JP6265089B2 - 自動車用足廻り部品の疲労強度向上方法 - Google Patents
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Description
自動車用の足廻り部品は大別すると以下のようなタイプがある。
1)1枚の金属板をプレス加工により作製するタイプ(特許文献1:特開2002-205520号公報)。
2)プレス加工により作製した車両上方側と下方側のコの字断面を有する2部品を組み合わせ、閉じた断面とするタイプ。2部品は一般的にアーク溶接により接合される。(特許文献2:特開2013-82341号公報)
3)パイプにより作製された閉じた断面形状を有するタイプ(特許文献3:特開平8-25929号公報)。
4)アルミ合金などを素材とし、押出、鍛造によって作製されるタイプ。(特許文献4:特開平5-162522号公報)
しかしながら、これらは工数(コスト)がかかり、適切な疲労強度向上の手段がないのが現状である。
前記断面の少なくとも一辺が開口する部品の一方を他方の部品の開口部に挿入した2部品の重ね隅肉溶接を仮定した解析モデルについて、FEMによる剛性解析を行って所定の荷重を付加したときに溶接部に発生する応力を演算する応力演算工程と、該応力演算工程で最大応力が発生している溶接部のある接合面を特定する最大応力接合面特定工程と、該最大応力接合面特定工程で特定された接合面を含む接合面についてアーク溶接を行う溶接工程とを備え、
該溶接工程は、前記最大応力接合面特定工程で特定された接合面の一部又は全部について、一方の部品における縦壁部の先端部に内側に凹む段部を設け、該段部よりも先端側を他方の部品の開口部に嵌合させ、前記一方の部品の段部と前記他方の部品の縦壁部の先端とをアーク溶接にて接合し、
前記アーク溶接後のアーク溶接止端部を含む前記嵌合部の断面形状が、前記一方の部品における縦壁部外面が内側に凹みを開始する位置と前記他方の部品における開口部縦壁部外面の先端を結ぶ仮想線より内側に凹んだ形状とし、
溶接ビードの高さhを、
下記の(1)式のビード高さhに上板の板厚t 2 を代入して求めた、フィレットに応力が集中する場合に相当する従来の段部のない重ね隅肉溶接の応力集中係数Ktよりも、ノッチを有する場合に相当し前記内側に凹んだ形状となる場合の(2)式によって求まる応力集中係数Ktが小さくなる溶接ビード高さとすることを特徴とするものである。
一方の部品における縦壁部の先端部に内側に凹む段部を設け、該段部よりも先端側を他方の部品の開口部に嵌合させ、前記他方の部品の縦壁部の先端と前記一方の部品の段部とをアーク溶接にて接合するようにしたので、溶接金属の終端部と部品によって形成される形状部の応力集中係数が抑制される形状となるため、溶接部からの破壊を防ぐことができ、疲労強度を向上させることができる。
本発明の一実施の形態に係る自動車用足廻り部品について、以下、具体的に説明する。
本発明が対象としている自動車用足廻り部品1は、例えば図1に示すサスペンションアームのように、プレス加工により作製した断面の少なくとも一辺が開口する2部品(上側部品1a、下側部品1b)を、開口部を対向させて組み合わせて接合してなるものである。
サスペンションアームは、車体から腕のように伸びて、ホイールの動きをコントロールするサスペンション部品であり、例えばブレーキで停止する際に車体の前後方向に作用する荷重が最大荷重となる。
このような荷重が繰り返し作用するため、2部品の溶接部の疲労強度が問題となる。
重ね隅肉溶接の場合は、図3(a)に示すように、金属板が重なる部分の断面形状は下側部品1bの金属板の表面と上側部品1aの金属板の板厚エッジにより直角形状となる(図3(a)の点線)。溶接する部位は直角部の中心(角部)となり、溶接肉盛は、下側部品1bの金属板の表面部との交点1d、上側部品1aの金属板の表面部との交点1cで溶接止端となる。このとき、双方の溶接止端の距離を考えると必然的に少なくとも上側部品1aの板厚分以上の長さを有する。また、この形状は、板幅方向に厚みが異なり、フィレットにより連結される部材とみなすことができて、当該フィレットに応力が集中する場合の応力集中係数に相当する。
応力集中係数Ktの算出式は、重ね隅肉溶接の場合は下式(1)となり、段差を設けた溶接の場合は下式(2)となる。なお、各式の記号の意味は式の後のなお書き及び図21に記載の通りである。
一方、溶接金属の濡れ性や肉盛量が同じであれば、溶接部の形状が溶接金属の溶融固化後の形状に影響し、図21(a)の従来のかさね隅肉溶接に比べて、図21(b)の段差7を設けた本発明は、明らかにビード高さhが小さい。従って、本発明は従来の重ね隅肉溶接より、応力集中係数が緩和され、疲労強度が向上するわけである。
よって、従来の重ね隅肉溶接継手と比較して、本発明の溶接継手部の応力集中係数は低いため、疲労強度が向上する。
従来の重ね隅肉溶接では、図3(a)に示すように、溶接する部位は上側部品1aの板厚と下側部品1bの表面が交わる直角部の中心(角部)であり、溶接止端は、上側部品1aの金属板表面との交点1c、下側部品1bの金属板表面との交点1dとなる。従って、重力が作用して溶接の溶鋼は下側部品1bの金属板表面に流れ易い状態であり、溶接条件や金属板表面状態のわずかなバラツキがあると、溶接の溶鋼の流れが変わり易くて溶接ムラを発生させやすかったわけである。
しかし、他方の溶接止端は、従来の重ね隅肉溶接の場合、下側部品表面であって、亀裂の伝播方向が下側部品表面にほぼ平行であり、疲労の繰り返し応力の方向とはほぼ垂直の関係となり、亀裂が伝播しやすい。これに比べて、段差部7を設けた本発明では、下側部品の表面が傾斜しており、傾斜した下側部品表面にほぼ平行に亀裂が伝播するため、疲労の繰り返し応力の方向とは傾斜した関係となり、応力が緩和されて亀裂が伝播しにくくなる。その結果、本発明は、従来の重ね隅肉溶接より疲労強度が向上するわけである。
すなわち、上側部品1aの形状は、従来例と同じにして下側部品1bに段部7を設けると、必然的に下側部品1bの断面が大きくなる。同一のモーメントが負荷されたときに同じ位置の断面における最大発生応力は断面係数が大きいほうが小さくなる。断面係数は断面の形状によって決まる数値で同じ板厚であれば断面が大きい方が断面係数は大きく、それ故、本発明例では断面係数が大きくなり、最大発生応力が小さくなるため剛性が向上する。
一方の部品の段部7と他方の部品の縦壁部の先端とをアーク溶接にて接合した際、
アーク溶接後の溶接止端を含む嵌合部の断面形状について、図4に示すとおり、一方の部品における縦壁部外面が内側に凹みを開始する位置と前記他方の部品における開口部縦壁部外面の先端を結ぶ仮想線より内側に凹んだ形状とするとよい。
これは、前述の板幅方向にノッチを有する部材に応力集中する場合に相当し、従来のフィレットにより連結される部材に応力集中する場合に比べて、ビード高さhが小さくて応力集中係数が低くなり、疲労強度が向上するためである。
なお、本発明においては、段部7の高さ(深さ)Dが相手側部品(上側部品1a)の板厚と同等(D=t2)である必要はなく、段部7の高さ(深さ)Dが相手側部品(上側部品1a)の板厚t2の半分でも所定の効果が得られることから、0.5*t2≦D<t2としてもよい。これは、段部7がある一定量以上の高さで設定してあれば、重ね隅肉溶接の溶接金属よりは確実に形状が緩和されるためである。かつ、段部7の高さをt2以上とすると上側部品1aの成形や上側部品1aと下側部品1bの組み立てが難しくなるので好ましくない。
この意味で、距離L1は、傾斜部にかからない範囲であればより短い方が好ましい。
本発明の実施の形態2に係る自動車用足廻り部品の疲労強度向上方法は、自動車用足廻り部品を対象として、図6に示すように、応力演算工程(S1)と、最大応力接合面特定工程(S3)と、溶接工程(S5)とを備えている。
以下、具体的に説明する。
応力演算工程は、断面の少なくとも一辺が開口する部品(下側部品)の一方を他方の部品(上側部品)の開口部に挿入して2部品を溶接した解析モデルについてFEMによる剛性解析を行って、所定の荷重を付加したときに溶接部に発生する応力を演算する工程である。
図7は解析モデルの説明図であり、図7(a)が全体形状を示し、図7(b)が図7(a)の矢視A−A断面を示している。
解析モデル3は、図7に示すように、下側部品モデル3bを上側部品モデル3aの開口部に嵌合させ、接合部5について重ね隅肉溶接を仮定したものであり、この解析モデル3で剛性解析を行う。
図8は解析モデル3の拘束条件、荷重条件を説明する説明図である。前述したように、車体の前後方向に作用する荷重が最大荷重となるので、前後方向の入力荷重に耐えうる性能が認められればよい。前後方向のうち、ブレーキで停止することのほうが多いので、図8に示すように、サスペンションアームの車体取付側を拘束点1,2とし、車輪取付側を荷重の入力点とした。また、実際の車体への取付はゴム製のブッシュを介して取付られるが、今回の解析は拘束点と周辺の部品の要素を剛体結合とし、より厳しい条件とした。
設定した条件による剛性解析を実施して応力を演算する。
解析結果を図9に示す。図9は板表面側の最大主応力分布を示している。
最大応力接合面特定工程は、応力演算工程で応力が最も高いとされた溶接部のある接合面(最大応力接合面)を特定する工程である。
本発明はアーク溶接と母材との結合部での疲労特性向上を狙っているため上側部品モデル3a及び下側部品モデル3bのエッジ部で最大主応力が最も大きいメッシュ(要素)を特定し、当該メッシュの存在する面が最大応力接合面となる。本例では、最大応力接合面はB面となる。
溶接工程は、最大応力接合面特定工程で特定された接合面(B面)を含む全ての接合面についてアーク溶接で線状に溶接する工程である。詳細は図2とともに前述したとおりである。
B面のみに段部を設けたケース、B面の一部、具体的には最大メッシュを中心に70mmの範囲に段部を設定して段部の部分と通常部分をなだらかにつないだ形状としたケース、全面に段部を設けたケースでの最大主応力を比較した。結果を図10に示す。
図10に示されるように、従来の重ね隅肉溶接と比較するといずれのケースも最大主応力が小さくなっており、これにより疲労強度が向上し、本発明の効果が確認された。また、接合面の全体に段部を設けると最大主応力の低下効果は最も高いが、B面全体やB面の一部に段部を設けたケースでもほぼ同等の効果が得られている。
車両に用いる部品の耐久性能の評価には、実際の車両に部品を組み込んで車体全体として行う評価、部品単位での評価、さらに小さい単位の材料(テストピース)の基礎疲労試験での評価などがある。
今回、発明者らは、試験片による基礎疲労試験を行い、本発明の性能を評価した。
980MPa級熱延鋼板を供試材として従来の重ね隅肉継手と本発明の段部を形成した継手の試験片で静的引張り試験と片振り平面曲げ疲労試験を実施した。
表1に供試材の化学成分を、表2に機械的特性値をそれぞれ示す。
板厚2.4mmの供試材から250mm×175mmの寸法の鋼板を切り出した。
このとき、本発明の継手における上側部品の先端と段部傾斜下部との距離L1、下側部品の上側部品への挿入長さL2、および段部の深さD、段部の傾斜角度θを種々変化させて、従来の重ね隅肉溶接継手とともに疲労強度を比較した。表3に試験片の仕様を示す。
これらの継手より幅30mmの短冊を切り出し、それらの短冊からJIS5号引張り試験片と平面曲げ疲労試験片を作製した。
一方、通常の重ね隅肉継手は、図11(b)に示すように、供試材から切り出した鋼板どうしを重ね代15mmで重ね合わせ、MAGアーク溶接を行って作製した。重ね隅肉継手からもJIS5号試験片と平面曲げ疲労試験片を作製した。図12に、平面曲げ疲労試験片9(テストピース)の形状を示す。長さ90mm、幅30mmで、中央部の幅は22mmとした。
疲労試験は片振り平面曲げで行った(図13参照)。試験機は東京衡機製PBF-30を使用し、試験片9を溶接ビードが下側を向くように試験機に設置した。このとき、下板を試験機の計測スイングアーム側に固定し、下板の板厚中央が曲げ中立面となるようにした。疲労試験のデータは、負荷するモーメントと試験片板厚および板幅(上板と下板の平均値)から算出される鋼板表面の応力により整理した。応力比0(片振り)、試験周波数20Hzとし、試験は最長500万回で打ち切った。
また、溶接部が中央部にくるようにJIS5号引張試験片に加工して、静的な引張り強度も測定した。
図14に示されるように、重ね隅肉溶接継手である従来例(No1)に比較して、本発明例であるNo2〜No8はいずれも疲労寿命が向上している。
L1の影響について、L1以外の条件が同じNo2、5を比較すると、L1がt2よりも小さいNo2では、L1がt2より大きいNo5に比較して疲労寿命が長い。
L2の影響について、L2以外の条件が同じNo2〜No4を比較すると、L2が最も長いNo2の疲労寿命が長い。
Dの影響について、Dがt2に近い値のNo2と、Dがt2の半分であるNo8を比較すると、No2の方が疲労寿命が長い。
θの影響について、θ以外の条件が同じNo2とNo7を比較すると、θを大きくしたNo2の方が傾斜部の傾斜がなだらかなため疲労寿命が長い。
以上から、Dが反対側部品の板厚t2に近い値となり、L1が小さく、L2が大きいほど疲労寿命の向上率が大きいことが分かる。
本発明のNo2において、従来の隅肉溶接継手であるNo1と比べて引張強さが6%程度向上している。応力集中係数の緩和が引張強度にも影響していると思われる。
サスペンションアームをモデル化し(図8参照)、剛性解析した結果、最大主応力を有する接合面は図9のB面に特定されたため、発明例として、下側部品の車輪取付側から縦ブッシュまでの縦壁面に2.3mmの段差形状を設けて溶接し、車輪取付側から横ブッシュまで、および、横ブッシュから縦ブッシュまでは重ね隅肉溶接した。また、比較例としてすべての接合面を従来の重ね隅肉溶接とした。
サスペンションアームの疲労強度評価では本方向の入力が最も厳しいと思われる。また、実際の車体への取付はゴム製のブッシュを介して取付られるが、今回の解析は拘束点と周辺の部品の要素を剛体結合とし、より厳しい条件で解析した。メッシュサイズ1mmのシェル要素を用いた。部品板厚は2.4mmとした。
図示した部位の下側部品の接合部から縦壁に向かって板表面側の最大主応力分布を、従来の重ね隅肉溶接と発明例とで比較した。比較した結果を図19に示す。図19に示されるように、重ね隅肉溶接の従来例と比較して発明例のほうが最大主応力が小さくなっている。発明例にすることで、接合部の最大主応力が9%低下し(図20参照)、耐疲労強度は大きく向上することがわかる。
また、部品剛性についても、断面形状が大きくなっていることで、同じ板厚で約5%向上していた。
すると、重ね隅肉溶接部品の板厚を2.55mmとした場合、先のエッジ部での最大主応力が本発明部品と同等になった。このとき、重ね隅肉溶接部品の重量は上下合わせて、2890gである。つまり、本発明部品を用いることで従来の重ね継手部品より、同じ最大主応力を得るには90gの軽量化効果があった。
また、縦壁面全体に段差形状を設定して同様の評価をした場合、さらに最大主応力が低減し、大きな疲労強度向上効果とともに、同じ疲労強度においては大きな軽量化効果が得られることも確認した。
1a 上側部品
1b 下側部品
1c 溶接止端(上側部品1aの金属板の表面部との交点)
1d 溶接止端(下側部品1bの金属板の表面部との交点)
3 解析モデル
3a 上側部品モデル
3b 下側部品モデル
5 接合部
7 段部
9 試験片
Claims (2)
- プレス加工により作製した断面の少なくとも一辺が開口する2部品を、前記開口部を対向させて組み合わせ、閉断面になるように接合してなる自動車用足廻り部品の疲労強度向上方法であって、
前記断面の少なくとも一辺が開口する部品の一方を他方の部品の開口部に挿入した2部品の重ね隅肉溶接を仮定した解析モデルについて、FEMによる剛性解析を行って所定の荷重を付加したときに溶接部に発生する応力を演算する応力演算工程と、該応力演算工程で最大応力が発生している溶接部のある接合面を特定する最大応力接合面特定工程と、該最大応力接合面特定工程で特定された接合面を含む接合面についてアーク溶接を行う溶接工程とを備え、
該溶接工程は、前記最大応力接合面特定工程で特定された接合面の一部又は全部について、一方の部品における縦壁部の先端部に内側に凹む段部を設け、該段部よりも先端側を他方の部品の開口部に嵌合させ、前記一方の部品の段部と前記他方の部品の縦壁部の先端とをアーク溶接にて接合し、
前記アーク溶接後のアーク溶接止端部を含む前記嵌合部の断面形状が、前記一方の部品における縦壁部外面が内側に凹みを開始する位置と前記他方の部品における開口部縦壁部外面の先端を結ぶ仮想線より内側に凹んだ形状とし、
溶接ビードの高さhを、
下記の(1)式のビード高さhに上板の板厚t 2 を代入して求めた、フィレットに応力が集中する場合に相当する従来の段部のない重ね隅肉溶接の応力集中係数Ktよりも、ノッチを有する場合に相当し前記内側に凹んだ形状となる場合の(2)式によって求まる応力集中係数Ktが小さくなる溶接ビード高さとすることを特徴とする自動車用足廻り部品の疲労強度向上方法。
- 前記一方の部品における前記段部の段の高さをD、前記他方の部品の板厚をt2としたときに、0.5*t2≦D≦t2の関係を満たすことを特徴とする請求項1記載の自動車用足廻り部品の疲労強度向上方法。
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