JP6181806B2 - 透明導電性フィルムおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、可撓性の透明基材上に、透明導電層として結晶性のITO膜が形成された透明導電性フィルムに関する。本発明の透明導電性フィルムは、特にタッチパネルなどにおける透明電極に好適に用いられる。
従来、透明導電性薄膜として、ガラス上に酸化インジウム薄膜を形成した、いわゆる導電性ガラスがよく知られているが、導電性ガラスは基材がガラスであるために可撓性、加工性に劣り、用途によっては好ましくない場合がある。そのため、近年では可撓性、加工性に加えて、耐衝撃性に優れ、軽量であるなどの利点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムをはじめとする各種のプラスチックフィルムを基材とした透明導電性フィルムが賞用されている。
プラスチックフィルム基材上にITO膜等の透明導電層が製膜される場合、基材の耐熱性による制約があるため、高い温度でスパッタ製膜を行うことができない。そのため、製膜直後のITOはアモルファス膜(一部が結晶化している場合もある)となっている。このようなアモルファスのITO膜は黄ばみが強く透明性に劣り、加湿熱試験後の抵抗変化が大きい等の問題がある。
そのため、一般には、高分子成型物からなるフィルム基材上にアモルファスのITO膜を形成した後、大気中の酸素雰囲気下で加熱することにより、アモルファスITO膜を結晶性ITO膜へ転化させることが行われている(例えば、特許文献1参照)。この方法により、ITO膜の透明性が向上し、さらに加湿熱試験後の抵抗変化が小さく、加湿熱信頼性が向上するなどの利点がもたらされる。
一方、フィルム基材を用いた透明導電性フィルムは、透明導電層が耐擦傷性に劣り、使用中に傷がついて電気抵抗が増大したり、断線を生じたりするといった問題があった。特に、タッチパネル用の透明導電性フィルムでは、スペーサを介して対向させた一対の薄膜同士がその一方のパネル板側からの押圧打点で強く接触されるため、これに抗しうる良好な耐久特性、つまり打点特性を有していることが望まれる。しかしながら、フィルム基材を用いた透明導電性フィルムは、一般に導電性ガラスに比して打点特性に劣るため、タッチパネルとしての寿命が短くなるという問題があった。
前記問題に対して、フィルム基材として特定の膜厚のものを用い、その一方の面に光の屈折率がフィルム基材の光の屈折率よりも小さい透明誘電体薄膜と、さらにその上に透明導電層とを順次形成するとともに、フィルム基材の他方の面に透明な粘着剤層を介して別の透明基体を貼り合わせてなる透明導電性フィルムが提案されている(特許文献2)。かかる透明導電性フィルムによれば、透明導電層の透明性および導電層の耐擦傷性を改良できるとともに、タッチパネル用としての打点特性の改良がなされている。また、透明なフィルム基材の一方の面に、複数の誘電体薄膜を介して透明導電層を形成することによって、タッチパネルを屈曲状態で用いる場合の打点特性の改良がなされている(特許文献3)。
一方で、ゲーム機のタッチパネルは、他の用途に比して強打される場合が多いため、用いられる透明導電性フィルムには、より重荷重での打点特性が求められる。また、タッチパネルの狭額縁化に伴い、画面端部における打点特性や摺動耐久性も求められるようになっているが、画面端部の入力操作の際は、画面中央部の場合に比して、透明導電性フィルムがより高屈曲状態となる。そのため、透明導電性フィルムには、重荷重での打点特性に加えて、より高い耐屈曲性も求められるようになっている。
特公平3−15536号公報 特開平6−222352号公報 特開2002−326301号公報
上記の実情に鑑み、本発明は、重荷重での打点特性に優れ、かつ耐屈曲性に優れる透明導電性フィルムを提供することを目的とする。
本発明者らが鋭意検討の結果、透明導電層が所定の圧縮残留応力を有する場合に、打点特性および耐屈曲性が向上することを見出し、本発明にいたった。
本発明は、可撓性透明基材上に形成された結晶性のインジウム・スズ複合酸化物(結晶性ITO)からなる透明導電層を有する透明導電性フィルムに関する。結晶性ITO膜の圧縮残留応力は、0.4〜2GPaであることが好ましい。透明導電層は、加熱により結晶化されたものであることが好ましい。また、結晶性ITO膜は、結晶化前のアモルファスITO膜を基準とする寸法変化が、面内の少なくとも一方向において−0.3%〜−1.5%であることが好ましい。
さらに、本発明は、前記透明導電性フィルムの製造方法に関する。本発明の製造方法は、可撓性透明基材を準備する基材準備工程、可撓性透明基材上に非晶質のインジウム・スズ複合酸化物からなる非晶質透明導電層を形成する製膜工程、および非晶質透明導電層を加熱して、結晶性のインジウム・スズ複合酸化物(結晶性ITO膜)に転化する熱処理工程、を有する。熱処理工程において、少なくとも面内の一方向において透明導電層に圧縮応力が付与される。
熱処理工程において、面内の少なくとも一方向における寸法変化が−0.3%〜−1.5%となるように透明導電層が圧縮されることが好ましい。また、熱処理工程における圧縮応力の付与によって、結晶性透明導電層の圧縮残留応力を0.4〜2GPaとすることが好ましい。
熱処理工程における加熱温度は150℃〜210℃であることが好ましく、加熱時間は150分以下であることが好ましい。
本発明の透明導電性フィルムは、可撓性透明基材上に、所定の圧縮残留応力を有する結晶性のITO膜が形成されている。圧縮残留応力を有する結晶性のITO膜は、重荷重での打点特性に優れ、さらには、高い耐屈曲性も備えている。そのため、本発明の透明導電性フィルムは、タッチパネル用として好適に用いられ、特に、重荷重での打点特性が求められるゲーム機や、高い屈曲耐性が求められるフレキシブルディスプレイのタッチパネル用として好適に用いられる。
一実施形態にかかる透明導電性フィルムの積層構成を表す模式的断面図である。 一実施形態にかかる透明導電性フィルムの積層構成を表す模式的断面図である。 透明導電性フィルムの製造工程の一例を概念的に表す模式的断面図である。 透明導電性フィルムの製造工程の一例を概念的に表す模式的断面図である。 透明導電性フィルムの製造工程の一例を概念的に表す模式的断面図である。 X線散乱法による測定における角度θおよびΨを説明するための図である。 評価のために作製したタッチパネルの構成を表す模式的断面図である。 リニアリティ測定の概略を示す説明図である。 透明導電性フィルムの寸法変化挙動をTMAにより測定した結果を表す図である。 透明導電性フィルムの寸法変化挙動をTMAにより測定した結果を表す図である。
本発明にかかる透明導電性フィルムの構成について、図面を参照して説明する。図1は本発明の第1の実施形態にかかる透明導電性フィルム101を模式的に表す断面図である。透明導電性フィルム101は、1枚の透明基体フィルム11を含む可撓性透明基材1上に、結晶性のインジウム・スズ複合酸化物(ITO)膜3が形成された構成を有する。可撓性透明基材1は透明基体フィルム11のみからなるものであってもよく、図1に示すように、透明基体フィルム11のITO膜が形成される側の表面にアンダーコート層16や、その反対側の表面に背面コート層17が形成されていてもよい。なお、図1においては、アンダーコート層16および背面コート層17がそれぞれ1層形成された形態が図示されているが、これらの層は2層以上からなるものであってもよい。
図2は、本発明の第2の実施形態にかかる透明導電性フィルム102を模式的に表す断面図である。透明導電性フィルム102は、2枚以上の可撓性透明基材を含み、第1の可撓性透明基材1上に、結晶性のインジウム・スズ複合酸化物(ITO)膜3が形成された構成を有する。可撓性透明基材1、2は、適宜の粘着剤層5を介して貼り合わされていることが好ましい。なお、図2においては2枚の可撓性透明基材1、2を有する構成が図示されているが、3枚以上の可撓性透明基材が積層されていてもよい。可撓性透明基材1、2は、それぞれ透明基体フィルム11、12のみからなるものであってもよい。また、図2に示すように、第1の可撓性透明基材1を構成する第1の透明基体フィルム11のITO膜が形成される側の表面にアンダーコート層16が形成されている形態や、第2の可撓性透明基材2を構成する第2の透明基体フィルム12の第1の可撓性透明基材1と貼り合わされるのと反対側の面に背面コート層17が形成されている形態も好適に採用し得る。なお、図2においては、アンダーコート層16および背面コート層17がそれぞれ1層形成された形態が図示されているが、これらの層は2層以上からなるものであってもよい。また、図示される以外のコート層を有していてもよい。
以下、透明導電性フィルムの構成および製造方法に関して、第1の実施形態を中心に説明するが、各構成および製造方法に関する記載は、第2の実施形態に関してもそのまま援用される。
<可撓性透明基材>
(透明基体フィルム)
可撓性透明基材1を構成する透明基体フィルム11は、可撓性および透明性を有するものであれば、その材質に特に限定はなく、適宜なものを使用することができる。具体的には、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、特に好ましいものは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などである。
透明基体フィルム11の厚みは、2〜300μm程度であることが好ましく、6〜200μmであることがより好ましい。フィルムの厚みが過度に小さいと、機械的強度が不足し、その上にアンダーコート層16や透明導電層(ITO膜)3を形成する操作が困難になる場合がある。一方、フィルムの厚みが過度に大きいと、透明導電層の耐擦傷性やタッチパネル用としての打点特性の向上が図れない場合がある。
(アンダーコート層)
透明基体フィルム11のITO膜3を製膜する側の面には、可撓性透明基材1とITO膜3との密着性の向上や、反射特性の制御等を目的としてアンダーコート層16が設けられていてもよい。アンダーコート層は1層でもよいし、2層あるいはそれ以上設けてもよい。アンダーコート層は、無機物、有機物、あるいは無機物と有機物との混合物により形成される。アンダーコート層を形成する材料としては、例えば、無機物として、SiO2、MgF2、A123などが好ましく用いられる。また有機物としてはアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマーなどの有機物が挙げられる。特に、有機物として、メラミン樹脂とアルキド樹脂と有機シラン縮合物の混合物からなる熱硬化型樹脂を使用することが好ましい。アンダーコート層は、上記の材料を用いて、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、塗工法などにより形成できる。
なお、ITO膜の形成に際して、事前に可撓性透明基材1の表面にコロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、スパッタエッチング処理等の適宜な接着処理を施して、ITO膜との密着性を高めることもできる。
(背面コート層)
透明基体フィルム11のITO膜3を製膜するのと反対側の面には、背面コート層17として、例えば視認性の向上を目的とした防眩処理層や反射防止処理層を設けたり、外表面の保護を目的としたハードコート層を設けることができる。ハードコート層には、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキド系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂などの硬化型樹脂からなる硬化被膜が好ましく用いられる。これらの背面コート層17は、透明導電層3を製膜する前に透明基体フィルム11上に設けてもよいし、透明導電層3の製膜後に設けてもよい。
ITO膜が形成される前の可撓性透明基材は、少なくとも一方向に熱収縮性を有することが好ましい。後述するように、結晶性のITO膜は、アモルファスITO膜を加熱処理することにより形成され得るが、基材が熱収縮性を有していれば、加熱処理時に基材が収縮することによってITO膜に圧縮応力が付与されるため、所望の圧縮残留応力を有する結晶性のITO膜を容易に形成し得る。
可撓性透明基材1の加熱時の寸法変化率(熱収縮率)は、ITO膜を結晶化する際に所定の圧縮応力が付与されるように設定されることが好ましい。そのため、熱収縮率の好ましい範囲は、ITO膜の結晶化時の加熱条件(温度および時間)によって異なるが、ITO膜を製膜する前の基材は、例えば、JIS K7133(1995)に準拠して、150℃で1時間加熱した際の寸法変化率が、−2%〜+1%程度であることが好ましく、−1.5%〜0%程度であることがより好ましい。例えば、透明基体フィルム11として、少なくとも一方向に延伸された延伸フィルムを用いることで、可撓性透明基材1に上記のような熱収縮性を持たせることができる。加熱収縮量は、フィルムの延伸倍率等によって所定範囲に制御し得る。
可撓性透明基材の寸法変化率(熱収縮率)が方向によって異なる場合は、いずれか一方向の寸法変化率が前記のような範囲であることが好ましい。なお、基材が熱収縮性を有していない場合、あるいは基材の寸法変化率が前記の範囲外である場合であっても、ITO膜の加熱結晶化の条件を調整して、収縮量を制御することができる。また、ITO膜の加熱結晶化時に、基材1とは別に熱収縮フィルムを貼り合わせる等の手法により外部から収縮応力を付与したり、あるいは外部から張力を付与して熱収縮量を制御する等の方法によっても、所望の圧縮残留応力を有する結晶性のITO膜を形成し得る。
<透明導電層>
透明導電層3は結晶性のITOを主成分とするものである。以下、透明導電層を「結晶性ITO膜」あるいは単に「ITO膜」と記載する場合がある。本発明において、結晶性ITO膜3の圧縮残留応力は、0.4〜2GPaであることが好ましく、0.7〜1.6GPaであることがより好ましく、0.9〜1.55GPaであることがさらに好ましく、1.2〜1.4GPaであることが特に好ましい。結晶性ITO膜が圧縮残留応力を有するとは、歪みがない場合に比して格子定数が小さいことを意味する。圧縮残留応力が0.4GPa以上である場合に、結晶性ITO膜は、重荷重での打点特性および耐屈曲性に優れる。一方、ITO膜の膜剥がれや、透明導電性フィルムのカールの発生等の不具合を抑止する観点からは、圧縮残留応力は2GPa以下であることが好ましい。
また、ITO膜の圧縮残留応力が過度に大きいと、加湿熱による抵抗変化が大きくなり、透明導電性フィルムの加湿熱信頼性が十分でなくなる場合がある。そのため、より信頼性の高い透明導電性フィルムを得る観点からは、結晶性ITO膜の圧縮残留応力を1.6GPa以下とすることが好ましく、1.55GPa以下とすることがより好ましく、1.4GPa以下とすることがさらに好ましい。ITO膜の圧縮残留応力が大きい場合に、加湿熱による抵抗変化が大きくなる原因としては、圧縮残留応力の大きいITO膜は、結晶粒界にひずみやクラックが生じ易いことが考えられる。すなわち、透明導電性フィルムが高温高湿環境に曝されると、透明基体フィルムは吸湿膨張を生じるために、その上に形成されているITO膜に引張応力が付与され、結晶粒界のひずみやクラックを起点とした膜破壊が生じて抵抗が上昇するものと推定される。
後の実施例にて詳述するように、結晶性ITO膜の圧縮残留応力σは、粉末X線回折における2θ=60°付近の(622)面の回折ピークから求められる格子歪みεと、弾性係数(ヤング率)Eおよびポアソン比νに基づいて算出することができる。
結晶性のITO膜は、基材上に例えば200℃以上の高温でITOをスパッタ製膜する等の方法によっても得られるが、基材の耐熱性等を考慮すると、一旦基材上にアモルファスITO膜を形成した後、該アモルファスITO膜を基材とともに加熱・結晶化することによって形成することが好ましい。
(アモルファスITO膜の形成)
アモルファスITO膜は気相法によって形成される。気相法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等があげられるが、均一な薄膜が得られる点からスパッタ法が好ましく、DCマグネトロンスパッタ法を好適に採用し得る。なお、「アモルファスITO」とは、完全に非晶質であるものに限られず、少量の結晶成分を有していてもよい。ITOがアモルファスであるか否かの判定は、基材上にITO膜が形成された積層体を濃度5wt%の塩酸に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm間の端子間抵抗をテスタにて測定することが可能である。アモルファスITO膜は塩酸によりエッチングされて消失するために、塩酸への浸漬により抵抗が増大する。本明細書においては、塩酸への浸漬・水洗・乾燥後に、15mm間の端子間抵抗が10kΩを超える場合に、ITO膜がアモルファスであるものとする。
基材上に形成されるアモルファスITO膜3aは、短時間の加熱で結晶化するものであることが好ましい。具体的には150℃で加熱した場合に60分以内、より好ましくは30分以内、さらに好ましくは20分以内に結晶化が完了し得るものであることが好ましい。このようなタイムスケールでITOの結晶化が可能であれば、基材の熱収縮に合わせてITOの結晶化が進行するために、結晶化の際に圧縮応力が付与され、圧縮残留応力を有する結晶性ITO膜が形成されやすくなる。ITO膜の結晶化が完了しているか否かは、前記のアモルファスITOの判定と同様に、塩酸への浸漬・水洗・乾燥を行い、15mm間の端子間抵抗から判断し得る。端子間抵抗が10kΩ以内であれば、結晶性ITOへ転化しているものと判断される。
アモルファスITO膜は、例えばスパッタに用いるターゲットの種類や、スパッタ時の到達真空度、導入ガス流量、製膜温度(基板温度)等を調整することで、完全結晶化に要する温度や時間を調節することができる。
スパッタターゲットとしては、金属ターゲット(In−Snターゲット)または金属酸化物ターゲット(In−SnOターゲット)が好適に用いられる。In−SnO金属酸化物ターゲットが用いられる場合、該金属酸化物ターゲット中のSnOの量が、InとSnOとを加えた重さに対し、0.5重量%〜15重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましく、2〜6重量%であることがさらに好ましい。In−Sn金属ターゲットが用いられる反応性スパッタの場合、該金属ターゲット中のSn原子の量が、In原子とSn原子とを加えた重さに対し、0.5重量%〜15重量%であることが好ましく、1〜10重量%であることがより好ましく、2〜6重量%であることがさらに好ましい。ターゲット中のSnあるいはSnOの量が少なすぎると、ITO膜の耐久性に劣る場合がある。また、SnあるいはSnOの量が多すぎると、結晶化に要する時間が長くなる傾向がある。すなわち、結晶化の際に、SnはIn結晶格子に取り込まれる量以外は不純物的な働きをするために、ITOの結晶化を妨げる傾向がある。そのため、ターゲット中のSnあるいはSnOの量は上記範囲内とすることが好ましい。
このようなターゲットを用いたスパッタ製膜にあたり、まず、スパッタ装置内の真空度(到達真空度)を、好ましくは1×10−3Pa以下、より好ましくは1×10−4Pa以下となるまで排気して、スパッタ装置内の水分や基材から発生する有機ガスなどの不純物を取り除いた雰囲気とすることが好ましい。水分や有機ガスの存在は、スパッタ製膜中に発生するダングリングボンドを終結させ、ITOの結晶成長を妨げるからである。
つぎに、このように排気したスパッタ装置内に、Ar等の不活性ガスを導入して、スパッタ製膜が行われる。スパッタターゲットとして金属ターゲット(In−Snターゲット)を用いる場合は、不活性ガスとともに、反応性ガスである酸素ガスを導入してスパッタ製膜が行われる。不活性ガスに対する酸素の導入量は0.1体積%〜15体積%であることが好ましく、0.1体積%〜10体積%であることがより好ましい。また、製膜時の圧力は0.05Pa〜1.0Paであることが好ましく、0.1Pa〜0.7Paであることがより好ましい。製膜圧力が高すぎると製膜速度が低下する傾向があり、逆に圧力が低すぎると放電が不安定となる傾向がある。
スパッタ製膜時の基板温度は40℃〜190℃であることが好ましく、80℃〜180℃であることがより好ましい。製膜温度が高すぎると、熱しわによる外観不良や、基材の熱劣化を生じる場合がある。逆に製膜温度が低すぎると、ITO膜の透明性等の膜質が低下する場合がある。
ITO膜の膜厚は、結晶化後のITO膜が所望の抵抗を有するように適宜に調製し得るが、例えば10〜300nmであることが好ましく、15〜100nmであることがより好ましい。ITO膜の膜厚が小さいと、結晶化に要する時間が長くなる傾向があり、ITOの膜厚が大きいと、結晶化後の比抵抗が低くなりすぎたり、透明性が低下する等、タッチパネル用の透明導電性フィルムとしての品質に劣る場合がある。
(ITO膜の加熱結晶化)
このようにして得られた可撓性透明基材1とアモルファスITO膜3aとの積層体は熱処理に供され、アモルファスITO膜が加熱されることにより結晶性ITO膜に転化される。圧縮残留応力を有する結晶性ITO膜を得る観点からは、この熱処理工程において、ITO膜に圧縮応力が付与されることが好ましい。具体的には、ITO膜の膜面の一方向における寸法変化は、−0.3%〜−1.5%であることが好ましく、−0.55%〜−1.2%であることがより好ましく、−0.7%〜−1.05%であることがさらに好ましく、−0.7%〜−0.9%であることが特に好ましい。なお、寸法変化(%)は、熱処理工程に供する前のITO膜の一方向における2点間の距離Lが、熱処理熱後にLに変化した場合において、100×(L−L)/Lで定義される。寸法変化を前記範囲とすることにより、熱処理後の結晶性ITO膜が、前述のような所定の圧縮残留応力を有し得るため、打点特性や屈曲性に優れる透明導電性フィルムが得られうる。
熱処理における加熱温度および加熱時間は、ITO膜が完全結晶化するように適宜に設定し得る。例えば、加熱温度は150℃〜210℃であることが好ましく、160℃〜200℃であることがより好ましく、170℃〜190℃であることがさらに好ましい。加熱温度が低すぎると、結晶化が進行しなかったり、結晶化に長時間を要し生産性に劣る傾向がある。また、加熱温度が低いと、基材の熱収縮量が小さいために、ITO膜の結晶化時に適切な圧縮応力を付与できない場合がある。一方、加熱温度が高すぎると、基材が劣化したり、基材の急激な熱収縮によってITO膜の残留圧縮応力が過剰となり、透明導電性フィルムの加湿熱信頼性を確保できない場合がある。
加熱時間は、150分以下であることが好ましい。加熱時間が長すぎると、基材が劣化したり、生産性に劣る傾向がある。一方、加熱時間が短すぎると、ITOの結晶化が進行しなかったり、基材の熱収縮が不十分となり、ITO膜に適度な圧縮応力を付与できない場合がある。かかる観点から、加熱時間は5〜60分であることが好ましく、5分〜30分であることがより好ましい。このようなタイムスケールでITO膜の加熱を行って結晶化すれば、基材の収縮に起因する応力がITOに伝わり、圧縮残留応力を有する結晶性ITO膜が形成されやすくなる。なお、上記の加熱温度や加熱時間は一例であり、アモルファスITO膜の特性により、適切な加熱温度や加熱時間が選択され得る。
ITO膜への圧縮応力の付与は、可撓性透明基材の熱収縮を利用する方法が好適に採用される。ITO膜の加熱結晶化の際の寸法変化率を前記のような好ましい範囲とする観点において、可撓性透明基材1上に結晶化前のアモルファスITO膜3aが形成された積層体は、150℃で1時間加熱した際の寸法変化率が、−2%〜+1%程度であることが好ましく、−1.5%〜0%程度であることがより好ましく、−1.2%〜−0.3%程度であることがさらに好ましい。なお、一般に、アモルファスITO膜の厚みは、可撓性透明基材の厚みに比して遥かに小さいため、アモルファスITO膜と可撓性透明基材の積層体の寸法変化率は、可撓性透明基材の寸法変化率と略同等である。
ITO膜への圧縮応力の付与は、上記のような基材の熱収縮力以外に、例えば、ITO膜の加熱結晶化時に、基材1とは別に、ITO膜面上や基材上に熱収縮フィルムを貼り合わせる等の手法により外部から収縮応力を付与することによっても実現し得る。また、収縮量が大きい(寸法変化率が負で絶対値が大きい)基材を用い、外部から張力を付与して収縮量を制御することもできる。
また、可撓性透明基材の寸法変化率(熱収縮率)が方向によって異なる場合は、いずれか一方向の寸法変化率が前記のような範囲であることが好ましい。なお、基材が熱収縮性を有していない場合、あるいは寸法変化率が前記の範囲外である場合であっても、ITO膜の加熱結晶化の条件を調整して、収縮量を制御することができる。
熱処理時の加熱条件は、ITOを結晶化させるとの観点に加えて、ITOの結晶化のタイムスケールに合わせて基材が熱収縮するように選択されることが好ましい。すなわち、ITOの結晶化が進行するに伴って、あるいはITOの結晶化後に基材が熱収縮すれば、結晶性ITO膜に圧縮応力が付与されるため、圧縮残留応力を有する結晶性ITO膜が得られる。
このような加熱条件は、基材の熱変形プロファイルによって異なるが、例えばTMA等の熱分析によって基材、あるいはアモルファスITO膜形成後の基材の熱変形プロファイルを事前に確認することで、ITOの結晶のタイムスケールに合わせて基材が熱収縮するような加熱条件を選択することができる。ITOの結晶化と基材の熱変形の関係について、TMAを用いて模式的に解析した例を図7および図8に示す。
図7および図8は、厚み25μmのPETフィルムの一方の面に厚み20nmのアモルファスITO膜が形成され、他方の面に厚み25μmの粘着剤層を介して合計厚み130μmのPETフィルム(ハードコート層の厚み5μm)が積層された透明導電性フィルムの加熱時の寸法変化挙動をTMAにて解析したものである。横軸は時間であり、縦軸は温度および寸法変化率を表している。測定条件は、試料幅:4mm、荷重:20mN/4mm、初期長さ:10mm、昇温速度および降温速度:5℃/分、保持時間:60分であり、図7および図8は、それぞれ保持温度190℃および150℃の測定結果を表している。
図7および図8のそれぞれと同様の温度プロファイルにて加熱を行った際の経時的な結晶化の進行を、X線回折法における(222)面の回折ピーク強度により解析したところ、保持温度190℃(図7に対応)では、温度約120℃から結晶化が進行し、温度が180℃に到達した時点で結晶化がほぼ完了していた。一方、保持温度150℃(図8に対応)では、温度150℃到達後約30分で結晶化がほぼ完了していた。
図7では、結晶化の進行時から結晶化が完了する時点(昇温開始から30分〜40分)において、第1段階の大きな収縮(マイナス方向の寸法変化)が生じ、降温時(=結晶化終了後)には第2段階の収縮が生じており、これらの収縮の際にITO膜に圧縮応力が付与されると推定される。これに対して、図8においても、結晶化の進行時および降温時に収縮が生じているが、図7に比して第1段階の収縮量が小さいことがわかる。一方、後述の実施例2と実施例6とを対比すると、190℃で結晶化を行った実施例2においては、ITO膜の残留圧縮応力が1.50GPaであるのに対して、150℃で結晶化を行った実施例6では、ITO膜の残留圧縮応力が0.57GPaとなっている。このことから、TMAを用いた模式的な解析は、実際にITO膜の結晶化を行った際の寸法変化挙動の傾向を再現していると考えられ、TMAの解析結果に基づいてITOの結晶のタイムスケールに合わせて基材が収縮するような加熱条件を選択し得るといえる。
本発明においては、上記のように、製膜・結晶化の際にITO膜に圧縮応力が付与されることによって、耐久性に優れる透明導電性フィルムが得られる。さらに、屈曲時のクラック発生抑止や、重荷重での打点特性、およびペン摺動耐久性がより優れた透明導電性フィルムを得る観点において、ITO膜の結晶は所定の粒径分布を有することが好ましい。すなわち、ITO膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上であることが好ましく、最大粒径が300nmを超える結晶が存在しないことがより好ましい。また、最大粒径が200nm以下の結晶含有量が50面積%を超えることが好ましい。中でも、最大粒径が100nm以下の結晶含有量が5面積%を超え、残りの結晶の最大粒径が100nmを超え200nmの分布幅に存在することが好ましく、100nm以下の結晶含有量が10面積%以上であることが特に好ましい。
なお、ITO膜の結晶粒径が小さくなりすぎると、膜中に非結晶状態に類似した部分が存在し、信頼性やペン耐久性が低下する場合があるため、結晶粒径が極端に小さくなりすぎないようにするのが望ましい。かかる観点から、結晶の最大粒径は、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であるのがさらに好ましい。
結晶の最大粒径および分布は、電界放出型透過型電子顕微鏡(FE−TEM)により導電性薄膜を表面観察することにより決定される。結晶の最大粒径は、観察される多角形状または長円形状の各領域における、対角線または直径の最大のものである。また、前記最大粒径を有する結晶の含有量は、具体的には、前記電子顕微鏡画像において単位面積(1.5μm×1.5μm)あたりの、各粒径を有する結晶が占める面積比率である。
ITO膜の結晶粒径および粒径分布を上記のように制御するには、導電性薄膜の材料構成やその薄膜形成方法を適宜選択すればよい。例えば、ITO中のSnO含量を増やすことにより、粒径が小さい結晶の含有割合を増大させることができる。ITO中のSnO含有量(InとSnOとを加えた重さに対するSnOの含有量)は、好ましくは2重量%以上、よりこのましくは3重量%以上である。また、真空蒸着法により形成された無機物の膜、中でも好ましくは真空蒸着法により形成されたSiO薄膜を、ITO膜製膜の下地層となるアンカー層、すなわち、ITO膜に最も近いアンカー層として有することによっても、結晶化後のITO膜の結晶粒径を小さくすることができる。その他、ITO製膜時の到達真空度を小さくする(より真空に近づける)ことや、製膜時の基板温度を高くすることによっても、結晶粒径が小さくなる傾向がある。
[第2の実施形態]
次に、2枚以上の可撓性透明基材を含む本発明の第2の実施形態にかかる透明導電性フィルム102について、第1の実施形態とは異なる点を中心に説明する。
第2の実施形態にかかる透明導電性フィルム102は、2枚以上の可撓性透明基材を含む。第1の可撓性透明基材1は、ITO膜を形成するための基材であり、第1の透明基体フィルム11上に、必要に応じてアンダーコート層16等が形成されている。第2の可撓性透明基材は、粘着剤層5等の適宜の接着手段を介して第1の可撓性透明基材に貼り合わせられている。第2の可撓性透明基材は、第2の透明基体フィルム12上に、必要に応じて背面コート層17等が形成されたものである。透明基体フィルム11、12としては、第1の実施形態に関して前記したのと同様のものが好適に用いられる。なお、図2においては、2枚の可撓性透明基材を有する形態が図示されているが、3枚以上の可撓性透明基材を有する形態も採用され得る。
第2の実施形態においても、結晶性のITO膜は、第1の実施形態に関して前記したのと同様の圧縮残留応力を有していることが好ましい。このような結晶性ITO膜は、第1の実施形態について前記したように、一旦アモルファスITO膜を形成した後、該アモルファスITO膜を基材とともに加熱・結晶化することによって形成することが好ましい。
<粘着剤層>
複数の透明基体フィルム11、12は粘着剤層5を介して貼り合わせられることが好ましい。粘着剤層5の構成材料としては、透明性を有するものであれば特に制限なく使用できる。例えば、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性及び接着性等の粘着特性を示し、耐候性や耐熱性等にも優れるという点からは、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
粘着剤層5は、例えば、そのクッション効果により、透明基体フィルム11上に設けられた透明導電層3の耐擦傷性やタッチパネル用としての打点特性を向上させる機能を有し得る。この機能をより効果的に発揮させる観点から、粘着剤層5の弾性係数を1〜100N/cmの範囲、厚みを1μm以上(より好ましくは5〜100μm)の範囲に設定するのが好ましい。この範囲内であれば、上記効果が十分発揮され、透明基体同士の密着力も十分となる。
<透明導電性フィルムの製造工程>
図3A〜Cは、透明導電性フィルム102の製造工程を概念的に表す模式的断面図である。なお、図3A〜Cにおいては、アンダーコート層や背面コート層の図示は省略されている。粘着剤層5を介しての透明基体フィルム11、12の貼り合わせは、ITO膜の形成前(図3A)、アモルファスITO膜を形成後、加熱結晶化前(図3B)、アモルファスITO膜の加熱結晶化後(図3C)、のいずれにおいても行い得る。
一般に、スパッタ法等によるアモルファスITO膜の形成は、ロール・トゥー・ロール方式により連続的に行われるのに対して、ITO膜の加熱結晶化は、枚葉に切り出されたフィルムをバッチ式で加熱処理することが多い。そのため、図3Aおよび図3Bに示すように、ITO膜の結晶化よりも前に基材の貼り合わせを行う形態においては、貼り合わせをロール・トゥー・ロール方式により連続的に行うことができる。
特に、図3Bに示すように、基材の貼り合わせ前に、第1の可撓性透明基材1上にアモルファスITO膜3aの製膜を行えば、複数の透明基体フィルムを事前に貼り合わせる場合(図3A)に比して、スパッタ製膜時の基材厚みが小さくなる。そのため、ロール巻回体の巻取径が小さくなり、巻取式スパッタリング装置によって連続製膜できる製膜長が長くなるため、生産性の観点において好ましい。
図3Aに示すように、ITOの製膜前に可撓性透明基材1、2の貼り合わせを行う場合、複数の基材が貼り合わされた可撓性透明基材上にアモルファスITO膜3aが形成され(図3A(c))、結晶化が行われる。そのため、この貼り合わせ後の2枚(または2枚以上)の可撓性透明基材を一体とみなした基材の厚みや寸法変化率等が、第1の実施形態に関して前記した範囲内となるようにすることが好ましい。
図3Bに示すように、アモルファスITO膜を形成後、加熱結晶化前に透明基体フィルム11、12の貼り合わせを行う場合、アモルファスITO膜の製膜時(図3B(b))に加熱された第1の可撓性透明基材と、ITO膜の製膜には供されていない第2の可撓性透明基材とが貼り合わされ(図3B(c))、結晶化が行われる)図3B(d))。この場合も、貼り合わせ後の可撓性透明基材を一体とみなした場合の厚みや寸法変化率等が、第1の実施形態に関して前記した範囲内となるようにすることが好ましい。
図3Aおよび図3Bのような製造方法においては、2枚、あるいはそれ以上の可撓性透明基材が貼り合わされた後、熱処理工程において、ITO膜が結晶化される。その際、第1の実施形態に関して前記したのと同様に、基材の熱収縮にともなってITO膜に圧縮応力が付与されることが好ましいが、同時に各可撓性透明基材単体の寸法変化が略同等であることが好ましい。各可撓性透明基材の寸法変化が異なると、熱処理工程において基材間の剥がれが生じたり、透明導電性フィルムにカールを生じる等の不具合を生じる場合がある。かかる観点からは、熱処理工程に供する前の各可撓性透明基材は、150℃で1時間加熱した際の寸法変化率の差の絶対値が、0.5%以下であることが好ましく、0.3%以下であることがより好ましい。
特に図3Bに示すような形態においては、第1の可撓性透明基材1はITO膜の形成に供される際に加熱されるのに対して、第2の可撓性透明基材2がこのような加熱を経ることなく熱処理工程に供されると、両者の熱履歴が大きく異なるために、熱処理工程での寸法変化の差が大きくなる場合がある。可撓性透明基材1、2の寸法変化率の差を小さくする観点において、例えば、第1の可撓性透明基材1と貼り合わせる前の第2の可撓性透明基材2を、事前に加熱処理して、寸法安定化を図ることが好ましい。寸法安定化のための加熱条件は、寸法変化率の差が小さくなるように適宜に設定されるが、例えば130℃〜160℃で0.5分〜3分程度の加熱を行うことが好ましい。
図3Cに示すように、ITO膜の加熱結晶化後に透明基体フィルム11、12の貼り合わせを行う場合、第1の実施形態と同様に、1枚の透明基体フィルムを含む可撓性透明基材1上に結晶性ITO膜3が形成され(図3C(c))。その後、粘着剤層5を介して、第2の透明基体フィルム12が貼り合わされる(図3C(d))。
上記のような本発明の透明導電性フィルムは、各種装置の透明電極や、タッチパネルの形成に好適に用いられる。特に、本発明の透明導電性フィルムは、透明導電層が重荷重での打点特性、および耐屈曲性に優れることから、抵抗膜方式のタッチパネルに好適であり、中でもゲーム機やフレキシブルディスプレイのタッチパネル用に好適に用いられる。
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[評価方法]
実施例での評価は、以下の方法によりおこなったものである。
<抵抗および表面抵抗>
抵抗値は二端子法により測定した。表面抵抗は、JIS K7194(1994年)に準じて四探針法により測定した。
<寸法変化率>
基材上にアモルファスITO膜が形成された積層体のITO膜面に、スパッタ製膜時の搬送方向(以下、「MD方向」)に約80mmの間隔で2点の標点(傷)を形成し、加熱結晶化前の標点間距離Lおよび、加熱後の標点間距離Lを、二次元測長機により測定して、寸法変化率(%)を求めた。
<ITO膜の圧縮残留応力>
残留応力は、X線散乱法により、ITO膜の結晶格子歪みから間接的に求めた。
株式会社リガク製の粉末X線回折装置により、測定散乱角2θ=59〜62°の範囲で0.04°おきに回折強度を測定した。各測定角度における積算時間(露光時間)は100秒とした。
得られた回折像のピーク(ITOの(622)面のピーク)角2θ、およびX線源の波長λから、ITO膜の結晶格子間隔dを算出し、dを基に格子歪みεを算出した。算出にあたっては下記式(1)、(2)を用いた。
Figure 0006181806
ここで、λはX線源(Cu Kα線)の波長(=0.15418nm)であり、dは無応力状態のITOの格子面間隔(=0.15241nm)である。なお、dはICDD(The International Centre for Diffraction Data)データベースから取得した値である。
上記のX線回折測定を、図4に示すフィルム面法線とITO結晶面法線とのなす角Ψが45°、50°、55°、60°、65°、70°、77°、90°のそれぞれにつておこない、それぞれのΨにおける格子歪みεを算出した。なお、フィルム面法線とITO結晶面法線とのなす角Ψは、TD方向(MD方向と直交する方向)を回転軸中心として試料を回転することによって、調整した。ITO膜面内方向の残留応力σは、sinΨと格子歪εとの関係をプロットした直線の傾きから下記式(3)により求めた。
Figure 0006181806
上記式において、EはITOのヤング率(116GPa)、νはポアソン比(0.35)である。これらの値は、D. G. Neerinckand T. J. Vink, “Depth profiling of thin ITO films by grazing incidence X-ray diffraction”, Thin Solid Films, 278 (1996), PP 12-17.に記載されている既知の実測値である。
<重荷重ペン打点耐久性>
(タッチパネルの作製)
透明導電性フィルムを、MD方向を長辺とする60mm×140mmの長方形に切り出した。その両短辺上に銀ペーストを幅5mmでスクリーン印刷し、室温で24時間乾燥して、銀電極を形成した。銀電極が形成された透明導電性フィルムとガラス21上に表面粗さRa=0.9nmのITO膜22が形成されたITO導電ガラス(日本曹達製)とを、厚み180μmのスペーサ8を介してITO形成面同士が対向するように配置して、図5に模式的に示すようなタッチパネルを作製した。
(重荷重ペン打点試験)
作製したタッチパネルの上部電極(透明導電性フィルム)側の上方2cmの高さから、1.5kgの荷重をかけたペン先R=0.8mmのポリアセタール製ペンを自由落下させた。この操作を1mm間隔で直線状に計10点行った。この10点の落下試験を1セットとし、1セットの試験後および5セットの試験後のリニアリティを測定した。
(リニアリティの測定)
透明導電性フィルムの短辺上に形成された銀電極間に5Vの電圧を印加し、一方の電極(端子A)および他方の電極(端子B)間の出力電圧を測定した。リニアリティは、測定開始位置Aでの出力電圧をE、測定終了位置Bでの出力電圧をE、AB間の距離をLAB、開始位置Aからの距離Xの測定点での出力電圧をE、理論値をEXXとすると、以下の計算から、求められる。
XX={X・(E−E)/LAB}+E
リニアリティ(%)=〔(EXX−E)/(E−E)〕×100
なお、リニアリティ測定の概略は、図6に示すとおりである。タッチパネルを用いる画像表示装置では、ペンで押さえられることにより上部パネルと下部パネルの接触部分の抵抗値から画面上に表示されるペンの位置が決定されている。上部および下部パネル表面の出力電圧分布が理論線(理想線)のようになっているものとして抵抗値が決められるが、電圧値が、図 の実測値のように理論線からずれると、実際のペン位置と抵抗値によって決まる画面上のペン位置がうまく同調しなくなる。理論線からのずれがリニアリティであり、その値が大きいほど、実際のペン位置と画面上のペンの位置のずれが大きくなる。すなわち、耐久試験後のリニアリティが小さいほど、耐久性が優れていることを意味する。
<ペン摺動耐久試験>
(タッチパネルの作製)
スペーサの厚みを180μmから100μmに変更した以外は、上記の重荷重ペン打点耐久性の場合と同様にして、図5に模式的に示すようなタッチパネルを形成した。
(ペン摺動試験)
作製したタッチパネルの上部電極(透明導電性フィルム)側から、ペン先R=0.8mmのポリアセタール製ペンを荷重250gで50000回(25000往復)の摺動を行った。タッチパネル端部(銀電極)からの距離1.66mmの位置で摺動を行った場合と距離1.39mmの位置で摺動を行った場合のそれぞれの試料について、上記重荷重ペン打点耐久性の場合と同様にして、リニアリティを測定した。
<耐屈曲性>
(試験片の作製)
透明導電性フィルムを、MD方向を長辺とする10mm×150mmの長方形に切り出し、両短辺上に銀ペーストを幅5mmでスクリーン印刷し、室温で24時間乾燥して、銀電極を形成した。この試験片の抵抗(初期抵抗R)を二端子法により求めた。
(引張屈曲性)
試験片を、ITO形成面を外側にして穴開け径17mmφのコルクポーラーに沿って湾曲させ、1.0kgの荷重で10秒間保持した。その後、順次、穴開け径15.5mmφ、14mmφ、12.5mmφ、11mmφのコルクポーラーを用いて同様に湾曲させて1.0kgの荷重で10秒間保持することを繰り返した後、抵抗R11Tを測定し、初期抵抗に対する変化率R11T/Rを求めた。その後、さらに穴開け径9.5mmφのコルクポーラーに沿って試験片を湾曲させ、1.0kgの荷重で10秒間保持した後、抵抗R9.5Tを測定し、初期抵抗に対する変化率R9.5T/Rを求めた。
(圧縮屈曲性)
試験片を、ITO形成面を内側にしてコルクポーラーに沿って湾曲させた以外は、上記の引張屈曲性試験と同様にして、穴開け径17mmφ、15.5mmφ、14mmφ、12.5mmφ、11mmφのコルクポーラーに沿って湾曲させた後の抵抗R11C、およびさらに穴開け9.5mmφのコルクポーラーに沿って湾曲させた後の抵抗R9.5Cを測定し、初期抵抗に対する変化率R11C/RおよびR9.5C/Rを求めた。
<加湿熱信頼性>
透明導電性フィルムを60℃湿度95%の恒温恒湿器に500時間投入して、四探針法により表面抵抗を測定して、加湿熱下での抵抗変動を評価した。加湿熱下での抵抗変動は、初期表面抵抗Rに対する、加湿熱後の表面抵抗Rの比(R/R)で表される。
[実施例1]
実施例1においては、2層のアンダーコート層が形成された厚み25μmのPETフィルム(第1の可撓性透明基材)上にアモルファスITO膜を形成した後、背面コート層として厚み5μmのハードコート層が形成された厚み125μmのPETフィルム(第2の可撓性透明基材)を厚み25μmの粘着剤層を介して貼り合わせた。その後、ITO膜の加熱結晶化を行い、合計厚みが180μmの基材上に厚み20nmの結晶性透明導電層が形成された透明導電性フィルムを作製した。これは図3Bに示すのと同様の工程によるものであり、各工程の詳細は下記の通りである。
(アンダーコート層の形成)
第1の透明基体として、厚み25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱化学ポリエステル製 商品名「ダイアホイル」、ガラス転移温度80℃、屈折率1.66、150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率−0.80%)を用い、このPETフィルム上に、2層のアンダーコート層を形成した。
まず、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物を、固形分で2:2:1の重量比で含む熱硬化型樹脂組成物を、固形分濃度が8重量%となるようにメチルエチルケトンで希釈した。この溶液を、PETフィルムの一方主面に塗布し、150℃で2分間加熱硬化させ、膜厚150nm、屈折率1.54の第1アンダーコート層を形成した。次いで、シロキサン系熱硬化型樹脂(コルコート製 商品名「コルコートP」)を、固形分濃度が1重量%となるようにメチルエチルケトンで希釈し、この溶液を前記の第1アンダーコート層上に塗布して、150℃で1分間加熱硬化させ、膜厚30nm、屈折率1.45のSiO薄膜(第2アンダーコート層)を形成した。アンダーコート層形成後においても、基材の150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率は−0.80%であり、アンダーコート層形成前から変化していなかった。
(アモルファスITO膜の製膜)
平行平板型の巻き取り式マグネトロンスパッタ装置に、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを97:3の重量比で含有する焼結体を装着した。2層のアンダーコート層が形成されたPETフィルム基材を搬送しながら、脱水、脱ガスを行い、5×10−3Paとなるまで排気した。この状態で、基材の加熱温度を120℃とし、圧力が4×10−1Paとなるように、98%:2%の流量比でアルゴンガスおよび酸素ガスを導入して、DCスパッタ法により製膜を行い、基材上に厚み20nmのアモルファスITO膜を形成した。アモルファスITO膜形成後の積層体を室温で冷却して残留応力を開放した後に、150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率を測定したところ、−0.45%であった。
(ハードコート層付きPETフィルムの作製)
第2の透明基体フィルムとして、厚みが125μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製、商品名「ルミラー U43 125μm」)を用い、ロール・トゥー・ロール法により、以下のようにハードコート層を形成した。
アクリル・ウレタン系樹脂(DIC製 商品名「ユニディック17−806」)100重量部に、光重合開始剤として、ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(チバガイギー製 商品名「イルガキュア184」)5重量部を加え、トルエンで希釈して、固形分が50重量%となるようにハードコート塗布溶液を調製した。この溶液を、第2の透明基体フィルム上に塗布し、100℃で3分間加熱し乾燥させた後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cmの紫外線を照射して、厚み5μmのハードコート層を形成した。
ハードコート層が形成されたPETフィルムをロール搬送機により搬送しながら、加熱炉内において150℃で1分間加熱して、寸法安定化を行った。その後、室温で冷却して残留応力を開放した後に、150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率を測定したところ、寸法安定化後のハードコート層付きPETフィルムの寸法変化率は、−0.45%であった。
(粘着剤層の形成)
撹拌ミキサー、温度計、窒素ガス導入管、冷却機を備えた重合槽に、ブチルアクリレート100重量部、アクリル酸5 重量部および2−ヒドロキシエチルアクリレート0.075重量部、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.2 重量部、重合溶媒として酢酸エチル200重量部を仕込み、十分に窒素置換した後、窒素気流下で撹拌しながら重合槽内の温度を55℃付近に保って10時間重合反応を行い、アクリル系ポリマー溶液を調整した。このアクリル系ポリマー溶液の固形分100重量部に、過酸化物としてジベンゾイルパーオキシド(日本油脂製 商品名「ナイパーBMT」)0.2重量部、イソシアネート系架橋剤としてトリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネートのアダクト体(日本ポリウレタンエ業製、商品名「コロネートL」)0.5 重量部、シランカップリング剤(信越化学工業製、商品名「KBM403」)0.075重量部を均一に混合撹拌して、粘着剤溶液(固形分10.9重量%)を調製した。
寸法安定化後の前記ハードコート層付きPETフィルムのハードコート層が形成されていない側の面に、前記アクリル系粘着剤溶液を塗布し、155℃で1分間加熱硬化させ、厚みが25μmの粘着剤層を形成した。次いで、ロール貼合により、粘着剤層面に、シリコーン層を付設したセパレータを貼り合わせた。この粘着剤付きハードコートPET フィルムの150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率は、−0.45%であった。
(基材の貼り合わせ)
ロール貼合により、粘着剤層付きハードコートPETフィルムからセパレータを剥離しながら、その露出面にITO膜が形成されたPETフィルムのITOが形成されていない側の面を連続的に貼り合わせた。得られた積層体は、合計厚み180μmの可撓性透明基材上に厚み20nmのアモルファスITO膜が形成されたものであった。
(ITO膜の結晶化)
上記の積層体から300mm四方の枚葉体を切り出し、200℃の加熱槽内で1時間加熱して、ITO膜の結晶化を行い、結晶性ITO膜を有する透明導電性フィルムを得た。
[実施例2〜6、比較例1、2]
実施例2〜6および比較例1、2においては、ITO膜の結晶化における加熱条件を表1のように変更した以外は、上記実施例1と同様にして、結晶性ITO膜を有する透明導電性フィルムが作製された。
[実施例7]
実施例7においては、実施例1と同様にして、透明導電性フィルムが作製されたが、アモルファスITO膜をスパッタ製膜する際、およびハードコート層付きPETフィルムを寸法安定化する際の搬送張力を大きくした点、および熱処理工程における加熱温度を150℃とした点において、実施例1とは異なっていた。
具体的には、スパッタ製膜時の搬送張力が実施例1の2倍に設定され、PETフィルムが延伸された状況化でアモルファスITO膜が形成された。アモルファスITO膜形成後の積層体を室温で冷却して残留応力を開放した後に、150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率を測定したところ、−0.85%であった。
また、ハードコート層付きPETフィルムをロール搬送機により搬送しながら、加熱炉内で加熱して寸法安定化する際の搬送張力が、実施例1の8倍に設定された。寸法安定化後、室温で冷却して残留応力を開放した後に、150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率を測定したところ、寸法安定化後のハードコート層付きPETフィルムの寸法変化率は、−0.85%であった。
[実施例8]
実施例8においては、一方の面に2層のアンダーコート層が形成され、他方の面に厚み5μmのハードコート層が形成された合計厚み180μmのPETフィルムのアンダーコート層形成面上にアモルファスITO膜を形成した後、加熱結晶化を行い、この合計厚みが180μmの基材上に厚み20nmの結晶性透明導電層が形成された透明導電性フィルムを作製した。
(アンダーコート層およびハードコート層の形成)
厚み175μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製、商品名「ルミラー U43 175μm」、ガラス転移温度80℃、屈折率1.66、150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率−0.9%)の一方の面に、実施例1と同様にして、2層のアンダーコート層を形成した。その後、PETフィルムの他方の面に、実施例1と同様にして、厚み5μmのハードコート層を形成した。なお、アンダーコート層およびハードコート層を形成後の基材の150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率は−0.65%であった。
この基材のアンダーコート層形成面上に、実施例1と同様にして、スパッタ法により厚み20nmのアモルファスITO膜を形成した。アモルファスITO膜形成後の積層体を室温で冷却して残留応力を開放した後、この積層体から300mm四方の枚葉体を切り出し、150℃の加熱槽内で1時間加熱して、ITO膜の結晶化を行い、結晶性ITO膜を有する透明導電性フィルムを得た。なお、ITO膜の形成後、結晶化を行う前の積層体の150℃1時間加熱時のMD方向の寸法変化率は、−0.59%であった。
[実施例9]
実施例9においては、2層のアンダーコート層が形成された厚み25μmのPETフィルム(第1の可撓性透明基材)上にアモルファスITO膜を形成し、ITO膜の加熱結晶化を行った後、厚み5μmのハードコート層が形成された厚み125μmのPETフィルム(第2の可撓性透明基材)を厚み25μmの粘着剤層を介して貼り合わせた。これは図3Cに示すのと同様の工程によるものである。
具体的には、実施例1と同様にして、第1の可撓性透明基材上へのアモルファスITO膜の製膜および、ハードコート層が形成された第2の可撓性透明基材への粘着剤層の形成を行った。第1の可撓性透明基材と第2の可撓性透明基材との貼り合わせを行わずに、第1の可撓性透明基材上にアモルファスITO膜が形成された積層体を300mm四方の枚葉体を切り出し、180℃の加熱槽内で1時間加熱して、ITO膜の結晶化を行った。その後、この結晶性ITO膜が形成された第1の可撓性透明基材を、300mm四方の枚葉体に切り出した粘着剤層付きの第2の可撓性透明基材と貼り合わせて、合計厚み180μmの透明導電性フィルムを得た。
[実施例10]
実施例10においては、ITO膜の結晶化における加熱温度を150℃に変更した以外は、上記実施例9と同様にして、結晶性ITO膜を有する合計厚み180μmの透明導電性フィルムが作製された。
各実施例および比較例の条件、および透明導電性フィルムの評価結果を表1に示す。表1中の基材の厚みは、結晶化工程における厚みを表している。なお、評価に供した各実施例および比較例の透明導電性フィルムの合計厚みはいずれも180μmであった。
Figure 0006181806
表1から明らかなように、ITO膜が所定の残留圧縮応力を有する各実施例の透明導電性フィルムは、比較例の透明導電性フィルムに比して、屈曲耐性、重荷重打点特性に優れることがわかる。一方、ITO膜の残留圧縮応力が大きくなると、加湿熱による抵抗変化が大きくなる傾向がみられる。そのため、ITO膜の残留圧縮応力は、屈曲耐性、重荷重打点特性と加湿熱信頼性とのバランスを考慮して、適切な範囲に設定されることがより好ましいといえる。
結晶化時の基材厚みが異なる実施例3、4と実施例8、9とを対比すると、結晶化時の基材の厚みに関わらず、熱処理工程の温度を高くすることによって、結晶化収縮率が大きくなり(=寸法変化が負で絶対値が大きくなり)、結晶ITO膜の残留圧縮応力が大きくなるために、屈曲耐性および重荷重打点特性に優れる透明導電性フィルムが得られることがわかる。
引張屈曲試験においては、屈曲の曲率が大きくなると、急激な抵抗変化を生じる場合があるが、実施例1〜4、9においては、R9.5T/Rも2以下に抑えられている。また、これらの実施例では、ペン摺動耐久性試験において、画面端部から1.39mmの位置で摺動を行った場合でも、画面端部から1.66mmで摺動をおこなった場合に比して、リニアリティが大幅に大きくなることもなく、特に耐屈曲性に優れていることがわかる。
実施例7においては、アモルファスITO膜のスパッタ製膜時に、基材のMD方向に高い応力が付与され、製膜後にその応力が開放されるため、実施例6に比してアモルファス状態のITO膜に高い圧縮応力が付与されていると考えられる。しかしながら、実施例6と実施例7の透明導電性フィルムにおける結晶性ITO膜の残留圧縮応力は略等しく、その耐久性も略同等である。この結果から、ITO膜の耐久性を高めるには、非晶質状態でITO膜に圧縮応力を付与するよりも、その後の加熱結晶化の際に圧縮応力を付与することが重要であるといえる。
<ITO膜の結晶粒径分布>
実施例3および実施例6の透明導電性フィルムから300μm×300μmの正方形の試験片を切り出し、ITO膜面が手前となるように、ウルトラミクロトームの試料ホルダに固定した。次いで、ITO膜面に対して極鋭角にミクロトームナイフを設置し、切断面がITO膜面と略平行となるように、設定厚み70nmで切削して観察試料を得た。この観察試料のITO膜表面側でかつ薄膜の著しい損傷がない部位から1.5μm×1.5μmの観察視野を選択し、透過型電子顕微鏡(日立製、型番「H−7650」)を用い、加速電圧100kVにて観察した。観察写真(倍率:50000倍)から、視野1.5μm四方で観察される全ての結晶粒の最大粒径を求め、最大粒径が30〜100nm、100nmを超え200nm、200nmを超え300nm以下の結晶の面積比率を求めた。面積比率(%)を表2に示す。
Figure 0006181806
1、2 可撓性透明基材
3 透明導電層(結晶性ITO膜)
3a アモルファスITO膜
5 粘着剤層
11、12 透明基体フィルム
16 アンダーコート層
17 背面コート層
101 透明導電性フィルム
102 透明導電性フィルム

Claims (3)

  1. 可撓性透明基材、および可撓性透明基材上に形成され結晶化されたインジウム・スズ複合酸化物からなる透明導電層を備え、
    前記可撓性透明基材は、ポリエステル系樹脂からなる透明基体フィルムとアンダーコート層とを含み、
    前記アンダーコート層は、有機物、又は無機物と有機物との混合物により形成され、
    前記透明導電層は、面内の少なくとも一方向における結晶化前に対する寸法変化が、−0.3%〜−1.5%であり、
    前記透明導電層の圧縮残留応力が0.4〜2GPaであり、
    前記透明導電層の膜面において、最大粒径が300nm以下の結晶含有量が、95面積%以上である、透明導電性フィルム。
  2. 前記透明導電層の膜面において、最大粒径が200nm以下の結晶含有量が、50面積%を超える、請求項1に記載の透明導電性フィルム。
  3. 前記透明導電層の膜面において、最大粒径が100nm以下の結晶含有量が5面積%を超え、残りの結晶の最大粒径が100nmを超え200nmの分布幅に存在する、請求項1又は2に記載の透明導電性フィルム。
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