JP2004255511A - センサ回路付切削工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】センサ回路の高い検出感度を維持したまま、工具としての切削性能を高めることができるセンサ回路付切削工具を提供する。
【解決手段】導電性母材2の表面に膜厚0.1〜15μmで膜内に30〜1000μm間隔のクラックが存在する絶縁膜3を設けるとともに、絶縁膜3の表面に導電膜4から成るセンサ回路を形成したセンサ回路付切削工具1を作製する。
【選択図】 図2
【解決手段】導電性母材2の表面に膜厚0.1〜15μmで膜内に30〜1000μm間隔のクラックが存在する絶縁膜3を設けるとともに、絶縁膜3の表面に導電膜4から成るセンサ回路を形成したセンサ回路付切削工具1を作製する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は切削加工に使用する工具に関し、特にセンサ回路を備えたセンサ回路付切削工具の改良に関するものである。
【0002】
【従来技術】
切削加工において、切削工具切刃の逃げ面摩耗の大きさは一般的に工具寿命の判定基準となることから、切削加工中にインプロセスで即座に逃げ面の摩耗量を推定することは高精度加工を維持する上で大変重要であるが、加工中に工具の摩耗を直接観察することは作業環境上大変難しい。
【0003】
従来、かかる工具切刃の摩耗量の測定法として、加工を中止し工具を一旦はずして工具顕微鏡などで測定したり、あるいは工具の摩耗に付随して起こる他の現象(切削力や振動の変化など)を工作機械上等の加工点付近に設置したセンサで加工中にインプロセスで検出し、検出信号に何らかの信号処理を行って摩耗量を推定しているが、従来の方法では摩耗量の定量化が困難であったり、十分な感度や信頼性が得られなかった。
【0004】
そこで、特許文献1では、超硬合金やサーメットなどの導電性母材の表面に絶縁性の酸化アルミニウム層と、導電膜からなるセンサ回路をコーティングして工具を形成し、被削材と工具との間に電圧をかけ、酸化アルミニウム層が摩耗し導電性母材が露出したとき、すなわち寿命になると電流が流れることを利用した工具寿命の検知方法が提案されている。
【0005】
また、本出願人は、先に特許文献2にて、絶縁膜中に発生するクラックを極力抑制するとともに絶縁膜を多層構造とすることによって絶縁膜の絶縁性が確保できることを提案した。
【0006】
〔特許文献1〕
特開昭59−81043号公報
〔特許文献2〕
特開2002−292504号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1、2のように、絶縁膜の絶縁性向上に着目したセンサ回路付切削工具では検出信号の検出感度が向上してセンサの検知信頼性を高めることができるものの、工具表面に絶縁膜および導電膜を付加的に形成した構成となるためにセンサを形成しないものに比べて硬質被覆膜全体としての膜厚が厚くなり、切削工具としての耐欠損性等の切削性能が損なわれてしまうという問題があった。また、そのために、絶縁膜および導電膜の膜厚を調整することによって切削性能の向上を図ることが考えられるが、特に絶縁膜の膜厚を薄くすると絶縁性が低下してセンサ信号を安定して検知できなくなる等、絶縁膜および導電膜の膜厚をセンサ性能と切削性能とが両立できる膜厚に調整することは困難であった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、センサ回路の高い検出感度を維持したまま、工具としての切削性能を高めることができるセンサ回路付切削工具を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明では、絶縁膜の構成について再度検討し、絶縁膜中にむしろ絶縁性を損なわないような微細なクラックを所定の割合で積極的に存在せしめることにより、絶縁膜の絶縁性を維持したまま、切削工具の耐欠損性および耐摩耗性を向上させることができることを知見した。
【0010】
即ち、本発明のセンサ回路付切削工具は、導電性母材の表面に膜厚0.1〜15μmで膜内に30〜1000μmのクラック間隔を有する絶縁膜を設けるとともに、該絶縁膜の表面に導電膜から成るセンサ回路を形成してなることを特徴とするものである。
【0011】
ここで、前記絶縁膜が化学蒸着法により作製されたこと、酸化アルミニウム層を少なくとも1層含むこと、前記酸化アルミニウム層が平均粒径0.5〜10μmの粒状晶の酸化アルミニウム粒子からなることによって、クラック間隔を所定の範囲に制御することができるとともに、導電性母材に対する付着強度が高くなるという効果がある。
【0012】
また、前記切削工具のすくい面切刃部における前記導電膜が前記すくい面中央部における前記導電膜の膜厚よりも薄くなるように研磨されていることにより、センサ回路間の電気抵抗値を低くすると同時に、切削工具としての耐欠損性が大幅に改善されるという効果がある。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態の一例であるスローアウェイ工具を例としてその概略断面図である図1を用いて説明する。なお、本発明のセンサ回路付切削工具は、スローアウェイ工具の他、ソリッドドリル等のソリッド工具への応用も可能である。
【0014】
図1のスローアウェイ工具1は、導電性母材2の表面に絶縁膜3を設けるとともに、絶縁膜3の表面に導電膜4から成るセンサ回路を形成してなる。
【0015】
本発明によれば、絶縁膜3が膜厚0.1〜15μm、特に2〜8μmで、膜内に30〜1000μm間隔、特に100〜1000μmのクラック間隔を有するクラックが存在することが大きな特徴であり、これによって、絶縁膜3の絶縁性を維持したまま、工具1の耐欠損性および耐摩耗性を向上させることができる。
【0016】
すなわち、絶縁膜3の膜厚が0.1μmより薄いと、絶縁層3の絶縁性が損なわれて導電膜4と導電性母材2との絶縁性が悪くなり、センサ回路が短絡してしまい、逆に、絶縁膜3の膜厚が15μmを超えると、切削工具1としての耐欠損性が悪くなって工具寿命が短くなる。また、絶縁膜3中に存在するクラック間隔が30μmより短いと、導電膜4と導電性母材2間の絶縁性が悪くなり、逆に、絶縁膜3中に存在するクラック間隔が1000μmより長いと、切削における絶縁膜3の靭性が低下して工具1の耐欠損性が悪くなる。
【0017】
ここで、本発明におけるクラック間隔とは、工具1の表面を硝酸33重量%、フッ化水素酸1重量%、水66重量%の割合で混合したエッチング液中に工具1を浸漬して90分間エッチングした後金属顕微鏡写真にて工具1の表面を観察した際(図2参照)に、工具1の表面部分に観察されるクラックについて、インタセプト法に基づき、写真上に任意の縦断線Lを引いたときのクラック間の距離(この縦断線Lの長さ(図2では1000μm)をクラックが交差する交点の数(図2ではNの平均値)で割った長さ)を指し、このクラック間隔が広い(長い)とクラックが少なく、クラック間隔が狭い(短い)とクラックが多くなることを指す。
【0018】
また、本発明によれば、絶縁膜3の形成方法としては、化学蒸着(CVD)法、プラズマ化学蒸着(PCVD)法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、蒸着法等の物理蒸着(PVD)法、めっき法などで形成されるが、絶縁膜3が化学蒸着法(CVD法)により作製されたものであることが、絶縁膜4を上記所定範囲のクラック間隔に制御し、導電性母材2への密着力が良いという点で望ましい。
【0019】
さらに、絶縁膜3が酸化アルミニウム層を少なくとも1層含むことが、工具1としての耐摩耗性に優れるとともに、被削材と反応しにくいため、切削工具としての耐摩耗性や耐チッピング性に優れている点で望ましい。
【0020】
さらにまた、前記酸化アルミニウム層が平均粒径0.5〜10μmの粒状晶の酸化アルミニウム粒子からなることによって、上記所定範囲のクラック間隔を達成できるとともに、絶縁膜3の耐欠損性および耐摩耗性を高くできる。粒径を上記範囲にすることで、酸化アルミニウム粒子が破壊源となることを防ぎ、酸化アルミニウムを基点とする膜剥離を防ぎ付着強度を高くすることができる。また、0.5μm以下だと耐摩耗性が悪く、10μmを超えると耐欠損性が悪くなる。また、前記酸化アルミニウム層がκ結晶、又はα結晶であることが、切削工具としての耐摩耗性および耐欠損性を維持することができるため望ましい。このような粒状晶は、CVD法によって作製できる。
【0021】
具体的には、酸化アルミニウム層3を例えばCVD法で形成する場合、成膜温度は850℃から1100℃の間で行うことがクラック間隔の制御、並びに耐摩耗性および耐欠損性向上の点で重要であり、850℃より低いとクラック間隔が1000μmより長くなるとともに絶縁性および耐欠損性、耐摩耗性とも低下する。また、1100℃より高いとクラック間隔が30μmより短くなり、絶縁性が低下する。
【0022】
また、キャリアガスとしてH2を用い、反応ガスとしてCO2、HCl、AlCl3、H2Sを用い、炉内圧力は4kPa〜30kPaの間で成膜することが絶縁膜3のクラック間隔を所定の範囲に制御する点で望ましい。
【0023】
ここで、本発明によれば、絶縁膜3の形成においては多段階または多層に分けて成膜することが、絶縁性の低下を抑制して安定したセンサ機能を有することができる点で望ましい。すなわち、多段階または多層とすることによって1層目に生成したクラックやピンホールなどの欠陥を2層目以降の成膜時に埋めて絶縁性を維持することができるため、より安定した絶縁性が維持される。
【0024】
上記多段階または多層成膜の具体的な成膜条件において、成膜温度よりも200℃以上低い温度まで一旦冷却すること、および5〜15℃/分の降温速度で一旦降温させた後成膜温度まで1〜15℃/分の昇温速度で昇温することが重要であり、これによって、絶縁膜3中に生じる残留応力等を開放しつつ所定範囲のクラック間隔を有するように制御することができ、安定した絶縁性および優れた切削性能を兼ね備えた絶縁膜3を作製することが可能となる。なお、上記降温および昇温時は真空または不活性ガス雰囲気にて行う。また、降温速度について、絶縁膜3の最終層を成膜した後は0.5〜5℃/分であることがクラック間隔の制御の点で望ましい。
【0025】
また、本発明によれば、図1に示すように、工具1のすくい面6の切刃部7における導電膜4がすくい面6中央部における導電膜4の膜厚よりも薄くなる(t1<t2)ように研磨されていることが望ましく、これによって、切刃部7における導電膜4、絶縁膜3、さらには下地膜10に残存する残留応力をさらに改善して、さらに耐欠損性に優れた工具1となる。なお、本発明においては上記のように切刃部7を研磨する場合、センサ回路の導通状態を維持するためには導電膜4が逃げ面8側で所望の厚み残存している必要があり、豚毛ブラシ等の柔らかいブラシや樹脂やゴム等の軟質材入り砥粒等の柔らかい研磨剤を用いて極微量研磨することが望ましい。また、切刃部7における導電膜4の表面粗さ(Ra)は0.4μm以下であることが硬質被覆膜15が剥離することを防止して耐欠損性を高めるとともに、耐溶着性向上によるセンサ機能の安定性の点で望ましい。
【0026】
(導電性母材)
本発明において用いられる導電性母材としては、電気抵抗値が10−2Ω・cm以下であることが望ましく、特に、酸化アルミニウム質焼結体、窒化珪素質焼結体、サーメット、超硬合金、立方晶窒化ホウ素質焼結体(CBN/CubicBoron Nitride)、ダイヤモンド焼結体(PCD/Polycrystalline Diamond)などが使用できる。
【0027】
酸化アルミニウム質焼結体としては、TiCまたはTiCNを2〜40重量%、Fe、Ni、Coの酸化物のうち少なくとも1種を0.01〜5.0重量%含有してなる酸化アルミニウム質焼結体などが好適に使用できる。
【0028】
窒化珪素質焼結体としては、AlをAl2O3換算で1.5〜10モル%、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物を30〜80モル%、希土類酸化物を窒化珪素に対して10重量%以下、不純物的酸素をSiO2換算で10モル%以下の割合から成る窒化珪素質焼結体が好適に使用できる。
【0029】
サーメットとしては、Tiを炭化物、窒化物あるいは炭窒化物換算で50〜80重量%、周期律表第6a族元素を炭化物換算で10〜40重量%の割合で含有するとともに(窒素/(炭素+窒素))で表される原子比が0.4〜0.6の範囲内にある硬質相成分70〜90重量%と、鉄族金属から成る結合相成分10〜30重量%とから成るTiCN基サーメットが好適に使用される。
【0030】
超硬合金としては、硬質相と結合相で構成されるものなどがあり、硬質相は、炭化タングステン、または炭化タングステンの5〜15重量%を周期律表第4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物で置換し、結合相は、Co等の鉄族金属を5〜15重量%の割合で含有したものが好適に使用される。
【0031】
(下地膜)
また、本発明によれば、図1に示すように、絶縁膜3と導電性母材2との間に、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸窒化物、Alの酸化物や、TiAlの窒化物、炭窒化物の群から選ばれる少なくとも1種を単層または複数層として0.1〜10μmの厚みで形成することができる。
【0032】
特に、導電性母材2と絶縁膜3との付着強度を上げる上では、図1に示すように、絶縁膜3の直下にTiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸窒化物のうちいずれか1種以上による単層または複数層の下地膜10を設けることが望ましい。
【0033】
切削性能向上のためには、(Tia,Mb)CxNyOz(ただし、MはAl、Si、Cr、Zr、NbおよびHfの群から選ばれる少なくとも1種、a+b=1、0.1≦a≦1、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.5)を0.1μm〜10μmの厚みで単層または複数層成膜することが望ましい。その場合は、この層と絶縁膜3との間に上記Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物の単層または多層を介在させることが望ましい。
【0034】
なお、これらの下地膜10は、CVD法やイオンプレーティング、スパッタリング等のPVD法群から選ばれる少なくとも1種の成膜法によって形成される。
【0035】
(導電膜)
導電膜4は、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等の周期律表4a、5a、6a族金属、Co、Ni、Fe等の鉄族金属、あるいはAlなどの金属材料やTiC、VC、NbC、TaC、Cr3C2、Mo2C、WC、W2C、TiN、VN、NbN、TaN、CrN、TiCN、VCN、NbCN、TaCN、CrCN等の周期律表4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、(Ti、Al)Nの群から選ばれる少なくとも1種で形成される。この中でも、TiNは被削材と反応せず、センサの電気抵抗値が常に所定値を示し、スローアウェイチップの摩耗度合い、欠損の発生の有無を正確に検出することができること、被削材の加工表面に反応生成物による傷が形成されるのを有効に防止できること、耐酸化性に優れ、酸化物生成によるセンサの電気抵抗値の変化がなく、スローアウェイチップの摩耗度合い、欠損の発生の有無を正確に検出することができること等の理由から好適に使用し得る。
【0036】
導電膜4は、その厚みを0.05μm以上とすることで、スローアウェイチップの摩耗度合いや欠損を正確に検出するためにセンサの電気抵抗を得ることができる。また20μm以下とすることで、導電膜4中への応力の発生を抑制し、導電膜4の密着性を高めることができる。
【0037】
この導電膜4は、CVD法やイオンプレーティング、スパッタリング、蒸着等のPVD法、めっき法等を採用することによってスローアウェイチップの母材のほぼ全面に所定厚みに導電膜を被着し、その後、レーザ加工によって、導電膜4を図4のような所定パターンに加工される。なお、センサ回路のうち損傷状態を検知するセンサライン部分20のセンサ幅は一般的には0.01mm〜0.5mmでよいと考え得るが、寿命設定により任意の幅を持たせるとよい。
【0038】
上述した構成からなる本発明のセンサ回路付き切削工具は、絶縁性と導電性母材との付着力に優れることから、損耗センサとして好適である。
【0039】
【実施例】
導電性母材として、Co:8重量%、Ta:5重量%、Ti:3重量%、残部がWCからなる超硬合金を準備した。
【0040】
その表面に、CVD法でTiCl4、N2、H2、CH4、CH3CNを用いて、炉内温度800℃以上で膜厚1μmのTiN膜と膜厚8μmのTiCN膜とを下地膜として成膜した。
【0041】
そして、上記下地膜表面に、キャリアガスとしてH2を用い、反応ガスとしてCO2、HCl、AlCl3を用い、表1に示す成膜温度で、炉内圧力は10kPa、成膜時間90分で酸化アルミニウム(Al2O3)膜を成膜した。次に、成膜温度に対して表1に示す温度まで、表1の降温速度で一旦降温させて、その後成膜温度まで表1の昇温速度で昇温して1層目と同じ成膜条件で酸化アルミニウム(Al2O3)膜の成膜を行った。その後表1に示す最終降温速度条件にて冷却を行った。なお、この絶縁膜の総成膜数および総膜厚は表1に示した。また、試料No.7のみ1層目の酸化アルミニウム膜の膜厚を8μm成膜した後、2層目以降を2μmづつ4層、すなわち酸化アルミニウム膜の総膜厚が16μmとなるように成膜した。
【0042】
その後、アークイオンプレーティング法で成膜温度500℃にてTiNからなる導電膜を層厚1μmで成膜した後、導電膜にレーザ加工を施して図4の回路パターンからなるセンサ回路を作製し、CNMG120408形状のセンサ回路付きスローアウェイチップを試料ごとに20個ずつ作製した。
【0043】
さらに、上記スローアウェイチップに対して、樹脂入りの砥粒を用いてすくい面側からサンドブラスト処理し、切刃部の導電膜を0.5μmだけ除去した。
【0044】
得られた損耗センサ回路つきスローアウェイチップについて、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)および光学顕微鏡にて1000倍〜50000倍に拡大して測定した。SEMによる測定では装置は日本電子製JSM−6340Fにて行った。
【0045】
また、上記スローアウェイチップを、硝酸33重量%、フッ化水素酸1重量%、水66重量%の混合溶液からなるエッチング液中に室温で90分間浸漬してエッチングした後、引き上げてチップの表面を金属顕微鏡にて観察した。そして、チップ表面(すくい面)の金属顕微鏡写真にて観察しインタセプト法によってクラック間隔を測定した。
【0046】
以上の方法で作製した各試料について以下の方法によって電気絶縁性およびチップの耐欠損性の評価を行った。電気絶縁性の調査は、図3に示すように、テスター12によって導電性母材と、導電膜1間の電気抵抗を各試料10個ずつ測定し、200kΩ以上の試料の個数を測定してその割合を算出した。また、切削性能の評価として、以下の切削条件下での切削試験を行った。
【0047】
≪切削条件≫
切削速度 100m/min
送り 0.4mm/rev
切り込み 2.0mm
被削材 SCM440 4本溝
切削状態 切削液あり(ソリューション)
評価結果 2分間切削して刃先が欠損した数を評価した。各試料につき10個ずつ評価し、欠損が見られなかった数を百分率で表した。
【0048】
以上の測定の結果を表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、本発明に従い、導電性母材の表面に膜厚0.1〜15μmで膜内に30〜1000μmのクラック間隔のクラックが存在する絶縁膜を設けた試料No.1〜3では、いずれも絶縁性および耐膜剥離性に優れたものであった。
【0051】
これに対して、成膜温度が850℃より低い試料No.4では、クラック間隔が1000μmより長く絶縁性および耐膜剥離性とも低いものであった。また、絶縁膜成膜工程において一旦冷却する際の降温速度が5℃/分よりも遅い試料No.5および絶縁膜の膜厚が15μmを超える試料No.7では、クラック間隔が1000μmよりも長くなり耐膜剥離性が低下した。さらに、一旦冷却する際に冷却温度を800℃よりも高い温度までしか下げなかった試料No.6については、クラック間隔が30μmより短く、多数のクラックが発生して絶縁膜の絶縁性が悪いものであった。
【0052】
【発明の効果】
以上、詳述したとおり、本発明によれば、絶縁膜中に膜厚0.1〜15μmで膜内に30〜1000μmのクラック間隔を有する微細なクラックを積極的に存在せしめることにより、絶縁膜の絶縁性を維持したまま、切削工具の耐欠損性および耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のセンサ付切削工具の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明のセンサ回路付切削工具のクラック間隔の評価方法を説明するための図である。
【図3】実施例における電気絶縁性の測定方法を説明するための概念図である。
【図4】本発明のセンサ回路付切削工具におけるセンサ回路パターンの一例を示す((a)斜め上方から見た、(b)斜め下方から見た)概略斜視図である。
【符号の説明】
1:スローアウェイ工具
2:導電性母材
3:絶縁膜
4:導電膜
6:すくい面
7:切刃
8:逃げ面
10:下地膜
12:テスター
【発明の属する技術分野】
本発明は切削加工に使用する工具に関し、特にセンサ回路を備えたセンサ回路付切削工具の改良に関するものである。
【0002】
【従来技術】
切削加工において、切削工具切刃の逃げ面摩耗の大きさは一般的に工具寿命の判定基準となることから、切削加工中にインプロセスで即座に逃げ面の摩耗量を推定することは高精度加工を維持する上で大変重要であるが、加工中に工具の摩耗を直接観察することは作業環境上大変難しい。
【0003】
従来、かかる工具切刃の摩耗量の測定法として、加工を中止し工具を一旦はずして工具顕微鏡などで測定したり、あるいは工具の摩耗に付随して起こる他の現象(切削力や振動の変化など)を工作機械上等の加工点付近に設置したセンサで加工中にインプロセスで検出し、検出信号に何らかの信号処理を行って摩耗量を推定しているが、従来の方法では摩耗量の定量化が困難であったり、十分な感度や信頼性が得られなかった。
【0004】
そこで、特許文献1では、超硬合金やサーメットなどの導電性母材の表面に絶縁性の酸化アルミニウム層と、導電膜からなるセンサ回路をコーティングして工具を形成し、被削材と工具との間に電圧をかけ、酸化アルミニウム層が摩耗し導電性母材が露出したとき、すなわち寿命になると電流が流れることを利用した工具寿命の検知方法が提案されている。
【0005】
また、本出願人は、先に特許文献2にて、絶縁膜中に発生するクラックを極力抑制するとともに絶縁膜を多層構造とすることによって絶縁膜の絶縁性が確保できることを提案した。
【0006】
〔特許文献1〕
特開昭59−81043号公報
〔特許文献2〕
特開2002−292504号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1、2のように、絶縁膜の絶縁性向上に着目したセンサ回路付切削工具では検出信号の検出感度が向上してセンサの検知信頼性を高めることができるものの、工具表面に絶縁膜および導電膜を付加的に形成した構成となるためにセンサを形成しないものに比べて硬質被覆膜全体としての膜厚が厚くなり、切削工具としての耐欠損性等の切削性能が損なわれてしまうという問題があった。また、そのために、絶縁膜および導電膜の膜厚を調整することによって切削性能の向上を図ることが考えられるが、特に絶縁膜の膜厚を薄くすると絶縁性が低下してセンサ信号を安定して検知できなくなる等、絶縁膜および導電膜の膜厚をセンサ性能と切削性能とが両立できる膜厚に調整することは困難であった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、センサ回路の高い検出感度を維持したまま、工具としての切削性能を高めることができるセンサ回路付切削工具を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明では、絶縁膜の構成について再度検討し、絶縁膜中にむしろ絶縁性を損なわないような微細なクラックを所定の割合で積極的に存在せしめることにより、絶縁膜の絶縁性を維持したまま、切削工具の耐欠損性および耐摩耗性を向上させることができることを知見した。
【0010】
即ち、本発明のセンサ回路付切削工具は、導電性母材の表面に膜厚0.1〜15μmで膜内に30〜1000μmのクラック間隔を有する絶縁膜を設けるとともに、該絶縁膜の表面に導電膜から成るセンサ回路を形成してなることを特徴とするものである。
【0011】
ここで、前記絶縁膜が化学蒸着法により作製されたこと、酸化アルミニウム層を少なくとも1層含むこと、前記酸化アルミニウム層が平均粒径0.5〜10μmの粒状晶の酸化アルミニウム粒子からなることによって、クラック間隔を所定の範囲に制御することができるとともに、導電性母材に対する付着強度が高くなるという効果がある。
【0012】
また、前記切削工具のすくい面切刃部における前記導電膜が前記すくい面中央部における前記導電膜の膜厚よりも薄くなるように研磨されていることにより、センサ回路間の電気抵抗値を低くすると同時に、切削工具としての耐欠損性が大幅に改善されるという効果がある。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態の一例であるスローアウェイ工具を例としてその概略断面図である図1を用いて説明する。なお、本発明のセンサ回路付切削工具は、スローアウェイ工具の他、ソリッドドリル等のソリッド工具への応用も可能である。
【0014】
図1のスローアウェイ工具1は、導電性母材2の表面に絶縁膜3を設けるとともに、絶縁膜3の表面に導電膜4から成るセンサ回路を形成してなる。
【0015】
本発明によれば、絶縁膜3が膜厚0.1〜15μm、特に2〜8μmで、膜内に30〜1000μm間隔、特に100〜1000μmのクラック間隔を有するクラックが存在することが大きな特徴であり、これによって、絶縁膜3の絶縁性を維持したまま、工具1の耐欠損性および耐摩耗性を向上させることができる。
【0016】
すなわち、絶縁膜3の膜厚が0.1μmより薄いと、絶縁層3の絶縁性が損なわれて導電膜4と導電性母材2との絶縁性が悪くなり、センサ回路が短絡してしまい、逆に、絶縁膜3の膜厚が15μmを超えると、切削工具1としての耐欠損性が悪くなって工具寿命が短くなる。また、絶縁膜3中に存在するクラック間隔が30μmより短いと、導電膜4と導電性母材2間の絶縁性が悪くなり、逆に、絶縁膜3中に存在するクラック間隔が1000μmより長いと、切削における絶縁膜3の靭性が低下して工具1の耐欠損性が悪くなる。
【0017】
ここで、本発明におけるクラック間隔とは、工具1の表面を硝酸33重量%、フッ化水素酸1重量%、水66重量%の割合で混合したエッチング液中に工具1を浸漬して90分間エッチングした後金属顕微鏡写真にて工具1の表面を観察した際(図2参照)に、工具1の表面部分に観察されるクラックについて、インタセプト法に基づき、写真上に任意の縦断線Lを引いたときのクラック間の距離(この縦断線Lの長さ(図2では1000μm)をクラックが交差する交点の数(図2ではNの平均値)で割った長さ)を指し、このクラック間隔が広い(長い)とクラックが少なく、クラック間隔が狭い(短い)とクラックが多くなることを指す。
【0018】
また、本発明によれば、絶縁膜3の形成方法としては、化学蒸着(CVD)法、プラズマ化学蒸着(PCVD)法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、蒸着法等の物理蒸着(PVD)法、めっき法などで形成されるが、絶縁膜3が化学蒸着法(CVD法)により作製されたものであることが、絶縁膜4を上記所定範囲のクラック間隔に制御し、導電性母材2への密着力が良いという点で望ましい。
【0019】
さらに、絶縁膜3が酸化アルミニウム層を少なくとも1層含むことが、工具1としての耐摩耗性に優れるとともに、被削材と反応しにくいため、切削工具としての耐摩耗性や耐チッピング性に優れている点で望ましい。
【0020】
さらにまた、前記酸化アルミニウム層が平均粒径0.5〜10μmの粒状晶の酸化アルミニウム粒子からなることによって、上記所定範囲のクラック間隔を達成できるとともに、絶縁膜3の耐欠損性および耐摩耗性を高くできる。粒径を上記範囲にすることで、酸化アルミニウム粒子が破壊源となることを防ぎ、酸化アルミニウムを基点とする膜剥離を防ぎ付着強度を高くすることができる。また、0.5μm以下だと耐摩耗性が悪く、10μmを超えると耐欠損性が悪くなる。また、前記酸化アルミニウム層がκ結晶、又はα結晶であることが、切削工具としての耐摩耗性および耐欠損性を維持することができるため望ましい。このような粒状晶は、CVD法によって作製できる。
【0021】
具体的には、酸化アルミニウム層3を例えばCVD法で形成する場合、成膜温度は850℃から1100℃の間で行うことがクラック間隔の制御、並びに耐摩耗性および耐欠損性向上の点で重要であり、850℃より低いとクラック間隔が1000μmより長くなるとともに絶縁性および耐欠損性、耐摩耗性とも低下する。また、1100℃より高いとクラック間隔が30μmより短くなり、絶縁性が低下する。
【0022】
また、キャリアガスとしてH2を用い、反応ガスとしてCO2、HCl、AlCl3、H2Sを用い、炉内圧力は4kPa〜30kPaの間で成膜することが絶縁膜3のクラック間隔を所定の範囲に制御する点で望ましい。
【0023】
ここで、本発明によれば、絶縁膜3の形成においては多段階または多層に分けて成膜することが、絶縁性の低下を抑制して安定したセンサ機能を有することができる点で望ましい。すなわち、多段階または多層とすることによって1層目に生成したクラックやピンホールなどの欠陥を2層目以降の成膜時に埋めて絶縁性を維持することができるため、より安定した絶縁性が維持される。
【0024】
上記多段階または多層成膜の具体的な成膜条件において、成膜温度よりも200℃以上低い温度まで一旦冷却すること、および5〜15℃/分の降温速度で一旦降温させた後成膜温度まで1〜15℃/分の昇温速度で昇温することが重要であり、これによって、絶縁膜3中に生じる残留応力等を開放しつつ所定範囲のクラック間隔を有するように制御することができ、安定した絶縁性および優れた切削性能を兼ね備えた絶縁膜3を作製することが可能となる。なお、上記降温および昇温時は真空または不活性ガス雰囲気にて行う。また、降温速度について、絶縁膜3の最終層を成膜した後は0.5〜5℃/分であることがクラック間隔の制御の点で望ましい。
【0025】
また、本発明によれば、図1に示すように、工具1のすくい面6の切刃部7における導電膜4がすくい面6中央部における導電膜4の膜厚よりも薄くなる(t1<t2)ように研磨されていることが望ましく、これによって、切刃部7における導電膜4、絶縁膜3、さらには下地膜10に残存する残留応力をさらに改善して、さらに耐欠損性に優れた工具1となる。なお、本発明においては上記のように切刃部7を研磨する場合、センサ回路の導通状態を維持するためには導電膜4が逃げ面8側で所望の厚み残存している必要があり、豚毛ブラシ等の柔らかいブラシや樹脂やゴム等の軟質材入り砥粒等の柔らかい研磨剤を用いて極微量研磨することが望ましい。また、切刃部7における導電膜4の表面粗さ(Ra)は0.4μm以下であることが硬質被覆膜15が剥離することを防止して耐欠損性を高めるとともに、耐溶着性向上によるセンサ機能の安定性の点で望ましい。
【0026】
(導電性母材)
本発明において用いられる導電性母材としては、電気抵抗値が10−2Ω・cm以下であることが望ましく、特に、酸化アルミニウム質焼結体、窒化珪素質焼結体、サーメット、超硬合金、立方晶窒化ホウ素質焼結体(CBN/CubicBoron Nitride)、ダイヤモンド焼結体(PCD/Polycrystalline Diamond)などが使用できる。
【0027】
酸化アルミニウム質焼結体としては、TiCまたはTiCNを2〜40重量%、Fe、Ni、Coの酸化物のうち少なくとも1種を0.01〜5.0重量%含有してなる酸化アルミニウム質焼結体などが好適に使用できる。
【0028】
窒化珪素質焼結体としては、AlをAl2O3換算で1.5〜10モル%、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物を30〜80モル%、希土類酸化物を窒化珪素に対して10重量%以下、不純物的酸素をSiO2換算で10モル%以下の割合から成る窒化珪素質焼結体が好適に使用できる。
【0029】
サーメットとしては、Tiを炭化物、窒化物あるいは炭窒化物換算で50〜80重量%、周期律表第6a族元素を炭化物換算で10〜40重量%の割合で含有するとともに(窒素/(炭素+窒素))で表される原子比が0.4〜0.6の範囲内にある硬質相成分70〜90重量%と、鉄族金属から成る結合相成分10〜30重量%とから成るTiCN基サーメットが好適に使用される。
【0030】
超硬合金としては、硬質相と結合相で構成されるものなどがあり、硬質相は、炭化タングステン、または炭化タングステンの5〜15重量%を周期律表第4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物で置換し、結合相は、Co等の鉄族金属を5〜15重量%の割合で含有したものが好適に使用される。
【0031】
(下地膜)
また、本発明によれば、図1に示すように、絶縁膜3と導電性母材2との間に、Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸窒化物、Alの酸化物や、TiAlの窒化物、炭窒化物の群から選ばれる少なくとも1種を単層または複数層として0.1〜10μmの厚みで形成することができる。
【0032】
特に、導電性母材2と絶縁膜3との付着強度を上げる上では、図1に示すように、絶縁膜3の直下にTiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸窒化物のうちいずれか1種以上による単層または複数層の下地膜10を設けることが望ましい。
【0033】
切削性能向上のためには、(Tia,Mb)CxNyOz(ただし、MはAl、Si、Cr、Zr、NbおよびHfの群から選ばれる少なくとも1種、a+b=1、0.1≦a≦1、x+y+z=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦0.5)を0.1μm〜10μmの厚みで単層または複数層成膜することが望ましい。その場合は、この層と絶縁膜3との間に上記Tiの炭化物、窒化物、炭窒化物の単層または多層を介在させることが望ましい。
【0034】
なお、これらの下地膜10は、CVD法やイオンプレーティング、スパッタリング等のPVD法群から選ばれる少なくとも1種の成膜法によって形成される。
【0035】
(導電膜)
導電膜4は、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W等の周期律表4a、5a、6a族金属、Co、Ni、Fe等の鉄族金属、あるいはAlなどの金属材料やTiC、VC、NbC、TaC、Cr3C2、Mo2C、WC、W2C、TiN、VN、NbN、TaN、CrN、TiCN、VCN、NbCN、TaCN、CrCN等の周期律表4a、5a、6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、(Ti、Al)Nの群から選ばれる少なくとも1種で形成される。この中でも、TiNは被削材と反応せず、センサの電気抵抗値が常に所定値を示し、スローアウェイチップの摩耗度合い、欠損の発生の有無を正確に検出することができること、被削材の加工表面に反応生成物による傷が形成されるのを有効に防止できること、耐酸化性に優れ、酸化物生成によるセンサの電気抵抗値の変化がなく、スローアウェイチップの摩耗度合い、欠損の発生の有無を正確に検出することができること等の理由から好適に使用し得る。
【0036】
導電膜4は、その厚みを0.05μm以上とすることで、スローアウェイチップの摩耗度合いや欠損を正確に検出するためにセンサの電気抵抗を得ることができる。また20μm以下とすることで、導電膜4中への応力の発生を抑制し、導電膜4の密着性を高めることができる。
【0037】
この導電膜4は、CVD法やイオンプレーティング、スパッタリング、蒸着等のPVD法、めっき法等を採用することによってスローアウェイチップの母材のほぼ全面に所定厚みに導電膜を被着し、その後、レーザ加工によって、導電膜4を図4のような所定パターンに加工される。なお、センサ回路のうち損傷状態を検知するセンサライン部分20のセンサ幅は一般的には0.01mm〜0.5mmでよいと考え得るが、寿命設定により任意の幅を持たせるとよい。
【0038】
上述した構成からなる本発明のセンサ回路付き切削工具は、絶縁性と導電性母材との付着力に優れることから、損耗センサとして好適である。
【0039】
【実施例】
導電性母材として、Co:8重量%、Ta:5重量%、Ti:3重量%、残部がWCからなる超硬合金を準備した。
【0040】
その表面に、CVD法でTiCl4、N2、H2、CH4、CH3CNを用いて、炉内温度800℃以上で膜厚1μmのTiN膜と膜厚8μmのTiCN膜とを下地膜として成膜した。
【0041】
そして、上記下地膜表面に、キャリアガスとしてH2を用い、反応ガスとしてCO2、HCl、AlCl3を用い、表1に示す成膜温度で、炉内圧力は10kPa、成膜時間90分で酸化アルミニウム(Al2O3)膜を成膜した。次に、成膜温度に対して表1に示す温度まで、表1の降温速度で一旦降温させて、その後成膜温度まで表1の昇温速度で昇温して1層目と同じ成膜条件で酸化アルミニウム(Al2O3)膜の成膜を行った。その後表1に示す最終降温速度条件にて冷却を行った。なお、この絶縁膜の総成膜数および総膜厚は表1に示した。また、試料No.7のみ1層目の酸化アルミニウム膜の膜厚を8μm成膜した後、2層目以降を2μmづつ4層、すなわち酸化アルミニウム膜の総膜厚が16μmとなるように成膜した。
【0042】
その後、アークイオンプレーティング法で成膜温度500℃にてTiNからなる導電膜を層厚1μmで成膜した後、導電膜にレーザ加工を施して図4の回路パターンからなるセンサ回路を作製し、CNMG120408形状のセンサ回路付きスローアウェイチップを試料ごとに20個ずつ作製した。
【0043】
さらに、上記スローアウェイチップに対して、樹脂入りの砥粒を用いてすくい面側からサンドブラスト処理し、切刃部の導電膜を0.5μmだけ除去した。
【0044】
得られた損耗センサ回路つきスローアウェイチップについて、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)および光学顕微鏡にて1000倍〜50000倍に拡大して測定した。SEMによる測定では装置は日本電子製JSM−6340Fにて行った。
【0045】
また、上記スローアウェイチップを、硝酸33重量%、フッ化水素酸1重量%、水66重量%の混合溶液からなるエッチング液中に室温で90分間浸漬してエッチングした後、引き上げてチップの表面を金属顕微鏡にて観察した。そして、チップ表面(すくい面)の金属顕微鏡写真にて観察しインタセプト法によってクラック間隔を測定した。
【0046】
以上の方法で作製した各試料について以下の方法によって電気絶縁性およびチップの耐欠損性の評価を行った。電気絶縁性の調査は、図3に示すように、テスター12によって導電性母材と、導電膜1間の電気抵抗を各試料10個ずつ測定し、200kΩ以上の試料の個数を測定してその割合を算出した。また、切削性能の評価として、以下の切削条件下での切削試験を行った。
【0047】
≪切削条件≫
切削速度 100m/min
送り 0.4mm/rev
切り込み 2.0mm
被削材 SCM440 4本溝
切削状態 切削液あり(ソリューション)
評価結果 2分間切削して刃先が欠損した数を評価した。各試料につき10個ずつ評価し、欠損が見られなかった数を百分率で表した。
【0048】
以上の測定の結果を表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、本発明に従い、導電性母材の表面に膜厚0.1〜15μmで膜内に30〜1000μmのクラック間隔のクラックが存在する絶縁膜を設けた試料No.1〜3では、いずれも絶縁性および耐膜剥離性に優れたものであった。
【0051】
これに対して、成膜温度が850℃より低い試料No.4では、クラック間隔が1000μmより長く絶縁性および耐膜剥離性とも低いものであった。また、絶縁膜成膜工程において一旦冷却する際の降温速度が5℃/分よりも遅い試料No.5および絶縁膜の膜厚が15μmを超える試料No.7では、クラック間隔が1000μmよりも長くなり耐膜剥離性が低下した。さらに、一旦冷却する際に冷却温度を800℃よりも高い温度までしか下げなかった試料No.6については、クラック間隔が30μmより短く、多数のクラックが発生して絶縁膜の絶縁性が悪いものであった。
【0052】
【発明の効果】
以上、詳述したとおり、本発明によれば、絶縁膜中に膜厚0.1〜15μmで膜内に30〜1000μmのクラック間隔を有する微細なクラックを積極的に存在せしめることにより、絶縁膜の絶縁性を維持したまま、切削工具の耐欠損性および耐摩耗性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のセンサ付切削工具の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明のセンサ回路付切削工具のクラック間隔の評価方法を説明するための図である。
【図3】実施例における電気絶縁性の測定方法を説明するための概念図である。
【図4】本発明のセンサ回路付切削工具におけるセンサ回路パターンの一例を示す((a)斜め上方から見た、(b)斜め下方から見た)概略斜視図である。
【符号の説明】
1:スローアウェイ工具
2:導電性母材
3:絶縁膜
4:導電膜
6:すくい面
7:切刃
8:逃げ面
10:下地膜
12:テスター
Claims (5)
- 導電性母材の表面に膜厚0.1〜15μmで膜内に30〜1000μmのクラック間隔を有するクラックが存在する絶縁膜を設けるとともに、該絶縁膜の表面に導電膜から成るセンサ回路を形成してなることを特徴とするセンサ回路付切削工具。
- 前記絶縁膜が化学蒸着法により作製されたことを特徴とする請求項1記載のセンサ回路付切削工具。
- 前記絶縁膜が酸化アルミニウム層を少なくとも1層含むことを特徴とする請求項1または2記載のセンサ回路付切削工具。
- 前記酸化アルミニウム層が平均粒径0.5〜10μmの粒状晶の酸化アルミニウム粒子からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか記載のセンサ回路付切削工具。
- 前記切削工具のすくい面切刃部における前記導電膜が前記すくい面中央部における前記導電膜の膜厚よりも薄くなるように研磨されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載のセンサ回路付切削工具。
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2003
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