本発明に係る図柄付皮革様シートの一実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る図柄付皮革様シートの一実施形態である図柄付皮革様シート10の模式図を示す。図1(a)は上面、図1(b)は図1(a)のI−I’断面の模式図を示す。図柄付皮革様シート10は、図1(a)に示すように、上面視したときに矩形状の図柄になる熱エンボス加工により付与された溝状の第2の領域Aを有する。また、図1(b)に示すように、図柄付皮革様シート10は、断面視したときに、熱プレス処理により圧縮された互いに異なる圧縮率を有する第1の領域C、第2の領域A及び第3の領域Bを有し、圧縮率は、第1の領域Cが最も大きく、第3の領域Bが最も小さく、第2の領域Aはその中間で、第2の領域Aに含まれる示温顔料のみが変色している。
図1(b)に示すように、図柄付皮革様シート10は、繊維基材1と、表皮層2と、繊維基材1と表皮層2とを接着する接着剤層3とを備える。そして、表皮層2と接着剤層3は、銀面調の外観を形成する表面樹脂層4を構成する。表皮層2及び接着剤層3の両方またはいずれか一方には、所定の温度で不可逆的に変色する示温顔料が含有される。図柄付皮革様シート10においては、第1の領域C、第2の領域A及び第3の領域Bは、表面に凹凸模様を備えた金型を用いて熱プレス処理することにより形成されており、第2の領域Aのみが、示温顔料を変色させる温度で熱エンボス加工されている。第2の領域Aのみを示温顔料を変色させる温度で熱エンボス加工することにより、第2の領域Aには熱プレス処理により転写形成された立体形状である溝が形成されるとともに、その部分の示温顔料が選択的に変色している。その結果、第2の領域Aは、示温顔料の変色による周囲とは異なる着色と溝状の立体形状により、極めて高い視認性を呈する。
次に図2を参照して、示温顔料を含有する皮革様シート5に、凹凸模様を有する金型を用いて熱プレス処理することにより、図柄付皮革様シート10を製造する方法について説明する。
はじめに、図2(a)に示すような皮革様シート5を準備する。図2(a)に示すように、皮革様シート5は、繊維基材1と、表皮層2と、繊維基材1と表皮層2とを接着する接着剤層3とを備える。そして、表皮層2及び接着剤層3の両方またはいずれか一方には、所定の温度で不可逆的に変色する示温顔料が含有される。なお、皮革様シート5においては、表皮層2及び接着剤層3の両方またはいずれか一方に示温顔料を含有させた。表皮層や接着剤層のような表面樹脂層を形成しない場合には、繊維基材に示温顔料を含有させてもよい。例えば、繊維基材に示温顔料をバインダで付着させるような方法により、繊維基材に示温顔料を含有させてもよい。
示温顔料としては、所定の温度で不可逆的に変色し、変色後再度温度が元に戻っても変色を維持する顔料であれば、特に限定なく用いられる。なお、示温顔料は、各示温顔料に固有の変色温度以上で所定の時間維持することにより変色する。入手しうる示温顔料の変色温度は、例えば、50℃程度で変色するものから310℃程度で変色するものまで、広いバリエーションの種類が存在する。
示温顔料の具体例としては、例えば、塩化コバルト・ヘキサメチレンテトラミン錯塩、硫酸コバルト・ヘキサメチレンテトラミン錯塩、硝酸コバルト・ヘキサメチレンテトラミン錯塩、硝酸コバルト・硝酸ニッケル・ヘキサメチレンテトラミン錯塩、塩化ニッケル・ヘキサメチレンテトラミン錯塩、リン酸コバルト水和物、トリオクサラトコバルト(III)酸カリウム、水酸化銅、カルボナートテトラアンミンコバルト(III)硝酸錯塩、ヘキサアンミンコバルト(III)リン酸錯塩、シュウ酸ビスマス、シュウ酸銅・シュウ酸銅カリウム錯塩、シュウ酸コバルト、シュウ酸コバルト・シュウ酸ニッケル錯塩、シュウ酸ニッケル、シュウ酸鉛、フタロシアニン銅、モリブデン酸アンモニウム・酸化アルミニウム錯塩、リンマンガン酸アンモニウム等の無機または有機の金属錯塩からなる示温顔料や、顕色剤,発色剤(呈色剤),溶媒(減感剤)の三成分を内包するマイクロカプセルを作り、これを顔料としてビヒクルに分散した有機系の示温顔料等が挙げられる。このような示温顔料は、所定の温度以上に加熱することにより、例えば、ピンクから青、青からグレイ、青から黒のように全く異なる色に変色する。このような示温顔料は、例えば、寺田薬泉工業(株)から市販品として入手しうる。
そして、図2(b)に示すように、表面に第3の凹凸模様B’を有する加熱されたエンボス金型6aと、平滑金型6bとの間に皮革様シート5を配置し、熱プレスする。このとき、エンボス金型6a及び平滑金型6bの温度は、示温顔料を変色させない温度に設定されている。このようにして、図2(c)に示すような、第3の領域B及び第1の領域Cが転写形成された皮革様シート9が得られる。
そして、図2(d)に示すように、皮革様シート9を、表面に第2の凹凸模様A’を有する加熱されたエンボス金型7aと、平滑金型7bとの間に皮革様シート9を配置し、熱プレスする。このとき、エンボス金型7aの温度は示温顔料を変色させる温度に設定されている。このようにして、図2(e)に示すように第2の領域Aが転写形成された皮革様シート10が得られる。このとき、第2の領域Aのみ示温顔料が変色する。それにより、周囲との色の違いにより、第2の領域Aは高い視認性を呈する。
以上、本発明に係る一実施形態の図柄付皮革様シート10の概要を説明した。次に図柄付皮革様シートを製造するための皮革様シートの構成について、詳しく説明する。
皮革様シートとしては、例えば、人工皮革や合成皮革のような皮革に似せた繊維基材を主体とし、所定の温度で不可逆的に変色する示温顔料を含むシート基材であれば特に限定されない。人工皮革は、例えば、ポリウレタン等の高分子弾性体を含浸付与した繊維基材を含む。このような繊維基材の表面に皮革の銀面の外観に似せた銀面調の表面樹脂層を積層することにより銀面調の加飾面を有する人工皮革が得られる。また、繊維基材の表面の繊維を起毛処理することにより、スエード調またはヌバック調の加飾面を有する人工皮革が得られる。また、合成皮革は、織物の表面に厚みのある軟質塩化ビニル等を主体とする弾性層を積層して得られる銀面調の皮革様シートである。本実施形態では、皮革様シートとして、人工皮革を代表例として詳しく説明する。
図2(a)に示したような皮革様シート5は、繊維基材1と、表皮層2と、繊維基材1と表皮層2とを接着する接着剤層3とを備える人工皮革である。表皮層2と接着剤層3とは表面樹脂層4を形成する。
繊維基材としては、例えば、不織布に、必要に応じて高分子弾性体を含浸付与したものが挙げられる。不織布の中では、とくには極細繊維の不織布が好ましい。極細繊維の不織布は繊維密度が緻密であるために繊維の粗密ムラが小さく、均質性が高い。そのためにしなやかさと高い充実感に優れた人工皮革が得られる。本実施形態では、極細繊維の不織布を用いる場合について詳しく説明する。
極細繊維の不織布は、例えば、海島型(マトリクス‐ドメイン型)複合繊維のような極細繊維発生型繊維を絡合処理し、極細繊維化処理することにより得られる。なお、本実施形態においては、海島型複合繊維を用いる場合について詳しく説明するが、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維を用いても、また、極細繊維発生型繊維を用いずに、直接極細繊維を紡糸してもよい。なお、海島型複合繊維以外の極細繊維発生型繊維の具体例としては、紡糸直後に複数の極細繊維が軽く接着されて形成され、機械的操作により解きほぐされることにより複数の極細繊維が形成されるような剥離分割型繊維や、溶融紡糸工程において花弁状に複数の樹脂を交互に集合させてなる花弁型繊維等が挙げられ、極細繊維を形成しうる繊維であれば特に限定されずに用いられる。
極細繊維の不織布の製造においては、はじめに、選択的に除去できる海島型複合繊維の海成分(マトリクス成分)を構成する熱可塑性樹脂と、極細繊維を形成する樹脂成分である海島型複合繊維の島成分(ドメイン成分)を構成する熱可塑性樹脂とを溶融紡糸し、延伸することにより海島型複合繊維を得る。
海成分の熱可塑性樹脂としては、島成分の樹脂とは溶剤に対する溶解性または分解剤に対する分解性を異にする熱可塑性樹脂が選ばれる。海成分を構成する熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、スチレンエチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、などが挙げられる。
島成分を形成し、極細繊維を形成する樹脂成分である熱可塑性樹脂としては、海島型複合繊維及び極細繊維を形成可能な樹脂であれば特に限定されない。その具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエステルエラストマー等のポリエステル系樹脂;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,芳香族ポリアミド,ポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂;アクリル樹脂;オレフィン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂等繊維形成能を有する合成樹脂から形成された繊維等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリエステル系樹脂及びポリアミド系樹脂が、溶融紡糸性に優れている点から好ましい。また、とくには、ガラス転移温度(Tg)が100〜120℃、さらには105〜115℃であるポリエステルが好ましい。
Tgが100〜120℃のポリエステルを含む極細繊維は、熱転写加工する際の加熱による軟化時の延伸性に優れているために、高低差の大きい凹凸模様の転写性が優れている。なお、Tgが100℃未満の場合には熱転写後の固化に時間がかかる傾向がある。
Tgは、例えば、動的粘弾性測定装置(例えば、レオロジ社製FTレオスペクトラDDVIV)を用いて、幅5mm、長さ30mmの試験片を間隔20mmのチャック間に固定して、測定領域30〜250℃、昇温速度3℃/min、歪み5μm/20mm、測定周波数10Hzの条件で動的粘弾性挙動を測定することにより得られる。
Tgが100〜120℃のポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートの構成単位に直鎖の構造を乱す共重合成分を構成単位として含有する変性ポリエチレンテレフタレート、特に、イソフタル酸、フタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の非対称型芳香族カルボン酸や、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸を共重合成分として所定割合で含有する変性ポリエチレンテレフタレートが挙げられる。さらに具体的には、モノマー成分としてイソフタル酸単位を2〜12モル%含有する変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
極細繊維の不織布の製造方法としては、例えば、海島型複合繊維を溶融紡糸してウェブを製造し、ウェブを絡合処理した後、海島型複合繊維から海成分を選択的に除去して極細繊維を形成するような方法が挙げられる。ウェブを製造する方法としては、スパンボンド法などにより紡糸した長繊維の海島型複合繊維をカットせずにネット上に捕集して長繊維ウェブを形成する方法や、長繊維をステープルにカットして短繊維ウェブを形成する方法等が挙げられる。これらの中では、緻密さ及び充実感に優れている点から長繊維ウェブが特に好ましい。また、形成されたウェブには形態安定性を付与するために融着処理を施してもよい。
なお、長繊維とは、紡糸後に意図的にカットされた短繊維ではない、連続的な繊維であることを意味する。さらに具体的には、例えば、繊維長が3〜80mm程度になるように意図的に切断された短繊維ではない繊維を意味する。極細繊維化する前の海島型複合繊維の繊維長は100mm以上であることが好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、製造工程において不可避的に切断されない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
海島型複合繊維の海成分を除去して極細繊維を形成するまでの何れかの工程において、絡合処理及び水蒸気による熱収縮処理等の繊維収縮処理を施すことにより、海島型複合繊維を緻密化することができる。絡合処理としては、例えば、ウェブを5〜100枚程度重ね、ニードルパンチや高圧水流処理する方法が挙げられる。
海島型複合繊維の海成分は、ウェブを形成させた後の適当な段階で溶解または分解して除去される。このような分解除去または溶解抽出除去により海島型複合繊維が極細繊維化されて、繊維束状の極細繊維が形成される。
極細繊維の繊度は0.8dtex以下であり、0.5dtex以下、さらには、0.1dtex以下、とくには0.08dtex以下であることが好ましい。なお、下限は特に限定されないが、0.01dtex程度であることが好ましい。極細繊維の繊度が0.8dtexを超える場合には、繊維の延伸性が低下して、凹凸模様を熱転写した場合に輪郭が不鮮明になりやすくなる傾向がある。
このようにして得られた極細繊維の不織布は、必要に応じて厚さ調整及び平坦化処理される。具体的には、スライス処理やバフィング処理が施される。このようにして、極細繊維の不織布が得られる。
不織布の空隙には、極細繊維化の前工程、後工程、又は前後両方の工程の何れかの段階で、必要に応じて高分子弾性体が含浸付与される。高分子弾性体を含浸付与する方法としては、例えば、繊維構造体に高分子弾性体の水系エマルジョンを含浸し、ロール・ニップ処理を行うような方法が挙げられる。
高分子弾性体の水系エマルジョンとしては、従来から人工皮革を製造する際に使用されているものが特に限定なく用いられうる。
高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン、アクリル系弾性体、シリコーン系弾性体、ジエン系弾性体、ニトリル系弾性体、フッ素系弾性体、ポリスチレン系弾性体、ポリオレフィン系弾性体、ポリアミド系弾性体、ハロゲン系弾性体等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中ではポリウレタンが耐摩耗性や機械的特性に優れる点から好ましい。
ポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンのエマルジョン等の水系ポリウレタンが好ましい。これらのポリウレタンは容易にその分散液が調製され、架橋構造を形成しやすく、また、繊維に密着させすぎずに空隙に存在させることにより柔らかな風合いを発現させやすい点から特に好ましい。
なお、高分子弾性体をバインダとして不織布に示温顔料を付着させることができる。表面樹脂層を形成しない場合には、このように不織布中に示温顔料を含有させてもよい。
高分子弾性体をバインダとして不織布に示温顔料を固定する方法はとくに限定されないが、例えば、次のような方法が好ましく用いられる。はじめに高分子弾性体を含むエマルジョンに示温顔料を分散させた顔料混合液を調製する。顔料混合液の示温顔料の含有割合は特に限定されず、求める色調に応じて適宜調整されるが、例えば、0.1〜10質量%程度配合することが好ましい。極細繊維化の前工程、後工程、又は前後両方の工程の何れかの段階で、顔料混合液で満たされた浴中に不織布を浸した後、プレスロール等で所定の含浸状態になるように絞るという処理を1回又は複数回行うディップニップ法により、所定量の顔料混合液を含浸させる。そして、不織布に顔料混合液を含浸した後、顔料混合液を乾燥させることにより不織布に示温顔料を固着させることができる。
不織布に付与される高分子弾性体の量は、特に限定されないが、不織布100質量部に対する高分子弾性体(固形分)の量は、1〜80質量部、さらには2〜60質量部、とくには5〜40質量部であることが好ましい。高分子弾性体の量が少なすぎる場合には、形態安定性が低下する傾向があり、多すぎる場合には、ゴム感が強い人工皮革が得られる傾向がある。
繊維基材は、必要に応じてスライス処理またはバフィング処理することにより厚さ調整及び平坦化処理されたり、揉み柔軟化処理、空打ち柔軟化処理、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理等の仕上げ処理が施されてもよい。
繊維基材の厚さは、特に限定されないが、100〜3000μm、さらには300〜2000μm程度であることが好ましい。
繊維基材に所望の外観を付与するための処理を施すことにより人工皮革に仕上げられる。人工皮革としては、例えば、繊維基材の表面に表面樹脂層を付与した銀面調の人工皮革や、繊維基材の表層をサンドペーパーなどを用いてバフィング処理して起毛処理または立毛処理することにより毛羽立てた外観を付与した起毛調人工皮革(スエード、ヌバック、ベロア、バックスキン)等が挙げられる。
人工皮革が表面樹脂層を備える場合には、示温顔料は表面樹脂層に含有されていることが、発色性及び製造が容易な点から好ましい。表面樹脂層を形成する方法としては、例えば、離型紙の表面に高分子弾性体を主体とする表皮層を形成し、さらに、表皮層の表面に接着剤を塗布し、不織布と貼り合せ、離型紙を剥がすことにより、表面樹脂層を形成するような方法が挙げられる。示温顔料は表皮層及び接着剤層の少なくとも一方の層に含まれることが発色性に優れる点から好ましい。
示温顔料を表面樹脂層に含有させる方法はとくに限定されないが、例えば、次のような方法が好ましく用いられる。表面樹脂層を形成する表皮層を形成するための樹脂原料、または、接着剤層を形成するための接着剤に示温顔料を分散させることにより含有させることができる。表面樹脂層中の示温顔料の含有割合は特に限定されず、求める色調に応じて適宜調整されるが、例えば、0.1〜80質量%程度配合することが好ましい。
表皮層の厚さは特に限定されないが、1〜100μm、さらには20〜50μm程度であることが熱転写性に優れる点から好ましい。
表皮層を形成するための高分子弾性体の種類は特に限定されない。その具体例としては、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン等の各種ポリウレタンや、アクリル系弾性体、ポリウレタンアクリル複合弾性体、ポリ塩化ビニル弾性体、合成ゴム等が挙げられる。これらの高分子弾性体は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタンが接着性や、耐磨耗性や耐屈曲性等の機械物性が優れる点から好ましい。また、高分子弾性体は必要に応じて公知の各種添加剤等を含有してもよい。
なお、接着剤としては、熱転写性に優れる点からホットメルト型接着剤がとくに好ましい。ホットメルト型接着剤は凹凸模様を有する金型で熱プレスする際に可塑化するために、賦形性に優れる。
ホットメルト型接着剤は、加熱することにより溶融し、その後に冷却されることにより再固化する、従来から知られたホットメルト型接着剤であれば、特に限定なく用いられる。具体的には、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、アクリル系、酢酸ビニル系、ポリスチレン系、エポキシ系等のホットメルト型接着剤が挙げられる。また、ホットメルト型接着剤としては、架橋タイプ、半架橋タイプ、非架橋タイプのいずれでもよいが、接着性に優れる点から架橋タイプが好ましい。また、得られる人工皮革の熱エンボス時の賦形性に優れる点から軟化温度が150℃以下、さらには130℃以下であるようなホットメルト型ウレタン接着剤がとくに好ましい。なお、軟化温度は、例えば、50μmの乾式フィルムを作成したのち、定荷重を加えながら、一定温度で昇温し、目視で急激に伸び始める温度もしくは急激に切断する温度を特定することにより測定することができる。
また、ホットメルト型接着剤の軟化温度は、極細繊維のTgよりも0〜30℃、さらには、10〜20℃高いことが好ましい。このような場合には、極細繊維のTgとホットメルト型接着剤の軟化温度が近いために、熱エンボス加工により、接着剤層及び不織布に明瞭に凹凸模様が転写されやすくなる。ホットメルト型接着剤の軟化温度が高すぎる場合には、接着剤層に対する転写性が低下し、接着剤層に明瞭に転写するために熱転写の温度を高めすぎた場合には、極細繊維同士が融着してフィルム化することにより風合いが低下する。
なお、ホットメルト型接着剤の性状は、通常、常温で固体状である。従って、形成される接着剤層は固体状である。ホットメルト型接着剤は、通常、無溶剤タイプの固体状のホットメルト型接着剤を塗布可能な粘度に調整して塗布される。しかしながら、表皮層に溶融されたホットメルト型接着剤を塗布した場合には、表皮層が熱履歴を受ける。そのために、このような熱履歴を避けるために、本実施形態においては、固体状のホットメルト型接着剤を溶剤に溶解した溶液タイプのホットメルト型接着剤を用いて塗膜を形成することが好ましい。
離型紙上に形成された表皮層に、溶液タイプのホットメルト型接着剤を用いて塗膜を形成し、その溶液中の溶媒が完全に乾燥する前に、予め準備された不織布を貼り合せて溶剤を乾燥除去することにより、不織布と表皮層とが一体化される。そして、表皮層と不織布とが接着された後、離型紙を剥離することにより、示温顔料を含有する表面樹脂層を備えた人工皮革が得られる。
そして、このような示温顔料を含有する人工皮革の表面から文字、図形、記号等の図柄の凹凸模様を備えた金型を用いて示温顔料が変色する温度以上で熱プレス処理することにより、示温顔料を変色させて形成された図柄を有する図柄付皮革様シートが得られる。
本実施形態の図柄付皮革様シートは、従来から広く用いられてきた衣料、鞄、車両の内装材のような用途の他、射出インサート成形に供されるプレフォーム成形体や、特に、物品表面に貼り合せて用いられるような加飾シートの用途に好ましく用いられる。図3に部材11に接着剤層12を介して図柄付皮革様シート10を貼り合せて形成された加飾された成形体20の模式断面図を示す。
物品表面に貼り合せて用いられるような加飾シートに用いる場合、図柄付皮革様シートは成形体の曲面等に正確に貼り合せるためにより薄い厚みが求められる。薄さの要求される加飾シートに用いられる場合には、立体的な図形、記号、模様、文字等の図柄を明瞭に型押しするために、次のような皮革様シートを用いて製造することが好ましい。
具体的には、例えば、図1に示したような図柄付皮革様シート10の場合、繊維基材1は繊度0.8dtex以下の極細繊維の繊維束の絡合体を含む不織布であり、厚み方向断面における繊維束間の距離の平均値が、第1の領域Cで10μm未満であり、第3の領域Bで10μm以上30μm以下であることが好ましい。このような場合には、第1の領域Cと第3の領域Bが明確な高低差を形成するように異なる圧縮率で圧縮されているために、第1の領域Cと第3の領域Bとの輪郭が正確に表現される。また、第3の領域Bは第1の領域Cに比べて柔軟になるために、例えば人の指で圧されるようなキーボードのキー部等として用いた場合に、特定のキーを確実に押したように認識される触感であるクリック感が得られる。
図4は、キーボードの図柄が型押しされた図柄付皮革様シート30を表面に配したモバイル型PCのキーボード部40の模式図を示す。図4(a)はキーボード部40の上面模式図であり、図4(b)は図4(a)の部分模式断面図である。図4(b)に示すように、キーボード部40においては、図柄付皮革様シート30は、フレキシブルなキーボード基板22に貼り合されている。フレキシブルなキーボード基板22は、リジット回路基板25に配された接点24と対を成す接点23を備える。
図柄付皮革様シート30は、不織布31と、表皮層32と、不織布31と表皮層32とを接着する接着剤層33とを備える。そして、表皮層32と接着剤層33は、銀面調の外観を形成する表面樹脂層34を構成する。表皮層32及び接着剤層33の両方またはいずれか一方には、示温顔料が含有される。図柄付皮革様シート30は、熱プレス処理により圧縮された互いに異なる圧縮率を有する第1の領域C1、第2の領域A1及び第3の領域B1を有し、圧縮率は、第1の領域C1が最も大きく、第3の領域B1が最も小さく、第2の領域A1はその中間で、第2の領域A1に含まれる示温顔料のみが変色している。第1の領域C1においては、厚み方向断面における不織布31の繊維束間の距離の平均値が10μm未満、さらには0〜8μmであり、第3の領域B1においては、10μm以上30μm以下であるように形成されていることが好ましい。
第3の領域B1は第1の領域C1に対して、例えば、100〜500μm、さらには150〜400μm程度の高低差を維持する台地状の複数個の凸部を形成するように圧縮されており、各凸部が各キーボタンに対応する接点23に対応するように配置される。このような高低差の第3の領域B1は、第1の領域C1との輪郭が明確になるとともに、クリック感が高くなる。
また、第2の領域A1は圧縮率が中間的な領域として形成されており、各キーボタンの種類の文字が示温顔料の変色により表現されている。文字を表す図柄部分は示温顔料の変色と型押しされた立体形状により明確な視認性を呈する。
キーボード部40においては、各キーボタンに対応する圧縮率の最も低い第3の領域B1は、圧縮率の最も高い第1の領域C1よりも顕著にソフトであり、人の指で圧されたときに、特定のキーを確実に押したような触感であるクリック感が得られる。このような第3の領域B1は、指で押されることにより、各キーボタンに対応する接点23と接点24とが接触し、特定のキーボタンが押されたことをコンピュータ本体に指示する。
厚み方向断面における繊維束間の距離の平均値の測定方法及び算出方法を図5を参照して説明する。図5に示すように、不織布の厚み方向に平行な任意の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で例えば150倍で撮影する。そして、撮影された画像に対して、シートの厚み方向に対して平行に、ほぼ等間隔で10本の補助線を引く。そして、10本の補助線を通過させた全ての繊維束間(繊維束の外周同士間)の距離合計(A)を求める。そして、10本の補助線を通過させた繊維束数の合計を求め、繊維束数の合計から10を引いた数を繊維束間数(B)とする。そして、距離合計(A)を繊維束間数(B)で除した値、すなわち、(A)/(B)を厚み方向における繊維束間距離の平均値として算出する。なお、断面方向における繊維束のカウント方法は、円形の形状をした繊維束のみならず、斜めに伸びる楕円の形状をした繊維束もカウントする。但し、実質的に束を形成している繊維束を数えるものとする。そして、任意の10点のそれぞれの線上における繊維束間距離の平均値を求める。任意の10点のそれぞれの線上における繊維束間距離の平均値全てが上述のような範囲であることがより好ましい。
加飾シートに用いる場合、表皮層の厚さは1〜100μmであり、15〜80μm、さらには20〜50μmであることが好ましい。表皮層の厚さが1μm未満の場合には、加飾シートとして用いられる人工皮革の表面の耐熱性が低下したり、耐摩耗性が低下したりする傾向がある。また、表皮層の厚さが100μmを超える場合には、人工皮革が厚くなって、意匠性が低下する。
また、加飾シートに用いる場合、表皮層は、ホットメルト型接着剤を含む厚さ10〜150μmの接着剤層を介して不織布と接着されていることが好ましい。このようなホットメルト型接着剤を含む厚さ10〜150μmの接着剤層は、熱エンボス時の賦形性に優れる。
また、加飾シートに用いる場合、接着剤層の厚さは10〜150μmであり、20〜130μm、さらには30〜120μmであることが好ましい。接着剤層の厚さが10μm未満の場合には、熱エンボス時の転写性が低下する。また、接着剤層の厚さが150μmを超える場合には、耐熱性が低下したり、機械的特性が低下したりする傾向があり、また、厚くなるために好ましくない。
このような加飾シートに用いられる図柄付人工皮革は、薄さの要求される用途であって、例えば頻繁に人の指で繰り返し圧されるような物品の表面材等、さらに具体的には、上述したようなモバイル型PCや情報端末機器のキーボード部や、エレベータや各種家電製品の押しボタンの表面等に貼り合せる表皮材として好ましく用いられる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール(エチレン単位の含有量8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%)、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレート(イソフタル酸単位の含有量6.0モル%)を、それぞれ個別に溶融させた。そして、海成分中に均一な断面積の島成分が25個分布した断面を形成しうるような、多数のノズル孔が並列状に配置された複数紡糸用口金に、それぞれの溶融樹脂を供給した。このとき、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75となるように圧力調整しながら供給した。そして、口金温度260℃に設定されたノズル孔より吐出させた。
そして、ノズル孔から吐出された溶融繊維を平均紡糸速度が3700m/分となるように気流の圧力を調節したエアジェット・ノズル型の吸引装置で吸引することにより延伸し、繊度が2.1dtexの海島型長繊維を紡糸した。紡糸された海島型長繊維は、可動型のネット上に、ネットの裏面から吸引しながら連続的に堆積された。堆積量はネットの移動速度を調節することにより調節された。そして、表面の毛羽立ちを抑えるために、ネット上の堆積された海島型長繊維を42℃の金属ロールで軽く押さえた。そして、海島型長繊維をネットから剥離し、表面温度75℃の格子柄の金属ロールとバックロールとの間を通過させることにより、線圧200N/mmで熱プレスした。このようにして、表面の繊維が格子状に仮融着された目付34g/m2の長繊維ウェブが得られた。
次に、得られた長繊維ウェブの表面に、帯電防止剤を混合した油剤をスプレー付与した後、クロスラッパー装置を用いて長繊維ウェブを10枚重ねて総目付が340g/m2の重ね合せウェブを作成し、更に、針折れ防止油剤をスプレーした。そして、重ね合せウェブをニードルパンチングすることにより三次元絡合処理した。具体的には、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmで積層体の両面から交互に3300パンチ/cm2のパンチ数でニードルパンチした。このニードルパンチ処理による面積収縮率は68%であり、ニードルパンチ後の絡合ウェブの目付は415g/m2であった。
得られた絡合ウェブは、以下のようにして湿熱収縮処理されることにより、緻密化された。具体的には、18℃の水を絡合ウェブに対して10質量%均一にスプレーし、温度70℃、相対湿度95%の雰囲気中で3分間張力が掛からない状態で放置して熱処理することにより湿熱収縮させて見かけの繊維密度を向上させた。この湿熱収縮処理による面積収縮率は45%であり、緻密化された絡合ウェブの目付は750g/m2であり、見かけ密度は0.52g/cm3であった。そして、絡合ウェブをさらに緻密化するために乾熱ロールプレスすることにより、見かけ密度0.60g/cm3に調整した。
次に、緻密化された絡合ウェブに、DMF浸漬に対する質量減少率が0.5質量%である、無孔質の架橋性のポリウレタンを以下のようにして含浸させた。ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを含む架橋型の水系ポリウレタンエマルジョン(固形分濃度30%)を緻密化された絡合ウェブに含浸させた。そして、150℃の乾燥炉で水分を乾燥し、さらにポリウレタンを架橋させた。このようにして、ポリウレタン/絡合ウェブの質量比が18/82のポリウレタン絡合ウェブ複合体を形成した。
次に、ポリウレタン絡合ウェブ複合体を95℃の熱水中に20分間浸漬することにより海島型長繊維に含まれる海成分を抽出除去し、120℃の乾燥炉で乾燥することにより、厚さ約1000μmの不織布が得られた。
得られた不織布のポリウレタン/繊維絡合体の質量比は22/78であり、その見かけ密度は0.53g/cm3であった。また、繊維絡合体の極細単繊維の繊度は0.08dtexであった。
そして得られた不織布を厚み方向に2分割し、370μmに研削した。
一方、離形紙上に、表皮層として非架橋性のシリコン変性ポリカーボネート系ポリウレタンのDMF溶液を塗布し、乾燥することにより厚さ30μmの表皮層シートを形成した。なお、ポリウレタンのDMF溶液には150℃で白から茶色に変化する示温顔料を固形分として23質量%配合した。
そして、表皮層シートに、乾燥後の厚さが50μmになるように、固形分約50%のポリカーボネート系ホットメルト型接着剤のDMF溶液を塗布した。なお、ホットメルト型接着剤のDMF溶液にも150℃で白から茶色に変化する示温顔料を固形分として15質量%配合した。なお、ポリカーボネート系ホットメルト型接着剤の軟化温度120℃であった。
そして、表皮層シート上に形成されたポリウレタン系ホットメルト型接着剤のDMF溶液の塗膜に、不織布を貼り合せ、軽く押さえながら塗膜中の溶媒を乾燥させた。このようにして皮革様シートが得られた。得られた皮革様シートの厚さは411μmであった。
そして、得られた皮革様シートに対して、図2に示したような工程を経て、図1に示すような図柄を転写するために2段階で熱プレスを行った。具体的には、第1段階として、高低差600μmで一辺が15mmの正方形の外形を有する凹部を表面に有する平板プレス機を使用して、表面温度140℃、プレス圧力3MPa、プレス時間5秒で型押しを行うことにより、図2で示した、第1の領域B及び第3の領域Cが転写された皮革様シート9のような形状に成形した。このとき、示温顔料は色変化しなかった。次に、第2段階として、高低差400μmで一辺が10mmの正方形の輪郭の凸部を表面に有する平板プレス機を使用して、表面温度150℃、プレス圧力3MPa、プレス時間10秒で型押しを行うことにより、図1に示すような図柄を有する図柄付皮革様シートを得た。このとき、プレスされた、一辺が10mmの正方形の輪郭の部分のみの示温顔料が茶色に変化した。
得られた図柄付皮革様シートの第1の領域B及び第3の領域Cのそれぞれの厚み方向の断面の200倍のSEM画像を撮影した。そして、以下に示すような方法により、厚み方向断面における繊維束間の距離の平均値を求めた。
例えば、図5に示すように、図柄付皮革様シートの幅方向の861μmの範囲に約80μmの間隔で、厚み方向に平行な補助線を10本引いた。そして、各線が通過する複数の繊維束の輪郭間の繊維束間距離(繊維束の外周同士の間の距離)の合計を各線毎に求めた。そして10本の線における繊維束間距離の距離合計(A)を求めた。一方、10本の線上にある極細繊維束の数の合計を求め、その数の合計から10を引いた繊維束間数(B)を求めた。そして、距離合計(A)を繊維束間数(B)で除することにより、極細繊維束間距離の平均値を算出した。その結果、図柄付皮革様シートの第3の領域Cの極細繊維束間距離の平均値は2.70μmであり、第1の領域Bの極細繊維束間距離の平均値は18.75μmであった。
得られた図柄付皮革様シートの表面に形成された示温顔料が茶色に変化した領域は極めて視認性の高い図柄を形成していた。また、第1の領域Bを指で押さえたところ、押した触感が明確に感じられるクリック感が得られた。
[実施例2]
実施例1において、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが110℃である、イソフタル酸変性したポリエチレンテレフタレートを用いる代わりに、島成分の熱可塑性樹脂としてTgが130℃であるポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様にして図柄付皮革様シートを得た。図柄付皮革様シートの第3の領域Cの極細繊維束間距離の平均値は17.06μmであり、第1の領域Bの極細繊維束間距離の平均値は17.30μmであった。
得られた図柄付皮革様シートの表面に形成された示温顔料が茶色に変化した領域は極めて視認性の高い図柄を形成していた。しかしながら、第1の領域Bを指で押さえたところ、押した触感は明確に感じられなかった。