(実施形態の構成)
本発明の一実施形態に係る車両前部構造について図1〜図5を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印OUTは車両幅方向外側を示している。
図1には、本実施形態に係る車両前部構造が斜視図にて示され、図2には、車両前部構造が分解斜視図にて示され、図3には、車両前部構造が側面図にて示されている。
図1に示されるように、車両前部10には、後述する電力制御機器としてのインバータ50等が収容されるエンジンルーム12(「エンジンコンパートメント」ともいう。)が形成されている。車両前部10の両サイドには、左右一対のフロントサイドメンバ14が車両前後方向を長手方向として配置されている。フロントサイドメンバ14は、その車両幅方向内側部分を構成して車両幅方向外側に開口した断面ハット形状のフロントサイドメンバインナ14Aを備えている。フロントサイドメンバインナ14Aの開口部分は、フロントサイドメンバ14の車両幅方向外側部分を構成する長尺板状のフロントサイドメンバアウタ14Bによって閉止されている。すなわち、フロントサイドメンバ14は、フロントサイドメンバインナ14Aとフロントサイドメンバアウタ14Bとによって閉断面構造に構成されている。
図3に示されるように、フロントサイドメンバ14の前端部には、筒状のクラッシュボックス16が車両前方側に連続するように配設されている。なお、左右のクラッシュボックス16の前端部間には、図示しない長尺状のフロントバンパリインフォースメントが掛け渡されるように車両幅方向に沿って配置されている。車両前部10の前端部側で前記フロントバンパリインフォースメントの車両後方側には、車両正面視で略矩形枠状に構成されたラジエータサポート20が配置されている。ラジエータサポート20は、前記フロントバンパリインフォースメントに取付部材を介して取り付けられている。
図1に示されるように、ラジエータサポート20は、ラジエータサポート20の上辺部を構成して車両幅方向に沿って延在する長尺状のラジエータサポートアッパ20Aを備えている。ラジエータサポートアッパ20Aの下方側には、ラジエータサポート20の下辺部を構成して車両幅方向に沿って延在する長尺状のラジエータサポートロア20Bが設けられている。また、ラジエータサポートアッパ20Aの長手方向の両端部とラジエータサポートロア20Bの長手方向の両端部とは、ラジエータサポート20の側辺部を構成する左右一対のラジエータサポートサイド20Cによって車両上下方向に繋がれている。このラジエータサポート20の枠内には、いずれも図示を省略するラジエータ、空調用のコンデンサ、ファンシュラウド、及びファン等が配設されている。
一方、フロントサイドメンバ14には、スライド機構24が片持ち状態で取り付けられている。スライド機構24は、ラジエータサポート20よりも車両後方側に配置されている。図2に示されるように、スライド機構24は、その下部側を構成する固定側構成部24Aと、固定側構成部24Aの上方側に配置されて車両後方側へスライド可能に保持されたスライダーとしての可動側構成部24Bと、を備えている。スライド機構24は、離脱機構としても把握することができる構成要素である。
固定側構成部24Aは、ブラケット26と下トレイ28とを備えている。ブラケット26は、車両側面視で車両下方側に開口した略ハット形状に形成されている。ブラケット26の下端部に形成された前後一対のフランジ部26A、26Bは、被締結用とされ、フロントサイドメンバインナ14Aの上壁部14Uに重ね合わせられて締結されている(図1参照)。具体的には、ブラケット26のフランジ部26A、26Bには、ボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成され、これに対応してフロントサイドメンバインナ14Aの被締結部にも、ボルト挿通孔14X、14Yが貫通形成されている。また、フロントサイドメンバインナ14Aの被締結部の下面でボルト挿通孔14X、14Yの外周部には、ウエルドナット(図示省略)が予め固着されている。このウエルドナットには、ブラケット26のフランジ部26A、26Bの前記ボルト挿通孔及びフロントサイドメンバインナ14Aの被締結部のボルト挿通孔14X、14Yを車両上方側から貫通したボルト30A、30Bの軸部が螺合されている。これにより、ブラケット26がフロントサイドメンバインナ14Aにボルト締結されている。
ブラケット26の頂壁部26Cには下トレイ28の前端部(車両前方側の端部)28Aが載置された状態でスポット溶接(打点を「×」印で示す。)により結合されている。下トレイ28は、車両平面視で車両前後方向を長手方向として配置され、車両正面視で車両下方側に開口した略ハット形状に形成されており、車両幅方向中間部に天壁部28Uを備えると共に、車両幅方向の両側にフランジ部を備えている。下トレイ28の前端部28Aのうちブラケット26の頂壁部26Cへの結合部は、前端部28Aにおける車両幅方向外側の部位を構成するフランジ前端部28A1、及び前端部28Aにおける車両幅方向内側寄りに形成された凹部28A2とされている。
また、下トレイ28の後端傾斜部(車両後方側の端部)28E寄りの部位は、その車両幅方向の両側の部位を構成するフランジ後部28D1、28D2が被締結用とされている。このフランジ後部28D1、28D2は、フロントサイドメンバインナ14Aに取り付けられたマウント32における被締結部32A、32Bに重ね合わせられて締結されている。具体的には、下トレイ28のフランジ後部28D1、28D2には、ボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成され、これに対応してマウント32の被締結部32A、32Bにも、ボルト挿通孔32X、32Yが貫通形成されている。また、マウント32の被締結部32A、32Bの下面でボルト挿通孔32X、32Yの外周部には、ウエルドナット(図示省略)が予め固着されている。このウエルドナットには、下トレイ28のフランジ後部28D1、28D2の前記ボルト挿通孔及びマウント32の被締結部32A、32Bのボルト挿通孔32X、32Yを車両上方側から貫通したボルト30C、30Dの軸部が螺合されている。これにより、下トレイ28がマウント32にボルト締結されている。
以上により、下トレイ28は、ブラケット26及びマウント32を介してフロントサイドメンバインナ14Aに固定(すなわち、フロントサイドメンバ14の側に固定)されている。
また、下トレイ28の前端部28A寄りの部位は、車両後方側へ向けて車両上方側へ若干傾斜した前側傾斜部28Bとされている。下トレイ28の前側傾斜部28Bでかつ天壁部28Uには、可動側構成部24Bを締結するための左右一対のボルト挿通孔28X、28Yが貫通形成されている。下トレイ28の前側傾斜部28Bでかつ天壁部28Uの下面でボルト挿通孔28X、28Yの外周部には、ウエルドナット(図示省略)が予め固着されている。
下トレイ28において前側傾斜部28Bの後端に連続する車両前後方向中間部28Cは、天壁部28Uが車両前後方向に沿って水平に延びている(図3参照)。また、下トレイ28の車両前後方向中間部28Cでかつ天壁部28Uの後端からは、車両後方側へ連続して車両下方側に若干凹んで湾曲した湾曲凹部28D3が形成されている。下トレイ28は、湾曲凹部28D3の後端及びフランジ後部28D1、28D2(図2参照)の後端よりも車両後方側に後端傾斜部28Eを備えている。後端傾斜部28Eは、車両後方側へ向けて車両上方側へ若干傾斜している。下トレイ28の後端傾斜部28Eでかつ天壁部28Uには、可動側構成部24Bを締結するための左右一対のボルト挿通孔28I、28Jが貫通形成されている。下トレイ28の後端傾斜部28Eでかつ天壁部28Uの下面でボルト挿通孔28I、28Jの外周部には、ウエルドナット(図示省略)が予め固着されている。
可動側構成部24Bは、上トレイ34、荷重受け部材40、第一取付部材42、及び第二取付部材44を備えている。上トレイ34は、車両平面視で車両前後方向を長手方向として配置され、車両正面視で車両上方側に開口した略逆ハット形状に形成されており、車両幅方向中間部に底壁部34Sを備えると共に、車両幅方向の両側にフランジ部34F、34Gを備えている。上トレイ34の左右のフランジ部34F、34Gは、略水平に配置されている(図3参照)。
図3に示されるように、上トレイ34の底壁部34Sでかつ前端部34Aには、水平に配置された第一水平部35Aが形成されている。上トレイ34の第一水平部35Aの後端からは車両後方側へ連続して車両上方側に若干凸となるように湾曲した前側湾曲凸部35Bが形成されている。前側湾曲凸部35Bの後端は、前側湾曲凸部35Bの前端よりも車両上下方向の高さ位置が低く設定されている。前側湾曲凸部35Bの後端からは、車両後方側へ向けて車両上方側へ若干傾斜した前側傾斜部35Cが連続して形成されている。上トレイ34の前側傾斜部35Cは、下トレイ28の前側傾斜部28Bでかつ天壁部28Uの後部(車両後方側の部位)の上に重ね合わせられている。
前側傾斜部35Cの後端からは、車両後方側へ向けて略水平に配置された第二水平部35Dが連続して形成されている。第二水平部35Dの後端からは車両後方側に連続して車両上方側に若干凸となるように湾曲した後側湾曲凸部35Eが形成されている。上トレイ34の後側湾曲凸部35Eは、下トレイ28の湾曲凹部28D3の上方側に配置されている。後側湾曲凸部35Eの後端からは車両後方側へ向けて車両上方側へ若干傾斜した後端傾斜部35Fが連続して形成されている。上トレイ34の後端傾斜部35Fは、下トレイ28の後端傾斜部28Eでかつ天壁部28Uの上に重ね合わせられている。
図2に示されるように、上トレイ34には、前側湾曲凸部35Bから前側傾斜部35Cの前部(車両前方側の部位)にかけて左右一対の貫通孔36X、36Yが貫通形成されている。上トレイ34の概略平面図を含む図5(A)に示されるように、貫通孔36X、36Yの後部(車両後方側の部位)は、上トレイ34を下トレイ28に締結するためのボルト挿通部36X1、36Y1とされている。このボルト挿通部36X1、36Y1は、下トレイ28のボルト挿通孔28X、28Y(図2参照)に対応する位置に設定され、車両前方側に開口するC字状の切欠部とされている。そして、上トレイ34のボルト挿通部36X1、36Y1を車両上方側から貫通したボルト38A、38Bの軸部が下トレイ28のボルト挿通孔28X、28Y(図2参照)をも貫通して下トレイ28の下面側でウエルドナット(図示省略)に螺合されている。これにより、図2に示される上トレイ34の前側傾斜部35Cの前部が下トレイ28の前側傾斜部28Bでかつ天壁部28Uの後部にボルト締結されている。
図5(A)に示されるように、貫通孔36X、36Yの前部(車両前方側の部位)は、ボルト挿通部36X1、36Y1の直径よりも車両幅方向の寸法及び車両前後方向の寸法が長く設定された前孔部36X2、36Y2とされている。前孔部36X2、36Y2には、上トレイ34が下トレイ28に対して車両後方側に相対移動した場合にボルト38A、38Bが入り込むようになっている(図5(B)参照)。
また、図2に示されるように、上トレイ34には、後側湾曲凸部35Eから後端傾斜部35Fの車両前後方向中間部にかけて貫通孔36Zが貫通形成されている。図5(A)に示されるように、貫通孔36Zの後部(車両後方側の部位)には、上トレイ34を下トレイ28に締結するための左右一対のボルト挿通部36Z2、36Z3が形成されている。ボルト挿通部36Z2、36Z3は、下トレイ28のボルト挿通孔28I、28J(図2参照)に対応する位置に設定され、車両前方側に開口するC字状の切欠部とされている。そして、上トレイ34のボルト挿通部36Z2、36Z3を車両上方側から貫通したボルト38C、38Dの軸部が下トレイ28のボルト挿通孔28I、28J(図2参照)をも貫通して下トレイ28の下面側でウエルドナット(図示省略)に螺合されている。これにより、図2に示される上トレイ34の後端傾斜部35Fの車両前後方向中間部が下トレイ28の後端傾斜部28Eでかつ天壁部28Uの車両前後方向中間部にボルト締結されている。
図5(A)に示されるように、貫通孔36Zの前部(車両前方側の部位)は、左右一対のボルト挿通部36Z2、36Z3の両者に連続して形成された前孔部36Z1とされている。前孔部36Z1は、ボルト挿通部36Z2、36Z3の直径よりも車両幅方向の寸法及び車両前後方向の寸法が長く設定されている。また、上トレイ34の後部に形成された前孔部36Z1の車両前後方向の寸法は、上トレイ34の前部に形成された前孔部36X2、36Y2の車両前後方向の寸法と同等に設定されている。前孔部36Z1には、上トレイ34が下トレイ28に対して車両後方側に相対移動した場合にボルト38C、38Dが入り込むようになっている(図5(B)参照)。
以上により、上トレイ34は、下トレイ28の上に載置されると共に、下トレイ28に対して車両後方側へスライド可能に保持されている。
図2に示されるように、上トレイ34の前端部34Aには、荷重受け部材40が溶接により結合されている。荷重受け部材40は、車両幅方向を長手方向として配置された屈曲板とされ、上トレイ34の前端部34Aの前側端末を車両前方側から覆う前板部40Aと、上トレイ34の前端部34Aの前側端末を車両上方側から覆う上板部40Bと、を備えている。
荷重受け部材40の前板部40Aの前面(車両前方側へ向けられた面)は、可動側構成部24Bの前端面24Mを構成している。図3に示されるように、可動側構成部24Bの前端面24Mに対して下トレイ28の前端面28Mは車両後方側に設定されている。また、下トレイ28の前端部28Aは上トレイ34に対して車両下方側に離間して配置されている。
図2に示されるように、上トレイ34の左右一対のフランジ部34F、34Gにおける車両前後方向中間部の上面には、略車両幅方向を長手方向とする第一取付部材42が結合されている。第一取付部材42は、車両側面視で車両下方側に開口した略ハット形状に形成されており、接合フランジ部42A、42B、42C、42Dが上トレイ34のフランジ部34F、34Gにスポット溶接(打点を「×」印で示す。)により結合されている。
第一取付部材42の長手方向の両端部は、上トレイ34に対して車両幅方向の両側に延出されている。第一取付部材42の天壁部42Uにおける長手方向の両端部には、後述するインバータ50を締結するためのボルト挿通孔42X、42Yが貫通形成されている。第一取付部材42の天壁部42Uにおける長手方向の両端部の下面でボルト挿通孔42X、42Yの外周部には、ウエルドナット43(図中ではボルト挿通孔42Xの外周部のウエルドナットのみを図示)が予め固着されている。
上トレイ34の車両幅方向外側のフランジ部34Fにおける後端部(車両後方側の端部)の上面には、第二取付部材44が結合されて車両幅方向外側に延出されている。第二取付部材44は、車両側面視で車両下方側に開口した略ハット形状に形成されており、前後一対の接合フランジ部44A、44Bが上トレイ34のフランジ部34Fにスポット溶接(打点を「×」印で示す。)により結合されている。
第二取付部材44の天壁部44Uにおける車両幅方向外側の端部には、後述するインバータ50を締結するためのボルト挿通孔44Xが貫通形成されている。第二取付部材44の天壁部44Uにおける車両幅方向外側の端部の下面でボルト挿通孔44Xの外周部には、ウエルドナット45が予め固着されている。
可動側構成部24Bの上にはインバータ50が配置されている。インバータ50は、直流電力を交流電力に変換する装置である。なお、図中ではインバータ50の外観を簡略化して示している。
インバータ50の側部前寄りの部位には、ブラケット52(図中では車両幅方向外側のブラケットのみを図示)が固定されている。ブラケット52は、車両下方側に延出すると共に曲げられてインバータ50から離間する方向に張り出しており、その先端部にはボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成されている。ブラケット52の前記ボルト挿通孔を車両上方側から貫通したボルト56A(図中では車両幅方向外側のボルトのみを図示)が第一取付部材42のボルト挿通孔42X、42Yをも貫通して第一取付部材42の下面側でウエルドナット43(図中では一方側のみ図示)に螺合されている。これにより、インバータ50に固定されたブラケット52が可動側構成部24Bの第一取付部材42にボルト締結されている。
また、インバータ50における車両幅方向外側の側部後端には、ブラケット54が固定されている。このブラケット54は、車両下方側に延出されると共にインバータ50における車両幅方向外側の側部の車両前後方向中央部の側方付近まで延出されている。ブラケット54の先端部にはボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成されている。ブラケット54の前記ボルト挿通孔を車両上方側から貫通したボルト56Bが第二取付部材44のボルト挿通孔44Xをも貫通して第二取付部材44の下面側でウエルドナット45に螺合されている。これにより、インバータ50に固定されたブラケット54が可動側構成部24Bの第二取付部材44にボルト締結されている。
これらにより、可動側構成部24Bの上にインバータ50が固定されている。図3に示されるように、インバータ50の前面部50Mは、可動側構成部24Bの前端面24Mよりも車両後方側に配置されている。また、インバータ50の前端上面部50Aの高さ位置は、ラジエータサポート20の上面部20Uの高さ位置よりも車両上方側に設定されている。さらに、車両側面視でインバータ50の前端上面部50Aからラジエータサポート20の上面部20Uまでの第一距離L1とインバータ50の前端上面部50Aから可動側構成部24Bの前端面24Mまでの第二距離L2とは同等に設定されている。
図1に示されるように、ラジエータサポート20の上面部20Uとインバータ50の前端上面部50Aとは、連結部材としての振れ止めブラケット60によって連結されている。振れ止めブラケット60は、高強度のパイプ材で形成され、ラジエータサポート20の上面部20Uに固定される前端部60Aとインバータ50の前端上面部50Aに固定される後端部60Cとの間の中間部60Bが円筒状に形成されている。この振れ止めブラケット60の中間部60Bは、剛体として把握することができる部位である。振れ止めブラケット60の前端部60A及び後端部60Cは、いずれも扁平に潰されて形成されている。振れ止めブラケット60において扁平に潰される範囲は、インバータ50の上方側に配置される部位及びラジエータサポート20の上方側に配置される部位と概ね一致している。
扁平状の前端部60Aと円筒状の中間部60Bとの間(境界部)は、振れ止めブラケット60の長手方向に直交する断面の形状が変化する断面変化部60Xとされている。また、扁平状の後端部60Cと円筒状の中間部60Bとの間(境界部)は、振れ止めブラケット60の長手方向に直交する断面の形状が変化する断面変化部60Yとされている。断面変化部60X、60Yは、振れ止めブラケット60に作用する車両前方側から荷重に対して、扁平状の前端部60A、円筒状の中間部60B、及び扁平状の後端部60Cに比べて剛性が低い。換言すれば、断面変化部60X、60Yは、振れ止めブラケット60に対して車両前方側から荷重が入力された場合に曲げ変形の起点となる弱化部とされている。
振れ止めブラケット60の前端部60Aは、ラジエータサポートアッパ20Aの上面部20Uに重ね合わせられている。図2に示される振れ止めブラケット60の前端部60Aには、ボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成されている。また、振れ止めブラケット60の前端部60Aの前記ボルト挿通孔に対応してラジエータサポートアッパ20Aの上壁部20A1には、ボルト挿通孔20Xが貫通形成されている。さらに、ラジエータサポートアッパ20Aの上壁部20A1の下面には、ボルト挿通孔20Xの外周部にウエルドナット(図示省略)が予め固着されている。このウエルドナットには、振れ止めブラケット60の前端部60Aの前記ボルト挿通孔及びラジエータサポートアッパ20Aの上壁部20A1のボルト挿通孔20Xを車両上方側から貫通したボルト62の軸部が螺合されている。これにより、振れ止めブラケット60の前端部60Aがラジエータサポート20の上面部20Uに固定されている。
振れ止めブラケット60の後端部60Cは、座板64の上に重ね合わせられている。また、振れ止めブラケット60の後端部60Cには、ボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成されている。また、この振れ止めブラケット60の前記ボルト挿通孔に対応して、座板64に第一ボルト挿通孔64Xが貫通形成されると共に、インバータ50の前端上部に第一雌ネジ部50Xが形成されている。インバータ50の第一雌ネジ部50Xには、振れ止めブラケット60の後端部60Cの前記ボルト挿通孔及び座板64の第一ボルト挿通孔64Xを車両上方側から貫通したボルト66Aの軸部が螺合されている。これにより、振れ止めブラケット60の後端部60Cがインバータ50の前端上面部50Aに固定されている。
また、座板64には、振れ止めブラケット60の後端部60Cの車両後方側に配置される部位に第二ボルト挿通孔(図示省略)が貫通形成されている。座板64の前記第二ボルト挿通孔に対応して、インバータ50の前端上部には第二雌ネジ部50Yが形成されている。インバータ50の第二雌ネジ部50Yには、座板64の前記第二ボルト挿通孔を車両上方側から貫通したボルト66Bの軸部が螺合されている。
振れ止めブラケット60は、ラジエータサポート20の上部が図3に示される車両前方側からの荷重Fを受けた場合に車両側面視でインバータ50の前端上面部50Aへの取付側に設定された断面変化部60Yを回転中心として回転移動可能とされている(矢印R方向参照)。
(実施形態の作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
図3に示されるように、フロントサイドメンバ14に取り付けられたスライド機構24は、ラジエータサポート20よりも車両後方側に配置されており、可動側構成部24Bが車両後方側へスライド可能に保持されている。また、可動側構成部24Bの上にはインバータ50が固定され、インバータ50の前面部50Mは、可動側構成部24Bの前端面24Mよりも車両後方側に配置されている。このため、可動側構成部24Bの前端面24Mが車両前方側から所定値以上の荷重を受けた場合には、インバータ50の前面部50Mに直接荷重が作用しなくても、インバータ50は可動側構成部24Bと共に車両後方側にスライドする。
一方、ラジエータサポート20の上面部20Uとインバータ50の前端上面部50Aとは振れ止めブラケット60によって連結されている。振れ止めブラケット60は、ラジエータサポート20の上部が車両前方側からの荷重Fを受けた場合に車両側面視でインバータ50の前端上面部50Aへの取付側(断面変化部60Y)を回転中心として回転移動可能となっている。また、インバータ50は、前端上面部50Aの高さ位置がラジエータサポート20の上面部20Uの高さ位置よりも車両上方側に設定されている。ところで、例えば、自車両がトラックの後側に前突する場合のように、衝突体(バリア)70の高さ位置がバンパリインフォース(図示省略)よりも高い場合の前突では、ラジエータサポート20の上部が車両前方側からの荷重Fを受ける場合がある。そして、前突時にラジエータサポート20の上部が車両前方側からの荷重Fを受けると、振れ止めブラケット60は、インバータ50の前端上面部50Aへの取付側(断面変化部60Y)を回転中心として後下方側に回転移動することで、ラジエータサポート20の上部を後下方側に押し下げる。よって、振れ止めブラケット60により衝突時の荷重及びラジエータサポート20の変形モードがコントロール(制御)される。
また、インバータ50は、車両側面視で前端上面部50Aからラジエータサポート20の上面部20Uまでの第一距離L1と前端上面部50Aから可動側構成部24Bの前端面24Mまでの第二距離L2とが同等に設定されている。よって、図4(A)に示されるように、振れ止めブラケット60がインバータ50の前端上面部50Aへの取付側(断面変化部60Y)を回転中心として後下方側に回転移動すると、ラジエータサポート20の上部が可動側構成部24Bの前端面24Mに当って可動側構成部24Bの前端面24Mを車両後方側に押圧する。
このため、可動側構成部24Bは車両後方側へ移動しようとする。これにより、図5(B)に示されるように、ボルト38A、38B、38C、38Dが上トレイ34のボルト挿通部36X1、36Y1、36Z2、36Z3から外れ、可動側構成部24Bが固定側構成部24Aに対して車両後方側へスライドする。そして、図4(B)に示されるように、インバータ50は可動側構成部24Bと共に車両後方側にスライドする。なお、図4(B)は、一例として、図5(B)に示される上トレイ34の前孔部36X2、36Y2の前端がボルト38A、38Bよりも車両後方側まで変位し、前孔部36Z1の前端がボルト38C、38Dよりも車両後方側まで変位した状態を示す。
以上のように、図4(B)に示されるインバータ50は、前突時に前面部50Mが直接押圧されなくても、可動側構成部24Bと共に車両後方側にスライドする。換言すれば、前突時の衝突形態にばらつきがあっても、ラジエータサポート20及びその枠内の配置物がインバータ50の外壁へ直接衝突することを回避しながら、インバータ50を退避させることができる。このように、本実施形態では、前突時におけるインバータ50の離脱性能のロバスト性が向上している。
また、図3に示されるように、振れ止めブラケット60は、パイプ材で形成され、前端部60A及び後端部60Cが扁平に潰されて形成されると共に中間部60Bが円筒状に形成されている。このため、扁平状の前端部60Aと円筒状の中間部60Bとの境界部及び扁平状の後端部60Cと円筒状の中間部60Bとの境界部が断面変化部60X、60Yとなる。よって、前突時にラジエータサポート20の上部が車両前方側からの荷重Fを受けた場合、振れ止めブラケット60は、弱化部である断面変化部60X、60Yを曲げ起点として曲げ変形しながら、中間部60Bが円筒形状を維持して後下方側に回転移動する。このため、簡易な構成でありながら前突時に可動側構成部24Bの前端面24Mが車両後方側に押圧される。
また、本実施形態では、スライド機構24が下トレイ28と上トレイ34とを備えており、上トレイ34は、可動側構成部24Bの一部を構成して下トレイ28の上に載置されると共に下トレイ28に対して車両後方側へスライド可能に保持されている。このため、下トレイ(28)を設けない対比構造、すなわち、下トレイ(28)を介さずにインバータ(50)及び可動側構成部(24B)をフロントサイドメンバ(14)の側へ支持させる構造に比べて、インバータ50及び可動側構成部24Bの支持強度が増す。そして、本実施形態の場合、前突時に上トレイ34が下トレイ28の上を安定的にスライドすることができる。
また、本実施形態では、上トレイ34を備えた可動側構成部24Bの前端面24Mに対して下トレイ28の前端面28Mが車両後方側に設定されると共に、下トレイ28の前端部28Aが上トレイ34に対して車両下方側に離間して配置されている。従って、前突時にラジエータサポート20の上部が可動側構成部24Bの前端面24Mに当った場合に仮にラジエータサポート20の上部の一部が可動側構成部24Bの前端面24Mの直下近傍に位置していても当該部位は下トレイ28の前端面28Mには当らない。このため、前突時に可動側構成部24B及びインバータ50は、下トレイ28に対して安定的に相対移動する。
以上説明したように、本実施形態に係る車両前部構造によれば、前突時にインバータ50の破損を防止又は抑制させることができる。
(実施形態の補足説明)
なお、上記実施形態では、電力制御機器がインバータ50とされているが、電力制御機器は、インバータ以外の電力制御機器でもよい。
また、上記実施形態の変形例として、連結部材は、例えば、後端部が電力制御機器の前端上面部に対して車両幅方向の軸回りに回転移動可能に取り付けられた剛体の連結シャフト等のような他の連結部材であってもよい。また、連結部材が前記連結シャフトの場合、その前端部がラジエータサポートの上面部に対して車両幅方向の軸回りに回転移動可能に取り付けられてもよい。
また、上記実施形態の変形例として、下トレイは、フロントサイドメンバに直接固定されるものであってもよい。また、他の変形例として、スライド機構は、例えば、下トレイに代えて車両平面視で車両前後方向に延びるガイドレールを備えたスライド機構等のような他のスライド機構であってもよい。
また、上記実施形態の変形例として、上トレイは、例えば、スライダーの全部を構成して下トレイの上に載置されると共に、下トレイに対して車両後方側へスライド可能に保持されてもよい。
また、上記実施形態の変形例として、上トレイを備えたスライダーの前端面に対して下トレイの前端面が車両後方側に設定されないような構成も採り得る。また、下トレイの前端部が上トレイに対して車両下方側に接して配置されるような構成も採り得る。
また、上記実施形態の変形例として、荷重受け部材(40)は、前板部(40A)の上端と上板部(40B)の前端とが傾斜連結部によって連結され、前記傾斜連結部が車両上方側へ向けて車両後方側に傾斜するような構成でもよい。この場合、一例として、前記傾斜連結部の傾斜方向の長さは、前板部(40A)の車両上下方向の長さ及び上板部(40B)の車両前後方向の長さに比べて極めて短く設定される構成を採り得る。
なお、上記実施形態及び上述の複数の変形例は、適宜組み合わされて実施可能である。
以上、本発明の一例について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。