以下、図面及び表を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
なお、本明細書において、「あおり角」とは、電気機械変換膜に含まれる結晶の(lmn)(l、m、nは、0又は1)面が、(lmn)面と平行な面に対して傾きを有する際、(lmn)面と傾きを有する面との間で為す角度を指すものとする。
又、本明細書において、「回折強度のピーク」とは、XRD(X−ray−diffraction)測定による測定結果を示したグラフにおける、凸部の先端を指すものとする。従って、「回折強度のピーク」と「回折強度の最大値」とは必ずしも、一致しない。
又、本明細書において、「回折強度比」とは、『(lmn)面を、あおり角5°以上25°以下、又は−5°以上−25°以下の範囲内で傾けた面の回折強度のピーク』を、『(lmn)面の回折強度のピーク』で除した値を指すものとする。
又、本明細書において、「配向率」とは、XRD測定により得られた各配向面の回折強度のピークの総和に対する、特定配向面の回折強度のピークの比率を指すものとする。
〈第1の実施の形態〉
本実施の形態では、電気機械変換膜を用いた圧電素子について説明する。圧電素子は、インクジェット記録装置において使用する液滴吐出ヘッドの構成部品として用いることができる。
[電気機械変換素子]
まず、第1の実施の形態に係る電気機械変換素子の一例について説明する。図3は、電気機械変換素子2を用いた液滴吐出ヘッド1を例示する断面図である。又、図4は、電気機械変換素子2を例示する断面図である。
図3に示す様に、液滴吐出ヘッド1は、電気機械変換素子2と、ノズル板10と、圧力室基板20と、基板30と、振動板31を有する。ノズル板10には、インク滴を吐出するノズル11が形成されている。ノズル板10、圧力室基板20、基板30、及び振動板31により、ノズル11に連通する圧力室21(インク流路、加圧液室、加圧室、吐出室、液室等と称される場合もある)が形成されている。基板30は、インク流路の壁面の一部を形成している。
電気機械変換素子2は、密着層41と、下部電極42と、電気機械変換膜43と、上部電極44とを含んで構成され、圧力室21内のインクを加圧する機能を有する。密着層41は、下部電極42と振動板31との密着性を向上する機能を有する。
図4に示す様に、下部電極42は、第1の電極45及び第2の電極46の積層から成る。又、上部電極44は、第3の電極47及び第4の電極48の積層から成る。
電気機械変換素子2において、下部電極42と上部電極44との間に電界が印加されると、電気機械変換膜43が機械的に変位する。電気機械変換膜43の機械的変位にともなって、振動板31が例えば横方向(d31方向)に変形変位し、圧力室21内のインクを加圧する。これにより、ノズル11からインク滴を吐出させることができる。電気機械変換膜43の機械的変位の量(変位量)を表す1つの指標として、圧電定数(d31)が挙げられる。
なお、図5に示す様に、液滴吐出ヘッド1を複数個並設し、液滴吐出ヘッド3を構成することもできる。
密着層41の材料としては、例えば、Ti、TiO2、TiN、Ta、Ta2O5、Ta3N5等を用いることができる。
密着層41は、例えば、スパッタ法等の方法により形成することができる。スパッタ条件(成膜温度等)を、適宜調整することによって、密着層41上に形成される第1の電極45(例えば、Pt膜)、第1の電極45上に形成される電気機械変換膜(例えば、PZT膜)等の結晶配向性を制御することが可能である。
密着層41の膜厚は、約0.05μm〜1.00μmであることが好ましく、約0.1μm〜0.5μm程度であることが、より好ましい。
又、密着層41を形成する際、成膜温度は、100℃以上であることが好ましく、200℃以上400℃以下であることがより好ましい。
第1の電極45の材料としては、高い耐熱性を有する金属等を用いることができる。具体的には、低い反応性を有するルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)等の白金族金属や、これら白金族金属を含む合金材料等を用いることができる。特に、プラチナ(Pt)を用いることが好ましい。
第1の電極45は、例えば、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜法等の方法により形成することができる。成膜温度等を、適宜調整することによって、第1の電極45の結晶配向性を制御することができる。
第1の電極45の結晶配向性としては、(111)面の配向率が高いことが好ましい。(111)面の配向率を高めることで、第1の電極45上に形成される電気機械変換膜43においても、(111)面の配向率を高めることができる。
第1の電極45の膜厚は、約0.05μm〜1.00μmであることが好ましく、約0.1μm〜0.5μmであることが、より好ましい。
又、第1の電極45を形成する際、成膜温度は、200℃以上であることが好ましく、300℃以上550℃以下であることがより好ましい。
第2の電極46の材料としては、導電性酸化物を用いることができる。具体的には、化学式Sr(x)A(1−x)Ru(y(1−y))で記述され、A=Ba、Ca、 B=Co、Ni、 (y=0〜0.5)等の材料を用いることができる。又、化学式ABO3で記述され、A=Sr、Ba、Ca、La、 B=Ru、Co、Ni、を主成分とする複合酸化物があり、SrRuO3やCaRuO3、これらの固溶体である(Sr1−x Cax)O3のほか、LaNiO3やSrCoO3、更にはこれらの固溶体である(La, Sr)(Ni1−y Coy)O3 (y=1でも良い)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO2、RuO2も挙げられる。特に、SRO(ルテニウム酸ストロンチウム)を用いることが好ましい。
なお、SROを用いる場合、成膜後のSrとRuの組成比については、Sr/Ruが、0.82以上1.22以下であることが好ましい。Sr/Ruが、この範囲を満たさないと、SRO膜において、比抵抗が大きくなり、電極として十分な導電性が得られなくなる。
第2の電極46は、例えば、スパッタ法等の方法により形成することができる。成膜温度等を、適宜調整することによって、第2の電極46の結晶配向性を制御することができる。
第2の電極46の結晶配向性としては、(111)面の配向率が高いことが好ましい。具体的には、(111)面の配向率は、50%以上98%以下であることが好ましい。(111)面の配向率を高めることで、第2の電極46上に形成される電気機械変換膜43においても、(111)面の配向率を高めることができる。つまり、電気機械変換膜43の圧電特性を良好にすることができる。
第2の電極46の膜厚は、約20μm〜150μmであることが好ましく、約30μm〜50μmであることが、より好ましい。第2の電極46の膜厚が薄すぎると、電気機械変換膜43において、十分な変位量を得ることができず、繰り返しの電界印加により、変位劣化が生じ易くなってしまう。
第2の電極46成膜時の基板加熱温度は、300℃以上であることが好ましく、400℃以上550℃以下であることがより好ましい。室温での成膜は、第2の電極46の(110)面を、優先配向させてしまう。
第4の電極48は、第1の電極45と同様の材料、同様の方法で形成することができる。
第3の電極47は、第2の電極46と同様の材料、同様の方法で形成することができる。
なお、第3の電極47の膜厚は、約20μm〜80μmであることが好ましく、約30μm〜50μmであることが、より好ましい。第3の電極47の膜厚が薄すぎると、電気機械変換膜43において、十分な変位量を得ることができない。又、膜厚が厚すぎると、電気機械変換膜43の絶縁耐圧が悪化する。
電気機械変換膜43の材料としては、例えば、PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)を用いることができる。PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体である。例えば、PbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O3、一般にはPZT(53/47)と示されるPZT等を使用することができる。PbZrO3とPbTiO3の比率によって、PZTの特性を変化させることができる。
電気機械変換膜43としてPZTを使用する場合、例えば、出発材料に酢酸鉛水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを使用し、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ、PZT前駆体ゾルゲル溶液を作製しても良い。酢酸鉛水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムの混合量は、必要とするPZTの特性に応じて、当業者が適宜選択できるものである。
なお、金属アルコキシド化合物は、大気中の水分により容易に分解する。そのため、PZT前駆体ゾルゲル溶液に、安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等を添加してもよい。
電気機械変換膜43の材料として、例えば、チタン酸バリウム等を用いても構わない。この場合は、バリウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体ゾルゲル溶液を作製することが可能である。又、例えば、チタン酸バリウムとビスマスペロブスカイトの固溶体等を用いても構わない。
これら材料は一般式ABO3で記述され、A=Pb、Ba、Sr、Bi B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x、Ba)(Zr、Ti)O3、(Pb1−x、Sr)(Zr、Ti)O3、と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
電気機械変換膜43の結晶配向性としては、(111)面の配向率が高いことが好ましい。具体的には、(111)面の配向率は、50%以上99%以下であることが好ましい。(111)面の配向率が高い電気機械変換膜を利用して、電気機械変換素子を形成することで、液滴吐出ヘッド1の吐出信頼性を高めることができる。即ち、インク液滴を、液滴吐出ヘッド1のノズルから、正確に、吐出させることができ、又、安定して、連続吐出させることができる。
なお、(111)面の配向率が100%になってしまうと、印加電界の増大に伴って、変位量が途中飽和してしまう。
又、電気機械変換膜43において、(111)面以外の配向面、即ち、(100)面、又は(001)面は、各配向面と平行な面に対して、傾きを有することが好ましい(図6参照)。具体的には、あおり角が、5°以上25°以下、又は−5°以上−25°以下の範囲内であることが好ましく、15°、又は−15°であることがより好ましい。
又、電気機械変換膜43の回折強度比は、0.5以上5以下であることが好ましい。回折強度比が0.5以上5以下となるように、あおり角を制御することで、圧電特性に優れた電気機械変換膜43を得ることができる。
即ち、電気機械変換膜43に含まれる結晶は、(111)面の配向率が高く、且つ(100)面、又は(001)面が、各配向面と平行な面に対して、あおり角15°、又は−15°で、傾くことが好ましい。
基板30の材料としては、例えば、厚さ約100nm〜600nmの単結晶シリコンを用いることができる。(100)面、(110)面、(111)面、いずれの面方位を有するシリコン基板を用いても構わない。
振動板31は、例えば、CVD法、スパッタ法、ゾルゲル法等の方法により形成することができる。
振動板31の材料としては、例えば、シリコン(Si)、酸化シリコン(SiO2)、窒化シリコン(Si3N4)等の材料を、用いることができる。振動板31は、第1の電極45の下部に存在し、第1の電極45は、電気機械変換素子2に信号入力する際の共通電極として機能するため、これらの点を考慮すると絶縁体であることが好ましい。
又、振動板31の材料としては、熱膨張係数を考慮して、選定しても良い。具体的には、熱膨張係数が5×10−6[1/K]〜10×10−6[1/K]の範囲を満たす材料を用いることが好ましく、7×10−6[1/K]〜9×10−6[1/K]の範囲を満たす材料を用いることがより好ましい。これらの材料として、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等が挙げられる。
[圧電素子]
次に、第1の実施の形態に係る圧電素子の一例について説明する。圧電素子5は、上述の電気機械変換素子2を含む。図7(A)は、圧電素子5の断面図であり、図7(B)は、圧電素子5の上面図である。電気機械変換素子2に対して、絶縁保護膜、引き出し配線(図示せず)、共通電極配線、個別電極配線等を更に付加し、圧電素子5を形成する。
圧電素子5は、電気機械変換素子2、第1の絶縁保護膜51、第5の電極52、第6の電極53、第2の絶縁保護膜54、共通電極PAD57、個別電極PAD58を含む。
第5の電極52は、共通電極となっている。又、第6の電極53は、個別電極となっている。第2の絶縁保護膜54は、共通電極配線、及び個別電極配線を被覆し、保護層としての機能を有する。なお、共通電極配線用に作製されたものを共通電極PAD57、個別電極配線用に作製されたものを個別電極PAD58としている。
第1の絶縁保護膜51は、コンタクトホール55を有しており、コンタクトホール55を介して、下部電極42と第5の電極52とは電気的に接続され、又、上部電極44と第6の電極53とは電気的に接続されている。第2の絶縁保護膜54は、コンタクトホール56を有しており、コンタクトホール56を介して、共通電極と共通電極PADとは電気的に接続され、又、個別電極と個別電極PADとは電気的に接続されている。
コンタクトホール56は、圧電素子5の周囲に形成される。コンタクトホール55、56は、フォトリソグラフィ及びドライエッチングを、組み合わせて形成することができる。電気機械変換素子2は、第1の絶縁保護膜51及び第2の絶縁保護膜54により保護されているため、コンタクトホール56を形成しても、電気機械変換素子2に悪影響が及ぶことはない。
共通電極PAD57、及び個別電極PAD58の面積は、50μm×50μm以上であることが好ましく、100μm×300μm以上であることがより好ましい。PADの面積を広くする程、配線の機能を向上させ、適切な分極処理を行うことができる。
第1の絶縁保護膜51の材料としては、大気中の水分が透過し難い緻密な無機材料等を用いることが好ましい。このような材料を用いることで、成膜工程、及びエッチング工程において、電気機械変換素子2へのダメージを防ぐことができる。又、第1の絶縁保護膜51の材料としては、薄膜で高い保護性能を有する材料を用いることが好ましい。具体的には、酸化物、窒化物、炭化物、等が挙げられる。又、第1の絶縁保護膜51の材料としては、電極、電気機械変換膜、基板、振動板、等と密着性が高い材料を用いることが好ましい。具体的には、Al2O3、ZrO2、Y2O3、Ta2O3、TiO2等の酸化物材料が挙げられる。これらの酸化物材料を用いることで、ALD(Atomic Layer Deposition)法によるプロセス中のダメージを抑制し、膜密度の非常に高い第1の絶縁保護膜51を作製することができる。
第1の絶縁保護膜51は、例えば、蒸着法、ALD法等の方法により形成することができる。
第1の絶縁保護膜51の膜厚は、圧電素子5の保護層としての機能を、十分に確保できる程度に厚くする必要があり、且つ振動板31の機械的変位を阻害しない程度に薄くする必要がある。このため、膜厚は、約20nm〜100nmであることが好ましい。
なお、膜厚が100nmより厚い場合、振動板31の機械的変位は阻害され、液滴吐出ヘッド1の吐出効率は悪化する。一方、膜厚が20nmより薄い場合、圧電素子5の圧電特性が悪化する。
第1の絶縁保護膜51は、2層の積層構造であっても良い。この場合、1層目の絶縁保護膜の膜厚を、2層目の絶縁保護膜の膜厚と比較して厚くすることが好ましい。1層目の絶縁保護膜の膜厚は、約50nm以上であることが好ましい。又、2層目の絶縁保護膜の膜厚は、下部電極42、個別電極PAD58等に印加される電界によって、絶縁破壊されない程度に厚くすることが好ましい。即ち、2層目の絶縁保護膜の膜厚は、約200nm以上であることが好ましく、約500nm以上であることが、より好ましい。
2層目の絶縁保護膜の材料としては、酸化物、窒化物、炭化物、又はこれらの複合化合物等を用いることができる。特に、酸化シリコンを用いることが好ましい。
2層目の絶縁保護膜は、公知の成膜方法を用いることができ、例えば、CVD法、スパッタリング法等が挙げられる。電極が形成される部分に生じる段差を考慮した場合、等方的な成膜が可能であるCVD法を用いることが、より好ましい。
第2の絶縁保護膜54の材料としては、透湿性の低い、無機材料又は有機材料を用いることができる。膜厚が薄い場合であっても、十分な配線保護機能を有する無機材料を用いることが、より好ましい。無機材料として、具体的には、酸化物、窒化物、炭化物等が挙げられる。特に、Si3N4を用いることが好ましい。有機材料として、具体的には、ポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
第2の絶縁保護膜54の膜厚は、約200nm以上とすることが好ましく、約500nm以上とすることがより好ましい。
なお、第2の絶縁保護膜54の膜厚が、薄すぎると、保護層として十分に機能することができないため、配線材料の腐食による断線が発生し、液滴吐出ヘッド1の吐出信頼性が低下する。厚すぎると、振動板31の機械的変位を阻害してしまう。
第5の電極52及び第6の電極53の材料としては、金属等を用いることができる。具体的には、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、金(Au)、プラチナ(Pt)、イリジウム(Ir)等の金属や、銀(Ag)を含む合金材料、アルミニウム(Al)を主成分とする合金材料等を用いることができる。
第5の電極52及び第6の電極53は、例えば、スパッタ法、スピンコート法等を用いて形成することができる。
第5の電極52及び第6の電極53の膜厚は、約0.1μm〜20μmであることが好ましく、約0.2μm〜10μmであることが、より好ましい。
なお、膜厚が、薄すぎると第5の電極52及び第6の電極53の抵抗が大きくなり、十分な電流を流すことができなくなるため、液滴吐出ヘッド1の吐出信頼性が低下する。一方、膜厚が、厚すぎると成膜時間が長くなる。
又、共通電極(第5の電極52)の、コンタクトホール(例えば、10μm×10μm)56での接触抵抗は、10Ω以下であることが好ましく、5Ω以下であることがより好ましい。
又、個別電極(第6の電極53)の、コンタクトホール(例えば、10μm×10μm)56での接触抵抗は、1Ω以下であることが好ましく、0.5Ω以下であることがより好ましい。
[分極(poling)処理]
次に、圧電素子5に対する分極処理について説明する。
圧電素子5に対して、微小電界を印加しても、各結晶の圧電効果が相殺されてしまうため、圧電素子5に歪みを発生させることができない。しかし、圧電素子5に対して、ある程度強い電界を印加すると、各結晶の自発分極軸の方向が揃うため、圧電素子5に歪みを発生させることができる(分極処理)。自発分極軸の方向と電界印加方向とが、完全に一致すると、大きな圧電定数が得られる。
図8は、一般的なP−Eヒステリシス曲線である。分極処理が施された、即ち、一旦、圧電特性を付与された圧電素子5は、電界を取り除いても、分極が残る(残留分極Pr)。残留分極を打消すためには、逆方向の電界(抗電界Ec)を加えれば良い。分極処理が施された圧電素子5は、圧電素子としての機能を有することになる。
図9は、分極処理装置を例示する図である。
分極処理装置200は、コロナ電極201と、グリッド電極202と、サンプルステージ203と、コロナ電源204と、グリッド電源205を含む。コロナ電極201には、コロナ電源204から所定の電位が供給されている。又、グリッド電極202には、グリッド電源205から所定の電位が供給されている。
サンプルステージ203には、温度調節機能が付加されている。温度は、最大で350℃程度まで、昇温させることが可能であり、昇温させたサンプルステージ203上で、分極処理を行うことが可能である。又、サンプルステージ203は、分極処理を行うため、アースされ、例えばGNDとなっている。
なお、グリッド電極202には、メッシュ加工が施されているため、コロナ電極201に対して、強い電界を印加する際、コロナ放電により発生するイオンや電荷等を、高効率で、サンプルステージ203に対して、降り注ぐことができる。
コロナ電極201におけるコロナ放電の強弱は、コロナ電極201及びグリッド電極202に印加する電界の大きさ、サンプルステージ203とコロナ電極201との間の距離、及びサンプルステージ203とグリッド電極202との間の距離、等により適宜制御することが可能である。
図10は、コロナ放電を利用した分極処理を示す図である。
コロナ電極201に対して、電界が印加されると、コロナ放電により、大気中の分子205がイオン化され、陽イオン205a及び陰イオン205bが発生する。
陽イオン205aは、圧電素子5の共通電極PAD57、及び個別電極PAD58を介して、圧電素子5に注入される。電荷が圧電素子5の上部電極44に蓄積することにより、圧電素子5に対して分極処理が施される。
例えば、上部電極44に陽イオン205aが蓄積した場合、電気機械変換膜43の上部には陰イオンが、電気機械変換膜43の下部には陽イオンが発生する。この結果、圧電素子5に歪みが発生する。
圧電素子5に対して、分極処理を施すために必要な電界は、上部電極44(下部電極42)に蓄積する電荷の量(電荷量Q[C])に比例する。電荷量Q[C]は、1E−8[C]以上であることが好ましく、4E−8[C]以上であることがより好ましい。
電荷量Q[C]が、1E−8[C]未満である場合は、圧電素子5に対して、分極処理を十分に施すことができない。
[分極率]
次に、分極処理の前後における分極率について説明する。
図11は、分極処理前の状態を示すP−Eヒステリシスループである。又、図12は、分極処理後の状態を示すP−Eヒステリシスループである。横軸は、印加電界E(単位:[kV/cm])、縦軸は、分極P(単位:[μC/cm2])である。
最初に、印加電界E=0[kV/cm]とした場合の分極をPindとする。又、印加電界E=150[kV/cm]とし、更に印加電界E=0[kV/cm]とした場合の分極をPrとする。
分極Prと分極Pindとの差を、分極率(Pr−Pind)とする。P−Eヒステリシスループから読み取れる、分極率から、分極処理の状態を判断することができる。
分極率(Pr−Pind)は、10以下であることが好ましく、5以下であることが、より好ましい。分極率が、10より大きい場合、圧電素子5の圧電特性を良好にすることができない。即ち、分極率を5以下とすることで、初期変位が大きく、変位劣化が生じ難い高性能な圧電素子5を得ることができる。
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、第1の実施の形態に係る液滴吐出ヘッド1(図1参照)を搭載したインクジェット記録装置の例を示す。図13は、インクジェット記録装置を例示する斜視図である。図14は、インクジェット記録装置の機構部を例示する側面図である。
図13及び図14を参照するに、インクジェット記録装置4は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載した液滴吐出ヘッド1の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94、インクジェット記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。
記録装置本体81の下方部には、多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができる。又、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持する。キャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッド94を、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。又、キャリッジ93は、インクジェット記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は、上方に大気と連通する図示しない大気口、下方にはインクジェット記録ヘッド94へインクを供給する図示しない供給口を、内部にはインクが充填された図示しない多孔質体を有している。多孔質体の毛管力によりインクジェット記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。又、インクジェット記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドを用いてもよい。
キャリッジ93は、用紙搬送方向下流側を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、用紙搬送方向上流側を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。タイミングベルト100は、キャリッジ93に固定されている。
又、インクジェット記録装置4は、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101、フリクションパッド102、用紙83を案内するガイド部材103、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105、搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106、を設けている。これにより、給紙カセット84にセットした用紙83を、インクジェット記録ヘッド94の下方側に搬送される。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
用紙ガイド部材である印写受け部材109は、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83をインクジェット記録ヘッド94の下方側で案内する。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設けている。更に、用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
画像記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じてインクジェット記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、インクジェット記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を有する。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有する。キャリッジ93は、印字待機中に回復装置117側に移動されてキャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。又、記録途中等に、記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94の吐出口を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。又、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。更に、吸引されたインクは、本体下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、インクジェット記録装置4においては、液滴吐出ヘッド1の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94を搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られるため、画像品質を向上できる。
<実施例1>
本実施例では、第1の実施の形態に示す密着層41(チタン膜)、第1の電極45(Pt膜)、第2の電極46(SRO膜)、電気機械変換膜43(PZT膜)、第3の電極47(SRO膜)、第4の電極48(Pt膜)の成膜条件を変えて、圧電素子を実際に作製した。
本実施例では、7種類の圧電素子を作製した(表1参照)。各圧電素子を、サンプル1〜サンプル7とした。実施例のサンプルとして、サンプル1〜サンプル5を用いた。比較例のサンプルとして、サンプル6及びサンプル7を用いた。
サンプル1〜サンプル7に対応させて、Pt膜((111)面)の半値幅(FWHM)を測定した。又、SRO膜の膜厚を測定した。又、SRO膜において、(111)面の配向率を測定した。又、PZT膜において、(111)面の配向率を測定した。又、PZT膜において、回折強度比を測定した。又、圧電素子の最大分極(Pm)、分極率(Pr−Pind)、圧電定数(d31)を測定した。
[サンプル1]
まず、サンプル1について、説明する。
6インチのシリコンウェハに、熱酸化膜(膜厚1μm)を形成した。本実施例では、主に(100)面の面方位を有する単結晶シリコンウェハを使用した。
次に、密着層として、チタン膜(膜厚30nm)を、スパッタ装置にて成膜した。成膜温度は、350℃とした。なお、スパッタ装置は、1つのチャンバーに対して、複数のターゲットが備え付けられている。
次に、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いて、750℃で、チタン膜に対して熱酸化を行った。
次に、第1の電極として、白金膜(膜厚100nm)を、スパッタ装置にて成膜した。成膜温度は、550℃とした。
次に、第2の電極として、SRO膜(膜厚50nm)を、スパッタ装置にて成膜した。成膜温度は、450℃とした。次に、RTA装置を用いて、ポストアニール処理を550℃で行った。
次に、PZT前駆体溶液を作製するための、出発材料を準備した。出発材料としては、酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水を、メトキシエタノールに溶解した溶液を脱水した。
なお、これらの出発材料は、Pb(Zr0.53、Ti0.47)O3の化学両論組成に対し、鉛量が過剰になる組成となるように秤量した。これは、熱処理中の所謂、鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
次に、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解した溶液に対して、アルコール交換反応、及びエステル化反応を進行させた。
次に、これらの溶液を、混合し、PZT前駆体溶液を作製した。PZT前駆体溶液は、0.5mol/lとした。又、PZT前駆体溶液において、Pb、Zr、Ti、それぞれの組成比が、Pb:Zr:Ti=115:53:47となる様に調整した。
次に、電気機械変換膜として、PZT前駆体溶液を、スピンコート法により、成膜した。
次に、シリコンウェハを、ホットプレートに載せ、シリコンウェハ下面より第1の加熱処理を行った。昇温速度を、100℃/minとして、室温から120℃まで温度上昇させた。ホットプレートの温度が、120℃に到達した後も、溶液が乾燥するまで、加熱処理を行った。次に、第2の加熱処理を行った。500℃での加熱処理を行うことで、前駆体塗膜に含まれる有機物の熱分解処理を行った。次に、第3の加熱処理(結晶化処理)を行った。RTA装置を用いて、750℃の急速加熱処理を行うことで、加熱処理された前駆体塗膜を結晶化させた。結晶化処理された前駆体塗膜の膜厚は、240nmであった。
次に、PZT前駆体溶液の成膜、加熱処理、という工程を8回繰り返し行った。この結果、膜厚2μmのPZT膜が得られた。
次に、第3の電極として、SRO膜(膜厚40nm)を、スパッタ装置にて成膜した。成膜温度は、550℃とした。次に、第4の電極として、白金膜(膜厚125nm)を、スパッタ装置にて成膜した。成膜温度は、300℃とした。
次に、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、公知のフォトリソグラフィ法により、レジストパターンを形成した。レジストパターンに基づき、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いてドライエッチングを行った。
次に、第1の絶縁保護膜として、ALD法により、Al2O3膜(膜厚50nm)を、成膜した。TMA(シグマアルドリッチ社)と、オゾンジェネレーターによって発生させたO3とを交互に積層させることで、Al2O3膜の成膜を行った。
次に、第1の絶縁保護膜に対して、エッチングを行い、コンタクトホールを形成した。
次に、第5の電極及び第6の電極として、Al膜(膜厚1000nm)を、スパッタ装置にて成膜し、該Al膜に対して、エッチングを行った。
次に、第2の絶縁保護膜として、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法により、Si3N4膜(膜厚500nm)を、成膜した。
次に、第2の絶縁保護膜に対して、エッチングを行い、コンタクトホールを形成した。
これにより、サンプル1の圧電素子が作製できた。
作製した圧電素子に対して、分極処理装置200を用いて、コロナ放電による分極処理を行った。コロナ放電には、線径50μmのタングステンのワイヤーを用いた。
分極処理条件は、処理温度80℃、コロナ電界9kV、グリッド電界2.5kV、処理時間30s、コロナ電極とグリッド電極との間の距離4mm、グリッド電極とサンプルステージとの間の距離4mm、個別電極PAD間の距離80μmとした。
以下、サンプル2〜サンプル7について、説明する。サンプル1と同一の条件で行った工程の説明は省略し、異なる条件で行った工程についてのみ説明する。
[サンプル2]
密着層として、チタン膜の膜厚を30nmとし、成膜温度を350℃とした。第1の電極として、白金膜の成膜温度を200℃とした。第2の電極として、SRO膜の膜厚を20nmとした。
[サンプル3]
密着層として、チタン膜の成膜温度を350℃とした。第2の電極として、SRO膜の膜厚を150nmとし、成膜温度を550℃とした。又、ポストアニール処理を行わなかった。
[サンプル4]
密着層として、チタン膜の膜厚を50nmとし、成膜温度を300℃とした。第2の電極として、SRO膜の膜厚を60nmとし、成膜温度を300℃とした。
[サンプル5]
第1の電極として、白金膜の成膜温度を300℃とした。第2の電極として、SRO膜の膜厚を60nmとした。
[サンプル6]
密着層として、チタン膜の膜厚を50nmとし、成膜温度を200℃とした。第2の電極として、SRO膜の膜厚を180nmとし、成膜温度を600℃とした。又、ポストアニール処理を行わなかった。
[サンプル7]
密着層として、チタン膜の膜厚を15nmとし、成膜温度を450℃とした。第1の電極として、白金膜の成膜温度を150℃とした。第2の電極として、SRO膜の膜厚を10nmとし、成膜温度を室温とした。
[測定結果からの考察]
表1の測定結果に基づき、作製したサンプル1〜サンプル7における圧電素子としての性能を評価した。
〔Pt膜の半値幅(FWHM)〕
Pt膜((111)面)の半値幅(FWHM)は、X線ロッキングカーブ法により測定した。X線ロッキングカーブ(X−ray Rocking Curve)法とは、2θを、ある回折強度のピーク位置(Pt膜の場合、2θ=約39.7°付近、即ち、XRD法により(111)面の回折強度のピークが見られる位置)に固定し、ω方向の走査によって、結晶の配向性を評価する測定法である。半値幅から、測定対象の膜に含まれる結晶の配向の度合を判断することが可能である。
なお、半値幅とは、ある配向面での回折強度のピークが見られる位置で、2θを固定した状態で、ω方向の走査を行って得られる回折強度のピークをMAXとした場合、1/2MAXでのωの幅を表す(図15参照)。
表1より、半値幅は、2.5°以上7.0°以下であることが好ましく、3.0°以上4.5°以下であることがより好ましいことがわかった。この範囲以上になると、圧電素子として、十分な初期変位を得ることができない。又、この範囲以下になると、圧電素子として、変位劣化が生じ易くなる。
〔SRO膜の膜厚〕
表1より、SRO膜の膜厚は、20nm以上150nm以下であることが好ましいことがわかった。
〔SRO膜_(111)面の配向率〕
表1より、SRO膜_(111)面の配向率は、50%以上98%以下であることが好ましいことがわかった。
〔PZT膜_(111)面の配向率〕
表1より、PZT膜_(111)面の配向率は、50%以上99%以下であることが好ましいことがわかった。
〔PZT膜の回折強度比〕
表1より、PZT膜の回折強度比(Int(5°≦χ≦25°、−25°≦χ≦−5°)/Int(χ=0°))は、0.5以上5.0以下であることが好ましいことがわかった。
〔圧電素子の最大分極(Pm)、分極率(Pr−Pind)〕
表1より、最大分極(Pm)が35μC/cm2以上55μC/cm2以下であることが好ましいことがわかった。又、分極率(Pr−Pind)が10μC/cm2以下であることが好ましいことがわかった。
〔圧電定数(d31)〕
圧電定数は、電界印加によるPZT膜の変位量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。
表1より、サンプル1〜サンプル5において、電界印加が1回後の圧電定数は、−160[pm/V]≦d31≦−130[pm/V]の範囲を満たしていることがわかった。又、電界印加が1010回後の圧電定数も、−160[pm/V]≦d31≦−130[pm/V]の範囲を満たしていることがわかった。つまり、サンプル1〜サンプル5は、一般的なセラミック焼結体と同等の特性値を有する。これより、サンプル1〜サンプル5は、初期変位が大きく、変位劣化が生じ難いため、圧電素子としての性能が高いことが示唆される。
又、サンプル6では、電界印加が1回後の圧電定数は、d31=−101[pm/V]、電界印加が1010回後の圧電定数は、d31=−86[pm/V]であることがわかった。これより、サンプル6は、初期変位が小さく、変位劣化が生じ易いため、圧電素子としての性能が低いことが示唆される。
又、サンプル7では、電界印加が1回後の圧電定数は、d31=−152[pm/V]、電界印加が1010回後の圧電定数は、d31=−91[pm/V]であることがわかった。これより、サンプル7は、初期変位は、大きいが、変位劣化が生じ易いため、圧電素子としての性能が低いことが示唆される。
上述の測定結果から、成膜条件を適宜調整し、PZT膜に含まれる結晶の(111)面を適度に優先配向させ、且つ、(100)面、又は(001)面に対して、各配向面と平行な面に対して、約15°前後の傾きを与えることで、圧電特性に優れたPZT膜を得られることが示唆される。又、圧電特性に優れたPZT膜を使用して、圧電素子を作製し、該圧電素子を、液滴吐出ヘッド1に搭載することで、液滴吐出ヘッド1の吐出信頼性を高めることができることが示唆される。
なお、成膜条件を適宜調整する以外に、スパッタ成膜時のチャンバー環境を制御することによっても、PZT膜の圧電特性は変化する。従って、PZT膜の配向面は、様々な要因により変化する可能性があると考えられる。
〈実施例2〉
本実施例では、本実施の形態に係る電気機械変換膜(PZT膜)、電極(SRO膜)について、XRD法により、回折強度を測定し、最適なあおり角、電極の結晶配向性が電気機械変換膜の結晶配向性に与える影響を評価した。
[PZT膜の回折強度]
図16に、本実施の形態に係るPZT膜において、あおり角を変化させた場合における回折強度の測定結果を示す。又、図17に、従来のPZT膜において、あおり角を変化させた場合における回折強度の測定結果を示す。
図16及び図17では、2θ=21.8°に固定し、あおり角(χ)を−25°〜25°の範囲で変化させた。横軸はあおり角χ(単位:°)、縦軸は回折強度I(単位:任意単位)とする。なお、2θ=21.8°は、PZT膜の(001)面又は(100)面の回折強度のピークが得られる位置である。
図16より、χ=0°での回折強度のピークは、χ=±15°付近での回折強度のピークと比べて小さいことがわかった。又、5°以上25°以下、又は−5°以上−25°以下の範囲内に回折強度のピークが存在することがわかった。又、χ=±15°付近での回折強度のピークは、χ=0°での回折強度のピークと比較して、格段に大きいことがわかった。
一方、図17より、χ=0°での回折強度のピークは、極めて大きく、χ=±15°付近では、回折強度のピークは、ほぼ見られないことがわかった。
これより、本実施の形態に係るPZT膜において、最適なあおり角は、±15°であることが示唆される。
なお、図18に示す様に、(110)面(又は(101)面)が45°傾く(即ち、あおり角χ=45°)と、(001)面(又は(100)面)となる。従って、(001)面(又は(100)面)が、22.5°以上傾くと、主面として、(110)面(又は(101)面)が傾いたものであると考えられる。一般的に、ドメイン壁の移動だけを考慮した場合、(001)面(又は(100)面)が、最も変位量が大きくなる。従って、主面として、(001)面(又は(100)面)が傾いた方が変位量は大きくなり易いと考えられるため、主面として、(001)面(又は(100)面)が傾くことが好ましい。
[SRO膜の回折強度]
SRO膜の成膜条件を変えて、SRO膜の結晶配向性を制御し、更に、SRO膜と接するPZT膜の結晶配向性を調べた。
図19に、成膜温度600℃、成膜温度300℃という異なる成膜温度で形成したSRO膜において、あおり角を変化させた場合における回折強度の測定結果を示す。2θ=32.0°に固定し、あおり角(χ)を−10°〜50°の範囲で変化させた。横軸はあおり角χ(単位:°)、縦軸は回折強度I(単位:任意単位)とする。
又、図20に、これらのSRO膜と接するPZT膜における回折強度の測定結果を示す。2θを20°〜60°の範囲で変化させた。横軸は2θ(単位:°)、縦軸は回折強度I(単位:任意単位)とする。
SRO膜の成膜温度が、600℃の場合、χ=0°、45°において、回折強度のピークが見られなかった。一方、χ=35°付近において、回折強度のピークが見られた。
SRO膜の成膜温度が、300℃の場合、χ=45°において、回折強度のピークが見られなかった。一方、χ=0°、35°付近において、回折強度のピークが見られた。
χ=35°付近において、回折強度のピークが存在することは、(111)面の配向率が高いことを示す。又、χ=0°付近において、回折強度のピークが存在することは、(110)面の配向率が高いことを示す。
従って、成膜温度300℃で形成したSRO膜は、成膜温度600℃で形成したSRO膜と比べて、(110)面の配向率が高いことがわかった。つまり、成膜温度600℃で形成したSRO膜は、(111)面の配向率が高いことがわかった。
SRO膜の(111)面の配向率は、χ=0°付近での回折強度のピークをSRO_I(1 1 0)、χ=35°付近での回折強度のピークをSRO_I(1 1 1)、χ=45°付近での回折強度のピークをSRO_I(1 0 0)、として、ρ=(I(1 1 1):((111)面での回折強度のピーク))/(ΣI(h k l):(各配向面での回折強度のピークの総和))=(SRO_I(1 1 1))/((SRO_I(1 1 0))+(SRO_I(1 1 1))+(SRO_I(1 0 0)))と表すことができる。
成膜温度300℃で形成したSRO膜の(111)面の配向率は、成膜温度600℃で形成したSRO膜の(111)面の配向率に比べて小さくなるため、ρ_(300℃)<ρ_(600℃)と表すことができる。
又、図20より、成膜温度600℃で形成したSRO膜に接して形成されたPZT膜は、成膜温度300℃で形成したSRO膜に接して形成されたPZT膜と比べて、(111)面の配向率が高いことがわかった。つまり、SRO膜の結晶配向性は、PZT膜の結晶配向性に依存することが示唆される。
上述の測定結果から、最適なあおり角は、±15°付近であり、電極の結晶配向性は、成膜温度に依存し、且つ電気機械変換膜の結晶配向性に影響を及ぼすことが示唆される。
なお、電極として、例えばPtを用いた場合、Ptの結晶配向性も、電気機械変換膜の結晶配向性に影響を及ぼすと考えられる。
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の実施形態の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。