JP5954099B2 - 成形性、放熱性及び溶接性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板 - Google Patents
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Description
前述のように、3000系の合金板では強度や高温内圧負荷時における耐フクレ性が得られるものの、1000系の合金板にくらべ成形性が劣り、異常ビード数が多い傾向がある。また、リチウムイオン電池の大型化が進む中で、充放電時におけるリチウムイオン電池からの発熱量が増加することが予想され、放熱特性に優れたものも要求されている。しかも、3000系アルミニウム合金板は、一般的にMn固溶量が高く、大型リチウムイオン電池容器としてその成分組成にもよるが耐力が高すぎる場合もあり、プレス成形後にスプリングバックが発生しやすく、所定の設計形状に収まらないという、いわゆる形状凍結性の問題もある。
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、大型リチウムイオン電池容器に適用可能な放熱特性を有しており、しかも成形性、形状凍結性にも優れ、さらにレーザー溶接性にも優れた3000系のアルミニウム合金板を提供することを目的とするものである。
Fe:0.05〜0.3質量%未満、Mn:0.6〜1.5質量%、Si:0.05〜0.6質量%を含有し、残部Alおよび不純物からなり、不純物としてのCuが0.35質量%未満、Mgが0.05質量%未満である成分組成を有し、導電率45%IACSを超え、0.2%耐力が60〜150MPa未満であり、3%以上の伸びの値を呈する冷延まま材であってもよい。
冷延まま材では、さらに導電率を高めるため、Co:0.001〜0.5質量%、Nb:0.005〜0.05質量%、V:0.005〜0.05質量%のうちの一種または二種以上を含有してもよい。
特に冷延焼鈍材の場合には20%以上の伸び値を呈し、優れた成形性を発現するとともに、耐力が40〜60MPa未満と低いので、プレス成形時のスプリングバックが抑制され、その結果、形状凍結性にも優れている。
また冷延まま材の場合には3%以上の伸び値を呈し、優れた成形性を発現するとともに、耐力が60〜150MPa未満と低いので、プレス成形時のスプリングバックが抑制され、その結果、形状凍結性にも優れている。
また、容器を形作る方法としてプレス法が用いられるのが一般的であるから、用いる材料自身に優れたプレス成形性を有することが要求される。さらに、大型リチウムイオン電池容器においても、今後は素材の薄肉化に拍車がかかることが予想される。もちろん、素材が薄肉化すれば、プレス成形後にスプリングバックが発生しやすくなり、所定の設計形状に収まらないという問題が顕在化する可能性もある。したがって、用いる材料自身に優れた形状凍結性を有することが要求される。
前述のように、3000系の板材では、一般的に耐フクレ性を付与するため、Mn固溶量を高くして耐力を高めているため、高温内圧負荷時における耐フクレ性は十分に確保できるものの、熱伝導性に劣り、容器の放熱特性に劣るという問題がある。そこで本発明では、スラブの熱間圧延の開始温度を均質化処理温度よりも低く設定することにより、マトリックスに固溶しているMn、Siを積極的に金属間化合物中に拡散吸収させて、Mn固溶量、Si固溶量を低減することにより、最終板の熱伝導性を高めると同時に、伸び値を高くし耐力を低く抑えている。この結果、高い放熱特性を有しており、しかも成形性、形状凍結性にも優れたアルミニウム合金板とすることができる。
以下にその内容を説明する。
Fe:0.05〜0.3質量%未満
Feは、アルミニウム合金板の強度を増加させるため、必須の元素である。Fe含有量が0.05質量%未満であると、アルミニウム合金板の強度が低下するため、好ましくない。Feの含有量が0.3質量%を超えると、鋳塊鋳造時にα-Al−(Fe・Mn)−Si系、Al6(Fe・Mn)等の粗大な金属間化合物が晶出し、これら金属間化合物はレーザー溶接時にAlマトリックスに比べ蒸発しやすく、溶接欠陥数が増加して溶接性を低下させるため、好ましくない。
したがって、Fe含有量は、0.05〜0.3質量%未満の範囲とする。より好ましいFe含有量は、0.07〜0.3質量%未満の範囲である。さらに好ましいFe含有量は、0.1〜0.3質量%未満の範囲である。
Mnは、アルミニウム合金板の強度を増加させるため、必須の元素である。Mn含有量が0.6質量%未満であると、アルミニウム合金板の強度が低下するため、好ましくない。Mnの含有量が1.5質量%を超えると、マトリックスにおけるMnの固溶量が高くなりすぎて、最終板の熱伝導性が低下するばかりでなく、耐力が高くなりすぎて形状凍結性も低下する。さらに、鋳塊鋳造時にα-Al−(Fe・Mn)−Si系、Al6(Fe・Mn)等の粗大な金属間化合物が晶出し、これら金属間化合物はレーザー溶接時にAlマトリックスに比べ蒸発しやすく、溶接欠陥数が増加して溶接性を低下させるため、好ましくない。
したがって、Mn含有量は、0.6〜1.5質量%の範囲とする。より好ましいMn含有量は、0.6〜1.4質量%の範囲である。さらに好ましいMn含有量は、0.6〜1.3質量%の範囲である。
Siは、アルミニウム合金板の強度を増加させ、鋳造時の湯流れ性を改善する必須元素である。Si含有量が0.05質量%未満であると、アルミニウム合金板の強度が低下するとともに、湯流れ性が低下するため好ましくない。Si含有量が0.6質量%を超えると、鋳塊鋳造時の最終凝固部に比較的粗大なα-Al-(Fe・Mn)-Si等の金属間化合物が晶出し、これら金属間化合物はレーザー溶接時にAlマトリックスに比べ蒸発しやすく、溶接欠陥数が増加して溶接性を低下させるため、好ましくない。
したがって、好ましいSi含有量は、0.05質量%〜0.6質量%の範囲である。より好ましいSi含有量は、0.07質量%〜0.6質量%の範囲である。さらに好ましいSi含有量は、0.07質量%〜0.55質量%の範囲である。
Coは、本発明の合金組成範囲において、最終板の導電率を高め、さらに伸び値をも高める効果がある。Co:0.001〜0.5質量%を含有させた場合の効果について、現在どのようなメカニズムで発現しているのか不明である。本発明者らは、本発明の合金組成範囲において、Co:0.001〜0.5質量%を含有させた場合、均質化処理或いは均質化処理後の炉内冷却過程において、マトリックス中にAl6(Fe・Mn)がより均一微細に析出するのではないかと推定している。
Co含有量が0.001質量%未満であると上記のような効果が発現しない。Co含有量が0.5質量%を超えると、単に製造コストが増加するため、好ましくない。したがって、好ましいCo含有量は、0.001〜0.5質量%の範囲である。より好ましいCo含有量は、0.001〜0.3質量%の範囲である。さらに好ましいCo含有量は、0.001〜0.1質量%の範囲である。
Nbは、本発明の合金組成範囲において、最終板の導電率を高め、さらに伸び値をも高める効果がある。Nb:0.005〜0.05質量%を含有させた場合の効果についても、現在どのようなメカニズムで発現しているのか不明である。本発明者らは、本発明の合金組成範囲において、Nb:0.005〜0.05質量%を含有させた場合、均質化処理或いは均質化処理後の炉内冷却過程において、マトリックス中にAl6(Fe・Mn)がより均一微細に析出するのではないかと推定している。
Nb含有量が0.005質量%未満であると上記のような効果が発現しない。Nb含有量が0.05質量%を超えると、単に製造コストが増加するため、好ましくない。したがって、好ましいNb含有量は、0.005〜0.05質量%の範囲である。より好ましいNb含有量は、0.007〜0.05質量%の範囲である。さらに好ましいNb含有量は、0.01〜0.05質量%の範囲である。
Vは、本発明の合金組成範囲において、最終板の導電率を高める効果がある。V:0.005〜0.05質量%を含有させた場合の効果についても、現在どのようなメカニズムで発現しているのか不明である。本発明者らは、本発明の合金組成範囲において、V:0.005〜0.05質量%を含有させた場合、均質化処理或いは均質化処理後の炉内冷却過程において、マトリックス中にAl6(Fe・Mn)がより均一微細に析出するのではないかと推定している。
V含有量が0.005質量%未満であると上記のような効果が発現しない。V含有量が0.05質量%を超えると、かえって導電率が低下するため、好ましくない。したがって、好ましいV含有量は、0.005〜0.05質量%の範囲である。より好ましいV含有量は、0.005〜0.03質量%の範囲である。さらに好ましいV含有量は、0.01〜0.03質量%の範囲である。
不可避的不純物としてのCuは0.35質量%未満含有していてもよい。本発明において、Cu含有量が0.35質量%未満であれば、熱伝導性、成形性及び溶接性等の特性について低下することはない。Cu含有量が0.35質量%以上であれば、熱伝導性が低下するため、好ましくない。
不可避的不純物としてのMg:0.05質量%未満
不可避的不純物としてのMgは0.05質量%未満含有していてもよい。本発明において、Mg含有量が0.05質量%未満であれば、熱伝導性、成形性及び溶接性等の特性について低下することはない。
不可避的不純物は原料地金、返り材等から不可避的に混入するもので、それらの許容できる含有量は、例えば、Znの0.05質量%未満、Niの0.10質量%未満、Pb、Bi、Sn、Na、Ca、Srについては、それぞれ0.02質量%未満、Ga及びTiの0.01質量%未満、Nb及びVの0.005質量%未満、Coの0.001質量%未満、その他各0.05質量%未満であって、この範囲で管理外元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
冷延焼鈍材:伸びの値が20%以上、且つ0.2%耐力が40〜60MPa未満
冷延まま材:伸びの値が3%以上、且つ0.2%耐力が60〜150MPa未満
ところで、3000系アルミニウム合金板を大型リチウムイオン電池容器等に適用するに当たっては、高い放熱特性と優れたレーザー溶接性を有するだけでなく、適度な強度を保ちつつ、成形性、形状凍結性にも優れることが必要である。材料の形状凍結性及び強度は引張り試験を行った時の0.2%耐力で、また成形性は引張り試験時の伸びの値で知ることができる。
詳細は後記の実施例の記載に譲るとして、大型リチウムイオン電池容器等に適用する本発明の3000系アルミニウム合金板としては、冷延焼鈍材にあっては伸びの値が20%以上、且つ0.2%耐力が40〜60MPa未満なる特性を有するものが、冷延まま材にあっては伸びの値が3%以上、且つ0.2%耐力が60〜150MPa未満なる特性を有するものが好適である。
上記のような特性は、前記特定の成分組成を有する3000系アルミニウム合金板を製造する際に、圧延開始温度を均質化処理温度よりも低く設定することにより、マトリックス中のMn固溶量、Si固溶量を低減させることにより発現される。
具体的には、例えば、スラブをソーキング炉内に挿入して、加熱し600℃×1時間以上保持する均質化処理を施した後、所定の温度、例えば500℃まで炉冷し、その温度でスラブをソーキング炉から取り出して熱間圧延を開始すればよい。または、スラブをソーキング炉内に挿入して、加熱し600℃×1時間以上保持する均質化処理を施した後、所定の温度、例えば500℃まで炉冷し、引き続き500℃×1時間以上保持する第2段の均質化処理を施した後、スラブをソーキング炉から取り出して熱間圧延を開始してもよい。
熱間圧延の開始温度が420℃未満であると、熱間圧延時の塑性変形に必要なロール圧力が高くなり、1パス当たりの圧下率が低くなりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。したがって、好ましい熱間圧延の開始温度は、420〜520℃未満の範囲である。
本発明者らは、本発明の合金組成範囲において、Co、NbまたはVを所定量含有させた場合、均質化処理或いは均質化処理後の炉内冷却過程において、Al6(Fe・Mn)がより均一微細に析出すると推定している。このような場合、マトリックスに固溶していたMn、Siが拡散吸収されるサイト数が増加していることになるので、より効率的にマトリックスのMn、Siの固溶量を低下せしめ、導電率を高めることが可能になる。
溶解・溶製
溶解炉に原料を投入し、所定の溶解温度に到達したら、フラックスを適宜投入して攪拌を行い、さらに必要に応じてランス等を使用して炉内脱ガスを行った後、鎮静保持して溶湯の表面から滓を分離する。
この溶解・溶製では、所定の合金成分とするため、母合金等再度の原料投入も重要ではあるが、前記フラックス及び滓がアルミニウム合金溶湯中から湯面に浮上分離するまで、鎮静時間を十分に取ることが極めて重要である。鎮静時間は、通常30分以上取ることが望ましい。
必要に応じて、インライン脱ガス、フィルターを通してもよい。
インライン脱ガスは、回転ローターからアルミニウム溶湯中に不活性ガス等を吹き込み、溶湯中の水素ガスを不活性ガスの泡中に拡散させ除去するタイプのものが主流である。不活性ガスとして窒素ガスを使用する場合には、露点を例えば−60℃以下に管理することが重要である。鋳塊の水素ガス量は、0.20cc/100g以下に低減することが好ましい。
また、鋳塊に過飽和に固溶している水素ガスは、熱間圧延工程前の均質化処理の条件にもよるが、最終板の成形後のレーザー溶接時に析出して、ビードに多数のブローホールを発生させる場合もある。このため、より好ましい鋳塊の水素ガス量は、0.15cc/100g以下である。
鋳塊は、半連続鋳造(DC鋳造)によって製造する。通常の半連続鋳造の場合は、鋳塊の厚みが一般的には400〜600mm程度であるため、鋳塊中央部における凝固冷却速度が1℃/sec程度である。このため、特にFe、Mn、Siの含有量が高いアルミニウム合金溶湯を半連続鋳造する場合には、鋳塊中央部にはAl6(Fe・Mn)、α-Al−(Fe・Mn)−Siなどの比較的粗い金属間化合物がアルミニウム合金溶湯から晶出する傾向がある。
半連続鋳造法により鋳造して得た鋳塊に均質化処理を施す。
均質化処理は、圧延を容易にするために鋳塊を高温に保持して、鋳造偏析、鋳塊内部の残留応力の解消を行なう処理である。本発明において、保持温度520〜620℃で1時間以上保持することが必要である。この場合、鋳造時に晶析出した金属間化合物を構成する遷移元素等をマトリックスにある程度固溶させるための処理でもある。この保持温度が低すぎ、或いは保持温度が短い場合には、上記固溶が進まず、DI成形後の外観肌が綺麗に仕上がらない虞がある。また、保持温度が高すぎると、鋳塊のミクロ的な最終凝固部である共晶部分が溶融する、いわゆるバーニングを起こすおそれがある。より好ましい均質化処理温度は、520〜610℃である。
このように、スラブの均質化処理を520〜620℃の保持温度、1時間以上の保持時間で行うとともに、熱間圧延の開始温度を520℃未満に設定することで、マトリックスに固溶しているMn、Siを低減させることが可能となる。熱間圧延の開始温度が520℃を超えると、マトリックスに固溶しているMn、Siを低減させることが困難となる。熱間圧延の開始温度が420℃未満であると、熱間圧延時の塑性変形に必要なロール圧力が高くなり、1パス当たりの圧下率が低くなりすぎて生産性が低下するため、好ましくない。したがって、好ましい熱間圧延の開始温度は、420〜520℃未満の範囲である。ソーキング炉内から取り出されたスラブは、そのままクレーンで吊るされて、熱間圧延機に持ち来たされ、熱間圧延機の機種にもよるが、通常何回かの圧延パスによって熱間圧延されて所定の厚み、例えば4〜8mm程度の熱延板としてコイルに巻き取る。
熱間圧延板を巻き取ったコイルは、冷延機に通され、通常何パスかの冷間圧延が施される。この際、冷間圧延によって導入される塑性歪により加工硬化が起こるため、必要に応じて、中間焼鈍処理が行なわれる。通常中間焼鈍は軟化処理でもあるので、材料にもよるがバッチ炉に冷延コイルを挿入し、300〜450℃の温度で、1時間以上の保持を行なってもよい。保持温度が300℃よりも低いと、軟化が促進されず、保持温度が450℃をこえると、処理コストの増大を招く。また、中間焼鈍は、連続焼鈍炉によって例えば450℃〜550℃の温度で15秒以内保持し、その後急速に冷却すれば、溶体化処理を兼ねることもできる。保持温度が450℃よりも低いと、軟化が促進されず、保持温度が550℃をこえると、バーニングを起こすおそれがある。
本発明において、最終冷間圧延の後に行なわれる最終焼鈍は、例えば焼鈍炉によって温度350〜500℃で1時間以上保持するバッチ処理であってもよいが、連続焼鈍炉によって例えば400℃〜550℃の温度で15秒以内保持し、その後急速に冷却すれば、溶体化処理を兼ねることもできる。
いずれにしても、本発明において最終焼鈍は必ずしも必須ということではないが、通常のDI成形における成形性を考慮すると、最終板をできるだけ軟化させておくことが望ましい。金型成形工程における成形性も考慮すると、焼鈍材、若しくは溶体化処理材としておくことが望ましい。
成形性よりも機械的強度を優先する場合には冷延まま材で提供する。
最終焼鈍を施す場合の最終冷延率は、50〜90%の範囲であることが好ましい。最終冷延率がこの範囲であれば、焼鈍後の最終板における再結晶粒の平均粒径を20〜100μmにして、伸びの値を20%以上にすることができ、成形後の外観肌を綺麗に仕上げることができる。さらに好ましい最終冷延率は、60〜90%の範囲である。
一方、最終焼鈍を施さずに冷延まま材とするときの最終冷延率は、5〜20%の範囲とすることが好ましい。DI成形時にしごき加工が多くなる場合には、焼鈍材よりも若干硬い最終板を提供する必要がある。最終冷延率が5%未満であると、組成にもよるが最終板における耐力を60MPa以上とすることが困難となり、最終冷延率が20%を超えると、組成にもよるが最終板における伸びの値を3%以上とすることが困難となる。
最終冷延率がこの範囲であれば、冷延まま最終板における伸びの値を3%以上、且つ耐力を60〜150MPa未満とすることができる。さらに好ましい最終冷延率は、5〜15%の範囲である。
以上のような通常の工程を経ることにより、二次電池容器用アルミニウム合金板を得ることができる。
所定の各種インゴットを計量、配合して、離型材を塗布した#20坩堝に6kgずつ(合計8つの供試材)のインゴットを挿入装填した。これら坩堝を電気炉内に挿入して、780℃で溶解して滓を除去し、その後、溶湯温度を760℃に保持し、次いで脱滓用フラックス各6gをアルミニウム箔に包んでフォスフォライザーにて押し込み添加した。
次いで、溶湯中にランスを挿入して、N2ガスを流量1.0L/minで10分間吹き込んで脱ガス処理を行なった。その後30分間の鎮静を行なって溶湯表面に浮上した滓を攪拌棒にて除去し、さらにスプーンで成分分析用鋳型にディスクサンプルを採取した。
次いで、治具を用いて順次坩堝を電気炉内から取り出し、予熱しておいた金型(250mm×200mm×30mm)にアルミニウム溶湯を鋳込んだ。各供試材のディスクサンプルは、発光分光分析によって、組成分析を行なった。その結果を表1,2に示す。
この鋳塊を電気加熱炉に挿入して、100℃/hrの昇温速度で600℃まで加熱し、600℃×1時間の均質化処理を行った後、その温度で加熱炉からスラブを取りだして熱間圧延機にて6mm厚さとなるまで熱間圧延を施すか、或いは、600℃×1時間の均質化処理後に電気加熱炉の出力をOFFとして、そのまま炉内冷却して、所定の温度(550℃、500℃、450℃)に到達した際に、加熱炉からスラブを取りだして熱間圧延機にて6mm厚さとなるまで熱間圧延を施した。
この熱間圧延板に冷間圧延を施して、厚さ1.25mm、1.11mmの冷延板を得た。この冷延板をアニーラーに挿入して、400℃×1時間保持の中間焼鈍処理後、アニーラーから焼鈍板を取り出して空冷した。次にこの焼鈍板に冷間圧延を施して、厚さ1.0mmの冷延板を得た。これを冷延まま材(調質記号:H12)とする。この場合の最終冷延率は、それぞれ20%(実施例16)、10%(実施例17〜21、比較例9〜12)であった。
冷延焼鈍材については、まず前記熱間圧延板に中間焼鈍を施すことなく冷間圧延を施して、1mmの冷延板を得た。この場合の最終冷延率は83.3%であった。最終焼鈍は、冷延板をアニーラーに挿入して、400℃×1時間焼鈍処理後、アニーラーから冷延板を取り出して空冷した。これを冷延焼鈍材(調質記号:O)とした。
成形性の評価
得られた最終板の成形性評価は、引張り試験の伸び(%)によって行った。
具体的には、引張り方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号試験片を採取し、JISZ2241に準じて引張り試験を行って、0.2%耐力、伸び(破断伸び)を求めた。
冷延後に焼鈍を施した最終板において、伸びの値が20%以上であった供試材を成形性良好(○)とし、20%未満であった供試材を成形性不良(×)とした。評価結果を表3,4に示す。
冷延ままの最終板において、伸びの値が3%以上であった供試材を成形性良好(○)とし、3%未満であった供試材を成形性不良(×)とした。評価結果を表3,4に示す。
得られた最終板の形状凍結性及び強度の評価は、引張り試験の0.2%耐力(MPa)によって行った。
冷延後に焼鈍を施した最終板(冷延焼鈍材)において、0.2%耐力が40〜60MPa未満であった供試材を形状凍結性及び強度良好(○)とし、60MPa以上であった供試材を形状凍結性不良(×)とした。また、0.2%耐力が40MPa未満であった供試材を強度不足(×)とした。
冷延ままの最終板(冷延まま材)において、0.2%耐力が60〜150MPa未満であった供試材を形状凍結性及び強度良好(○)とし、150MPa以上であった供試材を形状凍結性不良(×)とした。また、0.2%耐力が60MPa未満であった供試材を強度不足(×)とした。評価結果を表3,4に示す。
得られた最終板について、パルスレーザー照射を行なって、レーザー溶接性の評価を行なった。LUMONICS社製YAGレーザー溶接機JK701を用いて、周波数33.0Hz、溶接速度400mm/min、パルス当たりのエネルギー6.5J、パルス幅1.5msec、シールドガス(窒素)流量15(L/min)の条件にて、同供試材の2枚の板を端部同士隙間なく、突き合わせて当該部分に沿って全長100mm長さのパルスレーザー溶接を行なった。
黒色部欠陥の測定/評価
次に、レーザー溶接性の評価として、溶接部に発生した溶接欠陥数を測定した。まず、上記100mm長さの溶接線のうち、溶接スタート部の20mm長さの溶接線を除く、残りの80mm長さの領域を測定領域として決めた。溶接スタート近傍部は不安定なため除いたのである。
そして、図1に示すように80mm長さの溶接線に沿って形成された溶接ビード断面をX線CT検査によって、溶接線に平行な板厚断面におけるX線CT画像を得た。さらにこのX線CT画像を基にして画像編集ソフトによって黒色欠陥部を検出し、画像解析ソフトにより黒色部欠陥の面積を算出した。この黒色部欠陥面積から各円相当径に対応する粒子数を算出した。
本明細書において、円相当径0.1mm以上である黒色部欠陥の個数が5未満であった供試材を溶接欠陥数評価良好(○)とし、円相当径0.1mm以上である黒色部欠陥の個数が5以上であった供試材を溶接欠陥数評価不良(×)とした。評価結果を、併せて表3,4に示す。
導電率の測定/評価
導電率(IACS%)は、導電率計(AUTOSIGMA 2000 日本ホッキング株式会社製)にて、測定を実施した。導電率が45(IACS%)を超えた供試材を導電率良好(○)とし、導電率が45(IACS%)以下であった供試材を導電率不良(×)とした。評価結果を、併せて表3,4に示す。
最終板についての評価結果を示す表3,4における実施例1〜21は、本発明の組成範囲内の最終板(冷延焼鈍材、冷延まま材)であり、熱間圧延の開始温度が500℃または450℃であり、レーザー溶接性評価(黒色部欠陥)、形状凍結性及び強度の評価(0.2%耐力)、成形性評価(伸び)、熱伝導性評価(導電率)とも全て良好(○)であった。
また、実施例9〜14は、実施例3と比較して、Si、Fe、Cu、Mn等の含有量が殆ど同じであるにも関らず、所定量のCo、NbまたはVを含有しているため、導電率が0.5〜1.3%IACSの範囲で上昇している。特に、実施例9〜13は、実施例3と比較して、所定量のCo、Nb、Vを含有しているため、伸びの値も高くなっている。
比較例2は、冷延焼鈍材であり、Si含有量が0.72質量%と高く、溶接性評価不良(×)であった。
比較例3は、冷延焼鈍材であり、Fe含有量が0.51質量%と高すぎたため、溶接性評価不良(×)であった。
比較例4は、冷延焼鈍材であり、Mn含有量が1.6質量%と高すぎたため、溶接性評価不良(×)、形状凍結性評価不良(×)、熱伝導性評価不良(×)であった。
比較例5は、冷延焼鈍材であり、Mn含有量が0.5質量%と低すぎたため、強度評価不良(×)であった。
比較例6は、冷延焼鈍材であり、Cu含有量が0.5質量%と高すぎたため、形状凍結性評価不良(×)、成形性評価不良(×)、熱伝導性評価不良(×)であった。
比較例8は、本発明の組成範囲内の冷延焼鈍材であるが、熱間圧延の開始温度が550℃と高すぎたため、熱伝導性評価不良(×)であった。
比較例9は、冷延まま材であり、Si含有量が0.72質量%と高く、溶接性評価不良(×)であった。
比較例10は、冷延まま材であり、Fe含有量が0.51質量%と高すぎたため、溶接性評価不良(×)であった。
比較例11は、冷延まま材であり、Mn含有量が1.6質量%と高すぎたため、溶接性評価不良(×)、成形性評価不良(×)、熱伝導性評価不良(×)であった。
比較例12は、冷延まま材であり、Cu含有量が0.5質量%と高すぎたため、熱伝導性評価不良(×)であった。
Claims (3)
- Fe:0.05〜0.3質量%未満、Mn:0.6〜1.5質量%、Si:0.05〜0.6質量%を含有するとともに、さらに、Co:0.001〜0.5質量%、Nb:0.005〜0.05質量%、V:0.005〜0.05質量%のうち一種または二種以上を含有、残部Alおよび不純物からなり、不純物としてのCuが0.35質量%未満、Mgが0.05質量%未満である成分組成を有し、
導電率45%IACSを超え、0.2%耐力が40〜60MPa未満であり、20%以上の伸びの値を呈する冷延焼鈍材であることを特徴とする成形性、放熱性及び溶接性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板。 - Fe:0.05〜0.3質量%未満、Mn:0.6〜1.5質量%、Si:0.05〜0.6質量%を含有し、残部Alおよび不純物からなり、不純物としてのCuが0.35質量%未満、Mgが0.05質量%未満である成分組成を有し、
導電率45%IACSを超え、0.2%耐力が60〜150MPa未満であり、3%以上の伸びの値を呈する冷延まま材であることを特徴とする成形性、放熱性及び溶接性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板。 - さらに、Co:0.001〜0.5質量%、Nb:0.005〜0.05質量%、V:0.005〜0.05質量%のうち一種または二種以上を含有する請求項2に記載の成形性、放熱性及び溶接性に優れた電池ケース用アルミニウム合金板。
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