JP6052196B2 - 潤滑装置および潤滑方法 - Google Patents

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本発明は、冷間圧延機の圧延ロールと圧延対象の金属板との間に潤滑性を付与する潤滑装置および潤滑方法に関するものである。
食料缶用素材である硬質ブリキ等の下地となる鋼板の製造技術の一例として、従来、ダブルリデュース圧延(以下、DR圧延と略す)法が公知である。一般に、DR圧延法は、熱間圧延から冷間圧延を経て焼鈍に至る鋼板の各処理工程を順に行って製造した冷延鋼板に対し、圧下率10〜30[%]程度の冷間圧延を再度施す圧延法である。このDR圧延法によれば、硬質ブリキ等の下地として好適な鋼板、すなわち、硬質であり且つ板厚の薄い鋼板を製造することができる。
上述したようなDR圧延法等に適用される鋼板の冷間圧延工程では、硬質の冷延鋼板を製造するが故に圧延荷重が過度に増大する場合があり、これに起因して、冷延鋼板の形状に乱れが生じ、この結果、絞りによる板破断等の問題が生じる。このような問題を解消するために、鋼板の冷間圧延工程では、冷間圧延機の圧延ロールによって噛み込まれている鋼板領域(以下、ロールバイトという)へ潤滑油を導入し、これにより、圧延ロールと鋼板表面との間に潤滑性を付与している。以下では、ロールバイトにおける圧延ロールと鋼板表面との潤滑性を「ロールバイトの潤滑性」と適宜略す。
ロールバイトへ導入する潤滑油としては、通常、エマルション圧延油が用いられる。エマルション圧延油は、油成分の粒子が水に安定して懸濁した状態(エマルション状態)の混合液体である。一般に、エマルション圧延油は、その全質量中の油物質量の比率であるエマルション濃度と、エマルション圧延油中に含まれる油成分(以下、圧延油と適宜いう)の平均粒径とによって特徴づけられる。また、エマルション圧延油は、圧延油と水との油水混合液体に界面活性剤等を添加して作製される。このエマルション圧延油の作製において、界面活性剤は、圧延油量に対する質量濃度(対油濃度)が所定値となるように添加される。エマルション圧延油の平均粒径は、界面活性剤等を添加後の油水混合液体に対して撹拌器およびポンプによる剪断を加えることにより、調整される。
一方、DR圧延法等の冷間圧延工程によって製造される鋼板の表面には、モトリングと呼ばれる白い斑点状のしみが発生することがある。モトリングは、鋼板の冷間圧延時にクーラントとして用いる潤滑油(具体的にはエマルション圧延油)中の油滴が凝集粗大化してロールバイト中に巻き込まれた結果、大きさの異なるオイルピットが鋼板表面にまだらに分布するために生じる(非特許文献1参照)。鋼板表面に発生したモトリングは、DR圧延等の冷間圧延後に行われる鋼板の電気めっき工程によって一層鮮明となり、この結果、鋼板表面の外観を著しく損なう。このようなモトリングが発生した鋼板表面の外観は、鋼板製品として許容されるものではなく、特に、食料缶用素材として不適である。なお、上述した外観不良は、その形態によってステインと称される場合もあるが、以下では、外観不良の形態によらず、その記載をモトリングに統一する。
このようなDR圧延時のモトリングを抑制する従来技術として、例えば、エマルションタイプの潤滑剤すなわちエマルション圧延油の代わりに、水溶性の物質(潤滑剤)を水に溶解させたソリューションタイプの潤滑剤をクーラントとして用い、曇点以上の液温のクーラントをロールバイトに供給して鋼板をDR圧延するものがある(特許文献1参照)。
特開2006−272402号公報
「板圧延の理論と実際」、日本鉄鋼協会発行、1984年、p.216
上述した従来技術では、鋼板を冷間圧延する際にロールバイトへ導入したソリューションタイプの潤滑剤(以下、水溶性潤滑剤と適宜いう)がロールバイト内で加工発熱に伴って曇点以上に達し、水溶性潤滑剤中の潤滑成分であるポリマーが凝集することで潤滑効果が発現される。しかしながら、DR圧延法に例示される比較的高圧下の冷間圧延では加工発熱が大きいため、ロールバイト内での水溶性潤滑剤の液温が急激に上昇する場合があり、この場合、水溶性潤滑剤中の潤滑成分であるポリマーが不規則に凝集粗大化してしまう。これに起因して、モトリングを引き起こし得る擬似的なオイルピットを鋼板表面に発生させてしまう可能性があった。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、鋼板等の金属板の冷間圧延時に必要なロールバイトの潤滑性を確保しつつ、金属板表面のモトリングの発生を防止することが可能な潤滑装置および潤滑方法を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる潤滑装置は、金属板を冷間圧延する冷間圧延機の圧延ロールと冷間圧延対象の前記金属板との間に潤滑性を付与する潤滑装置において、前記金属板の表面に防錆油を塗油して前記金属板を防錆処理する防錆処理部と、防錆処理後の前記金属板を冷間圧延する前記冷間圧延機の圧延ロールと防錆処理後の前記金属板との界面に、該界面の温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤を供給する潤滑剤供給部と、前記冷間圧延機によって防錆処理後の前記金属板を冷間圧延する際の圧下率に応じて、前記防錆油の塗油量を設定し、設定した前記塗油量の前記防錆油を前記金属板の表面に塗油するように前記防錆処理部を制御する制御部と、を備えたことを特徴とする。
また、本発明にかかる潤滑装置は、上記の発明において、前記水溶性潤滑剤は、前記防錆油の油成分の炭素鎖数に比して大きい炭素鎖数の脂肪酸を含有することを特徴とする。
また、本発明にかかる潤滑装置は、上記の発明において、前記冷間圧延機の圧延ロールと防錆処理後の前記金属板との間に前記水溶性潤滑剤を供給した際にエマルション圧延油と同程度の潤滑性を得るに要する前記防錆油の必要塗油量と、前記冷間圧延機による防錆処理後の前記金属板の圧下率との相関を示す必要塗油量情報を記憶する記憶部をさらに備え、前記制御部は、前記必要塗油量情報をもとに、防錆処理後の前記金属板の圧下率に応じた前記防錆油の必要塗油量を導出し、導出した前記必要塗油量以上の前記防錆油を前記金属板の表面に塗油するように前記防錆処理部を制御することを特徴とする。
また、本発明にかかる潤滑装置は、上記の発明において、前記金属板に対する前記防錆油の塗油量は、10[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下であることを特徴とする。
また、本発明にかかる潤滑装置は、上記の発明において、前記防錆油の40[℃]における動粘度は、15[mm2/s]未満であることを特徴とする。
また、本発明にかかる潤滑方法は、金属板を冷間圧延する冷間圧延機の圧延ロールと冷間圧延対象の前記金属板との間に潤滑性を付与する潤滑方法において、前記冷間圧延機によって前記金属板を冷間圧延する際の圧下率に応じて、前記金属板に対する防錆油の塗油量を設定する塗油量設定ステップと、設定した前記塗油量の前記防錆油を前記金属板の表面に塗油して、前記金属板を防錆処理する防錆処理ステップと、防錆処理後の前記金属板を冷間圧延する前記冷間圧延機の圧延ロールと防錆処理後の前記金属板との界面に、該界面の温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤を供給する潤滑剤供給ステップと、を含むことを特徴とする。
また、本発明にかかる潤滑方法は、上記の発明において、前記水溶性潤滑剤は、前記防錆油の油成分の炭素鎖数に比して大きい炭素鎖数の脂肪酸を含有することを特徴とする。
また、本発明にかかる潤滑方法は、上記の発明において、前記塗油量設定ステップは、前記冷間圧延機の圧延ロールと防錆処理後の前記金属板との間に前記水溶性潤滑剤を供給した際にエマルション圧延油と同程度の潤滑性を得るに要する前記防錆油の必要塗油量と、前記冷間圧延機による防錆処理後の前記金属板の圧下率との相関を示す必要塗油量情報をもとに、防錆処理後の前記金属板の圧下率に応じた前記防錆油の必要塗油量を導出し、前記防錆油の塗油量を前記必要塗油量以上に設定し、前記防錆処理ステップは、前記防錆油の塗油量を前記必要塗油量以上に制御しつつ、前記金属板の表面に前記防錆油を塗油することを特徴とする。
また、本発明にかかる潤滑方法は、上記の発明において、前記金属板に対する前記防錆油の塗油量は、10[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下であることを特徴とする。
また、本発明にかかる潤滑方法は、上記の発明において、前記防錆油の40[℃]における動粘度は、15[mm2/s]未満であることを特徴とする。
本発明によれば、金属板の冷間圧延時に必要なロールバイトの潤滑性を確保しつつ、金属板表面のモトリングの発生を防止することができるという効果を奏する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる潤滑装置の一構成例を示す図である。 図2は、鋼板に対する防錆油の必要塗油量と防錆処理後の鋼板の冷間圧延における圧下率との相関の一例を示す図である。 図3は、本発明の実施の形態にかかる潤滑方法の一例を示すフローチャートである。
以下に、添付図面を参照して、本発明にかかる潤滑装置および潤滑方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の実施の形態にかかる潤滑装置の一構成例を示す図である。図1には、本実施の形態にかかる潤滑装置1が適用される鋼板製造ラインの一例として、圧延ライン20の後半部分とDR圧延ライン30とが模式的に図示されている。また、図1において、太線矢印は、処理対象の鋼板15またはコイル16の搬送方向を示す。以下では、まず、圧延ライン20およびDR圧延ライン30の構成について説明し、その後、本実施の形態1にかかる潤滑装置1の構成について説明する。
(鋼板製造ライン)
圧延ライン20は、DR圧延法における1段階目の冷間圧延等を処理対象の鋼板15に対して行う製造ラインである。具体的には、図1に示すように、圧延ライン20は、連続焼鈍設備21と、巻取装置22とを備える。また、特に図1には図示しないが、圧延ライン20は、鋼スラブを加熱する加熱炉、高温状態の鋼スラブを連続的に熱間圧延して鋼板15を製造する熱間圧延機(粗圧延機、仕上圧延機)、冷却処理後の鋼板15を冷間圧延する冷間圧延機、加熱炉側から巻取装置側に向けて鋼スラブまたは鋼板15を搬送する搬送ロール等を備える。
圧延ライン20において、熱間圧延機は、加熱炉によって加熱された鋼スラブを連続的に熱間圧延し、これにより、鋼スラブを鋼板15に加工する。冷間圧延機は、熱間圧延によって製造された鋼板15(熱延鋼板)を冷却処理後に冷間圧延する。この圧延ライン20の冷間圧延機による鋼板15の冷間圧延は、DR圧延法における第1段階目の冷間圧延に該当する。
連続焼鈍設備21は、圧延ライン20において、上述した冷間圧延機(図示せず)の次工程に設置される。連続焼鈍設備21は、この冷間圧延機の出側から順次搬送される鋼板15(冷延鋼板)を受け入れつつ、この鋼板15を連続的に焼鈍する。また、連続焼鈍設備21は、図1に示すように、後半に防錆処理部2を備える。防錆処理部2は、本実施の形態にかかる潤滑装置1の一構成部であり、焼鈍後の鋼板15の表面を防錆油の塗油によって防錆処理する。連続焼鈍設備21は、このような防錆処理後の鋼板15を巻取装置22に向けて順次搬出する。巻取装置22は、マンドレル等を用いて構成され、図1に示すように、圧延ライン20の出側端に設置される。巻取装置22は、連続焼鈍設備21によって連続的に焼鈍および防錆処理された鋼板15をコイル状に順次巻き取り、この防錆処理後の鋼板15をコイル16にする。コイル16は、必要に応じて保管され、所望のタイミングにDR圧延ライン30に投入される。
DR圧延ライン30は、DR圧延法における2段階目の冷間圧延等を処理対象の鋼板15に対して行う製造ラインである。具体的には、図1に示すように、DR圧延ライン30は、ペイオフリール31と、DR圧延設備34と、入側ブライドルロール35と、出側ブライドルロール36と、テンションリール37とを備える。また、図1には図示しないが、DR圧延ライン30は、ペイオフリール31側からテンションリール37側に向けて鋼板15を搬送する搬送ロールを適宜備える。
ペイオフリール31は、DR圧延ライン30内に処理対象の鋼板15を順次払い出す装置であり、図1に示すように、DR圧延ライン30の入側端に設置される。ペイオフリール31は、上述した圧延ライン20によって製造されたコイル16を受け入れ、この受け入れたコイル16を形成する鋼板、すなわち、防錆処理後の鋼板15を入側ブライドルロール35に向けて順次払い出す。
入側ブライドルロール35は、互いに外周面を対向させる一対のロールを用いて構成され、図1に示すように、ペイオフリール31の後段に設置される。入側ブライドルロール35は、ペイオフリール31によってコイル16から払い出される鋼板15を順次受け入れ、受け入れた鋼板15に対して張力を加えることにより、鋼板15の歪および曲げ癖等を軽減する。入側ブライドルロール35によって処理された鋼板15は、DR圧延設備34に向けて順次搬送される。
DR圧延設備34は、DR圧延法における2段階目の冷間圧延を鋼板15に対して行うものであり、図1に示すように、2スタンドの冷間圧延機32,33によって構成される。冷間圧延機32は、鋼板15を上下方向から挟み込む一対の圧延ロール32a,32b、および圧延ロール32a,32bに対応する一対のバックアップロール等を備える。これと同様に、冷間圧延機33は、一対の圧延ロール33a,33bおよび一対のバックアップロール等を備える。また、図1に示すように、DR圧延設備34のうちの一方の冷間圧延機32は、入側ブライドルロール35の後段に設置され、他方の冷間圧延機33は、この冷間圧延機32の後段に設置される。これら2スタンドの冷間圧延機32,33のうち、DR圧延法における2段階目の冷間圧延は、前段の冷間圧延機32によって主に行われる。具体的には、冷間圧延機32は、入側ブライドルロール35から鋼板15を順次受け入れ、受け入れた鋼板15に対して所定の圧下率(例えば10〜30[%]の圧下率)の冷間圧延を順次行う。この冷間圧延機32による冷間圧延後の鋼板15は、後段の冷間圧延機33に向けて順次搬送される。後段の冷間圧延機33は、前段の冷間圧延機32から冷間圧延後の鋼板15を順次受け入れ、受け入れた鋼板15に対し、前段の冷間圧延機32に比して圧下率の小さい軽圧下の冷間圧延を順次行う。これにより、冷間圧延機33は、上述した冷間圧延機32による冷間圧延後の鋼板15の表面粗さを調整する。この冷間圧延機33による軽圧下の冷間圧延後の鋼板15は、出側ブライドルロール36に向けて順次搬送される。
出側ブライドルロール36は、互いに外周面を対向させる一対のロールを用いて構成され、図1に示すように、冷間圧延機33の後段に設置される。出側ブライドルロール36は、冷間圧延機33による冷間圧延後の鋼板15を順次受け入れ、受け入れた鋼板15に対して張力を加えることにより、鋼板15の歪および曲げ癖等を軽減する。出側ブライドルロール36によって処理された鋼板15は、テンションリール37に向けて順次搬送される。
テンションリール37は、DR圧延ライン30においてDR圧延法における2段階目の冷間圧延が施された鋼板15を順次巻き取る装置であり、図1に示すように、DR圧延ライン30の出側端に設置される。テンションリール37は、出側ブライドルロール36から搬送された鋼板15をコイル状に順次巻き取り、この冷間圧延後(DR圧延後)の鋼板15をコイル17にする。その後、コイル17は、製品として出荷され、あるいは、必要に応じ、他の工程において所定の処理を施される。
(潤滑装置)
つぎに、図1を参照しつつ、本発明の実施の形態にかかる潤滑装置1の構成について説明する。潤滑装置1は、冷間圧延機32,33の圧延ロール32a,32b,33a,33bと冷間圧延対象の鋼板15との間に潤滑性を付与する装置であり、圧延ライン20およびDR圧延ライン30に組み込まれている。このような潤滑装置1は、図1に示すように、防錆処理部2と、潤滑剤タンク3と、供給配管4と、ポンプ5と、潤滑剤供給部6a〜6dと、冷却スプレー7a,7bと、エア噴射部8a,8bとを備える。また、潤滑装置1は、鋼板15に対する防錆油の塗油量制御に必要な情報等を記憶する記憶部9と、制御部10とを備える。
防錆処理部2は、鋼板15の表面に防錆油を塗油して鋼板15を防錆処理する。具体的には、図1に示すように、防錆処理部2は、連続焼鈍設備21に組み込まれる。連続焼鈍設備21は、上述したように、順次搬送される鋼板15を連続的に焼鈍する。防錆処理部2は、このように連続焼鈍された搬送中の鋼板15の表面に対して略均一に、所定の防錆油を順次塗油し、これにより、鋼板15の表面の全域に亘って鋼板15を防錆処理する。ここで、防錆処理部2の鋼板15に対する防錆油の塗油方式は、静電方式、直接塗布方式、またはロールコーター方式等の何れの塗油方式であってもよいが、鋼板15の表面に対して防錆油を均一に塗油し易いという観点から、静電方式であることが望ましい。また、上述した鋼板15の防錆処理に用いられる防錆油は、所望のものであってもよいが、例えば日本工業規格(JIS G3303−2008年)に記載のブリキおよびブリキ原板において、表面塗油される防錆油であることが望ましい。すなわち、本発明における防錆油の40[℃]における動粘度は15[mm2/s]未満であることが望ましい。特に、防錆性能および入手し易さの観点から、本発明における防錆油は、ジオクチルセバケート等の鉱物油、綿実油、またはアセチルクエン酸トリブチル等の合成油の何れかであることが望ましい。
潤滑剤タンク3は、冷間圧延機32,33の圧延ロール32a,32b,33a,33bと鋼板15との間に供給する水溶性潤滑剤12を貯留する機能と、水溶性潤滑剤12を調製する機能とを兼ね備える。本実施の形態において、潤滑剤タンク3内には、水溶性潤滑剤原液および希釈水等が、各々必要量、投入される。潤滑剤タンク3は、投入された水溶性潤滑剤原液および希釈水等を収容し、収容した水溶性潤滑剤原液および希釈水等を撹拌して混合する。これにより、潤滑剤タンク3は、潤滑剤として好適な濃度(例えば3〜10[質量%]程度)に水溶性潤滑剤原液を希釈して、所望の性状(潤滑成分、濃度、温度等)を有する液状の水溶性潤滑剤12を調製する。また、潤滑剤タンク3は、保温機構(図示せず)を有し、得られた水溶性潤滑剤12をその曇点未満の温度範囲に維持しつつ貯留する。
ここで、水溶性潤滑剤12に含有の潤滑成分は、水に可溶な潤滑物質(以下、可溶性潤滑物質という)であって、DR圧延設備34と防錆処理後の鋼板15とのロールバイトの発熱(加工発熱、摩擦発熱等)環境下において水溶性潤滑剤12の外観を透明または半透明に維持可能なものである。上記の条件を満足する限り、水溶性潤滑剤12に含有の可溶性潤滑物質の種類は特に問わないが、例えば、この可溶性潤滑物質は、潤滑性の設計し易さの観点から、化学合成された潤滑物質であることが望ましい。このような可溶性潤滑物質を潤滑成分として含有する水溶性潤滑剤12は、冷間圧延機32,33の圧延ロール32a,32b,33a,33bと防錆処理後の鋼板15との界面の温度以下に曇点を有さない。
また、水溶性潤滑剤12は、その潤滑性を補うための添加剤として、上述した防錆処理部2における防錆油の油成分の炭素鎖数に比して大きい炭素鎖数の脂肪酸を含有する。この脂肪酸の水溶性潤滑剤12に対する添加量は、10[質量%]以下であることが望ましい。何故ならば、この脂肪酸添加量が10[質量%]を超過した場合、水溶性潤滑剤12の油性が増し、この結果、鋼板15の表面にモトリングが発生し易くなるからである。本発明において、水溶性潤滑剤12に含有の脂肪酸の種類は特に問わないが、一般的な冷間圧延油として用いられる脂肪酸を水溶性潤滑剤12に添加することが望ましい。
さらに、水溶性潤滑剤12は、上述した脂肪酸以外の添加剤として、極圧添加剤、酸化防止剤、水溶性防錆剤、消泡剤、防腐剤等の通常の冷間圧延油に用いられる添加剤を適宜含有してもよい。例えば、極圧添加剤として、塩素化油脂や塩素化脂肪酸エステル等の塩素化化合物、硫化油脂やアルキルポリサルファイド等の合成硫黄化合物、リン化合物、および有機金属塩化合物の中から選択される1種類以上の物質を用いることができる。また、水溶性防錆剤として、例えば、脂肪族モノカルボン酸等の脂肪酸類にアルカノールアミン等を塩基性物質として加えたものを用いることができる。
供給配管4は、潤滑剤タンク3から潤滑剤供給部6a〜6dおよび冷却スプレー7a,7bへ水溶性潤滑剤12を導く配管である。具体的には、図1に示すように、供給配管4は、DR圧延設備34を構成する2スタンドの冷間圧延機32,33の入側および出側に分岐する複数の分岐管4a〜4cを有する。分岐管4a,4cは、供給配管4の主管から冷間圧延機32,33の各入側に向けて各々分岐し、複数対の潤滑剤供給部6a〜6dの各一対に各々接続される。分岐管4bは、供給配管4の主管から冷間圧延機32の出側に向けて分岐し、一対の冷却スプレー7a,7bに接続される。供給配管4は、その入力端が潤滑剤タンク3に接続され、これらの分岐管4a〜4cを介して潤滑剤タンク3と潤滑剤供給部6a〜6dおよび冷却スプレー7a,7bとを連通する。このような供給配管4は、分岐管4a〜4cを通じて潤滑剤タンク3から各潤滑剤供給部6a〜6dおよび各冷却スプレー7a,7bへ水溶性潤滑剤12を導く。
ポンプ5は、供給配管4を通じて潤滑剤タンク3から各潤滑剤供給部6a〜6dおよび各冷却スプレー7a,7bへ水溶性潤滑剤12を流通させるものである。具体的には、図1に示すように、ポンプ5は、供給配管4の途中に設けられる。ポンプ5は、潤滑剤タンク3内の水溶性潤滑剤12を供給配管4内へ吸引するとともに、供給配管4の分岐管4a〜4cの各出力端に向けて水溶性潤滑剤12を圧送する。
潤滑剤供給部6a〜6dは、防錆処理後の鋼板15を冷間圧延する冷間圧延機32,33の圧延ロール32a,32b,33a,33bと防錆処理後の鋼板15との界面に、この界面の温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤12を供給する。具体的には、潤滑剤供給部6a〜6dは、各々、スプレーノズル等を用いて構成される。図1に示すように、潤滑剤供給部6a,6bは、供給配管4の分岐管4aの出力端と接続され、鋼板15の板厚方向(上下方向)に対向するように冷間圧延機32の入側に配置される。この配置状態において、上側の潤滑剤供給部6aは、冷間圧延機32の圧延ロール32aの入側にノズル口を向ける。下側の潤滑剤供給部6bは、冷間圧延機32の圧延ロール32bの入側にノズル口を向ける。潤滑剤供給部6a,6bは、分岐管4a等を通じて潤滑剤タンク3から水溶性潤滑剤12を受け入れ、受け入れた水溶性潤滑剤12を、冷間圧延機32の圧延ロール32a,32bと防錆処理後の鋼板15との界面に噴射供給する。これにより、潤滑剤供給部6a,6bは、この界面の温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤12を、防錆処理後の鋼板15の冷間圧延機32におけるロールバイトへ供給する。これと同様に、潤滑剤供給部6c,6dは、供給配管4の分岐管4cの出力端と接続され、鋼板15の板厚方向に対向するように冷間圧延機33の入側に配置される。この配置状態において、上側の潤滑剤供給部6cは、冷間圧延機33の圧延ロール33aの入側にノズル口を向ける。下側の潤滑剤供給部6dは、冷間圧延機33の圧延ロール33bの入側にノズル口を向ける。潤滑剤供給部6c,6dは、分岐管4c等を通じて潤滑剤タンク3から水溶性潤滑剤12を受け入れ、受け入れた水溶性潤滑剤12を、冷間圧延機33の圧延ロール33a,33bと防錆処理後の鋼板15との界面に噴射供給する。これにより、潤滑剤供給部6c,6dは、この界面の温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤12を、防錆処理後の鋼板15の冷間圧延機33におけるロールバイトへ供給する。
冷却スプレー7a,7bは、冷間圧延機32の圧延ロール32a,32b等に対して水溶性潤滑剤12をクーラントとして噴射供給する。具体的には、図1に示すように、冷却スプレー7a,7bは、供給配管4の分岐管4bの出力端と接続され、鋼板15の板厚方向に対向するように冷間圧延機32の出側に配置される。この配置状態において、上側の冷却スプレー7aは、冷間圧延機32の圧延ロール32aに対応するバックアップロールにノズル口を向ける。下側の冷却スプレー7bは、冷間圧延機32の圧延ロール32bに対応するバックアップロールにノズル口を向ける。冷却スプレー7a,7bは、分岐管4b等を通じて潤滑剤タンク3から水溶性潤滑剤12を受け入れ、受け入れた水溶性潤滑剤12を、冷間圧延機32の各バックアップロールに噴射する。冷却スプレー7a,7bは、各バックアップロールを介して圧延ロール32a,32bにクーラントとしての水溶性潤滑剤12を供給する。これにより、冷却スプレー7a,7bは、冷間圧延機32の各バックアップロールおよび各圧延ロール32a,32bを、鋼板15の冷間圧延に好適な温度に冷却する。
エア噴射部8a,8bは、冷間圧延後の鋼板15に残存する水溶性潤滑剤12を除去するものである。具体的には、図1に示すように、エア噴射部8aは、DR圧延設備34の第1スタンド目の冷間圧延機32と第2スタンド目の冷間圧延機33との間に配置される。エア噴射部8aは、冷間圧延機32によって冷間圧延された後の鋼板15の上面に空気を噴射し、これにより、この冷間圧延後の鋼板15の上面から水溶性潤滑剤12を除去する。一方、エア噴射部8bは、図1に示すように、第2スタンド目の冷間圧延機33の後段に配置される。エア噴射部8bは、冷間圧延機33によって冷間圧延された後の鋼板15の上面に空気を噴射し、これにより、この冷間圧延後の鋼板15の上面から水溶性潤滑剤12を除去する。
記憶部9は、上述した防錆処理部2によって鋼板15の表面に塗油される防錆油の塗油量制御に必要な情報を記憶する。具体的には、記憶部9は、図1に示すように、必要塗油量情報9aを記憶する。必要塗油量情報9aは、冷間圧延機32,33の圧延ロール32a,32b,33a,33bと防錆処理後の鋼板15との間に水溶性潤滑剤12を供給した際にエマルション圧延油と同程度の潤滑性を得るに要する防錆油の必要塗油量Qbと、冷間圧延機32,33によって冷間圧延される防錆処理後の鋼板15の圧下率Prとの相関を示す情報である。記憶部9は、冷間圧延対象の鋼板15の金属種類(鋼種)およびサイズ(板幅、板厚等)等の冷間圧延条件別に防錆油の必要塗油量Qbと防錆処理後の鋼板15の圧下率Prとの相関を示す各情報を、必要塗油量情報9aとして保持管理する。また、記憶部9は、このような必要塗油量情報9aの中から、制御部10によって読み出し指示された情報を制御部10に送信する。
制御部10は、上述した防錆処理部2によって鋼板15の表面に塗油される防錆油の塗油量を制御する。具体的には、制御部10は、冷間圧延機32,33による鋼板15の冷間圧延条件をプロセスコンピュータ11から取得する。このプロセスコンピュータ11からの冷間圧延条件には、例えば、冷間圧延機32,33によって冷間圧延される防錆処理後の鋼板15の鋼種、サイズ、圧下率Pr、圧延サイクル等が含まれる。制御部10は、このプロセスコンピュータ11から取得した冷間圧延条件に基づいて、冷間圧延機32,33による鋼板15の圧下率Prを、冷間圧延機32,33が防錆処理後の鋼板15を冷間圧延する以前に認識する。制御部10は、冷間圧延機32,33によって防錆処理後の鋼板15を冷間圧延する際の圧下率Prに応じて、鋼板15の表面に塗油すべき防錆油の塗油量Qaを設定し、設定した塗油量Qaの防錆油を鋼板15の表面に塗油するように防錆処理部2を制御する。この場合、制御部10は、プロセスコンピュータ11からの冷間圧延条件に合った必要塗油量情報9aを記憶部9から読み出し、読み出した必要塗油量情報9aをもとに、防錆処理後の鋼板15の圧下率Prに応じた防錆油の必要塗油量Qbを導出する。制御部10は、この導出した必要塗油量Qb以上の防錆油を鋼板15の表面に塗油するように防錆処理部2を制御する。すなわち、制御部10は、防錆処理部2が鋼板15の表面に塗油する防錆油の塗油量Qaを、必要塗油量Qb以上に制御する。
一方、プロセスコンピュータ11は、圧延ライン20およびDR圧延ライン30等の鋼板製品の製造ラインにおいて、鋼板製品に要求される鋼種およびサイズ等を示すオーダー情報と、このオーダー情報を満足するために必要な冷間圧延条件等の製造条件とを保持管理する。本実施の形態において、プロセスコンピュータ11は、鋼板15に対して防錆処理を施す以前のタイミングに、この鋼板15を対象とする冷間圧延機32,33の冷間圧延条件を制御部10に提供する。プロセスコンピュータ11は、このような制御部10に対する冷間圧延条件の提供処理を鋼板製品別に順次行う。
(防錆油の塗油量)
つぎに、冷間圧延対象の鋼板15の表面に塗油すべき防錆油の塗油量Qaについて説明する。本実施の形態において、鋼板15に対する防錆油の塗油量Qaは、鋼板15を防錆処理した後に行われる鋼板15の冷間圧延時の圧下率Prに応じて制御される。詳細には、鋼板15の圧下率Prに応じて防錆油の必要塗油量Qbが導出され、防錆油の塗油量Qaは、この必要塗油量Qb以上となるように制御される。ここで、防錆油の必要塗油量Qbは、防錆処理後の鋼板15を冷間圧延する際のロールバイト(以下、冷間圧延ロールバイトと適宜いう)へ水溶性潤滑剤12を供給した際にエマルション圧延油と同程度の潤滑性を得るために最低限必要な防錆油の塗油量である。
本実施の形態にかかる潤滑装置1は、鋼板15に対する防錆油の必要塗油量Qbと防錆処理後の鋼板15の冷間圧延による圧下率Prとの相関を示す必要塗油量情報9aを記憶部9に保存し(図1参照)、上述したように、必要塗油量情報9aを用いて防錆油の塗油量Qaを制御する。このような必要塗油量情報9aは、防錆処理されていない鋼板15の冷間圧延ロールバイトにエマルション圧延油を供給して潤滑性を付与する従来の冷間圧延工程の操業実績データと、防錆処理後の鋼板15の冷間圧延ロールバイトに水溶性潤滑剤12を供給して潤滑性を付与する冷間圧延工程の実験データと、を用いて設定される。例えば、上記操業実績データに基づくエマルション圧延油起因の冷間圧延ロールバイトの潤滑性と水溶性潤滑剤12および防錆油起因の冷間圧延ロールバイトの潤滑性とを同程度とする防錆油の塗油量範囲が、上記実験データに基づいて、鋼板15の圧下率Pr毎、鋼種毎、サイズ毎、圧延サイクル毎に導出される。鋼板15に対する防錆油の必要塗油量Qbは、上記のように導出した塗油量範囲の下限とし、このような鋼板15に対する防錆油の必要塗油量Qbと防錆処理後の鋼板15の圧下率Prとの相関が、鋼板15の鋼種毎、サイズ毎、圧延サイクル毎に設定される。
図2は、鋼板に対する防錆油の必要塗油量と防錆処理後の鋼板の冷間圧延における圧下率との相関の一例を示す図である。本実施の形態では、図2に例示されるような防錆油の必要塗油量Qbと防錆処理後の鋼板15の圧下率Prとの相関を示す必要塗油量情報9aを用いて、鋼板15の表面に塗油すべき防錆油の塗油量Qaが制御される。例えば図2に示すように、防錆油の必要塗油量Qbは、防錆処理後の鋼板15の圧下率Prの増加に伴い、段階的に増加する。鋼板15に対する防錆油の塗油量Qaは、このような圧下率Prに応じた必要塗油量Qbの変化と、上述した防錆処理部2による防錆油の塗油量ばらつき等の設備能力とを加味して、防錆処理後の鋼板15の圧下率Prに対応付けられる必要塗油量Qb以上を確保するように制御される。
また、鋼板15に対する防錆油の塗油量Qaは、上述した必要塗油量Qb以上という条件を満足するとともに、10[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下の範囲内であるという条件を満足することが望ましい。これは、次の理由による。すなわち、防錆油の塗油量Qaが10[mg/m2]未満である場合、防錆処理後の鋼板15の表面における防錆油の付着量が少なすぎることから、この鋼板15の冷間圧延ロールバイトに対する潤滑性付与に防錆油が十分寄与しない。この結果、エマルション圧延油と同程度の冷間圧延ロールバイトの潤滑性を防錆処理後の鋼板15に対して確保し難くなる。一方、防錆油の塗油量Qaが150[mg/m2]を超過する場合、防錆処理後の鋼板15の表面における防錆油の付着量が多すぎることから、この鋼板15を搬送する搬送ロールと鋼板15との間においてスリップが発生し易くなる。この結果、鋼板15の搬送に支障を来たす可能性がある。
(潤滑方法)
つぎに、本発明の実施の形態にかかる潤滑方法について説明する。図3は、本発明の実施の形態にかかる潤滑方法の一例を示すフローチャートである。本実施の形態にかかる潤滑方法は、図1に示す潤滑装置1を用いて冷間圧延機32,33の圧延ロール32a,32b,33a,33bと冷間圧延対象の鋼板15との間に潤滑性を付与する潤滑方法であり、図3に示すステップS101〜S104の各工程を順次行うものである。以下、図1〜3を適宜参照しつつ、本実施の形態にかかる潤滑方法を詳細に説明する。
本実施の形態にかかる潤滑方法において、潤滑装置1は、図3に示すように、まず、冷間圧延対象の鋼板15の冷間圧延条件を取得する(ステップS101)。ステップS101において、制御部10は、DR圧延ライン30の冷間圧延機32,33による鋼板15の冷間圧延条件をプロセスコンピュータ11から取得する。具体的には、制御部10は、鋼板15の冷間圧延条件として、鋼板15の鋼種、冷間圧延前後の鋼板15の各板幅および各板厚、防錆処理後の鋼板15の冷間圧延による圧下率Pr等を取得する。
続いて、潤滑装置1は、鋼板15の冷間圧延による圧下率Prに応じて、鋼板15に対する防錆油の塗油量Qaを設定する(ステップS102)。ステップS102において、制御部10は、プロセスコンピュータ11から取得した冷間圧延条件のうちの圧下率を、冷間圧延機32,33によって鋼板15を冷間圧延する際の圧下率Prとして冷間圧延前に認識する。ついで、制御部10は、この認識した圧下率Prに応じて、鋼板15に対する防錆油の塗油量Qaを設定する。この場合、制御部10は、プロセスコンピュータ11から取得した冷間圧延条件に合った必要塗油量情報9aを記憶部9から読み出し、読み出した必要塗油量情報9aをもとに、防錆処理後の鋼板15の圧下率Prに応じた防錆油の必要塗油量Qbを導出する。ここで、必要塗油量情報9aは、上述したように、冷間圧延機32,33の圧延ロール32a,32b,33a,33bと防錆処理後の鋼板15との間に水溶性潤滑剤12を供給した際にエマルション圧延油と同程度の潤滑性を得るに要する防錆油の必要塗油量Qbと、防錆処理後の鋼板15の冷間圧延機32,33による圧下率Prとの相関を示す情報である。この必要塗油量情報9aにおいて、鋼板15に対する防錆油の必要塗油量Qbは、例えば図2に示すように、防錆処理後の鋼板15の圧下率Prの増加に伴い、段階的に増加する。制御部10は、このような必要塗油量情報9aに示される必要塗油量Qbと圧下率Prとの相関をもとに、プロセスコンピュータ11からの圧下率Prに対応する必要塗油量Qbを導出する。ついで、制御部10は、この圧下率Prに応じた必要塗油量Qbと、防錆処理部2の設備能力(塗油量バラツキ等)とを加味して、防錆油の塗油量Qaを必要塗油量Qb以上に設定する。例えば、制御部10は、圧下率Prが10[%]である場合、この圧下率Prに対応する必要塗油量Qb(=30[mg/m2])に対し、防錆処理部2の塗油量バラツキ以上の余裕塗油量を加算して、この必要塗油量Qb以上の塗油量Qa(≧30[mg/m2])を設定する。また、制御部10は、塗油量Qaの設定に際し、塗油量Qaの下限を10[mg/m2]とし、塗油量Qaの上限を150[mg/m2]とする。すなわち、制御部10は、圧下率Prに応じた必要塗油量Qb以上であり且つ10[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下の範囲内である塗油量Qaを、鋼板15に塗油すべき防錆油の塗油量として設定する。
つぎに、潤滑装置1は、ステップS102において設定した塗油量Qaの防錆油を鋼板15の表面に塗油して鋼板15を防錆処理する(ステップS103)。ステップS103において、潤滑装置1は、防錆油の塗油量Qaを必要塗油量Qb以上に制御しつつ、鋼板15の表面に防錆油を塗油する。詳細には、制御部10は、上述したように圧下率Prに応じて設定した塗油量Qaの防錆油を鋼板15の表面に塗油するように防錆処理部2を制御する。防錆処理部2は、この制御部10の制御に基づき、圧下率Prに応じた必要塗油量Qb以上であるという条件と10[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下の範囲内であるという条件とをとも満足する塗油量Qaの防錆油を鋼板15の表面に塗油する。また、このように防錆処理部2によって鋼板15の表面に塗油される防錆油の40[℃]における動粘度は、例えば15[mm2/s]未満である。本実施の形態において、防錆処理部2は、連続焼鈍設備21によって連続的に焼鈍された搬送中の鋼板15に対し、上述した塗油量Qaの防錆油の塗油処理を順次行う。これにより、防錆処理部2は、連続焼鈍後の鋼板15をその表面全域に亘って防錆処理する。
その後、潤滑装置1は、防錆処理後の鋼板15と冷間圧延機32,33の圧延ロール32a,32b,33a,33bとの界面に、この界面の温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤12を供給する(ステップS104)。
ステップS104において、防錆処理後の鋼板15は、圧延ライン20の巻取装置22によってコイル状に巻き取られ、この結果、コイル16となる。コイル16は、所望のタイミングにDR圧延ライン30のペイオフリール31に取り付けられる。ペイオフリール31は、このコイル16から防錆処理後の鋼板15をDR圧延ライン30の冷間圧延機32に向けて順次払い出す。ペイオフリール31から払い出された防錆処理後の鋼板15は、入側ブライドルロール35を経由して冷間圧延機32の入側に到達し、冷間圧延機32の圧延ロール32a,32bによって順次冷間圧延される。
潤滑剤供給部6a,6bは、分岐管4a等を通じて潤滑剤タンク3から受け入れた水溶性潤滑剤12を、冷間圧延機32の圧延ロール32a,32bと防錆処理後の鋼板15との界面に噴射供給する。ここで、水溶性潤滑剤12は、冷間圧延における加工発熱および摩擦発熱によって温度上昇する圧延ロール32a,32bと防錆処理後の鋼板15との界面の温度以下に曇点を有さない潤滑剤である。また、水溶性潤滑剤12は、鋼板15に塗油された防錆油の油成分の炭素鎖数に比して大きい炭素鎖数の脂肪酸を含有している。潤滑剤供給部6a,6bは、このように曇点がなく且つ脂肪酸を含有する水溶性潤滑剤12を圧延ロール32a,32bと防錆処理後の鋼板15との界面に噴射し、これにより、この水溶性潤滑剤12を防錆処理後の鋼板15の冷間圧延ロールバイトに供給する。潤滑装置1は、潤滑剤供給部6a,6bから防錆処理後の鋼板15の冷間圧延ロールバイトに供給した水溶性潤滑剤12と、この鋼板15の表面に付着する防錆油とを、この冷間圧延ロールバイト内において組み合わせる。これにより、潤滑装置1は、冷間圧延機32の圧延ロール32a,32bと冷間圧延対象の鋼板15との間にエマルション圧延油と同程度の潤滑性を付与する。
一方、ステップS104において、防錆処理後の鋼板15は、冷間圧延機32によって冷間圧延された後、冷間圧延機32の出側からエア噴射部8aによるエア噴射領域を経由して冷間圧延機33の入側に到達する。その際、エア噴射部8aは、このエア噴射領域に達した鋼板15の上面に空気を噴射し、これにより、この鋼板15の上面から水溶性潤滑剤12を除去する。冷間圧延機32による冷間圧延後の鋼板(以下、防錆および冷延後の鋼板という)15は、このように水溶性潤滑剤12を除去された後、冷間圧延機33の圧延ロール33a,33bによって順次冷間圧延される。
潤滑剤供給部6c,6dは、分岐管4c等を通じて潤滑剤タンク3から受け入れた水溶性潤滑剤12を、冷間圧延機33の圧延ロール33a,33bと防錆および冷延後の鋼板15との界面に噴射供給する。ここで、水溶性潤滑剤12は、上述した冷間圧延機32の場合と同様に、圧延ロール33a,33bと防錆および冷延後の鋼板15との界面の温度以下に曇点を有さない。また、水溶性潤滑剤12は、上述したように防錆油の油成分の炭素鎖数に比して大きい炭素鎖数の脂肪酸を含有している。潤滑剤供給部6c,6dは、このように曇点がなく且つ脂肪酸を含有する水溶性潤滑剤12を圧延ロール33a,33bと防錆および冷延後の鋼板15との界面に噴射し、これにより、この水溶性潤滑剤12を防錆および冷延後の鋼板15の冷間圧延ロールバイトに供給する。潤滑装置1は、潤滑剤供給部6c,6dから防錆および冷延後の鋼板15の冷間圧延ロールバイトに供給した水溶性潤滑剤12と、この鋼板15の表面に付着する防錆油とを、この冷間圧延ロールバイト内において組み合わせる。これにより、潤滑装置1は、冷間圧延機33の圧延ロール33a,33bと冷間圧延対象の鋼板15との間にエマルション圧延油と同程度の潤滑性を付与する。
冷間圧延機33によって冷間圧延された後の鋼板(以下、DR圧延後の鋼板という)15は、冷間圧延機33の出側からエア噴射部8bによるエア噴射領域を経由して出側ブライドルロール36の入側に順次到達する。その際、エア噴射部8bは、このエア噴射領域に達したDR圧延後の鋼板15の上面に空気を噴射し、これにより、このDR圧延後の鋼板15の上面から水溶性潤滑剤12を除去する。DR圧延後の鋼板15は、このように水溶性潤滑剤12を除去された後、出側ブライドルロール36を経由してテンションリール37に順次到達し、テンションリール37により、コイル状に巻き取られてコイル17となる。その後、コイル17は、製品として出荷され、あるいは、必要に応じ、他の工程の処理を施される。
他方、ステップS104において、冷却スプレー7a,7bは、分岐管4b等を通じて潤滑剤タンク3から受け入れた水溶性潤滑剤12を、冷間圧延機32の各バックアップロールに噴射する。これにより、冷却スプレー7a,7bは、冷間圧延機32の各バックアップロールおよび各圧延ロール32a,32bを、鋼板15の冷間圧延に好適な温度に冷却する。
なお、潤滑装置1は、冷間圧延対象の鋼板15が搬送される都度、この鋼板15に対して、上述したステップS101〜S104の各工程を順次行う。これにより、潤滑装置1は、順次搬送される鋼板15の冷間圧延ロールバイトにおいてエマルション圧延油と同程度の潤滑性を確保するとともに、鋼板15の表面におけるモトリングの発生を防止する。
(実施例および比較例)
つぎに、本発明の作用効果を具体的に説明するための実施例および比較例について説明する。本実施例では、図1に示した圧延ライン20の連続焼鈍設備21、DR圧延ライン30の冷間圧延機32,33、および潤滑装置1等を用い、冷間圧延対象の鋼板15を冷間圧延した。
具体的には、連続焼鈍設備21によって鋼板15を連続焼鈍し、ついで、この連続焼鈍後の鋼板15の表面に潤滑装置1の防錆処理部2によって防錆油を塗油し、これにより、この連続焼鈍後の鋼板15を防錆処理した。この防錆処理において、防錆処理部2は、ジオクチルセバケート(炭素鎖数=10)を主成分とする防錆油を連続焼鈍後の鋼板15の表面に静電方式によって塗油した。一方、DR圧延ライン30における全2スタンドの冷間圧延機32,33のうち、第1スタンド目の冷間圧延機32は、防錆処理後の鋼板15に対し、圧下率Prを15〜30[%]に変化させて冷間圧延を順次行った。第2スタンド目の冷間圧延機33は、この冷間圧延機32による冷間圧延後の鋼板15に対し、圧下率Prが1[%]未満である軽圧下の冷間圧延を順次行い、これにより、鋼板15の表面粗さを調整した。なお、冷間圧延機32,33による冷間圧延時の鋼板15の通板速度は、600[m/分]を目標速度として設定した。
また、冷間圧延機32が防錆処理後の鋼板15を冷間圧延する際、潤滑装置1は、潤滑剤供給部6a,6bから冷間圧延機32の圧延ロール32a,32bと防錆処理後の鋼板15との界面に水溶性潤滑剤12を供給した。これと同様に、冷間圧延機33が防錆および冷延後の鋼板15を冷間圧延する際、潤滑装置1は、潤滑剤供給部6c,6dから冷間圧延機33の圧延ロール33a,33bと防錆および冷延後の鋼板15との界面に水溶性潤滑剤12を供給した。上記の水溶性潤滑剤12は、冷間圧延機32,33における鋼板15のロールバイトの温度以下に曇点を有さない潤滑剤である。本実施例において、このような水溶性潤滑剤12は、潤滑剤タンク3内で水溶性潤滑剤原液を希釈水と混合して希釈し、これにより、濃度が5[質量%]であり且つ温度が30[℃]である潤滑剤とした。また、この水溶性潤滑剤12は、上述した炭素鎖数=10の防錆油よりも大きい炭素鎖数(=12)の脂肪酸を5[質量%]添加したものとした。
本実施例では、冷間圧延対象の鋼板15として、母材厚が0.23[mm]であり、板幅が900[mm]であるブリキ原板を用い、上述した条件の下、この鋼板15に対する防錆油の塗油量Qaを冷間圧延機32による圧下率Prに応じて制御しつつ、防錆処理後の鋼板15を順次冷間圧延した。ここで、防錆油の塗油量Qaは、圧下率Prに応じた防錆油の必要塗油量Qb以上という条件と10[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下であるという条件とをともに満足するように制御した。例えば、本実施例において、鋼板15に対する防錆油の必要塗油量Qbと防錆処理後の鋼板15の圧下率Prとが、図2に示したような相関になったとする。この場合を、防錆油の塗油量Qaは、圧下率Prが15[%]であれば、15[%]の圧下率Prに応じた必要塗油量Qb=30[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下に制御する。圧下率Prが20〜25[%]であれば、防錆油の塗油量Qaは、20〜25[%]の圧下率Prに応じた必要塗油量Qb=50[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下に制御する。圧下率Prが30[%]であれば、防錆油の塗油量Qaは、30[%]の圧下率Prに応じた必要塗油量Qb=80[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下に制御する。
上述したように圧下率Prに応じて鋼板15に対する防錆油の塗油量Qaを制御しつつ、冷間圧延機32の圧延線荷重を圧下率Pr別に測定し、圧下率Pr別の圧延線荷重の測定値を用いて、本実施例における冷間圧延機32と鋼板15とのロールバイトの潤滑性を評価した。一方、本実施例に対する比較例では、圧下率Prに応じた塗油量Qaの調整を行わず、鋼板15の表面に一定の塗油量(=30[mg/m2])の防錆油を塗油し、その他の条件を本実施例と同じにした。この比較例についても、冷間圧延機32の圧延線荷重を圧下率Pr別に測定し、圧下率Pr別の圧延線荷重の測定値を用いて冷間圧延機32と鋼板15とのロールバイトの潤滑性を評価した。これら実施例および比較例の各潤滑性評価の結果を表1に示す。
Figure 0006052196
表1において、「○」印は、冷間圧延機32における圧延油供給時の圧延線荷重の実績値と、実施例または比較例における圧下率Pr別の圧延線荷重の測定値とを比較した結果、この圧下率Pr別の圧延線荷重の測定値が圧延油供給時の圧延線荷重の実績値以下であったことを示す。すなわち、「○」印は、冷間圧延機32と防錆処理後の鋼板15とのロールバイトの潤滑性がエマルション圧延油起因のロールバイトの潤滑性と同程度以上となって良好であることを意味する。一方、「×」印は、上述した冷間圧延機32における圧延油供給時の圧延線荷重の実績値と圧下率Pr別の圧延線荷重の測定値とを比較した結果、この圧下率Pr別の圧延線荷重の測定値が圧延油供給時の圧延線荷重の実績値を超過したことを示す。すなわち、「×」印は、冷間圧延機32と防錆処理後の鋼板15とのロールバイトの潤滑性がエマルション圧延油起因のロールバイトの潤滑性よりも劣るものとなって圧延困難であることを意味する。なお、圧延油供給時の圧延線荷重は、冷間圧延機32と鋼板15とのロールバイトにエマルション圧延油を供給しつつ鋼板15を冷間圧延した場合に得られる冷間圧延機32の圧延線荷重である。また、エマルション圧延油起因のロールバイトの潤滑性は、鋼板15のロールバイトにエマルション圧延油を供給した場合に得られる鋼板15のロールバイトの潤滑性である。
表1に示すように、本実施例では、圧下率Prが15[%]、20[%]、25[%]、30[%]の何れの場合であっても、冷間圧延機32と防錆処理後の鋼板15とのロールバイトの潤滑性を、エマルション圧延油起因のロールバイトの潤滑性と同程度以上に維持することができた。すなわち、エマルション圧延油起因のロールバイトの潤滑性と同程度以上の潤滑性を冷間圧延機32と防錆処理後の鋼板15とのロールバイトに確保しながら、この鋼板15に対し、幅広い圧下率の冷間圧延を行うことができた。これは、圧下率Prに応じた必要塗油量Qb以上の防錆油を鋼板15の表面に付着させたことにより、鋼板15のロールバイトにおいて、この防錆油と水溶性潤滑剤12とが適度に組み合わさり、この結果、鋼板15のロールバイトに及ぼす水溶性潤滑剤12の潤滑作用が防錆油によって高められたためである。さらに、本実施例では、上記の防錆油よりも大きい炭素鎖数の脂肪酸を水溶性潤滑剤12に添加しているので、鋼板15の表面上の防錆油と水溶性潤滑剤12との組み合せによって、鋼板15のロールバイトの潤滑性の向上を促進することができた。この水溶性潤滑剤12に含有の脂肪酸の炭素鎖数を大きくすることによって鋼板15のロールバイトの潤滑性が向上する理由として、例えば、この脂肪酸の炭素鎖が長くなることにより、ロールバイトでの金属接触(例えば鋼板15と圧延ロール32a,32bとの接触)を抑制できることが考えられる。あるいは、チェーンマッチング理論によって脂肪酸と防錆油とが鋼板15のロールバイトで規則的に配列して強固な潤滑膜を形成することも、その理由の一つとして考えられる。
また、表1には特に示されていないが、本実施例では、圧下率Prによらず常に、鋼板15の表面にモトリングは発生しなかった。これは、冷間圧延機32と防錆処理後の鋼板15とのロールバイトに、このロールバイトの温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤12を供給して、このロールバイトに潤滑性を付与したためである。すなわち、このような曇点のない水溶性潤滑剤12を防錆処理後の鋼板15のロールバイトに供給することにより、このロールバイト内の水溶性潤滑剤12は、その潤滑成分を凝集粗大化させることなく、冷間圧延機32の圧延ロール32a,32bと鋼板15との間における潤滑性の向上に寄与する。
一方、比較例では、表1に示すように、圧下率Prが20[%]、25[%]、30[%]である場合、冷間圧延機32と防錆処理後の鋼板15とのロールバイトの潤滑性が、エマルション圧延油起因のロールバイトの潤滑性よりも劣るものとなった。これは、鋼板15の表面に塗油すべき防錆油の塗油量Qaが圧下率Prに応じた必要塗油量Qbに足らず、この結果、水溶性潤滑剤12の潤滑作用に対する防錆油の寄与が不足となったためである。
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、冷間圧延機によって鋼板を冷間圧延する際の圧下率に応じて、この冷間圧延対象の鋼板に対する防錆油の塗油量を設定し、設定した塗油量の防錆油を冷間圧延対象の鋼板の表面に塗油して、この鋼板を防錆処理し、この防錆処理後の鋼板と冷間圧延機の圧延ロールとの界面に、この界面の温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤を供給して、冷間圧延機の圧延ロールと防錆処理後の鋼板との間に潤滑性を付与している。
このため、冷間圧延機と防錆処理後の鋼板とのロールバイトにおいて、圧下率に応じた塗油量の防錆油と曇点のない水溶性潤滑剤とを適度に組み合わせるとともに、この水溶性潤滑剤の潤滑成分を凝集粗大化させることなく、このロールバイトに及ぼす水溶性潤滑剤の潤滑作用をこの防錆油によって高めることができる。これにより、冷間圧延機と防錆処理後の鋼板とのロールバイトの潤滑性を、この鋼板の圧下率によらず常に、エマルション圧延油起因のロールバイトの潤滑性と同程度以上に維持できるとともに、モトリングを引き起こし得るオイルピットが鋼板表面に発生する事態を回避できる。この結果、鋼板の冷間圧延時に必要なロールバイトの潤滑性を確保しつつ、冷間圧延後の鋼板表面におけるモトリングの発生を防止することができる。
本発明にかかる潤滑装置および潤滑方法を用いることにより、エマルション圧延油の供給時と同程度以上の潤滑性を冷間圧延対象の鋼板のロールバイトに確保しながら、この鋼板に対する幅広い圧下率の冷間圧延を行うことができる。さらには、モトリングのない良好な外観の冷延鋼板を安定して製造することができる。特に、本発明にかかる潤滑装置および潤滑方法をDR圧延法に適用することにより、食料缶用素材等の高品質な外観を要求される冷延鋼板をDR圧延によって安定して製造することができる。
また、本発明の実施の形態では、冷間圧延対象の鋼板表面に塗油する防錆油の油成分の炭素鎖数に比して大きい炭素鎖数の脂肪酸を水溶性潤滑剤に添加し、この脂肪酸を含有し且つ曇点のない水溶性潤滑剤を防錆処理後の鋼板と冷間圧延機の圧延ロールとの界面に供給している。これにより、冷間圧延機と防錆処理後の鋼板とのロールバイトにおいて、この鋼板表面の防錆油と、この水溶性潤滑剤中の脂肪酸とを組み合わせることができる。この結果、冷間圧延対象の鋼板のロールバイトに及ぼす水溶性潤滑剤の潤滑作用を、防錆油および脂肪酸の相乗効果によって一層向上できることから、上記ロールバイトの潤滑性の向上を一層促進することができる。
なお、上述した実施の形態では、鋼板15のロールバイトに供給した水溶性潤滑剤12を鋼板15の冷間圧延後に空気噴射によって鋼板15の表面から除去していたが、本発明は、これに限定されるものではない。また、エア噴射部8a,8bによって鋼板15の上面から除去した水溶性潤滑剤12と鋼板15の下面から落下した水溶性潤滑剤12とを受け入れる回収容器と、この回収容器から潤滑剤タンク3に向けて使用済みの水溶性潤滑剤12を流通させる流通管とを潤滑装置1に設け、水溶性潤滑剤12を回収しつつ循環使用してもよい。
また、上述した実施の形態では、圧延ライン20の連続焼鈍設備21に潤滑装置1の防錆処理部2を組み込んでいたが、本発明は、これに限定されるものではない。具体的には、防錆処理部2は、連続焼鈍設備21に組み込まず、独立して圧延ライン20(例えば連続焼鈍設備21の次工程等)に設置してもよいし、DR圧延ライン30のペイオフリール31と冷間圧延機32との間に設置してもよい。すなわち、防錆処理部2は、DR圧延法の2段階目の冷間圧延を行う冷間圧延機32等、対象とする冷間圧延機の前段に設定し、これにより、水溶性潤滑剤12が防錆処理後の鋼板15のロールバイトに供給されるようにすればよい。
さらに、上述した実施の形態では、鋼板15に対して熱間圧延、冷間圧延、および連続焼鈍等の各工程を順次行う圧延ライン20と、鋼板15に対してDR圧延法における2段階目の冷間圧延を行うDR圧延ライン30とを不連続のラインとしていたが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明において、圧延ライン20とDR圧延ライン30とは、連続したラインに構成されてもよい。この場合、巻取装置22およびペイオフリール31等を設けずに、連続焼鈍設備21からDR圧延設備34の冷間圧延機32に至る鋼板15の搬送経路を連続した搬送経路とし、連続焼鈍し且つ防錆処理した後の鋼板15が、連続焼鈍設備21の出側から冷間圧延機32の入側に向けて連続搬送されてもよい。
また、上述した実施の形態では、潤滑装置1が適用されるDR圧延設備34を、全2スタンドの冷間圧延機32,33によって構成し、且つ、冷間圧延機32,33の各々を、4段のロール(バックアップロールおよび圧延ロール)を有する4段式の冷間圧延機としていたが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、DR圧延設備34は、所望のスタンド数およびロール段数の冷間圧延機によって構成されてもよく、本発明において、冷間圧延機のスタンド数およびロール段数は特に問われない。
さらに、上述した実施の形態では、DR圧延法における2段階目の冷間圧延を行うDR圧延設備34(主に冷間圧延機32)に潤滑装置1を適用していたが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明にかかる潤滑装置1および潤滑方法は、DR圧延法以外の冷間圧延機に適用することも可能である。
また、上述した実施の形態では、冷間圧延対象の金属板として鋼板を例示していたが、これに限らず、本発明にかかる潤滑装置1および潤滑方法によってロールバイトに潤滑性を付与される冷間圧延対象の金属板は、鋼以外の鉄合金であってもよいし、銅またはアルミニウム等の鉄合金以外であってもよい。すなわち、本発明において、冷間圧延対象の金属板は、鋼板、鋼板以外の鉄合金板、鉄合金板以外の金属板のいずれであってもよく、また、鋼種等の金属板の種類(例えば強度や組成等)も特に問われない。
さらに、上述した実施の形態では、防錆処理後の鋼板15の圧下率Prの増加に伴って鋼板15に対する防錆油の必要塗油量Qbが段階的に増加していたが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明における鋼板15の圧下率Prと防錆油の必要塗油量Qbとの相関は、圧下率Prの増加に伴って必要塗油量Qbが線形的に増加(単純増加)するものであってもよいし、2次以上の関数式に基づく曲線に沿うように圧下率Prと必要塗油量Qbとが対応付けられるものであってもよい。
また、上述した実施の形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例および運用技術等は全て本発明に含まれる。
1 潤滑装置
2 防錆処理部
3 潤滑剤タンク
4 供給配管
4a,4b,4c 分岐管
5 ポンプ
6a,6b,6c,6d 潤滑剤供給部
7a,7b 冷却スプレー
8a,8b エア噴射部
9 記憶部
9a 必要塗油量情報
10 制御部
11 プロセスコンピュータ
12 水溶性潤滑剤
15 鋼板
16,17 コイル
20 圧延ライン
21 連続焼鈍設備
22 巻取装置
30 DR圧延ライン
31 ペイオフリール
32,33 冷間圧延機
34 DR圧延設備
35 入側ブライドルロール
36 出側ブライドルロール
37 テンションリール

Claims (10)

  1. 金属板を冷間圧延する冷間圧延機の圧延ロールと冷間圧延対象の前記金属板との間に潤滑性を付与する潤滑装置において、
    前記金属板の表面に防錆油を塗油して前記金属板を防錆処理する防錆処理部と、
    防錆処理後の前記金属板を冷間圧延する前記冷間圧延機の圧延ロールと防錆処理後の前記金属板との界面に、該界面の温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤を供給する潤滑剤供給部と、
    前記冷間圧延機によって防錆処理後の前記金属板を冷間圧延する際の圧下率に応じて、前記防錆油の塗油量を設定し、設定した前記塗油量の前記防錆油を前記金属板の表面に塗油するように前記防錆処理部を制御する制御部と、
    を備えたことを特徴とする潤滑装置。
  2. 前記水溶性潤滑剤は、前記防錆油の油成分の炭素鎖数に比して大きい炭素鎖数の脂肪酸を含有することを特徴とする請求項1に記載の潤滑装置。
  3. 前記冷間圧延機の圧延ロールと防錆処理後の前記金属板との間に前記水溶性潤滑剤を供給した際にエマルション圧延油と同程度の潤滑性を得るに要する前記防錆油の必要塗油量と、前記冷間圧延機による防錆処理後の前記金属板の圧下率との相関を示す必要塗油量情報を記憶する記憶部をさらに備え、
    前記制御部は、前記必要塗油量情報をもとに、防錆処理後の前記金属板の圧下率に応じた前記防錆油の必要塗油量を導出し、導出した前記必要塗油量以上の前記防錆油を前記金属板の表面に塗油するように前記防錆処理部を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑装置。
  4. 前記金属板に対する前記防錆油の塗油量は、10[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下であることを特徴とする請求項3に記載の潤滑装置。
  5. 前記防錆油の40[℃]における動粘度は、15[mm2/s]未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の潤滑装置。
  6. 金属板を冷間圧延する冷間圧延機の圧延ロールと冷間圧延対象の前記金属板との間に潤滑性を付与する潤滑方法において、
    前記冷間圧延機によって前記金属板を冷間圧延する際の圧下率に応じて、前記金属板に対する防錆油の塗油量を設定する塗油量設定ステップと、
    設定した前記塗油量の前記防錆油を前記金属板の表面に塗油して、前記金属板を防錆処理する防錆処理ステップと、
    防錆処理後の前記金属板を冷間圧延する前記冷間圧延機の圧延ロールと防錆処理後の前記金属板との界面に、該界面の温度以下に曇点を有さない水溶性潤滑剤を供給する潤滑剤供給ステップと、
    を含むことを特徴とする潤滑方法。
  7. 前記水溶性潤滑剤は、前記防錆油の油成分の炭素鎖数に比して大きい炭素鎖数の脂肪酸を含有することを特徴とする請求項6に記載の潤滑方法。
  8. 前記塗油量設定ステップは、前記冷間圧延機の圧延ロールと防錆処理後の前記金属板との間に前記水溶性潤滑剤を供給した際にエマルション圧延油と同程度の潤滑性を得るに要する前記防錆油の必要塗油量と、前記冷間圧延機による防錆処理後の前記金属板の圧下率との相関を示す必要塗油量情報をもとに、防錆処理後の前記金属板の圧下率に応じた前記防錆油の必要塗油量を導出し、前記防錆油の塗油量を前記必要塗油量以上に設定し、
    前記防錆処理ステップは、前記防錆油の塗油量を前記必要塗油量以上に制御しつつ、前記金属板の表面に前記防錆油を塗油することを特徴とする請求項6または7に記載の潤滑方法。
  9. 前記金属板に対する前記防錆油の塗油量は、10[mg/m2]以上、150[mg/m2]以下であることを特徴とする請求項8に記載の潤滑方法。
  10. 前記防錆油の40[℃]における動粘度は、15[mm2/s]未満であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一つに記載の潤滑方法。
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