JP6047714B2 - 無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤及び補給方法 - Google Patents

無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤及び補給方法 Download PDF

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本発明は無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤並びに当該ペースト補給剤を用いた補給方法に関して、メッキ液の増量と補給成分の飛散とを共に抑制できるものを提供する。
従来、無電解スズ又はスズ合金メッキに際して、同メッキ液への第一スズ成分の補給は、硫酸第一スズ、塩化第一スズ、ホウフッ化第一スズ、ピロリン酸第一スズ、亜スズ酸塩などの無機系、或いは、有機スルホン酸第一スズ、脂肪族カルボン酸第一スズなどの有機系の水溶性スズ塩を添加していた。
また、電気メッキの分野ではあるが、例えば、特開2009−149979号公報や特開2010−202941号公報に見る通り、易溶性のある酸化第一スズのような粉末状の形態で補給する方法もある。
そこで、 無電解スズ又はスズ合金メッキ液に所定成分を補給し、或いは無電解スズ系メッキにペースト剤を適用する先行技術を挙げると、次の通りである。
(1)特許文献1
ペースト状の有機スルホン酸金属塩を銅基材の上に塗布し、高温加熱雰囲気下で基材上にスズを析出させる。
これは、メッキ液への補給成分としてではなく、メッキ液に代えて、銅基材上に直接スズ皮膜を形成するためのペースト状のメッキ剤を供給するものである。
(2)特許文献2
錯化剤としてチオアミドを含有する無電解スズ、鉛、又はスズ−鉛合金メッキ浴において、メッキ浴中のチオアミドの濃度を随時分析して、その減少量に比例してメッキ液を構成する各成分を補給するもので、液状補給を前提にしている。
(3)特許文献3
銅基材に置換スズメッキする際に、浴中のスズイオン及び銅イオンの濃度比に基づいてその両イオンの比率を所定範囲に管理して、過剰な成分の補給などを防止するもので、やはり液状補給を前提にしている。
(4)特許文献4
被メッキ物からメッキ浴中に溶解混入する銅により、浴中の銅濃度が所定値より増すと析出速度が低下するため、メッキ浴の温度を40℃以下に下げ、浴中の銅と錯化剤(例えば、チオ尿素)の間で化合物を生成させて除去した後、錯化剤をメッキ浴に補給することにより、析出速度を回復させて無電解スズメッキ浴の寿命を延ばすものである(請求項1〜2、段落9)。
特開平5−320918号公報 特開平6−272048号公報 特開平5−339741号公報 特開2002−317275号公報
上記特許文献1はメッキ液への補給剤ではなくメッキ剤そのものである。また、特許文献2〜3は液状の補給剤を前提したものである。
前述したように、従来、無電解スズ又はスズ合金メッキへのスズ成分の補給は、水溶性の有機スルホン酸第一スズ塩や硫酸第一スズなどを添加していたが、この場合、補給液の大部分は水分であるので、補給を繰り返すと浴量が増加して、排水処理にコストと時間を要したり、オーバーフローして薬液を無駄にするという問題があった。
また、通常、クリーンルーム内にあるTAB、COFのメッキ付けラインでは、室内を清浄に保つ必要があり、酸化第一スズ、硫酸第一スズ或いはメタンスルホン酸第一スズのような粉末形態で補給すると、粉末がクリーンルーム内に飛散する危険があるため、これらの補給剤は適さない。
さらに、酸化第一スズ、硫酸第一スズ或いはメタンスルホン酸第一スズの粉末は、経時により酸化が進んでメッキ液への溶解性が低下するという性質があるので、空気中で長期保管した後に補給することはできない。
本発明は 無電解スズ系メッキ液にスズ成分を補給するに際して、メッキ液の過剰な増量や補給成分の飛散の問題を解消し、スズ成分の経時安定性を確保することを技術的課題とする。
従来のメッキ液に代えて、ペースト形態のメッキ剤を特徴とする上記特許文献1を出発点として、本発明者らは、無電解スズ系メッキ液への第一スズ成分の補給にペースト形態を適用することを着想した。
即ち、ペースト剤であれば、補給を繰り返してもメッキ液の増量は抑制され、粉末が周辺に飛散する恐れもない点、また、酸化防止剤を添加することで第一スズ成分の経時安定性を向上できる点に鑑みて、本発明を完成した。
即ち、本発明1は、(A)可溶性第一スズ塩と、
(B)有機スルホン酸、カルボン酸、硫酸、塩酸、リン酸、ピロリン酸、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、スルファミン酸、次亜リン酸、亜リン酸よりなる群から選ばれた酸及びその塩の少なくとも一種と、
(C)酸化防止剤
とを含有し、さらに水を添加し又は添加しないとともに、
粘度1〜500Pa・sのペースト状の形態を有するスズ補給剤であって、
上記補給剤に対する可溶性第一スズ塩(A)の2価スズイオンとしての換算含有量が10〜40重量%であり、
成分(C)が次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩の少なくとも一種であることを特徴とする無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤である。
本発明2は、上記本発明1において、成分(A)が酸化第一スズ、硫酸第一スズ、2−ヒドロキシエタンスルホン酸第一スズ又はメタンスルホン酸第一スズであることを特徴とする無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤である。
本発明3は、上記本発明1又は2において、さらに、錯化剤を含有することを特徴とする無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤である。
本発明4は、上記本発明3において、錯化剤がチオ尿素類であることを特徴とする無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤である。
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかのペースト状スズ補給剤を無電解スズ又はスズ合金メッキ液に投入して、メッキ液の増量と補給成分の飛散とを抑制可能にしたことを特徴とする無電解スズ系メッキ液への補給方法である。
本発明では、第一スズ成分が減少した無電解スズ系メッキ液に、不足のスズ量を換算したペースト形態のスズ補給剤(以下、ペースト補給剤という)を直接投入することで、液剤に比べて水分量を大きく減らせるため、液を補給した場合と異なりメッキ液量は増えず、排水処理にコストや時間を要することがなく、オーバーフローで薬液を無駄に廃棄してしまうこともない。
また、本発明の補給剤は酸化第一スズのような粉末形態ではなくペースト形態なので、クリーンルーム内にあるTAB、COFのメッキ付けラインに適用しても、粉末がクリーンルーム内に飛散して電子部品の品質を損なうこともない。
本発明のペースト補給剤には酸化防止剤を添加するため、第一スズ成分が第二スズに酸化することを防止でき、経時安定性に優れ、補給剤を長期に保管しても劣化することはない。前述したように、酸化第一スズや硫酸第一スズなどの粉末では、経時酸化によりメッキ液への溶解性が低下する問題があるが、本発明のペースト補給剤では、たとえ、可溶性第一スズ塩に酸化第一スズや硫酸第一スズなどを選択しても、ペーストという形態性と酸化防止剤の共存により、この経時劣化の問題はなく、長期保管後でもメッキ液への溶解性に優れる。
本発明は、第一に、(A)可溶性第一スズ塩と、(B)所定の酸及びその塩の少なくとも一種と、(C)酸化防止剤とを含有し、さらに水を添加し又は添加しないとともに、その形態が所定の粘度を有するペースト状であり、上記第一スズ塩(A)が所定濃度を有し、酸化防止剤Cが次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩から選択された無電解スズ系メッキ液用のペースト補給剤であり、第二に、当該ペースト補給剤を無電解スズ又はスズ合金メッキ液に投入する無電解スズ系メッキ液への補給方法である。
本発明のペースト補給剤は、(A)可溶性第一スズ塩と、(B)所定の酸及びその塩の少なくとも一種と、(C)酸化防止剤とを必須成分として含有するとともに、水分を適量加え、或いは加えない。
上記可溶性第一スズ塩(A)は 基本的にSn2+を発生させる有機酸又は無機酸系のスズ塩であり、有機酸系の可溶性塩には、有機スルホン酸の第一スズ塩、スルホコハク酸の第一スズ塩、脂肪族カルボン酸の第一スズ塩が挙げられる。
上記有機スルホン酸は、さらに、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、2−プロパノールスルホン酸などのアルカノールスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸などの芳香族スルホン酸に分けられる。
また、無機酸系の可溶性塩には、ホウフッ化第一スズ、硫酸第一スズ、酸化第一スズ、塩化第一スズ、 ピロリン酸第一スズ、リン酸第一スズ、スルファミン酸第一スズ、亜スズ酸塩など が挙げられる。
この可溶性第一スズ塩(A)には、酸化第一スズ、硫酸第一スズ、2−ヒドロキシエタンスルホン酸第一スズ、メタンスルホン酸第一スズが好ましい(本発明2参照)。
上記可溶性第一スズ塩は単用又は併用でき、ペースト補給剤に対する含有量は15〜95重量%、好ましくは25〜85重量%である。この場合、2価スズイオンとしての換算含有量は10〜40重量%である。
ペースト補給剤を構成する酸(B)としては、一般に、 有機スルホン酸、カルボン酸(例えば、脂肪族カルボン酸)の有機酸、或いは、硫酸、塩酸、リン酸、ピロリン酸、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、スルファミン酸の無機酸が挙げられる。さらに、後述の実施例7〜10に示すように、酸化防止剤である次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩は酸及びその塩としても機能するため、上記酸(B)に次亜リン酸、亜リン酸を挙げることができる。
また、有機酸又は無機酸の塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンペンタミン、ペンタエチレンテトラミン塩などが使用できる。
上記有機スルホン酸は、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸、スルホコハク酸、芳香族スルホン酸などであり、ペースト補給剤の酸として有機スルホン酸を使用すると、メッキ液に投入する際の溶解性や排水処理の容易性などの利点がある。
上記アルカンスルホン酸としては、化学式CnH2n+1SO3H(例えば、n=1〜11)で示されるものが使用でき、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1―プロパンスルホン酸、2―プロパンスルホン酸、1―ブタンスルホン酸、2―ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸などが挙げられる。
上記アルカノールスルホン酸としては、化学式
CmH2m+1-CH(OH)-CpH2p-SO3H(例えば、m=0〜6、p=1〜5)
で示されるものが使用でき、具体的には、2―ヒドロキシエタン―1―スルホン酸(イセチオン酸)、2―ヒドロキシプロパン―1―スルホン酸(2−プロパノールスルホン酸)、2―ヒドロキシブタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシペンタン―1―スルホン酸などの外、1―ヒドロキシプロパン―2―スルホン酸、3―ヒドロキシプロパン―1―スルホン酸、4―ヒドロキシブタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシヘキサン―1―スルホン酸などが挙げられる。
上記芳香族スルホン酸は、基本的にベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフトールスルホン酸などであり、具体的には、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、スルホサリチル酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、ジフェニルアミン−4−スルホン酸などが挙げられる。
上記有機スルホン酸では、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、2−プロパノールスルホン酸などが好ましい。
上記酸又はその塩は単用又は併用でき、ペースト補給剤に対する含有量は0.5〜50量%、好ましくは1〜40重量%である。
ペースト補給剤を構成する 酸化防止剤(C)は、次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩から選択され、これらを単用又は併用できる。特に、次亜リン酸を使用すると、ペースト補給剤の調製が容易で、メッキ液に速やかに溶解する。
また、当該補給剤においては、上記酸化防止剤の他に、酸化防止機能を有する化合物として、アスコルビン酸、エリソルビン酸、グアヤコール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、フロログルシン、ピロガロール、没食子酸、フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、カテコールスルホン酸、ヒドロキノンスルホン酸、タイロン、ナフトールスルホン酸、ジヒドロキシナフタレンスルホン酸及びこれらの塩、ヒドラジン又はその誘導体(塩酸ヒドラジン、フェニルヒドラジンなど)、アミンボラン類(ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボランなど)、水素化ホウ素化合物なども有効である。
上記酸化防止剤は単用又は併用でき、ペースト補給剤に対する含有量は1〜45重量%、好ましくは2〜40重量%である。
本発明のペースト補給剤には、さらに錯化剤を含有することができる。
錯化剤にはチオ尿素類が好ましく、素地金属の銅、銅合金に配位して錯イオンを形成し、銅の電極電位を卑の方向に変移させて、スズとの化学置換反応を促進するために含有される。
このチオ尿素類はチオ尿素及びその誘導体からなり、チオ尿素の誘導体には、1,3―ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素(例えば、1,3―ジエチル―2―チオ尿素)、N,N′―ジイソプロピルチオ尿素、アリルチオ尿素、アセチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、1,3―ジフェニルチオ尿素、二酸化チオ尿素、チオセミカルバジドなどが挙げられる。
当該チオ尿素類と同様の錯化作用を奏する化合物として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(EDTA・2Na)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、エチレンジアミンテトラプロピオン酸、エチレンジアミンテトラメチレンリン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンリン酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、イミノジプロピオン酸(IDP)、アミノトリメチレンリン酸、アミノトリメチレンリン酸五ナトリウム塩、ベンジルアミン、2―ナフチルアミン、イソブチルアミン、イソアミルアミン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、シンナミルアミン、p―メトキシシンナミルアミンなども有効である。
上記錯化剤のペースト補給剤に対する含有量は1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%である。
上記成分(A)〜(C)では、前述したように、可溶性第一スズ塩(A)には 酸化第一スズ、硫酸第一スズ、2−ヒドロキシエタンスルホン酸第一スズ又はメタンスルホン酸第一スズが好ましい(本発明2参照)。
特に、冒述したように、酸化第一スズやメタンスルホン酸第一スズは粉末状であるが、ペースト剤にすることで、飛散の危険をなくし、クリーンルームでの使用に適したものになる。
一方、好ましい成分(A)〜(C)の組み合わせとしては、酸化第一スズと次亜リン酸、酸化第一スズと次亜リン酸とメタンスルホン酸、酸化第一スズと次亜リン酸と2−ヒドロキシエタンスルホン酸などである。
次いで、本発明のペースト補給剤は、可溶性第一スズ塩、酸、酸化防止剤に水分を加えて、乳鉢等で練り合わせてペースト状の補給剤を調製する。
ペースト補給剤の作成には基本的に 水を適量加え、その割合は45重量%以下が好ましい。但し、水の添加は必須ではなく、例えば、吸湿性の亜リン酸を酸化防止剤(C)として使用する場合、水を加える必要はない。
ペースト補給剤のペースト形態としての性状を粘度で表すと、 1〜500Pa・sであり、好ましくは10〜300Pa・sである。
調製したペースト補給剤は、さらに錠剤、ペレット、顆粒状に加工することができる。これらの加工形態では、ペースト形態と同じく、メッキ液に投入しても液量は増えず、粉末の飛散もないうえ、ペースト形態より取り扱い性(ハンドリング)が良くなる。
本発明5は、上記本発明1〜4のペースト補給剤を無電解スズ又はスズ合金メッキ液に投入する補給方法である。
即ち、調製したペースト補給剤は無電解スズ又はスズ合金メッキ液に不足するスズ換算量を直接投入して撹拌することで、メッキ液中に容易に溶解させることができる。
これにより、メッキ液の増量と補給成分の飛散とを抑制可能にし、従来の液又は粉末形態の補給剤の問題点を解消できる。
ペースト補給剤を投入する無電解スズ合金メッキ液は、スズ−銀合金、スズ−ビスマス合金、スズ−銅合金、スズ−ニッケル合金、スズ−インジウム合金、スズ−鉛合金などの無電解メッキ液をいう。
尚、ペースト剤を補給するスズ系メッキ浴は酸性浴、中性浴を問わない。
以下、本発明のペースト補給剤の実施例、調製直後並びに長期保管後に当該ペースト補給剤を無電解メッキ液に補給した際の溶解性と補給したメッキ液から得られるメッキ皮膜の析出性の評価試験結果を順次説明する。実施例の「%」は重量基準(重量%)である。
尚、本発明は上記実施例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
《無電解スズ系メッキ液へのペースト補給剤の実施例》
下記の実施例1〜10のうち、実施例1〜8は酸化防止剤として次亜リン酸を用いた例、実施例9は同じく次亜リン酸塩を用いた例、実施例10は亜リン酸を用いた例である。
実施例10は吸湿性の亜リン酸を用いたので、水を添加しなかった例であり、他の実施例は全て適量の水を添加した。
実施例6は可溶性第一スズ塩と酸と酸化防止剤に加えて、さらに錯化剤(チオ尿素)を加えた例、他の実施例では錯化剤は添加しなかった。
また、参考例1は上記酸化防止剤に代えて、酸化防止機能のある化合物としてアスコルビン酸を用いた例であり、参考例2は同じくハイドロキノンを用いた例である。
一方、比較例1〜2は粉末形態のスズ成分補給剤であり、比較例1は硫酸第一スズ、比較例2は酸化第一スズの例である。
(1)実施例1
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
硫酸第一スズ 45%
次亜リン酸 28%
硫酸 5%
イオン交換水 22%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩(=硫酸第一スズ)において、スズ塩全体ではなく2価スズイオンに換算した場合のペースト補給剤に対する含有率は24.8%である。
また、調製したペースト補給剤を粘度計(東機産業製のVISCOMETER TV−10;以下の実施例も同じ)を用いて測定したところ、粘度は40.8Pa・sであった。
(2)実施例2
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
酸化第一スズ 30%
次亜リン酸 29%
2−ヒドロキシエタンスルホン酸 3%
イオン交換水 38%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は26.4%である。
また、ペースト補給剤の粘度は58.3Pa・sであった。
(3)実施例3
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
ホウフッ化第一スズ 65%
次亜リン酸 30%
イオン交換水 5%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は26.7%である。
また、ペースト補給剤の粘度は34.7Pa・sであった。
(4)実施例4
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
酸化第一スズ 30%
次亜リン酸 30%
メタンスルホン酸 1%
イオン交換水 39%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は26.4%である。
また、ペースト補給剤の粘度は38.6Pa・sであった。
(5)実施例5
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
酸化第一スズ 30%
次亜リン酸 30%
イオン交換水 40%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は26.4%である。
また、ペースト補給剤の粘度は54.7Pa・sであった。
(6)実施例6
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
酸化第一スズ 25%
次亜リン酸 28%
メタンスルホン酸 4%
チオ尿素 4%
イオン交換水 39%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は22.0%である。
(7)実施例7
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
メタンスルホン酸第一スズ 85%
次亜リン酸 8%
イオン交換水 7%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は32.3%である。
(8)実施例8
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
フェノールスルホン酸第一スズ 70%
次亜リン酸 25%
イオン交換水 5%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は17.9%である。
(9)実施例9
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
メタンスルホン酸第一スズ 65%
次亜リン酸ナトリウム 30%
イオン交換水 5%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は24.7%である。
(10)実施例10
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
メタンスルホン酸第一スズ 80%
亜リン酸 20%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は30.4%である。
(11)参考例1
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
メタンスルホン酸第一スズ 75%
アスコルビン酸 10%
イオン交換水 15%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は28.5%である。
(12)参考例2
下記の組成でペースト補給剤を調製した。
メタンスルホン酸第一スズ 80%
ハイドロキノン 10%
メタンスルホン酸 2%
イオン交換水 8%
合計 100%
尚、上記可溶性第一スズ塩において、2価スズイオンとしての換算含有率は30.4%である。
(13)比較例1
下記の組成で粉末状のスズ成分補給剤を調製した。
硫酸第一スズ 100%
(14)比較例2
下記の組成で粉末状のスズ成分補給剤を調製した。
酸化第一スズ 100%
2価スズ(第一スズイオン)が4価スズ(第二スズイオン)に酸化すると、酸化第二スズ(4価スズ)は不溶性であるため、メッキ液に添加すると白濁してしまう。
そこで、調製直後のペースト補給剤と、調製し長期保管した後のペースト補給剤について、品質劣化の有無をメッキ液への溶解性とメッキ皮膜の析出性を中心に評価試験した。また、冒述したように、酸化第一スズの粉末は経時酸化して溶解性が低下する性質があるため、比較例1〜2のスズ成分補給剤についても評価した。
《調製直後の 補給剤を無電解メッキ液に補給した際の溶解性と析出性の評価試験例 》
上記実施例1〜10及び参考例1〜2の各ペースト補給剤を調製し、時間を置かずに2価スズイオンとして3g/Lになる各量を無電解スズメッキ液、並びにスズ−銀合金メッキ液に添加して、メッキ液への溶解性と補給したメッキ液から得られるメッキ皮膜の析出性を下記の基準で評価した。
また、比較例1〜2の各補給剤についても、同様の方法で評価した。
[メッキ液への 溶解性]
○:速やかに溶解し、粉末の飛散がなく、浮遊物、白濁、沈殿は認められなかった。
△:溶解に時間がかかり、粉末の飛散があった。
×:粉末の飛散があり、浮遊物、白濁、沈殿が認められた。
[メッキ皮膜の析出 性]
○:異常粒子やめっきムラの発生はなかった。
×:異常粒子やめっきムラの発生が認められた。
[無電解スズメッキ液の組成 ]
メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) 30g/L
メタンスルホン酸 150g/L
チオ尿素 150g/L
次亜リン酸 40g/L
ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル(EO8モル) 10.0g/L
[無電解スズ−銀合金メッキ液の組成 ]
メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) 30g/L
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.1g/L
メタンスルホン酸 150g/L
チオ尿素 120g/L
次亜リン酸 40g/L
ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル(EO8モル) 10.0g/L
《長期保管した 補給剤の溶解性と析出性の評価試験例 》
上記実施例1〜10及び参考例1〜2の各ペースト補給剤を調製し、6カ月保管した後、2価スズイオンとして3g/Lになる各量を無電解スズメッキ液、並びにスズ−銀合金メッキ液に夫々投入し、メッキ液への溶解性とメッキ皮膜の析出性を上記基準で評価した。また、比較例1〜2の各スズ成分補給剤についても、同様の方法で評価した。
《評価試験の結果》
評価試験の結果は下表の通りである。
調製後すぐ 6ケ月後
溶解性 析出性 溶解性 析出性
実施例1 〇 〇 〇 〇
実施例2 〇 〇 〇 〇
実施例3 〇 〇 〇 〇
実施例4 〇 〇 〇 〇
実施例5 〇 〇 〇 〇
実施例6 〇 〇 〇 〇
実施例7 〇 〇 〇 〇
実施例8 〇 〇 〇 〇
実施例9 〇 〇 〇 〇
実施例10 〇 〇 〇 〇
参考例1 〇 〇 〇 〇
参考例2 〇 〇 〇 〇
比較例1 △ 〇 × ×
比較例2 △ 〇 × ×
上表によると、ペースト補給剤は、6ケ月後においても2価スズから4価スズへの酸化が抑制され、スズ成分の経時安定性に優れるとともに、メッキ液への溶解性とメッキ皮膜の析出性も共に良好であった。
これに対して、比較例1〜2の粉末は、その形態性ゆえに実施例1〜10のペースト補給剤に調製直後の溶解性の面で劣るが、6ケ月保管後にはスズ成分の酸化が進み、メッキ液への溶解性がさらに低下するとともに、析出するメッキ皮膜の性状にも悪影響が認められた。

Claims (5)

  1. (A)可溶性第一スズ塩と、
    (B)有機スルホン酸、カルボン酸、硫酸、塩酸、リン酸、ピロリン酸、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、スルファミン酸、次亜リン酸、亜リン酸よりなる群から選ばれた酸及びその塩の少なくとも一種と、
    (C)酸化防止剤
    とを含有し、さらに水を添加し又は添加しないとともに、
    粘度1〜500Pa・sのペースト状の形態を有するスズ補給剤であって、
    上記補給剤に対する可溶性第一スズ塩(A)の2価スズイオンとしての換算含有量が10〜40重量%であり、
    成分(C)が次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩の少なくとも一種であることを特徴とする無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤。
  2. 成分(A)が酸化第一スズ、硫酸第一スズ、2−ヒドロキシエタンスルホン酸第一スズ又はメタンスルホン酸第一スズであることを特徴とする請求項1に記載の無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤。
  3. さらに、錯化剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤。
  4. 錯化剤がチオ尿素類であることを特徴とする請求項3に記載の無電解スズ系メッキ液用のペースト状スズ補給剤。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項のペースト状スズ補給剤を無電解スズ又はスズ合金メッキ液に投入して、メッキ液の増量と補給成分の飛散とを抑制可能にしたことを特徴とする無電解スズ系メッキ液への補給方法。
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