、WC基超硬合金の鉄族金属富化層における圧縮残留応力の値σ、さらに、硬質被覆層とWC基超硬合金との界面からWC基超硬合金側へ100μmの位置における圧縮残留応力の値σを測定し、σ、σ、σの大小関係を求めた。
さらに、刃先材料を構成するWC基超硬合金について、刃先材料の厚さと鉄族金属富化層の厚さを測定した。
表8に、これらの値を示す。
つぎに、上記本発明工具1〜14および比較例工具1〜23について、
被削材:JIS・FCD450の4溝スリット入り丸棒、
切削速度:450 m/min.、
切り込み:2.0 mm、
送り:0.30 mm/rev.、
切削時間:5分
の条件で、ダクタイル鋳鉄の湿式断続切削加工試験を行い、逃げ面摩耗量、あるいは、寿命に至るまでの切削時間を測定した。
表9に、試験結果を示す。


表7〜9に示される結果から、特に請求項1、2、3を満たす本発明工具2、3、4、9、13は、剥離、欠損の発生もなく耐摩耗性にすぐれ、長期の切削加工に耐える性能を示している。請求項1、2を満たす本発明工具1、11、12,16はクラックの進展抑制作用が小さいために、刃先部分のアルミナ被膜に剥離を生じており、このために逃げ面摩耗がやや進展している。また請求項1を満たす本発明工具5、6、7、8、10、14、15のうち、5はアルミナ被膜が厚すぎるために早期に剥離し、その結果逃げ面摩耗が進展している。6はアルミナ被膜が薄すぎるために早期に摩滅し、その結果耐摩耗性が不足したために逃げ面摩耗が進展している。7はTi化合物層が薄すぎるために高温硬さが不足し、逃げ面摩耗が進行している。8はTi化合物層が厚すぎるために早期に剥離し、逃げ面が大きく摩耗したために2.7minで切削継続不可となった。10、14はアルミナ被膜が無いために耐摩耗性が不足し、逃げ面摩耗が進展している。15はアルミナに引張応力が発生しており、刃先部分のアルミナ被膜に剥離を生じたために、逃げ面摩耗がやや進展している。
これに対して、比較例工具1〜16のうち、切削が可能であった2、3、4、5、6、7は、切削初期に刃先部分の超硬合金の剥離、欠損等の異常損傷が発生した。これらはいずれもWC基超硬合金とTiCN基サーメットとの接合面から発生しているものと思われた。一方比較例8、14については、いずれも切削初期に刃先に硬質被膜の微小剥離やチッピングが生じており、それぞれ鉄族金属富化層の靭性、厚さが不足していたためと思われた。15、16は逃げ面摩耗が進行しており、それぞれ鉄族金属富化層の硬さが不足していたこと、厚さが大きすぎたことが原因であろうと思われた。最後に比較例工具13については超硬合金から欠損しており、刃先に十分な圧縮応力が掛っていなかったために靭性が不足し、破壊につながったものと思われた。
複合焼結体を工具基体とする本発明の被覆工具は、希少金属であるタングステン使用量の低減を図り得るとともに、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する断続切削に用いた場合でも、クラック進展抑制作用を備え、剥離、欠損等の異常損傷を発生することなく、長期の使用にわたってすぐれた切削性能を発揮することができ、切削加工の省エネ化、低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (3)

  1. TiCN基サーメットとWC基超硬合金との複合焼結体からなる工具基体に、硬質被覆層が被覆形成された表面被覆切削工具において、
    (a)上記複合焼結体は、その成分元素として少なくとも6〜25原子%の鉄族金属成分を含有するTiCN基サーメットと、鉄族金属成分を6〜20原子%、Ti、Zr、Nb及びTaのうちから選ばれる少なくとも一種以上の成分を2〜15原子%を含有し、残部はWCを主成分とするWC基超硬合金とで構成され、
    (b)上記TiCN基サーメットの表面には、0.3〜1.0mmの平均厚みで上記WC基超硬合金からなる刃先材料によりすくい面が形成され、また、該WC基超硬合金からなる刃先材料の表面には、厚さ8〜30μmの範囲に亘って、鉄族金属の含有量が富化された鉄族金属富化層が形成され、該鉄族金属富化層の表面には、少なくとも一層以上の硬質被覆層が被覆形成され、
    (c)すくい面の刃先の先端部から1mmの位置であって、かつ、すくい面のWC基超硬合金と硬質被覆層の界面部分においては、該界面からWC基超硬合金側に5μmの位置における鉄族金属成分の含有量は、該界面からWC基超硬合金側に100μmの位置における鉄族金属成分の含有量の1.2〜3.0倍であり、
    (d)上記TiCN基サーメットとWC基超硬合金の界面部分においては、TiCN基サーメット側から界面に向かって鉄族金属の含有量が漸次減少する濃度勾配が形成され、かつ、上記界面からTiCN基サーメット側に5μmの位置における鉄族金属成分の含有量は、上記界面からTiCN基サーメット側に100μmの位置における鉄族金属成分の含有量の0.1〜0.7倍であることを特徴とする表面被覆切削工具。
  2. 請求項1に記載の硬質被覆層がいずれも化学蒸着されたものであり、WC基超硬合金に接して3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を備え、該Ti化合物層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、少なくとも3μm以上の合計平均層厚を有する炭窒化物層を1層以上含み、該Ti化合物層の表面に0.8〜10.0μmの平均層厚のAl層を有し、1層以上のTi炭窒化物層に圧縮残留応力が発生しており、かつAl層に圧縮残留応力が発生していることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
  3. すくい面の刃先の先端部から1mm以内の領域における上記鉄族金属富化層のWCの平均圧縮残留応力値が0.10〜2.00GPaであり、さらに、この値が、Ti炭窒化物層の平均圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上大きく、また、上記鉄族金属富化層と硬質被覆層との界面からWC基超硬合金側に100μmの位置におけるWCの平均圧縮残留応力値よりも0.05GPa以上小さいことを特徴とする請求項2に記載の表面被覆切削工具。








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