JP6131653B2 - 電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、および画像記録装置 - Google Patents

電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、および画像記録装置 Download PDF

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Description

本発明は、インクジェット記録装置等に用いられる電気機械変換素子、該電気機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッド、及び該液滴吐出ヘッドを備えた画像記録装置に関する。
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像形成装置として使用される画像記録装置における液滴吐出ヘッドの一例として、例えば図1に示す構成を挙げることができる。この液滴吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズル12と、ノズルが連通する加圧室11(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される。)と、加圧室11内のインクを加圧するエネルギー発生手段とを備える。該エネルギー発生手段は、下部電極16、電気機械変換膜17、および上部電極18からなる電気機械変換素子19(圧電素子ともいう。)と、加圧室11の壁面を構成する振動板15とを備えてなる。エネルギー発生手段で発生したエネルギーで加圧室11内のインクを加圧することによりノズル12からインク滴を吐出させる。画像記録装置の液滴吐出ヘッドには、電気機械変換膜の軸方向に伸長あるいは収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと2種類が実用化されている。
たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により加圧室に対応する形状に切り分けて各加圧室に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。圧電膜(誘電体膜あるいは電気機械変換膜ともいう。)の自発分極軸のベクトル成分と電界印加方向とが一致するときに、電界印加強度の増減に伴う伸縮が効果的に起こり、大きな圧電定数が得られる。このため圧電膜の自発分極軸と電界印加方向とは完全に一致することが最も好ましい。また、インク吐出量のばらつき等を抑制するには、圧電膜の圧電性能の面内ばらつきが小さいことが好ましい。これらの点から、アクチュエータの圧電膜の結晶配向性は優れていることが好ましい。圧電膜の結晶性の向上のために種々の提案がされている。
例えば、特許文献1には、表面にTiが島状に析出したTi含有貴金属電極上に圧電膜を成膜することで、結晶配向性に優れた圧電膜を得ることが記載されている。特許文献2には、基板としてMgO基板を用いることで、結晶配向性に優れた圧電膜が成膜可能であることが記載されている。特許文献3には、アモルファス強誘電体膜を成膜し、その後、急速加熱法により結晶化させる強誘電体膜の製造方法が開示されている。
特許文献4には、正方晶系、斜方晶系、及び菱面体晶系のうちいずれかの結晶構造を有するペロブスカイト型複合酸化物(不可避不純物を含んでいてもよい)からなり、(100)面、(110)面、及び(111)面のうちいずれかの面に優先配向した圧電膜が開示されている。これにより、膜の均質性にも優れ、圧電性能に優れた圧電膜を安定的に製造することが記載されている。
ところで、電気機械変換素子の下部電極の材料として、多くはPtにTiやTiNを、Ptと同時にスパッタして含有させたものが用いられている。TiはPtとSiOの振動板との密着性を改善することができ、また、TiNはPZT膜からのPbの拡散を防止するための拡散バリア層として有効である。しかし、これらの材料を用いると複雑な電極構造になる上、その後の加熱工程によるTiの酸化、TiのPt中への拡散、これらに伴うPZTの結晶性の低下が起こり、圧電特性などの電気特性が悪化する。Pt電極にはこのような問題があるため、近年、強誘電体メモリなどの分野では、RuOやIrOなどの導電性酸化物の電極材料が研究されている。
その中でもルテニウム酸ストロンチウムは、PZTと同じペロブスカイト型結晶構造を有しているので、PZTとの界面での接合性に優れ、PZTのエピタキシャル成長を実現し易く、また、Pbの拡散バリア層としての特性にも優れている。
特許文献5には、2層のペロブスカイト構造を有する(111)配向のルテニウム酸ストロンチウム(SRO)の間にイリジウム又は白金の層を挟み込んだ構造を有する下部電極と、該下部電極上に形成された(111)配向のPZTからなる圧電体層と、前記圧電体層上に形成された上部電極とを備えた圧電アクチュエータが開示されている。しかし、本文献においては、PZTの(111)配向度についての詳細が記載されていない。
特許文献6には、上部電極、および下部電極の少なくとも一方にSRO膜を備え、PZTからなる誘電体膜を挟んで構成されたキャパシタを有する半導体装置について開示されている。この半導体装置のSRO膜は、室温で成膜後、RTA処理を行っており、SRO膜上にPZT誘電体膜を作製した場合、(111)面に配向したものが得られにくい。さらにSRO膜厚が10nmから20nmであり、この範囲では圧電アクチュエータとして使用した場合に、十分な初期変位が得られず、さらに連続動作したときに不具合が発生する。
特許文献7には、Si(100)基板上にSROを主成分とするエピタキシャル膜(100)を作製し、SRO膜の表面粗さ(平均粗さ)を10nm以下とし、SRO膜中のSr/Ru比を規定した膜構造体が開示されている。これにより、平坦なSRO膜を得ることができ、十分な自発分極を得ることが可能であることが記載されている。しかし、この膜構造体の上に作製した強誘電体膜は(100)配向を有することになる。圧電アクチュエータとして連続動作したときの変位量の劣化を抑えるには、圧電体膜の配向性は(111)面配向が好ましく、したがって、(100)面に配向したものでは十分に劣化抑制をすることができない。
上記特許文献4には、圧電膜の(111)面の配向度は95%以上が好ましく、特に99%以上が好ましいことが記載されている。しかし、PZTの(111)面が、(110)面や(100)面または(001)面に比べて優先配向していても、その度合いによっては、圧電アクチュエータとして連続動作させたときに不具合が発生することが懸念される。圧電膜としてPZTを用いた場合、(111)配向度が99%以上の場合には、図2に示すように、電界強度に対する変位量が電界強度100kV/cm付近から途中飽和し、これ以上の高い電界強度下においては十分な変位量が得られないといった不具合が発生する。
圧電膜の形成直後の結晶は、いろいろな自発分極方向を持ち、そのままでは電界を印加しても、各ドメインの歪みが相殺されて全体としての歪みは観測されない。そこで、各ドメインの自発分極方向を一定に揃える分極処理を行うと、変位を生じるようになる。このドメインの向きは圧電特性にとって重要である。
図3に、圧電膜中のドメインの様子及び電界印加前後の結晶ドメインの様子を表す模式図を示す。図3に示すように、自発分極の向きが、隣接するドメインの自発分極方向に対して直交する場合を90°ドメイン、平行の場合を180°ドメインという。電圧印加することにより、電荷の重心がずれて電気的に極性を有する自発分極を持つ。これにさらに電界を印加すると、各電荷が引っ張られて結晶格子が歪み、変位が生じる。この変位量は、(a)圧電歪で大きくなることによるものと、(b)90°ドメインのような非180°ドメインの回転によって歪が大きくなることによるものとがある。PZT結晶が完全に(111)方向に配向している場合、変位に寄与する要素としては、上記(a)の圧縮歪によるもののみとなってしまい、(b)のドメイン回転による影響はほとんどない。このため、変位量が途中で飽和してしまい、変位量が小さくなるといった不具合が発生する。よって、(111)面が優先配向する場合であっても、変位低下による不具合を解消するため、ある程度、(111)面以外の配向を有している必要がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電極材料に導電性酸化物を含み、その上に電気機械変換膜を有する電気機械変換素子であって、高い電界強度下においても、良好な初期変位量を確保することができ、さらには、1010回以上の連続駆動後の変位量の低下が抑制された電気機械変換素子を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決し目的を達成するために、基板と、金属からなる第1の電極と、導電性酸化物からなる第2の電極と、電気機械変換膜と、導電性酸化物からなる第3の電極と、金属からなる第4の電極とを有する電気機械変換素子であって、
前記金属からなる第1の電極は、(111)面に配向を有する白金族元素または白金族元素を含む合金からなり、
前記第2の電極および第3の電極は、ペロブスカイト型の複合酸化物からなり、
前記第2の電極は、X線回析法でのθ−2θ測定において、試料面に対してあおり角(χ)を変化させたときに、前記第2の電極において(110)に相当する2θの位置において、χ=0°付近での回析線のピーク強度をIoxide(110)とし、χ=35°付近のピーク強度をIoxide(111)とし、χ=45°付近のピーク強度をIoxide(100)としたとき、Ioxide(111)/(Ioxide(111)+Ioxide(100)+Ioxide(110)で表される(111)面の配向度が0.5以上0.99以下であり、
前記電気機械変換膜は、(111)面の配向度が0.5以上0.98以下のペロブスカイト型の複合酸化物からなることを特徴とするものである。
本発明の電気機械変換素子によれば、高い電界強度下においても良好な初期変位量を得ることができ、さらには、1010回以上の連続駆動後において変位量の劣化が抑制された、良好な圧電特性を得ることができる。本発明の電気機械変換素子をインクジェット記録装置等の画像記録装置の液滴吐出ヘッドに用いた場合には、インク吐出特性を良好に保持することが可能である。
従来技術による液滴吐出ヘッドの構成を示す断面図である。 PZT電気機械変換膜を備えた代表的な電気機械変換素子における、変位量の電界強度依存を示すグラフである。 圧電膜中のドメインの様子、及び電界印加前後の結晶ドメインの様子を表す模式図である。 本発明の実施形態の一例の電気機械変換素子を示す断面図である。 X線回析での2θ=32°の位置における、あおり角(χ)を変化させた場合のSROの回析スペクトルを示すグラフである。 X線回析における電気機械変換膜の回析スペクトルを示すグラフである。 実施形態の一例である電気機械変換素子に絶縁保護膜および引き出し配線を含めた圧電素子としての構成を示す断面図および上面図である。 分極処理装置を示す模式図である。 分極処理前と分極処理後とにおける±150kV/cmの電界強度をかけた場合のヒステリシスループを示すグラフである。 コロナ放電により電荷を圧電素子に蓄積する様子を示す模式図である。 電気機械変換素子の代表的なP−Eヒステリシスループを示すグラフである。 本発明の電気機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッドを示す断面図である。 本発明の液滴吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置を示す概略斜視図である。 本発明の液滴吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置を示す側面図である。
以下、本発明について詳しく説明する。
<<電気機械変換素子>>
本発明の実施形態の一例である電気機械変換素子について説明する。図4に本実施形態の電気機械変換素子の断面図を示す。
本実施形態の電気機械変換素子は、図4に示すように、基板21と、成膜振動板22、第1の電極23、第2の電極24、電気機械変換膜25、第3の電極26、第4の電極27とを有するものであって、
金属からなる第1の電極23は、(111)面に配向を有する白金族元素または白金族元素を含む合金からなり、
第2の電極24および第3の電極26は、ペロブスカイト型の複合酸化物からなり、
第2の電極24は、第2の電極24において(110)に相当する2θの位置において、χ=0°付近での回析線のピーク強度をIoxide(110)とし、χ=35°付近のピーク強度をIoxide(111)とし、χ=45°付近のピーク強度をIoxide(100)としたとき、Ioxide(111)/(Ioxide(111)+Ioxide(100)+Ioxide(110))で表される(111)面の配向度が0.5以上0.99以下であり、
電気機械変換膜25は、(111)面の配向度が0.5以上0.98以下のペロブスカイト型の複合酸化物からなる。
上記電気機械変換膜25の「配向度」とは、電気機械変換素子のXRD(X−Ray Diffraction:X線回析)で得られた各配向のピークの総和を1とした時のそれぞれの配向の比率を表される平均配向度ρを表している。平均配向度ρは以下の式で表わされる。
ρ=I(hkl)/ΣI(hkl)
分母:各ピーク強度の総和
分子:任意の配向のピーク強度
例えば、ペロブスカイト型結晶における(111)面の配向度は、ρ=I(111)/[I((001)/(100))+I((101)/(110))+I(111)]で表される。
なお、I((001)/(100))は、(001)面もしくは(100)面のピーク強度の大きい方を採用する。
また、I((101)/(110))は、(101)面もしくは(110)面のピーク強度の大きい方を採用する。
上記第1の電極の「(111)面に配向を有する」とは、上記の式で計算される(111)面の配向度ρが、0.5以上であることを意味する。
次に、本発明の電気機械変換素子の構成について詳細を説明する。
<基板>
基板21としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。基板21の厚さは、通常100μm〜600μmであることが好ましい。面方位としては、(100)、(110)、(111)と3種あるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されており、本発明においては、主に(100)の面方位を持つ単結晶基板を使用することが好ましい。
電気機械変換素子を、例えば、図1に示すような液滴吐出ヘッドの圧電アクチュエータとして用いる場合、基板14内に液体が収容される圧力室11は、エッチングを利用してシリコン単結晶基板を加工して作製する。この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。
異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えば、KOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(111)面は(100)面に比べて約1/400程度のエッチング速度となる。従って、(100)面では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、(110)面では深い溝を掘ることができる。(110)面の基板と異方性エッチングを利用することにより高精細化によりノズルの配列密度を高くすることができると共に、剛性を保つことができるので、本発明の電気機械変換素子の基板としては、(110)面を持った単結晶基板を使用することも可能である。但し、この場合、マスク材であるSiOもエッチングされてしまうということがあるため、このことに留意して利用することが好ましい。
<振動板>
振動板について、図1を参照して説明すると(なお、下部電極16より上部の構成については本発明と異なる。)、電気機械変換膜17によって発生した力を受けて、下地である振動板15が変形変位して加圧室11内の圧力を上昇させて、加圧室11内のインク滴をノズル12から吐出させる。そのため、振動板は、所定の強度を有した材料であることが好ましい。材料としては、Si、SiO、SiをCVD(Chemical Vapor Deposition)法により作製したものが挙げられる。さらに、振動板の上に形成される下部電極、および電気機械変換膜の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。特に、電気機械変換膜としては、一般的に材料としてPZT(PbZrO)が使用されることから線膨張係数8×10−6(1/K)に近い線膨張係数として、5×10−6〜10×10−6の線膨張係数を有した材料が好ましく、さらには7×10−6〜9×10−6の線膨張係数を有した材料がより好ましい。
具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等を挙げることができる。これらをスパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。
振動板の膜厚としては、0.1μm〜10μmが好ましく、0.5μm〜3μmがさらに好ましい。0.1μmより小さいと、加圧室11の加工の制御、すなわちエッチングの制御が難しくなるので好ましくない。10μmより大きいと振動板として変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる。
<第1の電極および第4の電極>
第1の電極23および第4の電極27としては、金属材料としては従来から高い耐熱性と低い反応性を有する白金が用いられているが、鉛に対しては十分なバリア性を持つとはいえない場合もあり、イリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これら合金膜も挙げられる。また、白金を使用する場合には下地である振動板(特にSiO)との密着性が悪い。このために、白金からなる電極の上に、Ti、TiO、Ta、Ta、Ta等を、振動板より先に積層することが好ましい。
第1の電極23および第4の電極27の作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜が一般的である。膜厚としては、0.05μm〜1μmが好ましく、0.1μm〜0.5μmがさらに好ましい。
また、電気機械変換膜25としてPZTを選択したときにその結晶性として(111)面に配向を有していることが好ましい。そのために第1の電極23の材料としては、(111)配向度が高い白金を選択することが好ましい。
<第2の電極および第3の電極>
第2の電極24、および第3の電極26としては、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)を材料として用いることが望ましい。これ以外にも、Sr(A)(1−x)Ru(B)(1−y)(A=Ba,Ca、B=Co,Ni、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5)で記述されるような材料についても挙げることができる。
成膜方法はスパッタリング工法を挙げることができる。スパッタ条件によって導電性酸化物の膜質が変わるが、特に結晶配向性を重視し、第1の電極23のPt(111)にならって第2の電極24の導電性酸化物についても(111)面に配向させるためには、スパッタリング工法により、250℃以上での基板加熱を行い、成膜することが好ましい。
例えば、特許文献6記載のSROの成膜条件については、室温で成膜した後、RTA(Rapid Thermal Anneal)処理にて結晶化温度(650℃)で熱酸化している。この場合、SRO膜としては、十分結晶化され、電極の比抵抗としても十分な値が得られるが、膜の結晶配向性としては、(110)面が優先配向しやすくなり、その上に成膜したPZTについても(110)面に優先配向してしまう。
前述したように、電気機械変換膜25の配向度を完全に(111)面に揃えようとした場合においては、高い電界強度下においては、十分な変位量が得られないといった不具合が発生する。このため、下地となる導電性酸化物の配向度を完全な(111)面ではなく、(111)面以外の成分も含めた配向度で調整する必要がある。
ここで、(111)面の配向を有する第1の電極23上に作製した第2の電極24の(111)配向度についてX線回析を用いた計算方法を説明すると共に、(111)配向度の成膜温度依存について説明する。まず、X線回析に用いるサンプルとして、後述する実施例の電気機械変換素子において、SROを300℃でスパッタリング成膜したもの(実施例1)と、600℃でスパッタリング成膜したもの(比較例2)を用いる。より詳細な温度設定および第2の電極24の(111)配向度については、後述の実施例において説明する。
Pt(111)上に作製したSROの結晶性については、PtとSROとは格子定数が近いため、X線回析での通常のθ−2θ測定では、SRO(111)面とPt(111)面との2θ位置が重なってしまい判別が難しい。Ptについては消滅則の関係から、試料面に対するあおり角(χ)を35°傾けて、2θが約32°付近の位置で回折強度を取ろうとすると、回折線が打ち消し合い、回折強度が見られない。そこで、PSI(ψ)方向を約35°傾けて、2θが約32°付近のピーク強度で判断することでSROが(111)に優先配向しているかを確認することができる。
上記測定方法にて、第2の電極であるSROの表面をX線回析により回析線を測定した。図5に、X線回析での2θ=32°の位置において、あおり角(χ)を変化させた場合の回析線のピーク強度を示す。
第2の電極24のSRO(111)面の配向度は、χ=0°付近での回析線のピーク強度をISRO(110)とし、χ=35°付近のピーク強度をISRO(111)とし、χ=45°付近のピーク強度をISRO(100)としたとき、ISRO(111)/(ISRO(111)+ISRO(100)+ISRO(110))と定義する。
SRO膜の成膜温度として、600℃に設定したものについては、図5中(a)に示すように、χ=0°および45°ではほとんど回折強度が見られず、χ=35°付近において回折強度が見られる。このことから、600℃で作製したものについては、SROが(111)面に配向度で配向していることが確認できる。
一方、SRO膜の成膜温度として、300℃に設定したものについては、図5中(b)に示すように、χ=35°付近において回析強度がみられるが、χ=0°でも回折強度を少し確認することができる。300℃で成膜したものについては、SROは(111)面が優先配向になっているが、SRO(111)面とSRO(110)面とを有している。すなわち、300℃で成膜した場合は、600℃で成膜した場合に比べて、SRO(111)面の配向度が小さいことが分かる。
続いて、上記第2の電極であるSROまで形成した2つのサンプルのSRO上に電気機械変換膜(PZT)を形成し、その結晶性について調べた。SRO上に、PZTをゾルゲル法により作製した前駆体溶液をスピンコートにより厚さ1μm成膜し、溶媒乾燥、熱分解及び結晶化の熱処理を施した後、このPZT表面をX線回析法により測定した。その結果を図6に示す。
図6に示すように、SRO膜を300℃で成膜したものについては、2θ=38.3°付近のPZT(111)の回析ピーク強度が、600℃で成膜した場合より小さく、2θ=21.8°付近にPZT(001)およびPZT(100)の回析ピーク強度、2θ=31°付近にPZT(101)およびPZT(011)の回析ピーク強度が発生している。
上記サンプルの評価は、SROの配向状態によって、その上層のPZT(111)の配向度が変わることを示唆している。
電気機械変換膜の(111)面の配向度を、高電界印加時での良好な初期特性および連続駆動後の劣化の抑制を実現するために有効な値に制御するためには、第2の電極(111)面の配向度を、0.5以上0.99以下にすることが好ましく、0.75以上0.85以下であることがさらに好ましい。0.5未満であると、十分な初期変位量が得られないといった不具合が発生し、0.99より大きいと、連続駆動後の変位劣化について十分な特性が得られない。
導電性酸化物の(111)配向度を制御するためには、成膜方法と成膜温度とを適宜選択することが重要である。すなわち、第2の電極24は、スパッタリング工法により250℃以上550℃以下で成膜することにより、(111)面の配向度を0.5以上0.99以下に制御することができる。これにより、第2の電極24の上に成膜される電気機械変換膜25の(111)面の配向度を、0.5以上0.98以下に制御することができる。
なお、第2の電極24にSROを用いた場合には、成膜後のSrとRuとの組成比については、Sr/Ruが0.82以上1.22以下であることが好ましい。この範囲から外れると比抵抗が大きくなり、電極として十分な導電性が得られなくなる。
第2の電極24の膜厚は、20nm〜150nm好ましく、30nm〜50nmがさらに好ましい。この20nmより薄いと初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られず、150nmを超えると、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。
同様に、第3の電極の膜厚も、20nm〜150nm好ましく、30nm〜50nmがさらに好ましい。この20nmより薄いと初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られず、150nmを超えると、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。
<電気機械変換膜>
電気機械変換膜としては、PZTが特に好ましい。PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOとの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O、一般にPZT(53/47)と示される。PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
これら材料は、一般式ABO3(A=Pb、Ba、Srを主成分とし、B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする。)で表わされる複合酸化物が該当する。なお、上記「主成分とする」とは、組成比が0.1以上であることを意味する。
その具体的な記述として(Pb1−X,Ba)(Zr,Ti)O(0≦x≦1)、(Pb1−X,Sr)(Zr,Ti)O(0≦x≦1)、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
作製方法としては、スパッタ法、もしくはスピンコーターでゾルゲル法により成膜する方法を挙げることができる。これらの方法を用いる場合、パターニングが必要となるので、フォトリソエッチング等により所望するパターンを得る。
PZTをゾルゲル法により作製した場合、出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得ことで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加しても良い。
下地全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になる。
また、インクジェット工法により作製していく場合については、第2の電極と同様の作製フローにてパターニングされた膜を得ることができる。表面改質材については、下地(第1の電極)の材料によっても異なるが、酸化物を下地とする場合は主にシラン化合物、金属を下地とする場合は主にアルカンチオールを選定する。
電気機械変換膜の膜厚は、0.5μm〜5μmが好ましく、さらに好ましくは1μm〜2μmである。0.5μmより小さいと十分な変位を発生することが出来なくなり、5μmより大きいと、電気機械変換膜は何層も積層させて形成するため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなる。
前述したが、SROの結晶配向状態が、上層であるPZT(111)の配向状態を左右する。
電気機械変換膜の(111)方向の配向度は、0.5以上0.98以下であることが好ましく、さらには0.7以上0.9以下であることが好ましい。0.5未満であると連続駆動後の変位劣化について十分な特性が得られず、0.98より大きいと、十分な初期変位量が得られないといった不具合が発生する。
<<圧電素子>>
次に、図4に示す本発明の電気機械変換素子の構成に、さらに絶縁保護膜、引き出し配線を備えてなる圧電素子の構成について説明する。図7(a)に、その圧電素子の断面図を示し、図7(b)にその圧電素子の電極PADまで備えた構成の上面図を示す。
図4に示す電気機械変換素子において、下地全面に第4の電極27まで作製した後、図7(a)に示すように、フォトリソグラフィ法とエッチングとにより、電気機械変換膜25、第3の電極26および第4の電極27をパターニングする。その後、第1の絶縁保護膜28を形成し、該第1の絶縁保護膜28に、第4の電極27から個別電極PAD33への引き出しを行うためのコンタクトホール30a、および第2の電極から共通電極PAD32への引き出しを行うためのコンタクトホール(図示せず)を形成する。
図7(b)に示すように、第1の電極23と第2の電極24とは、第2の電極24上に形成されたコンタクトホール(図示せず)を介して、第5の電極(共通電極)29と導通している。
第3の電極26および第4の電極27は第4の電極27上に形成されたコンタクトホール30aを介して第6の電極(個別電極)30と導通している。
その後、共通電極29および個別電極30を保護する第2の絶縁保護膜31を形成し、該第2の絶縁保護膜31の一部に電極PAD用の開口31aを形成する。共通電極29用に作製されたものを共通電極PAD32とし、個別電極30用に作製されたものを個別電極PAD33として、圧電素子を完成させる。
以下、上記圧電素子の図4に示す構成以外の構成について説明する。
<第1の絶縁保護膜>
成膜・エッチングの工程による圧電素子へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過しづらい材料を選定する必要があるため、緻密な膜質を有する無機材料とする必要がある。有機材料では十分な保護性能を得るためには膜厚を厚くする必要があるため、適さない。絶縁膜を厚くした場合、振動板の振動変位を著しく阻害してしまうため、吐出性能の低いインクジェットヘッドになってしまうからである。
薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物、窒化物、あるいは炭化膜を用いるのが好ましい。しかし、絶縁膜の下地となる、電極材料、圧電体材料、振動板材料と密着性が高い材料を選定する必要がある。また、成膜法も圧電素子を損傷しない成膜方法を選定する必要がある。すなわち、反応性ガスをプラズマ化して基板上に堆積するプラズマCVD法やプラズマをターゲット材に衝突させて飛ばすことで成膜するスパッタリング法は好ましくない。好ましい成膜方法としては、蒸着法、ALD(Atomic Layer Deposition:原子層堆積)法などを例示できるが、使用できる材料の選択肢が広いALD法がより好ましい。
好ましい材料としては、Al3、ZrO、Y、Ta、TiOなどのセラミクス材料に用いられる酸化膜を挙げることができる。特にALD法を用いることで、膜密度の非常に高い薄膜を作製し、プロセス中でのダメージを抑制することが可能である。
第1の絶縁保護膜28の膜厚は、圧電素子の保護性能を確保できる十分な薄膜とする必要があると同時に、振動板の変位を阻害しないように可能な限り薄くする必要がある。具体的には、第1の絶縁保護膜の膜厚は20nm〜100nmの範囲が好ましい。100nmより厚い場合は、振動板の変位が低下するため好ましくない。振動板の変位が低下すると、吐出効率の低い液滴吐出ヘッドとなる。一方、20nmより薄い場合は圧電素子の保護層としての機能が不足してしまうため、圧電素子の圧電特性が低下してしまう。
また、第1の絶縁保護膜28を2層構成としても良い。この場合は、2層目の絶縁保護膜を厚くするため、振動板の振動変位を著しく阻害しないように第2の電極部付近において2層目の絶縁膜を開口するような構成も挙げることができる。このとき2層目の絶縁膜としては、任意の酸化物、窒化物、炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができるが、半導体デバイスで一般的に用いられるSiOを用いることができる。成膜は任意の手法を用いることができ、CVD法、スパッタリング法が例示でき、電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。
なお、2層目の絶縁保護膜の膜厚は、下部電極(第1の電極および第2の電極)配線と個別電極(第3の電極および第4の電極)配線とに印加される電圧で絶縁破壊されない膜厚とする必要がある。すなわち絶縁膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定する必要がある。さらに、下地の表面性やピンホール等を考慮すると膜厚は200nm以上必要であり、さらに好ましくは500nm以上である。
<第5の電極および第6の電極>
第5の電極および第6の電極の材料としては、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Irのいずれかから成る金属電極材料であることが好ましい。作製方法としては、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。膜厚としては、0.1μm〜20μmが好ましく、0.2μm〜10μmがさらに好ましい。0.1μmより小さいと、抵抗が大きくなり、電極に十分な電流を流すことができなくなるため、ヘッドの液体の吐出が不安定になる。20μmより大きいとプロセス時間が長くなる。
また、共通電極、個別電極のコンタクトホール部の大きさが、例えば、10μm×10μmである場合の接触抵抗としては、共通電極の場合は10Ω以下、個別電極の場合は1Ω以下が好ましい。さらに好ましくは、共通電極の場合は5Ω以下、個別電極の場合は0.5Ω以下である。10Ωより大きくなると十分な電流を供給することが出来なくなり、インク吐出をする際に不具合が発生する。
<第2の絶縁保護膜>
第2の絶縁保護膜31としての機能は個別電極配線や共通電極配線の保護層の機能を有するパシベーション層である。図7(a)に示すように、個別電極引き出し部と図示しないが共通電極引き出し部を除き、個別電極上と共通電極上とを被覆する。これにより、電極材料に安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いることができる。その結果、低コストかつ信頼性の高い液滴吐出ヘッドとすることができる。
材料としては、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、透湿性の低い材料とする必要がある。無機材料としては、酸化物、窒化物、炭化物等が例示でき、有機材料としてはポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が例示できる。ただし、有機材料の場合には厚膜とすることが必要となるため、後述のパターニングに適さない。そのため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料とすることが好ましい。特に、Al配線上にSiを用いることが、半導体デバイスで実績のある技術であるため好ましい。
膜厚は200nm以上とすることが好ましく、さらに好ましくは500nm以上である。膜厚が200nmより薄い場合は十分なパシベーション機能を発揮できないため、配線材料の腐食による断線が発生し、液滴吐出ヘッドの信頼性を低下させてしまう。
また、圧電素子上およびその周囲の振動板上に開口部をもつ構造が好ましい。これは、前述の第1の絶縁保護膜28の個別の加圧室領域を薄くしていることと同様に、振動板の振動変位を著しく阻害しないためである。これにより、高効率かつ高信頼性の液滴吐出ヘッドとすることが可能になる。開口部分の形成には、フォトリソグラフィ法とドライエッチングとを用いることができる。この際、第1の絶縁保護膜と第2の絶縁保護膜で圧電素子が保護されているため可能である。
またPAD部の形状および面積については、50μm×50μm以上が好ましく、さらに100μm×300μm以上が好ましい。50μm×50μmより小さい場合は、十分な分極処理ができなくなり、連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られないといった不具合が発生する。
次に、このように作製された圧電素子に対して、分極処理装置を用いて分極処理を行う。図8に分極処理装置の模式図を示す。
図8に示すように、分極処理装置は、サンプルが載置されるサンプルステージ45と、コロナ電源43に接続されたコロナ電極41と、グリッド電源44に接続されたグリッド電極42とを具備する。サンプルステージ45には温調機能が付加されており、最大350℃くらいまで温度をかけながら分極処理を行うことができる。
温調機能が付加されたサンプルステージ45については、アース46が設置されており、これが付加していない場合においては、分極処理ができない。
グリッド電極42は、メッシュ加工が施されており、コロナ電極41に高い電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷等を効率よく下のサンプルステージ45に降り注ぐように工夫されている。コロナ電極41やグリッド電極42に印加される電圧や、サンプルと各電極間との距離を調整することによりコロナ放電の強弱をつけることが可能である。
次に、圧電膜の分極処理について説明する。圧電膜の分極状態はP−Eヒステリシスループから判断している。図9に代表的なP−Eヒステリシスループを示す。図9(a)は分極処理前のP−Eヒステリシスループを示し、図9(b)は分極処理後のP−Eヒステリシスループを示す。
図9に示すように、±150kV/cmの電界強度かけてヒステリシスループを測定する。最初の0kV/cm時の分極をPind、+150kV/cmの電圧印加後、0kV/cmまで戻したときの0kV/cm時の分極をPrとしたときに、P−Pindの値を分極率として定義し、この分極率から分極状態の良し悪しを判断する。
分極率(Pr−Pind)は、10μC/cm以下となっていることが好ましく、5μC/cm以下となっていることがさらに好ましい。10μC/cmより大きい場合は、圧電アクチュエータとして連続駆動後の変位の劣化については十分な特性が得られない。
ここで、図10に、コロナ放電により電荷を圧電素子に蓄積する様子を示す模式図を示す。図10に示すように、コロナワイヤーを用いて、コロナ放電させるときには、大気中の分子をイオン化させることで、陽イオンを発生させ、圧電素子のPAD部を介して陽イオンが流れ込むことで、電荷を圧電素子に蓄積している。上部電極と下部電極との電荷差によって内部電位差が生じて、分極処理が行われていると考えている。
ここで、分極処理に必要な電荷量Qを考えると1E−8(C)以上の電荷量が蓄積されることが好ましく、4E−8(C)以上の電荷量が蓄積されることがさらに好ましい。1E−8(C)より小さい場合は、分極処理が十分出来ず、圧電アクチュエータとして連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない。
所望する分極率(P−Pind)を得るためには、図10に示すようなコロナ電極41およびグリッド電極42の電圧、サンプルステージ45とコロナ電極41、グリッド電極42との距離等を調整することにより達成することが可能である。本発明において、所望する分極率を得ようとした場合には、電気機械変換膜に対して高い電界を発生させる必要があるため、上記の分極処理装置は有効である。
<<液滴吐出ヘッド>>
次に、本発明の電気機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッドについて説明する。図12に、ノズルを複数個、並列配置した液滴吐出ヘッドを示す。
本発明の液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出するノズル52と、該ノズル52が連通する加圧室51と、該加圧室内の液体を昇圧させる吐出駆動手段とを備えた液滴吐出ヘッドであって、吐出駆動手段は、加圧室51の壁(54)の一部を構成する振動板55を備えた電気機械変換素子60である。加圧室51は、基板54の一部を裏面からエッチングすることにより除去し、ノズル52が設けられたノズル板53を基板54に接合することにより形成される。
電気機械変換素子は、基板54上に、振動板55、密着層56、下部電極(第1の電極および第2の電極からなる。)57、電気機械変換膜58、および上部電極(第3の電極および第4の電極からなる。)59を順次積層した後、フォトリソグラフィによりパターニングすることにより形成される。
このようにして作製される液滴吐出ヘッドは、簡便な製造工程で作製できる。また、バルクセラミックスと同等の性能を持つ本発明の電気機械変換素子を備えているため、良好な吐出特性を得ることができる。
なお、図中、圧力室へインク等の液体を供給するための液体供給手段、流路、および流路に設定される流体抵抗等についての記述は省略する。
<<画像記録装置>>
次に、本発明の液滴吐出ヘッドを搭載した画像記録装置の一例について図13および図14を参照して説明する。図13に画像記録装置の斜視図を示す。図14に、画像記録装置の機構部の側面図を示す。
本画像記録装置は、本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した本発明を実施した液滴吐出ヘッド94、液滴吐出ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納し、本体81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明の液滴吐出ヘッド94を、複数のノズルを主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向が下方となるように装着している。またキャリッジ93には液滴吐出ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は、上方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッドにインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッドに供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、液滴吐出ヘッド94として、ここでは各色の別々の記録ヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを1個の記録ヘッドに複数配置されたものを用いても良い。
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
一方、給紙カセット84にセットした用紙83を液滴吐出ヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を液滴吐出ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向の下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
また、キャリッジ93の移動方向の右端側の記録領域を外れた位置には、液滴吐出ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段で液滴吐出ヘッド94をキャッピングされ、吐出口(ノズル)部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で液滴吐出ヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口(ノズル)からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口(ノズル)面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(図示せず)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、本画像記録装置は本発明の液滴吐出ヘッドを搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴の吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られ、画像品質が向上する。
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない限り、これらの実施例を適宜改変したものも本発明の範囲内である。
以下の実施例の電気機械変換素子は、電気機械変換膜のd31モードの歪み変形を利用して振動板を撓ませる構成のものである。図7を参照しながら、説明する。
<実施例1>
図7(a)に示すように、6インチシリコンウェハ(100)21に熱酸化膜22(膜厚1μm)を形成し、密着膜としてチタン膜(膜厚30nm)をスパッタ装置にて成膜した後にRTAを用いて750℃にて熱酸化した。引き続き、第1の電極23として白金膜(膜厚100nm)、第2の電極24としてSrRuO膜(膜厚60nm)をスパッタ成膜した。SrRuOをスパッタ成膜した時の基板加熱温度については300℃にて成膜し、その後、ポストアニール処理(550℃)をRTAにより行った。次に電気機械変換膜としてPb:Zr:Ti=115:53:47に調整された前駆体塗布液を準備し、スピンコート法により膜を成膜した。
PZTの前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上記酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.5モル/lにした。この液を用いて、スピンコートにより成膜工程、120℃での乾燥工程、500℃で熱分解工程を、3回行って3層のアモルファスPZT膜を形成した。3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度750℃)をRTA(急速熱処理)にて行った。このときPZTの膜厚は240nmであった。この工程を計8回(24層)実施し、約2μmのPZT膜25を得た。
次に、第3の電極26としてSrRuO膜(膜厚40nm)をスパッタ成膜し、第4の電極27としてPt膜(膜厚125nm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィ法でレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて図7(a)に示すようなパターンを作製した。
次に、第1の絶縁保護膜28として、ALD工法を用いてAl膜を50nm成膜した。このとき原材料のAlについては、TMA(トリメチルアルミニウム、シグマアルドリッチ社製)を用い、O(酸素)についてはオゾンジェネレーターによって発生させたOを用いた。これらを交互に装置内に導入することによりAlとOとの原子層を交互に積層させることで成膜を進めた。その後、エッチングによりコンタクトホール部を形成した。その後、第5の電極29および第6の電極30としてAlをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニングした。また、第5の電極29に接続するために共通電極PAD32を形成し、第6の電極30に接続するために個別電極PAD33を形成した。次に、第2の絶縁保護膜31としてSiをプラズマCVDにより500nm成膜し、電気機械変換素子を作製した。
この後、図8に示すコロナ帯電処理により分極処理を行った。コロナ帯電処理にはφ50μmのタングステンのワイヤーを用いている。分極処理の条件としては、処理温度80℃、コロナ電圧9kV、グリッド電圧2.5kV、処理時間30s、コロナ電極とグリッド電極との距離4mmとし、グリッド電極とステージとの距離4mmとした。個別電極間PAD33の距離は80μmとした。
<実施例2>
第2の電極24としてSrRuO膜を成膜温度250℃でスパッタリング装置により成膜し、膜厚を150nmとした以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
<実施例3>
第2の電極24としてSrRuO膜を成膜温度550℃でスパッタリング装置により成膜し、RTA処理でのポストアニールは行わず、膜厚を20nmとした以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
<実施例4>
第2の電極24としてSrRuO膜を成膜温度400℃でスパッタリング装置により成膜し、膜厚を30nmとした以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
<実施例5>
第2の電極24としてSrRuO膜を成膜温度500℃でスパッタリング装置により成膜し、膜厚を40nmとした以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
<比較例1>
第2の電極24としてSrRuO膜を室温でスパッタリング装置により成膜し、膜厚を15nmとした以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
<比較例2>
第2の電極24としてSrRuO膜を成膜温度600℃でスパッタリング装置により成膜し、RTA処理でのポストアニールは行わず、膜厚を200nmとした以外は、実施例1と同様に電気機械変換素子を作製した。
<<圧電特性>>
実施例1乃至実施例5、比較例1および比較例2で作製した電気機械変換素子について、第2の電極を成膜した直後もしくはRTA処理した直後、およびPZT電気機械変換素子成膜後に、XRDを用いてSRO(111)配向度、およびPZT(111)配向度を計算した。
また、作製した電気機械変換素子を、図11に示すようなP−Eヒステリシス曲線を測定し、電気特性、電気機械変換能(圧電定数d31)の評価を行った。圧電定数d31は、電界印加(150kV/cm)による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。
また、初期特性を評価した後に、耐久性試験後(1010回繰り返し印可電圧を加えた直後)の特性についても評価を実施した。表1にこれらの詳細な結果を示す。
薄膜技術によって形成されたPZT膜は、セラミック焼結体と同等の圧電特性を得ることが求められており、圧電定数d31は−120pm/V〜−160pm/Vであることが望ましい。
実施例1乃至実施例5については、表1に示すように、最大分極値Pmは、38μC/cm〜51μC/cmであり、分極率(P−Pind)は、8.5μC/cm以下であった。圧電特性d31においても、初期特性および耐久性試験後の特性、いずれも一般的なセラミック焼結体と同等であった。
一方、比較例1は、初期特性は十分な値を得られているが、耐久性試験後の圧電特性の劣化が実施例に比べて大きい。
また、比較例2は、若干初期特性としては一般的なセラミックス焼結体に比べて劣るが、耐久性試験後の圧電特性は実施例と同程度であった。
<<吐出特性>>
次に、実施例1乃至実施例5において作製した電気機械変換素子を用いて、図12に示す液滴吐出ヘッドをそれぞれ作製し、インクの吐出評価を行った。
圧力室のサイズは1000μm×60μm×75μm、流体抵抗部の抵抗を8.0E+12(Pa・s/cm)に設定した。
粘度を5cpに調整したインクを用いて、単純Push波形により−10V〜−30Vの印可電圧を加えたときの吐出状況を確認したところ、上記実施例1乃至実施例5について、全てのノズル孔からインクが吐出できていることを確認した。
21 基板
22 振動板
23 第1の電極
24 第2の電極
25 電気機械変換膜
26 第3の電極
27 第4の電極
28 第1の絶縁保護膜
29 共通電極
30 個別電極
30a コンタクトホール
31 第2の絶縁保護膜
32 共通電極PAD
33 個別電極PAD
特開2004−186646号公報 特開2004−262253号公報 特開2003−218325号公報 特開2007−258389号公報 特許第4099818号公報 特許第3249496号公報 特許第3472087号公報

Claims (9)

  1. 基板と、金属からなる第1の電極と、導電性酸化物からなる第2の電極と、電気機械変換膜と、導電性酸化物からなる第3の電極と、金属からなる第4の電極とを有する電気機械変換素子であって、
    前記金属からなる第1の電極は、(111)面に配向を有する白金族元素または白金族元素を含む合金からなり、
    前記第2の電極および第3の電極は、ペロブスカイト型の複合酸化物からなり、
    前記第2の電極は、X線回析法によるθ−2θ測定において、試料面に対してあおり角(χ)を変化させたときに、前記第2の電極において(110)に相当する2θの位置において、χ=0°付近での回析線のピーク強度をIoxide(110)とし、χ=35°付近のピーク強度をIoxide(111)とし、χ=45°付近のピーク強度をIoxide(100)としたとき、Ioxide(111)/(Ioxide(111)+Ioxide(100)+Ioxide(110))で表される(111)面の配向度が0.5以上0.99以下であり、
    前記電気機械変換膜は、(111)面の配向度が0.5以上0.98以下のペロブスカイト型の複合酸化物からなることを特徴とする電気機械変換素子。
  2. 前記第2の電極は、20nm以上150nm以下の膜厚であることを特徴とする請求項1に記載の電気機械変換素子。
  3. 前記第2の電極および第3の電極は、Sr(A)(1−x)Ru(B)(1−y)(ただし、A=Ba,Ca、B=Co,Ni、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5)からなることを特徴とする請求項1または2に記載の電気機械変換素子。
  4. 前記電気機械変換膜は、一般式ABO(ただし、A=Pb、Ba、Srを主成分とし、B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする。)で表されるペロブスカイト型の複合酸化物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電気機械変換素子。
  5. 電界強度150kV/cmでのP−Eヒステリシス測定における最大分極値Pmが、35μC/cm以上55μC/cm以下であること特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電気機械変換素子。
  6. 電界強度±150kV/cmにおけるヒステリシスループの測定において、最初の0kV/cmでの分極をPindとし、+150kV/cmまで電圧印加後、0kV/cmまで戻したときの0kV/cmでの分極をPとしたとき、分極率P−Pindは、10μC/cm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電気機械変換素子。
  7. 前記基板と前記金属からなる第1の電極との間に、振動板を備えたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電気機械変換素子。
  8. 液滴を吐出するノズルと、該ノズルが連通する加圧室と、該加圧室内の液体を昇圧させる吐出駆動手段とを備えた液滴吐出ヘッドであって、
    前記吐出駆動手段は、請求項1から7のいずれか1項に記載の電気機械変換素子を備えていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
  9. 請求項8に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする画像記録装置。
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