以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る電気機械変換部材、その電気機械変換部材を用いて液滴を吐出する液滴吐出ヘッド、その液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置、電気機械変換素子の分極処理方法、電気機械変換部材の製造方法の一例について説明する。なお、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。
はじめに、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの基本構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの基本構成部分である液滴吐出部10の一構成例を示す概略構成図である。図1において、液滴吐出部10は、インクなどの液体の液滴を吐出するノズル11を有するノズル板12と、ノズル11に連通し液体を収容した液室13を形成する液室基板14(以下、単に「基板」という。)とを備えている。更に、基板14上には、振動板15と、振動板15を介して液室13内の液体を加圧するための電気機械変換素子としての圧電素子16とが設けられている。圧電素子16は、基板14側の駆動電極となる下部電極161と、電気機械変換膜として、後述するPZT等の圧電膜162と、圧電膜162の基板14側とは反対側の駆動電極となる上部電極163とが積層されて構成される。下部電極161は、後述の外部接続用の端子電極としての共通電極パッド(図4中19)に接続されている。また、上部電極163は、後述の外部接続用の端子電極としての個別電極パッド(図4中21)に接続されている。この液滴吐出部10においては、共通電極パッドと個別電極パッドとを介して、圧電素子16の下部電極161と上部電極163とに駆動電圧を印加すると、圧電膜162が基板14と圧電素子16との間にある振動板15を変形させるように振動する。この振動板15の変形により、液室13内の液体が加圧され、ノズル11から液滴を吐出させることができる。
図1では、1つのノズル11からなる液滴吐出部10について説明したが、実際の液滴吐出ヘッドでは、図2に示すように、液滴吐出部10を複数、列状に並べた構成を有している。
図3は、基板上の振動板及び圧電素子の層構造を模式的に示した断面図である。基板14上に、振動板15が成膜され、この振動板15に接するように、下部電極161、圧電膜162、上部電極163の層が形成される。上部電極163が形成された後、圧電膜162と上部電極163とをエッチングにより個別化することで、上記図2に示すように複数の圧電素子16が形成される。すなわち、上部電極163は個別駆動電極として機能し、下部電極161は、個別化された圧電膜162及び上部電極163に対して共通駆動電極として機能している。
図4は、圧電素子16周辺のより詳細な上面図、図5は圧電素子16周辺のより詳細な断面図である。図4については圧電素子の構成が分かるように、第1の絶縁保護膜18及び第2の絶縁保護膜23の一部の図示は省略して透視して記載している。
下部電極161及び上部電極163上には第1の絶縁保護膜18が設けられている。第1の絶縁保護膜18は、下部電極161、上部電極163と、後述する第1の配線20、第2の配線22とがそれぞれ電気的に接続するための、コンタクトホール18a、18bを有している。そして、第1の絶縁保護膜18上には、第1の配線20と、第2の配線22とが設けられており、第1の絶縁保護膜18に設けられたコンタクトホール18a、18bを介して、それぞれが下部電極161、上部電極163と電気的に接続されている。第1の配線20の一部は、共通駆動電極である下部電極161と電気的に接続した外部接続用の共通端子電極である共通電極パッド19として形成されている。また、第2の配線22の一部は、個別駆動電極である上部電極163と電気的に接続した外部接続用の個別端子電極である個別電極パッド21として形成されている。
さらに、下部電極161及びこれに導通する第1の配線20、上部電極163及びこれに導通する第2の配線22を保護する第2の絶縁保護膜23が、第1の配線20、第2の配線22上(さらには第1の絶縁保護膜18上)に形成されている。第2の絶縁保護膜23には複数の開口部23a、23bを有しており、共通電極パッド19と個別電極パッド21とが露出している。個別電極パッド21は、図4に示すように、一列に形成されている。この個別電極パッド21の列の端部よりも外側に共通電極パッド19が形成されている。
さらに、本実施形態では、複数の圧電素子16を挟んで、個別電極パッド21と対向するよう、ダミー個別端子電極として複数のダミー個別電極パッド24を列状に形成している。ダミー個別電極パッド24については後で詳細に説明する。
この第2の絶縁保護膜23が形成された後の基板14と圧電素子16と各種電極とを含む、図4、図5に示す複合積層基板は、アクチュエータ基板30と呼ばれる電気機械変換部材である。
なお、液滴吐出ヘッドを構成する、液体供給手段、流路、流体抵抗等については記載を省略したが、液滴吐出ヘッドに設けることのできる付帯設備を当然に設けることができる。
次に、アクチュエータ基板30に形成された圧電素子16の分極処理について説明する。
本実施形態の分極処理では、共通電極パッド19、個別電極パッド21等が露出するアクチュエータ基板30に対して、コロナ放電もしくはグロー放電を行う。この放電処理により発生した電荷を、露出した共通電極パッド19、個別電極パッド21等を介して圧電素子16に供給することで、圧電素子16における圧電膜162の分極処理を行う。
図6は、圧電素子16に分極処理を行う分極処理装置としてコロナ放電装置の一例の概略構成説明図である。図6において、放電電極としてのコロナワイヤー電極52を用いてコロナ放電させると、大気中の分子がイオン化して陽イオンと陰イオンが発生する。この発生したイオンのうち、陽イオンは、コロナワイヤー電極52に対向配置されたステージ53上に設置された圧電素子16の図示しないパッドを介して圧電素子16に流れ込んで正極性の電荷が蓄積され、圧電膜162の分極処理が行われる。
圧電膜162の分極処理の状態については、圧電素子のP−Eヒステリシスループ特性から判断することができる。図7(a)及び(b)はそれぞれ、分極処理前及び分極処理後の圧電素子のP−Eヒステリシスループ特性の測定例を示すグラフである。図7に示すように±150[kV/cm]の電界強度かけてヒステリシスループを測定する。そして、最初の0[kV/cm]時の分極をPiniとし、+150[kV/cm]の電圧印加後、0[kV/cm]まで戻したときの0[kV/cm]時の分極をPrとしたときに、Pr−Piniの値を分極率として定義する。この分極率(Pr−Pini)から分極状態の良し悪し、を判断することができる。
例えば、分極率(Pr−Pini)は10[μC/cm2]以下となっていることが好ましく、図7(b)に示すように5[μC/cm2]以下となっていることがさらに好ましい。一方、分極量差(Pr−Pini)の値が、図7(a)に示すように10[μC/cm2]よりも大きい場合は、圧電素子からなる圧電アクチュエータとして連続駆動後の変位劣化については、十分な特性が得られない。
ここで、従来のアクチュエータ基板30を用いた場合の分極処理における問題点について説明する。従来のアクチュエータ基板30では、複数の圧電素子16に接続される複数の個別電極パッド21が第2の絶縁保護膜23に設けられた開口部23bより露出して、一列に形成されている。このようなアクチュエータ基板30に対して、対向配置されたコロナワイヤー電極52をコロナ放電させて、複数の個別電極パッド21に電荷を供給して複数の圧電素子16を一括して分極処理をおこなう。
しかし、このような分極処理では、複数の圧電素子16の上部電極163への電荷供給が不均一になりやすい。具体的には、複数の個別電極パッド21のうち、端部の個別電極パッド21に電荷が集中しやすく、端部の圧電素子16にクラックが発生するおそれがある。そこで、端部における圧電素子16のクラックを抑制するように、コロナ放電により発生する電荷量を抑えた放電条件にすると、端部以外の領域(以下、中央部という)において十分な電荷が供給されずに中央部の圧電素子16の分極処理が不十分になってしまう。すなわち、コロナ放電により発生させた電荷を、複数の個別電極パッド21のみを介して複数の圧電素子16の上部電極163に供給して分極処理をおこなう構成では、複数の圧電素子16を均一に分極処理することが困難となる。
そこで、本実施形態では、図4に示すように、複数の圧電素子16を挟んで、個別電極パッド21と対向するようダミー個別電極パッド24を列状に形成している。ダミー個別電極パッド24は、第1の絶縁保護膜18上に設けられた第3の配線25により、コンタクトホール18cを介して上部電極163と電気的に接続されている。また、ダミー個別電極パッド24は、アクチュエータ基板30の個別電極パッド21と同じ面側に、第2の絶縁保護膜23に設けられた開口部23cより露出している。
このようなアクチュエータ基板30に対して、対向配置されたコロナワイヤー電極52をコロナ放電させると、個別電極パッド21とダミー個別電極パッド24とを介して上部電極163に電荷を供給することができる。この際、複数の個別電極パッド21のうち、端部の個別電極パッド21を介して供給される電荷が、中央部の個別電極パッド21を介して供給される電荷より多くなる。このため、複数のダミー個別電極パッド24を介して供給される電荷が、個別電極パッド21を介して供給される電荷量の差を補正して複数の上部電極163に供給される電荷量を均一化するように、複数のダミー個別電極パッド24を形成する。
具体的には、端部の個別電極パッド21を介して供給される電荷は中央部の個別電極パッド21を介して供給される電荷に比べて多い。このため、これを補正するよう、端部のダミー個別電極パッド24bの面積を中央部のダミー個別電極パッド24aの面積よりも小さくする。これにより、端部のダミー個別電極パッド24bを介して供給される電荷が、中央部のダミー個別電極パッド24aを介して供給される電荷に比べて少なくなり、その結果、複数の上部電極163に供給される電荷量は均一化される。
すなわち、ダミー個別電極パッド24は、個別電極パッド21を介して圧電素子16の上部電極163に供給される電荷量の不均一を抑制するように、上部電極163に電荷を供給する電荷供給用個別端子電極として機能するものである。個別電極パッド21と、このダミー個別電極パッド24とを介して供給された電荷を用いて圧電素子16の分極処理をおこなうことで、複数の圧電素子16を均一に分極処理することが可能となる。
このアクチュエータ基板30では、放電による複数の圧電素子16の一括した分極処理においても、端部の圧電素子16に過剰な電荷が供給されてクラックが発生したり、中央部の圧電素子16に十分な電荷が供給されずに分極処理が不十分になったりする虞はない。
なお、図4においては、列方向の最端部に位置するダミー個別電極パッド24bの面積を中央部のダミー個別電極パッド24aに比べて小さくしたものを図示しているが、これに限らない。個別電極パッド21の配置、コロナワイヤー電極52の放電条件等に合わせて、複数の上部電極163に供給される電荷量を均一化するよう、ダミー個別電極パッド24の面積を調整する。具体的には、端部に位置する複数のダミー個別電極パッド24の面積を小さくした構成、さらには最端部に向かうに伴い徐々にダミー個別電極パッド24の面積を小さくする構成等が挙げられる。
なお、ダミー個別電極パッド24を設けずに、端部に位置する個別電極パッド21自体の面積を小さくする構成でも、複数の上部電極163に供給される電荷量は均一化されると考えられる。しかし、端部に位置する個別電極パッド21の面積を、それ以外の位置における個別電極パッド21の面積と異ならせると、実際の液滴吐出ヘッドの駆動時に流れる電流値が、端部とその他の位置とで変化する懸念がある。本実施形態のダミー個別電極パッド24を設けて、複数の上部電極163に供給される電荷量は均一化する構成では、個別電極パッド21の面積は同じとすることができるため、このような懸念がない。
〔変形例1〕
次に、本実施形態における液滴吐出ヘッドに用いるアクチュエータ基板30の一変形例(以下、本変形例を「変形例1」という。)について説明する。
上述した実施形態においては、列方向の端部に位置するダミー個別電極パッド24の面積を中央部に比べて小さく形成した例であるが、変形例1は、端部に位置するダミー個別電極パッド24bが露出しないように第2の絶縁保護膜23で被覆した例である。
図8は、変形例1に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子周辺のより詳細な上面図である。複数の圧電素子16を挟んで、個別電極パッド21と対向するようダミー個別電極パッド24を列状に形成している。ダミー個別電極パッド24は、第1の絶縁保護膜18上に設けられた第3の配線25により、コンタクトホール18cを介して上部電極163と電気的に接続されている。列状に形成された複数のダミー個別電極パッド24のうち、端部に位置するダミー個別電極パッド24bは、第2の絶縁保護膜23に被覆された状態で、アクチュエータ基板30の個別電極パッド21と同じ面側に露出していない。これ以外の中央部のダミー個別電極パッド24aは、アクチュエータ基板30の個別電極パッド21と同じ面側に、第2の絶縁保護膜23に設けられた開口部23cより露出している。
このようなアクチュエータ基板30に対して、対向配置されたコロナワイヤー電極52をコロナ放電させると、個別電極パッド21と、端部を除くダミー個別電極パッド24aとを介して上部電極163に電荷を供給することができる。端部の個別電極パッド21を介して供給される電荷は中央部の個別電極パッド21を介して供給される電荷に比べて多い。これを補正するよう、端部ではダミー個別電極パッド24bを介して電荷が供給されないようにしつつ、中央部ではダミー個別電極パッド24aを介して電荷を供給する。その結果、複数の上部電極163に供給される電荷量は均一化される。
なお、図8においては、列方向の最端部に位置するダミー個別電極パッド24bが第2の絶縁保護膜23に被覆されて露出しない構成を図示しているが、これに限らない。個別電極パッド21の配置、コロナワイヤー電極52の放電条件等に合わせて、複数の上部電極163に供給される電荷量を均一化するよう、露出しないダミー個別電極パッド24bの個数を調整する。
〔変形例2〕
上述した変形例1では、個別電極パッド21と同数のダミー個別電極パッド24を形成し、端部のダミー個別電極パッド24bが露出しないように第2の絶縁保護膜23で被覆した例である。これに限らず、後述する方法でダミー個別電極パッド24をパターニングする際に、端部に位置するダミー個別電極パッド24bとなる部分自体を形成しないようにすることも可能である。これによっても、変形例1と同様の効果が得られる。
このように、複数のダミー個別電極パッド24を介して供給される電荷が、個別電極パッド21を介して供給される電荷量の差を補正して複数の上部電極163に供給される電荷量を均一化するように、複数のダミー個別電極パッド24を形成する。これにより、複数の上部電極163に供給される電荷量は均一化され、複数の圧電素子16を均一に分極処理することが可能となる。
ここで、前記特許文献1に記載された分極処理方法では、圧電膜162の表面が露出した状態で分極処理を行う必要がある。そのため、分極処理が実施された圧電素子に、高温の熱処理を伴う、第1の絶縁保護膜18、第1の配線20、第2の配線22、第2の絶縁保護膜23などを形成する工程が実施されることになる。この分極処理後の後工程での熱履歴等による影響で圧電素子が脱分極し、電気機械変換能の特性が分極処理の前の状態に戻ってしまうおそれがある。
本実施形態では、第1の絶縁保護膜18、第1の配線20、第2の配線22、第3の配線25、第2の絶縁保護膜23などを形成する工程を経てアクチュエータ基板30を形成した後に分極処理を行う。これにより、後工程による熱履歴の影響による脱分極を防止できる。
次に、図6に示す、分極処理を行うコロナ放電装置50の一例について詳しく説明する。コロナ放電装置50は、主放電電極としてのコロナワイヤー電極52、コロナ電極用電源51、図示しないグリッド電極とグリッド電極用電源、複数の圧電素子が形成されたウェハ等の処理対象物を固定して載置する保持部材としてのステージ53等を具備している。コロナワイヤー電極52及びグリッド電極(不図示)はそれぞれ、コロナ電極用電源51及びグリッド電極用電源(不図示)に接続され、所定の電圧が印加される。また、ステージ53は、ステージ53上に配置された処理対象物に対して電荷を付与しやすくなるように、アース線を介して接地されていることが好ましい。
また、コロナワイヤー電極52やグリッド電極(不図示)に印加する電圧の大きさや、ステージ53と各電極間との距離は特に限定されるものではなく、十分に分極処理を施すことができるようにこれらを調整し、コロナ放電の強弱をつけることができる。また、コロナワイヤー電極52の構成は特に限定されるものではないが、例えばワイヤー形状を有する構成とすることができ、各種導電性の材料により構成することができる。
また、グリッド電極(不図示)は、コロナ放電で発生した放電電荷が通過し得る多数の開口を有する導電性部材であり、コロナワイヤー電極52とステージ53との間に配置されている。グリッド電極の構成は特に限定されるものではないが、形状の工夫やメッシュ加工を施すことが好ましい。このようなグリッド電極の形状の工夫やメッシュ加工などにより、コロナワイヤー電極52に高電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷などを効率よく均一に下のステージ53に降り注ぐようにすることができる。これにより、処理対象物の表面に対して均一に電荷を付与することできる。
また、ステージ53には、処理対象物を加熱できるように加熱機構(不図示)が付加されている。これは、圧電素子を加熱しながら分極処理を行った場合、圧電素子の応力を緩和させながら処理できるため、所望の分極状態にするために多くの電荷量を供給してもクラックを発生させないためである。圧電素子を加熱する加熱機構の具体的手段は特に限定されるものではなく、各種ヒーターやランプ等を用いて加熱するように構成することができる。
上記加熱機構は、ステージ53内に設置することもでき、ステージ53の外から加熱するように設置することもできる。特に、電極等との干渉を避けるため、ステージ53内に設置されていることが好ましい。加熱機構の最大加熱温度は特に限定されるものではなく、製造する処理対象物、例えば圧電素子を構成する圧電膜のキュリー温度等に応じて所定の温度に加熱できるように構成されていればよい。特に、各種の圧電素子に対応できるよう、最大350[℃]まで加熱できるように構成されていることが好ましい。実際に分極処理を行う際の加熱温度は特に限定されるものではないが、キュリー温度以下に加熱することが好ましい。これは、例えば図17のP−Eヒステリシス特性に示すように、キュリー温度を超える温度に加熱すると分極処理を行っても再度脱分極してしまい、分極処理の効果がなくなってしまうためである。また、圧電膜の温度がキュリー温度を越えることをより確実に防止するため、加熱温度は特にキュリー温度の半分の温度以下に加熱することが好ましく、1/3以下の温度に加熱することがより好ましい。例えば、圧電膜としてPZT(ペロブスカイト結晶構造を有するジルコン酸チタン酸鉛)の膜を用いた場合、180[℃]以下に加熱することが好ましく、120[℃]以下に加熱することがより好ましい。
また、ステージ53には、コロナ放電した時に処理対象物に電荷等が照射(供給)されるエリアが限られるため、処理対象物全体を処理できるように処理対象物の移動が可能な移動機構が付加されている。この移動機構により、処理対象物全体を効率良く処理することができ、生産性を向上させることができる。ステージ53の移動機構は特に限定するものではないが、例えばステージのテーブルをリニアガイドによって保持し、テーブルの移動をボールネジなどの送り機構を介してステッピングモータで駆動制御するように構成してもよい。
また、分極処理を行う際に必要な電荷量Qについては特に限定されるものではないが、圧電素子16に1.0×10−8[C]以上の電荷量が供給される(蓄積される)ことが好ましい。また、圧電素子16には、4.0×10−8[C]以上の電荷量が供給される(蓄積される)ことがさらに好ましい。このような範囲の電荷量を圧電素子16に供給されることにより、より確実に後述する分極率を有するように分極処理を行うことができる。
また、コロナ放電により発生してステージ側に移動する電荷としては、使用時における圧電素子の駆動電圧の極性に応じて正極性又は負極性に帯電するようにする。例えば、後述の図7(b)に示したP−Eヒステリシスループの分極処理後のPini(P−Eヒステリシスループの0[kV]時の分極P)は、分極工程において圧電素子に供給する電荷が正帯電している場合には正側に位置することなる。逆に、分極工程において圧電素子に供給する電荷が負帯電している場合にはPiniは負側に位置することになる。そして、圧電素子を実際に駆動させる際に正極性の電圧を印加する場合には、Piniは正側に位置することが好ましく、負電圧を印加する場合には、負側に位置することが好ましい。このため、圧電素子の使用環境に応じて分極工程において供給する電荷を正または負に帯電させることができる。
次に、本実施形態の液滴吐出ヘッドを構成するアクチュエータ基板30について具体的に説明する。
アクチュエータ基板30は、例えば、以下の各工程(1)〜(7)を行うことにより製造することができる。
(1)基板14または振動板15上に、下部電極161を形成する工程。ここで、下部電極161は、後述のように密着層を含むこともできる。
(2)下部電極161上に圧電膜162を形成する工程。
(3)圧電膜162上に上部電極163を形成する工程。
(4)圧電膜162及び上部電極163をエッチングにより個別化する工程。この工程を行うことにより、上部電極163を個別駆動電極とし、下部電極161は個別化された圧電膜162、上部電極163に対して共通駆動電極として機能するようになる。
(5)下部電極161及び上部電極163上に第1の絶縁保護膜18を形成する工程。この工程の際、下部電極161と第1の配線20、上部電極163と第2の配線22及び第3の配線25とをそれぞれ電気的に接続するため、第1の絶縁保護膜18にコンタクトホール18a、18b、18cを形成する。
(6)下部電極161及び上部電極163にそれぞれ電気的に接続された第1の配線20、第2の配線22及び第3の配線25を第1の絶縁保護膜18上に形成する工程。この工程の際、共通電極パッド19、個別電極パッド21、ダミー個別電極パッド24となる部分が形成される。
(7)第1の配線20、第2の配線22、第3の配線25上に第2の絶縁保護膜23を形成する工程。この工程の際、共通電極パッド19、個別電極パッド21、ダミー個別電極パッド24を露出させる開口部23a、23b、23cを形成する。
以下、アクチュエータ基板30を構成する材料、工法について詳細に説明する。
[基板]
基板14としてはその材質は特に限定されるものではないが、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。そして、その厚さとしては、100〜600[μm]の厚みを持つことが好ましい。
シリコン単結晶基板の面方位としては、(100)、(110)、(111)の3種類があるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されている。本構成においては、(100)の面方位をもつシリコン単結晶基板を好ましく使用することができる。また、本実施形態における圧電素子16においては、(110)面方位をもった単結晶基板も好ましく用いることができる。
基板14に図1に示した液室13を作製する場合、一般的にエッチングを利用してシリコン単結晶基板の加工が行われるが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。
異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えば、KOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54[°]の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝を掘ることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができる。このため、異方性エッチングを利用して圧力室等を作製する場合、(110)の面方位を有するシリコン単結晶基板を使用することも可能である。ただし、この場合には、マスク材であるSiO2もエッチングされてしまうおそれがあるため、これに留意して利用することが望ましい。
[振動板(下地膜)]
図1に示すように圧電膜162によって発生した力を受けて、振動板15が変形変位して、液室13のインク滴を吐出させる。そのため、振動板15としては所定の強度を有したものであることが好ましい。
振動板15を構成する材料としては変形変位して液室13のインク滴を吐出できるものであればよく、要求される耐久性等に応じて任意に選択することができるが、例えば、Si、SiO2、Si3N4を用いることができる。これらの材料を用いる場合、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により作製することができる。
また、振動板15としては、下部電極161、圧電膜162の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。特に、圧電膜162としては、一般的に材料としてPZTが使用されることから、PZTの線膨張係数8×10−6 (1/K)に近い線膨張係数を有するものが好ましい。具体的には、5×10−6(1/K)以上10×10−6(1/K)以下の範囲の線膨張係数を有した材料であることが好ましく、さらには7×10−6(1/K)以上9×10−6(1/K)以下の範囲の線膨張係数を有した材料がより好ましい。
この場合、具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等が挙げられる。これらの材料をスパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。
膜厚としては特に限定されるものではないが、0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲が好ましく、0.5[μm]以上3[μm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲より小さいと図1に示すような液室13の加工が難しい場合があり、この範囲より大きいと振動板15が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる場合があるためである。
[下部電極(共通駆動電極)]
例えば図1に示す、下部電極161としては特に限定されるものではないが、金属または金属と酸化物とから構成されていることが好ましい。具体的には、下部電極161としては例えば、金属電極膜から構成することができる。また、金属電極膜と酸化物電極膜とから構成することもできる。
下部電極161がいずれの材料からなる場合でも、振動板15と金属膜との間に密着層を形成し、剥がれ等を抑制するように工夫することが好ましい。以下に密着層を含めて金属電極膜、酸化物電極膜の詳細について記載する。
密着層としては、例えば、金属膜を成膜後、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いて、RTA法により酸化(熱酸化)して酸化膜とすることにより得ることができる。酸化(熱酸化)を行う際の条件としては特に限定されるものではなく、用いる金属膜の材質等により選択することができる。例えば、650〜800[℃]で、1〜30分間、O2雰囲気で金属膜を熱酸化することにより形成することができる。
金属膜は例えばスパッタ法により成膜することができる。金属膜の材料としてはTi、Ta、Ir、Ru等の材料を好ましく用いることができ、中でもTiを好ましく用いることができる。
金属酸化物膜は反応性スパッタにより作製してもよいが、金属膜の高温による熱酸化法が望ましい。これは、反応性スパッタにより作製する場合、例えばシリコン基板などの基板も一緒に高温で加熱する必要があるため、特別なスパッタチャンバ構成が必要となり、コスト上好ましくないためである。また、一般の炉による酸化よりも、RTA装置による酸化の方が金属酸化物膜の結晶性が良好になることが挙げられる。これは、チタン膜を例に説明すると、通常の加熱炉による酸化によれば、酸化しやすいチタン膜は、低温においてはいくつもの結晶構造を作るため、一旦、それを壊す必要が生じる。これに対して、昇温速度の速いRTA法による酸化ではそのような過程を経る必要がなく、良好な結晶を形成することが可能になる。
密着層の膜厚としては、特に限定されるものではないが、10[nm]以上50[nm]以下の範囲が好ましく、15[nm]以上30[nm]以下の範囲がさらに好ましい。膜厚が上記範囲よりも薄い場合においては、振動板、下部電極との密着性が悪くなる場合がある。また、膜厚が上記範囲よりも厚いとその上に作製する下部電極の膜の結晶の質に影響が出てくる場合がある。このため、上記範囲を選択することが好ましい。
金属電極膜の金属材料としては従来から高い耐熱性と低い反応性を有する白金を用いることができる。なお、白金は鉛に対して十分なバリア性を有しない場合があるため、イリジウム、白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金も用いることができる。
また、金属電極膜の金属材料として白金を使用する場合には、下地(特にSiO2)との密着性が悪いために、上記密着層を先に積層することが好ましい。
金属電極膜の作製方法としては特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法や真空蒸着等の真空成膜を用いることができる。
金属電極膜の膜厚としては要求される性能に応じて選択すればよく、限定されるものではないが、80[nm]〜200[nm]であることが好ましく、100[nm]〜150[nm]であることがより好ましい。上記範囲より薄い場合においては、共通駆動電極として十分な電流を供給することができない場合があり、インク吐出をする際に不具合が発生する場合があるため好ましくない。また、上記範囲より厚い場合、特に金属電極膜の金属材料として白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コスト上問題となる点が挙げられる。また、特に金属材料として白金を用いた場合、膜厚を厚くしていったときに表面粗さが大きくなる。すると、その上に作製する膜(例えば酸化物電極膜や圧電膜)の表面粗さや結晶配向性に影響を及ぼして、インク吐出に十分な変位が得られないような不具合が発生する場合がある。
酸化物電極膜の材料としては、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3、以下単に「SRO」とも記載する。)を用いることが好ましい。また、ルテニウム酸ストロンチウムの一部を置換した材料、具体的には、SrxA(1−x)RuyB(1−y)O3(式中、AはBa、Ca、 BはCo、Ni、 x、y=0〜0.5)で表される材料についても好ましく用いることができる。
酸化物電極膜の成膜方法については例えばスパッタ法により作製することができる。スパッタ条件については限定されるものではないが、スパッタ条件によって酸化物膜の膜質が変化するため、要求される結晶配向性等により選択することができる。
例えば、後述する圧電膜162は、連続動作したときの変位特性劣化を抑えるためにはその結晶性としては(111)面方位に配向していることが好ましい。このような圧電膜162を得るためには、その下層に配置した酸化物電極膜についても(111)面方位に配向していることが好ましい。このため、酸化物電極膜は(111)面方位に優先配向していることが好ましい。
そして、酸化物電極膜について(111)面方位に優先配向した膜を得るために、500[℃]以上に基板加熱を行い、これにスパッタ法により酸化物電極膜を成膜することが好ましい。
また、酸化物電極膜の下層に金属電極膜を設ける場合、金属電極膜は白金膜からなることが好ましい。また、その面方位として、(111)面方位に配向していることが好ましい。これは、その上に成膜する酸化物電極膜についても(111)面方位に優先配向したものが得やすくなるためである。
例えば、SRO膜の成膜条件として、SROを室温で成膜後、RTA処理にて結晶化温度(650[℃])で熱酸化することが知られている。この場合、SRO膜としては、十分結晶化され、電極としての比抵抗としても十分な値が得られるが、膜の結晶配向性としては、(110)が優先配向しやすくなり、その上に例えばPZT膜を成膜した場合、このPZT膜についても(110)配向しやすくなる。このため、本実施形態においてSRO膜を形成する場合には、上記成膜条件により成膜することが好ましい。
ここで、例えば金属電極膜として(111)面方位に配向した白金膜を用い、その上に酸化物電極膜であるSrRuO3膜を作製した場合に、酸化物電極の結晶性をX線回折測定により評価する方法について説明する。
PtとSrRuO3とは格子定数が近いため、通常のX線回折測定におけるθ−2θ測定では、SRO膜の(111)面とPtの(111)面の2θ位置が重なってしまい判別が難しい。しかし、Ptについては消滅則の関係からPsi=35[°]に傾けた場合、2θが約32[°]付近の位置では回折線が打ち消し合い、Ptの回折強度が見られなくなる。そのため、Psi方向を約35[°]傾けて、2θが約32[°]付近のピーク強度で判断することでSROが(111)面方位に優先配向しているかを確認することができる。
図9に、シリコン基板上に、密着層として酸化チタン膜を成膜した後、(111)面方位に配向している白金膜を成膜し、その上に基板を例えば550[℃]に加熱しながら、スパッタ法によりSrRuO3膜を成膜した試料のX線回折測定結果を示す。
図9においては、2θ=32[°]に固定し、Psiを変化させたときのデータを示している。Psi=0[°]ではSROの(110)面の回折線はほとんど回折強度が見られず、Psi=35[°]付近において、回折強度が見られることから、この測定方法によりSROが(111)面方位に優先配向していることが確認できる。また、この結果から、本成膜条件にて作製したものについては、SROが(111)面方位に優先配向していることを確認できた。
また、上述記載のSRO膜を室温で成膜後、RTA処理することにより作製されたSRO膜について同様に評価を行ったところ、Psi=0[°]のときにSRO(110)の回折強度が見られた。
圧電アクチュエータとして連続動作したときに、駆動させた後の変位量が、初期変位に比べてどのくらい劣化したかを見積もったところ、圧電膜(例えばPZT膜)162の配向性が非常に影響しており、(110)では変位劣化抑制において不十分な場合がある。このため、上述のように酸化物電極膜は(111)面方位に配向していることが好ましい。
酸化物電極に用いるSrRuO3膜の表面粗さは4[nm]以上、15[nm]以下であることが好ましく、6[nm]以上、10[nm]以下であることがさらに好ましい。なお、ここでの表面粗さについてはAFMにより測定される表面粗さ(平均粗さ)を意味している。
SrRuO3膜の表面粗さは成膜温度に影響し、室温から300[℃]に基材を加熱して成膜した場合、表面粗さが非常に小さく2[nm]以下になる。この場合、表面粗さとしては、非常に小さくフラットになっているが、SrRuO3膜の結晶性は十分でない場合がある。この様にSrRuO3膜の結晶性が十分でない場合、その後に成膜する圧電膜(例えばPZT膜)162を有する圧電アクチュエータが初期変位や連続駆動後の変位劣化について十分な特性が得られなくなる。
そこで、成膜条件からみて、SrRuO3膜の結晶性を悪化させずに得られる表面粗さを検討したところ上記範囲となることから、上記範囲を有することが好ましい。
上記範囲からはずれた場合、SrRuO3膜の結晶性を悪化する場合があり、その後成膜する圧電膜の絶縁耐圧が悪化し、リークしやすくなる場合があるため好ましくない。
そして、上述のような、結晶性や表面粗さを有するSrRuO3膜を得るためには、成膜条件(温度)としては500[℃]〜700[℃]、好ましくは520[℃]〜600[℃]の範囲に基板を加熱して、スパッタ法により成膜することが好ましい。
成膜後のSrとRuの組成比については特に限定されるものではなく、要求される導電性等により選択されるが、Sr/Ruが0.82以上、1.22以下であることが好ましい。これは、上記範囲から外れると比抵抗が大きくなり、電極として十分な導電性が得られなくなる場合があるためである。
さらに、酸化物電極としてSRO膜の膜厚としては、40[nm]以上、150[nm]以下であることが好ましく、50[nm]以上、80[nm]以下であることがさらに好ましい。上記膜厚範囲よりも薄いと初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない場合がある。また、圧電膜のオーバーエッチングを抑制するためのストップエッチング層としての機能も得られにくくなる。さらに、上記膜厚範囲を超えると、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が悪くなり、リークしやすくなる場合があるためである。
酸化物電極の比抵抗としては、5×10−3[Ω・cm]以下になっていることが好ましく、さらに1×10−3[Ω・cm]以下になっていることがさらに好ましい。この範囲よりも大きくなると第1の配線との界面で接触抵抗が十分得られず、共通駆動電極として十分な電流を供給することができず、インク吐出をする際に不具合が発生する場合があるためである。
[圧電膜(電気機械変換膜)]
圧電膜162としては、圧電性を有する材料であれば使用することができ、特に限定されるものではない。例えば、広く用いられているPZTを好ましく使用することができる。なお、PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体で、その比率により特性が異なるが、その比率についても限定されるものではなく、要求される圧電性能等に応じて選択することができる。中でもPbZrO3とPbTiO3との比率(モル比)が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O3で表わされるPZT(PZT(53/47)とも示される)は、特に優れた圧電特性を示す。よって、このPZT(53/47)を好ましく用いることができる。
PZT以外の材料として、チタン酸バリウムも用いることができる。この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
また、上記PZTや、チタン酸バリウムは一般式ABO3で表わされる。PZT、チタン酸バリウム以外にもABO3(A=Pb、Ba、Sr、B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nb)で表わされる複合酸化物を主成分とする複合酸化物を用いることができる。
さらに、(Pb1−x,Bax)(Zr,Ti)O3、(Pb1−x,Srx)(Zr,Ti)O3の様にAサイトのPbを一部BaやSrで置換した複合酸化物も使用することができる。置換に用いる元素としては2価の元素であれば可能であり、Pbの一部を2価の元素で置換することにより圧電膜を成膜する際等に熱処理を行った場合に鉛の蒸発による特性劣化を低減させる効果がある。
圧電膜162の作製方法としては、特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法や、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。そして、成膜後、フォトリソグラフィー技術とエッチング技術とを用いるパターン形成方法(以下、「リソエッチ法」という。)等によりパターニングを行い、所望のパターンを得ることができる。
PZTからなる圧電膜162をゾルゲル法により作製する場合を例に説明する。
酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料とし、共通溶媒としてメトキシエタノールを用い、上記出発原料が所定比になるように共通溶液に溶解させ均一溶液とすることで、PZT前駆体溶液を作製する。なお、金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加しておくこともできる。また、鉛成分は成膜工程で熱処理を行う際などに蒸発することがあるので、量論比よりも多めに添加しておくこともできる。
下地基板全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことでPZT膜を得ることができる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックのない膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整を行うことが好ましく、成膜工程を繰り返し行うことで所望の膜厚のPZT膜を得ることができる。
圧電膜162の膜厚としては限定されるものではなく、要求される圧電特性に応じて選択すればよいが、0.5[μm]以上、5[μm]以下であることが好ましく、1[μm]以上、2[μm]以下であることがより好ましい。これは、上記範囲より薄いと圧電アクチュエータとして使用する際に十分な変位を発生することができない場合があるためである。また、上記範囲より厚いと、その製造工程において何層も積層させて成膜するため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなるためである。
また、圧電膜162の比誘電率としては600以上、2000以下になっていることが好ましく、さらに1200以上、1600以下になっていることがより好ましい。比誘電率が係る範囲より小さいと、圧電アクチュエータとして使用する際に十分な変位特性が得られない場合がある。また、比誘電率が係る範囲より大きくなると、分極処理が十分行われず、連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られないといった不具合が発生する場合がある。
[上部電極(個別駆動電極)]
上部電極163としては特に限定されるものではないが、例えば、金属電極膜から構成することができる。また、金属電極膜と酸化物電極膜から構成することもできる。
以下に酸化物電極膜、金属電極膜の詳細について記載する。
酸化物電極膜の材料等については、下部電極の酸化物電極膜で説明したものと同様である。酸化物電極膜の膜厚としては、20[nm]以上、80[nm]以下が好ましく、40[nm]以上、60[nm]以下がより好ましい。これは、この膜厚範囲よりも薄いと初期変位や変位劣化特性については十分な特性が得られない場合があり、この範囲を超えると、圧電膜の絶縁耐圧が非常に悪くなり、リークしやすくなる場合があるためである。
金属電極膜の材料等については下部電極の金属電極膜で説明したものと同様である。金属電極膜の膜厚としては、30[nm]以上200[nm]以下が好ましく、50[nm]以上120[nm]以下がさらに好ましい。これは、この膜厚範囲より薄いと個別駆動電極として十分な電流を供給することができなくなり、インク吐出をする際に不具合が発生する場合があるためである。また、この膜厚範囲より厚い場合においては、金属電極膜の材料として白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コストアップとなる点で問題である。また、白金を材料とした場合においては、膜厚を厚くしていったときに表面粗さが大きくなり、第1の絶縁保護膜を介して第2の配線を作製する際に、膜剥がれ等の不具合が発生しやすくなる場合があるためである。
[第1の絶縁保護膜]
第1の絶縁保護膜18は、成膜・エッチングの工程による圧電素子16へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過することを防止する機能を有することが好ましい。このため、その材料としては緻密な無機材料とすることが好ましい。有機材料の場合、十分な保護性能を得るためには膜厚を厚くする必要があるが、絶縁膜を厚い膜とした場合、振動板の振動変位を阻害し、吐出性能の低い液滴吐出ヘッドとなる場合があるためである。
薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物,窒化物,炭化物の薄膜を用いることが好ましいが、絶縁膜の下地となる、電極材料、圧電膜材料、振動板材料と密着性が高い材料を選定することが好ましい。具体的には、第1の絶縁保護膜18としては例えば、アルミナ膜、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜から選択される少なくとも1種の無機膜からなることが好ましい。より具体的には、Al2O3,ZrO2,Y2O3,Ta2O3,TiO2などのセラミクス材料に用いられる酸化膜が例として挙げられる。これらの膜は、密着性がよく、膜が硬く、しかも耐磨耗性やコストパフォーマンスに優れている。
また、第1の絶縁保護膜18の成膜法も圧電素子を損傷する可能性が低い成膜方法であることが好ましい。例えば、蒸着法、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法などを好ましく用いることができ、使用できる材料の選択肢が広いALD法をより好ましく用いることができる。特にALD法を用いることで、膜密度の非常に高い薄膜を作製することができ、プロセス中でのダメージを抑制することが可能になる。
そして、反応性ガスをプラズマ化して基板上に堆積するプラズマCVD法やプラズマをターゲット材に衝突させて飛ばすことで成膜するスパッタリング法は圧電素子を損傷する可能性が蒸着法、ALD法に比べて高いため好ましくない。
第1の絶縁保護膜18の膜厚は、圧電素子を保護するために十分な厚さの薄膜であり、かつ、振動板の変位を阻害しないように可能な限り薄いものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、第1の絶縁保護膜の膜厚としては20[nm]〜100[nm]の範囲であることが好ましい。100[nm]より厚い場合は、振動板の変位が低下するため、吐出効率の低い液滴吐出ヘッドとなる場合がある。一方、20[nm]より薄い場合は圧電素子の保護層としての機能が十分ではない場合があり、圧電素子の性能が低下する恐れがある。
また、第1の絶縁保護膜18としてさらにもう1層設けて、2層にする構成も考えられる。この場合、例えば2層目の絶縁保護膜を厚くして振動板の振動変位を阻害しないように上部電極付近において2層目の絶縁膜を開口するような構成としてもよい。
2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物,窒化物,炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができる。例えば、半導体デバイスで一般的に用いられるSiO2を用いることができる。
2層目の絶縁保護膜の成膜方法としては任意の手法を用いることができ、CVD法,スパッタリング法が挙げられる。電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。
2層目の絶縁保護膜の膜厚は、下部電極161と第2の配線22との間に印加される電圧で絶縁破壊されないように選択することが好ましい。すなわち絶縁膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定することが好ましい。さらに、2層目の絶縁膜の下地の表面性やピンホール等を考慮すると膜厚は200[nm]以上であることが好ましく、500[nm]以上であることがさらに好ましい。
[配線、パッド]
第1の配線20は下部電極161に、第1の配線22及び第3の配線25は上部電極163にそれぞれ電気的に接続されており、第1の絶縁保護膜18上に形成されている。
第1の配線20、第2の配線22及び第3の配線25の材質は特に限定されるものではなく、要求される性能等に応じて選択すればよいが、例えば、Ag合金、Cu、Al、Al合金、Au、Pt、Irから選択される少なくとも1種の金属からなることが好ましい。これらの金属は、基板上に低抵抗で耐久性のある電極を成膜することができる。
第1の配線20、第2の配線22及び第3の配線25の作製方法としては、例えば、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後、前述のリソエッチ法等により所望のパターンを得る方法を好ましく用いることができる。
第1の配線20、第2の配線22及び第3の配線25の膜厚としては、0.1[μm]〜20[μm]が好ましく、0.2[μm]〜10[μm]がさらに好ましい。膜厚が上記範囲より小さいと抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができずに液滴吐出ヘッドとした場合に液滴の吐出が不安定になる場合がある。また、膜厚が上記範囲より大きいとプロセス時間が長くなり生産性の面で問題となる場合がある。
また、第1の配線20のうち、第2の絶縁保護膜23の開口部23aから露出している部分が共通電極パッド19となる。また、第2の配線22のうち、第2の絶縁保護膜23の開口部23bから露出している部分が個別電極パッド21となる。さらに、第3の配線25のうち、第2の絶縁保護膜23の開口部23cから露出する部分がダミー個別電極パッド24となる。共通電極パッド19、個別電極パッド21、ダミー個別電極パッド24となる部分の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、前述のリソエッチ法等により所望の大きさ、パターンに形成することができる。
共通電極パッド19の開口部23aでの接触抵抗としては10[Ω]以下が好ましく、個別電極パッド21の接触抵抗としては1[Ω]以下が好ましい。さらに、共通電極パッド19の接触抵抗としては5[Ω]以下、個別電極パッド21の接触抵抗としては0.5[Ω]以下であることがより好ましい。これは、上記各パッド19、22の開口部23a、23bでの接触抵抗が上記範囲を超えると十分な電流を供給することができなくなり、液滴吐出ヘッドとした場合に、液滴の吐出をする際に不具合が発生する場合があるためである。
[第2の絶縁保護膜]
第2の絶縁保護膜23は第1の配線20や第2の配線22の保護層の機能を有するパッシベーション層として機能するものである。
第2の絶縁保護膜23は、共通電極パッド19を露出するための開口部23a、個別電極パッド21を露出するための開口部23b、ダミー個別電極パッド24を露出するための開口部23cを除き、第1の配線20、第2の配線22及び第3の配線25を被覆する(図5参照)。このように第2の絶縁保護膜23を設けることにより、電極材料として安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いることができる。その結果、低コストかつ信頼性の高い液滴吐出ヘッドとすることができる。
第2の絶縁保護膜23の材料としては、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、透湿性の低い材料を用いることが好ましい。
無機材料としては、例えば酸化物、窒化物、炭化物等を用いることができ、有機材料としてはポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。ただし有機材料の場合には厚膜とすることが必要となるため、後述のパターニングに適さない。そのため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料を用いることがより好ましい。
このため、第2の絶縁保護膜23がアルミナ膜、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜から選択される少なくとも1種の無機膜であることが好ましい。特に、Al配線上に第2の絶縁保護膜としてSi3N4を用いることは半導体デバイスで実績のある技術であるため、本実施形態においても同様の構成を採用することが好ましい。
また、第2の絶縁保護膜23の膜厚は200[nm]以上とすることが好ましく、500[nm]以上であることがさらに好ましい。これは、膜厚が薄い場合は十分なパッシベーション機能を発揮できないため、配線材料の腐食による断線が発生し、圧電素子の信頼性を低下させてしまう可能性があるためである。
また、圧電素子16上とその周囲の振動板15上に開口部をもつ構造が好ましい。これは、前述の第1の絶縁保護膜18の上部電極163付近の領域を薄くしていることと同様の理由である。これにより、高効率かつ高信頼性の圧電素子とすることができる。また、例えばこの圧電素子16を用いた高効率かつ高信頼性の液滴吐出ヘッドとすることが可能になる。
なお、第1の絶縁保護膜18、第2の絶縁保護膜23により圧電素子が保護されているため、第2の絶縁保護膜23の開口部の形成には、フォトリソグラフィー法とドライエッチングを用いることができる。
以上説明してきた本実施形態のアクチュエータ基板30を用いることで、複数の圧電素子16に一括して分極処理を行うことができる。これにより、後述する実施例のように、ウェハレベルで一括した分極処理が可能となる。
液滴吐出ヘッドでは、このアクチュエータ基板30に対して、圧電素子16に空隙を介して非接触の状態で圧電素子16を覆うように設けられた構造体としての保持基板(不図示)を、接着剤で接合する。保持基板は、圧電素子16が位置する部分に、空隙を介して圧電素子16を覆うための凹部が形成されている。また、保持基板は、複数の圧電素子16に所定の振幅及び周波数からなるパルス駆動電圧を印加するための駆動用電気回路素子としての圧電素子駆動IC(不図示)が配置される開口部を有している。この開口部に個別電極パッド21が露出しており、圧電素子駆動ICは、バンプ電極などを介して、個別電極パッド21に電気的に接続される。
また、ダミー個別電極パッド24は、分極処理後のアクチュエータ基板30に保持基板を接合する際に、開口部23cが接着剤で封止され、保持基板が接合されることが好ましい。これは、液滴吐出ヘッドの駆動時にダミー個別電極パッド24が露出した状態であると、アクチュエータ基板30が電位的に安定しないおそれを回避するためである。
また、液体供給手段、流路、流体抵抗等については記載を省略したが、液滴吐出ヘッドに設けることのできる付帯設備を当然に設けることができる。
この液滴吐出ヘッドによれば、上述した圧電素子16を備えたアクチュエータ基板30を用いているため、所定駆動電圧に対して安定した変位量を示し、液滴吐出特性を良好に保持できると共に安定した液滴吐出特性を得ることができる。
次に、ダミー個別電極パッド24を設けた電気機械変換部材の分極処理のより具体的な実施例と、これらの実施例についての評価実験の結果について説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
実施例1では、基板14となる6インチシリコンウェハに振動板15となる熱酸化膜(膜厚1[μm])を形成した。
次に、下部電極(共通駆動電極)161を形成した。具体的には、まず密着膜として、チタン膜(膜厚30[nm])をスパッタ装置にて成膜した後にRTAを用いて750[℃]にて熱酸化した。そして、引き続き金属膜として白金膜(膜厚100[nm])、酸化物膜としてSrRuO3膜(膜厚60[nm])をスパッタ成膜した。スパッタ成膜時の基板加熱温度については550[℃]にて成膜を実施した。
次に、圧電膜(電気機械変換膜)162を形成した。具体的には、モル比でPb:Zr:Ti=114:53:47に調整された溶液を準備し、スピンコート法により膜を成膜した。
具体的な前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
イソプロポキシドチタン、ノルマルプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上記酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。合成したPZT前駆体溶液中のPZT濃度は0.5[モル/L]とした。
上記前駆体溶液を用いて、スピンコートにより前記下部電極が形成された基板上に成膜し、成膜後、120[℃]乾燥を行い、その後さらに500[℃]熱分解を行う操作を複数回繰り返し行い圧電膜を積層した。
上記手順により繰り返し、圧電体膜を積層する際に、3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度750[℃])をRTA(急速熱処理)にて行った。3層目の熱分解処理後、RTA処理を施した圧電膜(PZT膜)162の膜厚は240[nm]であった。
上記工程を計8回(24層)実施し、PZTの部分の膜厚が約2[μm]の圧電膜162を得た。
次に、上部電極の酸化物膜としてSrRuO3膜(膜厚40[nm])を、金属膜としてPt膜(膜厚125[nm])を、それぞれスパッタ成膜した。
その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した。その後、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)方式のエッチング装置(サムコ製)を用いて圧電体膜、上部電極をエッチングにより個別化し、図4に示すようなパターンを作製した。これにより、上部電極は個別駆動電極として機能し、下部電極は個別化された圧電体膜、上部電極に対して共通駆動電極として機能する。
次に、第1の絶縁保護膜として、ALD法によりAl2O3膜を50[nm]成膜した。
原材料としてAl源としては、トリメチルアルミニウム(TMA)(シグマアルドリッチ社製)、O源としては、オゾンジェネレーターによって発生させたO3を用いた。そして、Al源、O源を交互に基板上に供給して積層させることで、成膜を行った。
その後、図4、5に示すように、エッチングによりコンタクトホール部を形成した。
そして、第1の配線、第2の配線、第3の配線としてAlをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニング形成した。
さらにその後、第2の絶縁保護膜としてSi3N4をプラズマCVDにより500[nm]成膜した。その後、エッチングにより、共通電極パッド19、個別電極パッド21、及び、ダミー個別電極パッド24を露出させるように形成し、図4に示すような複数の圧電素子16を有する電気機械変換部材を作製した。
個別電極パッド21は、図4に示すように直線状に同一配列で1列に形成した。このとき、個別電極パッド21の面積が、すべて50[μm]×50[μm]となるように第2の絶縁保護膜23に開口部23cを形成した。一方、ダミー個別電極パッド24は、中央部のダミー個別電極パッド24aの面積が50[μm]×50[μm]、端部のダミー個別電極パッド24bの面積が40[μm]×40[μm]となるように第2の絶縁保護膜23に開口部23cを形成した。
なお、図10に示すように、6インチウェハ内にアクチュエータ基板30となる40[mm]×20[mm]四方のエリア(チップ)を22箇所配置した。このアクチュエータ基板30のチップ内に、1200個(300個×4列(A〜D))の個別電極パッド21と、8個の共通電極パッド19とを形成した。さらに、図示は省略するが、個別電極パッド21と圧電素子16を挟んで対向するよう、1200個(300個×4列(A〜D))のダミー個別電極パッド24を形成した。
コロナ放電装置50のコロナワイヤー電極52としてφ50[μm]のタングステンのワイヤーを用いている。コロナワイヤー電極52とウェハまでの垂直距離を10[mm]、グリッド電極の中央部とウェハまでの垂直距離を5[mm]として、コロナワイヤー電極52に対して8[kV]、グリッド電極に0.8[kV]の電圧をかけた。このとき、図11に示すようにB,C列の中心にコロナワイヤー電極52がくるように設定し、1列につき20秒間、計8列にコロナ分極処理を行った。また、ステージ53の温度は80[℃]とした。
〔実施例2〕
実施例2では、端部のダミー個別電極パッド24bの面積を30[μm]×30[μm]にすること以外は、実施例1と同様にして複数の圧電素子を配置した電気機械変換素子をウェハ上に作製し、分極処理を行った。
〔実施例3〕
実施例3では、図10に示すように、端部のダミー個別電極パッド24bを露出させないこと以外は、実施例1と同様にして複数の圧電素子を配置した電気機械変換素子をウェハ上に作製し、分極処理を行った。
〔比較例1〕
比較例1では、図11に示すように、端部のダミー個別電極パッド24bの面積を、中央部のダミー個別電極パッド24aの面積と同じく50[μm]×50[μm]となるようにした。それ以外は、実施例1と同様にして複数の圧電素子を配置した電気機械変換素子をウェハ上に作製し、分極処理を行った。
〔比較例2〕
比較例2では、ダミー個別電極パッド24を設けないこと以外は、実施例1と同様にして複数の圧電素子を配置した電気機械変換素子をウェハ上に作製し、分極処理を行った。
〔比較例3〕
比較例3は、コロナワイヤー電極52に対して9[kV]、グリッド電極に1.5[kV]の電圧をかける分極処理条件とした以外は、比較例2と同様のダミー個別電極パッド24を設けない電気機械変換部材を作成して分極処理を行った。
〔評価実験〕
以上説明した実施例1〜3、比較例1〜3で作製したの電気機械変換部材に関して、端部の176箇所(2ビット×4列×22チップ)の圧電素子に発生するクラックの発生率と、端部と中央部の圧電素子の分極率Pr−Piniを評価した。
図12は、実施例1〜3及び比較例1〜3の電気機械変換部材における端部と中央部の圧電素子の分極率Pr−Piniを示すグラフである。なお、中央部の分極率とは、端部以外に位置する圧電素子の分極率の平均値である。また、図13は、実施例1〜3及び比較例1〜3の電気機械変換部材における端部の圧電素子のクラック発生率を示すグラフである。
実施例1または2の、端部のダミー個別電極パッド24bの面積が中央部のダミー個別電極パッド24aの面積より小さい電気機械変換部材では、図12に示すように、圧電素子16の分極率Pr−Piniは、端部と中央部とも5.0[μC/cm2]以下である。これより、圧電素子16は列方向の位置によらずに、良好な分極処理がおこなわれているといえる。また、図13に示すように、端部の圧電素子16にクラックが生じていない(0[%])。
実施例3の、端部のダミー個別電極パッド24bの端部のダミー個別電極パッド24bを露出させない電気機械変換部材でも、図12に示すように、圧電素子16の分極率Pr−Piniは、端部と中央部とも5.0[μC/cm2]以下である。これより、圧電素子16は列方向の位置によらずに、良好な分極処理がおこなわれているといえる。また、図13に示すように、端部の圧電素子16にクラックが生じていない(0[%])。
比較例1の、端部のダミー個別電極パッド24bの面積を、中央部のダミー個別電極パッド24aの面積と同じにした電気機械変換部材では、図12に示すように、圧電素子16の分極率Pr−Piniは、端部と中央部とも5.0[μC/cm2]以下である。しかし、図13に示すように、端部の圧電素子16に2.3%とわずかではあるがクラックが生じた。これより、圧電素子16は列方向の位置によらずに、良好な分極処理がおこなわれているが、端部では過剰な電荷が供給されてクラックを発生させているといえる。
比較例2は、ダミー個別電極パッド24bを形成しないで、実施例1〜3、比較例1と同様の分極処理条件で分極処理した電気機械変換部材である。この電気機械変換部材では、図12に示すように、圧電素子16の分極率Pr−Piniは、端部では5.0[μC/cm2]であるが、中央部では11.4[μC/cm2]であった。すなわち、中央部の圧電素子16は良好な分極処理がおこなわれていないといえる。また、図13に示すように、端部の圧電素子16にクラックは生じていない(0[%])。
比較例3は、ダミー個別電極パッド24bを形成しないで、実施例1〜3、比較例1、2よりも多量の電荷を発生させるようにした分極処理条件で分極処理した電気機械変換部材である。この電気機械変換部材では、図12に示すように、圧電素子16の分極率Pr−Piniは、端部では1.2[μC/cm2]であるが、中央部では2.2[μC/cm2]であった。すなわち、ダミー個別電極パッド24bを形成しない比較例2と比較して、電荷を多量に発生させる分極処理条件で処理することで、端部と中央部とも良好な分極処理がおこなうことができる。しかし、図13に示すように、端部の圧電素子16の50%にクラックが生じた。
このように、実施例1〜3では、ダミー個別電極パッド24を設け、ダミー個別電極パッド24を介して、個別電極パッド21を介して供給される電荷量の不均一を補正するよう、上部電極163に電荷を供給する。これにより、圧電素子16は端部と中央部とも、分極率Pr−Piniが5.0[μC/cm2]以下となる、良好な分極処理がおこなわれている。また、端部のダミー個別電極パッド24bが、中央部のダミー個別電極パッド24bに比べて露出面積が少なくするほど、端部と中央部との分極率は均一になるといえる。
一方、比較例1は、ダミー個別電極パッド24を設けた構成であるが、端部のダミー個別電極パッド24bが中央部のダミー個別電極パッド24aの面積と同じであると、端部の上部電極163への電荷供給が過剰になり、クラックが発生することを示している。このことから、ダミー個別電極パッド24を設け、端部のダミー個別電極パッド24bの面積を、中央部のダミー個別電極パッド24bに比べて小さくすることで、所望の分極率が得られ、かつ、クラックを発生しないようにすることができる。
また、ダミー個別電極パッド24を設けた構成の電気機械変換部材から形成したアクチュエータ基板30を用いて作製した液滴吐出ヘッドによる液滴吐出評価も行った。粘度を5[cp]に調整したインクを用いて、単純プッシュ波形により−10[V]〜−30[V]の電圧を印加したときの吐出状況を確認したところ、全てのノズル11からインク液滴を吐出できていることを確認した。
なお、上述の実施形態では、コロナ放電により発生した電荷を用いて分極処理を行う場合を用いて説明したが、グロー放電により発生した電荷をもちいて分極処理を行う場合も、同様の構成で、同様の効果が得られる。
また、上述の実施形態では、個別電極パッド21を列状に配置した構成で説明したが、これに限らない。個別電極パッド21を介して供給された電荷が不均一でも、ダミー個別電極パッド24を介してその不均一を補正する電荷を供給するようダミー個別電極パッド24を形成することで、複数の電気機械変換膜を一括して均一に分極処理することができる。
次に、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置であるインクジェット記録装置について説明する。
図14は液滴吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の構成例を示す斜視図であり、図15は同記録装置の機構部の構成例を示す側面図である。
インクジェット記録装置100は、装置本体の内部に印字機構部103等を収納し、装置本体の下方部には前方側から多数枚の記録紙130を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい)104を抜き差し自在に装着されている。また、記録紙130を手差しで給紙するために開かれる手差しトレイ105を有している。給紙カセット104あるいは手差しトレイ105から給送される記録紙130を取り込み、印字機構部103によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ106に排紙する。
印字機構部103は、主走査方向に移動可能なキャリッジ101とキャリッジ101に搭載した液滴吐出ヘッド1及び液滴吐出ヘッド1に対してインクを供給するインクカートリッジ102等で構成される。また、印字機構部103は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド107と従ガイドロッド108とでキャリッジ101を主走査方向に摺動自在に保持する。このキャリッジ101にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液滴吐出ヘッド1を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ101には液滴吐出ヘッド1に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ102を交換可能に装着している。
インクカートリッジ102は上方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッド1へインクを供給する供給口が設けられている。インクカートリッジ102の内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッド1へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、液滴吐出ヘッドとしては各色の液滴吐出ヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の液滴吐出ヘッドでもよい。
ここでキャリッジ101は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド107に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド108に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ101を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ109で回転駆動される駆動プーリ110と従動プーリ111との間にタイミングベルト112を張装し、このタイミングベルト112をキャリッジ101に固定している。これにより、主走査モータ109の正逆回転によりキャリッジ101が往復駆動される。
一方、給紙カセット104にセットした記録紙130を液滴吐出ヘッド1の下方側に搬送するために、給紙カセット104から記録紙130を分離給装する給紙ローラ113及びフリクションパッド114と、記録紙130を案内するガイド部材115とを有する。また、給紙された記録紙130を反転させて搬送する搬送ローラ116と、この搬送ローラ116の周面に押し付けられる搬送コロ117及び搬送ローラ116からの記録紙130の送り出し角度を規定する先端コロ118とを有する。搬送ローラ116は副走査モータによってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ116から送り出された記録紙130を液滴吐出ヘッド1の下方側で案内するため用紙ガイド部材である印写受け部材119を設けている。この印写受け部材119の用紙搬送方向下流側には、記録紙130を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ120と拍車121とを設けている。さらに記録紙130を排紙トレイ106に送り出す排紙ローラ123と拍車124と、排紙経路を形成するガイド部材125,126とを配設している。
前記構成のインクジェット記録装置100で記録時には、キャリッジ101を移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している記録紙130にインクを吐出して1行分を記録する。その後、記録紙130を所定量搬送した後、次の行の記録を行う。記録終了信号または記録紙130の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ記録紙130を排紙する。
また、キャリッジ101の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、液滴吐出ヘッド1の吐出不良を回復するための回復装置127を配置している。回復装置127はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段とを有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置127側に移動されてキャッピング手段で液滴吐出ヘッド1をキャッピングして吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で液滴吐出ヘッド1の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。このように、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。このように、本実施形態のインクジェット記録装置100においては回復装置127を備えているので、液滴吐出ヘッド1の吐出不良が回復されて、安定したインク滴吐出特性が得られ、画像品質を向上することができる。
なお、本実施形態では、インクジェット記録装置100に液滴吐出ヘッド1を使用した場合について説明したが、インク以外の液滴、例えば、パターニング用の液体レジストを吐出する装置に液滴吐出ヘッド1を適用してもよい。
以上、本実施形態のインクジェット記録装置(画像形成装置)100では、本発明に係る液体吐出ヘッドを記録ヘッドとして備えるので、高画質の画像を安定して形成することができる。なお、インクジェット記録装置では、媒体を搬送しながら液滴吐出ヘッドによりインク滴を用紙に付着させて画像形成を行う。ここでの媒体は「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。また、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液滴を吐出して画像形成を行う装置を意味する。そして、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する)ことをも意味する。また、インクとは、所謂インクに限るものではなく、吐出されるときに液滴となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる液体の総称として用いる。
また、画像形成装置には、特に限定しない限り、シリアル型画像形成装置及びライン型画像形成装置のいずれも含まれる。
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
下部電極161、上部電極163などの一対の駆動電極に挟まれた圧電膜162などの電気機械変換膜からなる複数の圧電素子16などの電気機械変換素子と、前記駆動電極のうち前記複数の電気機械変換膜の一方の面側にそれぞれ形成された上部電極163などの個別駆動電極にそれぞれ電気的に接続された個別電極パッド21などの複数の個別端子電極と、前記複数の個別端子電極がそれぞれ露出するように形成された前記複数の電気機械変換素子を保護する第2の絶縁保護膜23などの絶縁保護膜とを備えたアクチュエータ基板30などの電気機械変換部材において、
前記複数の個別端子電極が形成された面側に、前記複数の個別駆動電極とそれぞれ電気的に接続された複数のダミー個別電極パッド24などのダミー個別端子電極を前記絶縁保護膜からそれぞれ露出するように形成する。
(態様A)では、電気機械変換部材の複数の個別端子電極と複数のダミー個別端子電極とが露出する面側に対向配置された放電電極を放電させると、個別端子電極とダミー個別端子電極とを介して個別駆動電極に電荷が供給される。この際、複数の個別端子電極を介して供給される電荷量が不均一であっても、複数の個別駆動電極に供給される電荷が均一になるようにダミー個別端子電極を介して個別駆動電極に電荷を供給して、複数の電気機械変換素子の分極処理をおこなう。
例えば、列状に配置した複数の個別端子電極に対向する放電電極の放電により分極処理をおこなう場合、列の端部では電荷が集中して個別端子電極に供給される電荷が過剰になるが、それ以外の領域では個別端子電極に供給される電荷が不足する。そこで、複数のダミー個別端子電極を、列の端部では供給される電荷が少なく、それ以外の領域では供給される電荷が多くなるように、大きさ、配置等を調整して形成する。
すなわち、放電電極の放電により複数の電気機械変換膜を一括して分極処理する場合、個別端子電極のみを介した個別駆動電極への電荷供給では、供給される電荷が不均一な状態であった。しかし、本態様においては、個別端子電極を介して供給された電荷が不均一であっても、ダミー個別端子電極を介してその不均一を補正する電荷を個別駆動電極に供給することで、個別駆動電極に供給される電荷を均一化できる。
この均一な電荷が供給された個別駆動電極と、個別駆動電極とは反対側の駆動電極との間に挟まれた電気機械変換膜に発生した電界によって、複数の電気機械変換膜を一括して均一に分極処理することができる。
また、この分極処理は、高温の熱処理を伴う絶縁保護膜形成、配線・端子電極形成よりも後に実施するため、後工程による熱履歴の影響による脱分極を防止でき、安定した分極処理が可能になる。
(態様B)
前記(態様A)において、個別電極パッド21などの前記複数の個別端子電極とダミー個別電極パッド24などの前記複数のダミー個別端子電極とが同一の所定方向に並べて配置され、前記所定方向における端部に位置するダミー個別端子電極(ダミー個別電極パッド24bなど)の面積が、それ以外のダミー個別端子電極(ダミー個別電極パッド24aなど)の面積よりも小さい。
上記実施形態について説明したように、所定方向に並べて配置された個別端子電極を介して個別駆動電極に供給される電荷は端部において多くなる。そこで、個別端子電極と同一の所定方向に並べて配置されたダミー個別端子電極の面積を、端部においてそれ以外の面積よりも小さくする。このようにダミー個別端子電極を形成することで、端部に位置するダミー個別端子電極を介して端部に位置する個別駆動電極に供給される電荷が、それ以外のダミー個別端子電極を介してそれ以外の個別駆動電極に供給される電荷に比べて少なくなる。その結果、個別端子電極を介して駆動電極に供給される電荷の量の不均一が補正され、個別駆動電極に供給される電荷を均一化することができる。
(態様C)
前記(態様A)において、個別電極パッド21などの前記複数の個別端子電極とダミー個別電極パッド24などの前記複数のダミー個別端子電極とが同一の所定方向に並べて配置され、前記所定方向における端部に位置するダミー個別端子電極(ダミー個別電極パッド24bなど)が、第2の絶縁保護膜23などの前記絶縁保護膜から露出しないように形成する。
これによれば、上記変形例1について説明したように、端部以外では、ダミー個別端子電極を介して個別駆動電極に電荷が供給される。一方、端部ではダミー個別端子電極は絶縁保護膜から露出していないため、ダミー個別端子電極を介して個別駆動電極に電荷が供給されない。その結果、個別端子電極を介して駆動電極に供給される電荷の量の不均一が補正され、個別駆動電極に供給される電荷を均一化することができる。
(態様D)
前記(態様A)において、個別電極パッド21などの前記複数の個別端子電極が所定方向に配置され、前記所定方向の端部に位置する個別端子電極に接続される上部電極163などの個別駆動電極にはダミー個別電極パッド24などの前記ダミー個別端子電極が形成されていない。
これによれば、上記変形例2について説明したように、端部以外では、ダミー個別端子電極を介して個別駆動電極に電荷を供給される。一方、端部ではダミー個別端子電極が形成されていないため、ダミー個別端子電極を介して個別駆動電極に電荷が供給されない。その結果、個別端子電極を介して駆動電極に供給される電荷の量の不均一が補正され、個別駆動電極に供給される電荷を均一化することができる。
(態様E)
前記(態様A)乃至(態様D)のいずれかにおいて、前記駆動電極のうち前記複数の電気機械変換膜の他方の面側に共通となるよう形成された下部電極161などの共通駆動電極に接続された共通電極パッド19などの共通端子電極が、前記個別端子電極が形成された面側に前記絶縁保護膜から露出するように形成されている。
これによれば、個別端子電極が形成された面側に対向する放電電極の放電により、共通端子電極を介して複数の電気機械変換素子の共通駆動電極それぞれに電荷を供給して各共通駆動電極の電位を互いに共通の電位にすることができる。これにより、複数の電気機械変換素子の分極処理の安定化及び均一化を図ることができる。
(態様F)
液滴を吐出するノズル11に連通する液室13と、前記液室内の液体を加圧可能にするよう前記液室を形成する基板上に設けられる圧電素子16などのアクチュエータ基板30などの電気機械変換素子を備えた電気機械変換部材とを有する液滴吐出ヘッド1において、前記電気機械変換部材として、(態様A)乃至(態様E)のいずれかに記載の電気機械変換部材を用いる。
これによれば、良好な分極特性を有する電気機械変換素子を用いて、安定した液滴吐出特性を得ることができる。
(態様G)
液滴吐出ヘッドから液滴を吐出して画像を形成するインクジェット記録装置100等の画像形成装置において、前記液滴吐出ヘッドとして、前記(態様F)に係る液滴吐出ヘッドを用いる。
これによれば、良好な分極特性を有する電気機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッドを用いて、安定した液滴吐出特性で画像形成を行うことができる。
(態様H)
基板上に設けられた、一対の駆動電極に挟まれた電気機械変換膜からなる複数の電気機械変換素子と、前記複数の電気機械変換素子の前記基板とは反対側の個別駆動電極に接続される複数の個別端子電極と、前記複数の個別端子電極がそれぞれ露出するように形成された前記複数の電気機械変換素子を保護する絶縁保護膜とを備えた電気機械変換部材における電気機械変換素子の分極処理方法であって、
前記複数の個別端子電極が形成された面側に、前記複数の個別駆動電極それぞれと導通し、前記複数の個別駆動電極に供給される電荷が均一になるように前記複数の個別駆動電極に電荷を供給する複数のダミー個別端子電極を前記絶縁保護膜からそれぞれ露出するよう配置して形成し、前記複数の個別端子電極が形成された面に対向するよう配置された放電電極で発生させた放電により、前記個別端子電極と前記ダミー個別端子電極とに電荷を供給して前記電気機械変換膜を分極処理がなされる。
これによれば、上記実施形態について説明したように、個別端子電極とダミー個別端子電極とを介して個別駆動電極に電荷を供給することで、個別駆動電極に供給される電荷を均一化できる。これにより、電気機械変換膜には均一な分極処理の電界が発生され、複数の圧電素子を一括して均一に分極処理することができる。
また、この分極処理は、高温の熱処理を伴う絶縁保護膜形成、配線・端子電極形成よりも後に実施するため、後工程による熱履歴の影響による脱分極を防止でき、安定した分極処理が可能になる。
(態様I)
前記(態様H)であって、前記放電電極による放電はコロナ放電またはグロー放電である。
これよれば、上記実施形態について説明したように、簡易な装置構成で大気中において、分極処理のための放電を発生させることができる。また、電圧や周波数を変更することにより、放電による電荷注入量を容易に制御することができる。
(態様J)
前記(態様H)または(態様I)であって、前記放電により発生する電荷は正極性の電荷である。
これによれば、上記実施形態について説明したように、放電により大気中の分子をイオン化させることで、正極性に帯電した電荷を有する陽イオンを容易に発生させることができる。この陽イオンが、共通端子電極、個別端子電極及びダミー個別端子電極を介して電気機械変換膜に流れ込むことにより、正極性に帯電した電荷を電気機械変換膜に容易に蓄積させることができる。従って、電気機械変換膜の分極処理を安定して行うことができる。
(態様K)
前記(態様A)乃至(態様E)のいずれかに記載の電気機械変換部材を製造する製造方法であって、基板上にまたは前記基板に形成された下地膜上に、共通駆動電極を形成する工程と、前記共通駆動電極上に、互いに独立した複数の電気機械変換膜を形成する工程と、前記複数の電気機械変換膜それぞれの上に位置する複数の個別駆動電極を形成する工程と、前記共通駆動電極上及び前記複数の個別駆動電極上に第1の絶縁保護膜を形成する工程と、前記共通駆動電極に第1の配線を介して接続された共通端子電極と、前記複数の個別駆動電極それぞれに第2の配線を介して接続され所定の方向に並ぶように配置された複数の個別端子電極と、前記複数の個別駆動電極それぞれに第3の配線を介して接続され所定の方向に並ぶように配置された複数のダミー個別端子電極とを、前記第1の絶縁保護膜上に形成する工程と、前記共通端子電極と前記複数の個別端子電極と前記複数のダミー個別端子電極を露出させた状態で前記第1の配線上、第2の配線上及び前記第3の配線上に第2の絶縁保護膜を形成する工程と、放電により発生した電荷を前記共通端子電極と前記複数の個別端子電極と前記複数のダミー個別端子電極に供給することにより、前記複数の電気機械変換膜を一括して分極処理する工程と、を含む。
これよれば、上記実施形態について説明したように、良好な分極特性を有する電気機械変換素子を備えた電気機械変換部材を得ることができる。