以下に添付図面を参照して、本実施形態にかかる13族窒化物結晶、及び13族窒化物結晶基板について説明する。なお、以下の説明において、図には発明が理解できる程度に構成要素の形状、大きさ及び配置が概略的に示されているに過ぎず、これにより本発明が特に限定されるものではない。また、複数の図に示される同様の構成要素については同一の符号を付して示し、その重複する説明を省略する場合がある。
本実施の形態の13族窒化物結晶は、B、Al、Ga、In、及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子と窒素原子とを少なくとも含む六方晶の結晶構造の13族窒化物結晶である。本実施の形態の13族窒化物結晶は、複数方向の基底面転位を有すると共に、前記基底面転位の転位密度がc面の貫通転位の転位密度より大きい。
基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocationc)とは、c面(c軸に垂直な面)に対して平行な方向の転位である。本実施の形態の13族窒化物結晶は、この基底面転位が、c面に平行な面内において1方向ではなく、互いに異なる複数方向に存在する。このため、c面に対して平行な方向の転位が1方向に存在する場合に比べて、反りや歪みの発生が抑制される。
また、本実施の形態の13族窒化物結晶では、基底面転位の転位密度が、c面の貫通転位の転位密度より大きい。c面の貫通転位とは、c面を貫通する方向の転位である。このため、c面を貫通する方向の転位が抑制されているといえる。
従って、高品質の13族窒化物結晶を提供することができると考えられる。
以下、詳細を説明する。
[1]13族窒化物結晶
上述したように、本実施形態にかかる13族窒化物結晶は、B、Al、Ga、In、及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子と窒素原子とを少なくとも含む六方晶の結晶構造の13族窒化物結晶である。なお、本実施形態にかかる13族窒化物結晶は、金属原子として、Ga、及びAlの少なくとも一方を少なくとも含むことが好ましく、Gaを少なくとも含むことが更に好ましい。
図1〜図3には、本実施の形態の13族窒化物結晶19の一例を示した。詳細には、図1は、本実施の形態の13族窒化物結晶19の構造の一例を示す概略斜視図である。図2は、13族窒化物結晶19におけるc軸とa軸に平行な断面の図を示している。図3は、13族窒化物結晶19のc面断面(c面に平行な断面)の断面図である。
図3に示すように、13族窒化物結晶19のc面断面は、六角形である。なお、本実施の形態において、六角形とは、正六角形、及び正六角形以外の六角形を含む。この六角形の辺に相当する13族窒化物結晶19の側面は、主に、六方晶の結晶構造の{10−10}m面で構成される。
なお、図1には、13族窒化物結晶19が、底面をc面(0001)とし、中心軸をc軸(すなわち<0001>方向)とした六角柱状の結晶上に、底面をc面(0001)とし中心軸をc軸とする六角錐が設けられた柱状である場合を示した。しかし、13族窒化物結晶19は、六方晶の結晶構造であればよく、柱状に限られない。例えば、図1に示す13族窒化物結晶19の六角錐の頂点部分にc面の形成された形状であってもよい。
図4及び図5は、六角錐の頂点部分にc面の形成された形状の13族窒化物結晶19の一例を示す模式図である。図4及び図5に示すように、13族窒化物結晶19は、六方晶の結晶構造であり、図1に示す13族窒化物結晶19の六角錐の頂点部分にc面の形成された形状であってもよい。
図1に戻り、本実施の形態における13族窒化物結晶19は、単結晶であるが、第1領域21と、第2領域27と、を有する。第1領域21は、13族窒化物結晶19におけるc面断面の内側に設けられた領域である。第1領域21は、種結晶であり、第2領域27は種結晶を元に結晶成長した領域である。これらの第1領域21及び第2領域27は、結晶性の異なる領域である。なお、これらの第1領域21及び第2領域27については詳細を後述する。なお、13族窒化物結晶19は、第2領域27を含む結晶であればよい。
本実施の形態の13族窒化物結晶19は、上述したように、互いに異なる複数方向の基底面転位を有する。また、13族窒化物結晶19は、基底面転位の転位密度がc面を貫通する方向の転位の転位密度より大きい。
なお、13族窒化物結晶19では、基底面転位の転位密度がc面の貫通転位の転位密度より大きければよいが、基底面転位の転位密度は、c面の貫通転位の転位密度の100倍以上であることが好ましく、1000倍以上であることが更に好ましい。
13族窒化物結晶19における、基底面転位の転位密度、及びc面の貫通転位の転位密度は、下記方法によって測定する。
例えば、測定対象面の最表面をエッチングする事等により、エッチピットを出現させる。そして、エッチング後の測定対象面の組織写真を、電子顕微鏡を用いて撮影し、得られた写真から、エッチピット密度を算出する方法が挙げられる。
また、転位密度の測定方法としては、測定対象面を、カソードルミネッセンス(CL:Cathodoluminescence(電子線蛍光観察))で測定する方法が挙げられる。
この測定対象面には、例えば、c面、m面{10−10}や、a面{11−20}を用いる。
図3は、測定対象面として、13族窒化物結晶19のc面(c面断面)を用いた場合の模式図である。
図3に示すように、13族窒化物結晶19のc面断面について、上記エッチングを行った後に、電子顕微鏡、またはカソードルミネッセンスによる観察を行う。すると、複数の転位が観察される。そして、c面断面において観察されるこれらの転位の内、線状の転位を基底面転位Pとして数えることで、基底面転位Pの転位密度を算出する。一方、c面断面において観察される転位の内、点状の転位を貫通転位Qとして数えることで、貫通転位Qの転位密度を算出する。なお、カソードルミネッセンスの場合には、転位は、暗点または暗線として観察される。
なお、点状の転位とは、本実施の形態では、観察される点状の転位の短径に対する、該点状の転位の長径の比が、1以上1.5以下のものを「点状」の転位として数える。このため、真円に限られず、楕円形状のものについても点状の転位として数える。更に具体的には、本実施の形態では、観察される断面形状において長径が0.5μm以下の転位を、点状の転位として数える。
一方、線状の転位とは、本実施の形態では、観察される線状の転位の短径に対する、該観察される転位の長径の比が、4以上のものを「線状」の転位として数える。更に具体的には、本実施の形態では、観察される断面形状において長径が2μmを超える長さの転位を、線状の転位として数える。
図4は、六方晶の13族窒化物結晶19における側面(m面{10−10})を測定対象面として用いた場合を示す模式図である。
図4に示すように、13族窒化物結晶19のm面{10−10}について、上記エッチングを行った後の電子顕微鏡による観察、またはカソードルミネッセンスによって、複数の転位が観察される。m面{10−10}において観察されるこれらの転位の内、点状の転位を基底面転位Pとして数えることで、基底面転位Pの転位密度を算出する。尚、c軸と垂直方向の線状の転位も基底面転位Pとして数える。一方、m面{10−10}において観察される転位の内、c軸方向に伸びる線状の転位は貫通転位Qとして捉えることができる。
なお、点状の転位及び線状の転位の定義は、上記と同様である。
図5は、六方晶の13族窒化物結晶19においてa軸とc軸に平行なm面を測定対象面として用いた場合の模式図である。図5に示すように、13族窒化物結晶19におけるc軸に対して平行な断面であって、且つ、種結晶である第1領域21を通る断面を示す。
図5に示すように、13族窒化物結晶19のm面{10−10}について、上記エッチングを行った後の電子顕微鏡による観察、またはカソードルミネッセンスによって、複数の転位が観察される。図5のm面{10−10}において観察されるこれらの転位の内、a軸と平行方向に伸びる線状の転位は基底面転位Pとして捉えることができる。一方、c軸と平行方向に伸びる線状の転位は貫通転位Qとして捉えることができる。なお、点状の転位及び線状の転位の定義は、上記と同様である。
図3に戻り、本実施の形態の13族窒化物結晶19における基底面転位Pは、第1領域21から第2領域27に向かう方向の転位を含む。すなわち、図3に示すように基底面転位Pは、c面に平行な面において、種結晶を元に結晶成長した領域である第2領域27内で外側に向かう方向の転位として存在する。
また、13族窒化物結晶19の基底面転位の転位密度は、c面における結晶粒界密度より大きい。
結晶粒界とは、結晶の間に存在する界面であり、転位の集合体としてみなすことができる。13族窒化物結晶19における基底面転位の転位密度は、c面における結晶粒界密度より大きければよいが、13族窒化物結晶19における基底面転位の転位密度は、c面における結晶粒界密度の10倍以上であることが好ましく、100倍以上であることが更に好ましい。
この結晶粒界密度は、下記方法によって測定する。
結晶粒界密度は、公知の結晶分析手法によって測定することができる。例えば、転位密度の測定時のエッチングによってエッチングされた測定対象面について、X線回折、X線トポグラフィ、又は単純な光反射、カソードルミネッセンス、ミクロ的には透過型電子顕微鏡による原子像といった分析手法で測定することができる。
なお、放射光を用いた白色X線トポグラフィにより得られる像と、結晶の見た目と、の比較により、結晶粒界の多さを判定することもできる。結晶の見た目とトポグラフィにより得られる像との結晶外形が似通っていれば、結晶粒界が少ないと判別する。一方、トポグラフィにより得られる像の結晶外形が大きく歪んでいたり、一部しか像に映らない場合は、結晶粒界が多いと判別する。
また、本実施の形態の13族窒化物結晶19における、c面を横切る断面の結晶粒界密度は、c面の結晶粒界密度より大きいことが好ましい。
好ましくは、13族窒化物結晶19におけるc面を横切る断面の結晶粒界密度は、c面の結晶粒界密度の10倍以上であることが更に好ましく、100倍以上であることが特に好ましい。
また、13族窒化物結晶19のc面における1cm2当たりの結晶粒界の数は、1以下であることが好ましく、0であることが特に好ましい。
これらの結晶粒界及び結晶粒界密度の測定は、上述した方法を用いて行えばよい。
次に、13族窒化物結晶19における、種結晶である第1領域21、及び種結晶から成長した成長領域である第2領域27について詳細に説明する。
第2領域27は、13族窒化物結晶19のc面断面における第1領域21の外周の少なくとも一部を覆うように設けられている。なお、第2領域27は、第1領域21の外周の少なくとも一部を覆うように設けられていればよく、第1領域21の外周の全ての領域を覆うように設けられていてもよい。なお、図3に示す13族窒化物結晶19は、第2領域27が第1領域21の外周の全てを覆うように設けられた形態を示す図である。
第2領域27は、c面断面における第2領域27の厚みが、第1領域21の最大径より大きい。第2領域27の厚みとは、c面断面における、第1領域21の中心から13族窒化物結晶19の外縁に向かう方向における、第2領域27の最大の長さ、すなわち最大の厚みを示す。図3に示す例では、第2領域27の厚みは、長さL2で示した。
第1領域21の最大径とは、第1領域21の径の最大値を示し、図3に示す例では、長さL1で示した。
なお、本実施の形態の13族窒化物結晶19のc面断面における第2領域27の厚みと第1領域21の最大径との関係は、上記関係を満たせば特に限定されないが、第1領域21の最大径に対する第2領域27の厚みは、5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることが更に好ましい。
また、第2領域27のキャリア濃度は、第1領域21のキャリア濃度より高い。なお、本実施の形態の13族窒化物結晶19では、第1領域21と第2領域27のキャリア濃度の関係は、上記関係を満たせば特に限定されないが、好ましくは、第1領域21のキャリア濃度に対する第2領域27のキャリア濃度が、5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることが更に好ましい。
また、第1領域21と第2領域27のキャリア濃度の関係は、上記関係を満たせば特に限定されないが、さらに具体的には、第1領域21のキャリア濃度は、2×1018/cm3以下、または8×1017/cm3以下であることが好ましい。また、第2領域27のキャリア濃度は、4×1018/cm3以上、または8×1018/cm3以上であることが好ましい。
なお、本実施の形態において、キャリアとは電子を示し、キャリア濃度とは、電子キャリア濃度を示す。
第1領域21及び第2領域27のキャリア濃度は、下記測定方法によって測定する。
第1領域21及び第2領域27のキャリア濃度の測定は、ラマン分光法を用いてキャリア密度を換算する方法を用いる。キャリアの濃度の換算方法は「分光研究49(2000)GaNおよび関連窒化物のラマン散乱分光:播磨弘」を用いる。測定装置としては、レーザーラマン分光装置を用いて測定する。
なお、第1領域21及び第2領域27のキャリア濃度は、後述する13族窒化物結晶19の製造方法による製造条件を調整することによって、上記関係を満たすように調整する。また、第1領域21及び第2領域27の大きさ(厚み及び径)についても、後述する13族窒化物結晶19の製造方法による製造条件を調整することによって、上記関係を満たすように調整する。
なお、本実施の形態の13族窒化物結晶19の第1領域21は、更に複数の領域から構成されていてもよい。例えば、図6〜図8に示すように、第1領域21に代えて、第1領域21Aを用いてもよい。
図6〜図8には、第1領域21Aからなる六方晶の結晶構造の結晶の一例を示した。詳細には、図6は、第1領域21Aからなる六方晶の結晶における、c軸とa軸に平行な断面の図を示している。また、図7〜図8は、第1領域21Aからなる六方晶の結晶における、c面断面の断面図を示した。
第1領域21Aのc面断面における内側には、第3領域29aが設けられている。そして、この第3領域29aの外周の少なくとも一部を覆うように、第4領域29bが設けられている。
なお、第4領域29bは、第3領域29aの外周の少なくとも一部を覆うように設けられていればよい。このため、第4領域29bは、第3領域29aの外周の全てを覆うように設けられていてもよく(図8参照)、また、第3領域29aの外周の一部に第4領域29bの設けられていない領域があってもよい(図7参照)。
なお、上記と同様に、第1領域21Aは、c軸を横切る断面の少なくとも一面において、第3領域29a及び第4領域29bを含んでいればよく、厳密なc面断面に限定されない。
第4領域29bの厚みは限定されないが、例えば、100nm以上であることが好ましい。
ここで、窒化ガリウム結晶を種結晶として用いて、フラックス法により13族窒化物結晶を成長させる場合に、種結晶のメルトバックが生じる場合がある。また、メルトバックは、種結晶が低品質である場合、特に加工変質層が残っている場合においてその溶解量(メルトバック量)が増加することが知られている。
これに対して、第3領域29aより高品質の結晶層である第4領域29bが結晶外側に100nm以上の厚さで存在することで、種結晶を成長させる工程においてメルトバックが発生した場合であっても、第4領域29bが残り易くなり、より高品質の第2領域27を成長させやすいと考えられる。
なお、図3、図7、図8等において、13族窒化物結晶19のc面断面や各領域の断面を各々正六角形で示したが、これらは一模式図に過ぎず、それぞれ正六角形に限定されるものではない。また、13族窒化物結晶19のc面断面、及び各領域のc面断面は、それぞれ六方晶の結晶構造を有する13族窒化物結晶19の断面により概ね六角形形状に構成されるものであり、結晶成長の過程でその他の構造がこれらの内部または境界に発生する場合には、各六角形の輪郭はそれら他の構造との境界によって変形することがある。
また、13族窒化物結晶19は、上述した各領域(第1領域21または第1領域21A、第2領域27)のみによって構成されるとは限らない。13族窒化物結晶19においては、その他の構成や光学的特性を有するその他の領域(例えば、第N領域(本実施の形態ではNは5以上の整数))がさらに含まれるとしてもよい。
図9は、第1領域21Bからなる六方晶の結晶構造の結晶の一例を示す図である。詳細には、図9は、第1領域21Bからなる六方晶の結晶における、c面断面の断面図を示した。
図9に示すように、第1領域21Bには、第3領域29aが設けられている。そして、この第3領域29aの外周の少なくとも一部を覆うように、第4領域29b2、及び第4領域29bが設けられた構成であってもよい。
<各領域の特性>
次に、13族窒化物結晶19の第1領域21(第1領域21A、第1領域21B)、及び第2領域27の各々の結晶特性について説明する。
−発光特性−
本実施の形態に係る13族窒化物結晶19のc面断面の上記第3領域29a及び第4領域29bにおける、電子線または紫外光励起による発光スペクトルの窒化ガリウムのバンド端発光を含む第1ピークのピーク強度と、該第1ピークより長波長側の第2ピークのピーク強度と、は、下記関係を示す。
すなわち、第3領域29aにおける第1ピークのピーク強度は第2ピークのピーク強度より小さく、第4領域29bにおける第1ピークのピーク強度は第2ピークのピーク強度より大きい。
なお、第3領域29a及び第4領域29bにおける、第1ピークのピーク強度及び第2ピークのピーク強度は、上記関係を満たせば限定されないが、更に好ましくは、第4領域29bにおける第1ピークのピーク強度は、第3領域29aにおける第1ピークのピーク強度より大きいことが好ましい。また、第4領域29bにおける第2ピークのピーク強度は、第3領域29aにおける第2ピークのピーク強度より小さいことが好ましい。
なお、第1ピークとは、13族窒化物結晶19の測定対象領域における窒化ガリウムのバンド端発光を含む発光(以下、単に、バンド端発光と称する場合がある)であり、室温での測定において概ね364nm程度の波長領域に出現する発光スペクトルのピークのことである。なお、窒化ガリウムのバンド端発光とは、13族窒化物結晶19において価電子帯の上端の正孔と伝導帯の底の電子が再結合することによる発光であり、バンドギャップに等しいエネルギー(波長)を持つ光が放出されることである。即ち、第1ピークは、13族窒化物結晶19において窒素とガリウムの結合(結合状態)及び結晶の周期構造に起因するピークである。尚、第1ピークはバンド端発光とバンド端近傍からの発光を含む場合がある。
第2ピークとは、第1ピークよりも長波長側に出現する少なくとも1つのピークのことであり、例えば不純物や欠陥等に起因した発光を含むピークである。
より好適な実施形態としては、室温で測定された電子線または紫外光励起による発光スペクトルにおいて、第2ピークは450nmから650nmの波長領域に含まれる。
さらに好適な実施形態としては、室温で測定された電子線または紫外光励起による発光スペクトルにおいて、第2ピークは590nmから650nmの波長領域に含まれる。
図10は、第3領域29aおよび第4領域29bにおける電子線または紫外光励起による発光スペクトルの一例を示す図である。
第3領域29aにおける発光スペクトルのように、第2ピークのピーク強度が第1ピークのピーク強度よりも大きいということは、第3領域29aに不純物や欠陥が比較的多く含まれていることを表す。一方、第4領域29bにおける発光スペクトルのように、第1ピークのピーク強度が第2ピークのピーク強度よりも大きいということは、第4領域29bにおいて不純物や欠陥が比較的少ないことを表し、第4領域29bの結晶が高品質であることを表している。
このため、後述する13族窒化物結晶19の製造方法において、第1領域21Aからなる結晶を種結晶として用いると、第1領域21からなる結晶を種結晶として用いた場合に比べて、より高品質の13族窒化物結晶19を製造しやすくなると考えられる。これは、不純物や欠陥の少ない第4領域29bが外側に配置された第1領域21Aからなる種結晶を用いることで、より不純物や欠陥の少ない第4領域29b上へ結晶成長させることができるためと考えられる。
また、第1領域21Aからなる種結晶を用いてより大きな13族窒化物結晶19を得る場合、第3領域29aより不純物や欠陥等の少ない第4領域29bと接する領域から結晶成長させることができる。このため、結晶品質が良好な第2領域27をより多く得ることができる。
なお、不純物とは、本実施の形態では、B、Al、O、Ti、Cu、Zn、Si、Na、K、Mg、Ca、W、C、Fe、Cr、Ni、H等を示す。
なお、図示は省略するが、図9における第4領域29bでは、第4領域29b1における第1ピークの発光強度より、第4領域29b2における第1ピークの発光強度が弱い。
―ホウ素濃度―
なお、第3領域29aのホウ素濃度は、第4領域29bのホウ素濃度より高い。具体的には、例えば、第3領域29aのホウ素濃度は、4×1018atms/cm3以上であり、第3領域29aの外側に位置する第4領域29bのホウ素濃度は、4×1018atms/cm3未満であることが好ましい。
更に好ましくは、第3領域29aのホウ素濃度は、6×1018atms/cm3以上であり、第4領域29bのホウ素濃度は、1×1018atms/cm3未満である。
ホウ素濃度が上記関係を満たすと、第3領域29aの外側に第4領域29bの設けられた第1領域21Aの種結晶から結晶成長させて13族窒化物結晶19を製造する場合に、主に、ホウ素濃度が低く高品質である第4領域29bの外周表面から結晶成長を開始させることができる。従って、ホウ素添加工程によってc軸方向に長尺化させた、第1領域21Aの種結晶を用いてc軸方向に長い13族窒化物結晶19を製造する場合においても、高品質の13族窒化物結晶19を製造することが可能となる。
<製造方法>
次に、13族窒化物結晶19の製造方法を説明する。
13族窒化物結晶19は、第1領域21の種結晶、第1領域21Aの種結晶、または第1領域21Bの種結晶を用いて、これらの種結晶から結晶成長させることで製造する。
なお、第1領域21の種結晶、第1領域21A、及び第1領域21Bの種結晶は、六方晶の結晶構造を有し、c軸方向に長尺化されている。また、第1領域21の種結晶、第1領域21A、及び第1領域21Bの種結晶における、c軸と垂直な断面(c面断面)は六角形である。また、この六角形の辺に相当する種結晶の側面は、主に六方晶の結晶構造のm面で構成される。
以下、製造方法の詳細を説明する。
[2]種結晶の結晶製造方法
<結晶製造装置>
図11は、本実施の形態において、第1領域21の種結晶、及び第1領域21Aの種結晶である種結晶30を製造する結晶製造装置1の概略断面図である。以下、第1領域21の種結晶、第1領域21A、及び第1領域21Bの種結晶を総称して説明する場合には、種結晶30と称して説明する。
図11に示すように、結晶製造装置1は、ステンレス製の外部耐圧容器28内には内部容器11が設置され、内部容器11内にはさらに反応容器12が収容されており、二重構造を成している。内部容器11は外部耐圧容器28に対して着脱可能となっている。
反応容器12は、原料や添加物を融解させた混合融液24を保持して、種結晶30を得るための容器である。反応容器12の構成については後述する。
また、外部耐圧容器28と内部容器11には、外部耐圧容器28の内部空間33と内部容器11の内部空間23に、13族窒化物結晶の原料である窒素(N2)ガスおよび全圧調整用の希釈ガスを供給するガス供給管15、32が接続されている。ガス供給管14は窒素供給管17と希釈ガス供給管20に分岐しており、それぞれバルブ15、18で分離することが可能となっている。
希釈ガスとしては、不活性ガスのアルゴン(Ar)ガスを用いることが望ましいが、これに限定されず、その他のヘリウム(He)等の不活性ガスを希釈ガスとして用いてもよい。
窒素ガスは、窒素ガスのガスボンベ等と接続された窒素供給管17から供給されて、圧力制御装置16で圧力を調整された後、バルブ15を介してガス供給管14に供給される。一方、希釈ガス(例えば、アルゴンガス)は、希釈ガスのガスボンベ等と接続された希釈ガス供給管20から供給されて、圧力制御装置190で圧力を調整された後、バルブ18を介してガス供給管14に供給される。このようにして圧力を調整された窒素ガスと希釈ガスは、ガス供給管14にそれぞれ供給されて混合される。
そして、窒素および希釈ガスの混合ガスは、ガス供給管14からバルブ31、29を経て外部耐圧容器28および内部容器11に供給される。尚、内部容器11はバルブ29部分で結晶製造装置1から取り外すことが可能となっている。
また、ガス供給管14には、圧力計220が設けられており、圧力計220によって外部耐圧容器28および内部容器11内の全圧をモニターしながら外部耐圧容器28および内部容器11内の圧力を調整できるようになっている。
本実施の形態では、このように窒素ガスおよび希釈ガスの圧力をバルブ15、18と圧力制御装置16、190とによって調整することにより、窒素分圧を調整することができる。また、外部耐圧容器28および内部容器11の全圧を調整できるので、内部容器11内の全圧を高くして、反応容器12内のアルカリ金属(例えばナトリウム)の蒸発を抑制することができる。即ち、窒化ガリウムの結晶成長条件に影響を与える窒素原料となる窒素分圧と、ナトリウムの蒸発抑制に影響を与える全圧を、別々に制御する事が可能となっている。
また、図11に示すように、外部耐圧容器28内の内部容器11の外周にはヒーター13が配置されており、内部容器11および反応容器12を加熱して、混合融液24の温度を調整することができる。
本実施の形態では、フラックス法により、種結晶30を製造する。なお、以下では、種結晶30として、第1領域21A(第3領域29aと第4領域29bを有する)や第1領域21Bの種結晶を製造する場合を説明する。
種結晶30として、第1領域21Aまたは第1領域21Bの種結晶を製造する場合には、種結晶30内のホウ素濃度を結晶内側と結晶外側とで異ならせて結晶成長させるために、混合融液24中にホウ素が溶け込むホウ素溶解工程と、窒化ガリウム結晶25の成長時に結晶中にホウ素が取り込まれるホウ素取込工程と、混合融液24中のホウ素濃度を結晶成長過程とともに減少させるホウ素減少工程とを含む。
なお、第1領域21の種結晶を製造する場合には、上記ホウ素溶解工程とホウ素取込工程とを行い、上記ホウ素減少工程を行わない方法を用いればよい。このため、以下では、種結晶30として、第1領域21Aの種結晶を製造する方法を説明する。また、第1領域21Bの種結晶の製造方法は、第1領域21Aと同様である。
ホウ素溶解工程では、反応容器12内壁に含まれる窒化ホウ素(BN)または反応容器12内に設置された窒化ホウ素の部材から、混合融液24中にホウ素が溶解する。次に溶解したホウ素が、結晶成長する結晶内に取り込まれる(ホウ素取込工程)。そして、結晶成長に伴って結晶中に取り込まれるホウ素の量は次第に減少することとなる(ホウ素減少工程)。
ホウ素減少工程によれば、種結晶30がm面({10−10}面)を成長させながら結晶成長する場合に、c軸を横切る断面において外側の領域におけるホウ素の濃度を、内側の領域のホウ素濃度よりも低くすることができる。これにより、種結晶30のm面で構成される外周面(六角柱の6つの側面)において、不純物であるホウ素濃度と、不純物に起因する可能性のある結晶内の転位密度が低減され、種結晶30の外周面を、その内側の領域に比べて良質の結晶で構成することができる。
[3]で後述する種結晶30から結晶成長させることによる13族窒化物結晶19(具体的には、第2領域27)の製造方法において、13族窒化物結晶19は、主に種結晶30の側表面(m面で構成される外周表面)を結晶成長の起点として成長するので、上述のように、種結晶30のm面で構成される外周表面が良質であると、そこから成長する結晶も良質となる。従って、本実施形態によれば、大型で品質の良い種結晶30を結晶成長させて、その結果得られる13族窒化物結晶19(具体的には、第2領域27)を良質とすることができる。
次に、ホウ素溶解工程、ホウ素取込工程、ホウ素減少工程についてより具体的に説明する。
(1)反応容器12が窒化ホウ素を含む方法
ホウ素溶解工程の例としては、反応容器12として窒化ホウ素の焼結体(BN焼結体)を材料とした反応容器12を用いることができる。反応容器12が結晶成長温度まで昇温される過程において、反応容器12からホウ素が溶解し、混合融液24中に溶け出す(ホウ素溶解工程)。そして、種結晶30の成長過程において混合融液24中のホウ素が種結晶30中に取り込まれる(ホウ素取込工程)。種結晶30の成長にしたがって、混合融液24中のホウ素は次第に減少する(ホウ素減少工程)。
尚、上述では、BN焼結体の反応容器12を用いるとしたが、反応容器12の構成はこれに限定されるものではない。好適な実施形態としては、反応容器12において、混合融液24と接する内壁の少なくとも一部において、窒化ホウ素を含む物質(例えば、BN焼結体)が用いられていればよく、反応容器12のその他の部分は、パイロリティックBN(P−BN)等の窒化物、アルミナ、YAG等の酸化物、SiC等の炭化物等を使用することができる。
(2)反応容器12内に窒化ホウ素を含む部材を載置する方法
さらに、ホウ素溶解工程のその他の例として、反応容器12内に窒化ホウ素を含む部材を設置するとしてもよい。一例として、反応容器12内にBN焼結体の部材を載置するとしてもよい。尚、反応容器12の材質は(1)と同様に特に限定されるものではない。
この方法においては、反応容器12が上述の結晶成長温度まで昇温される過程において、反応容器12内に設置された部材から、混合融液24中にホウ素が少しずつ溶け込む(ホウ素溶解工程)。
ここで、(1)、(2)の方法において、混合融液24と接する窒化ホウ素を含む部材の表面には窒化ガリウム結晶の結晶核が生成しやすい。従って、窒化ホウ素の表面上(即ち、上述した内壁面または部材表面)に窒化ガリウムの結晶核が生成してその表面が次第に被覆されてくると、被覆された窒化ホウ素から混合融液24中に溶け込むホウ素の量は次第に減少することとなる(ホウ素減少工程)。さらに、窒化ガリウム結晶の成長にしたがって当該結晶の表面積が大きくなり、窒化ガリウム結晶中にホウ素が取り込まれる密度が小さくなる(ホウ素減少工程)。
尚、上記(1)、(2)では、ホウ素を含む物質を用いて混合融液24中にホウ素を溶解させるとしたが、混合融液24中にホウ素を溶解させる方法は上記に限定されず、混合融液24中にホウ素を添加するなど、その他の方法を用いるとしてもよい。また、混合融液24中のホウ素濃度を減少させる方法についてもその他の方法を用いるとしてもよく、本実施形態の結晶製造方法としては、少なくとも上述のホウ素溶解工程と、ホウ素取込工程と、ホウ素減少工程とが含まれていればよい。
<原料等の調整および結晶成長条件>
反応容器12に原料等を投入する作業は、内部容器11を例えばアルゴンガスのような不活性ガス雰囲気とされたグローブボックスに入れて行う。
(1)の方法で種結晶30の結晶製造を行う場合には、(1)で上述した構成の反応容器12に、(1)で上述したホウ素を含む物質と、フラックスとして用いられる物質と、原料とを投入する。
(2)の方法で種結晶30の結晶製造を行う場合には、(2)で上述した構成の反応容器12に、(2)で上述した窒化ホウ素を含む部材と、フラックスとして用いられる物質と、原料とを投入する。
フラックスとして用いる物質としては、ナトリウム、あるいはナトリウム化合物(例えば、アジ化ナトリウム)が用いられるが、その他の例として、リチウムや、カリウム等のその他のアルカリ金属や、当該アルカリ金属の化合物を用いるとしてもよい。また、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属や、当該アルカリ土類金属の化合物を用いるとしてもよい。なお、複数種類のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を用いるとしてもよい。
原料としてはガリウムが用いられるが、その他の原料の例として、ホウ素、アルミニウム、インジウム等のその他の13族元素や、これらの混合物を原料として反応容器12内に投入するとしてもよい。
また、本実施の形態では、反応容器12は、ホウ素を含む構成である場合を説明したが、ホウ素を含む構成に限られず、B、Al、O、Ti、Cu、Zn、Siの内の少なくとも1種を含む構成であってもよい。
このように原料等をセッティングした後に、ヒーター13に通電して、内部容器11およびその内部の反応容器12を結晶成長温度まで加熱する。すると、反応容器12内においてフラックスとして用いられる物質と、原料等が溶融し、混合融液24が形成される。また、この混合融液24に上記分圧の窒素を接触させて混合融液24中に溶解させることにより、種結晶30の原料である窒素を混合融液24中に供給することができる。さらに、混合融液24中には上述したようにホウ素が溶解する(ホウ素溶解工程)(混合融液形成工程)。
そして、反応容器12の内壁において、混合融液24に融解している原料とホウ素とから種結晶30の結晶核が生成される。そして、この結晶核に混合融液24中の原料およびホウ素が供給されて結晶核が成長し、針状の種結晶30が成長する。そして、上述したように、種結晶30の結晶成長過程において結晶中には混合融液24中のホウ素が取り込まれて(ホウ素添加工程)、種結晶30の内側にはホウ素濃度の高い第3領域29aが生成されやすい状態となり、種結晶30はc軸方向に長尺化されやすい状態となる。また、混合融液24中のホウ素濃度の減少とともに結晶中に取り込まれるホウ素が減少する(ホウ素減少工程)と、第3領域29aの外側にはホウ素濃度の低い第4領域29bが生成されやすい状態となり、種結晶30はc軸方向への伸長が鈍ってm軸方向へ成長しやすい状態となる。
なお、耐圧容器11内の窒素分圧は、5MPa〜10MPaの範囲内とすることが好ましい。
また、混合融液24の温度(結晶成長温度)は、800℃〜900℃の範囲内とすることが好ましい。
好適な実施形態としては、ガリウムとアルカリ金属(例えば、ナトリウム)との総モル数に対するアルカリ金属のモル数の比率を75%〜90%の範囲内とし、混合融液24の結晶成長温度を860℃〜900℃の範囲内とし、窒素分圧を5MPa〜8MPaの範囲内とすることが好ましい。
さらに好適な実施形態としては、ガリウムとアルカリ金属とのモル比を0.25:0.75とし、結晶成長温度を860℃〜870℃の範囲とし、窒素分圧を7MPa〜8MPaの範囲とすることがより好ましい。
上記工程を経ることによって、13族窒化物結晶19の製造に用いる種結晶30である、第1領域21Aの種結晶が得られる。また、上述したように、上記第2工程を行わず、ホウ素を含む窒化ガリウム結晶の第3領域29aを成長させる第1工程を行うことによって、第1領域21の種結晶が得られる。
[3]13族窒化物結晶の製造方法
上記に説明した13族窒化物結晶19は、[2]で上述した種結晶30を用いて、フラックス法によりこれらの種結晶30のc面断面積を肥大化させることで製造する。
<結晶製造装置>
図12は、種結晶30から第2領域27を結晶成長させて、13族窒化物結晶19を製造するために用いられる結晶製造装置2の構成例を示す概略断面図である。結晶製造装置2において、ステンレス製の外部耐圧容器50内には内部容器51が設置され、内部容器51内にはさらに反応容器52が収容されており、二重構造を成している。内部容器51は外部耐圧容器50に対して着脱可能となっている。なお、以下、種結晶30として、第1領域21Aの種結晶を用いた場合を説明する。
反応容器52は、種結晶30と、アルカリ金属と少なくとも13族元素を含む物質との混合融液24とを保持して、種結晶30から第2領域27の結晶成長(なお、種結晶を元にバルク結晶を育成することをSG:Seed Growthと称する)を行うための容器である。
反応容器52の材質は特に限定するものではなく、BN焼結体、P−BN等の窒化物、アルミナ、YAG等の酸化物、SiC等の炭化物等を使用することができる。また、反応容器52の内壁面、すなわち、反応容器52が混合融液24と接する部位は、混合融液24と反応し難い材質で構成されていることが望ましい。第2領域27を窒化ガリウム結晶とする場合には、窒化ガリウムが結晶成長できる材質の例としては、窒化ホウ素(BN)や、パイロリティックBN(P−BN)や、窒化アルミニウム等の窒化物や、アルミナ、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)等の酸化物、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。
また、外部耐圧容器50と内部容器51には、外部耐圧容器50の内部空間67と内部容器51の内部空間68に、13族窒化物結晶19の原料である窒素(N2)ガスおよび全圧調整用の希釈ガスを供給するガス供給管65、66が接続されている。ガス供給管54は窒素供給管57とガス供給管60に分岐しており、それぞれバルブ55、58で分離することが可能となっている。
希釈ガスとしては、不活性ガスのアルゴン(Ar)ガスを用いることが望ましいが、これに限定されず、その他のヘリウム(He)等の不活性ガスを希釈ガスとして用いてもよい。
窒素ガスは、窒素ガスのガスボンベ等と接続された窒素供給管57から供給されて、圧力制御装置56で圧力を調整された後、バルブ55を介してガス供給管54に供給される。一方、全圧調整用のガス(例えば、アルゴンガス)は、全圧調整用のガスのガスボンベ等と接続された全圧調整用のガス供給管60から供給されて、圧力制御装置59で圧力を調整された後、バルブ58を介してガス供給管54に供給される。このようにして圧力を調整された窒素ガスと全圧調整用のガスは、ガス供給管54にそれぞれ供給されて混合される。
そして、窒素および希釈ガスの混合ガスは、ガス供給管54から、バルブ63、ガス供給管65、バルブ61、ガス供給管66を経て、外部耐圧容器50および内部容器51内に供給される。なお、内部容器51はバルブ61部分で結晶製造装置2から取り外すことが可能となっている。また、ガス供給管65は、バルブ62を介して外部につながっている。
また、ガス供給管54には、圧力計64が設けられており、圧力計64によって外部耐圧容器50と内部容器51内の全圧をモニターしながら外部耐圧容器50および内部容器51内の圧力を調整できるようになっている。
本実施の形態では、このように窒素ガスおよび希釈ガスの圧力をバルブ55、58と圧力制御装置56、59とによって調整することにより、窒素分圧を調整することができる。また、外部耐圧容器50と内部容器51の全圧を調整できるので、内部容器51内の全圧を高くして、反応容器52内のアルカリ金属(たとえばナトリウム)の蒸発を抑制することができる。即ち、窒化ガリウムの結晶成長条件に影響を与える窒素原料となる窒素分圧と、ナトリウムの蒸発抑制に影響を与える全圧を、別々に制御する事が可能となっている。
また、図12に示すように、外部耐圧容器50内の内部容器51の外周にはヒーター53が配置されており、内部容器51および反応容器52を加熱して、混合融液24の温度を調整することができる。
<原料等の調整および結晶成長条件>
反応容器52に種結晶30やGaやNaと、Cなどの添加剤やGeなどのドーパント等の原料などを投入する作業は、内部容器51を例えばアルゴンガスのような不活性ガス雰囲気のグローブボックスに入れて行う。この作業は内部容器51に反応容器52を入れた状態で行っても良い。
反応容器52には、[2]で上述した種結晶30を設置する。また、反応容器52には、少なくとも13族元素を含む物質(例えば、ガリウム)と、フラックスとして用いられる物質を投入する。
フラックスとして用いる物質としては、ナトリウム、あるいはナトリウム化合物(例えば、アジ化ナトリウム)が用いられるが、その他の例として、リチウムや、カリウム等のその他のアルカリ金属や、当該アルカリ金属の化合物を用いるとしてもよい。また、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属や、当該アルカリ土類金属の化合物を用いるとしてもよい。なお、複数種類のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を用いるとしてもよい。
原料である13族元素を含む物質としては、例えば13族元素のガリウムが用いられるが、その他の例として、ホウ素、アルミニウム、インジウム等のその他の13族元素や、これらの混合物を用いてもよい。
13族元素を含む物質とアルカリ金属とのモル比は、特に限定されるものではないが、13族元素とアルカリ金属との総モル数に対するアルカリ金属のモル比を、40%〜95%とすることが好ましい。
このように原料等をセッティングした後に、ヒーター53に通電して、内部容器51およびその内部の反応容器52を結晶成長温度まで加熱する。すると、反応容器52内において原料の13族元素を含む物質、アルカリ金属、その他の添加物等が溶融し、混合融液24が形成される。また、この混合融液24に上記分圧の窒素を接触させて混合融液24中に溶解させることにより、13族窒化物結晶19の原料である窒素を混合融液24中に供給することができる(混合融液形成工程)。
そして、混合融液24中に融解している原料が種結晶30の外周表面に供給されて、当該原料によって種結晶30の外周表面から第2領域27が結晶成長する(結晶成長工程)。
このように、種結晶30の外周面から第2領域27が結晶成長することにより、種結晶30を含む13族窒化物結晶19を製造することができる。
好適な実施形態としては、内部容器51の内部空間68および外部耐圧容器50の内部空間67における窒素ガス分圧は、少なくとも0.1MPa以上とすることが好ましい。より好適な実施形態としては、内部容器51の内部空間68および外部耐圧容器50の内部空間67における窒素ガス分圧を、2MPa〜5MPaの範囲内とすることが好ましい。
好適な実施形態としては、混合融液24の温度(結晶成長温度)は、少なくとも700℃以上とすることが好ましい。より好適な実施形態としては、結晶成長温度は850℃〜900℃の範囲内であることが好ましい。
なお、単結晶育成工程の条件は、形成対象の13族窒化物結晶19に応じて、適宜選択することができる。
ここで、種結晶30の製造によって得られる、第1領域21の種結晶及び第1領域21Aの種結晶は、主に、c軸方向に成長することで製造された結晶である。一方、種結晶30から第2領域27を結晶成長させることで製造される13族窒化物結晶19は、主にc軸に対して垂直方向に結晶成長することで製造される。このため、第1領域21(または第1領域21A)と、第2領域27と、は結晶成長方向が異なる。結晶成長方向が異なると、不純物の取り込まれ方が異なるため、第1領域21(または第1領域21A)と第2領域27とは、不純物の取り込まれ方の異なる領域となる。このため、上記製造方法によってc軸に対して垂直方向に結晶成長させることで得られた第2領域27は、c軸方向への結晶成長によって得られた第1領域21(または第1領域21A)に比べて、キャリア濃度の高い領域となると考えられる。
また、第1領域21または第1領域21Aの結晶は種結晶として用いることから、製造された13族窒化物結晶19においては、第1領域21または第1領域21Aのc面断面における最大径に比べて、第2領域27の厚みは大きくなり、大きな領域となる。このため、この第2領域27を用いることで、低抵抗の導電性デバイス等に好適に適用可能な、高品質の13族窒化物結晶19を提供することができると考えられる。
なお、導電性デバイスとしては、例えば、半導体レーザーや発光ダイオード等が挙げられる。
また、上述した製造方法を用いることで、ここで、種結晶30から第2領域27を成長させて13族窒化物結晶19を製造する場合、種結晶30のm面で構成される外周表面から主に成長した第2領域27の転位密度は、種結晶30で構成される外周表面の品質に影響を受けると考えられる。
上記[2]で上述したように、種結晶30として、第1領域21Aの種結晶を用いた場合には、種結晶30のm面で構成される外周表面は転位密度が低く高品質であるため、この種結晶30を用いて第2領域27を成長させることにより、種結晶30から第2領域27に伝播する転位を減少させることができる。これにより、製造された13族窒化物結晶19の転位密度、具体的には、第2領域27の転位密度を低く抑えることができる。このため、より大型でかつ高品質の13族窒化物結晶19を製造しやすくなると考えられる。
また、本実施の形態において、上記製造方法によって作成された13族窒化物結晶19は、種結晶30(第1領域21、第1領域21A、第1領域21B)の外周表面であるm面からm軸方向(即ち、六角形のc面断面が大型化する方向)に成長する。このため、上述した転位を示す13族窒化物結晶19が得られる。
図13は、13族窒化物結晶19において、c軸とa軸に平行な断面における転位を模式的に示す図である。なお、図13では、13族窒化物結晶19のc軸とa軸に平行な断面のうちの、第1領域21Aより右側の部分を拡大して示している。
一般的に、フラックス法、HVPE法等のいずれの方法で結晶成長させた場合であっても、13族窒化物結晶19内には転位が少なからず発生する。また、第1領域21Aや第1領域21(図13では省略)の外周表面上に転位(線欠陥、点欠陥)が存在する場合には、これらの領域の種結晶の外周表面から第2領域27を結晶成長させる場合にそれら転位が第2領域27にも伝播する場合がある。なお、転位の発生原因としては、該種結晶と該種結晶から成長する第2領域27との熱膨張係数差および格子定数差や、該種結晶の表面における結晶のひずみやクラック等の欠陥が起因すると考えられている。
これに対して本実施形態では、第1領域21Aの種結晶、すなわち、第4領域29bかから第2領域27を結晶成長させる。従って、13族窒化物結晶19の第2領域27の転位密度も低減しやすくすることができる。
また、一般的に、結晶成長方向と平行に伸びる転位(線欠陥)は、結晶成長中に消滅することなく伸び続ける。一方、結晶成長方向と平行でない方向に伸びる線欠陥は、結晶成長中に消滅する場合が多い。即ち、種結晶30のm面で構成される外周表面であるm面からm軸方向(即ち、六角形のc面断面が大型化する方向)に成長する。従って、これらの種結晶の成長界面から発生する転位は結晶成長方向と平行な<11−20>方向が多く、結晶成長方向と平行でない<11−23>方向には少ない。
このため、本実施の形態の13族窒化物結晶19では、c面に平行な転位である基底面転位に比べて、c面を貫通する貫通転位が少なくなる。基底面転位が貫通転位より多いということは、c面断面が大型化する方向に結晶成長することで13族窒化物結晶19が製造されたことを意味する。
このように、本実施の形態の13族窒化物結晶19は、種結晶30からc面断面の六角形が大型化する方向に結晶成長することで製造されるので、製造された13族窒化物結晶19の基底面転位は、c面と方向で且つ互いに異なる方向の転位を含んだ状態となる(図3参照)。
ここで、c面に沿った方向の転位である基底面転位が1方向のみである13族窒化物結晶を用いた13族結晶基板を作成した場合には、この13族結晶基板は歪みや反りの大きい基板となる。一方、本実施の形態の13族窒化物結晶19は、基底面転位の方向が1方向ではなく、複数方向であるので、歪みや反りの抑制された13族結晶基板の作成に適用することができる。
また、上記製造方向によって作成された13族窒化物結晶19は、c面断面が大型化する方向に結晶成長することで作製される。このため、本実施の形態の13族窒化物結晶19は、c面と平行ではない方向への結晶粒界の発生を抑制することができる。
なお、13族窒化物結晶19において、種結晶30からm軸方向に結晶成長した領域である第2領域27のc面には、結晶粒界は存在しない。しかしながら、種結晶30である第1領域21(第1領域21A、第1領域21B)と第2領域27との間には、結晶粒界が存在する場合がある。
しかし、本実施の形態の13族窒化物結晶19では、上述したように互いに異なる複数方向の基底面転位を有する。また、13族窒化物結晶19では、上述したように、好ましくは、基底面転位の転位密度はc面における結晶粒界密度より大きい。また、13族窒化物結晶19では、好ましくは、c面を横切る断面の結晶粒界密度が、c面の結晶粒界密度より大きい。さらに、13族窒化物結晶19では、好ましくは、c面における1cm2当たりの結晶粒界の数は1以下である。
このため、13族窒化物結晶19は、13族窒化物結晶19からc面を主面とする13族窒化物結晶基板を製造した場合、高品質な窒化物結晶基板を得ることが可能となる。
また、本実施形態にかかる結晶製造方法では、種結晶30と、種結晶30から成長する第2領域27とを同じ材料(例えば、窒化ガリウム)とすることも可能である。この場合、窒化アルミニウム(AlN)のような異種材料の種結晶を用いる場合と異なり、格子定数や熱膨張係数を一致させることができ、格子不整合や熱膨張係数の違いによる転位の発生を抑制することが可能となる。
さらに、種結晶30と、第2領域27と、は同様の結晶成長方法(フラックス法)で製造されているため、種結晶30と第2領域27とを互いに異なる方法で製造した場合に比べて、格子定数と熱膨張係数の整合性を向上させることが可能となり、転位発生を抑制しやすくすることができる。
上記工程を経ることによって、実用的なサイズであり、且つ高品質な13族窒化物結晶19を製造することができる。
なお、上述ではフラックス法による結晶製造方法について説明したが、結晶製造方法は特に限定されるものではなく、HVPE法のような気相成長法や、フラックス法以外の液相法によって結晶成長を行うとしてもよい。ただし、高品質な13族窒化物結晶19を製造する観点から、フラックス法を用いることが好ましい。具体的には、フラックス法を用いて13族窒化物結晶19を製造することによって、より高品質な第2領域27を成長させることができる。このため、より高品質な13族窒化物結晶19を得ることができると考えられる。
[3]で上述した製造方法で製造される13族窒化物結晶19における、種結晶として用いた領域である第1領域21または第1領域21Aの位置は、13族窒化物結晶19の内部であればよく、13族窒化物結晶19のc面断面の中央をc軸方向に沿って貫通する位置であってもよいし、該中央をc軸方向に沿って貫通する位置からずれた位置であってもよい。
また、本実施の形態では、13族窒化物結晶19は、六角柱状の結晶上にその六角柱の上底を底面とする六角錐の設けられた針状の結晶である場合を説明したが、このような形に限定されるものではなく、例えば、m面の形成されていない六角錐形状であってもよい。
[4]13族窒化物結晶基板
本実施形態にかかる13族窒化物結晶基板は、13族窒化物結晶19を加工することによって得られる。
この13族窒化物結晶19の加工方向(切断方向)によって、例えばc面、m面、a面、{10−11}面、{11−23}面等の任意の結晶面を主面とした13族窒化物結晶基板を得ることができる。
図14、図15はそれぞれ、13族窒化物結晶19をスライスする方向を示す模式図である。また、図16−1〜図16−3は、スライス後に得られる13族窒化物結晶基板100(100a〜100c)の一例を示す模式図である。
一例としては、図14の1点鎖線P1に示すように種結晶21のc軸に対して垂直にスライスすることで、図16−1に示す13族窒化物結晶基板100aを得る。また、図14の1点鎖線P2に示すように種結晶21のc軸に対して斜めに傾けてスライスすることで、図16−2に示す13族窒化物結晶基板100bを得てもよい。さらに、図14の1点鎖線P3に示すように種結晶21のc軸に対して垂直にスライスして、図16−3に示す13族窒化物結晶基板100cを得てもよい。
なお、上記スライスの後に、成形加工、表面加工等の各種加工を施してもよい。
本実施形態の製造方法によれば、上述のようにc軸方向に長尺化された13族窒化物結晶19から13族窒化物結晶基板100を切り出すので、c面およびc面以外の面を切り出す場合のどちらにおいても基板主面を大面積とすることができる。即ち、本実施形態によれば、c面、m面、a面、{10−11}面、{20−21}面、{11−22}面など、任意の結晶面を主面とする大面積の結晶基板100を製造することができる。従って、各種半導体デバイスに用いることができる実用的なサイズの13族窒化物結晶基板100を製造することができる。
また、本実施形態の製造方法によれば、c面を主面とする結晶基板100の場合互いに異なる複数方向の基底面転位を有するため歪みや反りが抑制され、各種半導体デバイス用の種結晶基板としてより適している。
また、本実施形態の製造方法によれば、13族窒化物のバルク結晶(13族窒化物結晶19)をスライスして13族窒化物結晶基板100を製造する。従来技術のように熱膨張係数や格子定数の差が大きい異種基板上に結晶成長させた厚膜の結晶を基板から分離する工程が無いため、本実施形態の製造方法では13族窒化物結晶基板100にはクラックが発生しにくい。従って、従来技術よりも高品質の13族窒化物結晶基板100を製造することができる。
[5]13族窒化物結晶(バルク結晶)の好適な形状
次に、13族窒化物結晶19の好適な形状について説明する。図17〜図19は、第1領域21A(第3領域29aと第4領域29bを含む)、第1領域21B、または第1領域21の種結晶から、第2領域27を結晶成長させる過程を説明するための模式図である。なお、ここでの説明に関して、結晶成長方法は特に限定されるものではない。なお、図17〜図19は、13族窒化物結晶19のc軸とa軸に平行な面における断面を示す。
図17に示すように、13族窒化物結晶19は、主に、第1領域21、第1領域21A、または第1領域21Bの種結晶の外周表面であるm面からm軸方向(即ち、六角形のc面断面が肥大化する方向)に成長した領域27aと、主に、該種結晶の{10−11}面または領域27a上面の{10−11}面から成長した領域27bとを含んでいると考えられる。
領域27bでは、{10−11}面が形成される速度が律速となることが考えられ、これにより種結晶の上部周囲に成長する13族窒化物結晶(第2領域27)は六角錐形状となる場合が多いと考えられる。
図18は、種結晶のc軸方向の長さLが短い場合の結晶成長の様子を示す模式図である。種結晶の長さLが十分に長くない場合には、六角柱部分に対する六角錐部分の割合が大きいため、<10−11>方向に形成される領域27bは、m軸方向に形成される領域27aに比べその体積比が大きくなる。従って、13族窒化物結晶19は、図19に示すような形状となりやすく、この場合、全てのc面断面には領域27bが含まれることとなる。
また、図19は、図18の13族窒化物結晶(第2領域27)の結晶成長をさらに進行させた様子を示す模式図である。図19に示すように種結晶の外周が領域27bで包囲されてしまうと、さらに結晶成長を行ってもm面で構成される外周面は形成されず、{10−11}面が外周表面として保たれたまま13族窒化物結晶(第2領域27)が成長する場合が多く観察されている。
領域27aは、種結晶のm面の外周表面から結晶成長を開始した領域である。上述したように、主に種結晶のm面から成長した13族窒化物結晶(領域27a)は、c軸方向の貫通転位が比較的少ないと考えられる。従って、c面を主面とする13族窒化物結晶基板を製造する場合には、領域27aが多く含まれていることが好ましい。
[6]種結晶の好適なサイズ
次に、上述した好適な形状の13族窒化物結晶19を成長させるために好適な種結晶の形状について説明する。第1領域21Aの種結晶は六方晶の結晶構造を有し、a+c軸(<11−23>方向)とc面とが為す角度は、例えば、58.4°である。また、第1領域21Aの種結晶のc軸方向の長さLとc面断面における結晶径dとの比L/dが、例えば、0.813である場合に、種結晶は六角錐形状となる。
上述したように、良質の13族窒化物結晶19を得るためには、主に種結晶のm面の外周表面から13族窒化物結晶(第2領域27)が成長することが好ましい。そこで、好適な実施形態としては、種結晶はその外周面としてm面を含んでいることが好ましい。
図20は、第1領域21Aの種結晶の形状とL/dとの関係を示す模式図である。図20に示すように、(a)L/d=0.813である場合には、種結晶は六角錐状である。(b)L/d>0.813である場合には、上部が六角錐状、下部が六角柱状となり種結晶の外周面(側面)にはm面が含まれる。(c)L/d<0.813である場合には、種結晶はm面を含まない六角錐状か、或いは、六角錐部分の頂点を含む部分が含まれておらず結晶上面にc面が形成されており、m面を含む六角柱部分の高さが低い形状となる。
従って、好適な実施形態としては、種結晶において、c軸方向の長さLとc面における結晶径dとの比であるL/dは、0.813より大きいことが好ましい。
また、13族窒化物結晶基板100の実用的なサイズとしては、ハーフインチ(12.7mm)或いは2インチ(5.08cm)であることが望まれている。そこで、以下では、c面を主面とする13族窒化物結晶基板100の最大径をハーフインチ(12.7mm)以上、または2インチ以上とする場合に必要とされる種結晶のサイズについて説明する。
以下では、実用的な基板として必要とされる最低の厚みの一例として、13族窒化物結晶基板100の厚みが1mmである場合について試算するが、必要とされる最低の厚みはこれに限定されるものではなく、適宜試算されるものである。
まず、13族窒化物結晶基板100の直径が12.7mm、即ち、13族窒化物結晶基板100bの直径dが12.7mmとなるためには、種結晶の結晶径をゼロとして無視すると、半径方向(m軸方向)に少なくとも6.35mm以上は、第2領域27が成長する必要がある。
ここで、一例として、m軸方向の結晶成長速度Vmがc軸方向の結晶成長速度Vcの2倍であると仮定すると、m軸方向に6.35mm成長する間に、c軸方向には約3.2mm成長する。上述のようにL/d>0.813であるから、結晶径d(六角錐部分の底面の直径)が12.7mmとなるためには、c軸方向の長さL(六角錐部分の高さ)は、11.9mmとなる。従って、種結晶30の長さとしては、11.9−3.2=8.7mm必要であると試算される。即ち、六角錐形状の13族窒化物結晶を得るために必要とされる種結晶の最低の長さは、8.7mmとなる。そして、この六角錐形状の下部に六角柱状の領域が形成されていることが望まれる。13族窒化物結晶基板100の厚さとして1mm以上必要であると仮定すると、種結晶30のc軸方向の長さLは、9.7mm必要であると試算される。
このように、好適な実施形態としては、種結晶(第1領域21、第1領域21A、または第1領域21Bの種結晶)のc軸方向の長さLは、9.7mm以上であることが好ましい。
より好適な実施形態としては、種結晶は、c軸方向の長さLとc面における結晶径dとの比であるL/dが0.813より大きく、c軸方向の長さLが9.7mm以上であることが好ましい。さらに好ましくは、L/dが7より大きいことが好ましく、L/dが20より大きいことがより好ましい。
上述のように、好適な実施形態によれば、c面の直径がハーフインチである13族窒化物結晶基板100を製造できる。また、上述のように種結晶のm面から成長させた13族窒化物結晶19は高品質であるので、大型かつ高品質の13族窒化物結晶基板100を製造することができる。
また、直径が2インチ(5.08cm)の13族窒化物結晶基板100を得るためには、種結晶のc軸方向の長さLは37.4mm以上必要であると試算される。
従って、好適な実施形態として、種結晶のc軸方向の長さLは37.4mm以上であることが好ましい。これにより、c面の直径が2インチ以上の13族窒化物結晶基板100を製造することができる。また、上述のように種結晶のm面から成長させた13族窒化物結晶19は高品質であるので、大口径かつ高品質の13族窒化物結晶基板100を製造することができる。
以下に本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、符号は図11および図12を参照して説明した結晶製造装置1、2の構成と対応している。
―種結晶の製造―
まず、下記の製造方法により、13族窒化物結晶の製造に用いる種結晶を製造した。
<種結晶の製造例1>
図11に示した結晶製造装置1を使用して、第1領域21Aの種結晶を製造した。
BN焼結体からなる内径92mmの反応容器12に、公称純度99.99999%のガリウムと公称純度99.95%のナトリウムとをモル比0.25:0.75として投入した。
グローブボックス内で、高純度のArガス雰囲気下、反応容器12を耐圧容器11内に設置し、バルブ31を閉じて反応容器12内部を外部雰囲気と遮断して、Arガスが充填された状態で耐圧容器11を密封した。
その後、耐圧容器11をグローブボックスから出して、結晶製造装置1に組み込んだ。すなわち、耐圧容器11をヒーター13に対して所定の位置に設置して、バルブ31部分で窒素ガスとアルゴンガスとのガス供給管14に接続した。
次に、内部容器11からアルゴンガスをパージした後、窒素供給管17から窒素ガスを入れ、圧力制御装置16で圧力を調整してバルブ15を開け、内部容器11内の窒素圧力を3.2MPaとした。その後、バルブ15を閉じ、圧力制御装置16を8MPaに設定した。次いで、ヒーター13に通電し、反応容器12を結晶成長温度まで昇温した。本製造例1では、結晶成長温度は870℃とした。
結晶成長温度では反応容器12内のガリウムとナトリウムは融解し、混合融液24を形成する。なお、混合融液24の温度は反応容器12の温度と同温になる。また、この温度まで昇温すると本製造例1の結晶製造装置1では、内部容器11内の気体が熱せられ全圧は8MPaとなる。
次に、バルブ15を開け、窒素ガス圧力を8MPaとして、内部容器11内部と窒素供給管17内部とを圧力平衡状態とした。
この状態で反応容器12を500時間保持して窒化ガリウムの結晶成長を行った後、ヒーター13を制御して、内部容器11を室温(20℃程度)まで降温した。内部容器11内のガスの圧力を下げた後、内部容器11を開けたところ、反応容器12内には、窒化ガリウム結晶25が多数、結晶成長していた。結晶成長した窒化ガリウム結晶である種結晶30は無色透明であり、結晶径dは100〜1500μm程度であり、長さLは10〜40mm程度であり、長さLと結晶径dとの比L/dは20〜300程度であった。結晶成長した窒化ガリウム結晶である種結晶30は、c軸に概ね平行に成長しており、側面にはm面が形成されていた。
<種結晶の製造例2>
反応容器12の材質をアルミナにし、さらに反応容器12の底面にちょうど収まるBN焼結体の板を設置し、また、結晶成長温度870℃における耐圧容器11内の窒素分圧を6MPa(室温での耐圧容器11内の窒素分圧は2.8MPa)に維持し、結晶成長時間を300時間とする以外は種結晶の製造例1と同様にして結晶成長を行った。
その結果、種結晶の製造例1と同様に、無色透明の結晶成長した窒化ガリウム結晶である種結晶30が多数、結晶成長していた。結晶径dは100〜500μm程度であり、長さLは10〜15mm程度であり、長さLと結晶径dとの比率L/dは30〜500程度であった。
<種結晶の製造例3>
結晶成長温度を860℃とし、窒素圧力を5MPaとした以外は、種結晶の製造例1と同様にして結晶成長を行った。その結果、数百μm程度の大きさの窒化ガリウム微結晶が得られたが、長さ3mm以上の窒化ガリウム単結晶は得られなかった。
上記の種結晶の製造例1および種結晶の製造例2の各々で製造した種結晶30の各々について、各種測定を行った。測定結果を下記に示す。
<フォトルミネッセンス(PL)の測定結果>
種結晶の製造例1及び種結晶の製造例2で製造した種結晶のフォトルミネッセンス(PL)を室温(25℃)で測定した。フォトルミネッセンスは、堀場製作所社製のLabRAM HR−80を用いて測定した。励起光源には、波長325nmのヘリウム‐カドミウム(He−Cd)レーザーを使用した。フォトルミネッセンスは、種結晶30の内側の領域である第3領域29aと、種結晶30の外側の領域である第4領域29bとのそれぞれにおいて測定した。
図10は、第3領域29aおよび第4領域29bにおけるPLの発光スペクトルの測定結果の一例を示す図である。横軸は波長(nm)を示し、縦軸は発光強度を示す。
図10の実線で示されるように、種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2の第3領域29aにおいては、500nm〜800nmにかけて、600nm付近にピークを有するブロードな発光(第2ピーク)が測定されたが、窒化ガリウムのバンド端近傍(364nm)からの発光(第1ピーク)はごく弱い発光強度が得られたのみであった。
一方、図10の点線で示されるように、種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2の第4領域29bにおいては、窒化ガリウムのバンド端近傍(364nm)からの発光(第1ピーク)のピーク強度が強く測定され、500nm〜800nmにおけるブロードな発光(第2ピーク)については、ごく弱い発光強度が得られたのみであった。
このように、種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2で製造された種結晶30については、種結晶30の内側に含まれる第3領域29aにおいては、第1ピークのピーク強度が、第2ピークのピーク強度より小さいことが確認された。また、種結晶30の外側の第4領域29bにおいては、第1ピークのピーク強度が第2ピークのピーク強度より大きいことが確認された。
次に、図21、図22を参照して、種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2で製造された種結晶30について測定した、フォトルミネッセンスの発光強度分布について説明する。なお、図21、図22は、種結晶の製造例1及び製造例2で製造された種結晶30のc面断面において測定したフォトルミネッセンス結果の一例であり、c面断面の同一の測定箇所について異なる波長帯のスペクトル強度を示している。
図21は、フォトルミネッセンスの360nm〜370nmにおけるスペクトル強度のマッピング像である。濃色ほど360nm〜370nmにおけるスペクトル強度が強いことを示す。
図22は、フォトルミネッセンスの500nm〜800nmにおけるスペクトル強度のマッピング像である。濃色ほど500nm〜800nmにおけるスペクトル強度が強いことを示す。
従って、図21、図22のマッピング結果によれば、種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2で製造された種結晶30の内側には第3領域29aがあり、外側には第4領域29bがあることが確認できた。
また、種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2で製造された種結晶30のc面断面についてPL測定を行った結果、幾つかの種結晶30においては、第4領域29bが第3領域29aの外周の全てを覆っていることが確認された。また、その他の種結晶30においては、第4領域29bが第3領域29aの外周の一部を覆っていることが確認された。このように、種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2で製造された種結晶30のc面断面においては、第4領域29bが第3領域29aの外周の少なくとも一部を覆うことが確認できた。
<ホウ素濃度の測定>
種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2で製造された種結晶30について、2次イオン質量分析計(SIMS)を用いて結晶中のホウ素濃度を測定した。SIMSとしては、CAMECA社製の(型式)IMS 7fを用いた。一次イオンビームとしてはCs+イオンを用いた。本測定では、種結晶30のc面断面において内側の領域(即ち、第3領域29a)と、外側の領域(即ち、第4領域29b)とについて、それぞれ複数箇所のホウ素濃度を測定した。
測定結果は場所により多少のばらつきはあるものの、第3領域29aのホウ素濃度は5×1018cm−3〜3×1019cm−3程度であり、第4領域29bのホウ素濃度は1×1016cm−3〜8×1017m−3程度であった。
このように、種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2で製造された種結晶30は、c面断面において外側の第4領域29bのホウ素濃度が、内側の第3領域29aのホウ素濃度よりも低くなっていることが確認された。
次に、上述した結晶製造方法により、種結晶の製造例1〜種結晶の製造例2で製造された種結晶30を用いて、13族窒化物結晶19を製造した。
(実施例A1)
本実施例では、図12に示す結晶製造装置2により、種結晶30から第2領域27の結晶成長を行い、13族窒化物結晶19を製造した。
種結晶30としては、上記種結晶の製造例1で製造した種結晶30を用いた。この種結晶30の大きさは、幅1mm、長さ約40mmであった。なお、本実施例で用いた種結晶30は、c面断面の少なくとも一部において第4領域29bが第3領域29aの外周を全て覆っているものを用いた。また、この種結晶30のc面断面において、第4領域29bの厚みt(m軸方向の厚み)は少なくとも10μm以上あることを確認した。
まず、内部容器51をバルブ61部分で結晶製造装置2から分離し、Ar雰囲気のグローブボックスに入れた。次いで、アルミナからなる内径140mm、深さ100mmの反応容器52に、種結晶30を設置した。なお、種結晶30は、反応容器52の底に深さ4mmの穴をあけて差し込んで保持した。
次に、ナトリウム(Na)を加熱して液体にして反応容器52内に入れた。ナトリウムが固化した後、ガリウムを入れた。本実施例では、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.25:0.75とした。
その後、グローブボックス内で、高純度のArガス雰囲気下、反応容器52を内部容器51内に設置した。そして、バルブ61を閉じてArガスが充填された内部容器51を密閉し、反応容器52内部を外部雰囲気と遮断した。次に、内部容器51をグローブボックスから出して、結晶製造装置2に組み込んだ。すなわち、内部容器51をヒーター53に対して所定の位置に設置し、バルブ61部分でガス供給管54に接続した。
次に、内部容器51からアルゴンガスをパージした後、窒素供給管57から窒素ガスを入れ、圧力制御装置56で圧力を調整してバルブ55を開け、内部容器51内の全圧を1.2MPaにした。その後、バルブ55を閉じ、圧力制御装置56を3.2MPaに設定した。
次に、ヒーター53に通電し、反応容器52を結晶成長温度まで昇温した。結晶成長温度は870℃とした。そして、上記種結晶の製造例1における製造時と同様に、バルブ55を開け、窒素ガス圧力を3.2MPaとし、この状態で反応容器52を1300時間保持して窒化ガリウム結晶を成長させた。
その結果、反応容器52内には、種結晶30から結晶成長が生じ、c軸と垂直方向に結晶径が増大し、結晶径のより大きな13族窒化物結晶19(単結晶)が成長していた。結晶成長によって得られた13族窒化物結晶19は概ね無色透明であり、結晶径dは51mmであり、c軸方向の長さLは反応容器52に差し込んだ種結晶30の部分を含めて約54mmであった。また、13族窒化物結晶19の形状は、上部が六角推形状であり下部が六角柱形状であった。
(実施例A2)
本実施例では、種結晶として、上記種結晶の製造例2で製造した種結晶30を用いた以外は、実施例A1と同じ条件で図12に示す結晶製造装置2により種結晶30の結晶成長を行い、13族窒化物結晶19を製造した。
本実施例A2で得られた13族窒化物結晶19は、六角推形状であった。
(比較例A1)
本比較例では、実施例A1と成長方向が異なることで、欠陥の入り方の異なる結晶を製造した。本比較例では図12に示す結晶製造装置2により、実施例B1で製造したc面を主面とする13族窒化物結晶基板を種結晶として、c軸方向に大きくなるように結晶成長を行った。種結晶のc面直径は50.8mm、基板の厚さは400μmであった。
まず、内部容器51をバルブ61部分で結晶製造装置2から分離し、Ar雰囲気のグローブボックスに入れた。次いで、アルミナからなる内径140mm、深さ100mmの反応容器52に、13族窒化物結晶基板100を設置した。次に、ナトリウム(Na)を加熱して液体にして反応容器52内に入れた。ナトリウムが固化した後、ガリウムを入れた。本実施例では、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.25:0.75とした。
その後、グローブボックス内で、高純度のArガス雰囲気下、反応容器52を内部容器51内に設置した。そして、バルブ61を閉じてArガスが充填された内部容器51を密閉し、反応容器52内部を外部雰囲気と遮断した。次に、内部容器51をグローブボックスから出して、結晶製造装置2に組み込んだ。すなわち、内部容器51をヒーター53に対して所定の位置に設置し、バルブ61部分でガス供給管54に接続した。次に、内部容器51からアルゴンガスをパージした後、窒素供給管57から窒素ガスを入れ、圧力制御装置56で圧力を調整してバルブ55を開け、内部容器51内の全圧を1.0MPaにした。その後、バルブ55を閉じ、圧力制御装置56を3MPaに設定した。
次に、ヒーター53に通電し、反応容器52を結晶成長温度まで昇温した。結晶成長温度は870℃とした。そして、実施例1の操作と同様に、バルブ55を開け、窒素ガス圧力を2.5MPaとし、この状態で反応容器52を700時間保持して窒化ガリウム結晶27を成長させた。
その結果、反応容器52内には、c軸方向に結晶基板の厚みが増大し、窒化ガリウム結晶(単結晶)が成長していた。結晶成長した窒化ガリウム結晶84は概ね無色透明であり、c軸方向の長さLは約8mmであった(図24(A)参照)。
次に、上記実施例A及び比較例Aで製造した13族窒化物結晶を用いて、13族窒化物結晶基板を製造した。
(実施例B1)
実施例A1で製造した13族窒化物結晶を外形研削し、c面と平行にスライスし、表面を研磨し、表面処理を施し、外形(φ)2インチ、厚さ400μmのc面を主面とし、第1領域、及び第2領域を含む13族窒化物結晶基板を製造した。
(実施例B2)
実施例A2で製造した13族窒化物結晶を外形研削し、c面と平行にスライスし、表面を研磨し、表面処理を施し、c面を主面とし、第1領域、及び第2領域を含む13族窒化物結晶基板を製造した。
(実施例B3)
実施例A1で製造した13族窒化物結晶を外形研削し、m面に平行にスライスし、表面を研磨し、表面処理を施し、高さ40mm、横幅25mm、厚さ400μmのm面を主面とする13族窒化物結晶基板101、及び高さ40mm、横幅40mm、厚さ400μmのm面を主面とする13族窒化物結晶基板102を製造した(図4、図5参照)。尚、結晶基板102は種結晶を含んでいる。
(比較例B1)
実施例A1で製造した13族窒化物結晶に代えて、比較例A1で製造した13族窒化物結晶を用いた以外は、実施例B1と同じ条件でc面基板を作製した。なお、図24(B)は、比較例A1で製造した窒化ガリウム結晶84のm面断面を示す模式図である。c面基板は、種結晶である窒化ガリウム基板103部分を含まず、種結晶基板からc軸方向に成長した窒化ガリウム結晶84部分から製造した。
(比較例B2)
実施例B3で製造した13族窒化物結晶に代えて、比較例A1で製造した13族窒化物結晶を用いた以外は、実施例B3と同じ条件でm面基板を加工し、高さ7mm、横幅15mm、厚さ400μmのm面基板(図24(B)参照)を製造した。
―評価―
<転位密度の評価>
上記実施例B1〜実施例B2、及び比較例B1で作製した、c面基板である13族窒化物結晶基板の各々のc面について、転位方向、転位密度、結晶粒界、及び結晶粒界密度の評価を行った。
具体的には、上記実施例B1〜実施例B2、及び比較例B1で作製した、c面基板である13族窒化物結晶基板の各々のc面表面を、カソードルミネッセンスで観察した。カソードルミネッセンスの装置はCarl Zeiss製 MERLINを用い、加速電圧5.0kV、プローブ電流4.8nA、室温の条件で観察した。
実施例B2で作製した13族窒化物結晶基板のc面を貫通する貫通転位密度は、102cm−2以下であった。これは、該c面のカソードルミネッセンスによって暗点(ダークスポット)として観察される点を数えることで算出した。ここで、13族窒化物結晶基板のc面カソードルミネッセンスの観察において、<11−23>方向のようなc軸やc面と平行でない転位がc面表面に存在する場合は短い暗線などとして観察される。しかし、実施例B2で作製した13族窒化物結晶基板のc面においては、該短い暗線は見当たらず、c軸やc面と平行でない転位は、本実施形態の13族窒化ガリウム結晶にはほとんど存在しないことが確認できた。
一方、比較例B1で作製した、主面がc面である13族窒化物結晶基板についても、実施例B1実施例B2と同様に、c面を貫通する方向の貫通転位密度を測定した。その結果、104cm−2から105cm−2台の貫通転位密度が測定された。更に、比較例B1で作製した13族窒化物結晶基板には、転位の集中する領域が有ったり、カソードルミネッセンス観察像のコントラストから結晶粒界の存在が認められた。なお、比較例B1の結晶粒界密度は、10〜100cm−2であった。
<結晶性の評価1>
上記実施例B1〜実施例B2で作製した、c面基板である13族窒化物結晶基板の各々のc面について、結晶性を評価した。
具体的には、上記実施例B1〜実施例B2で作製した、c面基板である13族窒化物結晶基板の各々のc面の結晶性を、XRD測定のロッキングカーブの半値幅で評価した。XRD測定にはパナリティカル製のX’Pro MRDを用いた。その結果、c面基板表面のロッキングカーブ半値幅は25〜50arcsecと高品質であることが確認できた。
このため、実施例A1〜実施例A2で作製した13族窒化物結晶のc面における第2領域には結晶粒界は無く、種結晶である第1領域と、種結晶から成長した第2領域との界面のみに結晶粒界が存在した。c面における全領域、すなわち種結晶である第1領域と、種結晶から成長した第2領域との全領域について、結晶粒界密度を数えた。その結果、1cm2当たりの結晶粒界の数は1であった。
このため、実施例A1〜実施例A2で作製した13族窒化物結晶のc面の基底面転位の転位密度は、c面における結晶粒界密度より大きいことが確認できた。また、実施例A1〜実施例A2で作製した13族窒化物結晶のc面における結晶粒界の数は、1cm2当たりの結晶粒界密度は1以下であることが確認できた。
なお、結晶粒界を含まない13族窒化物結晶基板を得るためには、種結晶である第1領域を含まず、種結晶から成長した第2領域のみを含むように、実施例A1や実施例A2で作製した13族窒化物結晶から13族窒化物結晶基板を切り出せばよい。
一方、比較例B1で作製した主面がc面である13族窒化物結晶基板についても、同様にして、XRD測定のロッキングカーブの半値幅で評価した。その結果、c面基板表面のロッキングカーブ半値幅は100〜200arcsecであり、比較例B1で作製した13族窒化物結晶基板は、実施例B1〜実施例B2で作製した基板よりも品質が劣ることを確認した。
<結晶性の評価2>
実施例B3で作製した、m面基板である13族窒化物結晶基板101、及び13族窒化物結晶基板102について、結晶性を評価した。
まず13族窒化物結晶基板101の主面であるm面表面について、カソードルミネッセンスを用いて転位密度を測定した。その結果、転位は主に短い暗線で観察され、m面表面を貫通する転位の密度は104cm−2〜106cm−2台であった。なお、転位が集中する領域が有ったり、カソードルミネッセンス観察像のコントラストから結晶粒界の存在が認められた。結晶粒界密度は、10〜100cm−2であった。
次に結晶基板102の主面となるm面表面をカソードルミネッセンスで観察した。その結果、転位がc面と平行方向に延びる暗線として多数観察された。更にc面と平行方向の転位が積層状に集合している領域も存在し、c面と平行方向には結晶粒界の存在が認められた。
なお、種結晶の領域と、種結晶から成長した領域との界面付近に転位が集中している領域もあった。この界面付近の転位が集中している領域では、<11−23>のようなc面と平行でない転位も存在した。
また、転位の走る方向は、種結晶から外側に向かう方向に複数あることも確認できた。
従って、実施例B3で作製した13族窒化物結晶基板の元となる、実施例A2で作製した13族窒化物結晶の基底面転位は、種結晶である第1領域から、種結晶から成長した第2領域に向かう方向の転位を含むことが確認できた。
また、実施例B1及び実施例B2で作製した13族窒化物結晶基板についても、同様にして基底面転位の転位密度及び基底面転位を測定した。その結果、基底面転位の転位密度は、c面を貫通する方向の貫通転位の転位密度より大きいことが確認できた、といえる。
従って、実施例A1及び実施例A2で作製した13族窒化物結晶における、基底面転位の転位密度は、c面を貫通する方向の貫通転位の転位密度より大きいことが確認できた、といえる。
このように、基底面転位の方向が複数方向に存在すると、歪みや反りの少ない高品質な13族窒化物結晶基板とすることができる。このため、なお、種結晶である第1領域を含むように実施例A1や実施例A2で作製した13族窒化物結晶から13族窒化物結晶基板を切り出した場合であっても、従来の13族窒化物基板に比べて、歪みや反りの少ない高品質な13族窒化物結晶基板とすることができるといえる。
また、上記評価結果から、実施例A1や実施例A2で作製した13族窒化物結晶では、基底面転位の転位密度は、c面における結晶粒界密度より大きいことが確認できた。
また、c面を主面とするように加工することで転位密度や結晶粒界がより小さい結晶基板を製造できることが確認できた。
また、比較例B2で作製した、主面がm面である13族窒化物結晶基板についても同様にそて。基底面転位密度の測定を行った。その結果、転位は主に短い暗線で観察されたが、m面表面を貫通する転位の密度は102cm2以下であった。
従って、比較例A1で作製した13族窒化物結晶は、実施例A1及び実施例A2で作製した13族窒化物結晶における、貫通転位と基底面電位との関係を満たさないことを確認することができた。
<フォトルミネッセンス評価>
次に、実施例B1で作製した13族窒化物結晶基板のc面断面について、フォトルミネッセンスを室温で測定した。励起光源には、波長325nmのHe−Cdレーザーを使用した。
図23は、実施例B1で作製した13族窒化物結晶基板において、フォトルミネッセンスの発光分布を模式的に示す図である。種結晶(第1領域21B)の領域は、フォトルミネッセンスの色や強度等の発光特性がそれぞれ異なる領域291〜293(第3領域29a、第4領域29b(第4領域29b1、第4領域29b2)を有していた。各領域において発光強度や色等の発光特性が異なるのは、各領域内に含まれる不純物やその量が異なるためと考えられる。
領域291は強い赤色発光を示す領域であり、赤色に発光したことから、窒化ガリウムのバンド端近傍以外の発光である600〜650nmにかけての発光が強いことがわかる。即ち、領域291は第3領域29aの特性を有する領域である。
領域292は強い青色発光を示す領域であり、青色の波長領域で発光したことから、窒化ガリウムのバンド端及びバンド端近傍からの発光であることが分かる。領域293は青色の発光強度が領域292の青色の発光強度よりも弱い領域、である。領域292、領域293では橙や赤色発光は認められず、窒化ガリウムのバンド端近傍以外の発光が強くない。即ち、領域292は第4領域29b1、領域293は第4領域29b2の特性を有する領域である。また、この種結晶(第1領域21B)のc面断面において、第4領域29bの厚みt(m軸方向の厚み)は少なくとも10μm以上あることを確認した。
なお、種結晶21Bの周りに成長した第2領域27における窒化ガリウム結晶は、青色発光を示した。
このように、PL測定の結果では、結晶基板100のc面には、第3領域29a、第4領域29b(第4領域29b1、第4領域29b2)が含まれており、第3領域29aは第4領域29b1に、第4領域29b1は第4領域29b2に覆われていることが確認された。