以下において、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
図1は、本発明の実施の形態に従う車両1の自動変速機10を説明する概略的な構成図である。車両1は、自動変速機10と、エンジン20と、減速機構30と、ドライブシャフト50と、駆動輪60と、シフトレバー70と、電子制御装置(以下、ECU(Electronic Control Unit)とも称する)300と、油圧ポンプPとを備える。
自動変速機10は、変速機構100と、油圧制御回路200とを備える。変速機構100は、変速要素を構成するクラッチC1,C2、ロックアップクラッチLUC,およびブレーキB1などを含む。変速機構100は、変速要素の締結または締結の解除の選択により所望の変速比のギヤ段を形成することができる。そして、エンジン20から入力した駆動力は、自動変速機10の変速機構100により、所望の変速比に変速されて、減速機構30およびドライブシャフト50を介して駆動輪60に伝達される。
シフトレバー70は、ユーザの操作に応じて、シフトレンジを走行レンジ(D,S,Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)、およびパーキングレンジ(Pレンジ)のいずれかに切換え可能とされる。そして、シフトレバー70のシフト操作に応じてシフトレンジ制御信号がECU300に出力される。
油圧制御回路200は、変速機構100の下部に位置するバルブボディ201に設けられている。油圧制御回路200は、油圧供給源としての油圧ポンプPからの作動油の供給を受け、ECU300からの制御信号に応じて作動油の経路を切り換えて、変速機構100に供給することにより、変速機構100の各変速要素を締結または解除させるように作動させる。
ECU300は、自動変速機10の変速機構100の各構成要素の動作を、変速段を切換える際に制御する。ECU300は、いずれも図1には図示しないがCPU(Central Processing Unit)、メモリなどの記憶装置および入出力バッファを含み、アクセル開度センサや車速センサなどから送られてくるアクセル開度信号や車速信号に基づいて、指示ギヤ段を決定する。
ECU300は、決定された指示ギヤ段に基づいて、予め設定されている変速要素の選択に従い、油圧制御回路200の各制御弁への制御信号を出力する。そして、油圧制御回路200から供給される作動油を受けて、変速機構100の各変速要素が作動することによって、予め形成可能に設定された複数の変速段のうちから、走行に用いるギヤ段が選択的に形成される。これにより、エンジン20は、所望の変速段を用いて、駆動力を伝達して駆動輪60を回転させる。
たとえば、ECU300は、走行レンジ(Dレンジ)が選択されている状態では、前進1速〜前進6速のうちから車速とユーザ要求であるアクセル開度とに適合した指示ギヤ段を決定して、制御信号を油圧制御回路200に出力することにより、変速機構100により所望の変速段を形成する。なお、これらの制御については、ソフトウェアによる処理に限らず、その一部またはすべてを専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
図2は、自動変速機10の制御装置のうち、油圧制御回路200の要部の構成を説明する回路図である。
図2を参照して、油圧制御回路200は、油圧ポンプPと、ソレノイドモジュレータバルブ204と、電磁弁(ソレノイドバルブ)と、油室に供給された作動油により、スプールを移動させて油路(経路)を選択的に切換える切換弁と、制御弁(ON/OFFソレノイド)とを含む。電磁弁は、ソレノイドバルブSL1〜SL4と、ソレノイドバルブSLUとを含む。切換弁は、手動切換弁としてのマニュアルバルブ202と、ソレノイドモジュレータバルブ204からの作動油に応じてスプールを切換える油圧切換弁としてのソレノイドリレーバルブ206と、クラッチコントロールバルブ208と、シーケンスバルブ210とが含まれる。
ソレノイドモジュレータバルブ204は、油圧ポンプPから吐出されたライン圧を有する作動油を減圧して、所定のモジュレータ圧(Pmod)とするための調圧バルブである。ソレノイドモジュレータバルブ204は、吐出される作動油の圧力に応じてスプール位置を自律的に移動させて、所望のモジュレータ圧の作動油を油圧制御回路200の切換弁および制御弁に供給する。
マニュアルバルブ202は、油圧ポンプPから、ライン圧を有する作動油の供給を受けて、走行に必要とされるDレンジ圧の作動油を油圧制御回路200に供給するか否かを切換えるバルブである。そして、マニュアルバルブ202は、シフトレンジが選択される際、シフトレバー70の操作に応じて、スプール弁203を移動させる。
ソレノイドモジュレータバルブ204および、マニュアルバルブ202は、電気的に制御信号を受けて動作しているものではなく、供給されたライン圧に応じて機械的にモジュレータ圧にまたは、Dレンジ圧を調圧している。このため、ソレノイド通電故障時であっても、スプールの切り換えや変速要素の係合に必要とされる所望の圧力を供給可能である。
ソレノイドリレーバルブ206は、制御弁SLからの作動油に応じて切り換えられ、クラッチコントロールバルブ208および、シーケンスバルブ210に供給する油圧状態を切り換える。ソレノイドリレーバルブ206に、制御弁SLからモジュレータ圧を有する作動油が油室に供給されると、スプール207がON位置に移動される。スプール207がON位置の場合、ソレノイドバルブSL1から供給されるDレンジ圧を元圧とするSL1圧を有する作動油がポートP1を介してクラッチコントロールバルブ208およびシーケンスバルブ210に供給される。また、スプール207がOFF位置の場合、ソレノイドモジュレータバルブ204から供給されるモジュレータ圧を有する作動油がポートP2を介して、クラッチコントロールバルブ208およびシーケンスバルブ210に供給される。
クラッチコントロールバルブ208は、フェールセーフ走行状態において、低速側走行段または高速側走行段を形成するための作動油をシーケンスバルブ210に供給する経路を切り換えるための切換弁である。クラッチコントロールバルブ208は、ソレノイドリレーバルブ206から油室に供給される作動油に応じて、スプール209の位置を移動させて高速側位置と低速側位置とに切換える。高速側位置にスプール209が切り換えられていると、マニュアルバルブ202から供給されるDレンジ圧を有する作動油は、ポートP6から、シーケンスバルブ210のポートP8へ供給され、クラッチC2を締結するために用いられる。また、低速側位置にスプール209が切り換えられていると、マニュアルバルブ202から供給されるDレンジ圧を有する作動油は、ポートP5から、シーケンスバルブ210のポートP7へ供給され、クラッチC1を締結するために用いられる。
シーケンスバルブ210は、ソレノイドリレーバルブ206から油室に供給される作動油に応じてスプール211を移動させて、故障側(FL)と通常側(NL)とを切換える。シーケンスバルブ210は、クラッチコントロールバルブ208,ソレノイドバルブSL2,ソレノイドバルブSL4からの作動油を受け、変速機構100のクラッチC1,C2,ブレーキB3にその作動油を供給する。そして、スプール211の切り換え位置に応じて、シーケンスバルブ210は、作動油の経路を切換える。ソレノイドリレーバルブ206からの作動油が一方の油室に供給されると、故障側(FL)から通常側(NL)にスプール211が移動して、切り換えられた位置に保持される。通常側(NL)では、ソレノイドバルブSL1からSL1圧を有する作動油がポートP9に供給されて、変速機構100のクラッチC1が締結される。また、通常側(NL)では、ソレノイドバルブSL2からSL2圧を有する作動油がポートP11に供給されて、変速機構100のクラッチC2が締結される。さらに、通常側(NL)では、ソレノイドバルブSL4からの作動油がポートP10に供給されて、変速機構100のブレーキB3が締結される。
一方、制御弁SLがオフ状態であり、かつノーマルオープンのソレノイドバルブSLTから、SLT圧を有する作動油がシーケンスバルブ210の反対側油室に供給されると、スプール211は、通常側(NL)から故障側(FL)に移動する。そして、移動により切り換えられた故障側(FL)の位置に保持される。故障側(FL)では、クラッチコントロールバルブ208が低速側の場合、ポートP5からポートP12にDレンジ圧の作動油が供給されてクラッチC1が締結され、クラッチコントロールバルブ208が高速側の場合、ポートP6からポートP8にDレンジ圧の作動油が供給されてクラッチC2が締結される。また、故障側(FL)では、ライン圧を有する作動油がポートP14に供給されて、ブレーキB3が締結される。
ソレノイドバルブSL1〜SL4、ソレノイドバルブSLUは、電磁石を利用して作動油の調圧を行なうバルブである。各ソレノイドバルブSL1〜SL4、ソレノイドバルブSLUは、ECU300からのデューティ制御信号を受け、そのデューティに応じて、弁体の開閉量を変更する。これにより、供給先の変速要素に必要とされる作動油の油圧を調圧するように構成されている。
ソレノイドバルブSL1は、シーケンスバルブ210が通常側(NL)の場合に、クラッチC1を作動させる電磁弁である。ソレノイドバルブSL1は、マニュアルバルブ202からのDレンジ圧の作動油を受けて、ソレノイドリレーバルブ206のポートP1,シーケンスバルブ210のポートP9に供給する。ソレノイドバルブSL1は、シーケンスバルブ210が通常側(NL)位置の場合に、クラッチC1にDレンジ圧の作動油を供給する。このため、ソレノイドバルブSL1は、制御弁SLがオフ状態では、オフ位置とされているソレノイドリレーバルブ206を介して、クラッチコントロールバルブ208および、シーケンスバルブ210の油室にSL1圧を有する作動油を供給して、スプール211の位置を通常側(NL)に切換える。
ソレノイドバルブSL2は、シーケンスバルブ210が通常側(NL)の場合にクラッチC2を駆動するための電磁弁である。ソレノイドバルブSL2は、マニュアルバルブ202からのDレンジ圧を有する作動油を受けて、SL2圧の作動油をシーケンスバルブ210に供給する。
ソレノイドバルブSL3は、ブレーキB1を締結するための電磁弁である。ソレノイドバルブSL3は、マニュアルバルブ202からのDレンジ圧を有する作動油を受け、ブレーキB1に供給する。
ソレノイドバルブSL4は、シーケンスバルブ210が通常側(NL)の場合にブレーキB3を締結する電磁弁である。ソレノイドバルブSL4は、油圧ポンプPからのライン圧を有する作動油を受け、シーケンスバルブ210に供給する。
ソレノイドバルブSLUは、ロックアップクラッチLCUを駆動するための電磁弁である。ソレノイドバルブSLUは、制御弁SLがオフ状態であり、かつソレノイドリレーバルブ206がOFF位置のときに、ポートP2を介して供給されたモジュレータ圧を有する作動油を受け、ロックアップクラッチLCUに供給する。この実施の形態では、ロックアップクラッチLCUを制御するロックアップ制御弁として制御弁SLが兼用されており、ソレノイドリレーバルブ206を切り換え制御している。
ソレノイドバルブSLTは、シーケンスバルブ210を故障側(FL)に切換えるための作動油を供給する電磁弁である。ソレノイドバルブSLTはノーマルオープンのため、正常時(通常時)は、モジュレータ圧を有する作動油を受けてシーケンスバルブ210にSLT圧の作動油に調圧して供給している。そして、ソレノイドバルブSLTは、ソレノイドが非通電状態となると、シーケンスバルブ210の反対側油室にSLT圧を供給し、スプール211を故障側(FL)に切換える。
また、制御弁SLは、ソレノイドリレーバルブ206を切換えるためのON/OFF制御弁であり、ECU300からの制御信号に応じて、ソレノイドリレーバルブ206を切換えて、ON位置またはOFF位置のいずれかの切換位置を保持可能に構成されている。制御弁SLは、ON状態(以下、ON励磁状態とも称する。)の場合に作動油をソレノイドリレーバルブ206の油室に供給して、スプール207の位置をON位置に切り換えて保持する。また、制御弁SLは、OFF状態(以下、OFF励磁状態とも称する。)の場合には、作動油の供給が停止された状態となり、それによって
ソレノイドリレーバルブ206のスプール207の位置がOFF位置に切り換わる。さらに制御弁SLは、非通電状態(以下、非励磁状態とも称する。)とされると、直前の弁体の位置を保持した状態となる。
ECU300は、通常走行中、シフトレバー70によりユーザが選択したシフトレンジが走行レンジ(特にDレンジ)である場合は、車速およびユーザ要求を反映したアクセル開度に応じて、変速段を決定して、図3に示すような指示パターンの制御信号を生成する。生成された制御信号に従って、ソレノイドバルブSL1〜SL4、ソレノイドバルブSLUが駆動されることによって、ソレノイドリレーバルブ206と、クラッチコントロールバルブ208と、シーケンスバルブ210のそれぞれの油室に供給されている作動油の状態が切り換えられ、それに応じて各バルブの油圧ポンプPから、これらのソレノイドリレーバルブ206、クラッチコントロールバルブ208、シーケンスバルブ210を介して選択された経路を通じて、作動油が変速機構100に供給される。
シフトレバー70が走行レンジの場合は、マニュアルバルブ202は、スプール弁203の位置を切り換えて、ライン圧を元圧とするDレンジ圧を有する作動油をソレノイドバルブSL1〜SL4,SLTおよびクラッチコントロールバルブ208、シーケンスバルブ210に供給する。一方、シフトレンジがニュートラルレンジの場合は、供給ポートがマニュアルバルブ202のスプール弁203によって塞がれ、Dレンジ圧を有する作動油の供給が停止される。
たとえば、第1段を形成する場合、図3のようにソレノイドバルブSL1のみがON制御とされ、ソレノイドバルブSL2〜SL4,SLU,制御弁SLがOFF制御される。ソレノイドバルブSL1がオン状態かつ、制御弁SLがオフ状態の場合、ソレノイドリレーバルブ206のスプール207がOFF位置となっている。このため、ソレノイドバルブSL1から供給されたSL1圧を有する作動油は、ソレノイドリレーバルブ206のポートP1を介してクラッチコントロールバルブ208、シーケンスバルブ210の油室に供給される。シーケンスバルブ210のスプール211は、ソレノイドリレーバルブ206から供給されたSL1圧を有する作動油が油室に供給されることによりNL位置となる。このため、ソレノイドバルブSL1から供給された作動油はシーケンスバルブ210のポートP9から、クラッチC1に供給され、変速機構100は、クラッチC1のみを締結させることにより、変速段としての第1段を形成することができる。
なお、クラッチコントロールバルブ208は高速側位置となるがシーケンスバルブ210が、通常側(NL)にスプール211を位置させているため、クラッチコントロールバルブ208からのDレンジ圧の作動油は、作動に関与しない。
以下同様に、図3の制御信号の指示パターンに従って、ソレノイドバルブSL2〜SL4,SLU,制御弁SLがON/OFF制御されることによって、所望の変速要素を締結してそれぞれの変速段を形成できる。たとえば、変速段としての第2段を形成する際、ソレノイドバルブSL1,SL3,制御弁SLがオン状態とされ、ソレノイドリレーバルブ206のスプール207がON位置とされる。これにより、シーケンスバルブ210がNL位置となり、ソレノイドモジュレータバルブ204からの作動油は、シーケンスバルブ210から、クラッチC1に供給される。さらに、ソレノイドバルブSL3から供給される作動油は、ブレーキB1を締結させる。これにより、変速機構100は、クラッチC1およびブレーキB1を締結させて、変速段としての第2段を形成することができる。
ソレノイドバルブSL1,SL4がオン状態で、かつ制御弁SLがオン状態とされると、ソレノイドリレーバルブ206がON位置となり、シーケンスバルブ210はNL位置となる。このため、ソレノイドバルブSL1の作動油は、シーケンスバルブ210を介して、クラッチC1を締結させる。さらに、ソレノイドバルブSL4の作動油は、ブレーキB3を締結させる。このため、変速機構100は、第3段を形成することができる。
ソレノイドバルブSL1,SL2がオン状態で、かつ制御弁SLがオン状態とされると、ソレノイドリレーバルブ206がON位置となり、シーケンスバルブ210がNL位置となる。これによりソレノイドバルブSL1の作動油が、クラッチC1に供給されて、クラッチC1が締結されるとともに、ソレノイドバルブSL2からの作動油が、ポートP11を介してクラッチC2に供給されてクラッチC2が締結される。このため、変速機構100は、変速段としての第4段を形成することができる。
ソレノイドバルブSL2,SL4がオン状態で、かつ制御弁SLがオン状態とされると、ソレノイドリレーバルブ206がON位置となり、シーケンスバルブ210がNL位置となる。これによって、ソレノイドバルブSL2の作動油が、シーケンスバルブ210を介して、クラッチC2に供給されて、クラッチC2が締結される。また、ソレノイドバルブSL4の作動油により、ブレーキB3が締結される。このため、変速機構100は、変速段として第5段を形成することができる。
ソレノイドバルブSL2,SL3がオン状態で、かつ制御弁SLがオン状態とされると、ソレノイドリレーバルブ206が、ON位置となり、シーケンスバルブ210がNL位置となる。これによってソレノイドバルブSL2の作動油が、シーケンスバルブ210からクラッチC2に供給されてクラッチC2が締結され、ソレノイドバルブSL3から供給された作動油によって、ブレーキB1が締結される。このため、変速機構100は、変速段としての第6段を形成することができる。
なお、シフトレンジがリバースレンジを選択している場合は、ソレノイドバルブSL1,ソレノイドバルブSLUおよび、制御弁SLがオン状態とされ、これによりソレノイドリレーバルブ206がON位置となるとともに、シーケンスバルブ210のスプール211がNL位置となる。これによって、ソレノイドバルブSL1から供給されたSL1圧を有する作動油は、シーケンスバルブ210のポートP9からクラッチC1に供給される。また、ソレノイドバルブSLUから供給された作動油は、ブレーキB2に供給される。このため、変速機構100は、クラッチC1およびブレーキB2を締結させて、変速段として後進段(1stEB)を形成することができる。
シフトレバー70によってニュートラルレンジが選択されると、マニュアルバルブ202のスプール弁203により、油圧ポンプPから供給されるライン圧を有する作動油が通過できない様に塞がれる。これによって、ソレノイドバルブSL1〜SL4およびクラッチコントロールバルブ208には、Dレンジ圧を有する作動油が供給されなくなり、クラッチC1,C2は締結が解除されて、ドライブシャフト50からクランクシャフトが切り離されたニュートラル状態となる。
ソレノイド通電故障が発生した場合、ECU300からの制御信号は、ソレノイド全オフ制御により、非通電状態となり、ソレノイドバルブSL1〜SL4,SLCおよび制御弁SLがすべて非励磁とされる。ソレノイド全オフ状態では、変速要素に作動油を供給するクラッチコントロールバルブ208およびシーケンスバルブ210の各スプール209,211の切換え制御が行なえなくなる。
しかしながら、このようなソレノイド全オフ状態となっても、車両1は、所定の制限により機器の保護を行ないながら走行を継続する必要がある。走行レンジにおいて第1速を用いた低速走行中の場合には、制御弁SLがOFF状態のため、この状態でソレノイド全オフ状態とされると、制御弁SLがオフ状態に保持される。これによって、クラッチコントロールバルブ208のスプール209もそのまま低速側に保持されると共に、シーケンスバルブ210のスプール211が故障側(FL)に切換えられる。
この場合、マニュアルバルブ202から供給されるDレンジ圧を有する作動油がクラッチコントロールバルブ208のポートP5から、シーケンスバルブ210のポートP7に供給される。シーケンスバルブ210は、ポートP12を介してクラッチC1に、Dレンジ圧を有する作動油を供給して、クラッチC1を締結する。また、シーケンスバルブ210は、スプール211が故障側(FL)に切換えられているため、油圧ポンプPからのライン圧を有する作動油が、ポート14を介してブレーキB3に供給され、ブレーキB3が締結される。このため、低速用に設定されている3速のフェールセーフギヤ段(本願発明による「第1変速段」に対応)が形成される。
一方、車両1が第2速〜第6速で走行中は、制御弁SLがオン動作中であるので、この状態でソレノイド全オフとされると、ソレノイドリレーバルブ206は、ON位置のまま保持される。このため、ソレノイドリレーバルブ206のポートP2が受けたモジュレータモジュレータ圧の作動油は、クラッチコントロールバルブ208,シーケンスバルブ210のそれぞれの油室に供給される。これにより、クラッチコントロールバルブ208のスプール209が高速側位置に保持されるとともに、シーケンスバルブ210のスプール211が故障側(FL)に切換えられる。
そして、マニュアルバルブ202から供給されるDレンジ圧を有する作動油が、ポートP6から、シーケンスバルブ210のポートP8、ポートP13を介してクラッチC2に供給されて、クラッチC2が締結される。さらに、シーケンスバルブ210のスプール211が故障側(FL)に位置しているため、ライン圧を有する作動油がポート14を介してブレーキB3に供給され、ブレーキB3が締結される。これにより、高速用に設定されている5速のフェールセーフギヤ段(本願発明による「第2変速段」に対応)が形成される。
図3は、図1の自動変速機用の制御装置により、各変速段を成立させる際、係合される各変速要素の作動状態を説明するための図であり、指示ギヤ段の制御信号に応じたそれぞれのソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLの動作状態と、動作状態に応じて形成される変速段との関係がまとめて示されている。図3中、「○」はクラッチC1,C2、ブレーキB1〜B3の締結状態を示す。また、「−」は、クラッチC1,C2、ブレーキB1〜B3の締結が解除された状態を示す。なお、制御弁SLについては、励磁状態が示されている。
ECU300は、車両状態により指示ギヤ段を決定し、それを実現させるための制御信号をソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLに出力する。ECU300は、指示ギヤ段を、ECU300によりアクセル開度と車速とに応じて決定する。
また、ECU300は、ソレノイド通電故障時などのソレノイド異常により通電をオフとして、機器を損傷から保護するソレノイド全オフ制御を行なう。ソレノイド全オフ制御では、ソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLに出力されていた制御信号を停止(通電停止)して、ソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLのすべてが、非励磁状態とされる。
通電異常によるソレノイド全オフが行われると、制御弁SLでは、通電が停止される直前の制御弁SLの励磁状態の位置が保持される。
このような構成を有する自動変速装置を備えた車両において、たとえば、フェールセーフ走行状態で高速用の5速のフェールセーフギヤ段を用いて高速走行中に、ユーザが走行レンジからニュートラルレンジに誤ってシフト操作した場合を考える。5速のフェールセーフギヤ段が用いられているため、上述のようにシーケンスバルブ210のスプール211位置は、故障側(FL)に切り換えられたまま保持されている。
したがって、ニュートラルレンジの状態で走行している間に車速が低下しても、高速用の5速のフェールセーフギヤ段のままの変速段が維持されてしまう。そのため、速度低下後にユーザによって、走行レンジに戻された場合、車速が低下しているにもかかわらず、高速側ギヤ段が継続して形成されるため、必要なトルクが出せない状態となり得る。
また、仮にニュートラルレンジにシフト操作された時点で、強制的に低速用のフェールセーフギヤ段に切り換える設定を行なうように構成する場合、あるいは、予め速度低下を見越して、第3速を用いた低速フェールセール走行段に固定した変速段制御を行なう場合には、車両1が高速走行中であっても、走行レンジに戻された時点で低速用のフェールセーフギヤ段が形成されるため、急激な減速が発生してしまうことになる。
このように、ソレノイド通電を全オフとした時に特定の1つのフェールセーフギヤ段に固定されるフェールセーフ走行の場合、フェールセーフ走行への切り換え時やフェールセーフ走行中のドライバビリティが損なわれる場合が生じる。
このため、この実施の形態では、ソレノイド通電故障時、走行レンジではソレノイド通電を全オフとする一歩で、ニュートラルレンジとされた場合にはソレノイドへの通電を許可することで、走行レンジに戻された際のフェールセーフギヤ段を車速に適合した変速段とするフェールセーフ走行制御を実行する。
すなわち、本実施の形態では、ニュートラル時にソレノイドバルブへの通電を許可することによって、具体的には、制御弁SLが車速に応じてON/OFFされる。そのため第1速で走行中の場合は、ニュートラルレンジにおいて制御弁SLがOFF状態となるようにOFF励磁されることによって、走行レンジに復帰されると3速のフェールセーフギヤ段が形成される。また、2速〜6速で走行中の場合は、ニュートラルレンジにおいて制御弁SLがON状態となるようにON励磁されることによって、走行レンジに復帰されると5速のフェールセーフ段が形成される。
次に、本実施の形態の車両1のフェールセーフ走行制御について説明する。
図4は、6速で通常走行中に、ソレノイド異常になった場合のフェールセーフ走行を説明するためのタイムチャートであり、横軸には時間(T)、縦軸には上から車速から定まる指示ギヤ段、実際に形成されるギヤ段、シフトレンジ、ソレノイドバルブSL1,SL2,SL3,SL4,制御弁SLの状態が示されている。
図2〜図4を参照して、車両1が走行レンジ(Dレンジ)を用いて、6速で高速走行中に時刻t1において、ソレノイド通電異常が検出されると、ECU300は、ソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLのすべてが非励磁状態となるようにソレノイド全オフ制御を行なう。ソレノイド全オフにより、ノーマルオープンのソレノイドバルブSLTは開状態となり、ノーマルクローズのソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUは閉状態となる。また、制御弁SLは非励磁状態となるが、ON状態が維持される。
車両1は、時刻t1の直前まで、走行レンジの6速を形成して高速走行中であり、ソレノイド全オフ直前の制御弁SLはON状態であるため、図3において説明したように、ソレノイド全オフにより、フェールセーフギヤ段として、高速側の5速が形成される(時刻t1〜時刻t2)ので、急激な減速が発生することがない。また、6速から隣接した5速のフェールセーフギヤ段へと変速段が切り換えられるため、大きなショックもなく、適当なトルクが得られる。
時刻t2において、ユーザがシフトレバー70を誤って操作して、シフトレンジが走行レンジからニュートラルレンジに切り換えられると、ECU300は、ソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLの通電オフ状態を解除して、図3に示す制御信号の指示パターンに従って励磁を行なう。時刻t2から時刻t3までの間は、車速が高く、車速から定まる指示ギヤ段は6速であるため、図3に従ってソレノイドバルブSL2,SL3が励磁されるとともに制御弁SLがON励磁される。
なお、この状態では、マニュアルバルブ202がニュートラルレンジに位置しているため、Dレンジ圧を有する作動油は供給されない。このため、ソレノイドバルブSL2,SL3が励磁されてもクラッチC2,ブレーキB1は、締結されることなく、実際のギヤ段は形成されない。ただし、モジェレータ圧を元圧とする制御弁SLの吐出圧は低下しないため、時刻t2からt3までの間、ON励磁された制御弁SLからのモジュレータ圧を有する作動油により、ソレノイドリレーバルブ206のスプール207は、ON位置に保持されている。これにより、ソレノイドリレーバルブ206のポートP2に供給されたモジュレータ圧を有する作動油は、クラッチコントロールバルブ208の油室に供給されて、スプール209の位置が高速側の状態で保持される。さらにシーケンスバルブ210は、通常側(NL)に保持される。
時刻t3において、ユーザがシフトレバー70をシフト操作して、シフトレンジがニュートラルレンジから走行レンジに切り換えられると、ECU300は、ソレノイド全オフ制御を再び行ない、ソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLを非励磁状態とする。このとき、走行レンジに切り換えられる時刻t3の直前のニュートラルレンジにおける制御弁SLはON励磁されている状態であるので、通電オフにより制御弁SLを非励磁状態としても制御弁SLはON状態のままであり、クラッチコントロールバルブ208のスプール209の位置は、制御弁SLを介して供給されるモジュレータ圧の作動油により高速側の状態で保持される。このため、時刻t3〜時刻t4の間のフェールセーフ走行に用いるフェールセーフギヤ段として、ニュートラルレンジで走行中の車速(6速)に対応した高速側の5速のフェールセーフギヤ段が形成される。
時刻t3から時刻t4までの間においては、ソレノイド全オフが継続されているので、車速が低下して車速から定まるギヤ段が1速(1st)に低下した場合であっても、制御弁SLの切り換え状態は変更されない。このため、ソレノイドリレーバルブ206,クラッチコントロールバルブ208の切り換え位置も変化せず、時刻t3から時刻t4までの間、高速側の5速のフェールセーフギヤ段が維持される。
時刻t4において、車速が1速相当の状態まで低下した状態で、ユーザがシフトレバー70を操作して走行レンジからニュートラルレンジに切り換えると、ECU300は、ソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLの通電オフ状態を解除して、図3に示す制御信号の指示パターンに従ってON/OFF励磁制御を行なう。時刻t4から時刻t5までの間は、車速が低く、車速から定まる指示ギヤ段は1速であるため、図3に従ってソレノイドバルブSL1が励磁されて、制御弁SLがOFF励磁される。
制御弁SLはOFF励磁されると、図2で説明したようにソレノイドリレーバルブ206のスプール207の切り換え位置がOFF位置となる。シフトレンジはニュートラルレンジであるため、Dレンジ圧の作動油の供給は停止している。このため、ソレノイドバルブSL1〜SL3およびクラッチコントロールバルブ208にはDレンジ圧を有する作動油が供給されない。また、ソレノイドバルブSL1には通電が行われているが、元圧となるDレンジ圧が供給されないため、SL1圧も上昇しない。したがって、クラッチC1は締結されない。また、クラッチC2にも作動油が供給されないため、クラッチC2は締結されず、駆動輪60は、エンジン20から切り離されたニュートラル状態となる。
このように、シフトレンジがニュートラルレンジである場合、車速に応じて、ECU300から図3に示す指示パターンが出力されても、車両1は、走行状態に影響を及ぼすことがなくニュートラル状態のまま走行を継続する。このため、制御弁SLのOFF励磁により、クラッチコントロールバルブ208のスプール209の位置は、リターンスプリングによりOFF位置に戻されて、ソレノイドバルブSL1から供給されるSL1圧の作動油がクラッチコントロールバルブ208およびシーケンスバルブ210に供給される。しかしながら、SL1圧の作動油の元圧は、Dレンジ圧でありニュートラルレンジでは上昇しないため、スプール209は低速側に切り換えられて保持され、シーケンスバルブ210のスプール211は、SLT圧を受けて故障側(FL)位置に切り換られる。
これにより、1速の指示パターンを出力することによって、ソレノイドリレーバルブ206をOFF位置,クラッチコントロールバルブ208を低速側位置,シーケンスバルブ210を故障側(FL)位置となるよう切り換えることができる。
その後、時刻t5において、ユーザにより、シフトレンジがニュートラルレンジから走行レンジに再び切り換えられると、ECU300は、ソレノイド全オフを再び行なって、すべてのソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLを非励磁とする。このとき、走行レンジに切り換えられる直前のニュートラルレンジにおける制御弁SLがOFF励磁されているため、図3で説明したように低速用の3速のフェールセーフギヤ段が形成される。
このように、通電異常時にソレノイド全オフとされても、ニュートラルレンジにより走行中に通電を許可することにより、ニュートラルレンジ中の車速に対応した切換弁の位置が設定される。このため、ニュートラルレンジから走行レンジに再び切り換えられた際、直前のニュートラルレンジの車速に対応した適切なフェールセーフギヤ段を形成することができる。また、一旦停車するなど再発進時も、ユーザはシフトレバーを走行レンジから、ニュートラルレンジに切り換えて、再び走行レンジに戻すだけで、低速側の3速に切り換えられるため、再発進性を向上させることができる。
図5は、本実施の形態において、自動変速機用の制御装置で実行される変速制御処理を説明するフローチャートである。
図5を参照して、S10にて、ECU300は、シフトレンジがニュートラルレンジであるか否かを判定する。S10でニュートラルレンジである(S10にてYES)と判定されると、ECU300は、S40に処理を進め、S10でニュートラルレンジでない、すなわち走行レンジ(S10にてNO)と判定されると、S20に処理を進める。
S20にて、「ソレノイド故障」であるか否かが判定される。ここで、「ソレノイド故障」とは、ソレノイド通電故障などの配線や出力するECU300側の異常を含む故障、ソレノイドが正確に作動できないソレノイド異常などがあげられる。ソレノイド故障である(S20でYES)と判定されると、ECU300は、S30に処理を進める。
S30にて、ECU300は、すべてのソレノイドバルブSL1〜SL4,SLU,制御弁SLを非通電状態とするソレノイド全オフを実施する。その後、処理がメインルーチンに戻される。
一方、ソレノイド異常が生じていない(S20にてNO)と判定されると、ECU300はS40に処理を進めて、車速に応じた指示ギヤ段の制御信号を生成して油圧制御回路200に出力する。その後、処理がメインルーチンに戻される。
次に具体的な場面における自動変速機の制御装置の動作をフローに沿って説明する。
(正常時)
まず、車両1が正常であり、走行レンジにて通常走行中の場合は、S10にてNO,S20にてNOが選択され、S40に処理が進められる。
S40にて、ECU300は、図3に従って、車速に応じた指示ギヤ段のソレノイドパターンとなる制御信号を出力する。これにより、油圧制御回路200は、ソレノイドバルブSL1〜SL4,SLT,SLU,制御弁SLをソレノイドパターンに従って励磁することによって所望の変速段を形成する。その後、処理がメインルーチンに戻される。
また、ニュートラルレンジの場合、S10にてYESが選択され、S40にて、指示パターンに沿って制御信号がECU300から出力されることにより、該当するソレノイドバルブSL1〜SL4,SLUおよび制御弁SLが励磁される。ただし、シフトレンジがニュートラルレンジであるので、クラッチC1,C2は締結されず、ニュートラル状態となる。
(異常時)
次にソレノイド通電故障時などのソレノイド異常が生じた場合について説明する。
正常な走行状態から、ソレノイド通電故障時などのソレノイド異常が生じた場合、(S10にてNO,S20にてYESが選択され、ECU300は、処理をS30に進めて、ソレノイド全オフを実施する。
このとき、図3で説明したように直前の車速に応じた制御弁SLの状態に基づいて、高速側/低速側のうち、いずれか適切なフェールセーフギヤ段が形成される。たとえば、2速〜6速が選択される車速であれば、高速側の5速が形成される。
ソレノイド故障が生じている状態において、ユーザが走行レンジからニュートラルレンジに切り換えた場合は、S10にてYESが選択され、走行中の車速に応じた指示ギヤ段のソレノイドパターンが出力されて、対応するソレノイドバルブSL1〜SL4,SLU,制御弁SLが励磁される(S40)。ただし、ニュートラルレンジの状態であるので、クラッチC1,C2は締結されない。
この際、図3に示すソレノイドパターンのうち、2速〜6速であれば制御弁SLはON励磁とされ、第1速であれば制御弁SLはOFF励磁される。
そして、ユーザにより再びシフトレンジが走行レンジに切り換えられて(S10にてNO,S20にてYES)、再びソレノイド全オフ状態とされる(S30)と、直前のニュートラルレンジの際に車速に応じて設定されたクラッチコントロールバルブ208およびシーケンスバルブ210のスプールの位置がそのまま保持される。これによって、車速に応じた適切なフェールセーフギヤ段が形成される。このように、図5に示されるフローによって図4で説明した動作が実現できる。
以上のような処理に従って制御を行ない、ソレノイド異常によりソレノイドが全オフとされた状態において、ニュートラルレンジに切り換えられた場合に、ソレノイドへの通電を許可することにより、ソレノイドリレーバルブ206,クラッチコントロールバルブ208,シーケンスバルブ210を車速に応じた状態に切り換えて保持できる。
そのため、ニュートラルレンジから再び走行レンジに切り換えられてソレノイド全オフとされた場合に、車速に応じたフェールセーフギヤ段を形成することが可能となる。これにより、車両1のドライバビリティが損なわれることが防止される。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。