以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の水性接着剤は、少なくともポリエステル樹脂(A)を含有しており、後述する硬化剤(B)、無機粒子(C)を含有してもよい。
本発明のポリエステル樹脂(A)は、主として、ジカルボン酸成分、グリコール成分から構成されるものである。
ポリエステル樹脂(A)において、ポリエステル樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分100モル%に対し、スルホン酸塩基を有するジカルボン酸を1〜10モル%含有することが必要であり、2〜9モル%であることが好ましく、3〜8モル%であることがより好ましい。スルホン酸塩基を有するジカルボン酸の含有量が1モル%未満では、酸価を4mgKOH/g未満としたときには、ポリエステル樹脂(A)の水性分散化が困難となったり、水性分散化ができたとしても、耐アルコール性、耐湿熱性が低下することがある。また、10モル%を超えると得られる水性接着剤から形成される被膜の耐水性が大きく損なわれる。
前記スルホン酸塩基を有するジカルボン酸としては、例えば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホテレフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、5−リチウムスルホテレフタル酸、3,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、2,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム、3,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸カリウム、3,5−ジ(カルボ−β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンスルホン酸リチウム、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−ナトリウムスルホテレフタル酸ジメチル、5−カリウムスルホイソフタル酸ジメチル、5−リチウムスルホイソフタル酸ジメチルが挙げられる。
スルホン酸塩基を有するジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、3−tert−ブチルイソフタル酸、ジフェン酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸およびその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物等の脂環式ジカルボン酸が挙げられ、中でも、汎用性、重合性および樹脂特性への影響の点でテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
芳香族ジカルボン酸と飽和脂肪族ジカルボン酸を併用する場合、芳香族ジカルボン酸成分と飽和脂肪族ジカルボン酸成分の比率は、(芳香族ジカルボン酸成分)/(飽和脂肪族ジカルボン酸成分)=70/30〜95/5(モル比)であることが好ましく、73/27〜93/7(モル比)であることがより好ましく、75/25〜90/10(モル比)であることがさらに好ましい。
芳香族ジカルボン酸と飽和脂肪族ジカルボン酸を併用する場合の、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸を好ましく用いることができ、特にテレフタル酸を単独で用いることもできるが、得られるポリエステル樹脂の溶剤溶解性を高めるために、テレフタル酸、イソフタル酸を混合して用いることもできる。テレフタル酸、イソフタル酸の混合比率は、95/5〜55/45(モル比)であることが好ましく、75/25〜60/40(モル比)であることがより好ましい。
また、飽和脂肪族ジカルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸を好ましく用いることができ、特に得られるポリエステル樹脂の耐アルコール性の向上効果が高い点で、セバシン酸がより好ましい。なお、耐アルコール性が向上することは、水性接着剤を用いて得られる被膜自信の耐久性が増すと同時に、例えば、被膜上にアクリル塗膜等の層を形成した場合に、密着性や接着性等の耐久性が増し、特に好ましい。
ポリエステル樹脂(A)において、ポリエステル樹脂(A)を構成するグリコール成分100モル%に対し、下記一般式(I)で示される化合物を5〜71モル%含有することが必要であり、10〜60モル%であることが好ましく、15〜50モル%であることがより好ましい。一般式(1)で示される化合物の含有量が5モル%未満であると、得られる水性接着剤から形成される被膜とアクリル塗膜との密着性が低下する。一方、71モル%を超えるとポリエステル樹脂(A)の重合性が低下し、重合度が高まらず、得られる被膜の耐水性、耐湿熱性、接着性が劣ったものとなる。
(X1、X2は炭素数1〜4のヒドロキシアルキレン基および/または炭素数1〜4のヒドロキシアルキレン基にアルキレンオキシドを1〜4モル付加した基であり、同一であっても異なっていても良い)
一般式(1)で示される化合物としては、例えば、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、4,10−ジメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、4,4,10,10−テトラメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10−デカメチルトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールが挙げられる。中でも、汎用性が高く、得られる水性接着剤から形成される被膜が、アクリル塗膜との密着性を向上させる効果の高い点で、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールが好ましい。なお、これらは2種以上混合して用いてもよい。
一般式(I)で示される化合物と併用が可能なグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール等の脂肪族グリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロブタンジメタノール、ジメタノールデカリン、ジメタノールビシクロオクタン等の脂環族グリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエーテル結合含有グリコール、2,2−ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのアルキレンオキシド付加体、ビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのアルキレンオキシド付加体が挙げられる。中でも、汎用性、重合性および樹脂特性への影響の点でエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオールが好ましい。
本発明においては、得られる水性接着剤の特性を損なわない範囲で、ヒドロキシカルボン酸成分を含有させてもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、2−ヒドロキシセバシン酸、5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、2−メチル−2−ヒドロキシコハク酸、酒石酸、テトラヒドロキシアジピン酸、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、乳酸、β−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸のアルキレンオキシド付加体が挙げられる。ヒドロキシモノカルボン酸を用いる場合、その含有量は、構成成分の合計100モル%のうち、50モル%以下とすることが好ましく、40モル%以下とすることがより好ましく、30モル%以下とすることがさらに好ましい。
また、本発明の水性接着剤の特性を損なわない範囲で、モノカルボン酸、モノアルコールを含有させてもよい。モノカルボン酸、モノアルコールを用いる場合、その含有量は、それぞれ、ジカルボン酸成分、グリコール成分100モル%に対して、1モル%未満とすることが好ましく、0.1モル%未満とすることがより好ましく、0モル%とすることがさらに好ましい。一般的に、モノカルボン酸、モノアルコールをエステル化反応前に仕込み、重縮合反応を進めた場合、分子鎖の延長を阻害し、結果として必要な分子量が得られなくなる。そのため、それから得られる被膜は造膜性が不足する場合がある。一方、解重合時にモノカルボン酸、モノアルコールを用いた場合、分子鎖の末端に結合するため、本発明に必要な酸価が得られやすい傾向にある。
モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、フェニル酢酸、ラウリン酸、パルミチン
酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられ、モノアルコールとしては、例えば、セチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オクチルアルコール、ステアリルアルコールが挙げられる。
さらに、本発明の水性接着剤の特性を損なわない範囲で、3官能以上のカルボン酸または3官能以上のアルコールを含有させてもよい。3官能以上のカルボン酸または3官能以上のアルコールをエステル化反応前に仕込む場合、その含有量は、それぞれ、ジカルボン酸成分またはグリコール成分100モル%に対して、5モル%以下とすることが好ましく、4モル%以下とすることがより好ましく、3モル%以下とすることがさらに好ましい。一般的に、3官能以上のカルボン酸または3官能以上のアルコールをエステル化反応前に仕込み、重縮合反応を進めた場合、得られるポリエステル樹脂(A)の分散度が広くなったり、ゲル化して重合ができなくなったりする場合があるため、その含有量は、それぞれ、ジカルボン酸成分、グリコール成分100モル%に対して、0〜1モル%とすることが好ましく、0〜0.8モル%とすることがより好ましく、0〜0.6モル%とすることがさらに好ましい。また、3官能以上のカルボン酸、3官能以上のアルコールを解重合時に用いる場合、その含有量は、それぞれ、ジカルボン酸成分またはグリコール成分100モル%に対して、0.2〜5モル%とすることが好ましく、0.4〜4.8モル%とすることがより好ましく、0.6〜4.6モル%とすることがさらに好ましい。
3官能以上のカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸が挙げられ、3官能以上のアルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが挙げられる。
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)の酸価は、4mgKOH/g未満であることが必要であり、3mgKOH/g未満であることが好ましく、2mgKOH/g未満であることがより好ましい。酸価を4mgKOH/g未満とすることで、得られる被膜の透明性、耐湿熱性が向上し、2mgKOH/g未満であることで、特に得られる被膜の耐水性が向上する。ポリエステル樹脂(A)の酸価が4mgKOH/g以上であると、水性接着剤より得られる被膜の透明性、耐湿熱性が劣ったものとなり、接着性の長期安定性が低下する。なお、スルホン酸塩基を有するジカルボン酸の含有が所定量未満であっても、本願所定の酸価を有するポリエステル樹脂を得ることができるが、その場合は、水性分散化はできるものの、得られる被膜の耐アルコール性、耐湿熱性が劣ったものとなる。
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、特に制限はないが、得られる被膜の耐ブロッキング性を高めるためには、60〜100℃であることが好ましく、65〜95℃であることがより好ましく、70〜90℃であることがさらに好ましい。
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)の数平均分子量は、得られる被膜の造膜性や接着性を向上させるため、2000〜13000であることが好ましく、3000〜12000であることがより好ましく、4000〜10000であることがさらに好ましい。数平均分子量が2000未満では、耐湿熱性が劣ったり、接着性が低下することがある。一方、数平均分子量が13000を超える水性分散体の保存安定性が劣ることがある。
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)の、分子量分布における分散度(以下、「分散度」と略称する場合がある。)は、2〜10であることが好ましく、2〜9であることがより好ましく、2〜8であることがさらに好ましい。分散度とは、重量平均分子量を数平均分子量で除した値のことである。分散度を2〜10とすることにより、被膜の造膜性や接着性が低下することを抑制することができる。なお、分散度が2未満となるポリエステル樹脂(A)は設計すること自体が困難である。
次に、ポリエステル樹脂(A)の製造方法について説明する。
本発明で用いるポリエステル樹脂(A)は、前記のモノマーを組み合わせて、公知の方法で製造することができる。例えば、全モノマー成分および/またはその低重合体を不活性雰囲気下で反応させてエステル化反応をおこない、引き続いて重縮合触媒の存在下、減圧下で、所望の分子量に達するまで重縮合反応を進め、不活性雰囲気下、3官能以上のカルボン酸を添加して解重合反応をおこなう方法を挙げることができる。
エステル化反応において、反応温度は180〜260℃とすることが好ましく、反応時間は2.5〜10時間とすることが好ましく、4〜6時間とすることがより好ましい。
重縮合反応において、反応温度は、220〜280℃とすることが好ましい。減圧度は、130Pa以下とすることが好ましい。減圧度が低いと、重縮合時間が長くなる場合がある。大気圧から130Pa以下に達するまで、60〜180分かけて徐々に減圧することが好ましい。
重縮合触媒としては、特に限定されないが、酢酸亜鉛、三酸化アンチモン、テトラ−n−ブチルチタネート、n−ブチルヒドロキシオキソスズ等の公知の化合物を挙げることができる。触媒の使用量は、ジカルボン酸成分1モルに対し、0.1〜20×10−4モルとすることが好ましい。
解重合において、反応温度は160〜280℃とすることが好ましく、反応時間は、0.5〜5時間とすることが好ましい。
次に、本発明のポリエステル樹脂水性分散体について説明する。
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、ポリエステル樹脂(A)が水性媒体中に分散されてなる乳液状物である。ここで、水性媒体とは、水を含む液体からなる媒体であり、有機溶剤や塩基性化合物を含んでいてもよい。
本発明のポリエステル樹脂水性分散体は、実質的に乳化剤を含有してはならない。本発明でいう乳化剤には、界面活性剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性物、水溶性高分子等が含まれる。本発明において、「実質的に含有しない」とは、本発明のポリエステル樹脂水性分散体の製造時に、乳化剤を積極的には添加しないことにより、結果的にこれらを含有していないことを意味する。こうした乳化剤は、含有量がゼロであることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂(A)成分100質量部に対して0.1質量部未満含まれていても差し支えない。水性分散体に乳化剤を0.1質量部以上含む場合は、被膜の耐水性が低下する。乳化剤を用いることにより、該ポリエステル樹脂(A)を容易に水性媒体に分散することができるが、一方で、このような配合は耐水性を著しく損ねる。
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフエート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェ−ト塩、ビニルスルホサクシネートが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイドープロピレンオキサイド共重合体等のポリオキシエチレン構造を有する化合物やソルビタン誘導体が挙げられる。両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルべタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドが挙げられる。
保護コロイド作用を有する化合物としては、例えば、ポリビニルアルコ−ル、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビエルピロリドンが挙げられる。
変性ワックス類としては、例えば、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックス等の数平均分子量が5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩 が挙げられる。
本発明のポリエステル樹脂水性分散体中において、ポリエステル樹脂(A)の含有率は、5〜50質量%とすることが好ましく、10〜45質量%であることがより好ましく、15〜40質量%とすることがさらに好ましい。ポリエステル樹脂(A)の含有率を5〜50質量%とすることにより、ハンドリング性が向上する。また、分散しているポリエステル樹脂(A)が凝集しにくくなるため、保存安定性が向上する。
本発明のポリエステル樹脂水性分散体において、ポリエステル樹脂(A)微粒子の体積平均粒径は、200nm未満とすることが好ましく、150nm未満とすることがより好ましく、100nm未満とすることがさらに好ましく、50nm未満とすることが最も好ましい。体積平均粒子径を200nm未満とすることにより、分散しているポリエステル樹脂(A)が凝集しにくくなるため、水性分散体の保存安定性が向上する。体積平均粒径は、後述するように、転相乳化時の有機アミンの量や反応温度によって制御することができる。
次に、ポリエステル樹脂水性分散体の製造方法について説明する。
本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体は、上記のポリエステル樹脂(A)を、水と水への溶解性が高い有機溶剤を用いて分散させる方法により製造する。
本発明におけるポリエステル樹脂水性分散体の製造方法としては、自己乳化法が挙げられる。自己乳化法とは、ポリエステル樹脂(A)、水、有機溶剤を一括で仕込み、系内を攪拌しながら加熱することで、有機溶剤を含有したポリエステル樹脂水性分散体を得る方法である。この条件下で分散が困難な場合は、塩基性化合物を加えても良い。
ポリエステル樹脂水性分散体の製造で用いる有機溶剤としては、例えば、ケトン系有機溶剤、芳香族系炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、含ハロゲン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、グリコール系有機溶剤など公知のものが挙げられる。ケトン系有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘキサノン、5−メチル−2−ヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。芳香族炭化水素系有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼンなどが挙げられる。エーテル系有機溶剤としては、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。含ハロゲン系有機溶剤としては、例えば、四塩化炭素、トリクロロメタン、ジククロロメタンなどが挙げられる。アルコール系有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノールなどが挙げられる。エステル系有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチルなどが挙げられる。グリコール系有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテートなどが挙げられる。また、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコールなどの有機溶剤も使用することができる。なお、使用する有機溶剤は、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリエステル樹脂水性分散体の製造で用いる有機溶剤としては、沸点が180℃以下のものが好ましく、165℃以下のものがより好ましく、150℃以下のものがさらに好ましい。有機溶剤の沸点が180℃を超えると、脱溶剤工程において有機溶剤を完全に除去することが困難になり、水性分散体中に有機溶剤が残りやすく、保存安定性が低下し、さらに残存した有機溶剤により耐水性が低下する場合がある。また、被膜から乾燥によって有機溶剤を揮散させることが困難となる場合がある。
上記有機溶剤は、水との共沸点が60〜150℃であることがより好ましい。水との共沸点が150℃を超える場合、脱溶剤工程において有機溶剤を完全に除去することが困難になり、水性分散体中に有機溶剤が残りやすく、保存安定性が低下し、さらに残存した有機溶剤により耐水性が低下する場合がある。また、被膜から乾燥によって有機溶剤を揮散させることが困難となる場合がある。水との共沸点が60℃未満である場合、共沸物の揮散と水の揮散との間に時間差が生じ、得られる被膜の造膜性が劣る場合がある。
さらに、有機溶剤は、20℃における水への溶解度が5g/L以上であることがより好ましい。有機溶剤の水への溶解性が5g/L未満であると、ポリエステル樹脂水性分散体を得ることができない場合がある。
このような有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル(溶解性:約12g/L、沸点:77.1℃、共沸点:70.4℃)、n−プロパノール(溶解性:無限大、沸点:97.2℃、共沸点:87.7℃)、イソプロパノール(溶解性:無限大、沸点:82.4℃、共沸点:80.2℃)、メチルエチルケトン(溶解性:最小約290g/L、沸点:79.6℃、共沸点:73.4℃)、テトラヒドロフラン(溶解性:無限大、沸点:66.0℃、共沸点:64.0℃)、1,4−ジオキサン(溶解性:無限大、沸点:101℃、共沸点:87.8℃)、シクロヘキサノン(溶解性:約110g/L、沸点:156℃、共沸点:95.0℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(溶解性:無限大、沸点:136℃、水との共沸点:99.4℃)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
分散工程の際に、ポリエステル樹脂(A)を溶解させる有機溶剤としては、得られる溶液中のポリエステル樹脂(A)の濃度を10〜70質量%とすることが好ましく、10〜60質量%とすることがより好ましく、10〜50質量%とすることがさらに好ましい。
本発明の水性接着剤は、用いるポリエステル樹脂(A)がスルホン酸塩基を有するジカルボン酸を所定量含有するため、基本的には塩基性化合物を用いなくとも水性分散化が可能である。ただし、必要に応じて塩基性化合物を用いることもできる。特に、スルホン酸塩基を有するジカルボン酸の含有量が少ないポリエステル樹脂(A)を用いる際には、前記有機溶剤に加え、塩基性化合物を用いることで効率よく水性分散化することができる。
ポリエステル樹脂水性分散体の製造で用いる塩基性化合物は、カルボキシル基を中和することができるものがよい。このような塩基性化合物としては、例えば、アンモニア(沸点:−33℃)や、エチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン(沸点:90℃)、プロピルアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン、3−ジエチルアミノプロピルアミン、ジエタノールアミン(沸点:217℃)、トリエタノールアミン(沸点:360℃)、N,N−ジエチルエタノールアミン(沸点:163℃)、N,N−ジメチルエタノールアミン(沸点:133℃)、アミノエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等の有機アミンが挙げられる。なお、塩基性化合物として、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物も挙げられるが、水性分散体から得られる被膜の耐水性が不足する場合がある。
塩基性化合物としては、製造工程において、水性分散体中のポリエステル樹脂(A)が加水分解反応を起こすことを極力抑制することができるため、3級アミンがより好ましい。
さらに、ポリエステル被膜から塩基性化合物を揮散させやすいことから、塩基性化合物は、沸点が150℃以下のものを用いることがさらに好ましい。このような塩基性化合物としては、例えば、アンモニア(沸点:−33℃)、トリエチルアミン(沸点:90℃)、N,N−ジメチルエタノールアミン(沸点:133℃)が挙げられる。
塩基性化合物は、用いるポリエステル樹脂(A)の酸価に対して、0.5〜30倍当量添加することが好ましく、0.8〜15倍当量添加することがより好ましく、1〜6倍当量添加することがさらに好ましい。塩基性化合物をポリエステル樹脂(A)の酸価に対し、0.5〜30倍当量添加することで、保存安定性が良好な水性分散体を得ることができる。なお、塩基性化合物の量は多いほど体積平均粒径が小さくなる傾向がある。
ポリエステル樹脂水性分散体の製造においては、上記の分散工程の後に、さらに、有機溶剤を除去する工程(脱溶剤工程)を設けてもよい。なお、脱溶剤工程後の有機溶剤含有量は水性分散体の1質量%未満とすることが好ましく、0.5質量%未満とすることがより好ましく、0.3質量%未満とすることがさらに好ましい。
脱溶剤工程では、有機溶剤が含まれたポリエステル樹脂水性分散体を加熱し、有機溶剤を除去してポリエステル樹脂水性分散体を得る。脱溶剤は、常圧、減圧下いずれでおこなってもよい。なお、脱溶剤工程において、含有する有機溶剤は、脱溶剤において極力減らすことが好ましい。
ポリエステル樹脂水性分散体の製造において、適宜、未分散物や凝集物をろ過して取り除くためのろ過工程を設けてもよい。例えば、600メッシュのステンレス製フィルター(濾過精度25μm、綾織)を設置し、常圧ろ過、または、加圧(空気圧0.2MPa)ろ過をおこなえばよい。
本発明の水性接着剤は、さらに、接着性向上のために、硬化剤(B)を含有することができる。
本発明で用いることのできる硬化剤(B)としては、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のアミノ樹脂、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物及びその各種ブロックイソシアネート化合物、多官能アジリジン化合物、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有ポリマー、フェノール樹脂等が挙げられる。これらのうちの1種類を使用しても2種類以上を併用してもよい。硬化剤を添加することで、得られる被膜はさらに接着性、耐溶剤性、耐候性、耐湿熱性を付与することができる。
硬化剤(B)を用いる場合は、硬化剤(B)の水性分散体として用いることが、作業環境の面から好ましい。また、ポリエステル樹脂(A)の水性分散体と、硬化剤(B)の水性分散体は容易に混合することができ、均一な水性接着剤を得るために、硬化剤(B)の水性分散体を好適に用いることができる。
硬化剤(B)の水性分散体の製造方法は、特に制限はなく、一般的な方法を用いれば良い。例えば、水分散可能な100wt%硬化剤の場合は、ホモミキサーを用いて同量以上の水に撹拌すれば分散体を製造することができる。市販の水性分散体の硬化剤の場合はそのまま使用すればよい。
本発明の水性接着剤は、さらに、易滑性向上のために、無機粒子(C)を含有することができる。
本発明の水性接着剤に配合できる無機粒子(C)としては、例えば、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、膨潤性フッ素雲母、モンモリロナイト、ヘクトライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、カーボンブラック等を挙げることができる。中でも、耐熱性、得られる被膜の透明性の効果を発現させる効果の高い点で、シリカ、タルク、マイカ、カオリンが好ましく、さらに易滑性にも優れる点で、シリカが最も好ましい。
本発明で好ましく用いることのできるシリカは、SiO2で表される二酸化ケイ素を主成分とするものであり、その製造方法により大別して、湿式法シリカと乾式法シリカの2つに分けられるがいずれも用いることができる。乾式法シリカは一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化珪素を水素および酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化珪素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化硅素と混合した状態で使用することができる。一方、湿式法シリカは、さらに製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカは珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカが凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の工程を経て製品化される。この方法で製造されたシリカの二次粒子は緩やかな凝集粒子となり、比較的粉砕し易い粒子が得られる。ゲル法シリカは珪酸ソーダと硫酸を酸性条件化で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子同士を結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、珪酸ソーダの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られる。
無機粒子(C)の平均粒子径は特に限定されるものではないが、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径が20μmを超えると、易滑性が不十分となるばかりでなく透明性が損なわれる傾向がある。
無機粒子(C)は、必要に応じてシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、オルガノシロキサン等の反応性化合物によって表面処理をしてもよい。特にシランカップリング剤を好適に用いることができ、例えばビニルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
本発明の水性接着剤を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、(1)ポリエステル樹脂(A)の水性分散体、硬化剤(B)の水性分散体、無機粒子(C)の水分散液を混合攪拌する方法、(2)ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)を予め混合した後、一括して水性媒体に添加し分散した後に無機粒子の水分散液を添加する方法などが挙げられる。中でも、(1)の方法は、水性接着剤の安定性が十分に向上するため最も好ましい。
本発明の水性接着剤における、ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)の配合は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して硬化剤(B)が1〜10質量部であることが好ましく、1〜8質量部であることがより好ましく、1〜5質量部であることがさらに好ましい。上記の範囲内である場合は、得られる被膜の接着性、耐水性、耐溶剤性、耐候性、耐湿熱性がさらに優れたものとなる。
また、無機粒子(C)の配合は、ポリエステル樹脂(A)と硬化剤(B)の質量の合計(A)+(B)に対して、{(A)+(B)}/(C)=99/1〜70/30(質量比)であることが好ましく、99/1〜80/20(質量比)であることがより好ましく、99/1〜90/10(質量比)であることがさらに好ましい。無機粒子(C)を上記の質量比で含有する場合、得られる被膜にさらに易滑性が付与出来る。
本発明の水性接着剤は、さらに他の任意成分を配合することができる。配合可能な任意成分としては、例えば、レベリング剤、消泡剤や、その他増粘剤、着色顔料、水、アルコール等を挙げることができる。
本発明で用いることのできるレベリング剤としては、例えば、シリコーン系、フッ素系のレベリング剤が挙げられ、特にシリコーン系レベリング剤が、塗工液との相溶性、塗工適性、接着性、耐ブロッキング性から好ましい。シリコーン系レベリング剤としては、例えば、反応性シリコーン、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリメチルアルキルシロキサン等が挙げられる。レベリング剤を用いることで塗工時のぬれ性の改善、被膜の平滑化の向上を図ることができる。レべリング剤の配合は、本発明の水性接着剤100質量部に対して1〜15質量部であることが好ましく、1〜13質量部であることがより好ましく、1〜10質量部であることがさらに好ましい。
本発明で用いることのできる消泡剤としては、例えば、アセチレングリコール系化合物やそのエチレンオキシド付加体が好ましい。具体的には、3,6−ジメチル−4−デシン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールおよびこれらにエチレンオキサイドを付加した化合物が有効である。消泡剤を用いることで塗工時に分散体中に混入する気泡発生を抑制、得られる被膜の平滑性、透明性を向上することができる。消泡剤の配合は、本発明の水性接着剤100質量部に対して1〜10質量部であることが好ましく、1〜8質量部であることがより好ましく、1〜5質量部であることがさらに好ましい。
本発明の水性接着剤は、公知の塗工方法を用いて、各種基材に対し塗工被膜を形成することができる。
本発明の水性接着剤で得られる接着層の厚さは、0.03〜3μmであることが好ましく、0.05〜2.5μmであることがより好ましく、0.1〜2μmであることがさらに好ましい。接着層の厚みが0.03μm未満であると、接着性能を十分に向上させることが難しくなり、3μmを超えると透明性が損なわれる。
本発明の水性接着剤を用いた被膜の形成方法は、例えば、スプレーコート法、スピンコート法、バーコート法、カーテンフローコート法、ディッピング法、はけ塗り法等が挙げられ、これらの方法により各種基材表面に均一にコーティングし、必要に応じて室温付近でセッティングした後、乾燥および焼き付けのための加熱処理に供することにより、均一な被膜を支持体表面に密着させて形成することができる。このときの加熱装置としては、通常の熱風循環型のオーブンや、赤外線ヒータなどを使用すればよい。また、加熱温度や加熱時間としては、被コーティング物である、支持体の種類などにより適宜選択されるものであるが、経済性を考慮した場合、加熱温度としては、通常60〜250℃であり、70〜230℃が好ましく、80〜200℃がより好ましい。加熱時間としては、通常1秒〜120分間であり、5秒〜100分が好ましく、10秒〜60分がより好ましい。
被膜を形成するための基材としては、例えば、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリオレフィンフィルム、塩化ビニルフィルム、金属箔等が挙げられる。中でも、耐熱性、透明性に優れ、本発明の水性接着剤との接着性を十分に向上させることができる点で、ポリエステルフィルムを好適に用いることができる。
本発明で用いるポリエステルフィルムを構成するポリエステルとは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから重縮合して得られる線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフテレート、ポリエチレン−2, 6−ナフタレンジカルボキシレート等が挙げられ、これらの共重合体またはこれと小割合の他樹脂とのブレンド物等も含まれる。
ポリエステルフィルムは、従来から知られている方法で製造することができる。例えば、二軸延伸ポリエステルフィルムは、ポリエステルを乾燥後、Tm〜(Tm+70)℃の温度(Tm:ポリエステルの融点)で押出機にて溶融し、ダイ(例えばT−ダイ、I−ダイ等)から回転冷却ドラム上に押出し、40〜90℃で急冷して未延伸フィルムを製造し、ついで該未延伸フィルムを(Tg−10)〜(Tg+70)℃の温度(Tg:ポリエステルのガラス転移温度) で縦方向に2.5〜8.0倍の倍率で延伸し、横方向に2.5〜8.0倍の倍率で延伸し、必要に応じて180〜250℃の温度で1〜60秒間熱固定することにより製造できる。
基材の厚みは5〜250μmの範囲が好ましい。基材の厚みが5μm未満であると高温域での寸法安定性に劣り、また250μmを超えると剛性が高すぎ加工性が劣る。
また必要により、ポリエステルフィルムに適当なフィラーを含有させることができる。このフィラーとしては、従来ポリエステルフィルムの滑り性付与剤として知られているものが挙げられ、その具体例としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、カーボンブラック、炭化珪素、酸化錫、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子等が挙げられる。さらにポリエステル中には、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、有機滑剤、触媒なども適宜添加することができる。
本発明で用いるポリエステルフィルムは、上記ポリエステルフィルム上に少なくとも片面または両面に対し少なくとも一層の易接着層を有する。
本発明で得られる易接着性ポリエステルフィルムの製造方法としては、延伸したフィルムに上記塗工液を塗布した後、乾燥する方法(ポストコート)や、2軸配向結晶化終了前のフィルムに塗工液を塗布し乾燥したのち、少なくとも一方向に延伸後、熱処理する方法(プリコート)などが挙げられる。
塗工液をフィルムに塗工する方法は、一般的な塗工方法が可能であり、例えばメイヤーバーコート、エアーナイフコート、リバースロールコート、リバースグラビアロールコート、グラビアロールコート、リップコート、ダイコートなどの方法が挙げられる。塗工液塗布量は、1〜10g/m2が好ましい。塗工後の乾燥条件は、50〜120℃、10〜500秒であることが好ましい。塗布、乾燥後に、フィルムを延伸する場合、延伸温度は、110〜130℃、延伸倍率は、3〜4倍であることが好ましい。さらに延伸後に、熱処理する場合、熱処理温度は、220〜240℃、時間は5〜15秒間が好ましい。
なお、塗工液や基材のポリエステルフィルムには、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて酸化防止剤、滑剤等の添加剤を配合しておいてもよい。
本発明で得られる易接着性ポリエステルフィルムはそのまま使用することもできるが、易接着面もしくは非易接着面に表面処理としてコロナ放電やイオンブローなどの表面処理を行ってもよい。
上記のような易接着性ポリエステルフィルムの易接着面は、インキ、接着剤、特にハードコート剤に代表される光硬化型樹脂に対する密着性に優れており、これらを積層して用いることができる。
易接着層面に設けられる光硬化性樹脂としては特に規定されないが、汎用性、取り扱い性の点で紫外線硬化型樹脂、特に紫外線硬化型ラジカル重合型樹脂が望ましい。
紫外線硬化性樹脂としては、例えばウレタン−アクリレート系、エポキシアクリレート系、ポリエステル−アクリレート系などのアクリル樹脂を挙げることができる。特に、ハードコート層樹脂自身が基材の伸縮に追従するためには、ウレタン成分をソフトセグメントとして含んだアクリレート系の樹脂が好ましい。
さらに、被膜の耐摩耗性の向上と硬化時の体積収縮率の減少のために、光硬化性樹脂中に無機微粒子を含有させることが望ましい。無機微粒子の具体例としては、シリカまたはチタン等の金属酸化物よりなる微粒子が挙げられる。なお、無機微粒子の含有量は水性接着剤全体の20〜60質量%であることが好ましい。無機微粒子の含有量が20質量%未満であると耐摩耗性不良および紫外線硬化時の体積収縮率が高くなり基材にカールが発生する。また60質量%を超えると、ハードコート樹脂の伸縮性不良となり、屈曲によるクラックが入りやすくなる。無機微粒子の平均粒径は100nm以下であることが好ましい。平均粒径が100nmを超えると光沢度が上がりさらに透明性が低下することがある。また、ハードコート性向上のため、無機微粒子の表面には、光重合反応性を有する感光性基を導入することが好ましい。導入する感光性基としては単官能性または多官能性アクリレートが挙げられる。
本発明の水性接着剤を用いた被膜は、従来の透明性、耐ブロッキング性、耐水性を有しながら、アクリル塗膜との接着性に優れているため、電気、電子部品等で用いられる各種光学材料に用いることができる。さらには耐湿熱性が向上しているため、例えば、液晶表示用の最外層フィルム、タッチパネルの最外層フィルム等の用途で好適に使用が可能である。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
1.測定方法・評価方法
(1)ポリエステル樹脂の構成
高分解能核磁気共鳴装置(日本電子社製NMR;ECA‐500型)を用いて、1H−NMR分析することにより、それぞれの共重合成分のピーク強度から樹脂組成を求めた(分解能:500MHz、溶媒:重水素化トリフルオロ酢酸、温度:25℃)。また、1H−NMRスペクトル上に帰属・定量可能なピークが認められない構成モノマーを含む樹脂については、封管中230℃で3時間メタノール分解をおこなった後に、ガスクロマトグラム分析に供し、定量分析をおこなった。
(2)ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂を0.5g精秤し、水/1,4−ジオキサン=1/9(体積比)50mlに室温で溶解し、クレゾールレッドを指示薬として0.1Nの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定し、中和に消費されたポリエステル樹脂1gあたりの水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)を酸価とした。
(3)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
ポリエステル樹脂を10mg秤量し、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製DSC;Diamond DSC型、検出範囲:−50℃〜200℃)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中の、低温側ベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度を求め、ガラス転移温度とした。
(4)ポリエステル樹脂の数平均分子量、重量平均分子量および分散度
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の数平均分子量、重量平均分子量を測定した。
[送液ユニット]:島津製作所社製LC−10ADvp
[紫外−可視分光光度計]:島津製作所社製SPD−6AV、検出波長:254nm
[カラム]:Shodex社製KF−803 1本、Shodex社製KF−804 2本を直列に接続して使用
[溶媒]:テトラヒドロフラン
[測定温度]:40℃
上記の数平均分子量(Mnとする)、および重量平均分子量(Mwとする)より、分散度を以下の式により求めた。
分散度=Mw/Mn
(5)水性分散体、または水性接着剤の固形分濃度
水性分散体、または水性接着剤を約1g秤量(X1gとする)し、これを150℃で2時間乾燥した後の残存物の質量を秤量(Y1gとする)し、下記式により固形分濃度を求めた。
固形分濃度(質量%)=(Y1/X1)×100
(6)水性分散体、または水性接着剤の体積平均粒径、数平均粒径
水性分散体、または水性接着剤中の固形分濃度が0.1質量%になるように水で希釈し、レーザー回折式粒径測定装置(日機装社製Nanotrac Wave−UZ152)を用いて、体積平均粒径、および数平均粒径を測定した。ポリエステル樹脂の屈折率は1.57、ポリエステル樹脂の密度は1.21g/cm3と設定した。
(7)水性分散体、または水性接着剤のpH
pHメーター(堀場製作所社製F−21型)を用いて、pH7およびpH9の標準緩衝液(ナカライテスク社製)により校正した後、測定温度25℃で水性分散体、または水性接着剤のpHを測定した。
(8)水性分散体、または水性接着剤の安定性
水性分散体、または水性接着剤を30g採取した後、50mLのガラス製サンプル瓶に密封し、25℃で90日保存した。保存後、サンプル瓶から上澄み液を採取し、固形分濃度を測定し、下記式より、沈殿物の割合を計算し、分散安定性の評価を行った。
沈殿物の割合(質量%)=保存前の固形分濃度(質量%)−保存後の固形分濃度(質量%)
○:0.5質量%未満
△:0.5質量%以上、1.0質量%未満
×:1.0質量%以上、あるいは、液全体が固化していて上澄みが採取できない
(9)水性接着剤の造膜性
水性接着剤を、二軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ50μm)のコロナ処理面に、卓上型コーティング装置(安田精機社製フィルムアプリケータ;No.542−AB型、バーコータ装着)を用いてコーティングした後、100℃に設定された熱風乾燥機中で2分間乾燥させることにより、膜厚が1μmの被膜を形成した。この被膜を目視にて観察し、外観を評価した。
また、上記の通り形成した被膜を、JIS Z1522に規定された粘着テープ(幅:18mm)を、一方の端部を残して被膜に貼りつけ、その上から消しゴムでこすって、粘着テープと被膜とを十分に接着させた後に、粘着テープの端部をフィルムに対して直角としてから瞬間的に引き剥がした。この引き剥がした粘着テープ面を表面赤外分光装置(パーキンエルマー社製FT−IR;SYSTEM2000型、Ge60°50×20×2mmプリズムを使用)で分析することにより、粘着テープ面に被膜が付着しているか否か、すなわち被膜が粘着テープにより剥離されているかにより分類し、密着性を評価した。
上記の2種類の評価より、総合的な被膜の造膜性を以下の基準で評価した。
なお、被膜の厚みは、厚み計(ユニオンツール社製MICROFINE)を用いて、フィルムの厚みを予め測定しておき、水性分散体を用いてフィルム上に被膜を形成した後、この被膜を有する基材の厚みを同様の方法で測定し、その差により求めた。
○:クラック、微細な凹凸、白化等の外観不良、および粘着テープによる被膜の剥離のいずれもが認められない。
×:クラック、微細な凹凸、白化等の外観不良、および粘着テープによる被膜の剥離のいずれかが認められる。
(10)被膜の透明性
前記(9)と同様の操作をおこなって、PETフィルム上に膜厚が1μmの被膜を形成した後に、50mm×50mmの試験片に切り出し、濁度計(日本電色工業株式会社製NDH2000型)を用いて、JIS K7105に準拠した方法で拡散透過率(Td)、および、全光線透過率(Tt)を測定、下記式によりHzを算出した。算出されたHzについて、基材PETフィルム単独のHzと比較し評価した。なお、基材のPETフィルムのみで、Hzは4.2(%)であった。
Hz(%)=Td/Tt×100
○:Hzが4.2%未満となり、基材の透明性を損ねていなかった。
×:Hzが4.2%以上となり、基材の透明性を損ねた。
(11)被膜の耐水性
前記(9)と同様の操作をおこなって、PETフィルム上に膜厚が1μmの被膜を形成した。得られた被膜を形成したPETフィルムを、25℃の蒸留水に浸漬させ、24時間後に静かに引き上げ、風乾させた後、被膜の外観を目視にて観察した。
(12)被膜の耐アルコール性
前記(9)と同様の操作をおこなって、PETフィルム上に膜厚が1μmの被膜を形成した。得られた被膜を形成したPETフィルムを、
(i)25℃のイソプロパノールに浸漬させ、24時間後に静かに引き上げ、風乾させた後、被膜の外観を目視にて観察した。
(ii)約50℃のイソプロパノールに浸漬させ、1時間後に静かに引き上げ、風乾させた後、被膜の外観を目視にて観察した。評価方法は、それぞれ以下の基準で評価した。
○:外観変化がなかった。
△:被膜の一部が白化または膨潤した。
×:被膜の全体が溶解もしくは膨潤した。
(13)被膜の耐湿熱性
前記(9)と同様の操作をおこなって、PETフィルム上に膜厚が1μmの被膜を形成した。得られた被膜を形成したPETフィルムを、恒温恒湿槽(ナカツ科学機械製作所社製LH−30−13M型)を用い、温度85℃、湿度95%の条件下、500時間保持することにより湿熱処理を行った。湿熱処理後に風乾させ、被膜の外観を目視にて観察した。
○:外観変化がなかった。
△:被膜の一部が白化した。
△△:被膜の一部が膨潤した。
×:被膜の全体が溶解もしくは膨潤した。
(14)被膜の耐ブロッキング性
前記(9)と同様にして、PETフィルム上に膜厚が1μmの被膜を形成した後、被膜形成面に別のPETフィルムを重ねた状態で500Paの荷重をかけ、38℃の雰囲気下で24時間放置後、25℃まで冷却した後、2枚のPETフィルムを手で剥がし、容易に剥がすことができるか否かにより下記のように分類し、耐ブロッキング性を評価した。
○:容易に剥がすことができ、全く融着跡が認められない。
×:剥がす際にかなりの抵抗があり、融着跡が認められる。
(15)被膜の接着性
前記(9)と同様にして、PETフィルム上に膜厚が1μmの被膜を形成した。該被膜上に、アクリル系ハードコート樹脂(大日精化社製 セイカビームPHC)を同様に卓上型コーティング装置を用いて塗布し、低圧水銀灯UVキュア装置(東芝ライテック社製、40mW/cm、一灯式)でキュアリングを行い、厚さ3μmのハードコート層を形成した。この被膜をJIS K−5600−5−6に準拠して、クロスカット法によって密着性を確認した。なお、「100/100」が、全く剥がれがなく、最も良い状態であり、「0/100」が、全てが剥がれ、最も良くない状態を示す。100/100〜80/100を合格とし、100/100〜90/100がより優れており、100/100が最も優れていることを示す。
(16)被膜の易滑性
前記(9)と同様にして、PETフィルム上に膜厚が1μmの被膜を形成した。ASTM D−1894に準じて、引張試験機(島津製作所社製オートグラフ)を用い、被膜面の動摩擦係数(μk )を測定した。μkは、0.5未満であることが好ましい。
2.原料
(1)硬化剤水性分散体
(B−1)オキサゾリン基含有水溶性ポリマー(日本触媒社製「エポクロスWS−700」)、固形分濃度25質量%
(B−2)水系ウレタン樹脂(第一工業製薬社製「エラストロンBN−77」)、固形分濃度31質量%
(2)無機粒子
(c1)シリカ粒子(水澤化学工業社製「ミズカシルP−50」)、嵩比重0.32、平均粒径10μm
(c2)シリカ粒子(水澤化学工業社製「ミズカシルP−527」)、嵩比重0.19、平均粒径2μm
(c3)シリカ粒子(日産化学工業社製「スノーテックスC」)、平均粒径10−20nm
[ポリエステル樹脂の調製]
調製例1
テレフタル酸1800g、イソフタル酸960g、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル428g、エチレングリコール1465g、トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノール177gからなる混合物をオートクレーブ中で、250℃で4時間加熱してエステル化反応を行った。この時のモノマー成分の配合は、テレフタル酸:イソフタル酸:5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル:エチレングリコール:トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノール=60:32:8:130:5(モル比)とした。次いで、触媒として三酸化アンチモン0.525g、トリエチルホスフェート0.328g、酢酸亜鉛二水和物1.580g添加した後、系の温度を250℃に昇温し、系の圧力を0.4MPaで制圧し、3時間反応後、徐々に放圧し、常圧にて1時間反応を行った。その後、270℃に昇温し、徐々に減じて1時間後に13Paとした。この条件下でさらに重縮合反応を続け、2時間30分後に系を窒素ガスで常圧にして重縮合反応を終了した。その後、系を窒素ガスで加圧状態にしておいてシート状に樹脂を払い出し、放冷後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1〜6mmの分画を採取し、粒状のポリエステル樹脂(a1)を得た。その結果を表1に示す。
なお、表1中の、略語は以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
TMAA:無水トリメリット酸
SIPM:5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル
EG:エチレングリコール
TCD:トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノール
DMD:3,8-ジメタノールデカリン
調製例2〜16
仕込組成を、表1のように変更した以外は、ポリエステル樹脂(a1)と同様にして、ポリエステル樹脂(a2)〜(a16)をそれぞれ得た。なお、ポリエステル樹脂(a2)〜(a16)は、室温まで十分に冷却した後、クラッシャーで粉砕し、篩を用いて目開き1〜6mmの分画を採取し、粒状のポリエステル樹脂とした。その結果を表1に示す。
得られたポリエステル樹脂(a1)〜(a16)の最終樹脂組成および特性値を表2、3に示す。
なお、表2中の、略語は以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
TMA:トリメリット酸
SIPA:5−ナトリウムスルホイソフタル酸
EG:エチレングリコール
TCD:トリシクロ[5.2.1.0(2,6)]デカンジメタノール
実施例1
[自己乳化工程]
ジャケット付きの、密閉が可能な円筒状ガラス容器(内容量3L)と、攪拌機(東京理科器械社製、「MAZELA NZ−1200」)を用い、ポリエステル樹脂(a1)を300g、イソプロパノールを50g、蒸留水を650gそれぞれガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を70rpmに保って攪拌しながら、ジャケット内に熱水を通して昇温した。内温が80℃になった時点で昇温を止め、そこから攪拌を90分間続けた。攪拌中は内温を72±2℃に保つよう行った。その後、ジャケット内に冷水を通し、回転速度を30rpmに下げて攪拌しつつ、25℃まで冷却しポリエステル樹脂分散液を得た。
[脱溶剤工程]
得られたポリエステル樹脂分散液800gを丸底フラスコに仕込み、水40gを添加し、メカニカルスターラーとリービッヒ冷却器を設置し、フラスコをオイルバスで加熱し、常圧で水性媒体を40g留去した。その後、室温まで冷却し、さらに攪拌しながら、最後に固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加えて、ポリエステル樹脂水性分散体(A−1)を得て、各種評価を行った。その評価結果を表4に示す。
実施例2〜5、8、9
用いるポリエステル樹脂の種類を変更する以外は、実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂水性分散体(A−2)〜(A−5)、(A−8)、(A−9)を得て、各種評価を行った。その評価結果を表4に示す。
実施例6
[自己乳化工程]
ジャケット付きの、密閉が可能な円筒状ガラス容器(内容量3L)と、攪拌機(東京理科器械社製、「MAZELA NZ−1200」)を用い、ポリエステル樹脂(a6)を300g、イソプロパノールを200g、塩基性化合物としてトリエチルアミンを9.4g、蒸留水を500gそれぞれガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を70rpmに保って攪拌しながら、ジャケット内に熱水を通して昇温した。内温が80℃になった時点で昇温を止め、そこから攪拌を180分間続けた。攪拌中は内温を72±2℃に保つよう行った。その後、ジャケット内に冷水を通し、回転速度を30rpmに下げて攪拌しつつ、25℃まで冷却しポリエステル樹脂分散液を得た。さらに、実施例1と同様に脱溶剤を行い、ポリエステル樹脂水性分散体(A−6)を得て、各種評価を行った。その評価結果を表4に示す。
実施例7
[自己乳化工程]
ジャケット付きの、密閉が可能な円筒状ガラス容器(内容量3L)と、攪拌機(東京理科器械社製、「MAZELA NZ−1200」)を用い、ポリエステル樹脂(a7)を300g、イソプロパノールを50g、蒸留水を650gそれぞれガラス容器内に仕込み、攪拌翼の回転速度を200rpmに保って攪拌しながら、ジャケット内に熱水を通して昇温した。内温が80℃になった時点で昇温を止め、そこから攪拌を120分間続けた。攪拌中は内温を72±2℃に保つよう行った。その後、ジャケット内に冷水を通し、回転速度を30rpmに下げて攪拌しつつ、25℃まで冷却しポリエステル樹脂分散液を得た。さらに、実施例1と同様に脱溶剤を行い、ポリエステル樹脂水性分散体(A−7)を得て、各種評価を行った。その評価結果を表4に示す。
比較例1、2
用いるポリエステル樹脂に応じてアルコールの種類や添加量を変えること以外は、実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂水性分散体(A−10)、(A−11)を得て、各種評価を行った。その評価結果を表4に示す。
比較例3
ポリエステル樹脂(a12)は、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を含有しないものであったので、水性分散化することができなかった。
比較例4、6
用いるポリエステル樹脂に応じてアルコールの種類や添加量を変えること以外は、実施例1と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂水性分散体(A−13)、(A−15)を得て、各種評価を行った。その評価結果を表4に示す。
比較例5
ポリエステル樹脂(a14)を用いる以外は、実施例7と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂水性分散体(A−14)を得て、各種評価を行った。その評価結果を表4に示す。
比較例7
用いるポリエステル樹脂に応じてアルコールの種類や添加量、アミンの添加量を変えること以外は、実施例6と同様の操作を行って、ポリエステル樹脂水性分散体(A−16)を得て、各種評価を行った。その評価結果を表4に示す。
実施例10
あらかじめシリカ粒子(c1)を固形分濃度20質量%で分散させたシリカ粒子水分散液(C−1)を準備した。ポリエステル樹脂水性分散体(A−1)、硬化剤水性分散体(B−1)およびシリカ粒子水分散液(C−1)を、固形分質量比が(a1)/(b1)/(c1)=93.3/4.7/2となるように表5の配合に従い混合攪拌して水性接着剤(S−1)を得た。各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。
実施例11、12
表5の配合に従い、実施例10と同様の操作を行って水性接着剤(S−2)、(S−3)を得て、各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。
実施例13
硬化剤水性分散体(B−2)を用いる以外は、表5の配合に従い、実施例10と同様の操作を行って水性接着剤(S−4)を得て、各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。
実施例14
シリカ粒子(c2)を用いる以外は、表5の配合に従い、実施例10と同様の操作を行って水性接着剤(S−5)を得て、各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。
実施例15
シリカ粒子(c3)を用いる以外は、表5の配合に従い、実施例10と同様の操作を行って水性接着剤(S−6)を得て、各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。
実施例16〜19
表5の配合に従い、実施例10と同様の操作を行って水性接着剤(S−7)〜(S−10)を得て、各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。
実施例20
表5の配合に従った。硬化剤を配合せず、実施例10と同様の操作を行って水性接着剤(S−11)を得て、各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。
実施例21
表5の配合に従った。シリカ粒子を配合せず、実施例10と同様の操作を行って水性接着剤(S−12)を得て、各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。
実施例22
卓上型コーティング装置(安田精機社製フィルムアプリケータ;No.542−AB型、バーコータ装着)のコート条件を変更する以外は、実施例10と同様の操作を行って、二軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ50μm)のコロナ処理面に膜厚が0.05μmの被膜を形成し、各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。なお、膜厚0.05μmである被膜の評価方法は膜厚1μmの場合と同様にして行った。
実施例23
卓上型コーティング装置(安田精機社製フィルムアプリケータ;No.542−AB型、バーコータ装着)のコート条件を変更する以外は、実施例10と同様の操作を行って、二軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ50μm)のコロナ処理面に膜厚が0.1μmの被膜を形成し、各種特性の評価を行った。その結果を表5に示す。なお、膜厚0.1μmである被膜の評価方法は膜厚1μmの場合と同様にして行った。
実施例1〜23は、所定の配合に従ったため、得られた水性接着剤は安定性が良く、水性接着剤から得られる被膜は接着性、透明性、耐ブロッキング性、耐水性、耐湿熱性に優れた被膜を形成できた。
特に、実施例10〜19、21〜23については、ポリエステル樹脂(A)、硬化剤(B)、シリカ粒子(C)をそれぞれ特定の配合で用いたため、水性接着剤から得られる被膜は、接着性、透明性、耐ブロッキング性、耐水性、耐アルコール性、耐湿熱性だけでなく、易滑性を有し、接着性についてもより優れた被膜を形成できることができた。
比較例1では、ポリエステル樹脂(A)のグリコール成分として、一般式(I)で示される化合物の含有が所定量未満で用いたため、アクリル塗膜との接着性が劣った。
比較例2では、ポリエステル樹脂(A)のグリコール成分として、一般式(I)で示される化合物の含有が所定量を超えたため、ポリエステル樹脂の重合性が悪かった。また、得られた被膜は耐水性、耐湿熱性、接着性に劣るものであった。
比較例4では、ポリエステル樹脂(A)の酸成分として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の含有が所定量を超えたため、得られた被膜は耐湿熱性に劣るものであった。
比較例5では、ポリエステル樹脂(A)の酸価が、4mgKOH/g以上であったため、得られた被膜は耐アルコール性、耐湿熱性に劣るものであった。
比較例6は、ポリエステル樹脂(A)のグリコール成分として、一般式(I)で示される化合物とは異なる脂環族グリコールを用いたため、得られた被膜は接着性に劣るものであった。
比較例7は、ポリエステル樹脂(A)の酸成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸を含有しなかったため、得られた被膜は耐アルコール性、耐湿熱性に劣るものであった。