JP2009007510A - 冷間圧延油および冷間圧延方法 - Google Patents

冷間圧延油および冷間圧延方法 Download PDF

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雅康 植野
Isao Akagi
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Abstract

【課題】近年の過酷な圧延条件下で想定される、高温、短時間の条件下でも、プレートアウト性に優れる性能と、それに伴う良好な潤滑性を確保でき、しかも、長期間の循環使用下でも、エマルション圧延油の乳化安定性を維持できる性能も、確保が可能な、冷間圧延油および冷間圧延方法を提供する。
【解決手段】天然油脂、鉱油および合成エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の基油および式(1)で示されるポリアルキレングリコールを含有することを特徴とする冷間圧延油。
(式(1)中、m+l:4〜5、n:30〜35)
【数1】
Figure 2009007510

【選択図】なし

Description

本発明は、冷間圧延に使用するエマルション型の冷間圧延油(以下、エマルション圧延油と呼ぶ)に関し、特に、乳化安定性および潤滑性に優れ、かつ、圧延後の金属板の表面品質の向上に寄与する冷間圧延油および冷間圧延方法に関する。
なお、特にことわらないかぎり、本発明の冷間圧延油および冷間圧延方法の対象は、金属板を冷間圧延するための冷間圧延油および冷間圧延方法とする。
従来から、冷間圧延では、鉱物油、天然油脂、合成エステルなどの単体もしくは混合物を基油とし、更に界面活性剤、油性向上剤、極圧添加剤、酸化防止剤などの各種添加剤が適宜配合された圧延油を、0.2〜20体積%程度となるように水と混合し、分散、希釈化(乳化)した、エマルション圧延油がクーラントとして用いられている。
図3に、エマルション圧延油の概念を模式的に示すが、エマルション圧延油は、基油である冷間圧延油(以下、圧延油と呼ぶ)に、界面活性剤を付着させたものを、水中に分散、希釈化(乳化)したものであり、界面活性剤は、長鎖状分子の一端が親油基、他端が親水基で構成されたものである。
界面活性剤の一端に存する親油基が圧延油に付着する一方、他端に存する親水基が水と引き合うため、圧延油を水中にあたかも溶解したかのように分散、希釈化(乳化)させることができる。
エマルション圧延油は、圧延加工部(金属板や圧延用ロール)に、潤滑と、加工時に発生する熱の除去を目的として、クーラントタンクから供給されるが、水と混合される圧延油の使用量を低減し、また、使用済みの圧延油の廃棄量を低減する目的で、多くの場合、フィルター類による浄化を経て、循環使用される。
潤滑性は、ロールバイトに引き込まれる圧延油の油膜が厚いほど向上する。よって、エマルション圧延油には、プレートアウト性(油膜形成能)に優れるという性能が要求される。一方、冷間圧延の操業面からは、良好な潤滑性だけでなく、長期間の循環使用下でもエマルション圧延油の乳化安定性を極力維持できる性能も要求される。
しかしながら、一般的に、これらの両性能は、相反する傾向がある。
すなわち、エマルション圧延油の乳化安定性を高めれば、金属板の表面上や、ロールバイト入側でのプレートアウト性が低下し、良好な潤滑性が得られなくなる。
一方、エマルション圧延油の乳化安定性を低下させれば、プレートアウト性は向上し、良好な潤滑性は得られるものの、圧延加工時に金属板が摩耗して生成する疎水性の金属粉に、圧延油の粒子表面が覆われることで、圧延油の粒子同士が結合しやすくなり、攪拌しても再乳化できないほど大粒径のエマルション圧延油が生成する。
そのような大粒径のエマルション圧延油は、量が増えてくると、クーラントタンク内で分離して浮上してしまい、同クーラントタンク内では、金属板やロールバイト入側に向けて新たに供給されるエマルション圧延油の正味の油分濃度の調整が正確に行えなくなる。
その結果、潤滑不足による金属板と圧延用ロールの焼き付きや、潤滑過多によるスリップなど、製品金属板の品質や、冷間圧延の操業に支障をきたす。また、新品のエマルション圧延油の供給を行う必要が生じることから、圧延油原単位の悪化にもつながる。
ところで、近年では、生産能率の向上を図るため、より高速な圧延が指向されており、ますます過酷な圧延条件下で使用できるエマルション圧延油が求められている。
特に、変形抵抗が1000MPa以上というような難圧延材を、冷間タンデム圧延機で圧延するに際しては、さらにそれを1000mpm以上というような高速で圧延するとなると、とりわけ冷間タンデム圧延機のうちの後段圧延機では、加工発熱、摩擦発熱によって、金属板の表面が、100℃〜250℃もの温度に達し、それに伴って、ロールバイト内にて、ところどころ圧延油の油膜の破断が起こり、その結果、金属板と圧延用ロールの焼き付きが生じ、ヒートスクラッチと呼ばれる欠陥が金属板の表面に発生する場合が出てくる。
ヒートスクラッチの発生を防止するためには、ロールバイト内に引き込まれる圧延油の油膜の厚みを厚くするのが効果的であり、冷間タンデム圧延機のうちの後段圧延機の、以上のような過酷な圧延条件下でも、十分な潤滑性が確保でき、使用できることが要求される。
以上説明した問題に対処すべく、現在までに種々の提案がなされている。例えば、循環使用されるエマルション圧延油の潤滑性を向上させるものとして、ハイブリッド方式(非特許文献1)が知られている。このハイブリッド方式は、高濃度のエマルション圧延油を少量金属板に供給しながら、低濃度のエマルション圧延油をロールバイトに供給し、循環使用する方法である。
図4に、ハイブリッド方式の概要を模式的に示す。第1の圧延油系統11(循環系統)より、低濃度のエマルション圧延油をロールと金属板に供給し、使用後、回収用オイルパン13にて回収し、クーラントタンク14内にて攪拌しつつ、再び、第1の圧延油系統11を経て、低濃度のエマルション圧延油として供給する。
圧延油のロス(金属板による圧延油の持出し、後述のスカムとなっての持ち出しなど)により、第1の圧延油系統11のエマルション圧延油の濃度が、時間とともに低下するのを防止するため、このロスした分を、圧延油補給タンク15より、第1の圧延油系統11のクーラントタンク14に補給する。
また、水のロスした分も、水補給タンク16より、第1の圧延油系統のクーラントタンク14に補給する。
そして、第2の圧延油系統12より、高濃度のエマルション圧延油を金属板に供給し、使用後は回収しない。このため、第2の圧延油系統のクーラントタンク17には、比較的多量の圧延油を、圧延油補給タンク15より補給する必要がある。
ハイブリッド方式は、低濃度のエマルション圧延油を循環使用することにより、良好な圧延油原単位が得られる、という利点を生かしつつ、一方で、高濃度のエマルション圧延油によって、プレートアウト性を向上させ、潤滑性を補償しようというものである。
一方、ハイブリッド方式のようなエマルション圧延油の供給系統側の工夫とは別の対策として、エマルション圧延油の基油の種類や粘度の選定、界面活性剤、極圧添加剤の種類や添加量の最適化なども行われている。
例えば、特許文献1では、特定構造の非イオン性(ノニオン)界面活性剤を含有した冷間圧延油が開示されており、プレートアウト性、乳化安定性に関して良好な結果が得られている。
このほか、特許文献2には、金属の圧延、絞り、しごき、引き抜き加工等の塑性加工に有用な泡立ちの少ない金属加工油組成物として、鉱油などを基油とし、特定の平均分子量(Mn)の、水酸基3〜6個の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、特定のMnの、水酸基3〜6個の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物のハイドロカルビルエーテルから選ばれる含酸素化合物(A)を特定量、および特定のMnのポリアルキレングリコール、特定のMnのポリアルキレングリコールのハイドロカルビルエーテル、炭素数2〜8の2価アルコールから選ばれる含酸素化合物(B)を特定量含有する金属加工油組成物が記載されている。
また、特許文献3には、圧延条件が厳しくても、圧延が容易な潤滑条件下で使用した場合でも、いずれも使用でき、何れの条件下でも荷重低減性に優れ、かつ良好な噛み込み性を示し、ロール表面温度の冷却性に優れ、ロールコーティングを抑制する水溶性金属就中銅用圧延油として、鉱物油、油脂及びエステルがら選ばれる1種または2種以上の基油に含酸素化合物を含有せしめた水溶性金属就中銅用圧延油が記載されている。
「板圧延の理論と実際」 日本鉄鋼協会発行、p208-211(1984) 特開2004−018610号公報 特開平10−008080号公報 特開2005−220206号公報
しかしながら、非特許文献1に記載のハイブリット方式においては、高濃度のエマルション圧延油が低濃度のエマルション圧延油中に混入するため、循環使用される低濃度のエマルション圧延油に濃度変化や乳化安定性の変動が生じやすく、エマルション圧延油の管理に多大な労力を要するという問題があった。
また、特許文献1では、プレートアウト性を、常温の鋼板を50℃で建浴したエマルション圧延油中に1秒間浸漬した後に湯洗したものに付着している油分量を測定することで評価しているが、実際の冷間タンデム圧延では、前述したように金属板の温度は100℃以上にもなり、また、高速で圧延されるため、エマルション圧延油が金属板の表面に供給されてからロールバイトに到達するまでの時間(転相時間)は非常に短い。
以上のことから、近年の過酷な圧延条件下では、エマルション圧延油は、高温下で、しかも、短時間にプレートアウトする必要があり、特許文献1の冷間圧延油では、このような実機相当条件下での効果は明確ではない。
実機相当条件下では、エマルション圧延油のプレートアウト性は、金属板の温度や転相時間で大きく変化する。金属板の温度が100℃までは温度上昇とともにプレートアウト性は向上するが、100℃を超える領域ではプレートアウト性は低下する。これは、金属板の表面上に水の沸騰による水蒸気膜が形成され、それが圧延油の金属板への付着を妨げるためと考えられる。
また、転相時間が短いほど、単位面積あたりのエマルション圧延油の供給量が同一の場合でも、プレートアウトするエマルション圧延油の量が少なくなる。
特許文献2に記載の金属加工油組成物では、特定構造の含酸素化合物を特定量添加することで、基油への溶解性やステイン性を良好な状態としつつ油剤使用時に発生する泡立ちを抑制できることが記載されているが、本発明で課題とする、潤滑特性(プレートアウト性)や乳化安定性については何ら考慮されていない。
特許文献3に記載の水溶性金属就中銅用圧延油では、特定構造の含酸素化合物を特定量添加することで、組成加工時の潤滑改善効果を示しているが、いずれの試験においても低温、低速での加工条件であり、本発明で課題とする高温、短時間域での潤滑性改善については何ら考慮されていない。また、油剤の潤滑使用時の経時変化についても記載はなく、乳化安定性などへの影響についても何ら検討されていない。
本発明は、従来のエマルション圧延油が有する、上述のような問題を解決することを目的としてなされたものであり、近年の過酷な圧延条件下で想定される、高温、短時間の条件下でも、プレートアウト性に優れる性能と、それに伴う良好な潤滑性を確保でき、しかも、長期間の循環使用下でも、エマルション圧延油の乳化安定性を維持できる性能も、確保が可能な、冷間圧延油および冷間圧延方法を提供することを目的とする。
(1)天然油脂、鉱油および合成エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の基油および式(1)で示されるポリアルキレングリコールを含有することを特徴とする冷間圧延油。
(式(1)中、m+l:4〜5、n:30〜35)
Figure 2009007510
(2)天然油脂、鉱油および合成エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の基油、および、曇点が50〜250℃のポリアルキレングリコールを含有することを特徴とする冷間圧延油。
(3)(1)または(2)に記載された冷間圧延油の、ポリアルキレングリコールの含有量を、基油全体に対する体積%で、1.0〜2.0%としたことを特徴とする冷間圧延油。
(4)(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の冷間圧延油を、水で希釈したエマルション圧延油とし、エマルション圧延油全体に対する前記冷間圧延油の含有量を、体積%で、0.2〜20%とし、循環使用することを特徴とする冷間圧延方法。
本発明によれば、近年の過酷な圧延条件下で想定される、高温、短時間の条件下でも、プレートアウト性に優れる性能と、それに伴う良好な潤滑性を確保でき、しかも、長期間の循環使用下でも、エマルション圧延油の乳化安定性を維持できる性能も、確保が可能な、冷間圧延油および冷間圧延方法を提供することができる。
本発明の冷間圧延油の基油としては、従来から冷間圧延油に用いられているものを使用できる。例えば、牛脂、パーム油などの動植物天然油脂およびそれらの精製品、鉱油、合成エステルなどが挙げられ、これらの群から選ばれる一種または二種以上を選ぶことができる。
但し、大気の温度が低い時期に起こりやすい圧延油の固化を防止し、圧延加工時に金属板が摩耗して生成する金属粉が圧延油と反応して生成する反応物(スカム)の圧延機周囲への付着を防止するためには、流動点が20℃以下の基油を使用するのが好ましい。より好ましくは10℃以下である。圧延油の固化を防止し、反応物(スカム)の圧延機周囲への付着を防止することで、製品金属板の表面品質およびオペレータの圧延機周囲での作業環境が向上する。
本発明の成分であるポリアルキレングリコールは、式(1)で示される。ポリアルキレングリコールは、エチレンオキシド(EO)やプロピレンオキシド(PO)などのアルキレンオキシド(AO)を、活性水素を持つ物質に開環重合させて得られるものであるが、重合度やアルキル基を変化させることによって、目的に応じた分子設計が可能であり、AOの種類や比率、末端置換基の有無や種類を選択することにより、種々の特性を付与することができる。
また、ポリアルキレングリコールは、分子中にエーテル酸素を有しており、水溶液状態では、このエーテル酸素が水分子を結合した状態で溶解しているのであるが、水溶液の温度が上昇すると、水素結合が容易に切断されることで、非水溶性となる、ヒートセパレーションという性質を有する。
この、ヒートセパレーションが生じる温度を曇点というが、ポリアルキレングリコールでは、分子設計によって、曇点を調整することができる。また、POホモ重合物は非水溶性の親油基、EOホモ重合物は水溶性の親水基であり、界面活性剤としての性質も有する。
発明者らは、ポリアルキレングリコールの以上のような性質を、上手く利用することによって、高温域でもプレートアウト性に優れる性能と、長期間の循環使用下でも、エマルション圧延油の乳化安定性を維持できる性能とを、両立できることを見出した。
すなわち、一般的に、エマルション圧延油は、循環用の配管の詰まりを防止し、また、圧延油の腐敗を防止する目的で、50℃前後の温度に加熱されて使用されるが、本発明では、まず、この温度域で、エーテル結合が切断されないようにすることで、ポリアルキレングリコールを、界面活性剤として作用させる。
本発明では、また、高温の金属板に接触した時は、エーテル結合が切断されるようにすることで、非水溶性となるようにし、金属板の表面にポリアルキレングリコールの油膜が優先的に付着するように作用させる。
本発明では、そのために、曇点が、圧延油を循環使用する際の加熱温度である50℃程度よりも大きくなるようにエチレンオキシドとプロピレンオキシドの配合比率を式(1)に示される範囲に調整した分子設計とし、実際にポリアルキレングリコールの製造時にそうなるようにする。
そのようなポリアルキレングリコールの油膜が形成されると、例えば100℃以上の高温域であっても、これから圧延されようとする金属板の表面に水蒸気膜が形成されるのを抑制することができ、エマルション圧延油の基油(圧延油)のプレートアウト性を阻害しない。
さらに、圧延後に回収されるエマルション圧延油は温度が低下するため、その中のポリアルキレングリコールは、再び水溶液中で不溶性となり、界面活性剤として作用するようになる。このため、長期間の循環使用下でも、エマルション圧延油の乳化安定性を維持できる。
さて、ここで一つ重要なことは、ポリアルキレングリコールの曇点を、圧延油が循環使用される温度域よりも高く、冷間タンデム圧延機のうちの後段圧延機で到達するような鋼板温度域である50〜250℃の範囲に調整することである。
本発明では、その目的上も、上述と同じく、式(1)中、m+l:4〜5、n:30〜35、となるようにエチレンオキシドとプロピレンオキシドの配合比率を調整した分子設計とし、実際にポリアルキレングリコールの製造時にそうなるようにすることで、曇点を調整している。
また、ポリアルキレングリコールの添加量も重要である。水溶液中のポリアルキレングリコールの含有量が多いほど、高温域でのプレートアウト性は向上するが、多すぎると、冷間タンデム圧延機のうちの前段圧延機における圧延の際のような、金属板の温度が比較的低温の場合には、ポリアルキレングリコールは界面活性剤として作用するため、却ってプレートアウト性が低下してしまう。
本発明では、好ましくは、ポリアルキレングリコールの添加量を、圧延油(基油)全体に対する体積%で、1.0%〜2.0%の範囲とすることで、常温〜50℃未満の、金属板の温度が比較的低温の場合のプレートアウト性も確保しつつ、50℃〜250℃の高温域でのプレートアウト性を向上させている。
以上のような本発明の冷間圧延油を実際に冷間圧延の操業に用いる際は、水で希釈したエマルション圧延油とし、エマルション圧延油全体に対する前記冷間圧延油の含有量を、体積%で、0.2〜20%とし、循環使用するようにするのが好ましい。体積%で、0.2%未満では、圧延時の潤滑性が不十分であり、20%を超えると、逆に潤滑過多によるスリップといった問題が生じるからである。
なお、特許文献2に記載の金属加工油組成物は、含酸素化合物の選択肢としてポリアルキレングリコールが総称的に例示されているのみであるが、本発明では、ポリアルキレングリコールの具体的な構造を特定することにより、高温圧延でのプレートアウト性と循環使用での乳化安定性との両立という、特許文献2に記載の金属加工油組成物からは得られない効果を見出したものである。
また、特許文献3に記載の水溶性金属就中銅用圧延油も、同様に、含酸素化合物の選択肢としてポリアルキレングリコールが総称的に例示されているのみであるが、本発明では、ポリアルキレングリコールの具体的な構造を特定することにより、特許文献3に記載の水溶性金属就中銅用圧延油からは得られない効果を見出したものである。
以下に実施例を比較例と共に示し、本発明の効果をより具体的に説明する。
基油として合成エステルと天然油脂を使用し、油性向上剤や極圧添加剤、界面活性剤を表1に示す組成比で混合することにより、供試圧延油を調製した。
Figure 2009007510
油性向上剤としては、脂肪酸と誘起アミン、極圧添加剤としては、リン系極圧添加剤を添加している。
また、界面活性剤としては、ノニオン型界面活性剤であるポリエチレングリコールと、金属粉の凝集を防止するため、圧延油の油滴を金属粉と同じ極の電荷に帯電させるためのカチオン型界面活性剤を、併用して使用している。
供試油Aは、本発明の(1)式で示されるポリアルキレングリコールを含有していない従来例である。供試油B〜Eは、ポリアルキレングリコールの含有量を変更したものである。供試油Fは本発明の条件を満たさないポリアルキレングリコールを含有したものである。これらの供試油を、以下に示すプレートアウト試験、乳化安定性試験によって評価した。
[プレートアウト試験]
表1に示す組成の各供試油を、以下のエマルション建浴条件で水と攪拌して、体積%で3.0%のエマルション圧延油を建浴した。
<エマルション建浴条件>
水:イオン交換水
エマルション濃度:3.0体積%
建浴量:20L
エマルション温度:55℃
攪拌条件:ホモミキサー 8000rpm×1hr
その後、以下のプレートアウト試験条件に示すように、種々の温度に調整した鋼板に、一定の流量密度でそれらエマルション圧延油をスプレーにより供給し、供給後すぐにエアパージを行い、鋼板表面にプレートアウトしていない余分なエマルション圧延油を吹き飛ばした後、鋼板の重量測定を行い、試験前後の重量差から、単位面積あたりのプレートアウト量として評価した。この時、短時間でのプレートアウト性を評価することを目的として、スプレーの噴射時間を0.1secとした。
<プレートアウト試験条件>
鋼板:珪素鋼板 板厚0.78mm×幅100mm
鋼板温度:50、100、150、200℃
流量密度:7.8L/(min・m2)
噴射時間:0.1sec
図1は、プレートアウト試験の結果を示したものであるが、全ての供試油において、鋼板温度に対するプレートアウト量の変化の傾向は一致しており、100℃までは、鋼板温度の上昇に伴ってプレートアウト量は増加するが、100℃を超えると、逆に、鋼板温度の上昇に伴ってプレートアウト量は低下する。
ポリアルキレングリコール(PAG)の含有量の影響を見ると、鋼板温度50℃では、ポリアルキレングリコールの含有量の増加に伴ってプレートアウト量は低下する傾向がある。ポリアルキレングリコールの含有量が2.0%までは大きな低下は見られないが、2.0%を超えると、鋼板温度50℃のような低温域でのプレートアウト量は、大きく低下することがわかる。
一方、鋼板温度100℃以上の高温域では、ポリアルキレングリコールの含有量の増加に伴ってプレートアウト量は増加し、含有量1.0%以上で大きな効果が得られていることがわかる。
また、本発明の条件を満たさないポリアルキレングリコールを含有する供試油Fでは、曇点が40℃であり、全てのプレートアウト試験の温度域でエーテル結合が切断され、優先的に付着するため、プレートアウト性は向上している。しかし、後述の乳化安定評価試験では、逆に低温域で界面活性剤として作用しないため、乳化安定性に劣る結果となってしまう問題がある。
以上の結果から、ポリアルキレングリコールの含有量を、体積%で、1.0〜2.0%とすることで、広範な温度域で良好なプレートアウト性を確保することができる。
[乳化安定性試験]
表1に示す組成の各供試油を、先述のエマルション建浴条件と同様の以下の条件で水と攪拌して、体積%で、3.0%のエマルション圧延油を建浴した後、表2に示す成分の、実機圧延機から採取したスカム(金属粉と圧延油の反応生成物)を添加していき、添加量に対するエマルション粒径(図3)の変化を調査した。
<乳化安定性試験の条件>
水:イオン交換水
エマルション濃度:3.0体積%
建浴量:400ml
エマルション温度:55℃
攪拌条件:1)初期 ホモミキサー 5000rpm×3min
2)スカム添加後 ホモミキサー 5000rpm×27min
スカム添加量:0、500、1000、2000ppm
Figure 2009007510
エマルション粒径の測定は、ベックマンコールター社製のコールターカウンターで行い、スカム添加後のエマルションの平均粒径を、スカム未添加状態でのエマルションの平均粒径で除した比を求め、その比の変化で乳化安定性を評価した。この比が大きくなるほど、エマルションが大粒径化し、乳化安定性に劣る状態であることを意味する。
図2は、乳化安定性試験の結果として、スカム添加量に対するエマルション粒径比の変化を示したものであるが、ポリアルキレングリコールを含有しない供試油A(従来例)では、スカム添加量の増加に伴って、エマルション粒径比が大きくなっており、最大で30%ほど粒径が大きくなっている。
また、本発明の条件を満たさないポリアルキレングリコールを含有する供試油Fでは、低温域で界面活性剤として作用しないため、スカム添加量の増加に伴い、エマルション粒径比は大きくなっており、乳化安定性に劣る結果となっている。
それに対して、ポリアルキレングリコールを含有した供試油B〜Eでは、スカム添加量の増加に伴って、エマルション粒径比は大きくなるものの、その値は、ポリアルキレングリコールを含有しないものと比べて小さくなっている。
また、ポリアルキレングリコールの含有量を多くするほど、エマルション粒径比は小さくなっており、ポリアルキレングリコールの含有量を、体積%で、1.0%以上とすることで、優れた乳化安定性を得られることがわかる。
プレートアウト試験の結果を示す線図 乳化安定性試験の結果を示す線図 エマルション圧延油の概念を模式的に示す線図 ハイブリッド方式の概要を模式的に示す線図
符号の説明
11 第1の圧延油系統
12 第2の圧延油系統
13 回収用オイルパン
14 第1の圧延油系統のクーラントタンク
15 圧延油補給タンク
16 水補給タンク
17 第2の圧延油系統のクーラントタンク

Claims (4)

  1. 天然油脂、鉱油および合成エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の基油、および、式(1)で示されるポリアルキレングリコールを含有することを特徴とする冷間圧延油。
    (式(1)中、m+l:4〜5、n:30〜35)
    Figure 2009007510
  2. 天然油脂、鉱油および合成エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上の基油、および、曇点が50〜250℃のポリアルキレングリコールを含有することを特徴とする冷間圧延油。
  3. 請求項1または2に記載された冷間圧延油の、ポリアルキレングリコールの含有量を、基油全体に対する体積%で、1.0〜2.0%としたことを特徴とする冷間圧延油。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の冷間圧延油を、水で希釈したエマルション圧延油とし、エマルション圧延油全体に対する前記冷間圧延油の含有量を、体積%で、0.2〜20%とし、循環使用することを特徴とする冷間圧延方法。
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