以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
以下、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。図1を参照して、実施の形態1における転がり軸受である深溝玉軸受1は、軸受部品である第1軌道部材としての外輪11と、軸受部品である第2軌道部材としての内輪12と、軸受部品である複数の転動体としてのボール13と、保持器14と、外輪11と内輪12とに挟まれた軸受空間を閉じるように外輪11と内輪12との間に配置された環状のシール部材17とを備えている。
外輪11には、円環状の第1転走面しての外輪転走面11Aが形成されている。内輪12には、外輪転走面11Aに対向する円環状の第2転走面としての内輪転走面12Aが形成されている。また、複数のボール13には、転動体転走面としてのボール転動面13A(ボール13の表面)が形成されている。外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aは、これらの軸受部品の接触面である。そして、当該ボール13は、外輪転走面11Aおよび内輪転走面12Aの各々にボール転動面13Aにおいて接触し、円環状の保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。また、外輪11の内周面(内径面)の軸方向両端部には、装着溝20が形成されている。一方、内輪12の外周面(外径面)の軸方向両端部には、凹溝21が形成されている。そして、この装着溝20にシール部材17の径方向外端部がはめ込まれている。これにより、シール部材17の径方向内端部に形成されたリップ部22が、凹溝21の底面に接触している。
軸受部品である外輪11、内輪12およびボール13は、0.90質量%以上1.05質量%以下の炭素と、0.15質量%以上0.35質量%以下の珪素と、0.01質量%以上0.50質量%以下のマンガンと、1.30質量%以上1.65質量%以下のクロムとを含有し、残部鉄および不純物からなる焼入硬化された鋼からなっている。そして、接触面としての外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aを含む領域には、内部11C,12C,13Cに比べて窒素濃度が高い窒素富化層11B,12B,13Bが、それぞれ形成されている。窒素富化層11B,12B,13Bの表面である接触面としての外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aにおける窒素濃度は0.25質量%以上となっている。さらに、外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aにおける残留オーステナイト量は、6体積%以上12体積%以下となっている。
保持器14は、たとえば冷間圧延鋼(JIS規格のSPCC系等)の帯鋼をプレス加工して作成されている。また、シール部材17は、芯金18と、この芯金18を被覆する合成樹脂やゴム材等からなる被覆部19とを備える。
本実施の形態における軸受部品である外輪11、内輪12およびボール13は、上記JIS規格SUJ2相当鋼の成分組成を有する鋼からなることにより、その素材が世界各国にて入手容易となっている。そして、当該成分組成の鋼の使用を前提として、外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aにおける窒素濃度が0.25質量%以上にまで高められ、かつ焼入硬化されていることにより、転動疲労寿命が長寿命化されている。そして、残留オーステナイト量が12体積%以下にまで低減されることにより、耐圧痕性が向上するとともに、残留オーステナイト量が6体積%以上とされることにより、転動疲労寿命、特に異物混入環境での転動疲労寿命が適切なレベルに維持されている。その結果、外輪11、内輪12およびボール13は、材料の入手の容易性を確保しつつ、耐圧痕性と転動疲労寿命とを高いレベルで両立することが可能な軸受部品となっている。
また、保持器14は、図2および図3に示すように、円周方向に沿って所定間隔で配置された半球状膨出部26を有する2枚の環状保持板27A,27Bが組み合わされて形成されている。すなわち、各環状保持板27A,27Bは、円周方向に沿って所定の間隔で配置される半球状膨出部26と、隣合う半球状膨出部26の間のそれぞれに形成された平坦部28とを含んでいる。この2枚の環状保持板27A,27Bが組み合わされるように平坦部28,28が重ね合わされ、この平坦部28、28がリベット等の固着具29によって連結されている。その結果、各半球状膨出部26が対向して、リング状のボール嵌合部(ポケット)30が形成されている。
そして、この保持器14においては、ポケット30のボール対向面にボール非接触部31が設けられている。このポケット30におけるボール13との接触面積は、ボール非接触部31を設けない場合のボール13との接触面積よりも15%〜30%低減されている。
反ボール対向面に反ボール側へ突出する矩形状の凸部32を形成することによ
って、ボール対向面に反ボール側へ凹む矩形状の凹部33が設けられている。この凹部33がボール非接触部31である。凸部32としては、図4〜図9に示すように、種々のものを採用することができる。
すなわち、図4に示す形状Aは、円周方向長さLがLAとされ、その幅寸法WがWAとされている。また、図5に示す形状Bは、円周方向長さLがLAよりも短いLBとされ、その幅寸法WがWAと同一のWBとされている。図6に示す形状Cは、円周方向長さLがLBと同一のLCとされ、その幅寸法WがWAよりも大きいWCとされている。図7に示す形状Dは、円周方向長さLがLAと同一のLDとされ、その幅寸法WがWAと同一のWDとされている。
図8に示す形状Eは、円周方向長さLがLBと同一のLEとされ、その幅寸法WがWAと同一のWEとされている。図9に示す形状Fは、円周方向長さLがLBと同一のLFとされ、その幅寸法WがWAと同一のWFとされている。
図4に示す形状Aと、図5に示す形状Bと、図9に示す形状Fとは、凸部32の中央線Oがボール13のピッチ円PCDに一致しているものであって、凸部32がピッチ円PCD上に配設されている。図6に示す形状Cと、図7に示す形状Dと、図8に示す形状Eとは、凸部32の中央線Oが、ボール13のピッチ円PCDよりも軸受外径側へずれている。この場合、図6に示す形状Cでは、そのずれは僅かであるが、図7に示す形状Dと、図8に示す形状Eでは、そのずれは大きく、一方の長辺がボール13のピッチ円PCDに一致している。
すなわち、凸部32としては図4〜図9の示すような種々形状を有するのものを採用することができる。そして、これによって形成される凹部33により構成されるボール非接触部31は、ポケット30において、ボール非接触部31を設けない場合に比べて、保持器14とボール13との接触面積を15%〜30%低減させる。
凸部32としては、径方向寸法に対して周方向寸法が長い矩形(長方形)であっても、逆に周方向に対して径方向寸法が長い矩形(長方形)であっても、回
転方向寸法と径方向寸法とが同一の正方形であってもよい。また、長方形とせずに、長円または楕円形状であってもよい。このような楕円形状である場合でも、径方向寸法に対して周方向寸法が長いものであっても、逆に周方向寸法に対して径方向寸法が長いものであってもよい。さらに、円形であってもよい。
本実施の形態における保持器14においては、ボール対向面にボール非接触部31を設けたことによって、ポケット内部を潤滑剤が通過する際の抵抗を低減することができる。また、ボール非接触部31を設けたことによって、ボール13とポケット30との間に形成される油膜量を少なくすることができる。
ここで、ボール非接触部が小さすぎると、せん断する油膜量の減少量が少なく、トルク低減を充分に達成できない。一方、ボール非接触部31が大きすぎると、ボール13とポケット30との間に形成される油膜量が小さくなり過ぎて、ボール13の滑らかな転動を損なう。このため、本実施の形態のように、ボール非接触部31の範囲を設定することによって、ポケット内部を潤滑剤が通過する際の抵抗と、せん断する油膜量の減少との両立が可能となる。このため、本実施の形態における保持器14を採用することにより、深溝玉軸受1の回転トルク低減を図ることができる。
以上のように、本実施の形態における深溝玉軸受1によれば、材料の入手の容易性を確保しつつ、耐圧痕性と転動疲労寿命とを高いレベルで両立し、かつ低トルク化を達成することができる。
ボール非接触部31は、ボール対向面に反ボール側へ凹む凹部33を設けることによって、確実に形成することができる。
ボール非接触部31を、ボール13のピッチ円よりも外径側に配置すれば、周速の高い位置でのせん断抵抗を低減することができ、より安定してトルクの低減を図ることができる。
なお、上記外輪11、内輪12およびボール13においては、接触面である外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aの硬度は60.0HRC以上であることが好ましい。これにより、転動疲労寿命および耐圧痕性を一層向上させることができる。
また、上記外輪11、内輪12およびボール13においては、外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aの硬度は64.0HRC以下であることが好ましい。これにより、外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aにおける残留オーステナイト量を12体積%以下の範囲に調整することが容易となる。
図10に示す深溝玉軸受1は、シール部材17を有さないタイプである。すなわち、図10に示す深溝玉軸受は、シール部材17、シール部材17が装着される装着溝20、およびシール部材17のリップ部22が接触する凹溝21を有さない点を省いて、図1に示す深溝玉軸受1と同様の構造を有している。
このため、図10に示す深溝玉軸受1は、図1に示す深溝玉軸受1と同様の作用効果を奏する。
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。図11および図1を参照して、実施の形態2における深溝玉軸受1は、実施の形態1の場合と基本的には同様の構造を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2の深溝玉軸受1は、保持器14のボール非接触部31の構造において実施の形態1の場合とは異なっている。
図11を参照して、実施の形態2における深溝玉軸受1の保持器14では、半球状膨出部26にスリット35が形成されている。そして、このスリット35が、ボール非接触部31として機能する。スリット35は、図12に示すように矩形状であって、その中心線O1がボール13のピッチ円PCDに一致する。
スリット35は、径方向寸法に対して周方向寸法が長い矩形(長方形)であっても、逆に周方向寸法に対して径方向寸法が長い矩形(長方形)であっても、回転方向寸法と径方向寸法とが同一の正方形であってもよい。また、長方形とせずに、長円または楕円形状であってもよい。このような楕円形状である場合でも、径方向寸法に対して周方向寸法が長いものであっても、逆に周方向寸法に対して径方向寸法が長いものであってもよい。さらに、円形であってもよい。
スリット35の配置位置としては、図12に示すように、ボール13のピッチ円PCD上に配設されものであっても、ピッチ円PCDよりも外径側へ配設されるものであってもよい。この場合のずれ量も、任意に設定できる。すなわち、スリット35によって構成されるボール非接触部31が、ポケット30において、ボール非接触部31を設けない場合のボール13との接触面積よりも当該接触面積を15%〜30%低減させるものであればよい。なお、図11に示す軸受の他の構成は図1に示す軸受と同様であるので、これらの説明を省略する。
図11および図12に示すように、ボール非接触部31がスリット35によって構成される場合であっても、ポケット内部を潤滑剤が通過する際の抵抗を低減することができる。また、ボール13とポケット30との間に形成される油膜量を少なくすることができる。このように、図11および図12に示す保持器は、図1に示す保持器と同様の作用効果を奏する。また、スリット35を設けた保持器14は、凸部32を設けた保持器14とは異なり、保持器14の軸受軸方向の寸法が大きくならず、コンパクト化を図ることができる。すなわち、ボール非接触部31を有さない従来の保持器と同じ寸法を維持しつつ、トルクを低減させることができる。
図13に示す深溝玉軸受1は、シール部材17を有さないタイプである。すなわち、図13に示す深溝玉軸受は、シール部材17、シール部材17が装着される装着溝20、およびシール部材17のリップ部22が接触する凹溝21を有さない点を省いて、図11に示す深溝玉軸受1と同様である。
このため、図13に示す深溝玉軸受1であっても、図11に示す深溝玉軸受1と同様の作用効果を奏する。
なお、上記実施の形態においては、保持器14がプレス加工されて形成された金属製保持器である場合について説明したが、本発明の転がり軸受が備える保持器はこれに限られない。すなわち、保持器14は、鋳造による成型された金属からなるものであってもよい。また、削り加工や放電加工(ワイヤーカットを含む)によって成形されたものであってもよい。ここで、放電加工とは、電極と被加工物との間に短い周期で繰り返されるアーク放電によって、被加工物表面の一部を除去する機械加工の方法である。ワイヤーカットとは、放電加工の一種で、ワイヤ線に張力を与え、放電を利用して金属材料を加工する方法である。
また、保持器14は金属製に限られず、合成樹脂の成形品であってもよい。樹脂製保持器の樹脂材料としては、この種の保持器に従来から使用されるもの、たとえばえば、ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPS樹脂と称する)やポリアミド46(PA46)などを用いることができる。たとえば自動車のオルタネータ用の軸受など、高温(たとえば200℃程度以上)での長期耐熱性が要求される場合、保持器14を構成する材料としてポリイミド樹脂(以下、PI樹脂と称する)、ポリアミドイミド樹脂(以下、PAI樹脂と称する)、あるいはポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下、PEEK樹脂と称する)等の材料が用いることができる。
上記樹脂製保持器は、たとえば射出成型にて成型することができる。また、削り加工にて成型してもよい。樹脂製保持器であっても、ボール非接触部31を設け、ポケット30におけるボール13との接触面積を、ボール非接触部31を設けない場合のボール13との接触面積よりも15%〜30%低減させる。
樹脂製保持器において、ボール非接触部31を設ける場合、図1に示すように、反ボール対向面に反ボール側へ突出する矩形状の凸部32を形成することによって、ボール対向面に反ボール側へ凹む矩形状の凹部33を設け、この凹部33をもってボール非接触部31とするものであってよい。また、スリット35を設けて、このスリット35をもってボール非接触部31とするものであってよい。
このため、樹脂製保持器であっても、図1に示すような金属製保持器と同様の作用効果を奏する。
以上、保持器の構成について例示的に説明したが、本発明の転がり軸受を構成する保持器は上記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。たとえば、ボール非接触部31は、上記実施形態では、回転方向に沿って配置されていたが、回転方向に対して傾斜するものであってもよい。また、形成されるボール非接触部31は、半球状膨出部26に対して1個に限るものではなく、各半球状膨出部26に2個以上のボール非接触部31を設けてもよい。この場合、周方向に沿って複数個配置するものであっても、径方向に沿って複数個配置するものであってもよい。
また、ボール非接触部31の形成のためには、長方形状あるいは正方形状の凸部32を設けてもよいし、長方形状あるいは正方形状のスリット35を設けてもよい。また、各コーナ部をアール形状としても、アール形状としないものであってもよい。また、長方形状あるいは正方形状の凸部32を設ける場合、凸部32の突出量(凹部33の深さ)は、環状保持板27A,27Bの40%以下とするのが好ましい。40%を越えると、凸部32の突出量が大きくなりすぎて、シール部材の装着が困難となったり、大型化したりするおそれがある。
(実施の形態3)
次に、上記実施の形態1および2における軸受部品(高強度軸受部品;軌道部材およびボール)、および転がり軸受の製造方法について、実施の形態3として説明する。図14を参照して、まず、工程(S10)として鋼材準備工程が実施される。この工程(S10)では、JIS規格SUJ2、ASTM規格52100、DIN規格100Cr6、GB規格GCr5もしくはGCr15、およびΓOCT規格ЩX15などのJIS規格SUJ2相当鋼からなる鋼材が準備される。具体的には、たとえば上記成分組成を有する棒鋼や鋼線などが準備される。
次に、工程(S20)として成形工程が実施される。この工程(S20)では、たとえば工程(S10)において準備された棒鋼や鋼線などに対して鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、図1、10、11および13に示される外輪11、内輪12、ボール13などの形状に成形された成形部材が作製される。
次に、工程(S30)として浸炭窒化工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において作製された成形部材が浸炭窒化処理される。この浸炭窒化処理は、たとえば以下のように実施することができる。まず、上記成形部材が780℃以上820℃以下程度の温度域で、30分間以上90分間以下の時間予熱される。次に、予熱された成形部材が、エンリッチガスとしてのプロパンガスやブタンガスが添加されることによりカーボンポテンシャルが調整されたRXガスなどの吸熱型ガスに、さらにアンモニアガスが導入された雰囲気中において加熱されて浸炭窒化処理される。浸炭窒化処理の温度は、たとえば820℃以上880℃以下とすることができる。また、浸炭窒化処理の時間は、成形部材に形成すべき窒素富化層の窒素濃度に合わせて設定することができ、たとえば3時間以上9時間以下とすることができる。これにより、成形部材の脱炭を抑制しつつ窒素富化層を形成することができる。
次に、工程(S40)として焼入工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)において浸炭窒化処理されることにより窒素富化層が形成された成形部材が、所定の焼入温度から急冷されることにより焼入処理される。この焼入温度は、860℃以下とされることにより、後続の焼戻工程における炭素の固溶量と析出量とのバランス、および残留オーステナイト量の調整が容易となる。また、焼入温度が820℃以上とされることにより、後続の焼戻工程における炭素の固溶量と析出量とのバランス、および残留オーステナイト量の調整が容易となる。焼入処理は、たとえば所定の温度に保持された冷却剤としての焼入油中に成形部材を浸漬することにより実施することができる。
次に、工程(S50)として焼戻工程が実施される。この工程(S50)では、工程(S40)において焼入処理された成形部材が焼戻処理される。具体的には、たとえば210℃以上300℃以下の温度域に加熱された雰囲気中において成形部材が0.5時間以上3時間以下の時間保持されることにより、焼戻処理が実施される。
次に、工程(S60)として仕上げ加工工程が実施される。この工程(S60)では、工程(S50)において焼戻処理された成形部材を加工することにより他の部品と接触する面である接触面が、すなわち深溝玉軸受1の外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aが形成される。仕上げ加工としては、たとえば研削加工を実施することができる。以上の工程により、本実施の形態における軸受部品である外輪11、内輪12、ボール13などが完成する。
さらに、工程(S70)として組立工程が実施される。この工程(S70)では、工程(S10)〜(S60)において作製された外輪11、内輪12、ボール13と、別途準備された保持器14などとが組合わされて、上記実施の形態1および2における深溝玉軸受1などの転がり軸受(玉軸受)が組立てられる。保持器14については、上記実施の形態1および2において説明したように、金属のプレス加工、樹脂の射出成型など、種々の方法により製造することができる。これにより、実施の形態1および2における転がり軸受の製造方法が完了する。
ここで、上記工程(S30)では、後続の工程(S60)における仕上げ加工によって接触面である深溝玉軸受1の外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aの窒素濃度が0.25質量%以上となるように成形部材が浸炭窒化処理される。つまり、工程(S60)での取り代などを考慮して、接触面完成後における表面の窒素濃度を0.25質量%以上とすることが可能なように窒素量を調整した窒素富化層11B,12B,13Bが形成される。
さらに、上記工程(S50)では、後続の工程(S60)における仕上げ加工によって接触面である深溝玉軸受1の外輪転走面11A、内輪転走面12Aおよびボール転動面13Aの残留オーステナイト量が6体積%以上12体積%以下となるように成形部材が焼戻処理される。つまり、工程(S60)での取り代などを考慮して、接触面完成後における表面の残留オーステナイト量を6体積%以上12体積%以下とすることが可能なように、焼戻処理によって残留オーステナイト量が調整される。これにより、上記本実施の形態1および2における高強度軸受部品を製造することができる。
また、工程(S50)では、成形部材が240℃以上300℃以下の温度域にて焼戻処理されることが好ましい。これにより、焼入処理によって素地に固溶した炭素が適切な割合で炭化物として析出する。その結果、固溶強化と析出強化との適切なバランスが達成され、軸受部品である外輪11、内輪12、ボール13の耐圧痕性が向上する。
(実施の形態4)
次に、上記実施の形態1および2における転がり軸受の用途の一例について説明する。図15を参照して、マニュアルトランスミッション100は、常時噛合い式のマニュアルトランスミッションであって、入力シャフト111と、出力シャフト112と、カウンターシャフト113と、ギア(歯車)114a〜114kと、ハウジング115とを備えている。
入力シャフト111は、深溝玉軸受1によりハウジング115に対して回転可能に支持されている。この入力シャフト111の外周にはギア114aが形成され、内周にはギア114bが形成されている。
一方、出力シャフト112は、一方側(図中右側)において深溝玉軸受1によりハウジング115に回転可能に支持されているとともに、他方側(図中左側)において転がり軸受120Aにより入力シャフト111に回転可能に支持されている。この出力シャフト112には、ギア114c〜114gが取り付けられている。
ギア114cおよびギア114dはそれぞれ同一部材の外周と内周に形成されている。ギア114cおよびギア114dが形成される部材は、転がり軸受120Bにより出力シャフト112に対して回転可能に支持されている。ギア114eは、出力シャフト112と一体に回転するように、かつ出力シャフト112の軸方向にスライド可能なように、出力シャフト112に取り付けられている。
また、ギア114fおよびギア114gの各々は同一部材の外周に形成されている。ギア114fおよびギア114gが形成されている部材は、出力シャフト112と一体に回転するように、かつ出力シャフト112の軸方向にスライド可能なように、出力シャフト112に取り付けられている。ギア114fおよびギア114gが形成されている部材が図中左側にスライドした場合には、ギア114fはギア114bと噛合い可能であり、図中右側にスライドした場合にはギア114gとギア114dとが噛合い可能である。
カウンターシャフト113には、ギア114h〜114kが形成されている。カウンターシャフト113とハウジング115との間には、2つのスラストニードルころ軸受2が配置され、これによってカウンターシャフト113の軸方向の荷重(スラスト荷重)が支持されている。ギア114hは、ギア114aと常時噛合っており、かつギア114iはギア114cと常時噛合っている。また、ギア114jは、ギア114eが図中左側にスライドした場合に、ギア114eと噛合い可能である。さらに、ギア114kは、ギア114eが図中右側にスライドした場合に、ギア114eと噛合い可能である。
次に、マニュアルトランスミッション100の変速動作について説明する。マニュアルトランスミッション100においては、入力シャフト111に形成されたギア114aと、カウンターシャフト113に形成されたギア114hとの噛み合わせによって、入力シャフト111の回転がカウンターシャフト113へ伝達される。そして、カウンターシャフト113に形成されたギア114i〜114kと出力シャフト112に取り付けられたギア114c、114eとの噛み合わせ等によって、カウンターシャフト113の回転が出力シャフト112へ伝達される。これにより、入力シャフト111の回転が出力シャフト112へ伝達される。
入力シャフト111の回転が出力シャフト112へ伝達される際には、入力シャフト111およびカウンターシャフト113の間で噛合うギアと、カウンターシャフト113および出力シャフト112の間で噛合うギアとを変えることによって、入力シャフト111の回転速度に対して出力シャフト112の回転速度を段階的に変化させることができる。また、カウンターシャフト113を介さずに入力シャフト111のギア114bと出力シャフト112のギア114fとを直接噛合わせることによって、入力シャフト111の回転を出力シャフト112へ直接伝達することもできる。
以下に、マニュアルトランスミッション100の変速動作をより具体的に説明する。ギア114fがギア114bと噛合わず、ギア114gがギア114dと噛合わず、かつギア114eがギア114jと噛合う場合には、入力シャフト111の駆動力は、ギア114a、ギア114h、ギア114jおよびギア114eを介して出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第1速とされる。
ギア114gがギア114dと噛合い、ギア114eがギア114jと噛合わない場合には、入力シャフト111の駆動力は、ギア114a、ギア114h、ギア114i、ギア114c、ギア114dおよびギア114gを介して出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第2速とされる。
ギア114fがギア114bと噛合い、ギア114eがギア114jと噛合わない場合には、入力シャフト111はギア114bおよびギア114fとの噛合いにより出力シャフト112に直結され、入力シャフト111の駆動力は直接出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第3速とされる。
上述のように、マニュアルトランスミッション100は、回転部材(二輪車を含む自動車の動力伝達軸)としての入力シャフト111および出力シャフト112をこれに隣接して配置されるハウジング115に対して回転可能に支持するために、深溝玉軸受1を備えている。このように、上記実施の形態1および2における深溝玉軸受1は、マニュアルトランスミッション100内において使用することができる。そして、材料の入手の容易性を確保しつつ、耐圧痕性と転動疲労寿命とを高いレベルで両立し、かつ低トルク化を達成することが可能な深溝玉軸受1は、転動体と軌道部材との間に高い面圧が付与されるマニュアルトランスミッション100内での使用に好適である。
(実施の形態5)
次に、上記実施の形態1および2における転がり軸受の用途の他の一例について説明する。図16および図17を参照して、デファレンシャル200は、デフケース201と、ピニオンギア202aおよび202bと、サンギア203と、ピニオンキャリア204と、アーマチュア205と、パイロットクラッチ206と、電磁石207と、ロータークラッチ(デフケース)208と、カム209を備えている。
デフケース201の内周に設けられた内歯201aと4つのピニオンギア202aの各々とが互いに噛みあっており、4つのピニオンギア202aの各々と4つのピニオンギア202bの各々とが互いに噛み合っており、4つのピニオンギア202bの各々とサンギア203とが互いに噛み合っている。サンギア203は第1の駆動軸としての左駆動軸220の端部に接続されており、これによりサンギア203と左駆動軸220とは一体となって自転することができる。また、ピニオンギア202aの回転軸202cの各々と、ピニオンギア202bの回転軸202dとの各々が、ともにピニオンキャリア204によって自転可能に保持されている。ピニオンキャリア204は第2の駆動軸としての右駆動軸221の端部に接続されており、これによりピニオンキャリア204と右駆動軸221とは一体となって自転することができる。
また、電磁石207、パイロットクラッチ206、ロータークラッチ(デフケース)208、アーマチュア205、およびカム209によって電磁クラッチが構成されている。
デフケース201の外歯201bは図示しないリングギアの歯車と噛み合っており、デフケース201はリングギアからの動力を受けて自転する。左駆動軸220および右駆動軸221の間に差動がない場合には、ピニオンギア202aおよび202bは自転せず、デフケース201、ピニオンキャリア204、およびサンギア203の3つの部材が一体となって回転する。つまり、リングギアから左駆動軸220へは、矢印Bで示されるように動力が伝達され、リングギアから右駆動軸221へは、矢印Aで示されるように動力が伝達される。
一方、左駆動軸220および右駆動軸221のうちいずれか一方、たとえば左駆動軸220に抵抗が加わる場合には、左駆動軸220と接続したサンギア203に抵抗が加わり、ピニオンギア202aおよび202bの各々が自転する。そして、ピニオンギア202aおよび202bの回転によってピニオンキャリア204の自転が速められ、左駆動軸220と右駆動軸221との間に差動が発生する。
また、電磁クラッチは、左駆動軸220と右駆動軸221との間に一定以上の差動が生じると通電し、電磁石207によって磁界が発生される。パイロットクラッチ206およびアーマチュア205は、磁気誘導作用により電磁石207に引き付けられて摩擦トルクを発生する。摩擦トルクはカム209によりスラスト方向に変換される。そして、スラスト方向に変換された摩擦トルクにより、ピニオンキャリア204を介してメーンクラッチがデフケース208に押し付けられ、これにより差動制限トルクが発生する。スラストニードルころ軸受2はカム209で生じたスラスト方向の反力を受け、この反力をデフケース208に伝達する。その結果、摩擦トルクに比例したカム209による倍のスラスト力が発生される。このように、電磁石207は、パイロットクラッチ206のみを制御し、そのトルクを倍力機構により増幅することができ、また任意に摩擦トルクをコントロールすることができる。
ここで、デフケース208とデフケース208の外周側に配置される部材との間には、実施の形態1または2における深溝玉軸受1が配置されている。このように、上記実施の形態1および2における深溝玉軸受1は、デファレンシャル200内において使用することができる。そして、材料の入手の容易性を確保しつつ、耐圧痕性と転動疲労寿命とを高いレベルで両立し、かつ低トルク化を達成することが可能な深溝玉軸受1は、転動体と軌道部材との間に高い面圧が付与されるデファレンシャル200内での使用に好適である。
軸受部品の特性に及ぼす熱処理条件等の影響を調査する実験を行なった。まず、JIS規格SUJ2からなる平板を準備し、800℃で1時間予熱した後、RXガスにアンモニアガスを添加した雰囲気中において850℃に加熱し、4時間保持することにより浸炭窒化処理した。その後、浸炭窒化処理における加熱温度である850℃から、そのまま上記平板を焼入油中に浸漬することにより焼入硬化させた。さらに、当該平板に対して種々の温度で焼戻処理を施した。得られた平板に対して直径19.05mmのSUJ2製標準転がり軸受用鋼球を荷重3.18kN(最大接触面圧4.4GPa)で押し付け、10秒間保持した後、除荷した。そして、この鋼球の押し付けによって平板に形成された圧痕の深さを測定することにより、耐圧痕性を調査した。また、同じ試験片について、ロックウェル硬度計にて表面硬度を測定した。耐圧痕性の調査結果を図18に、硬度の測定結果を図19に示す。
図18および図19を参照して、焼戻温度が高くなるにつれて表面硬度が低下する一方で、圧痕深さは極小値を有している。具体的には、焼戻温度を240℃以上300℃以下とすることにより、圧痕深さが0.2μm以下となっている。このことから、耐圧痕性を向上させる観点からは、焼戻温度は240℃以上300℃以下とすることが好ましいといえる。
ここで、上記焼戻温度の最適値は、以下のようにして決定されているものと考えられる。焼入処理を行なうと、鋼の素地には炭素が固溶した状態となる。一方、焼戻処理を行なうと、素地中に固溶した炭素の一部が炭化物(たとえばFe3C)として析出する。このとき、焼戻処理の温度が高くなるほど鋼の降伏強度に対する固溶強化の寄与が低下するとともに、析出強化の寄与が大きくなる。そして、240℃以上300℃以下の温度域で焼戻処理を実施することにより、これらの強化機構のバランスが最適となり、降伏強度が極大値をとるため、耐圧痕性が特に高くなる。
また、上記圧痕深さの測定の場合と同様に圧痕を押し付けることによる鋼の変形に基づいて測定される表面硬度が単調減少するにもかかわらず、耐圧痕性が極大値をとる理由は以下の通りであると考えられる。
図20は、上記平板に対する熱処理において浸炭窒化処理のみを省略した処理を施した引張試験片(JIS Z2201 4号試験片)の各焼戻温度における真応力と真ひずみとの関係を示す図である。図20は、n乗硬化弾塑性体でモデル化した真応力−真ひずみ線図である。σY降伏応力を境目に次式の通り特性が異なる。
ここで、σは真応力、Eはヤング率、εは真ひずみ、Kは塑性係数、nは加工硬化指数、σYは降伏応力である。ただし、ヤング率Eは共振法で実測し、加工効果指数nおよび組成係数Kは、引張試験により実測した。そして、これらを上記2式に代入し、交点をσYとした。
ここで、圧痕深さの測定における真ひずみの水準は、図20における領域αに相当するのに対し、硬度測定における真ひずみの水準は、図20における領域β以上に相当する。そして、図21を参照して、圧痕深さの測定領域に対応する領域αにおける降伏点を確認すると、焼戻温度が240℃〜300℃の範囲において降伏点が高くなっており、これよりも低温の場合、降伏点が低下している。一方、図20を参照して、表面硬度の測定領域に対応する領域βでは、同じひずみ量を与えようとすると、焼戻温度が低くなるにつれて、より大きな応力が必要となることが分かる。このような現象に起因して、焼戻温度が180℃〜220℃の場合に比べて硬度が低下するにもかかわらず、焼戻温度を240℃〜300℃とすることにより、耐圧痕性が向上するものと考えられる。
また、焼戻温度のほか、表面窒素濃度および焼入温度を変化させた条件で熱処理した試験片について、表面の残留オーステナイト量、圧痕深さ、寿命、リング圧砕強度、経年変化率を調査した。
ここで、圧痕深さは、上記の場合と同様に測定した。圧痕深さが0.2μm未満の場合をB、0.2〜0.4μmの場合をC、0.4μm以上の場合をDと評価した。寿命は、圧痕深さの測定の場合と同様の条件にて軌道面に圧痕を形成した後、清浄油潤滑のもとで油膜パラメータが0.5となる条件で、軸受がトランスミッションに使用される場合の荷重条件を模擬して実施した。そして、焼入温度850℃、焼戻温度240℃、表面窒素量0.4質量%の試験片の寿命を基準(B)として、基準寿命よりも長い場合をA、短い場合をC、著しく短い場合をDと評価した。リング圧砕強度は、外径60mm、内径54mm、幅15のリングを作製し、これを径方向に平板にて圧縮し亀裂が発生した荷重を調査することにより評価した。亀裂発生時の荷重が5000kgf以上の場合をA、3500〜5000kgfの場合をB、3500kgf未満の場合をDと評価した。また、経年変化率は、試験片を230℃で2時間保持し、当該熱処理前からの外径寸法変化量を測定することにより評価した。変化量が10.0×105以下の場合をA、10.0×105〜30.0×105の場合をB、30.0×105〜90.0×105の場合をC、90.0×105以上の場合をDと評価した。試験結果を表1に示す。
表1を参照して、表面窒素濃度が0.25〜0.5質量%、焼入温度が820〜860℃、焼戻温度が240〜300℃の条件をすべて満たす試験片において、上記全ての項目において優れた評価が得られている。
(実施例A)
図4〜図9に示す形状A、B、C、D、E、Fの保持器(金属製保持器:プレス加工品)を製作して、これらを用いて図1に示す玉軸受を組立て、発生するトルクを測定した。その結果を次の表2に示す。表2において標準品とは、ボール非接触部31が形成されていない従来品である。
表2において、形状Dは、形状Aにおいて、凸部32をPCDから外径側へ0.8mmシフトするように形成したものである。形状Eは、形状Bにおいて、凸部32をPCDから外径側へ0.8mmシフトするように形成したものである。表2において、鋼球−保持器接触面積の欄は、標準品の面積を100%とした場合の割合(%)にて表示している。また、軸受としては、外輪11の外径寸法が72.0mmであり、外輪11の内径寸法が60.2mmであり、内輪12の外径寸法が47.0mmであり、内輪12の内径寸法が35.0mmであり、ボール(鋼球)13の外径寸法が11.1mmのものを用いた。
実験条件は以下の通りである。軸受に対して500Nのラジアル荷重を付与した状態で、4000r/minの回転速度を与えた。30℃の潤滑油(トヨタ純正ATF T−4)に軸受の一部を浸漬させた。より具体的には、軸受軸心線を水平に保って、この鉛直方向最下位のボールのみが完全に浸漬するようにした。
図22に、ボール13と保持器14との接触面積を変更させた場合と、凸部32をPCDから外径側へシフトさせた場合のトルクの変化を示すグラフを示す。表2および図22から明らかなように、接触面積を15%程度低減することにより、トルクを約50%低減することができた。また、接触面積を30%低減させるとともに、凸部32をPCDから外径側へ0.8mmシフトさせることにより、トルクを約60%低減することができた。
(実施例B)
図12に示すように、スリット35を有する保持器(金属製保持器:プレス加工品)を製作して、これを用いて図11に示す玉軸受を組立て、発生するトルクを測定した。保持器14にスリット35を形成することにより、保持器14とボール13との接触面積を標準品(スリット35を有さない保持器)よりも30%低減した。上記実施例1の場合と同様に、軸受に対して500Nのラジアル荷重を付与した状態で、4000r/minの回転速度を与えた。上記実施例Aの場合と同様に、軸受は、30℃の潤滑油(トヨタ純正ATF T−4)に一部を浸漬させた。これにより、約40%のトルク低減が得られた。すなわち、標準品のトルクが0.152Nmであるのに対し、スリット35を有する保持器を採用した場合、トルクは0.093Nmとなった。また、軸受としては、外輪11の外径寸法が72.0mmであり、外輪11の内径寸法が60.2mmであり、内輪12の外径寸法が47.0mmであり、内輪12の内径寸法が35.0mmであり、ボール(鋼球)13の外径寸法が11.1mmのものを用いた。なお、後述する実施例C、Dにおいても、同一サイズのものを用いた。
(比較例C)
凸部32やスリット35に代えて、半球状膨出部26の軸受内径及び軸受外径側をカットした金属製保持器を製作して、これを用いて図11に示す玉軸受を組立て、発生するトルクを測定した。保持器14とボール13との接触面積を標準品(スリット35を有さない保持器)よりも25%低減させた。測定条件は上記実施例と同様とした。この場合、約11%のトルク低減が得られた。すなわち、標準品が0.152Nmであったのに対し、軸受内径及び軸受外径側をカットした保持器では0.135Nmとなった。
(実施例D)
また、半球状膨出部26の軸受外径側をカットした樹脂製保持器を製作して、これを用いて図11に示す玉軸受を組立て、発生するトルクを測定した。保持器の素材は、樹脂材料(PA66)とした。保持器14とボール13との接触面積を標準品よりも30%低減した。測定条件は上記実施例と同様とした。この場合、約18%のトルク低減が得られた。すなわち、標準品が0.152Nmであったのに対し、軸受外径側をカットした保持器では0.124Nmとなった。
なお、上記実施の形態および実施例においては、本発明の転がり軸受の一例として深溝玉軸受について説明したが、本発明の転がり軸受はこれに限られず、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、タンデム型アンギュラ玉軸受など、種々の形式の転がり軸受(玉軸受)に適用可能である。また、本発明の転がり軸受の用途として、トランスミッションおよびデファレンシャルを例示したが、本発明の転がり軸受の用途はこれに限られず、種々の機械に適用可能であり、高い荷重が負荷されることにより耐圧痕性が求められる用途に特に好適である。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。