JP6515294B2 - 容器用鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、容器用鋼板に関する。本発明は、特に、硬質で加工性に優れ、かつ、時効硬化性を有する容器用鋼板に関するものである。
JIS G3303「ぶりき及びぶりき原板」や、JIS G3315「ティンフリースチール」に規定される鋼板(容器用鋼板、缶用鋼板)は、その用途に要求される硬さに応じて調質度がT−1〜DR−10(番号が大きい程、硬質であることを表す)に分類されている。このうち、調質度がT−1〜T−6の鋼板は、「低炭素鋼一回圧延」法、すなわち、低炭素鋼を一回冷間圧延した後、焼きなまし(再結晶焼鈍)することで、また、調質度がDR−8〜DR−10の鋼板は、「低炭素鋼二回圧延」法、すなわち、上記焼きなまし処理後の鋼板に二回目の冷間圧延をすることで製造すると規定されている。
上記「低炭素鋼一回圧延」法で製造される容器用鋼板のうち、調質度がT−1〜T−3の鋼板の焼きなまし処理は、バッチ焼鈍炉BAFを用いた「バッチ焼鈍法(ボックス焼鈍)」で、また、調質度がT−4〜T−6の鋼板の焼きなまし処理は、連続焼鈍ラインCALを用いた「連続焼鈍法」で施すのが一般的である。
ところで、近年、容器用鋼板の製造工程は、生産性を高める観点から、設備の連続化が進められており、その一環として、処理時間が長いバッチ焼鈍から高温・短時間で処理することができる連続焼鈍への切り替えが進められている。また、容器用鋼板の分野においては、ユーザーにおける材料コストの低減を図る観点から、硬質化(T−1〜T−3からT−4〜T−6への切り替え)による板厚低減(板厚0.20mm未満)が積極的に進められている。その結果、連続焼鈍法で製造する容器用鋼板の比率は、近年、大きく上昇している。
しかし、硬質化や薄肉化、それに伴う連続焼鈍化は、鋼板の加工性の低下を招く。さらに、板厚の薄い鋼板を連続焼鈍法で製造することは、通板長の延長による生産性の低下を招くだけでなく、急速加熱、急速冷却に伴うヒートバックルや蛇行による板破断等の操業トラブルが発生し易く、安定生産することが難しくなるため、高度の通板技術が必要とされる。一方、バッチ焼鈍から連続焼鈍への切り替えに伴い、バッチ焼鈍炉の生産能力には余裕がある状態が続いている。そこで、より硬質で、加工性に優れる容器用鋼板をバッチ焼鈍で製造する技術の開発が望まれている。
高強度化と薄肉化の両立を図る技術としては、上述した「低炭素鋼二回圧延」法がある。例えば、特許文献1には、低炭素鋼を素材とし、バッチ焼鈍することで、T−1からDR−10までの調質度の鋼板を製造する技術が提案されている。しかし、この方法は、T−4以上の調質度を得るためには、2回目の冷間圧延の圧下率を15%以上とする必要があり、鋼板の延性低下が大きいため、加工性が要求される用途には使用できない。
また、特許文献2には、質量%で、C:0.018〜0.060%、Mn:0.20〜0.30%、Al:0.020〜0.080%、N:0.003〜0.013%を含有する一次冷延後の鋼板に、600〜700℃の温度範囲で2〜8時間保定するバッチ焼なまし炉による焼鈍(BAF焼鈍)を施し、1〜20%の二次冷延を行うことで、高強度かつ高r値で、エキスパンド成形性に優れる3ピース缶用鋼板を製造する技術が提案されている。
特開2013−119649号公報 特開2009−97045号公報
しかしながら、上記特許文献1や特許文献2に提案された技術は、いずれも、二次冷延による生産性の低下やコストの上昇を招くため、容易に採用できないという問題がある。
また、上記技術では、バッチ焼鈍で鋼板を製造しているため、得られる鋼板は基本的に焼付硬化性を有さない。そのため、容器としての強度を確保する観点から、より高い調質度の鋼板が求められたり、板厚の低減が制限されたりするという問題もある。
本発明は、従来技術が抱える上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、硬質で加工性に優れ、時効硬化性を有する容器用鋼板を提供することにある。
発明者らは、上記の課題を解決するべく、素材となる低炭素鋼の成分組成と製造条件に着目して鋭意検討を重ねた。その結果、鋼素材のAl含有量を高めることにより、焼きなまし(バッチ焼鈍)での浸窒を促進してAlNの析出量を高めるとともに固溶N量(固溶窒素量)を所定量以上確保することで、硬質で加工性に優れるとともに時効硬化性を有する容器用鋼板が得られることを見出し、本発明を開発するに至った。
上記知見に基づく本発明は、
[1]C:0.010〜0.050mass%、Si:0.05mass%以下、Mn:0.10〜0.40mass%、P:0.020mass%以下、S:0.020mass%以下、N:0.0060〜0.020mass%、Al:0.040〜0.200mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、固溶N量が0.0050mass%以上であり、平均r値が1.2〜1.4であり、かつ、時効指数が10MPa以上である容器用鋼板。
[2]粒径3.1μm以上の炭化物が面積0.1375mm×0.1375mmあたり30個以上存在し、かつ、前記面積あたりの全炭化物の個数に対する前記粒径3.1μm以上の炭化物の個数の割合が60%以上である[1]に記載の容器用鋼板。
[3]上記成分組成に加えて、さらに、Cr:0.01〜0.10mass%、Ti:0.005〜0.05mass%、Nb:0.005〜0.05mass%、V:0.005〜0.05mass%およびZr:0.005〜0.05mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する[1]または[2]に記載の容器用鋼板。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の容器用鋼板の少なくとも片方の表面にSn、Cr、Niから選ばれる1種以上からなるめっき層を有し、該めっき層の片面あたりの付着量が1mg/m以上である容器用鋼板。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の容器用鋼板の少なくとも片方の表面に塗油層を有し、該塗油層の片面あたりの付着量が1mg/dm以上である容器用鋼板。
本発明によれば、加工性に優れ、しかも、硬質で時効硬化性を有する容器用鋼板を提供することができる。本発明によれば、バッチ焼鈍により製造しても、時効硬化性を有する容器用鋼板を提供することができる。本発明によれば、板厚の低減が制限されず、生産性の低下やコストの上昇が抑えられ、安定して製造することができる容器用鋼板を提供することができる。
まず、本発明の基本的技術思想について説明する。
調質度がT−4以上の容器用鋼板をバッチ焼鈍で製造するときに用いる鋼については、従来、ASTMに規定された、一般の食品容器に用いられるMR型鋼にPを添加したMC型鋼や、上記MR型鋼やMC型鋼にNを添加したN型鋼が知られている(「ぶりきとティンフリー・スチール」東洋鋼鈑株式会社著、アグネ社発行、1974年5月10日、p.21−22)。
しかし、Pは、鋼の強度や硬さを高める効果が大きい元素であるが、偏析を起こしやすく、また、容器用鋼板に求められる最も重要な特性である耐食性を低下させる元素でもある。そのため、Pを添加した鋼板は現在では用いられていない。
また、Nは、連続焼鈍で鋼板を製造するときには、僅かな添加で鋼板の硬さを高めることができる有用な元素である。また、Nは、連続焼鈍のように高温から急冷する場合には、フェライト中に過飽和な固溶状態で存在するため、調質圧延後の時効硬化性(焼付硬化性)を高める効果がある。しかし、通常の製鋼設備では、0.015mass%を超える窒素を鋼中に含有させるのは難しい。
ところで、食缶等に用いられる容器用鋼板は、優れた耐食性が要求されることから、鋼への含有が許容されている成分は少なく、上記PやN以外に鋼を強化(硬質化)する成分として挙げられるのはSiとMnしかない。しかし、SiやMnの添加は、バッチ焼鈍で鋼板表面に濃化し、酸化膜を形成することによって、テンパーカラーと称される外観不良や、それに伴う耐食性の低下を引き起こすため、好ましくない。
そこで、本発明者らは、容器用鋼板の素材(スラブ)の成分組成に加えて、製造条件にも着目して、鋼板の硬さを高める方法について検討を重ねた。その結果、鋼成分としてAlを従来よりも高めに添加し、焼きなまし(バッチ焼鈍)における浸窒を促進し、鋼板中のN含有量を高めることによってAlNの析出量を高めることで高硬質化を図ることができること、また、上記焼きなまし(バッチ焼鈍)時に鋼板中に浸入し、Alと結合せずに残った固溶N(フリーN)は、時効硬化性を有し、塗装・焼付後の硬さ(調質度)を高める効果を有することを見出し、本発明を開発するに至った。
次に、本発明の容器用鋼板の鋼素材の成分組成について説明する。
C:0.010〜0.050mass%
Cは、鋼の強度に最も大きな影響を与える元素であり、バッチ焼鈍で十分な硬さ(HR30Tで50以上)を得るためには0.010mass%以上含有させる必要がある。一方、C含有量が0.050mass%を超えると、バッチ焼鈍時に鋼板表面にグラファイトが析出し、調質圧延時に光沢異常を引き起こすおそれがある。よって、C含有量は0.010〜0.050mass%の範囲とする。C含有量は、好ましくは0.020〜0.050mass%の範囲である。C含有量が0.020mass%以上であると、硬さ(調質度)がより高められ、HR30Tで54以上の硬さを得ることができる。C含有量は、より好ましくは0.030〜0.050mass%の範囲である。
Si:0.05mass%以下
Siは、脱酸材として添加される元素であるが、鋼を固溶強化して硬さを高める元素でもある。しかし、多量に添加すると、スケール性の表面欠陥を引き起こしたり、バッチ焼鈍時に鋼板表面に濃化し、テンパーカラーを発生して外観を損ねたり、めっき性を阻害して耐食性を低下させたりする。よって、本発明では、Siは0.05mass%以下とする。好ましくは0.02mass%以下である。
Mn:0.10〜0.40mass%
Mnは、Sによる熱間脆性を防止し、熱間加工性を改善する元素である。また、Mnは、固溶強化能があり、結晶粒を微細化し、硬さを高める効果も有する。そこで、本発明では、Mnを0.10mass%以上添加する。一方、Mnは、0.40mass%を超えて過剰に添加すると、バッチ焼鈍時に鋼板表面に濃化してテンパーカラーを発生したり、耐食性を低下させたりする。よって、本発明では0.10〜0.40mass%の範囲とする。好ましくは0.24〜0.35mass%の範囲である。
P:0.020mass%以下
Pは、鋼中に不可避的に浸入してくる不純物元素であり、また、耐食性を低下させる元素でもあるため、できるだけ低減することが望ましい。よって、本発明では、Pは0.020mass%以下とする。好ましくは0.016mass%以下である。
S:0.020mass%以下
Sは、Pと同様、鋼中に不可避的に浸入してくる不純物元素であり、鋼の熱間加工性を害したり、耐食性を低下させたりする有害元素でもある。よって、本発明では、Sは0.020mass%以下とする。好ましくは0.010mass%以下であり、より好ましくは0.009mass%であり、さらに好ましくは0.005mass%以下である。
Al:0.040〜0.200mass%
Alは、バッチ焼鈍において、鋼中のNおよび浸窒したNとAlNを形成し、析出効果および細粒化効果を介して焼鈍後の鋼板の硬さを高める効果を有する。さらに、発明者らの新規知見によれば、Alは、雰囲気ガス中の窒素の鋼板中への浸入(浸窒)を促進して固溶N量を増大し、時効硬化性を高める作用効果を有する。これらの効果を得るためには、Alを0.040mass%以上含有させる必要がある。しかし、0.200mass%を超える過剰な添加は、上記効果が飽和する他、再結晶温度を高めたり、粒成長を過度に阻害したりする。よって、本発明では、Alは0.040〜0.200mass%の範囲とする。好ましくは0.050〜0.200mass%であり、より好ましくは0.060〜0.100mass%の範囲である。
N:0.0020〜0.0150mass%
Nは、上記Alと結合して微細なAlNを形成し、析出効果と細粒化効果により鋼板の硬さを高める効果がある。また、上記の効果を得るためには、鋼素材中にNを0.0020mass%以上含有させる必要がある。しかし、容器用鋼板の通常の溶製条件において、0.0150mass%を超えるNを安定して鋼素材中に含有させるのは困難である。よって、Nは0.0020〜0.0150mass%の範囲とする。好ましくは0.0030〜0.010mass%の範囲である。
本発明の容器用鋼板の鋼素材は、上記必須とする成分の他には、バッチ焼鈍時における鋼板表面へのグラファイトの析出を抑制する目的で、Cr:0.01〜0.10mass%、Ti:0.005〜0.05mass%、Nb:0.005〜0.05mass%、V:0.005〜0.05mass%およびZr:0.005〜0.05mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することができる。特に、Crは、上記効果の他に、バッチ焼鈍における鋼板表面へのグラファイトの析出を抑制し、めっき後の耐食性を向上する効果があるので、添加するのが好ましい。
それらの効果は、Crは0.01mass%以上で、Ti、Nb、VおよびZrは、それぞれ0.005mass%以上の含有で得られる。一方、Crの含有量が0.10mass%超、Ti、Nb、VおよびZrの含有量が、それぞれ0.05mass%超であると、バッチ焼鈍時にテンパーカラーが発生し、表面品質や耐食性を損なうおそれがある。よって、Cr、Ti、Nb、VおよびZrを添加する場合には、上記範囲で添加するのが好ましい。より好ましくは、Cr、Ti、Nb、VおよびZrの含有量はそれぞれ、Cr:0.01〜0.05mass%、Ti:0.005〜0.01mass%、Nb:0.005〜0.01mass%、V:0.005〜0.01mass%およびZr:0.005〜0.01mass%の範囲である。
本発明の容器用鋼板の鋼素材における上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
次に、本発明の容器用鋼板(製品板)の成分組成について説明する。
上記に説明した鋼素材中のC、Si、Mn、P、SおよびAlは、通常の容器用鋼板の製造方法、製造条件であれば、鋼素材の組成のまま製品板となる。しかし、本発明において、Nは、バッチ焼鈍時に雰囲気ガス中の窒素が鋼中に浸入(浸窒)することから、必ずしも鋼素材中のNの含有量と製品板中のNの含有量とは一致しない。
本発明の容器用鋼板において、Nは、0.0060〜0.020mass%である。本発明において、バッチ焼鈍において鋼中に浸入(浸窒)した窒素は、鋼中のフリーAlと結合してAlNを形成し、析出効果と細粒化効果で鋼板の硬さを高める効果がある。また、上記バッチ焼鈍時に鋼板中に浸入し、Alと結合しなかったフリーなN(固溶N)は、容器製造時における塗装焼付工程で炭窒化物を形成して析出し、塗装焼付後の鋼板硬さを高める効果、いわゆる時効硬化能(焼付硬化性)を有する。このような効果を得るために、容器用鋼板(製品板)におけるNの含有量を0.0060mass%以上とする。Nの含有量は、好ましくは0.0080mass%以上であり、より好ましくは0.010mass%以上である。一方、Nの含有量が0.020mass%を超えると、熱間圧延中にスラブ割れを伴い、表面疵が発生するおそれがあるため、Nの含有量は0.020mass%以下とする。好ましくは0.018mass%以下であり、より好ましくは0.016mass%以下である。
なお、上記時効硬化能は、本発明では、調質圧延後の鋼板に、210℃×20minの時効処理を施した前後におけるHR30T硬さの上昇量で定義する。
本発明者らの調査研究によれば、上記時効硬化能をHR30T硬さで4以上とするためには、バッチ焼鈍後の鋼板中に0.0050mass%(50massppm)以上の固溶Nが存在することが必要であることが明らかとなっている。よって、本発明では、バッチ焼鈍後の固溶N量を0.0050mass%以上とする。好ましくは0.0055mass%(55massppm)以上であり、より好ましくは0.0059mass%(59massppm)以上であり、さらに好ましくは0.0060mass%(60massppm)以上である。ここで、調質圧延後の硬さが4上昇するということは、調質度が1つ上がることと同じである。即ち、調質圧延後の調質度がT−3の鋼板が、その後の焼付塗装における時効硬化で、調質度がT−4となることを意味する。
粒径3.1μm以上の炭化物の存在密度
本発明の容器用鋼板は、粒径3.1μm以上の炭化物が面積0.1375mm×0.1375mmあたりに30個以上存在する組織を有することが好ましい。また、前記面積あたりの全炭化物の個数に対する前記粒径3.1μm以上の炭化物の個数の割合[(粒径3.1μm以上の炭化物の個数/全炭化物の個数)×100]が60%以上であることが好ましい。これにより、より高強度で、かつ、より加工性に優れる容器用鋼板が得られやすくなる。粒径3.1μm以上の炭化物は、上記面積あたりに40個以上存在することがより好ましい。
本発明における粒径3.1μm以上の炭化物の個数及び全炭化物の個数に対する前記粒径3.1μm以上の炭化物の個数の割合は、次のように求めたものである。容器用鋼板(板厚1/2における圧延方向断面)に、腐食液(5mass%ピクリン酸アルコール溶液、「ピクラール」)を塗布して十分にエッチング(80℃、60秒)した後、前記腐食液をエタノールで洗い流し、400倍の光学顕微鏡で0.1375mm×0.1375mmの視野中に存在する炭化物を観察し撮影する。そして、撮影した画像から、粒径3.1μm以上の炭化物の個数をカウントする。また、前記画像から全炭化物の個数をカウントし、[(粒径3.1μm以上の炭化物の個数)/(全炭化物の個数)×100]の式より全炭化物の個数に対する粒径3.1μm以上の炭化物の個数の割合を求める。なお、ここで、全炭化物の個数は、前記撮影した画像から視認可能な炭化物の総数(粒径3.1μm以上の炭化物の個数と、粒径3.1μm未満の炭化物の個数の合計)である。また、炭化物の粒径は、炭化物の最小径とし、例えば炭化物の形状が楕円等で短径と長径が存在する場合は、短径の値とする。
以上からなる本発明の容器用鋼板は以下の特性を有する。
平均r値:1.2〜1.4
容器用鋼板の平均r値(平均塑性歪比)は、1.2〜1.4である。平均r値が1.2以上であると、加工性、特に、深絞り加工性が良好になる。また、r値が1.4以下であると、深絞り加工による円筒加工後、溶接した缶にエキスパンド加工を施したときの缶の高さの均一性が良好になる。
本発明における平均r値は、圧延方向に対して0°方向(L方向)、45°方向(D方向)、90°方向(C方向)を引張方向とするJIS5号引張試験片を容器用鋼板から採取し、これらの試験片に10%の単軸引張歪を付与したときの各試験片の幅方向真歪と板厚方向真歪を測定し、これらの測定値から、JIS Z 2254(2008年)の規定に準拠して算出したものである。なお、容器用鋼板の平均r値は、バッチ焼鈍条件(均熱温度、均熱時間)を調整すること等により調整できる。
時効指数:10MPa以上
本発明の容器用鋼板の時効指数(AI:Aging Index)は、10MPa以上である。すなわち、本発明の容器用鋼板は、時効硬化性を有するものである。時効指数が10MPa以上であることで、塗装・焼付後の硬さ(調質度)が十分に高められる。時効指数は、好ましくは15MPa以上である。一方、時効指数の上限は特に制限されないが、時効指数が大きすぎると耐常温時効性が劣化し加工性が低下する場合があるため、本発明の容器用鋼板の時効指数は、45MPa以下が好ましく、30MPa以下がより好ましい。
本発明における時効指数は、容器用鋼板の圧延方向を引張方向として採取したJIS5号引張試験片に7.5%の予歪を加えた後、100℃で30分の熱処理を施し、再度引張試験を行って、熱処理前の応力(7.5%予歪付与後の応力)と熱処理後の降伏応力との差から求めたものである。なお、容器用鋼板の時効指数は、バッチ焼鈍条件(均熱温度、均熱時間、雰囲気条件)を調整すること等により調整できる。
硬さ
本発明の容器用鋼板の硬さ(時効処理前の硬さ)はHR30Tで、50以上であることが好ましく、54以上であることがより好ましい。調質度としては、T−1以上であることが好ましく、T−2以上であることがより好ましい。
時効硬化能
本発明の容器用鋼板の硬さは、時効処理(210℃×20minの時効処理)の前後で、HR30Tで4以上上昇することが好ましく、5以上上昇することがより好ましい。
また、時効処理後の硬さは、強度維持の点から、HR30Tで57以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましい。
板厚
本発明の容器用鋼板の板厚は、特に限定されないが、容器としての強度を確保する点等から、0.10mm以上が好ましく、0.15mm以上がより好ましい。また、コストの低減を図る点等から、0.25mm以下が好ましく、0.22mm以下がより好ましい。
次に、本発明の容器用鋼板の製造方法について説明する。
本発明の容器用鋼板の製造方法としては、上記成分組成を有する鋼素材(スラブ)を、熱間圧延し、冷間圧延し、浸窒処理を伴うバッチ焼鈍し、調質圧延する方法が好ましい。
(鋼素材)
鋼素材の製造方法については、特に制限はないが、例えば、転炉や電気炉等で鋼を溶製し、取鍋処理や真空脱ガス処理等で上記成分組成を満たす鋼成分に調製した後、連続鋳造法あるいは造塊−分塊圧延法等で鋼素材(スラブ)とする方法が好ましい。なお、成分組成の均一性や、材質の均一性の観点からは、連続鋳造法を用いるのがより好ましい。
(熱間圧延)
上記鋼素材(スラブ)は、その後、熱間圧延して熱延板とするが、上記熱間圧延は、上記スラブを1050〜1300℃の温度に再加熱した後、仕上圧延終了温度をAr変態点以上として行うのが望ましい。
上記スラブの再加熱温度が1050℃未満では、変形抵抗(圧延負荷)が増大して熱間圧延するのが難しくなったり、上記仕上圧延終了温度を確保することが困難となったりする。一方、スラブの再加熱温度が1300℃を超えると、スケールロスが大きくなったり、表面疵が発生したりするようになるので好ましくない。
また、熱間圧延における仕上圧延終了温度がAr変態点未満となると、熱延後の結晶粒が粗大化して、材質不良や形状不良を引き起こすおそれがある。ただし、仕上圧延終了温度が高過ぎると、スケール起因の表面欠陥が発生するようになるので、上限は1000℃程度とするのが好ましい。
なお、上記熱間圧延は、上記仕上圧延終了温度を確保できる限り、連続鋳造後の高温スラブを、再加熱することなく、そのまま連続して行ってもよい。
上記熱間圧延のコイル巻取温度は、450〜750℃の範囲とするのが好ましい。コイル巻取温度が450℃未満では、鋼板の形状が悪化するおそれがある。一方、コイル巻取温度が750℃を超えると、鋼板表面に生成するスケールが厚くなり、酸洗性に悪影響を及ぼしたり、鋼板表層の結晶粒を粗大化させたりするので好ましくない。
(冷間圧延)
上記熱間圧延後の鋼板は、その後、酸洗し、冷間圧延して所定の板厚の冷延板とする。
上記冷間圧延における圧下率は、常法に準じて決定すればよく、特に制限はないが、加工性や異方性を改善する観点から、70〜98%の範囲とするのが好ましい。
(バッチ焼鈍)
上記冷間圧延後の鋼板(冷延板)に、その後、600℃以上680℃以下の温度で3〜16hr均熱保持するバッチ焼鈍を施すことが好ましい。バッチ焼鈍を採用することで、バッチ焼鈍時に雰囲気ガス中の窒素を前記鋼板中に良好に浸窒させることができる。浸窒した窒素は、鋼板中のAlと結合し、鋼板中に微細なAlNを析出する。これにより、硬質の容器用鋼板を得ることができる。
また、バッチ焼鈍における均熱温度を600℃以上680℃以下とする理由は、600℃未満では、再結晶が不完全となり、組織も不均一となって、均質な材質と優れた加工性を得ることが難しくなるおそれがあるほか、浸窒が十分に進行しないため、析出するAlN量が不足して硬質化が不十分となったり、固溶N量が不足して所定の時効硬化能が得られなくなるからである。一方、均熱温度が680℃を超えると、セメンタイトが粗大化して延性の低下を招くおそれがある。また、鋼板表面へのC、Si、Mn等の濃化や析出が著しくなり、テンパーカラーが発生したり、耐食性を阻害したりする。さらに、焼鈍時に鋼板の焼付きが生じるおそれがある。
また、均熱時間を3〜16hrとする理由は、3hr未満では再結晶が十分に進行せず、組織も不均一となって、均質な材質と優れた加工性を得ることが難しくなるとともに、浸窒が不十分となり、上記した硬質化が不足したり、所期した時効硬化能が得られなくなるからである。一方、均熱時間が16hrを超えると、結晶粒が粗大化して鋼板が軟質化しやすくなり、所望の硬さの鋼板が得られなくなるからである。バッチ焼鈍におけるより好ましい均熱温度は610〜650℃の範囲である。バッチ焼鈍におけるより好ましい均熱時間は6〜10hrの範囲である。
ここで、重要なことは、前述したように、このバッチ焼鈍において、焼鈍雰囲気ガス中の窒素を鋼板中に浸窒させ、鋼中のAlと結合させてAlNを析出させるとともに、焼鈍後の鋼板中の固溶N量を0.0050mass%以上として、時効硬化能を確保することである。
上記の浸窒を起こさせるためには、バッチ焼鈍における雰囲気ガスを浸窒性とする必要がある。上記の浸窒性ガスとしては、露点が−20℃以下で、H:1〜10vol%、N:50vol%以上を含有し、残部:不活性ガス(0vol%も含む)からなる混合ガスを用いるのが好ましい。
(調質圧延)
上記バッチ焼鈍後の鋼板に、形状矯正や表面粗度の付与、機械的特性の改善(降伏伸びの消失、調質度の調整、歪時効性の付与)等を目的として調質圧延(スキンパス)を施し、容器用鋼板とする。
ここで、上記調質圧延の伸び率(圧下率)を0.5%以上2.0%以下の範囲に制限することが好ましい。伸び率が0.5%未満では、上記調質圧延の効果を確実に得ることが難しくなる。一方、調質圧延の伸び率を2.0%超とすると、鋼板の延性低下や異方性の増大を招き、所望の加工性を確保することが難しくなる。なお、硬さ(調質度)を重視し、加工性がそれほど要求されない用途向けの鋼板に対しては、調質圧延の伸び率を上記範囲より高めて製造してもよいことは勿論である。
(表面処理)
上記のようにして得た容器用鋼板は、その後、電気めっきライン等に通板して電気めっき処理を施して、例えば、電気錫めっき処理を施してJIS G3303に規定の「ぶりき」や、電解クロム酸処理を施して金属クロムとクロム水和酸化物の2層からなるJIS G3315に規定の「ティンフリースチール」等のめっき層を有する容器用鋼板とすることができる。なお、上記電気めっき処理は、上記電気錫めっき処理や電解クロム酸処理に限定されるものではない。めっき層の種類としては、Sn、Cr、Niから選ばれる1種以上からなるものが好ましい。また、めっき付着量は、特に制限されないが、片面あたり1mg/m以上とされるのが好ましく、10mg/m以上とされるのがより好ましい。
また、上記のようにして得た容器用鋼板又はめっき層を有する容器用鋼板の表面に油を塗布し、塗油層を有する容器用鋼板としてもよい。塗油層が設けられることで、防錆性がより高められる。前記油としては、特に制限されず、公知の油を用いることができる。前記油としては、例えば、植物油、動物油、鉱物油等の天然油、炭化水素、エステル、アミド等の合成油等が挙げられる。前記油としては合成油が好ましい。合成油のなかでもエステルが好ましい。前記エステルとしては二塩基酸ジエステルが好ましい。前記二塩基酸ジエステルとしては、例えば、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジノニル、アジピン酸ジデシル、アジピン酸ジドデシル、アゼライン酸ジヘキシル、アゼライン酸ジオクチル、アゼライン酸ジノニル、アゼライン酸ジデシル、アゼライン酸ジドデシル、セバシン酸ジヘキシル、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジノニル、セバシン酸ジデシル、セバシン酸ジドデシル等が挙げられる。また、塗油層の付着量は、特に制限されないが、片面あたり1mg/dm以上とされるのが好ましい。油の塗布方法としては、特に制限されず、例えば、静電塗油法、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー法等の公知の方法が挙げられる。
また、本発明の容器用鋼板は、上記電気めっき処理を施すことなく、塗装を施して塗装鋼板として用いてもよいし、無処理のまま使用してもよく、特に制限はない。
表1に示したA〜Fの成分組成を有する鋼素材(スラブ)を連続鋳造法で製造し、1150℃の温度に再加熱した後、仕上圧延終了温度FDTを880℃、巻取温度CTを610℃とする熱間圧延により板厚が2.3mmの熱延板とし、酸洗して鋼板表面のスケールを除去した後、1回の冷間圧延で板厚が0.202mm(圧下率91%)の冷延板とした。
次いで、上記冷延板に、バッチ焼鈍炉で表2に示した条件で再結晶焼鈍を施した後、表2に示した伸び率の調質圧延を施して容器用鋼板(原板)とした。その後、前記原板を電気めっきラインETLに通板し、表2に示す片面あたりのめっき付着量の電気めっきを両面に施した後、表2に示す条件で両面に油を塗布して容器用鋼板(製品板)とした。ただし、表2中、No.3の容器用鋼板(原板)にはめっきを施していない。
Figure 0006515294
Figure 0006515294
斯くして得た製品板からサンプルを採取し、以下の試験に供した。
<固溶N量の測定>
上記の各サンプルから分析用試料を採取し、めっき層を除去した後、不活性ガス中で上記試料を加熱・融解して試料中の窒素をNとして抽出・分離した後、熱伝導度検出器で全窒素量(全N量)を定量した。次いで、電解臭素メタノール分解法(湿式N分析)で析出物(窒化物)を形成している窒素量(析出窒素量)を定量した。そして、全窒素量から析出窒素量を差し引いた値を固溶N量とした。
<平均r値の測定>
上記の各サンプルから、圧延方向に対して0°方向(L方向)、45°方向(D方向)、90°方向(C方向)を引張方向とするJIS5号引張試験片を採取し、これらの試験片に10%の単軸引張歪を付与したときの各試験片の幅方向真歪と板厚方向真歪を測定し、これらの測定値から、JIS Z 2254の規定に準拠し下記式にて平均r値を算出した。
平均r値=(r+2r+r)/4
ただし、r、r、rは、それぞれ、圧延方向、圧延方向に対して45°方向、圧延方向に対して90°方向のr値である。
<時効指数(AI)の測定>
上記の各サンプルの圧延方向を引張方向として採取したJIS5号引張試験片に引張試験機にて7.5%の予歪を加えた後、100℃で30分の熱処理を施し、再度引張試験を行って、熱処理前の応力(7.5%予歪付与後の応力)と熱処理後の降伏応力の差から時効指数(AI)を求めた。
<粒径3.1μm以上の炭化物の個数の測定及び全炭化物の個数に対する粒径3.1μm以上の炭化物の個数の割合の測定>
上記の各サンプル(板厚1/2における圧延方向断面)に、腐食液(5mass%ピクリン酸アルコール溶液、「ピクラール」)を塗布して十分にエッチング(80℃、60秒)した後、前記腐食液をエタノールで洗い流し、400倍の光学顕微鏡で0.1375mm×0.1375mmの視野中に存在する炭化物を観察し、撮影した。そして、撮影した画像から、粒径3.1μm以上の炭化物の個数をカウントした。また、前記画像から全炭化物の個数をカウントし、[(粒径3.1μm以上の炭化物の個数)/(全炭化物の個数)×100]の式より全炭化物に対する粒径3.1μm以上の炭化物の個数の割合を求めた。
これらの測定結果を表2に示した。
<調質圧延後の硬さ評価>
上記の各サンプルの硬さHR30Tを測定し、硬さがHR30Tで50以上を硬さ良(○)、50未満を硬さ不良(×)と評価した。
<時効硬化性の評価>
上記の各サンプルについて、210℃×20minの時効処理を施した後の硬さHR30Tを測定し、調質圧延後(時効処理前)の硬さとの差から時効硬化性を評価した。具体的には、HR30T硬さの上昇量が5以上を時効硬化性優(◎)、5未満から3以上を時効硬化性良(○)、3未満を時効硬化性劣(×)と評価し、優(◎)と良(○)を合格とした。
<耐錆性の評価>
上記の各サンプルから40mm×80mmの耐食試験片を採取し、乾燥状態(温度25℃、相対湿度50%)と湿潤状態(温度50℃、相対湿度98%)を30分ごとに繰り返す乾湿繰り返し試験を96時間実施し、試験片表面に発生した点錆の個数から耐錆性を評価した。具体的には、試験片の片面当たりの点錆の発生個数が50個以下を耐錆性良(○)、51個以上を耐錆性不良(×)と評価し、良(○)を合格とした。
<加工性の評価>
上記の各サンプルから、直径100mmφの円形ブランクを200枚ずつ打ち抜き、2ピース缶の缶胴の絞り加工を模擬した加工を各200回行い、破断発生率から加工性を評価した。具体的には、絞り率が0.6の1次絞り後、絞り率が0.75の2次絞り加工を行い、上記絞り加工における破断発生率(%)[(破断数/全加工数)×100]が0.5%未満を加工性が良(○)、0.5%以上を加工性が不良(×)と評価し、良(○)を合格とした。
これらの評価試験の結果を表3に示した。
Figure 0006515294
この結果から、本発明例の鋼板は、HR30Tが50以上で、かつ、加工性や耐食性に優れ、しかも、優れた時効硬化性を有していることがわかる。本発明例の鋼板は、バッチ焼鈍で製造しても、優れた時効硬化性を有している。
本発明の鋼板は、容器用として好適であるが、これに限定されるものではなく、例えば、家電製品や電子機器、家屋の部材用等にも用いることができる。

Claims (3)

  1. C:0.010〜0.050mass%、
    Si:0.05mass%以下、
    Mn:0.10〜0.40mass%
    P:0.020mass%以下、
    S:0.020mass%以下、
    N:0.0060〜0.020mass%、
    Al:0.040〜0.200mass%を含有し、
    さらに、
    Cr:0.01〜0.10mass%、
    Ti:0.005〜0.05mass%、
    Nb:0.005〜0.05mass%、
    V:0.005〜0.05mass%および
    Zr:0.005〜0.05mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    固溶N量が0.0050mass%以上であり、
    平均r値が1.2〜1.4であり、かつ、時効指数が10MPa以上であり、
    粒径3.1μm以上の炭化物が面積0.1375mm×0.1375mmあたり30個以上存在し、かつ、前記面積あたりの全炭化物の個数に対する前記粒径3.1μm以上の炭化物の個数の割合が60%以上である容器用鋼板。
  2. 請求項1に記載の容器用鋼板の少なくとも片方の表面にSn、Cr、Niから選ばれる1種以上からなるめっき層を有し、該めっき層の片面あたりの付着量が1mg/m以上である容器用鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の容器用鋼板の少なくとも片方の表面に塗油層を有し、該塗油層の片面あたりの付着量が1mg/dm以上である容器用鋼板。
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