以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下
記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形
態に種々の変形および置換を加えることができる。また、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
[第1の実施形態]
本実施形態に係る電気−機械変換素子の製造装置10の構成について、図2乃至図4に基づいて説明する。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置10は、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子20(以下、圧電素子20とも言う)に対して、分極処理を行う電気−機械変換素子の製造装置10である。
電気−機械変換素子の製造装置10は、図2、図3に示すように、コロナ放電により電荷を発生させるコロナ電極11と、電気−機械変換素子20を設置するステージ13と、コロナ電極11とステージ13との間に配置されたグリッド電極12と、を有する。さらに、ステージ13に備えられた電気−機械変換素子20を加熱する加熱機構を有している。
コロナ電極11、グリッド電極12は、それぞれコロナ電極用電源14、グリッド電極用電源15に接続されている。この際、図3に示すように、コロナ電極用電源14及びグリッド電極用電源15の各電極と接続されていない他方の端子は、例えば、ステージ13の電気−機械変換素子20を載置する場所に接続することができる。また、ステージ13にアース線16を接続する場合には、該アース線16に接続することができる。
ステージ13は、その上面にシリコンウエハ17が設置できるように構成されている。分極処理に供するシリコンウエハは、電気−機械変換素子20が予め形成されたものを用いることができる。電気−機械変換素子20のレイアウトは、任意に設定することが可能である。又、電気−機械変換素子20の構造は、特に限定されず、例えば、バイモルフ構造、ユニモルフ構造等であっても良い。
コロナ電極11は、ステージ13と対向し、間にグリッド電極12を介して形成される。コロナ電極11は、面状形状を有する電極であって、前記電気−機械変換素子20と対向する対向面上に、尖端突起部110が形成された構造を有している。
面状に形成する理由としては、圧電素子20上には電極パッドおよび絶縁膜が微細パターンで形成されており、本構成ではコロナ帯電により電極パッドを介して電気−機械変換素子に電界を掛け、分極処理を実施している。この電極パッドと絶縁膜等が混在した状態で均一に分極処理するには、尖端突起部を高密度に配置することが好ましい。
コロナ電極11の大きさは、電気−機械変換素子20の有効エリアの外周より内側に10mm小さい面積以上となるように形成できる。例えば、6インチのシリコンウエハ17(約φ150mm)に対して、電気−機械変換素子20の有効エリアがφ135である場合、コロナ電極11は、例えばφ115以上の面積を要するように形成できる。板厚は、約1mm程度で実施できる。
コロナ電極11は、例えば図4(A)に例示するコロナ電極11−1のように形成されても良い。
コロナ電極11−1は、電気−機械変換素子20と対向する対向面に、尖端突起部110として複数の針電極30を面方向に配置した構造を有し、当該針電極30は、電気−機械変換素子20と対向する側の先端位置が揃う構成とされている。針電極30は、電気−機械変換素子20の上面と直交し、先端が電気−機械変換素子20と対向する態様で複数本配置されている。針電極30の先端を揃えた理由は、コロナ電極11と電気−機械変換素子20との距離が異なると電界強度が変化して分極にバラツキが生じることを防止するためである。
針電極30は、例えば、φ2mmのタングステン針とし、先端をR30μmの針状に加工し、加工した複数のタングステン針電極30をφ160mm程度に束ねて形成することが好ましい。電極密度は、例えばタングステン針10本/cm2〜50本/cm2程度にできる。より好ましくは、25本/cm2である。
コロナ電極11は、図4(B)に例示するコロナ電極11−2のように形成されても良い。
コロナ電極11−2は、電気−機械変換素子20と対向する対向面に、尖端突起部110として複数の平板状の電極板31が対向面と垂直に、且つ電極板31同士をコロナ電極11−2の面内方向(Y−Y方向)に向かって互いに平行に配置した構造を有している。また、電極板31の電気−機械変換素子20と対向する側の辺には、鋸刃形状を有する鋸刃電極32が形成されている。鋸刃電極32は、例えば2mmのピッチで三角凹凸加工を施されて形成されることが好ましい。上記の電極板31は、隣接する電極板31間における鋸刃電極32の先端部を、例えば1mmずつ互い違いにずらして重ねて合わされていることが好ましい。
鋸刃電極32の、電気−機械変換素子20と対向する側の先端位置が揃う構成とすることが好ましい。また、電気−機械変換素子20の上面と鋸刃電極32の先端面とは、平行な位置関係に配置されていることが好ましい。
電極板31としては、例えば、板厚約1mm、幅約0.5mmのタングステン電極板が使用されることが好ましく、電極密度は、例えば鋸刃電極10個/cm2〜100個/cm2程度にできる。より好ましくは50個/cm2程度である。
コロナ電極11は、図4(C)に例示するコロナ電極11−3のように形成されても良い。
コロナ電極11−3は、電気−機械変換素子20と対向するように配置された平板33と、当該平板33と垂直に、且つ間隔をあけて配置された複数の針電極34を尖端突起部110として有している。平板33は、コロナ電極11の大きさに形成された例えば板厚1mm以下の電極板が使用されることが好ましい。
針電極34は、電気−機械変換素子20の上面と直交し、先端が電気−機械変換素子20と対向する態様で配置され、電気−機械変換素子20と対向する側の先端位置が揃っている。
平板33の電気−機械変換素子20と対向する対向面には、例えば約φ2mmのタングステンの針電極34が、3mmのピッチで針孔(図示省略)に差し込まれていることが好ましい。電極密度は、例えばタングステン針5本/cm2〜20本/cm2程度にできる。より好ましくは、タングステン針11本/cm2程度である。
平板33には、針電極34間に例えば約φ0.8mm程度の貫通孔35が設けられることが好ましく、上部からガスを流動できる構成とされている。ガスとしては、特に限定されないが、例えば酸素20%/窒素80%のガスが好ましい。また、ドライエアーでも良い。平板33の上部から貫通孔35を介してガスを流して電流を安定させることで、コロナ電極11の耐久性を向上できる。
上記したようにコロナ電極11は、面状形状を有する電極であり、電気−機械変換素子20と対向する対向面に、図4(A)〜(C)に示す複数の尖端突起部110を有して、安定的なコロナ放電をならしめる。
コロナ電極11の極性については、コロナ電極11に正負の電圧を印加することで特性が反転してしまうことが分かった。このため、電気−機械変換素子20の駆動上、使用する電圧域で分極処理効果を得られる極性とする必要がある。したがって、本実施形態のコロナ電極11は、正極とすることが好ましい。
グリッド電極12は、コロナ電極11とステージ13との間に配置されており、ステージ13と平行な配置であることが好ましい。グリッド電極12の構成は特に限定されるものではないが、電気−機械変換素子20よりも大きい面積で構成されることが好ましい。また、メッシュ加工を施し、コロナ電極11に高電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷等を効率よく且つ均一に分散させて、下のステージ13に降り注ぐように構成されていることが好ましい。
そして、ステージ13には、電気−機械変換素子20を加熱できるように加熱機構が付加されている。電気−機械変換素子20を加熱する該加熱機構の具体的手段は特に限定されるものではなく、各種ヒーターやランプ等を用いて加熱するように構成することができる。また、該加熱機構は、ステージ13内に設置することもでき、ステージ13の外から加熱するように設置することもできる。特に電極等との干渉を避けるため、ステージ13内に設置されていることが好ましい。
加熱機構の最大加熱温度は特に限定されるものではなく、製造する電気−機械変換素子20の電気−機械変換膜のキュリー温度等に応じて所定の温度に加熱できるように構成されていれば良い。特に各種電気−機械変換素子に対応できるよう、最大350℃まで加熱できるように構成されていることが好ましい。
また、ステージ13上に配置された試料に対して電荷が流れやすくするように試料を設置するステージ13はアース接地されていることが好ましい。すなわち、ステージ13にはアース線16が接続されていることが好ましい。
コロナ電極11やグリッド電極12に印加する電圧の大きさや、試料と各電極間の距離は特に限定されるものではなく、十分に分極処理を施すことができるようにこれらを調整し、コロナ放電に強弱をつけることができる。
また、分極処理を行う際に必要な電荷量Qについては、特に限定されるものではないが、電気−機械変換素子に1.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることが好ましく、4.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることがさらに好ましい。
電気−機械変換素子の製造装置10には、更にコロナ電極11を電気−機械変換素子20の上面に平行して、水平方向に旋回させる旋回機構120を設けることが好ましい。図示した旋回機構120は、コロナ電極11の上面側(電気−機械変換素子20側とは逆の面)の、中央位置に設けられている。コロナ電極11は、分極処理工程時に、電気−機械変換素子20の上方位置で水平方向に円を描くように、例えば速度10回転/分〜速度100回転/分である。より好ましくは、速度100回転/分で旋回される。旋回機構120の構成は、図示例の形態に限定されるものではない。
上記のようにコロナ電極11を旋回機構120により旋回させることで、複数の尖端突起部110内から供給される電荷の偏りを小さくし、高い分極率を得ることができる。
[第2の実施形態]
第2の実施形態の電気−機械変換素子の製造装置の構成例を、図5に基づいて説明する。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置10も、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子20に対して、分極処理を行う電気−機械変換素子の製造装置10である。
第2の実施形態は、第1の実施形態と略同様の技術的思想に基づいており、以下に、第1の実施形態との相違点についてのみ説明する。
第1の実施形態との相違点は、電気−機械変換素子の製造装置10のステージ13は、メッシュ加工が施されたグリッド電極12と、水平方向(X−X方向、Y−Y方向)に移動可能な構成とされている点にある。ステージ13の移動距離は、グリッド電極12のメッシュピッチP1、P2以上であることが好ましい。ステージ13の水平移動方向に関しては、メッシュ形状などにより適宜変更可能であり、例えば斜め方向にも移動可能である。
本実施形態では面内均一性を確保するため、スコロトロン方式を採用しており、グリッド電極12に対してステージ13を相対的に移動可能な構成とされている。したがって、分極処理工程の際に、ステージ13をグリッド電極12のメッシュピッチP1、P2以上に水平移動させることにより、グリッド電極12のメッシュの陰になっている部分の帯電量低下を分散させることができ、面内均一性が更に向上する。
[第3の実施形態]
第3の実施形態の電気−機械変換素子の製造装置の構成例を、図6に基づいて説明する。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造装置10も、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子20に対して、分極処理を行う電気−機械変換素子の製造装置10である。
第3の実施形態は、第1、2の実施形態と略同様の技術的思想に基づいており、以下に、第1、2の実施形態との相違点についてのみ説明する。
本実施形態のステージ13は、電気−機械変換素子20を設置するステージ本体部130と、加熱機構(図示省略)を備えたステージ加熱部131と、ステージ本体部130とステージ加熱部131との距離を変位させる変位手段132とを有している。
具体的には、加熱機構によりステージ本体部130が加熱され、分極処理を実施している途中に、変位手段132によりステージ加熱部131を徐々に降下させて、シリコンウエハ17の温度を徐々に低下させる構成とされている。これにより、温度を下げるときにおいても熱による脱分極を防止でき、分極処理後の特性を維持できる。
また、本実施形態のコロナ電極11は、電圧調整機構140を有するコロナ電極用電源14と接続されている。したがって、分極処理工程時に、上記した変位手段132によりステージ加熱部131を降下させ、シリコンウエハ17の温度を下げる際に、電圧調整機構140によりコロナ電極11へ印加する電圧も徐々に下げることが可能となる。したがって、分極処理条件を段階的に弱くしていくことで、クラックなどの発生を確実に防止することができる。
(電気−機械変換素子の製造方法)
次に、本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法について説明する。
電気−機械変換素子の製造方法においては、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有する電気−機械変換素子20を製造することができる。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法は、具体的には、上述した(図2〜6に示した)電気−機械変換素子の製造装置10、すなわち、分極装置を用いて行うことができる。
先ず、分極処理が行われる前に、第1、第2の絶縁保護膜や、第3、第4の電極を有する電気−機械変換素子が製造される各工程を、図11を参照しつつ簡単に説明する。
図11(A)は、電気−機械変換素子の断面構成図を示したものであり、図11(B)は、電気−機械変換素子の平面図を示したものである。図11(B)のA−A'線における断面図が図11(A)に当たる。図11(B)については、構成が分かり易いように、第1、第2の保護膜(層間絶縁膜)については記載を省略している。
基板21、下地膜(振動板)22上に、第1の電極(下部電極)23が例えばスパッタ装置により積層される。第1の電極は、例えば密着層、金属電極膜、酸化物電極膜が積層された構造を有している。
次に、第1の電極の上面に電気−機械変換膜24が、例えばスピンコート法により成膜、乾燥、熱分解の工程を繰り返し行うことで成膜される。
次に、電気−機械変換膜24の上面に、例えばスパッタ法などにより第2の電極(上部電極)25を積層する。その後、フォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、エッチング装置などを用いて、図11(B)に示すパターンを作製する。
したがって、図11(B)に示すように、電気−機械変換膜24および第2の電極25は個別化した状態とすることができる。第1の電極は個別化した電気−機械変換膜24および第2の電極25に対して共通した1個の電極、すなわち共通電極として機能する。第2の電極25についてはそれぞれ個別化していることから個別電極として機能する。
そして、第1の電極23および個別化した第2の電極25上に、第1の絶縁保護膜26を、例えばALD工法を用いて形成する。第1の絶縁保護膜26には、第1の電極23および前記第2の電極25を露出するコンタクトホール27を形成する。そして、コンタクトホール27を介して第1の電極23および第2の電極25と電気的に接続される第3の電極28および第4の電極30をスパッタ成膜とエッチングにより形成する。
また、第3の電極28にはパッド(共通電極パッド)29を、第4の電極30にはパッド(個別電極パッド)31をそれぞれ接続するように形成する。そして、第3の電極28および第4の電極30上に、パッド29、31の少なくとも一部を露出する開口部を有する第2の絶縁保護膜32を、例えばプラズマCVDにより形成する。
ここで、コロナ帯電等による分極処理前に電気−機械変換素子20の個別電極パッド31にバンプを形成して、個別電極パッド31の表面積を大きくしておくことが好ましい。また、図示することは省略したが、電気−機械変換素子駆動用DrICを圧電素子上(電気−機械変換素子20)に実装しておくことが好ましい。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法は、上記の状態まで製造された電気−機械変換素子20に対して分極処理を施す分極処理工程を有している。次に、本実施形態の分極処理工程について説明する。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法における分極処理工程は、コロナ電極11が6インチのシリコンウエハ17に対して、例えばφ115以上の面積を有するため、シリコンウエハ17に対して複数の電気−機械変換素子20の分極処理を一回で行える。本実施形態では、6インチのシリコンウエハ内30mm×10mm四方のエリアに25個配置されている。
使用するコロナ電極11は、図4(A)〜(C)の何れかの尖端突起部110(針電極30、鋸刃電極32、針電極34)を有している。電気−機械変換素子20の構造やシリコンウエハ17の大きさなどにより適切なコロナ電極11が選択されている。
分極処理工程において、上記したステージ13のステージ加熱部131に備えられた加熱機構により、前記電気−機械変換素子20を前記電気−機械変換膜のキュリー温度以下に加熱する。因みに、電気−機械変換膜24がPZT膜においては、160℃で加熱することが好ましい。
分極処理を行う際に必要な電荷量Qは、電気−機械変換素子20に1.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることが好ましく、4.0×10−8C以上がより好ましい。
また、分極処理工程において、電気−機械変換素子の製造装置のコロナ電極11が、正極とされ、コロナ放電により発生した電荷が正帯電していることが好ましい。これにより電気−機械変換素子20の個別電極に対して正側の駆動波形を印加すればよくなり、駆動回路構成を簡略化できる。
次に、上記した分極処理工程の際、第2、第3の実施形態の電気−機械変換素子の製造装置10による分極処理工程について説明する。
第2の実施形態の電気−機械変換素子の製造装置10によれば、分極処理工程において、ステージ13は、電気−機械変換素子20をメッシュ加工が施されたグリッド電極12と水平方向(X−X方向、Y−Y方向)に移動させる(図5参照)。ステージ13の移動距離は、グリッド電極12のメッシュピッチP1、P2以上とすることが好ましい。本実施形態では面内均一性を確保するため、スコロトロン方式を採用しており、グリッド電極12に対してステージ13を相対的に移動できる構成としている。
したがって、コロナ放電の際に、ステージ13をメッシュピッチP1、P2以上に水平移動させることにより、グリッド電極12のメッシュの陰になっている部分の帯電量低下を分散させることができ、面内均一性が更に向上する。
第3の実施形態の電気−機械変換素子の製造装置10によれば、分極処理工程において、ステージ本体部130は、ステージ加熱部131により加熱される構成である。また、ステージ加熱部131とステージ本体部130との間を徐々に離間させる変位手段132を有している(図6参照)。
変位手段132は、分極処理を実施している途中に、ステージ加熱部131とステージ本体部130との間を徐々に離間させる。すると、ステージ本体部130上に製造された電気−機械変換素子20の温度を徐々に下げることができる。したがって、シリコンウエハ17を所定の温度(例えば80℃)に下げつつも分極処理を継続することができる。これにより、急激に温度を下げるときに発生する脱分極を防止でき、分極処理後の特性を維持できる。
また、上記した変位手段132により、ステージ加熱部131を降下させる際に、電圧調整機構140によりコロナ電極11へ印加する電圧も下げることが好ましい。このように、分極処理条件を段階的に弱くしていくことで、クラックなどの発生を確実に防止することができる。
以上、第1〜第3の実施形態に係る電気−機械変換素子の製造装置を用いた電気−機械変換素子の製造方法について説明してきたが、第1〜第3の実施形態に係る電気−機械変換素子の製造装置を組み合わせて、電気−機械変換素子20を製造することが好ましい。
本実施形態に係る製造方法によれば、電気−機械変換膜や、基板または下地膜を破損させることなく十分に分極処理を施した電気−機械変換素子を製造することが可能になる。
(分極処理の原理)
次に、電気−機械変換素子の製造装置10による分極処理の原理の一例について、図7を用いて説明する。電気−機械変換素子の製造装置10は、コロナ放電及びステージ電圧により、圧電素子に分極処理を施す。
コロナ電極に、電圧が印加されると、コロナ放電により、大気中の分子がイオン化され、陽イオン及び陰イオンが発生する。これらのイオンが、メッシュ加工が施され、グリッド電圧が印加されたグリッド電極(図示省略)を介して、ステージに降り注ぐ。
陽イオンが、電気−機械変換素子(圧電素子)の共通電極パッド及び個別電極パッド(図示せず)を介して、電気−機械変換素子に注入されることで、逆極性の電荷が電気−機械変換素子の上部電極及び下部電極に蓄積する。又、貫通孔を介して電気−機械変換素子に電圧が印加されると、電気−機械変換素子の上部電極と下部電極との間に、更に大きな内部電圧差が生じ、圧電素子は分極する。
更に、図8(A)に示すように、個別電極数がA個、共通電極数がB個(ここでは、個別電極と共通電極の面積が同じと仮定)であるとき、電荷量Qが発生し、一つの電気−機械変換素子に対してどのくらいの電荷が蓄積されているかを図8(B)に示した。共通電極はシリコン基板の裏面に対して所定の抵抗値を持っており、本実施形態では1E7Ω程度になっており、分極処理時の電荷はほぼGNDに流れてしまい、個別電極に印加された電荷により電位差が発生して分極処理がなされていると考えられる。
分極処理の状態については、電気−機械変換素子のP−Eヒステリシスループから判断することができる。分極処理の状態の判断方法について図9を用いて説明する。
P−Eヒステリシスループの例を図9(A)、(B)に示す。図9(A)は分極処理を行う前の試料、図9(B)は分極処理後のP−Eヒステリシスループを示している。
図9に示すように、±150kV/cmの電界強度かけてヒステリシスループを測定した場合に、電圧をかける前の0kV/cm時の分極をPiniとし、+150kV/cmの電圧印加後0kV/cmまで戻したときの0kV/cm時の分極をPrとする。
この時、Pr−Piniの値を分極率として定義し、この分極率により、分極の状態が適切であるか否かを判断することができる。具体的には、図9(B)に示すように、分極処理を行った後の試料については、分極率Pr−Piniの値は所定値以下になっていることが好ましい。例えば、10μC/cm2以下となっていることが好ましく、5μC/cm2以下となっていることがさらに好ましい。Pr−Piniの値が十分に小さくなっていない場合は、分極が十分になされておらず、電気−機械変換素子の所定駆動電圧に対する変位量が安定しない状態となる。
ここで、Si基板上に、第1、第2の電極として白金電極を、電気−機械変換膜としてPZTを用いた電気−機械変換素子に、室温で分極処理を施した場合と、80℃加熱して分極処理した場合に、膜中に発生したクラック発生率と分極率の関係を図10に示す。クラック発生率は、クラック発生したBit数/全Bitである。使用したコロナ電極は、1本のタングステンワイヤである。
室温で分極処理した場合には、分極率を小さくしようとするとクラック発生率が高くなり、これら2つの関係はトレードオフになっていることが分かる。なお、ここでいうBit数とは測定範囲内における個別化した電気−機械変換膜の数を意味している。
これによると、80℃に加熱して分極処理した場合、分極率が小さくなるとクラック発生率が高くなる傾向を示すものの、室温での分極処理に比べて、加熱しながら分極処理を行った方が、クラックフリーで得られる分極率が小さいことが分かる。これは、加熱しながら分極処理を行った場合、電気−機械変換膜の応力を緩和させながら処理できるため、所望の分極率するため、多くの電荷量を供給してもクラックが発生しなかったと推認される。
1本のタングステンワイヤを用いたコロナ電極処理では、シリコンウエハ上に配置された圧電素子を順次分極処理するに当たり、基板を順次送ることがなされている。したがって、更に基板温度を120℃、160℃と高くすると、シリコンウエハ上に配置された圧電素子を順次分極処理するに当たり、分極処理を実施してから基板加熱温度にて保持されている間に脱分極が起こり、分極量差が大きくなってしまう。したがって、80℃以上に基板加熱することができなかった。
これに対して、タングステンワイヤを複数本配置してコロナ電極とし、シリコンウエハ単位で80℃以上に加熱し、シリコンウエハ面内一括で分極処理する構成も検討されている。しかし、ワイヤ配置に応じて、シリコンウエハ面内の分極量差のバラツキが大きくなってしまうという課題が発生していた。
本実施形態では、上記したようにシリコンウエハ17と略同様の大きさを有する面状形状を有するコロナ電極11によりコロナ放電することで、シリコンウエハ17上に複数製造された電気−機械変換素子20を一括してコロナ分極処理できる。これにより、電気−機械変換素子20を分極処理後も加熱した状態で保持する必要が無くなり、基板温度を80℃以上に加熱して分極処理を行える。したがって、分極処理のバラツキを低減させ、基板加熱効果がそのままクラックフリーで得られる分極量差として更に小さくすることできる。また、圧電素子の製造に掛かる時間も大幅に短縮できる。
[第4の実施形態]
本実施形態では、本発明の電気−機械変換素子20の構成例について、図11から説明する。本実施形態の電気−機械変換素子20は、基板または下地膜上に第1の電極、電気−機械変換膜、第2の電極が積層された構造を有している。
そして、電気−機械変換膜に、±150kV/cmの電界強度かけてヒステリシスループを測定した場合に、電圧をかける前の0kV/cm時の分極をPini、+150kV/cmの電圧印加後0kV/cmまで戻した時の0kV/cm時の分極をPrとする。この場合、分極率Pr−Piniが10μC/cm2以下であることが好ましい。特に分極率Pr−Piniは5μC/cm2以下であることが好ましい。
係る電気−機械変換素子は、十分な分極処理がなされており、電気−機械変換素子の所定駆動電圧に対する変位量を安定させることができる。このため、初期や連続駆動後であっても安定して十分な特性を得ることができる。
また、本実施形態の電気−機械変換素子は、電気−機械変換膜及び前記第2の電極が個別化されていることが好ましい。
この場合さらに、第1の電極及び第2の電極上に形成された第1の絶縁保護膜と、第1の絶縁保護膜に形成されたコンタクトホールを介して、第1の電極および第2の電極と電気的に接続される第3の電極および第4の電極と、を有する構成とすることができる。
また、図11に示したように、第3の電極および第4の電極はパッドと接続され、第3の電極および第4の電極上には第2の絶縁保護膜が設けられ、第2の絶縁保護膜には、パッドの少なくとも一部を露出する開口部が形成された構成とすることができる。
以下に、本実施形態の電気−機械変換素子20の各部材について図11を用いて説明する。
下記の様に、本実施形態の電気−機械変換素子は、基板21または下地膜(振動板)22上に形成することができる。
基板21の材料としては特に限定されるものではないが、加工の容易性や、入手しやすさ等を鑑みると、シリコン単結晶基板を用いることが好ましい。
シリコン単結晶基板としては、面方位が(100)、(110)、(111)の3種あるが、特に限定されるものではなく、加工の内容等に応じて適切な基板を選択することができる。
例えば、基板に対してエッチング加工を要する場合には、エッチング加工の内容にあわせて所定の面方位を有する基板を選択することができる。後述する液滴吐出ヘッドを形成する場合を例に説明すると、通常エッチングにより基板に加圧室を作製するが、この際のエッチング方法としては一般的に異方性エッチングが用いられている。ここで、異方性エッチングとは、結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものであり、例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝を掘ることができ、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができることが分かっている。このため、例えば液滴吐出ヘッドを構成する基板の場合には(110)の面方位を持ったシリコン単結晶基板を好ましく用いることができる。
基板21の厚さは用途等により選択することができ、特に限定されるものではないが、例えば、100〜600μmの厚みをもつものを好ましく用いることができる。
下地膜(振動板)22は、例えば後述のように液滴吐出ヘッドを形成する場合に設けることができ、用途によっては下地膜22を設けずに基板21上に電気−機械変換素子を設けることもできる。
下地膜22は例えば液滴吐出ヘッドの場合、電気−機械変換膜によって発生した力を受けて、変形変位して加圧室の液体(例えばインク)を吐出させる。そのため、下地膜22としては所定の強度を有したものであることが好ましい。材料としては、Si、SiO2、Si3N4をCVD法により作製したものが挙げられる。特に、第1の電極、電気−機械変換膜の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。電気−機械変換膜としてPZTを用いるとすると、その線膨張係数8×10−6(1/K)に近い5×10−6〜10×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料が好ましく、7×10−6〜9×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料がより好ましい。
具体的には例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等を好ましく用いることができる。
下地膜22の形成方法は特に限定されるものではないが、スパッタ法もしくは、Sol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。
下地膜の膜厚としては特に限定されるものではないが、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上3μm以下であることがより好ましい。この範囲より小さいと例えば後述する液滴吐出ヘッドの場合、加圧室の加工が難しくなり、この範囲より大きいと下地膜が変形変位しにくくなり、液滴の吐出が不安定になる場合があり好ましくない。
第1の電極23についても特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば、金属電極膜や酸化物電極膜により構成することができ、特に金属電極膜と酸化物電極膜の積層体であることが好ましい。
金属電極膜としては、白金、イリジウム、ロジウムなどの白金族元素や、例えば白金−ロジウムなどのこれら合金からなる膜が挙げられる。
金属電極膜として白金を使用する場合であって、基板上に形成する場合には基板(特に基板表面にSiO2が形成されている場合)との密着性が悪いために、基板と金属電極膜との間に後述する密着層を形成することが好ましい。
金属電極膜の作製方法としては、特に限定されるものではなく各種成膜方法を採用することができる。例えば、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜が一般的である。膜厚についても特に限定されるものではないが、80nm〜200nmであることが好ましく、100nm〜150nmであることが好ましい。これは、金属電極膜の膜厚が薄すぎる場合には十分な電流を供給することができない場合があるためである。膜厚が厚すぎる場合には、金属電極膜が白金属の高価な材料により構成されているため、コストが高くなるため、また、膜厚を厚くしていった場合に表面粗さが大きくなり、その上に積層する層の表面粗さや結晶配向性に影響を与える場合があるためである。
酸化物電極膜の材料についても特に限定されるものではないが、例えば、SrRuO3好ましく用いることができる。SrRuO3以外にも、SrxA(1−x)RuyO(1−y)(A:Ba、Ca B:Co、Ni x、y=0〜0.5)で記述されるような材料についても好ましく用いることができる。
酸化物電極膜の成膜方法についても特に限定されるものではないが、スパッタ法により成膜することができる。
後述する電気−機械変換膜としては、PZTを用いることが好ましく、PZTは(111)配向することが好ましいため、酸化物電極膜としてSrRuO3を用いる場合、SrRuO3についても(111)配向していることが好ましい。ところが、SrRuO3はスパッタ条件によって膜質が変わることが知られており、例えば金属電極膜として(111)配向のPtを用い、該Pt膜上に成膜する場合には、SrRuO3膜を成膜する際、500℃以上に基板加熱を行い、成膜することが好ましい。
なお、Pt(111)上に作製したSrRuO3膜の結晶性については、PtとSrRuO3膜で格子定数が近いため、通常のθ−2θ測定では、SrRuO3膜(111)とPt(111)の2θ位置が重なってしまい判別が難しい。Ptについては消滅則の関係からPsi=35°傾けた2θが約32°付近の位置には回折線が打ち消し合い、回折強度が見られない。そのため、Psi方向を約35°傾けて、2θが約32°付近のピーク強度で判断することでSrRuO3膜が(111)に優先配向しているかを確認することができた。また、上述記載の室温成膜+RTA処理により作製されたSrRuO3膜については、Psi=0°のときにSRO(110)の回折強度が見られる。
SrRuO3膜の表面粗さについては特に限定されるものではないが、4nm以上15nmであることが好ましく、6nm以上10nm以下であることがより好ましい。表面粗さが上記範囲よりも大きくなると、その後成膜した電気−機械変換膜の絶縁耐圧が悪化する場合があり、リーク電流を生じる場合があるためである。
また、表面粗さは小さい方が好ましいものの、表面粗さは成膜温度に影響を受け、室温から300℃で成膜した場合には表面粗さを非常に小さくすることができ、例えば2nm以下とすることもできる。しかし、この場合、SrRuO3膜の結晶性が低下するため、好ましくない。このため、表面粗さRaは上記範囲であることが好ましい。なお、ここでいう表面粗さとは、AFMにより測定される表面粗さRa(中心線平均粗さ)を意味している。上記のような表面粗さを有し、結晶性の高いSrRuO3膜とするためには、成膜温度を500℃〜700℃とすることが好ましく、520℃〜600℃とすることがより好ましい。
また、酸化物電極膜としてSrRuO3を用いる場合、該SrRuO3膜の成膜後のSrとRuの組成比については、Sr/Ru(物質量比)が0.82以上1.22以下であることが好ましい。この範囲から外れると比抵抗が大きくなり、電極として十分な導電性が得られなくなる場合があるためである。
酸化物電極膜の膜厚は特に限定されるものではないが、40nm以上150nm以下であることが好ましく、50nm以上80nm以下であることがより好ましい。この膜厚範囲よりも薄いと初期変位や連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない場合や電気−機械変換膜をエッチングする際にオーバーエッチングを抑制するためのストップエッチング層としての機能も得られにくくなる。また、この範囲を超えると、その後成膜した電気−機械変換膜の絶縁耐圧が悪化し、リーク電流を生じる場合があり好ましくない。
また、酸化物電極膜の比抵抗としては、電極として十分な導電性を有するため、5×10−3Ω・cm以下になっていることが好ましく、さらに1×10−3Ω・cm以下になっていることがより好ましい。
また、上記の様に、基板21と第1の電極23または、下地膜22と第1の電極23との間に密着層を設けることができる。密着層としてはTiO2膜を好ましく用いることができる。またTa、Ir、Ru等の酸化物についても好ましく用いることができる。
TiO2膜の成膜方法は特に限定されるものではなく、例えば反応性スパッタにより成膜することもできるが、チタン膜を高温により熱酸化したものを好ましく用いることができる。具体的には、Tiをスパッタ成膜後、RTA(rapid thermal annealing)装置を用いて、650〜800℃、1〜30分、酸素雰囲気で熱酸化して得られたものを好ましく用いることができる。
これは、反応性スパッタによる作製では、シリコン基板を高温で加熱する必要があるため、特別なスパッタチャンバ構成を必要とするため。さらに、通常の加熱炉による酸化によれば、酸化しやすいチタン膜は、低温においてはいくつもの結晶構造を作るため、一旦、それを壊す必要があるのに対して、昇温速度の速いRTA法によれば良好な結晶を形成することができるためである。他の金属の場合についても同様にして酸化物膜を形成することができる。
密着層の膜厚としては、10nm以上50nm以下が好ましく、15nm以上30nm以下がさらに好ましい。これよりも薄いと十分に密着性を高める効果を有しない場合があり、この範囲よりも厚い場合、その上に積層する電極膜等の結晶の質に影響が出てくる場合があるためである。
電気−機械変換膜24としては、圧電特性を示す材料であれば用いることができ、特に限定されるものではないが、Pbを含んだ酸化物から形成されていることが好ましい。
特に電気−機械変換膜としては、その高い圧電特性から、PZTを好ましく用いることができる。PZTとはジルコン酸鉛(PbTiO3)とチタン酸(PbTiO3)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O3、一般的にはPZT(53/47)とも示される。
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムや同様の構造を有する材料などが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
これら材料は一般式ABO3で記述され、ここでのAはPb、Ba、Srから選択された1以上の元素とし、BはTi、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbから選択された1以上の元素とすることができる。そして、係るABO3を主成分とする複合酸化物を電気−機械変換膜として好ましく用いることができる。上記A、Bの元素はその具体的には(Pb1−x,Ba)(Zr,Ti)O3、(Pb1−x,Sr)(Zr,Ti)O3、等として記載することができる。これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
また、電気−機械変換膜の比誘電率としては600以上2000以下になっていることが好ましく、さらに1200以上1600以下になっていることが好ましい。比誘電率を上記範囲とすることにより、十分な変位特性を得ることができる。また、分極処理を十分に行うことができ、連続駆動後の変位劣化について十分な特性とすることができる。
電気−機械変換膜の作製方法としては特に限定されるものではないが、例えばスパッタ法もしくは、Sol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。いずれの場合でも、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。
PZTをSol−gel法により作製する場合を例にその作製手順を説明する。まず、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールにこれらの出発材料を溶解させ均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定化剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加しても良い。
第1の電極等が形成された下地基板全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体溶液の濃度を調整することが好ましい。
電気−機械変換膜の膜厚としては特に限定されるものではなく、要求される変位量等により任意に選択することができる。例えば、その膜厚としては0.5μm以上5μm以下が好ましく、1μm以上2μm以下がより好ましい。係る範囲の膜厚とすることにより十分な変位を発生させることができる。また、係る範囲の膜厚であれば積層し形成する工程数も必要以上に多くはならないため、生産性良く製造することができる。
第2の電極25についても特に限定されるものではなく、任意に選択することができる。例えば、金属電極膜や酸化物電極膜により構成することができ、特に金属電極膜と酸化物電極膜の積層体であることが好ましい。
金属電極膜については特に限定されるものではなく、例えば第1の電極の場合と同様の材料を好ましく用いることができる。
膜厚としては30nm以上200nm以下が好ましく50nm以上120nm以下がさらに好ましい。上記範囲よりも膜厚を薄くすると、電極として十分な電流を供給することができない場合がある。上記範囲よりも膜厚を厚くすると、電極材料として白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コストアップの原因となる。また、特に白金を材料とした場合においては、膜厚を厚くしていったときに表面粗さが大きくなり、さらに金属電極膜上に他の材料を積層した場合に膜剥がれを生じる場合があり好ましくない。
酸化物電極膜の材料についても特に限定されるものではないが、例えば第1の電極の場合と同様の材料を好ましく用いることができる。
酸化物電極膜の膜厚としては特に限定されるものではないが、20nm以上80nm以下が好ましく、40nm以上60nm以下がさらに好ましい。この膜厚範囲よりも薄いと初期変位や変位劣化特性については十分な特性が得られない場合があり好ましくない。また、この範囲を超えると、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる場合があり好ましくない。
上記の様に本実施形態の電気−機械変換素子には、第1の絶縁保護膜26を設けることができる。第1の絶縁保護膜は、成膜・エッチングの工程による電気−機械変換素子へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過しづらい材料を用いることが好ましい。このため、無機材料の膜であることが好ましく、特に緻密な膜であることが好ましい。
薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物、窒化物、炭化膜を用いるのが好ましい。特に、第1の絶縁保護膜と接触する、すなわち、下地となる、第2の電極25及び第1の電極23の材料、電気−機械変換膜24の材料、基板21上面の材料と密着性が高い材料であることが好ましい。このため、Al2O3、ZrO2、Y2O3、Ta2O3、TiO2などの酸化膜が例として挙げられる。
第1の絶縁保護膜の成膜方法は特に限定されるものではないが、電気−機械変換素子を損傷しない成膜方法を選択することが好ましい。このため、蒸着法、ALD法を好ましく用いることができ、中でも適用できる材料の選択肢が多いALD法により成膜することが好ましい。特にALD法によれば、膜密度の非常に高い薄膜を作製することができ、プロセス中での電気−機械変換素子へのダメージを抑制することができる。
第1の絶縁保護膜の膜厚は特に限定されるものではないが、電気−機械変換素子の保護性能を確保できる十分な厚さであり、かつ、電気−機械変換素子の変位を阻害しないように可能な限り薄いことが好ましい。例えば、第1の絶縁保護膜の膜厚は20nm以上100nm以下の範囲であることが好ましい。100nmより厚い場合は、電気−機械変換素子の変位を阻害する場合がある。一方、20nmより薄い場合は電気−機械変換素子の保護層としての機能が十分ではなく、電気−機械変換素子の性能が低下する場合がある。
また第1の絶縁保護膜を複数層からなる構成とすることができる。例えば2層から構成する場合、2層目の絶縁保護膜を厚くするため、電気−機械変換素子の振動変位を著しく阻害しないように第2の電極付近において2層目の絶縁保護膜に開口部を形成する構成も挙げられる。この場合、2層目の絶縁保護膜としては、任意の酸化物、窒化物、炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができ、例えば半導体デバイスで一般的に用いられるSiO2を用いることが好ましい。成膜は任意の手法を用いることができ、CVD法、スパッタリング法等により成膜することができる。特に電極形成部等のパターン形成部の段差被覆を考慮すると等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。
2層目の絶縁保護膜の膜厚についても特に限定されるものではなく、各電極に印加される電圧を考慮し、絶縁破壊されない膜厚を選択することが好ましい。すなわち絶縁保護膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定することが好ましい。さらに、絶縁保護膜の下地の表面性やピンホール等を考慮すると膜厚は200nm以上であることが好ましく、500nm以上であることが好ましい。
上記の様に、第1の電極、第2の電極はそれぞれパッドと接続するように構成することができる。この場合、第1の電極23、第2の電極25とパッド29、31との間は、第3の電極28、第4の電極30により接続することができる。この場合、各電極とパッド間を接続する第3の電極28、第4の電極30の材料については特に限定されるものではなく、各種導電性材料を用いることができる。特に、Cu、Al、Au、Pt、Ir、Ag合金、Al合金から選択されるいずれかの材料により構成されていることが好ましい。
第3の電極28、第4の電極30の作製方法は特に限定されるものではなく、任意の方法により形成することができる。例えば、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンを得ることができる。
接続部材の膜厚についても特に限定されるものではないが、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.2μm以上10μm以下がより好ましい。膜厚が係る範囲より薄いと抵抗が大きくなり電極に十分な電流を流すことができない場合がある。また、係る範囲より厚いと製造プロセスに時間を要するため生産性が低下し好ましくない。
また、第1の絶縁保護膜26を設ける場合、第3、第4の電極はそれぞれ、第1の絶縁保護膜26に、コンタクトホール27を設け、該コンタクトホールにおいて第1の電極23、第2の電極25と接続することができる。コンタクトホール27のサイズは特に限定されるものではないが、例えば10μm×10μmの大きさとすることができる。そして、コンタクトホール27における接触抵抗として、第1の電極(共通電極)については10Ω以下、第2の電極(個別電極)については1Ω以下となるように構成することが好ましい。係る範囲とすることにより、各電極に十分な電流を安定して供給できるため好ましい。特に、第1の電極(共通電極)については5Ω以下、第2の電極(個別電極)については0.5Ω以下となるように構成することが好ましい。
また、本実施形態の電気−機械変換膜においては第2の絶縁保護膜32を設けることができる。第2の絶縁保護膜32は第3の電極28、第4の電極30を保護する機能を有するパシベーション層である。
図11に示す通り、第2の絶縁保護膜32は、第3の電極28、第4の電極30上を被覆し、第3の電極28、第4の電極30に接続されたパッド29、31部分において開口部を有する構成とすることができる。これにより第3の電極28、第4の電極30に安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いた場合でも電気−機械変換素子の信頼性を高めることができる。また、これらの接続部材等に安価な材料を用いることができるため、電気−機械変換素子のコストを低減することができる。
第2の絶縁保護膜32の材料としては特に限定されるものではなく、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、特に透湿性の低い材料とすることが好ましい。無機材料としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物等を用いることができる。また、有機材料としては例えば、ポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。
ただし有機材料の場合には絶縁保護膜として機能させるためには、その膜厚が厚くなり、パターニングを行うことが困難な場合がある。このため、薄膜で配線保護機能を発揮できる無機材料を好ましく用いることができる。特に、第3の電極28、第4の電極30としてAl配線を用いた場合には、第2の絶縁保護膜32としてはSi3N4を用いることが、半導体デバイスで実績のある技術であるため好ましい。
第2の絶縁保護膜32の膜厚は200nm以上とすることが好ましく、500nm以上とすることがより好ましい。これは、膜厚が薄い場合は十分なパシベーション機能を発揮できないため、第3、第4の電極の腐食による断線が発生する等して信頼性を低下させてしまう場合があるためである。
また、第2の絶縁保護膜は、電気−機械変換素子上に開口部をもつ構造が好ましく、後述する液滴吐出ヘッドとする場合には、さらに振動板部分にも開口部を有する構造とすることが好ましい。これは電気−機械変換素子の振動変位を著しく阻害しないようにするためであり、より高効率かつ高信頼性の電気−機械変換素子とすることができ好ましい。
第2の絶縁保護膜は、各パッドを露出するための開口部を形成することができ、開口部の形成には、例えばフォトリソグラフィー法とドライエッチングを用いることができる。
また、共通電極パッド部、個別電極パッド部の面積は特に限定されるものではないが、パッド部、第2の絶縁保護膜を形成してから分極処理を行う場合、係るパッド部から電荷が供給されるため、分極処理が十分に行える様にその面積を選択することが好ましい。例えば、各パッドはその大きさが50×50μm2以上になっていることが好ましく、さらに100×300μm2以上になっていることがより好ましい。
以上、本実施形態の電気−機械変換素子20について説明してきたが、係る電気−機械変換素子20は、クラックを有さず、分極率の低い電気−機械変換素子となっている。このため、電気−機械変換素子の所定駆動電圧に対する変位量を安定させることができ、初期や連続駆動後であっても安定して十分な特性を得ることができる。
本実施形態の電気−機械変換素子の製造方法は特に限定されるものではないが、第1の実施形態〜第3の実施形態において説明した電気−機械変換素子の製造装置により好適に製造することができる。
[第5の実施形態]
本実施形態では、第4の実施形態で説明した電気−機械変換素子を備えた液滴吐出ヘッドについて説明する。
本実施形態の液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出するノズルと、前記ノズルが連通する加圧室と、前記加圧室内の液体を昇圧させる吐出駆動手段と、を備えている。
そして、前記吐出駆動手段が、第1の実施形態〜第3の実施形態の電気−機械変換素子の製造装置により製造された電気−機械変換素子20であることを特徴とする。
具体的な構成について、図12、図13を用いて説明する。図12に一つのノズルを有する液滴吐出ヘッド構成を示す。また図13にこれらを複数個配置したものを示す。
図13に示すように、本実施形態の液滴吐出ヘッドは、基板21部分に加圧室81が形成され、加圧室81の下端部分には、液滴を吐出するノズル82が設けられたノズル板83が配置されている。そして、電気−機械変換素子に電圧が印加され、電気−機械変換膜24が変位すると、下地膜(振動板)22が変形変位して加圧室81の液体をノズル82から吐出するように構成されている。そして、図13に示すように液滴吐出ヘッドを複数個配列した構成とすることもできる。図中には液体供給手段、流路、流体抵抗についての記述は略した。
以上のような液滴吐出ヘッドにおいては、第4の実施形態で説明した電気−機械変換素子を備えているため、予め十分に分極処理を施されており、分極率の低い電気−機械変換素子となっている。このため、所定の電位に対して電気−機械変換素子が安定した変形を示し、その結果、液滴吐出ヘッドも安定した液滴吐出を行うことが可能になる。
[第6の実施形態]
本実施形態では、第5の実施形態で説明した液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置について説明する。
本実施形態の液滴吐出装置の構成例について図14及び図15を参照して説明する。なお、図14は同液滴吐出装置の斜視説明図、図15は同液滴吐出装置の機構部の側面説明図である。
この液滴吐出装置は、記録装置本体91の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した第5の実施形態の液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部92等を収納している。
装置本体91の下方部には前方側から多数枚の用紙93を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)94を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙93を手差しで給紙するための手差しトレイ95を開倒することができる。そして、給紙カセット94或いは手差しトレイ95から給送される用紙93を取り込み、印字機構部92によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ96に排紙する。
印字機構部92は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド101と従ガイドロッド102とでキャリッジ103を主走査方向に摺動自在に保持している。キャリッジ103にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液滴吐出ヘッドからなるヘッド104を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列している。そして、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ103にはヘッド104に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ105を交換可能に装着している。
インクカートリッジ105は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有している。
そして、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド104を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
ここで、キャリッジ103は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド101に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド102に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ103を主走査方向に移動走査するため、主走査モーター107で回転駆動される駆動プーリ108と従動プーリ109との間にタイミングベルト110を張装している。このタイミングベルト110をキャリッジ103に固定しており、主走査モーター107の正逆回転によりキャリッジ103が往復駆動される。
次に、給紙カセット94にセットした用紙93をヘッド104の下方側に搬送する機構について説明する。まず、給紙カセット94から用紙93を分離給装する給紙ローラ111及びフリクションパッド112と、用紙93を案内するガイド部材113と、給紙された用紙93を反転させて搬送する搬送ローラ114を有している。そして、この搬送ローラ114の周面に押し付けられる搬送コロ115及び搬送ローラ114からの用紙93の送り出し角度を規定する先端コロ116と、を設けている。搬送ローラ114は副走査モーター117によってギヤ列を介して回転駆動される。
キャリッジ103の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ114から送り出された用紙93を記録ヘッド104の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材119を設けている。この印写受け部材119の用紙搬送方向下流側には、用紙93を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ121、拍車122を設けている。さらに用紙93を排紙トレイ96に送り出す排紙ローラ123及び拍車124と、排紙経路を形成するガイド部材125、126とを配設している。
記録時には、キャリッジ103を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド104を駆動することにより、停止している用紙93にインクを吐出して1行分を記録し、用紙93を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙93の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙93を排紙する。
また、キャリッジ103の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド104の吐出不良を回復するための回復装置127を配置している。回復装置127はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ103は印字待機中にはこの回復装置127側に移動されてキャッピング手段でヘッド104をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド104の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。これにより、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
本実施形態の液滴吐出装置においては、第5の実施形態で説明した液滴吐出ヘッドを備えているため、該液滴吐出ヘッドに含まれる電気−機械変換素子は予め十分に分極処理を施されており、分極率の低い電気−機械変換素子となっている。このため、所定の電位に対して電気−機械変換素子が安定した変形を示し、その結果液滴吐出装置も安定して液滴吐出を行うことが可能になる。
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
まず、以下の実施例、比較例における評価方法について説明する。
本実施例では、図4(A)〜図4(C)に示した3種類の異なるコロナ電極11−1〜11−3を製作した。各コロナ電極をサンプル1〜サンプル3とした。コロナ電極の形状を変更しても、圧電素子に適切な分極処理が施されるかを評価した。第1の実施形態に示した電気−機械変換素子の製造装置10(図2)を使用して、コロナ電極11を順次変えて実験を行った。評価の比較例として、コロナ電極として1本のタングステンワイヤ使用した場合についても同様の実験を行った。
[サンプル1]
サンプル1のコロナ電極11−1は、図4(A)に示すとおりである。
即ち、コロナ電極11−1は、上記したように、電気−機械変換素子20と対向する対向面に、尖端突起部110として複数の針電極30を面方向に配置した構造を有し、当該針電極30は、電気−機械変換素子20と対向する側の先端位置が揃う構成とした。針電極30は、電気−機械変換素子20の上面と直交し、先端が電気−機械変換素子20と対向する態様で配置した。
針電極30は、φ2mmのタングステン針とし、先端をR30μmの針状に加工し、当該加工した複数のタングステン針電極30をφ160mmに束ねて形成した。電極密度は針電極:25本/cm2とした。
[サンプル2]
サンプル2のコロナ電極11−2は、図4(B)に示すとおりである。
即ち、コロナ電極11−2は、電気−機械変換素子20と対向する対向面に、尖端突起部110として複数の平板状の電極板31が対向面と垂直に、且つ電極板31同士をコロナ電極11−2の面内方向(Y−Y方向)に向かって互いに平行になるように配置した。電極板31には、板厚1mm、幅0.5mmのタングステン電極板を使用した。電極板31の電気−機械変換素子20と対向する側の辺には、鋸刃形状を有する鋸刃電極32を2mmのピッチで形成した。上記の電極板31は、隣接する電極板31間における鋸刃電極32の先端部を、1mmずつ互い違いにずらして重ねて合せた。
鋸刃電極32の電気−機械変換素子20と対向する側の先端位置は、揃う構成とし、電気−機械変換素子20の上面と鋸刃電極32の先端面とは、平行な位置関係に配置した。
電極密度は、鋸刃電極:50個/cm2とした。
[サンプル3]
サンプル3のコロナ電極11−3は、図4(C)に示すとおりである。
即ち、コロナ電極11−3は、電気−機械変換素子20と対向するように配置された平板33と、当該平板33と垂直に、且つ間隔をあけて配置された複数の針電極34を尖端突起部110として備えた。平板33には、コロナ電極11の大きさに形成された板厚1mm以下の電極板を使用し、φ2mmのタングステンの針電極34を、3mmのピッチで針孔(図示省略)に差し込んでいる。電極密度は、タングステン針:11本/cm2とした。針電極34は、電気−機械変換素子20の上面と直交し、先端が電気−機械変換素子20と対向する態様で配置し、電気−機械変換素子20と対向する側の先端位置を揃えて形成した。平板33には、前記針電極の間に上部から気体を流すφ0.8mm貫通孔35を設けた。気体としては、酸素20%/窒素80%のガスを使用した。
[圧電素子の作製]
次に、ステージ本体部130に載置する圧電素子20を作製した。
まず、6インチのシリコンウエハ17に、熱酸化膜(膜厚1μm)を形成する。本実施例では主に(100)面の面方位を有する単結晶シリコンを使用した。
第1の電極の密着膜として、チタン膜(膜厚30nm)をスパッタ装置にて成膜した。成膜温度は350℃とした。なお、スパッタ装置は、1つのチャンバーに対して、複数のターゲットが備え付けられている。
次に、RTA(Rapid Thermal Annealing)を用いて750℃にて熱酸化し、引き続き金属膜として白金膜(膜厚100nm)、酸化物膜としてSrRuO膜(膜厚60nm)をスパッタ成膜する。スパッタ成膜時の基板加熱温度については550℃にて成膜した。
次に、電気−機械変換膜としてPb:Zr:Ti=114:53:47に調整された溶液を準備し、スピンコート法により膜を成膜する。
具体的な前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水は、メトキシエタノールに溶解後、脱水した。なお、これらの出発材料は、Pb(Zr0.53、Ti0.47)O3の化学両論組成に対し、鉛量が過剰になる組成となるように秤量した。これは、熱処理中の所謂、鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
次に、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解した容器に対して、アルコール交換反応、エステル化反応を進行させた。
次に、これらの溶液を、混合しPZT前駆体溶液を作製した。PZT前駆体溶液は、0.5mol/lとした。この液を用いて、スピンコートにより成膜し、成膜後、120℃で乾燥させ、500℃で熱分解を行った。3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度750℃)をRTA(急速熱処理)にて行った。このときPZTの膜厚は240nmであった。この工程を計8回(24層)実施し、約2μmのPZT膜厚を得た。
次に、第2の電極として酸化物膜として、SrRuO膜(膜厚40nm)、金属膜としてPt膜(膜厚125nm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて、図11に示すパターンを作製した。
次に、第1の絶縁保護膜として、ALD(Atomic Layer Deposition)工法を用いてAl2O3膜を50nm成膜した。このとき原材料としてAlについては、TMA(シグマアルドリッチ社)、Oについてはオゾンジェネレーターによって発生させたO3を交互に積層させることで、成膜を進めた。
その後、図11に示すように、エッチングによりコンタクトホール部を形成した。その後、第3、第4の電極としてALをスパッタ成膜し、エッチングによりパターニング形成し、第2の絶縁膜としてSi3N4をプラズマCVDにより500nm成膜し、電気−機械変換素子20(圧電素子20)を作製した。このとき、6インチのシリコンウエハ内30mm×10mm四方のエリアに圧電素子20を25個配置した。
[分極処理]
比較例のコロナ電極及びサンプル1〜サンプル3のコロナ電極を用いて、電気−機械変換素子の製造装置により作製した圧電素子20に対して、分極処理を行った。
本実施例で使用した圧電素子20は、電気−機械変換膜にPZT膜を使用しているので、分極処理時のステージ本体部130の加熱温度を、120℃まで上げた場合と、160℃まで上げた場合とで比較した。分極処理後の各圧電素子20の分極量差(平均値)を図16に示す。
1本のコロナワイヤ電極(比較例)においては、ステージ13の加熱温度120℃の条件でコロナ分極処理をした際の分極量差の平均が、7.0μc/cm2であり、160℃の条件でコロナ分極処理をした際の分極量差の平均が、9.0μc/cm2であった。したがって、両者共にコロナ分極処理後、高温に保持された影響で脱分極が起こっていることが分かる。特に、高温(160℃)になるほど脱分極が著しい。
サンプル1〜サンプル3においては、ステージ13の加熱温度120℃の条件でコロナ分極処理をした結果、全てのケースについて分極量差の平均が、3.0μc/cm2であった。また、ステージ13の加熱温度160℃の条件でコロナ分極処理をした結果、全てのケースについて平均分極量差2.0μc/cm2を得た。分極量差は、5.0μc/cm2以下であれば良好とされているので、非常に精度の高い分極処理が行われていることが分かる。また、特に、高温(160℃)になるほど分極量差が低くなっており、好ましい分極処理方法であると言える。
これは、シリコンウエハの面内を一括でコロナ分極処理して、面内の分極処理のバラツキを低減できることから、基板加熱効果がそのままクラックフリーで得られる分極量差として更に小さくできるからであると考えられる。
したがって、上記したサンプル1〜3のコロナ電極を使用して、電気−機械変換素子を製造すると、基板または下地膜を破損させることなく、分極のバラツキが少ないコロナ分極処理を施すことができることが分かった。
因みに、図示することは省略したが、更に第2、第3の実施形態に示す電気−機械変換素子の製造装置を適用して、電気−機械変換素子の製造方法を実施すると、更に安定した圧電素子20を製造できることも確認されている。
以上、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明した。なお、上記の記載は、実施形態を理解するためのものであり、実施形態の範囲を限定するものではない。更に、上記の複数の実施形態は、相互に排他的なものではない。したがって、矛盾が生じない限り、異なる実施形態の各要素を組み合わせることも意図しており、特許請求の範囲に記載された開示の技術の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。