以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[第1の実施形態]
本実施形態においてはまず、本発明の電気−機械変換素子の製造装置の構成例について説明する。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置は、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子に対して、分極処理を行う電気−機械変換素子の製造装置である。そして、コロナ放電により電荷を発生させるコロナ電極と、電気−機械変換素子を設置するサンプルステージと、コロナ電極とサンプルステージとの間に配置されたグリッド電極と、を有する。さらに、サンプルステージに備えられた電気−機械変換素子を加熱する加熱機構を有する。
まず、本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置により製造する電気−機械変換素子の構成例について説明する。
本実施形態の電気−機械変換素子の構成例を図2に示す。図2は、電気−機械変換素子の断面構成図を示している。
図2(a)が、電気−機械変換素子の断面構成図を示したものであり、図2(b)は、電気−機械変換素子の上面図を示したものである。図2(b)のA−A´線における断面図が図2(a)に当たる。図2(b)については、構成が分かり易いように、第1、第2の保護膜(層間絶縁膜)については記載を省略している。
そして、図2(a)に示すように、電気−機械変換素子20としては、基板21、下地膜(振動板)22上に、第1の電極(下部電極)23、電気−機械変換膜24、第2の電極(上部電極)25を積層した構成とすることができる。
また、図2(b)に示すように電気−機械変換膜24および第2の電極25は個別化した状態とすることができる。この場合、第1の電極は個別化した電気−機械変換膜24および第2の電極25に対して共通した1個の電極、すなわち共通電極として機能することになる。第2の電極25についてはそれぞれ個別化していることから個別電極として機能する。
そして、第1の電極23および個別化した第2の電極25上に第1の絶縁保護膜26を形成することができる。第1の絶縁保護膜26には第1の電極23および前記第2の電極25を露出するコンタクトホール27を形成することができる。そして、コンタクトホール27を介して第1の電極23および第2の電極25と電気的に接続される第3の電極28および第4の電極30を形成することができる。
また、第3の電極28にはパッド(共通電極パッド)29を、第4の電極30にはパッド(個別電極パッド)31をそれぞれ接続するように形成することができる。そして、第3の電極28および第4の電極30上に、パッド29、31の少なくとも一部を露出する開口部を有する第2の絶縁保護膜32を形成することができる。
以上のような構成を有する電気−機械変換素子に対して分極処理を施すが、コロナ電極(コロナワイヤー)を用いてコロナ放電させる場合、分極処理は図3に示すように、まず、大気中の分子をイオン化させることで陽イオンを発生させる。そして、発生した陽イオンは、電気−機械変換素子の例えば上記共通電極パッドや個別電極パッド等を介して電気−機械変換素子に流れ込み、圧電素子に電荷が蓄積した状態となる。そして、第2の電極と第1の電極の電荷差によって内部電位差が生じて、分極処理が行われていると考えられる。
分極処理の状態については、電気−機械変換素子のP−Eヒステリシスループから判断することができる。分極処理の状態の判断方法について図4を用いて説明する。
P−Eヒステリシスループの例を図4(a)、(b)に示す。図4(a)は分極処理を行う前の試料の、図4(b)は分極処理後のP−Eヒステリシスループを示している。
図4に示すように、±150kV/cmの電界強度かけてヒステリシスループを測定した場合に、電圧をかける前の0kV/cm時の分極をPindとし、+150kV/cmの電圧印加後0kV/cmまで戻したときの0kV/cm時の分極をPrとする。
この時、Pr−Pindの値を分極率として定義し、この分極率により、分極の状態が適切であるか否かを判断することができる。具体的には、図4(b)に示すように、分極処理を行った後の試料については、分極率Pr−Pindの値は所定値以下になっていることが好ましい。例えば、10μC/cm2以下となっていることが好ましく、5μC/cm2以下となっていることがさらに好ましい。Pr−Pindの値が十分に小さくなっていない場合は、分極が十分になされておらず、電気−機械変換素子の所定駆動電圧に対する変位量が安定しない状態となる。
しかしながら、基板や下地膜上に形成された電気−機械変換素子について、従来の分極処理方法において、分極率が所定値以下になるまで分極処理を行おうとすると、電気−機械変換膜または下地膜、基板にクラックが生じていた。
この原因について本発明の発明者らが検討したところ、上記のような所望の分極率を得るためには、電気−機械変換膜に対して高い電界を発生させる必要があり、この影響により電気−機械変換膜等にクラックが発生することが分かった。
具体的には、図2に示すように、電気−機械変換膜が基板または下地膜上に形成され、電気−機械変換膜が基板等に対して拘束状態がある場合において電界を発生させると、電気−機械変換膜はその電界を受けて、自身が変形しようとする。しかしながら、基板のように硬い物質上に形成されている場合は基板からの拘束力により自由に変形できない。このため、ある一定以上の電界が生じた場合においては、電気−機械変換膜が変形しようと膜応力が発生し、その応力を緩和させるために、電気−機械変換膜中にクラックが発生してしまう。図5に実際に電気−機械変換膜に生じたクラックの顕微鏡写真を示す。図中丸で囲った部分にクラックが発生している。
また、下地膜のように比較的柔らかい材料上に電気−機械変換膜が形成されている場合に分極処理を行うと、同様に電気−機械変換膜は変形し、これに追従できない下地膜が破損することになる。
ここで、Si基板上に、第1、第2の電極として白金電極を、電気−機械変換膜としてPZTを用いた電気−機械変換素子に、室温で分極処理を施した場合に、膜中に発生したクラック発生率(クラック発生したBit数/全Bit)と分極率の関係を図6に示す。分極率を小さくしようとするとクラック発生率が高くなり、これら2つの関係はトレードオフになっていることが分かる。なお、ここでいうBit数とは測定範囲内における個別化した電気−機械変換膜の数を意味しており、図2(b)の例であればBit数が2個となる。
そこで、本発明の発明者らが検討を行ったところ、電気−機械変換素子を加熱しながら分極処理を行うことにより、クラックの発生を抑制し、所望の分極率を有する電気−機械変換素子を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置の構成を図7〜図9を用いて説明する。
図7は、本実施形態の電気−機械変換素子の外観図を示しており、図8は、本実施形態の電気−機械変換素子の配線の説明図となっている。図9は図7におけるA−A´線での断面図を示す。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置は、コロナ電極71とグリッド電極73を具備しており、コロナ電極71、グリッド電極73はそれぞれコロナ電極用電源72、グリッド電極用電源74に接続されている。この際、図8に示すように、コロナ電極用電源72及びグリッド電極用電源74の各電極と接続されていない他方の端子は、例えば、サンプルステージ75のサンプルを設置する場所に接続することができる。また、後述のようにサンプルステージ75にアース線76を接続する場合には、該アース線76に接続することができる。
コロナ電極71の構成は特に限定されるものではないが、例えば図に示すようにワイヤー形状を有する構成とすることができ、各種導電性の材料により構成することができる。
グリッド電極73は、コロナ電極71とサンプルステージ75との間に配置されている。グリッド電極73の構成は特に限定されるものではないが、例えば、メッシュ加工を施し、コロナ電極71に高電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷等を効率よく下のサンプルステージに降り注ぐように構成されていることが好ましい。
そして、サンプルステージ75には、電気−機械変換素子を加熱できるように加熱機構が付加されている。電気−機械変換素子を加熱する該加熱機構の具体的手段は特に限定されるものではなく、各種ヒーターやランプ等を用いて加熱するように構成することができる。また、該加熱機構は、サンプルステージ内に設置することもでき、サンプルステージ外から加熱するように設置することもできる。特に電極等との干渉を避けるため、サンプルステージ内に設置されていることが好ましい。
サンプルステージに加熱機構を設置した場合の構成例について、図9を用いて説明する。なお、上述のように以下の構成に限定されるものではない。
図9(a)に示すように、サンプルステージ75は、サンプル保持部752内に、サンプル形状にあわせて形成されたサンプル保持用の溝751、及び、電熱線等からなる加熱機構753を有する構成とすることができる。また、後述のようにサンプルステージ75にアース線76を設けた構成とすることもできる。上記構成することにより、加熱機構753により、サンプルを特に均一に加熱しやすいため好ましい。特にサンプルを均一に加熱する観点から、サンプル保持部752は、金属により構成されていることが好ましく、例えばステンレス鋼や、インコネルをより好ましく用いることができる。特にサンプルを均一に加熱する観点からインコネルを特に好ましく用いることができる。
また、他の構成例として、図9(b)に示すように、サンプルステージ75を、サンプル保持部752と、加熱機構保持部754とに分けた構成とすることもできる。この場合、サンプル保持部752内には、サンプル保持用の溝751を形成することができる。また、加熱機構保持部754内には、電熱線等からなる加熱機構753を有する構成とすることができる。この場合、サンプル保持部752については伝熱性を高めるため、金属により構成されていることが好ましく、例えばステンレス鋼や、インコネルをより好ましく用いることができ、特に均一に加熱する観点からインコネルを特に好ましく用いることができる。図9(b)に示した構成においては、サンプル保持部752と加熱機構保持部754については、単に積層したのみの構成とすることもできるし、両者を接着剤や固定具等により固定することもできる。
なお、図9(a)、(b)では、サンプル保持用の溝751を設けた構成を例に説明しているが、該溝を設けず、サンプル保持部752上の任意の場所にサンプルを設置するように構成してもよい。
前記加熱機構の最大加熱温度は特に限定されるものではなく、後述するように製造する電気−機械変換素子の電気−機械変換膜のキュリー温度等に応じて所定の温度に加熱できるように構成されていれば良い。特に各種電気−機械変換素子に対応できるよう、最大350℃まで加熱できるように構成されていることが好ましい。
また、サンプルステージ上に配置された試料に対して電荷が流れやすくするように試料を設置するサンプルステージ75はアース接地されていることが好ましい。すなわち、サンプルステージ75にはアース線76が接続されていることが好ましい。
コロナ電極やグリッド電極に印加する電圧の大きさや、試料と各電極間の距離は特に限定されるものではなく、十分に分極処理を施すことができるようにこれらを調整し、コロナ放電の強弱をつけることができる。
また、分極処理を行う際に必要な電荷量Qについては特に限定されるものではないが、電気−機械変換素子に1.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることが好ましく、4.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることがさらに好ましい。係る範囲の電荷量を電気−機械変換素子に蓄積させることにより、より確実に上記分極率を有するように分極処理を行うことができる。
ここで、図7に示す電気−機械変換素子の製造装置により、電気−機械変換素子を80℃に加熱しながら分極処理を行った際の、膜中に発生したクラック発生率と分極率との関係を測定した結果を図10に示す。測定に当たっては、図6に示した膜中に発生したクラック発生率と分極率との関係を測定した際に用いた試料と同様の構成を有する電気−機械変換素子を用いている。比較のため、図6に示した測定結果も併せて示す。
これによると、加熱しながら分極処理を行った場合でも分極率が小さくなるとクラック発生率が高くなる傾向を示すものの、室温での分極処理に比べて、加熱しながら分極処理を行った方が、クラックフリーで得られる分極率が小さいことが分かる。これは、加熱しながら分極処理を行った場合、電気−機械変換膜の応力を緩和させながら処理できるため、所望の分極率するため、多くの電荷量を供給してもクラックが発生しなかったと推認される。
分極処理を行う際の加熱温度は特に限定されるものではないが、キュリー温度以下に加熱することが好ましい。これは、キュリー温度を超える温度に加熱すると分極処理を行っても再度脱分極してしまい、分極処理の効果がなくなってしまうためである。また、電気−機械変換膜の温度がキュリー温度を越えることをより確実に防止するため、加熱温度をキュリー温度よりも50℃低い温度以下とすることがより好ましい。例えば電気−機械変換膜としてPZTを用いた場合、そのキュリー温度は組成により異なるが、350℃程度であるため、この場合300℃以下に加熱することが好ましい。
また、例えば図7に示すような装置においては、コロナ電極に電圧を印加し、コロナ放電した時にサンプルのうち電荷等が照射(供給)されるエリアが限られる。このため、サンプルのサイズによっては、サンプルを複数のエリアに分けて、エリアごとに電荷等を照射(供給)し、分極処理を行うこととなる。従って、温度をかけながら分極処理を行うと、分極処理後、電荷等が照射(供給)されていないエリアは加熱された状態が継続され、加熱温度やサンプルステージ上に保持されている時間によっては熱履歴によって脱分極してしまう場合がある。この場合、例えば、図11に示すように、一旦分極処理を施しても、加熱温度がキュリー温度に近いと、図中熱履歴後として示したヒステリシス曲線のように再度分極率が大きくなってしまい、分極処理の効果を低減してしまう場合がある。
このため、脱分極の発生を防止またはその程度を緩和するため、加熱温度は特にキュリー温度の半分の温度以下に加熱することが好ましく、1/3以下の温度に加熱することがより好ましい。例えば電気−機械変換膜としてPZTを用いた場合、180℃以下に加熱することが好ましく、120℃以下に加熱することがより好ましい。
加熱する温度の下限値は特に限定されるものではなく、電気−機械変換膜の応力を緩和させることができる程度の温度以上に加熱できれば良い。例えば、40℃以上に加熱することが好ましく、80℃以上に加熱することがより好ましい。
以上、本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置について説明してきたが、係る製造装置によれば、電気−機械変換素子や、基板または下地膜を破損させることなく十分に分極処理を施すことができる。
次に、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法について説明する。
係る電気−機械変換素子の製造方法においては、上述したように、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子を製造することができる。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法は、具体的には、上述した(図7に示した)電気−機械変換素子の製造装置、すなわち、分極装置を用いて行うことができる。そして、加熱機構により、少なくとも前記電気−機械変換膜部分を前記電気−機械変換膜のキュリー温度以下に加熱しながら、分極処理を行う分極工程を有することを特徴とするものである。
このように、少なくとも電気−機械変換膜部分を電気−機械変換膜のキュリー温度以下に加熱しながら、分極処理を行うことにより、上述のように、分極処理の際に電気−機械変換膜等にクラックが発生することを防止することができる。さらに、所望の分極率を有する電気−機械変換素子を製造することができる。
分極処理工程における加熱温度としては、上述のようにキュリー温度以下であれば良いが、電気−機械変換膜の温度がキュリー温度を超えることをより確実に防止するため、加熱温度をキュリー温度よりも50℃低い温度以下とすることがより好ましい。
また、上記のように、電気−機械変換素子が形成されたウェハーを複数の領域に分け、領域ごとに分極処理を行う場合には、キュリー温度の半分の温度以下に加熱することが好ましく、1/3以下の温度に加熱することがより好ましい。また、加熱する温度の下限値は特に限定されるものではなく、電気−機械変換膜の応力を緩和させることができる程度の温度以上に加熱できれば良い。例えば、40℃以上に加熱することが好ましく、80℃以上に加熱することがより好ましい。
上記分極工程は、試料である電気−機械変換素子が形成されたウェハーのサイズが、図7に示した電気−機械変換素子の製造装置における電荷等の照射領域(供給領域)よりも大きい場合には、ウェハーを動かしながら複数回に分けて分極処理を行うことができる。また、試料である電気−機械変換素子が形成されたウェハーのサイズが、図7に示した電気−機械変換素子の製造装置におけるコロナ放電による電荷等の照射領域(供給領域)内に収まる場合には、ウェハー全体について1回の分極処理を行うこともできる。
上記分極工程において、電気−機械変換素子の製造装置のコロナ電極がコロナ放電により発生した電荷が正帯電していることが好ましい。
例えば図4に示したP−Eヒステリシスループの分極処理後のPindは、分極工程において電気−機械変換素子に供給する電荷が正帯電している場合には正側に、負帯電している場合には負側に位置することとなる。そして、電気−機械変換素子を実際に駆動させる際に正電圧を印加する場合には、Pindは正側に位置することが好ましく、負電圧を印加する場合には、Pindは負側に位置することが好ましい。このため、電気−機械変換素子の使用環境に応じて分極工程において供給する電荷を正または負に帯電させることができる。
また、分極工程において、電気−機械変換素子の製造装置のコロナ電極がコロナ放電により発生した電荷量が、1.0×10−8C以上であることが好ましく、4.0×10−8C以上であることがより好ましい。係る範囲の電荷量を電気−機械変換素子に供給することにより、より確実に所望の分極率を有する電気−機械変換素子を製造することが可能になる。なお、この場合、電気−機械変換素子に1.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることが好ましく、4.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることがさらに好ましい。
そして、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法においては、上記第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極を製造する以下の工程を含むように構成することができる。
まず、基板または下地膜上に第1の電極を形成する第1の電極形成工程と、第1の電極上に電気―機械変換膜を形成する電気−機械変換膜形成工程と、電気−機械変換膜上に第2の電極を形成する第2の電極形成工程。さらに、電気―機械変換膜および第2の電極をエッチングにより個別化する個別化工程。そして、この場合、前記分極工程は、個別化工程後の電気−機械変換素子に対して行うことが好ましい。
係る、電気−機械変換素子の製造方法によれば、第1の電極を、個別化した電気−機械変換膜、第2の電極に対して共通な1つの共通電極として機能させることができる。また、第2の電極は個別化されているため、個別電極として機能させることができる。
また、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法においては、図2に示したように、さらに、第1、第2の絶縁保護膜や、第3、第4の電極を有する電気−機械変換素子を製造することができる。この場合、具体的にはさらに以下の各工程を含む構成とすることができる。
上記個別化工程後に第1の電極および第2の電極上に第1の絶縁保護膜を形成する第1の絶縁保護膜形成工程。
第1の絶縁保護膜に第1の電極および第2の電極を露出するコンタクトホールを形成するコンタクトホール形成工程。
コンタクトホールを介して第1の電極および第2の電極と電気的に接続される第3の電極および第4の電極を形成する第3、第4の電極形成工程。
第3、第4の電極と接続されるパッドを形成する工程。
第3の電極および第4の電極上に、パッドの少なくとも一部を露出する開口部を有する第2の絶縁保護膜を形成する第2の絶縁保護膜形成工程。
そして、この場合は、分極工程は、第2の絶縁保護膜形成後に行うことが好ましい。
なお、上述した電気−機械変換素子の製造方法における各部材の構成は第4の実施形態で説明する電気−機械変換素子と同様の構成とすることができる。
以上、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法について説明してきたが、係る製造方法によれば、電気−機械変換膜や、基板または下地膜を破損させることなく十分に分極処理を施した電気−機械変換素子を製造することが可能になる。
[第2の実施形態]
本実施形態では、本発明の電気−機械変換素子の製造装置の他の構成例について説明する。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置は、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子に対して、分極処理を行う電気−機械変換素子の製造装置である。
そして、コロナ放電により電荷を発生させる複数のコロナ電極と、電気−機械変換素子を設置するサンプルステージと、コロナ電極と前記サンプルステージとの間に配置されたグリッド電極と、を有している。さらに、サンプルステージに備えられた電気−機械変換素子を加熱する加熱機構と、を有する。
まず、本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置により製造する電気−機械変換素子の構成例については第1の実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置の構成を図12に示す。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置である、分極装置は、複数のコロナ電極711〜713を具備している。図中ではコロナ電極の数を3つとしているが、3つに限定されるものではなく、サンプルのサイズ、すなわち、製造する電気−機械変換素子が形成されたウェハーのサイズや電源の容量等を考慮して選択することができる。コロナ電極711〜713にはそれぞれコロナ電極用電源721〜723が接続されている。
また、コロナ電極711〜713と、サンプルステージ75との間にはグリッド電極73が配置されており、グリッド電極73はグリッド電極用電源74に接続されている。
なお、上述のように、コロナ電極用電源、グリッド電極用電源の、電極と接続されていない他方の端子は、例えば、サンプルステージ75のサンプルを設置する場所に接続することができる。また、後述のようにサンプルステージ75にアース線76を接続する場合には、該アース線76に接続することができる。
コロナ電極711〜713の構成は特に限定されるものではないが、例えば図に示すようにワイヤー形状を有する構成とすることができ、各種導電性の材料により構成することができる。
グリッド電極73の構成は特に限定されるものではないが、例えば、メッシュ加工を施していることが好ましい。そして、コロナ電極711〜713に高電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷等を効率よく下のサンプルステージに降り注ぐように構成されていることが好ましい。
サンプルステージ75には、電気−機械変換素子を加熱できるように加熱機構が付加されている。電気−機械変換素子を加熱する該加熱機構の具体的手段は特に限定されるものではなく、各種ヒーターやランプ等を用いて加熱するように構成することができる。また、該加熱機構を設ける場所は特に限定されるものではなく、サンプルステージ内に設置することもでき、サンプルステージ外から加熱するように設置することもできる。サンプルステージ内、外の両方に設置することもできる。特に電極等との干渉を避けるため、サンプルステージ内に設置されていることが好ましい。
また、サンプルステージに加熱機構を設置した場合の構成例については第1の実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
前記加熱機構の最大加熱温度は特に限定されるものではなく、後述するように製造する電気−機械変換素子の電気−機械変換膜のキュリー温度等に応じて所定の温度に加熱できるように構成されていれば良い。特に各種電気−機械変換素子に対応できるよう、最大350℃まで加熱できるように構成されていることが好ましい。
また、サンプルステージ上に配置された試料に対して電荷が流れやすくするように試料を設置するサンプルステージ75はアース接地されていることが好ましい。すなわち、サンプルステージ75にはアース線76が接続されていることが好ましい。
コロナ電極やグリッド電極に印加する電圧の大きさや、試料と各電極間の距離は特に限定されるものではなく、十分に分極処理を施すことができるように試料に応じてこれらを調整し、コロナ放電の強弱をつけることができる。
また、分極処理を行う際に必要な電荷量Qについては特に限定されるものではないが、電気−機械変換素子に1.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることが好ましく、4.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることがさらに好ましい。係る範囲の電荷量を電気−機械変換素子に蓄積させることにより、より確実に上記分極率を有するように分極処理を行うことができる。
分極処理を行う際の加熱温度は特に限定されるものではないが、キュリー温度以下に加熱することが好ましい。これは、キュリー温度を超える温度に加熱すると分極処理を行っても再度脱分極してしまい、分極処理の効果がなくなってしまうためである。また、電気−機械変換膜の温度がキュリー温度を越えることをより確実に防止するため、加熱温度をキュリー温度よりも50℃低い温度以下とすることがより好ましい。例えば電気−機械変換膜としてPZTを用いた場合、そのキュリー温度は組成により異なるが、350℃程度であるため、この場合300℃以下に加熱することが好ましい。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置においては、複数のコロナ電極を設け、より広い範囲についてイオンや電荷等を供給できるように構成されている。このため、サンプルウェハーのサイズによっては一度にサンプルウェハーに形成された電気−機械変換素子全てについて分極処理を施すことが可能である。
しかしながら、サンプルウェハーに形成された電気−機械変換素子の領域が大きく一度に分極処理を行うことができない場合には、特にキュリー温度の半分の温度以下に加熱することが好ましく、1/3以下の温度に加熱することがより好ましい。例えば電気−機械変換膜としてPZTを用いた場合、キュリー温度は組成により異なるが、350℃程度であるため、180℃以下に加熱することが好ましく、120℃以下に加熱することがより好ましい。
このような温度設定とすることにより、第1の実施形態で説明したように分極処理後に脱分極することを抑制、防止することができる。
加熱する温度の下限値は特に限定されるものではなく、電気−機械変換膜の応力を緩和させることができる程度の温度以上に加熱できれば良い。例えば、40℃以上に加熱することが好ましく、80℃以上に加熱することがより好ましい。
以上、本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置について説明してきたが、係る製造装置によれば、電気−機械変換素子や、基板または下地膜を破損させることなく十分に分極処理を施すことができる。また、本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置においては、複数のコロナ電極から広い範囲に渡って電荷等を供給できるため、生産性を高めることができる。
次に、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法について説明する。
係る電気−機械変換素子の製造方法においては、上述したように、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子を製造することができる。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法は、具体的には、上述した(図12に示した)電気−機械変換素子の製造装置、すなわち、分極装置を用いて行うことができる。そして、加熱機構により、少なくとも前記電気−機械変換膜部分を前記電気−機械変換膜のキュリー温度以下に加熱しながら、分極処理を行う分極工程を有することを特徴とするものである。
このように、少なくとも電気−機械変換膜部分を電気−機械変換膜のキュリー温度以下に加熱しながら、分極処理を行うことにより、上述のように、分極処理の際に電気−機械変換膜等にクラックが発生することを防止することができる。さらに、所望の分極率を有する電気−機械変換素子を製造することができる。
また、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法では特に、複数の電気−機械変換素子が形成されたウェハーを、加熱機構により、電気−機械変換膜のキュリー温度以下に加熱しながら、ウェハー全体について1回の分極処理を行う分極工程を有することができる。これは上述のように電気−機械変換素子の製造装置において複数のコロナ電極を備えた装置を用いているため、一度に電荷等を照射(供給)できる範囲が広くなっている。このため、複数の電気−機械変換素子が形成されたウェハーについて1回の分極処理で分極工程を行うことが可能となる。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法のここで説明した以外の構成については、第1の実施形態で説明した電気−機械変換素子の製造方法の場合と同様にすることができるため、ここでは説明を省略する。
以上、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法について説明してきたが、係る製造方法によれば、電気−機械変換膜や、基板または下地膜を破損させることなく十分に分極処理を施した電気−機械変換素子を製造することが可能になる。また、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法においては、複数のコロナ電極から広い範囲に渡って電荷等を供給できるため、生産性を高めることができる。
[第3の実施形態]
本実施形態では、本発明の電気−機械変換素子の製造装置の他の構成例について説明する。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置は、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子に対して、分極処理を行う電気−機械変換素子の製造装置である。
そして、コロナ放電により電荷を発生させるコロナ電極と、電気−機械変換素子を設置するサンプルステージと、コロナ電極と前記サンプルステージとの間に配置されたグリッド電極と、を有している。さらに、サンプルステージに備えられた電気−機械変換素子を加熱する加熱機構と、を有しており、該加熱機構がレーザー光による加熱手段を有することを特徴とする。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置により製造する電気−機械変換素子の構成例については第1の実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置の構成を図13に示す。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置である、分極装置は、コロナ電極71を具備しており、コロナ電極71にはそれぞれコロナ電極用電源72が接続されている。
コロナ電極71の構成は特に限定されるものではないが、例えば図に示すようにワイヤー形状を有する構成とすることができ、各種導電性の材料により構成することができる。
また、コロナ電極71と、サンプルステージ75との間にはグリッド電極73が配置されており、グリッド電極73はグリッド電極用電源74に接続されている。グリッド電極73の構成は特に限定されるものではないが、例えば、メッシュ加工を施し、コロナ電極71に高電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷等を効率よく下のサンプルステージに降り注ぐように構成されていることが好ましい。
なお、上述のように、コロナ電極用電源、グリッド電極用電源の、電極と接続されていない他方の端子は、例えば、サンプルステージ75のサンプルを設置する場所に接続することができる。また、後述のようにサンプルステージ75にアース線76を接続する場合には、該アース線76に接続することができる。
コロナ電極71と、グリッド電極73は、レーザー光による加熱手段が加熱している領域に電荷等を供給できるように、そのサイズ、配置等が構成されていることが好ましい。例えば、コロナ電極71を複数設けておき、レーザー光による加熱手段により加熱されている電気−機械変換素子に対応した領域に対して電荷等を供給するようにコロナ電極への電圧の印加を制御する構成とすることもできる。
また、分極処理を行う試料を載置するためのサンプルステージ75を有している。
そして、本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置においては、加熱機構として、レーザー光による加熱手段77を有している。係るレーザー光による加熱手段は、分極処理を行う試料に対してレーザー光を照射して加熱を行う加熱手段である。係る加熱手段を有することにより、コロナ放電により発生する電荷等が照射(供給)される領域(コロナ処理領域)を選択して加熱することができる。そして、分極処理を終えた領域についてはレーザー光の照射を中止することにより加熱を中止することができ、脱分極が生じないようにすることができる。なお、この際に用いるレーザーの種類は特に限定されるものではなく、少なくとも電気−機械変換素子膜を所望の温度まで加熱できるレーザーを任意に選択することができる。また、レーザーの照射条件や出力、照射回数などについても、特に限定されるものではなく、加熱する温度やレーザーの種類により選択することができる。
レーザー光による加熱手段77が試料の所望の場所にレーザー光を照射する方法は特に限定されるものではない。例えばレーザー光の照射位置を変化させず、電気−機械変換素子が形成されたウェハーの位置を変化させて加熱する場所を変化するように構成することができる。また、ミラー等を用いてレーザー光を照射する場所を変化するように構成することもできる。さらに、電気−機械変換素子が形成されたウェハーの加熱する領域の大きさに応じて、レーザー発振器を複数設けることもできる。
前記加熱機構の最大加熱温度は特に限定されるものではなく、後述するように製造する電気−機械変換素子の電気−機械変換膜のキュリー温度等に応じて所定の温度に加熱できるように構成されていれば良い。特に各種電気−機械変換素子に対応できるよう、最大350℃まで加熱できるように構成されていることが好ましい。
また、サンプルステージ上に配置された試料に対して電荷が流れやすくするように試料を設置するサンプルステージ75はアース接地されていることが好ましい。すなわち、サンプルステージ75にはアース線76が接続されていることが好ましい。
コロナ電極やグリッド電極に印加する電圧の大きさや、試料と各電極間の距離は特に限定されるものではなく、十分に分極処理を施すことができるように試料に応じてこれらを調整し、コロナ放電の強弱をつけることができる。
また、分極処理を行う際に必要な電荷量Qについては特に限定されるものではないが、電気−機械変換素子に1.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることが好ましく、4.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることがさらに好ましい。係る範囲の電荷量を電気−機械変換素子に蓄積させることにより、より確実に上記分極率を有するように分極処理を行うことができる。
分極処理を行う際の加熱温度は特に限定されるものではないが、キュリー温度以下に加熱することが好ましい。これは、キュリー温度を超える温度に加熱すると分極処理を行っても再度脱分極してしまい、分極処理の効果がなくなってしまうためである。また、電気−機械変換膜の温度がキュリー温度を越えることをより確実に防止するため、加熱温度をキュリー温度よりも50℃低い温度以下とすることがより好ましい。例えば電気−機械変換膜としてPZTを用いた場合、そのキュリー温度は組成により異なるが、350℃程度であるため、この場合300℃以下に加熱することが好ましい。
加熱する温度の下限値は特に限定されるものではなく、電気−機械変換膜の応力を緩和させることができる程度の温度以上に加熱できれば良い。例えば、40℃以上に加熱することが好ましく、80℃以上に加熱することがより好ましい。
以上、本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置について説明してきたが、係る製造装置によれば、電気−機械変換素子や、基板または下地膜を破損させることなく十分に分極処理を施すことができる。特に本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置によれば、分極処理を行っている電気−機械変換素子のみを選択的に加熱できるため、分極処理後の脱分極を防止、または特に抑制することが可能になる。
次に、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法について説明する。
係る電気−機械変換素子の製造方法においては、上述したように、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子を製造することができる。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法は、具体的には、上述した(図13に示した)電気−機械変換素子の製造装置、すなわち、分極装置を用いて行うことができる。そして、加熱機構により、少なくとも前記電気−機械変換膜部分を前記電気−機械変換膜のキュリー温度以下に加熱しながら、分極処理を行う分極工程を有することを特徴とするものである。
このように、少なくとも電気−機械変換膜部分を電気−機械変換膜のキュリー温度以下に加熱しながら、分極処理を行うことにより、上述のように、分極処理の際に電気−機械変換膜等にクラックが発生することを防止することができる。さらに、所望の分極率を有する電気−機械変換素子を製造することができる。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法のここで説明した以外の構成については、第1の実施形態で説明した電気−機械変換素子の製造方法の場合と同様にすることができるため、ここでは説明を省略する。
以上、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法について説明してきたが、係る製造方法によれば、電気−機械変換膜や、基板または下地膜を破損させることなく十分に分極処理を施した電気−機械変換素子を製造することが可能になる。特に本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法によれば、分極処理を行っている電気−機械変換素子のみを選択的に加熱できるため、分極処理後の脱分極を防止、または特に抑制することが可能になる。
[第4の実施形態]
本実施形態では、本発明の電気−機械変換素子の構成例について説明する。
本実施形態の電気−機械変換素子は、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有している。
そして、電気−機械変換膜に、±150kV/cmの電界強度かけてヒステリシスループを測定した場合に、電圧をかける前の0kV/cm時の分極をPind、+150kV/cmの電圧印加後0kV/cmまで戻した時の0kV/cm時の分極をPrとする。
この場合、分極率Pr−Pindが10μC/cm2以下であることを特徴とする。特に分極率Pr−Pindは5μC/cm2以下であることが好ましい。
係る電気−機械変換素子は、十分な分極処理がなされており、電気−機械変換素子の所定駆動電圧に対する変位量を安定させることができる。このため、初期や連続駆動後であっても安定して十分な特性を得ることができる。
また、本実施形態の電気−機械変換素子は、電気−機械変換膜及び前記第2の電極が個別化されていることが好ましい。
この場合さらに、第1の電極及び第2の電極上に形成された第1の絶縁保護膜と、第1の絶縁保護膜に形成されたコンタクトホールを介して、第1の電極および第2の電極と電気的に接続される第3の電極および第4の電極と、を有する構成とすることができる。
また、図2に示したように、第3の電極および第4の電極はパッドと接続され、第3の電極および第4の電極上には第2の絶縁保護膜が設けられ、第2の絶縁保護膜には、パッドの少なくとも一部を露出する開口部が形成された構成とすることができる。
以下に、本実施形態の電気−機械変換素子の各部材について図2を用いて説明する。
上記の様に、本実施形態の電気−機械変換素子は、基板21または下地膜(振動板)22上に形成することができる。
基板21の材料としては特に限定されるものではないが、加工の容易性や、入手しやすさ等を鑑みると、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。
シリコン単結晶基板としては、面方位が(100)、(110)、(111)の3種あるが、特に限定されるものではなく、加工の内容等に応じて適切な基板を選択することができる。
例えば、基板に対してエッチング加工を要する場合には、エッチング加工の内容にあわせて所定の面方位を有する基板を選択することができる。後述する液滴吐出ヘッドを形成する場合を例に説明すると、通常エッチングにより基板に加圧室を作製するが、この際のエッチング方法としては一般的に異方性エッチングが用いられている。ここで、異方性エッチングとは、結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものであり、例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝を掘ることができ、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができることが分かっている。このため、例えば液滴吐出ヘッドを構成する基板の場合には(110)の面方位を持ったシリコン単結晶基板を好ましく用いることができる。
基板21の厚さは用途等により選択することができ、特に限定されるものではないが、例えば、100〜600μmの厚みをもつものを好ましく用いることができる。
下地膜(振動板)22は、例えば後述のように液滴吐出ヘッドを形成する場合に設けることができ、用途によっては下地膜22を設けずに基板21上に電気−機械変換素子を設けることもできる。
下地膜22は例えば液滴吐出ヘッドの場合、電気−機械変換膜によって発生した力を受けて、変形変位して加圧室の液体(例えばインク)を吐出させる。そのため、下地膜22としては所定の強度を有したものであることが好ましい。材料としては、Si、SiO2、Si3N4をCVD法により作製したものが挙げられる。特に、第1の電極、電気−機械変換膜の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。電気−機械変換膜としてPZTを用いるとすると、その線膨張係数8×10−6(1/K)に近い5×10−6〜10×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料が好ましく、7×10−6〜9×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料がより好ましい。
具体的には例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等を好ましく用いることができる。
下地膜22の形成方法は特に限定されるものではないが、スパッタ法もしくは、Sol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。
下地膜の膜厚としては特に限定されるものではないが、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上3μm以下であることがより好ましい。この範囲より小さいと例えば後述する液滴吐出ヘッドの場合、加圧室の加工が難しくなり、この範囲より大きいと下地膜が変形変位しにくくなり、液滴の吐出が不安定になる場合があり好ましくない。
第1の電極23についても特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば、金属電極膜や酸化物電極膜により構成することができ、特に金属電極膜と酸化物電極膜の積層体であることが好ましい。
金属電極膜としては、白金、イリジウム、ロジウムなどの白金族元素や、例えば白金−ロジウムなどのこれら合金からなる膜が挙げられる。
金属電極膜として白金を使用する場合であって、基板上に形成する場合には基板(特に基板表面にSiO2が形成されている場合)との密着性が悪いために、基板と金属電極膜との間に後述する密着層を形成することが好ましい。
金属電極膜の作製方法としては、特に限定されるものではなく各種成膜方法を採用することができる。例えば、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜が一般的である。膜厚についても特に限定されるものではないが、80nm〜200nmであることが好ましく、100nm〜150nmであることが好ましい。これは、金属電極膜の膜厚が薄すぎる場合には十分な電流を供給することができない場合があるためである。膜厚が厚すぎる場合には、金属電極膜が白金属の高価な材料により構成されているため、コストが高くなるため、また、膜厚を厚くしていった場合に表面粗さが大きくなり、その上に積層する層の表面粗さや結晶配向性に影響を与える場合があるためである。
酸化物電極膜の材料についても特に限定されるものではないが、例えば、SrRuO3好ましく用いることができる。SrRuO3以外にも、SrxA(1−x)RuyO(1−y)(A:Ba、Ca B:Co、Ni x、y=0〜0.5)で記述されるような材料についても好ましく用いることができる。
酸化物電極膜の成膜方法についても特に限定されるものではないが、スパッタ法により成膜することができる。
後述する電気−機械変換膜としては、PZTを用いることが好ましく、PZTは(111)配向することが好ましいため、酸化物電極膜としてSrRuO3を用いる場合、SrRuO3についても(111)配向していることが好ましい。ところが、SrRuO3はスパッタ条件によって膜質が変わることが知られており、例えば金属電極膜として(111)配向のPtを用い、該Pt膜上に成膜する場合には、SrRuO3膜を成膜する際、500℃以上に基板加熱を行い、成膜することが好ましい。
なお、Pt(111)上に作製したSrRuO3膜の結晶性については、PtとSrRuO3膜で格子定数が近いため、通常のθ−2θ測定では、SrRuO3膜(111)とPt(111)の2θ位置が重なってしまい判別が難しい。Ptについては消滅則の関係からPsi=35°傾けた2θが約32°付近の位置には回折線が打ち消し合い、回折強度が見られない。そのため、Psi方向を約35°傾けて、2θが約32°付近のピーク強度で判断することでSrRuO3膜が(111)に優先配向しているかを確認することができる。
図14に、2θ=32°に固定し、Psiを振ったときのデータを示す。Psi=0°ではSrRuO3膜(110)ではほとんど回折強度が見られず、Psi=35°付近において、回折強度が見られる。このことから図14に示した試料については、SrRuO3膜が(111)配向していることが確認できる。また、上述記載の室温成膜+RTA処理により作製されたSrRuO3膜については、Psi=0°のときにSRO(110)の回折強度が見られる。
SrRuO3膜の表面粗さについては特に限定されるものではないが、4nm以上15nmであることが好ましく、6nm以上10nm以下であることがより好ましい。表面粗さが上記範囲よりも大きくなると、その後成膜した電気−機械変換膜の絶縁耐圧が悪化する場合があり、リーク電流を生じる場合があるためである。
また、表面粗さは小さい方が好ましいものの、表面粗さは成膜温度に影響を受け、室温から300℃で成膜した場合には表面粗さを非常に小さくすることができ、例えば2nm以下とすることもできる。しかし、この場合、SrRuO3膜の結晶性が低下するため、好ましくない。このため、表面粗さRaは上記範囲であることが好ましい。なお、ここでいう表面粗さとは、AFMにより測定される表面粗さRa(中心線平均粗さ)を意味している。上記のような表面粗さを有し、結晶性の高いSrRuO3膜とするためには、成膜温度を500℃〜700℃とすることが好ましく、520℃〜600℃とすることがより好ましい。
また、酸化物電極膜としてSrRuO3を用いる場合、該SrRuO3膜の成膜後のSrとRuの組成比については、Sr/Ru(物質量比)が0.82以上1.22以下であることが好ましい。この範囲から外れると比抵抗が大きくなり、電極として十分な導電性が得られなくなる場合があるためである。
酸化物電極膜の膜厚は特に限定されるものではないが、40nm以上150nm以下であることが好ましく、50nm以上80nm以下であることがより好ましい。この膜厚範囲よりも薄いと初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない場合や電気−機械変換膜をエッチングする際にオーバーエッチングを抑制するためのストップエッチング層としての機能も得られにくくなる。また、この範囲を超えると、その後成膜した電気−機械変換膜の絶縁耐圧が悪化し、リーク電流を生じる場合があり好ましくない。
また、酸化物電極膜の比抵抗としては、電極として十分な導電性を有するため、5×10−3Ω・cm以下になっていることが好ましく、さらに1×10−3Ω・cm以下になっていることがより好ましい。
また、上記の様に、基板21と第1の電極23または、下地膜22と第1の電極23との間に密着層を設けることができる。密着層としてはTiO2膜を好ましく用いることができる。またTa、Ir、Ru等の酸化物についても好ましく用いることができる。
TiO2膜の成膜方法は特に限定されるものではなく、例えば反応性スパッタにより成膜することもできるが、チタン膜を高温により熱酸化したものを好ましく用いることができる。具体的には、Tiをスパッタ成膜後、RTA(rapid thermal annealing)装置を用いて、650〜800℃、1〜30分、酸素雰囲気で熱酸化して得られたものを好ましく用いることができる。
これは、反応性スパッタによる作製では、シリコン基板を高温で加熱する必要があるため、特別なスパッタチャンバ構成を必要とするため。さらに、通常の加熱炉による酸化によれば、酸化しやすいチタン膜は、低温においてはいくつもの結晶構造を作るため、一旦、それを壊す必要があるのに対して、昇温速度の速いRTA法によれば良好な結晶を形成することができるためである。他の金属の場合についても同様にして酸化物膜を形成することができる。
密着層の膜厚としては、10nm以上50nm以下が好ましく、15nm以上30nm以下がさらに好ましい。これよりも薄いと十分に密着性を高める効果を有しない場合があり、この範囲よりも厚い場合、その上に積層する電極膜等の結晶の質に影響が出てくる場合があるためである。
電気−機械変換膜24としては、圧電特性を示す材料であれば用いることができ、特に限定されるものではないが、Pbを含んだ酸化物から形成されていることが好ましい。
特に電気−機械変換膜としては、その高い圧電特性から、PZTを好ましく用いることができる。PZTとはジルコン酸鉛(PbTiO3)とチタン酸(PbTiO3)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O3、一般的にはPZT(53/47)とも示される。
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムや同様の構造を有する材料などが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
これら材料は一般式ABO3で記述され、ここでのAはPb、Ba、Srから選択された1以上の元素とし、BはTi、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbから選択された1以上の元素とすることができる。そして、係るABO3を主成分とする複合酸化物を電気−機械変換膜として好ましく用いることができる。上記A、Bの元素はその具体的には(Pb1−x,Bax)(Zr,Ti)O3、(Pb1−x,Srx)(Zr,Ti)O3、等として記載することができる。これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
また、電気−機械変換膜の比誘電率としては600以上2000以下になっていることが好ましく、さらに1200以上1600以下になっていることが好ましい。比誘電率を上記範囲とすることにより、十分な変位特性を得ることができる。また、分極処理を十分に行うことができ、連続駆動後の変位劣化について十分な特性とすることができる。
電気−機械変換膜の作製方法としては特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法もしくは、Sol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。いずれの場合でも、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。
PZTをSol−gel法により作製する場合を例にその作製手順を説明する。まず、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールにこれらの出発材料を溶解させ均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加しても良い。
第1の電極等が形成された下地基板全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体溶液の濃度を調整することが好ましい。
電気−機械変換膜の膜厚としては特に限定されるものではなく、要求される変位量等により任意に選択することができる。例えば、その膜厚としては0.5μm以上5μm以下が好ましく、1μm以上2μm以下がより好ましい。係る範囲の膜厚とすることにより十分な変位を発生させることができる。また、係る範囲の膜厚であれば積層し形成する工程数も必要以上に多くはならないため、生産性良く製造することができる。
第2の電極25についても特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば、金属電極膜や酸化物電極膜により構成することができ、特に金属電極膜と酸化物電極膜の積層体であることが好ましい。
金属電極膜については特に限定されるものではなく、例えば第1の電極の場合と同様の材料を好ましく用いることができる。
膜厚としては30nm以上200nm以下が好ましく50nm以上120nm以下がさらに好ましい。上記範囲よりも膜厚を薄くすると、電極として十分な電流を供給することができない場合がある。上記範囲よりも膜厚を厚くすると、電極材料として白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コストアップの原因となる。また、特に白金を材料とした場合においては、膜厚を厚くしていたったときに表面粗さが大きくなり、さらに金属電極膜上に他の材料を積層した場合に膜剥がれを生じる場合があり好ましくない。
酸化物電極膜の材料についても特に限定されるものではないが、例えば第1の電極の場合と同様の材料を好ましく用いることができる。
酸化物電極膜の膜厚としては特に限定されるものではないが、20nm以上80nm以下が好ましく、40nm以上60nm以下がさらに好ましい。この膜厚範囲よりも薄いと初期変位や変位劣化特性については十分な特性が得られない場合があり好ましくない。また、この範囲を超えると、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる場合があり好ましくない。
上記の様に本実施形態の電気−機械変換素子には、第1の絶縁保護膜26を設けることができる。第1の絶縁保護膜は、成膜・エッチングの工程による電気−機械変換素子へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過しづらい材料を用いることが好ましい。このため、無機材料の膜であることが好ましく、特に緻密な膜であることが好ましい。
薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物、窒化物、炭化膜を用いるのが好ましい。特に、第1の絶縁保護膜と接触する、すなわち、下地となる、第2の電極25及び第1の電極23の材料、電気−機械変換膜24の材料、基板21上面の材料と密着性が高い材料であることが好ましい。このため、Al2O3、ZrO2、Y2O3、Ta2O3、TiO2などの酸化膜が例として挙げられる。
第1の絶縁保護膜の成膜方法は特に限定されるものではないが、電気−機械変換素子を損傷しない成膜方法を選択することが好ましい。このため、蒸着法、ALD法を好ましく用いることができ、中でも適用できる材料の選択肢が多いALD法により成膜することが好ましい。特にALD法によれば、膜密度の非常に高い薄膜を作製することができ、プロセス中での電気−機械変換素子へのダメージを抑制することができる。
第1の絶縁保護膜の膜厚は特に限定されるものではないが、電気−機械変換素子の保護性能を確保できる十分な厚さであり、かつ、電気−機械変換素子の変位を阻害しないように可能な限り薄いことが好ましい。例えば、第1の絶縁保護膜の膜厚は20nm以上100nm以下の範囲であることが好ましい。100nmより厚い場合は、電気−機械変換素子の変位を阻害する場合がある。一方、20nmより薄い場合は電気−機械変換素子の保護層としての機能が十分ではなく、電気−機械変換素子の性能が低下する場合がある。
また第1の絶縁保護膜を複数層からなる構成とすることができる。例えば2層から構成する場合、2層目の絶縁保護膜を厚くするため、電気−機械変換素子の振動変位を著しく阻害しないように第2の電極付近において2層目の絶縁保護膜に開口部を形成する構成も挙げられる。この場合、2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物、窒化物、炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができ、例えば半導体デバイスで一般的に用いられるSiO2を用いることが好ましい。成膜は任意の手法を用いることができ、CVD法、スパッタリング法等により成膜することができる。特に電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。
2層目の絶縁保護膜の膜厚についても特に限定されるものではなく、各電極に印加される電圧を考慮し、絶縁破壊されない膜厚を選択することが好ましい。すなわち絶縁保護膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定することが好ましい。さらに、絶縁保護膜の下地の表面性やピンホール等を考慮すると膜厚は200nm以上であることが好ましく、500nm以上であることが好ましい。
上記の様に、第1の電極、第2の電極はそれぞれパッドと接続するように構成することができる。この場合、第1の電極23、第2の電極25とパッド29、31との間は、第3の電極28、第4の電極30により接続することができる。
この場合、各電極とパッド間を接続する第3の電極28、第4の電極30の材料については特に限定されるものではなく、各種導電性材料を用いることができる。特に、Cu、Al、Au、Pt、Ir、Ag合金、Al合金から選択されるいずれかの材料により構成されていることが好ましい。
第3の電極28、第4の電極30の作製方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により形成することができる。例えば、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンを得ることができる。
係る接続部材の膜厚についても特に限定されるものではないが、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.2μm以上10μm以下がより好ましい。膜厚が係る範囲より薄いと抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができない場合がある。また、係る範囲より厚いと製造プロセスに時間を要するため生産性が低下し好ましくない。
また、第1の絶縁保護膜26を設ける場合、第3、第4の電極はそれぞれ、第1の絶縁保護膜26に、コンタクトホール27を設け、該コンタクトホールにおいて第1の電極23、第2の電極25と接続することができる。コンタクトホール27のサイズは特に限定されるものではないが、例えば10μm×10μmの大きさとすることができる。そして、コンタクトホール27における接触抵抗として、第1の電極(共通電極)については10Ω以下、第2の電極(個別電極)については1Ω以下となるように構成することが好ましい。係る範囲とすることにより、各電極に十分な電流を安定して供給できるため好ましい。特に、第1の電極(共通電極)については5Ω以下、第2の電極(個別電極)については0.5Ω以下となるように構成することが好ましい。
また、本実施形態の電気−機械変換膜においては第2の絶縁保護膜32を設けることができる。第2の絶縁保護膜32は第3の電極28、第4の電極30を保護する機能を有するパシベーション層である。
図2に示す通り、第2の絶縁保護膜32は、第3の電極28、第4の電極30上を被覆し、第3の電極28、第4の電極30に接続されたパッド29、31部分において開口部を有する構成とすることができる。これにより第3の電極28、第4の電極30に安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いた場合でも電気−機械変換素子の信頼性を高めることができる。また、これらの接続部材等に安価な材料を用いることができるため、電気−機械変換素子のコストを低減することができる。
第2の絶縁保護膜32の材料としては特に限定されるものではなく、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、特に透湿性の低い材料とすることが好ましい。無機材料としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物等を用いることができる。また、有機材料としては例えば、ポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。ただし有機材料の場合には絶縁保護膜として機能させるためには、その膜厚が厚くなり、パターニングを行うことが困難な場合がある。このため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料を好ましく用いることができる。特に、第3の電極28、第4の電極30としてAl配線を用いた場合には、第2の絶縁保護膜32としてはSi3N4を用いることが、半導体デバイスで実績のある技術であるため好ましい。
第2の絶縁保護膜32の膜厚は200nm以上とすることが好ましく、500nm以上とすることがより好ましい。これは、膜厚が薄い場合は十分なパシベーション機能を発揮できないため、第3、第4の電極の腐食による断線が発生する等して信頼性を低下させてしまう場合があるためである。
また、第2の絶縁保護膜は、電気−機械変換素子上に開口部をもつ構造が好ましく、後述する液滴吐出ヘッドとする場合にはさらに振動板部分にも開口部を有する構造とすることが好ましい。これは電気−機械変換素子の振動変位を著しく阻害しないようにするためであり、より高効率かつ高信頼性の電気−機械変換素子とすることができ好ましい。
第2の絶縁保護膜は、各パッドを露出するための開口部を形成することができ、開口部の形成には、例えばフォトリソグラフィー法とドライエッチングを用いることができる。
また共通電極パッド部、個別電極パッド部の面積は特に限定されるものではないが、パッド部、第2の絶縁保護膜を形成してから分極処理を行う場合、係るパッド部から電荷が供給されるため、分極処理が十分に行える様にその面積を選択することが好ましい。例えば、各パッドはその大きさが50×50μm2以上になっていることが好ましく、さらに100×300μm2以上になっていることがより好ましい。
以上、本実施形態の電気−機械変換素子について説明してきたが、係る電気−機械変換素子は、クラックを有さず、分極率の低い電気―機械変換素子となっている。このため、電気−機械変換素子の所定駆動電圧に対する変位量を安定させることができ、初期や連続駆動後であっても安定して十分な特性を得ることができる。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法は特に限定されるものではないが、第1の実施形態〜第3の実施形態において説明したいずれかの電気−機械変換素子の製造方法により好適に製造することができる。
[第5の実施形態]
本実施形態では、第4の実施形態で説明した電気−機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッドについて説明する。
本実施形態の液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出するノズルと、前記ノズルが連通する加圧室と、前記加圧室内の液体を昇圧させる吐出駆動手段と、を備えている。
そして、前記吐出駆動手段が、前記加圧室の壁の一部を構成する下地膜上に形成された第1の実施形態〜第3の実施形態で説明したいずれかの電気−機械変換素子であることを特徴とする。
具体的な構成について、図15、図16を用いて説明する。
図15に1ノズルの液滴吐出ヘッド構成を示す。また図16にこれらを複数個配置したものを示す。
図15に示すように、本実施形態の液滴吐出ヘッドは、基板21部分に加圧室81が形成され、加圧室81の下端部分には、液滴を吐出するノズル82が設けられたノズル板83が配置されている。そして、電気−機械変換素子に電圧が印加され、電気−機械変換膜24が変位すると、下地膜(振動板)22が変形変位して加圧室81の液体をノズル82から吐出するように構成されている。そして、図16に示すように液滴吐出ヘッドを複数個配列した構成とすることもできる。図中には液体供給手段、流路、流体抵抗についての記述は略した。
以上のような液滴吐出ヘッドにおいては、第4の実施形態で説明した電気−機械変換素子を備えているため、予め十分に分極処理を施されており、分極率の低い電気−機械変換素子となっている。このため、所定の電位に対して電気−機械変換素子が安定した変形を示し、その結果、液滴吐出ヘッドも安定した液滴吐出を行うことが可能になる。
[第6の実施形態]
本実施形態では、第5の実施形態で説明した液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置について説明する。
本実施形態の液滴吐出装置の構成例について図17及び図18を参照して説明する。なお、図17は同液滴吐出装置の斜視説明図、図18は同液滴吐出装置の機構部の側面説明図である。
この液滴吐出装置は、記録装置本体91の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した第5の実施形態の液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部92等を収納している。
装置本体91の下方部には前方側から多数枚の用紙93を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)94を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙93を手差しで給紙するための手差しトレイ95を開倒することができる。そして、給紙カセット94或いは手差しトレイ95から給送される用紙93を取り込み、印字機構部92によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ96に排紙する。
印字機構部92は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド101と従ガイドロッド102とでキャリッジ103を主走査方向に摺動自在に保持している。キャリッジ103にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液滴吐出ヘッドからなるヘッド104を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列している。そして、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ103にはヘッド104に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ105を交換可能に装着している。
インクカートリッジ105は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有している。そして、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド104を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ103は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド101に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド102に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ103を主走査方向に移動走査するため、主走査モーター107で回転駆動される駆動プーリ108と従動プーリ109との間にタイミングベルト110を張装している。このタイミングベルト110をキャリッジ103に固定しており、主走査モーター107の正逆回転によりキャリッジ103が往復駆動される。
次に、給紙カセット94にセットした用紙93をヘッド104の下方側に搬送する機構について説明する。まず、給紙カセット94から用紙93を分離給装する給紙ローラ111及びフリクションパッド112と、用紙93を案内するガイド部材113と、給紙された用紙93を反転させて搬送する搬送ローラ114を有している。そして、この搬送ローラ114の周面に押し付けられる搬送コロ115及び搬送ローラ114からの用紙93の送り出し角度を規定する先端コロ116と、を設けている。搬送ローラ114は副走査モーター117によってギヤ列を介して回転駆動される。
キャリッジ103の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ114から送り出された用紙93を記録ヘッド104の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材119を設けている。この印写受け部材119の用紙搬送方向下流側には、用紙93を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ121、拍車122を設けている。さらに用紙93を排紙トレイ96に送り出す排紙ローラ123及び拍車124と、排紙経路を形成するガイド部材125、126とを配設している。
記録時には、キャリッジ103を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド104を駆動することにより、停止している用紙93にインクを吐出して1行分を記録し、用紙93を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙93の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙93を排紙する。
また、キャリッジ103の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド104の吐出不良を回復するための回復装置127を配置している。回復装置127はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ103は印字待機中にはこの回復装置127側に移動されてキャッピング手段でヘッド104をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド104の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。これにより、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
本実施形態の液滴吐出装置においては、第5の実施形態で説明した液滴吐出ヘッドを備えているため、該液滴吐出ヘッドに含まれる電気−機械変換素子は予め十分に分極処理を施されており、分極率の低い電気−機械変換素子となっている。このため、所定の電位に対して電気−機械変換素子が安定した変形を示し、その結果液滴吐出装置も安定して液滴吐出を行うことが可能になる。
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、以下の実施例、比較例における試料の評価方法について説明する。
(Pr−Pind)
得られた電気−機械変換膜について、図4に示すように、±150kV/cmの電界強度かけてヒステリシスループを測定した。この際、電圧をかける前の0kV/cm時の分極をPindとし、+150kV/cmの電圧印加後0kV/cmまで戻したときの0kV/cm時の分極をPrとし、Pr−Pindの値を分極率として算出した。
(クラック発生率)
クラック発生率は、1つのシリコンウェハー上に形成されたBitの個数(40960個)のうち、クラックの発生したBitの個数の割合を算出したものである(クラック発生したBit数/全Bit)。
(圧電定数)
電気−機械変換能(圧電定数)であるd31は電界印加(150kV/cm)による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。このとき、測定される代表的なP−Eヒステリシス曲線は図19に示す。初期特性を評価した後に、耐久性(1010回繰り返し印可電圧を加えた直後の特性)評価を実施した。
次に各実験例の試料作製手順について説明する。
[実験例1]
以下の各試料を作製し、評価を行った。試料No.1−1〜1−5が実施例であり、試料No.1−6が比較例である。
(試料No.1−1)
6インチシリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1μm)を形成し基板として用いた。
次いで、該基板上に第1の電極を形成した。第1の電極は密着層、金属電極膜、酸化物電極膜が積層された構造を有している。
まず密着層は、チタン膜(膜厚30nm)をスパッタ装置にて成膜した後にRTAを用いて750℃にて熱酸化することにより形成した。そして、引き続き金属電極膜として白金膜(膜厚100nm)、酸化物電極膜としてSrRuO3膜(膜厚60nm)をスパッタ成膜した。スパッタ成膜時の基板加熱温度については550℃にて成膜を実施した。
次に電気−機械変換膜として物質量比がPb:Zr:Ti=114:53:47に調整された溶液を準備し、スピンコート法により膜を成膜した。
具体的な前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上記酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。この際PZT前駆体溶液中のPZT濃度は0.5mol/Lにした。
係るPZT前駆体溶液を用いて、スピンコートにより成膜し、成膜後、120℃乾燥、500℃熱分解を行った。そして、成膜、乾燥、熱分解の工程を繰り返し行い、積層膜を形成した。3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度750℃)をRTA(急速熱処理)を用いて行った。このときPZTの膜厚は240nmであった。この工程を計8回すなわち、合計で24層積層し、膜厚が約2μmの電気−機械変換膜を得た。
次に第2の電極を形成した。第2の電極は、酸化物電極膜と金属電極膜とが積層された構造を有している。
まず酸化物電極膜として、SrRuO3膜(膜厚40nm)を形成し、さらに、金属電極膜として白金膜(膜厚125nm)をスパッタ成膜した。
その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて図2に示すようなパターンを作製した。
次に第1の絶縁保護膜として、ALD工法を用いてAl2O3膜を膜厚が50nmになるように成膜した。この際、Alについては、TMA(トリメチルアルミニウム)を、Oについてはオゾンジェネレーターによって発生させたO3を交互に供給、積層させることで、成膜を進めた。
その後、図2に示すように、エッチングによりコンタクトホール27を形成した。
そして、第3の電極28、第4の電極30、パッドとしてAlをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニング形成した。
次に、第2の絶縁保護膜としてSi3N4をプラズマCVDにより膜厚が500nmになるように成膜し、その後パッド部に開口部を形成し、電気−機械変換素子を作製した。
この後、図7に示す電気−機械変換素子製造装置を用いて、表1に示す条件で分極処理を行った。コロナ帯電処理に用いるコロナ電極としては、φ50μmのタングステンのワイヤーを用いている。分極処理の詳細な条件、分極処理後の電気−機械変換素子の評価結果は表1に示す。
なお、表1中、コロナ電圧、グリッド電圧は、コロナ電極、グリッド電極に印加した電圧を意味しており、処理時間は1つの電気−機械変換素子に対してコロナ電極からコロナ放電により電荷等を供給した時間を意味している。また、電荷量Qは分極処理の際にコロナ電極から電気−機械変換素子に供給された電荷量を意味している。
(試料No.1−2)
電気−機械変換素子に対して、表1に記載の分極処理条件で分極処理を行った以外は、試料No.1−1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。分極処理後の電気−機械変換素子の評価結果を表1に示す。
(試料No.1−3)
電気−機械変換素子に対して、表1に記載の分極処理条件で分極処理を行った以外は、試料No.1−1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。分極処理後の電気−機械変換素子の評価結果を表1に示す。
(試料No.1−4)
第2の電極として、酸化物電極膜であるSrRuO3膜(膜厚40nm)、および、金属電極膜であるPt膜(膜厚125nm)をスパッタ成膜した後、フォトレジスト膜を成膜する前に、表1に記載の分極処理条件処理を行った。その後、試料No.1−1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。得られた電気−機械変換素子の評価結果を表1に示す。
(試料No.1−5)
第2の電極を形成した後、フォトリソエッチング法により、図2に示すようなパターンを作製した後、第1の絶縁保護膜を形成する前に、表1に記載の分極処理条件で分極処理を行った。その後、試料No.1−1と同様な処理を行い電気−機械変換素子を作製した。得られた電気−機械変換素子の評価結果を表1に示す。
(試料No.1−6)
サンプルに対して、表1に記載の分極処理条件で処理を行った以外は、試料No.1−1と同様にして電気−機械変換素子を作製した。分極処理後の電気−機械変換素子の評価結果を表1に示す。
これによると、実施例である、試料No.1−1〜1−5については初期特性、耐久性試験後の結果についても一般的なセラミック焼結体と同等の特性(圧電定数は−120〜−160pm/V)を有していた。また、クラックの発生は見られなかった。
若干、試料No.1−4、1−5においては、耐久性試験後の圧電定数の、初期値からの変位幅が大きくなっているが、これは分極処理後にエッチングや層間絶縁膜の形成等を行っているため、それによって分極率が若干悪くなったことが影響していると考えられる。
一方、比較例である試料No.1−6に関しては、一部のBitにおいてクラックが発生しており、リーク等の不具合が発生した。
[実験例2]
以下の各試料を作製し、評価を行った。試料No.2−1〜2−5が実施例であり、試料No.2−6が比較例である。
(試料No.2−1〜No.2−3、2−6)
図12に示す電気−機械変換素子製造装置を用いて、表2に示す条件で分極処理を行った点以外は、実験例1の試料No.1−1と同様にして電気−機械変換素子を製造した。コロナ帯電処理に用いるコロナ電極としては、いずれのコロナ電極もφ50μmのタングステンのワイヤーを用いている。
分極処理の詳細な条件、分極処理後の電気−機械変換素子の評価結果は表2に示す。
(試料No.2−4)
分極処理を行う際に図12に示す電気−機械変換素子製造装置を用いて、表2に示す条件で行った点以外は、実験例1の試料No.1−4と同様にして電気−機械変換素子を製造した。得られた電気−機械変換素子の評価結果を表2に示す。
(試料No.2−5)
分極処理を行う際に図12に示す電気−機械変換素子製造装置を用いて、表2に示す条件で行った点以外は、実験例1の試料No.1−5と同様にして電気−機械変換素子を製造した。得られた電気−機械変換素子の評価結果を表2に示す。
これによると、実施例である、試料No.2−1〜2−5については初期特性、耐久性試験後の結果についても一般的なセラミック焼結体と同等の特性(圧電定数は−120〜−160pm/V)を有していた。また、クラックの発生は見られなかった。
若干、試料No.2−4、2−5においては、耐久性試験後の圧電定数の、初期値からの変位幅が大きくなっているが、これは分極処理後にエッチングや層間絶縁膜の形成等を行っているため、それによって分極率が若干悪くなったことが影響していると考えられる。
一方、比較例である試料No.2−6に関しては、一部のBitにおいてクラックが発生しており、リーク等の不具合が発生した。
[実験例3]
以下の各試料を作製し、評価を行った。試料No.3−1〜3−5が実施例であり、試料No.3−6が比較例である。
(試料No.3−1〜No.3−3、3−6)
図13に示す電気−機械変換素子製造装置を用いて、表3に示す条件で分極処理を行った点以外は、実験例1の試料No.1−1と同様にして電気−機械変換素子を製造した。コロナ帯電処理に用いるコロナ電極としては、φ50μmのタングステンのワイヤーを用いている。
分極処理の詳細な条件、分極処理後の電気−機械変換素子の評価結果は表3に示す。
(試料No.3−4)
分極処理を行う際に図13に示す電気−機械変換素子製造装置を用いて、表3に示す条件で行った点以外は、実験例1の試料No.1−4と同様にして電気−機械変換素子を製造した。得られた電気−機械変換素子の評価結果を表3に示す。
(試料No.3−5)
分極処理を行う際に図13に示す電気−機械変換素子製造装置を用いて、表3に示す条件で行った点以外は、実験例1の試料No.1−5と同様にして電気−機械変換素子を製造した。得られた電気−機械変換素子の評価結果を表3に示す。
これによると、実施例である、試料No.3−1〜3−5については初期特性、耐久性試験後の結果についても一般的なセラミック焼結体と同等の特性(圧電定数は−120〜−160pm/V)を有していた。また、クラックの発生は見られなかった。
若干、試料No.3−4、3−5においては、耐久性試験後の圧電定数の、初期値からの変位幅が大きくなっているが、これは分極処理後にエッチングや層間絶縁膜の形成等を行っているため、それによって分極率が若干悪くなったことが影響していると考えられる。
一方、比較例である試料No.3−6に関しては、一部のBitにおいてクラックが発生しており、リーク等の不具合が発生した。