JP6223246B2 - 溶銑脱硫方法 - Google Patents

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Description

本発明は、転炉での脱炭工程の前段階で溶銑を脱硫するための溶銑脱硫方法に関する。
近年、材料特性を向上させるという観点から、硫黄含有量の少ない低硫鋼製造の要求が増大している。この要求に対応するために、高炉より出銑された溶銑に対して、転炉での脱炭工程前の溶銑段階において脱硫処理が施されている。
この脱硫処理の手法として、特許文献1〜3に開示される技術がある。
特許文献1に開示の溶銑の脱硫方法は、CaO及びMgOを主成分とする精錬剤を用いて溶銑の脱硫を行う方法において、溶銑のAl濃度を0.005〜0.1質量%に調整して、カルシューム−アルミネートの生成を抑制することを特徴とする。これは、浸漬させたランスからフラックスをインジェクションする方法(所謂インジェクション脱硫)である。
特許文献2に開示の低珪素濃度溶銑の脱硫方法は、生石灰を主成分とするフラックスとAl灰の混合フラックスによる溶銑の脱硫処理に際し、脱硫剤中のCaOとAlの混合比がAlで33〜37.7重量%の範囲となるように混合したもの、または添加後のCaOとAlの混合比がAlで33〜37.7重量%の範囲となる量の生石灰、Al灰を添加することを特徴とする。
また、特許文献3に開示の溶銑の脱硫剤は、生石灰と、金属アルミニウムの含有量が10質量%以上で残部が実質的にアルミナであるアルミニウム系脱酸剤と、の混合体からなる脱硫剤であり、脱硫剤中のアルミニウム系脱酸剤の配合比率がアルミナ換算で7質量%以上であることを特徴とする。
このような脱硫処理の技術に加えて、特許文献4に開示されるように、容器に収容された溶銑にフラックスを上置きし、耐火物の攪拌羽(インペラ)を浸漬及び回転させて、上置きされたフラックスを溶銑中に巻き込むことにより脱硫する機械式脱硫方法(所謂KR脱硫)も存在する。
特許文献4に開示の溶銑の脱硫方法は、機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、CaO粉体に対して、金属Alを10〜50質量%含有するアルミナ−金属Al混合体を脱硫処理対象の溶銑の脱硫処理前温度に応じて下記の(2)式、(3)式及び(4)式で求められるX質量%以上、X+15質量%以下の範囲で添加した脱硫剤を、攪拌羽根によって攪拌されている溶銑の浴面に添加し、溶銑を脱硫処理することを特徴とする。溶銑温度が1250℃以下の場合X(質量%)=20…(2)、溶銑温度が1250℃超え1340℃未満の場合X(質量%)=295−0.22×T…(3)、溶銑温度が1340℃以上の場合X(質量%)=0.2…(4)であり、但し、(3)式において、Tは脱硫処理前の溶銑温度(℃)である。
特開2012−26012号公報 特開平9−3515号公報 特開2010−229439号公報 特開2011−132566号公報
上述の各特許文献に対して、特許文献1及び特許文献2では、脱硫剤として高価な金属Alについてしか記述されておらず、同様の脱酸効果を持つ安価なAlNを考慮していないために、脱硫剤としては高価なものとなるという欠点がある。さらに、機械式脱硫方法を前提とした場合、特許文献1及び特許文献2の技術は、インジェクション/ブラスティング脱硫を前提としているため、効率のよい機械攪拌式脱硫を実現するための指針とすることは困難である。
特許文献3では、脱硫反応に大きく影響する溶銑温度に関する記述が全く無く、効率のよい脱硫処理を実現するための指針としては不十分である。また、特許文献3の記載内容では、機械式脱硫方法を前提としていないため、脱硫反応に大きな影響を及ぼす攪拌動力を算出することができず、機械式脱硫方法において効率の良い脱硫処理を実現することは困難である。
さらに、機械式脱硫方法を前提としている特許文献4では、理想的なCaO−Al−M.Al系に限定されているが、実施例で開示されているAl灰にはMgOやSiO等の不純物が含まれており、それら不純物の影響が考慮されていない。従って特許文献4に開示の技術では、そもそも効率の良い脱硫処理を実現するための指針としては不十分である。加えて、特許文献4に開示の内容のみでは脱硫の反応効率に重要な役割を果たす攪拌動力を算出することができず、機械式脱硫方法において効率の良い脱硫処理を実現することは困難である。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、機械式攪拌による溶銑脱硫を効果的に実施できる手段を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の溶銑脱硫方法は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の溶銑脱硫方法は、高炉より出銑された溶銑に、転炉での脱炭工程前の溶銑段階で機械式攪拌により脱硫処理を実施するにあたり、1330℃以上の前記溶銑に対して、以下に示す条件を満たす組成のフラックスを用いることを特徴とする。
本発明の溶銑脱硫方法によれば、機械式攪拌による溶銑脱硫を効果的に実施することができる。
本発明の実施形態による高炉から出銑された溶銑の精錬工程の一例を模式的に示す図である。 本実施形態による溶銑鍋及びインペラの構成を模式的に示す図である。 本実施形態による実施例の脱硫結果と比較例1の脱硫結果を表すグラフである。 本実施形態による実施例の脱硫結果と比較例2の脱硫結果を表すグラフである。 本実施形態による実施例の脱硫結果と比較例3の脱硫結果を表すグラフである。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
図1は、高炉1から出銑された溶銑の精錬工程の一例を模式的に示す図である。
図1に示すように、高炉1から出銑された溶銑は、混銑車3にて受銑された後、製鋼工場に運搬され、そこで混銑車3から溶銑鍋4へ払い出される。この溶銑鍋4は、クレーンによって除滓位置に移され、鍋中の溶銑表面に存在する高炉スラグが除去(除滓)された後、クレーンによって転炉正面に運ばれる。除滓されて転炉正面に運ばれた溶銑は、溶銑鍋4から転炉へ装入される。転炉への溶銑の装入を終了した空の溶銑鍋4は、再びクレーンによって払出位置に戻され、混銑車3から溶銑鍋4へ次チャージの溶銑が払い出される。
本実施形態では、このような精錬工程において、溶銑鍋4内で、後述する機械式攪拌(KR攪拌)による脱硫処理を行う。具体的には、溶銑鍋4において、高炉スラグを除去(除滓)した後の溶銑に脱硫剤(脱硫フラックス又は、単にフラックスという)を添加し、フラックスが添加された溶銑に対して機械式攪拌を行うことで脱硫反応を進行させる。そして、再度除滓位置において脱硫反応により生じたスラグを除去した後、脱硫後の溶銑が溶銑鍋4から転炉へ払い出される。
ここで、図1及び図2に示すように、機械式攪拌とは、溶銑鍋4の溶銑内に耐火物で形成された羽根であるインペラ5を浸漬して回転させ、フラックスが添加された溶銑を強制攪拌しながら脱硫反応を促進させる処理のことである。
図2は、溶銑を貯留する溶銑鍋4、及び溶銑鍋4に貯留された溶銑に浸漬されたインペラ5の構成を示す図である。この図2に示す構成によって機械式攪拌を行えば、溶銑中の硫黄は脱硫剤へと効果的に移行して脱硫スラグが形成され、形成された脱硫スラグを取り除くことで「硫黄分が除かれた溶銑」を得ることができる。
このような機械式攪拌は、後述する攪拌動力P及び攪拌動力密度εによってその脱硫効果が変化する。
攪拌動力Pは、以下に示す永田の式(例えば、化学工学便覧、丸善(1998),P893-897)などを参照)を用いて得られる。
上記の永田の式において、A,B,pは定数であり、その他の記号の意味を以下の表1及び図2に示す。
このように求められる攪拌動力Pに基づいて、攪拌動力P(例えば、kw)を溶銑鍋4内の溶銑重量(t)で除すことで攪拌動力密度ε[kw/t]を得ることができる。
上述のように、本実施形態による上述の脱硫処理は、溶銑鍋4に、脱硫剤であるフラックスを添加する添加処理と、フラックスが添加された溶銑鍋4内の溶銑に対して機械式攪拌を施す攪拌処理とを有している。具体的に、本実施形態による脱硫処理は、添加処理に用いられるフラックスの成分の規定に特徴を有すると共に、攪拌処理における攪拌動力密度εの規定に特徴を有する。
以下に、添加処理について説明し、続いて、添加処理を終えた溶銑に対する攪拌処理について説明する。
上述の脱硫処理における脱硫反応は吸熱反応であるため、高温の方が進みやすいという特性がある。従って、フラックスに必要とされる条件が溶銑温度に依存して異なり、特に1330℃付近を境界として同一フラックスによる脱硫効率が大きく変化する。
本実施形態による脱硫処理は、比較的高温の溶銑の脱硫に関するものであり、具体的には、脱硫処理前の溶銑温度が1330℃以上の溶銑に対する脱硫を対象とする。
尚、本実施形態においては溶銑温度の上限を定めないが、脱硫処理における実操業上の合理的な条件として、1450℃程度を溶銑温度の上限と考えることができる。
参考までに、脱硫処理前の溶銑温度が1330℃未満になると脱硫効率が大きく低下するが、その理由は、溶銑温度が1330℃未満になると、低温のため、脱硫反応自体の効率が悪くなる上、添加されたフラックス中の石灰の滓化が顕著に遅くなり、フラックス中の石灰の利用効率が大幅に低下するからである。
そこで、脱硫処理前の溶銑温度が1330℃以上の溶銑に対して、以下に説明する組成を満足するフラックスを脱硫剤として添加する。
まず、フラックスは、換算M.Alについて以下の式(1)を満足する。
M.Alとは金属アルミニウム(金属Al)であり、このM.AlとAl窒化物(AlN)に含まれるアルミニウムとの合計を、フラックス中に含まれる金属アルミニウムの量を表す「換算M.Al」とする。なお、本実施形態において、単位[kg/t]は、溶銑1t(トン)あたりの金属アルミニウムやフラックスの重量(kg)を表す。
ここで、脱硫反応は、[S]+(O)=(S)+[O]・・式(ア)で表される。なお、記号[ ]は溶銑中に溶解していることを示し、記号( )は、スラグ中に溶解していることを示す。この式(ア)から分かるように、脱硫反応を効率良く進めるためには、第1に、溶銑中の酸素ポテンシャルを低減させる必要があり(第1の条件)、第2に、スラグ中の硫黄の活量を低下させる必要がある(第2の条件)。
式(1)に示す換算M.Alについての条件は、上述の第1の条件に関するものであり、溶銑に添加される換算M.Al量が式(1)に示す条件を満足することで、溶銑の酸素ポテンシャルを、脱硫反応が効率良く進行するレベルまで低下させることができる。逆に、溶銑に添加される換算M.Alの量が式(1)に示す条件を満たさなければ、溶銑の酸素ポテンシャルを充分に低くすることができず、脱硫反応が効率良く進行しない。
ここで、フラックスとして投入される金属Alは溶銑中の酸素ポテンシャルを低下させるためのものであるから、すでに酸素と結合しているAl中のAlでは効果がない。酸素ポテンシャルを低減できるAlの形態としては、金属Al(M.Al)が一般的であるが、Al窒化物(AlN)中のAlは酸素と反応してAlとなるため、AlN中のAlも金属Alと同様に酸素ポテンシャルの低減に貢献する。
上述のM.AlやAlNを含有する物質としては、金属Alの他、アルミ精錬で発生するドロス(所謂アルミドロス)、このアルミドロスを灰絞り処理によって金属Al分を回収したもの(所謂アルミ灰)、及びアーク炉処理により金属Al分を回収したもの(所謂アーク炉灰)などを用いることができる。
尚、式(1)によって、換算M.Alの値の下限を0.05kg/t以上と示したが、その上限は3kg/t未満である。金属Al(M.Al)は高価なので、できるだけ使用量を減らすのが好ましい。
次に、フラックスは、以下の式(2)を満足する。
一般的に、スラグ中に含まれる塩基性酸化物がスラグ中の硫黄(S)の活量を顕著に低下させ、脱硫反応を促進させることが知られている。塩基性酸化物としては、NaOやKOといったアルカリ金属酸化物、CaOやMgOといったアルカリ土類金属酸化物などがある。しかし、アルカリ金属酸化物は、高価であるという問題、耐火物の侵食が大きいという問題、さらに処理後のスラグ処理の問題を有しており、現在、脱硫剤の主成分としてはあまり用いられない。
このため、一般的には塩基性酸化物としては、CaOやMgOといったアルカリ土類金属酸化物がよく用いられるが、アルカリ土類金属の酸化物は一般的に融点が高く溶解しにくい (CaO:2570℃,MgO:2850℃)。このため、本来脱硫にはあまり寄与しないSiOやAl(酸性酸化物)を投入してCaOやMgOを溶融させなければ、脱硫反応の効率が上がらない。
このため、フラックスは、SiOやAlの含有量に対するCaOやMgOの含有量の比が上記式(2)を満たす必要がある。また、式(2)の下限は特に明示しないが、逆にSiOやAlといった脱硫反応に寄与しない物質が多すぎた場合、いくらCaOやMgOの溶融性が向上しても結果としてスラグの脱硫能そのものが低下して脱硫できないため、式(2)は0.7以上、望ましくは1以上とすべきである。このような式(2)は、フラックスの塩基度を規定する式であるといえる。
尚、式(2)中、CaO,MgO,SiOの含有量の単位は換算Alと同じく[kg/t]で、溶銑1t(トン)あたりのCaOなどの重量(kg)を表す。
ここで注意しなくてはならないのは、上述の通り、M.Al及びAlNは、脱硫処理中に酸化されて、処理後にはほぼ全量がAlになるという点である。Alはスラグの脱硫能を低下させるので、M.Al及びAlNから転化するAlの量を考慮した上で、フラックスの組成を設計しなくてはならない。
上記式(1)及び式(2)を満たすフラックスとしては、例えば、生石灰、金属Al粒、及び2種類のアルミ灰の計4種の原料を混合して使用することができる。このうち、金属Al粒は実質的に100%M.Alであり、残り3種の原料の組成は、夫々下に示す表の通りである。
下の表2において、アルミ灰(1)とは、アルミ二ウム精錬で発生するアルミドロスを灰絞り処理し、含有するM.Alを回収したあとの残渣である。また、アルミ灰(2)とは、上述のアルミドロスを、アーク炉処理(例えば、特開2006−283083号公報を参照)によりM.Alを回収した後の残渣であり、AlNの含有量がアルミ灰(1)より高いのが特徴である。
上述のアルミ灰、アーク炉灰については、金属アルミニウム(M.Al)、窒化アルミニウム(AlN)、Alを全て含有する物質であるため、以下のような手法により夫々の成分の重量分率を測定した。
まず、被検体であるフラックスのM.Al[wt%]を、臭素メタノール分解−ICP発光分析法により測定する。ここで、単位[wt%]は、重量パーセントを示す。
次に、臭素メタノール分解した残渣中の窒素(N)分を中和適定法により測定し、検出した窒素量N[wt%]は、全て窒化アルミニウム(AlN)由来としてAlN[wt%]を算出する。
さらに、この残渣をICP発光分析によりアルミニウム(Al)の総量T.Al[wt%]を測定し、下式(3)に示すように、アルミニウム(Al)の総量T.Al[wt%]からAlN中のAl量を除いたものがAl中のAlの量であるとしてAl[wt%]を計算した。
次に、添加処理を終えた溶銑に対する攪拌処理について説明する。本実施形態による攪拌処理は、上述のとおり、溶銑鍋4の溶銑内に浸漬されたインペラ5によって、フラックスが添加された溶銑を強制攪拌しながら脱硫反応を促進させる処理のことであり、上述の攪拌動力密度ε[kw/t]の用い方に特徴がある。
本実施形態による攪拌処理では、攪拌動力密度ε[kw/t]を以下の式(4)に示すように用いる。
本実施形態による機械式の攪拌処理においては、溶銑中に、フラックスと同時に大気も巻き込むため、脱酸のために投入したM.Al及びAlNの比率が重要となる。溶銑に添加されたM.Al及びAlNは、どちらも最終的には酸素と反応してAlとなるが、M.Alは酸素との反応が激しい(脱酸反応の進行が速い)ため、全量がAlになるまでの時間が短く、また、AlNは反応が緩やかである(脱酸反応の進行が遅い)ため、全量が反応するのに要する時間がより長いという特徴がある。
脱酸のための成分として、AlNを用いず全量M.Alを用いた場合、添加した直後は急速に酸素ポテンシャルが低下するが、一度Alに転化するともはや脱酸には寄与できない。そのため、その後攪拌によって巻き込まれた酸素とは反応することができず、溶銑中の酸素ポテンシャルが再び上昇することとなり、脱硫能が低下する。
一方、M.Alを用いず全量AlNを用いた場合、脱酸反応の進行が遅いため、添加後すぐには酸素ポテンシャルが下がらず脱硫能を低下させるため、M.AlとAlNの比率には最適範囲が存在すると考えられ、効率良く脱硫反応を進行させるためには、M.AlとAlNの比率を最適範囲に調整した上で操業する必要がある。
このようなM.AlとAlNの比率に加えて、溶銑への大気巻き込み量は、インペラ5による攪拌の強さによって決まるため、上記M.AlとAlNの比率の最適範囲は攪拌の強さを表す攪拌動力密度εによって変化する。
つまり、攪拌動力が大きい場合は巻き込み大気量(巻き込み酸素量)が多いため、遅効性の(脱酸反応の進行が遅い)AlNの比率が高い必要があるし、また攪拌動力が小さい場合は即効性の(脱酸反応の進行が速い)M.Alの比率が高い必要がある。
そこで、上記式(4)に示すように、M.Al及びAlNによる比X(=AlN/(AlN+M.Al))と攪拌動力密度εとの商(X/ε)によって、M.AlとAlNの比率とインペラ5による攪拌動力との関係を表す。つまり、式(4)は、脱酸成分における遅効性のAlNの比率と攪拌動力の関係を定量的に表す指標とも言える。従って、商X/εが0.2より小さい場合、攪拌動力の大きさに対するAlNの量が少なすぎるので、投入したM.Alはもちろんのこと、AlNも早期に巻き込み空気によって酸化して消費されてしまい、脱硫能が低下する。また、商X/εが0.9より大きい場合、攪拌動力の大きさに対するAlNの量が多すぎるので、脱酸反応の進行が遅くなりすぎ、脱硫能が低下する。
なお、AlNの絶対量については、上述の換算M.Alの条件を満足するために、AlN > 0.01kg/tであることが望ましく、また、機械式攪拌脱硫の攪拌動力密度εは一般的には、0.4〜1.2kw/t程度である。なお、攪拌動力密度εの算出方法については、上述したとおりである。
以上に説明したとおり、上述の式(1),(2)及び(4)を満たすフラックスの組成及び攪拌動力密度εによる脱硫処理を行うことで、脱硫処理前の溶銑温度が1330℃以上の溶銑を効果的に脱硫することができる。
以下、上述の添加処理及び攪拌処理を実施した脱硫処理の実験結果(脱硫結果)について説明する。
まず、実験条件について述べる。実験には高周波溶解炉を用いた。炉の内径(D)は400mm、浴深さ(Z)は340mm、溶銑量は300kgである。また、処理時間は攪拌開始より10分(min)とし、フラックスは、炉上方より攪拌開始直前に一括投入した。フラックスとしては、粒径が全て3mm未満である3mmアンダー品を用いた。
溶銑を攪拌するインペラのサイズについて、高さ(b)は90mm、幅(d)は140mm、羽根枚数(n)は4、ねじれ角(θ)は90°であり、攪拌動力はインペラの回転数の制御によって制御した。
溶銑成分について、溶銑中の炭素Cの含有量である溶銑[C]は4.32〜4.68重量%、同じく硫黄Sの含有量である溶銑[S]は0.019〜0.027重量%、ケイ素Siの含有量である溶銑[Si]は0.26〜0.55重量%であった。
最後に、脱硫処理後の溶銑中の硫黄Sの含有量である処理後S(処理後溶銑S)について、脱硫が良好に行われたか否かを判断するための閾値を50ppmとした。処理後Sを50ppm以下に抑制する(処理後S≦50ppm)ことは、たとえば、特開2012−82513号公報などにも記載されているように、低硫鋼製造に必要な条件である。
以下の表3は、脱硫処理の結果(実験結果)を実施例として示している。
上記の表3によれば、処理後溶銑Sが50ppm以下となっているので、実験結果の評価として、脱硫が良好に行われたことを示す記号「○」が付されている。
以下の表4は、脱硫処理の結果(実験結果)を比較例1として示している。
上記の表4によれば、式(1)で規定する換算M.Alを満たしていないので、処理後溶銑Sが50ppmを超えており、実験結果の評価として、脱硫が良好に行われなかったことを示す記号「×」が付されている。
図3は、表3に示す実施例の結果と表4に示す比較例1の結果を表すグラフである。図3に示すグラフによると、式(1)で規定する換算M.Alを満たしていない場合、つまり換算M.Alが0.05kg/t未満の場合は、処理後溶銑Sが50ppmを超えているので、式(1)で規定する換算M.Alが0.05kg/t以上となる成分のフラックスを用いて脱硫処理を行うことが望まれる。
以下の表5は、脱硫処理の結果(実験結果)を比較例2として示している。
上記の表5によれば、処理後溶銑Sが50ppmを超えており、実験結果の評価として、脱硫が良好に行われなかったことを示す記号「×」が付されている。
図4は、表3に示す実施例の結果と表5に示す比較例2の結果を表すグラフである。図4に示すグラフによると、式(4)で規定する換算M.Alを満たしていない場合、つまり、脱酸パラメータZである、M.Al及びAlNによる比X(=AlN/(AlN+M.Al))と攪拌動力密度εとの商(X/ε)が、0.2以上0.9以下の範囲にない場合は、処理後溶銑Sが50ppmを超えている。従って、0.2以上0.9以下の脱酸パラメータZにおいて脱硫処理を行うことが望まれる。
以下の表6は、脱硫処理の結果(実験結果)を比較例3として示している。
上記の表6によれば、式(2)で規定する塩基度を満たしていないので、処理後溶銑Sが50ppmを超えており、実験結果の評価として、脱硫が良好に行われなかったことを示す記号「×」が付されている。
図5は、表3に示す実施例の結果と表6に示す比較例3の結果を表すグラフである。図5に示すグラフによると、式(2)で規定する塩基度を満たしていない場合、つまり、SiOやAlの含有量に対するCaOやMgOの含有量の比が大きい場合は、処理後溶銑Sが50ppmを超えている。従って、式(2)で規定する塩基度が30以下となる成分のフラックスを用いて脱硫処理を行うことが望まれる。
以上、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
1 高炉
3 混銑車
4 溶銑鍋
5 インペラ

Claims (1)

  1. 高炉より出銑された溶銑に、転炉での脱炭工程前の溶銑段階で機械式攪拌により脱硫処理を実施するにあたり、
    1330℃以上の前記溶銑に対して、以下に示す条件を満たす組成のフラックスを用いることを特徴とする溶銑脱硫方法。
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