JP2016187847A - 黒皮偏肉断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
黒皮偏肉断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐欠損性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材の高速、高送り切削加工において、すぐれた耐欠損性、耐塑性変形性、耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】WC基超硬合金からなる工具基体の表面に、下部層と上部層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、(a)下部層はTi化合物層からなり、(b)すくい面の上部層は、下部層表面に被覆された平均層厚6〜14μmのκ型Al2O3層と、該層の上に被覆された平均層厚1〜9μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなり、(c)逃げ面の上部層は、下部層表面に被覆された平均層厚1〜15μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなる表面被覆切削工具。
【選択図】 図1
【解決手段】WC基超硬合金からなる工具基体の表面に、下部層と上部層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、(a)下部層はTi化合物層からなり、(b)すくい面の上部層は、下部層表面に被覆された平均層厚6〜14μmのκ型Al2O3層と、該層の上に被覆された平均層厚1〜9μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなり、(c)逃げ面の上部層は、下部層表面に被覆された平均層厚1〜15μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなる表面被覆切削工具。
【選択図】 図1
Description
この発明は、黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材を、特に、高速、高送り条件で切削加工するに好適な、耐欠損性と耐摩耗性を備え、かつ、サーマルバリア効果により耐塑性変形性を向上させた表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関する。
従来、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、工具基体という)の表面に、下部層として、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、また、上部層として、α型結晶構造を有するα型Al2O3(以下、「α型結晶構造を有するAl2O3」あるいは「α型Al2O3」で表す)層、からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具が知られており、この被覆工具は、すぐれた硬さを有するため、通常条件の切削加工においてすぐれた耐摩耗性を発揮することも知られている。
しかし、切削加工の高能率化に伴い、さらに切削性能にすぐれた被覆工具が求められてきており、この要請に応えるべく、硬質被覆層のAl2O3層をα型Al2O3層のみではなく、他の結晶構造、例えば、κ型Al2O3(以下、「κ型結晶構造を有するAl2O3」あるいは「κ型Al2O3」で示す)層と組み合わせて切削性能を改善しようとするいくつかの提案がなされている。
しかし、切削加工の高能率化に伴い、さらに切削性能にすぐれた被覆工具が求められてきており、この要請に応えるべく、硬質被覆層のAl2O3層をα型Al2O3層のみではなく、他の結晶構造、例えば、κ型Al2O3(以下、「κ型結晶構造を有するAl2O3」あるいは「κ型Al2O3」で示す)層と組み合わせて切削性能を改善しようとするいくつかの提案がなされている。
例えば、特許文献1には、工具基体表面に少なくとも1層のAl2O3層を含む複合硬質層が被覆し、複合硬質層の最外層をAl2O3層とし、すくい面に被覆したAl2O3層はα型結晶構造を主体とし、一方、逃げ面に被覆したAl2O3層はκ型結晶構造を主体とすることによって、滑らかな被削面を形成することが提案されている。
また、特許文献2には、工具基体表面に少なくともAl2O3層を含む硬質被覆層を形成した被覆工具において、すくい面においてα型Al2O3を主体として含むとともに、逃げ面においてα型Al2O3以外のAl2O3、例えば、κ型Al2O3あるいはγ型の結晶構造を有するAl2O3を主体として含むことにより、鋼の高速切削加工における耐摩耗性と靭性を改善することが提案されている。
また、特許文献3には、工具基体表面に少なくともAl2O3層を含む硬質被覆層を形成した被覆工具において、逃げ面においてα型Al2O3を主体として含むとともに、すくい面においてα型Al2O3以外のAl2O3、例えば、κ型Al2O3あるいはγ型の結晶構造を有するAl2O3を主体として含むことにより、逃げ面側における耐摩耗性とすくい面側における耐溶着性を改善することが提案されている。
また、特許文献4には、工具基体表面に、少なくともκ型Al2O3層を被覆した被覆工具において、切刃稜線部のκ型Al2O3層の結晶構造を、レーザー照射加熱または電子ビーム照射加熱によりα型Al2O3層へと変態させることにより、鋼や鋳鉄の高速切削加工における耐摩耗性を改善することが提案されている。
さらに、特許文献5には、工具基体表面にκ型Al2O3層を被覆した被覆工具において、このκ型Al2O3層の表面を湿式ブラスト処理し、次いで900℃−1100℃の温度で0.3−10時間に亘り熱処理することによって、κ型Al2O3をα型Al2O3に変態させることによって、耐欠損性、耐摩耗性を改善することが提案されている。
近年の切削装置の高性能化はめざましく、一方で切削加工に対する省力化および省エネ化、さらに低コスト化の要求は強く、これに伴い、切削加工は一段と高能率化する傾向にあるが、上記従来の被覆工具においては、これを鋼や鋳鉄などの通常の条件での連続切削や断続切削に用いた場合には問題はないが、特に、これを、黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材の高速、高送り切削に用いた場合には、被覆工具の切刃部には、黒皮部擦りによる偏摩耗を発生しやすく、また、高熱・高負荷により塑性変形が生じることから摩耗も進行しやすく、これらを原因として、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
即ち、前記特許文献1、2で提案されているように、すくい面をα型Al2O3、逃げ面をκ型Al2O3とすることで高耐摩耗性と高耐欠損性を両立することが可能であるが、α型Al2O3はκ型Al2O3よりもサーマルバリア効果が低く、例えば高送りの重切削加工等といったすくい面の切削温度が高温になる場合においては、母材の組成変形が進行する。また、逃げ面がκ型Al2O3となっており、α型Al2O3より耐摩耗性が劣るため、上記塑性変形の進行と相まって早期に摩耗が発達する。
一方で、前記特許文献4で提案されている硬質被覆層の構造にする場合、κ型Al2O3はα型Al2O3に比べて耐クレーター摩耗性が低いために、クレーター摩耗が早期に進行する。
また、前記特許文献3で提案されている技術と前記特許文献4で提案されている技術とを組み合わせて、すくい面の上層のκ型Al2O3の一部をα型に変態させることで、すくい面摩耗の進行を防ぐことも考えられる。
しかしながら、熱変態Al2O3においては前記特許文献5にみられるように硬質被覆層の靭性の低下が生じる。特に、重切削かつ高送り加工において、黒皮偏肉を有する被削材を加工する際は、硬質被覆層の靭性が求められ、靭性が低い場合には欠損を発生し早期に寿命を迎えることになる。
このように、黒皮偏肉を有する大型被削材を、特に、高速、高送りで切削加工する場合、耐欠損性、耐摩耗性を維持しつつ、サーマルバリア効果により耐塑性変形性の向上を図ることが課題となる。
また、前記特許文献3で提案されている技術と前記特許文献4で提案されている技術とを組み合わせて、すくい面の上層のκ型Al2O3の一部をα型に変態させることで、すくい面摩耗の進行を防ぐことも考えられる。
しかしながら、熱変態Al2O3においては前記特許文献5にみられるように硬質被覆層の靭性の低下が生じる。特に、重切削かつ高送り加工において、黒皮偏肉を有する被削材を加工する際は、硬質被覆層の靭性が求められ、靭性が低い場合には欠損を発生し早期に寿命を迎えることになる。
このように、黒皮偏肉を有する大型被削材を、特に、高速、高送りで切削加工する場合、耐欠損性、耐摩耗性を維持しつつ、サーマルバリア効果により耐塑性変形性の向上を図ることが課題となる。
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、特に、黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材を高速、高送り条件で切削加工した場合における、硬質被覆層の耐欠損性、耐摩耗性を維持しつつ、耐塑性変形性の向上を図るべく鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
従来の被覆工具の硬質被覆層の上部層を構成するα型Al2O3層は、工具基体表面に、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層、TiNO層およびTiCNO層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなる下部層を所定条件で蒸着形成した後、その表面に、例えば、通常の化学蒸着装置にて、α型Al2O3層が成膜されることによって形成される。
しかし、本発明においては、上記Ti化合物層からなる下部層を化学蒸着した後、例えば、逃げ面のみに、酸素イオン注入を施し下部層の表面に酸素導入処理を施し、その後、よく知られているκ型Al2O3層の成膜条件、即ち、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:3〜10%、CO2:3〜6%(但し、反応初期は0%として徐々にガスの組成割合を3〜6%までに高める)、HCl:1〜4%、H2S:0.1〜0.5%、H2:残り、
反応雰囲気温度:920〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の成膜条件でAl2O3層を化学蒸着する。
そうすると、上記蒸着により、すくい面にはκ型Al2O3層がそのまま成膜されるが、逃げ面は酸素ポテンシャルが高いために、κ型Al2O3層ではなくα型Al2O3層が成膜される。
ついで、よく知られているα型Al2O3層の成膜条件、例えば、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、H2S:0.02〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の成膜条件でα型Al2O3層を化学蒸着する。
そうすると、上記蒸着によって、工具基体のすくい面には、Ti化合物層からなる下部層、この上に被覆されたκ型Al2O3層、さらに、κ型Al2O3層の上に被覆された化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなる層構造、即ち、二層構造の上部層、が形成され、一方、逃げ面には、Ti化合物層からなる下部層、この上に被覆された化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層の層構造、即ち、単層構造の上部層、が形成される。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:3〜10%、CO2:3〜6%(但し、反応初期は0%として徐々にガスの組成割合を3〜6%までに高める)、HCl:1〜4%、H2S:0.1〜0.5%、H2:残り、
反応雰囲気温度:920〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の成膜条件でAl2O3層を化学蒸着する。
そうすると、上記蒸着により、すくい面にはκ型Al2O3層がそのまま成膜されるが、逃げ面は酸素ポテンシャルが高いために、κ型Al2O3層ではなくα型Al2O3層が成膜される。
ついで、よく知られているα型Al2O3層の成膜条件、例えば、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、H2S:0.02〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の成膜条件でα型Al2O3層を化学蒸着する。
そうすると、上記蒸着によって、工具基体のすくい面には、Ti化合物層からなる下部層、この上に被覆されたκ型Al2O3層、さらに、κ型Al2O3層の上に被覆された化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなる層構造、即ち、二層構造の上部層、が形成され、一方、逃げ面には、Ti化合物層からなる下部層、この上に被覆された化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層の層構造、即ち、単層構造の上部層、が形成される。
そして、本発明の被覆工具は、すくい面に上記二層構造の上部層を、また、逃げ面に上記単層構造の上部層を被覆形成することによって、黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材の高速、高送り条件での切削加工において、すぐれた耐欠損性と耐塑性変形性を示し、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
また、本発明の被覆工具は、切れ刃エッジ部の硬質被覆層の上部層については、上記二層構造、また、上記単層構造のいずれであっても構わない。
図1(a)に示すように、切れ刃エッジ部の硬質被覆層の上部層構造をすくい面と同様な二層構造とした場合には、下部層とκ型Al2O3層がすぐれた付着強度を有することと相まって、切れ刃エッジ部は、溶着チッピング等によってもたらされる異常損傷性にすぐれ、一方、図1(b)に示すように、切れ刃エッジ部の硬質被覆層の上部層構造を逃げ面と同様な単層構造とした場合には、切れ刃エッジ部の耐摩耗性が向上する。
図1(a)に示すように、切れ刃エッジ部の硬質被覆層の上部層構造をすくい面と同様な二層構造とした場合には、下部層とκ型Al2O3層がすぐれた付着強度を有することと相まって、切れ刃エッジ部は、溶着チッピング等によってもたらされる異常損傷性にすぐれ、一方、図1(b)に示すように、切れ刃エッジ部の硬質被覆層の上部層構造を逃げ面と同様な単層構造とした場合には、切れ刃エッジ部の耐摩耗性が向上する。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、窒酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなり、
(b)すくい面の上部層は、下部層表面に被覆された平均層厚6〜14μmのκ型Al2O3層と、該層の上に被覆された平均層厚1〜9μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなり、
(c)逃げ面は、平均層厚6〜15μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記(1)記載の表面被覆切削工具において、切れ刃エッジ部の硬質被覆層は、前記下部層表面に被覆された平均層厚6〜14μmのκ型Al2O3層と、該層の上に被覆された平均層厚1〜9μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなることを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記(1)記載の表面被覆切削工具において、切れ刃エッジ部の硬質被覆層は、前記下部層表面に被覆された平均層厚6〜15μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなることを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、窒酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなり、
(b)すくい面の上部層は、下部層表面に被覆された平均層厚6〜14μmのκ型Al2O3層と、該層の上に被覆された平均層厚1〜9μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなり、
(c)逃げ面は、平均層厚6〜15μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記(1)記載の表面被覆切削工具において、切れ刃エッジ部の硬質被覆層は、前記下部層表面に被覆された平均層厚6〜14μmのκ型Al2O3層と、該層の上に被覆された平均層厚1〜9μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなることを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記(1)記載の表面被覆切削工具において、切れ刃エッジ部の硬質被覆層は、前記下部層表面に被覆された平均層厚6〜15μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなることを特徴とする前記(1)記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
以下に、この発明の被覆工具について、詳細に説明する。
Ti化合物層(下部層):
Ti化合物層は、基本的には上部層であるAl2O3層の下部層として存在し、自身の特性である高い硬度によって硬質被覆層に高い耐摩耗性、特に優れた耐逃げ面摩耗性を具備するようにするほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用を有するが、その平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が20μmを越えると、耐欠損性に悪影響を及ぼす事からその平均層厚を3〜20μmと定めた。
Ti化合物層は、基本的には上部層であるAl2O3層の下部層として存在し、自身の特性である高い硬度によって硬質被覆層に高い耐摩耗性、特に優れた耐逃げ面摩耗性を具備するようにするほか、工具基体と上部層であるAl2O3層のいずれにも強固に密着し、よって硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用を有するが、その平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その平均層厚が20μmを越えると、耐欠損性に悪影響を及ぼす事からその平均層厚を3〜20μmと定めた。
κ型Al2O3層(上部層):
κ型Al2O3層は、α型Al2O3層に比して、下層との付着強度およびサーマルバリア効果にすぐれており、溶着物の凝着・剥離が繰り返されることにより発生しやすい溶着チッピングを抑制するとともに、特に、黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材の高速、高送り条件での切削加工において、刃先温度が上がることによる塑性変形を抑制することにより、摩耗の進行およびそれに起因する欠損等の異常損傷の発生を大幅に抑えることができる。
すくい面に被覆形成するκ型Al2O3層の平均層厚は、6μm未満では、十分なサーマルバリア効果を発揮することができず、一方、14μmを超えると耐欠損性および耐剥離性に悪影響を及ぼす可能性があるためである。
したがって、すくい面に被覆形成するκ型Al2O3層の平均層厚は、6〜14μmと定める。
κ型Al2O3層は、α型Al2O3層に比して、下層との付着強度およびサーマルバリア効果にすぐれており、溶着物の凝着・剥離が繰り返されることにより発生しやすい溶着チッピングを抑制するとともに、特に、黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材の高速、高送り条件での切削加工において、刃先温度が上がることによる塑性変形を抑制することにより、摩耗の進行およびそれに起因する欠損等の異常損傷の発生を大幅に抑えることができる。
すくい面に被覆形成するκ型Al2O3層の平均層厚は、6μm未満では、十分なサーマルバリア効果を発揮することができず、一方、14μmを超えると耐欠損性および耐剥離性に悪影響を及ぼす可能性があるためである。
したがって、すくい面に被覆形成するκ型Al2O3層の平均層厚は、6〜14μmと定める。
κ型Al2O3層は、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:3〜10%、CO2:3〜6%(但し、反応初期は0%として徐々にガスの組成割合を3〜6%までに高める)、HCl:1〜4%、H2S:0.1〜0.5%、H2:残り、
反応雰囲気温度:920〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の化学蒸着条件で成膜することができる。
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:3〜10%、CO2:3〜6%(但し、反応初期は0%として徐々にガスの組成割合を3〜6%までに高める)、HCl:1〜4%、H2S:0.1〜0.5%、H2:残り、
反応雰囲気温度:920〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の化学蒸着条件で成膜することができる。
α型Al2O3層(上部層):
前記特許文献4、5で示したように、α型Al2O3層は、κ型Al2O3層を加熱変態させることにより形成することもできるが、加熱変態により形成されたα型Al2O3層は、化学蒸着された状態(as depo)でα型結晶構造を有するα型Al2O3層に比して、膜の靭性が低いため、切削加工時に切れ刃に高負荷が作用する場合には、早期に寿命となる。
そこで、本発明では、α型Al2O3層として、化学蒸着された状態(as depo)でα型結晶構造を有するα型Al2O3層を被覆形成する。
ただ、本発明では、すくい面の上部層を、κ型Al2O3層の表面にα型Al2O3層を被覆した層構造とし、一方、逃げ面の上部層をα型Al2O3層からなる層構造とすることが必要である。そのため、例えば下記のような方法によって成膜することで、前記の構造の膜を得ることができる。
工具基体表面のすくい面及び逃げ面に下部層を形成した後、逃げ面の下部層にイオン注入で酸素を導入する処理を施す。
ついで、すくい面の下部層表面及び逃げ面の酸素を導入した下部層表面に、通常κ型Al2O3層が成膜される化学蒸着条件で成膜すると、すくい面にはκ型Al2O3層がそのまま成膜されるが、逃げ面は酸素ポテンシャルが高いために、κ型Al2O3層ではなくα型Al2O3層が成膜される。
その後、通常のα型Al2O3層の成膜条件、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、H2S:0.02〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の成膜条件でα型Al2O3層を、所定目標層厚になるまで成膜することによって、本発明の上部層、即ち、すくい面は、κ型Al2O3層と、この上に被覆された化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するα型Al2O3層からなり、また、逃げ面は、化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するα型Al2O3層からなる、を形成することができる。
前記特許文献4、5で示したように、α型Al2O3層は、κ型Al2O3層を加熱変態させることにより形成することもできるが、加熱変態により形成されたα型Al2O3層は、化学蒸着された状態(as depo)でα型結晶構造を有するα型Al2O3層に比して、膜の靭性が低いため、切削加工時に切れ刃に高負荷が作用する場合には、早期に寿命となる。
そこで、本発明では、α型Al2O3層として、化学蒸着された状態(as depo)でα型結晶構造を有するα型Al2O3層を被覆形成する。
ただ、本発明では、すくい面の上部層を、κ型Al2O3層の表面にα型Al2O3層を被覆した層構造とし、一方、逃げ面の上部層をα型Al2O3層からなる層構造とすることが必要である。そのため、例えば下記のような方法によって成膜することで、前記の構造の膜を得ることができる。
工具基体表面のすくい面及び逃げ面に下部層を形成した後、逃げ面の下部層にイオン注入で酸素を導入する処理を施す。
ついで、すくい面の下部層表面及び逃げ面の酸素を導入した下部層表面に、通常κ型Al2O3層が成膜される化学蒸着条件で成膜すると、すくい面にはκ型Al2O3層がそのまま成膜されるが、逃げ面は酸素ポテンシャルが高いために、κ型Al2O3層ではなくα型Al2O3層が成膜される。
その後、通常のα型Al2O3層の成膜条件、例えば、通常の化学蒸着装置にて、
反応ガス組成:容量%で、AlCl3:1〜5%、CO2:3〜7%、HCl:0.3〜3%、H2S:0.02〜0.4%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1020℃、
反応雰囲気圧力:6〜13kPa、
の成膜条件でα型Al2O3層を、所定目標層厚になるまで成膜することによって、本発明の上部層、即ち、すくい面は、κ型Al2O3層と、この上に被覆された化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するα型Al2O3層からなり、また、逃げ面は、化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するα型Al2O3層からなる、を形成することができる。
すくい面のκ型Al2O3層の表面に被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚が、2μm未満では、十分な耐すくい面摩耗性を得ることができず、一方、9μmを超えると耐欠損性に悪影響を及ぼす可能性があるから、すくい面に被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚は、2〜9μmと定める。
また、逃げ面に被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚が、6μm未満では、十分な耐逃げ面摩耗性を発揮することができず、一方、15μmを超えると下層との付着強度に悪影響を与える可能性があるから、逃げ面に被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚は、6〜15μmと定める。
また、逃げ面に被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚が、6μm未満では、十分な耐逃げ面摩耗性を発揮することができず、一方、15μmを超えると下層との付着強度に悪影響を与える可能性があるから、逃げ面に被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚は、6〜15μmと定める。
切れ刃エッジ部:
本発明では、すくい面の上部層は二層構造、また、逃げ面の上部層は単層構造としたが、切れ刃エッジ部については、二層構造、単層構造の何れの構造としてもよい。
図1(a)に示すように、切れ刃エッジ部あるいは切れ刃稜線の上部層を、すくい面の上部層構造と同じ、κ型Al2O3層表面にα型Al2O3層を被覆した二層構造とした場合には、下部層とκ型Al2O3層がすぐれた付着強度を有することから、切れ刃エッジ部は、溶着チッピング等によってもたらされる異常損傷性にすぐれる。
また、図1(b)に示すように、切れ刃エッジ部の硬質被覆層の上部層構造を、逃げ面の上部層構造と同様なα型Al2O3層の単層構造とした場合には、α型Al2O3層の備える硬さと耐熱性によって、切れ刃エッジ部の耐摩耗性が向上する。
ただし、切れ刃エッジ部の上部層を、前記二層構造とする場合、κ型Al2O3層の平均層厚は、6〜14μmであること、また、α型Al2O3層の平均層厚は、1〜9μmであることが望ましい。
これは、κ型Al2O3層の平均層厚が6μm未満では、十分なサーマルバリア効果を発揮することができず、一方、14μmを超えると耐欠損性および耐剥離性に悪影響を及ぼす可能性があり、またκ型Al2O3層の表面に被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚が、1μm未満では、十分な耐すくい面摩耗性を得ることができず、一方、9μmを超えると耐欠損性に悪影響を及ぼす可能性があるためである。
また、切れ刃エッジ部の上部層を、前記単層構造とする場合、α型Al2O3層の平均層厚は、6〜15μmであることが望ましい。
これは、被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚が、6μm未満では、十分な耐逃げ面摩耗性を発揮することができず、一方、15μmを超えると下層との付着強度に悪影響を与える可能性があるという理由による。
本発明では、すくい面の上部層は二層構造、また、逃げ面の上部層は単層構造としたが、切れ刃エッジ部については、二層構造、単層構造の何れの構造としてもよい。
図1(a)に示すように、切れ刃エッジ部あるいは切れ刃稜線の上部層を、すくい面の上部層構造と同じ、κ型Al2O3層表面にα型Al2O3層を被覆した二層構造とした場合には、下部層とκ型Al2O3層がすぐれた付着強度を有することから、切れ刃エッジ部は、溶着チッピング等によってもたらされる異常損傷性にすぐれる。
また、図1(b)に示すように、切れ刃エッジ部の硬質被覆層の上部層構造を、逃げ面の上部層構造と同様なα型Al2O3層の単層構造とした場合には、α型Al2O3層の備える硬さと耐熱性によって、切れ刃エッジ部の耐摩耗性が向上する。
ただし、切れ刃エッジ部の上部層を、前記二層構造とする場合、κ型Al2O3層の平均層厚は、6〜14μmであること、また、α型Al2O3層の平均層厚は、1〜9μmであることが望ましい。
これは、κ型Al2O3層の平均層厚が6μm未満では、十分なサーマルバリア効果を発揮することができず、一方、14μmを超えると耐欠損性および耐剥離性に悪影響を及ぼす可能性があり、またκ型Al2O3層の表面に被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚が、1μm未満では、十分な耐すくい面摩耗性を得ることができず、一方、9μmを超えると耐欠損性に悪影響を及ぼす可能性があるためである。
また、切れ刃エッジ部の上部層を、前記単層構造とする場合、α型Al2O3層の平均層厚は、6〜15μmであることが望ましい。
これは、被覆形成するα型Al2O3層の平均層厚が、6μm未満では、十分な耐逃げ面摩耗性を発揮することができず、一方、15μmを超えると下層との付着強度に悪影響を与える可能性があるという理由による。
本発明の被覆工具のすくい面の少なくとも上部層表面については、表面平滑化と残留応力の緩和のために、ブラスト処理、ブラシ処理等を施すことができる。
また、被覆工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を、必要に応じて硬質被覆層の最表面層として蒸着形成してもよいが、この場合の平均層厚は0.1〜1μmでよく、これは0.1μm未満では、十分な識別効果が得られず、一方前記TiN層による前記識別効果は1μmまでの平均層厚で十分であるという理由からである。
また、被覆工具の使用前後の識別を目的として、黄金色の色調を有するTiN層を、必要に応じて硬質被覆層の最表面層として蒸着形成してもよいが、この場合の平均層厚は0.1〜1μmでよく、これは0.1μm未満では、十分な識別効果が得られず、一方前記TiN層による前記識別効果は1μmまでの平均層厚で十分であるという理由からである。
本発明の被覆工具は、硬質被覆層の上部層が、すくい面ではκ型Al2O3層と化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するα型Al2O3層の二層構造からなり、一方、逃げ面では、化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するα型Al2O3層の単層構造からなることによって、切れ刃に高負荷が作用する黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材の高速、高送り条件での切削加工において、すぐれた耐欠損性と耐塑性変形性を示し、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するのである。
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 C2 粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.2mmのホーニング加工を施すことによりISO・SNMM250924に規定するインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体を製造した。
ついで、この工具基体を、通常の化学蒸着装置に装入し、
まず、表2(表2中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表3に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した。
ついで、上記工具基体の逃げ面に対して、注入酸素イオン量:6.0×1016イオン/cm2の処理条件でイオン注入をし、逃げ面の下部層表面に酸素導入処理を行った。
ついで、同じく表2に示されるκ型Al2O3層の成膜条件で、すくい面のκ型Al2O3層が表3に示される目標層厚になるまで蒸着形成した。
ついで、表2に示されるα型Al2O3層の成膜条件にて、同じく表4に示される目標層厚になるまでα型Al2O3層を蒸着形成することにより表3に示す本発明被覆工具1〜5をそれぞれ製造した。
まず、表2(表2中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表3に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した。
ついで、上記工具基体の逃げ面に対して、注入酸素イオン量:6.0×1016イオン/cm2の処理条件でイオン注入をし、逃げ面の下部層表面に酸素導入処理を行った。
ついで、同じく表2に示されるκ型Al2O3層の成膜条件で、すくい面のκ型Al2O3層が表3に示される目標層厚になるまで蒸着形成した。
ついで、表2に示されるα型Al2O3層の成膜条件にて、同じく表4に示される目標層厚になるまでα型Al2O3層を蒸着形成することにより表3に示す本発明被覆工具1〜5をそれぞれ製造した。
また、工具基体に表4に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した後、逃げ面および切れ刃エッジ部に対して、前記本発明被覆工具1〜5と同じ条件でイオン注入をし、逃げ面および切れ刃エッジ部の下部層表面に酸素導入処理を行った。
ついで、同じく表2に示されるκ型Al2O3層の成膜条件で、すくい面のκ型Al2O3層が表4に示される目標層厚になるまで蒸着形成した。
ついで、表2に示されるα型Al2O3層の成膜条件にて、同じく表4に示される目標層厚になるまでα型Al2O3層を蒸着形成することにより表3に示す本発明被覆工具6〜10をそれぞれ製造した。
ついで、同じく表2に示されるκ型Al2O3層の成膜条件で、すくい面のκ型Al2O3層が表4に示される目標層厚になるまで蒸着形成した。
ついで、表2に示されるα型Al2O3層の成膜条件にて、同じく表4に示される目標層厚になるまでα型Al2O3層を蒸着形成することにより表3に示す本発明被覆工具6〜10をそれぞれ製造した。
さらに、上記本発明被覆工具5、10に対しては、すくい面表面にウエットブラスト処理を施すことにより、表面平滑化処理、残留応力緩和処理を施した。
比較の目的で、表2に示される条件にて、表4に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、その後、イオン注入による酸素導入処理を施さずに、表2に示されるκ型Al2O3層の成膜条件で、表4に示される目標層厚になるまでκ型Al2O3層を蒸着形成することにより、表4に示される比較被覆工具1、2をそれぞれ製造した。
また、表2に示される条件にて、表4に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、その後、表2に示されるα型Al2O3層の成膜条件で、表4に示される目標層厚になるまでα型Al2O3層を蒸着形成することにより、表4に示される比較被覆工具3、4をそれぞれ製造した。
さらに、本発明被覆工具1〜10と同様な工程で、α型Al2O3層、あるいは、κ型Al2O3層の層厚を本発明で定めた範囲外とした表4に示される比較被覆工具5〜10をそれぞれ製造した。
なお、比較被覆工具9、10に対しては、すくい面表面にウエットブラスト処理を施すことにより、表面平滑化処理、残留応力緩和処理を施した。
また、表2に示される条件にて、表4に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、その後、表2に示されるα型Al2O3層の成膜条件で、表4に示される目標層厚になるまでα型Al2O3層を蒸着形成することにより、表4に示される比較被覆工具3、4をそれぞれ製造した。
さらに、本発明被覆工具1〜10と同様な工程で、α型Al2O3層、あるいは、κ型Al2O3層の層厚を本発明で定めた範囲外とした表4に示される比較被覆工具5〜10をそれぞれ製造した。
なお、比較被覆工具9、10に対しては、すくい面表面にウエットブラスト処理を施すことにより、表面平滑化処理、残留応力緩和処理を施した。
また、本発明被覆工具1〜10および比較被覆工具1〜10の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
つぎに、上記の本発明被覆工具1〜10および比較被覆工具1〜10について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、
≪切削条件A≫
被削材と加工部位:外径4,300mm、内径3,900mm、厚み110mmの合金鋼鋼製大型黒皮偏肉鍛造品の厚み110mmの面、
切削速度:200m/min、
切り込み:0−15mm、
送り:1mm/rev、
の条件での外径湿式高速高送り切削試験(通常の切削速度、送りは、それぞれ、120m/min、0.5mm/rev)、
≪切削条件B≫
被削材と加工部位:外径3,800mm、内径3,500mm、厚み300mmの低炭 素鋼製大型黒皮偏肉鍛造品の外径−内径の幅300mmの面、
切削速度:150m/min、
切り込み:0−10mm、
送り:1.3mm/rev、
の条件での端面湿式高速高送り切削試験(通常の切削速度、送りは、それぞれ、80m/min、0.8mm/rev)、
を行い、いずれの切削試験でも加工時間を測定した。
なお、上記切削条件Aにおける「切り込み:0−15mm」、あるいは、上記切削条件Bにおける「切り込み:0−10mm」とは、偏肉によって切込み量が変化し、偏肉量の大きいところでは切込み量を超えることで切れ刃がワークに接触せず、再度偏肉量が小さい領域で接触するという実質的な強断続切削状態をいう。
切れ刃逃げ面の摩耗量が基準摩耗量である0.6mmに達した時点における、加工時間を基本とするが、加工の途中で切れ刃の欠損が生じた場合、切り屑を分断できなくなる切り屑処理不良状態となった場合には、その時点で、終了している加工時間を測定することとする。なお、加工途中については、加工時間は測定しない。
この測定結果を表5に示した。
≪切削条件A≫
被削材と加工部位:外径4,300mm、内径3,900mm、厚み110mmの合金鋼鋼製大型黒皮偏肉鍛造品の厚み110mmの面、
切削速度:200m/min、
切り込み:0−15mm、
送り:1mm/rev、
の条件での外径湿式高速高送り切削試験(通常の切削速度、送りは、それぞれ、120m/min、0.5mm/rev)、
≪切削条件B≫
被削材と加工部位:外径3,800mm、内径3,500mm、厚み300mmの低炭 素鋼製大型黒皮偏肉鍛造品の外径−内径の幅300mmの面、
切削速度:150m/min、
切り込み:0−10mm、
送り:1.3mm/rev、
の条件での端面湿式高速高送り切削試験(通常の切削速度、送りは、それぞれ、80m/min、0.8mm/rev)、
を行い、いずれの切削試験でも加工時間を測定した。
なお、上記切削条件Aにおける「切り込み:0−15mm」、あるいは、上記切削条件Bにおける「切り込み:0−10mm」とは、偏肉によって切込み量が変化し、偏肉量の大きいところでは切込み量を超えることで切れ刃がワークに接触せず、再度偏肉量が小さい領域で接触するという実質的な強断続切削状態をいう。
切れ刃逃げ面の摩耗量が基準摩耗量である0.6mmに達した時点における、加工時間を基本とするが、加工の途中で切れ刃の欠損が生じた場合、切り屑を分断できなくなる切り屑処理不良状態となった場合には、その時点で、終了している加工時間を測定することとする。なお、加工途中については、加工時間は測定しない。
この測定結果を表5に示した。
表3〜5に示される結果から、本発明被覆工具は、硬質被覆層の上部層が、すくい面ではκ型Al2O3層と化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するα型Al2O3層の二層構造からなり、一方、逃げ面では、化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するα型Al2O3層の単層構造からなることによって、切れ刃に高負荷が作用する黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材の高速、高送り条件での切削加工において、すぐれた耐欠損性と耐塑性変形性を示し、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮する。
これに対して、比較被覆工具は、すくい面摩耗の進行や膜の剥離等の異常損傷の発生、塑性変形による逃げ面摩耗の進行等によって、いずれも短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
これに対して、比較被覆工具は、すくい面摩耗の進行や膜の剥離等の異常損傷の発生、塑性変形による逃げ面摩耗の進行等によって、いずれも短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
上述のように、この発明の被覆工具は、切れ刃に高負荷が作用する黒皮偏肉部を有する鍛造鋼等の大型被削材の高速、高送り条件での切削加工において、すぐれた耐欠損性と耐塑性変形性を示し、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮するものであるから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (3)
- 炭化タングステン基超硬合金からなる工具基体の表面に、下部層と上部層からなる硬質被覆層を蒸着形成した表面被覆切削工具において、
(a)下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層、窒酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ3〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層からなり、
(b)すくい面の上部層は、下部層表面に被覆された平均層厚6〜14μmのκ型Al2O3層と、該層の上に被覆された平均層厚1〜9μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなり、
(c)逃げ面の上部層は、下部層表面に被覆された平均層厚1〜15μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなることを特徴とする表面被覆切削工具。 - 請求項1に記載の表面被覆切削工具において、切れ刃エッジ部の硬質被覆層は、前記下部層表面に被覆された平均層厚6〜14μmのκ型Al2O3層と、該層の上に被覆された平均層厚1〜9μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
- 請求項1に記載の表面被覆切削工具において、切れ刃エッジ部の硬質被覆層は、前記下部層表面に被覆された平均層厚1〜15μmの化学蒸着された状態でα型結晶構造を有するAl2O3層からなることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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-
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KR20210079923A (ko) * | 2019-12-20 | 2021-06-30 | 한국야금 주식회사 | 경질 피막이 형성된 절삭공구 |
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CN114761606B (zh) * | 2019-12-20 | 2024-03-19 | 韩国冶金株式会社 | 其上形成有硬质涂膜的切削工具 |
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