以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(1)第1実施形態
(1−1)構成について
図1は、本発明の第1実施形態に係るケーソン式混成堤の補強構造を模式的に示す斜視図である。
本第1実施形態に係るケーソン式混成堤の補強構造10(以下、単に「補強構造10」と記すことがある。)は、捨石マウンド12と、ケーソン14と、フレーム16と、中詰石18と、を備えてなり、ケーソン14に隣接する領域の捨石マウンド12上にフレーム16が捨石マウンド12に少なくとも一部が根入れされるように設置されて、該フレーム16の内側およびケーソン14とフレーム16との隙間に中詰石18が積み上げられて充填された構造である。本第1実施形態の説明においては、フレーム16と中詰石18とからなる構造部分を本体構造部分20と称し、捨石マウンド12とケーソン14とからなる構造部分をケーソン式混成堤22と称することがある。また、以下では、ケーソン14に隣接する領域の捨石マウンド12に少なくとも一部が根入れされるようにフレーム16が設置された状態を、「捨石マウンド12に設置された状態」と記すことがある。
捨石マウンド12は海底に構築されており、通常の捨石マウンドと同様に、基礎地盤の不陸を補正して構造物の安定を図る役割、構造物の荷重を分散して均等に地盤に伝える役割、構造物に作用する波力を捨石マウンド12内部と基礎地盤(海底)との間の摩擦力で吸収する役割、波や潮流による構造物底面における地盤の洗掘を防止する役割等を有する。また、捨石マウンド12は、通常の捨石マウンドと同様に、表層部は被覆石に覆われているが、図1では、捨石と被覆石とを区別することなく同様に描いている。
本第1実施形態に係る補強構造10の捨石マウンド12に用いる捨石および被覆石は特に限定されず、通常の捨石マウンドに用いる捨石および被覆石と同様のものを用いることができる。
ケーソン14は、大型の箱状の構造物であり、ケーソン式混成堤22において、波に抵抗する中心的な役割を果たす。本第1実施形態に係る補強構造10において、ケーソン14を構成する素材は特に限定されず、主にコンクリートからなっていてもよく、また主に鋼からなっていてもよい。また、コンクリートと鋼が合成された構造でもよく、さらにはコンクリートと鋼以外の素材が使われているものであってもよい。
図2(フレーム16の斜視図)に示すように、フレーム16は、遠方側水流透過性面状部材24と、近傍側水流透過性面状部材26と、端部壁体28と、中間部壁体30と、を有してなり、遠方側水流透過性面状部材24、近傍側水流透過性面状部材26、2つの端部壁体28、によって側方を囲まれた空間を有する。フレーム16は、その内側およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18とともに、本実施形態に係る補強構造10の本体構造部分20を構成しており、津波流(またはその引き波)およびその越波を受けても、補強構造10の本体構造部分20がその形状を安定的に保持できるようにする役割を有する。
図1に示すように、本第1実施形態では、フレーム16は、捨石マウンド12に設置された状態において遠方側水流透過性面状部材24および近傍側水流透過性面状部材26(以下、水流透過性面状部材24、26と記すことがある。)の延びる水平方向が、隣接するケーソン14の側面14Aと略平行になるように捨石マウンド12に配置されており、フレーム16の内側およびケーソン14とフレーム16との隙間には中詰石18が積み上げられて充填されている。
遠方側水流透過性面状部材24と近傍側水流透過性面状部材26とはお互いに対向するように配置されている。端部壁体28および中間部壁体30(以下、壁体28、30と記すことがある。)は、フレーム16が捨石マウンド12に設置された状態において水流透過性面状部材24、26が延びる略水平方向と略直交するように配置されており、壁体28、30は隣接するケーソン14の側面14Aと略直交するように(想定される津波流が進行する方向と略平行となるように)配置されている。なお、遠方側水流透過性面状部材24の「遠方側」とは、ケーソン14から遠い側という意味であり、近傍側水流透過性面状部材26の「近傍側」とは、ケーソン14に近い側という意味である。
端部壁体28は、図2に示すように、1つのフレーム16あたり2つ設けられており、水流透過性面状部材24、26が延びる略水平方向の両端部に設けられている。中間部壁体30は2つの端部壁体28の間に配置されている。図2に示す本第1実施形態におけるフレーム16では、中間部壁体30を2つ設けているが、1つのフレーム16あたりの中間部壁体30の数は2つに限定されず、水流透過性面状部材24、26の延びる水平方向(ケーソン14の側面に沿う方向)のフレーム16の長さに応じて、3つ以上設けてもよく、また1つだけ設けてもよい。また、水流透過性面状部材24、26の延びる水平方向(ケーソン14の側面に沿う方向)のフレーム16の長さによっては、あるいは安全性を照査できた場合には、必ずしも中間部壁体30を設けなくてもよい。
水流透過性面状部材24、26の延びる水平方向からフレーム16を見たときの形状(フレーム16の側面(端部壁体28)の形状)は、突出部28Aを除いて考えれば、図1および図2に示すように略長方形である。
また、図1に示すように、フレーム16の下部は周囲を中詰石18および捨石によって覆われて、捨石マウンド12に根入れされており、これにより、フレーム16は捨石マウンド12と一体化し、フレーム16内の中詰石18は捨石マウンド12と一体化している。なお、図1では、周囲を中詰石18および捨石によって覆われているフレーム16の下部は破線で示している。また、図1では図示の都合上、フレーム16内の中詰石18は、捨石マウンド12の上面よりも上の部位の一部のみ記載しているが、実際にはフレーム16内の空間はその全領域を中詰石18によって全て充填されていて、さらにケーソン14とフレーム16との隙間にも中詰石18が充填されており、充填された中詰石18はケーソン14の側面14Aと接触している。なお、以下では、ケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18がケーソン14の側面14Aと接触していることについての記載は多くの箇所で省略しているが、実際には、ケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18はケーソン14の側面14Aと接触している。
中詰石18は、フレーム16の内側およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填されて、本第1実施形態に係る補強構造10の主な構造部分(本体構造部分20の一部)となり、ケーソン14を越えてくる津波流の越波によってケーソン14の側面14Aに隣接する領域の捨石マウンド12に洗掘が生じることを抑制するとともに、津波流またはその引き波を受けたケーソン14が水平方向に滑動することを抑制する役割を有する。
本第1実施形態における中詰石18は、側方をフレーム16およびケーソン14の側面14Aに囲まれて拘束されているので、ケーソン14を越えてくる津波流およびその引き波の越波(ケーソン14を乗り越えてくる波)を上方から受けても、中詰石18は踊りにくく洗掘は生じにくい。このため、本第1実施形態の補強構造10を用いることにより、ケーソン14と隣接する領域の捨石マウンド12に洗掘が生じることを抑制することができる。
また、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18は、側方をフレーム16およびケーソン14の側面14Aに囲まれて拘束されて全体が1つのブロックのようになっている。1つのブロックのように一体的に積まれた(フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された)中詰石18の重量による水平方向の抵抗力により、ケーソン14が水平方向に滑動することを抑制することができる。
中詰石18として用いる石材の種類は特に限定されないが、ケーソン14の側面14Aに隣接する領域の捨石マウンド12に洗掘が生じることを防止するためには、中詰石18は常にフレーム16の内側およびケーソン14とフレーム16との隙間に留まることが必要であるので、中詰石18の大きさは遠方側水流透過性面状部材24および端部壁体28を通過できない大きさであることが好ましい。フレーム16の内側に充填する中詰石18の大きさを全て遠方側水流透過性面状部材24および端部壁体28を通過できない大きさにすることにより、フレーム16の内側における位置に応じて大きさの異なる中詰石18を使い分ける必要がなくなり、施工性の点でも有利となる。
なお、遠方側水流透過性面状部材24または端部壁体28に接する位置の個々の中詰石16の大きさが遠方側水流透過性面状部材24または端部壁体28を通過できる大きさであったとしても、複数の中詰石18によるアーチ効果により遠方側水流透過性面状部材24および端部壁体28を通過できないことも考えられるので、中詰石18の大きさを遠方側水流透過性面状部材24および端部壁体28を通過できない大きさに全て揃えることは状況によっては必ずしも必要というわけではない。
しかし、津波流(およびその引き波)による越波は上方から叩き付けるように中詰石18に衝撃を与え、その衝撃を受けた中詰石18は踊る状態となってランダムに移動する可能性があり、一方向に移動しないことも考えられるので、アーチ効果が発現しにくくなることも考えられる。この点からも、中詰石18の大きさは遠方側水流透過性面状部材24および端部壁体28を通過できない大きさであることが好ましい。
ただし、中詰石18の大きさは近傍側水流透過性面状部材26を通過できない大きさである必要はない。近傍側水流透過性面状部材26はケーソン14に隣接した位置に配置されているため、中詰石18が近傍側水流透過性面状部材26を通過してもケーソン14の側面14Aによってケーソン14に向かう水平方向の移動は拘束されるので、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18は1つのブロックのように一体的に振る舞うことができるからである。むしろ、中詰石18は近傍側水流透過性面状部材26を自由に通過できることが好ましく、中詰石18が近傍側水流透過性面状部材26を自由に通過できるようにすることにより、ケーソン14の側面14Aとフレーム16との間の隙間にもフレーム16内に投入した中詰石18が移動してその隙間を埋めることができる。これにより、ケーソン14と本体構造部分20は水平力に対して一体的に抵抗することができ、ケーソン14の水平方向の滑動をより強く抑制することができる。したがって、近傍側水流透過性面状部材26にはフレーム16内に充填された中詰石18を側方から拘束するための部材を設ける必要はない。
また、地震そのものの揺れによって捨石マウンド12が損傷を受けて、津波流の到達前にケーソン14とフレーム16との間の隙間が広がった場合であっても、中詰石18が近傍側水流透過性面状部材26を自由に通過できるようにしておくことにより、その広がった隙間にその地震の揺れ等によって自動的に中詰石18が移動してその隙間を埋めてしまうので、ケーソン14と本体構造部分20とが水平力に対して一体的に抵抗する機能は損なわれない。即ち、中詰石18が近傍側水流透過性面状部材26を自由に通過できるようにしておくことにより、地震そのものの揺れによって捨石マウンド12が損傷を受けてケーソン14とフレーム16との間の隙間が広がった場合であっても、本実施形態に係る補強構造10は自己修復機能を発揮して、ケーソン14とフレーム16との間の広がった隙間を自動的に中詰石18が埋めるので、地震後に到来する津波流に対しても抵抗力をなお維持することができる。
ただし、ケーソン14の側面14Aに沿って連なるフレーム16の端部(水流透過性面状部材24、26の延びる方向に連なるフレーム16の該方向の端部)には、ケーソン14の側面14Aとフレーム16との隙間から外部に中詰石18が漏れ出ないようにするための面状の部材を設けておくことが好ましい。例えば、図2に示すような、遠方側水流透過性面状部材24と同様の面状の部材である突出部28Aを、ケーソン14の側面14Aとフレーム16との隙間に設け、ケーソン14の側面14Aとフレーム16との隙間から中詰石18が外へ漏れ出ないようにすることが好ましい。
また、本体構造部分20(フレーム16+中詰石18)は、ケーソン14の片側(港内側または港外側)の側面14Aに隣接する領域に設置するだけでなく、ケーソン14の港内側と港外側の両側に設置した方が好ましい。沖合から押し寄せてくる津波流に対する対策は当然必要だが、津波流の引き波も大きなエネルギーを有しているので、引き波に対する対策もしておいた方が好ましいからである。ケーソン14の港内側と港外側の側面14Aに隣接するそれぞれの領域に本体構造部分20をそれぞれ設置することにより、津波流およびその引き波による越波を受けても、ケーソン14の隣接領域の捨石マウンド12に洗掘が生じることを抑制することができる。
また、本体構造部分20のフレーム16の下部は捨石マウンド12に根入れされており、また、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18は側方を拘束されてその全体(本体構造部分20)がいわば1つのブロックのような状態となっていると考えられる。即ち、1つのブロックのような状態と考えることのできる本体構造部分20が捨石マウンド12に根入れされているような状態になっているので、津波流またはその引き波からケーソン14が水平力を受けても、本体構造部分20が抵抗となって、ケーソン14が滑動してしまうことを抑制することができる。また、ケーソン14の側面14Aとフレーム16との間の隙間にも中詰石18が充填されており、ケーソン14の側面14Aとフレーム16との間の隙間に充填された中詰石18はケーソン14の側面14Aと接触しているので、本実施形態に係る補強構造10は、ケーソン14と本体構造部分20は水平力に対して一体的に抵抗することができ、ケーソン14の水平方向の滑動をより強く抑制することができる。
次に、フレーム16(遠方側水流透過性面状部材24、近傍側水流透過性面状部材26、端部壁体28および中間部壁体30)についてさらに詳細に説明する。
図3は、遠方側水流透過性面状部材24の正面図(遠方側水流透過性面状部材24が形成する面と直交する方向から遠方側水流透過性面状部材24を見た図)である。ケーソン14から遠い側に位置する遠方側水流透過性面状部材24は、図3に示すように、側辺鋼管40と、形鋼42と、丸鋼44とからなり、フレーム16内に積み上げられて充填された中詰石18が崩れないように側方から拘束する役割を有する。
側辺鋼管40は端部壁体28および中間部壁体30の鉛直材(図5、図6に示す側辺鋼管50B、58B)と共通する部材であり、下部は捨石マウンド12に根入れされている。また、2本の側辺鋼管40の上端部同士の間、中間部同士の間、下端部同士の間を水平方向に延びる形鋼42がそれぞれ連結している。さらに、2本の側辺鋼管40の間に側辺鋼管40と平行に6本の丸鋼44がおおよそ等間隔で縦方向に配置されており、それら6本の丸鋼44の上下端部および中間部はそれぞれ形鋼42に連結されている。これらの3本の形鋼42および6本の丸鋼44が、フレーム16内に積み上げられて充填された中詰石18が崩れないように側方から拘束する。
なお、図3では側辺鋼管40は2本しか描いていないが、側辺鋼管40の数は、補強構造10の必要な延長距離に応じて任意に増やすことができ、遠方側水流透過性面状部材24はケーソン14の側面14Aに沿う方向に任意に増やすことができる。図2に示すフレーム16では、3つの遠方側水流透過性面状部材24がケーソン14の側面14Aに沿う方向に連なっている。
また、遠方側水流透過性面状部材24は、面を貫通して水流を透過させることができ、かつ、フレーム16内に積み上げられて充填された中詰石18が崩れないように側方から拘束する機能を有する面状の部材であればよく、この条件を満たすものであれば、形状や材質は必ずしも限定されない。面を貫通して水流を透過させることができるようにすることで、水平方向に進行する津波流から本体構造部分20が受けるエネルギーを緩和することができ、また、本体構造部分20の上方を津波流が通過する際に生じる揚力も緩和することができる。
図3では、2本の側辺鋼管40の間を水平方向に連結する形鋼42の本数を3本とし、2本の側辺鋼管40の間の丸鋼44の本数を6本としたが、これらの本数は一例であり、これらの本数に限定されるわけではなく、中詰石18を側方から拘束する効果をより高める観点から、2本の側辺鋼管40の間を水平方向に連結する形鋼42の本数を4本以上に増やしてもよい。また、中詰石18を側方から拘束する効果が十分に得られることを確認できれば、側辺鋼管40の中間部を連結する形鋼42は設けず、側辺鋼管40の上端部同士および下端部同士を連結する2本の形鋼42のみを設けるのみとしてもよい。また、丸鋼44と直交する方向(形鋼42と平行な方向)にも丸鋼を配置して、丸鋼を格子状に配置するようにしてもよく、このようにすると、フレーム16内に積み上げられて充填された中詰石18が崩れないように拘束する機能をより向上させることができる。なお、丸鋼44に替えて鋼管や形鋼を用いてもよく、また、丸鋼44と直交する方向(形鋼42と平行な方向)にも鋼材を設ける場合には、その鋼材として丸鋼を用いてもよいが、丸鋼に替えて鋼管や形鋼を用いてもよい。
遠方側水流透過性面状部材24の材質については、中詰石18をフレーム16の内側に投入する際の衝撃を考えると、靭性に優れる材質が好ましく、遠方側水流透過性面状部材24を構成する部材には鋼材を用いることが好ましい。捨石マウンド12に根入れされている側辺鋼管40は本体構造部分20の安定性を確保し、かつ、ケーソン14の滑動を防止する上で重要であるので、側辺鋼管40内にはさらにコンクリートを充填しておくことがより好ましい。また、鋼管を用いることにより、形鋼を用いた場合よりも断面効率が良くなり、防食面積も小さくなる。ただし、側辺鋼管40に替えて形鋼を用いることができないわけでなく、安全性を照査した上で側辺鋼管40に替えて形鋼を用いることも可能である。また、側辺鋼管40を含め、遠方側水流透過性面状部材24を構成する部材に鋼材以外の素材を用いることができないわけではなく、例えば、鉄筋コンクリート(RC)製の棒状部材や鋼とコンクリートの合成構造(SRC構造など)からなる棒状部材を用いることも可能である。
図4は、近傍側水流透過性面状部材26の正面図(近傍側水流透過性面状部材26が形成する面と直交する方向から近傍側水流透過性面状部材26を見た図)である。ケーソン14から近い側に位置する近傍側水流透過性面状部材26は、図4に示すように、側辺鋼管46と、形鋼48とからなり、遠方側水流透過性面状部材24から丸鋼44を取り除いた構造となっており、フレーム16内に積み上げられて充填された中詰石18が崩れないように拘束する役割はなく、フレーム16全体の形状の安定性に寄与する役割を有する。
前述したように、中詰石18が近傍側水流透過性面状部材26を通過してもケーソン14の側面14Aによってケーソン14に向かう水平方向の移動は拘束される。また、中詰石18の大きさを、近傍側水流透過性面状部材26を通過できる大きさとすることにより、ケーソン14の側面14Aとフレーム16との間に隙間があってもフレーム16内に投入した中詰石18がその隙間に移動してその隙間を埋めることができ、ケーソン14の水平方向の滑動をより強く防止することができる。
このため、中詰石18は近傍側水流透過性面状部材26を自由に通過できることが好ましく、近傍側水流透過性面状部材26を自由に通過できるようにすることにより、ケーソン14の側面14Aとフレーム16との間の隙間にもフレーム16内に投入した中詰石18が移動してその隙間を埋めることができる。ケーソン14の側面14Aとフレーム16との間の隙間にも中詰石18を充填しておくことにより、ケーソン14と本体構造部分20は水平力に対して一体的に抵抗することができ、ケーソン14の水平方向の滑動をより強く抑制することができる。また、前述したように、地震そのものの揺れによって捨石マウンド12が損傷を受けてケーソン14とフレーム16との間の隙間が広がった場合であっても、本実施形態に係る補強構造10は自己修復機能を発揮して、ケーソン14とフレーム16との間の広がった隙間を中詰石18が埋めてしまうので、地震後に到来する津波流に対しても抵抗力をなお維持することができる。したがって、近傍側水流透過性面状部材26にはフレーム16内に充填された中詰石18を側方から拘束するための部材を設ける必要はなく、近傍側水流透過性面状部材26には丸鋼44を設けていない。
近傍側水流透過性面状部材26の材質については、遠方側水流透過性面状部材24と同様に、中詰石18をフレーム16の内側に投入する際の衝撃を考えると、靭性に優れる材質が好ましく、近傍側水流透過性面状部材26を構成する部材には鋼材を用いることが好ましい。捨石マウンド12に根入れされている側辺鋼管46は本体構造部分20の安定性を確保し、かつ、ケーソン14の滑動を防止する上で重要であるので、側辺鋼管46内にはさらにコンクリートを充填しておくことがより好ましい。また、鋼管を用いることにより、形鋼を用いた場合よりも断面効率が良くなり、防食面積も小さくなる。ただし、側辺鋼管46に替えて形鋼を用いることができないわけでなく、安全性を照査した上で側辺鋼管46に替えて形鋼を用いることも可能である。また、側辺鋼管46を含め、近傍側水流透過性面状部材26を構成する部材に鋼材以外の素材を用いることができないわけではなく、例えば、鉄筋コンクリート(RC)製の棒状部材や鋼とコンクリートの合成構造(SRC構造など)からなる棒状部材を用いることも可能である。
図5は、端部壁体28の正面図(端部壁体28が形成する面と直交する方向から端部壁体28を見た図)である。図2に示すように、端部壁体28は、1つのフレーム16あたり2つ設けられており、水流透過性面状部材24、26が延びる略水平方向の両端部に設けられている。図5に示すように、突出部28Aを除いて端部壁体28を正面から見た形状は略長方形であり、突出部28Aを除く端部壁体28は、側辺鋼管50A、50Bと、3本の形鋼52A、52B、52Cと、4本のブレース鋼材54と、7本の丸鋼56とからなる。側辺鋼管50A、50Bのうち、側辺鋼管50Aはケーソン14に近い側であり、近傍側水流透過性面状部材26の側辺鋼管46と同一である。また、側辺鋼管50Bはケーソン14から遠い側であり、遠方側水流透過性面状部材24の側辺鋼管40と同一である。
側辺鋼管50A、50Bの上端部同士、中間部同士、下端部同士の間は、水平方向に延びる形鋼52A、52B、52Cによってそれぞれ連結されており、また、上端部の形鋼52Aの中間部と側辺鋼管50A、50Bの中間部を2本のブレース鋼材54が連結し、中間部の形鋼52Bの中間部と側辺鋼管50A、50Bの下端部を2本のブレース鋼材54が連結しており、端部壁体28はトラス構造となっている。また、端部壁体28の下部は捨石マウンド12に根入れされている。このため、端部壁体28は、津波流(またはその引き波)およびその越波を受けても、補強構造10の本体構造部分20がその形状を安定的に保持できるようにする役割を果たすことができる。
また、端部壁体28は7本の丸鋼56を鉛直方向(側辺鋼管50A、50Bと平行な方向)に備えており、フレーム16内に充填された中詰石18を側方から拘束する役割も有する。ここで、中詰石18を側方から拘束する効果をより高めるため、丸鋼56と直交する方向(形鋼52A、52B、52Cと平行な方向)にも丸鋼を配置してもよい。なお、丸鋼56に替えて鋼管や形鋼を用いてもよく、また、丸鋼56と直交する方向(形鋼52A、52B、52Cと平行な方向)にも鋼材を設ける場合には、その鋼材として丸鋼を用いてもよいが、丸鋼に替えて鋼管や形鋼を用いてもよい。
また、端部壁体28には、遠方側水流透過性面状部材24と同様の面状の部材である突出部28Aが側辺鋼管50Aに設けられており、この突出部28Aはケーソン14の側面14Aとフレーム16との隙間に位置するようになっており、ケーソン14の側面14Aとフレーム16との隙間から中詰石18が外に漏れ出ないようにする役割を有する。
端部壁体28の材質については、水流透過性面状部材24、26と同様に、中詰石18をフレーム16の内側に投入する際の衝撃を考えると、靭性に優れる材質が好ましく、端部壁体28を構成する部材には鋼材を用いることが好ましい。捨石マウンド12に根入れされている側辺鋼管50A、50Bは本体構造部分20の安定性を確保し、かつ、ケーソン14の滑動を防止する上で重要であるので、側辺鋼管50A、50B内にはさらにコンクリートを充填しておくことがより好ましい。また、鋼管を用いることにより、形鋼を用いた場合よりも断面効率が良くなり、防食面積も小さくなる。ただし、側辺鋼管50A、50Bに替えて形鋼を用いることができないわけでなく、安全性を照査した上で側辺鋼管46に替えて形鋼を用いることも可能である。また、側辺鋼管50A、50Bを含め、端部壁体28を構成する部材に鋼材以外の素材を用いることができないわけではなく、例えば、鉄筋コンクリート(RC)製の棒状部材や鋼とコンクリートの合成構造(SRC構造など)からなる棒状部材を用いることも可能である。
図6は、中間部壁体30の正面図(中間部壁体30が形成する面と直交する方向から中間部壁体30を見た図)である。前述したように、中間部壁体30は2つの端部壁体28の間に配置されており、図2に示す本第1実施形態におけるフレーム16では、中間部壁体30は1つのフレーム16あたり2つ設けられている。
図6に示すように、中間部壁体30を正面から見た形状は略長方形であり、中間部壁体30は、側辺鋼管58A、58Bと、3本の形鋼60A、60B、60Cと、4本のブレース鋼材62とからなる。側辺鋼管58A、58Bのうち、側辺鋼管58Aはケーソン14に近い側であり、近傍側水流透過性面状部材26の側辺鋼管46と同一である。また、側辺鋼管50Bはケーソン14から遠い側であり、遠方側水流透過性面状部材24の側辺鋼管40と同一である。
側辺鋼管58A、58Bの上端部同士、中間部同士、下端部同士の間は、水平方向に延びる形鋼60A、60B、60Cによってそれぞれ連結されており、また、上端部の形鋼60Aの中間部と側辺鋼管58A、58Bの中間部を2本のブレース鋼材62が連結し、中間部の形鋼60Bの中間部と側辺鋼管58A、58Bの下端部を2本のブレース鋼材62が連結しており、中間部壁体30はトラス構造となっている。また、中間部壁体30の下部は捨石マウンド12に根入れされている。このため、中間部壁体30は端部壁体28と同様に、補強構造10の本体構造部分20がその形状を安定的に保持できるようにする役割を果たすことができる。
中間部壁体30の材質については、水流透過性面状部材24、26と同様に、中詰石18をフレーム16の内側に投入する際の衝撃を考えると、靭性に優れる材質が好ましく、中間部壁体30を構成する部材には鋼材を用いることが好ましい。捨石マウンド12に根入れされている側辺鋼管58A、58Bは本体構造部分20の安定性を確保し、かつ、ケーソン14の滑動を防止する上で重要であるので、側辺鋼管58A、58B内にはさらにコンクリートを充填しておくことがより好ましい。また、鋼管を用いることにより、形鋼を用いた場合よりも断面効率が良くなり、防食面積も小さくなる。ただし、側辺鋼管58A、58Bに替えて形鋼を用いることができないわけでなく、安全性を照査した上で側辺鋼管58A、58Bに替えて形鋼を用いることも可能である。また、側辺鋼管58A、58Bを含め、中間部壁体30を構成する部材に鋼材以外の素材を用いることができないわけではなく、例えば、鉄筋コンクリート(RC)製の棒状部材や鋼とコンクリートの合成構造(SRC構造など)からなる棒状部材を用いることも可能である。
なお、中間部壁体30は、端部壁体28とは異なり丸鋼56を有していない。このため、中間部壁体30は、フレーム16内に充填された中詰石18を側方から拘束する役割は有していない。
以上説明したように、端部壁体28および中間部壁体30はトラス構造となっており、補強構造10の本体構造部分20がその形状を安定的に保持できるようにする役割を果たすことができる。このため、本第1実施形態に係る補強構造10においては、本体構造部分20が津波流や越波を受けても、本体構造部分20が変形することが抑制されており、フレーム16内の中詰石18が踊ってしまうことが防止されているとともに、本体構造部分20が津波流だけでなく津波流の越波を上方から受けても洗掘は発生しにくくなっている。
また、本体構造部分20のフレーム16の下部は捨石マウンド12に根入れされており、また、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18は側方を拘束されてその全体(本体構造部分20)がいわば1つのブロックのような状態となっていると考えられるので、その全体の重量による水平方向の摩擦力(フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18の全体が水平方向に移動するときに捨石マウンド12内に生じる滑り面における摩擦力のことであり、詳しくは後述する。)がケーソン14の重量による摩擦力に加算され、津波流(またはその引き波)を受けても、ケーソン14と本体構造部分20は水平力に対して一体的に抵抗することができ、ケーソン14の水平方向の滑動をより強く抑制することができる。
また、端部壁体28が形成する面(側辺鋼管50A、50B、3本の形鋼52A、52B、52Cの全てが含まれる平面)および中間部壁体30が形成する面(側辺鋼管58A、58B、3本の形鋼60A、60B、60Cの全てが含まれる平面)が、ケーソン14の側面14Aと直交する方向(想定される津波流が進行する方向と平行)になるように、フレーム16は捨石マウンド12に配置されており、津波流(またはその引き波)からケーソン14が受けた水平力がフレーム16に伝達された際、端部壁体28および中間部壁体30はトラス構造で抵抗できるようになっている。このため、津波流(またはその引き波)からケーソン14が受けた水平力がフレーム16に伝達された際においてもフレーム16の変形は抑制されており、本体構造部分20の変形を抑制することができる。
なお、図5、図6に示す端部壁体28および中間部壁体30は2段のトラス構造になっているが、端部壁体28および中間部壁体30の構造はこの構造に限定されるわけでなく、1段のトラス構造または3段以上のトラス構造としてもよく、また、本体構造部分20の形状を安定的に保持できる機能を有するのであれば、トラス構造でなく例えばラーメン構造としてもよい。
また、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18が踊ってしまうことをより強力に防止するためには、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18の上部を、例えば、図7に示す水流透過性蓋部材64で覆って、中詰石18の上部を拘束してしまうことが好ましい。水流透過性蓋部材64は、水流透過性面状部材24、26の形鋼42、48と略同等の長さの2本の形鋼66と、壁体28、30の形鋼52A、60Aの長さにフレーム16とケーソン14の側面14Aとの隙間の寸法を加えた長さと略同等の長さの2本の形鋼68とからなる長方形状の枠体に、7本の丸鋼70を所定の間隔で短辺方向(形鋼66と平行な方向)に配置してそれらの両端を形鋼68に連結してなる構造である。水流透過性蓋部材64をフレーム16に取り付ける際には水流透過性蓋部材64と中詰石18との間の遊びはなるべく少なくした方が、水流を受けた中詰石18がより踊りにくくなり好ましい。
なお、水流透過性蓋部材64を用いて中詰石18の上部を拘束する場合、長辺方向(形鋼68と平行な方向)にも丸鋼を配置して格子状に丸鋼を配置した方が中詰石18の上部を拘束する効果が高まり好ましい。
また、本体構造部分20の形状をより安定的に保持できるようにするために、フレーム16の下方を覆う水流透過性底部材72をさらに備えさせてもよい。水流透過性底部材72はフレーム全体の形状の安定性を向上させることを目的とした部材であり、中詰石18を拘束することは目的としていないので、間隔を狭くする部材は設ける必要はなく、例えば図8に示すように、形鋼74、76、およびブレース鋼材78で構成すればよく、中詰石18の大きさは水流透過性底部材72を通過できる大きさであってもよい。むしろ、中詰石18の大きさは水流透過性底部材72を通過できる大きさであるほうが、中詰石18と捨石マウンド12の捨石とのかみ合わせが良好となって、フレーム16内の中詰石18と捨石マウンド12との一体性が向上し好ましい。
なお、水流透過性底部材72の2本の形鋼74は対向する水流透過性面状部材24、26の下段の形鋼42、48とそれぞれ共通し、水流透過性底部材72の2本の形鋼76は隣り合う壁体28、30の下段の形鋼52C、60Cとそれぞれ共通するか、隣り合う壁体30同士の下段の形鋼60Cとそれぞれ共通する。
(1−2)第1実施形態の効果についてのまとめ
(1−2−1)洗掘抑制効果
第1実施形態に係る補強構造10では、ケーソン14に隣接する領域に、フレーム16およびケーソン14の側面14Aによって側方を安定的に拘束された本体構造部分20が配置されている。このため、津波流またはその引き波がケーソン14を越えて越波が発生したとしても、第1実施形態に係る補強構造10では、ケーソン14に隣接する領域には洗掘が発生しにくくなっており、捨石マウンド12にたとえ洗掘が生じたとしても、ケーソン14に重大な悪影響を与えないようにすることができる。
また、第1実施形態に係る補強構造10では、端部壁体28および中間部壁体30はトラス構造となっており、補強構造10の本体構造部分20はその形状を安定的に保持できる。このため、第1実施形態に係る補強構造10において、本体構造部分20が津波流や越波を受けても、本体構造部分20は変形しにくく、フレーム16内の中詰石18が踊ってしまうことが抑制されており、本体構造部分20が津波流だけでなく津波流の越波を上方から受けても洗掘は発生しにくくなっている。
さらに、端部壁体28が形成する面(側辺鋼管50A、50B、3本の形鋼52A、52B、52Cの全てが含まれる平面)および中間部壁体30が形成する面(側辺鋼管58A、58B、3本の形鋼60A、60B、60Cの全てが含まれる平面)が、ケーソン14の側面14Aと直交する方向(想定される津波流が進行する方向と平行)になるように、フレーム16は捨石マウンド12に配置されており、ケーソン14が津波流(またはその引き波)から受けた水平力がフレーム16に伝達された際、端部壁体28および中間部壁体30はトラス構造で抵抗できるようになっている。このため、ケーソン14が津波流(またはその引き波)から受けた水平力がフレーム16に伝達された際においてもフレーム16の変形は抑制されており、本体構造部分20の変形を抑制することができるので、ケーソン14から水平方向の力を受けている状態で越波を上方から受けても、本体構造部分20の中詰石18が洗掘されることは起こりにくい。
(1−2−2)ケーソンの滑動を抑える効果
補強構造10の本体構造部分20の形状は、フレーム16およびケーソン14の側面14Aによって安定的に一体的な形状が保持されるので、第1実施形態に係る補強構造10の本体構造部分20が、ケーソン14の水平方向の滑動を抑える際には、捨石マウンド12に根入れされた本体構造部分20の全体がいわば1つの一体的なブロックのように機能する。このため、図9に模式的に示すように、ケーソン14が水平方向に滑動する際には、ケーソン14の底面(捨石マウンド12の上面)よりも低い位置の捨石マウンド12内に水平方向に滑り面が生じるので、その滑り面の領域12Aの面積は、根入れせずにただ単に石材をケーソン14の隣接領域に積み上げた場合と比べて広くなる。根入れせずにただ単に石材をケーソン14の隣接領域に積み上げた場合、滑り面の領域は石材が積まれた領域のみとなる。
ここで、ケーソン14の水平方向の滑動を抑える本体構造部分20の水平方向の抵抗力は、滑り面12Aに加わる重量(滑り面12A上の本体構造部分20の重量+滑り面12A上の捨石の重量)と滑り面12Aの面積に比例するので、本体構造部分20を根入れせずにただ単にケーソン14の隣接領域に設けた場合よりも、第1実施形態に係る補強構造10においては、ケーソン14の水平方向の滑動に対する抵抗力が増加している。
また、第1実施形態に係る補強構造10においては、本体構造部分20は一体的な1つのブロックのようになっており、その天端の高さは捨石マウンド12の上面よりも高くなっているので、滑り面12Aに加わる重量を大きくすることができ、この点でも、第1実施形態に係る補強構造10においては、ケーソン14の水平方向の滑動に対する抵抗力が増加している。
以上のことにより、第1実施形態に係る補強構造10においては、津波流(またはその引き波)を受けたケーソンの滑動を強力に抑えることができる。
なお、図9において、符号20Aは、フレーム16およびフレーム16内に充填された中詰石18からなる部位を表しており、符号20Bは、ケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18を表している。また、符号12Bは、「(4)施工方法について」のところで後述するように、捨石マウンド12から石を取り除いた領域の境目の石が崩れて生じる傾斜面を示し、符号12Cはフレーム16の下部外側の空間に捨石が投入されて再構築された捨石マウンド12の部位を表している。
(1−2−3)自己修復機能
地震そのものの揺れによって捨石マウンド12が損傷を受けて、津波流の到達前にケーソン14とフレーム16との間の隙間が広がった場合であっても、中詰石18が近傍側水流透過性面状部材26を自由に通過できるようにしておくことにより、その広がった隙間にその地震の揺れ等によって自動的に中詰石18が移動してその隙間を埋めてしまうので、ケーソン14と本体構造部分20とが水平力に対して一体的に抵抗する機能は損なわれない。即ち、中詰石18が近傍側水流透過性面状部材26を自由に通過できるようにしておくことにより、地震そのものの揺れによって捨石マウンド12が損傷を受けてケーソン14とフレーム16との間の隙間が広がった場合であっても、本実施形態に係る補強構造10は自己修復機能を発揮して、ケーソン14とフレーム16との間の広がった隙間を中詰石18が埋めてしまうので、地震後に到来する津波流に対しても抵抗力をなお維持することができる。
(1−2−4)相乗効果
第1実施形態に係る補強構造10では、(1−2−1)で記載したように、津波流またはその引き波が引き起こす越波が発生したとしても、洗掘が発生しにくくなっている。このため、津波流またはその引き波が越波を引き起こしたとしても、ケーソン14に隣接する領域の捨石マウンドが洗掘されて、それによってケーソン14が滑動、滑落するということが発生しにくくなっている。
また、(1−2−2)で記載したように、第1実施形態に係る補強構造10では、津波流またはその引き波を受けたケーソン14の滑動を強力に抑えることができる。
さらに、(1−2−3)で記載したように、地震そのものの揺れによって捨石マウンド12が損傷を受けてケーソン14とフレーム16との間の隙間が広がった場合であっても、本実施形態に係る補強構造10は自己修復機能を発揮して、地震後に到来する津波流に対しても抵抗力をなお維持することができる。
即ち、第1実施形態に係る補強構造10は、大津波によって想定されるケーソン14の滑動、滑落の2つのメカニズムを効果的に抑え込んでおり、さらに、地震そのものの揺れによって捨石マウンド12が損傷を受けた際の自己修復機能も有しており、第1実施形態に係る補強構造10を用いることにより、ケーソン式混成堤22の津波に対する抵抗力を格段に向上させることができる。
(2)第2実施形態
次に、第2実施形態に係る補強構造について説明する。
第1実施形態に係る補強構造10のフレーム16を水流透過性面状部材24、26が延びる方向から見た形状(壁体28、30を正面から見た形状)は、突出部28Aを除いて考えると、略長方形であったが、第2実施形態に係る補強構造のフレーム31を水流透過性面状部材24、26が延びる方向から見た形状は、突出部28Aを除いて考えると、略水平方向に延びる底辺および略水平方向に延びる上辺と、前記底辺と前記上辺のケーソン14に近い側の端部を連結して略鉛直方向に延びる第1の側辺と、前記底辺と前記上辺のケーソン14から遠い側の端部を連結して下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に傾いている第2の側辺と、を有する略台形状となっており、この点が第2実施形態の第1実施形態との相違点である。即ち、第2実施形態に係る補強構造を構成する部材は、突出部28Aを除いたフレーム31の端部および中間部の壁体の形状(突出部28Aを除いたフレーム31を水流透過性面状部材24、26が延びる方向から見た形状)が前記したような略台形状となっている点、および遠方側水流透過性面状部材24が下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に傾いている点以外は、第1実施形態に係る補強構造10の各構成部材と実質的に同様の形状および機能を有するので、第2実施形態に係る補強構造については、水流透過性面状部材24、26が延びる方向のフレーム31の両端部に位置する端部壁体32についてのみ説明し、他の構成部材については説明を省略するか、簡単な説明のみ止める。また、第2実施形態の端部壁体32を構成する部材のうち、形鋼、ブレース鋼材、丸鋼、および突出部については、第1実施形態の端部壁体28の形鋼52A、52B、52C、ブレース鋼材54、丸鋼56、および突出部28Aとほぼ同様の形状を有し、かつ同様の機能を有するので、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図10は、この第2実施形態における端部壁体32の正面図(端部壁体32が形成する面と直交する方向から端部壁体32を見た図)であり、第2実施形態に係る補強構造のフレーム31を水流透過性面状部材24、26が延びる方向から見た側面図でもある。
第2実施形態に係る補強構造における端部壁体32は、突出部28Aを除いた形状が前記したような略台形状である点以外は、突出部28Aを除いた形状が略長方形である端部壁体28と同様であり、ケーソン14に近い側に位置して略鉛直方向に延びて捨石マウンド12に根入れされている側辺鋼管80Aと、ケーソン14から遠い側に位置して下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に傾いていて捨石マウンド12に根入れされている斜め鋼管80Bと、形鋼52A、52B、52Cと、ブレース鋼材54と、丸鋼56とからなり、側辺鋼管80Aと、斜め鋼管80Bと、形鋼52A、52B、52Cと、ブレース鋼材54とによりトラス構造を形成している。なお、ケーソン14から遠い側にある斜め鋼管80Bは下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に傾いており、第2実施形態に係る補強構造においては、ケーソン14から遠い側にある遠方側水流透過性面状部材24は下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に傾いているので、ケーソン14に近い側にある近傍側水流透過性面状部材26よりも面積を大きくする必要がある。
第2実施形態における端部壁体32の形状は、突出部28Aを除いて考えると、前記したような略台形状であるので、前述したようにケーソン14から遠い側にある遠方側水流透過性面状部材24は下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に傾いており、第2実施形態に係る補強構造は水平方向から押し寄せる津波流およびその引き波のエネルギーを受け流すことができる点で有利である。
また、ケーソン14が津波流またはその引き波から受けた水平力がフレーム31に伝達されると、斜め鋼管80Bにも水平力が伝達されるが、斜め鋼管80Bは下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に傾いているので、斜め鋼管80Bは圧縮軸力でもケーソン14からの水平力に抵抗できる。このため、ケーソン14が津波流またはその引き波から受けた水平力がフレーム31に伝達された際においてもフレーム31の変形をより抑制することができ、本体構造部分20の変形をより抑制することができる。
なお、本第2実施形態における端部壁体32はトラス構造を形成しているが、本体構造部分20の形状を安定的に保持できる機能を有するのであれば、トラス構造としなくてもよく、例えばラーメン構造とすることもできる。
また、捨石マウンド12に根入れされている側辺鋼管80Aおよび斜め鋼管80Bは、本体構造部分20の形状を安定的に保持する機能を発揮する上で中心となる部材であるので、側辺鋼管80Aおよび斜め鋼管80B内にはコンクリートを充填して強化しておくことが好ましい。
(3)第3実施形態
次に、第3実施形態に係る補強構造について説明する。
第2実施形態に係る補強構造のフレーム31を水流透過性面状部材24、26が延びる方向から見た形状は、突出部28Aを除いて考えると、略水平方向に延びる底辺および略水平方向に延びる上辺と、前記底辺と前記上辺のケーソン14に近い側の端部を連結して略鉛直方向に延びる第1の側辺と、前記底辺と前記上辺のケーソン14から遠い側の端部を連結して下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に傾いている第2の側辺と、を有する略台形状となっていたが、図11に示すように、本第3実施形態に係る補強構造のフレーム33を水流透過性面状部材24、26が延びる方向から見た形状は、第2実施形態の前記第2の側辺を、外側に凸の曲線で置き換えたものとなっている点で相違する。即ち、第2実施形態に係る補強構造の端部壁体32では、ケーソン14から遠い側の鋼管に、下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に傾いているまっすぐな直線状の斜め鋼管80Bを用いていたが、第3実施形態に係る補強構造の端部壁体34では、図11に示すように、外側に凸に湾曲した湾曲鋼管82Bを用いている点が相違する。それ以外の点は、第2実施形態に係る補強構造の各構成部材と実質的に同様の形状および機能を有するので、第3実施形態に係る補強構造については、端部壁体34についてのみ説明し、他の構成部材については説明を省略するか、簡単な説明のみに止める。また、第3実施形態の端部壁体34を構成する部材のうち、形鋼、ブレース鋼材、丸鋼、および突出部については、第1実施形態の端部壁体28の形鋼52A、52B、52C、ブレース鋼材54、丸鋼56、および突出部28Aとほぼ同様の形状を有し、かつ同様の機能を有するので、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図11は、この第3実施形態における端部壁体34の正面図(端部壁体34が形成する面と直交する方向から端部壁体34を見た図)であり、第3実施形態に係る補強構造のフレーム33を水流透過性面状部材24、26が延びる方向から見た側面図でもある。
第3実施形態に係る補強構造における端部壁体34は、形状が前記したような形状である点以外は端部壁体32と同様であり、ケーソン14に近い側に位置して略鉛直方向に延びて捨石マウンド12に根入れされている側辺鋼管82Aと、外側に凸に湾曲しており、ケーソン14から遠い側に位置して下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に湾曲していて捨石マウンド12に根入れされている湾曲鋼管82Bと、形鋼52A、52B、52Cと、ブレース鋼材54と、丸鋼56とからなり、側辺鋼管82Aと、湾曲鋼管82Bと、形鋼52A、52B、52Cと、ブレース鋼材54とによりトラス構造を形成している。なお、ケーソン14から遠い側にある湾曲鋼管82Bは下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に湾曲しているので、第3実施形態に係る補強構造においては、遠方側水流透過性面状部材24は、湾曲鋼管82Bの形状に合わせて外側に凸に湾曲させた曲面形状にする。
第3実施形態における端部壁体34の湾曲鋼管82Bは外側に凸に湾曲しており、ケーソン14から遠い側にある遠方側水流透過性面状部材24は下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に湾曲しているので、第3実施形態の補強構造は第2実施形態の補強構造と同様に、水平方向から押し寄せる津波流およびその引き波のエネルギーを受け流すことができる点で有利である。
また、ケーソン14が津波流またはその引き波から受けた水平力がフレーム33に伝達されると、湾曲鋼管82Bにも水平力が伝達されるが、湾曲鋼管82Bは下部から上部に行くにしたがってケーソン14に近づく方向に湾曲しているので、湾曲鋼管82Bは圧縮軸力でもケーソン14からの水平力に抵抗できる。このため、ケーソン14が津波流またはその引き波から受けた水平力がフレーム33に伝達された際においてもフレーム33の変形をより抑制することができ、本体構造部分20の変形をより抑制することができる。
なお、本第3実施形態における端部壁体34はトラス構造を形成しているが、本体構造部分20の形状を安定的に保持できる機能を有するのであれば、トラス構造としなくてもよく、例えばラーメン構造とすることもできる。
また、捨石マウンド12に根入れされている側辺鋼管82Aおよび湾曲鋼管82Bは、本体構造部分20の形状を安定的に保持する機能を発揮する上で中心となる部材であるので、側辺鋼管82Aおよび湾曲鋼管82B内にはコンクリートを充填して強化しておくことが好ましい。
(4)施工方法について
最後に、第1実施形態に係る補強構造10を構築する施工方法について説明する。なお、第2、3実施形態に係る補強構造と第1実施形態に係る補強構造10とは、フレームの形状が若干異なっているだけであるので、以下で説明する施工方法を用いて、第2、第3実施形態に係る補強構造も同様に構築することができる。
まず、ケーソン14の側面14Aの隣接領域の捨石マウンド12の石を、ケーソン14の滑動を抑えるために要求される抵抗力に応じて、所定の深さまで取り除く。ただし、ケーソン14の側面14Aからある程度以上離れた領域まで石を取り除く必要がある場合には、フレーム16の下部が位置する領域の石のみを捨石マウンド12から取り除くようにして、石を取り除く作業の軽減を図ってもよい。
ここで、捨石マウンド12から石を取り除くと、取り除いた領域の境目の石が崩れて、図9に示すように傾斜面12Bが生じることがあることに留意する。この境目の石が崩れることを防止するために、あらかじめ、この境目に矢板を打ち込んでおいてもよい。この場合は、矢板の上端が捨石マウンド12の上面と同一レベルになることが望ましい。
次に、石を所定の深さまで取り除いた領域に、水流透過性面状部材24、26が延びる方向が、ケーソン14の側面14Aと略平行な略水平方向となるように、フレーム16をクレーン等で設置する。
フレーム16を所定の位置に設置したら、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に中詰石18を充填する。フレーム16の内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填する中詰石18の大きさは、全て遠方側水流透過性面状部材24および端部壁体28を通過できない大きさにすることが好ましい。フレーム16の内側における位置に応じて大きさの異なる中詰石18を使い分ける必要がなくなり、施工性の点で有利となる。また、洗掘もより生じにくくなる。中詰石18を投入する際には、例えば図12に示すように、シューター90を用いてもよい。
石を取り除いた領域の広さとフレーム16の大きさとが一致しており、かつ取り除いた領域の境目の石が崩れていなければフレーム16内に中詰石18を投入するのみで、フレーム16の捨石マウンド12内への根入れを行うことができる。石を取り除いた領域の広さがフレーム16の大きさよりも広い場合や、取り除いた領域の境目の石が崩れて傾斜面12Bが生じている場合のように、フレーム16の下部外側に空間が生じている場合は、フレーム16の周囲にも捨石を投入して、フレーム16の下部外側の空間も石で埋めて確実に根入れを行うようにする。図9において、符号12Cは、フレーム16の下部外側に空間がある場合にその空間を捨石で埋めて再構築した捨石マウンド12の部位を示す。
フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に中詰石18を投入するとともに、フレーム16の外側の捨石マウンド12の全体の上に捨石を投入してもよい。このようにすると、さらに根入れが確実になるとともに、捨石マウンドの全体の機能向上につながる。
想定される津波流および引き波の大きさによっては、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間への中詰石18の充填完了後、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18の上部を覆うように水流透過性蓋部材64を取り付けて中詰石18の上部を拘束するようにしてもよい。水流透過性蓋部材64を用いてフレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に充填された中詰石18の上部を拘束する場合、中詰石18の大きさは、水流透過性蓋部材64を通過しない大きさとしておくのがよい。
以上説明した施工手順では、まず、ケーソン14の側面14Aの隣接領域の捨石マウンド12の石を所定の深さまで取り除いたが、石を取り除く工程を省略する施工方法もある。
石を取り除く工程を省略する施工方法では、ケーソン14の側面14Aの隣接領域の捨石マウンド12上に、石を取り除くことなくフレーム16を、水流透過性面状部材24、26が延びる方向が、ケーソン14の側面14Aと略平行な略水平方向となるようにクレーン等で設置する。
フレーム16を所定の位置に設置したら、フレーム16内およびケーソン14とフレーム16との隙間に中詰石18を充填するとともに、フレーム16の外側の捨石マウンド12の全体の上にも捨石を投入する。このようにすることにより、フレーム16を設置する位置の石を最初に取り除いておかなくても、フレーム16内に投入した中詰石18と、フレーム16の外側に新たに投入された捨石により根入れを行うことができる。