以下に、本発明の実施形態に係る乗員保護装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
[第1実施形態]
図1から図5を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、乗員保護装置に関する。図1は、本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置の動作を示すフローチャート、図2は、第1実施形態に係る乗員保護装置のブロック図、図3は、乗員の姿勢の一例を示す正面図、図4は、センター位置からのずれ量を説明する図、図5は、第1実施形態に係る乗員保護装置による乗員保護動作の説明図である。
図2に示す乗員保護装置1は、車両の乗員を保護する保護装置である。乗員保護装置1は、エアバッグ制御装置2およびパワーシート制御装置3を含んで構成されている。エアバッグ制御装置2は、Gセンサ4、エアバッグ制御用ECU5および点火装置6を含んで構成されている。エアバッグ制御装置2は、図3に示すエアバッグ20を制御する。本実施形態のGセンサ4は、車両が車外の障害物と衝突したことを検出する衝突検出手段として機能する。Gセンサ4は、車両の加速度を検出するセンサである。Gセンサ4は、例えば、車両前後方向の加速度を検出する。Gセンサ4の検出結果を示す信号は、エアバッグ制御用ECU5に出力される。
エアバッグ制御用ECU5は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。エアバッグ制御用ECU5は、エアバッグ20を展開させるか否かを判定する機能、およびエアバッグ20の展開指令を出力する機能を有する。エアバッグ制御用ECU5は、例えば、Gセンサ4によって検出された加速度が所定値以上である場合にエアバッグ20を展開すると判断する。エアバッグ制御用ECU5は、エアバッグ20を展開すると判定すると、点火装置6に対して点火指令を出力する。点火指令を受信した点火装置6は、点火を実行する。点火装置6の点火により、インフレーターがガスを発生させて図3に示すようにエアバッグ20を展開させる。本実施形態の点火装置6は、車両が車外の障害物と衝突したことが検出された場合にエアバッグ20の展開を行うエアバッグ展開手段として機能する。
本実施形態のエアバッグ20は、乗員30の着座するシート40のシートバック42よりも車両前方側に配置されている。運転座席のシート40に対しては、例えば、ステアリングホイールパッド等にエアバッグ20が配置されている。また、助手席のシート40に対しては、例えば、助手席側インストルメントパネル内にエアバッグ20が配置されている。エアバッグ20は、点火装置6が点火されると、車両後方側に向けて展開する。
図3に示すエアバッグ20は、乗員30が座上センター位置CLおよびその近傍にある場合に乗員30に対する高い保護能力を発揮する。センター位置CLは、乗員30が着座するシート40の車幅方向の中心線の位置である。エアバッグ20は、展開したときの中心がセンター位置CL上にあるように配置されている。言い換えると、センター位置CLは、エアバッグ20が展開する方向である。エアバッグ20は、乗員30の顔30aの中心Coがセンター位置CL上にある場合や、中心Coがセンター位置CLの近傍にある場合に高い保護能力を発揮する。
ここで、乗員30によっては、アームレストに体重をかけるなど、安楽姿勢を取っている場合がある。こうした場合、図3に破線で示すように、乗員30の顔30aの中心Coがセンター位置CLから車幅方向にずれてしまっていることがある。中心Coがセンター位置CLから大きくずれていると、展開したエアバッグ20に乗員30が接触したときにエアバッグ20が十分に反力を取ることができない可能性がある。例えば、運転座席の場合、エアバッグ20は、ステアリングのリムやステアリングの中心によって支持されて反力を取る。乗員30が、エアバッグ20に対して、反力を受ける部材によって支持されている範囲外に接触することは好ましくない。
以下に説明するように、本実施形態に係る乗員保護装置1は、エアバッグ20が展開する方向と乗員30の位置とのずれを推測する乗員位置推測手段と、車両と車外の障害物との衝突が予測された場合に当該ずれを低減する制御を行う制御手段と、を有する。これにより、本実施形態に係る乗員保護装置1は、エアバッグ20による乗員保護能力の低下を抑制することができる。
図2に示すように、本実施形態に係る乗員保護装置1のパワーシート制御装置3は、レーダー7、カメラ8、レーザー9、衝突予知センサ10、乗員状態監視系センサ11、シート制御用ECU12およびシートアクチュエータ13を含んで構成されている。本実施形態では、乗員状態監視系センサ11が乗員位置推測手段として機能する。
シート制御用ECU12は、コンピュータを有する電子制御ユニットである。本実施形態のシート制御用ECU12は、車両が車外の障害物と衝突することを予測する衝突予測手段、および車両と車外の障害物との衝突が予測された場合に当該ずれを低減する制御を行う制御手段として機能する。
レーダー7は、例えば、ミリ波レーダー等のレーダーセンサである。レーダー7は、自車両の周辺に存在する障害物、例えば、他の車両や物体、構造物等を検出する。レーダー7は、自車両と検出対象物との距離、相対速度および方向を検知する。レーダー7の検出結果を示す信号は、シート制御用ECU12に対して出力される。シート制御用ECU12は、レーダー7の検出結果に基づいて、自車両が今後車外の障害物と衝突することを予測する。
カメラ8は、自車両の周辺を撮像する撮像手段である。カメラ8は、自車両の周辺を撮像して画像データを生成する。カメラ8によって生成された画像データは、シート制御用ECU12に送られる。シート制御用ECU12は、取得した画像データに基づいて、自車両が今後車外の障害物と衝突することを予測する。シート制御用ECU12は、例えば、画像データに対して画像処理を施すことにより、画像データ中の障害物を抽出する。シート制御用ECU12は、抽出された障害物が今後自車両と衝突することを予測する。例えば、連続的に撮像された複数の画像データに基づいて、自車両に対する障害物の相対位置の変化や、その変化速度を算出し、当該算出結果に基づいて衝突を予測することが可能である。
レーザー9は、自車両の周辺に存在する障害物を検出するレーザーセンサである。レーザー9は、自車両と検出対象物との距離、相対速度および方向を検知する。レーザー9の検出結果を示す信号は、シート制御用ECU12に対して出力される。シート制御用ECU12は、レーザー9の検出結果に基づいて、自車両が今後車外の障害物と衝突することを予測する。
衝突予知センサ10は、上記において例示したレーダー7、カメラ8およびレーザー9とは異なる検出方法によって、自車両に対する障害物の相対位置や相対速度を検出することが好ましい。衝突予知センサ10の検出結果を示す信号は、シート制御用ECU12に対して出力される。シート制御用ECU12は、衝突予知センサ10の検出結果に基づいて、自車両に対する障害物の衝突を予測するようにしてもよい。
乗員状態監視系センサ11は、乗員30の姿勢等の状態を検出するセンサである。本実施形態の乗員状態監視系センサ11は、運転座席のシート40に着座した乗員30をモニタするドライバモニタである。なお、ここでは運転座席に着座した乗員30の状態を検出する場合について説明するが、これには限定されない。例えば、車室内を監視するセンサを設けて各乗員30の状態を検出するようにすれば、各シート40について同様の制御を実行可能である。
乗員状態監視系センサ11は、車室内、例えばステアリングコラムに配置されたカメラ11aおよび画像処理部11bを含んで構成されている。乗員状態監視系センサ11のカメラ11aは、乗員30を正面、すなわち車両前方から撮像する撮像手段である。乗員状態監視系センサ11は、カメラ11aによって撮像され生成された画像データを画像処理部11bによって処理し、図4に示す「ずれ量W」を算出する。
ずれ量Wは、センター位置CLに対する、乗員30の中心Coの車幅方向におけるオフセット量である。乗員状態監視系センサ11は、カメラ11aによって生成された画像データに基づいて乗員30の位置を検出する。乗員状態監視系センサ11は、予め記憶しているセンター位置CLと、撮像した画像データに基づいて検出した乗員30の中心Coの位置とに基づいて、ずれ量Wを算出(推測)する。本実施形態の乗員状態監視系センサ11は、エアバッグ20がシート40よりも車両前方側の位置から車両後方側に向けて展開することに対応して、エアバッグ20が展開する方向と乗員30の中心Coの位置との車幅方向のずれ量Wを推測する。乗員状態監視系センサ11によって算出されたずれ量Wを示す信号は、シート制御用ECU12に対して出力される。上述したように、センター位置CLは、エアバッグ20の展開する方向である。従って、乗員状態監視系センサ11は、エアバッグ20が展開する方向と乗員30の位置とのずれを推測する。
シート制御用ECU12は、車両と車外の障害物との衝突が予測された場合にずれ量Wを低減する制御を実行する。本実施形態に係るシート制御用ECU12は、エアバッグ20が展開する方向と乗員30の位置との車幅方向のずれを低減する。本実施形態に係るシート制御用ECU12は、図5に示すように、乗員30の着座するシート40のサイドサポート部41を移動させることが可能である。シート制御用ECU12は、車両の衝突が予測された場合に、エアバッグ20が展開する方向に対して乗員30のずれた方向に位置するサイドサポート部41を、ずれの方向と逆方向に移動させる。
シート40は、乗員30が着座する座席であり、サイドサポート部41を有する。サイドサポート部41は、乗員30の脇や腰を車幅方向から支持する部分である。サイドサポート部41は、シートバック42に対して前方に突出している。シート40は、シートバック42の車両左側に配置された左側サイドサポート部41Lと、シートバック42の車両右側に配置された右側サイドサポート部41Rを有する。サイドサポート部41は、シートバック42に対して車幅方向に相対移動可能である。なお、車両左側とは、自車両の前方を向いたときの左側を示し、車両右側とは、自車両の前方を向いたときの右側を示す。
シート40は、サイドサポート部41を車幅方向に移動させるシートアクチュエータ13を有する。本実施形態のシートアクチュエータ13は、左側アクチュエータ13Lと、右側アクチュエータ13Rを有する。左側アクチュエータ13Lは、左側サイドサポート部41Lを移動させる。右側アクチュエータ13Rは、右側サイドサポート部41Rを移動させる。アクチュエータ13は、左側サイドサポート部41Lおよび右側サイドサポート部41Rを独立して移動させることができる。
シート制御用ECU12は、乗員30の操作入力に応じてシートアクチュエータ13によってサイドサポート部41を移動させること、および操作入力にかかわらずシートアクチュエータ13によってサイドサポート部41を移動させること、の何れも可能である。車室内には、サイドサポート部41の移動を指示するボタン等の操作部材が設けられている。乗員30は、操作部材を操作することにより、左右のサイドサポート部41の位置を所望の位置に調整することができる。
シート制御用ECU12は、車両の衝突が予測された場合、乗員30のずれの方向に応じて、サイドサポート部41を移動させて、ずれ量Wを低減する。図5を参照して、ずれ量Wを低減させる制御について説明する。図5は、シート40および乗員30を車両前方側から正面視した図である。例えば、図5に破線で示すように、乗員30の中心Coがセンター位置CL(エアバッグ20の展開する方向)に対して車両右側にずれていることが検出されたとする。この場合、シート制御用ECU12は、右側サイドサポート部41Rを、ずれの方向と逆方向、すなわち矢印Y1で示すように車両左側に向けて移動させる。
これにより、右側サイドサポート部41Rは、乗員30の背中横(脇から腰にかけて)を押圧して、乗員30の上体を車両左側に移動させる。従って、鉛直方向に対して傾斜していた乗員30の上半身の傾斜角が低減することなどにより、乗員30の中心Coのずれ量Wが低減する。サイドサポート部41は、ずれ量Wが所定ずれ量Wmin以下となるまで、他方のサイドサポート部41に向けて移動することが好ましい。所定ずれ量Wminは、例えば、許容可能なずれ量Wの最大値として予め定められた値である。所定ずれ量Wminは、例えば、ステアリングのリム等の支持部材がエアバッグ20を支持する範囲に基づいて定められる。例えば、支持部材が、図5に矢印Y2で示すように、センター位置CLに対して左右それぞれW1の幅の範囲でエアバッグ20を支持するとする。この場合、所定ずれ量Wminは、W1以下の値とすることが好ましい。
図1を参照して、第1実施形態の乗員保護装置1の動作について説明する。図1に示す制御フローは、例えば、イグニッションがONされている場合など、車両のシステムが動作している場合に所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS10では、シート制御用ECU12により、衝突可能性のある物標があるか否かが判定される。シート制御用ECU12は、レーダー7、カメラ8、レーザー9、および衝突予知センサ10の少なくとも1つの検出結果に基づいて、自車両の周辺に、自車両に衝突する可能性がある障害物等の物標(以下、「衝突物標」と称する。)があるか否かを判定する。ステップS10の判定の結果、衝突物標があると判定された場合(ステップS10−Y)にはステップS20に進み、そうでない場合(ステップS10−N)にはステップS50に進む。
ステップS20では、シート制御用ECU12により、乗員30の座上センターからのオフセット量が閾値β以上であるか否かが判定される。シート制御用ECU12は、乗員状態監視系センサ11によって算出されたずれ量Wが、閾値β以上である場合にステップS20で肯定判定する。このときに用いられるずれ量Wは、例えば、ステップS10で肯定判定がなされた時点において検出されたずれ量Wである。乗員状態監視系センサ11は、エアバッグ20が展開する方向と、シート制御用ECU12により車両と車外の障害物との衝突が予測された時点において検出された乗員30の位置とのずれを推測して、推測したずれ量Wをシート制御用ECU12に対して出力する。
シート制御用ECU12は、乗員状態監視系センサ11から取得した「推測したずれ量W」が、閾値β以上であるかを判断する。閾値βは、例えば、図5に示すW1以上の値とされてもよい。ステップS20の判定の結果、乗員30の座上センターからのオフセット量が閾値β以上であると判定された場合(ステップS20−Y)にはステップS30に進み、そうでない場合(ステップS20−N)にはステップS50に進む。
ステップS30では、シート制御用ECU12により、衝突時間TTCが閾値α以下であるか否かが判定される。衝突時間TTCは、障害物(例えば、相手車両)と自車両とが衝突するまでの時間である。衝突時間TTCは、自車両と障害物との相対速度および相対距離に基づいて算出される。閾値αは、例えば、乗員30に与える違和感を抑制する観点から定められる。衝突時間TTCが長く、衝突回避を行う時間が十分にあるにもかかわらずサイドサポート部41を移動させてしまうと、乗員30が違和感を覚える可能性がある。従って、閾値αの上限は、あまり長すぎない時間、例えば1[sec]から2[sec]の間の時間とすることが好ましい。
一方、自車両が実際に障害物と衝突するまでに、サイドサポート部41を所望量移動させるためには、ある程度の時間を要する。閾値αの下限は、サイドサポート部41の目標移動量と、サイドサポート部41の移動速度(例えば、最大移動速度)に基づいて定められる。閾値αは、例えば、障害物との接近を回避するブレーキ操作が開始される平均的なタイミングに基づいて定められる。ステップS30の判定の結果、衝突時間TTCが閾値α以下であると判定された場合(ステップS30−Y)にはステップS40に進み、そうでない場合(ステップS30−N)にはステップS50に進む。
ステップS40では、シート制御用ECU12により、シート40のサイドサポート部41が座上センター側に駆動される。シート制御用ECU12は、シートアクチュエータ13に対して、センター位置CLに対する乗員30のずれの方向に位置するサイドサポート部41を、ずれの方向と逆方向に移動させる指令を出力する。例えば、乗員30の位置がセンター位置CLに対して車両左側にずれていることが検出された場合、左側サイドサポート部41Lをセンター位置CLの方向に移動させる指令が出力される。シートアクチュエータ13は、指令に応じて左側サイドサポート部41Lを車両右側に向けて移動させる。
衝突を予測した場合にサイドサポート部41を移動させるときの移動速度は、通常時にサイドサポート部41の位置を調整するときの移動速度よりも高速であることが好ましい。すなわち、乗員30の操作入力に応じてサイドサポート部41を移動させるときの移動速度に対して、衝突に備えてサイドサポート部41を移動させるときの移動速度が高速(例えば、最大速度)であることが好ましい。ステップS40が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS50では、シート制御用ECU12により、サイドサポート部41が初期位置へ駆動される。初期位置は、例えば、直近に乗員30の操作入力によって決定されたサイドサポート部41の位置である。衝突が予測されない場合(ステップS10−N)や、ずれ量Wが閾値β未満である場合(ステップS20−N)、衝突時間TTCが閾値αよりも大である場合(ステップS30−N)には、サイドサポート部41は初期位置から移動されない。また、一時的にシートアクチュエータ13によって初期位置からサイドサポート部41が移動されたものの、その後ステップS10乃至S30の何れかにおいて否定判定がなされるようになった場合には、当該サイドサポート部41は初期位置に戻される。移動されていたサイドサポート部41を初期位置に戻すことにより、乗員30がサイドサポート部41の位置変化に対して違和感を覚えないようにすることが可能である。
以上説明したように、本実施形態に係る乗員保護装置1によれば、エアバッグ20による乗員保護能力の低下を抑制し、エアバッグ20の保護性能を適切に発揮させることができる。本実施形態の乗員保護装置1は、例えば、障害物が車両の正面から衝突してくる場合に好適である。
本実施形態の乗員保護装置1によれば、衝突に備えて、センター位置CLに対する乗員30のずれ量Wを予め低減させておくことができる。よって、乗員30の肩に対するシートベルトの掛かり代を適切に確保することができる。例えば、乗員30がセンター位置CLに対して、車両の中央側にずれている場合、シートベルトから乗員30の肩が抜けやすくなる可能性がある。これに対して、乗員保護装置1は、サイドサポート部41によって、乗員30のずれ量Wを低減させ、乗員30の肩に対するシートベルトの掛かり代を増加させることができる。よって、シートベルトによる拘束性能の低下が抑制される。
[第2実施形態]
図6から図10を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態で説明したものと同様の機能を有する構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。図6は、第2実施形態に係る乗員保護装置の動作を示すフローチャート、図7は、衝突方向の説明図、図8は、衝突時の乗員の移動方向の説明図、図9は、サイドサポート部の移動の説明図、図10は、サイドサポート部の移動後の状態を示す図である。本実施形態に係る乗員保護装置1において、上記第1実施形態の乗員保護装置1と異なる点は、障害物との衝突方向θに応じてサイドサポート部41を制御する点である。
図7を参照して、衝突方向について説明する。図7には、自車両100と他の車両(以下、「相手車両」と称する。)101との衝突を予測する場合の衝突方向θが示されている。相手車両101は、検出される障害物の一例である。シート制御用ECU12は、自車両100に対する相手車両101の相対移動の方向Y3と、自車両100の前後方向とのなす角度を衝突方向θ[°]として算出する。以下、自車両100に対する相手車両101の相対移動の方向Y3を単に「相対移動方向Y3」と称する。相対移動方向Y3は、自車両100の進行方向および進行速度と、相手車両101の進行方向および進行速度とにより決まる。
衝突方向θは、自車両100に対して相手車両101が正面から衝突する場合を0とする。本実施形態では、相手車両101が、自車両100に対して、車両右側から衝突する場合の衝突方向θを正の角度、車両左側から衝突する場合の衝突方向θを負の角度として計算する。
衝突方向θの絶対値が小さい程、相手車両101が自車両100の正面方向に近い方向から衝突してくる。また、衝突方向θの絶対値が90°に近い程、相手車両101は自車両100に対して真横に近い方向から衝突してくることとなる。
ここで、例えば図7に示すように、相手車両101が自車両100に対して斜め方向から衝突してくる(斜突)場合や、横方向から衝突してくる場合、乗員30は衝突時に慣性により相手車両101の方向に移動する。乗員30は、それまでの自車両100の進行方向に移動し続けようとする一方で、自車両100は相手車両101との衝突により、衝突方向θの側と反対側に移動しようとする。図7に示す例では、乗員30が自車両100の前方に移動するのに対して、自車両100は、相手車両101との衝突により、車両左側に向けて移動する。これにより、自車両100を基準として、乗員30が相手車両101側(車両右側)に相対移動してしまう。
すなわち、自車両100に対して相手車両101が車両右側から衝突してくると、図8に矢印Y4で示すように、運転座席に座る乗員30(運転者)は、衝突時にシート40やステアリング14に対して車両右側に相対移動してしまう。他の乗員30についても同様であり、衝突時に着座しているシート40に対して車両右側に相対移動してしまう。
これにより、衝突前に乗員30の中心Coがセンター位置CLにあったとしても、衝突後に乗員30の中心Coがセンター位置CLからずれてしまい、エアバッグ20による保護性能が低下してしまう可能性がある。
本実施形態に係る乗員保護装置1は、車両が車外の障害物と衝突する方位を予測する衝突方位予測手段を備えている。本実施形態では、シート制御用ECU12が衝突方位予測手段として機能する。また、本実施形態では、乗員状態監視系センサ11およびシート制御用ECU12が、乗員位置推測手段として機能する。シート制御用ECU12は、車両が車外の障害物と衝突する方位である衝突方向θを予測する。また、シート制御用ECU12は、衝突方向θに基づいて推測される衝突後の乗員30の位置と、エアバッグ20の展開方向とのずれを推測する。
本実施形態のシート制御用ECU12は、エアバッグ20の展開が完了する時点における乗員30の位置と、エアバッグ20の展開方向とのずれ量Wを推測する。本明細書では、エアバッグ20の展開が完了する時点におけるずれ量Wの推測値を推測ずれ量Wpと称する。シート制御用ECU12は、自車両100が障害物に衝突してから、エアバッグ20の展開が完了するまでの所定時間T1における乗員30の車幅方向の移動量を予測する。シート制御用ECU12は、例えば、自車両100の諸元、および自車両100と相手車両101との車幅方向の相対速度に基づいて、衝突してから所定時間T1が経過するまでの間の乗員30の車幅方向における移動量を予測する。所定時間T1は、例えば、実験結果等に基づいて予め定められた時間である。
シート制御用ECU12は、乗員状態監視系センサ11によって検出された衝突前のずれ量Wと、衝突後に所定時間T1が経過するまでの乗員30の移動量に基づいて、推測ずれ量Wpを算出する。シート制御用ECU12は、推測ずれ量Wpが閾値以上である場合に、サイドサポート部41を移動させて、推測ずれ量Wpを低減することが好ましい。例えば、シート制御用ECU12は、図8に示すように衝突によって乗員30の中心Coがセンター位置CLよりも車両右側に移動する場合であって、推測ずれ量Wpが閾値以上である場合、右側サイドサポート部41Rを車両左側に向けて移動させることが好ましい。
推測ずれ量Wpに基づいてサイドサポート部41を移動させることにより、衝突後の実際のずれ量Wを低減させることができる。衝突に備えて右側サイドサポート部41Rによって乗員30を車両左側に向けて移動させる場合、予め乗員30をセンター位置CLよりも車両左側に移動させておくことが好ましい。シート制御用ECU12は、衝突後の実際のずれ量Wが上記第1実施形態の所定ずれ量Wmin以下となるように、シートアクチュエータ13によって乗員30の位置を予め調整しておくことが好ましい。
図6を参照して、本実施形態の乗員保護装置1の動作について説明する。図6に示す制御フローは、例えば、イグニッションがONされている場合など、車両のシステムが動作している場合に所定の間隔で繰り返し実行される。
まず、ステップS110では、シート制御用ECU12により、衝突可能性のある物標があるか否かが判定される。その判定の結果、衝突可能性のある物標があると判定された場合(ステップS110−Y)にはステップS120に進み、そうでない場合(ステップS110−N)にはステップS160に進む。
ステップS120では、シート制御用ECU12により、衝突方向θの大きさが所定角度θ1以上であるか否かが判定される。ステップS120では、例えば、衝突後の乗員30の車幅方向の移動量が所定値以上となるか否かが判定される。衝突方向θの大きさが所定角度θ1未満である場合、衝突後の乗員30の車幅方向における移動量は十分に小さいと予測できる。所定角度θ1は、例えば、エアバッグ20の大きさや自車両100の減速特性等に応じて、定数として定められてもよい。ステップS120の判定の結果、衝突方向θの大きさが所定角度θ1以上であると判定された場合(ステップS120−Y)には、ステップS130に進み、そうでない場合(ステップS120−N)にはステップS160に進む。
ステップS130では、シート制御用ECU12により、乗員30の座上センターからのオフセット量が閾値γ以下であるか否かが判定される。閾値γは、例えば、エアバッグ20の大きさや自車両100の減速特性等に応じて、定数として定められてもよい。図8に示すように衝突前のずれ量Wが小さく、かつ障害物が斜め方向や横方向から衝突してくる場合、衝突後のずれ量Wが大きくなることが推測される。つまり、ステップS120およびステップS130では、推測ずれ量Wpが閾値以上となるか否かが判定されていることとなる。ステップS130で肯定判定がなされる状況は、推測ずれ量Wpが閾値以上となる状況に相当する。ステップS130の判定の結果、乗員30の座上センターからのオフセット量が閾値γ以下であると判定された場合(ステップS130−Y)にはステップS140に進み、そうでない場合(ステップS130−N)にはステップS160に進む。
ステップS140では、シート制御用ECU12により、衝突時間TTCが閾値ω以下であるか否かが判定される。この閾値ωは、例えば、上記第1実施形態の閾値αと異なる値であってもよい。ステップS140の判定の結果、衝突時間TTCが閾値ω以下であると判定された場合(ステップS140−Y)にはステップS150に進み、そうでない場合(ステップS140−N)にはステップS160に進む。
ステップS150では、シート制御用ECU12により、シート40のサイドサポート部41が座上センター側(反衝突側)に駆動される。「なお、反衝突側」とは、各シート40について、車幅方向の両側のうち障害物(衝突物標)が自車両100に対して衝突してくる側とは反対側を示す。例えば、図9に示すように、車両右側から障害物が衝突してくる場合、衝突側とは、シート40に対して車両右側であり、反衝突側とは、シート40に対して車両左側である。従って、図9に示すように、車両右側から障害物が衝突してくる場合、シート制御用ECU12は、シートアクチュエータ13に対して、右側サイドサポート部41Rを反衝突側である車両左側に移動させる指令を出力する。言い換えると、シート制御用ECU12は、シートアクチュエータ13に対して、センター位置CLに対する衝突後の乗員30のずれの方向に位置するサイドサポート部41を、当該ずれの方向と逆方向に移動させる指令を出力する。
これにより、図10に示すように、乗員30の車幅方向の位置は、右側サイドサポート部41Rが移動される前よりも、車両左側の位置となる。よって、衝突後に矢印Y5で示すように乗員30が車両右側に向けて移動したとしても、センター位置CLに対する乗員30の中心Coのずれ量Wが大きくなることが抑制される。ステップS150が実行されると、本制御フローは終了する。
ステップS160では、シート制御用ECU12により、サイドサポート部41が初期位置へ駆動される。ステップS160が実行されると、本制御フローは終了する。
なお、本実施形態では、ステップS130においてずれ量Wが閾値γ以下である場合に、サイドサポート部41を移動させたが、ずれ量Wに基づく判定は、これに限定されるものではない。例えば、乗員30がセンター位置CLに対して車両右側にずれている場合と、車両左側にずれている場合とで閾値γが異なる値とされてもよい。
また、例えば、図7に示すように相手車両101等の障害物が自車両100に対して車両右側から衝突してくる場合、乗員30の中心Coが反衝突側である車両左側にずれているのであれば、車両右側にずれている場合よりも乗員30のずれは許容されやすいと考えられる。そこで、例えば、乗員30がセンター位置CLに対して反衝突側にずれている場合には、ステップS130においてずれ量Wにかかわらず否定判定がなされるようにしてもよい。図7に示す状況であれば、乗員30がセンター位置CLに対して反衝突側である車両左側にずれている場合には、ずれ量Wに基づく判定を行わずに、サイドサポート部41を初期位置に移動すると判定されてもよい。
ただし、反衝突側へのずれであっても、ずれ量Wが大きすぎる場合には、エアバッグ20が乗員30を十分に保護できなくなる可能性が考えられる。反衝突側へのずれ量Wが大きすぎる場合には、衝突前にずれ量Wをある程度低減しておくことが好ましいとも考えられる。そこで、乗員30がセンター位置CLに対して反衝突側にずれている場合、ずれ量Wが閾値δ以上であれば、ずれ量Wを低減する制御が実行されるようにしてもよい。この閾値δは、例えば、閾値γよりも大きな値である。
また、乗員30がセンター位置CLに対して衝突側にずれている場合、エアバッグ20の保護性能を適切に発揮させる観点からは、そのずれは許容されにくいと考えられる。そこで、乗員30がセンター位置CLに対して衝突側にずれている場合、ずれ量Wにかかわらず推測ずれ量Wpを低減させる制御が実行されるようにしてもよい。例えば、図7に示すように障害物が自車両100に対して車両右側から衝突してくる場合であって、乗員30の中心Coがセンター位置CLよりも車両右側にある場合、ずれ量Wの大きさにかかわらず、右側サイドサポート部41Rを車両左側に移動させる制御がなされるようにしてもよい。
なお、図6の制御フローは、上記第1実施形態(図1)の制御フローと併用されることが好ましい。このようにすれば、障害物が自車両100に対して正面から衝突してくるとき、および斜め方向や横方向から衝突してくるときの何れの場合にも適切に乗員30を保護することが可能となる。例えば、図1に示す制御フローと、図6に示す制御フローが交互に実行されるようにしてもよい。
図6の制御フローでは、推測ずれ量Wpが閾値以上である場合に推測ずれ量Wpを低減する制御がなされたが、これに加えて、推測ずれ量Wpが閾値未満である場合には検出された(衝突前の)ずれ量Wに基づく制御がなされてもよい。この場合、シート制御用ECU12は、推測ずれ量Wpが閾値未満である場合(ステップS120あるいはステップS130において否定判定)であって、検出されたずれ量Wが閾値以上であれば、その検出されたずれ量Wを低減するように、当該ずれの方向に位置するサイドサポート部41を当該ずれの方向と逆方向に移動させることが好ましい。具体的には、図6のステップS120やステップS130で否定判定がなされた場合には、図1のステップS20からステップS50までのフローと同様の制御フローが実行されることが好ましい。
本実施形態では、衝突後の乗員30の推測位置は、エアバッグ20の展開が完了した時点における位置であったが、これには限定されない。衝突後の乗員30の推測位置は、例えば、エアバッグ20に対して乗員30が接触する時点の乗員30の位置や、エアバッグ20の展開が開始される時点における乗員30の位置等であってもよい。
所定角度θ1は、車両に応じた一定値であっても、走行状態等に応じて可変であってもよい。例えば、所定角度θ1は、自車両100と障害物との相対速度に応じて変化してもよい。相対速度が大きい場合の所定角度θ1は、相対速度が小さい場合の所定角度θ1よりも小さな角度であることが好ましい。相対速度が大きい場合には、衝突方向θが同じであっても乗員30が自車両100に対して相対移動する速度および量が大きくなる可能性が高い。従って、相対速度が大きい場合に相対速度が小さい場合よりも所定角度θ1を小さくするようにすれば、衝突方向θの大きさが小さくても相対速度が大きいために乗員30の相対移動速度および量が大きくなる場合に、サイドサポート部41を移動させて衝突後の乗員30の位置とエアバッグ20が展開する方向とのずれを低減させることができる。
[上記各実施形態の変形例]
上記第1実施形態および第2実施形態の変形例について説明する。上記各実施形態では、サイドサポート部41によって衝突前や衝突後のずれ量Wが低減されたが、ずれ量Wを低減する手段はこれには限定されない。例えば、シート40において乗員30の上腿をサポートする部分を車幅方向に移動させることにより、ずれ量Wが低減されてもよい。
また、上記各実施形態の制御手段は、車両の衝突が予測された場合に、エアバッグ20が展開する方向に対して乗員30のずれた方向に位置するサイドサポート部41をずれの方向と逆方向に移動させたが、これに加えて、もう一方のサイドサポート部41もずれの方向と逆方向に移動させてもよい。例えば、図9に示すように車両右側から障害物が衝突してくる場合、右側サイドサポート部41Rに加えて、左側サイドサポート部41Lも車両左側に向けて移動させるようにしてもよい。
また、乗員保護装置1は、エアバッグ20の展開方向を変更することにより、衝突前や衝突後のずれ量Wを低減させるようにしてもよい。この場合、乗員保護装置1は、エアバッグ20を車幅方向に移動させる移動手段を備えていることが望ましい。移動手段は、例えば、エアバッグ20を車幅方向に移動させるアクチュエータであって、エアバッグ20が展開する方向をシート40のセンター位置CLに対して車両右側および車両左側に移動させる機能を有する。シート制御用ECU12は、衝突前や衝突後のずれ量Wがセンター位置CLに対して車両右側へのずれを示す値である場合、移動手段によって、エアバッグ20の展開する方向を車両右側に移動させる。一方、シート制御用ECU12は、衝突前や衝突後のずれ量Wがセンター位置CLに対して車両左側へのずれを示す値である場合、移動手段によって、エアバッグ20の展開する方向を車両左側に移動させる。
上記の各実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。