JP4524773B2 - 無電解スズメッキ浴の分割保存方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は無電解スズメッキ浴の分割保存方法であり、保存時の長期安定性とメッキ処理時の経時安定性を共に良好に保持できるものを提供する。
【0002】
【従来の技術】
無電解メッキ浴の分割保存方法としては、特許文献1に、金塩、金の錯化剤、pH調整剤及び還元剤からなる無電解金メッキ液において、成分を数種類に分割して建浴しておき、使用時に所定の成分濃度となるように混合調整する方法が開示され、特許文献2に、無電解金メッキ液の成分を、少なくとも金錯塩及び錯化剤を含む溶液と、還元剤を含む溶液とに分割し、且つ濃縮保存する方法が開示されている。
また、特許文献3には、メッキ浴の保存方法とは異なるが、メッキ進行に伴い、メッキ速度とメッキ膜質を低下させず、長時間の連続使用を確保する目的で、金イオン及び亜硫酸イオンを含有し、金イオン濃度が本メッキ液の金イオン濃度の初期値より大きく、0.3モル/L以下である還元型金メッキ用の補充液が開示されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平6−93458号公報
【特許文献2】
特許第3135699号公報
【特許文献3】
特許第2960439号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記特許文献1〜3のメッキ浴は金メッキ浴であり、無電解スズメッキ浴ではない。
無電解スズメッキ浴を保存する場合、保存時の浴成分の長期安定性と、メッキ処理に際して長く良好なスズ皮膜を形成するための経時安定性を両立させる必要がある。
一般に、無電解スズメッキ浴は、可溶性第一スズ塩、ベースとなる酸、錯化剤としてのチオ尿素類の外、当該第一スズ塩の酸化防止を目的として次亜リン酸又はその塩(以下、次亜リン酸類という)などの酸化防止剤を含有しているが、適正濃度で浴を建浴して長期保存しておくと、次亜リン酸類は空気酸化され、或は、共存する第一スズ塩によって酸化されて分解するため、スズメッキの処理中に可溶性第一スズ塩の酸化を有効に防止できず、酸化第二スズの沈殿が発生し、スズ皮膜を良好に形成できない恐れがある。
【0005】
この弊害をなくすために、保存時の分解を見越して当初から次亜リン酸類を増量・添加したうえで保存しておくことも考えられるが、スズメッキ処理の時点で次亜リン酸類が浴中に適量存在するとは限らず、適量範囲を超えて多く存在すると、スズメッキ皮膜に異常粒子が発生する恐れがある。また、適量存在するとしても、保存時に次亜リン酸類を多く加えることは経済的でない。
【0006】
本発明は、無電解スズメッキ浴の保存に際して、保存時の長期安定性とメッキ使用時の経時安定性を共に良好に確保することを技術的課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、特に、分解し易い次亜リン酸類などの酸化防止剤を含有する無電解スズメッキ浴の保存形態を鋭意研究した結果、メッキ浴をこの次亜リン酸類などの酸化防止剤を第1液と第2液に分割して保存することを着想した。
即ち、分解し易い次亜リン酸類を少量の第1液と残量の第2液に分割し、少量側に可溶性第一スズ塩を共存させて保存すると、当該第一スズ塩の酸化を防止できるとともに、メッキ使用時には次亜リン酸類の濃厚な第2液を第1液に加えるため、メッキ時に次亜リン酸類が酸化防止の適量範囲より下限側に外れる時間を遅延化させて、保存の長期安定性とスズメッキの経時安定性を両立できることを見い出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明1は、酸化防止剤を第1液と第2液の両方に分けて保存し、
第1液に0.01モル/Lの適量下限以上であって第2液より相対的に少量の酸化防止剤と少なくとも可溶性第一スズ塩を保存し、第2液に第1液への少量を分けた残量分であって第1液より相対的に多く濃厚な酸化防止剤と残りの浴成分を保存し、
上記酸化防止剤は、次亜リン酸類、アスコルビン酸又はその塩、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、フロログルシン、クレゾールスルホン酸又はその塩、フェノールスルホン酸又はその塩、カテコールスルホン酸又はその塩、ハイドロキノンスルホン酸又はその塩、ヒドラジンより選ばれることを特徴とする無電解スズメッキ浴の分割保存方法である。
【0012】
本発明2は、上記本発明1において、酸化防止剤が次亜リン酸類であり、第1液の次亜リン酸類の含有量が0.01〜0.15モル/Lであることを特徴とする無電解スズメッキ浴の分割保存方法である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は無電解スズメッキ浴を第1液と第2液に分割して保存し、使用時に第1液と第2液を混合して無電解スズメッキを行う方法である。
上記無電解スズメッキ浴は、一般に、可溶性第一スズ塩、浴ベースとしての酸、チオ尿素類などの錯化剤、次亜リン酸類などの酸化防止剤を含有し、或は、必要に応じて界面活性剤、光沢剤などの各種添加剤を含有する。
上記分割保存方法には次の(a)〜(b)の2通りが考えられるが、後述する理由により、本発明は方法bに限定される。
(a)分解可能性のある成分(以下、分解可能成分という)を含む第1液と残りの成分を含む第2液に分割保存する方法。
(b)上記分解可能成分を第1液と第2液に分割するとともに、第1液には分解可能成分のみ又はさらに他の成分(例えば、Sn2+)を加えて保存し、第2液にさらに残りの浴成分を加えて保存する方法。
【0014】
上記方法aは、分割した第1液と第2液の一方にだけ分解可能成分を含有し、他方には含有しない。
例えば、分解可能成分がチオ尿素類、界面活性剤などの場合、一方の液だけに含有させる当該方法aが選択できる。即ち、分解可能成分を一方の液に多量に含有させて、濃厚な状態で保存すると、分解により濃度低減を起こしても、メッキ時に2液を混合することで、有効な適量範囲の下限以上を確実に保持できるため、例えば、チオ尿素類においては錯化作用を良好に担保することができる。尚、チオ尿素類や界面活性剤は、濃厚状態で第一スズ塩と共存させても、次亜リン酸類とは異なり、良好なスズ皮膜の形成に支障を来すことはない。
しかしながら、当該方法aを適用して、次亜リン酸類などの酸化防止剤を一方の液だけに含有すると、第一スズ塩は他方の液に当該酸化防止剤と分離した状態で存在することになり、第一スズ塩の酸化を防止できなくなるため、本発明では前記方法bにより分割保存する。
【0015】
上記方法bは、分解可能成分を第1液と第2液の両方に分けて保存する方法であり、この方法は、さらに二つの方法に別れる。
b−1:第1液には分解可能成分のみを保存し、第2液には分解可能成分の残量と残りの浴成分を保存する方法。
b−2:第1液には分解可能成分とさらに他の成分を保存し、第2液には分解可能成分の残量と残りの浴成分を保存する方法。
例えば、分解可能成分がチオ尿素類、界面活性剤などの場合、上記方法b−1又は方法b−2を選択することができる。第1液と第2液の一方を分解可能成分の濃厚な濃度に保持すれば、前記方法aと同様の効果が得られる。
また、分解可能成分が酸化防止剤の場合、この方法b−1を選択できるが、当該方法では、第一スズ塩は第2液に存在するため、同第2液の酸化防止剤の残量は、酸化防止に有効な適量下限以上の含有量であることが必要である。
尚、本発明においては、第1液と第2液の区別は分割液を識別するための便宜上の符号であり、例えば、方法b−1では、分解可能成分のみを保存するのが第2液であり、分解可能成分の残量と残りの浴成分を保存するのが第1液であっても差し支えない。
【0016】
分解可能成分が次亜リン酸類などの酸化防止剤である場合、上記方法b−2を選択する。即ち、第1液に酸化防止剤と第一スズ塩を保存し、第2液には酸化防止剤の残量と残りの浴成分を保存すると、第一スズ塩の酸化を次亜リン酸類などで有効に防止できる。
この場合を詳述すると、次亜リン酸類を第1液側に適量下限以上の少量(つまり、第2液の次亜リン酸類の含有量より相対的に少量)で含有させ、残量分(つまり、第1液の含有量より相対的に多い量)を第2液側に含有させると、先ず、第1液の側では適量範囲の下限以上で存在する次亜リン酸類により第一スズ塩の酸化を有効に防止して、保存の長期安定性を確保できる。次いで、第2液の側では、次亜リン酸類は第1液に少量を分けた残量分であり、含有量の多い濃厚状態で存在するため、使用時に第1液と第2液を混合した場合、建浴されたスズメッキ浴中には次亜リン酸類が濃厚に含まれ、連続メッキに際して次亜リン酸類の濃度が低減しても適量範囲を長く保持できるため、スズメッキの経時安定性も良好に保持できる。
上述のように、次亜リン酸類は第1液の側に少量含有させる点が重要であるが、本発明2に示すように、当該第1液における次亜リン酸類の含有量は0.01〜0.15モル/Lが適当であり、好ましくは0.05〜0.1モル/Lである。従って、次亜リン酸類(或はこれが属する酸化防止剤)の第1液の上記適量下限は0.01モル/Lである。
【0017】
上記無電解スズメッキ浴に含有する可溶性第一スズ塩は特に制限されず、例えば、ホウフッ化第一スズ、硫酸第一スズ、酸化第一スズ、塩化第一スズ、ピロリン酸スズ、スルファミン酸スズ、亜スズ酸塩などの無機系の可溶性塩、アルカンスルホン酸第一スズ、アルカノールスルホン酸第一スズ、芳香族オキシスルホン酸第一スズ塩、スルホコハク酸第一スズ、脂肪族カルボン酸第一スズなどの有機系の可溶性塩などが使用できる。
【0018】
無電解スズメッキ浴のベースを構成する酸としては、排水処理の容易性から、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸、芳香族スルホン酸等の有機スルホン酸、或は、脂肪族カルボン酸などの有機酸が好ましいが、塩酸、ホウフッ化水素酸、硫酸、ケイフッ化水素酸、過塩素酸などの無機酸でも良い。
【0019】
上記アルカンスルホン酸としては、化学式CnH2n+1SO3H(例えば、n=1〜5、好ましくは1〜3)で示されるものが使用でき、具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1―プロパンスルホン酸、2―プロパンスルホン酸、1―ブタンスルホン酸、2―ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸などの外、ヘキサンスルホン酸、デカンスルホン酸、ドデカンスルホン酸等が挙げられる。
【0020】
上記アルカノールスルホン酸としては、化学式
CmH2m+1-CH(OH)-CpH2p-SO3H(例えば、m=0〜2、p=1〜3)
で示されるものが使用でき、具体的には、2―ヒドロキシエタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシプロパン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシブタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシペンタン―1―スルホン酸などの外、1―ヒドロキシプロパン―2―スルホン酸、3―ヒドロキシプロパン―1―スルホン酸、4―ヒドロキシブタン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシヘキサン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシデカン―1―スルホン酸、2―ヒドロキシドデカン―1―スルホン酸などが挙げられる。
【0021】
上記芳香族スルホン酸としては、基本的にはベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフトールスルホン酸などであって、具体的には、1−ナフタレンスルホン酸、2―ナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、p―フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、スルホサリチル酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、ジフェニルアミン―4―スルホン酸、ナフトールジスルホン酸、ジヒドロキシナフタレンスルホン酸などが挙げられる。
【0022】
上記脂肪族カルボン酸としては、一般に、炭素数1〜6のカルボン酸が使用できる。具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、トリフルオロ酢酸、スルホコハク酸などが挙げられる。
【0023】
上記錯化剤は素地金属の銅、銅合金に配位して錯イオンを形成し、銅の電極電位を卑の方向に変移させ、スズとの化学置換反応を促進する目的で含有され、チオ尿素類が好ましい。
このチオ尿素類には、チオ尿素、或は、1,3―ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素(例えば、1,3―ジエチル―2―チオ尿素)、N,N′―ジイソプロピルチオ尿素、アリルチオ尿素、アセチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、1,3―ジフェニルチオ尿素、二酸化チオ尿素、チオセミカルバジドなどのチオ尿素誘導体が挙げられる。
当該チオ尿素類と同様の錯化作用を奏する化合物としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(EDTA・2Na)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、エチレンジアミンテトラプロピオン酸、エチレンジアミンテトラメチレンリン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンリン酸、ニトリロ三酢酸(NTA)、イミノジ酢酸(IDA)、イミノジプロピオン酸(IDP)、アミノトリメチレンリン酸、アミノトリメチレンリン酸五ナトリウム塩、ベンジルアミン、2―ナフチルアミン、イソブチルアミン、イソアミルアミン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、シンナミルアミン、p―メトキシシンナミルアミンなども有効である。
【0024】
上記酸化防止剤は可溶性第一スズ塩の第二スズ塩への酸化を防止する目的で含有され、次亜リン酸類を初め、アスコルビン酸又はその塩、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、フロログルシン、クレゾールスルホン酸又はその塩、フェノールスルホン酸又はその塩、カテコールスルホン酸又はその塩、ハイドロキノンスルホン酸又はその塩、ヒドラジンなどが挙げられる。
【0025】
一方、前述したように、無電解スズメッキ浴には上記成分以外に、必要に応じて公知の界面活性剤、光沢剤、半光沢剤、pH調整剤、防腐剤などの各種添加剤を含有できる。
上記界面活性剤には通常のノニオン系、アニオン系、両性、或はカチオン系などの各種界面活性剤が挙げられ、メッキ皮膜の外観、緻密性、平滑性、密着性などの改善に寄与する。
上記アニオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩などが挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、モノ〜トリアルキルアミン塩、ジメチルジアルキルアンモニウム塩、トリメチルアルキルアンモニウム塩などが挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、C1〜C20アルカノール、フェノール、ナフトール、ビスフェノール類、C1〜C25アルキルフェノール、アリールアルキルフェノール、C1〜C25アルキルナフトール、C1〜C25アルコキシルリン酸(塩)、ソルビタンエステル、ポリアルキレングリコール、C1〜C22脂肪族アミドなどにエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)を2〜300モル付加縮合させたものなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、カルボキシベタイン、イミダゾリンベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸などが挙げられる。
【0026】
上記光沢剤、或は半光沢剤としては、ベンズアルデヒド、o−クロロベンズアルデヒド、2,4,6−トリクロロベンズアルデヒド、m−クロロベンズアルデヒド、p−ニトロベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、フルフラール、1−ナフトアルデヒド、2−ナフトアルデヒド、2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド、3−アセナフトアルデヒド、ベンジリデンアセトン、ピリジデンアセトン、フルフリルデンアセトン、シンナムアルデヒド、アニスアルデヒド、サリチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、グルタルアルデヒド、パラアルデヒド、バニリンなどの各種アルデヒド、トリアジン、イミダゾール、インドール、キノリン、2−ビニルピリジン、アニリン、フェナントロリン、ネオクプロイン、ピコリン酸、チオ尿素類、N―(3―ヒドロキシブチリデン)―p―スルファニル酸、N―ブチリデンスルファニル酸、N―シンナモイリデンスルファニル酸、2,4―ジアミノ―6―(2′―メチルイミダゾリル(1′))エチル―1,3,5―トリアジン、2,4―ジアミノ―6―(2′―エチル―4―メチルイミダゾリル(1′))エチル―1,3,5―トリアジン、2,4―ジアミノ―6―(2′―ウンデシルイミダゾリル(1′))エチル―1,3,5―トリアジン、サリチル酸フェニル、或は、ベンゾチアゾール、2―メチルベンゾチアゾール、2―アミノベンゾチアゾール、2―アミノ―6―メトキシベンゾチアゾール、2―メチル―5―クロロベンゾチアゾール、2―ヒドロキシベンゾチアゾール、2―アミノ―6―メチルベンゾチアゾール、2―クロロベンゾチアゾール、2,5―ジメチルベンゾチアゾール、5―ヒドロキシ―2―メチルベンゾチアゾール等のベンゾチアゾール類などが挙げられる。
【0027】
上記pH調整剤としては、塩酸、硫酸等の各種の酸、アンモニア水、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の各種の塩基などが挙げられるが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などのモノカルボン酸類、ホウ酸類、リン酸類、シュウ酸、コハク酸などのジカルボン酸類、乳酸、酒石酸などのオキシカルボン酸類などが有効である。
上記防腐剤としては、ホウ酸、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、塩化ベンザルコニウム、フェノール、フェノールポリエトキシレート、チモール、レゾルシン、イソプロピルアミン、グアヤコールなどが挙げられる。
【0028】
【発明の効果】
一般に、無電解スズメッキ浴の保存では、保存時の長期安定性とスズメッキ時の経時安定性を両立させる必要があるが、建浴したスズメッキ浴をそのまま長く保存すると、次亜リン酸類などの分解可能成分の濃度が低減して使用時に適正組成を保持できない弊害があり、また、予め濃度を高めて保存してもメッキ皮膜を損なう恐れもある。
本発明では、例えば、分解可能成分の酸化防止剤が次亜リン酸類である場合、次亜リン酸類を少量の第1液と残量の第2液に分割し、少量側に第一スズ塩を共存させる。この場合、第一スズ塩の酸化防止は共存する次亜リン酸類で担保され、保存時の長期安定性を確保できる。また、スズメッキに際して、多めの次亜リン酸類を含む濃厚な第2液を第1液に加えるため、長時間の連続メッキにおいても、次亜リン酸類の含有量が第一スズ塩の酸化防止に必要な適正範囲から低下するまでの時間を遅延化させることができ、スズメッキの経時安定性も良好に確保できる。
【0029】
【実施例】
以下、無電解スズメッキ浴の分割保存方法の実施例、当該方法による保存時の長期安定性並びにスズメッキ時の経時安定性試験例を順次説明する。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0030】
無電解スズメッキ浴の分割保存方法の実施例及び比較例を以下に示す。
先ず、比較例1は分割保存せず、通常の1液でスズメッキ浴を建浴した例である。
下記の実施例1〜6のうち、実施例1〜4、実施例6は、ベース酸が有機スルホン酸である上記比較例1を基本組成として、これを第1液と第2液に分割保存した例である(但し、比較例1とは異なり、実施例4は有機スルホン酸がアルカノールスルホン酸と芳香族スルホン酸の混合であり、実施例6は酸化防止剤として次亜リン酸とアスコルビン酸を併用したものである)。
実施例1〜4は分解可能成分である次亜リン酸を第1液に0.05〜0.1モル/Lの少量で含有させ、第2液に残量含有させて保存した例である。
実施例5はベース酸が比較例1と異なるが、実施例1〜4と同様に、分解可能成分である次亜リン酸を第1液に0.1モル/Lの少量で含有させ、第2液に残量含有させた保存例である。
前述したように、実施例6は分解可能成分である酸化防止剤にアスコルビン酸と次亜リン酸を併用し、第1液にはアスコルビン酸を少量含有させ、第2液には次亜リン酸を多めに含有させて保存した例である。
また、実施例5は脂肪族カルボン酸をベース酸とする無電解スズメッキ浴を分割保存した例であり、他の実施例は有機スルホン酸を使用したメッキ浴の分割保存例である。
【0031】
《実施例1》
(1)第1液
・メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) :0.25モル/L
・メタンスルホン酸 :0.20モル/L
・p−フェノールスルホン酸 :0.70モル/L
・チオ尿素 :2.30モル/L
・次亜リン酸 :0.10モル/L
・オクチルアミンポリエトキシレート(EO10) :10g/L
(2)第2液
・次亜リン酸 :0.40モル/L
【0032】
《実施例2》
(1)第1液
・メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) :0.25モル/L
・メタンスルホン酸 :0.20モル/L
・次亜リン酸 :0.10モル/L
(2)第2液
・p−フェノールスルホン酸 :0.70モル/L
・次亜リン酸 :0.40モル/L
・チオ尿素 :2.30モル/L
・オクチルアミンポリエトキシレート(EO10) :10g/L
【0033】
《実施例3》
(1)第1液
・メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) :0.25モル/L
・メタンスルホン酸 :0.20モル/L
・p−フェノールスルホン酸 :0.70モル/L
・チオ尿素 :2.30モル/L
・次亜リン酸 :0.10モル/L
(2)第2液
・次亜リン酸 :0.40モル/L
・オクチルアミンポリエトキシレート(EO10) :10g/L
【0034】
《実施例4》
(2)第2液
・次亜リン酸 :0.50モル/L
【0035】
《実施例5》
(1)第1液
・リンゴ酸第一スズ(Sn2+として) :0.20モル/L
・リンゴ酸 :2.00モル/L
・チオ尿素 :2.20モル/L
・次亜リン酸 :0.10モル/L
(2)第2液
・次亜リン酸 :0.60モル/L
・ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(EO10):8.0g/L
【0037】
《実施例6》
(1)第1液
・メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) :0.25モル/L
・メタンスルホン酸 :0.20モル/L
・アスコルビン酸 :0.10モル/L
・オクチルアミンポリエトキシレート(EO10) :10g/L
(2)第2液
・p−フェノールスルホン酸 :0.70モル/L
・チオ尿素 :2.30モル/L
・次亜リン酸 :0.50モル/L
【0041】
《比較例1》
(1)第1液
・メタンスルホン酸第一スズ(Sn2+として) :0.25モル/L
・メタンスルホン酸 :0.20モル/L
・p−フェノールスルホン酸 :0.70モル/L
・チオ尿素 :2.30モル/L
・次亜リン酸 :0.60モル/L
・オクチルアミンポリエトキシレート(EO10) :10g/L
【0042】
そこで、上記実施例1〜6並びに比較例1の保存安定性を下記の方法で試験した。
《保存の長期安定性試験例》
即ち、上記実施例1〜6の第1液と第2液を室温で6カ月放置した後、速やかに両者を混合して無電解スズメッキ浴を建浴し、VLP(電解銅箔の一種)でパターン形成したTABのフィルムキャリアを被メッキ物として、このフィルムキャリアのインナリード上に、実施例1〜6から建浴した各メッキ浴を用いて、浴温65℃、メッキ時間5分の条件で無電解メッキを行って、得られたスズ皮膜の析出状態を目視観察し、皮膜外観を評価した。
また、比較例1のメッキ浴を使用して同様にフィルムキャリア上に無電解メッキを行って、スズ皮膜の外観を評価した。
皮膜外観の評価基準は次の通りである。
○:均一な白色外観を呈した。
×:シミ、ムラのある不均一な外観であった。
【0043】
一方、長期保存後に建浴したメッキ浴を用いて長時間メッキを行った場合、所定時間が経過したメッキ浴から良好なメッキ皮膜が得られるか否かを下記の方法で試験した。
《メッキの経時安定性試験》
即ち、上記実施例1〜6の第1液と第2液を室温で6カ月放置した後、さらに65℃で200時間放置し、この200時間経過後に両者を混合して無電解スズメッキ浴を建浴し、前記保存安定性の試験例と同様の条件でフィルムキャリアに無電解メッキを行い、得られたスズ皮膜の外観を評価した。
また、比較例1のメッキ浴を使用して同様にフィルムキャリア上に無電解メッキを行って、スズ皮膜の外観を評価した。
皮膜外観の評価基準は前記保存安定性の試験例と同様である。
【0044】
《保存の長期安定性とメッキの経時安定性の総合評価》
下表は前記保存の長期安定性とメッキの経時安定性の試験結果である。
保存の長期安定性 メッキの経時安定性
実施例1 ○ ○
実施例2 ○ ○
実施例3 ○ ○
実施例4 ○ ○
実施例5 ○ ○
実施例6 ○ ○
比較例1 × ×
【0045】
上記試験結果を見ると、通常通り無電解スズメッキを1液で建浴して保存した比較例1では、6カ月保存直後にメッキを行った場合、色調にムラやシミのあるスズ皮膜しか得られず、保存後にさらに65℃で200時間放置した厳しい条件下では、当然ながら得られたスズ皮膜も同様に×の評価であった。
【0046】
これに対して、実施例1〜4では、次亜リン酸を第1液に0.05〜0.1モル/Lの少量で含有させ、残量を第2液に含有させて、いわば等量分割保存ではなく、偏量分割保存を行ったことから、6カ月後の保存安定性が良好であるばかりでなく、さらに加温状態で200時間放置した場合にも均一なスズ皮膜が得られ、メッキの経時安定性も良好であった。このため、実際の連続メッキでも長時間に亘りメッキ皮膜の品質を保持するものと判断できる。
また、酸化防止剤として次亜リン酸とアスコルビン酸を併用した実施例6も、同様に、保存の長期安定性とメッキの経時安定性の両方を良好に保持できた。
従って、スズの皮膜外観を良好に保持する点で無電解スズメッキ浴の成分を分割保存することの優位性が確認でき、特に、次亜リン酸類を第1液に所定の濃度で少量だけ含有させ、残量の濃厚分を第2液に含有させる偏量分割保存方式は、等量保存方式に比べても、保存の長期安定性とメッキの経時安定性の両立への寄与が一層増大することが明らかになった。
Claims (2)
- 酸化防止剤を第1液と第2液の両方に分けて保存し、
第1液に0.01モル/Lの適量下限以上であって第2液より相対的に少量の酸化防止剤と少なくとも可溶性第一スズ塩を保存し、第2液に第1液への少量を分けた残量分であって第1液より相対的に多く濃厚な酸化防止剤と残りの浴成分を保存し、
上記酸化防止剤は、次亜リン酸類、アスコルビン酸又はその塩、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、フロログルシン、クレゾールスルホン酸又はその塩、フェノールスルホン酸又はその塩、カテコールスルホン酸又はその塩、ハイドロキノンスルホン酸又はその塩、ヒドラジンより選ばれる事を特徴とする無電解スズメッキ浴の分割保存方法。 - 酸化防止剤が次亜リン酸類であり、第1液の次亜リン酸類の含有量が0.01〜0.15モル/Lであることを特徴とする請求項1に記載の無電解スズメッキ浴の分割保存方法。
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