JP6304593B2 - 電気機械変換部材、液滴吐出ヘッド、画像形成装置、及び、電気機械変換素子の分極処理方法 - Google Patents

電気機械変換部材、液滴吐出ヘッド、画像形成装置、及び、電気機械変換素子の分極処理方法 Download PDF

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本発明は、電気機械変換部材、これを用いて液滴を吐出する液滴吐出ヘッド、その液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置、電気機械変換部材に用いられる電気機械変換素子の分極処理方法に関するものである。
一般に、プリンタ、ファクシミリ、複写機、プロッタ、或いはこれらの内の複数の機能を複合した画像形成装置としては、例えばインク等の液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置がある。
液滴吐出ヘッドとしては、インクなどの液体の液滴を吐出するノズルと、このノズルに連通し液体を収容した液室(圧力室、加圧室、吐出室などとも称される。)と、液室内の液体を加圧するための電気機械変換素子としての圧電素子とを備えた電気機械変換部材を有する構成が知られている。この液滴吐出ヘッドでは、圧電素子に電圧が印加されることにより、液室の壁の一部を形成する振動板を変形させるように振動し、その振動板の変形により液室内の液体が加圧され、ノズルから液滴を吐出させることができる。液滴吐出ヘッドには、圧電素子のたわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものが実用化されている。
たわみ振動モードの圧電アクチュエータに使用される圧電素子は、第1の駆動電極、圧電膜、第2の駆動電極とで構成される。液室を形成する基板上に振動板及び圧電素子を積層形成し、さらに、圧電素子に絶縁膜、第1、第2の駆動電極を外部と電気的に接続するための配線、端子電極を形成している。さらに、基板の圧電素子が形成された側の面には、圧電素子の変位を妨げないように圧電素子を覆う保持基板を接合している(特許文献1参照)。
前記圧電素子を構成する圧電膜の結晶は、その圧電素子の作製直後の状態では図19(a)に示すように分極の向きがランダムな状態となっている。その後、前記電圧印加を繰り返すことで、図19(b)に示すように圧電膜の結晶は分極の向きが揃ったドメインの集合体となってくる。この圧電膜の結晶の分極の向きは、圧電素子の分極特性及びその圧電素子を用いた液滴吐出ヘッドの特性の安定化のため、液滴吐出ヘッドの使用開始時から揃っていることが好ましい。
従来、液滴吐出ヘッドの使用開始前に、圧電素子の分極の向きを揃える分極処理を行う方法が提案されている。例えば、特許文献2、3には、圧電素子に実使用時の駆動電圧よりも大きい分極電圧を圧電素子に印加して圧電膜内に電界を発生させる分極処理を実施し、駆動電圧に対する圧電素子の変位量を安定化させる圧電素子の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、圧電膜の表面に間隙を介して対向するように、コロナ放電を発生させる放電電極を配置し、そのコロナ放電により圧電膜の表面に電荷を供給することにより、圧電膜内に電界を発生させて分極処理を行う方法が開示されている。
ところが、圧電素子の適切な分極処理を実現するためには、どのような方法であっても、圧電膜内に分極用の適切な電界を安定して形成することが必要である。すなわち、圧電素子を構成する駆動電極又はその駆動電極に接続された端子電極にプローブカードを直接接触させるなどして圧電素子に電圧を印加して圧電膜内に分極用の電界を形成する場合でも、放電により発生させた電荷を供給して圧電膜内に分極用の電界を形成する場合でも、あるいは更に別の方法で圧電膜内に分極用の電界を形成する場合でも、圧電膜内に適切な電界を安定して形成することが必要である。
なお、この課題は、液滴吐出ヘッドに用いられる電気機械変換部材に限らず、広く電気機械変換部材全般において生じる課題である。
上述した課題を解決するため、本発明は、基板上に設けられた電気機械変換素子と、前記電気機械変換素子の前記基板側の第1の駆動電極に接続される第1の端子電極と、前記電気機械変換素子の前記基板とは反対側の第2の駆動電極に接続される第2の端子電極と、前記電気機械変換素子を変位可能に覆うように前記基板に設けられる保持基板とを備えた電気機械変換部材において、前記電気機械変換素子は、前記第1の端子電極及び前記第2の端子電極のうちの一方である電荷供給用端子電極に接続される電荷受取部を前記保持基板に形成した後、該電荷受取部を介して前記電荷供給用端子電極に電荷を供給することにより、前記第1の駆動電極と前記第2の駆動電極との間に電界を形成して分極処理されたものであることを特徴とする。
本発明によれば、良好な分極特性を有する電気機械変換素子を用いた電気機械変換部材を提供できるという優れた効果が奏される。
実施形態に係る液滴吐出ヘッドの基本構成部分である液滴吐出部の一構成例を示す概略構成図である。 図1の液滴吐出部を複数個並べた列の断面図である。 基板上の振動板及び圧電素子の層構造の一例を示す断面図である。 実施形態に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子周辺のより詳細な平面図である。 実施形態に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子周辺の断面図であり、(a)は図4における断面1、(b)は図4における断面2を示す。 放電処理による電荷付与の様子を模式的に示す説明図である。 圧電素子の分極の原理を示す等価回路図である。 (a)及び(b)はそれぞれ、分極処理前及び分極処理後の圧電素子のP−Eヒステリシスループ特性の測定例を示す特性図である。 分極処理装置の外観図である。 分極処理装置の配線の説明図である。 図11は図9におけるA−A’線での断面図である。 個別電極間で電荷受取用電極膜を共通化した例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子周辺のより詳細な平面図である。 図12の例に係る液滴吐出ヘッドの電荷受取用電極膜及びアース用電極膜を切断した様子を示す平面図である。 単一ウェハ上に形成される複数のアクチュエータ基板間で電荷受取用電極膜同士及びアース用電極膜同士を共通化した例に係るウェハの平面図である。 比較例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子周辺のより詳細な平面図である。 前記比較例に係る液滴吐出ヘッドの圧電素子周辺の断面図であり、(a)は図15における断面1、(b)は図15における断面2を示す。 実施形態の液滴吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置の構成例を示す斜視図である。 実施形態の液滴吐出ヘッドを備えたインクジェット記録装置の機構部の構成例を示す側面図である。 (a)は分極処理前における圧電膜の分域の様子を示す説明図である。(b)は分極処理後における圧電膜の分域の様子を示す説明図である。 分極処理前、分極処理後及び熱履歴後それぞれにおける圧電素子のP−Eヒステリシスループ特性を示すグラフである。
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
はじめに、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの基本構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの基本構成部分である液滴吐出部10の一構成例を示す概略構成図である。
図1において、液滴吐出部10は、インクなどの液体の液滴を吐出するノズル11を有するノズル板12と、ノズル11に連通し液体を収容した液室13を形成する液室基板14(以下、単に「基板」という。)とを備えている。更に、基板14上には、振動板15と、振動板15を介して液室13内の液体を加圧するための電気機械変換素子としての圧電素子16とが設けられている。圧電素子16は、基板14側となる第1の駆動電極である共通電極(下部電極)161と、電気機械変換膜として、後述するPZT等の圧電膜162と、圧電膜162の基板14側とは反対側の第2の駆動電極である個別電極(上部電極)163とが積層されている。共通電極161は、後述の外部接続用の第1の端子電極である共通電極パッドに接続されている。また、個別電極163は、後述の外部接続用の第2の端子電極である個別電極パッドに接続されている。
図1の液滴吐出部10において、共通電極パッド及び個別電極パッドを介して圧電素子16の共通電極161と個別電極163との間には、所定の周波数及び振幅の駆動電圧が印加される。この駆動電圧が印加された圧電素子16が、基板14と圧電素子16との間にある振動板15を変形させるように振動する。この振動板15の変形により、液室13内の液体が加圧され、ノズル11から液滴を吐出させることができる。
なお、図1では、1つのノズル11からなる液滴吐出部10について説明したが、実際の液滴吐出ヘッドでは、図2に示すように、液滴吐出部10を複数個、列状に並べた構成を有している。
図3は、基板上の振動板及び圧電素子の層構造の一例を示す断面図である。
図4は、圧電素子16周辺のより詳細な平面図である。
図5(a)、(b)は、圧電素子16周辺のより詳細な断面図であり、(a)は図4における断面1、(b)は図4における断面2を示している。なお、図4では、第1の絶縁保護膜18及び第2の絶縁保護膜23の図示は省略している。
圧電素子16の共通電極161と基板14との間には、成膜により形成された振動板15が配置されている。この振動板15に接するように、圧電素子16を構成する、共通電極161、圧電膜162、個別電極163が積層される。個別電極163が形成された後、圧電膜162、個別電極163はエッチングにより個別化されている。圧電素子16が形成された後、第1の絶縁保護膜18が形成される。更に、共通電極161と第1の端子電極である共通電極パッド19とを接続する第1の配線部材としての共通電極引き出し配線20が形成される。また、個別電極163と第2の端子電極である個別電極パッド21とを接続する第1の配線部材としての個別電極引き出し配線22が形成される。第1の絶縁保護膜18は、共通電極161と個別電極引き出し配線22との間を電気的に絶縁している。また、共通電極161と共通電極引き出し配線20との間、及び、個別電極163と個別電極引き出し配線22との間は、第1の絶縁保護膜18に形成された開口部であるコンタクトホール18aを介して接続されている。
前記共通電極引き出し配線20及び個別電極引き出し配線22が形成された後、全体を覆うように第2の絶縁保護膜23が形成される。また、第2の絶縁保護膜23には複数の開口部23aが設けられ、共通電極パッド19、及び、個別電極パッド21が露出している。この第2の絶縁保護膜23が形成された後の基板14と圧電素子16と各種電極とを含む複合積層基板は、アクチュエータ基板25と呼ばれる。
このアクチュエータ基板25に対して、圧電素子16に空隙を介して非接触の状態で圧電素子16を覆うように設けられた構造体としての保持基板26が、接着剤で接合される。保持基板26は、圧電素子16が位置する部分に、空隙を介して圧電素子16を覆うための凹部26aが形成されている。また、保持基板26は、複数の圧電素子16に所定の振幅及び周波数からなるパルス駆動電圧を印加するための駆動用電気回路素子としての圧電素子駆動ICが配置される開口部26dを有している。この開口部26dに個別電極パッド21が露出しており、圧電素子駆動ICは、バンプ電極などを介して、個別電極パッド21に電気的に接続される。以下、この開口部26dを個別パッド用開口部26dという。また、保持基板26は、共通電極パッド19が露出している開口部(以下「共通パッド用開口部」という。)26cを有している。
なお、液滴吐出ヘッドを構成する、液体供給手段、流路、流体抵抗等については記載を省略したが、液滴吐出ヘッドに設けることのできる付帯設備を当然に設けることができる。
次に、アクチュエータ基板25に保持基板26を接合した後に行う圧電素子16の分極処理について説明する。
本実施形態の分極処理では、共通電極パッド19、個別電極パッド21がそれぞれ露出する共通パッド用開口部26c、個別パッド用開口部26dを有する保持基板26に対して、コロナ放電方式又はグロー放電方式の放電処理を行う。この放電処理により、個別電極パッド21には、所定極性(本実施形態ではプラス極性)の電荷が付与される。なお、本実施形態では、個別電極パッド21に放電電荷を付与して圧電素子16の個別電極163に所定の電圧を印加するが、個別電極163に所定の電圧を印加する方法には特に限定はない。したがって、例えば、個別電極パッド21に接触部材を接触させて、接触部材から個別電極パッド21を介して圧電素子16の個別電極163に所定の電圧を印加する方法であってもよい。
図6は、放電処理による電荷付与の様子を模式的に示す説明図である。
図7は、圧電素子16の分極の原理を示す等価回路図である。
図6において、コロナ電極71を用いて例えばコロナ放電させると、大気中の分子がイオン化して陽イオンと陰イオンが発生する。この発生したイオンのうち、陽イオンは、共通電極パッド19及び個別電極パッド21の両方に供給されることになる。個別電極パッド21に供給された電荷は、そのまま個別電極163に流れ込み蓄積される。一方、共通電極パッド19に供給された電荷の多くは、共通電極161の下側の振動板15や基板14を介してグランド(GND)に流れるが、一部の電荷は共通電極161に蓄積されるおそれがある。
適切な分極処理を実現する上では、共通電極161と個別電極163との間に安定して大きな電位差を発生させることが重要であり、共通電極161に蓄積される電荷はその妨げとなる。よって、共通電極161をアースへ確実に接続し、共通電極パッド19に供給された電荷をグランドに逃がして、共通電極161を安定してゼロ[V]に維持することが好ましい。
そこで、本実施形態においては、分極処理を行う前に、図5(b)に示すように、保持基板26の上面の全面を覆うように絶縁膜27を形成し、共通電極パッド19を露出させる共通パッド用開口部26cの近傍の絶縁膜27上に、電荷移送部としてのアース用電極膜28を形成している。この絶縁膜27の材料としては、例えば、SiOやSiN、Al等の材料を用いることができ、アース用電極膜28の材料としては、例えば、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Ir等の金属電極材料を用いることができる。
本実施形態では、アース用電極膜28上に金バンプ171bが作製され、共通電極パッド19上の金バンプ171bとワイヤボンディングで接続されている。ワイヤボンディングの方法には、特に限定はないが、例えば、共通電極パッド19上と、保持基板26のアース用電極膜28上とに、それぞれ金バンプ171bを作製し、これらをボンディングワイヤ171aで接合する。なお、共通電極パッド19と保持基板26上のアース用電極膜28との接続方法は、ワイヤボンディングに限られない。
本実施形態の分極処理時には、保持基板26上のアース用電極膜28が外部のグランドに接続される。本実施形態によれば、共通電極161に蓄積される電荷を保持基板26上のアース用電極膜28からグランドへ逃がすことができ、共通電極161をアースへ安定して落とすことができる。
特に、本実施形態においては、保持基板26上にアース用の電極膜28を形成し、このアース用の電極膜28を介してグランドに接続している。そのため、保持基板26の本体を電荷移送部として用いる構成、すなわち、共通電極パッド19と保持基板26の本体とを接続し、保持基板26本体を外部のグランドに接続する構成と比較して、共通電極161を十分にアースへ落とすことが容易である。これは、保持基板26の本体を電荷移送部として用いる場合、保持基板26の性質上、保持基板の導電性を高めるのに限界があり、共通電極161を十分にアースへ落とすには多くの制約があるからである。
なお、保持基板26の本体を電荷移送部として用いる場合、保持基板26は、共通電極パッド19に供給される電荷を、共通電極161の下側の振動板15や基板14を介してグランドへ流すルートよりも、グランドへ流しやすい電気抵抗値に設定するのが好ましい。この場合、保持基板26は、このような電気抵抗値を有する程度の導電性を備えていればよく、例えばSiを加工したものを用いることができる。
また、適切な分極処理を実現するために、共通電極161と個別電極163との間に安定して大きな電位差を発生させるためには、個別電極163に安定して多くの電荷を供給することが望まれる。本実施形態では、保持基板26の個別パッド用開口部26dから個別電極パッド21が露出しているので、放電によって発生した電荷が個別パッド用開口部26dから個別電極パッド21へ付与され、この電荷が個別電極163に供給される。
ここで、個別パッド用開口部26dの開口寸法を大きくし、これに併せて個別電極パッド21を大型化すれば、放電電荷を受け取る面積が大きくなり、より安定して多くの電荷を個別電極163へ供給することが可能となる。しかしながら、個別パッド用開口部26dや個別電極パッド21の大型化には多くの制約があるため限界がある。そのため、個別パッド用開口部26dから個別電極パッド21を介して個別電極163へ電荷を供給するだけでは、個別電極163に供給される電荷が不十分となり、共通電極161と個別電極163との間に安定して大きな電位差を発生させることができず、適切な分極処理が困難となるおそれがある。
そこで、本実施形態においては、分極処理を行う前に、図5(a)に示すように、保持基板26の上面の全面を覆うように絶縁膜27を形成し、個別パッド用開口部26dの近傍の絶縁膜27上に、電荷受取部としての電荷受取用電極膜29を形成している。絶縁膜27は、アース用電極膜28の下に位置する絶縁膜27と共通化することができる。電荷受取用電極膜29の材料としては、例えば、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Ir等の金属電極材料を用いることができ、アース用電極膜28と同じ材料とすれば、電荷受取用電極膜29及びアース用電極膜28を一度の処理で作製することができる。
本実施形態では、電荷受取用電極膜29上に金バンプ172bが作製され、個別電極パッド21上の金バンプ172bとワイヤボンディングで接続されている。ワイヤボンディングの方法には、特に限定はないが、例えば、個別電極パッド21上と、保持基板26の電荷受取用電極膜29上とに、それぞれ金バンプ172bを作製し、これらをボンディングワイヤ172aで接合する。なお、個別電極パッド21と保持基板26上の電荷受取用電極膜29との接続方法は、ワイヤボンディングに限られない。
保持基板26の寸法は、個別パッド用開口部26dや個別電極パッド21の寸法よりも大きいため、その保持基板上の電荷受取用電極膜29は大きな面積で形成することができる。これにより、放電で発生させた電荷をより多く電荷受取用電極膜29で受け取ることができるので、ボンディングワイヤ172aから個別電極パッド21を介して個別電極163に多くの電荷を供給することができる。よって、共通電極161と個別電極163との間に安定して大きな電位差を発生させることができ、適切な分極処理を容易に実現できる。
ここで、圧電膜162の分極処理の状態については、圧電素子のP−Eヒステリシスループ特性から判断することができる。
図8(a)及び(b)はそれぞれ、分極処理前及び分極処理後の圧電素子のP−Eヒステリシスループ特性の測定例を示すグラフである。
図8に示すように、±150[kV/cm]の電界強度かけてヒステリシスループを測定する。そして、最初の0[kV/cm]時の分極をPiniとし、+150[kV/cm]の電圧印加後、0[kV/cm]まで戻したときの0[kV/cm]時の分極をPrとしたときに、Pr−Piniの値を分極量差として定義する。この分極量差(Pr−Pini)から分極状態の良し悪しを判断することができる。
例えば、分極量差(Pr−Pini)は10[μC/cm]以下となっていることが好ましく、図8(b)に示すように5[μC/cm]以下となっていることがさらに好ましい。一方、分極量差(Pr−Pini)の値が、図8(a)に示すように10[μC/cm]よりも大きい場合は、圧電素子からなる圧電アクチュエータとして連続駆動後の変位劣化については、十分な特性が得られない。
コロナ電極電圧、グリッド電極電圧、サンプルステージ、コロナ電極とグリッド電極との間の距離等を調整することにより、所望の分極量差(Pr−Pini)を得ることが可能である。ただし、所望の分極量差(Pr−Pini)を得ようする場合には、通常、圧電素子の電極間に高い電界を発生させる必要がある。このような高い電界を発生させるには、放電による電荷を効率よく圧電素子の個別電極に供給することが重要となる。具体的には、個別電極間の電流や共通電極と個別電極との間の電流を測定したときにリーク電流量が大きいと、圧電素子の電極間に高い電界を発生させることができず、分極処理が進まないことが判明している。
個別電極間または個別電極と共通電極との間でのリーク電流量としては、圧電素子の電極間に50[V]の電圧を印加したときに1.0×10−8[A]以下であれば、圧電素子の電極間に高い電界を発生させることが可能である。より好ましくは、8.0×10−10[A]以下である。
次に、分極処理を行う分極処理装置の構成の一例を、図9〜図11を用いて説明する。
図9は、分極処理装置の外観図を示しており、図10は、分極処理装置の配線の説明図となっている。図11は図9におけるA−A’線での断面図を示す。
この分極処理装置は、コロナ電極71とグリッド電極73を具備しており、コロナ電極71、グリッド電極73はそれぞれコロナ電極用電源72、グリッド電極用電源74に接続されている。この際、図10に示すように、コロナ電極用電源72及びグリッド電極用電源74の各電極と接続されていない他方の端子は、例えば、サンプルステージ75のサンプルを設置する場所に接続することができる。また、後述のようにサンプルステージ75にアース線76を接続する場合には、アース線76に接続することができる。
コロナ電極71の構成は特に限定されるものではないが、例えば図に示すようにワイヤー形状を有する構成とすることができ、各種導電性の材料により構成することができる。
グリッド電極73は、コロナ電極71とサンプルステージ75との間に配置されている。グリッド電極73の構成は特に限定されるものではないが、例えば、メッシュ加工を施し、コロナ電極71に高電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷等を効率よく下のサンプルステージ75に降り注ぐように構成されていることが好ましい。
そして、サンプルステージ75には、圧電素子16を加熱できるように加熱機構が付加されている。圧電素子16を加熱する加熱機構の具体的手段は特に限定されるものではなく、各種ヒーターやランプ等を用いて加熱するように構成することができる。また、加熱機構は、サンプルステージ75内に設置することもでき、サンプルステージ75外から加熱するように設置することもできる。特に電極等との干渉を避けるため、サンプルステージ75内に設置されていることが好ましい。
サンプルステージ75に加熱機構を設置した場合の構成例について、図11を用いて説明する。なお、上述のように以下の構成に限定されるものではない。
図11(a)に示すように、サンプルステージ75は、サンプル保持部752内に、サンプル形状にあわせて形成されたサンプル保持用の溝751、及び、電熱線等からなる加熱機構753を有する構成とすることができる。また、後述のようにサンプルステージ75にアース線76を設けた構成とすることもできる。前記構成とすることにより、加熱機構753により、サンプルを特に均一に加熱しやすいため好ましい。特にサンプルを均一に加熱する観点から、サンプル保持部752は、金属により構成されていることが好ましく、例えばステンレス鋼や、インコネルをより好ましく用いることができる。特にサンプルを均一に加熱する観点からインコネルを特に好ましく用いることができる。
また、他の構成例として、図11(b)に示すように、サンプルステージ75を、サンプル保持部752と、加熱機構保持部754とに分けた構成とすることもできる。この場合、サンプル保持部752内には、サンプル保持用の溝751を形成することができる。また、加熱機構保持部754内には、電熱線等からなる加熱機構753を有する構成とすることができる。この場合、サンプル保持部752については伝熱性を高めるため、金属により構成されていることが好ましく、例えばステンレス鋼や、インコネルをより好ましく用いることができ、特に均一に加熱する観点からインコネルを特に好ましく用いることができる。図11(b)に示した構成においては、サンプル保持部752と加熱機構保持部754については、単に積層したのみの構成とすることもできるし、両者を接着剤や固定具等により固定することもできる。
なお、図11(a)、(b)では、サンプル保持用の溝751を設けた構成を例に説明しているが、該溝を設けず、サンプル保持部752上の任意の場所にサンプルを設置するように構成してもよい。
加熱機構の最大加熱温度は特に限定されるものではなく、製造する圧電素子16の圧電膜162のキュリー温度等に応じて所定の温度に加熱できるように構成されていれば良い。特に各種圧電素子に対応できるよう、最大350℃まで加熱できるように構成されていることが好ましい。
また、サンプルステージ上に配置された試料からの電荷が流れやすくなるように、試料を設置するサンプルステージ75はアース(接地)されていることが好ましい。すなわち、サンプルステージ75にはアース線76が接続されていることが好ましい。
コロナ電極やグリッド電極に印加する電圧の大きさや、試料と各電極間の距離は特に限定されるものではなく、十分に分極処理を施すことができるようにこれらを調整し、コロナ放電の強弱をつけることができる。
また、サンプルステージ75には、コロナ放電した時にサンプルに電荷等が照射(供給)されるエリアが限られるため、サンプル全体を処理できるようにサンプルの移動が可能な移動機構(不図示)が付加されている。移動手段は特に限定するものではない。
また、分極処理を行う際に必要な電荷量Qについては特に限定されるものではないが、電気機械変換素子に1.0×10−8[C]以上の電荷量が蓄積されることが好ましく、4.0×10−8[C]以上の電荷量が蓄積されることがさらに好ましい。係る範囲の電荷量を圧電素子16に蓄積させることにより、より確実に前記分極量差を有するように良好な分極処理を行うことができる。
ここで、前記特許文献4に記載された分極処理方法では、圧電膜162の表面が露出した状態で分極処理を行う必要がある。そのため、分極処理が実施された圧電素子に、300℃を超える高温の熱処理を伴う、第1の絶縁保護膜18、共通電極引き出し配線20、個別電極引き出し配線22、第2の絶縁保護膜23などを形成する工程が実施されることになる。さらに、100〜200℃の熱処理を伴う、保持基板26を接着剤で接合する工程も実施されることになる。このため、分極処理後の後工程での熱履歴等による影響で圧電素子が脱分極し、電気機械変換能の特性が分極処理の前の状態に戻ってしまうおそれがある。
本実施形態では、アクチュエータ基板25に保持基板26を接合した後の最終工程に近い段階で分極処理を行うことにより、後工程による熱履歴の影響による脱分極を防止できる。具体的には、分極処理は、以下の手順で行う。
アクチュエータ基板25に保持基板26を接合した後、保持基板26の共通パッド用開口部26cから露出する共通電極パッド19と、保持基板26上のアース用電極膜28とに、それぞれ金バンプ171bを作製する。そして、これらをボンディングワイヤ171aで接合する。また、保持基板26の個別パッド用開口部26dから露出する個別電極パッド21と、保持基板26上の電荷受取用電極膜29とにも、それぞれ金バンプ172bを作製する。そして、これらをボンディングワイヤ172aで接合する。
その後、保持基板26上のアース用電極膜28をグランドに接続するとともに、保持基板26の上面に上述の分極装置のコロナ電極71を対向させる。そして、コロナ電極71により、保持基板26上の電荷受取用電極膜29に向けて放電処理を行い、個別電極パッド21に電荷を供給する。このとき、本実施形態では、個別パッド用開口部26dからも、個別電極パッド21に電荷が直接供給されるので、より多くの電荷が供給される。
分極装置のコロナ電極71は、保持基板26上の電荷受取用電極膜29に対向するように配置するのが好ましい。このように配置することで、電荷付与対象である電荷受取用電極膜29に対して効率よく電荷を付与できるからである。保持基板26の個別パッド用開口部26dから露出する個別電極パッド21に対向するように配置してもよい。この場合、電荷付与対象である個別電極パッド21に対して効率よく電荷を付与できる。もちろん、電荷付与対象(電荷受取用電極膜29や個別電極パッド21)にコロナ電極71を対向配置させなくても、コロナ電極71で発生させた電荷が電荷付与対象に付与できれば、どのように配置させてもよい。また、コロナ電極71の長手方向は、個別電極パッド21の並び方向(ノズルの並び方向)に平行であってもよいし傾斜した方向であっても良いし、直交した方向であってもよい。
ここで、本実施形態においては、アース用電極膜28や共通パッド用開口部26cから共通電極パッド19にも電荷が供給されることになるが、この電荷は、アース用電極膜28を経由してグランドへ流れる。これにより、圧電素子16の個別電極163には、放電処理によるプラス極性の電荷が蓄積される一方、圧電素子16の共通電極161は安定してアースに落とされる結果、圧電素子16に大きな電位差を安定して発生させることができる。よって、良好な分極特性を有する圧電素子16を作製することができ、安定したインク吐出性能を実現できる。
上述した実施形態においては、各個別電極パッド21に対して保持基板26上の電荷受取用電極膜29が個別に形成された例であるが、図12に示すように各個別電極パッド21に対応する電荷受取用電極膜29は、互いに連結して共通化されたものであってもよい。この場合、分極処理工程以降のプロセスにおいて、図13に示すようにレーザ加工等により電荷受取用電極膜29を切断して、電荷受取用電極膜29の少なくとも一部を個別電極パッド21から電気的に離間させるのが好ましい。これにより、各個別電極パッド21に個別の駆動電圧を印加する際に、共通化された電荷受取用電極膜29の影響を回避して、安定した駆動を実現できる。
なお、本実施形態のように電荷受取用電極膜29が共通化されていない場合でも、分極処理工程以降のプロセスにおいてレーザ加工等により電荷受取用電極膜29を切断し、電荷受取用電極膜29の少なくとも一部を個別電極パッド21から電気的に離間させることは、安定した駆動に有利である。
また、アース用電極膜28についても、分極処理工程以降のプロセスにおいてレーザ加工等によりアース用電極膜28を切断し、アース用電極膜28の少なくとも一部を共通電極パッド19から電気的に離間させることは、安定した駆動に有利である。
また、図14に示すように、本実施形態では、複数のアクチュエータ基板25が同一基板(単一のウェハ141)上に形成されている状態で、各アクチュエータ基板25にそれぞれ保持基板26を接合し、各アクチュエータ基板25上の圧電素子に対して一括した分極処理(放電処理)を行ってもよい。このとき、図14に示すように、アクチュエータ基板25間で、電荷受取用電極膜29同士を共通化したり、アース用電極膜28同士を共通化したりすると、これらの電極膜28,29の作製工程が簡素化できるとともに、安定した分極処理の実現に有利となる。
特に、図14に示すように、アクチュエータ基板25間で電荷受取用電極膜29同士を共通化したりアース用電極膜28同士を共通化したりすれば、放電処理ではなく、プローブカード等の接触部材を電荷受取用電極膜29やアース用電極膜28に接触させて電荷供給あるいはアース接続する構成であっても、その接触箇所の数が少なくて済むので、大幅なコスト増大を伴わずに分極処理を実施できる。
複数のアクチュエータ基板25が同一基板(単一のウェハ141)上に形成されている状態で一括分極処理を行う場合でも、コロナ電極71で発生させた電荷が電荷付与対象に付与できれば、分極装置のコロナ電極71に対してウェハ141をどのように配置してもよい。
また、アクチュエータ基板25間で電荷受取用電極膜29同士、アース用電極膜28同士を共通化するにあたっては、図14に示すように、分岐箇所28a,29aや経路変更箇所28b,29bが発生することがある。これらの箇所28a,29a,28b,29bについては、アクチュエータ基板25ごとにウェハ141を分割する際の分割面に位置するように、電荷受取用電極膜29やアース用電極膜28を形成するのが好ましい。
次に、本実施形態の液滴吐出ヘッドを構成する材料、工法について具体的に説明する。
[基板]
基板14としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、通常100[μm]以上600[μm]以下の範囲の厚みを持つことが好ましい。面方位としては、(100)、(110)、(111)と3種あるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されており、本構成例においては、主に(100)の面方位を持つ単結晶基板を主に使用した。また、図1に示すような液室(圧力室)13を作製していく場合、エッチングを利用してシリコン単結晶基板を加工していく。この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。異方性エッチングとは結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝をほることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができることが分かっている。本構成例としては(110)の面方位を持った単結晶基板を使用することも可能である。但し、この場合、マスク材であるSiOもエッチングされてしまうため、この点も留意して利用することが好ましい。
[振動板]
図1に示すように電気機械変換素子としての圧電素子16によって発生した力を受けて、その下地の振動板15が変形して、液室(圧力室)13のインクなどの液体の液滴を吐出させる。そのため、振動板15としては所定の強度を有したものであることが好ましい。材料としては、Si、SiO、Siなどを例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法により作製したものが挙げられる。さらに図1に示すような共通電極161及び圧電膜162の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。特に、圧電膜としては、一般的に材料として、後述するPZTが使用される場合が多い。従って、振動板15の材料は、PZTの線膨張係数8×10−6(1/K)に近い5×10−6(1/K)以上10×10−6(1/K)以下の範囲の線膨張係数を有した材料が好ましく、さらには7×10−6(1/K)以上9×10−6(1/K)以下の範囲の線膨張係数を有した材料がより好ましい。具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等が挙げられる。これらの材料を、例えばスパッタ法又はゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。膜厚としては0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲が好ましく、0.5[μm]以上3[μm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲より小さいと、図1に示すような液室(圧力室)13の加工が難しくなる。また、前記範囲より大きいと振動板15が変形しにくくなり、インク滴などの液滴の吐出が不安定になる。
[共通電極(下部電極)]
共通電極(下部電極)161としては、金属もしくは金属と酸化物からなっていることが好ましい。ここで、どちらの材料も振動板15と共通電極161を構成する金属膜との間に密着層を入れて剥がれ等を抑制するように工夫している。以下に密着層含めて金属電極膜及び酸化物電極膜の詳細について記載する。
[密着層]
密着層は、例えば次のように形成する。Tiをスパッタ成膜後、成膜したチタン膜をRTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いて熱酸化して酸化チタン膜にする。熱酸化の条件は、例えば、650[℃]以上800[℃]以下の範囲の温度、1[分]以上30[分]以下の範囲の処理時間、及びO雰囲気である。酸化チタン膜を作成するには反応性スパッタでもよいがチタン膜の高温による熱酸化法が望ましい。反応性スパッタによる作製では、シリコン基板を高温で加熱する必要があるため、特別なスパッタチャンバ構成を必要とする。さらに、一般の炉による酸化よりも、RTA装置による酸化の方がチタンO膜の結晶性が良好になる。なぜなら、通常の加熱炉による酸化によれば、酸化しやすいチタン膜は、低温においてはいくつもの結晶構造を作るため、一旦、それを壊す必要が生じるためである。したがって、昇温速度の速いRTAによる酸化の方が良好な結晶を形成するために有利になる。また、Ti以外の材料としては、Ta、Ir、Ru等の材料を用いることもできる。密着層の膜厚としては、10[nm]以上50[nm」以下の範囲が好ましく、15[nm]以上30[nm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲以下の場合においては、密着性に懸念があり、また、この範囲以上になってくると、その密着層の上で作製する電極膜の結晶の質に影響が出てくる。
[金属電極膜]
金属電極膜の金属材料としては、従来から高い耐熱性と低い反応性を有する白金が用いられているが、鉛に対しては十分なバリア性を持つとはいえない場合もあり、イリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これらの合金膜も挙げられる。また、白金を使用する場合には下地(特にSiO)との密着性が悪いために、前述の密着層を先に積層することが好ましい。作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜が一般的である。膜厚としては、80[nm]以上200[nm]以下の範囲が好ましく、100[nm]以上150[nm]以下の範囲がより好ましい。この範囲より薄い場合においては、共通電極161として十分な電流を供給することができなくなり、液滴を吐出する際に不具合が発生する。さらに、この範囲より厚い場合においては、白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コストアップとなる。また、白金を材料とした場合においては、膜厚を厚くしていたったときに表面粗さが大きくなり、その上に作製する酸化物電極膜やPZTの表面粗さや結晶配向性に影響を及ぼして、インク吐出に十分な変位が得られないような不具合が発生する。
[酸化物電極膜]
酸化物電極膜の材料としては、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO、以下適宜「SRO」と略す。)を用いることが好ましい。ルテニウム酸ストロンチウムの一部を置換した材料、具体的には、Sr(1−x)Ru(1−y)(式中、AはBa、Ca、 BはCo、Ni、 x、y=0〜0.5)で表される材料についても好ましく用いることができる。酸化物電極膜は、例えばスパッタ法等の成膜方法により作製することができる。スパッタ条件によってSrRuOの薄膜の膜質が変わる。従って、特に結晶配向性を重視し、共通電極のPt(111)にならってSrRuOの膜についても(111)配向させるためには、成膜温度については500[℃]以上での基板加熱を行い、成膜することが好ましい。例えば特許文献2に記載のSRO成膜条件については、室温成膜でその後、RTA処理にて結晶化温度(650℃)で熱酸加している。この場合、SRO膜としては、十分結晶化され、電極としての比抵抗としても十分な値が得られるが、膜の結晶配向性としては、(110)が優先配向しやすくなり、その上に成膜したPZTについても(110)配向しやすくなる。
[圧電膜(電気機械変換膜)]
圧電膜162の材料としては、PZTを主に使用した。PZTとはジルコン酸鉛(PbTiO)とチタン酸(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O、一般PZT(53/47)と示される。PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。これら材料は一般式ABOで記述され、A=Pb、Ba、Sr、 B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x,Ba)(Zr,Ti)O、(Pb1−x,Sr)(Zr,Ti)O、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
圧電膜162の作製方法としては、スパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。その場合は、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。PZTをゾルゲル法により作製した場合、出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
基板14の全面に圧電膜(PZT膜)162を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になる。
圧電膜162の膜厚としては0.5[μm]以上5[μm]以下の範囲が好ましく、1[μm]以上2[μm]以下の範囲がより好ましい。この範囲より小さいと十分な変形(変位)を発生することができなくなり、この範囲より大きいと何層も積層させていくため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなる。
また、圧電膜162の比誘電率としては600以上2000以下の範囲になっていることが好ましく、さらに1200以上1600以下の範囲になっていることが好ましい。このとき、この範囲よりも小さいときには十分な変形(変位)特性が得られないといった不具合が発生する。一方、この範囲より大きくなると、分極処理が十分行われず、連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られないといった不具合が発生する。
[個別電極(上部電極)]
個別電極(上部電極)163としては、金属もしくは酸化物と金属からなっていることが好ましい。以下に酸化物電極膜及び金属電極膜の詳細について記載する。
[酸化物電極膜]
酸化物電極膜の材料等については、前述の共通電極(下部電極)161で使用した酸化物電極膜について記載したものと同様なものを挙げることができる。酸化物電極膜(SRO膜)の膜厚としては、20[nm]以上80[nm]以下の範囲が好ましく、40[nm]以上60[nm]以下の範囲がさらに好ましい。この膜厚範囲よりも薄いと初期変形(変位)や変形(変位)の劣化特性については十分な特性が得られない。また、この範囲を超えると、その後に成膜した圧電膜(PZT膜)162の絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。
[金属電極膜]
金属電極膜の材料等については、前述の共通電極(下部電極)161で使用した金属電極膜について記載したものと同様なものを挙げることができる。金属電極膜とで記載しており、膜厚としては30[nm]以上200[nm]以下の範囲が好ましく、50[nm]以上120[nm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲より薄い場合においては、個別電極163として十分な電流を供給することができなくなり、液滴を吐出する際に不具合が発生する。また、前記範囲より厚いと、白金族元素の高価な材料を使用する場合にコストアップとなる。また、白金を材料とした場合に膜厚を厚くしていたったときに表面粗さが大きくなり、絶縁保護膜を介して配線などを作製する際に、膜剥がれ等のプロセス不具合が発生しやすくなる。
[第1の絶縁保護膜]
成膜・エッチングの工程による圧電素子へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過しづらい材料を選定する必要があるため、第1の絶縁保護膜18の材料は緻密な無機材料とする必要がある。また、第1の絶縁保護膜18として有機材料を用いる場合は、十分な保護性能を得るために膜厚を厚くする必要があるため、適さない。第1の絶縁保護膜18を厚い膜とした場合、振動板15の振動を著しく阻害してしまうため、吐出性能の低い液滴吐出ヘッドになってしまう。薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物,窒化物,炭化膜を用いるのが好ましいが、第1の絶縁保護膜18の下地となる電極材料、圧電膜材料及び振動板材料と密着性が高い材料を選定する必要がある。また、第1の絶縁保護膜18の成膜法も、圧電素子16を損傷しない成膜方法を選定する必要がある。すなわち、反応性ガスをプラズマ化して基板上に堆積するプラズマCVD法やプラズマをターゲット材に衝突させて飛ばすことで成膜するスパッタリング法は好ましくない。第1の絶縁保護膜18の好ましい成膜方法としては、蒸着法、ALD(Atomic Layer Deposition)法などが例示できるが、使用できる材料の選択肢が広いALD法が好ましい。好ましい材料としては、Al,ZrO,Y,Ta,TiOなどのセラミクス材料に用いられる酸化膜が例として挙げられる。特にALD法を用いることで、膜密度の非常に高い薄膜を作製し、プロセス中でのダメージを抑制することができる。
第1の絶縁保護膜18の膜厚は、圧電素子16の保護性能を確保できる十分な薄膜とする必要があると同時に、振動板15の変形(変位)を阻害しないように可能な限り薄くする必要がある。第1の絶縁保護膜18の膜厚は、20[nm]以上100[nm]以下の範囲が好ましい。100[nm]より厚い場合は、振動板15の変形(変位)量が低下するため、吐出効率の低い液滴吐出ヘッドとなる。一方、20[nm]より薄い場合は、圧電素子16の保護層としての機能が不足してしまうため、圧電素子16の性能が前述の通り低下してしまう。
また、第1の絶縁保護膜18を2層にする構成も考えられる。この場合は、2層目の絶縁保護膜を厚くするため、振動板15の振動を著しく阻害しないように個別電極(上部電極)163付近において2層目の絶縁保護膜を開口するような構成も挙げられる。この場合、2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物,窒化物,炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができ、また、半導体デバイスで一般的に用いられるSiOを用いることもできる。2層の第1の絶縁保護膜18の成膜は任意の手法を用いることができ、例えばCVD法、スパッタリング法等が例示できる。電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。2層目の絶縁保護膜の膜厚は共通電極(下部電極)161と個別電極引き出し配線22との間に印加される電圧で絶縁破壊されない膜厚とする必要がある。すなわち第1の絶縁保護膜18に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定する必要がある。さらに、第1の絶縁保護膜18の下地の表面性やピンホール等を考慮すると、第1の絶縁保護膜18の膜厚は200[nm]以上必要であり、さらに好ましくは500[nm]以上である。
[配線]
共通電極引き出し配線20、個別電極引き出し配線22の材料は、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Irのいずれかから成る金属電極材料であることが好ましい。これらの配線の作製方法としては、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。膜厚としては、0.1[μm]以上20[μm]以下の範囲が好ましく、0.2[μm]以上10[μm]以下の範囲がさらに好ましい。この範囲より小さいと抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができなくなりヘッド吐出が不安定になる。一方、この範囲より大きいとプロセス時間が長くなる。また、共通電極161及び個別電極163に接続されるコンタクトホール(例えば10[μm]×10[μm])での接触抵抗としては、共通電極161に対して10[Ω]以下、個別電極163に対して1[Ω]以下が好ましい。さらに好ましくは、共通電極161に対して5[Ω]以下、個別電極163に対して0.5[Ω]以下である。この範囲を超えると十分な電流を供給することができなくなり、液滴を吐出する際に不具合が発生する。
共通電極引き出し配線20のうち、第2の絶縁保護膜23の開口部23aから露出している部分が下部用端子電極としての共通電極パッド19となる。また、個別電極引き出し配線22のうち、第2の絶縁保護膜23の開口部23aから露出している部分が上部用端子電極としての個別電極パッド21となる。
[第2の絶縁保護膜]
第2の絶縁保護膜23としての機能は、個別電極引き出し配線22や共通電極引き出し配線20の保護層としての機能を有するパシベーション層である。第2の絶縁保護膜23は、前述のように、個別電極パッド21を形成するための開口部23aと共通電極パッド19を形成するための開口部23aを除き、個別電極引き出し配線22や共通電極引き出し配線20を被覆する。これにより、電極材料に安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いることができる。その結果、低コストかつ信頼性の高い液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)とすることができる。第2の絶縁保護膜23の材料としては、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、透湿性の低い材料とする必要がある。無機材料としては、酸化物、窒化物、炭化物等が例示でき、有機材料としてはポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が例示できる。ただし、有機材料の場合には厚膜とすることが必要となるため、パターニングに適さない。そのため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料とすることが好ましい。特に、Al配線上にSiを用いることが、半導体デバイスで実績のある技術であるため好ましい。また、膜厚は200[nm]以上とすることが好ましく、さらに好ましくは500[nm]以上である。膜厚が薄い場合は十分なパシベーション機能を発揮できないため、配線材料の腐食による断線が発生し、インクジェットの信頼性を低下させてしまう。
また、圧電素子16上とその周囲の振動板15上に開口部をもつ構造が好ましい。これは、前述の第1の絶縁保護膜18の個別液室に対応した領域を薄くしていることと同様の理由である。これにより、高効率かつ高信頼性の液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが可能になる。
絶縁保護膜18、23で圧電素子16が保護されているため、第2の絶縁保護膜23の開口部の形成には、フォトリソグラフィー法とドライエッチングを用いることができる。また、第2の絶縁保護膜23の開口部により設けられる個別電極パッド21、共通電極パッド19の面積については、50×50[μm]以上になっていることが好ましく、さらに100×300[μm]以上になっていることが好ましい。この値に満たない場合は、十分な分極処理ができなくなり、連続駆動後の変形(変位)劣化については十分な特性が得られないといった不具合が発生する。
[保持基板]
基板14上に圧電素子16などの上述の部材を形成したアクチュエータ基板25は20〜100[μm]厚となるので、アクチュエータ基板25の剛性を確保するために保持基板26を接合している。保持基板26の材料は任意の材料を用いることができるが、アクチュエータ基板25の反りを防止するために熱膨張係数の近い材料を選定する必要がある。そのため、ガラス、シリコンやSiO、ZrO、Al等のセラミクス材料とすることが好ましい。保持基板26は、圧電素子16を空隙を介して覆うための凹部26a、複数の液室13に液体を供給する共通液体供給路の一部を形成する開口部(不図示)を有している。また、共通電極パッド19を露出させる共通パッド用開口部26c、個別電極パッド21を露出させる個別パッド用開口部26d、を有している。
次に、本実施形態の液滴吐出ヘッドの製造方法における放電を用いた分極処理のより具体的な実施例と、これらの実施例についての評価実験の結果について説明する。
〔実施例1〕
実施例1では、基板14となる6インチシリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1[μm])を形成した後、共通電極161を形成する。共通電極161の形成は、密着膜としてチタン膜(膜厚30[nm])を成膜温度350[℃]でスパッタ装置にて成膜した後、RTAを用いて750[℃]にて熱酸化した。これに引き続き、金属膜として白金膜(膜厚100[nm])を成膜温度550[℃]でスパッタ装置にて成膜した後、Tiをスパッタ装置にて成膜し、その後RTAを用いて750[℃]で処理した。
次に、圧電膜(電気機械変換膜)162を形成する。圧電膜162の形成は、Pb:Zr:Ti=115:49:51に調整された溶液を準備し、スピンコート法により膜を成膜した。具体的には、前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT前駆体溶液のPZT濃度は0.5[モル/リットル]とした。このPZT前駆体溶液を用いて、スピンコートにより成膜し、その成膜後、120[℃]での乾燥と500[℃]での熱分解とを行った。3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度750[℃])をRTA(急速熱処理)にて行った。このときPZTの膜厚は240[nm]であった。この工程を合計8回(24層)実施し、約2[μm]のPZT膜厚を得た。
次に、個別電極163を形成する。個別電極163の形成は、まず、酸化物膜としてのSrRuO膜(膜厚40[nm])と、金属膜としてのPt膜(膜厚125[nm])をスパッタ成膜する。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィー法でレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ社製)を用いて、前述の図5に示すようなパターンを作製した。
次に、第1の絶縁保護膜18として、ALD工法を用いてAl膜を50[nm]成膜した。このとき、Alの原材料としてはTMA(シグマアルドリッチ社)、Oの原材料としてはオゾンジェネレーターによって発生させたOを用い、AlとOとを交互に積層させることで成膜を進めた。その後、図4及び図5に示すように、エッチングによりコンタクトホール18aを形成した。
次に、共通電極引き出し配線20、個別電極引き出し配線22、共通電極パッド19、個別電極パッド21として、Alをスパッタ成膜し、エッチングにより個別化した。
次に、第2の絶縁保護膜23としてSiをプラズマCVDにより500[nm]成膜した。その後、エッチングにより開口部23aなどを形成し、図5に示すような、共通電極パッド19、個別電極パッド21が列状に配置されているアクチュエータ基板25を作製した。
次に、共通電極パッド19及び個別電極パッド21上にそれぞれ金バンプ171b,172bを作製し、保持基板26として、凹部26a、共通パッド用開口部26c、個別パッド用開口部26dが形成されているシリコン基板(400[μm])を接着剤にて、アクチュエータ基板25に接合した。その後、保持基板26の上面にSiOをプラズマCVDにより1[μm]成膜した後、Alをスパッタリングにより1[μm]成膜して、アース用電極膜28及び電荷受取用電極膜29を作製した。そして、アース用電極膜28及び電荷受取用電極膜29の上にそれぞれ金バンプ171b,172bを作製し、図5に示すように、金のワイヤボンディングにより、共通電極パッド19と保持基板26上のアース用電極膜28とを接続するとともに、個別電極パッド21と保持基板26上の電荷受取用電極膜29とを接続した。
この後、コロナ帯電処理により分極処理を行った。コロナ帯電処理にはφ50[μm]のタングステンのワイヤーをコロナ電極71として用いた。分極処理条件としては、処理温度を80[℃]、コロナ電圧を9[kV]、グリッド電圧を2.5[kV]、処理時間を30[s]、コロナ電極−グリッド電極間距離を4[mm]、グリッド電極−ステージ間距離を4[mm]とした。
〔実施例2〕
実施例2は、保持基板26上の電荷受取用電極膜29を個別電極パッド21間で共通化し、図12に示したアクチュエータ基板25及び保持基板26を作製した。なお、他の条件については、実施例1と同様である。
〔実施例3〕
実施例3は、アクチュエータ基板25間でアース用電極膜28同士及び電荷受取用電極膜29同士を共通化し、図14に示したアクチュエータ基板25及び保持基板26を作製した。なお、他の条件については、実施例1と同様である。
〔比較例〕
比較例は、保持基板26上にアース用電極膜28及び電荷受取用電極膜29を形成せず、図15及び図16に示したアクチュエータ基板25及び保持基板26を作製した。なお、他の条件については、実施例1と同様である。
〔評価実験〕
以上説明した実施例1〜3及び比較例に関して、電気特性(分極量率)、変位特性(圧電定数)の評価を行った。変位特性の評価については、基板裏面側から掘加工を行い、電界印加(150[kV/cm])による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから圧電定数を算出した。また、初期特性を評価した後に、耐久性(1×1010回繰り返し印加電圧を加えた直後の特性)の評価を実施した。評価結果は、下記の表1に示すとおりである。
Figure 0006304593
実施例1〜3については、初期特性、耐久性試験後の結果についても、一般的なセラミック焼結体と同等の特性を有していた。具体的には、圧電定数の初期特性が120〜160[pm/V]で、耐久性試験後においても初期特性からの変化が少なく、良好な電気機械変換能を示した。
これに対し、比較例では、圧電定数の初期特性については、120〜160[pm/V]で、一般的なセラミック焼結体と同等の特性を有していたが、耐久性試験後は、初期特性からの変化が見られた。これは、個別電極163への電荷供給が個別パッド用開口部26dから個別電極パッド21へ付与される電荷のみであるため、個別電極163に供給される電荷が不足して、共通電極161と個別電極163と間の電位差が不十分であったためだと考えられる。
また、実施例1〜3のアクチュエータ基板25及び保持基板26を用いて作製した液滴吐出ヘッドにより液滴吐出評価も行った。粘度を5[cp]に調整したインクを用いて、単純プッシュ波形により−10[V]〜−30[V]の電圧を印加したときの吐出状況を確認したところ、全てのノズル11からインク液滴を吐出できていることを確認した。
なお、上述の実施形態では、コロナ放電により発生した電荷をもちいて分極処理を行う場合を用いて説明したが、グロー放電により発生した電荷をもちいて分極処理を行う場合も、同様の構成で、同様の効果が得られる。
次に、本実施形態に係る液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置であるインクジェット記録装置について説明する。
図17は液滴吐出ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の構成例を示す斜視図であり、図18は同記録装置の機構部の構成例を示す側面図である。
インクジェット記録装置100は、装置本体の内部に印字機構部103等を収納し、装置本体の下方部には前方側から多数枚の記録紙130を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい)104を抜き差し自在に装着されている。また、記録紙130を手差しで給紙するために開かれる手差しトレイ105を有している。給紙カセット104あるいは手差しトレイ105から給送される記録紙130を取り込み、印字機構部103によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ106に排紙する。
印字機構部103は、主走査方向に移動可能なキャリッジ101とキャリッジ101に搭載した液滴吐出ヘッド及び液滴吐出ヘッドに対してインクを供給するインクカートリッジ102等で構成される。また、印字機構部103は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド107と従ガイドロッド108とでキャリッジ101を主走査方向に摺動自在に保持する。このキャリッジ101にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液滴吐出ヘッドを複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ101には液滴吐出ヘッドに各色のインクを供給するための各インクカートリッジ102を交換可能に装着している。
インクカートリッジ102は上、方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッドへインクを供給する供給口が設けられている。インクカートリッジ102の内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、液滴吐出ヘッドとしては各色の液滴吐出ヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の液滴吐出ヘッドでもよい。
ここでキャリッジ101は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド107に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド108に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ101を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ109で回転駆動される駆動プーリ110と従動プーリ111との間にタイミングベルト112を張装し、このタイミングベルト112をキャリッジ101に固定している。これにより、主走査モータ109の正逆回転によりキャリッジ101が往復駆動される。
一方、給紙カセット104にセットした記録紙130を液滴吐出ヘッドの下方側に搬送するために、給紙カセット104から記録紙130を分離給装する給紙ローラ113及びフリクションパッド114と、記録紙130を案内するガイド部材115とを有する。また、給紙された記録紙130を反転させて搬送する搬送ローラ116と、この搬送ローラ116の周面に押し付けられる搬送コロ117及び搬送ローラ116からの記録紙130の送り出し角度を規定する先端コロ118とを有する。搬送ローラ116は副走査モータによってギヤ列を介して回転駆動される。
そして、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ116から送り出された記録紙130を液滴吐出ヘッドの下方側で案内するため用紙ガイド部材である印写受け部材119を設けている。この印写受け部材119の用紙搬送方向下流側には、記録紙130を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ120と拍車121とを設けている。さらに記録紙130を排紙トレイ106に送り出す排紙ローラ123と拍車124と、排紙経路を形成するガイド部材125,126とを配設している。
前記構成のインクジェット記録装置100で記録時には、キャリッジ101を移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッドを駆動することにより、停止している記録紙130にインクを吐出して1行分を記録し、その後、記録紙130を所定量搬送した後、次の行の記録を行う。記録終了信号または記録紙130の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ記録紙130を排紙する。
また、キャリッジ101の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、液滴吐出ヘッドの吐出不良を回復するための回復装置127を配置している。回復装置127はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段とを有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置127側に移動されてキャッピング手段で液滴吐出ヘッドをキャッピングして吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で液滴吐出ヘッド1の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。このように、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。このように、本実施形態のインクジェット記録装置100においては回復装置127を備えているので、液滴吐出ヘッドの吐出不良が回復されて、安定したインク滴吐出特性が得られ、画像品質を向上することができる。
なお、本実施形態では、インクジェット記録装置100に液滴吐出ヘッドを使用した場合について説明したが、インク以外の液滴、例えば、パターニング用の液体レジストを吐出する装置に液滴吐出ヘッド1を適用してもよい。
以上、本実施形態のインクジェット記録装置(画像形成装置)100では、本発明に係る液体吐出ヘッドを記録ヘッドとして備えるので、高画質の画像を安定して形成することができる。なお、インクジェット記録装置では、媒体を搬送しながら液滴吐出ヘッドによりインク滴を用紙に付着させて画像形成を行う。ここでの媒体は「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。また、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液滴を吐出して画像形成を行う装置を意味する。そして、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する)ことをも意味する。また、インクとは、所謂インクに限るものではなく、吐出されるときに液滴となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる液体の総称として用いる。
また、画像形成装置には、特に限定しない限り、シリアル型画像形成装置及びライン型画像形成装置のいずれも含まれる。
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
基板14上に設けられた圧電素子16等の電気機械変換素子と、前記電気機械変換素子の前記基板側の第1の駆動電極(共通電極161等)に接続される共通電極パッド19等の第1の端子電極と、前記電気機械変換素子の前記基板とは反対側の第2の駆動電極(個別電極163等)に接続される個別電極パッド21等の第2の端子電極と、前記電気機械変換素子を変位可能に覆うように前記基板に設けられる保持基板26とを備えた電気機械変換部材において、前記電気機械変換素子は、前記第1の端子電極及び前記第2の端子電極のうちの一方である電荷供給用端子電極(個別電極パッド21等)に接続される電荷受取用電極膜29等の電荷受取部を前記保持基板に形成した後、該電荷受取部を介して前記電荷供給用端子電極に電荷を供給することにより、前記第1の駆動電極と前記第2の駆動電極との間に電界を形成して分極処理されたものであることを特徴とする。
本態様における電気機械変換素子の分極処理では、第1の端子電極及び第2の端子電極のうちの一方である電荷供給用端子電極に電荷を供給することにより、電気機械変換素子の第1の駆動電極と第2の駆動電極との間に電界が形成されて分極処理がなされる。この分極処理を適切に行うためには、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが重要である。
例えば放電で発生させた電荷を電荷供給用端子電極の露出面に直接付与して電荷供給する場合、電荷供給用端子電極の寸法を大きくして露出面の面積が広がれば、放電で発生させた電荷を電荷供給用端子電極でより多く受け取ることができ、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが可能となる。また、例えばプローブ等の接触部材を電荷供給用端子電極の露出面に接触させて接触部材から電荷を供給する場合、電荷供給用端子電極の寸法を大きくして露出面の面積が広がれば、その露出面に接触部材を接触させる作業が容易になる。また、電荷供給用端子電極の露出面に接触部材を接触させた後、その接触状態を分極処理の間ずっと安定して維持することも容易になる。よって、この場合も、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが可能となる。
しかしながら、いずれの場合であっても、電荷供給用端子電極の寸法を大きくする必要があるところ、電荷供給用端子電極の寸法を大きくするには多くの制約がある。特に、熱履歴による脱分極の影響を避けるために保持基板接合等の工程の後に分極処理しようとする場合、電荷供給用端子電極に電荷を供給するための電極面(露出面)が非常に小さくなる。そのため、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給できるほど、電荷供給用端子電極の寸法を大きくすることは困難な場合が多い。
本態様においては、保持基板上に電荷受取部を形成し、この電荷受取部と電荷供給用端子電極とを接続してうえで、保持基板上の当該電荷受取部から電荷供給用端子電極へ電荷を供給る。保持基板の寸法は、電荷供給用端子電極に比べて大きいため、その保持基板上に大きな電荷受取部を形成することは容易である。よって、例えば放電で発生させた電荷を電荷供給用端子電極の露出面に直接付与して電荷供給する場合であれば、放電で発生させた電荷を大きな電荷受取部で受け取ることができ、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが可能となる。また、例えばプローブ等の接触部材を電荷供給用端子電極の露出面に接触させて接触部材から電荷を供給する場合であれば、大きな電荷受取部に接触部材を接触させる作業は容易である。また、大きな電荷受取部に対して接触部材を接触させた後、その接触状態を分極処理の間ずっと安定して維持することも容易である。よって、この場合も、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが可能となる。
したがって、保持基板接合等の工程の後に分極処理する場合でも、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給でき、適切な分極処理を実現できる。
しかも、本態様では、電気機械変換素子、第1の端子電極、第2の端子電極を形成した基板に保持基板を接合した後の、最終工程に近い段階で分極処理を行うことができるので、後工程による熱履歴の影響による脱分極を回避でき、良好な電気機械変換素子を得ることができる。
(態様B)
前記態様Aにおいて、前記電気機械変換素子は、前記保持基板に対向するよう配置された放電電極で発生させた放電電荷を該電荷受取部に付与することにより前記電荷供給用端子電極に電荷を供給して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする。
本態様によれば、放電電極で発生させた電荷を電荷受取部から電荷供給用端子電極へ供給し、電気機械変換素子の第1の駆動電極と第2の駆動電極との間に必要な電界を形成して分極処理を行う。このような放電による分極処理は、端子電極に直接接触させるプローブカード等の接触部材が不要であり、また、簡易な構成で複数の電気機械変換素子に対して一括して分極処理できるので、製造コストの低減を図ることができる。
(態様C)
前記態様Bにおいて、前記保持基板は、前記電荷供給用端子電極の少なくとも一部を露出するための個別パッド用開口部26d等の電荷供給用開口部を有することを特徴とする。
これによれば、放電電極で発生させた電荷を、電荷受取部からだけでなく、電荷供給用開口部からも電荷供給用端子電極に付与することができる。よって、より多くの電荷を電荷供給用端子電極に供給できるので、適切な分極処理を実現できる。
(態様D)
前記態様A〜Cのいずれかの態様において、前記基板上に前記電気機械変換素子が複数設けられており、各電気機械変換素子は、電気機械変換素子ごとに個別に設けられた電荷受取部を前記保持基板に形成した後、対応する電荷受取部を介して電荷を前記電荷供給用端子電極へ供給して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする。
これによれば、複数の電気機械変換素子に対して個別に電荷供給して、各電気機械変換素子の分極処理を行うことができる。
(態様E)
前記態様A〜Cのいずれかの態様において、前記基板上に前記電気機械変換素子が複数設けられており、各電気機械変換素子は、電気機械変換素子間で共通の電荷受取部を前記保持基板に形成した後、該共通の電荷受取部を介して電荷を前記電荷供給用端子電極へ供給して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする。
これによれば、複数の電気機械変換素子に対して一括して電荷供給して、各電気機械変換素子の分極処理を行うことができる。
(態様F)
前記態様A〜Eのいずれかの態様において、前記電気機械変換素子は、前記第1の端子電極及び前記第2の端子電極のうち前記電荷受取部に接続されない共通電極パッド19等のアース用端子電極に接続されるアース用電極膜28等の電荷移送部を前記保持基板26に形成し、該電荷移送部をアースと接続した状態で前記電荷受取部を介して前記電荷供給用端子電極に電荷を供給して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする。
分極処理を適切に行うためには、アース用端子電極を安定してアースに落とすことが有効である。アース用端子電極をアースする方法としては、アース接続されたプローブカード等の接触部材をアース用端子電極に接触させる方法が考えられる。しかしながら、熱履歴による脱分極の影響を避けるために保持基板接合等の工程の後に分極処理しようとする場合、アース用端子電極との電気的接続をとるための電極面(露出面)が非常に小さくなる。そのため、アース用端子電極の露出面に接触部材を接触させる作業が煩雑となる。また、アース用端子電極の露出面に接触部材を接触させた後、その接触状態を分極処理の間ずっと安定して維持することも難しい。よって、この方法では、アース用端子電極を安定してアースすることが困難である。
本態様においては、保持基板上に電荷移送部を形成し、この電荷移送部とアース用端子電極とを接続したうえで、保持基板上の当該電荷移送部をアースに接続することにより、アース用端子電極をアース(接地)する。保持基板の寸法は、アース用端子電極に比べて大きいため、その保持基板上の電荷移送部をアースに接続する作業は容易であり、また、分極処理中に接触状態を安定して維持することも容易である。よって、保持基板接合等の工程の後に分極処理する場合でも、アース用端子電極を安定してアースすることができ、適切な分極処理を実現できる。
(態様G)
前記態様Fにおいて、前記電気機械変換素子は、互いに異なる電気機械変換部材を構成する複数の電気機械変換素子をウェハ141等の同一基板上に形成した後、各電気機械変換素子の保持基板26に電気機械変換部材間(アクチュエータ基板25間)で共通の電荷移送部を形成して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする。
これによれば、共通の電荷移送部をアースに接続するだけで、各電気機械変換素子のアース用端子電極を一括してアースに落とすことができる。
(態様H)
前記態様A〜Gのいずれかの態様において、前記電気機械変換素子は、互いに異なる電気機械変換部材を構成する複数の電気機械変換素子をウェハ141等の同一基板上に形成した後、各電気機械変換素子の保持基板26に電気機械変換部材間(アクチュエータ基板25間)で共通の電荷受取部を形成して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする。
これによれば、共通の電荷受取部に対して電荷を付与することにより、各電気機械変換素子の電荷供給用端子電極に一括して電荷を供給できる。
(態様I)
前記態様G又はHにおいて、前記共通の電荷移送部又は前記共通の電荷受取部は、その分岐箇所28a,29a又は経路変更箇所28b,29bが前記同一基板を電気機械変換部材ごとに分割するときの分割面上に位置するように形成されることを特徴とする。
これによれば、電気機械変換部材に設けられる保持基板上に残る電荷移送部や電荷受取部を少なく抑えることができる。
(態様J)
前記態様A〜Iのいずれかの態様において、前記電荷供給用端子電極に接続される電荷受取部は、その少なくとも一部が前記分極処理後に前記電荷供給用端子電極から電気的に離間されることを特徴とする。
これによれば、電荷供給用端子電極に駆動電圧を印加する際に電荷受取部の影響を少なくして、安定した駆動を実現できる。
(態様K)
液滴を吐出するノズル11に連通する液室13と、前記液室内のインク等の液体を加圧可能にするよう該液室を形成する基板14上に設けられる圧電素子16等の電気機械変換素子を備えた電気機械変換部材とを有する液滴吐出ヘッドにおいて、前記電気機械変換部材として、前記態様A〜Jのいずれかの態様に係る電気機械変換部材を用いたことを特徴とする。
これによれば、良好な分極特性を有する電気機械変換素子を用いて、安定したインク吐出特性を得ることができる。
(態様L)
液滴吐出ヘッドから液滴を吐出して画像を形成するインクジェット記録装置100等の画像形成装置において、前記液滴吐出ヘッドとして、前記態様Kに係る液滴吐出ヘッドを用いたことを特徴とする。
これによれば、良好な分極特性を有する電気機械変換素子を用いて、安定したインク吐出特性で画像形成を行うことができる。
(態様M)
基板上に設けられた電気機械変換素子と、前記電気機械変換素子の前記基板側の第1の駆動電極に接続される第1の端子電極と、前記電気機械変換素子の前記基板とは反対側の第2の駆動電極に接続される第2の端子電極と、前記電気機械変換素子を変位可能に覆うように前記基板に設けられる保持基板とを備えた電気機械変換部材における電気機械変換素子の分極処理方法であって、前記第1の端子電極及び前記第2の端子電極のうちの一方である電荷供給用端子電極に接続される電荷受取部を前記保持基板に形成した後、該電荷受取部を介して前記電荷供給用端子電極に電荷を供給し、前記第1の駆動電極と前記第2の駆動電極との間に電界を形成して、前記電気機械変換素子を分極処理することを特徴とする。
本態様における電気機械変換素子の分極処理では、第1の端子電極及び第2の端子電極のうちの一方である電荷供給用端子電極に電荷を供給することにより、電気機械変換素子の第1の駆動電極と第2の駆動電極との間に電界が形成されて分極処理がなされる。この分極処理を適切に行うためには、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが重要である。
例えば放電で発生させた電荷を電荷供給用端子電極の露出面に直接付与して電荷供給する場合、電荷供給用端子電極の寸法を大きくして露出面の面積が広がれば、放電で発生させた電荷を電荷供給用端子電極でより多く受け取ることができ、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが可能となる。また、例えばプローブ等の接触部材を電荷供給用端子電極の露出面に接触させて接触部材から電荷を供給する場合、電荷供給用端子電極の寸法を大きくして露出面の面積が広がれば、その露出面に接触部材を接触させる作業が容易になる。また、電荷供給用端子電極の露出面に接触部材を接触させた後、その接触状態を分極処理の間ずっと安定して維持することも容易になる。よって、この場合も、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが可能となる。
しかしながら、いずれの場合であっても、電荷供給用端子電極の寸法を大きくする必要があるところ、電荷供給用端子電極の寸法を大きくするには多くの制約がある。特に、熱履歴による脱分極の影響を避けるために保持基板接合等の工程の後に分極処理しようとする場合、電荷供給用端子電極に電荷を供給するための電極面(露出面)が非常に小さくなる。そのため、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給できるほど、電荷供給用端子電極の寸法を大きくすることは困難な場合が多い。
本態様においては、保持基板上に電荷受取部を形成し、この電荷受取部と電荷供給用端子電極とを接続してうえで、保持基板上の当該電荷受取部から電荷供給用端子電極へ電荷を供給る。保持基板の寸法は、電荷供給用端子電極に比べて大きいため、その保持基板上に大きな電荷受取部を形成することは容易である。よって、例えば放電で発生させた電荷を電荷供給用端子電極の露出面に直接付与して電荷供給する場合であれば、放電で発生させた電荷を大きな電荷受取部で受け取ることができ、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが可能となる。また、例えばプローブ等の接触部材を電荷供給用端子電極の露出面に接触させて接触部材から電荷を供給する場合であれば、大きな電荷受取部に接触部材を接触させる作業は容易である。また、大きな電荷受取部に対して接触部材を接触させた後、その接触状態を分極処理の間ずっと安定して維持することも容易である。よって、この場合も、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給することが可能となる。
したがって、保持基板接合等の工程の後に分極処理する場合でも、電荷供給用端子電極に安定して多くの電荷を供給でき、適切な分極処理を実現できる。
しかも、本態様では、電気機械変換素子、第1の端子電極、第2の端子電極を形成した基板に保持基板を接合した後の、最終工程に近い段階で分極処理を行うことができるので、後工程による熱履歴の影響による脱分極を回避でき、良好な電気機械変換素子を得ることができる。
1 液滴吐出ヘッド
10 液滴吐出部
11 ノズル
12 ノズル板
13 液室
14 基板
15 振動板
16 圧電素子
18 第1の絶縁保護膜
19 共通電極パッド
20 共通電極引き出し配線
21 個別電極パッド
22 個別電極引き出し配線
23 第2の絶縁保護膜
25 アクチュエータ基板
26 保持基板
26c 共通パッド用開口部
26d 個別パッド用開口部
27 絶縁膜
28 アース用電極膜
29 電荷受取用電極膜
28a,29a 分岐箇所
28b,29b 経路変更箇所
141 ウェハ
161 共通電極
162 圧電膜
163 個別電極
171a,172a ボンディングワイヤ
171b,172b 金バンプ
特開2012−166393号公報 特開2004−202849号公報 特開2010−034154号公報 特開2006−203190号公報

Claims (13)

  1. 基板上に設けられた電気機械変換素子と、
    前記電気機械変換素子の前記基板側の第1の駆動電極に接続される第1の端子電極と、
    前記電気機械変換素子の前記基板とは反対側の第2の駆動電極に接続される第2の端子電極と、
    前記電気機械変換素子を変位可能に覆うように前記基板に設けられる保持基板とを備えた電気機械変換部材において、
    前記電気機械変換素子は、前記第1の端子電極及び前記第2の端子電極のうちの一方である電荷供給用端子電極に接続される電荷受取部を前記保持基板に形成した後、該電荷受取部を介して前記電荷供給用端子電極に電荷を供給することにより、前記第1の駆動電極と前記第2の駆動電極との間に電界を形成して分極処理されたものであることを特徴とする電気機械変換部材。
  2. 請求項1に記載の電気機械変換部材において、
    前記電気機械変換素子は、前記保持基板に対向するよう配置された放電電極で発生させた放電電荷を該電荷受取部に付与することにより前記電荷供給用端子電極に電荷を供給して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする電気機械変換部材。
  3. 請求項2に記載の電気機械変換部材において、
    前記保持基板は、前記電荷供給用端子電極の少なくとも一部を露出するための電荷供給用開口部を有することを特徴とする電気機械変換部材。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気機械変換部材において、
    前記基板上に前記電気機械変換素子が複数設けられており、
    各電気機械変換素子は、電気機械変換素子ごとに個別に設けられた電荷受取部を前記保持基板に形成した後、対応する電荷受取部を介して電荷を前記電荷供給用端子電極へ供給して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする電気機械変換部材。
  5. 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気機械変換部材において、
    前記基板上に前記電気機械変換素子が複数設けられており、
    各電気機械変換素子は、電気機械変換素子間で共通の電荷受取部を前記保持基板に形成した後、該共通の電荷受取部を介して電荷を前記電荷供給用端子電極へ供給して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする電気機械変換部材。
  6. 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気機械変換部材において、
    前記電気機械変換素子は、前記第1の端子電極及び前記第2の端子電極のうち前記電荷受取部に接続されないアース用端子電極に接続される電荷移送部を前記保持基板に形成し、該電荷移送部をアースと接続した状態で前記電荷受取部を介して前記電荷供給用端子電極に電荷を供給して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする電気機械変換部材。
  7. 請求項6に記載の電気機械変換部材において、
    前記電気機械変換素子は、互いに異なる電気機械変換部材を構成する複数の電気機械変換素子を同一基板上に形成した後、各電気機械変換素子の保持基板に電気機械変換部材間で共通の電荷移送部を形成して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする電気機械変換部材。
  8. 請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電気機械変換部材において、
    前記電気機械変換素子は、互いに異なる電気機械変換部材を構成する複数の電気機械変換素子を同一基板上に形成した後、各電気機械変換素子の保持基板に電気機械変換部材間で共通の電荷受取部を形成して、前記分極処理がなされたものであることを特徴とする電気機械変換部材。
  9. 請求項7又は8に記載の電気機械変換部材において、
    前記共通の電荷移送部又は前記共通の電荷受取部は、その分岐箇所又は経路変更箇所が前記同一基板を電気機械変換部材ごとに分割するときの分割面上に位置するように形成されることを特徴とする電気機械変換部材。
  10. 請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電気機械変換部材において、
    前記電荷供給用端子電極に接続される電荷受取部は、その少なくとも一部が前記分極処理後に前記電荷供給用端子電極から電気的に離間されることを特徴とする電気機械変換部材。
  11. 液滴を吐出するノズルに連通する液室と、
    前記液室内の液体を加圧可能にするよう該液室を形成する基板上に設けられる電気機械変換素子を備えた電気機械変換部材とを有する液滴吐出ヘッドにおいて、
    前記電気機械変換部材として、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の電気機械変換部材を用いたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
  12. 液滴吐出ヘッドから液滴を吐出して画像を形成する画像形成装置において、
    前記液滴吐出ヘッドとして、請求項11に記載の液滴吐出ヘッドを用いたことを特徴とする画像形成装置。
  13. 基板上に設けられた電気機械変換素子と、前記電気機械変換素子の前記基板側の第1の駆動電極に接続される第1の端子電極と、前記電気機械変換素子の前記基板とは反対側の第2の駆動電極に接続される第2の端子電極と、前記電気機械変換素子を変位可能に覆うように前記基板に設けられる保持基板とを備えた電気機械変換部材における電気機械変換素子の分極処理方法であって、
    前記第1の端子電極及び前記第2の端子電極のうちの一方である電荷供給用端子電極に接続される電荷受取部を前記保持基板に形成した後、該電荷受取部を介して前記電荷供給用端子電極に電荷を供給し、前記第1の駆動電極と前記第2の駆動電極との間に電界を形成して、前記電気機械変換素子を分極処理することを特徴とする電気機械変換素子の分極処理方法。
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