以下、本発明に係る加飾成形用シート、プレフォーム成形体及びインサート成形体の好ましい実施形態を説明する。
図1は本実施形態の加飾成形用シート10の模式断面図である。図1中、1は平均繊度0.9dtex以下の単繊維繊度を有し、且つ、ガラス転移温度(Tg)が100〜120℃のポリエステルからなる極細単繊維1aの繊維束1bの繊維絡合体であり、2はDMF浸漬に対する質量減少率が5質量%以下である架橋された非発泡ポリウレタンであり、また、vは空隙であり、繊維絡合体1に非発泡ポリウレタン2が含浸一体化されて基材3を形成している。また、基材3の表層には高分子弾性体からなる銀面調の樹脂層である銀面層4が形成されている。そして、繊維絡合体1の見かけ密度は0.45g/cm3以上である。
極細単繊維は、平均繊度が0.9dtex以下であり、好ましくは、0.01〜0.8dtex、さらに好ましくは、0.05〜0.5dtex、特に好ましくは0.07〜0.1dtexの単繊維繊度を有する。
極細単繊維の平均繊度が0.9dtexを超える場合には、加飾成形用シートをプレフォーム成形する際に、加熱による軟化時の延伸性が低下して、型形状を正確に転写しにくくなり賦形性が低下する。また、平均繊度が低すぎる場合には、極細単繊維の製造が困難になる。
また、極細単繊維はガラス転移温度(Tg)が100〜120℃、好ましくは105〜115℃であるポリエステルからなる。ポリエステルのTgが120℃を超える場合には、軟化時の延伸性が低下して成形性が低下する。また、ポリエステルのTgが100℃未満の場合には、プレフォーム成形の際に軟化しすぎて固化に時間がかかるために表面性が低下する。
ポリエステルのTgは、例えば、動的粘弾性測定装置(例えば、レオロジ社製FTレオスペクトラDDVIV)を用いて、幅5mm、長さ30mmの試験片を間隔20mmのチャック間に固定して、測定領域30〜250℃、昇温速度3℃/min、歪み5μm/20mm、測定周波数10Hzの条件で動的粘弾性挙動を測定することにより得られる。
このようなポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートの構成単位に直鎖の構造を乱す共重合成分を構成単位として含有する変性ポリエチレンテレフタレート、特に、イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の非対称型芳香族カルボン酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合成分として所定割合で含有する変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。さらに具体的には、モノマー成分としてイソフタル酸単位を2〜12モル%含有する変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
加飾成形用シート中の繊維絡合体の見かけ密度は0.45g/cm3以上であり、好ましくは0.45〜0.70g/cm3、さらに好ましくは0.50〜0.65g/cm3である。加飾成形用シートは、このように見かけ密度の高い緻密な繊維絡合体を含有するために、得られるプレフォーム成形体の形状安定性に優れるとともに、表面の荒れを抑制できる。また、成形時に圧縮されて厚みが薄くなることにより柔軟性を失うことが抑制される。繊維絡合体の見かけ密度が0.45g/cm3未満の場合には、繊維の密な部分と疎な部分が存在するようになるために、プレフォーム成形体やインサート成形体の成形時に繊維の密度斑による浮模様が表出する。また、プレフォーム成形体の形状安定性が低下する。見かけ密度が高すぎる場合には、表面の柔軟な風合いが低下する傾向がある。
なお、繊維絡合体の見かけ密度は、例えば、JIS L 1096 8.4.2(1999)に記載された方法で測定した目付の値を、JISL1096に準じて荷重240gf/cm2で測定した厚みの値で割って求めることができる。
繊維絡合体をこのように高い見かけ密度にするためには、極細単繊維は、複数本の極細単繊維が集束してなる繊維束として存在することが好ましい。具体的には、例えば、5〜1000本、さらには5〜200本、特に好ましくは10〜50本、最も好ましくは10〜30本の極細単繊維が繊維束として存在していることが好ましい。このように極細単繊維が繊維束を形成して存在することにより、繊維絡合体の見かけ密度を高めることができる。
また、極細単繊維は長繊維の極細単繊維から形成されていることが、見かけ密度を高めやすい点から好ましい。ここで、長繊維とは、所定の長さで切断処理された短繊維ではないことを意味する。長繊維の長さとしては、100mm以上、さらには、200mm以上であることが、極細単繊維の繊維密度を充分に高めることができる点から好ましい。極細単繊維の長さが短すぎる場合には、繊維の高密度化が困難になる傾向がある。上限は、特に限定されないが、例えば、スパンボンド法により製造された不織布に由来する繊維絡合体を含有する場合には、連続的に紡糸された数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。また、これらの繊維は単独ではなく数種の繊維が混合したものでもよい。
次に、繊維絡合体に含浸一体化される架橋された非発泡ポリウレタンについて、詳しく説明する。
非発泡ポリウレタンは、DMF浸漬に対する質量減少率が5質量%以下、好ましくは3質量%以下であるような架橋された非発泡ポリウレタンである。このような架橋された非発泡性のポリウレタンは、プレフォーム成形体の成形時において、未架橋の発泡ポリウレタンに比べて金型から離型した後の弾性回復による変形が抑制される。未架橋の発泡ポリウレタンを用いた場合には、金型から離型された後に弾性回復により変形してしまうために、型通りに賦形しても離型後に変形する傾向がある。特に深絞り形状のプレフォーム成形体を成形する場合、図10(b)に示すような角が丸みを帯びたような賦形になる傾向がある。上述したような非発泡性のポリウレタンを用いた場合には、架橋構造により金型内で形が充分にセットされるために、離型した後の弾性回復による変形が抑制されると思われる。
なお、架橋された非発泡ポリウレタンのDMF浸漬に対する質量減少率は、ポリウレタン質量の100倍のDMF中に常温で24時間浸漬した後に、DMFをろ過し、得られたろ過物を乾燥してその質量を測定する。そして、下記式:
質量減少率(%)=(1−DMF浸漬後の重量/DMF浸漬前の重量)×100、により算出される。
このような架橋された非発泡ポリウレタンは、架橋性のポリウレタンの水系エマルジョンを用いて形成されることが好ましい。このような架橋性のポリウレタンの水系エマルジョンの具体例としては、例えば、乾燥後に架橋構造を形成する、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンの水系エマルジョンが挙げられる。
架橋された非発泡ポリウレタンの含有割合は、繊維絡合体との合計量に対して、5〜40質量%、さらには、8〜35質量%、とくには12〜30%の範囲で含有させることが好ましい。架橋された非発泡ポリウレタンの含有割合が5質量%未満の場合には形状安定性が低下し、プレフォーム成形体を成形した場合に表面のあらびが悪化する傾向がある。また、40質量%を超える場合には、表面の柔軟な風合いが低下する傾向がある。
加飾成形用シートは、繊維絡合体と非発泡ポリウレタンとを含む基材の表面に銀面層を有することが好ましい。銀面層は、加飾成形用シートに銀面調の外観を付与するために必要に応じて設けられる。
銀面層を形成するための樹脂成分は特に限定されない。その具体例としては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂等の各種ポリウレタン系樹脂や、アクリル系樹脂、ポリウレタンアクリル複合樹脂、ポリ塩化ビニル、合成ゴム等が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。これらの中では、ポリウレタン系樹脂が接着性や、耐磨耗性や耐屈曲性等の機械物性が優れる点から好ましい。
このような銀面層の形成方法としては、例えば、離型紙上に予め形成された銀面調の皮膜を圧着または接着剤を用いた接着により、繊維絡合体と非発泡ポリウレタンとを含む基材の表面に転写して貼り合せる乾式造面法や、その基材の表面に銀面層を形成するための樹脂成分の溶液を塗布した後、乾燥凝固または湿式凝固等により形成するような湿式造面であってもよい。これらの中では、乾式造面法が厚みの厚い銀面層を形成しやすい点から好ましい。また、銀面層は、接着性を高めることを目的としてアンカーコート層を設けたり、表面にトップコート層を設けたような積層構造であってもよい。
また、銀面層の表面は、必要に応じてシボ付の離型紙を用いて乾式造面したり、エンボスロール等を用いることにより、エンボス模様が形成されていてもよい。
銀面層の厚みは特に限定されないが、10〜500μm、さらには20〜150μm、とくには40〜120μmの範囲であることが好ましい。
加飾成形用シートの厚み(銀面層の厚みを含む)は、0.30〜1.00mm、さらには0.30〜0.80mmであることが好ましい。また、繊維絡合体と非発泡ポリウレタンとを含む基材の厚みは、0.25〜0.95mm、さらには0.25〜0.75mmであることが好ましい。
このようにして得られた加飾成形用シートは、熱成形する温度付近である150℃における30%伸長時の応力が50N/25mm以下、さらには40N/25mm以下であることが好ましい。150℃において30%伸長時の応力が大きすぎる場合には、プレフォーム成形において延伸性が低下することにより賦形性が低下する傾向がある。
なお、30%伸長時の応力は、例えば、JIS L1096の6.12「引張り強度試験」に準じて、25mm幅、長さ200mmの長方形の試験片を、掴み間隔50mmとなるよう引張試験機に取り付け、応力−歪み曲線から30%伸長時の応力を読み取ることにより求められる。
また、加飾成形用シートの見かけ密度は0.50g/cm3以上、さらには0.50〜0.75g/cm3、とくには0.55〜0.72g/cm3であることが好ましい。加飾成形用シートは、このように高い見かけ密度で充実感があるために、得られるプレフォーム成形体の形状安定性に優れる。また、成形時に圧縮されて厚みが薄くなることにより柔軟性を失うことが抑制される。加飾成形用シートの見かけ密度が低すぎる場合には、プレフォーム成形体やインサート成形体の成形時に密度斑による浮模様が表出する。また、見かけ密度が高すぎる場合には、表面の柔軟な風合いが低下する傾向がある。
次に加飾成形用シートを三次元形状に熱プレス成形することによりプレフォーム成形体を製造する方法の一例について説明する。なお、本実施形態においては、プレス成形について詳しく説明するが、プレス成形の代わりに、従来から知られた、真空成形、圧空成形、真空圧空成形等その他のプレフォーム成形法を用いてもよい。
図2は頂面が略正方形で断面が台形状の深絞り形状のプレフォーム成形体を成形するための金型5の斜視模式図である。図2中、5aは雄型である上金型、5bは雌型である下金型である。
図3を参照して、加飾成形用シート10を金型5を用いてプレフォーム成形する工程について説明する。プレフォーム成形においては、はじめに、図3(a)に示すように、基材3と銀面層4とを備える加飾成形用シート10を加熱により軟化させ、銀面層4が下金型5bに対向するようにして、上金型5aと下金型5bとの間に配置する。そして、図3(b)に示すように上金型5aと下金型5bとを型締めすることにより、軟化された加飾成形用シート10に賦形する。加熱により軟化するための温度は、例えば、極細単繊維のガラス転移温度以上で融点温度以下の温度であることが好ましい。具体的には、例えば、120〜180℃程度で軟化させることが好ましい。
そして、図3(c)に示すように上金型5aと下金型5bとを型開きし、得られたプレフォーム成形体20’を図3(d)に示すように離型する。そして、図3(e)に示すように、インサート射出成形の金型のキャビティの形状に沿うように、プレフォーム成形体20’の周囲の不要な部分をトリミングして除去する。このようにして、インサート射出成形の金型のキャビティの形状に沿うように成形されたプレフォーム成形体20が得られる。
次に、プレフォーム成形体20をインサート射出成形の金型のキャビティにインサートし、プレフォーム成形体20の裏面に樹脂を射出することにより成形するインサート射出成形する工程を図4を参照して説明する。
図4中の射出成形の金型15は、インサート部を有するキャビティ15dを備える可動側金型15aと、固定側金型15bと、形成されるスプルーランナー22を隔離するためのスペーサープレート15cとを備える。
図4(a)に示すように、はじめに、基材3と銀面層4とを備えるプレフォーム成形体20をキャビティ15dに配置する。そして、図4(b)に示すように可動側金型15aと固定側金型15bとを型締めし、射出成型機のノズル16を固定側金型15bのスプルーブッシュ15fに接触するまで前進させて、射出成形機のシリンダ内で溶融された溶融樹脂21a'を金型15内に射出する。射出された溶融樹脂21a'は、樹脂流路を流れてゲート15g,15hからキャビティ内に流入する。そして、射出終了後、冷却工程を経て、図4(c)に示すように金型15を型開きすることにより、可動側金型15aと固定側金型15bとスペーサープレート15cとスプルーランナー22とが隔離される。そして、プレフォーム成形体20と射出成形により成形された成形体本体21とが一体化された、表面が皮革様に加飾されたインサート成形体30が得られる。
インサート射出成形で射出される、成形体本体を形成するための樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、各種ポリアミド系樹脂のような各種熱可塑性樹脂が特に限定なく用いられ、用途に応じて適宜選択される。例えば、携帯電話、モバイル機器、家電製品等の筐体に用いる樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等の耐衝撃性に優れた樹脂が好ましく用いられる。
なお、上述したようなインサート射出成形において、キャビティ表面のプレフォーム成形体と接する面にエッチングやレーザー加工や彫刻等により凹凸模様が形成されている金型を用いることにより、皮革様の風合いと表面のシボ模様等の立体模様を兼ね備えた加飾インサート成形体を得ることもできる。このような射出成形により加飾インサート成形体の表面に凹凸模様を付与する方法について以下に詳しく説明する。
加飾インサート成形体の表面に凹凸模様を付与する方法として、表面に凹凸模様を形成した銀面層を備えるプレフォーム成形体を用いてインサート射出成形することにより、加飾インサート成形体の表面に凹凸模様を付与することもできる。しかしながら、このような方法によれば、インサート射出成形の際に金型内に充填される溶融樹脂の熱や圧力により、銀面層が軟化することにより凹凸模様が消失したり、薄くなったりすることがあった。とくに、成形時の溶融樹脂温度が比較的高いポリカーボネート等を用いた場合には凹凸模様が殆ど残らないことがあった。従って、例えば、高低差が100μm以上の凹凸模様をインサート成形後の銀面層に残すことは困難であった。このような場合において、インサート射出成形の金型として、プレフォーム成形体と接するキャビティ表面にエッチングやレーザー加工や彫刻等により凹凸模様が形成されている金型を用い、金型内に充填される溶融樹脂の熱により銀面層を軟化させることにより、銀面層に凹凸模様を転写することができる。このような方法によれば、例え、高低差が100μm以上のような深い凹凸模様であっても、銀面層に転写することができる。
インサート射出成形により、キャビティ表面に凹凸模様が形成された金型を用いて銀面層の表面に凹凸模様を転写しながらインサート射出成形する方法を図5及び図6を参照して説明する。
図5中の射出成形の金型25は、インサート部を有するキャビティ25dを備える可動側金型25aと、固定側金型25bと、形成されるスプルーランナー42を隔離するためのスペーサープレート25cとを備える。そして、プレフォーム成形体40を配置するキャビティ25dの表面には、図6の上面図に示すようにエッチングやレーザー加工や彫刻等により立体状の凹凸模様S'が形成されている。
キャビティに形成される凹凸模様の形態や深さは特に限定されない。具体的には、その形態としては、シボ模様、石目模様、文字等、特に限定されない。また、深さとしては、その高低差が50μm以上、さらには100μm以上、とくには150μm以上のような高低差の模様が挙げられる。
図5(a)に示すように、はじめに、基材13と銀面層14とを備えるプレフォーム成形体40をキャビティ25dに配置する。そして、図5(b)に示すように可動側金型25aと固定側金型25bとを型締めし、射出成型機のノズル16を固定側金型25bのスプルーブッシュ25fに接触するまで前進させて、射出成形機のシリンダ内で溶融された溶融樹脂21a'を金型25内に射出する。射出された溶融樹脂は、樹脂流路を流れてゲート25g,25hからキャビティ25d内に流入する。このとき、溶融樹脂21a'の温度がプレフォーム成形体40に伝わり、銀面層14を軟化させる。そして、軟化した銀面層14は金型内の樹脂圧によりキャビティ25dの表面に押し付けられ、キャビティ25dの表面の凹凸模様S'がその表面に転写される。そして、射出工程後、温調された金型25内で冷却されることにより、銀面層14に転写された表面模様Sがセットされる。そして、冷却工程の後、図5(c)に示すように金型25を型開きすることにより、可動側金型25aと固定側金型25bとスペーサープレート25cとスプルーランナー42とが隔離される。そして、プレフォーム成形体40と射出成形により成形された成形体本体41とが一体化された、表面が皮革様に加飾されたインサート成形体50が得られる。このインサート成形体50の表面には、キャビティ25dの表面の凹凸模様S'が転写された凹凸模様Sを有する銀面層14が形成されている。
このように射出インサート成形により銀面層に凹凸模様を転写するためには、射出樹脂や加飾成形用シートの種類、また、それらの熱的な特性に応じた溶融樹脂の樹脂温度や金型温度等を適宜調整することが好ましい。例えば、加飾成形用シートとしては、上述したような加飾成形用シートの中でも、繊維絡合体として、平均繊度0.9dtex以下の単繊維繊度を有し且つガラス転移温度(Tg)が100〜120℃のポリエステル極細繊維の繊維絡合体を有し、その表層に銀面層が積層形成されたような加飾成形用シートが好ましく用いられる。このような加飾成形用シートを三次元形状に成形した加飾インサート成形用プレフォーム成形体をインサートして成形することが特に好ましい。ガラス転移温度(Tg)が120℃以下のポリエステル極細繊維は、とくに、加熱時の伸び性に優れるために銀面層がキャビティの表面の凹凸模様に密着しやすくなり、そのために凹凸模様が銀面層に転写しやすくなる。
ところで、従来、インサート射出成形する際には、次のような問題を生じることがあった。射出樹脂として溶融温度及び溶融粘度が高いポリカーボネートのような樹脂を用いた場合、樹脂温及び樹脂圧の影響によりプレフォーム成形体の表面が荒れやすくなるという問題があった。とくに、近年、携帯電話、モバイル機器、家電製品の軽量化が求められている観点から、厚みが1mm以下のような薄肉の筐体が求められている。薄肉のインサート成形においては、射出成形時の金型内の樹脂ピーク圧が著しく立って高くなる。このような場合においては、プレフォーム成形体に高温高圧が掛かる。そのために、プレフォーム成形体の表面に射出樹脂の高温高圧の影響による荒れが発生することがあった。
さらに、インサート射出成形で薄肉の成形体を成形する場合、溶融樹脂の流動を原因とする次のような問題があった。インサート射出成形時の金型のキャビティにプレフォーム成形体を配設して溶融樹脂を金型内に射出する場合、薄肉部や長尺部を有する成形品を成形する場合には、図4にも示したような、複数のゲートから溶融樹脂を注入する多点ゲートの金型が採用される。多点ゲートの場合、通常、異なる流路から流れてきた溶融樹脂の先端が合流した部分にウエルドラインが形成される。
図7(a)に示すように、可動側金型15aと固定側金型15bとを備える金型15を用いた場合、異なる流路から矢印方向に流れてきて会合する溶融樹脂21'のウエルドライン形成部WL付近においては、溶融樹脂21'とプレフォーム成形体20との摩擦抵抗によりウエルドライン形成部WLを挟んでプレフォーム成形体20の表面が互いに逆方向に引っ張られて溶融樹脂が固化することにより、皺Wが形成されることがあった。また、薄肉部に完充填するために高速高圧で射出した場合には、図7(b)に示すように、金型15のキャビティの端面においてプレフォーム成形体の端面Eが伸ばされて成形のショットごとに端面Eの長さが変わり、生産安定性が不安定になるという問題があった。
上述したような問題を解決するために、図8に示すように、加飾成形用シート10の溶融樹脂21'と接する側の面に耐熱性の高い樹脂フィルム7を貼り合せた加飾成形用シート60を用いることが好ましい。このように加飾成形用シートは、耐熱性の高い樹脂フィルムが貼り合せられていることにより、得られたプレフォーム成形体をインサート射出成形する際に基材に溶融樹脂が直接接触することを抑制することができる。また、型内に掛かる樹脂圧が加飾成形用シートと樹脂フィルムとの界面で緩和される。その結果、加飾成形用シートの表面が溶融樹脂の樹脂圧及び樹脂温の影響を受けて荒れることを抑制できる。また金型内を流動する溶融樹脂は樹脂フィルムと接するために、溶融樹脂との摩擦抵抗は樹脂フィルムの表面のみに掛かるために加飾成形用シートが摩擦抵抗で引っ張られることが抑制される。その結果、プレフォーム成形体の表面のウエルドライン付近で皺が生じたり、端面が摩擦抵抗により伸びたりすることが抑制される。
このような加飾成形用シートに貼り合わされる樹脂フィルムとしては、プレフォーム成形において加飾成形用シートの変形に追随することが可能であり、且つ、インサート射出成形において、射出樹脂と同等かそれよりも高い熱に対する軟化特性を有する樹脂フィルムであることが好ましい。
その具体例としては、例えば、ABS系樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ABS系樹脂とポリカーボネートとのアロイ、PET系樹脂とポリカーボネートとのアロイ等の樹脂フィルムが挙げられる。これらは、インサート射出成形において射出される樹脂の種類に応じて、適宜選択される。具体的には、例えば、ABS系樹脂を射出成形する場合にはABS系樹脂またはABS系樹脂とポリカーボネートとのアロイからなる樹脂フィルムが、また、ポリカーボネートを射出成形する場合にはポリカーボネートまたはポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルムまたはポリカーボネートとポリエチレンテレフタレートとのアロイからなる樹脂フィルムが選ばれることが好ましい。
樹脂フィルムの厚みとしては、50〜350μm、さらには100〜300μm程度であることが好ましい。樹脂フィルムが厚すぎる場合には皮革様の風合い等が低下したり、プレフォーム成形の成形性が低下する傾向があり、樹脂フィルムが薄すぎる場合には、射出成型の際に型内で溶融樹脂の温度で軟化または溶融されすぎて樹脂フィルムを配置する効果が充分に得られなくなる傾向がある。
加飾成形用シートに樹脂フィルムを積層する方法としては、樹脂フィルムに接着剤を介して加飾成形用シートを貼り合わされたり、熱圧着したりするドライラミネートが好ましく用いられる。接着剤としては、二液硬化型接着剤や熱により延伸可能なホットメルト型接着剤が好ましく用いられる。
次に、本実施形態の加飾成形用シートの製造方法の一例について説明する。加飾成形用シートは、(1)溶融紡糸により海島型複合繊維からなる長繊維ウェブを製造するウェブ製造工程と、(2)得られた長繊維ウェブを複数枚重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成するウェブ絡合工程と、(3)ウェブ絡合シートを湿熱収縮させる湿熱収縮処理工程と、(4)ウェブ絡合シートに非発泡ポリウレタンの水系エマルジョンを含浸させた後、ポリウレタンを凝固及び架橋させるポリウレタン含浸工程と、(5)ウェブ絡合シート中の海島型複合繊維を極細単繊維化する極細繊維形成工程と、を備えるような工程により得られる。以下に各工程について、詳しく説明する。
(1)ウェブ製造工程
本工程においては、はじめに、溶融紡糸により海島型複合繊維からなる長繊維ウェブを製造する。長繊維ウェブは、例えば、いわゆるスパンボンド法を用いて、海島型複合繊維を溶融紡糸法を用いて紡糸し、これを切断せずにネット上に捕集してウェブを形成する方法が好ましく用いられる。
海島型複合繊維の海成分は、ウェブ絡合シートを形成させた後の適当な段階で抽出または分解されて除去される。この分解除去または抽出除去により極細単繊維からなる繊維束を形成させることができる。
海島型複合繊維の島成分を構成する熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)が100〜120℃のポリエステルが用いられる。一方、海島型複合繊維の海成分を構成する熱可塑性樹脂としては、島成分を構成する樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性を異にする熱可塑性樹脂が選ばれる。
海成分を構成する熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレンアクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。中でも、湿熱や熱水で収縮し易い点でポリビニルアルコール系樹脂、特にエチレン変性ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。
海島型複合繊維の紡糸およびウェブ形成には、スパンボンド法が用いられる。具体的には、多数のノズル孔が、所定のパターンで配置された複合紡糸用口金を用いて、海島型複合繊維を個々のノズル孔からコンベヤベルト状の移動式のネット上に連続的に吐出させ、高速気流を用いて冷却しながら堆積させる。このような方法によりウェブが形成される。ネット上に形成されたウェブには融着処理が施されることが好ましい。融着処理により形態安定性が付与される。融着処理の具体例としては、例えば、熱プレス処理が挙げられる。熱プレス処理としては、例えば、カレンダーロールを使用し、所定の圧力と温度をかけて処理する方法を採用することができる。
熱プレス処理する温度は、海島型複合繊維の海成分を構成する成分の融点より10℃以上低いことが好ましい。10℃以上低いと、ウェブの良好な形態安定性を維持しながら、積重後のウェブを絡合する際の絡合不良や針穴の形成を防ぎ、高品位な不織布とすることができる。熱プレス後のウェブの目付けとしては、20〜60g/m2の範囲であることが好ましい。20〜60g/m2の範囲にあることで、次の積重工程において良好な形態保持性を維持させることができる。
(2)ウェブ絡合工程
次に、得られた長繊維ウェブを4〜100枚程度重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成する。ウェブ絡合シートは、ニードルパンチや高圧水流処理等の公知の不織布製造方法を用いて長繊維ウェブに絡合処理を行うことにより形成される。以下に、ニードルパンチによる絡合処理について詳しく説明する。
はじめに、長繊維ウェブに針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合向上油剤などのシリコーン系油剤または鉱物油系油剤を付与する。その後、ニードルパンチにより三次元的に繊維を絡合させる絡合処理を行う。ニードルパンチ処理を行うことにより、繊維密度が高く、繊維の抜けを起こしにくいウェブ絡合シートが得られる。ウェブ絡合シートの目付は、目的とする厚みに応じて適宜選択されるが、具体的には、例えば、500〜2000g/m2の範囲であることが取扱い性に優れる点から好ましい。
(3)熱収縮処理工程
次に、ウェブ絡合シートを熱収縮させることにより、ウェブ絡合シートの繊維密度および絡合度合を高める。なお、本工程においては、長繊維を含有するウェブ絡合シートを熱収縮させることにより、短繊維を含有するウェブ絡合シートを熱収縮させる場合に比べて、ウェブ絡合シートを大きく収縮させることができる。熱収縮処理されたウェブ絡合シートは、加熱ロールや加熱プレスすることにより、さらに、繊維密度が高められてもよい。
熱収縮処理工程におけるウェブ絡合シートの目付の変化としては、収縮処理前の目付に比べて、1.1倍(質量比)以上、さらには、1.3倍以上で、2.0倍以下、さらには1.6倍以下であることが好ましい。
(4)ポリウレタン含浸工程
ウェブ絡合シートの形態安定性を高める目的で、ウェブ絡合シートの極細繊維化処理を行う前または後に、収縮処理されたウェブ絡合シートに非発泡ポリウレタンの水系エマルジョンを含浸させた後、ポリウレタンを凝固及び架橋させる。
ウェブ絡合シートに非発泡ポリウレタンの水系エマルジョンを含浸させる方法としては、ウェブ絡合シートを水系エマルジョンで満たされた浴中へ浸した後、プレスロール等で所定の含浸状態になるように絞るという処理を1回又は複数回行うディップニップ法が好ましく用いられる。また、その他の方法として、バーコーティング法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法等を用いてもよい。
本実施形態における非発泡ポリウレタンとしては、DMF浸漬に対する質量減少率が5質量%以下である架橋された非発泡ポリウレタンが用いられる。
非発泡ポリウレタンの水系エマルジョンとしては、高分子ポリオール、有機ジイソシアネート、及び、必要に応じて鎖伸長剤を所望の割合で含有する成分を、乳化重合法、溶融重合法、塊状重合法、溶液重合法などにより重合して得られる公知の熱可塑性ポリウレタンが好ましい。
高分子ポリオールは用途や必要性能に応じて公知の高分子ポリオールから選択される。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)、ポリ(メチルペンタン)ジオールなどのポリエーテル系ポリオール及びその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンセバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオール及びその共重合体;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(ポリヘキシレンカーボネートジオール)、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンカーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ポリオール及びその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオールなどが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。ポリオキシエチレン単位(−CH2−CH2−O−単位)の含有量は10meq/g以下であることが好ましい。
高分子ポリオールの平均分子量は500〜3000であるのが好ましい。また、耐光堅牢性、耐熱堅牢性、耐NOx黄変性、耐汗性、耐加水分解性などの耐久性をより良好にする場合には、2種以上の高分子ポリオールを使用することが好ましい。
有機ジイソシアネートは用途や必要性能に応じて公知のジイソシアネート化合物から選択することができる。例えば、芳香環を有しない脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート(無黄変型ジイソシアネート)、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、水添メチレンジイソシアネート(4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)などや、芳香環ジイソシアネート、例えば、フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなど挙げることができる。特に、光や熱での黄変が起こりにくいことから、無黄変型ジイソシアネートを使用することが好ましい。
鎖伸長剤は、用途や必要性能に応じて公知のウレタン樹脂の製造に鎖伸長剤として用いられている活性水素原子を2個有する低分子化合物から選択すれば良い。例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミン等のトリアミン類;トリエチレンテトラミン等のテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパン等のトリオール類;ペンタエリスリトール等のペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などが挙げられ、これらのうち1種または2種以上を用いることができる。中でも、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2〜4種類を併用することが好ましい。特に、ヒドラジン及びその誘導体は酸化防止効果を有するので、耐久性が向上する。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
熱可塑性ポリウレタンのソフトセグメント(ポリマージオール)とハードセグメント(有機ジイソシアネート)の合計量に対して、ソフトセグメントの含有量は90〜15質量%、ハードセグメントの含有量は10〜85質量%であることが好ましい。鎖伸長剤を使用する場合、その使用量はソフトセグメントとハードセグメントの合計量に対して1〜50質量%であることが好ましい。
非発泡ポリウレタンの水系エマルジョンをウェブ絡合シートに含浸し、非発泡ポリウレタンを乾燥凝固させる乾式法または湿式法等により凝固させることにより、非発泡ポリウレタンをウェブ絡合シートに固定する。なお、凝固させた非発泡ポリウレタンを架橋させるために、凝固及び乾燥後に加熱処理してキュア処理を行うことが好ましい。
水系ポリウレタンエマルジョンは、最終的に得られる加飾成形用シートの性質を損なわない範囲で、染料や顔料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などをさらに含有してもよい。
(5)極細繊維形成工程
ウェブ絡合シート中の海島型複合繊維は、海成分を水や溶剤等で抽出または分解除去することにより極細繊維に変換される。ポリビニルアルコール系樹脂等の水溶性樹脂を海成分に用いた海島型複合繊維の場合においては、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等で熱水加熱処理することにより海成分が除去される。
本工程においては、海島型複合繊維から海成分を溶解して極細繊維を形成する際に、極細繊維が大きく捲縮される。この捲縮により繊維密度が緻密になるために、高密度の繊維絡合体が得られる。
以上のような工程により、好ましくは300〜1800g/m2の目付を有する繊維絡合体と非発泡ポリウレタンとを含む基材の中間体シートが得られる。
このようにして得られた中間体シートは、乾燥後、厚さ方向に垂直な方向に複数枚にスライスしたり研削することにより、厚さ調節や表面状態を調整されて仕上げられる。基材の表面には、必要に応じて銀面層を設けてもよい。
銀面層を形成する方法は特に限定されない。例えば、剥離シート上に銀面層を形成するための着色した樹脂成分を含む塗液を塗布した後、乾燥または湿式凝固させることにより銀面層皮膜を形成し、銀面層皮膜を加飾成形用シートの基材の表面に接着層を介して貼り合わせた後、剥離シートを剥離する乾式造面による方法や、銀面層を形成するための樹脂成分を含む塗液を繊維絡合体の表面に直接、ロールコーターやスプレーコーターにより塗布した後、乾燥または湿式凝固させることにより形成するような湿式造面による方法等が知られている。銀面層を形成するための樹脂成分としては上述したような銀面層を形成しうる高分子弾性体が特に限定なく用いられうる。また樹脂成分には、必要に応じて、着色剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
なお、銀面層にはエンボス加工等によりシボ模様等の凹凸模様を形成してもよい。エンボス加工は、例えば、表面にシボ模様が付与されたシボ付離型紙に銀面層皮膜を形成したり、銀面層が未硬化の状態でシボ模様を転写した後、銀面層を硬化させるような方法が挙げられる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール(エチレン単位の含有量8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%)、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレート(イソフタル酸単位の含有量6.0モル%)を、それぞれ個別に溶融させた。そして、海成分中に均一な断面積の島成分が25個分布した断面を形成しうるような、多数のノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金に、それぞれの溶融樹脂を供給した。このとき、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75となるように圧力調整しながら供給した。そして、口金温度260℃に設定されたノズル孔より吐出させた。
そして、ノズル孔から吐出された溶融繊維を平均紡糸速度が3700m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェット・ノズル型の吸引装置で吸引することにより延伸し、平均繊度が2.1dtexの海島型複合長繊維を紡糸した。紡糸された海島型複合長繊維は、可動型のネット上に、ネットの裏面から吸引しながら連続的に堆積された。堆積量はネットの移動速度を調節することにより調節された。そして、表面の毛羽立ちを抑えるために、ネット上に堆積された海島型複合長繊維を42℃の金属ロールで軽く押さえた。そして、海島型複合長繊維をネットから剥離し、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させることにより、線圧200N/mmで熱プレスした。このようにして、表面の繊維が格子状に仮融着された目付34g/m2の長繊維ウェブが得られた。
次に、得られた長繊維ウェブの表面に、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した後、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを10枚重ねて総目付が340g/m2の重ね合せウェブを作成し、更に、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、重ね合せウェブをニードルパンチングすることにより三次元絡合処理した。具体的には、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで積層体の両面から交互に3300パンチ/cm2のパンチ数でニードルパンチした。このニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は415g/m2であった。
得られた絡合ウェブは、以下のようにして湿熱収縮処理されることにより、緻密化された。具体的には、18℃の水を絡合ウェブに対して10質量%均一にスプレーし、温度70℃、相対湿度95%の雰囲気中で3分間張力が掛からない状態で放置して熱処理することにより湿熱収縮させて見かけの繊維密度を向上させた。この湿熱収縮処理による面積収縮率は45%であり、緻密化された絡合ウェブの目付は750g/m2であり、見かけ密度は0.52g/cm3であった。そして、絡合ウェブをさらに緻密化するために乾熱ロールプレスすることにより、見かけ密度0.60g/cm3に調整した。
次に、緻密化された絡合ウェブに、DMF浸漬に対する質量減少率が0.5質量%である、架橋型の非発泡ポリウレタンを以下のようにして含浸させた。ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とする架橋型の水系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度30%)を緻密化された絡合ウェブに含浸させた。そして、150℃の乾燥炉で水分を乾燥し、さらに非発泡ポリウレタンを架橋させた。このようにして、非発泡ポリウレタン/絡合ウェブの質量比が18/82のポリウレタン絡合ウェブ複合体を形成した。
次に、ポリウレタン絡合ウェブ複合体を95℃の熱水中に20分間浸漬することにより海島型複合長繊維に含まれる海成分を抽出除去し、120℃の乾燥炉で乾燥することにより、厚さ約1.0mmの基材の中間体シートが得られた。そして得られたシートを厚み方向に2分割し、0.45mmに研削して基材を得た。
得られた基材に含有される繊維絡合体の見かけ密度は0.53g/cm3であり、非発泡ポリウレタン/繊維絡合体の質量比は22/78であった。また、繊維絡合体の極細単繊維の平均単繊維繊度は0.08dtexであった。
一方、高低差50μmの凹凸模様を有するしぼ付剥離シートの表面にポリウレタン樹脂溶液を塗布し乾燥することにより、厚み110μmの銀面調皮膜を形成した。そして、基材の一面にしぼ付剥離シートに形成された銀面調皮膜を貼り合わせ、80℃で2分間乾燥し、その後、40℃で3日間放置した後、剥離シートを剥離した。このようにして銀面層を形成し、加飾成形用シートAを得た。得られた加飾成形用シートの見かけ密度は0.66g/cm3であった。また、150℃における30%伸長応力が29N/25mmであった。
次に、得られた加飾成形用シートAを用いて、図9に示すような形状の断面が台形状の山形の3次元形状のキャビティ―を有する金型を用いてプレフォーム成形体を成形した。具体的には、温度150℃に加熱された一対の金型の下金型に加飾成形用シートAを配置し、0.4MPaの圧力でプレスして成形した。このようにしてプレフォーム成形体A1を得た。
そして、得られたプレフォーム成形体A1の賦形性、成形前後の厚さ保持率、あらびの発生を以下のような基準で評価した。
(賦形性)
図9に示した部分を光学顕微鏡で側面から観察し写真を撮影した。そして、プレフォーム成形体の山の裾野の立ち上がり部分の角度θを測定し、賦形率(%)=(135/θ)×100 の式により金型の山の裾野の立ち上がり部分の角度に対するプレフォーム成形体の山の裾野の立ち上がり部分の角度の割合を算出した。
(厚さ保持率)
プレフォーム成形体の山の頂面の中央部の厚みを測定した。そして、加飾成形用シートの厚みに対する山の頂面の中央部の厚みを算出した。
(あらび)
プレフォーム成形体の表面状態を以下の基準で判定した。
5級:あらびがほとんど現れない。
3〜4級:少しあらびが現れる。
1〜2級:あらびが激しく現れる。
そして、得られたプレフォーム成形体A1を、その銀面層が金型表面に接触するように、射出インサート成形機のインサート金型の、プレフォーム成形体の形状に沿った形状を有するキャビティ内に配置した。なお、金型としては、(i)銀面層が接触する表面が鏡面仕上げされたもの、(ii)銀面層が接触する表面が高低差150μmのシボ状の凹凸模様を有するもの、の2種類を用いた。上記のような金型を用い、射出温度230℃の条件でポリカーボネート樹脂を射出成形した。このようにして、加飾インサート成形体を成形した。
このようにして得られた皮革様の表面を有する加飾インサート成形体を以下のように評価した。結果を表1に示す。
(賦形性)
加飾インサート成形体の図9に示した部分を光学顕微鏡で側面から観察し写真を撮影した。そして、プレフォーム成形体の山の裾野の立ち上がり部分の角度θを測定し、賦形率(%)=(135/θ)×100 の式により金型の山の裾野の立ち上がり部分の角度に対するプレフォーム成形体の山の裾野の立ち上がり部分の角度の割合を算出し、形状の賦形性を以下の基準で判定した。
A:賦形率が95%以上であった。
B:賦形率が95%未満であった。
(金型(i)の表面の凹凸模様)
金型(i)で得られた加飾インサート成形体の銀面層の外観を観察し、以下の基準で評価した。
A:表面に高低差30μm以上の凹凸模様が残っていた。
B:表面の凹凸模様がほとんど押しつぶされて消失していた。
(金型(ii)の表面の凹凸模様)
金型(ii)で得られた加飾インサート成形体の銀面層の外観を観察し、以下の基準で評価した。
A:表面に高低差130μm以上の凹凸模様が残っていた。
B:表面に高低差130μm以上の凹凸模様が残らなかった。
[実施例2]
実施例1において、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いる代わりに、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが120であるイソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして加飾成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1において、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いる代わりに、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが100℃であるイソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして加飾成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1において、繊維絡合体の見かけ密度を0.53g/cm3に調整する代わりに、非発泡ポリウレタン/繊維絡合体の質量比を29/71とすることにより繊維絡合体の見かけ密度を0.62g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして加飾成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1において、緻密化された絡合ウェブに、DMF浸漬に対する質量減少率が0.5質量%である、架橋型の非発泡ポリウレタンを含浸させる代わりに、DMFに対する重量減少率が100質量%である、未架橋型の発泡ポリウレタンを形成するためのポリウレタンのDMF溶液(固形分20%)を含浸させ、湿式凝固させることにより、発泡ポリウレタン/絡合ウェブの質量比が18/82のポリウレタン絡合ウェブ複合体を形成した。上記変更以外は実施例1と同様にして加飾成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1において、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いる代わりに、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが130℃であるポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして加飾成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例3]
実施例1において、繊維絡合体の見かけ密度を0.53g/cm3に調整する代わりに、非発泡ポリウレタン/繊維絡合体の質量比を8/92とすることにより繊維絡合体の見かけ密度を0.43g/cm3に調整した以外は実施例1と同様にして加飾成形用シートを得、また、プレフォーム成形体を得た。そして、同様にして評価した。結果を表1に示す。
本発明に係る実施例1〜4の加飾成形用シートを成形して得られたプレフォーム成形体は賦形性に優れ、成形前後の厚さ保持率も高く、あらびの発生も少なかった。一方、非架橋発泡ポリウレタンを用いた比較例1の加飾成形用シートを成形して得られたプレフォーム成形体は賦形性に劣り、また、厚さ保持率も低く、あらびの発生も多かった。また、Tgが130℃であるポリエチレンテレフタレートからなる極細繊維の繊維絡合体を用いた比較例2の加飾成形用シートを成形して得られたプレフォーム成形体は賦形性が劣っていた。また、繊維絡合体の見かけ密度が低い比較例3の加飾成形用シートを成形して得られたプレフォーム成形体は厚さ保持率が低かった。