JP6451982B2 - 表面被覆切削工具 - Google Patents
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Description
化学蒸着法で硬質被覆層を蒸着形成した場合には、主に、工具基体と皮膜の熱膨張差によって、硬質被覆層には引張残留応力が発生するが、硬質被覆層にクーリングクラックとが形成されることによって、残留応力が緩和され、さらに、このクーリングクラックは、切削加工時に硬質被覆層に作用する衝撃的負荷を緩和するとともに、切削加工時に発生したクラックの進展・伝播を阻止する作用がある。
しかし、例えば、高速断続切削加工のように、切れ刃にかかる負荷が大きくなった場合には、クーリングクラック自体から亀裂の進展・伝播が生じ、チッピング、欠損を発生することがあり、また、これによって、硬質被覆層の剥離が発生し、工具寿命に至る場合がある。
そこで、従来から、クーリングクラックに起因する不都合を解消すべく、いくつかの提案がなされている。
また、上記特許文献3の被覆工具は、ダクタイル鋳鉄の高速断続切削において、突発的に被膜に非常に長い亀裂が入るとともに大面積に渡って剥離を生じ、寿命に至ることがあるため、耐異常損傷性が十分満足できるものであるとはいえない。
そこで、本発明は、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する高速断続切削に用いた場合でも、クラック進展抑制作用を備えるとともに、耐異常損傷性に優れた被覆工具を提供することを目的とする。
そして、化学蒸着法により硬質被覆層を被覆する場合に、その製法上、クーリングクラックの発生は避けられないものであるが、従来のような硬質被覆層全体にわたって網目状あるいは樹枝状に分布するクーリングクラックではなく、異方性をもたせたクーリングクラックの分布を形成することによって、耐異常損傷性を改善し得るのではないかとの観点からさらに検討を進めた。
その結果、被覆工具のすくい面において、切れ刃稜線に対して垂直な方向に形成されたクーリングクラックは、剥離等の異常損傷発生の原因となるが、切れ刃稜線に平行な方向に形成されたクーリングクラックは、切れ刃稜線に垂直な方向に向かって亀裂が進展・伝播する場合に、その進行を阻止する作用があることから、クーリングクラックが切れ刃稜線に平行な方向に形成されるようにすれば、剥離等の異常損傷の発生を抑制し得るとの知見を得た。
そして、本発明によるクーリングクラック分布によって、亀裂の伝播・進展を防止することができることから、上記複合焼結体を工具基体とする被覆工具においては、切れ刃に断続的・衝撃的な高負荷が作用する断続切削においても、クラックの伝播・進展が防止され、長期の使用に亘って、すぐれた耐異常損傷性、耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
「(1) 工具母材としてのTiCN基サーメットと刃先材料としてのWC基超硬合金との複合焼結体からなる工具基体に、化学蒸着法により硬質被覆層が被覆形成された表面被覆切削工具において、
(a)上記複合焼結体は、その成分元素として少なくとも6〜20原子%の鉄族金属成分を含有するTiCN基サーメットと、鉄族金属成分を6〜20原子%含有し、WCを主成分とするWC基超硬合金とで構成され、
(b)上記TiCN基サーメットの表面には、0.3mm以上1.0mm以下の平均厚みで上記WC基超硬合金からなる刃先材料によりすくい面が形成され、また、該WC基超硬合金からなる刃先材料の表面には、少なくとも一層以上の硬質被覆層が被覆形成され、
(c)前記すくい面の半径rのコーナRをなす弧とコーナRの中心からなる扇状の領域を除くとともに、前記扇状の領域から距離r/2以内の領域を除く、ある切れ刃稜線からの距離が0.5mm以内の領域において、硬質被覆層表面に形成されたクーリングクラックについて測定したクーリングクラックの平均間隔のうち、該切れ刃稜線に平行な方向に測定した平均間隔をah、また、該切れ刃稜線に垂直な方向に測定した平均間隔をavとした場合、(ah/av)>1.5を満足するクーリングクラック分布を有することを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)TiCN基サーメットのW含有量が8.0原子%以下であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)TiCN基サーメットのW含有量が4.0原子%以下であることを特徴とする前記(2)に記載の表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
図1に示すように、この発明の被覆工具は、工具基体全体をWC基超硬合金で構成するのではなく、TiCN基サーメットを工具母体とし、そのすくい面に、WC基超硬合金からなる刃先材料を形成した複合焼結体を工具基体とし、この上に、化学蒸着法により、硬質被覆層が被覆形成された構造を備えている。
この発明の被覆工具の製造方法の詳細については、後記するが、その概略は以下のとおりである。
まず、所定組成のTiCN基サーメット粉末と、同じく所定組成のWC基超硬合金粉末を用意し、これらの粉末をプレスすることで、複合プレス体を作製し、ついで、この複合プレス体を、昇温温度、昇温速度等を制御しながら焼結して複合焼結体を作製し、ついで、得られた複合焼結体を所定の形状に加工することにより工具基体を作製し、ついで、化学蒸着法により、Ti化合物層、Al2O3層等を被覆形成した後、所定の条件で冷却することによって、所定のクーリングクラック分布を有する硬質被覆層を形成することにより製造される。
この発明で用いられるTiCN基サーメットは、TiCNを主たる硬質成分とし、鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)を主たる結合相成分とするサーメットであるが、その他に、サーメットに通常含有される成分、例えば、TiN、TiC、ZrC、NbC、TaC、WC、Mo2C等、については通常含有される範囲内で含有させることができる。
ただし、WC基超硬合金との接合性を高めるためには、TiCN基サーメット中に含有される鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)は、(WC基超硬合金中に含有される鉄族金属の含有量にもよるが)6〜20原子%、特に8〜14原子%であることが望ましい。
またTiCN基サーメット中に含有されるWについては8.0原子%以下、特に4原子%以下であることが望ましい。これは、TiCN基サーメット中に含有されるW含有量が高すぎると、TiCN基サーメットとWC基超硬合金の熱膨張率の差が小さくなり、WC基超硬合金に所望の圧縮残留応力分布が形成できなくなる、という理由によるものである。
すくい面の刃先材料を構成するWC基超硬合金は、主たる硬質成分であるWCと主たる結合相成分である鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)とで構成される。結合相成分は、硬質相成分と強固に結合し、工具基体の強度および靭性を向上させる作用があるが、その含有量が6原子%未満では前記作用に所望の効果が得られず、また、WC基超硬合金とTiCN基サーメットとの界面にポアを生じやすくなるため、十分な強度を得ることが難しい。一方、その含有量が20原子%を越えると、耐摩耗性が低下するようになることから、結合相成分である鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)の含有量合計は、6〜20原子%とする。
また、WC基超硬合金中にはTi、Zr、Nb、Ta、Cr、Vの各成分を、通常含有される範囲内で含有させることができる。
例えば、Ti、Zr、Nb、Taについては、これらの含有量の和が20原子%を超えない範囲内で含有することが出来る。Cr、Vについては、これらの含有量の和が5原子%を超えない範囲内で含有することができる。
工具基体の母体であるTiCN基サーメットの表面のすくい面に、刃先材料として上記WC基超硬合金を0.3mm以上1.0mm以下の厚さで形成する。厚さが0.3mm未満では、TiCN基サーメットとWC基超硬合金の界面付近まで摩耗が進行した際に、十分な強度と靭性を確保することができなくなることから、すくい面に、WC基超硬合金で構成する刃先材料の厚さは0.3mm以上と定めた。
また、WC基超硬合金の厚さが1.0mmを超えると、WC基超硬合金に所望の圧縮残留応力分布を発生させることが難しくなり、(ah/av)>1.5を満足するクーリングクラックが形成されにくくなるため、WC基超硬合金の厚さは、1.0mm以下と定めた。
また、WC基超硬合金からなる刃先材料が形成されたすくい面上には、少なくとも一層以上の硬質被覆層が被覆形成されるが、ここで言う少なくとも一層以上の硬質被覆層とは、化学蒸着法により形成されるTi化合物層(TiN層、TiC層、TiCN層、TiCNO層等)やAl2O3層等である。
なお、Ti化合物層の合計平均層厚は、硬さを向上させるため3μm以上が好ましく、耐剥離性の低下を防止するために20μm以下とすることが好ましい。また、特に硬さに優れるTi炭窒化物層の合計平均層厚については3μm以上とすることで、十分な硬さを有するTi化合物層を得ることが出来る。なお、膜中への亀裂進展が問題となる場合には、複数のTiCN層を設けることで亀裂進展を抑制することができる。
また、十分な耐酸化性を確保するためには、Al2O3層の層厚を0.8μm以上とすることが好ましく、耐剥離性の低下を防止するためには18.0μm以下とすることが好ましい。
以上の要件を満たす層構造としては、例えば、次のような硬質被覆層があげられる。
TiN(0.1μm)/TiCN(8μm)/TiCO(0.1μm)/Al2O3(2μm)
なお、WC基超硬合金の残留応力は、例えば、Cu管球を有するXRD装置を利用し、WC(1 0 3)のピークを用いて並傾法によって測定することができ、WC基超硬合金の残留応力分布は、X線をΦ0.5mmに絞り、各測定点におけるh方向、v方向の残留応力を測定すれば得ることができる。
TiCN基サーメットはWC基超硬合金より熱膨張係数が大きい。よって、焼結後の冷却過程において、1200℃前後で液相が凝固してから室温まで冷却する際に、すくい面中央部のWC基超硬合金はTiCN基サーメットから圧縮される。このため、すくい面中央部のWC基超硬合金にはほぼ等方的な圧縮残留応力が発生する。
しかし、図2の測定点1のようなすくい面の切れ刃稜線に極めて近い位置では、WC基超硬合金は切れ刃稜線に平行な方向にはTiCN基サーメットに圧縮されるが、切れ刃稜線に垂直な方向には圧縮されない。このため、切れ刃稜線に極めて近い位置ではWC基超硬合金には、切れ刃稜線に平行な方向に圧縮残留応力が発生するが、切れ刃稜線に垂直な方向の圧縮残留応力は発生しない。
したがって、切れ刃稜線からすくい面中央に向かうに従い、WC基超硬合金の切れ刃稜線に垂直な方向の圧縮残留応力が大きくなるため、図2、図3に示す通りの残留応力分布が形成されていると考えられる。
異方性のあるクーリングクラックが形成される理由を次に述べる。
しかし、前記複合焼結体にCVD法によって硬質被膜を施した場合、すくい面の切れ刃稜線に極めて近い位置では、切れ刃稜線に平行な方向にはWC基超硬合金がTiCN基サーメットに圧縮されるため、TiCN基サーメットとの複合焼結体構造を有さないWC基超硬合金よりも大きく収縮し、収縮率が硬質皮膜に近づく。このため、切れ刃稜線に垂直な方向に形成されるクーリングクラックは少なくなる。
一方、切れ刃稜線に垂直な方向にはWC基超硬合金が圧縮されないため、切れ刃稜線に極めて近い位置では切れ刃稜線に垂直な方向のWC基超硬合金の収縮率は変化せず、複合焼結体構造を有さないWC基超硬合金と収縮率が同じであるため、切れ刃稜線に平行な方向のクーリングクラックが発生する。
また前述の通り、切れ刃稜線からすくい面中央に向かうに従い、WC基超硬合金の切れ刃稜線に垂直な方向の圧縮残留応力が大きくなるため、切れ刃稜線に平行な方向のクーリングクラックの密度は切れ刃稜線からすくい面中央に向かうに従って小さくなる。
図4、図5は、本発明被覆工具のすくい面の硬質被覆層におけるクーリングクラック分布およびその測定法を示す概略説明図であるが、図5に示すように、すくい面のコーナR部付近を除く、ある切れ刃稜線からの距離が0.5mm以内の領域において、硬質被覆層の切れ刃稜線に平行に直線lh(図中では、lh1、lh2、lh3を示す)を引き、この直線lhとクーリングクラックの交点を求め、交点間の距離をそれぞれ測定し、測定した交点間の距離を平均することにより、切れ刃稜線に対してほぼ垂直方向に形成されているクーリングクラックの平均間隔ahとする。また、切れ刃稜線に垂直に直線lv(図中では、lv1、lv2、lv3を示す)を引き、直線lvとクーリングクラックの交点を求め、交点間の距離をそれぞれ測定し、測定した交点間の距離を平均することにより、切れ刃稜線に対してほぼ平行な方向に形成されているクーリングクラックの平均間隔をavとする。
なお、本発明でいうすくい面の「コーナR部」とは、図5に示されるように、「コーナRをなす弧とコーナRの中心からなる扇状の領域」であり、また、「コーナR部付近」とは、コーナR部の扇状の領域から距離r/2以内の領域であると定義する。ここで、図5に示される「r」はコーナRの半径である。
(ah/av)>1.5の場合には、切れ刃稜線にほぼ垂直な方向に形成されたクーリングクラックに比して、切れ刃稜線にほぼ平行な方向にクーリングクラックが相対的に多く形成されているため、切れ刃稜線に垂直な方向に亀裂が進展・伝播しようとした場合であっても、その進行が阻止され、結果として、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷発生が抑制される。
しかし、(ah/av)の値が1.5以下であるようなクーリングクラック分布では、異常損傷発生の抑制効果が十分でないことから、(ah/av)>1.5とすることが必要である。
まず、所定量の鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)粉末、TiCN粉末、その他、サーメットに通常含有される成分、例えば、TiN、TiC、ZrC、NbC、TaC、WC、Mo2C、等の粉末を配合したTiCN基サーメット原料粉末を用意する。
また、所定量の鉄族金属(例えば、Co、Ni、Fe)粉末、WC粉末等を配合し、WC基超硬合金原料粉末を用意する。
上記TiCN基サーメット原料粉末と上記WC基超硬合金原料粉末を積層プレスして、複合プレス体を作製する。
ついで、上記複合プレス体を真空中にて焼結するが、室温より1280℃までは5℃/minで昇温し、液相が出現する1280℃から1380℃までの温度域を30℃/minで昇温し、1380℃から所定の焼結温度(例えば、1400℃)までの昇温速度を5℃/minとし、所定の焼結温度で1時間保持後、炉冷する。
その後、化学蒸着法により硬質被覆層を形成するが、成膜後の冷却工程においては、成膜温度から200℃までを−40℃/min以上−80℃/min以下の速度で高速冷却することによって、本発明で規定するクーリングクラック分布を備える被覆工具を作製することができる。
しかし、例えば、焼結後の冷却工程、成膜後の冷却工程において従来通り約−10℃/minで冷却した場合には、冷却中に鉄族金属元素がクリープ変形することで応力緩和がおこり、超硬合金に十分な圧縮応力が掛からない。このため(ah/av)の値が1.5以下であるようなクーリングクラック分布を得ることができない。
一方で、成膜温度から200℃までを−80℃/min以上の速度で冷却すると、超硬合金部とサーメット部の界面に剥離を生じることがある。
従って成膜後の冷却速度を調整することによって、(ah/av)の値が1.5以上であるようなクーリングクラック分布を備える被覆工具を作製することができる。
ただし、WC基超硬合金の厚さによっては、高速冷却を施しても(ah/av)の値が1.5を下回ることがある。
なお、成膜後の冷却速度は(ah/av)の値に大きく影響するが、基体を焼結した後の冷却温度は(ah/av)の値にほぼ影響しない。これは下記のメカニズムによって超硬合金に圧縮残留応力が発生するためであると考えられる。
(1)基体を1400℃で焼結後、室温まで冷却した際に(WC基超硬合金とTiCN基サーメットの熱膨張率差によって)WC基超硬合金に圧縮残留応力が発生する。
(2)硬質皮膜の成膜のため、約1000度まで昇温する。硬質皮膜の成膜中、約1000℃で保持されている間に鉄族金属元素のクリープ変形がおこり、残留応力がほぼゼロになる。
(3)成膜終了後(WC基超硬合金とTiCN基サーメットの熱膨張率差によって)1000℃から室温に冷却する過程でWC基超硬合金に圧縮残留応力が発生する。
つまり、焼結後に発生する残留応力は、硬質皮膜の成膜中にクリープ変形によって消失するためにクーリングクラック分布には影響しないものと考えられる。
また、表2に示す配合組成の平均粒径0.5〜3μmのWC基超硬合金原料粉末を用意する。
上記TiCN基サーメット原料粉末およびWC基超硬合金原料粉末を、表3に示す組合せでISOインサート形状SNMN120408の素材用金型で積層プレスし、複合プレス体を作製した。なお、WC基超硬合金原料粉末、TiCN基サーメット原料粉末、WC基超硬合金原料粉末の3層積層としている。例えば表3中の種別2では焼結後0.5mmの厚さになる量のWC基超硬合金原料粉末C、焼結後3.9mmの厚さになる量のTiCN基サーメット原料粉末B、焼結後0.5mmの厚さになる量のWC基超硬合金原料粉末C、を投入した。
ついで、この複合プレス体を焼結して複合焼結体を作製した。
より具体的にいえば、複合プレス体を焼結温度にまで昇温するに際し、室温から1280℃までは5℃/minの昇温速度で昇温し、液相が出現する1280℃から1380℃までの温度域は30℃/min以上の昇温速度で高速昇温し、1380℃から所定の焼結温度までは5℃/minの昇温速度で昇温し、10Paの真空中で所定の焼結温度に1時間保持後、炉冷した。
ついで、得られた複合焼結体について、WC基超硬合金が刃先材料のすくい面となるように着座面、外周、ホーニング部を研削加工し、SNMN120408形状の複合焼結体からなる工具基体を作製した。
そして、上記複合焼結体からなる工具基体の表面に、表5に示す条件で、表6に示す所定の硬質被覆層を化学蒸着法により蒸着形成し、表5に示す通り成膜温度から200℃までをいずれも−40℃/min以上−80℃/min以下の速度で高速冷却することにより、所定のクーリングクラック分布を備える本発明の被覆工具1〜11(以下、本発明工具1〜11という)を作製した。
図5を参照して、その測定法を説明する。
クーリングクラック分布は、すくい面のコーナR部付近(コーナRをなす弧とコーナRの中心から成る扇状の領域および、扇状の領域から距離r/2以内の領域をコーナR部付近と定義する。ここでrはコーナRの半径である)を除く、ある切れ刃稜線からの距離が0.5mm以内の領域において、硬質被覆層表面を光学顕微鏡(倍率:50倍)で観察し、切れ刃稜線に平行に0.8mmの長さの線分を3本引き(それぞれlh1、lh2、lh3と呼ぶ)、この3本の線分がクーリングクラックを横切った本数をそれぞれnh1、nh2、nh3とする。切れ刃稜線に平行な方向のクーリングクラックの平均間隔ah(単位:mm)は
ah={(0.8/nh1)+(0.8/nh2)+(0.8/nh3)}/3
と定義する。
また、切れ刃稜線に垂直に0.4mmの長さの線分を3本引き(それぞれlv1、lv2、lv3と呼ぶ、この3本の線分がクーリングクラックを横切った本数をそれぞれnv1、nv2、nv3とする。切れ刃稜線に垂直な方向のクーリングクラックの平均間隔av(単位mm)は
av={(0.4/nv1)+(0.4/nv2)+(0.4/nv3)}/3
と定義する。
このようにして求めたahとavの値から、(ah/av)>1.5を満足するか否かを判定した。なお、光学顕微鏡でクーリングクラックを観察しづらい場合には、フッ硝酸を用いてエッチングを行うと観察が容易になる。
表7に、これらの値を示す。
なお、表6の種別13は積層しない超硬合金であり、種別14は積層しないTiCN基サーメットである。
また、比較例工具1、2、3、4は成膜後の冷却速度以外は、本発明工具1,3,5,9と同じである。
上記比較例工具1〜14の他にも、TiCN基サーメット原料粉末種別Cを3.9mmとWC基超硬合金原料粉末種別Aを0.5mmの複合焼結体の作製を試みたが、焼結後に破壊した。
次いで、本発明工具1〜11の場合と同様にして、比較例工具1〜14のX、Y、Yw、(ah/av)、WC基超硬合金部の厚さを測定した。
表8に、これらの値を示す。
被削材:JIS・FCD700の4溝スリット入り丸棒、
切削速度:235 m/min.、
切り込み:1.5 mm、
送り:0.25 mm/rev.、
切削時間:4分
の条件で、ダクタイル鋳鉄の湿式断続切削加工試験を行い、逃げ面摩耗量、寿命に至るまでの切削時間等を測定した。
表9に、試験結果を示す。
請求項1、2を満たす本発明工具3〜7および10、11は硬質被覆層が部分的に剥離し、そこから摩耗が進行していた。
請求項1を満たす本発明工具8、9は硬質被覆層が剥離した部分の摩耗が大きく進行しており、ほぼ寿命に至っていた。本切削条件では、(ah/av)は耐剥離性に大きな影響を与えることが分かった。
比較例工具8、9、10は超硬合金部の耐摩耗性不足により、摩耗が進行して寿命に至っていた。
比較例工具5、6は切削開始直後にTiCN基サーメット部から破壊した。
比較例工具7は切削開始直後にWC基超硬合金部がTiCN基サーメット部から脱落して寿命に至っていた。これにより、比較例工具7の組み合わせではWC基超硬合金部とTiCN基サーメット部の界面強度が不足していることが分かった。
比較例工具12はTiCN基サーメット部付近まで摩耗が進行し、TiCN基サーメット部が破壊して寿命に至っていた。
比較例工具14は欠損により寿命に至っており、被膜に非常に長い亀裂と大面積に渡る剥離が観察された。
Claims (3)
- 工具母材としてのTiCN基サーメットと刃先材料としてのWC基超硬合金との複合焼結体からなる工具基体に、化学蒸着法により硬質被覆層が被覆形成された表面被覆切削工具において、
(a)上記複合焼結体は、その成分元素として少なくとも6〜20原子%の鉄族金属成分を含有するTiCN基サーメットと、鉄族金属成分を6〜20原子%含有し、WCを主成分とするWC基超硬合金とで構成され、
(b)上記TiCN基サーメットの表面には、0.3mm以上1.0mm以下の平均厚みで上記WC基超硬合金からなる刃先材料によりすくい面が形成され、また、該WC基超硬合金からなる刃先材料の表面には、少なくとも一層以上の硬質被覆層が被覆形成され、
(c)前記すくい面の半径rのコーナRをなす弧とコーナRの中心からなる扇状の領域を除くとともに、前記扇状の領域から距離r/2以内の領域を除く、ある切れ刃稜線からの距離が0.5mm以内の領域において、硬質被覆層表面に形成されたクーリングクラックについて測定したクーリングクラックの平均間隔のうち、該切れ刃稜線に平行な方向に測定した平均間隔をah、また、該切れ刃稜線に垂直な方向に測定した平均間隔をavとした場合、(ah/av)>1.5を満足するクーリングクラック分布を有することを特徴とする表面被覆切削工具。 - TiCN基サーメットのW含有量が8.0原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- TiCN基サーメットのW含有量が4.0原子%以下であることを特徴とする請求項2に記載の表面被覆切削工具。
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