本発明の積層多孔性フィルムは、動的粘弾性測定により測定したフィルム長手方向の貯蔵弾性率の25℃での値E’MD(25℃)が1GPa以上である。E’MD(25℃)が1GPa未満であると、無機粒子含有層のコーティング工程や電池組立工程において、積層多孔性フィルムにかかる張力によりフィルムが変形し、シワがはいったり平面性が低下する場合がある。また、自動車用などの容量が大きい蓄電デバイス用途において、圧壊試験などの安全性を満たすためには、E’MD(25℃)は更に高い方が好ましく、より好ましくは1.1GPa以上、更に好ましくは1.2GPa以上である。安全性の観点からE’MD(25℃)は高いほど好ましいが、基材に多孔性ポリオレフィンフィルムを用いる場合は2.0GPa程度が上限である。E’MD(25℃)を上記範囲とするには、多孔性ポリオレフィンフィルムの製造工程において、後述する条件で製膜すること、特に二度目の縦延伸工程における条件を後述する範囲とすること、また、無機粒子含有層のコーティング工程において、無機粒子含有層の組成や厚みを後述する範囲とすることが好ましい。
尚、本願においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向あるいは長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。
本発明の積層多孔性フィルムは、幅方向に測定した150℃での熱収縮率HTD(150℃)が5%以下である。熱収縮率HTD(150℃)が5%以下であると、自動車用などの容量が大きい蓄電デバイス用途において、蓄電デバイスが異常に高温となっても、短絡を防止することができる。HTD(150℃)は、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。HTD(150℃)を上記範囲とするには、多孔性ポリオレフィンフィルムの組成や製膜条件を後述する範囲内とすること、また、無機粒子含有層のコーティング工程において、無機粒子含有層の組成や厚みを後述する範囲とすることが好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムは、動的粘弾性測定により測定したフィルム長手方向の貯蔵弾性率の130℃での値をE’MD(130℃)としたとき、E’MD(25℃)/E’MD(130℃)の値が10以下である。E’MD(25℃)/E’MD(130℃)の値が10を超えると、蓄電デバイスが異常に高温となった場合、多孔性ポリオレフィンフィルムが軟化しやすいため、高温下でセパレータの機能を失ってしまう場合がある。E’MD(25℃)/E’MD(130℃)の値を上記範囲とするには、多孔性ポリオレフィンフィルムの組成や製膜条件を後述する範囲内とすること、また、無機粒子含有層のコーティング工程において、無機粒子含有層の組成や厚みを後述する範囲とすることが好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムは、動的粘弾性測定により測定したフィルム長手方向の貯蔵弾性率の150℃での値をE’MD(150℃)としたとき、E’MD(25℃)/E’MD(150℃)の値が20以上である。E’MD(25℃)/E’MD(150℃)の値が20未満であると、積層多孔性フィルムを150℃の環境下においたとき、150℃でも多孔性ポリオレフィンフィルムの剛性が高いため、無機粒子含有層との熱収縮率の差により、積層多孔性フィルムがカールしてしまう場合がある。E’MD(25℃)/E’MD(150℃)の値を上記範囲とするには、多孔性ポリオレフィンフィルムの組成や製膜条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
上述したように、本発明は、HTD(150℃)および25℃、130℃、150℃におけるE’に関する規定を上記範囲とすることにより、高温における蓄電デバイスの安全性を高めたものである。すなわち、現在自動車用などの容量が大きい蓄電デバイス用途において、セパレータには150℃での熱収縮率が小さいことが求められており、無機粒子含有層などの耐熱層を付与することにより熱収縮率を小さくする検討がなされているが、ここで、E’MD(130℃)の値が低いと、たとえ耐熱層により150℃での熱収縮率が小さくなっても、多孔性ポリオレフィンフィルム自体が軟化して、セパレータの機能を失ってしまう場合がある。E’MD(25℃)/E’MD(130℃)の値を10以下とすることにより、150℃直前まで十分な剛性を保つことができる。一方、E’MD(150℃)の値が高すぎると、積層多孔性フィルムを150℃の環境下においたとき、150℃でも多孔性ポリオレフィンフィルムの剛性が高いため、無機粒子含有層との熱収縮率の差により、積層多孔性フィルムがカールしてしまう場合がある。E’MD(25℃)/E’MD(150℃)の値が20未満であれば、150℃における剛性が十分に弱く、平面性を維持することができる。本発明は、HTD(150℃)および25℃、130℃、150℃におけるE’の値を上記範囲とすることにより、セパレータに求められる150℃付近での耐熱性とセパレータとしての機能を両立するものである。
本発明の積層多孔性フィルムは、セパレータとして用いるために透気性が必要であり、透気抵抗は50〜10,000秒/100mlであることが好ましい。透気抵抗が10,000秒/100mlを超えると、充放電時にリチウムイオンを透過せず、セパレータとして使用できない場合がある。特に、高出力電池用のセパレータとして用いる場合は、透気抵抗が50〜300秒/100mlであることが好ましい。より好ましくは50〜200秒/100ml、更に好ましくは50〜150秒/100mlである。透気抵抗が50秒/100ml未満であると、フィルムの強度が低下し、無機粒子含有層のコーティング工程や電池組立工程において、積層多孔性フィルムにかかる張力によりフィルムが変形し、シワがはいったり平面性が低下する場合がある。透気抵抗が300秒/100mlを超えると、特に高出力電池用のセパレータとして用いたとき出力特性が低下する場合がある。透気抵抗を上記範囲とするには、多孔性ポリオレフィンフィルムの組成や製膜条件を後述する範囲内とすること、また、無機粒子含有層のコーティング工程において、無機粒子含有層の組成や厚みを後述する範囲とすることが好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムは、長手方向に測定した150℃での熱収縮率HMD(150℃)が5%以下であることが好ましい。熱収縮率HMD(150℃)が5%以下であると、ラミネート型のセルにおいて、蓄電デバイスが異常に高温となっても、短絡を防止することができる。HMD(150℃)は、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。HMD(150℃)を上記範囲とするには、多孔性ポリオレフィンフィルムの組成や製膜条件を後述する範囲内とすること、また、無機粒子含有層のコーティング工程において、無機粒子含有層の組成や厚みを後述する範囲とすることが好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムは、フィルムの幅方向の150℃での熱収縮率HTD(150℃)と、フィルムの長手方向の150℃での熱収縮率HMD(150℃)について、HTD(150℃)/HMD(150℃)の値が0.8以上10.0以下であることが好ましい。HTD(150℃)/HMD(150℃)の値が0.8未満であると、積層多孔性フィルムを150℃の環境下においたとき、積層多孔性フィルムがMD方向にカールしてしまう場合がある。HTD(150℃)/HMD(150℃)の値が10.0を超えると、積層多孔性フィルムを150℃の環境下においたとき、積層多孔性フィルムがTD方向にカールしてしまう場合がある。HTD(150℃)/HMD(150℃)の値は、より好ましくは0.9以上5.0以下、更に好ましくは1.0以上3.0以下である。HTD(150℃)/HMD(150℃)の値を上記範囲とするには、多孔性ポリオレフィンフィルムの組成や製膜条件を後述する範囲内とすること、また、無機粒子含有層のコーティング工程において、無機粒子含有層の組成や厚みを後述する範囲とすることが好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムは、多孔性ポリオレフィンフィルムとその少なくとも片面に設けられた無機粒子含有層とから構成される。多孔性ポリオレフィンフィルムとはポリオレフィン系樹脂を主成分として含有する多孔性フィルムである。ここで、「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。
前記ポリオレフィン系樹脂を構成する単量体成分としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、5−エチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボネン、5−メチル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。本発明にかかる多孔性フィルムを構成する樹脂として、上記単量体の単独重合体や、上記単量体から選択される2種以上の単量体の共重合体が好適に使用されるが、これらに限定されるわけではない。上記の中で、耐熱性、透気性、強度などの観点からポリプロピレン樹脂が好ましい。特に、上述したE’MD(130℃)の値やE’MD(150℃)の値や、HTD(150℃)、HMD(150℃)の値を上記範囲内とするには、ポリプロピレン樹脂が50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。また、本発明において用いる多孔性ポリオレフィンフィルムにはポリエチレンが含まれていても構わないが、E’MD(130℃)の値やE’MD(150℃)の値を上述した範囲とするためには、ポリエチレンを主成分とする層を含まないことが好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルムの両表面を貫通し、透気性を有する貫通孔を複数有している。多孔性ポリオレフィンフィルムに貫通孔を形成する方法としては、湿式法、乾式法どちらでも構わないが、工程を簡略化できることから乾式法が好ましく、ポリプロピレン樹脂を使用する場合、フィルムの長手方向と幅方向の耐熱性や強度のバランスの観点から、特にβ晶法が好ましい。
β晶法とは、キャストシートにポリプロピレンのβ晶を生成させ、縦延伸により製膜方向に配向したα晶のフィブリルとし、そのフィブリルを横延伸で開裂させながら網目を形成させることにより、多孔性ポリオレフィンフィルムを得る方法である。β晶法では、横延伸での開裂の均一性については改善の余地があり、得られるフィルムの孔の大きさの均一性についても同様であった。β晶法で得られる多孔性ポリオレフィンフィルムにおいて、透気性や強度を向上するためには、孔の均一性を向上させて、粗大な孔を減少させることが重要となる。本発明では後述する原料と製膜条件を採用することにより、β晶法で得られる多孔性ポリオレフィンフィルム、すなわちβ晶形成能を有するポリプロピレン樹脂(A)を含む多孔性オレフィンフィルムの孔構造を著しく均一化させ、透気性と機械強度、さらには耐熱性との両立させることができるため好ましい。尚、キャストシートとは、溶融したポリプロピレン樹脂(A)を含むポリプロピレン組成物をキャストドラム上でシート状に成型した、未延伸のシートを示す。
β晶法で得られる多孔性ポリオレフィンフィルムにおいて透気性を良くする方法としては、第1成分であるポリプロピレン樹脂(A)と、第2成分として該ポリプロピレン樹脂(A)中に完全相溶せずドメインを形成することによりフィブリル開裂を促進させるエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)を用いる例が知られている(例えば国際公開第2007/046225号パンフレット)。しかし、該方法を用いると透気性は良化するものの、孔サイズの均一性が不十分であり、高い強度を同時に達成することは困難であった。
本発明においては、キャストシート中のポリプロピレン樹脂(A)に完全相溶しない第二成分であるエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)の、TD/ZD断面におけるドメインの分散径を100nm未満に微細に分散させることができるため、孔構造が均一化され、高い透気性と機械強度を両立できるため好ましい。具体的には、β晶形成能を有するポリプロピレン樹脂(A)と、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)と、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のドメインを微細かつ均一に分散させるための分散剤(C)とを含むプロピレン組成物を、後述する製膜条件で製膜すると、孔構造が均一化され、高い透気性と機械強度を両立できるため好ましい。また、熱収縮率も改善することもできる。これは、孔構造が均一化されることにより、横延伸後の熱固定工程での緩和も均一に生じるためだと考えられる。ここで、TD/ZD断面とは、フィルムを、厚み方向に平行な直線と幅方向に平行な直線を通る平面で切断したときの断面をいう。
更に本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムは、縦延伸および横延伸工程で多孔化したフィルムを、二度目の縦延伸工程に導入することが、上述したE’MD(25℃)やE’MD(130℃)の値を上記範囲内に制御する観点から好ましい。詳しい製造方法については後述する。
つぎに本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムの原料について説明する。
本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムを構成する樹脂としてポリプロピレン樹脂を使用し、β晶法により多孔化する場合、ポリプロピレン樹脂のβ晶形成能が、30〜100%であることが好ましい。β晶形成能が30%未満では、フィルム製造時にβ晶量が少ないために、α晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果、透過性の低いフィルムしか得られない場合がある。β晶形成能を30〜100%の範囲内にするためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレンを使用したり、β晶核剤を添加することが好ましい。β晶形成能としては、35〜100%であればより好ましく、40〜100%だと特に好ましい。
β晶核剤としては、たとえば、1,2−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、コハク酸マグネシウムなどのカルボン酸のアルカリあるいはアルカリ土類金属塩、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミドに代表されるアミド系化合物、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどのテトラオキサスピロ化合物、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族スルホン酸化合物、イミドカルボン酸誘導体、フタロシアンニン系顔料、キナクリドン系顔料を好ましく挙げることができるが、特に特開平5−310665号公報に開示されているアミド系化合物を好ましく用いることができる。β晶核剤の含有量としては、ポリプロピレン組成物全体を基準とした場合に、0.05〜0.5質量%であることが好ましく、0.1〜0.3質量%であればより好ましい。0.05質量%未満では、β晶の形成が不十分となり、多孔性ポリオレフィンフィルムの透気性が低下する場合がある。0.5質量%を超えると、粗大ボイドを形成し、強度が低下する場合がある。
本発明で用いるポリプロピレン樹脂(A)には、メルトフローレート(以下、MFRと表記する)が2〜30g/10分のアイソタクチックポリプロピレン樹脂を用いることが押出成形性及び孔の均一な形成の観点から好ましい。ここで、MFRとはJIS K 7210(1995)で規定されている樹脂の溶融粘度を示す指標であり、ポリオレフィン樹脂の特徴を示す物性値である。本発明においては230℃、2.16kgで測定した値を指す。本発明においてはポリプロピレン樹脂(A)のアイソタクチックインデックスは90〜99.9%の範囲であることが好ましい。より好ましくは95〜99%である。ポリプロピレン樹脂(A)のアイソタクチックインデックスが90%未満の場合、樹脂の結晶性が低くなってしまい、製膜性が低下したり、フィルムの強度が不十分となる場合がある。
本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリプロピレン樹脂(A)としては、ホモポリプロピレンを用いることができるのはもちろんのこと、製膜工程での安定性や造膜性、物性の均一性の観点から、ポリプロピレンにエチレン成分やブテン、ヘキセン、オクテンなどのα−オレフィン成分を5質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下の範囲で共重合した樹脂を用いることもできる。また、ポリプロピレン樹脂(A)は、ホモポリプロピレンおよび/またはポリプロピレン共重合体と、高分子量ポリプロピレンとを併用してもよい。ポリプロピレン樹脂(A)は、0.5〜30質量%の範囲で高分子量ポリプロピレンを含有することが強度向上の観点で好ましい。高分子量ポリプロピレンとはMFRが0.1〜2g/10分のポリプロピレンであり、たとえば、住友化学社製ポリプロピレン樹脂D101や、プライムポリマー社製ポリプロピレン樹脂E111G、B241、E105GMなどを好ましく用いることができる。
本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリプロピレン組成物は、二軸延伸を行って貫通孔を形成する場合、延伸時の空隙形成効率の向上や、孔径が拡大することによる透気性向上の観点から、第2成分としてエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)を含有することが好ましい。ここで、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)としては直鎖状低密度ポリエチレンや超低密度ポリエチレンを挙げることができ、中でも、オクテン−1を共重合した、融点が60〜90℃の共重合ポリエチレン樹脂(共重合PE樹脂)を好ましく用いることができる。この共重合ポリエチレンは市販されている樹脂、たとえば、ダウ・ケミカル製“Engage(エンゲージ)(登録商標)”(タイプ名:8411、8452、8100など)を挙げることができる。
上記エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)は本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを構成するポリプロピレン組成物全体を100質量%としたときに、10質量%以下含有することが透気向上の観点から好ましい。フィルムの機械特性の観点からは1〜7質量%であればより好ましく、更に好ましくは1〜6質量%である。
本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリプロピレン組成物は、上記したポリプロピレン樹脂(A)とエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)に加え、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)の分散剤(C)を含有することにより、孔構造が均一化され、高い透気性と機械強度を両立できるため好ましい。
本発明で用いる分散剤(C)としては、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のポリプロピレン樹脂(A)への分散性を高めることができるものであればよい。ところで、国際公開第2007/046225号パンフレットには、ポリプロピレン樹脂に非相溶なエチレン・α−オレフィン系共重合体を、所定温度での溶融、相溶化剤の添加、または押出時の高い剪断力等によりポリプロピレン樹脂中に分散させることにより、微細な孔を形成して空孔率および透気率を向上できる旨が記載されている。しかしながら、相溶化剤については具体的な化合物等について何ら記載されておらず、ポリプロピレン樹脂(A)と、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)とを含むポリプロピレン組成物を、所定温度で溶融し、高い剪断力を加えて押出すること等のみでは、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)を所定の分散径に分散させ、ポリプロピレンフィルムの孔構造を均一化することは困難である。本発明者らは、ポリプロピレン樹脂(A)との相溶性が高いセグメント(例えばポリプロピレンセグメント、エチレンブチレン共重合セグメント)とエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)との相溶性が高いセグメント(ポリエチレンセグメントなど)とを各々有するブロック共重合体を分散剤(C)としてポリプロピレン組成物に配合することにより、ポリプロピレン樹脂(A)中に所定範囲の分散径を有するエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)が分散したキャストシートが得られ、該キャストシートを延伸することにより、多孔性ポリプロピレンフィルムの孔構造が均一化できることを見出した。分散剤(C)として、市販されている樹脂、例えばJSR社製オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー(以下、CEBCと表記する)“DYNARON”(ダイナロン)(登録商標)(タイプ名:6100P、6200Pなど)や、ダウ・ケミカル社製オレフィンブロック共重合体“INFUSE OBC”(登録商標)を挙げることができる。分散剤(C)の添加量としてはエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、5〜33質量部であることがより好ましい。また、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のポリプロピレン樹脂(A)への分散性向上の観点および孔形成の均一性向上の観点から、分散剤(C)の融点は、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)の融点より、0〜60℃高いことが好ましく、15〜30℃高いことがより好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリプロピレン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤や無機あるいは有機粒子からなる滑剤、さらにはブロッキング防止剤や充填剤、非相溶性ポリマーなどの各種添加剤を含有させてもよい。特に、ポリプロピレン樹脂(A)の熱履歴による酸化劣化を抑制する目的で、酸化防止剤を添加することが好ましい。酸化防止剤添加量は、ポリプロピレン組成物100質量部に対して2質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。
本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムを形成するポリプロピレン組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、無機あるいは有機粒子からなる孔形成助剤を含有させてもよい。含有量はポリプロピレン組成物100質量部に対して5質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。5質量部を超えると、セパレータとして使用したとき、脱落した粒子が電池性能を低下させたり、原料コストが高くなり、生産性が低下する場合がある。
本発明の積層多孔性フィルムに用いる多孔性ポリオレフィンフィルムは、様々な効果を付与する目的で積層構成をとっても構わない。積層数としては、2層積層でも3層積層でも、また、それ以上の積層数でもいずれでも構わない。積層の方法としては、共押出によるフィードブロック方式やマルチマニホールド方式でも、ラミネートによる多孔性フィルム同士を貼り合わせる方法でもいずれでも構わない。積層構成としては、例えば、低温でのシャットダウン性を付与する目的でポリエチレンを含む層を積層したり、強度や耐熱性を付与する目的で粒子を含む層を積層することができる。積層構成とする場合には、表層を構成する樹脂にはポリエチレン系樹脂、エチレン共重合樹脂を含まないことが好ましい。表層にエチレン成分が存在すると電池用セパレータとして使用したとき耐酸化性が低下する場合がある。従って上述したエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)や分散剤(C)を用いる場合、これらの添加剤を使用した層を内層とし、使用しない層を表層とする積層構成を取ることが好ましい。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、β晶形成能が30〜100%であることが好ましい。β晶形成能が30%未満では、フィルム製造時にβ晶量が少ないために、α晶への転移を利用してフィルム中に形成される空隙数が少なくなり、その結果、透気性の低いフィルムしか得られない場合がある。β晶形成能を30〜100%の範囲内にするためには、アイソタクチックインデックスの高いポリプロピレンを使用したり、β晶核剤を添加することが好ましい。β晶形成能としては、35〜100%であればより好ましく、40〜100%だと特に好ましい。
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、窒素吸着法による細孔比表面積が30〜100m2/gであるものである。細孔比表面積が30m2/g未満であると、特に高出力電池用のセパレータとして用いたとき出力特性が低下する場合がある。細孔比表面積が100m2/gを超えると、フィルムの強度が低下し、無機粒子含有層のコーティング工程や電池組立工程において、積層多孔性フィルムにかかる張力によりフィルムが変形し、シワがはいったり平面性が低下する場合がある。細孔比表面積は、より好ましくは35〜100m2/g、更に好ましくは40〜100m2/gである。細孔比表面積を上記範囲とするには、多孔性ポリオレフィンフィルムの組成や製膜条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
つぎに本発明の積層多孔性フィルムにおいて、多孔性ポリオレフィンフィルムとその少なくとも片面に設けられる無機粒子含有層について説明する。
本発明の積層多孔性フィルムに用いる無機粒子含有層とは、無機粒子を主成分とした多孔層である。ここで主成分であるとは、無機粒子含有層を構成する組成のうち50質量%以上が無機粒子であることをいう。上記無機粒子含有層を有することにより、多孔ポリオレフィンフィルムのみでは達成できない、高温での耐熱性を発現することができる。
無機粒子含有層に用いる無機粒子は、粒子の形状が少なくとも200℃まで保持される粒子であることが好ましい。形状が保持されるとは、常温での粒子のアスペクト比や平均粒子径が200℃においても変化しないことを意味する。より好ましくは300℃まで形状が保持され、さらに好ましくは330℃まで形状が保持されることである。すなわち粒子の融点、軟化点、熱分解温度、または体積変化を伴う相転移が上記温度まで起こらないことが好ましい。具体的には、融点を示さずかつ少なくとも330℃までは形状が保持される粒子として、アルミナ、ベーマイト、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックスや窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。本発明においてはこれら粒子を単独で用いてもよいし、複数を混合して用いることもできる。これらの中でも、電気化学的安定性の観点から炭酸カルシウム、アルミナ、ベーマイト、シリカが好ましく、分散性および結着剤との接着性の観点から炭酸カルシウムがより好ましい。
無機粒子含有層に用いる無機粒子の平均粒子径は、無機粒子含有層の透気性と力学特性の両立の観点から、0.05〜15μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜10μmである。平均粒子径が0.05μm未満では、無機粒子が多孔性ポリオレフィンフィルムの開孔表面からフィルム内部に入り込み、多孔ポリオレフィンフィルムの透気抵抗が高くなったり、粒子の表面積が大きくなるため凝集しやすくなり、無機粒子含有層を多孔性ポリオレフィンフィルムの表面に設けた際に粗大突起となることから積層多孔性フィルムの品位を低下させる場合がある。一方、平均粒子径が10μmを超えると、無機粒子含有層の厚みの制御が困難になる場合がある。
本発明の積層多孔性フィルムの無機粒子含有層に含まれる無機粒子の濃度としては、無機粒子含有層を形成する組成物中、50質量%以上95質量%未満であることが好ましく、60質量%以上90質量%未満であることがより好ましい。濃度が95質量%以上である場合、無機粒子に対して後述する結着剤の量が少なくなり、十分に無機粒子同士を接着できず、耐熱性が低下する場合がある。また、濃度が50質量%より低くなると無機粒子含有層の耐熱性が十分に発現せず、積層多孔性フィルムとした際に熱収縮率が大きくなる場合や、結着剤が無機粒子含有層中の空孔を閉塞し、透気抵抗の低下を誘発する場合がある。本発明の積層多孔性フィルムの無機粒子含有層に含まれる無機粒子の濃度は、積層多孔性フィルムより無機粒子含有層を剥離・回収し、これを粉末X線解析し無機粒子種を同定した後、燃焼分析により有機成分を除去後の質量から無機元素の含有量を算出することで求めることができる。
本発明の積層多孔性フィルムの無機粒子含有層の厚み(塗工により形成する場合の塗工厚み(塗工・乾燥後の厚み))は、耐熱性、力学特性の観点から、1〜30μmであることが好ましく、より好ましくは1〜20μm、更に好ましくは1〜10μm、特に好ましくは1〜6μmである。厚みが1μm未満であると、十分な耐熱性が得られない場合がある。また、厚みが30μmを超えると、無機粒子含有層を多孔性ポリオレフィンフィルム上に形成する際の塗工において、ウェット厚み(乾燥前の湿潤状態での厚み)が厚くなるため乾燥効率が低下することから、積層多孔性フィルムとした際の含水率が増加する場合や、積層多孔性フィルムを屈曲した際に、亀裂や剥離が生じやすくなる。厚みをかかる好ましい範囲に制御する方法としては、後述する塗工方法を用いた際の塗液の吐出量や搬送速度等を制御することで達成することができる。
本発明の積層多孔性フィルムの無機粒子含有層には、無機粒子の他に結着剤が含まれていることが好ましい。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリル、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)などのエチレン−アクリル酸共重合体、フッ素系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、架橋アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、変性ポリオレフィン、シリコンアルコキシド類、ジルコニウム化合物、コロイダルシリカ、オキシラン環含有化合物が挙げられる。特に、水に分散または溶融可能な化合物が結着剤として好ましく用いられる。結着剤は、上記例示のものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、変性ポリオレフィンを結着剤として用いると、上述したβ晶法による多孔性ポリオレフィンフィルムと無機粒子含有層との間の接着性や、無機粒子含有層中の無機粒子同士の接着性が高く、さらに無機粒子含有層を付与したときの透気性低下を抑制することができるため好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムの無機粒子含有層にに用いる結着剤の量は、無機粒子含有層中の無機粒子100質量部に対して、1〜30質量部であることが接着性の観点から好ましく、1〜20質量部がより好ましく、5〜15質量部がさらに好ましい。結着剤の濃度が1質量部を下回ると、無機粒子間および無機粒子含有層と多孔性ポリオレフィンフィルムとの接着力が不足し、無機粒子の脱落や無機粒子含有層の剥離が起きる場合がある。また、30質量部を上回ると無機粒子含有層内部の孔を閉塞するため透気抵抗が低下する場合がある。
本発明の積層多孔性フィルムにおいて、無機粒子含有層を形成する方法としては、無機粒子と結着剤を少なくとも含有する塗液を調製し、多孔性ポリオレフィンフィルム上に塗布する方法が好ましく採用される。塗布する方法としては、一般に行われるどのような方法を用いてもよいが、例えば、無機粒子や結着剤をイオン交換水などに分散させて作成した塗液をリバースコート法、バーコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、ダイコート法、スプレーコート法などの塗布方法によりフィルム上に塗布し、乾燥して無機粒子含有層とすればよい。また、塗液を調製する際には、分散剤、粘度調整剤、pH調整剤、界面活性剤などを適宜添加してもよい。
以下に本発明の積層多孔性フィルムの製造方法を具体的な一例をもとに説明する。なお、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
ポリプロピレン樹脂(A)として、MFR8g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂(A1)94.5質量部、MFR0.5g/10分の市販のホモポリプロピレン樹脂(A2)5質量部、β晶核剤としてN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド0.3質量部、酸化防止剤0.2質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給して溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(a)を準備する。この際、溶融温度は270〜300℃とすることが好ましい。また同様に、上記のホモポリプロピレン樹脂(A1)を58.3質量部、ホモポリプロピレン樹脂(A2)を6.5質量部、エチレン・α−オレフィン系共重合体(B)として市販のMFRが18g/10分の超低密度ポリエチレン樹脂エチレン・オクテン−1共重合体を30質量部、分散剤(C)として市販のCEBC5質量部、酸化防止剤0.2質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン原料(b)を準備する。
次に、原料(a)89.7質量部、原料(b)10質量部、酸化防止剤0.3質量部をドライブレンドにて混合して単軸の溶融押出機に供給し、200〜230℃にて溶融押出を行う。次に、途中に設置したフィルターにて、異物や変性ポリマーなどを除去した後、Tダイよりキャストドラム上に吐出し、キャストシートを得る。本発明では、均一な孔構造を得るために、キャストシート中のエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)のドメイン形状や分散状態を制御することが重要であり、上述した分散剤(C)を添加することに加え、押出の際、ダイでのせん断速度を100〜1,000sec−1とすることが好ましい。より好ましくは150〜800sec−1であり、さらに好ましくは200〜600sec−1である。ダイでのせん断速度は式(1)で表される。ダイでのせん断速度が100sec−1未満であると、せん断が十分にかからずドメイン形状の制御が困難となる場合がある。また、ダイでのせん断速度が1,000sec−1を超えると、必要以上にドメインにせん断がかかってしまいドメイン形状の制御が困難となる場合がある。
せん断速度(sec−1)=6Q/ρWt2 ・・・(1)
Q:流量(kg/sec)
ρ:比重(kg/cm3)
W:溝幅(cm)
t:溝間隙(cm)
上記のようにダイのせん断速度を好ましい範囲内とすることで延伸前のキャストシート中のエチレン・α−オレフィン系共重合体(B)を主体とするドメイン(オレフィン系共重合体(B)を主体とし、分散剤(C)が混合されてなる)を微細かつ均一に分散させることが可能である。ここで、TD/ZD断面の平均ドメイン径(分散径)は5〜100nmであることが好ましく、より好ましくは10〜90nm、さらに好ましくは、15〜80nmである。ドメイン径が5nm未満の場合、延伸時のフィブリルの開裂を促す効果が小さく、透気性が低下する場合がある。ドメイン径が100nmを超えると孔のサイズが大きくなり突刺強度に劣る場合がある。通常、ダイのせん断のみによりドメイン径を制御しようとすると、せん断のかかりやすい厚み方向の表層付近はドメイン径が小さくなるが、厚み方向の中央付近はドメイン径が大きくなってしまい、均一な孔構造を得るのが困難であったが、本発明においては、上述した分散剤(C)を用い、上記範囲で製膜することにより、孔構造の均一性が高い多孔性ポリオレフィンフィルムが得られ、高い透気性と機械強度を両立可能となる。
ダイのせん断速度が上述した範囲となるようにポリマーの流量、Tダイの溝幅、溝間隙を適宜調整する。ポリマーの流量は押出安定性の観点から40〜500kg/hrの範囲が好ましい。Tダイの溝幅は生産性の観点から200〜1,000mmの範囲が好ましい。Tダイの溝間隙は押出系内の内圧やキャスト精度の観点から0.8〜2mmの範囲が好ましい。また、キャストドラムは、表面温度が105〜130℃であることが、キャストシートのβ晶分率を高く制御する観点から好ましい。この際、特にシートの端部の成形が、後の延伸性に影響するので、端部にスポットエアーを吹き付けてドラムに密着させることが好ましい。また、シート全体のドラム上への密着状態から、必要に応じて全面にエアナイフを用いて空気を吹き付けてもよい。
次に、得られたキャストシートを二軸配向させ、フィルム中に空孔を形成する。二軸配向させる方法としては、フィルム長手方向に延伸後幅方向に延伸、あるいは幅方向に延伸後長手方向に延伸する逐次二軸延伸法、またはフィルムの長手方向と幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸法などを用いることができるが、透気性と強度のバランスの取れたフィルムを得やすいという点で逐次二軸延伸法を採用することが好ましく、特に、長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。更に、本発明においては、長手方向および幅方向に延伸した後、二度目の縦延伸工程に導入することが、MD方向のE’MD(25℃)を上記範囲とする観点から好ましい。
具体的な延伸条件を説明する。キャストシートを長手方向に延伸する温度制御の方法は、温度制御された回転ロールを用いる方法、熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。長手方向の延伸温度としては、90〜140℃であることが好ましい。90℃未満では、フィルムが破断する場合がある。140℃を超えると、透気性が低下する場合がある。透気性と強度の両立の観点から、より好ましくは100〜130℃、特に好ましくは115〜125℃である。延伸倍率としては、3〜7倍であることが好ましい。延伸倍率を高くするほど透気性は良化するが、7倍を超えて延伸すると、次の横延伸工程でフィルム破れが起きやすくなったり、透気性が高くなりすぎて強度が低下してしまう場合がある。延伸倍率はより好ましくは4.5〜6倍である。
次に、幅方向に延伸するために、テンター式延伸機にフィルム端部を把持させて導入する。横延伸温度は、好ましくは130〜155℃、より好ましくは145〜155℃である。130℃未満ではフィルムが破断する場合があり、155℃を超えると透気性が低下する場合がある。幅方向の延伸倍率は2〜12倍であることが好ましい。より好ましくは7〜11倍、更に好ましくは7〜10倍である。2倍未満であると、透気性が低下したり、幅方向の引張強度が低下する場合がある。12倍を超えるとフィルムが破断する場合がある。なお、このときの横延伸速度としては、500〜6,000%/分で行うことが好ましく、1,000〜5,000%/分であればより好ましい。面積倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)としては、好ましくは30〜60倍である。
横延伸後はテンター内で熱固定を行うことが、熱収縮率低減の観点から好ましい。熱固定の温度は横延伸温度以上165℃以下が好ましく、熱固定時間は5〜30秒間であることが好ましい。さらに、熱固定時にはフィルムの長手方向および/もしくは幅方向に弛緩させながら行ってもよく、特に幅方向の弛緩率を7〜20%とすることが、熱寸法安定性の観点から好ましい。
横延伸に続いて、二度目の縦延伸工程を行う。縦延伸の方法としては、温度制御された回転ロールを用いる方法、テンター式の熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。二度目の縦延伸時の温度としては、100℃〜160℃であることが好ましい。100℃未満ではフィルムが破断する場合がある。160℃を超えると、透気性が低下する場合がある。二度目の縦延伸時の温度は、より好ましくは120℃〜155℃、更に好ましくは130〜150℃である。二度目の縦延伸時の倍率としては、1.1〜2.0倍が好ましい。1.1倍未満であると、長手方向の剛性が十分でなく、積層多孔性フィルムとした時、上述したE’MD(25℃)の値が不十分となる場合がある。2.0倍を超えると、フィルムが破断する場合がある。二度目の縦延伸時の倍率は、1.1〜1.8倍がより好ましく、1.15〜1.6倍が更に好ましい。
二度目の縦延伸に続いて、熱処理工程を行う。熱処理工程は、温度制御された複数本の回転ロールに接触させて熱処理する方法や、テンター式の熱風オーブンを使用する方法などを採用することができる。テンター式熱風オーブンを用いる場合は、二度目の縦延伸工程に続いて、二度目の横延伸を実施し、その後、熱処理を実施してもよい。熱処理工程の温度は、150〜165℃であることが好ましい。150℃未満であると、多孔性ポリオレフィンフィルムの幅方向の熱収縮率が大きくなり、無機粒子含有層を付与した後でも積層多孔性フィルムの熱収縮率が大きくなる場合がある。165℃を超えると、高温により孔周辺のポリマーが溶けて透気抵抗が大きくなる場合がある。150℃での耐熱性向上の観点から、155〜165℃であればより好ましい。また、熱処理工程の温度は、二度目の縦延伸時の温度以上であることが、150℃での耐熱性向上の観点から好ましい。さらに、熱処理工程では、フィルムを幅方向に2〜20%弛緩させることが好ましい。弛緩率が2%未満であると幅方向の熱収縮率が大きくなる場合がある。20%を超えると透気性が低下したり、幅方向の厚み斑や平面性が低下する場合がある。透気性向上と熱収縮率低減の観点から、5〜15%であるとより好ましい。
次に、上記のようにして得た多孔フィルムの少なくとも片面に無機粒子含有層を形成するが、その前に多孔性ポリオレフィンフィルムと無機粒子含有層との接着性を向上させる目的で、多孔性ポリオレフィンフィルム表面にコロナ放電処理など、易接着化のための表面処理を行うことが好ましい。表面処理としては、空気中、酸素雰囲気、窒素雰囲気などでのコロナ放電処理や、プラズマ処理等を挙げることができるが、簡便なコロナ放電処理が好ましい。表面処理後のフィルムは、テンターのクリップで把持した耳部をスリットして除去し、ワインダーでコアに巻き取って多孔性ポリオレフィンフィルムとする。
続いて、多孔性ポリオレフィンフィルムの少なくとも片面に無機粒子含有層をコーティングして本発明の積層多孔性フィルムとする。
無機粒子含有層形成のための塗液調製方法としては、具体的には、例えば、無機粒子として炭酸カルシウム(平均粒子径3μm)15質量%、結着剤として変性ポリエチレンエマルジョン(固形分濃度20質量%)7.5質量%と、粘度調製剤として、カルボキシメチルセルロース0.3質量%とヒドロキシエチルセルロース0.4質量%と、表面張力調製剤として、イソプロピルアルコール10質量%、イオン交換水66.80質量%を混合し、4時間撹拌して塗液を調製する。
続いて、多孔ポリオレフィンフィルムをコーティング装置の巻出機から巻き出し、ダイコーターを用い多孔性ポリオレフィンフィルム上に塗液を塗布し、100℃で1分間熱処理して水などの溶媒を乾燥させて、本発明の積層多孔性フィルムを得ることができる。
なお、無機粒子含有層は多孔性ポリオレフィンフィルムの製膜工程においてインラインコーティングにより付与してもよく、その場合は、二度目の縦延伸工程後に、フィルム表面に塗液を塗布し、テンター式熱風オーブンに導入して熱固定と同時に水などの溶媒を乾燥して積層多孔性フィルムを得ることができる。
本発明の積層多孔性フィルムは、透気性、生産性に優れるだけでなく、強度、耐熱性に優れることから、包装用品、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品、分離膜、光拡散板、反射シート用途で用いることができるが、特に蓄電デバイス用のセパレータとして好ましく用いることができる。本発明の積層多孔性フィルムからなるセパレータは、蓄電デバイスの正極と負極の間に設けられ、該電極の接触を防止しつつ、電解液中のイオンを効率よく透過できる。ここで、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池や、リチウムイオンキャパシタなどの電気二重層キャパシタなどを挙げることができる。このような蓄電デバイスは充放電することで繰り返し使用することができるので、産業装置や生活機器、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの電源装置として使用することができる。
本発明の積層多孔性フィルムを用いたセパレータを使用した蓄電デバイスは、セパレータの優れた特性から産業機器や自動車の電源装置に好適に用いることができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
(1)厚み
接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(10.5mmφ超硬球面測定子、測定荷重0.06N)にて多孔性ポリオレフィンフィルム、および積層多孔性フィルムの厚さを測定した。測定は場所を替えて10回行い、その平均値を厚みとした。
(2)透気抵抗
多孔性ポリオレフィンフィルム、および積層多孔性フィルムについて、JIS P 8117(1998)のB形ガーレー試験器を用いて、23℃、相対湿度65%にて、前記試料について100mlの空気の透過時間の測定を行った。測定は試料を替えて3回行い、透過時間の平均値をそのフィルムの透気抵抗とした。
(3)動的粘弾性測定
積層多孔性フィルムについて、JIS−K7244(1999)に従って、セイコーインスツルメンツ社製の動的粘弾性測定装置“DMS6100”を用いて求めた。サンプルサイズは幅4mm×長さ50mmとして、フィルムの長手方向が50mmとなるようにサンプルを整えチャック間距離が20mmとなるようにセットしチャックからはみ出したフィルムは取り除いた。引張モード、駆動周波数は10Hz、チャック間距離は20mm、昇温速度は2℃/minの測定条件にて、各フィルムの貯蔵弾性率E’の温度依存性を測定した。
得られたE’の曲線から、25℃での貯蔵弾性率を求めE’MD(25℃)とし、130℃での貯蔵弾性率を求めE’MD(130℃)とし、150℃での貯蔵弾性率を求めE’MD(150℃)とした。E’MD(25℃)/E’MD(130℃)の値が10以下のときは○、10を超えるときは×と表に記載した。E’MD(25℃)/E’MD(150℃)の値が20以上のときは○、20未満のときは×と表に記載した。
(4)熱収縮率
積層多孔性フィルムについて、セイコーインスツルメント社製TMA/SS6000を用いて、下記温度プログラムにて一定荷重下におけるフィルム長手方向および幅方向の収縮曲線をそれぞれ求めた。
得られた収縮曲線から、150℃での熱収縮率を読み取った。
温度プログラム 25℃→(5℃/min)→170℃(hold 5min)
荷重 2g
サンプルサイズ サンプル長15mm×幅4mm
(測定したい方向をサンプル長側に合わせる)
(5)β晶形成能
多孔性ポリオレフィンフィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から260℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピークについて、145〜157℃の温度領域にピークが存在する融解をβ晶の融解ピーク、158℃以上にピークが観察される融解をα晶の融解ピークとして、高温側の平坦部を基準に引いたベースラインとピークに囲まれる領域の面積から、それぞれの融解熱量を求め、α晶の融解熱量をΔHα、β晶の融解熱量をΔHβとしたとき、以下の式で計算される値をβ晶形成能とする。なお、融解熱量の校正はインジウムを用いて行った。
β晶形成能(%) = 〔ΔHβ / (ΔHα + ΔHβ)〕 × 100
ただし、上記方法において、140〜160℃に頂点を有する融解ピークが存在するが、β晶の融解に起因するものか不明確な場合は、140〜160℃に融解ピークの頂点が存在することと、下記条件で調製したサンプルについて、広角X線回折法による2θ/θスキャンで得られる回折プロファイルの各回折ピーク強度から算出されるK値が0.3以上であることをもってβ晶形成能を有するものと判定する。
下記にサンプル調製条件、広角X線回折法の測定条件を示す。
・サンプル:
フィルムの方向を揃え、熱プレス調製後のサンプル厚さが1mm程度になるよう重ね合わせる。このサンプルを0.5mm厚みの2枚のアルミ板で挟み、280℃で3分間熱プレスして融解・圧縮させ、ポリマー鎖をほぼ無配向化する。得られたシートを、アルミ板ごと取り出した直後に100℃の沸騰水中に5分間浸漬して結晶化させる。その後25℃の雰囲気下で冷却して得られるシートを切り出したサンプルを測定に供する。
・広角X線回折方法測定条件:
X線発生装置:理学電機(株)製 4036A2(管球型)
X線源:CuKα線(Niフィルター使用)
出力:40kV、20mA
光学系:理学電機(株)製、ピンホール光学系(2mmφ)
ゴニオメーター:理学電機(株)製
スリット系:2mmφ(上記)−1° −1°
検出器:シンチレーションカウンター
計数記録装置:理学電機(株)製 RAD−C型
測定方法:透過型
2θ/θスキャン:ステップスキャン、2θ範囲10〜55°、0.05°ステップ、積算時間2秒
上記条件に準拠し、2θ/θスキャンによりX線回折プロファイルを得る。
ここで、K値は、2θ=16°付近に観測され、β晶に起因する(300)面の回折ピーク強度(Hβ1とする)と2θ=14,17,19°付近にそれぞれ観測され、α晶に起因する(110)、(040)、(130)面の回折ピーク強度(それぞれHα1、Hα2、Hα3とする)とから、下記の数式により算出できる。K値はβ晶の比率を示す経験的な値であり、各回折ピーク強度の算出方法などK値の詳細については、ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134−158頁(1964)を参考にすればよい。
K = Hβ1/{Hβ1+(Hα1+Hα2+Hα3)}
なお、ポリプロピレンの結晶型(α晶、β晶)の構造、得られる広角X線回折プロファイルなどは、例えば、エドワード・P・ムーア・Jr.著、“ポリプロピレンハンドブック”、工業調査会(1998)、p.135−163;田所宏行著、“高分子の構造”、化学同人(1976)、p.393;ターナージョーンズ(A.Turner Jones)ら,“マクロモレキュラーレ ヒェミー”(Makromolekulare Chemie),75,134−158頁(1964)や、これらに挙げられた参考文献なども含めて多数の報告があり、それを参考にすればよい。
(6)キャストシート中のエチレン−α−オレフィン系重合体(B)の分散径(ドメイン径)の測定
ミクロトーム法を用い、キャストシートの幅方向−厚み方向に断面(TD/ZD断面)を有する超薄切片を採取した。採取した切片をRuO4で染色し、下記条件にて透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて断面を観察した。この時例えば、エチレン−α−オレフィン系重合体(B)は、ポリプロピレンよりも黒く染まる。
・装置 :(株)日立製作所製 透過型電子顕微鏡(TEM)H−7100FA
・加速電圧:100kV
・観察倍率:20,000倍。
キャストシートの一方の表面からもう一方の表面までを、厚み方向に連続して観察した像を採取した。得られた像にキャストシートの厚み方向に平行に1μm相当の間隔をあけて2本の直線を引き、2本の直線の間に存在する全てのエチレン−α−オレフィン系重合体(B)の分散径を測定した(単位:nm)。測定した分散径を平均し、得られた平均分散径をエチレン−α−オレフィン系重合体(B)の分散径とした。
(7)平面性評価
積層多孔性フィルムをMD10cm、TD10cmの正方形に切り出し、厚紙に挟んで150℃の熱風オーブンで10分間熱処理した。熱処理後の積層多孔性フィルムの平面性をチェックし、以下の基準で評価した。
○:平面性が良好。
△:MDまたはTDにカールしている、または、平面性がやや低下している。
×:平面性が著しく低下している。
(8)強度評価
上記動的粘弾性測定で、E’MD(25℃)の値が1.2GPa以上のものを◎、1.1GPa以上1.2GPa未満のものを○、1.0GPa以上1.1GPa未満のものを△、1.0GPa未満のものを×とした。
(9)耐熱性評価
上記平面性評価で○または△であったサンプルについて、熱処理後の透気抵抗を測定し、以下の基準で評価した。
○:熱処理後の透気抵抗が熱処理前の透気抵抗の2倍以内
×:熱処理後の透気抵抗が熱処理前の透気抵抗に比べ、2倍を超えている。
(10)細孔比表面積
日本ベル社製「ベルソープミニ」を用いJIS Z8830(2013)に準じ、下記条件にて比表面積(BET法による比表面積)を測定した。サンプルは無機粒子含有層を塗工前の多孔性ポリオレフィンフィルム0.4gをガラスセルに入れて、室温で約5時間減圧脱気した後に測定した。
・測定手法:窒素ガス吸着法
・吸着質:窒素
・死容積測定ガス:ヘリウム
・測定温度:77K
・飽和蒸気圧P0:101.3kPa
・測定相対圧P/P0:約0〜1
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂(A)として、融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を99.7質量部、β晶核剤であるN,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキシアミド(新日本理化(株)製、NU−100)を0.3質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、300℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(I)を得た。
次に、ポリプロピレン樹脂(A)として、融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を50質量部、エチレン−α−オレフィン系重合体(B)としてエチレン−オクテン−1共重合体(ダウ・ケミカル製 “Engage”(エンゲージ)(登録商標)8411、メルトインデックス:18g/10分、融点70℃)を40質量部、分散剤(C)としてCEBC(JSR(株)製 “DYNARON”(登録商標)DYNARON6200P、融点91℃)を10質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製“イルガノックス”(登録商標)1010、“イルガフォス”(登録商標)168を各々0.1質量部がこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(II)を得た。
さらに、ポリプロピレン樹脂(A)として、融点165℃、MFR=7.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンFLX80E4を70質量部、および融点162℃、MFR=0.5g/10分の住友化学(株)製ホモポリプロピレンD101を30質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製“イルガノックス”(登録商標)1010、“イルガフォス”(登録商標)168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、240℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてポリプロピレン組成物(III)を得た。
得られたポリプロピレン組成物(I)73.3質量部とポリプロピレン組成物(II)10質量部とポリプロピレン組成物(III)16.7質量部をドライブレンドしてA層用の単軸の溶融押出機に供給するとともに、ポリプロピレン組成物(I)をB層用の単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のB/A/B複合Tダイにて1/8/1の厚み比で積層し、120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。キャストシートのA層中のドメイン径は50nmであった。また、A層中のドメイン径は、A層の表層付近と中央部で共に50nm程度であり、厚み方向に均一であった。ついで、125℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5倍延伸を行った。
次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に1,500%/分の延伸速度で7倍延伸し、更に、延伸後の幅のまま163℃で5秒間熱処理した後、163℃で弛緩率17%、弛緩速度200%/分でリラックスを行い、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、多孔性ポリオレフィンフィルム(a)を得た。
続いて、得られた多孔性ポリオレフィンフィルム(a)を、二度目の縦延伸工程に導入し、150℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行い、長手方向に150℃で1.2倍延伸し、さらに端部をクリップで把持して155℃で5秒間熱処理した。その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、多孔性ポリオレフィンフィルム(b)を得た。
次に、無機粒子含有層を形成するための塗液を以下の手順で調製した。無機粒子として、白石カルシウム(株)製の炭酸カルシウム“PC”(平均粒子径3.0μm、アスペクト比4)を15質量部、結着剤として、三井化学(株)製の変性ポリエチレン水分散体(変性PE)“ケミパールS−100”(固形分濃度20質量%水希釈品)を7.5質量部、添加剤として、ダイセルファインケム(株)製のカルボキシメチルセルロース“CMCダイセル1220”を0.3質量部、ダイセルファインケム(株)製のヒドロキシメチルセルロース“HEC EP−850”を0.4質量部、イオン交換水を66.8質量部がこの比率で混合されるように計量・混合し、無機粒子含有層形成用の塗液を調製した。この塗液を多孔性ポリオレフィンフィルム(b)の片面(溶融押出時にドラムに接触した面)に、メタバー(20番)を用いて塗布し、100℃のオーブン内で1分間乾燥させて無機粒子含有層を形成し、積層多孔性フィルムを得た。
(実施例2)
実施例1で得たポリプロピレン組成物(I)73.3質量部とポリプロピレン組成物(II)10質量部とポリプロピレン組成物(III)16.7質量部をドライブレンドしてA層用の単軸の溶融押出機に供給するとともに、ポリプロピレン組成物(I)をB層用の単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のB/A/B複合Tダイにて1/8/1の厚み比で積層し、120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、128℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5倍延伸を行った。
次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に1,500%/分の延伸速度で7倍延伸し、更に、延伸後の幅のまま163℃で5秒間熱処理した後、163℃で弛緩率17%、弛緩速度200%/分でリラックスを行い、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、多孔性ポリオレフィンフィルム(c)を得た。
続いて、得られた多孔性ポリオレフィンフィルム(c)を、二度目の縦延伸工程に導入し、150℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行い、長手方向に150℃で1.4倍延伸し、さらに端部をクリップで把持して155℃で5秒間熱処理した。その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、多孔性ポリオレフィンフィルム(d)を得た。
得られた多孔性ポリオレフィンフィルム(d)の片面に実施例1と同様の方法で無機粒子含有層を形成し、積層多孔性フィルムを得た。
(実施例3)
実施例1で得たポリプロピレン組成物(I)73.3質量部とポリプロピレン組成物(II)15質量部とポリプロピレン組成物(III)11.7質量部をドライブレンドしてA層用の単軸の溶融押出機に供給するとともに、ポリプロピレン組成物(I)をB層用の単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のB/A/B複合Tダイにて1/12/1の厚み比で積層し、120℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、120℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5倍延伸を行った。
次に端部をクリップで把持して150℃で幅方向に1,500%/分の延伸速度で7倍延伸し、更に、延伸後の幅のまま162℃で5秒間熱処理した後、162℃で弛緩率17%、弛緩速度200%/分でリラックスを行い、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、多孔性ポリオレフィンフィルム(e)を得た。
続いて、得られた多孔性ポリオレフィンフィルム(e)を、二度目の縦延伸工程に導入し、150℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行い、長手方向に150℃で1.2倍延伸し、さらに端部をクリップで把持して155℃で5秒間熱処理した。その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、多孔性ポリオレフィンフィルム(f)を得た。
得られた多孔性ポリオレフィンフィルム(f)の片面に実施例1と同様の方法で無機粒子含有層を形成し、積層多孔性フィルムを得た。
(実施例4)
実施例1で得た多孔性ポリオレフィンフィルム(a)を、二度目の縦延伸工程に導入し、150℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行い、長手方向に150℃で1.6倍延伸し、さらに端部をクリップで把持して145℃で5秒間熱処理した。その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、多孔性ポリオレフィンフィルム(g)を得た。
得られた多孔性ポリオレフィンフィルム(g)の片面に実施例1と同様の方法で無機粒子含有層を形成し、積層多孔性フィルムを得た。
(比較例1)
実施例1で得た多孔性ポリオレフィンフィルム(a)について、評価を行った。
(比較例2)
実施例1で得た多孔性ポリオレフィンフィルム(b)について、評価を行った。
(比較例3)
実施例1で得た多孔性ポリオレフィンフィルム(a)の片面に実施例1と同様の方法で無機粒子含有層を形成し、積層多孔性フィルムを得た。
(比較例4)
実施例1で得たポリプロピレン組成物(I)を単軸の溶融押出機に供給し、220℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、120℃に表面温度を制御したキャストドラムにTダイから吐出してキャストシートを得た。ついで、110℃に加熱したセラミックロールを用いて予熱を行いフィルムの長手方向に5倍延伸を行った。
次に端部をクリップで把持して140℃で幅方向に1,500%/分の延伸速度で4倍延伸し、更に、延伸後の幅のまま140℃で5秒間熱処理した後、140℃で弛緩率17%、弛緩速度200%/分でリラックスを行い、その後、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、多孔性ポリオレフィンフィルム(h)を得た。
得られた多孔性ポリオレフィンフィルム(h)の片面に実施例1と同様の方法で無機粒子含有層を形成し、積層多孔性フィルムを得た。
(比較例5)
多孔性ポリオレフィンフィルムとして、透気抵抗250秒、厚み20μmのポリエチレン製多孔フィルムを用い、片面に実施例1と同様の方法で無機粒子含有層を形成し、積層多孔性フィルムを得た。
(比較例6)
多孔性ポリオレフィンフィルムとして、透気抵抗250秒、厚み20μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン製の3層積層多孔フィルムを用い、片面に実施例1と同様の方法で無機粒子含有層を形成し、積層多孔性フィルムを得た。
本発明の要件を満足する実施例では透気性、生産性に優れるだけでなく、強度、耐熱性に優れるため、蓄電デバイス用のセパレータとして好適に用いることが可能である。一方、比較例では、機械特性に劣る、または、耐熱性に劣るなど、高容量蓄電デバイス用の耐熱セパレータとして用いることが困難である。