以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る電気機械変換部材の製造方法の一例及びそれにより得られる電気機械変換部材、この電気機械変換部材を搭載した液滴吐出ヘッド、この液滴吐出ヘッドを搭載した画像形成装置について説明する。なお、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。
図1は、電気機械変換部材を備えた液滴吐出ヘッドの一例を示す断面図である。図1において、液滴吐出ヘッド10は、インク滴を吐出するノズル11と、ノズル11が連通する加圧室12(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される。)とを備えている。また、加圧室12内のインクを加圧する、圧電体膜34、上部電極35、下部電極33を有する圧電素子30を備えている。そして、圧電素子30により加圧室12内のインクを加圧することによってノズル11からインク滴を吐出させる。ノズル11はノズル板13に形成されている。
上記圧電素子を構成する圧電体の結晶は、その圧電素子の作製直後の状態では図2(a)に示すように分極の向きがランダムな状態となっている。その後、上記電圧印加を繰り返すことで、図2(b)に示すように圧電体の結晶は分極の向きが揃ったドメインの集合体となってくる。この圧電体の結晶の分極の向きは、圧電素子の分極特性及びその圧電素子を用いた液滴吐出ヘッドの特性の安定化のため、液滴吐出ヘッドの使用開始時から揃っていることが好ましい。
そこで、従来、液滴吐出ヘッドの使用開始前に、圧電素子の分極の向きを揃える分極処理を行う方法が提案されている。例えば、前述の特許文献1には、圧電体の表面に間隙を介して対向するように、コロナ放電を発生させる電荷供給手段を配置して分極処理を行う方法が開示されている。特許文献1に開示されている方法では、そのコロナ放電により圧電体の表面に電荷を供給することにより、圧電体内に電界を発生させて分極処理(ポーリング処理)を行う。上述したように、特許文献1に開示されている方法では、圧電体が形成された後、その後の後工程(層間膜形成や引出配線形成)が行われる前に、圧電素子の表面が露出した状態で分極処理(ポーリング処理)を行う必要がある。そのため、分極処理(ポーリング処理)が実施された圧電素子に、高温(例えば300[℃]を超える温度)の熱処理を伴う後工程(層間膜形成や引出配線形成)が実施されることになる。従って、その後工程での熱履歴等による影響で圧電素子が脱分極し、例えば図3のP−Eヒステリシス特性に示すように、圧電素子における電気機械変換の特性が上記分極処理(ポーリング処理)の前の状態に戻ってしまう脱分極が発生するおそれがある。
このため、コロナ放電等によって発生した電荷を注入して分極処理を実施する工程は、層間膜形成や引出配線形成といった工程よりも後工程で処理することが好ましい。分極処理を実施する工程を、層間膜形成や引出配線形成といった工程よりも後工程で行う場合、複数の駆動電極や端子電極を絶縁保護膜から露出させた電極パッドから電荷を注入することになる。しかし、コロナ電極を用いて複数の駆動電極又は端子電極に対して一括してエージング電圧を印加すると、端部の電極パッドに電荷が集中しやすく、圧電素子にクラックが発生するおそれがある。このクラックの発生原因としては、過剰電荷の注入による絶縁破壊や、反りや撓みなどが考えられる。クラックの発生を防止する方法については、後述する。
次に、本発明の実施形態に係る電気機械変換部材の構成例について説明する。
図4は、本実施形態に係る電気機械変換部材を模式的に示した断面図である。図4に示すように、圧電素子30は、基板31上に形成された成膜振動板(下地膜)32上に形成され、下部電極33、圧電体膜34及び上部電極35が積層された構造となっている。
さらに絶縁保護膜、引き出し配線を備えた圧電素子の構成について、図5を用いて説明する。図5(a)は上面図、図5(b)は断面図であり、図5(a)については圧電素子の構成が分かるように、一部の部材について第2の絶縁保護膜を透視して記載している。
図5に示す圧電素子においては、図4の場合と同様に、基板31、成膜振動板32上に、下部電極33、圧電体膜34及び上部電極35が積層されている。そして、圧電体膜34、上部電極35は、上部電極を形成後にエッチングにより個別化されている。そして、上部電極は個別電極として機能し、下部電極33は、個別化された圧電体膜34及び上部電極35に対して共通電極として機能している。
下部電極33及び上部電極35上には、図5(a)に示すようにコンタクトホール45を有する第1の絶縁保護膜41が設けられている。このコンタクトホール45は、下部電極33、上部電極35と、後述する第1の配線42、第2の配線43とがそれぞれ電気的に接続できるように設けられたものである。そして、第1の絶縁保護膜41上には、第1の配線42、第2の配線43が設けられており、上記のように第1の絶縁保護膜41に設けられたコンタクトホール45を介して、それぞれが下部電極33、上部電極35と導通している。
さらに、下部電極33及びこれに導通する第1の配線42を共通電極、上部電極35及びこれに導通する第2の配線43を個別電極として、共通電極、個別電極を保護する第2の絶縁保護膜44が形成されている。この第2の絶縁保護膜44は、第1の配線42、第2の配線43上(さらには第1の絶縁保護膜41上)に形成されている。また、第2の絶縁保護膜44には複数の開口部48,49が設けられ第1の端子電極としての共通電極パッド46、及び第2の端子電極としての個別電極パッド47が露出している。個別電極パッド47は、図5(a)に示すように、一列に形成されている。そして本実施形態に係る圧電素子30の製造方法では、列の端部に形成された端部個別電極パッド47Eのパッド面積は、同一列内に存在する他の中央側個別電極パッド47Cのパッド面積よりも小さく形成している。それぞれのパッド面積の一例としては、端部個別電極パッド47Eのパッド面積が40[μm]×40[μm]、中央側個別電極パッド47Cのパッド面積が50[μm]×50[μm]である。このパッド面積の違いについては後述する。
前記複数のパッドのうち、共通電極用に作製されたもの、すなわち共通電極に接続されたものを共通電極パッド46、個別電極用に作製されたもの、すなわち個別電極に接続されたものを個別電極パッド47としている。これらのパッドは上述したように例えば第2の絶縁保護膜44に開口部48,49を設けることにより外部に露出させることができる。
以上に説明した構成を有する圧電素子は、以下の各工程(1)〜(8)を行うことにより製造することができる。
(1)基板31または下地膜(成膜振動板)32上に、下部電極33を形成する工程。ここで、下部電極33は、後述のように密着層を含むこともできる。
(2)下部電極33上に圧電体膜34を形成する工程。
(3)圧電体膜34上に上部電極35を形成する工程。
(4)圧電体膜34及び上部電極35をエッチングにより個別化する工程。この工程を行うことにより、上部電極35を個別電極とし、下部電極33は個別化された圧電体膜34、上部電極35に対して共通電極として機能するようになる。
(5)下部電極33及び上部電極35上に第1の絶縁保護膜41を形成する工程。この工程の際、下部電極33、上部電極35と、後述する第1の配線42、第2の配線43とをそれぞれ電気的に接続するため、第1の絶縁保護膜41にコンタクトホール45を形成することができる。
(6)下部電極33及び上部電極35にそれぞれ電気的に接続された第1の配線42及び第2の配線43を第1の絶縁保護膜41上に形成する工程。
(7)第1の配線42及び第2の配線43上に第1の配線42または第2の配線43に接続するための複数の端子電極としての電極パッド46,47を形成する工程。
(8)第1の配線42及び第2の配線43上に第2の絶縁保護膜44を形成する工程。
ここで、第1の配線42と第2の配線43とは、上記工程の中で別のプロセスとして製造することもできるが、同一プロセス中に形成されることが生産性の観点から好ましい。
また、複数のパッド46,47は第2の絶縁保護膜44に開口部48,49を設けることにより外部に露出させることができる。
本実施形態に係る圧電素子30の製造方法では、図5(a)、(b)に示した、個別電極パッド47に対してコロナ放電もしくはグロー放電を行う。この放電により、1.0×10−8[C]以上の電荷量を発生させ、前記パッドを介して、発生した電荷を注入することにより、圧電素子30における圧電体膜34の分極処理を行う工程を行う。
上記分極処理を行う工程においては、コロナ放電もしくはグロー放電によって、上記所定量以上の電荷量を発生させ、発生した電荷を複数の個別電極パッド47を介して圧電体膜34に注入するものである。この際、コロナ放電またはグロー放電により発生した電荷が正帯電していることが好ましい。
次に、上記圧電素子30の圧電体膜34に対して放電による分極処理を行う分極処理装置としてコロナ放電装置の一例について説明する。図6は、コロナ放電装置の概略構成説明図である。
図6に示すように、コロナ放電装置50は、主放電電極としてのコロナワイヤー電極52と、図示しないグリッド電極と、複数の圧電素子が形成されたウェハなどの処理対象物を固定して載置する保持部材としてのステージ53とを具備している。コロナワイヤー電極52及びグリッド電極はそれぞれ、図示しないコロナ電極用電源及びグリッド電極用電源に接続され、所定の電圧が印加される。また、ステージ53は、ステージ53上に配置された処理対象物に対して電荷を付与しやすくなるように、アース線を介して接地されていることが好ましい。
また、コロナワイヤー電極52やグリッド電極に印加する電圧の大きさや、ステージ53と各電極間との距離は特に限定されるものではなく、十分に分極処理を施すことができるようにこれらを調整し、コロナ放電の強弱をつけることができる。また、コロナワイヤー電極52の構成は特に限定されるものではないが、例えばワイヤー形状を有する構成とすることができ、各種導電性の材料により構成することができる。
また、グリッド電極は、コロナ放電で発生した放電電荷が通過し得る多数の開口を有する導電性部材であり、コロナワイヤー電極52とステージ53との間に配置されている。グリッド電極の構成は特に限定されるものではないが、形状の工夫やメッシュ加工を施すことが好ましい。このようなグリッド電極の形状の工夫やメッシュ加工などにより、コロナワイヤー電極52に高電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷などを効率よく均一に下のステージ53に降り注ぐようにすることができる。これにより、処理対象物の表面に対して均一に電荷を付与することできる。
また、ステージ53には、処理対象物を加熱できるように加熱機構(不図示)が付加されている。これは、圧電素子を加熱しながら分極処理を行った場合、圧電素子の応力を緩和させながら処理できるため、所望の分極状態にするために多くの電荷量を供給してもクラックを発生させないためである。圧電素子を加熱する加熱機構の具体的手段は特に限定されるものではなく、各種ヒーターやランプ等を用いて加熱するように構成することができる。
上記加熱機構は、ステージ53内に設置することもでき、ステージ53の外から加熱するように設置することもできる。特に、電極等との干渉を避けるため、ステージ53内に設置されていることが好ましい。加熱機構の最大加熱温度は特に限定されるものではなく、製造する処理対象物、例えば圧電素子を構成する圧電体膜のキュリー温度等に応じて所定の温度に加熱できるように構成されていればよい。特に、各種の圧電素子に対応できるよう、最大350[℃]まで加熱できるように構成されていることが好ましい。実際に分極処理を行う際の加熱温度は特に限定されるものではないが、キュリー温度以下に加熱することが好ましい。これは、例えば図3のP−Eヒステリシス特性に示すように、キュリー温度を超える温度に加熱すると分極処理を行っても再度脱分極してしまい、分極処理の効果がなくなってしまうためである。また、圧電体膜の温度がキュリー温度を越えることをより確実に防止するため、加熱温度は特にキュリー温度の半分の温度以下に加熱することが好ましく、1/3以下の温度に加熱することがより好ましい。例えば、圧電体膜としてPZT(ペロブスカイト結晶構造を有するジルコン酸チタン酸鉛)の膜を用いた場合、180[℃]以下に加熱することが好ましく、120[℃]以下に加熱することがより好ましい。
また、ステージ53には、コロナ放電した時に処理対象物に電荷等が照射(供給)されるエリアが限られるため、処理対象物全体を処理できるように処理対象物の移動が可能な移動機構が付加されている。この移動機構により、処理対象物全体を効率良く処理することができ、生産性を向上させることができる。ステージ53の移動機構は特に限定するものではないが、例えばステージのテーブルをリニアガイドによって保持し、テーブルの移動をボールネジなどの送り機構を介してステッピングモータで駆動制御するように構成してもよい。
また、分極処理を行う際に必要な電荷量Qについては特に限定されるものではないが、圧電素子に1.0×10−8[C]以上の電荷量が蓄積される(発生させる)ことが好ましい。また、圧電素子には、4.0×10−8[C]以上の電荷量が蓄積される(発生させる)ことがさらに好ましい。このような範囲の電荷量を圧電素子に蓄積させることにより、より確実に後述する分極率を有するように分極処理を行うことができる。
また、コロナ放電により発生してステージ側に移動する電荷としては、使用時における圧電素子の駆動電圧の極性に応じて正極性又は負極性に帯電するようにする。例えば、後述の図7(b)に示したP−Eヒステリシスループの分極処理後のPini(P−Eヒステリシスループの0[kV]時の分極P)は、分極工程において圧電素子に供給する電荷が正帯電している場合には正側に位置することなる。逆に、分極工程において圧電素子に供給する電荷が負帯電している場合にはPiniは負側に位置することになる。そして、圧電素子を実際に駆動させる際に正極性の電圧を印加する場合には、Piniは正側に位置することが好ましく、負電圧を印加する場合には、負側に位置することが好ましい。このため、圧電素子の使用環境に応じて分極工程において供給する電荷を正または負に帯電させることができる。
例えば、図6に示すように放電電極としてのコロナワイヤー電極52を用いてコロナ放電させる場合には、大気中の分子をイオン化させることで、陽イオンを発生させる。この陽イオンは、ステージ53上に設置された圧電素子30の図示しない端子電極を介して、圧電素子30に流れ込んで正極性の電荷が蓄積され、圧電体膜の分極処理が行われる。
上記分極処理の状態については、P−Eヒステリシスループから判断することができる。
図7(a)は図2で説明した分極処理を行っていないものについてヒステリシスループを測定したものであり、図7(b)は分極処理を行ったものについてヒステリシスループを測定したものである。
図7(a)、(b)に示すように±150[kV/cm]の電界強度かけてヒステリシスループを測定する。最初の0[kV/cm]時の分極をPiniとし、+150[kV/cm]の電圧印加後0[kV/cm]まで戻したときの0[kV/cm]時の分極をPrとする。
このとき、PrとPiniとの差、すなわちPr−Piniの値を分極率として定義し、この分極率から分極状態の良し悪しを判断することができる。ここで図7(b)に示したように、分極率Pr−Piniは10[μC/cm2]以下となっていることが好ましく、5[μC/cm2]以下となっていることがさらに好ましい。これは、この値に満たない圧電体膜(例えばPZT膜)34を用いて電気機械変換部材としての圧電アクチュエータを形成した場合、連続駆動後の変位劣化について十分な特性が得られない場合があるためである。
すなわち、上記した製造方法により得られた圧電素子30は、±150[kV/cm]の電界強度をかけてヒステリシスループを測定する。測定開始時の0[kV/cm]における分極をPiniとし、+150[kV/cm]の電圧印加後、0[kV/cm]まで戻した際の0[kV/cm]時の分極をPrとする。この場合に、PrとPiniとの差が10[μC/cm2]以下であることが好ましく、5[μC/cm2]以下であることがより好ましい。
以上に説明したように、本実施形態に係るコロナ放電装置によれば、圧電素子30、基板31及び下地膜(成膜振動板)32を破損させることなく十分に分極処理を施すことができる。
以下に、本実施形態の圧電素子を構成する材料、工法について具体的に説明する。
(基板)
基板31としてはその材質は特に限定されるものではないが、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。そして、その厚さとしては、100〜600[μm]の厚みを持つことが好ましい。
シリコン単結晶基板の面方位としては、(100)、(110)、(111)の3種類があるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されている。本構成においては、(100)の面方位をもつシリコン単結晶基板を好ましく使用することができる。また、本実施形態における圧電素子30においては、(110)面方位をもった単結晶基板も好ましく用いることができる。
基板31に図1に示した圧力室を作製する場合、一般的にエッチングを利用してシリコン単結晶基板の加工が行われるが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。
異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えば、KOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54[°]の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝を掘ることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができる。このため、異方性エッチングを利用して圧力室等を作製する場合、(110)の面方位を有するシリコン単結晶基板を使用することも可能である。ただし、この場合には、マスク材であるSiO2もエッチングされてしまうおそれがあるため、これに留意して利用することが望ましい。
(下地膜(振動板))
図1に示すように圧電体膜34によって発生した力を受けて、下地膜(成膜振動板)32が変形変位して、加圧室12のインク滴を吐出させる。そのため、下地膜32としては所定の強度を有したものであることが好ましい。
下地膜32を構成する材料としては変形変位して加圧室12のインク滴を吐出できるものであればよく、要求される耐久性等に応じて任意に選択することができるが、例えば、Si、SiO2、Si3N4を用いることができる。これらの材料を用いる場合、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により作製することができる。
また、下地膜(成膜振動板)32としては、下部電極33、圧電体膜34の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。特に、圧電体膜34としては、一般的に材料としてPZTが使用されることから、PZTの線膨張係数8×10−6(1/K)に近い線膨張係数を有するものが好ましい。具体的には、5×10−6(1/K)以上10×10−6(1/K)以下の範囲の線膨張係数を有した材料であることが好ましく、さらには7×10−6(1/K)以上9×10−6(1/K)以下の範囲の線膨張係数を有した材料がより好ましい。
この場合、具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等が挙げられる。これらの材料をスパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。
膜厚としては特に限定されるものではないが、0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲が好ましく、0.5[μm]以上3[μm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲より小さいと図1に示すような加圧室12の加工が難しい場合があり、この範囲より大きいと下地膜32が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる場合があるためである。
(下部電極)
例えば図1に示す、下部電極33としては特に限定されるものではないが、金属または金属と酸化物とから構成されていることが好ましい。具体的には、下部電極33としては例えば、金属電極膜から構成することができる。また、金属電極膜と酸化物電極膜とから構成することもできる。
下部電極33がいずれの材料からなる場合でも、成膜振動板32と金属膜との間に密着層を形成し、剥がれ等を抑制するように工夫することが好ましい。以下に密着層を含めて金属電極膜、酸化物電極膜の詳細について記載する。
密着層としては、例えば、金属膜を成膜後、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いて、RTA法により酸化(熱酸化)して酸化膜とすることにより得ることができる。酸化(熱酸化)を行う際の条件としては特に限定されるものではなく、用いる金属膜の材質等により選択することができる。例えば、650〜800[℃]で、1〜30分間、O2雰囲気で金属膜を熱酸化することにより形成することができる。
金属膜は例えばスパッタ法により成膜することができる。金属膜の材料としてはTi、Ta、Ir、Ru等の材料を好ましく用いることができ、中でもTiを好ましく用いることができる。
金属酸化物膜は反応性スパッタにより作製してもよいが、金属膜の高温による熱酸化法が望ましい。これは、反応性スパッタにより作製する場合、例えばシリコン基板などの基板も一緒に高温で加熱する必要があるため、特別なスパッタチャンバ構成が必要となり、コスト上好ましくないためである。また、一般の炉による酸化よりも、RTA装置による酸化の方が金属酸化物膜の結晶性が良好になることが挙げられる。これは、チタン膜を例に説明すると、通常の加熱炉による酸化によれば、酸化しやすいチタン膜は、低温においてはいくつもの結晶構造を作るため、一旦、それを壊す必要が生じる。これに対して、昇温速度の速いRTA法による酸化ではそのような過程を経る必要がなく、良好な結晶を形成することが可能になる。
密着層の膜厚としては、特に限定されるものではないが、10[nm]以上50[nm]以下の範囲が好ましく、15[nm]以上30[nm]以下の範囲がさらに好ましい。膜厚が上記範囲よりも薄い場合においては、振動板、下部電極との密着性が悪くなる場合がある。また、膜厚が上記範囲よりも厚いとその上に作製する下部電極の膜の結晶の質に影響が出てくる場合がある。このため、上記範囲を選択することが好ましい。
金属電極膜の金属材料としては従来から高い耐熱性と低い反応性を有する白金を用いることができる。なお、白金は鉛に対して十分なバリア性を有しない場合があるため、イリジウム、白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金も用いることができる。
また、金属電極膜の金属材料として白金を使用する場合には、下地(特にSiO2)との密着性が悪いために、上記密着層を先に積層することが好ましい。
金属電極膜の作製方法としては特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法や真空蒸着等の真空成膜を用いることができる。
金属電極膜の膜厚としては要求される性能に応じて選択すればよく、限定されるものではないが、例えば80[nm]〜200[nm]であることが好ましく、100[nm]〜150[nm]であることがより好ましい。上記範囲より薄い場合においては、共通電極として十分な電流を供給することができない場合があり、インク吐出をする際に不具合が発生する場合があるため好ましくない。また、上記範囲より厚い場合、特に金属電極膜の金属材料として白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コスト上問題となる点が挙げられる。また、特に金属材料として白金を用いた場合、膜厚を厚くしていったときに表面粗さが大きくなる。すると、その上に作製する膜(例えば酸化物電極膜や圧電体膜)の表面粗さや結晶配向性に影響を及ぼして、インク吐出に十分な変位が得られないような不具合が発生する場合がある。
酸化物電極膜の材料としては、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3、以下単に「SRO」とも記載する。)を用いることが好ましい。また、ルテニウム酸ストロンチウムの一部を置換した材料、具体的には、Srx(A)(1−x)Ruy(1−y)(式中、AはBa、Ca、 BはCo、Ni、 x、y=0〜0.5)で表される材料についても好ましく用いることができる。
酸化物電極膜の成膜方法については例えばスパッタ法により作製することができる。スパッタ条件については限定されるものではないが、スパッタ条件によって酸化物膜の膜質が変化するため、要求される結晶配向性等により選択することができる。
例えば、後述する圧電体膜34は、連続動作したときの変位特性劣化を抑えるためにはその結晶性としては(111)面方位に配向していることが好ましい。このような圧電体膜34を得るためには、その下層に配置した酸化物電極膜についても(111)面方位に配向していることが好ましい。このため、酸化物電極膜は(111)面方位に優先配向していることが好ましい。
そして、酸化物電極膜について(111)面方位に優先配向した膜を得るために、500[℃]以上に基板加熱を行い、これにスパッタ法により酸化物電極膜を成膜することが好ましい。
また、酸化物電極膜の下層に金属電極膜を設ける場合、該金属電極膜は白金膜からなることが好ましい。また、その面方位として、(111)面方位に配向していることが好ましい。これは、その上に成膜する酸化物電極膜についても(111)面方位に優先配向したものが得やすくなるためである。
例えば特許文献2には、SRO膜の成膜条件として、SROを室温で成膜後、RTA処理にて結晶化温度(650[℃])で熱酸化するとされている。この場合、SRO膜としては、十分結晶化され、電極としての比抵抗としても十分な値が得られるが、膜の結晶配向性としては、(110)が優先配向しやすくなり、その上に例えばPZT膜を成膜した場合、このPZT膜についても(110)配向しやすくなる。このため、本実施形態においてSRO膜を形成する場合には、上記成膜条件により成膜することが好ましい。
ここで、例えば金属電極膜として(111)面方位に配向した白金膜を用い、その上に酸化物電極膜であるSrRuO3膜を作製した場合に、酸化物電極の結晶性をX線回折測定により評価する方法について説明する。
PtとSrRuO3とは格子定数が近いため、通常のX線回折測定におけるθ−2θ測定では、SRO膜の(111)面とPtの(111)面の2θ位置が重なってしまい判別が難しい。しかし、Ptについては消滅則の関係からPsi=35[°]に傾けた場合、2θが約32[°]付近の位置では回折線が打ち消し合い、Ptの回折強度が見られなくなる。そのため、Psi方向を約35[°]傾けて、2θが約32[°]付近のピーク強度で判断することでSROが(111)面方位に優先配向しているかを確認することができる。
図8に、シリコン基板上に、密着層として酸化チタン膜を成膜した後、(111)面方位に配向している白金膜を成膜し、その上に基板を例えば550[℃]に加熱しながら、スパッタ法によりSrRuO3膜を成膜した試料のX線回折測定結果を示す。
図8においては、2θ=32[°]に固定し、Psiを変化させたときのデータを示している。Psi=0[°]ではSROの(110)面の回折線はほとんど回折強度が見られず、Psi=35[°]付近において、回折強度が見られることから、この測定方法によりSROが(111)面方位に優先配向していることが確認できる。また、この結果から、本成膜条件にて作製したものについては、SROが(111)面方位に優先配向していることを確認できた。
また、上述記載のSRO膜を室温で成膜後、RTA処理することにより作製されたSRO膜について同様に評価を行ったところ、Psi=0[°]のときにSRO(110)の回折強度が見られた。
圧電アクチュエータとして連続動作したときに、駆動させた後の変位量が、初期変位に比べてどのくらい劣化したかを見積もったところ、圧電体膜(例えばPZT膜)34の配向性が非常に影響しており、(110)では変位劣化抑制において不十分な場合がある。このため、上述のように酸化物電極膜は(111)面方位に配向していることが好ましい。
酸化物電極に用いるSrRuO3膜の表面粗さは4[nm]以上、15[nm]以下であることが好ましく、6[nm]以上、10[nm]以下であることがさらに好ましい。なお、ここでの表面粗さについてはAFMにより測定される表面粗さ(平均粗さ)を意味している。
SrRuO3膜の表面粗さは成膜温度に影響し、室温から300[℃]に基材を加熱して成膜した場合、表面粗さが非常に小さく2[nm]以下になる。この場合、表面粗さとしては、非常に小さくフラットになっているが、SrRuO3膜の結晶性は十分でない場合がある。この様にSrRuO3膜の結晶性が十分でない場合、その後に成膜する圧電体膜(例えばPZT膜)を有する圧電アクチュエータが初期変位や連続駆動後の変位劣化について十分な特性が得られなくなる。
そこで、成膜条件からみて、SrRuO3膜の結晶性を悪化させずに得られる表面粗さを検討したところ上記範囲となることから、上記範囲を有することが好ましい。
上記範囲からはずれた場合、SrRuO3膜の結晶性を悪化する場合があり、その後成膜する圧電体膜の絶縁耐圧が悪化し、リークしやすくなる場合があるため好ましくない。
そして、上述のような、結晶性や表面粗さを有するSrRuO3膜を得るためには、成膜条件(温度)としては500[℃]〜700[℃]、好ましくは520[℃]〜600[℃]の範囲に基板を加熱して、スパッタ法により成膜することが好ましい。
成膜後のSrとRuの組成比については特に限定されるものではなく、要求される導電性等により選択されるが、Sr/Ruが0.82以上、1.22以下であることが好ましい。これは、上記範囲から外れると比抵抗が大きくなり、電極として十分な導電性が得られなくなる場合があるためである。
さらに、酸化物電極としてSRO膜の膜厚としては、40[nm]以上、150[nm]以下であることが好ましく、50[nm]以上、80[nm]以下であることがさらに好ましい。上記膜厚範囲よりも薄いと初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない場合がある。また、圧電体膜のオーバーエッチングを抑制するためのストップエッチング層としての機能も得られにくくなる。さらに、上記膜厚範囲を超えると、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が悪くなり、リークしやすくなる場合があるためである。
酸化物電極の比抵抗としては、5×10−3[Ω・cm]以下になっていることが好ましく、さらに1×10−3[Ω・cm]以下になっていることがさらに好ましい。この範囲よりも大きくなると第1の配線との界面で接触抵抗が十分得られず、共通電極として十分な電流を供給することができず、インク吐出をする際に不具合が発生する場合があるためである。
(圧電体膜)
圧電体膜34としては、圧電性を有する材料であれば使用することができ、特に限定されるものではない。例えば、広く用いられているPZTを好ましく使用することができる。なお、PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体で、その比率により特性が異なるが、その比率についても限定されるものではなく、要求される圧電性能等に応じて選択することができる。中でもPbZrO3とPbTiO3との比率(モル比)が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O3で表わされるPZT(PZT(53/47)とも示される)は、特に優れた圧電特性を示す。よって、このPZT(53/47)を好ましく用いることができる。
PZT以外の材料として、チタン酸バリウムも用いることができる。この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
また、上記PZTや、チタン酸バリウムは一般式ABO3で表わされる。PZT、チタン酸バリウム以外にもABO3(A=Pb、Ba、Sr、B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nb)で表わされる複合酸化物を主成分とする複合酸化物を用いることができる。
さらに、(Pb1−x,Bax)(Zr,Ti)O3、(Pb1−x,Srx)(Zr,Ti)O3の様にAサイトのPbを一部BaやSrで置換した複合酸化物も使用することができる。置換に用いる元素としては2価の元素であれば可能であり、Pbの一部を2価の元素で置換することにより圧電体膜を成膜する際等に熱処理を行った場合に鉛の蒸発による特性劣化を低減させる効果がある。
圧電体膜34の作製方法としては、特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法や、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。そして、成膜後、フォトリソグラフィー技術とエッチング技術とを用いるパターン形成方法(以下、「リソエッチ法」という。)等によりパターニングを行い、所望のパターンを得ることができる。
PZTからなる圧電体膜34をゾルゲル法により作製する場合を例に説明する。
酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料とし、共通溶媒としてメトキシエタノールを用い、上記出発原料が所定比になるように共通溶液に溶解させ均一溶液とすることで、PZT前駆体溶液を作製する。なお、金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加しておくこともできる。また、鉛成分は成膜工程で熱処理を行う際などに蒸発することがあるので、量論比よりも多めに添加しておくこともできる。
下地基板全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことでPZT膜を得ることができる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックのない膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整を行うことが好ましく、成膜工程を繰り返し行うことで所望の膜厚のPZT膜を得ることができる。
圧電体膜34の膜厚としては限定されるものではなく、要求される圧電特性に応じて選択すればよいが、0.5[μm]以上、5[μm]以下であることが好ましく、1[μm]以上、2[μm]以下であることがより好ましい。これは、上記範囲より薄いと圧電アクチュエータとして使用する際に十分な変位を発生することができない場合があるためである。また、上記範囲より厚いと、その製造工程において何層も積層させて成膜するため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなるためである。
また、圧電体膜34の比誘電率としては600以上、2000以下になっていることが好ましく、さらに1200以上、1600以下になっていることがより好ましい。比誘電率が係る範囲より小さいと、圧電アクチュエータとして使用する際に十分な変位特性が得られない場合がある。また、比誘電率が係る範囲より大きくなると、分極処理が十分行われず、連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られないといった不具合が発生する場合がある。
(上部電極)
上部電極35としては特に限定されるものではないが、金属または酸化物と金属からなっていることが好ましい。具体的には、上部電極35としては例えば、金属電極膜から構成することができる。また、金属電極膜と酸化物電極膜から構成することもできる。
以下に酸化物電極膜、金属電極膜の詳細について記載する。
酸化物電極膜の材料等については、下部電極の酸化物電極膜で説明したものと同様である。酸化物電極膜の膜厚としては、20[nm]以上、80[nm]以下が好ましく、40[nm]以上、60[nm]以下がより好ましい。これは、この膜厚範囲よりも薄いと初期変位や変位劣化特性については十分な特性が得られない場合があり、この範囲を超えると、圧電体膜の絶縁耐圧が非常に悪くなり、リークしやすくなる場合があるためである。
金属電極膜の材料等については下部電極の金属電極膜で説明したものと同様である。金属電極膜の膜厚としては、30[nm]以上200[nm]以下が好ましく、50[nm]以上120[nm]以下がさらに好ましい。これは、この膜厚範囲より薄いと個別電極として十分な電流を供給することができなくなり、インク吐出をする際に不具合が発生する場合があるためである。また、この膜厚範囲より厚い場合においては、金属電極膜の材料として白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コストアップとなる点で問題である。また、白金を材料とした場合においては、膜厚を厚くしていったときに表面粗さが大きくなり、第1の絶縁保護膜を介して第2の配線を作製する際に、膜剥がれ等の不具合が発生しやすくなる場合があるためである。
(第1の絶縁保護膜)
第1の絶縁保護膜41は、成膜・エッチングの工程による圧電素子へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過することを防止する機能を有することが好ましい。このため、その材料としては緻密な無機材料とすることが好ましい。有機材料の場合、十分な保護性能を得るためには膜厚を厚くする必要があるが、絶縁膜を厚い膜とした場合、振動板の振動変位を阻害し、吐出性能の低い液滴吐出ヘッドとなる場合があるためである。
薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物,窒化物,炭化物の薄膜を用いることが好ましいが、絶縁膜の下地となる、電極材料、圧電体膜材料、振動板材料と密着性が高い材料を選定することが好ましい。具体的には、第1の絶縁保護膜41としては例えば、アルミナ膜、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜から選択される少なくとも1種の無機膜からなることが好ましい。より具体的には、Al2O3,ZrO2,Y2O3,Ta2O3,TiO2などのセラミクス材料に用いられる酸化膜が例として挙げられる。これらの膜は、密着性がよく、膜が硬く、しかも耐磨耗性やコストパフォーマンスに優れている。
また、第1の絶縁保護膜41の成膜法も圧電素子を損傷する可能性が低い成膜方法であることが好ましい。例えば、蒸着法、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法などを好ましく用いることができ、使用できる材料の選択肢が広いALD法をより好ましく用いることができる。特にALD法を用いることで、膜密度の非常に高い薄膜を作製することができ、プロセス中でのダメージを抑制することが可能になる。
そして、反応性ガスをプラズマ化して基板上に堆積するプラズマCVD法やプラズマをターゲット材に衝突させて飛ばすことで成膜するスパッタリング法は圧電素子を損傷する可能性が蒸着法、ALD法に比べて高いため好ましくない。
第1の絶縁保護膜41の膜厚は、圧電素子を保護するために十分な厚さの薄膜であり、かつ、振動板の変位を阻害しないように可能な限り薄いものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、第1の絶縁保護膜の膜厚としては20[nm]〜100[nm]の範囲であることが好ましい。100[nm]より厚い場合は、振動板の変位が低下するため、吐出効率の低い液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)となる場合がある。一方、20[nm]より薄い場合は圧電素子の保護層としての機能が十分ではない場合があり、圧電素子の性能が低下する恐れがある。
また、第1の絶縁保護膜41としてさらにもう1層設けて、2層にする構成も考えられる。この場合、例えば2層目の絶縁保護膜を厚くして振動板の振動変位を阻害しないように上部電極付近において2層目の絶縁膜を開口するような構成としてもよい。
2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物,窒化物,炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができる。例えば、半導体デバイスで一般的に用いられるSiO2を用いることができる。
2層目の絶縁保護膜の成膜方法としては任意の手法を用いることができ、CVD法,スパッタリング法が挙げられる。電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。
2層目の絶縁保護膜の膜厚は、共通電極と個別電極配線との間に印加される電圧で絶縁破壊されないように選択することが好ましい。すなわち絶縁膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定することが好ましい。さらに、2層目の絶縁膜の下地の表面性やピンホール等を考慮すると膜厚は200[nm]以上であることが好ましく、500[nm]以上であることがさらに好ましい。
(第1、第2の配線)
第1の配線42、第2の配線43は、下部電極33、前記上部電極35にそれぞれ電気的に接続されており、第1の絶縁保護膜41上に形成されている。
第1の配線42、及び、第2の配線43の材質は特に限定されるものではなく、要求される性能等に応じて選択すればよいが、例えば、Ag合金、Cu、Al、Al合金、Au、Pt、Irから選択される少なくとも1種の金属からなることが好ましい。これらの金属は、基板上に低抵抗で耐久性のある電極を成膜することができる。
第1の配線42、第2の配線43の作製方法としては、例えば、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後、前述のリソエッチ法等により所望のパターンを得る方法を好ましく用いることができる。
第1の配線42、第2の配線43の膜厚としては、0.1[μm]〜20[μm]が好ましく、0.2[μm]〜10[μm]がさらに好ましい。膜厚が上記範囲より小さいと抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができずに液滴吐出ヘッドとした場合に液滴の吐出が不安定になる場合がある。また、膜厚が上記範囲より大きいとプロセス時間が長くなり生産性の面で問題となる場合がある。
また、第1の配線42のうち、開口部(コンタクトホール部)48から露出している部分が共通電極パッド46となる。また、第2の配線43のうち、開口部(コンタクトホール部)49から露出している部分が個別電極パッド47となる。これらのパッド46、47の開口部(コンタクトホール部、10[μm]×10[μm])48、49での接触抵抗は、共通電極パッド46の接触抵抗としては10[Ω]以下が好ましく、個別電極パッド47の接触抵抗としては1[Ω]以下が好ましい。さらに、共通電極パッド46の接触抵抗としては5[Ω]以下、個別電極パッド47の接触抵抗としては0.5[Ω]以下であることがより好ましい。これは、上記各パッド46、47の開口部(コンタクトホール部)48、49での接触抵抗が上記範囲を超えると十分な電流を供給することができなくなり、液滴吐出ヘッドとした場合に、液滴の吐出をする際に不具合が発生する場合があるためである。
(第2の絶縁保護膜)
第2の絶縁保護膜44は個別電極配線や共通電極配線の保護層の機能を有するパッシベーション層として機能するものである。
図5(b)に示す通り、個別電極引き出し部と、図示しないが共通電極引き出し部を除き、個別電極と共通電極上を被覆する。このように第2の絶縁保護膜44を設けることにより、電極材料として安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いることができる。その結果、低コストかつ信頼性の高いインクジェットヘッドとすることができる。
第2の絶縁保護膜44の材料としては、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、透湿性の低い材料を用いることが好ましい。
無機材料としては、例えば酸化物、窒化物、炭化物等を用いることができ、有機材料としてはポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。ただし有機材料の場合には厚膜とすることが必要となるため、後述のパターニングに適さない。そのため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料を用いることがより好ましい。
このため、第2の絶縁保護膜44がアルミナ膜、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜から選択される少なくとも1種の無機膜であることが好ましい。特に、Al配線上に第2の絶縁保護膜としてSi3N4を用いることは半導体デバイスで実績のある技術であるため、本実施形態においても同様の構成を採用することが好ましい。
また、第2の絶縁保護膜44の膜厚は200[nm]以上とすることが好ましく、500[nm]以上であることがさらに好ましい。これは、膜厚が薄い場合は十分なパッシベーション機能を発揮できないため、配線材料の腐食による断線が発生し、圧電素子の信頼性を低下させてしまう可能性があるためである。
また、圧電素子上とその周囲の振動板上に開口部をもつ構造が好ましい。これは、前述の第1の絶縁保護膜41上の個別電極パッド47付近において開口部49を設けることと同様の理由である。これにより、高効率かつ高信頼性の圧電素子とすることができる。また、例えばこの圧電素子30を用いた高効率かつ高信頼性の液滴吐出ヘッド、インクジェットヘッドとすることが可能になる。
なお、第1の絶縁保護膜41、第2の絶縁保護膜44により圧電素子が保護されているため開口部48,49の形成には、フォトリソグラフィー法とドライエッチングを用いることが可能である。
上記複数のパッド(共通電極パッド46,個別電極パッド47)の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、前述のリソエッチ法を用いて形成することができる。
以上説明してきた本実施形態の圧電素子30の製造方法によれば、ウェハレベルで一括して圧電素子に分極処理を行うことができる。また、この製造方法によって得られる圧電素子30は液滴吐出ヘッドとした場合に、圧電素子30が所定駆動電圧に対して安定した変位量を示し、液滴吐出特性を良好に保持できると共に安定した液滴吐出特性を得ることができる。
具体的な構成としては、図1に示したように、液滴を吐出するノズル11と、ノズル11が連通する加圧室12と、加圧室12内の液体を昇圧させる吐出駆動手段とを備えた液滴吐出ヘッド10である。そして、本実施形態の液滴吐出ヘッド10においては、吐出駆動手段として、加圧室12の壁の一部を振動板で構成し、この振動板に上述した圧電素子を配置したものである。
この液滴吐出ヘッド10によれば、上述した圧電素子を用いているため、所定駆動電圧に対して安定した変位量を示し、液滴吐出特性を良好に保持できると共に安定した液滴吐出特性を得ることができる。
なお、本実施形態では1つのノズルからなる液滴吐出ヘッドについて説明したが、係る形態に限定されるものではなく、図9に示すように複数の液滴吐出ヘッドを備えた構成とすることもできる。図9においては、図1の液滴吐出ヘッドを複数個直列に並べたものであり、同じ部材には同じ番号を付している。
また、液体供給手段、流路、流体抵抗等については記載を省略したが、液滴吐出ヘッドに設けることのできる付帯設備を当然に設けることができる。また、図9に示すように、下部電極33と成膜振動板32との間に密着層14を設けてもよい。
〔実施例1〕
以下に圧電素子のより具体的な製造方法について実施例を挙げて説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、6インチシリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1[μm])を形成した。
次に、下部電極を形成した。具体的にはまず、密着膜として、チタン膜(膜厚30[nm])をスパッタ装置にて成膜した後にRTAを用いて750[℃]にて熱酸化した。そして、引き続き金属膜として白金膜(膜厚100[nm])、酸化物膜としてSrRuO3膜(膜厚60[nm])をスパッタ成膜した。スパッタ成膜時の基板加熱温度については550[℃]にて成膜を実施した。
次に、圧電体膜を形成した。具体的には、モル比でPb:Zr:Ti=114:53:47に調整された溶液を準備し、スピンコート法により膜を成膜した。
具体的な前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
イソプロポキシドチタン、ノルマルプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上記酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。合成したPZT前駆体溶液中のPZT濃度は0.5[モル/L]とした。
上記前駆体溶液を用いて、スピンコートにより前記下部電極が形成された基板上に成膜し、成膜後、120[℃]乾燥を行い、その後さらに500[℃]熱分解を行う操作を複数回繰り返し行い圧電体膜を積層した。
上記手順により繰り返し、圧電体膜を積層する際に、3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度750[℃])をRTA(急速熱処理)にて行った。3層目の熱分解処理後、RTA処理を施した圧電体膜(PZT膜)の膜厚は240[nm]であった。
上記工程を計8回(24層)実施し、PZTの部分の膜厚が約2[μm]の圧電体膜を得た。
次に、上部電極の酸化物膜としてSrRuO3膜(膜厚40[nm])を、金属膜としてPt膜(膜厚125[nm])を、それぞれスパッタ成膜した。
その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した。その後、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式のエッチング装置(サムコ製)を用いて圧電体膜、上部電極をエッチングにより個別化し、図5(a)に示すようなパターンを作製した。これにより、上部電極は個別電極として機能し、下部電極は個別化された圧電体膜、上部電極に対して共通電極として機能する。
次に、第1の絶縁保護膜として、ALD法によりAl2O3膜を50[nm]成膜した。
原材料としてAl源としては、トリメチルアルミニウム(TMA)(シグマアルドリッチ社製)、O源としては、オゾンジェネレーターによって発生させたO3を用いた。そして、Al源、O源を交互に基板上に供給して積層させることで、成膜を行った。
その後、図5(a)に示すように、エッチングによりコンタクトホール部を形成した。
そして、第1の配線及び第2の配線としてAlをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニング形成した。
さらにその後、第2の絶縁保護膜としてSi3N4をプラズマCVDにより500[nm]成膜した。その後、エッチングにより、共通電極パッド46及び個別電極パッド47を露出させるように形成し、図5に示すような複数の圧電素子を有する電気機械変換部材を作製した。
上記個別電極パッド47は、図5(a)に示すように直線状に同一配列で1列に形成した。このとき、両端に配置された端部個別電極パッド47Eの面積を40[μm]×40[μm]、その他の中央側個別電極パッド47Cの面積を50[μm]×50[μm]となるように第2の絶縁保護膜44を露出させて形成し、圧電素子を作製した。
ここで、本発明者らが行った実験によれば、中央側個別電極パッド47Cに放電で供給される単位面積あたりの電荷量を1とすると、端部個別電極パッド47Eに対して供給される単位面積あたりの電荷量は1.64となった(数値に次元はない)。この実験結果から、端部以外の中央側個別電極パッド47Cの面積を50[μm]×50[μm]とし、端部個別電極パッド47Eの面積を40[μm]×40[μm]とした。これにより、中央側個別電極パッド47Cと端部個別電極パッド47Eとの間で、注入される電荷量がほぼ等しくなる。また、これらの圧電素子を搭載した液滴吐出ヘッドにおいても、動作に特段の支障はなく、良好な液滴吐出特性が得られた。しかし、端部個別電極パッド47Eの面積が40[μm]×40[μm]よりも小さ過ぎると、分極処理に必要な電荷量が十分に注入されなくなるおそれがある。
また、図10に示すように、6インチウェハ内に電気機械変換部材3となる40[mm]×20[mm]四方のエリア(チップ)を22箇所配置した。この電気機械変換部材3のチップ内に、1200個(300個×4列(A〜D))の個別電極パッド47を形成した。また、その電気機械変換部材3のチップ内に8個の共通電極パッド46を形成した。
コロナ放電装置50のコロナワイヤー電極52としてφ50[μm]のタングステンのワイヤーを用いている。コロナワイヤー電極52とウェハまでの垂直距離を10[mm]、グリッド電極の中央部とウェハまでの垂直距離を5[mm]として、コロナワイヤー電極52に対して9[kV]、グリッド電極に1.5[kV]の電圧をかけた。このとき、図10に示すようにB,C列の中心にコロナワイヤー電極52がくるように設定し、1列につき30秒間、計8列にコロナ分極処理を行った。また、ステージ53の温度は80[℃]とした。評価項目は、端部の176箇所(2ビット×4列×22チップ)の圧電素子に発生するクラックの発生率と端部の圧電素子の分極率Pr−Piniで行っている。
この後、ウェハ内の全てのエリアについて、コロナ帯電処理により分極処理を行った。
〔実施例2〕
端部個別電極パッド47Eの面積を30[μm]×30[μm]にすること以外は、実施例1と同様にして複数の圧電素子を配置した電気機械変換素子をウェハ上に作製し、分極処理を行った。
〔比較例1〕
端部個別電極パッド47Eの面積を60[μm]×60[μm]にすること以外は、実施例1と同様にして複数の圧電素子を配置した電気機械変換素子をウェハ上に作製し、分極処理を行った。
〔比較例2〕
端部個別電極パッド47Eの面積を50[μm]×50[μm]にすること以外は、実施例1と同様にして複数の圧電素子を配置した電気機械変換素子をウェハ上に作製し、分極処理を行った。
図11及び図12はそれぞれ、実施例1,2及び比較例1,2とによりそれぞれ作製した電気機械変換部材における圧電素子のクラック発生率及び分極率を示すグラフである。
図11に示すグラフでは、実施例1,2及び比較例1,2とによりそれぞれ作製したウェハ内の端部の圧電素子のクラック発生率を比較している。また、図12に示すグラフでは、実施例1,2及び比較例1,2とによりそれぞれ作製したウェハ内の端部の圧電素子の分極率を比較している。
図11において、端部個別電極パッド47Eのパッド面積が中央側個別電極パッド47Cの面積より小さい実施例1,2ではクラックが生じていない(0[%])。これに対し、比較例1では約50[%]、比較例2では約10[%]の割合でクラックが生じていることがわかる。従って、端部個別電極パッド47Eのパッド面積が小さいほど、クラック発生が抑制できていることがわかる。
図12において、グラフに示してある赤線は端部以外の圧電素子の分曲率の平均値を示しおり、平均値は約5.0[μC/cm2]、最小値は約4.5[μC/cm2]、最大値は約5.5[μC/cm2]であった。実施例1では、端部以外の圧電素子の分曲率と同等の値を示している。一方、実施例2ではクラック発生率は0[%]であったが、分曲率が約11[μC/cm2]であり、所望の値まで到達していなかった。また、比較例1は実施例2とは逆で、分曲率は約1[μC/cm2]で大きく分極が進んでいるが、クラック発生率は高く、他の圧電素子ともかけ離れた値である。比較例2も比較例1と同様の結果である。これらのことから、端部の個別電極パッド47Eのパッド面積を他の中央側個別電極パッド47Cの面積よりも適度に小さくすることで、所望の分曲率を得られ、更にクラックの発生も抑えられることが分かる。
次に、前記液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置の構成例について説明する。液滴吐出装置の形態としては特に限定されるものではないが、ここではインクジェット記録装置を例に説明する。図13はインクジェット記録装置の斜視説明図、図14は同記録装置の側面説明図である。
このインクジェット記録装置は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93を備えている。また、このキャリッジ93に搭載したインクジェットヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部82等を収納している。また、記録装置本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。そして、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持している。キャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出するインクジェットヘッドからなる記録ヘッド94を備えている。この記録ヘッド94は、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着される。また、キャリッジ93には記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有している。この多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色の記録ヘッド94を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装している。このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
一方、給紙カセット84にセットした用紙83を記録ヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103とを設けている。また、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設けている。さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115,116とを配設している。
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
また、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャッピング手段と吸引手段とクリーニング手段とを有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で記録ヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。これにより、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
上記構成のインクジェット記録装置では、本発明の実施形態に係るインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)を搭載することにより、ノズルの詰まりやノズル面に固形分が付着しない。従って、インク滴の吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて、画像品質が向上する。
なお、上記実施形態では、液滴吐出ヘッドから吐出した液滴を用紙に着弾させて画像を形成する画像形成装置に適用した場合について説明したが、本発明は、画像形成装置以外の液滴吐出装置にも適用することができる。例えば、本発明は、画像形成用の液滴を着弾させて付与する媒体が、用紙以外の媒体(記録媒体、転写材、記録紙)、例えば糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体である場合も同様に適用することができる。また、本発明は、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与すること場合だけでなく、文字等の意味を持たないパターンを媒体に付与する(単に液滴を吐出する)装置にも適用することができる。また、本発明は、パターニング用の液体レジストを吐出して被着弾媒体上に着弾させる装置にも適用することができる。また、本発明は、遺伝子分析試料を吐出して被着弾媒体上に着弾させる液滴吐出装置や、三次元造型用の液滴吐出装置などにも適用することができる。
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
圧電体膜の両面に電極を有する複数の圧電素子30を有する電気機械変換部材であって、複数の圧電素子30の圧電体膜34それぞれの一方の面側に形成された複数の上部電極35などの個別電極それぞれに接続された複数の個別電極パッド47などの個別端子電極が、互いに接触しないように所定方向に並べて配置され、複数の個別端子電極がそれぞれ露出するように、複数の圧電素子を保護する第2の絶縁保護膜44などの保護膜が形成され、複数の個別端子電極の並び方向における端部に位置する端部個別電極パッド47Eなどの個別端子電極の面積がその他の中央側個別電極パッド47Cなどの個別端子電極の面積よりも小さい。
これよれば、上記実施形態について説明したように、電気機械変換部材の所定方向に並んだ複数の個別端子電極が保護膜から露出している面とは反対側の面に対向させて放電対向電極を配置し、個別端子電極側から放電を発生させる。すると、放電による電荷が複数の端子電極に一括供給される。この放電によって複数の端子電極に一括供給された電荷は、複数の端子電極それぞれに接続された複数の圧電素子の個別電極に一括供給される。この複数の個別電極に一括供給された電荷により、複数の圧電素子それぞれにおいて、個別電極側とは反対側の表面に有する電極と個別電極との間に分極処理の電界が発生するので、複数の圧電素子を一括して分極処理することができる。また、この分極処理は、熱処理を伴う保護膜を形成する工程の後に行うことができるので、分極処理後の圧電素子の脱分極を回避できる。
上記所定方向に並んだ複数の個別端子電極に対する放電による電荷の供給について本願発明者らの鋭意実験及び検討を行ったところ、次のように特定の圧電素子にクラックが発生するおそれがあることがわかった。すなわち、上記所定方向に並んだ複数の個別端子電極に対する放電による電荷の供給を行うと、放電による電荷供給が不均一になり、個別端子電極の並び方向における端部に位置する個別端子電極に対する放電による電荷供給密度が高くなる。このように端部に位置する個別端子電極への電荷供給密度が高くなると、その個別端子電極に接続されている圧電素子の個別電極に過剰な電荷が供給されて変形が大きくなりクラックが発生するおそれがあることがわかった。
そこで、本態様の電気機械変換部材では、上記分極処理で電荷が供給される複数の個別端子電極のうち、放電による電荷供給密度が高くなる個別端子電極の並び方向における端部に位置する個別端子電極の面積をその他の個別端子電極の面積よりも小さくしている。従って、端部に位置する個別端子電極に接続された圧電素子に過剰な電荷が供給されないようにすることができるので、分極処理による過剰な電荷供給による圧電素子のクラックの発生を抑制することができる。
(態様B)
上記態様Aにおいて、保護膜は、複数の圧電素子30の圧電体膜34それぞれの他方の面側に形成された共通電極に接続された共通電極パッド46などの共通端子電極が露出するように形成されている。
これよれば、上記実施形態について説明したように、共通端子電極を介して複数の圧電素子30の共通電極それぞれに電荷を供給して各共通電極の電位を互いに共通の電位にすることができる。従って、複数の圧電素子30の分極処理の安定化及び均一化を図ることができる。
(態様C)
上記態様A又はBにおいて、複数の個別端子電極は、同一方向に所定の間隔で並ぶように一列に配置されている。
これよれば、上記実施形態について説明したように、複数の圧電素子30に接続された複数の個別端子電極の並び方向に沿って延在するようにワイヤー電極を配置して放電させる場合に、各個別電極端子とワイヤー電極との距離が一定に保たれる。従って、複数の個別電極端子を介して複数の圧電素子30により均一な電荷を注入することができる。
(態様D)
上記態様A乃至Cのいずれかの電気機械変換部材を製造する製造方法であって、基板31上または基板31に形成された下地膜上に下部電極33などの第1の電極を形成する工程と、第1の電極上に、互いに独立した複数の圧電体膜34を形成する工程と、複数の圧電体膜34それぞれの上に位置する複数の上部電極35などの第2の電極を形成する工程と、第1の電極上及び複数の第2の電極上に第1の絶縁保護膜41を形成する工程と、第1の電極に第1の配線42を介して接続された共通電極パッド46などの共通端子電極と、複数の第2の電極それぞれに第2の配線43を介して接続され所定の方向に並ぶように配置された個別電極パッド47などの複数の個別端子電極とを、第1の絶縁保護膜41上に形成する工程と、共通端子電極と複数の個別端子電極とを露出させた状態で第1の配線42上及び第2の配線43上に第2の絶縁保護膜44を形成する工程と、放電により発生した電荷を複数の個別電極に供給することにより、複数の圧電体膜34を一括して分極処理する工程と、を含む。
これよれば、上記実施形態について説明したように、複数の端子電極それぞれに接続された圧電素子の個別電極に電荷を一括供給でき、複数の圧電素子を一括して分極処理することができる。また、分極処理後の圧電素子の脱分極を回避できる。
(態様E)
上記態様Dにおいて、分極処理における放電は、コロナ放電又はグロー放電である。
これよれば、上記実施形態について説明したように、簡易な装置構成で大気中において、分極処理のための放電を発生させることができる。また、電圧や周波数を変更することにより、放電による電荷注入量を容易に制御することができる。
(態様F)
上記態様D又はEにおいて、分極処理における放電により発生する電荷は正極性の電荷である。
これによれば、上記実施形態について説明したように、放電により大気中の分子をイオン化させることで、正極性に帯電した電荷を有する陽イオンを容易に発生させることができる。この陽イオンが、第1の配線42と接続した共通端子電極及び第2の配線43と接続した個別端子電極を介して圧電素子30に流れ込むことにより、正極性に帯電した電荷を圧電素子30に容易に蓄積させることができる。従って、圧電体膜34の分極処理を安定して行うことができる。
(態様G)
液滴を吐出するノズル11と、ノズル11が連通する加圧室12と、加圧室12内の液体に圧力を発生させる圧力発生手段とを備えた液滴吐出ヘッド10において、圧力発生手段は、加圧室12の壁の一部を構成する成膜振動板32と、成膜振動板32を変形させるように設けられた上記態様A乃至Cのいずれかの電気機械変換部材とを備える。
これによれば、上記実施形態について説明したように、クラックがなく、均一に分極処理が行われた電気機械変換部材によって加圧室12内の液体に圧力を発生させることができるので、安定した液滴吐出特性が得られる。
(態様H)
画像形成用の液滴を吐出して画像を形成する画像形成装置であって、前記画像形成用の液滴を吐出する液滴吐出ヘッドとして、上記態様Gの液滴吐出ヘッドを備える。
これによれば、上記実施形態について説明したように、画像形成用の液滴の安定した液滴吐出特性が得られるので、高画質の画像を形成することができる。