JP6268770B2 - 細胞剥離方法 - Google Patents
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Description
ところで、最近では特に分化万能性を有するiPS細胞や間葉系に属する細胞への分化能をもつ間葉系幹細胞等を用いる再生医療等の研究開発が急速に発展しているが、このような研究開発において使用される細胞の多くは、接着培養系細胞である。
しかし、ペトリディッシュで大量培養を行うのは煩雑で手間がかかるため、今後、より効率的に大量培養するためには、閉鎖系の培養バッグを用いて培養することが望まれる。
また、接着培養系細胞の培養にあたっては、状態の良いものなど選択したもののみを培養する必要があるため、培養容器から所望の部分のみを剥がすことも求められる。
すなわち、図8に示すように、培養液2を入れたペトリディッシュ10に接着培養系細胞3を播種して増殖させた後、ペトリディッシュ10から培養液2を除去する(1)。次に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液)で培養液成分を洗浄し(2)、トリプシン溶液を注入する(3)。インキュベータ内で数分間保持することで、接着因子が分解し、接着培養系細胞3は、ペトリディッシュ10からばらばらに剥がれる(4)。最後に、ペトリディッシュ10に培養液2を注入して、トリプシンを失活させ、培養液2と共に接着培養系細胞3を回収する。
このようなトリプシン処理によれば、接触性培養細胞3を培養容器から剥がすことが可能である。
また、特許文献1に記載のセルスクレーパーを使用する方法は、開口部の大きい開放形の培養容器に適するものであり、開口部の小さい培養バッグに適用するのは、困難であるという問題があった。
このため、培養バッグを用いて培養した接着培養系細胞を、培養バッグから選択的かつ効率的に剥がすことが可能な技術が求められていた。
すなわち、本発明は、可撓性を有するフィルムからなる培養容器を用いて培養した接着培養系細胞を、損傷を与えることなく、培養容器から選択的かつ効率的に剥離可能な細胞剥離方法の提供を目的とする。
また、培養容器の外部から圧力を加える方法としては、押圧部材などによって培養容器を押圧したり、あるいは空気圧などによって培養容器を押圧したりすることもできる。
以下、本発明の実施形態について、具体的に説明する。
まず、本発明の第一実施形態の細胞剥離方法について、図1及び図2を参照して詳細に説明する。
図1の(1)において、可撓性を有するフィルムからなる培養容器1(培養バッグ)に培養液2と接着培養系細胞3が封入されて積載台4に載置され、押圧部材5が培養容器1の上方に配置されている様子が、模式的に示されている。培養容器1内のフィルムの底面には、接着培養系細胞3が付着して、培養されている。
次に、図1の(2)に示すように、押圧部材5により、培養容器1を上方から押圧する。このとき、培養容器1内のフィルムの上面を、接着培養系細胞3に接触させて、接着培養系細胞3に対して接着培養系細胞3が損傷しない程度の圧力を加える。
そして、図1の(3)に示すように、押圧部材5を培養容器1から離すと、接着培養系細胞3が培養容器1内のフィルムの底面から剥がれる。
これに対して、上述した本実施形態の細胞剥離方法によれば、培養バッグ内に付着している接着培養系細胞3を、損傷させることなく、ある程度狙った範囲のものを選択的かつ効率的に剥離することが可能である。
さらに、培養容器1には、培養液2及び接着培養系細胞3の出し入れを行うためのポートが一又は二以上備えられている。
接着培養系細胞3は、培養容器1内に付着して増殖するものであれば特に限定されないが、たとえばiPS細胞や間葉系幹細胞等を用いることができる。
積載台4は、その上面に培養容器1を載置する平面の台である。積載台4には、例えば培養容器1を積載台4に固定するための固定具など、培養容器1を定置させるための各種構成を設けることができる。
この押圧部材5としては、例えば図2の(A)に示すように、その底面が平面である立体形状のものを用いることができる。このような底面が平面の押圧部材5−1を用いると、平面により押圧される培養容器1内の一定領域におけるフィルムに付着した接着培養系細胞3を、選択的かつ効率的に剥離することができる。このような立体形状としては、例えば直方体、立方体、円柱、円錐、多角柱などの形状を挙げることができる。
さらに、押圧部材5として、例えば図2の(C)に示すように、ローラ5−3を用いることもできる。すなわち、培養容器1を上からローラで押圧して、接着培養系細胞3が付着する培養容器1のフィルムの面に対向する培養容器1のフィルムの面を、接着培養系細胞3に接触させて接着培養系細胞3に圧力を加えながら、ローラ5−3を積載台4に平行に移動させることで、培養容器1内のより広い一定領域におけるフィルムに付着した接着培養系細胞3を、選択的かつ効率的に剥離することができる。特に、培養容器1内における全ての接着培養系細胞3を効率的に剥離するには、押圧部材5として、ローラ5−3を用いることが適している。
次に、本発明の第二実施形態の細胞剥離方法について、図3を参照して説明する。本実施形態は、積載台4として穴4−1を備えたものを使用することにより、剥離対象の接着培養系細胞3をより選択しやすくしたものである。その他の点については、第一実施形態と同様であり、培養容器1、培養液2、接着培養系細胞3、及び押圧部材5については、第一実施形態と同様のものを用いることができる。
このように、本実施形態の細胞剥離方法によれば、剥離したくない接着培養系細胞3が、積載台4の穴4−1の上方に位置するように、培養容器1を積載台4に配置することで、剥離する接着培養系細胞3をよりきめ細かく選択することが可能になる。
また、本実施形態において押圧部材5を用いることなく、例えば空気圧や液圧等によって、穴4−1の上に配置された領域を含む範囲を押圧することもできる。
次に、本発明の第三実施形態の細胞剥離方法について、図4を参照して説明する。本実施形態の細胞剥離方法は、培養容器1内を陰圧にすることによって、接着培養系細胞3が付着する培養容器1のフィルムの面に対向する培養容器1のフィルムの面を、接着培養系細胞3に接触させて接着培養系細胞3に圧力を加えている。培養容器1、培養液2、接着培養系細胞3、及び積載台4については、第一実施形態と同様のものを用いることができる。
次に、図4の(2)に示すように、培養容器1から培養液2を排出し、さらにポンプ等によって培養容器1内の空気を吸引して、培養容器1内を陰圧にする。これによって、接着培養系細胞3が付着する培養容器1のフィルムの面に対向する培養容器1のフィルムの面を、接着培養系細胞3に接触させて接着培養系細胞3に圧力を加える。
さらに、図4の(3)に示すように、培養容器1内に培養液2を注入することによって、接着培養系細胞3を培養容器1の内面から剥離する。
本実施形態の細胞剥離方法によれば、培養容器1内の接着培養系細胞3を損傷することなく、容易かつ効率的に剥離することが可能となる。
上記第一実施形態の細胞剥離方法により、培養バッグ1から接着培養系細胞3を剥離する実験を行った。
培養バッグ1には、ポリエチレン(PE)製で、サイズが100mm×225mm、フィルム厚が0.1mmのものを使用した。この培養バッグ1内にフィブロネクチンをコーティングした。
次いで、フィブロネクチン溶液を全量排出した後、PBSで培養容器1の内面を1回洗浄した(PBS100mlを培養バッグの内面全体に浸らせてすぐに排出した)。液の出し入れは、培養バッグ1に備えられているポートにシリンジを接続して行った。
培養は、CO2インキュベータにより、37℃、CO2濃度5%、湿度97%の条件で行った。
したがって、第一実施形態の細胞剥離方法によれば、培養バッグ内に付着している接着培養系細胞を、選択的かつ効率的に剥離できることが明らかとなった。
上記第二実施形態の細胞剥離方法により、培養バッグ1から接着培養系細胞3を剥離する実験を行った。培養容器1、培養液2、及び接着培養系細胞3は、実施例1と同じものを使用した。本実施例では、穴4−1を備えた積載台4’に培養バッグ1を載置し、ローラ5−3’により培養バッグ1を押圧しならが、ローラ5−3’を積載台4’に平行に回転移動させた。このローラ5−3’として、以下のように、一定間隔毎に培養バッグ1を押下できるものを使用した。
したがって、第二実施形態の細胞剥離方法によれば、培養バッグ1内に付着している接着培養系細胞3を、よりきめ細かく選択的に剥離できることが明らかとなった。
本実施形態の細胞剥離方法により剥離された接着培養系細胞に損傷がなく、培養可能なものであることを確認するために、従来のセルスクレーパーを用いて剥離した後に培養した細胞と、本実施形態の細胞剥離方法により剥離した後に培養した細胞との培養状態を比較確認するための培養試験を行った。
培養容器には、ファルコン 組織培養用ディッシュ(φ6cm)を使用し、培養液には、FBS(牛胎児血清)10%入りのDMEM培地4mlを使用した。また、接着培養系細胞には、CHO細胞を使用し、播種密度を1×105cells/mlとして、CO2インキュベータを用いて、37℃、CO2濃度5%、湿度97%の条件で培養を行った。継代間隔は72時間とし、継代は以下の手法で行った。
実施例2において剥離された接着培養系細胞を、コニカルチューブに回収して極少量採取し、血球計数盤を使用して細胞数をカウントした。カウントした値に基づいて、細胞密度が1×105cells/mlになるように培養液(FBS10%入りのDMEM培地)を注入した。そして、得られた細胞懸濁液を新たな培養容器に4ml播種し、72時間インキュベータ内に保管した。
これらを比較すると、ほぼ同等の細胞増殖率と、ほぼ同等の接着率(細長い細胞が接着しているもの)が得られていることが分かる。
したがって、本発明の細胞剥離方法によって剥離された接着培養系細胞は、細胞を損傷することなく、剥離できたものであることが明らかとなった。
例えば、押圧部材を用いる代わりに、押圧部材を用いた場合と同程度の空気圧や液圧を、培養容器の外部から接着培養系細胞に対して加えることにより、培養容器から接着培養系細胞を剥離するなど適宜変更することが可能である。
2 培養液
3 接着培養系細胞
4 積載台
4’ 積載台(パンチングメタル板)
4−1 穴
5 押圧部材
5−1 底面が平面の押圧部材
5−2 底面が曲面の押圧部材
5−3 ローラ
5−3’ スポンジ付きローラ
10 ペトリディッシュ
Claims (7)
- 可撓性を有するフィルムからなる培養容器に付着させて培養した接着培養系細胞を、前記培養容器から剥離する細胞剥離方法であって、
前記接着培養系細胞が付着する前記培養容器のフィルムの面に対向する前記培養容器のフィルムの面を、前記接着培養系細胞に接触させて前記接着培養系細胞に圧力を加えることにより、前記接着培養系細胞を前記培養容器から剥離する
ことを特徴とする細胞剥離方法。 - 前記培養容器に付着させて培養した前記接着培養系細胞に、前記培養容器の外部から押圧部材で圧力を加えることにより、前記接着培養系細胞を前記培養容器から剥離する
ことを特徴とする請求項1記載の細胞剥離方法。 - 前記押圧部材として、底面が平面のものを用いて、前記培養容器の一定領域又は全領域に対して圧力を加える
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞剥離方法。 - 前記押圧部材として、底面が曲面のものを用いて、前記培養容器の一定領域に対して圧力を加える
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞剥離方法。 - 前記押圧部材として、ローラを用いて、前記培養容器の一定領域又は全領域に対して圧力を加える
ことを特徴とする請求項2に記載の細胞剥離方法。 - 前記培養容器を積載する積載台として、一又は二以上の穴が形成された積載台を用い、
前記培養容器に付着させて培養した前記接着培養系細胞のうち、剥離したくない接着培養系細胞が付着している前記培養容器の領域を前記穴の上に配置し、前記穴の上に配置された前記領域を含む範囲を押圧し、前記領域に付着している接着培養系細胞を剥離することなく、前記領域以外の押圧した範囲に付着している接着培養系細胞のみを選択的に剥離する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の細胞剥離方法。 - 前記培養容器内から培養液を排出し、次いで前記培養容器の空気を吸引して前記培養容器内を陰圧にすることにより、前記接着培養系細胞が付着する前記培養容器のフィルムの面に対向する前記培養容器のフィルムの面を、前記接着培養系細胞に接触させて前記接着培養系細胞に圧力を加え、
前記培養容器内に培養液を注入して、前記接着培養系細胞を前記培養容器から剥離する
ことを特徴とする請求項1記載の細胞剥離方法。
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