JP6149620B2 - 複合シリサイド粉末及びその製造方法 - Google Patents
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例えば、特許文献1には、
(a)CaSiy粉末とMnCl2粉末とを、Mn/Ca比(α)が2又は5となるように混合し、
(b) 得られた混合物を圧粉成形し、圧粉体を550〜700℃×5hr加熱し、
(c) 得られた加熱物を粉砕し、粉末をエタノールで洗浄する
方法が開示されている。同文献には、このような方法により、MnSi相の含有量が極めて少ないMnSix粉末が得られる点が記載されている。
(a)CaSiy−Si複合粉末とMnCl2粉末とを、Mn/Ca比(α)が2となるように混合し、
(b)得られた混合物を圧粉成形し、圧粉体を600〜639℃×5hr加熱し、
(c)加熱物を粉砕し、粉末をエタノールで洗浄する
方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、MnSix−Si複合粉末が得られる点が記載されている。
同文献には、
(a)CaSi2から除去されたCaの割合は、30〜50%である点、
(b)このような方法によりCaSi2からCaを完全に取り除くのは難しい点、及び、
(c)Ca除去の困難性は電気化学的酸化の不均一性に由来する点、
が記載されている。
同文献には、このような方法によりCaSi1.85Mg0.15からCaが脱離し、Siナノシートが得られる点が記載されている。
また、非特許文献1に記載された方法を用いると、Ca欠損層状Caシリサイドを得ることができる。しかしながら、同文献に記載された方法では、分離困難なカーボンとの混合焼結体となり、Ca欠損層状Caシリサイドの選択的生成が困難である。
さらに、遷移金属シリサイド及びCa欠損層状Caシリサイドを含み、Siを含まない複合シリサイド粉末を製造することが可能な方法が提案された例は、従来にはない。
遷移金属シリサイド粒子と、Ca欠損層状Caシリサイドとを含み、
Si粒子及びSiナノシートを含まない
ことを要旨とする。
層状CaSi2と、遷移金属塩化物とを、M/Ca<1(モル比、Mは前記遷移金属塩化物に含まれる遷移金属元素)となるように混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を加熱し、前記遷移金属塩化物から発生する塩素ガス成分により前記層状CaSi2からCaの一部を引き抜く反応工程と、
前記反応工程で得られた反応物を、前記遷移金属元素塩化物及び/又は塩化Caを溶解可能な1又は2以上の溶媒で洗浄し、未反応の前記遷移金属元素塩化物及び副生した前記塩化Caを除去する洗浄工程と
を備えていることを要旨とする。
[1. 複合シリサイド粉末]
本発明に係る複合シリサイド粉末は、
遷移金属シリサイド粒子と、Ca欠損層状Caシリサイドとを含み、
Si粒子及びSiナノシートを含まない。
遷移金属元素(M)は、電子伝導性を有するシリサイドを形成可能なものであれば良い。遷移金属元素(M)は、Sc〜Zn(第1遷移元素)、Y〜Cd(第2遷移元素)、La〜Au(第3遷移元素)、又はAc〜Rg(第4遷移元素)のいずれであっても良い。
これらの中でも、遷移金属元素(M)は、Mn、Fe、Ni、Co、Tiが好ましい。これは、これらの遷移金属元素(M)は、高い電子伝導性を有するシリサイドを比較的容易に合成できるため、及び、これらの元素は、他の遷移金属元素に比べて安価であるためである。また、遷移金属元素(M)は、特に、Mn及び/又はFeが好ましい。
複合シリサイド粉末中には、これらの遷移金属元素(M)のいずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
本発明において、「遷移金属シリサイド粒子」とは、電子伝導性を有する遷移金属シリサイド相を主成分とする粒子をいう。遷移金属シリサイド相とは、遷移金属元素(M)とSiとで構成される化合物(MSix)相をいう。遷移金属シリサイド粒子は、1種類の遷移金属元素(M)を含むものでも良く、あるいは、2種以上の遷移金属元素(M)を含む固溶体でも良い。また、遷移金属シリサイド粒子は、1種類の遷移金属シリサイド相を含むものでも良く、あるいは、2種以上の遷移金属シリサイド相を含む混合物でも良い。
Mnシリサイド粒子は、上述したc軸方向の長周期構造が異なる種々のMnSi1.73相の内、いずれか1種を含んでいても良く、あるいは、2種以上を含んでいても良い。
「遷移金属シリサイド相を主成分とする」とは、1個の粒子に含まれる遷移金属シリサイド相の割合が70体積%以上であることをいう。遷移金属シリサイド相の割合は、さらに好ましくは、80体積%以上、さらに好ましくは、90体積%以上である。
本発明において、「Ca欠損層状Caシリサイド」とは、層状CaSi2からCaの一部を引き抜くことにより得られるナノシート状の層状物質であって、Ca含有量が0.8at%を超えるものをいう。Ca欠損層状Caシリサイドの組成は、形式的には、CaySi2(0.016<y<1)と表せる。
「CaySi2相を主成分とする」とは、1個の層状物質に含まれるCaySi2相の割合が70体積%以上であることをいう。CaySi2相の割合は、さらに好ましくは、80体積%以上、さらに好ましくは、90体積%以上である。
一般に、原料中のM/Ca比が小さくなるほど、又は、合成温度が低くなるほど、複合シリサイド粉末に含まれるCa欠損層状Caシリサイドの含有量が多くなる。
「Si粒子」とは、Siを主成分とする粒子であって、Ca含有量が0.8at%以下であるものをいう。
「Siナノシート」とは、Siを主成分とする板状又はナノシート状の層状物質であって、Ca含有量が0.8at%以下であるものをいう。
層状CaSi2をSi過剰の条件で合成すると、生成物中に1〜5μm程度のSi粒子が含まれることがある。これをそのまま複合シリサイド粉末の合成に用いた場合、生成物には、出発原料に由来する1〜5μmあるいはそれ以上のSi粒子が含まれる。
また、Si粒子を含まない層状CaSi2と相対的に過剰な塩素ガス成分とを反応させると、Caの引き抜き反応が過度に進行し、Siナノシートが生成する。
「Si粒子及びSiナノシートを含まない」とは、
(a)X線回折ピークにSiのピークが検出されないこと、及び、
(b)EDXを用いて、任意の粒子又はシート20点の成分分析をしたときに、Ca含有量の平均値が0.8at%を超えていること(換言すれば、平均組成をCaySi2で表したときに、y>0.016)であること
をいう。
複合シリサイド粉末は、遷移金属シリサイド粒子と、Ca欠損層状Caシリサイドのみからなり、かつ、Si粒子及びSiナノシートを含まないのが好ましいが、これら以外の相(異相)が含まれていても良い。但し、複合シリサイド粉末の特性に悪影響を及ぼす異相は、少ないほど良い。
異相としては、例えば、
(1)塩化Mn、塩化Feなどの出発原料の残留物、
(2)酸化Mn、酸化Fe、SiO2、塩化Caなどの交換反応時の副生成物、
などがある。
本発明に係る複合シリサイド粉末の製造方法は、混合工程と、反応工程と、洗浄工程とを備えている。
まず、層状CaSi2と、遷移金属塩化物とを、M/Ca<1(モル比、Mは前記遷移金属塩化物に含まれる遷移金属元素)となるように混合する(混合工程)。
例えば、遷移金属(M)のハロゲン化物がMnCl2である場合、層状CaSi2とMnCl2との反応は、理想的には、次の(1)式のように表すことができる。
CaSi2+MnCl2→
MnSi1.73+0.27Si+CaCl2 ・・・(1)
これに対し、M/Ca<1の条件下で反応させると、Ca欠損層状Caシリサイドが生成し、かつ、Si相の生成を抑制することができる。
次に、前記混合工程で得られた混合物を加熱する(反応工程)。これにより、前記遷移金属塩化物から発生する塩素ガス成分により前記層状CaSi2からCaの一部が引き抜かれる。反応後、反応生成物を冷却する。
一般に、加熱温度が低すぎると、実用的な時間内に反応が完結しない。従って、加熱温度は、遷移金属塩化物の融点(Tm)の30%以上が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、Tmの35%以上、40%以上、あるいは、50%以上である。
一方、加熱温度が高くなりすぎると、原料が溶融して粗大な粉末が生成する。従って、加熱温度は、遷移金属塩化物の融点(Tm)の98%以下が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、Tmの95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、あるいは、70%以下である。
例えば、MnSixを含む複合シリサイド粉末を合成する場合、加熱温度は、400℃〜630℃が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、500℃〜630℃である。
また、例えば、FeSixを含む複合シリサイド粉末を合成する場合、加熱温度は、300℃〜500℃が好ましい。加熱温度は、さらに好ましくは、350℃〜450℃である。
原料中に2種以上の遷移金属元素(M)が含まれる場合、加熱温度は、少なくとも1種類の遷移金属塩化物について、上述した条件を満たす温度であれば良い。
また、加熱時の雰囲気は、原料の酸化を防ぐために、不活性雰囲気が好ましい。
反応終了後、反応物を冷却する。冷却は、急冷でも良く、あるいは、徐冷でも良い。
次に、前記反応工程で得られた反応物を、前記遷移金属元素塩化物及び/又は塩化Caを溶解可能な1又は2以上の溶媒で洗浄し、未反応の前記遷移金属元素塩化物及び副生した前記塩化Caを除去する(洗浄工程)。
洗浄は、未反応の遷移金属塩化物(例えば、MnCl2)及び副生した塩化Caを除去するために行う。洗浄に用いる溶媒は、遷移金属塩化物又は塩化Caのいずれか一方を溶解可能なものでも良く、あるいは、双方を溶解可能なものでも良い。
これらの溶媒は、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
層状CaSi2と遷移金属塩化物とを反応させる場合において、層状CaSi2を過剰に配合する(M/Ca<1とする)と、遷移金属シリサイド及びCa欠損層状Caシリサイドを含み、かつ、Siを含まない複合シリサイド粉末が得られる。これは、出発原料に含まれる遷移金属塩化物の量を相対的に少なくすることによって、反応時の雰囲気中に含まれる塩素ガスの量が相対的に少なくなり、これによってCaの引き抜き反応が適度に進行するためと考えられる。
得られた複合シリサイド粉末は、CaSi2相と塩化Mnとの反応により生成した微細なMnシリサイド粒子と、Ca欠損層状Caシリサイドとを含んでいるので、比表面積が大きい。また、粒子を微細化するために必ずしも粉砕をする必要がないので、不純物量も少ない。
シリサイドの生成相については、次のように熱力学的及び動力学的に決定される。例えば、Feシリサイドにおいては、FeSi、Fe3Si、FeSi2などのように複数の相が存在する。いずれの相が形成されるかは、各相の生成エンタルピーで決まり、反応時間が十分あれば、合成温度において最も安定な相が形成される。反応時間が不十分である場合、あるいは、各相の生成エンタルピーが拮抗している場合には、複数の相が共存すると考えられる。
一方、粉末中に含まれるCa欠損層状Caシリサイドについては、原料の層状CaSi2からCaの一部が抜けることにより生成するため、共存して生成する遷移金属シリサイドの種類にはよらないと考えられる。
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
すべての作業は、Ar雰囲気中で行われた。粉砕されたCaSi2(レアメタリックス製)と、MnCl2(添川理化学製)とを、Mn/Ca=0.5(モル比)の条件で混合した。混合粉末をステンレス管に封入し、これを600℃で5時間加熱した。室温冷却後に、得られた粉末をジメチルホルムアミド(和光純薬製)で洗浄・ろ過し、乾燥して粉末を得た。
Mn/Ca=0.75(モル比)とした以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
[1.3. 比較例1]
Mn/Ca=2.0(モル比)とした以外は、実施例1と同様にして粉末を得た。
[2.1. 状態解析]
得られた粉末のX線回折パターンを測定した。
[2.2. TEM観察及び組成分析]
粉末のTEM観察を行った。
また、TEM観察において、EDXを使用して粉末の組成分析を行った。分析は、Si成分が主として含まれる任意の粒子20点に関して行った。
[3.1. X線回折]
図1に、実施例1〜2及び比較例1で得られた粉末のX線回折パターンを示す。実施例1、2では、CaSi2に帰属されるピークが存在するが、比較例1ではCaSi2に由来するピークは存在しなかった。Mnシリサイド化合物に関しては、半導体成分のMnSi1.73は、すべての結果において形成が確認された。一方、金属成分のMnSiは、実施例1、2において確認された。
図2に、実施例1で得られた粉末のTEM像を示す。図3に、実施例2で得られた粉末のTEM像を示す。図4に、比較例1で得られた粉末のTEM像を示す。図2〜3は、いずれも、カルシウムシリサイドが含まれる部分の代表的な粒子構造である。
また、表1に、図2〜図4のTEM像の各分析点におけるCa存在割合(元素比)とy値(CaySi2)を示す。
(1)分析点の平均値は、実施例1ではCa0.28Si2、実施例2ではCa0.22Si2となった。すなわち、各分析点において、原料であるCaSi2の組成に比べてCa量が減少するが、依然、Caは存在しており、Caが脱離したCa欠損層状Caシリサイドであることを確認した。
(2)対して、比較例1では、Si含有部分の平均組成はCa0.005Si2であった。すなわち、各分析点において、Caはほとんど存在せずにSiを主とする粒子が形成されていることを確認した。また、それらの粒子の形状は、層状又は球状であった。
(4)実施例1、2においては、Caが全く検出されないSi成分含有粒子は存在しなかった。一方、比較例1においては、20粒子中、14粒子においいてCaが全く検出されなかった。
Claims (3)
- 以下の構成を備えた複合シリサイド粉末。
(1)前記複合シリサイド粉末は、
遷移金属シリサイド粒子と、Ca欠損層状Caシリサイドとを含み、
Si粒子及びSiナノシートを含まない。
(2)前記複合シリサイド粉末は、X線回折パターンを測定した時に、CaSi 2 に帰属されるピークが存在する。 - 前記遷移金属シリサイド粒子は、Mn及びFeからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素を含む請求項1に記載の複合シリサイド粉末。
- 層状CaSi2と、遷移金属塩化物とを、M/Ca<1(モル比、Mは前記遷移金属塩化物に含まれる遷移金属元素)となるように混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合物を加熱し、前記遷移金属塩化物から発生する塩素ガス成分により前記層状CaSi2からCaの一部を引き抜く反応工程と、
前記反応工程で得られた反応物を、前記遷移金属元素塩化物及び/又は塩化Caを溶解可能な1又は2以上の溶媒で洗浄し、未反応の前記遷移金属元素塩化物及び副生した前記塩化Caを除去する洗浄工程と
を備えた複合シリサイド粉末の製造方法。
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