JP6140957B2 - 低pH飲料 - Google Patents

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Description

本発明は、風味の変質が改善された、pHが比較的低い飲料に関する。詳しくは、本発明は、pH4.0以下の飲料において、香味品質の単調化、苦味・複雑さの減少などの呈味の欠点を改善する技術に関する。
苦味は、味覚の5つの基本味のうちのひとつであるが、多くの毒物が苦いことから有害物のシグナルとして機能し、一般に忌避される味である。しかしながら、継続的な飲食を通じて「慣れる」ことで強い嗜好性が獲得されことが知られており、嗜好飲料の中には特有の苦味を持つものが存在する。例えば、緑茶、コーヒーやビールなどは、それぞれ特徴的な苦味を有している。このように、苦味は、嗜好飲料の香味特徴を決定づける重要な因子のひとつである。
最近、アルコールをほとんど含まない、いわゆるビールテイストのノンアルコール飲料が人気を集めている。その中でも、アルコール度数が0.01%未満で、「アルコール0.00%」と商品に表示されるものが特に注目を集め、新しい飲料のジャンルを築くに至っている。このようなノンアルコールビールテイスト飲料(『アルコール0.00%』と商品に表示されるものを含む)においても、ホップに含まれる苦味成分のひとつであるイソα酸等の苦味によって、飲料全体の味わいが引き締められ、好ましい風味が形作られている。
一方、ノンアルコールビールテイスト飲料はアルコールをほとんど含まないため、種々の微生物が増殖しやすいという問題がある。微生物の増殖を抑制するためには、加熱殺菌強度を高める方法があるが、飲料のpHを低くすると加熱殺菌強度を強化する必要がなくなるため、多くのノンアルコールビールテイスト飲料はpHが低く調整されている(例えば、pH4.0未満)。また、ビールテイスト飲料に果汁を配合して作られるビールベースカクテルは、ビールテイスト飲料由来の苦味を有する一方で、果汁に含まれる有機酸によって飲料全体のpHが低下している。
このような、苦味物質を有する低pHの飲料においては、苦味と低pHに起因する酸味との不調和によって、酸による鋭い酸味が目立ったり、飲料全体の香味が単調となったりすることがあり、目標とする設計品質通りに製造することが困難となることがある。特に、最近人気を集めている低カロリー又は糖類ゼロの飲料においては、配合できる原材料の量に大きな制約があるため、飲料全体としての味わいが薄くなりがちであり、呈味の変質は更に大きなものとなる。
このような苦味と酸味の不調和に伴う飲料の香味上の問題に関して、主にビールテイスト飲料における問題を解決するための技術がいくつか開示されている。特許文献1には、pH調整剤によってpHを4.0未満とした未発酵のビール風味麦芽飲料において、核酸系調味成分を存在させることによってpH調整剤による強烈で不快な酸味を低減・緩和できるとともに、ビール風味飲料としての味の調和を実現できることが開示されている。また、特許文献2には、発酵工程を経ず、甘味料、酸味料、苦味料、さらに香料などを添加して製造されるアルコールを全く含まないタイプのノンアルコールビールテイスト飲料において、特定の酸味料とグルコン酸ナトリウムの併用によって、甘味、酸味、苦味のばらつき感を抑えたノンアルコールビールテイスト飲料とすることができることが開示されている。
特開2011−072228号 特開2011−217706号
上述したように、飲料のpHを低くすると、飲料の香味が単調となったり、酸による酸味が強くなりすぎる場合があった。特に、ビールテイスト飲料やビールベースカクテルなどのような苦味物質を含む飲料の場合、飲料のpHが低くなると、飲料全体の香味を良好に維持することが技術的に難しくなっていた。
本発明は、上記のような事情に鑑み、苦味物質を含むpHが4.0以下である飲料において、鋭い酸味の突出、飲料全体の香味の単調化などの呈味の欠点が改善された飲料及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、かかる課題について鋭意検討した結果、苦味物質を含むpHが4.0以下である飲料において、微量のグリセロールを配合することによって、前記の呈味上の問題が解決でき、更に好ましいほろ苦さが付与され、香味の複雑さや深みが増すことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の態様の発明を包含する。
(1) 1〜3500ppmのグリセロール及び苦味物質を含む、pHが4.0以下である飲料。
(2) 苦味物質が、ナリンジン、クワシン、カフェイン及びホップ由来成分からなる群より選ばれる1種又は2種以上の物質である、(1)に記載の飲料。
(3) ホップ由来成分がα酸及び/又はイソα酸である、(2)に記載の飲料。
(4) クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸及び酒石酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸味物質を更に含む、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の飲料。
(5) 麦芽飲料である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の飲料。
(6) 炭酸ガスを含有する、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の飲料。
(7) 飲料の可溶性固形分濃度が0.1〜5度である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の飲料。
(8) アルコール度数が0.01%未満である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の飲料。
(9) 1〜3500ppmのグリセロールを配合することを含む、苦味物質を含有しpHが4.0以下である飲料の製造方法。
(10) 1〜3500ppmのグリセロールを配合することを含む、苦味物質を含有しpHが4.0以下である飲料の呈味改善方法。
本発明により、苦味物質を含むpHが4.0以下である飲料において、鋭い酸味の突出、飲料全体の香味の単調化などの呈味の欠点を改善することができる。さらに本発明によれば、飲料に好ましいほろ苦さが付与され、香味の複雑さや深みを増強することができる。
本発明の飲料は、グリセロールと苦味物質を含み、pH4.0以下であることを特徴とする。
グリセロール
本発明の飲料は、1〜3500ppmのグリセロールを含有する。グリセロールとは、Cという分子式で表される3価のアルコールであり、グリセリンともいう。無色透明の粘稠性の液体で、水、エタノールに対して可溶である。吸湿性・保水性を有するため化粧品に使用されるほか、食品や医薬品における添加物として、着色料、香料等の溶媒、乾燥食品や菓子類の保湿剤、チューインガムの軟化剤、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤の原料などに幅広く用いられる。
グリセロールは、前述の通り、抽出溶媒、保湿剤、軟化剤等の目的で幅広く利用されているが、本発明においては、1〜3500ppmという少量のグリセロールが、苦味物質を含むpH4.0以下の飲料において、呈味改善効果を発揮する。また、グリセロールは、少量であれば飲料の粘度を顕著に増大させることがないため、飲料に少量配合しても当該飲料の設計品質を損なうことがないという点が、従来技術にない非常に優れた特徴である。
本発明の飲料に配合することができるグリセロールの量は、1〜3500ppmの範囲内であれば、その飲料の品質特性に応じて特に限定されずに決めることができる。本発明におけるグリセロールの量は、抽出溶媒、保湿剤、軟化剤等の従来の用途のための量よりも比較的少なくすることができる。例えば、ある態様において、グリセロールの量は、飲料において1〜2000ppmとすることができ、10〜2000ppm、さらには50〜1500ppmとしてもよい。なお、グリセロールの量が多すぎると、飲料の粘度が過度に大きくなるおそれがあり、設計品質を変えてしまう可能性があるので好ましくない。
上記のグリセロールの飲料中での配合量の測定方法としては、HPLC等の公知のいずれの方法を用いてもよい。この分析方法のひとつとして、F−キット(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を好ましく用いることができる。
苦味物質
本発明における苦味物質とは、飲料に配合することによって味覚に苦味を知覚せしめる物質であればよく、具体的には、例えば、ナリンジン、クワシン、カフェイン、ホップ由来成分等を挙げることができ、ナリンジン、クワシンがより好ましい。
ホップ由来の苦味成分としては、イソα酸、α酸を挙げることができ、イソα酸がより好ましい。ホップ由来成分は、ホップからの抽出物を配合してもよいし、市販のイソα酸、α酸製剤を配合してもよい。ホップの抽出手段としては公知の技術であれば何ら限定されず用いることができる。また、1種又は2種以上の苦味物質を組み合わせて使用することもできる。
本発明において配合できる苦味物質の量は、目的とする飲料の設計品質に応じて自由に設定することができるが、飲料において0.05〜50ppmとすることができ、0.1〜30ppmとしてもよい。
本発明の一つの態様において、ナリンジンを配合する場合は、0.1〜50ppm含むとき好ましく、1〜30ppmのときより好ましく、1〜20ppmのとき更に好ましい。クワシンを配合する場合は、0.05〜10ppm含むとき好ましく、0.1〜10ppmのときより好ましく、0.1〜5ppmのとき更に好ましい。カフェインを配合する場合は、0.1〜50ppm含むとき好ましく、1〜30ppmのときより好ましく、1〜20ppmのとき更に好ましい。ホップ由来成分を飲料に配合する場合は、ホップ由来成分の総量として、0.1〜20ppm含むとき好ましく、1〜20ppmのときより好ましく、1〜15ppmのとき更に好ましい。
以上の各苦味物質の含有量は、HPLC等の公知のいずれの方法を用いて測定することができる。
pH
本発明の飲料は、そのpHが4.0以下である。一般に飲料は、酸味物質などを配合することによってpHが低下する。本発明者らの検討によると、苦味物質を含む飲料においては、pHが4.0以下になったとき、鋭い酸味の突出や飲料全体の品質の単調化などの呈味の欠点が顕著になるが、本発明にしたがって少量のグリセロールを配合すると飲料の香味を良好にすることができる。また、飲料のpHが3.8以下、特にpHが3.5以下であると本発明の効果がより大きくなるため好ましい。pHの下限は特に限定されないが、飲料としての香味のバランス上2.8以上であることが好ましい。
pHの測定方法としては公知の方法を用いることができ、例えば、国税庁所定分析法注解に記載の方法を用いることができる。JIS Z 8802 pH測定方法に従って、pHメーター(JIS Z 8805 pH測定用ガラス電極)を用いて20℃にて測定する。
本発明においてpHが4.0以下の飲料を調製するには、種々の方法によることができるが、例えば、各種の酸を用いてpHを低くすることができる。食用に供することができれば、使用する酸に特に制限はなく、塩酸等の無機酸でも有機酸でも好適に用いることができるが、有機酸の方がより好ましい。具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、リン酸、コハク酸、蟻酸、ピログルタミン酸、酢酸等の有機酸を挙げることができ、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、リン酸などの酸味物質がより好ましく、クエン酸、リンゴ酸が更に好ましい。また、1種又は2種以上の酸味物質を組み合わせて使用することもできる。
本発明において酸味物質の量は、目的とする飲料の設計品質に応じて自由に設定することができるが、例えば、飲料において100〜7000ppmとすることができ、200〜5000ppmとしてもよい。1つの態様において飲料にクエン酸を配合する場合は、100〜7000ppm含むとき好ましく、200〜5000ppmのときより好ましい。リンゴ酸を配合する場合は、100〜7000ppm含むとき好ましく、200〜5000ppmのときより好ましい。
本発明における酸味物質の含有量の測定方法としては、次の有機酸分析システムによるHPLC法を用いることができる。この有機酸分析システムは、イオン排除クロマトグラフィーで有機酸を分離した後、カラム溶出液にpH緩衝化試薬を連続的に加え、pHを中性付近にして有機酸を解離状態にさせ、電気伝導度を測定するものである。本明細書においては、特に断りのない限り、次の条件で分析を行なう:
(カラム) Shim−pack SCR−102H(8mmI.D×300mmL、株式会社島津製作所)。試料によっては2本直列に接続して使用する。また、必要に応じて対応するガードカラム、例えばSCR−102H(6mmI.D×50mmL、株式会社島津製作所)を装着する
(カラム温度) 45℃
(移動相) 5mM p−トルエンスルホン酸水溶液
(pH緩衝化試薬) 100μM EDTA及び20mM Bis−Trisを含む5mM p−トルエンスルホン酸水溶液
(流速) 0.8mL/分
(検出) 電気伝導度を測定して検出
上記の条件は、LC−10A(株式会社島津製作所)等、市販のHPLCシステムを用いて実行させることができる。各種有機酸標準液として、例えば市販のカルボン酸分析形用試薬(ナカライテスク株式会社製)を適宜蒸留水で希釈して複数の濃度の標準液を作成し、検量線法によって試料中の有機酸量を測定する。
その他の原料
本発明の飲料には、通常の飲料と同様、糖分、各種添加剤等を配合してもよい。各種添加剤としては、例えば、香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤等を配合することができる。
飲料
本発明は、様々な態様の飲料に応用できる。そのような態様として、具体的には、麦芽飲料、炭酸飲料、低溶質飲料、各種アルコール飲料及びノンアルコール飲料を挙げることができる。
本発明の飲料は、麦芽由来成分を含有させて麦芽飲料としてよい。麦芽飲料は、麦芽を原料とする飲料であり、発酵させたアルコール飲料であってもノンアルコール飲料であってもよい。麦芽由来成分は、ビール風の香味を飲料に付与することができるが、本発明のグリセロールの配合によって得られる好ましいほろ苦さや香味の複雑さに、更に深みを与えることができるため、好適である。
本発明でいう麦芽由来成分としては、例えば、麦汁などの、熱水等を用いて麦芽から抽出して得られたものを使用することができる。ビール等の製造工程で得られる麦芽抽出物や、麦芽を乾燥焙煎、粉砕したものを抽出、濃縮して得られるモルトエキスのような食品添加物も含む。すなわち、本発明は、麦芽飲料に好適に適用することができ、ビール、発泡酒などの麦芽発酵飲料はもちろん、ノンアルコールビールのような発酵させていない麦芽飲料にも好適に適用することができる。
本発明の飲料は、炭酸ガスを含有させて炭酸飲料とすることができる。本発明を炭酸飲料に適用すると、苦味物質を含みpHが低い飲料の呈味上の欠点の改善に加えて、炭酸ガスによる刺激感を適度に緩和することができるため、炭酸飲料は本発明のより好ましい態様の一つである。
炭酸ガスは、当業者に通常知られる方法を用いて飲料中に提供することができ、例えば、これらに限定されないが、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーターなどのミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよいし、また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水とを混合してもよい。醸造酒のような発酵液を原料の一つとして用いると、発酵に伴う炭酸ガスを飲料に加えることができる。これらの手段を適宜用いて炭酸ガス圧を調節する。
本発明の炭酸飲料は、好ましくは1.0〜3.5kg/cm、より好ましくは1.2〜2.5kg/cmの炭酸ガス圧を有する。本発明において、炭酸ガス圧は、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA−500Aを用いて測定することができる。例えば、試料温度を20℃にし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。
また、本発明は、飲料に含まれる可溶性固形分(溶質)濃度が低い場合にも、優れた効果を発揮する。本明細書においては、このように可溶性固形分濃度が5度以下の飲料を、「低溶質飲料」ともいうが、低溶質飲料においては、糖類や果汁などの量が少ないため、飲料の香味を優れたものにすることが難しい場合がある。特に、苦味物質を含みpHが低い飲料においては、鋭い酸味や単調な味わいなどの好ましくない呈味をマスキングすることが難しい。このような場合であっても本発明によれば、糖類や果汁の様な成分に依存せずに飲料の香味を改善することができるため、低溶質飲料は、本発明のより好ましい態様の一つである。
本発明でいう低溶質飲料の可溶性固形分濃度は、糖度計、屈折計などを用いて得られるブリックス(Brix)値から算出される飲料の可溶性固形分濃度(SS:Soluble Solid)によって定義される。当該ブリックス値は、20℃で測定された屈折率を、ICUMSA(国際砂糖分析法統一委員会)の換算表に基づいてショ糖溶液の質量/質量パーセントに換算した値で、溶液中の可溶性固形分濃度を表す。単位は「°Bx」、「%」または「度」で表示される。
ノンアルコール飲料では、ブリックス値をそのまま可溶性固形分濃度としてよいが、アルコール飲料においては、アルコールが屈折率に影響を与えるため、次の式を用いてブリックス値から可溶性固形分濃度を算出する。
・飲料の可溶性固形分濃度(SS)=MV−CV
[式中、MV(Measured Value)は、飲料のブリックス実測値であり、CV(Calculated Value)は、飲料のアルコール度数実測値と同じ度数のアルコール水溶液におけるブリックス値である]
ここで、アルコール水溶液としてニュートラルスピリッツを純水にて希釈したものを用いてCVを求めると、「CV=0.39×飲料のアルコール度数実測値」の関係があるため、飲料の可溶性固形分濃度(SS)は次のように表すことができ、この式は、アルコール度数が0%の場合にも用いることができる。
・飲料の可溶性固形分濃度(SS)=MV−0.39×飲料のアルコール度数実測値
本明細書における低溶質飲料は、SSが5度以下のものをいう。SSが0.1〜5度のとき、呈味改善効果が強く感じられて好ましく、SSが0.1〜3度のとき、呈味改善効果がより強く感じられるためより好ましい。
低溶質飲料は、「糖類ゼロ、糖質ゼロ、カロリーオフ」等と表示される、いわゆるカロリーオフタイプ飲料の態様を包含する。なお、「糖類ゼロ、糖質ゼロ、カロリーオフ」等の表示は、健康増進法の規定による栄養表示基準に定義されている。例えば、「糖類ゼロ」との表示は、飲料に含まれる糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないもの)の量が、飲料100gあたり0.5g未満のものに対して付されるものである。
さらに、本発明は、ノンアルコール飲料にも、アルコールを含む飲料(アルコール飲料)にも適用することができる。ノンアルコール飲料としては、後述するアルコール度数の分析方法によってアルコール度数0.01%未満のものに好ましく適用することができる。このような態様の飲料として、アルコール度数0.00%と表示されるものが含まれる。
本明細書において、特に断りがない限り、アルコールとはエチルアルコール(エタノール)のことをいう。また、アルコール度数とは、アルコール水溶液中のアルコールの容量%のことをいう。アルコールは、その軽やかな風味が好まれる一方で、アルコールの刺激感が欠点として指摘される場合がある。本発明の飲料に、アルコールを配合してアルコール飲料とした場合は、前述の優れた効果に加えて、アルコールに起因する刺激感を低減することができる。
本発明で使用できるアルコールの種類は、通常の酒類として飲用されるものであれば特に限定されない。ウイスキー、ウオッカ、ラム、焼酎、スピリッツ類などの蒸留酒、日本酒、ワイン、ビールなどの醸造酒、リキュールなどの混成酒などを使用することができる。単一種類のアルコールを用いても、本発明の飲料の香味特徴を変化させる目的で複数種類のアルコールを用いてもよい。
本発明におけるアルコール度数(容量%)は、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)に記載の方法によって測定することができる。具体的には、ショ糖などの糖類を添加したものと添加していないもののそれぞれについて、以下の方法で測定することができる。
(ショ糖等の糖類を添加していない試料の場合) 試料100〜150mLを、メスフラスコを用いて15℃において正確に採取する。これを300〜500mL容のフラスコに移し、メスフラスコをそれぞれ15mLの水で2回洗浄し、洗浄液もフラスコ内に移す。試料の採取に用いたメスフラスコを受器として直火蒸留を行い、採取量の70%以上が留出した後、留液に水を加えて15℃において原容に戻し、よく振り混ぜて分析サンプルとする。
(ショ糖等の糖類を添加した試料の場合) 水蒸気蒸留法によって分析サンプルを調製する。すなわち、メスフラスコを用いて15℃において試料100〜150mLを正確に採取する。これを500mL容二連フラスコに移し、メスフラスコをそれぞれ15mLの水で2回洗浄し、洗浄液もフラスコ内に移す。試料の採取に用いたメスフラスコを受器として水蒸気蒸留を行い、採取量の98%以上が留出した後、留液に水を加えて15℃において原容に戻し、よく振り混ぜて分析サンプルとする。
以上のようにして調製した分析サンプルの15℃における密度を振動式密度計で測定し、前記国税庁所定分析法の付表である「第2表 アルコール分と密度(15℃)および比重(15/15℃)換算表」を用いて換算することにより、アルコール度数を求めることができる。例えば、振動式密度計として、京都電子工業株式会社製の振動式密度計DA−310を用いることができる。
本発明の飲料は、容器詰め飲料とすることができる。容器詰め飲料の容器は特に制限されないが、例えば、ペットボトルなどの樹脂製容器、紙パックなどの紙容器、ガラス瓶などのガラス容器、アルミ缶やスチール缶などの金属製容器、アルミパウチなど、通常、飲料組成物に用いられる容器であればいずれも用いることができる。
飲料の製造方法
別の観点からは、本発明は、飲料の製造方法である。当該方法は、苦味物質を含みpH4.0以下である飲料に、1〜3500ppmのグリセロールを配合することを特徴とする。グリセロールを添加する形態及び方法は特に限定されず、グリセロール又はグリセロールを含む物品を、原料として製造工程の任意のタイミングで添加することができる。
本発明の飲料の製造では、原料を配合する方法は限定されない。例えば、公知の方法を用いて原料を飲料中に配合することができる。必要に応じて、殺菌、容器詰めなどの工程を適宜設けることができる。好ましい態様において、本発明の飲料は、飲料の充填工程を経て容器詰め飲料とすることができ、殺菌された容器詰め飲料とすることができる。例えば、飲料組成物を容器に充填した後にレトルト殺菌などの加熱殺菌を行ったり、飲料組成物を殺菌して容器に充填することにより、殺菌された容器詰め飲料を製造することができる。
より具体的には、缶などの金属容器詰め飲料とする場合には、本発明の飲料組成物を容器に所定量充填し、殺菌(例えば、65℃、10分)を行うことができ、ペットボトルや紙パック、瓶飲料、缶飲料、パウチ飲料とする場合には、例えば90〜130℃で1〜数十秒保持するFP又はUHT殺菌を行い、所定量を充填することができる。本発明の飲料組成物を容器詰め飲料とする場合は、ホットパック充填法又は無菌充填法のいずれも用いることができる。
飲料の呈味改善方法
さらに別の観点からは、本発明は、苦味物質を含みpH4.0以下である飲料の呈味を改善する方法である。当該方法は、苦味物質を含みpHが4.0以下である飲料において、1〜3500ppmのグリセロールを配合することを特徴とする。
本発明の方法により、苦味物質を含みpHが低い飲料において、設計品質をほとんど変えることなく当該飲料の好ましくない呈味、例えば、鋭い酸味の突出や飲料全体の香味の単調化を改善し、好ましいほろ苦さを付与し、香味の複雑さや深みを増すことができる。
以下、本発明の内容を、本発明の実施例を参照しつつ詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、特に記載しない限り、本明細書において数値範囲はその端点を含むものとして記載され、グリセロール、苦味物質などの成分の量を表す際のppmとは、飲料容量(L)に対する当該物質重量(mg)の比(mg/L)のことをいう。
実施例1
市販のノンアルコール飲料を用いてグリセロールによる香味改善効果を確認した。
(飲料の調製)以下の飲料を使用した。
・ノンアルコールカクテル飲料(のんある気分<地中海レモン>、サントリー酒類製)
・ノンアルコールビールテイスト飲料(オールフリー、サントリー酒類製)
上記ノンアルコールカクテル飲料は、苦味物質を含有しないため、苦味物質としてナリンジン10ppm及びクワシン1.5ppmを添加した。pHは3.3、炭酸ガスのガス圧は2.1kg/cm程度、可溶性固形分濃度(ブリックス値)は0.4度だった。
また、ノンアルコールビールテイスト飲料は、原材料として麦芽、ホップ及び酸味料を使用しているため麦芽由来成分を苦味物質として含み、pHは3.8、炭酸ガスのガス圧は2.1kg/cm程度であった。また、可溶性固形分濃度(ブリックス値)は0.4度だった。
苦味物質を添加した市販のノンアルコールカクテル飲料及び市販のノンアルコールビールテイスト飲料に無水クエン酸(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を添加して、pHを2.6/2.9/3.2/3.5/3.8の5水準に調整して飲料サンプルを作成した(グリセロール添加無し)。さらに、グリセロール(食品添加物グリセリン、阪本薬品工業社製)を飲料中の濃度として100ppmになるように配合したサンプルを調製した(グリセロール添加有り)。
(飲料の評価) 各pHに調整されたそれぞれのサンプルについて、訓練された5名の専門パネラーによる官能評価を行い、グリセロール添加による効果を調べた。官能評価は、(グリセロール添加無し)及び(グリセロール添加有り)のサンプルついて、それぞれ「(1)酸味の強さ」及び「(2)鋭い酸味の突出」の2つの観点から評価を行った。評点の基準は以下の通りであり、専門パネラー5名の評点の平均値を求めた。グリセロール未添加サンプルの平均スコアとグリセロール添加サンプルの平均スコアとの差が1点以上の場合、グリセロール添加による改善効果が特に大きいと評価できる。以下の実施例においてグリセロール添加による改善効果を判断する場合も同様である。
(1)酸味の強さ:5点=非常に強い、4点=やや強い、3点=強い、2点=わずかに強い、1点=適度
(2)鋭い酸味の突出:5点=強く感じる、4点=感じる、3点=わずかに感じる、2点=ほとんど感じない、1点=全く感じない
表1に評価結果を示す。グリセロールを添加しないサンプルとグリセロールを添加したサンプルの評点の差を、グリセロール添加による改善効果とした。表から明らかなように、特に飲料のpHが3.8以下において、「(1)酸味の強さ」と「(2)鋭い酸味の突出」の2点について、グリセロール添加による香味改善効果が明確に認められた。これらのサンプルについては、好ましいほろ苦さが感じられ、飲料全体として香味の複雑さや深みが増したことが官能評価により確認された。すなわち、本発明によって、単に酸味に関する品質改善にとどまらず、飲料全体の香味品質を良好にすることが明らかとなった。また、飲料のpHが2.9〜3.8の場合、グリセロール添加による香味改善効果が特に強く認められた。
実施例2
実施例1と同じ市販のノンアルコール飲料を用いて、グリセロールによる香味改善効果とグリセロール濃度との関係を評価した。
市販のノンアルコールカクテル飲料に苦味物質としてナリンジン10ppm添加したもの及びノンアルコールビールテイスト飲料に、無水クエン酸(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を添加して、飲料のpHを3.2に調整した(グリセロール添加無し)。さらに、グリセロールを飲料中の濃度として1/10/50/100/500/1000/1500/2000/3000ppmになるように配合したサンプルを調製した。
訓練された5名の専門パネラーによる官能評価を行い、飲料中のグリセロール濃度による効果を調べた。官能評価の方法は実施例1と同様であり、「(1)酸味の強さ」及び「(2)鋭い酸味の突出」の2つの観点から評価を行った。(グリセロール添加無し)、すなわちグリセロール濃度が0ppmのサンプルの評点の平均値とグリセロールを添加したサンプルの評点の平均値との差を、グリセロール添加による香味改善効果とした。
表2に評価結果を示す。表から明らかなように、飲料中のグリセロール濃度が1ppm以上のサンプルにおいて、「(2)鋭い酸味の突出」について、グリセロール添加による香味改善効果が認められ、グリセロール濃度が10ppm以上のサンプルにおいて、「(1)酸味の強さ」及び「(2)鋭い酸味の突出」のいずれについても、香味改善効果が明確に認められた。特に、飲料中のグリセロール濃度が50ppm以上のサンプルにおいて顕著な効果が認められた。
また、本発明の実施品は、好ましいほろ苦さが感じられ、飲料全体として香味の複雑さや深みが増したことが官能評価により確認された。すなわち、本発明によって、酸味に関する品質改善にとどまらず、飲料全体の香味品質を良好にすることが明らかとなった。
なお、飲料のグリセロール濃度が2000ppm以上のサンプルでは、グリセロールによる粘度増大によってテクスチャーの変化が認められた。また、グリセロール濃度が3000ppm以上のサンプルでは、テクスチャーの変化だけでなく、グリセロール自身の味が認められるようになった。
実施例3
市販のビールテイストノンアルコール飲料を用いてグリセロールによる香味改善効果を確認した。ビールテイストノンアルコール飲料としては、原材料に麦芽を使用するもの(オールフリー、サントリー酒類製)と麦芽を使用しないもの(ドライゼロ、アサヒビール製)を用いた。ここで使用したビールテイスト飲料は、いずれも原材料としてホップを使用しているため、本発明でいう苦味物質を含むが、後者は麦芽由来成分を含まないので麦芽飲料ではない。それぞれアルコール度数は0.00及び0.00%、pHは3.8及び3.7、また炭酸ガスのガス圧は2.1及び2.3kg/cm程度である。また、可溶性固形分濃度(ブリックス値)は0.4度及び3.7度だった。
上記のビールテイストノンアルコール飲料に無水クエン酸(三栄源エフ・エフ・アイ社製)を添加してpH3.5に調整し、グリセロール添加無しのサンプルを調製した。さらに、グリセロールを飲料中の濃度として100ppmになるように配合して、グリセロールが添加されたサンプルを調製した。
専門パネラーの人数を4人とした以外は、実施例1と同様にして官能評価を行い、グリセロール添加による効果を調べた。
表3に示すように、特に麦芽由来成分を含むサンプルにおいて、「(1)酸味の強さ」及び「(2)鋭い酸味の突出」の2点について、グリセロール添加による香味改善効果が明確に認められた。すなわち、グリセロール未添加サンプルの平均スコアとグリセロール添加サンプルの平均スコアとの差が1点以上もあり、グリセロール添加による香味改善効果が大きかった。
また、麦芽由来成分を含むサンプルほどではなかったものの、麦芽由来成分を含まないサンプルにおいても、ある程度の香味改善効果が認められた。
さらに、麦芽由来成分を含むサンプルについては、好ましいほろ苦さが感じられ、飲料全体として香味の複雑さや深みが増したことが指摘され、単なる品質改善にとどまらず、香味品質全体を良好にすることが明らかとなった。
実施例4
種々の苦味物質を含有する飲料に対するグリセロールによる香味改善効果を確認した。使用した飲料は、苦味物質を含まないノンアルコールカクテル飲料(のんある気分<地中海レモン>、サントリー酒類製)に、苦味物質としてカフェイン、ナリンジン又はクワシンをそれぞれ飲料中の濃度として10、10及び1.5ppmになるように配合した(グリセロール添加無し)。さらに、グリセロールを飲料中の濃度として100ppmになるように配合したサンプルを調製した(グリセロール添加有り)。このとき、サンプルである飲料のpHは3.3、アルコール度数0.00%であった。
調製したサンプルについて、実施例3と同様にして、訓練された4名の専門パネラーによる官能評価を行い、苦味物質による本発明の効果の違いを調べた。
表4から明らかなように、苦味物質としてカフェイン、ナリンジン及びクワシンを配合した場合も、「(1)酸味の強さ」及び「(2)鋭い酸味の突出」の2点について、グリセロール添加による香味改善効果が明確に認められた。これらのサンプルについても、好ましいほろ苦さが感じられ、飲料全体として香味の複雑さや深みが増したことが官能評価により確認指摘された。すなわち、本発明によって、単に酸味に関する品質改善にとどまらず、飲料全体の香味品質を良好にすることが明らかとなった。
実施例5
種々の酸味物質を含有する飲料に対するグリセロールによる香味改善効果を確認した。具体的には、苦味物質を含まないノンアルコールカクテル飲料(のんある気分<地中海レモン>、サントリー酒類製)に苦味物質としてナリンジン10ppm添加したものに、酸味物質としてクエン酸、乳酸、リン酸又はリンゴ酸を配合して飲料のpHを3.5に調整した(グリセロール添加無し)。さらに、グリセロールを飲料中の濃度として100ppmになるように配合し、グリセロールを添加したサンプルを調製した。
実施例3と同様にして、訓練された4名の専門パネラーによる官能評価を行い、飲料中の酸味物質による本発明の効果の違いを調べた。
表5から明らかなように、酸味物質としてクエン酸、乳酸、リン酸及びリンゴ酸を配合した場合も、「(1)酸味の強さ」及び「(2)鋭い酸味の突出」の2点について、グリセロール添加による香味改善効果が明確に認められた。これらのサンプルについても、好ましいほろ苦さが感じられ、飲料全体として香味の複雑さや深みが増したことが確認された。すなわち、本発明によって、単に酸味に関する品質改善にとどまらず、飲料全体の香味品質を良好にすることが明らかとなった。

Claims (9)

  1. 100〜2000ppmのグリセロール及び苦味物質を含み、pHが4.0以下、アルコール度数が0.01%未満である、発酵させていない麦芽飲料。
  2. 500〜1500ppmのグリセロールを含む、請求項1に記載の飲料。
  3. 苦味物質が、ナリンジン、クワシン、カフェイン及びホップ由来成分からなる群より選ばれる1種又は2種以上の物質である、請求項1又は2に記載の飲料。
  4. ホップ由来成分がα酸及び/又はイソα酸である、請求項3に記載の飲料。
  5. クエン酸、リンゴ酸、乳酸、リン酸及び酒石酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上の酸味物質を更に含む、請求項1〜4のいずれかに記載の飲料。
  6. 炭酸ガスを含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の飲料。
  7. 飲料の可溶性固形分濃度が0.1〜5度である、請求項1〜6のいずれかに記載の飲料。
  8. 100〜2000ppmのグリセロールを配合することを含む、苦味物質を含有しpHが4.0以下、アルコール度数が0.01%未満である、発酵させていない麦芽飲料の製造方法。
  9. 100〜2000ppmのグリセロールを配合することを含む、苦味物質を含有しpHが4.0以下、アルコール度数が0.01%未満である、発酵させていない麦芽飲料の酸味の突出を抑制する方法。
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