JP6072236B2 - ワイヤ放電加工装置、これを用いた薄板の製造方法及び半導体ウエハの製造方法 - Google Patents

ワイヤ放電加工装置、これを用いた薄板の製造方法及び半導体ウエハの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ワイヤ放電加工装置、これを用いた薄板の製造方法及び半導体ウエハの製造方法に関する。
従来、ワイヤ放電加工を用いて、柱状の被加工物から薄板形状のウエハを切断加工により作製する場合、上記切断加工の生産性を向上させるために、多数のワイヤを用いて同時に加工を行うべく、1本のワイヤを複数のガイドローラ間に繰り返し巻き掛ける方式が提案されている。この方式のワイヤ放電加工装置は、ワイヤが一定ピッチに並行して配置された切断ワイヤ部を形成し、この切断ワイヤ部を被加工物に近接させると共に、給電子を用いて切断ワイヤ部を構成するそれぞれのワイヤに個別に給電することで、各切断ワイヤ部と被加工物との間で同時並列的に放電を生起し、複数箇所で並行して切断加工を行うものである(例えば、特許文献1参照)。
特開2000−94221号公報
上記のようなワイヤ放電加工装置では、切断ワイヤ部を構成するそれぞれのワイヤに対して個別の加工電源から給電するために、各給電子は互いに分離・独立し、電気的に絶縁されている。各給電子を互いに電気的に絶縁するためには、隣接する給電子間に絶縁材を介在させる。また、複数の給電子を貫通して位置をそろえるための整列棒を、非導電性材料で製作する。もしくは、その表面に非導電性物質の被覆を施すことで、各給電子は互いに接触することなく、また、電気的に導通することなく組み立てられている。このとき、複数の給電子のそれぞれが、給電対象とする切断ワイヤ部の各ワイヤの並列間隔に対応して各給電子も整列するように組み立てることで、ある給電子のワイヤが架かる溝にワイヤを架けると、その他の並列する給電子に対してもそれらに対応するワイヤが架けられる。それゆえ、各給電子の組み立てでは、各給電子間に介在させる絶縁材などの挿入物による給電子間隔の調整と、給電子を整列させるための整列棒が貫通した状態での閉め込み量の調整により各給電子間隔が微調整される。ところが、複数の給電子の組み立てにおいて、切断ワイヤ部を構成する隣接ワイヤ同士の間隔が数百μm程度であるのに対して、その隣接ワイヤ間隔のばらつきの許容値には十数μm〜数十μm以下が要求される。したがって、このような高い精度で給電子を整列させるためには、高度な給電子組立て技術と組み立てられた給電子間の距離を正確に測定する検査技術が必要とされ、加工現場において、各給電子の整列間隔を微調整することは容易ではなかった。
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、加工電源からの給電が安定して行われることで高精度の切断加工ができ、加工の信頼性の高いワイヤ放電加工装置、これを用いた薄板の製造方法及び半導体ウエハの製造方法を得ることを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のワイヤ放電加工装置は、間隔をおいて平行に配設された一対のガイドローラと、一対のガイドローラ間に一定のピッチで離間しながら複数回巻き掛けられ、ガイドローラの回転に伴って走行すると共に一対のガイドローラ間で互いに離間した複数の並列ワイヤ部を形成する一本のワイヤと、一対のガイドローラ間に設けられ、並列ワイヤ部にそれぞれ従動接触して制振した切断ワイヤ部を形成する一対の制振ガイドローラと、給電対象とする各切断ワイヤ部のワイヤ並列間隔に対応して整列し、複数の並列ワイヤ部にそれぞれ接触して給電する、導電性材料で形成され互いに接続された複数の給電子を備えるとともに、間隔をあけて配置され、それぞれの給電子ユニットから並列ワイヤ部へ1本おき又は複数本おきに給電するように、給電子配置された給電子ユニットと、両端に備えた軸端支持部により、複数の給電子を複数の給電子ユニットそれぞれの軸方向中心回りに回転可能に保持する給電子ホルダと、電子とワイヤとの間に電圧を印加し放電を生起する加工電源とを備える。
本発明によれば、給電対象とする各切断ワイヤ部のワイヤ並列間隔に対応して整列し、複数の並列ワイヤ部にそれぞれ接触して給電する複数の給電子を備え、隣接する各給電子が少なくとも1本おきに前記並列ワイヤ部に給電するように配列された給電ユニットを具備している。このため、給電電流の回り込み量が大きいのは隣接するワイヤに対してであり、隣接ワイヤに隣接するワイヤ、すなわち、2本隣りのワイヤへの回り込み電流は急激に減少する。したがって、ワイヤ1本分以上の間隔をあけて給電することになり、回り込み電流(漏れ電流)による加工への影響を低減することができる。また、給電子間の整列精度が向上し、複数本の並列ワイヤに対する位置ずれを起こしにくくし、被加工物から同時に薄板を加工したときの加工精度を向上できる。また、給電子の組立て及び調整を容易にし、加工段取りを簡略化し、加工準備時間を短縮することができるという効果を奏する。
図1は、本発明の実施の形態1のワイヤ放電加工装置の全体構成を示す斜視図である。 図2は、本発明の実施の形態1のワイヤ放電加工装置の給電子の概略を示す構成図である。 図3は、本発明の実施の形態1のワイヤ放電加工装置の給電子の配列状態及び並列ワイヤ部への給電状態を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図である。 図4は、本発明の実施の形態1のワイヤ放電加工装置の給電子の構造を示す説明図である。 図5は、本発明の実施の形態1のワイヤ放電加工装置を用いた加工状態を示す図であり、(a)は、加工中の状態を示す図であり、(b)は、加工後の1枚のウエハを示す図である。 図6は、本発明の実施の形態2におけるワイヤ放電加工装置の全体構成を示す斜視図である。 図7は、本発明の実施の形態2に係る給電子の概略を示す構成図である。 図8は、本発明の実施の形態2のワイヤ放電加工装置を用いた加工状態を示す図であり、(a)は、加工中の状態を示す図であり、(b)は、加工後の1枚のウエハを示す図である。 図9は、本発明の実施の形態3におけるワイヤ放電加工装置の給電子部分の構成部品と構造を示す構成図である。
以下に、本発明にかかるワイヤ放電加工装置、これを用いた薄板の製造方法及び半導体ウエハの製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下の実施の形態で用いられる装置は模式的なものであり、各部品の大きさの比率などは現実のものとは異なる場合もある。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るワイヤ放電加工装置の主要部の構成を示す側面図である。本実施の形態1のワイヤ放電加工装置は、4本のメインガイドローラ1a〜1dと、これらメインガイドローラ1a〜1d間に一定のピッチで離間しながら複数回巻回されて一対のメインガイドローラ1c,1d間に並列ワイヤ部PSを形成し、これらメインガイドローラ1a〜1dの回転に伴って走行する一本のワイヤ3と、並列ワイヤ部PSに従動接触して、制振する複数の切断ワイヤ部CLを形成する一対の制振ガイドローラ7a,7bと、複数の切断ワイヤ部CLにそれぞれ給電する給電子(給電子ユニット6a〜6d)と、ワイヤボビン2及びワイヤ巻取りボビン4と、切断ワイヤ部CLに対して被加工物5を、切断ワイヤ部CLを構成するワイヤ3の並列方向、及び、各切断ワイヤ部CLを構成するワイヤ3の並列方向と直角方向に相対的に移動する手段とを備えている。一体成形された複数の給電子が、互いに電気的に接続された2対の給電子ユニット6a−6b,6c−6dを構成しており、各給電子ユニットは、両端に軸端支持部を有する給電子ホルダ60a,60b(図1では図示せず)を備え、位置制御が可能である(図3(a)および(b))。また、加工電源10が複数の給電子(給電子ユニット6a〜6d)とワイヤ3との間に電圧を印加して放電を生起する。これら複数の給電子(給電子ユニット6a〜6d)は、給電対象とする各切断ワイヤ部CLのワイヤ並列間隔に対応して整列している。そして加工電源は、前記切断ワイヤ部CLに対して3本おきに給電するように配置される各給電ユニット6a〜6dに対して給電する。また、同一の給電子ユニット6a〜6dにおいて整列する給電子は互いに電気的に接続されている。
メインガイドローラ1a〜1dはワイヤ走行系を構成する主要なガイドローラで、このワイヤ放電加工装置では、同じ直径の4本のメインガイドローラが互いに平行に間隔をおいて配置されている。ワイヤボビン2から繰り出された一本のワイヤ3は、順次、4本のメインガイドローラ1a〜1d間にまたがって、一定のピッチで離間しながら繰り返し巻き掛けられている。ワイヤ3はメインガイドローラ1a〜1dの回転に伴って走行し、最後にワイヤ巻取りボビン4に至る。メインガイドローラ1c,1dは被加工物5を挟む位置に設置され、ワイヤ3が両メインガイドローラ間に一定の張力で展張されることにより、互いにメインガイドローラの軸方向に離間した複数の並列ワイヤ部PSを構成する。なお、本明細書においては、並列ワイヤ部PSはメインガイドローラ1から送り出されてメインガイドローラ1に巻き掛かるまでの部分を指すことにする。上記並列ワイヤ部PS内で、被加工物5に対向する部分を含む直線的に展張された領域が切断ワイヤ部CLとなる。図1は、被加工物5の切断が開始されて被加工物5の内部に切断ワイヤ部CLが進行した状態を示している。
並列ワイヤ部PSに接触して配置される給電子ユニット6a〜6dは、切断ワイヤ部CLに対して電圧パルスを供給する電極であり、図1では被加工物5の両側に各2列配置されている。また、並列ワイヤ部PS上の、給電子ユニット6a〜6dから切断ワイヤ部CL寄りの位置に制振ガイドローラ7a,7bが配置され、制振ガイドローラ7a,7bの表面に形成されているワイヤ案内用溝にワイヤ3が常に掛けられた状態が維持されてワイヤ3をガイドする。すなわち、制振ガイドローラ7a,7bは、一対のメインガイドローラ間に設けられ、並列ワイヤ部PSにそれぞれ従動接触する、メインガイドローラに比較して小径のガイドローラである。そして、これら制振ガイドローラ7a,7bは、切断ワイヤ部CLに掛かるワイヤ3が直線状に展張されるようにワイヤ3を支持し、制振ガイドローラ7a,7b間の切断ワイヤ部CLはワイヤ振動が抑制されて走行位置がほぼ静止状態となっている。さらに、切断ワイヤ部CLを挟む位置にノズル8(8a,8b)が配置されており、向かい合わせに配置されたノズル8a,8bから、切断ワイヤ部CLに沿って被加工物5の切断部に向かって加工液を噴出する。切断ワイヤ部CLはノズル内面と接触しないように、ノズル8a,8b内を貫通している。ステージ9は被加工物5を載せて上昇、下降を行う台である。
ワイヤ3は図1では、4本のメインガイドローラ1a〜1dのそれぞれについて、ローラ外周の一部分(約1/4周)だけ巻き掛かっており、4本のメインガイドローラ1a〜1d全体に対して周回している。メインガイドローラ1a〜1dは、ワイヤボビン2からワイヤ巻取りボビン4に至る経路を構成し、被加工物5が切断ワイヤ部CLを通過するための空間を確保するように構成されている。メインガイドローラ1c,1dは駆動式ガイドローラであり、その上方に配置されたメインガイドローラ1a,1bは、従動式ガイドローラである場合が多い。駆動式ガイドローラは、回転軸がモータの回転軸と直接ベルトなどで接続されることで回転力が伝達されて駆動する。これに対して、従動式ガイドローラには、モータの回転による駆動力を発生せず、巻き掛けられたワイヤ3の走行に伴って、ワイヤ3の摩擦によって回転するものである。制振ガイドローラ7a,7bは、並列ワイヤ部PSに接触して配置された従動式のガイドローラであり、ワイヤ3の走行に伴い従動することによって回転する。
図1において、メインガイドローラ1a〜1dの軸の周りに描かれている矢印は各メインガイドローラ1a〜1dの回転方向を、ワイヤ3に沿って描かれている矢印はワイヤ3の走行方向を示す。メインガイドローラ1a〜1dは円柱状の芯金に、例えば、ウレタンゴムを巻き付けたローラであり、芯金の両端がベアリングで支持されて回転可能な構造となっている。ウレタンゴムはワイヤ3との摩擦係数が高いことから、ガイドローラ上でワイヤ3がスリップすることを防止するのに適している。また、メインガイドローラ1a〜1dのワイヤ3が接触するローラ表面には、ワイヤ巻き掛けピッチと同間隔で複数本の溝が形成されており、それぞれの溝内でワイヤ3が巻き掛る。このとき、等間隔に並列配置された切断ワイヤ部CL間の距離(巻掛ピッチ)は一定であり、半導体ウエハの場合、例えば、0.1mm〜0.8mm程度である。駆動式のメインガイドローラにおいては、ワイヤを引っ張る力を得ることが出来るとともに、従動式のメインガイドローラにおいてはローラを回転させる回転力が得られる。これらのガイドローラ、被加工物5は加工液中に浸漬されており、各切断ワイヤ部CLは加工液中で被加工物5に対向して、同時に並行して切断加工を行う。
制振ガイドローラ7a,7bは従動式ガイドローラで、メインガイドローラ1a〜1dと比べて形状精度、回転精度、及び取り付け精度の高いガイドローラであり、被加工物5を挟む位置に2本用いられる。制振ガイドローラ7a,7bは、展張された並列ワイヤ部PSに対して押し込まれてワイヤ3が外周の一部に掛かるようになっている。その結果、制振ガイドローラ7a,7b間のワイヤ3が直線状に展張されるとともに、ワイヤ3の走行方向が曲げられた状態になって、ワイヤ3の走行中、常にワイヤ3が掛かった状態が維持される。制振ガイドローラ7bに掛かる前に振動を伴っていたワイヤ3が、制振ガイドローラ7bに確実に掛かることで、振動しながら走行するワイヤ3の振動を遮断する。また、同様に制振ガイドローラ7aから送り出されたワイヤ3に加えられた振動が、制振ガイドローラ7aで遮断される。その結果、2本の制振ガイドローラ7a,7bはワイヤ走行に伴いワイヤ3との摩擦力によって回転しながら、制振ガイドローラ7a,7b間の直線状領域にワイヤ振動がほとんどない状態を作り出している。すなわち、制振ガイドローラ7a,7bによって、メインガイドローラ1a〜1dから切断ワイヤ部CLへの振動伝播を抑制し、微視的な走行位置が一定になるようにワイヤ3を精密にガイドすることが可能となる。
制振ガイドローラ7a,7bは切断ワイヤ部CLに連なるワイヤ3の走行方向を曲げることはあっても、被加工物5が切断ワイヤ部CLを通過するための空間を確保する作用は有していない。ワイヤ3が接触するローラ表面には、切断ワイヤ部CLの間隔と同間隔のワイヤ案内用のV字状溝GWがあり、各溝GWにワイヤ3が1本ずつ架けられる。
切断ワイヤ部CLに対して加工電源を給電する給電子ユニット6a〜6dは、図2(a)に示すように、直径と高さが異なる2種類の円柱がその円柱底面に相当する円の中心を合わせて交互に積み重ねた形状をしている。直径が小さい方の円柱部分である軸部6Mと、この軸部6Mに所定の間隔で形成され、軸部よりも直径が大きい円柱部分からなり外周面にワイヤ案内用のV字状溝GWを有する給電部6Sとを有している。このワイヤ案内用のV字状溝GWは給電対象のワイヤ3に接触する部分であり、直径が小さい方の円柱部分である軸部6Mは給電対象ではないワイヤ3が給電子ユニットに接触しないように逃がす部分である。給電子ユニット6a〜6dはそれぞれ長さ方向に平行、かつ、円柱中心位置が同じ高さになるように配置される。切断ワイヤ部CLの本数以上である給電子ユニット6a〜6dの、直径が大きい方の円柱部分である給電部6Sは、切断ワイヤ部CLを構成する隣接ワイヤの間隔と同等の間隔で配置される。図2(b)は、図2(a)の給電子ユニット6dを側面方向真横からみたものであり、給電子ユニット6a,6b,6cがもっとも手前に位置する給電子ユニット6dに重なり、直径が小さい方の円柱部分である軸部6Mは隠れているが、それぞれの給電子ユニットの直径が大きい方の円柱部分である給電部6Sは他の給電子ユニットのそれらと重ならないため等間隔で整列し、また、直径が大きい方の円柱部分である給電部6Sの側面に加工されたワイヤ案内用のV字状溝GWに切断ワイヤ部CLの各ワイヤ3が架かっている状態を模式的に示している。ここではワイヤ3本おきに給電するように配置されているため、給電子側が原因で異常放電が生じた場合にも、離間した位置で生じることになり、摩耗によるワイヤの損傷を分散することができる。
給電子ユニット6a〜6dは、直径が大きい方の円柱部分である給電部6Sの直径以上の円柱部材を出発材料としそれぞれ、旋削にて一体成形加工することが容易である。NC旋盤であれば、直径が大きい方の円柱部分である給電部6Sと直径が小さい方の円柱部分である軸部6Mが繰り返し配置されるピッチも高精度に加工でき、さらに、直径が大きい方の円柱側面に形成されるワイヤ案内用のV字状溝GWを高精度に加工することも容易である。あるいは、給電子ユニット6a〜6dの金型に対して注入された導電性材料の圧縮成形や焼結によっても高精度の給電子ユニット6a〜6dを大量に製作することができる。また、給電子ユニット6a〜6dの材質としては、超硬合金などの耐摩耗性に優れた導電性材を用いるのが望ましい。
給電子ユニット6a〜6dは、互いに接触しないように間隙をあけて配置され、互いに電気的に絶縁される。図1においては、給電子ユニット6a〜6dは被加工物5の両側にそれぞれ2列ずつ配置されており、給電子ユニット6a,6b,及び給電子ユニット6c,6dは互いに接触しないように給電子ホルダ60a,60b(図1には図示せず)に収納されて配置される。図3(a)は、図1のメインガイドローラ1d−1c間の配置を上方からみた場合の上面図である。ただし、被加工物5とその両側のノズル8a,8bは省略している。給電子ホルダ60aには給電子ユニット6a,6bが収納され、給電子ホルダ60bには給電子ユニット6c,6dが収納されている。給電子ホルダ60a,60bは同形状である。収納される給電子ユニット6a,6b,6c,6dについては、それぞれ、直径が小さい方の円柱部分である軸部6Mの長さが端部で異なっている。直径が小さい方の円柱部分である軸部6Mの端部の長さの違いは、給電子ユニット6a,6bの端部を給電子ホルダ60a,60bの基準面に合わせて収納することで、ワイヤ給電部分、すなわち、給電子ユニット6a,6bの直径が大きい方の円柱部分からなる給電部6Sが切断ワイヤ部CLの各ワイヤに対応するように予め調整されているためである。その結果、微調整することなく、給電子ホルダ60a,60bに給電子ユニット6a〜6dを嵌め込むだけで各給電子部分を所定のピッチで整列させることができる。
放電加工を行う際は、メインガイドローラ1c、1dを回転させてワイヤ3を走行させながら、当該切断ワイヤ部CLに対して所定の極間距離を隔てて被加工物5を対向させて配置した後、切断ワイヤ部CLに電圧パルスを印加し、切断スピードに合わせてステージ9を上昇させる。極間距離を一定に保った状態で、並列ワイヤ部PSと被加工物5とを相対移動させることにより、図5(a)に加工中の状態を示すように、アーク放電を継続させ、被加工物5の切断ワイヤ部CLが通過した経路に対応して加工溝Gが形成される。したがって、図5(b)に示すように、切り出される薄板であるウエハ5Wの厚さt0は、巻掛ピッチtpから被加工物5の切り代となった加工溝Gの幅(加工幅)t1を引いた長さである。加工幅を小さくするためワイヤ線径は小さい方が望ましく、実用的には0.1mm程度のスチールワイヤを使用することが多いが、0.05mmなど更に細線化したものを用いることもある。さらに、放電開始電圧を適切にするため、スチールワイヤの表面に黄銅などのコーティングを施しても良い。
切断ワイヤ部CLに電圧パルスを印加するためには、給電子ユニット6a〜6dに加工電源からの給電線を接続し、給電子ユニット6a〜6dを、切断ワイヤ部CLを構成する各ワイヤ3に接触させて加工電源10からの電源を給電する。給電子ユニット6a〜6dは削り出しなどによる一体成形物であるために、同一給電子ユニットにおいて、給電子部分(直径の大きい円柱部分)は互いに電気的に導通している。したがって、加工電源10からの給電線が給電子ユニット6a〜6dに接続され、切断ワイヤ部CLを構成する各ワイヤに給電子ユニット6a〜6dが接触して給電されるが、各給電子に独立して給電することはできない。すなわち、同一の給電子ユニットに給電された加工電流は、放電が発生したワイヤに対して流れ、印加電圧はドロップするので、同一給電子ユニットで給電される他のワイヤにおいて、放電は完全に独立給電される場合に比較して同時並列的に発生しにくくなる。しかし、発明者らは、実験の結果、給電子ユニット6a〜6dに関しては、互いに独立給電の状態にあるため、これら給電子ユニット6a〜6dによって給電されるワイヤ3については同時並列的に放電が発生し、放電パルスの著しい発生頻度低下及び加工速度の著しい低下がないことを実加工により見出すに至った。
一方、ワイヤ3が掛かる給電子面のワイヤ案内用のV字状溝GWの位置を基準として、複数の給電子を所定の数百μm間隔で並列させるためには、前述した給電子の組み立てにおいて、高精度に位置を測定できる専用装置が必要であり、慎重な作業が求められる。また、切断ワイヤ部CLにおいて巻き回しが後半のワイヤほど、放電加工に繰り返し使われているため、そのワイヤ表面には放電加工による凹凸が多く形成され、さらには、放電加工によって溶融した高硬度な被加工物が再付着しており、一種の耐摩耗性被覆ワイヤとなっている。したがって、このようなワイヤが摺動する給電子では、ワイヤ接触する給電面の磨耗が激しく、給電対象ワイヤによってその給電子の交換頻度が異なってくる。特許文献1の給電子構造の場合、たとえ一個の給電子を交換する場合でも、等間隔に整列させられた複数の給電子を分解する必要があり、それらの再組立て及び調整には相当の手間を要する。
これに対し本実施の形態のワイヤ放電加工装置は、上記のような複数本の並列されたワイヤ3に対する安定した給電に関する高度の要求と、複数個の給電子の組立て及び調整に関する要求に応えることを意図しており、前述のように、第1の技術要素として一体成形された高精度の給電子ユニット、第2の技術要素として給電子ユニット6a〜6dを整列させて保持する給電子ホルダを有している点に特徴がある。高精度の給電子ユニット6a〜6dは、それぞれが対応する給電子ホルダ60a,60bに嵌め込まれ保持されることにより、切断ワイヤ部CLを構成する複数本の並列ワイヤに対応して給電子ユニット6a〜6dの給電子部分を整列させることができ、給電子部分を切断ワイヤ部CLの各ワイヤへ押し付ける量も一定にでき、さらに、給電子部分を各並列ワイヤに確実に接触して給電できる方式である。また、給電子ホルダ60a,60bによって整列せしめられたこれら複数の給電子(給電子ユニット6a〜6d)は、給電対象とする各切断ワイヤ部CLのワイヤ並列間隔に対応して整列し、加工電源は、切断ワイヤ部CLに対して少なくとも1本おき(本実施の形態では3本)に給電するように配置される各給電ユニット6a〜6dに対して給電する。従って、隣接ワイヤへの給電電流の回り込みが大きい場合にも2本隣のワイヤへの回り込み電流は大幅に低減されるため、回り込み電流による加工への影響を低減することができる。また異常放電が生じた場合にも、離間した位置で生じるため、摩耗によるワイヤの損傷を分散することができる。また、同一の給電子ユニット6a〜6dにおいて整列する給電子は互いに電気的に接続されているため、給電が容易である。本実施の形態では、各給電子ユニットをワイヤ部の幅方向全体に設け、給電子ユニットの方向で全ての給電子が重なり部を持たないように、方向全体に等間隔で分散されており、切断ワイヤ部CLのワイヤ3本おきに、配置されている。この構成により、各給電子ユニットの全ての給電子が、並列ワイヤ部の各並列ワイヤそれぞれに一つずつ均一に給電される。この方式では、複数個の給電子を容易に整列させることができるため、加工段取りが容易になる。また、各給電子の整列状態が不十分なことによるワイヤへの給電子の接触状態が不均一となることがなくなるため、すべてのワイヤへ加工電源が安定して給電されるのでワイヤごとに放電加工が不安定になることもない。
また、図4のように、給電子ユニット6a〜6dの両軸端と、給電子ユニット6a〜6dの両軸端が嵌め込まれる給電子ホルダ60a,60bの軸受け部分を例えば正6角形に加工しておくことで、給電子ユニット6a〜6dが給電子ホルダ60a,60bに嵌め込まれる際に給電子ユニット6a〜6dの軸方向中心に関して60度の倍数分の一定角度回転させた位置で設置できる。すなわち図4のように、給電子ユニット6a〜6dの両軸端と、給電子ユニット6a〜6dの両軸端が嵌め込まれる給電子ホルダ60a,60bの軸受け部分を正N角形(Nは3以上)に加工しておくことで、給電子ユニット6a〜6dが給電子ホルダ60a,60bに嵌め込まれる際に給電子ユニット6a〜6dの軸方向中心に関して一定角度回転させた位置で設置できる。なお、図4では給電子ホルダ60aのみを示すが、給電子ホルダ60bも同様である。
この方式により、給電子ユニット6a〜6dの給電面が給電対象の切断ワイヤ部CLとの摺動摩擦によって磨耗し給電状態が変化しても、給電子ホルダ60a,60bの嵌め込み部分に対する給電子ユニット6a〜6dの両軸端の位置を変更して嵌め込むことで、給電子ユニット6a〜6dのワイヤ接触箇所を変更できるようになり、給電子ユニット6a〜6dの設置位置を微調整する必要がなく、容易に給電子の給電面を新しい面に交換できるようになる。給電子固定具61は、給電子ホルダ60a,60bに収納された給電子ユニット6a,6bの両軸端を挟みこんで固定する。給電子固定具61と給電子ホルダ60a,60bはたとえばボルトで締結される(図示せず)。また、図示していないが、給電子ユニット6a,6bの軸端部分には、加工電源10からの給電線が接続され、加工電源10からの加工電流が切断ワイヤ部CLの各ワイヤに給電される。図4は、給電子ユニット6a,6bを収納する給電子ホルダ60aについて詳細に示しているが、給電子ユニット6c,6dを収納する給電子ホルダ60bについても同様の構造である。
本実施の形態1においては、ワイヤ3のうち給電子ユニット6aで給電されたワイヤの巻取り側方向に隣接するワイヤは給電子ユニット6cに接触して給電され、さらにそのワイヤの巻取り側方向に隣接するワイヤは給電子ユニット6bに接触して給電される。そして、さらにそのワイヤの巻取り側方向に隣接するワイヤは給電子ユニット6dに接触して給電される。
すなわち、給電子ユニット6a〜6dはそれぞれ4本おきに並列ワイヤ部PS(もしくは切断ワイヤ部CL)への給電をおこなっており、4本配置される給電子ユニット6a〜6d間は電気的に絶縁されている。給電子ユニット6aを通過した切断ワイヤ部CLは駆動式のメインガイドローラ1cに巻き掛けられ、その後、メインガイドローラ1b,1a,1dに巻き掛けられ、ふたたび駆動式のメインガイドローラ1cに巻き掛けられる。前述のように、同列に配置される給電子についてはそれらを一体成形したことにより、同一の給電子ユニットから給電される並列ワイヤ部PSについては独立した給電を行うことはできない。
しかしながら、給電子を完全に電気的に絶縁した状態で並列ワイヤPSに独立給電する場合でも、1本のワイヤで並列ワイヤ部PSを構成している構造上、わずかながら隣接ワイヤ3への給電された電流の回り込み(漏れ)は発生している。そうした給電電流の回り込み量が大きいのは隣接するワイヤに対してであり、隣接ワイヤに隣接するワイヤ、すなわち、2本隣りのワイヤへの回り込み電流は急激に減少する。したがって、並列ワイヤ部PSを構成するワイヤについては、ワイヤ4本分の間隔をあけて給電すれば回り込み電流(漏れ電流)による加工への影響はない。
なお、給電子間を電気的に導通させた構造では、直近の隣接ワイヤからの電流の回り込みの影響がもっとも大きいため、給電子ユニットは隣接給電子間を絶縁する構造、すなわち、給電子ユニット本数は並列ワイヤ部PSのワイヤを交互に給電可能な2本でも加工速度の著しい低下はない。
また、本実施の形態1においては、図2(b)および図3(a)に示すように、ワイヤ放電加工によってインゴットから切り出されるウエハの厚さは、複数本のワイヤ間のピッチが影響する。切り出されるウエハの厚さは0.5mm程度と非常に薄い。したがって、ワイヤのピッチも非常に狭く、たとえば、現状、使用している直径0.1mmのワイヤでは、ピッチを0.6mmに設定している。これら並列ワイヤに対して給電部6Sを当接させるが、その際、給電子がワイヤに確実に接触しワイヤが給電子から外れないようにするために、給電子外周面にはV溝加工が施されている。それには、給電部6Sには相応の厚さが必要となり、そのような給電部6Sを隣接して並列させるには、ワイヤピッチは給電子同士が接触するほど狭いため、図3(a)のように1つの給電子列に形成される給電部6Sは等間隔ながら、それら給電子列を規則的にずらして設置することによって隣接ワイヤの給電子同士の位置における制約がなくなり、給電部6Sをワイヤピッチの2倍近い厚さに設計することができる。
実施の形態2.
図6は、実施の形態2のワイヤ放電加工装置を示す図であり、図7は、その給電子ユニットの要部拡大斜視図である。本実施の形態は、実施の形態1の給電子ユニットの変形例であり、給電子ユニット6a〜6dは、超硬合金の丸棒の側面をたとえば砥石研削によって等間隔をおいて一定幅で切り欠いたものである。切り欠きによって平面状に面取りされた切り欠き部6Rは、一部の切断ワイヤ部CLが並列して通過する際に、丸棒に接触しないように通過させるためのワイヤを逃がす空間である。また、2つの切り欠き部分で挟まれた丸棒の未加工部分は、切断ワイヤ部CL中の給電対象のワイヤが接触する部分であり、ここにはワイヤが架けられて給電するためのV字状溝GW加工が施されて給電部6Tとなる。このように、丸棒の一部分を研削もしくは切削によって切り欠くことでも、図2、図3に示す給電子ユニット6a〜6dと同等の複数本の並列するワイヤに対する給電機能を有する。切断加工時ウエハ支持部15a,15bは、被加工物である結晶インゴット5Iに対して接近・離反する挙動を制御するものである。給電子ユニット6a〜6d以外は実質的には実施の形態1のワイヤ放電加工装置と同様であり、ここでは説明を省略するが、同一部位には同一符号を付した。
図7に示す給電子ユニット6a〜6dでは、給電部分が切断ワイヤ部CLとの摺動によって磨耗してくると給電子ユニットごと交換するしかないが、図7に示す給電子ユニット6a〜6dの切り欠き部から90度ごとに切り欠き部6Rを加工しておけば、1本の給電子ユニットで4回交換分に相当する給電部6Tを備えることができる。なお、この給電子ユニットについても、その両軸端を切り欠き部6Rと同数の面を有する正M角形(Mは周面上の切り欠き部6R数)に加工されており、給電子ユニットを保持する給電子ホルダの給電子ユニット軸端嵌め込み部についても対応する同じ形状の正M角形穴を備える。
放電加工を行う際は、メインガイドローラ1c,1dを回転させてワイヤ3を走行させながら、当該切断ワイヤ部CLに対して所定の極間距離を隔てて被加工物である引き上げ法などにより形成された結晶インゴット5Iを対向させて配置した後、切断ワイヤ部CLに電圧パルスを印加し、切断スピードに合わせてステージ9を上昇させる。極間距離を一定に保った状態で、並列ワイヤ部PSと結晶インゴット5Iとを相対移動させることにより、図8(a)に加工中の状態を示すように、アーク放電を継続させ、結晶インゴット5Iの切断ワイヤ部CLが通過した経路に対応して加工溝Gが形成される。したがって、図8(b)に示すように、切り出されるウエハ5Wの厚さt0は、巻掛ピッチtpから結晶インゴット5Iの切り代となった加工溝の幅(加工幅)t1を引いた長さである。加工幅を小さくするためワイヤ線径は小さい方が望ましく、実用的には0.1mm程度のスチールワイヤを使用することが多いが、0.05mmなど更に細線化したものを用いることもある。さらに、放電開始電圧を適切にするため、スチールワイヤの表面に黄銅などのコーティングを施しても良い。
本実施の形態のワイヤ放電加工装置によれば、給電子ユニット6a〜6dを用いて、結晶インゴット5Iから高精度なウエハ5Wを容易に製作することができる。
ワイヤ放電加工は、加工速度が被加工物の硬度に依存しないことから、硬度の高い素材に対して特に有効である。被加工物5として、例えば、スパッタリングターゲットとなるタングステンやモリブデンなどの金属、各種構造部材として使われる多結晶シリコンカーバイド(炭化珪素)などのセラミックス、半導体デバイス作製用のウエハ基板となる単結晶シリコンや単結晶シリコンカーバイド、ガリウムナイトライドなどの半導体素材、太陽電池用ウエハとなる単結晶または多結晶シリコンなどを対象とすることができる。特に、炭化珪素や窒化ガリウムに関しては、硬度が高いため、機械式ワイヤソーによる方式では生産性が低く、さらに加工精度が低いという問題があり、本実施の形態によれば、高い生産性と高い加工精度を両立しながら炭化珪素や窒化ガリウムのウエハ作製を行うことができる。
以上のように、本実施の形態のワイヤ放電加工装置は、間隔をおいて平行に配設された一対のガイドローラ間に一定のピッチで離間しながら複数回巻き掛けられ、ガイドローラの回転に伴って走行すると共に、一対のガイドローラ間で互いに離間した並列ワイヤ部PSを形成する一本のワイヤ3と、ガイドローラ間に設けられ、複数の並列ワイヤ部PSにそれぞれ接触して給電する給電子を有しており、並列ワイヤのそれぞれに接触して給電するための給電子が整列単位ごとに一体化されたものである。また、これら複数の給電子(給電子ユニット6a〜6d)は、給電対象とする各切断ワイヤ部CLのワイヤ並列間隔に対応して整列し、加工電源は、切断ワイヤ部CLに対して3本おきに給電するように配置される各給電子ユニット6a〜6dに対して給電する。
なお、本実施の形態1及び2では、駆動式のメインガイドローラが2本用いられているが、このうち1本を従動式に変更することも可能である。しかし、ワイヤの断面積に応じてワイヤの最大張力が決まるため、加工幅低減のために細線ワイヤを用いる場合には、複数の駆動式ガイドローラを用いてワイヤにかかる張力(内部応力)を低減することが好ましい。ワイヤの張力が過大となることを防ぐことによって、巻き掛け回数を増やし、ワイヤを細線化して生産性の向上を図ることが出来る。
また、本実施の形態1及び2では、1本のワイヤ3を4本のメインガイドローラに巻き掛けた例について示しているが、例えばメインガイドローラを3本配置した構成とすることも可能である。その他、上記の実施の形態に限らず、1本のワイヤ3を繰り返し折り返すことにより並列ワイヤ部PSが形成されるのであれば、その具体的な構成については特に限定されるものではない。
以上のように、本実施の形態1,2の構成によれば、メインガイドローラに一定のピッチで離間しながら複数回巻き掛けられ、メインガイドローラの回転に伴って走行する1本のワイヤと、メインガイドローラ1c,1d間に配列した並列ワイヤ部PSと、この並列ワイヤ部PSのそれぞれのワイヤ3に給電するそれぞれ一体成形された給電子ユニット6a,6b,6c,6dとを備えて、制振ガイドローラ7a,7b間に展張されたワイヤ3が被加工物5と対向する切断ワイヤ部CLになるようにしたので、並列ワイヤ部PSに対して確実に加工電源10から給電がなされることによって高精度のワイヤ放電加工を行うことができる。
また、給電子ユニット6a,6b,6c,6dは、一体成形されるために、ワイヤに接触する給電部分の整列精度が極めて良好であり、さらに給電子ホルダ60a,60bに嵌め込むことで給電子位置の微調整の必要がなく整列できるので、複数本のワイヤをそれぞれの給電子に容易に確実に接触させることができるので、加工中にワイヤが給電子から外れることがなくなり加工準備時間を短縮できるという効果を奏する。また、並列ワイヤ部PSに対する給電子ユニット6a,6b,6c,6dの押し込み量の微調整も不要となり、ワイヤの接触長さを均一化できるようにしたので、放電加工電流のばらつきがなくなり放電加工が安定化するという効果を奏する。上記の構成により、切断ワイヤ部CLの給電を安定化し、長時間の加工においても安定した放電加工を行い、厚さばらつきが小さいウエハを一度に複数枚製作することが可能になるという効果を奏する。
また、上記の効果を奏するワイヤ放電加工装置を用いることにより、炭化珪素などの硬質材料を含む被加工物である結晶インゴット5Iを、高い生産性をもって薄板状に切断加工し、半導体ウエハを形成することが出来る。
さらにまた、本実施の形態では、円柱状のインゴットのオリフラ部分を上にした状態から切り始める仕様となっている。なお、オリフラ位置による加工への影響がないことは実験にて確認しており、インゴットの設置方向は、図6に示すようにオリフラ部分を上にした状態でもよく、インゴットの設置方向に限定されるものではない。
実施の形態3.
以下に、本発明の実施の形態3の構成及び動作について説明する。図9は、本発明の実施の形態3に係るワイヤ放電加工装置の給電子ユニット6a,6b及びそれらを嵌め込む給電子ホルダ60a及びその関連部品の構成を示す斜視図である。本実施の形態に係る給電子ユニット及び給電子ホルダにおいては、前述の実施の形態1と同様の構成及び動作を多く有しているため、それらについては説明を省略し、実施の形態1と異なる部分の構成と動作について説明する。まず、本実施の形態3の給電子周辺の構成について述べる。給電子ユニット6a〜6dの両軸端の形状を円柱状とし、給電子ホルダ60a,60bの給電子ユニット6a〜6dの両軸端が嵌め込まれる部分は、給電子ユニット6a〜6dの軸端と同直径よりわずかに大きい半円形状に加工された軸受け部が加工されており、ここに給電子ユニット6a〜6dを設置し、給電子固定具61にも同形状の半円形状の加工がなされているので、給電子ユニット6a〜6dの両軸端は半円形部分で挟み込まれるようにして支持される。さらに、給電子ユニット6a〜6dの軸端にはスリップリング73が取り付けられ、スリップリング73内面にあるブラシが給電子ユニット6a〜6dの軸外周面に接触している。また、スリップリング73には加工電源(図示せず)からの給電線が接続される。図9は、給電子ユニット6a,6bを収納する給電子ホルダ60aについて詳細に示しているが、給電子ユニット6c,6dを収納する給電子ホルダ60bについても同様の構造である。
次に動作について説明する。給電子ホルダ60a,60bに組み込まれた給電子ユニット6a〜6dは、給電子ユニット6a〜6dの両軸端が円柱形状であり、両軸の支持部に相当する部分も円柱形状であるために軸方向を回転中心として回転できるようになっている。それゆえ、並列ワイヤ部PSが給電子ユニット6a〜6dのそれぞれの給電部の溝に架けられた状態でワイヤ3を走行させると、並列ワイヤ部PSが給電子ユニット6a〜6dに接触しながらその摩擦力によってワイヤ走行と共に給電子ユニット6a〜6dが回転する。さらに、スリップリング73は円柱形状の回転軸に対して給電する機能を有するため、加工電源10からの電流がスリップリング73のブラシを介して給電子ユニット6a〜6dの軸端からそれら給電子ユニットの各給電子に給電され、並列ワイヤ部PS(切断ワイヤ部CL)に加工電流が供給される。
給電子ユニット6a〜6dの両軸端を支持する部分に転がり軸受け72を設け、転がり軸受け72にて給電子ユニット6a〜6dを支持することにより、給電子ユニット6a〜6dの回転をさらになめらかにできる。したがって、並列ワイヤ部PSの接触による摩擦力で容易に回転するので、並列ワイヤ部PSの走行速度と給電子ユニット6a〜6dの回転速度に差を生じることなく、安定した転がり摩擦状態を長時間維持することができる。この場合、転がり軸受け72は、軸受け内のベアリングを構成するボール間での放電発生を防止するために、セラミック球などの非導電性材であることが望ましい。
前述の構造によって、並列ワイヤ部PSに対する給電子ユニット6a〜6dの給電部分は、実施の形態1のようにワイヤによる摺動状態ではなくなり、給電対象のワイヤの走行とともに回転することによって転がり摩擦の状態となる。それゆえ、繰り返し放電加工に使用されることによる硬質物質の付着や面粗さの悪化した切断ワイヤ部CLが、給電子部分を摺動しながら走行することによる給電子ユニット6a〜6dの給電面が磨耗することがなくなり、給電子ユニット6a〜6dの寿命が延長し、放電加工を安定して行うことができる。
前述のような装置構成とすることで、切断ワイヤ部CLへの加工電源10からの給電が長時間にわたって安定し、安定した放電加工を維持でき、被加工物5から板厚のそろった複数枚のウエハを一度に切り出すことができる。
なお、給電子ユニット6a〜6dへの給電には、給電子ホルダ60a,60bの軸受け部から突き出された給電子ユニット6a〜6dの両軸端に対して、たとえば、スリップリングやブラシなどを接触させればよい。このとき、軸受け内部で放電が発生して軸受けが損傷することを防止するために、使用する軸受けはセラミック球などの非導電性材で構成される転がり軸受けであることが部品寿命の延長の点からは望ましい。
以上のように、給電子ユニット6a〜6dがその軸中心について滑らかに回転できるように軸受けを設置することによって、走行する切断ワイヤ部CLの摺動による摩擦を転がり摩擦とすることで、給電子ユニット6a〜6dの給電面の磨耗を大幅に軽減することで放電加工が長時間安定化し、加工精度が向上する効果を奏する。
また、給電子ユニット6a〜6dをワイヤ走行に伴って転がるようにしたので、給電子ユニット6a〜6dのワイヤ接触面、すなわち、給電面が摩擦によって磨耗することがなくなり、超硬合金のような高硬度な材料でなくとも、たとえば、鋼や銅、黄銅、アルミニウムなどの切削加工が容易な金属材料でも給電子ユニットとして使用することができ、安定な放電を長期間持続することが可能になる。
なお、上記の3つの実施の形態では、給電子ユニットは被加工物5を挟んで両側に2個ずつ取り付けられていたが、給電子ユニットが両側に1個の場合においても本発明は適用可能である。
インゴットの両側に1本ずつ配置された各給電子列から全ワイヤに対して給電できる構造にした場合、加工溝幅のばらつきを少なくし、ひいては、ウエハ板厚のばらつきを低減するという効果がある。すなわち、インゴットの片側に配置された給電子からのみ給電される場合、給電子からインゴットの放電位置までの距離の差によって途中の抵抗値が変動するために、放電電流も変化する。それゆえ、給電子からの加工点までの距離に応じて放電加工による加工量が異なり、インゴット加工時の加工溝幅は、給電子に近い部分ほど太く、給電子から離れた部分ほど細くなる傾向となる。この傾向は、特に、口径の大きいインゴットで顕著となる。これに対し、一括給電では、1本ずつインゴット両側に配置された給電子列から各ワイヤに給電することによって、給電子から放電位置までの距離の差が減少し、放電電流のロスが改善され、加工量の差が改善され、加工溝幅のばらつき、すなわち、ウエハ板厚のばらつきが向上する。
本発明のいくつかの実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施の形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
1a,1b,1c,1d メインガイドローラ、2 ワイヤボビン、3 ワイヤ、CL 切断ワイヤ部、PS 並列ワイヤ部、4 ワイヤ巻取りボビン、5 被加工物、5I 結晶インゴット、5W ウエハ、6a,6b,6c,6d 給電子ユニット、6M 軸部、6S 給電部、7a,7b 制振ガイドローラ、8a,8b ノズル、9 ステージ、10 加工電源、60a,60b 給電子ホルダ、61 給電子固定具、6R 切り欠き部、6T 給電部、72 転がり軸受け、73 スリップリング(給電ブラシ)。

Claims (10)

  1. 間隔をおいて平行に配設された一対のガイドローラと、
    前記一対のガイドローラ間に一定のピッチで離間しながら複数回巻き掛けられ、前記ガイドローラの回転に伴って走行すると共に前記一対のガイドローラ間で互いに離間した複数の並列ワイヤ部を形成する一本のワイヤと、
    前記一対のガイドローラ間に設けられ、前記並列ワイヤ部にそれぞれ従動接触して制振した切断ワイヤ部を形成する一対の制振ガイドローラと、
    電対象とする各切断ワイヤ部のワイヤ並列間隔に対応して整列し、前記複数の並列ワイヤ部にそれぞれ接触して給電する、導電性材料で形成され互いに接続された複数の給電子を備えるとともに、間隔をあけて配置され、それぞれの給電子ユニットから並列ワイヤ部へ1本おき又は複数本おきに給電するように、前記給電子が配置された給電子ユニットと、
    両端に備えた軸端支持部により、前記複数の給電子を前記複数の給電子ユニットそれぞれの軸方向中心回りに回転可能に保持する給電子ホルダと、
    給電子とワイヤとの間に電圧を印加して放電を生起する加工電源と、
    を備えたワイヤ放電加工装置。
  2. 間隔をおいて平行に配設された一対のガイドローラと、
    前記一対のガイドローラ間に一定のピッチで離間しながら複数回巻き掛けられ、前記ガイドローラの回転に伴って走行すると共に前記一対のガイドローラ間で互いに離間した複数の並列ワイヤ部を形成する一本のワイヤと、
    前記一対のガイドローラ間に設けられ、前記並列ワイヤ部にそれぞれ従動接触して制振した切断ワイヤ部を形成する一対の制振ガイドローラと、
    給電対象とする各切断ワイヤ部のワイヤ並列間隔に対応して整列し、前記複数の並列ワイヤ部にそれぞれ接触して給電する複数の給電子を備え、隣接する各給電子が少なくとも1本おきに前記並列ワイヤ部に給電するように配列された給電子ユニットと、
    給電子とワイヤとの間に電圧を印加して放電を生起する加工電源と、
    を備え、
    同一の前記給電子ユニットにおいて整列する給電子は、互いに電気的に接続されており、
    前記給電子ユニットは、両端に軸端支持部を有する給電子ホルダを備え、前記給電子の位置制御が可能であり、
    前記給電子ユニットは、直径が小さい円柱部分である軸部と、この軸部に所定の間隔で形成され、前記軸部よりも直径が大きい円柱部分からなり外周面にワイヤ案内用の溝を有する給電部とを有し、
    前記軸部の端部の支持位置を回転させることによって、給電子の前記ワイヤとの接触面を変更可能に構成されたワイヤ放電加工装置。
  3. 前記給電子ユニットの前記軸部の端が正多角柱に加工され、
    前記給電子ユニットを支持する給電子ホルダの前記軸端支持部も前記正多角柱にくり貫き加工されている請求項2に記載のワイヤ放電加工装置。
  4. 前記給電子ユニットは前記軸端支持部に転がり軸受けを備え、回転可能である請求項2または3に記載のワイヤ放電加工装置。
  5. 前記給電子ユニットの軸端にスリップリングあるいは給電ブラシを備え、
    前記加工電源から前記給電ブラシに給電される請求項4に記載のワイヤ放電加工装置。
  6. 前記給電子ユニットは、前記並列ワイヤ部の配列幅方向全体にわたるように配置され、各給電子ユニットの幅方向で全ての前記給電子が重なり部を持たないように、等間隔で分散された請求項2に記載のワイヤ放電加工装置。
  7. 4本の前記給電子ユニットを具備し、各給電子ユニットを構成する給電子は3本おきに、前記並列ワイヤ部に給電するように構成された請求項6に記載のワイヤ放電加工装置。
  8. 前記複数の給電子ユニットは、それぞれが整列単位毎に一体成型された請求項1から7のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工装置。
  9. 請求項1から8のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工装置を用いて、
    前記給電子ユニットに対して前記加工電源から一括給電し、被加工物から複数枚の薄板を作製する薄板の製造方法。
  10. 請求項1から8のいずれか1項に記載のワイヤ放電加工装置を用いて、
    前記給電子に対して前記加工電源から一括給電し、半導体素材から複数枚の半導体ウエハを作製する半導体ウエハの製造方法。
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