以下に添付図面を参照して、本実施形態にかかる13族窒化物結晶の製造方法について説明する。尚、以下の説明において、図には発明が理解できる程度に構成要素の形状、大きさ及び配置が概略的に示されているに過ぎず、これにより本発明が特に限定されるものではない。また、複数の図に示される同様の構成要素については同一の符号を付して示し、その重複する説明を省略する場合がある。
[1]種結晶の結晶製造方法
<結晶製造装置>
図1は、実施の一形態において、種結晶25を製造する結晶製造装置1の概略断面図である。結晶製造装置1において、ステンレス製の外部耐圧容器28内には内部容器11が設置され、内部容器11内にはさらに反応容器12が収容されており、二重構造を成している。内部容器11は外部耐圧容器28に対して着脱可能となっている。
反応容器12は、原料や添加物を融解させた混合融液24を保持して、種結晶25の結晶成長を行うための容器である。反応容器12の構成については後述する。
また、外部耐圧容器28と内部容器11には、外部耐圧容器28の内部空間33と内部容器11の内部空間23に、13族窒化物結晶の原料である窒素(N2)ガスおよび全圧調整用の希釈ガスを供給するガス供給管34、32が接続されている。ガス供給管14は窒素供給管17とガス供給管20に分岐しており、それぞれバルブ15、18で分離することが可能となっている。
希釈ガスとしては、不活性ガスのアルゴン(Ar)ガスを用いることが望ましいが、これに限定されず、その他のヘリウム(He)等の不活性ガスを希釈ガスとして用いてもよい。
窒素ガスは、窒素ガスのガスボンベ等と接続された窒素供給管17から供給されて、圧力制御装置16で圧力を調整された後、バルブ15を介してガス供給管14に供給される。一方、希釈ガス(例えば、アルゴンガス)は、希釈ガスのガスボンベ等と接続された希釈ガス供給管20から供給されて、圧力制御装置19で圧力を調整された後、バルブ18を介してガス供給管14に供給される。このようにして圧力を調整された窒素ガスと希釈ガスは、ガス供給管14にそれぞれ供給されて混合される。
そして、窒素および希釈ガスの混合ガスは、ガス供給管14からバルブ31,29を経て外部耐圧容器28および内部容器11に供給される。尚、内部容器11はバルブ29部分で結晶製造装置1から取り外すことが可能となっている。
また、ガス供給管14には、圧力計22が設けられており、圧力計22によって外部耐圧容器28および内部容器11内の全圧をモニターしながら外部耐圧容器28および内部容器11内の圧力を調整できるようになっている。
本実施の形態では、このように窒素ガスおよび希釈ガスの圧力をバルブ15、18と圧力制御装置16、19とによって調整することにより、窒素分圧を調整することができる。また、外部耐圧容器28および内部容器11の全圧を調整できるので、内部容器11内の全圧を高くして、反応容器12内のアルカリ金属(例えばナトリウム)の蒸発を抑制することができる。即ち、窒化ガリウムの結晶成長条件に影響を与える窒素原料となる窒素分圧と、ナトリウムの蒸発抑制に影響を与える全圧を、別々に制御する事が可能となっている。
また、図1に示すように、外部耐圧容器28内の内部容器11の外周にはヒーター13が配置されており、内部容器11および反応容器12を加熱して、混合融液24の温度を調整することができる。
<結晶製造方法>
本実施形態の製造方法は、フラックス法により窒化ガリウムの種結晶25を製造する方法である。尚、種結晶25を単に窒化ガリウム結晶25と称することもある。
本実施形態の結晶製造方法は、ホウ素を含む窒化ガリウム結晶の第1領域を成長させる第1工程と、第1領域の外側に、ホウ素濃度が第1領域のホウ素濃度よりも低い窒化ガリウム結晶の第2領域を成長させる第2工程とを含む。
そして、窒化ガリウム結晶25内のホウ素濃度を結晶内側と結晶外側とで異ならせて結晶成長させるために、本実施形態の結晶製造方法は、混合融液24中にホウ素が溶け込むホウ素溶解工程と、窒化ガリウム結晶25の成長時に結晶中にホウ素が取り込まれるホウ素取込工程と、混合融液24中のホウ素濃度を結晶成長過程とともに減少させるホウ素減少工程とを含む。
ホウ素溶解工程では、反応容器12内壁に含まれる窒化ホウ素(BN)または反応容器12内に設置された窒化ホウ素の部材から、混合融液24中にホウ素が溶解する。次に溶解したホウ素が、窒化ガリウム結晶25が結晶成長する場合に、その結晶内に微量のホウ素が取り込まれる(ホウ素取込工程)。そして、結晶成長に伴って窒化ガリウム結晶25中に取り込まれるホウ素の量は次第に減少することとなる(ホウ素減少工程)。
ホウ素減少工程によれば、窒化ガリウム結晶25がm面({10−10}面)を成長させながら結晶成長する場合に、c軸を横切る断面において外側の領域におけるホウ素の濃度を、内側の領域のホウ素濃度よりも低くすることができる。これにより、窒化ガリウム結晶25のm面で構成される外周面(六角柱の6つの側面)において、不純物であるホウ素濃度と、不純物に起因する可能性のある結晶内の転位密度が低減され、窒化ガリウム結晶25の外周面を、その内側の領域に比べて良質の結晶で構成することができる。
[3]で後述する種結晶25から13族窒化物結晶27を成長させて13族窒化物結晶80を製造する製造方法において、13族窒化物結晶27は、主に種結晶25の側表面(m面で構成される外周表面)を結晶成長の起点として成長するので、上述のように、種結晶25のm面で構成される外周表面が良質であると、そこから成長する13族窒化物結晶27も良質となる。従って、本実施形態によれば、大型で品質の良い種結晶25を成長させて、その結果得られる13族窒化物結晶27を良質とすることができる。
次に、ホウ素溶解工程、ホウ素取込工程、ホウ素減少工程についてより具体的に説明する。
(1)反応容器12が窒化ホウ素を含む方法
ホウ素溶解工程の例としては、反応容器12として窒化ホウ素の焼結体(BN焼結体)を材料とした反応容器12を用いることができる。反応容器12が結晶成長温度まで昇温される過程において、反応容器12からホウ素が溶解し、混合融液24中に溶け出す(ホウ素溶解工程)。そして、種結晶25の成長過程において混合融液24中のホウ素が種結晶25中に取り込まれる(ホウ素取込工程)。種結晶25の成長にしたがって、混合融液24中のホウ素は次第に減少する(ホウ素減少工程)。
尚、上述では、BN焼結体の反応容器12を用いるとしたが、反応容器12の構成はこれに限定されるものではない。好適な実施形態としては、反応容器12において、混合融液24と接する内壁の少なくとも一部において、窒化ホウ素を含む物質(例えば、BN焼結体)が用いられていればよく、反応容器12のその他の部分は、パイロリティックBN(P−BN)等の窒化物、アルミナ、YAG等の酸化物、SiC等の炭化物等を使用することができる。
(2)反応容器12内に窒化ホウ素を含む部材を載置する方法
さらに、ホウ素溶解工程のその他の例として、反応容器12内に窒化ホウ素を含む部材を設置するとしてもよい。一例として、反応容器12内にBN焼結体の部材を載置するとしてもよい。尚、反応容器12の材質は(1)と同様に特に限定されるものではない。
この方法においては、反応容器12が上述の結晶成長温度まで昇温される過程において、反応容器12内に設置された部材から、混合融液24中にホウ素が少しずつ溶け込む(ホウ素溶解工程)。
ここで、(1)、(2)の方法において、混合融液24と接する窒化ホウ素を含む部材の表面には窒化ガリウム結晶25の結晶核が生成しやすい。従って、窒化ホウ素の表面上(即ち、上述した内壁面または部材表面)に窒化ガリウムの結晶核が生成してその表面が次第に被覆されてくると、被覆された窒化ホウ素から混合融液24中に溶け込むホウ素の量は次第に減少することとなる(ホウ素減少工程)。さらに、窒化ガリウム結晶25の成長にしたがって当該結晶の表面積が大きくなり、窒化ガリウム結晶25中にホウ素が取り込まれる密度が小さくなる(ホウ素減少工程)。
尚、上記(1)、(2)では、ホウ素を含む物質を用いて混合融液24中にホウ素を溶解させるとしたが、混合融液24中にホウ素を溶解させる方法は上記に限定されず、混合融液24中にホウ素を添加するなど、その他の方法を用いるとしてもよい。また、混合融液24中のホウ素濃度を減少させる方法についてもその他の方法を用いるとしてもよく、本実施形態の結晶製造方法としては、少なくとも上述のホウ素溶解工程と、ホウ素取込工程と、ホウ素減少工程とが含まれていればよい。
<原料等の調整および結晶成長条件>
反応容器12に原料等を投入する作業は、内部容器11を例えばアルゴンガスのような不活性ガス雰囲気とされたグローブボックスに入れて行う。
(1)の方法で種結晶25の結晶製造を行う場合には、(1)で上述した構成の反応容器12に、フラックスとして用いられる物質と、原料とを投入する。
(2)の方法で種結晶25の結晶製造を行う場合には、(2)で上述した構成の反応容器12に、(2)で上述した窒化ホウ素を含む部材と、フラックスとして用いられる物質と、原料とを投入する。
フラックスとして用いる物質としては、ナトリウム、あるいはナトリウム化合物(例えば、アジ化ナトリウム)が用いられるが、その他の例として、リチウムや、カリウム等のその他のアルカリ金属や、当該アルカリ金属の化合物を用いるとしてもよい。また、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属や、当該アルカリ土類金属の化合物を用いるとしてもよい。尚、複数種類のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を用いるとしてもよい。
原料としてはガリウムが用いられるが、その他の原料の例として、アルミニウム、インジウム等のその他の13族元素や、これらの混合物を原料として反応容器12内に投入するとしてもよい。
このように原料等をセッティングした後に、ヒーター13に通電して、内部容器11およびその内部の反応容器12を結晶成長温度まで加熱する。すると、反応容器12内においてフラックスとして用いられる物質と、原料等が溶融し、混合融液24が形成される。また、この混合融液24に上記分圧の窒素を接触させて混合融液24中に溶解させることにより、窒化ガリウム結晶25の原料である窒素を混合融液24中に供給することができる。さらに、混合融液24中には上述したようにホウ素が溶解する(ホウ素溶解工程)。(混合融液形成工程)
そして、反応容器12の内壁において、混合融液24に融解している原料から窒化ガリウム結晶25の結晶核が生成される。そして、この結晶核に混合融液24中の原料およびホウ素が供給されて結晶核が成長し、針状の窒化ガリウム結晶25が成長する。そして、上述したように、窒化ガリウム結晶25の結晶成長過程において結晶中にはホウ素が取り込まれて(ホウ素取込工程)、窒化ガリウム結晶25の内側にはホウ素濃度の高い第1領域25a(図2参照)が生成されやすい状態となる。その後、結晶成長の進行と共に、取り込まれるホウ素濃度が減少し(ホウ素減少工程)、第1領域25aの外側にはホウ素濃度の低い第2領域25b(図2参照)が生成されやすい状態となる。
本実施の形態の結晶製造方法における内部容器11内の窒素分圧は、5MPa〜10MPaの範囲内とすることが好ましい。
本実施の形態の結晶製造方法における混合融液24の温度(結晶成長温度)は、800℃〜900℃の範囲内とすることが好ましい。
好適な実施形態としては、ガリウムとアルカリ金属(例えば、ナトリウム)との総モル数に対するアルカリ金属のモル数の比率を75%〜90%の範囲内とし、混合融液24の結晶成長温度を860℃〜900℃の範囲内とし、窒素分圧を5MPa〜8MPaの範囲内とすることが好ましい。
さらに好適な実施形態としては、ガリウムとアルカリ金属とのモル比を0.25:0.75とし、結晶成長温度を860℃〜870℃の範囲とし、窒素分圧を7MPa〜8MPaの範囲とすることがより好ましい(実施例参照)。
[2]種結晶
本実施形態にかかる窒化ガリウム結晶は、[1]で上述した製造方法で製造される種結晶25である。
<ホウ素濃度特性>
図2−1、図2−2は、本実施形態にかかる窒化ガリウム結晶25の構造を示す概略断面図である。尚、図2−1、図2−2では、六方晶構造を有する窒化ガリウム結晶25において、c軸とa軸に平行なの断面図を示している。好適な実施形態としての窒化ガリウム結晶25は、図2−1に示すように、c軸方向に長尺化されており、内側にホウ素濃度の高い結晶領域(第1領域25a)を有し、外側にホウ素濃度の低い結晶領域(第2領域25b)を有する。尚、窒化ガリウム結晶25は、図2−2に示すように、第1領域25a、第2領域25bによる二重構造を有さない構造であってもよい。或いは、窒化ガリウム結晶25は、二重以上の多重構造を有していても良い。
一般的に、窒化ガリウム結晶25は、図2−1に例示するように六角錐部分の上面(上側面)がGa面となり、六角柱部分の底面がN面となる。Ga面、N面は針状結晶の両端の形を比較することによって識別することができる。
図3、図4は、窒化ガリウム結晶25のc面({0001}面)断面図の一例である。即ち、図3は、図2−1のA−A線断面図である。図3、図4に示すように、窒化ガリウム結晶25においてc軸と垂直な断面(c面)は六角形あるいは概ね六角形である。また、この六角形の辺に相当する窒化ガリウム結晶25の側面は、主に六方晶構造のm面で構成される。
図3に示すように、好適な実施形態の窒化ガリウム結晶25は、c面断面において、内側にホウ素濃度の高い結晶領域(第1領域25a)を有し、ホウ素濃度の低い結晶領域(第2領域25b)が第1領域25aの少なくとも一部を覆うように形成されていることが好ましい。このように、第2領域25bが少なくとも一部の第1領域25aの外周を覆っている窒化ガリウム結晶25を種結晶として用いて、当該種結晶の外周面から13族窒化物結晶27(図10−1参照)を成長させる場合に、第2領域25bから成長した13族窒化物結晶27は高品質となりやすい。
尚、ここではc面断面において、第1領域25aと第2領域25bとが含まれるとしたが、厳密なc面断面に限定されるものではなく、窒化ガリウム結晶25のc軸を横切る断面の少なくとも一面において、これら第1領域25aおよび第2領域25bが含まれていればよい。
また、好適な実施形態としては、窒化ガリウム結晶25において、内側の第1領域25aのホウ素濃度は、4×1018atms/cm3以上であり、外側の第2領域25bのホウ素濃度は、4×1018atms/cm3未満であることが好ましい(実施例参照)。
さらに好適な実施形態としては、窒化ガリウム結晶25のc軸を横切る断面において、外側の第2領域25bが、内側の第1領域25aの外周の全て(即ち、概ねm面で構成される六角形状の外周面の全て)を覆うことが好ましい(図4参照)。
図4は、窒化ガリウム結晶25のc面断面図のその他の例である。図4に示すように、第2領域25bが第1領域25aのm面で構成される外周の全てを覆う場合には、13族窒化物結晶27を第2領域25bから結晶成長させることができるので、13族窒化物結晶27において高品質となる領域をより増加させることができる。
好適な実施形態としては、窒化ガリウム結晶25において、外側の第2領域25bの厚さt(図2−1参照)は100nm以上であることが好ましい。
特許文献3に記載されるように、窒化ガリウム結晶を種結晶として用いて、フラックス法により13族窒化物結晶を成長させる場合に、種結晶のメルトバックが生じる場合がある。また、メルトバックは、種結晶が低品質である場合、特に加工変質層が残っている場合においてその溶解量(メルトバック量)が増加することが知られている。
これに対して、本実施形態の窒化ガリウム結晶25においては、高品質の結晶層である第2領域25bが結晶外側に100nm以上の厚さで存在するので、種結晶25を成長させる工程においてメルトバックが発生した場合であっても、第2領域25bが残り易くなり、高品質の13族窒化物結晶27を成長させやすい。
<発光特性>
図5は、第1領域25aおよび第2領域25bにおける電子線または紫外光励起による発光スペクトルの一例を示す図である(実施例参照)。
本実施形態にかかる窒化ガリウム結晶25は、六方晶の窒化ガリウム結晶のc軸を横切る断面において、断面内側の第1領域25aと、第1領域25aの少なくとも一部を覆う第2領域25bとを有する。第1領域25aの電子線または紫外光励起による発光スペクトルにおいて、窒化ガリウムのバンド端発光を含む第1ピークの強度は、第1ピークより長波長側の第2ピークの強度より小さい。第2領域25bの電子線または紫外光励起による発光スペクトルにおいて、第1ピークの強度は第2ピークの強度より大きい。
第1ピークとは、窒化ガリウムのバンド端発光を含み、室温での測定において概ね365nm程度の波長領域に出現する発光スペクトルのピークのことである。窒化ガリウムのバンド端からの発光とは、窒化ガリウム結晶25において価電子帯の上端の正孔と伝導帯の底の電子が再結合することによる発光であり、バンドギャップに等しいエネルギー(波長)を持つ光が放出されることである。即ち、第1ピークは、窒化ガリウム結晶25において窒素とガリウムの結合(結合状態)及び結晶の周期構造に起因するピークである。尚、第1ピークはバンド端発光とバンド端近傍からの発光を含む場合がある。
第2ピークとは、第1ピークよりも長波長側に出現する少なくとも1つのピークのことであり、窒化ガリウムのバンド端及びバンド端近傍からの発光以外に起因する発光スペクトルのピークのことであり、窒素とガリウムの結合以外に起因するピークである。
より好適な実施形態としては、室温で測定された電子線または紫外光励起による発光スペクトルにおいて、第2ピークは450nmから650nmの波長領域に含まれる。
さらに好適な実施形態としては、室温で測定された電子線または紫外光励起による発光スペクトルにおいて、第2ピークは590nmから650nmの波長領域に含まれる。
尚、室温とは概ね20℃程度であり、10℃〜30℃程度のことである。室温より低温(例えば、−270℃程度)で電子線または紫外光励起による発光スペクトルを測定した場合には、第2ピークは複数のピークに分離する場合があるが、本実施形態にかかる第2ピークは、上記室温で測定された場合にブロードなピークとなっていれば他の温度での測定時に分離していてもよい。
尚、電子線または紫外光励起による発光スペクトルは、例えばヘリウム−カドミウムレーザー(He−Cdレーザー)を励起光源としてフォトルミネッセンス(PL)を測定することにより得られるが、これに限定されず、蛍光顕微鏡などによってスペクトルの色や強度を観察し、観察された色によって第1領域25a、第2領域25bが識別されるとしてもよい。
ここで、第1領域25aにおける発光スペクトルのように、第2ピークのピーク強度が第1ピークのピーク強度よりも大きいということは、第1領域25aに不純物や欠陥が比較的多く含まれていることを表す。一方、第2領域25bにおける発光スペクトルのように、第1ピークのピーク強度が第2ピークのピーク強度よりも大きいということは、第2領域25bにおいて不純物や欠陥が比較的少ないことを表し、第2領域25bの結晶が高品質であることを表している。
なお、第1領域25a及び第2領域25bにおける第1ピークのピーク強度及び第2ピークのピーク強度は、上記関係を満たせば特に限定されない。好適な一実施形態としては、第2領域25bにおける第1ピークのピーク強度は、第1領域25aにおける第1ピークのピーク強度より大きいことが好ましい。また、第2領域25bにおける第2ピークのピーク強度は、第1領域25aにおける第2ピークのピーク強度より小さいことが好ましい。
このように、本実施形態によれば、不純物や欠陥が少ない第2領域25bが、窒化ガリウム結晶25のc軸を横切る断面において外側に配置されているので、窒化ガリウム結晶25を種結晶として13族窒化物結晶27を結晶成長させる場合に、高品質の13族窒化物結晶80を製造することができる。
また、窒化ガリウム結晶25は、第1領域25aおよび第2領域25bによる二重構造に限定されるものではない。窒化ガリウム結晶25は、二重以上の多重構造(例えば三重構造)を有するとしてもよい。即ち、窒化ガリウム結晶25には、第1領域25a、第2領域25bとは構成や特性が異なるその他の領域が含まれていてもよい。或いは、窒化ガリウム結晶25において、第1領域25aまたは第2領域25bはそれぞれ複数含まれていてもよい。また、窒化ガリウム結晶25には、電子線または紫外光励起による発光スペクトルの発光強度が弱い領域が含まれていてもよい。
ここで、図6は、窒化ガリウム結晶25のc面断面のその他の構成例を示す模式図である。図6に示すように、第2領域25bには、第2領域25b1における第1ピークの発光強度より第1ピークの発光強度が弱い第2領域25b2が含まれていてもよい。また、第2領域25b2は、第1領域25aまたは第2領域25b1を覆うように形成されていてもよい。
<その他の構成>
なお、本実施形態の窒化ガリウム結晶25(第1領域25a、第2領域25b)には添加物がドープされていても良い。添加物としては、例えば、ゲルマニウム(Ge)、酸素(O)、シリコン(Si)等のドナー性不純物、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)等のアクセプター性不純物、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)等の磁性を発現させる遷移金属、ユーロピウム(Eu)、エルビウム(Er)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)等の蛍光あるいは磁性を発現させる希土類元素等、アルミニウム(Al)、インジウム(In)等の同属元素がドープされても良い。この他、目的に合わせた添加物が適宜選択されてドープされるとしても良い。
尚、図3または図4において、窒化ガリウム結晶25のc面断面、第1領域25aのc面断面、第2領域25bのc面断面をそれぞれ正六角形で示したが、これらは一模式図に過ぎず、それぞれ正六角形に限定されるものではない。窒化ガリウム結晶25のc面断面、第1領域25aのc面断面、第2領域25bのc面断面は、それぞれ六方晶構造を有する窒化ガリウム結晶の断面により概ね六角形形状に構成されるものであり、結晶成長の過程でその他の構造がこれらの内部または境界に発生する場合には、各六角形の輪郭はそれら他の構造との境界によって変形することがある。
[3]種結晶を元にバルク結晶を育成する結晶製造方法
本実施形態にかかる結晶製造方法は、[2]で上述した窒化ガリウム結晶25を種結晶(種結晶25)として用いて、フラックス法によりこの種結晶25のc面断面積を肥大化させた13族窒化物結晶(例えば、窒化ガリウム結晶)を製造する方法である。
<結晶製造装置>
図7は、種結晶25を育成するために用いられる結晶製造装置2の構成例を示す概略断面図である。結晶製造装置2において、ステンレス製の外部耐圧容器50内には内部容器51が設置され、内部容器51内にはさらに反応容器52が収容されており、二重構造を成している。内部容器51は外部耐圧容器50に対して着脱可能となっている。
反応容器52は、種結晶25と、アルカリ金属と少なくとも13族元素を含む物質との混合融液24とを保持して、種結晶25の結晶成長(種結晶を元にバルク結晶を育成することをSG:Seed Growthと呼ぶ)を行うための容器である。
反応容器52の材質は特に限定するものではなく、BN焼結体、P−BN等の窒化物、アルミナ、YAG等の酸化物、SiC等の炭化物等を使用することができる。また、反応容器52の内壁面、すなわち、反応容器52が混合融液24と接する部位は、混合融液24と反応し難い材質で構成されていることが望ましい。窒化ガリウムが結晶成長できる材質の例としては、窒化ホウ素(BN)や、パイロリティックBN(P−BN)や、窒化アルミニウム等の窒化物や、アルミナ、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)等の酸化物、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。
また、外部耐圧容器50と内部容器51には、外部耐圧容器50の内部空間67と内部容器51の内部空間68に、13族窒化物結晶の原料である窒素(N2)ガスおよび全圧調整用の希釈ガスを供給するガス供給管65、66が接続されている。ガス供給管54は窒素供給管57とガス供給管60に分岐しており、それぞれバルブ55、58で分離することが可能となっている。
希釈ガスとしては、不活性ガスのアルゴン(Ar)ガスを用いることが望ましいが、これに限定されず、ヘリウム(He)等のその他の不活性ガスを希釈ガスとして用いてもよい。
窒素ガスは、窒素ガスのガスボンベ等と接続された窒素供給管57から供給されて、圧力制御装置56で圧力を調整された後、バルブ55を介してガス供給管54に供給される。一方、全圧調整用のガス(例えば、アルゴンガス)は、全圧調整用のガスのガスボンベ等と接続された全圧調整用のガス供給管60から供給されて、圧力制御装置59で圧力を調整された後、バルブ58を介してガス供給管54に供給される。このようにして圧力を調整された窒素ガスと全圧調整用のガスは、ガス供給管54にそれぞれ供給されて混合される。
そして、窒素および希釈ガスの混合ガスは、ガス供給管54からガス供給管65、66を経て、外部耐圧容器50および内部容器51内に供給される。尚、内部容器51はバルブ61部分で結晶製造装置2から取り外すことが可能となっている。
また、ガス供給管54には、圧力計64が設けられており、圧力計64によって外部耐圧容器50と内部容器51内の全圧をモニターしながら外部耐圧容器50および内部容器51内の圧力を調整できるようになっている。
本実施の形態では、このように窒素ガスおよび希釈ガスの圧力をバルブ55、58と圧力制御装置56、59とによって調整することにより、窒素分圧を調整することができる。また、外部耐圧容器50と内部容器51の全圧を調整できるので、内部容器51内の全圧を高くして、反応容器52内のアルカリ金属(たとえばナトリウム)の蒸発を抑制することができる。即ち、窒化ガリウムの結晶成長条件に影響を与える窒素原料となる窒素分圧と、ナトリウムの蒸発抑制に影響を与える全圧を、別々に制御する事が可能となっている。
また、図7に示すように、外部耐圧容器50内の内部容器51の外周にはヒーター53が配置されており、内部容器51および反応容器52を加熱して、混合融液24の温度を調整することができる。
<結晶製造工程>
反応容器52に種結晶25やガリウム(Ga)やナトリウム(Na)と炭素(C)などのドーパント等の原料、フラックス材料、添加物などを投入する作業は、内部容器51を例えばアルゴンガスのような不活性ガス雰囲気のグローブボックスに入れて行う。なお、この作業は内部容器51に反応容器52を入れた状態で行っても良い。
反応容器52には、[2]で上述した種結晶25を設置する(種結晶設置工程)。
ここで、図8、図9を用いて種結晶25の設置方法について説明する。図8、図9は、種結晶25の設置方法の一例を示す模式図(断面図)である。図8、図9に示すように、反応容器52の底部には種結晶25の外径より内径の大きい溝(穴)が設けられている。そして、種結晶25の一端をこの溝に差し込むことにより種結晶25を設置する。
好適な実施形態としては、図8に示すように、Ga面を上側に向けて種結晶25を反応容器52内に設置することが好ましい。
好適な実施形態としては、図9に示すように、N面を上側に向けて種結晶25を反応容器52内に設置することが好ましい。
尚、図8、図9では、溝に種結晶25を嵌めこんで設置するとしたが、種結晶の設置方法はこれに限定されるものでなく、その他の設置方法を用いるとしてもよい。
好適な実施形態としては、反応容器52内に設置される種結晶25は、c軸方向の長さLが9.7mm以上であり、長さLとc面における結晶径dとの比であるL/dが、0.813より大きい六方晶構造の窒化ガリウム結晶25であることが好ましい。
また、反応容器52には、少なくとも13族元素を含む物質(例えば、ガリウム)と、フラックスとして用いられる物質を投入する(投入工程)。
フラックスとして用いる物質としては、ナトリウム、あるいはナトリウム化合物(例えば、アジ化ナトリウム)が用いられるが、その他の例として、リチウムや、カリウム等のその他のアルカリ金属や、当該アルカリ金属の化合物を用いるとしてもよい。また、バリウム、ストロンチウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属や、当該アルカリ土類金属の化合物を用いるとしてもよい。尚、複数種類のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を用いるとしてもよい。
原料である13族元素を含む物質としては、例えば13族元素のガリウムが用いられるが、その他の例として、ホウ素、アルミニウム、インジウム等のその他の13族元素や、これらの混合物を用いるとしてもよい。
13族元素を含む物質とアルカリ金属とのモル比は、特に限定されるものではないが、13族元素とアルカリ金属との総モル数に対するアルカリ金属のモル比を、40〜95%とすることが好ましい。
このように原料等をセッティングした後に、ヒーター53に通電して、内部容器51およびその内部の反応容器52を結晶成長温度まで加熱する。すると、反応容器52内において原料の13族元素を含む物質、アルカリ金属、その他の添加物等が溶融し、混合融液24が形成される(混合融液形成工程)。
また、この混合融液24に上記分圧の窒素を接触させて混合融液24中に溶解させることにより、13族窒化物結晶27の原料である窒素を混合融液24中に供給する(窒素溶解工程)。
そして、混合融液24中に融解している原料が種結晶25の外周表面に供給されて、当該原料によって種結晶25の外周表面から13族窒化物結晶27が結晶成長する。そして、13族窒化物結晶27の外周表面にさらに原料が供給され、13族窒化物結晶27の結晶成長が進行する。このように種結晶25から13族窒化物結晶27を結晶成長させることにより、例えば図12に示すような形状の13族窒化物結晶80や、図13に示すような形状の13族窒化物結晶80を製造することができる。(結晶成長工程)
次に、結晶成長工程において形成される13族窒化物結晶80の形状について説明する。
図10−1、図10−2、図11−1、図11−2は、13族窒化物結晶80の育成過程および結晶形状をそれぞれ説明する図である。
図10−1に示すように、好適な結晶成長工程は、結晶側面に、主に{10−10}面を含む外周面と、主に{10−11}面を含む外周面とを形成し、結晶底面に、主に{0001}面を含む外周面を形成する工程を含む(実施例1参照)。
図10−2、図11−1、図11−2に示すように、好適な結晶成長工程は、結晶上面および結晶底面に、主に{0001}面を含む外周面を形成し、結晶側面に、主に{10−10}面を含む外周面と、主に{10−11}面を含む外周面とを形成する工程を含む(実施例2参照)。
本実施形態の結晶成長工程において13族窒化物結晶27の結晶成長速度は、<10−10>方向(m軸方向)の成長速度が最も速い。次いで、[0001]方向(Ga面側のc軸方向)の成長速度、および、<10−11>方向のうちGa面側の成分をもつ方向の成長速度が速い。そして、[000−1]方向(N面側のc軸方向)と、<10−11>方向のうちN面側の成分をもつ方向の成長速度は、上記他の方向の成長速度に比べて遅い。
換言すると、(<10−10>方向の成長速度)>(Ga面方向の成長速度)>(N面方向の成長速度)という関係が略成立する。これにより、本実施形態の結晶成長工程において得られる13族窒化物結晶の外形形状は、図10−1、図10−2、図11−1、図11−2に示すような形状となる。
尚、<10−11>方向のうちGa面側の成分をもつ方向とは、<10−11>方向のうち六方晶用指数[hkil]のlがプラスである方向をいい、一例としては、図11−1に示す[10−11]方向、[−1011]方向等がある。
また、<10−11>方向のうちN面側の成分をもつ方向とは、<10−11>方向のうち六方晶用指数[hkil]のlがマイナスである方向をいい、一例としては、図11−1に示す[10−1−1]方向、[−101−1]方向等がある。
次に、本実施形態の結晶成長工程において得られる結晶形状について、図10−1ないし図11−2を用いて説明する。
まず、図10−1、図10−2に示すように、窒化ガリウム結晶25のGa面を上側に向けて反応容器52内に設置した場合について説明する。
上述のように、[0001]方向と、<10−10>方向と、<10−11>方向のうちGa面側の成分をもつ方向との成長速度は比較的速いので、13族窒化物結晶27は、図10−1または図10−2に示すような形状に成長しやすい。
そして、[0001]方向の成長速度より、<10−11>方向のうちGa面側の成分をもつ方向の成長速度が速い場合は、図10−1に示すような形状となりやすい。一方、[0001]方向の成長速度より、<10−11>方向のうちGa面側の成分をもつ方向の成長速度が遅い場合は、図10−2に示すような形状となりやすい。
次に、図11−1、図11−2に示すように、窒化ガリウム結晶25のN面を上側に向けて反応容器52内に設置した場合について説明する。
上述のように、N面側の方向の成長速度、即ち、[000−1]方向、<10−11>方向のうちN面側の成分をもつ方向の成長速度は、<10−10>方向の成長速度より遅いので、13族窒化物結晶27は図11−1、図11−2に示すような形状に成長しやすい。
そして、[000−1]方向の成長速度より、<10−11>方向のうちN面側の成分をもつ方向の成長速度が速い場合は、図11−1の形態になりやすい。一方、[000−1]方向の成長速度より、<10−11>方向のうちN面側の成分をもつ方向の成長速度が遅い場合は、図11−2の形態になりやすい。
尚、図10−1、図10−2において、13族窒化物結晶27中にはその成長に伴って現れる成長縞71を図示しているが、13族窒化物結晶27中には成長縞71が現れてもよいし、現れなくともよい。
好適な実施形態にかかる結晶成長工程は、c軸方向の長さLが9.7mm以上であり、前記Lとc面における結晶径dとの比であるL/dが、0.813より大きい六方晶構造の窒化ガリウム結晶25を種結晶として、六方晶構造の13族窒化物結晶27を成長させて13族窒化物結晶80を製造することが好ましい。このような形状の種結晶25を用いて13族窒化物結晶80を製造することによって、実用的なサイズかつ高品質な結晶基板を製造することができる。詳細は[7][8]において後述する。
好適な実施形態としては、内部容器51の内部空間68および外部耐圧容器50の内部空間67における窒素ガス分圧は、少なくとも0.1MPa以上とすることが好ましい。より好適な実施形態としては、内部容器51の内部空間68および外部耐圧容器50の内部空間67における窒素ガス分圧を、2MPa〜5MPaの範囲内とすることが好ましい。
好適な実施形態としては、混合融液24の温度(結晶成長温度)は、少なくとも700℃以上とすることが好ましい。より好適な実施形態としては、結晶成長温度は850℃〜900℃の範囲内であることが好ましい。
このように種結晶25から13族窒化物結晶27を成長させる場合において、種結晶25のm面で構成される外周表面から主に成長した13族窒化物結晶27の転位密度は、種結晶25のm面で構成される外周表面の品質に影響を受けると考えられる。[2]で上述したように、種結晶25のm面で構成される外周表面は転位密度が低く高品質であるため、この種結晶25を用いて13族窒化物結晶27を成長させることにより、種結晶25から13族窒化物結晶27に伝播する転位を減少させることができる。これにより、13族窒化物結晶27の転位密度を低く抑えることができ、より大型でかつ高品質の13族窒化物結晶80を製造しやすくなる。
また、本実施形態にかかる結晶製造方法では、種結晶25と、種結晶25から成長する13族窒化物結晶27とを同じ材料(例えば、窒化ガリウム)とすることも可能である。従って、窒化アルミニウム(AlN)のような異種材料の種結晶を用いる場合と異なり、格子定数や熱膨張係数を一致させることができ、格子不整合や熱膨張係数の違いによる転位の発生を抑制することが可能となる。
さらに、種結晶25と13族窒化物結晶27とは同様の結晶成長方法(フラックス法)で製造されているため、種結晶25と13族窒化物の結晶27とを互いに異なる方法で製造した場合に比べて、格子定数と熱膨張係数の整合性を向上させることが可能となり、転位発生を抑制しやすくすることができる。
上述のように、本実施形態にかかる結晶製造方法によれば、実用的なサイズであり、低転位密度で高品質な13族窒化物結晶80を製造することができる。
尚、上述ではフラックス法による結晶製造方法について説明したが、結晶製造方法は特に限定されるものではなく、HVPE法のような気相成長法や、フラックス法以外の液相法によって結晶成長を行うとしてもよい。
[4]13族窒化物結晶
本実施形態にかかる13族窒化物結晶は、[3]で上述した製造方法で製造される13族窒化物結晶80である。従って、本実施形態にかかる13族窒化物結晶80は、[2]で上述した窒化ガリウム結晶25の少なくとも一部を内側に含む。
図12、図13は、本実施形態の13族窒化物結晶80(80a,80b)の外観を示す模式図である。これらに図示するように、13族窒化物結晶80a(図12参照)、80b(図13参照)の内部には種結晶25が含まれている。
図14は、13族窒化物結晶のその他の構成例として13族窒化物結晶80cの外観を示す模式図である。13族窒化物結晶80における種結晶25の位置は、13族窒化物結晶80の内部であればよく、図12、図13のように13族窒化物結晶80a、80bの中央付近(断面の六角形の中心付近)に含まれていてもよいし、図14のように13族窒化物結晶80cの周辺部(前記中心より六角形の辺に近い領域)に含まれていても良い。また、13族窒化物結晶80は、m軸方向により肥大した形状であってもよい。
また、13族窒化物結晶80において、13族窒化物結晶27中には添加物がドープされていても良い。添加物としては、例えば、ゲルマニウム(Ge)、酸素(O)、シリコン(Si)等のドナー性不純物、マグネシウム(Mg)、リチウム(Li)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)等のアクセプター性不純物、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)等の磁性を発現させる遷移金属、ユーロピウム(Eu)、エルビウム(Er)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)等の蛍光あるいは磁性を発現させる希土類元素等、アルミニウム(Al)、インジウム(In)等の同属元素がドープされても良い。この他、目的に合わせた添加物が適宜選択されてドープされるとしても良い。
<転位密度>
本実施の形態にかかる結晶製造方法では、種結晶として用いる窒化ガリウム結晶25と、種結晶から成長する13族窒化物単結晶27を同じ窒化ガリウムとすることもできる。サファイアや窒化アルミニウムなどの異種材料の種結晶を用いる場合とは異なり、格子定数や熱膨張係数は一致することとなり、格子不整合や熱膨張係数の違いによる転位の発生を抑制することが可能となる。更に、本実施形態によれば、不純物や欠陥が少ない第2領域25bが、窒化ガリウム結晶25のc軸を横切る断面において外側に配置されているので、窒化ガリウム結晶25を種結晶として13族窒化物結晶27を結晶成長させる場合に、高品質の13族窒化物結晶27を製造することができる。すなわち、種結晶として用いる窒化ガリウム結晶25の界面から発生する転位も更に抑制することが可能となる。
次に、結晶中の転位について図15を用いて説明する。図15は、13族窒化物結晶80において、c軸とa軸と平行な断面における転位を模式的に示す図である。尚、図15では、13族窒化物結晶80のa面断面のうち、種結晶25より右側の部分を拡大して示している。
本実施形態において、種結晶25から成長した13族窒化物結晶27は、主に種結晶25の外周表面であるm面からm軸方向(即ち、六角形のc面断面が大型化する方向)に成長されている。従って、種結晶25の成長界面から発生する転位は結晶成長方向と平行な<11−20>方向が多く、結晶成長方向と平行でない<11−23>方向には少ない。
六方晶の13族窒化物結晶のc面と交わる転位方向を考えると、<0001>方向と<11−23>方向があるが、本実施形態では<0001>方向の転位は発生せず、<11−23>方向の転位も少ない。
従って、好適な実施形態において、13族窒化物結晶27(13族窒化物結晶80の種結晶25以外の領域)における転位密度は、当該13族窒化物結晶27の内側に含まれる窒化ガリウム結晶25の転位密度よりも小さい。
[5]結晶基板の製造方法
本実施形態にかかる結晶基板の製造方法は、[4]で上述した13族窒化物結晶80から、結晶基板100を製造する方法である。
図16、図17はそれぞれ、13族窒化物結晶80b(図13参照)、80c(図14参照)をスライスする方向を示す模式図である。また、図18−1ないし図18−3、図19−1ないし図19−3は、スライス後に得られる結晶基板100(100a〜100f)の一例を示す模式図である。
本実施形態の製造方法は、13族窒化物結晶80をスライスする場合に、種結晶25の少なくとも一部を含むように結晶基板100を切り出す工程を含む。一例としては、図16の1点鎖線P1に示すように種結晶25のc軸に対して垂直にスライスして、図18−1に示す結晶基板100aを得てもよい。また、図16の1点鎖線P2に示すように種結晶25のc軸に対して斜めに傾けてスライスして、図18−2に示す結晶基板100bを得てもよい。さらに、図16の1点鎖線P3に示すように種結晶25のc軸に対して垂直にスライスして、図18−3に示す結晶基板100cを得てもよい。
尚、結晶基板100(100a〜100f)はスライス後に成形加工、表面加工等の各種加工が施されて、図18−1〜図18−3、図19−1〜図19−3に示すような13族窒化物の結晶基板100(100a〜100f)に加工される。
本実施形態の製造方法によれば、上述のようにc軸方向に長尺化された13族窒化物結晶80から結晶基板100を切り出すので、c面およびc面以外の面を切り出す場合のどちらにおいても基板主面を大面積とすることができる。即ち、本実施形態によれば、c面、m面、a面、{10−11}面、{20−21}面、{11−22}面など、任意の結晶面を主面とする大面積の結晶基板100を製造することができる。従って、各種半導体デバイスに用いることができる実用的なサイズの結晶基板100を製造することができる。
また、本実施形態の製造方法によれば、13族窒化物のバルク結晶(13族窒化物結晶80〜83)をスライスして結晶基板100を製造する。従来技術のように熱膨張係数や格子定数の差が大きい異種基板上に結晶成長させた厚膜の結晶を基板から分離する工程が無いため、本実施形態の製造方法では結晶基板100にはクラックが発生しにくい。従って、従来技術よりも高品質の結晶基板100を製造することができる。
[6]結晶基板
本実施形態にかかる結晶基板は、[5]で上述した製造方法で製造される結晶基板100である。即ち、本実施形態の結晶基板100は、[2]で上述した種結晶25の少なくとも一部を含むことを特徴とする。
図18−1〜図18−3、図19−1〜図19−3に図示するように、本実施形態の結晶基板100(100a〜100f)には、[3]で上述した結晶製造工程において用いられた種結晶25が含まれている。また、種結晶25のm面で構成される外周表面の少なくとも一部は、種結晶25から成長した13族窒化物結晶27によって被覆されている。
より好適な実施形態としては、尚、種結晶25のm面で構成される外周表面の全てが13族窒化物結晶27に被覆されていてもよいことが好ましい。
また、種結晶25は13族窒化物結晶27の内側に含まれていれば、その位置は限定されるものではない。例えば図18−1、図18−2に示すように、結晶基板100の基板主面の中央付近に種結晶25が配置されてもよい。またこの場合に、種結晶25のc軸は、図18−1に示すように基板主面に対して垂直となるように配置されてもよいし、図18−2に示すように基板主面に対して傾斜していてもよい。
また、図18−3、図19−3に示すように、種結晶25のc軸が基板主面に対して平行になるように種結晶25が配置されていてもよい。さらに、種結晶25は、結晶基板100の基板主面の中央付近以外に配置されていてもよく、例えば図19−1、図19−2に示すように、種結晶25は結晶基板100の基板主面の周辺部に配置されていてもよい。
好適な実施形態として、結晶基板100は六方晶のc面を主面とすることが好ましい。
上述のように、好適な実施形態にかかる13族窒化物結晶27においては、c面を貫通する転位(線欠陥)が低減されやすい。従って、13族窒化物結晶80からc面を主面とする結晶基板100を製造した場合、c軸方向に伸びる線欠陥を低減させることができ、高品質な結晶基板100を得ることが可能となる。
[7]13族窒化物結晶(バルク結晶)の好適な形状
次に、13族窒化物結晶80の好適な形状について説明する。図20−1、図20−2は、種結晶25から13族窒化物結晶27が結晶成長する過程を説明するための模式図である。尚、図20−1、図20−2は、13族窒化物結晶80のm面における断面を示す。
図20−1、図20−2に示すように、種結晶25から成長した13族窒化物結晶27は、主に種結晶25の外周表面であるm面からm軸方向(即ち、六角形のc面断面が肥大化する方向)に成長した領域27aと、主に種結晶25の{10−11}面を含む斜めの面または領域27a上面の{10−11}面を含む斜めの面から<10−11>方向に成長した領域27bとを含んでいると考えられる。
領域27bでは、{10−11}面が形成される速度が律速となることが考えられ、これにより種結晶25の上部周囲に成長する13族窒化物結晶27は、図20−1に示すように六角錐形状となる場合が多いと考えられる。また、c面({0001}面)が形成される速度が律速となる場合には、図20−2のように、六角錐の上部がc面と平行に切り取られた形状となる場合がある。
図21−1、図21−2は、種結晶25のc軸方向の長さL(図2−1参照)が短い場合の結晶成長の様子を示す模式図である。種結晶25の長さLが十分に長くない場合には、六角柱部分に対する六角錐部分の割合が大きいため、<10−11>方向に形成される領域27bは、m軸方向に形成される領域27aに比べその体積比が大きくなる。従って、13族窒化物結晶90、91は、図21−1、図21−2に示すような形状となりやすく、この場合、全てのc面断面には領域27bが含まれることとなる。
領域27aは、種結晶25のm面の外周表面から結晶成長を開始した領域である。図15で上述したように、主に種結晶25のm面から成長した13族窒化物結晶27(領域27a)は、c軸方向の貫通転位が比較的少ないと考えられる。従って、c面を主面とする結晶基板100(例えば、100a、100b、100d、100e)を製造する場合には、領域27aが多く含まれていることが好ましい。
図20−1、図20−2において、13族窒化物結晶80の下部、即ち領域27bが含まれない六角柱部分を用いて結晶基板100を製造すれば、結晶基板100にはm面以外から成長したと考えられる領域27bを含めないようにすることができる。
一方、図21−1、図21−2に示すような形状の13族窒化物結晶90、91を用いて結晶基板100を製造する場合、結晶基板100には、領域27a、27bの双方が含まれることとなる。一般的に、異なる結晶成長方向で成長した領域はその特性が異なる場合が多く、また、種結晶と該種結晶から成長した結晶の特性も異なる場合が多いことが知られている。従って、図21−1、図21−2に示すような形状の13族窒化物結晶90、91から製造される結晶基板100は、領域27a、27bおよび種結晶25の3つの領域を含むこととなり、結晶基板100の品質が低下するおそれがある。
従って、好適な実施形態の13族窒化物結晶80としては、結晶下部に六角柱部分を含む形状であることが好ましい。尚、好適な形状は図20−1、図20−2の例に限定されるものではない。その他の例として、13族窒化物結晶は、種結晶25から主にm軸方向に結晶成長し、主に六角柱形状を有するとしてもよい。
[8]種結晶の好適なサイズ
次に、[7]で上述した好適な形状の13族窒化物結晶80を製造するために好適である種結晶25の形状について説明する。窒化ガリウム結晶25は六方晶の結晶構造を有し、a+c軸(<11−23>方向)とc面とが為す角度は58.4°である。窒化ガリウム結晶25のc軸方向の長さL(図2−1参照)とc面断面における結晶径dとの比L/dが0.813である場合に、窒化ガリウム結晶25は六角錐形状となる。
[7]で上述したように、良質の13族窒化物結晶80を得るためには、主に種結晶25のm面の外周表面から13族窒化物結晶27が成長することが好ましい。そこで、好適な実施形態としては、種結晶25はその外周面としてm面を含んでいることが好ましい。
図22は、種結晶25の形状とL/dとの関係を示す模式図である。図22に示すように、(a)L/d=0.813である場合には、種結晶25は六角錐状である。(b)L/d>0.813である場合には、上部が六角錐状、下部が六角柱状となり、種結晶25の外周面(側面)にはm面が含まれる。(c)L/d<0.813である場合には、種結晶25はm面を含まない六角錐状か、或いは、六角錐部分の頂点を含む部分が含まれておらず結晶上面にc面が形成されており、m面を含む六角柱部分の高さが低い形状となる。
従って、好適な実施形態としては、種結晶25において、c軸方向の長さLとc面における結晶径dとの比であるL/dが0.813より大きいことが好ましい。
また、結晶基板100の実用的なサイズとしては、ハーフインチ(12.7mm)或いは2インチ(5.08cm)あることが望まれている。そこで、以下では、c面を主面とする結晶基板100をハーフインチ(12.7mm)以上、または2インチ以上とする場合に必要とされる種結晶25のサイズについて説明する。
以下では、実用的な基板として必要とされる最低の厚みの一例として、結晶基板100の厚みが1mmである場合について試算するが、必要とされる最低の厚みはこれに限定されるものではなく、適宜試算されるものである。
まず、結晶基板100の直径が12.7mm、即ち、13族窒化物結晶80の結晶径dが12.7mmとなるためには、種結晶25の結晶径をゼロとして無視すると、半径方向(m軸方向)に6.35mmだけ、13族窒化物結晶27が成長する必要がある。
ここで、一例として、m軸方向の結晶成長速度Vmがc軸方向の結晶成長速度Vcの2倍であると仮定すると、m軸方向に6.35mm成長する間に、c軸方向には約3.2mm成長する。上述のようにL/d>0.813であるから、結晶径d(六角錐部分の底面の直径)が12.7mmとなるためには、c軸方向の長さL(六角錐部分の高さ)は、11.9mmとなる。従って、種結晶25の長さとしては、11.9−3.2=8.7mm必要であると試算される。即ち、図20に示すような六角錐形状の13族窒化物結晶80を得るために必要とされる種結晶25の最低の長さは、8.7mmとなる。そして、この六角錐形状の下部に図19に示すように六角柱状の領域が形成されていることが望まれる。結晶基板100の厚さとして1mm以上必要であると仮定すると、種結晶25のc軸方向の長さLは、9.7mm必要であると試算される。
このように、好適な実施形態としては、種結晶25のc軸方向の長さLは、9.7mm以上であることが好ましい。
より好適な実施形態としては、種結晶25は、c軸方向の長さLとc面における結晶径dとの比であるL/dが0.813より大きく、c軸方向の長さLが9.7mm以上であることが好ましい。さらに好ましくは、L/dが7より大きいことが好ましく、L/dが30より大きいことがより好ましい。
上述のように、好適な実施形態によれば、c面の直径がハーフインチである結晶基板100を製造できる。また、上述のように種結晶25のm面から成長させた13族窒化物結晶80は高品質であるので、大型かつ高品質の結晶基板100を製造することができる。
また、直径が2インチ(5.08cm)の結晶基板100を得るためには、種結晶25のc軸方向の長さLは37.4mm以上必要であると試算される。
従って、好適な実施形態として、種結晶25のc軸方向の長さLは37.4mm以上であることが好ましい。これにより、c面の直径が2インチの結晶基板100を製造することができる。また、上述のように種結晶25のm面から成長させた13族窒化物結晶80は高品質であるので、大口径かつ高品質の窒化ガリウムの結晶基板100を製造することができる。
以下に本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、符号は図1および図7を参照して説明した結晶製造装置1、2の構成と対応している。本実施例では、[3]で上述した結晶製造方法により、13族窒化物結晶80a(図10−1参照)、80e(図11−2参照)を製造した実施例について説明する。
<種結晶>
まず、本実施例で用いた種結晶25について説明する。種結晶25は、図1に示した結晶製造装置1を使用して製造した。尚、符号は図1を参照して説明した結晶製造装置1の構成と対応している。また、本実施例では、上記(1)の方法の実施例として、BN焼結体からなる内径92mmの反応容器12に、公称純度99.99999%のガリウムと公称純度99.95%のナトリウムとをモル比0.25:0.75として投入した。
グローブボックス内で、高純度のArガス雰囲気下、反応容器12を内部容器11内に設置し、バルブ31を閉じて反応容器12内部を外部雰囲気と遮断して、Arガスが充填された状態で内部容器11を密封した。その後、内部容器11をグローブボックスから出して、結晶製造装置1に組み込んだ。すなわち、内部容器11をヒーター13に対して所定の位置に設置して、バルブ31部分で窒素ガスとアルゴンガスとのガス供給管14に接続した。
次に、内部容器11からアルゴンガスをパージした後、窒素供給管17から窒素ガスを入れ、圧力制御装置16で圧力を調整してバルブ15を開け、内部容器11内の窒素圧力を3.2MPaとした。その後、バルブ15を閉じ、圧力制御装置16を8MPaに設定した。次いで、ヒーター13に通電し、反応容器12を結晶成長温度まで昇温した。本実施例では、結晶成長温度は870℃とした。
結晶成長温度では反応容器12内のガリウムとナトリウムは融解し、混合融液24を形成する。なお、混合融液24の温度は反応容器12の温度と同温になる。また、この温度まで昇温すると本実施例の結晶製造装置1では、内部容器11内の気体が熱せられ全圧は8MPaとなる。
次に、バルブ15を開け、窒素ガス圧力を8MPaとして、内部容器11内部と窒素供給管17内部とを圧力平衡状態とした。
この状態で反応容器12を500時間保持して窒化ガリウムの結晶成長を行った後、ヒーター13を制御して、内部容器11を室温(20℃程度)まで降温した。内部容器11内のガスの圧力を下げた後、内部容器11を開けたところ、反応容器12内には、窒化ガリウム結晶25が多数、結晶成長していた。結晶成長した窒化ガリウム結晶25は無色透明であり、結晶径dは100〜1500μm程度であり、長さLは10〜40mm程度であり、長さLと結晶径dとの比L/dは20〜300程度であった。窒化ガリウム結晶25は、c軸に概ね平行に成長しており、側面にはm面(図3参照)が形成されていた。
次に、本実施例で製造された窒化ガリウム結晶25について行った各種測定の結果について記載する。
<フォトルミネッセンス(PL)の測定結果>
本実施例で製造した窒化ガリウム結晶のフォトルミネッセンス(PL)を室温(25℃)で測定した。フォトルミネッセンスは、堀場製作所製のLabRAM HR−800により測定を行った。励起光源には、波長325nmのHe−Cdレーザーを使用した。フォトルミネッセンスは、図4で示すように、種結晶25の内側の領域である第1領域25aと、種結晶25の外側の領域である第2領域25bとのそれぞれにおいて測定した。
図5は、図4で示す第1領域25aおよび第2領域25bにおけるPLの発光スペクトルの測定結果の一例を示す図である。横軸は波長(nm)を示し、縦軸は発光強度を示す。
図5の実線で示されるように、第1領域25aにおいては、500nm〜800nmにかけて、600nm付近にピークを有するブロードな発光(第2ピーク)が測定されたが、窒化ガリウムのバンド端近傍(365nm)からの発光(第1ピーク)はごく弱い発光強度が得られたのみであった。
一方、図5の点線で示されるように、第2領域25bにおいては、窒化ガリウムのバンド端近傍(365nm)からの発光(第1ピーク)のピーク強度が強く測定され、500nm〜800nmにおけるブロードな発光(第2ピーク)については、ごく弱い発光強度が得られたのみであった。
このように、本実施例で製造された種結晶25について、種結晶25の内側に含まれる第1領域25aにおいては、第1ピークのピーク強度が、第2ピークのピーク強度より小さいことが確認された。また、種結晶25の外側の第2領域25bにおいては、第1ピークのピーク強度が第2ピークのピーク強度より大きいことが確認された。
次に、図23、図24を参照して、フォトルミネッセンスの発光強度分布について説明する。図23、図24は、本実施例で製造した窒化ガリウム25のc面断面において測定したフォトルミネッセンス結果の一例であり、図24と図25はc面断面の同一の測定箇所について異なる波長帯のスペクトル強度を示している。
図23は、フォトルミネッセンスの360nm〜370nmにおけるスペクトル強度のマッピング像である。濃色ほど360nm〜370nmにおけるスペクトル強度が強いことを示す。
図24は、フォトルミネッセンスの500nm〜800nmにおけるスペクトル強度のマッピング像である。濃色ほど500nm〜800nmにおけるスペクトル強度が強いことを示す。
従って、図23、図24のマッピング結果によれば、窒化ガリウム結晶25の内側には第1領域25aがあり、窒化ガリウム結晶25の外側には第2領域25bがあることが確認できた。
また、本実施例で製造された窒化ガリウム結晶25のc面断面についてPL測定を行った結果、幾つかの窒化ガリウム結晶25においては、図4のように第2領域25bが第1領域25aの外周の全てを覆っていることが確認された。また、その他の窒化ガリウム結晶25においては、図3のように第2領域25bが第1領域25aの外周の一部を覆っていることが確認された。このように、本実施例で製造された窒化ガリウム結晶25のc面断面においては、第2領域25bが第1領域25aの外周の少なくとも一部を覆うことが確認できた。
<ホウ素濃度の測定>
本実施例で製造された窒化ガリウム結晶25について、2次イオン質量分析計(SIMS)を用いて結晶中のホウ素濃度を測定した。SIMSは、CAMECA社製のIMS 7fを用いた。一次イオンビームとしてはCs+イオンを用いた。イオンビームの一次加速電圧は15.0kV、検出領域は30μmφとした。本測定では、図4で示すように、窒化ガリウム結晶25のc面断面において内側の領域(即ち、第1領域25a)と、外側の領域(即ち、第2領域25b)とについて、それぞれ複数箇所のホウ素濃度を測定した。
測定結果は場所により多少のばらつきはあるものの、第1領域25aのホウ素濃度は5×1018cm−3〜3×1019cm−3程度であり、第2領域25bのホウ素濃度は1×1016cm−3〜8×1017m−3程度であった。
このように、本実施例で製造された窒化ガリウム結晶25は、c面断面において外側の第2領域25bのホウ素濃度が、内側の第1領域25aのホウ素濃度よりも低くなっており、第1領域25a、第2領域25bの二重構造となっていることが確認された。
<種結晶のSGによるバルク結晶製造例>
次に、[3]で上述した結晶製造方法により、種結晶25の結晶成長(SG:Seed Growth)を行い、13族窒化物結晶80を製造した実施例について説明する。
(実施例1)
本実施例では、図7に示す結晶製造装置2により、種結晶25の結晶成長を行い、図10−1に示すような形状の窒化ガリウム結晶80を製造した。
種結晶25としては、幅1mm、長さ約40mmの窒化ガリウム結晶を用いた。尚、本実施例で用いた種結晶25は、図4に示すように、c面断面の少なくとも一部において第2領域25bが第1領域25aの外周を全て覆っているものを用いた。また、この種結晶25のc面断面において、第2領域25bの厚みt(m軸方向の厚み、図2−1参照)は少なくとも10μm以上あることを確認した。
まず、内部容器51をバルブ61部分で結晶製造装置2から分離し、Ar雰囲気のグローブボックスに入れた。次いで、アルミナからなる内径140mm、深さ100mmの反応容器52に、種結晶25を設置した。尚、種結晶25は、反応容器52の底に深さ4mmの穴をあけて差し込んで保持した。種結晶25は、図8に示すようにGa面を上側にして設置した。
次に、ナトリウム(Na)を加熱して液体にして反応容器52内に入れた。ナトリウムが固化した後、ガリウムを入れた。本実施例では、ガリウムとナトリウムとのモル比を0.25:0.75とした。
その後、グローブボックス内で、高純度のArガス雰囲気下、反応容器52を内部容器51内に設置した。そして、バルブ61を閉じてArガスが充填された内部容器51を密閉し、反応容器52内部を外部雰囲気と遮断した。次に、内部容器51をグローブボックスから出して、結晶製造装置2に組み込んだ。すなわち、内部容器51をヒーター53に対して所定の位置に設置し、バルブ61部分でガス供給管54に接続した。
次に、内部容器51からアルゴンガスをパージした後、窒素供給管57から窒素ガスを入れ、圧力制御装置56で圧力を調整してバルブ55を開け、内部容器51内の全圧を1.2MPaにした。その後、バルブ55を閉じ、圧力制御装置56を3MPaに設定した。
次に、ヒーター53に通電し、反応容器52を結晶成長温度まで昇温した。結晶成長温度は870℃とした。そして、実施例1の操作と同様に、バルブ55を開け、窒素ガス圧力を3MPaとし、この状態で反応容器52を1300時間保持して窒化ガリウム結晶27を成長させた。
その結果、反応容器52内には、窒化ガリウム結晶25を種結晶として、c軸と垂直方向に結晶径が増大し、結晶径のより大きな窒化ガリウム結晶80a(単結晶)が成長していた。窒化ガリウム結晶80aは概ね無色透明であり、結晶径dは51mmであり、c軸方向の長さLは反応容器52に差し込んだ種結晶25の部分を含めて約54mmであった。また、窒化ガリウム結晶80aの形状は、図10−1に示されるように、上部が六角推形状であり下部が六角柱形状であり、結晶上部には主に{10−11}面で構成される外周面が形成され、結晶下部には主にm面({10−10}面)で構成される外周面が形成されていた。
以上のように、実施例1では、図8に示すようにGa面を上側にして種結晶25を反応容器52内に設置した場合には、図10−1に示すように、結晶上部に、主に{10−10}面で構成される外周面と、主に{10−11}面で構成される外周面とが形成され、結晶底面に、主に{0001}面で構成される外周面が形成された窒化ガリウム結晶80aを製造できることが確認できた。
(実施例2)
種結晶25を、図9に示すようにN面を上側にして設置する以外は、実施例1と同様の条件として窒化ガリウム結晶80eを製造した。尚、種結晶25としては、径1.2mm、長さ約50mmの窒化ガリウム結晶25を用いた。
その結果、反応容器52内には、窒化ガリウム結晶25を種結晶として、c軸と垂直方向に結晶径が増大し、結晶径のより大きな窒化ガリウム結晶80eが成長していた。窒化ガリウム結晶80eは概ね無色透明であり、結晶径は56mmであり、c軸方向の長さLは反応容器52に差し込んだ種結晶25の部分を含めて約52mmであった。また、窒化ガリウム結晶80eの形状は、図11−2に示されるように、上部には主にc面で構成される上面が形成されていた。即ち、窒化ガリウム結晶80eの形状は、図11−2に示されるように、結晶上面および結晶底面に、主に{0001}面で構成される外周面が形成され、結晶側面に、主に{10−10}面で構成される外周面と、主に{10−11}面で構成される外周面とが形成されていた。
以上のように、実施例2では、図9に示すようにN面を上側にして種結晶25を反応容器52内に設置した場合には、図11−2に示すように、結晶上面および結晶底面に、主に{0001}面で構成される外周面が形成され、結晶側面に、主に{10−10}面で構成される外周面と、主に{10−11}面で構成される外周面とが形成された窒化ガリウム結晶80eを製造できることが確認できた。
(実施例3)<結晶基板の製造例>
実施例1で製造された窒化ガリウム結晶80を外形研削し、c面と平行にスライスし、表面を研磨し、表面処理を施し、外形(φ)2インチ、厚さ400μmのc面を主面とする窒化ガリウム結晶基板100(図18−1参照)を製造した。
<転位密度の測定>
転位密度の測定は、c面の結晶基板100の表面を酸(リン酸と硫酸の混酸 230℃)でエッチングしてエッチピットの密度を計測し、これを転位密度とした。その結果、種結晶25における転位密度は、6×107cm−2以下であった。また、種結晶25から成長した窒化ガリウム結晶27における転位密度は、102cm−2台であった。尚、顕微鏡観察により、結晶基板100にはクラックが無いことが確認できた。
<X線測定>
また、c面の結晶基板100についてX線ロッキングカーブの半値幅(半値全幅)を測定した。X線回折装置は、パナリティカル社製のX線回折装置X’Pert PRO MRDを用いた。その結果、c面における半値全幅は30〜60arcsecであった。c面全面で高品質な窒化ガリウム結晶基板であることを確認できた。
(実施例4)<結晶基板の製造例>
実施例2で製造された窒化ガリウム結晶80を外形研削し、a面に平行にスライスし、表面を研磨し、表面処理を施し、高さ40mm、横幅40mm、厚さ400μmのa面を主面とする結晶基板100を製造した(図18参照)。また、m面を主面とする結晶基板100、および、{10−11}面を主面とする結晶基板100を製造した。
a面、m面、{10−11}面をそれぞれ主面とする結晶基板100のそれぞれの主面を酸性溶液(リン酸と硫酸の混酸、230℃)でエッチングし、エッチピットの密度(即ち、転位密度)を評価した。その結果、a面、m面、{10−11}面のいずれの結晶基板においても、転位密度は106cm−2〜107cm−2台であった。従って、実施例4で上述したc面の結晶基板100よりも転位密度が大きいことが確認された。尚、顕微鏡観察により、結晶基板100にはクラックが無いことが確認できた。
このように、実施例3、4によれば、c面を主面とするように加工することで転位密度がより小さい結晶基板を製造できることが確認できた。
以上説明したとおり、本実施例によれば、転位密度が小さくクラックの無い高品質なc面結晶基板を製造できることが確認できた。