以下に、発明を実施するための形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
[第1の実施形態]
本実施形態では、本発明の電気−機械変換素子の製造方法の例及びそれにより得られる電気−機械変換素子について説明する。
ここで、電気−機械変換素子の構成例について図3を用いて説明する。図3は電気−機械変換素子の断面図を模式的に示したものである。
図3に示すように、電気−機械変換素子(圧電素子)30は、基板31、成膜振動板(下地膜)32上に、第1の電極33、電気−機械変換膜34、第2の電極35が積層された構造となっている。
さらに絶縁保護膜、引き出し配線を備えた電気−機械変換素子構成について図4を用いて説明する。図4(a)は断面図、図4(b)は上面図であり、図4(b)については圧電素子の構成が分かるように、一部の部材について第2の絶縁保護膜を透視して記載している。図4において、図3と同じ部材には同じ番号を付している。
図4に示した電気−機械変換素子においては、図3の場合と同様に、基板31、成膜振動板32上に、第1の電極33、電気−機械変換膜34、第2の電極35が積層されている。そして、電気−機械変換膜34、第2の電極35は、第2の電極を形成後にエッチングにより個別化されており、第2の電極は個別電極として、第1の電極33は、個別化された電気−機械変換膜34、第2の電極35に対して共通電極としてそれぞれ機能している。
第1の電極33、第2の電極35上には、図4(b)に示すようにコンタクトホール45を有する第1の絶縁保護膜41が設けられている。係るコンタクトホール45は第1の電極33、第2の電極35と、後述する第3の電極42、第4の電極43とがそれぞれ電気的に接続できるように設けられたものである。
そして、第1の絶縁保護膜上には、第3の電極42、第4の電極43が設けられており、上記のように第1の絶縁保護膜に設けられたコンタクトホール45を介して、それぞれが第1の電極33、第2の電極35と導通している。
さらに、第1の電極33及びこれに導通する第3の電極42を共通電極、第2の電極35及びこれに導通する第4の電極43を個別電極として、共通電極、個別電極を保護する第2の絶縁保護膜44が第3の電極42、第4の電極43上(さらには第1の絶縁保護膜41上)に形成されている。第2の絶縁保護膜には複数のパッド(電極パッド)が設けられている。
前記複数のパッドのうち、共通電極用に作製されたもの、すなわち共通電極に接続されたものを共通電極用パッド46、個別電極用に作製されたもの、すなわち個別電極に接続されたものを個別電極用パッド47としている。パッドは例えば第2の絶縁保護膜に開口部を設けることにより形成することができる。
以上に説明した構成を有する電気−機械変換素子は以下の各工程を行うことにより製造することができる。
基板または下地膜上に、第1の電極を形成する工程。ここでいう第1の電極としては、後述のように密着層を含むこともできる。
前記第1の電極上に電気−機械変換膜を形成する工程。
前記電気−機械変換膜上に、第2の電極を形成する工程。
前記電気−機械変換膜及び前記第2の電極をエッチングにより個別化する工程。係る工程を行うことにより、第2の電極を個別電極とし、第1の電極は個別化された電気−機械変換膜、第2の電極に対して共通電極として機能するようになる。
前記第1の電極及び前記第2の電極上に第1の絶縁保護膜を形成する工程。
この際、第1の電極、第2の電極と、後述する第3の電極、第4の電極とをそれぞれ電気的に接続するため第1の絶縁保護膜にはコンタクトホールを形成することができる。
前記第1の電極、前記第2の電極にそれぞれ電気的に接続された第3の電極、第4の電極を前記第1の絶縁保護膜上に形成する工程。
前記第3の電極及び第4の電極上に前記第3の電極または第4の電極に接続するための複数のパッドを有する第2の絶縁保護膜を形成する工程。
ここで、第3の電極と第4の電極とは、上記工程の中で別のプロセスとして製造することもできるが、同一プロセス中に形成されることが生産性の観点から好ましい。
また、複数のパッドは第2の絶縁保護膜に開口部を設けることにより構成することができる。
そして、コロナ放電もしくはグロー放電により、1.0×10−8C以上の電荷量を発生させ、前記パッドを介して、発生した電荷を注入することにより分極処理を行う工程を行う。
係る分極処理を行う工程においては、コロナ放電もしくはグロー放電によって、上記所定量以上の電荷量を発生させ、発生した電荷を前記複数のパッド(パッド部)を介して電気−機械変換膜部分に注入するものである。この際、コロナ放電またはグロー放電により発生した電荷が正帯電していることが好ましい。
例えば図5に示すようにコロナワイヤー52を用いてコロナ放電させる場合には、大気中の分子をイオン化させることで、陽イオンを発生させ、圧電素子の複数のパッド部を介して陽イオンが圧電素子に流れ込み電荷が電気−機械変換素子51に蓄積される。
ここで、例えば図6(a)に示すように、個別電極用パッドの数がx個、共通電極用パッドの数がy個であり、個別電極用パッドと共通電極用パッドの面積が同じ場合に、1つの(個別化された)電気−機械変換素子に蓄積される電荷を検討する。
図6(b)に、仮に電荷Qが発生し、1つの圧電素子に対してどのくらいの電荷が蓄積されているかを示した。上部電極側(個別電極側)には電荷Qが発生するのに対して、下部電極側にはQ×(y/x)だけの電荷が発生し、上部と下部電極の電荷差によって内部電位差が生じて、分極処理が行われていると考えられる。
ここで、分極処理に必要な電荷量Qを考えると1.0×10−8C以上の電荷量が蓄積される(発生させる)ことが好ましく、4.0×10−8C以上の電荷量が蓄積される(発生させる)ことがさらに好ましい。電荷量が上記の値に満たない場合は、分極処理が十分に行えない場合があり、電気−機械変換膜、例えばPZTの圧電アクチュエータとして連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない場合があるためである。
そして、前記複数のパッドのうち、第4の電極に接続するためのパッドの総面積をA、第3の電極に接続するためのパッドの総面積をBとした場合に、A/Bが0.1以上となっていることが好ましい。
ここでいう、第4の電極に接続するためのパッドの総面積とは、複数のパッドのうち第4の電極に接続するために設けられたパッドの面積の和であり、第4の電極を介して第2の電極(個別電極)に接続されたパッドの面積の総和を意味している。例えば第4の電極に接続するための面積aのパッドがx個ある場合、第4の電極に接続するためのパッドの総面積AはA=a×xで表わされる。
同様に第3の電極に接続するためのパッドの総面積とは、複数のパッドのうち第3の電極に接続するために設けられたパッドの面積の和であり、第3の電極を介して第1の電極(共通電極)に接続されたパッドの面積の総和である。第3の電極に接続するための面積bのパッドがy個ある場合、第3の電極に接続するためのパッドの総面積BはB=b×yで表わされる。
なお、第2の電極は、上記のように個別電極であり、第1の電極は共通電極として機能している。このため、第4の電極に接続するためのパッドは個別電極用に作製されたパッドといえ、個別電極用パッドとも記載する。また、第3の電極に接続するためのパッドは共通電極用に作製されたパッドといえるから共通電極用パッドとも記載する。
上記分極処理を行う工程においては、作製された圧電素子に対して、コロナ放電もしくはグロー放電を行い、発生した電荷についてパッド部を介して注入することにより、分極処理を実施している。
第4の電極に接続するためのパッドの総面積Aと、第3の電極に接続するためのパッドの総面積Bとの比すなわちA/Bは上記の様に0.1以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましい。これは、上記範囲に満たなくなると、上部電極(個別電極)と下部電極(共通電極)の電荷差が少なくなり、内部電位差が小さくなるため、分極処理が十分に行われない場合があるためである。
ここで、分極処理の状態については、P−Eヒステリシスループから判断することができる。
図7(a)は図2で説明した分極処理を行っていないものについて、図7(b)は分極処理を行ったものについてヒステリシスループを測定したものである。
図7(a)、(b)に示すように±150kV/cmの電界強度かけてヒステリシスループを測定し、最初の0kV/cm時の分極をPindとし、+150kV/cmの電圧印加後0kV/cmまで戻したときの0kV/cm時の分極をPrとする。
このとき、PrとPindの差、すなわちPr−Pindの値を分極率として定義し、この分極率から分極状態の良し悪しを判断することができる。ここで図7(b)に示したように、分極率Pr−Pindは10μC/cm2以下となっていることが好ましく、5μC/cm2以下となっていることがさらに好ましい。これは、この値に満たない場合に、電気−機械変換膜の圧電アクチュエータとして連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない場合があるためである。
すなわち、上記した製造方法により得られた電気−機械変換素子は、±150kV/cmの電界強度をかけてヒステリシスループを測定する際、測定開始時の0kV/cmにおける分極をPindとし、+150kV/cmの電圧印加後、0kV/cmまで戻した際の0kV/cm時の分極をPrとした場合に、PrとPindの差が10μC/cm2以下であることが好ましく、5μC/cm2以下であることがより好ましい。
また、上記した製造方法により得られた電気−機械変換素子は、電気−機械変換膜の比誘電率が600以上2000以下であることが好ましい。
以下に、本実施形態の電気−機械変換素子を構成する材料、工法について具体的に説明する。
(基板)
基板としてはその材質は特に限定されるものではないが、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。そして、その厚さとしては、100〜600μmの厚みを持つことが好ましい。
シリコン単結晶基板の面方位としては、(100)、(110)、(111)の3種類があるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されており、本構成においては、(100)の面方位をもつシリコン単結晶基板を好ましく使用することができる。
また、本実施形態における電気−機械変換素子においては、(110)面方位をもった単結晶基板も好ましく用いることができる。
基板に図1に示した圧力室を作製する場合、一般的にエッチングを利用してシリコン単結晶基板の加工が行われるが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。
異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝を掘ることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができる。このため、異方性エッチングを利用して圧力室等を作製する場合、(110)の面方位を有するシリコン単結晶基板を使用することも可能である。
(下地膜(振動板))
図1に示すように電気−機械変換膜によって発生した力を受けて、下地膜(振動板)が変形変位して、圧力室のインク滴を吐出させる。そのため、下地膜としては所定の強度を有したものであることが好ましい。
下地膜を構成する材料としては変形変位して圧力室のインク滴を吐出できるものであればよく、要求される耐久性等に応じて任意に選択することができるが、例えば、Si、SiO2、Si3N4を用いることができ、これらの場合、CVD法により作製することができる。
また、下地膜(振動板)としては、第1の電極(下部電極)、電気−機械変換膜の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。
特に、電気−機械変換膜としては、一般的に材料としてPZTが使用されることから、PZTの線膨張係数8×10−6(1/K)に近い線膨張係数を有するものが好ましい。具体的には、5×10−6〜10×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料であることが好ましく、さらには7×10−6〜9×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料がより好ましい。
この場合、具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等が挙げられる。これらの材料をスパッタ法もしくは、Sol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。
膜厚としては特に限定されるものではないが、0.1〜10μmが好ましく、0.5〜3μmがさらに好ましい。この範囲より小さいと図1に示すような圧力室の加工が難しい場合があり、この範囲より大きいと下地膜が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる場合があるためである。
(第1の電極)
第1の電極としては特に限定されるものではないが、金属または金属と酸化物からなっていることが好ましい。具体的には、第1の電極としては例えば、金属電極膜から構成することができる。また、金属電極膜と酸化物電極膜から構成することもできる。
第1の電極がいずれの材料からなる場合でも、振動板と金属膜の間に密着層を形成し、剥がれ等を抑制するように工夫することが好ましい。以下に密着層含めて金属電極膜、酸化物電極膜の詳細について記載する。
密着層としては、例えば、金属膜を成膜後、RTA(rapid thermal annealing)装置を用いて、RTA法により酸化(熱酸化)して酸化膜とすることにより得ることができる。酸化(熱酸化)を行う際の条件としては特に限定されるものではなく、用いる金属膜の材質等により選択することができる。例えば、650〜800℃で、1〜30分間、O2雰囲気で金属膜を熱酸化することにより形成することができる。
金属膜は例えばスパッタ法により成膜することができる。金属膜の材料としてはTi、Ta、Ir、Ru等の材料を好ましく用いることができ、中でもTiを好ましく用いることができる。
金属酸化物膜は反応性スパッタにより作製してもよいが、金属膜の高温による熱酸化法が望ましい。
これは、反応性スパッタにより作製する場合、基板も一緒に高温で加熱する必要があるため、特別なスパッタチャンバ構成を必要となり、コスト上好ましくない。
また、一般の炉による酸化よりも、RTA装置による酸化の方が金属酸化物膜の結晶性が良好になることが挙げられる。これは、チタン膜を例に説明すると、通常の加熱炉による酸化によれば、酸化しやすいチタン膜は、低温においてはいくつもの結晶構造を作るため、一旦、それを壊す必要が生じる。これに対して、昇温速度の速いRTA法による酸化ではそのような過程を経る必要がなく、良好な結晶を形成することが可能になる。
密着層の膜厚としては、特に限定されるものではないが、10nm〜50nmが好ましく、15nm〜30nmがさらに好ましい。
膜厚が上記範囲よりも薄い場合においては、振動板、第1の電極との密着性が悪くなる場合がある。また、膜厚が上記範囲よりも厚いとその上に作製する第1の電極の膜の結晶の質に影響が出てくる場合がある。このため、上記範囲を選択することが好ましい。
金属電極膜について説明する。
金属電極膜の金属材料としては従来から高い耐熱性と低い反応性を有する白金や、イリジウム、白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金も好ましく用いることができる。
また、金属電極膜の金属材料として白金を使用する場合には、下地(特にSiO2)との密着性が悪いために、上記密着層を先に積層することが好ましい。
金属電極膜の作製方法としては特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法や真空蒸着等の真空成膜を用いることができる。
金属電極膜の膜厚としては要求される性能に応じて選択すればよく、限定されるものではないが、例えば80nm〜200nmであることが好ましく、100nm〜150nmであることがより好ましい。上記範囲より薄い場合においては、共通電極として十分な電流を供給することができない場合があり、インク吐出をする際に不具合が発生する場合があるため好ましくない。また、上記範囲より厚い場合、特に金属電極膜の金属材料として白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コスト上問題となる点が挙げられる。また、特に金属材料として白金を用いた場合、膜厚を厚くしていたったときに表面粗さが大きくなり、その上に作製する膜(例えば酸化物電極膜や電気−機械変換膜)の表面粗さや結晶配向性に影響を及ぼして、インク吐出に十分な変位が得られないような不具合が発生する場合がある。
次に酸化物電極膜について説明する。
酸化物電極膜の材料としてはルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3、以下単に「SRO」とも記載する)を材料として用いることが好ましい。また、ルテニウム酸ストロンチウムの一部を置換した材料、具体的には、SrxA1−xRuyB1−yO3(式中、AはBa、Ca、 BはCo、Ni、 x、y=0〜0.5)で表される材料についても好ましく用いることができる。
酸化物電極膜の成膜方法については例えばスパッタ法により作製することができる。スパッタ条件については限定されるものではないが、スパッタ条件によって酸化物膜の膜質が変化するため、要求される結晶配向性等により選択することができる。
例えば、後述する電気−機械変換膜は、連続動作したときの変位特性劣化を抑えるためにはその結晶性としては(111)面方位に配向していることが好ましい。係る電気−機械変換膜を得るためには、その下層に配置した酸化物電極膜についても(111)面方位に配向していることが好ましい。
このため、酸化物電極膜は(111)面方位に優先配向していることが好ましい。
そして、酸化物電極膜について(111)面方位に優先配向した膜を得るために、500℃以上に基板加熱を行い、これにスパッタ法により酸化物電極膜を成膜することが好ましい。
また、酸化物電極膜の下層に金属電極膜を設ける場合、該金属電極膜は白金膜からなることが好ましい。また、その面方位として、(111)面方位に配向していることが好ましい。これは、その上に成膜する酸化物電極膜についても(111)面方位に優先配向したものが得やすくなるためである。
例えば特許文献5には、SRO膜の成膜条件として、SROを成膜後、RTA処理にて結晶化温度で熱酸化するとされている。この場合、SRO膜としては、十分結晶化され、電極としての比抵抗としても十分な値が得られるが、膜の結晶配向性としては、(110)が優先配向しやすくなり、その上に例えばPZT膜を成膜した場合、該PZT膜についても(110)配向しやすくなる。このため、本実施形態においてSRO膜を形成する場合には、上記成膜条件により成膜することが好ましい。
ここで、例えば金属電極膜として(111)面方位に配向した白金膜を用い、その上に酸化物電極膜であるSrRuO3膜を作製した場合に、酸化物電極の結晶性をX線回折測定により評価する方法について説明する。
PtとSrRuO3とは格子定数が近いため、通常のX線回折測定におけるθ−2θ測定では、SRO膜の(111)面とPtの(111)面の2θ位置が重なってしまい判別が難しい。しかし、Ptについては消滅則の関係からPsi=35°に傾けた場合、2θが約32°付近の位置では回折線が打ち消し合い、Ptの回折強度が見られなくなる。そのため、Psi方向を約35°傾けて、2θが約32°付近のピーク強度で判断することでSROが(111)面方位に優先配向しているかを確認することができる。
図8に、シリコン基板上に、密着層として酸化チタン膜を成膜した後、(111)面方位に配向している白金膜を成膜し、その上に基板を550℃に加熱しながら、スパッタ法によりSrRuO3膜を成膜した試料のX線回折測定結果を示す。
図8においては、2θ=32°に固定し、Psiを変化させたときのデータを示している。Psi=0°ではSROの(110)面の回折線はほとんど回折強度が見られず、Psi=35°付近において、回折強度が見られることから、この測定方法によりSROが(111)面方位に優先配向していることが確認できる。また、この結果から、本成膜条件にて作製したものについては、SROが(111)面方位に優先配向していることを確認できた。
また、上記特許文献5に記載のSRO膜を成膜後、RTA処理することにより作製されたSRO膜について同様に評価を行ったところ、Psi=0°のときにSRO(110)の回折強度が見られた。
圧電アクチュエータとして連続動作したときに、駆動させた後の変位量が、初期変位に比べてどのくらい劣化したかを見積もったところ、電気−機械変換膜(例えばPZT)の配向性が非常に影響しており、(110)では変位劣化抑制において不十分な場合がある。このため、上述のように酸化物電極膜は(111)面方位に配向していることが好ましい。
酸化物電極に用いるSrRuO3膜の表面粗さは4nm以上15nm以下であることが好ましく、6nm以上10nm以下であることがさらに好ましい。なお、ここでの表面粗さについてはAFMにより測定される表面粗さ(平均粗さ)を意味している。
SrRuO3膜の表面粗さは成膜温度に影響し、室温から300℃に基材を加熱して成膜した場合、表面粗さが非常に小さく2nm以下になる。この場合、表面粗さとしては、非常に小さくフラットになっているが、SrRuO3膜の結晶性は十分でない場合がある。この様にSrRuO3膜の結晶性が十分でない場合、その後に成膜する電気−機械変換膜(例えばPZT膜)の圧電アクチュエータとしての初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られなくなる。
そこで、成膜条件からみて、SrRuO3膜の結晶性を悪化させずに得られる表面粗さを検討したところ上記範囲となることから、上記範囲を有することが好ましい。
上記範囲からはずれた場合、SrRuO3膜の結晶性を悪化する場合があり、その後成膜する電気−機械変換膜の絶縁耐圧が悪化し、リークしやすくなる場合があるため好ましくない。
そして、上述のような、結晶性や表面粗さを有するSrRuO3膜を得るためには、成膜条件(温度)としては500℃〜700℃、好ましくは520℃〜600℃の範囲に基板を加熱して、スパッタ法により成膜することが好ましい。
成膜後のSrとRuの組成比については特に限定されるものではなく、要求される導電性等により選択されるが、Sr/Ruが0.82以上1.22以下であることが好ましい。
これは、上記範囲から外れると比抵抗が大きくなり、電極として十分な導電性が得られなくなる場合があるためである。
さらに、酸化物電極としてSRO膜の膜厚としては、40nm以上150nm以下であることが好ましく、50nm以上80nm以下であることがさらに好ましい。上記膜厚範囲よりも薄いと初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない場合がある。また、電気−機械変換膜のオーバーエッチングを抑制するためのストップエッチング層としての機能も得られにくくなる。
さらに、上記膜厚範囲を超えると、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が悪くなり、リークしやすくなる場合があるためである。
酸化物電極の比抵抗としては、5×10−3Ω・cm以下になっていることが好ましく、さらに1×10−3Ω・cm以下になっていることがさらに好ましい。この範囲よりも大きくなると第3の電極との界面で接触抵抗が十分得られず、共通電極として十分な電流を供給することができず、インク吐出をする際に不具合が発生する場合があるためである。
(電気−機械変換膜)
電気−機械変換膜としては、圧電性を有する材料であれば使用することができ、特に限定されるものではない。
例えば、広く用いられているPZTを好ましく使用することができる。
なお、PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体で、その比率により特性が異なるが、その比率についても限定されるものではなく、要求される圧電性能等に応じて選択することができる。中でもPbZrO3とPbTiO3の比率(モル比)が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O3で表わされるPZT(PZT(53/47)とも示される)は、特に優れた圧電特性を示すことから好ましく用いることができる。
PZT以外の材料として、チタン酸バリウムも用いることができる。
また、上記PZTや、チタン酸バリウムは一般式ABO3で表わされるが、PZT、チタン酸バリウム以外にもABO3(A=Pb、Ba、Sr、B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nb)で表わされる複合酸化物を主成分とする複合酸化物を用いることができる。
さらに、(Pb1−x,Bax)(Zr,Ti)O3、(Pb1−x,Srx)(Zr,Ti)O3の様にAサイトのPbを一部BaやSrで置換した複合酸化物も使用することができる。置換に用いる元素としては2価の元素であれば可能であり、Pbの一部を2価の元素で置換することにより電気−機械変換膜を成膜する際等に熱処理を行った場合に鉛の蒸発による特性劣化を低減させる効果がある。
電気−機械変換膜17の作製方法としては、特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法や、Sol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。
そして、成膜後、フォトリソエッチング等によりパターニングを行い、所望のパターンを得ることができる。
PZTからなる電気−機械変換膜をSol−gel法により作製する場合を例に説明する。
酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料とし、共通溶媒としてメトキシエタノールを用い、上記出発原料が所定比になるように共通溶液に溶解させ均一溶液とすることで、PZT前駆体溶液を作製する。
なお、金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加しておくこともできる。また、鉛成分は成膜工程で熱処理を行う際などに蒸発することがあるので、量論比よりも多めに添加しておくこともできる。
下地基板全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことでPZT膜を得ることができる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整を行うことが好ましく、成膜工程を繰り返し行うことで所望の膜厚のPZT膜を得ることができる。
なお、チタン酸バリウム膜の場合であれば、例えば、バリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製し、これを用いて例えば上記PZTの場合と同様の手順でSol−gel法により成膜することが可能である。
電気−機械変換膜の膜厚としては限定されるものではなく、要求される圧電特性に応じて選択すればよいが、0.5μm以上5μm以下であることが好ましく、1μm以上2μm以下であることがより好ましい。これは、上記範囲より薄いと圧電アクチュエータとして使用する際に十分な変位を発生することができない場合があるためであり、また、上記範囲より厚いと、その製造工程において何層も積層させて成膜するため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなるためである。
また、電気−機械変換膜の比誘電率としては600以上2000以下になっていることが好ましく、さらに1200以上1600以下になっていることがより好ましい。比誘電率が係る範囲より小さいと、圧電アクチュエータとして使用する際に十分な変位特性が得られない場合がある。また、比誘電率が係る範囲より大きくなると、分極処理が十分行われず、連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られないといった不具合が発生する場合がある。
(第2の電極)
第2の電極としては特に限定されるものではないが、金属または酸化物と金属からなっていることが好ましい。具体的には、第2の電極としては例えば、金属電極膜から構成することができる。また、金属電極膜と酸化物電極膜から構成することもできる。
以下に酸化物電極膜、金属電極膜の詳細について記載する。
酸化物電極膜について説明する。酸化物電極膜の材料等については、第1の電極の酸化物電極膜で説明したものと同様である。酸化物電極膜の膜厚としては、20nm〜80nmが好ましく、40nm〜60nmがより好ましい。これは、この膜厚範囲よりも薄いと初期変位や変位劣化特性については十分な特性が得られない場合があり、この範囲を超えると、電気−機械変換膜の絶縁耐圧が非常に悪くなり、リークしやすくなる場合があるためである。
金属電極膜について説明する。金属電極膜の材料等については第1の電極の金属電極膜で説明したものと同様である。金属電極膜の膜厚としては、30nm〜200nmが好ましく、50nm〜120nmがさらに好ましい。これは、この膜厚範囲より薄いと個別電極として十分な電流を供給することができなくなり、インク吐出をする際に不具合が発生する場合があるためである。また、この膜厚範囲より厚い場合においては、金属電極膜の材料として白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コストアップとなる点で問題である。また、白金を材料とした場合においては、膜厚を厚くしていったときに表面粗さが大きくなり、第1の絶縁保護膜を介して第4の電極を作製する際に、膜剥がれ等の不具合が発生しやすくなる場合があるためである。
(第1の絶縁保護膜)
第1の絶縁保護膜は、成膜・エッチングの工程による圧電素子へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過することを防止する機能を有することが好ましい。
このため、その材料としては緻密な無機材料とすることが好ましい。有機材料の場合、十分な保護性能を得るためには膜厚を厚くする必要があるが、絶縁膜を厚い膜とした場合、振動板の振動変位を阻害し、吐出性能の低い液滴吐出ヘッドとなる場合があるためである。
薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物,窒化物,炭化物の薄膜を用いることが好ましいが、絶縁膜の下地となる、電極材料、電気−機械変換膜材料、振動板材料と密着性が高い材料を選定することが好ましい。
具体的には、第1の絶縁保護膜としては例えば、アルミナ膜、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜から選択される少なくとも1種の無機膜からなることが好ましい。
また、第1の絶縁保護膜の成膜法も圧電素子を損傷する可能性が低い成膜方法であることが好ましく、例えば、蒸着法、ALD法などを好ましく用いることができ、使用できる材料の選択肢が広いALD法をより好ましく用いることができる。特にALD法を用いることで、膜密度の非常に高い薄膜を作製することができ、プロセス中でのダメージを抑制することが可能になる。
そして、反応性ガスをプラズマ化して基板上に堆積するプラズマCVD法やプラズマをターゲット材に衝突させて飛ばすことで成膜するスパッタリング法は圧電素子を損傷する可能性が蒸着法、ALD法に比べて高いため好ましくない。
第1の絶縁保護膜の膜厚は、圧電素子を保護するために十分な厚さの薄膜であり、かつ、振動板の変位を阻害しないように可能な限り薄いものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、第1の絶縁保護膜の膜厚としては20nm〜100nmの範囲であることが好ましい。100nmより厚い場合は、振動板の変位が低下するため、吐出効率の低い液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)となる場合がある。一方、20nmより薄い場合は圧電素子の保護層としての機能が十分ではない場合があり、圧電素子の性能が低下する恐れがある。
第1の絶縁保護膜としてさらにもう1層設けて、2層にする構成も考えられる。この場合、例えば2層目の絶縁保護膜を厚くして振動板の振動変位を阻害しないように第2の電極部付近において2層目の絶縁膜を開口するような構成としてもよい。
2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物,窒化物,炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができる。例えば、半導体デバイスで一般的に用いられるSiO2を用いることができる。
2層目の絶縁保護膜の成膜方法としては任意の手法を用いることができ、CVD法,スパッタリング法が挙げられる。電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。
2層目の絶縁保護膜の膜厚は、共通電極と個別電極配線との間に印加される電圧で絶縁破壊されないように選択することが好ましい。すなわち絶縁膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定することが好ましい。さらに、2層目の絶縁膜の下地の表面性やピンホール等を考慮すると膜厚は200nm以上であることが好ましく、500nm以上であることがさらに好ましい。
(第3、第4の電極)
第3の電極、第4の電極は、第1の電極、前記第2の電極にそれぞれ電気的に接続されており、第1の絶縁保護膜上に形成されている。
第3の電極、及び、第4の電極の材質は特に限定されるものではなく、要求される性能等に応じて選択すればよいが、例えば、Ag合金、Cu、Al、Al合金、Au、Pt、Irから選択される少なくとも1種の金属からなることが好ましい。
第3の電極、第4の電極の作製方法としては、例えば、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る方法を好ましく用いることができる。
第3の電極、第4の電極の膜厚としては、0.1μm〜20μmが好ましく、0.2μm〜10μmがさらに好ましい。膜厚が上記範囲より小さいと抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができずに液滴吐出ヘッドとした場合に液滴の吐出が不安定になる場合がある。また、膜厚が上記範囲より大きいとプロセス時間が長くなり生産性の面で問題となる場合がある。
また、共通電極、個別電極としてコンタクトホール部(10μm×10μm)での接触抵抗として、共通電極としては10Ω以下、個別電極としては1Ω以下が好ましく、共通電極としては5Ω以下、個別電極としては0.5Ω以下であることがさらに好ましい。
これは、コンタクトホール部での接触抵抗が上記範囲を超えると十分な電流を供給することができなくなり、液滴吐出ヘッドとした場合に、液滴の吐出をする際に不具合が発生する場合があるためである。
(第2の絶縁保護膜)
第2の絶縁保護膜は個別電極配線や共通電極配線の保護層の機能を有するパッシベーション層として機能するものである。
図4(a)に示す通り、個別電極引き出し部と、図示しないが共通電極引き出し部を除き、個別電極と共通電極上を被覆する。
このように第2の絶縁保護膜を設けることにより、電極材料として安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いることができる。その結果、低コストかつ信頼性の高いインクジェットヘッドとすることができる。
第2の絶縁保護膜の材料としては、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、透湿性の低い材料を用いることが好ましい。
無機材料としては、例えば酸化物、窒化物、炭化物等を用いることができ、有機材料としてはポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。
ただし有機材料の場合には厚膜とすることが必要となるため、後述のパターニングに適さない。そのため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料を用いることがより好ましい。
このため、第2の絶縁保護膜がアルミナ膜、シリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜から選択される少なくとも1種の無機膜であることが好ましい。特に、Al配線上に第2の絶縁保護膜としてSi3N4を用いることは半導体デバイスで実績のある技術であるため、本実施形態においても同様の構成を採用することが好ましい。
また、第2の絶縁保護膜の膜厚は200nm以上とすることが好ましく、500nm以上であることがさらに好ましい。これは、膜厚が薄い場合は十分なパッシベーション機能を発揮できないため、配線材料の腐食による断線が発生し、電気−機械変換素子の信頼性を低下させてしまう可能性があるためである。
また、圧電素子上とその周囲の振動板上に開口部をもつ構造が好ましい。これは、前述の第1の絶縁保護膜の第2の電極部付近において開口部を設けることと同様の理由である。これにより、高効率かつ高信頼性の電気−機械変換素子とすることができる。また、例えば該電気−機械変換素子を用いた高効率かつ高信頼性の液滴吐出ヘッド、インクジェットヘッドとすることが可能になる。
なお、第1の絶縁保護膜41、第2の絶縁保護膜44により圧電素子が保護されているため開口部分の形成には、フォトリソグラフィー法とドライエッチングを用いることが可能である。
また、第2の絶縁保護膜には複数のパッド(パッド部)が設けられるが、(構成する1つの)パッドの面積がそれぞれ2500μm2以上であることが好ましく、さらに30000μm2以上であることがより好ましい。
この値に満たない場合は、十分な分極処理ができなくなる場合や、連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない場合があるためである
複数のパッド部の形成方法は特に限定されるものではないが、例えばリソエッチ(リソグラフィー・エッチング法)を用いて形成することができる。
以上説明してきた本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法によれば、ウェハレベルで一括して圧電素子に分極処理を行うことができる。また、該製造方法によって得られる電気−機械変換素子は液滴吐出ヘッドとした場合に、該電気−機械変換素子が所定駆動電圧に対して安定した変位量を示し、液滴吐出特性を良好に保持できると共に安定した液滴吐出特性を得ることができる。
[第2の実施形態]
本実施形態では、第1の実施形態で説明した電気−機械変換素子を配置した液滴吐出ヘッドについて説明する。
具体的な構成としては、図1に示したように、液滴を吐出するノズル11と、該ノズルが連通する加圧室12と、該加圧室12内の液体を昇圧させる吐出駆動手段とを備えた液滴吐出ヘッドである。そして、本実施形態の液滴吐出ヘッドにおいては、前記吐出駆動手段として、前記加圧室12の壁の一部を振動板で構成し、該振動板に第1の実施形態で説明した電気−機械変換素子を配置したものである。
係る液滴吐出ヘッドによれば、第1の実施形態で説明した電気−機械変換素子を用いているため、所定駆動電圧に対して安定した変位量を示し、液滴吐出特性を良好に保持できると共に安定した液滴吐出特性を得ることができる。
なお、本実施形態では1つのノズルからなる液滴吐出ヘッドについて説明したが、係る形態に限定されるものではなく、図9に示すように複数の液滴吐出ヘッドを備えた構成とすることもできる。図9においては、図1の液滴吐出ヘッドを複数個直列に並べたものであり、同じ部材には同じ番号を付している。
また、液体供給手段、流路、流体抵抗等については記載を省略したが、液滴吐出ヘッドに設けることのできる付帯設備を当然に設けることができる。
[第3の実施形態]
本実施形態では、第2の実施形態で説明した液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置の構成例について説明する。液滴吐出装置の形態としては特に限定されるものではないが、ここではインクジェット記録装置を例に説明する。
インクジェット記録装置の一例について図10及び図11を参照して説明する。なお、図10は同記録装置の斜視説明図、図11は同記録装置の機構部の側面説明図である。
このインクジェット記録装置は、記録装置本体61の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した本発明を実施したインクジェットヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部62等を収納し、装置本体61の下方部には前方側から多数枚の用紙63を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)64を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙63を手差しで給紙するための手差しトレイ65を開倒することができ、給紙カセット64或いは手差しトレイ65から給送される用紙63を取り込み、印字機構部62によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ66に排紙する。
印字機構部62は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド67と従ガイドロッド68とでキャリッジ69を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ69にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係るインクジェットヘッドからなるヘッド70を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ69にはヘッド70に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ71を交換可能に装着している。
インクカートリッジ71は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド70を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ69は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド67に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド68に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ69を主走査方向に移動走査するため、主走査モーター72で回転駆動される駆動プーリ73と従動プーリ74との間にタイミングベルト75を張装し、このタイミングベルト75をキャリッジ69に固定しており、主走査モーター72の正逆回転によりキャリッジ69が往復駆動される。
一方、給紙カセット64にセットした用紙63をヘッド70の下方側に搬送するために、給紙カセット64から用紙63を分離給装する給紙ローラ76及びフリクションパッド77と、用紙63を案内するガイド部材78と、給紙された用紙63を反転させて搬送する搬送ローラ79と、この搬送ローラ79の周面に押し付けられる搬送コロ80及び搬送ローラ79からの用紙63の送り出し角度を規定する先端コロ81とを設けている。搬送ローラ79は副走査モーター82によってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ69の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ79から送り出された用紙63を記録ヘッド70の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材83を設けている。この印写受け部材83の用紙搬送方向下流側には、用紙63を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ84、拍車85を設け、さらに用紙63を排紙トレイ66に送り出す排紙ローラ86及び拍車87と、排紙経路を形成するガイド部材88、89とを配設している。
記録時には、キャリッジ69を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド70を駆動することにより、停止している用紙63にインクを吐出して1行分を記録し、用紙63を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙63の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙63を排紙する。
また、キャリッジ69の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド70の吐出不良を回復するための回復装置90を配置している。回復装置90はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ69は印字待機中にはこの回復装置90側に移動されてキャッピング手段でヘッド70をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド70の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、本実施形態の液滴吐出装置であるインクジェット記録装置においては、第2の実施形態で説明した液滴吐出ヘッドを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られて画像品質が向上する。
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
6インチシリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1ミクロン)を形成した。
次いで、第1の電極を形成した。具体的にはまず、密着膜として、チタン膜(膜厚30nm)をスパッタ装置にて成膜した後にRTAを用いて750℃にて熱酸化した。そして、引き続き金属膜として白金膜(膜厚100nm)、酸化物膜としてSrRuO3膜(膜厚60nm)をスパッタ成膜した。スパッタ成膜時の基板加熱温度については550℃にて成膜を実施した。
次に電気−機械変換膜を形成した。具体的には、モル比でPb:Zr:Ti=114:53:47に調整された溶液を準備し、スピンコート法により膜を成膜した。
具体的な前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上記酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。合成したPZT前駆体溶液中のPZT濃度は0.5モル/Lとした。
上記前駆体溶液を用いて、スピンコートにより前記第1の電極が形成された基板上に成膜し、成膜後、120℃乾燥を行い、その後さらに500℃熱分解を行う操作を複数回繰り返し行い電気−機械変換膜を積層した。
上記手順により繰り返し、電気−機械変換膜を積層する際に、3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度750℃)をRTA(急速熱処理)にて行った。3層目の熱分解処理後、RTA処理を施した電気−機械変換膜(PZT)の膜厚は240nmであった。
上記工程を計8回(24層)実施し、PZTの部分の膜厚が約2μmの電気−機械変換膜を得た。
次に、第2の電極の酸化物膜としてSrRuO3膜(膜厚40nm)を、金属膜としてPt膜(膜厚125nm)を、それぞれスパッタ成膜した。
その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて電気−機械変換膜、第2の電極をエッチングにより個別化し、図4に示すようなパターンを作製した。これにより、第2の電極は個別電極として機能し、第1の電極は個別化された電気−機械変換膜、第2の電極に対して共通電極として機能する。
次に第1の絶縁保護膜として、ALD法によりAl2O3膜を50nm成膜した。
原材料としてAl源としては、トリメチルアルミニウム(TMA)(シグマアルドリッチ社製)、O源としては、オゾンジェネレーターによって発生させたO3を用いた。そして、Al源、O源を交互に基板上に供給して積層させることで、成膜を行った。
その後、図4に示すように、エッチングによりコンタクトホール部を形成した。
そして、第3の電極、第4の電極としてAlをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニング形成した。
さらにその後、第2の絶縁膜としてSi3N4をプラズマCVDにより500nm成膜し、電気−機械変換素子を作製した。
このとき、6インチウェハ内30mm×10mm四方のエリアを25個配置しその中で個別電極パッド面積(50μm×1000μm)、パッド数としては300個用意し、共通電極パッド面積(50μm×1000μm)、パッド数としては30個用意した。
この後、コロナ帯電処理により分極処理を行った。
コロナ帯電処理はφ50μmのタングステンのワイヤーを用いて行った。ワイヤーとサンプルとの間の距離を5mmとして、サンプルに対して6kVの電圧を印可し20分間処理を行った。
[実施例2]
コロナ帯電処理においてサンプルに対して8kVの電圧を印可し20分間処理を行った以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
[実施例3]
コロナ帯電処理においてサンプルに対して6kVの電圧を印可し1分間処理を行った以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
[実施例4]
6インチウェハ内30mm×10mm四方の中に個別電極パッド数としては200個用意し、共通電極パッド数としては100個用意した以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。
[比較例1]
コロナ帯電処理(分極処理)を行わなかったこと以外は実施例1と同様な電気−機械変換素子を作製した。
[比較例2]
6インチウェハ内30mm×10mm四方の中に個別電極パッド面積(60μm×60μm)、パッド数としては150個用意し、共通電極パッド面積を(60μm×1000μm)としては150個用意した以外は実施例1と同様な電気−機械変換素子を作製した。
[比較例3]
コロナ帯電処理においてサンプルに対して3kVの電圧を印可し1分間処理を行った以外は実施例1と同様な電気−機械変換素子を作製した。
[比較例4]
酸化物膜、金属膜からなる第2の電極をスパッタ成膜し、さらに、電気−機械変換膜、第2の電極をエッチングにより個別化した後、コロナ帯電処理(分極処理)においてサンプルに対して6kVの電圧を印可し20分間処理を行った以外は実施例1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。すなわち、コロナ帯電処理を行うタイミングを変更した点以外は実施例1と同様に行った。
実施例1〜4、比較例1〜4で作製した電気−機械変換素子について、分極率、電気−機械変換能(圧電定数)の評価を行った。
分極率は上述の方法により、PrとPindの値を測定しPr−Pindの値を算出した。
電気−機械変換能(d31)は電界印加(150kV/cm)による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。初期特性を評価した後に、耐久性評価(1010回繰り返し印可電圧を加えた直後の特性)を実施した。
これらの詳細結果について表1に示す。
また、各実施例、比較例において、コロナ帯電処理を実施した際に発生した電荷量Qについても表1に併せて記載する。
また、代表的なP−Eヒステリシス曲線として、実施例1の結果を図12に示す。
表1の結果によると、実施例1〜4については初期特性、耐久性評価の結果についても一般的なセラミック焼結体と同等の特性を有していた。(残留分極Prが20〜27μC/cm2、圧電定数は−120〜−160pm/V)
一方、比較例1〜4については、初期特性としては一般的なセラミックス焼結体に比べて特性が大きく変わらないが。1010回後(1010回繰り返し印加電圧を加えた直後)の特性においては、実施例1〜4に比べて、大きく劣化しているのが確認された。
図9に、図1に示した1ノズルの液滴吐出ヘッドを複数個配置したものを示す。
図9に示した複数のノズルを備えた液滴吐出ヘッドは、電気−機械変換素子を上記した実施例1〜4に記載した製造工程により形成し、その後、圧力室形成のために裏面からのエッチング除去、ノズル孔を有するノズル板を接合することにより製造することができる。
なお、図中には液体供給手段、流路、流体抵抗についての記述は略した。
そして、実施例1〜4で作製した電気−機械変換素子を備えた図9の液滴吐出ヘッドを作製し液の吐出評価を行った。粘度を5cpに調整したインクを用いて、単純Push波形により−10〜−30Vの印可電圧を加えたときの吐出状況を確認したところ、全てどのノズル孔からも吐出できていることを確認した。