JP6267041B2 - 工作機械の熱変位補正装置 - Google Patents
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Description
この熱による機械位置の変位を除去するため、変位センサや温度センサを用い検出変位や検出温度に基づいて指令位置を補正する技術や、送りねじに初期張力を与え、熱による膨張の影響を受けない構造が用いられている。
この内、指令位置を補正する技術に関しては、大きく2種類に分類することができる。1つは、タッチプローブを使用するなどして定期的に実際の熱変位を検出して補正を行うものである。もう1つは、センサの検出値や工作機械の稼動状態から熱変位量を予測してリアルタイムに補正を行うものである。これらは精度と時間がトレードオフの関係にある。そこで、基本的には熱変位量を予測してリアルタイムに補正を行うが、適宜実際の熱変位量を検出し、熱変位補正量を修正することで補正全体の精度を向上させる方法が考えられている。
送り軸の全ストロークを有限個に分割した各区間について、送り軸の軸移動による熱変位量を各区間ごとに推定する。そして、各区間の熱変位量を基準点から補正位置まで加算することによって、送りねじの各位置における熱変位の分布を推定することができ、送り軸の位置によらず精度良く補正を行うことができる。また、主軸や主軸モータの発熱による熱変位も加味して精度良く熱変位を補正することもできる。さらに、推定した熱変位量(補正量)と実際の機械位置とのずれ量(補正誤差)に基づいて、熱変位量計算式における発熱係数を修正して、より正確な補正を行うものである。
位置検出センサにより初期位置を予め記憶しておき、次に信号が出力された位置を実位置として検出する。そして、初期位置と実位置の検出値の差をもとに誤差補正率を算出し、熱変位補正量を修正する。周囲環境の温度変化など機械の動作によらない熱変位も考慮して補正を行うものである。
工作機械の駆動開始後に熱変位量を実測し、その実測値により熱変位補正量の算出値を修正する。具体的には、実測値から算出値を引いた差や、実測値と算出値との比を補正値として算出し、算出値に加算または乗算することで熱変位量の修正を行う。熱変位量の算出値を実測値に基づいて修正することにより、個々の工作機械の特性や使用環境に応じて正確な熱変位量を算出するものである。
さらに特許文献1では、補正誤差を用いて熱変位量計算式の発熱係数を修正する方法が開示されているが、計算式には他にも係数(放熱係数や隣接区間からの熱伝導を算出する熱伝導係数)が含まれるため、補正の精度をさらに向上させるためには、発熱係数を修正しただけでは不十分な場合がある。
そこで、本発明の目的は、位置検出センサによる検出結果が適切でなければ再検出を行い、正確に検出された熱変位量の実測値(実測熱変位量)から熱変位補正量を修正することによって、周囲環境の温度変化など機械動作によらない熱変位も考慮して補正することが可能な工作機械の熱変位補正装置を提供することである。
請求項3に係る発明は、前記閾値は、熱変位量を加算することを特徴とする請求項2に記載の工作機械の熱変位補正装置である。この発明は熱変位が大きい加工でも閾値を大きくする必要がなく、誤検出が少なくなる効果を奏する。
請求項4に係る発明は、前記再検出手段は、検出位置をずらして検出を行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の工作機械の熱変位補正装置である。この発明は切粉を噛み込んでうまく検出ができなかったとしても、再検出時に検出できる効果を奏する。
請求項6に係る発明は、前記補正量修正手段は、実位置における補正誤差から実位置における前記熱変位量を減算したものを、前記熱変位量に加算または減算して前記熱変位量を増加または減少させることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の工作機械の熱変位補正装置である。この発明は差分によって補正量の修正を行うことができるという効果を奏する。
1.<位置検出センサ>(送り軸の位置を検出)
図1は、位置検出センサ1の設置位置の例を示す概略図である。図1に示すように、位置検出センサ1は主軸2に保持されており、テーブル3に固定されたワーク4や治具5に接触した際に接触信号を発生する。例えば位置検出センサ1として、接触式であるタッチプローブを用いる。工作機械の送り軸の移動に伴いタッチプローブも移動するため、最適な位置と方向から検出を行うことができる。
2.<熱変位量の推定と補正>
2.1<区間の設定>
まず、熱変位量の算出と補正について説明する。送り軸の熱変位量の推定は、特許文献1(特許第3405965号、特開2002−18677号公報)に開示された方法と同様である。すなわち、まず、図3のように、送り軸を構成する送りねじ8の全長(ストローク)を、固定ベアリングの位置を基準位置7として、複数に分割した区間(区間0〜区間X)を設定する。
送りねじ8の全長をX+1個の有限個の区間に分割したとき、送り軸の熱変位によって生じる位置Xにおける熱変位量(送り軸部熱変位量)(時刻nにおける区間Xでの送り軸部熱変位量)LnXは、(数1)式のように区間毎の熱変位量を基準位置7から区間Xまで加算することによって求められる。なお、δnIは任意の区間Iにおける熱変位量である。
LnX=δn0+δn1+・・・+δnI+・・・+δnX (数1)
LnX:時刻nにおける区間Xでの送り軸部熱変位量
次に、熱変位の補正について説明する。熱変位の補正は、短い所定周期毎(例えば4ms毎)に図4に示すフローチャートのように行う。まず、送り軸の位置を検出し、メモリに格納する。検出した送り軸の位置に対応する区間(「I」とする。)の「修正後の送り軸部熱変位量LnI’」をメモリから読み出し、それらを打ち消す量を熱変位補正量とする。つまり、熱変位補正量=−修正後の送り軸部熱変位量LnI’である。したがって、送り軸の位置指令に対して熱変位補正量を加えることによって補正を行う。
●[ステップSA01]送り軸の位置を検出し、メモリに格納する。
●[ステップSA02]検出した位置に対応する区間Iの、修正後の送り軸部熱変位量LnI'をメモリから読み出す。なお、修正後の送り軸部熱変位量LnI'は後述して説明する。
●[ステップSA03]修正後の送り軸部熱変位量LnI'を打ち消す量を熱変位補正量とし、補正手段に送る。
●[ステップSA04]補正処理を行い、処理を終了する。
熱変位量の算出は、所定周期毎(例えば1秒毎)に図5に示すフローチャートのように行う。図5に示すフローチャートを各ステップに従って説明する。
●[ステップSB01]図4の処理でメモリに格納した送り軸の位置を過去1秒間分についてメモリから読み出す。
●[ステップSB02]メモリから読み出した送り軸の位置に基づいて各区間における平均移動速度を求める。
●[ステップSB03]各区間の平均移動速度に基づいて各区間における熱変位量を求め、不揮発性メモリに格納する。
●[ステップSB04](数1)式を用いて、基準位置から各区間までの熱変位量を加算し、各区間における送り軸部熱変位量LnIを求め、メモリに格納する。例えば、区間0の送り軸部熱変位量はLn0=δn0、区間1の送り軸部熱変位量はLn1=δn0+δn1、区間2の送り軸部熱変位量はLn2=δn0+δn1+δn2というようにメモリに格納する。
●[ステップSB06]各区間について、送り軸部熱変位量LnIと誤差補正率Eとを用いて、送り軸部熱変位量を(数2)式によって修正した各々の修正後の送り軸部熱変位量LnI'をメモリに格納し、処理を終了する。
LnI'=LnI*E (数2)
次に、誤差補正率Eの算出方法について説明する。誤差補正率Eの算出は、作業者がMコードを用いて加工プログラム中の任意のタイミングで指令するか、もしくは加工後の任意のタイミングで専用画面に検出値を入力することにより行い、図6に示すフローチャートに基づいて行う。図6に示すフローチャートを各ステップに従って説明する。
●[ステップSC01]Mコードによる指令から、次の処理について判断を行う。引数で基準位置が指令されていればSC02に移行し、引数で実位置が指令されていればSC04に移行し、引数で誤差補正率の修正が指令されていればSC07に移行する。条件の判断はMコードによる指令に限らず、専用画面に用意された各項目にカーソルを移動することを条件にすることもできる。
●[ステップSC03]基準位置の検出値X1を不揮発性メモリに格納する。なお、この基準位置は、熱変位補正が行われた状態でも行われていない状態でもよい。格納が完了したら処理を終了する。
●[ステップSC04]測定プログラムを実施して位置検出センサに実位置を検出させる。検出時の位置指令は、基準位置検出時と同じにする。もしくは作業者が手動操作で送り軸を動かして位置検出センサに実位置を検出させて、専用画面に検出値を入力する。
閾値Tは(数3)式のように、熱変位量が含まれる。ここでα、βはあらかじめ設定した係数であり、αは切粉の大きさによって決まる係数、βは熱変位補正の不正確さの係数である。βには、熱変位補正が行われていない場合は1を格納し、環境変化が少なく熱変位補正が正確に行われている場合は0に近い値を格納する。また、LnS2は、検出時の実位置が属する区間(S2とする)における熱変位量である。
T=α+β*LnS2 (数3)
(数3)式の意味について、図7を用いて説明する。符号100は|X2−X1|の時間経過をプロットしたグラフである。加工によって発生した熱変位の変化に合わせて|X2−X1|は増減する。グラフにおいて符号101と符号102の検出時に、切粉を噛み込んで|X2−X1|が急激に大きくなっており、これらのタイミングでミス値であると判定を行うことが望ましい。図7(a)は閾値が一定値の場合である。符号102がミス値と判定するように閾値を設定すると、符号101の判定が行われない。逆に符号101がミス値と判定するように閾値を設定すると、正常な検出時にミス値と判定されてしまう。(b)は閾値に熱変位量を含んだ場合である。熱変位に合わせて閾値が変化するため、符号101と符号102の両方でミス値を判定することができる。
再検出の際、切粉を避けて検出するように、予め設定しておいた値γを測定プログラム中の指令位置に加算し、検出位置をずらす。γは切粉の大きさによって決定する。
なお通常、実位置の検出が終わった直後に、誤差補正率の修正の指令を行う。
●[ステップSC07]基準位置の検出値X1、実位置の検出値X2と熱変位量LnS2と誤差補正率E2を不揮発性メモリから読み出す。
ε=X2―X1+LnS2*E2 (数4)
●[ステップSC09]実位置における熱変位量LnS2と補正誤差εから、修正後の誤差補正率E’を(数5)式により求める。
E’=ε/LnS2 (数5)
(数4)式と(数5)式の意味について、図8を用いて説明する。簡略化のために、基準位置では検出値X1と検出時の基準位置が属する区間(S1とする)における熱変位量LnS1が0、実位置の誤差補正率E2は1だったとする。検出値をプロットしたところ103のグラフになったとする。検出値は、105で表される熱変位量分だけ補正した後の値なので、実際の熱変位量のグラフは104で表される。とりわけ、実位置での実際の熱変位量が(数4)式の補正誤差εである。実位置での修正後の熱変位量LnS2*E’が補正誤差εと同じになるように、修正後の誤差補正率E’を求めたものが(数5)式である。
ステップSC09のように位置検出センサで検出した実測熱変位量に基づいて誤差補正率Eを更新するため、周囲環境の温度変化など機械の動作によらない熱変位も考慮した高精度な補正が可能となる。
また、2.4では誤差補正率Eは、(数5)式のように補正誤差εと実位置における熱変位量LnS2の比から算出されているが、(数6)式のように差分から算出してもよい。
E’=ε―LnS2 (数6)
このとき2.3の(数2)式は(数7)式に変更して用いる。
LnI'=LnI+E (数7)
工作機械の稼動状態から熱変位量を予測して補正を行うため、定期的に位置センサで熱変位を検出して加工時間を延ばすのではなく、周囲環境が変化する要所で検出を行うだけで、リアルタイムに正確な補正を行う。
また、基準位置の検出を自由なタイミングで行うことができ、任意の機械状態を基準にして熱変位補正量を修正することができる。例えば、加工を行っていなくても周囲環境の温度変化などにより熱変位は発生するため、加工直前に基準位置を検出することで、加工前に発生していた熱変位の影響を低減することができる。
さらに、正確な検出値を用いて熱変位補正量を修正することができる。閾値によってミス値かどうかを判断する場合、熱変位によって検出値が変化するため、閾値は一意に決定するのが難しいが、本発明では一定値で設定することができる。ミス値と判断された場合には検出位置をずらして再検出を行うため、切粉を噛み込んだ場合でも次は正確に検出できる可能性が高い。
2 主軸
3 テーブル
4 ワーク
5 治具
6 ナット
7 基準位置
8 送りねじ
10 数値制御装置
11 プロセッサ
12 ROM
13 RAM
14 SRAM
15 インタフェース
16 PMC
17 I/Oユニット
18,19,20 インタフェース
21 バス
30,31,32 軸制御回路
40,41,42 サーボアンプ
50,51,52 サーボモータ
60 スピンドル制御回路
61 スピンドルアンプ
62 スピンドルモータ
63 ポジションコーダ
65 時計回路
Claims (6)
- 工作機械の熱変位量を算出し、該熱変位量を打ち消す量を熱変位補正量とし、送り軸の位置指令に対して該熱変位補正量を加えることによって補正を行う工作機械の熱変位補正装置であって、
工作機械の可動部の位置を検出する位置検出手段と、
前記位置検出手段により第1の時点での検出結果を基準位置として記憶する基準位置記憶手段と、
前記位置検出手段により第2の時点での検出結果を実位置として記憶する実位置記憶手段と、
前記実位置と前記基準位置とに基づいて、閾値を用いて前記実位置が正しい検出にもとづくものであるか否かを判断する検出結果判断手段と、
前記検出結果判断手段により検出結果が正しい検出にもとづくものではないと判断された場合に、前記位置検出手段とは異なる検出の仕組みを持つ位置検出手段に切り替えることによって位置の再検出を行う再検出手段と、
前記検出結果判断手段により検出結果が正しい検出にもとづくものと判断された場合に、前記実位置と前記基準位置の差から算出される実測熱変位量と、前記熱変位量を比較して、実位置における補正誤差を算出する補正誤差算出手段と、
前記補正誤差算出手段が算出した補正誤差に応じて前記熱変位補正量を修正する補正量修正手段と、
を備えたことを特徴とする工作機械の熱変位補正装置。 - 前記検出結果判断手段は、前記実位置と前記基準位置との差が前記閾値以内であると、検出結果が正しい検出にもとづくものであると判断することを特徴とする請求項1に記載の工作機械の熱変位補正装置。
- 前記閾値は、熱変位量を加算することを特徴とする請求項2に記載の工作機械の熱変位補正装置。
- 前記再検出手段は、検出位置をずらして検出を行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の工作機械の熱変位補正装置。
- 前記補正量修正手段は、実位置における熱変位量に対する補正誤差の割合から誤差補正率を求め、該誤差補正率を前記熱変位量に乗算または除算して前記熱変位量を増加または減少させることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の工作機械の熱変位補正装置。
- 前記補正量修正手段は、実位置における補正誤差から実位置における前記熱変位量を減算したものを、前記熱変位量に加算または減算して前記熱変位量を増加または減少させることを特徴とする請求項1〜4の何れか1つに記載の工作機械の熱変位補正装置。
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