JP5895963B2 - 石炭間の接着性の評価方法、コークス強度の推定方法、コークス製造用石炭の配合方法、コークス製造用石炭の選定方法、及びコークスの製造方法 - Google Patents

石炭間の接着性の評価方法、コークス強度の推定方法、コークス製造用石炭の配合方法、コークス製造用石炭の選定方法、及びコークスの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、2種の石炭を含む配合炭を乾留してコークスを製造する際に、強度の高いコークスを得るために、石炭間の接着性を評価する方法に関する。
高炉において溶銑を製造する際の高炉原料として用いられるコークスは、高強度のものが望ましいと広く知られている。コークスの強度が低いと高炉内で粉化し、高炉の通気性が阻害され、安定的な溶銑の生産が行えなくなるためである。
室炉式コークス炉において石炭を乾留して製鉄用コークスを製造する場合には、生成されるコークスの強度は、原料石炭の選択方法、事前処理方法、乾留条件、消火条件、事後処理条件などの影響を受ける。その中で、設備や操業条件に係わる条件は設備的制約のため大きく変更することが難しい。このため、原料石炭の選択はコークス品質を制御するための最も重要な要素と認識されている。
望ましい強度のコークスを得るための原料配合方法としては、非特許文献1に述べられている方法を始めとして種々の方法が知られており、いずれも、配合する原料の性状に基づいて製造されるコークスの強度を予測することで好ましい配合を決定する方法が取られている。
しかしながら、前述のような公知の方法では、時にコークス強度を良好に予測できない場合があることが知られている。その場合の理由として、「石炭の相性」と呼ばれている現象が生じていると考えられる。非特許文献2に示すように、配合する前の単一銘柄の石炭のみから得られるコークス強度と、それぞれの特性が異なる複数の銘柄を含む配合炭から得られるコークスの強度との間に加成性が成立しない場合があることが知られている。「石炭の相性」は、コークスの強度についての加成値と実測値の差により表すことができ、加成値よりも実測値が大きい場合には「相性が良い」、加成値よりも実測値が小さい場合には「相性が悪い」と言われる。そのような「相性」効果が発生する原因を探るため、種々の検討が行なわれている。しかしながら、「石炭の相性」を評価し、相性の良い石炭の組み合わせを明確化するための技術は確立されていない。
上記の石炭の相性は、異種石炭の接着強度の差異により生じると考えられており、これまで、異種石炭界面の接着強度を評価するための様々な手法が検討されてきた。例えば、様々な組み合わせの異種石炭間の界面接着状態を観察し、相溶接着、単純接着、破断接合、空隙接合の4つの接着状態に区分し、これらの状態が生じる要因を、各石炭の粘結性と、溶融から固化後に生じる収縮により発生したミクロ亀裂とによると考え、粘結性指数であるギーセラープラストメータの最高流動度および固化温度により接着性を評価した方法がある(非特許文献3、4参照)。
宮津、奥山、鈴木、福山、森、日本鋼管技報、第67巻、1ページ、(1975年) 坂本、井川、CAMP−ISIJ、第11巻、689ページ(1998年) 荒牧寿弘ら:燃料協会誌,Vol.69(1990),p355 荒牧寿弘ら:燃料協会誌,Vol.70(1991),p525
上述のように石炭の相性については不明な点が多く、互いに接する2種の石炭を乾留した際の接着強度を評価することや、生成されるコークスの強度を予測することは困難であった。例えば非特許文献2の方法では、実際に配合試験を行って強度を定める必要があるため、簡便ではない。また、非特許文献3、4に記載されている方法は、ギーセラープラストメータの最高流動度および固化温度と接着状態を結びつけているものの、こうした物性値と接着強度の関係は明確ではなく強度推定モデルを用いた評価にとどまっている。
接着強度を評価する技術の上記の現状に鑑み、コークス製造における石炭間の相性を評価し、相性を考慮して石炭を配合して望ましい強度のコークスを製造するために、2種の石炭を乾留した際の接着強度を、ラマン分光スペクトルから得られる特性値に基づいて評価する技術を提供することが本発明の目的である。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
互いに接する2種の石炭を乾留した際の前記石炭間の接着性を評価する方法であって、前記2種の石炭のラマン分光測定を行い、又は、該2種の石炭を熱処理して得られる2種のセミコークスのラマン分光測定を行い、前記ラマン分光測定により得られる2つのスペクトルの各々におけるGバンドピークの強度に対するDバンドピークの強度比であるR値を2つ算出し、算出された2つのR値の差に基づいて前記接着性を評価することを特徴とする石炭間の接着性の評価方法。
本発明によれば、互いに接触する石炭の、または、その石炭の熱処理物のラマン分光スペクトルから得られる特性値に基づいて、コークス製造用石炭の異種界面の接着性についての良し悪しを評価することが可能となる。この評価に基づいて、コークス製造用原料として用いられる、相性の良い石炭の組み合わせを選択することが可能となる。この評価に基づき石炭を選択して、強度の高いコークスを製造することが可能となる。
本発明によって、従来の方法では不可能であった石炭間の接着性(石炭の相性の良し悪し)の評価が可能になる。このことで、購買や販売における石炭の効果的な選定が可能になる。例えば、石炭の購入にあたり、既に使用している銘柄の石炭Aと相性がよく、石炭Aと配合して、高強度のコークスの原料になると予想される石炭Bを意図的に選んで購入することが可能となり、また、石炭を供給する場合においても、その供給者自身が供給しようとする石炭Aと相性の良い石炭Bを意図的に特定し、それらの石炭Aと石炭Bとを組み合わせて供給するということも可能となる。
ラマン分光測定により得られた石炭のスペクトルのグラフである。 ラマン分光測定から得られるピーク強度比Rの差と接着強度の関係を示すグラフである。
まず、本発明における、2種の石炭を乾留した際のこれらの石炭間の接着性は、次の手順で評価できることを知見した。なお、本発明は、この2種の石炭が配合炭に含まれ、この配合炭を乾留してコークスを得ることを前提としている。
手順1.2種の石炭のラマン分光測定を行う。
手順2.この測定により得られる2つのスペクトルにおけるGバンドピークの強度に対するDバンドピークの強度比であるR値を2つ算出する(2種の石炭に関する2つのR値)。
手順3.算出された2つのR値の差に基づいて前記接着性を評価する。
また、本発明者らは、2種の石炭をラマン分光測定の対象とする代わりに、その2種の石炭を熱処理して得られた2種の熱処理物(以下、適宜「セミコークス」と呼ぶ)についてラマン分光測定を行ってもよいことを知見した。すなわち、本発明者らは、2種のセミコークスについてラマン分光測定を行い、この測定により得られたスペクトルのGバンドピークの強度に対するDバンドピークの強度比であるR値を2つ算出し、次いで、算出された2つのR値の差に基づいて、乾留した際の石炭間の接着性の良し悪しを評価することが可能であることも知見した。
次に、本発明に関する上記の手順及び知見を詳細に説明する。一般に、極性溶媒は極性物質をよく溶解し、無極性溶媒は無極性物質をよく溶解することが知られている。固体物質においても同様に、化学的特性の異なる2種の物質が接着した場合、その特性(例えば表面張力)が近似しているほど接着の強度は高くなる。石炭がコークス化する過程では、加熱により石炭が一旦溶融して再固化し、コークスが生成される。その過程において、異なる石炭同士が接着し、強固なコークス構造が形成される。従来、これらの接着構造は石炭同士の融着によって形成されるものと考えられており、石炭の溶融性(例えばギーセラー最高流動度MF)が重要な役割を担っていると考えられてきた。この考えに対し、本発明者らは、異種の石炭が接着する現象自体に着目し、この接着の強さもコークスの強度に何らかの影響を及ぼしているのではないかと考え、接着現象を検討し、炭素材料の特性を反映するラマン分光スペクトルから得られる特性値とコークス強度の関係を実験的に確認した。
上記の接着現象を検討する場合には、実際に、石炭が軟化溶融を開始し、石炭が接着、固化してコークス化が完了するまでの温度(350〜800℃)における溶融物についてラマン測定を行い、上述の特性値を利用することが望ましいと考えられる。なぜならば、石炭間の接着強度は、軟化溶融を開始してコークス化するまでの石炭の特性の影響を受けていると考えられるため、この温度域での接着強度を発現する石炭のスペクトルを測定することが好ましいと推察されるからである。
ところが、こうした高温状態を維持したまま直接ラマン測定を行い、正確な特性値を算出することは困難である。そこで、本発明者らは種々の代替法を検討した結果、一旦熱処理した石炭を常温に冷却した後のラマン分光測定により得られる特性値、好ましくは急冷却した後に得られる石炭の熱処理物(セミコークス)についてその特性値を用いることで石炭間の接着強度をよく表すことができ、これらの接着現象がコークスの強度にも影響を及ぼすことを見出した。また、セミコークスについての前述の特性値について鋭意検討した結果、このセミコークスについての特性値は、その原料となる石炭についてのラマン分光測定により得られる特性値で表されることも見出した。セミコークスについてラマン分光測定により得られるスペクトルは、その石炭のスペクトルと一定の関係があるからである。
[石炭間の接着性を評価する手順1.ラマン分光測定]
ラマン分光測定について具体的に説明する。まず、いくつかの種類(それは銘柄毎であることが多い)の石炭について、または、その石炭を熱処理して得られるセミコークスについて、その石炭毎にそれぞれ、ラマン分光測定法によるスペクトル測定を行う。
セミコークスについてラマン分光測定を行う場合には、熱処理温度を、その原料となる石炭が軟化溶融する温度域に設定することが好ましい。軟化溶融する温度域は、具体的には350〜800℃の温度域とすることが適当である。特に接着に寄与している温度は軟化溶融時の温度、すなわち350〜500℃である。全ての種類の石炭が軟化溶融をしているといえる温度は500℃であるため、加熱する温度としては特に500℃近傍であり、480〜520℃とすることが好ましい。加熱温度が350℃未満の場合は、測定対象の石炭に水分や低分子量成分が多く残存する場合があるため、スペクトル測定の結果から算出するR値が正確に測れない場合がある。また、加熱温度が800℃を超えると、ラマン分光測定において、ノイズの発生が大きくなり、S/N比が悪くなり、算出したR値の信頼性が低下する場合がある。このような熱処理をした後に、通常、急冷して、セミコークスを得る。
すなわち、セミコークスを作製する方法については、例えば、次のように行う。
1.石炭を粒径200μm以下に粉砕し、粉砕した石炭を不活性ガス雰囲気下、3℃/minで500℃まで加熱する(乾留操作)。
2.不活性雰囲気で冷却後、150μm以下に粉砕する(冷却操作)。
3.粉砕した石炭を乾燥された不活性ガス気流中120℃で2時間乾燥する(乾燥操作)。
これらの1.〜3.の操作を経て、石炭を熱処理してセミコークスを得る。このような操作を行う理由を以下に説明する。
石炭の粉砕粒度は、組織、性状などが不均一である石炭から均質な試料を作製するという観点から、JIS M8812に記載されている石炭の工業分析における粉砕粒度、250μm以下が望ましく、さらに細かい200μm以下に粉砕することが特に望ましい。加熱速度は、コークス炉においてコークスが製造されるときの加熱速度が約3℃/minであるため3℃/minとしている。加熱速度は、接着性の評価対象となるコークスの製造時の加熱速度に応じて変化させることが最も好適である。
不活性雰囲気下で冷却する理由は、ラマン分光測定から得られるスペクトルのピーク強度比(R値)の測定誤差を減少させるためである。加熱直後の石炭は高温であり、含酸素雰囲気で冷却した場合、部分的に酸化して構造変化を起こし、ラマンピークから得られるピーク強度の測定値に誤差が生じるからである。不活性雰囲気としては、アルゴンガス等の希ガスまたは窒素ガスを用いた雰囲気が使用可能であるが、通常は窒素ガスを用いる。乾燥操作における方法は、表面に付着した水分を除去できる方法ならばよく、不活性ガス気流中120℃で2時間乾燥する方法の他に、真空乾燥してもよいし、加熱する温度は100〜200℃でもよい。なお、乾燥した不活性ガスは、ガスを、シリカゲルなどの乾燥剤の充填層を通過させることで得られる。
石炭についてラマン分光測定を行う場合には、上記操作のうち、1.乾留操作(500℃までの加熱)を行わず、2.冷却操作のうちの試料粉砕及び3.乾燥操作を行った石炭をラマン分光測定の試料とする。
石炭またはセミコークスのラマンスペクトルは、一般に市販されている分光器により測定することができる。光源は特に指定するものではなく、一般に使用されているものであればよい。光源にレーザーを使用する場合のレーザーの種類は特に限定されるものではなく、Arレーザー、He−Neレーザーなどを用いることができる。
ラマン分光測定は1点あたり1分程度の時間で測定が終了することから、10点測定してその平均値を用いることとしてもその測定時間は10分ほどで完了する。そのため、ラマン分光測定は非常に迅速な測定方法であると言える。
また、強粘結炭、非微粘結炭、無煙炭など、炭種を問わず、あらゆる石炭のラマン分光を測定できる。さらには、ピッチ、オイルコークス、粉コークス、ダスト、廃プラスチック、その他バイオマスなどの添加材も同様に測定可能である。
[石炭間の接着性を評価する手順2.R値の算出]
個々の銘柄の石炭、または、その石炭から得られるセミコークスのうちから、2つの銘柄の石炭またはセミコークスを選択する。図1は、ラマン分光測定により得られた石炭のスペクトルについてのグラフの一例である。図1に示すような、波数1600cm−1付近に位置するGバンドピークと、1400cm−1付近に位置するDバンドピークを得る。次いで、Gバンドピークの強度[a.u.]に対するDバンドピークの強度の比の値であるR値を2つ求める(2つの銘柄の石炭またはセミコークスに関するR値)。
Gバンドピークは、炭素の二重結合であるsp2結合に起因し、石炭のグラファイト構造に由来する石炭分子中の芳香族縮合環の骨格構造の性質を表している。また、Dバンドピークは、本来、石炭の無秩序な構造に由来するが、やはり石炭分子の構造についての情報を示すことが知られている。Gバンドピークの強度に対するDバンドピークの強度比Rは炭素材料の構造、性質と密接な相関があり、例えば、R値が大きい石炭及びコークスほど芳香族縮合環の拡がりが少なくなることなどが知られている。このようにピーク強度比Rの値が近いものほどその構造、特性が近似していることを示しており、ラマンピーク強度比であるR値は、相性の良し悪しを判定する指標、定量的に石炭間の接着性の度合いを示す指標になると考えられる。
図1に示すようなラマンスペクトルに対し、ピークの底線を定めるベースラインによって、バンドピークの形状を規定した後、このピークをスペクトルから抽出し、そのバンドピーク強度を求める。なお、バンドピーク強度の求め方は、例えば、コンピュータなどを用いて、バンドピークの形状を決定した後に、カーブフィッティングなど最小自乗法によるピーク分割によりバンドピークを求める方法であってもよい。
[石炭間の接着性を評価する手順3.2つのR値の差に基づく接着性の評価]
上述の方法によって求められた2つのR値に基づいて、2種の石炭の相性を判定する場合には、各種類の石炭間におけるまたはセミコークス間における2つのR値の差をとり、その差の値が大きければ相性が悪く、差の値が小さければ相性が良いと評価(判定)する。種々の配合について検討した結果、R値の差が0.06以上となると、生成されるコークスの強度が著しく低下することが認められたことから、その2種の石炭間の接着性についての相性の良し悪しを判定する閾値としては上記値を用いることが可能である。
2つのセミコークスのR値としては、同じ熱処理温度で熱処理して得られたセミコークスのラマン分光スペクトルから得られる値を比較することが最も好ましいが、ある温度域で熱処理して得られたセミコークスのR値の平均値を比較に用いることもできる。また、石炭毎に、軟化溶融特性温度(例えば、最高流動温度や、軟化開始温度、再固化温度)で熱処理して得られるセミコークスについてのラマンピーク強度比Rを比較することもできる。
本発明では、コークス原料用の大部分を占める石炭についての適用を示したが、それ以外の配合原料、たとえばオイルコークス類、ピッチ類、その他有機物類に対する適用も原理的に可能である。
このようにして、石炭間の相性が定量的に評価できると、好ましい石炭銘柄を選択することが可能となり、そのようにして選択された石炭からなる配合炭を乾留することで、相性を考慮しないで配合して得られる配合炭からコークスを作製する場合よりも、高強度のコークスを製造することができる。上記のようにラマンピーク強度比Rを用いることにより接着性の相性が判断できるので、例えば従来用いられている強度の予測式にラマンピーク強度比Rを含む修正項を付加することによって強度の予測精度を向上することも可能である。
更には、上述の評価により、例えば、石炭の購入にあたり、他に使用している銘柄と相性がよく、コークスを製造した場合に高強度のコークスが製造できると予想されるような石炭銘柄を選んで購入することが可能となる。また、石炭を販売する場合には、その石炭と相性のよい銘柄を常用している購入先に販売することで、その工場において高強度のコークスを製造可能とさせることができる。また、石炭を使用する場合においては、なるべく相性のよい(R値の差の小さい)2種の石炭を組み合わせて使用することによって高強度のコークスを製造できる。
このように、ラマン分光測定から得られる特性値に基づいて、従来の方法では不可能であった石炭の物性にもとづく石炭間の接着強度の評価が可能になったことで、販売、購買、使用における石炭の効果的な選定が可能になる。
様々な石炭(種類・銘柄)から得られるセミコークスについてラマン分光測定行い、そのセミコークスについてのR値を算出した。それらの石炭のうちから2種の石炭からなる配合炭を作製し、その配合炭を乾留してコークスを作製した。そのコークスの強度を測定し、2種の石炭から得られるセミコークスのR値の差とコークスの強度との関係を確認した。用いた石炭を表1に示す。
Figure 0005895963
表1の石炭を用意し、まずこれらの石炭に対して性状試験を実施し、従来の石炭性状パラメータであるビトリニット平均最大反射率(Ro、JIS M 8816準拠)、ギーセラープラストメータの最高流動度(logMF、JIS M 8801準拠)、そして、それらの石炭から得られるセミコークスのラマン分光測定により得られるスペクトルのピーク強度比であるR値を求めた。
ラマン分光測定には、石炭を粒径200μm以下に粉砕し、3℃/minで500℃まで加熱し、窒素雰囲気下で急冷後、150μm以下に粉砕し、乾燥窒素気流中120℃で2時間乾燥して得られたセミコークスを測定の試料に用いた。ラマン分光測定にはThermo Electron社製 NICOLET ALMEGAXR(レーザー波長532nm、レーザー出力:1%、露光時間:20秒、露光回数:2回、レーザー径:10μm程度)を用いた。データの代表性、正確さを得るために測定は同一試料内でランダムに36ポイント測定した。このときの測定時間は約26分であった。測定した36ポイントについて、それぞれ得られたラマンスペクトルをピーク分離した後、Gバンドピークの強度に対するDバンドピークの強度の比を求め、それらの平均をR値とした。表1に、各石炭のビトリニット平均最大反射率Ro[%]とギーセラー最高流動度の常用対数値logMF[log ddpm]と、各石炭から得られたセミコークスのR値[−]とを示す。
2種の石炭間における接着強度の測定は次のように行なった。2種の石炭の組み合わせを表2に示す。
Figure 0005895963
1.表2に示すように2種類の石炭を質量比1:1の割合でよく混合し、石炭を70μm以下に粉砕した。
2.成形物の寸法が直径6.6mm、厚さ2.5mmとなるよう石炭量を調整し、直径6.6mmの孔を持つモールドへ、上記1.で得られた石炭を装入した。
3.モールドに対して、14MPaの荷重を10秒間付加して成形物を作成した。1種類の配合炭あたり10個の成形物を作製した。
作製した成形物の嵩密度は石炭銘柄により異なっており、それらの値は860から920kg/mの範囲にあった。次に、1mm以下に調整された粉コークスを200mm×200mm×H500mmの鉄製容器に充填し、粉コークス充填層を作製した。そして、成形物を、粉コークス充填層に10個配置し、粉コークスとともに成形物を乾留した。粉コークス充填層内に配置した状態で、石炭の成形物を乾留する理由は、鉄製容器からの直接加熱を避け、熱伝導を可能な限り、コークス炉での乾留条件と等しくなるようにするためである。粉コークスの種類は特に指定するものではないが、実際に製鉄用コークスとして供しているものを用いた。乾留条件は、窒素雰囲気下で、3℃/minで1000℃まで乾留し、乾留後は窒素雰囲気下で冷却し、コークスを得た。圧縮強度の測定は島津製作所製のオートグラフを用いて行った。測定試料の厚さ方向に荷重をかけ、破壊時の荷重を測定した。破壊時の荷重を測定試料の荷重付加面の面積で除した圧力を接着強度[MPa]とした。1水準10個の測定試料の破壊荷重及び荷重付加面の面積を測定し、それぞれの接着強度の平均をその水準の接着強度とした。接着強度の測定結果を表2に示す。この接着強度の試験方法においては、2種の石炭が混合されていることから、試料中にはそれらの石炭の多数の界面が存在する。圧縮強度はその界面における接着強度のみならず、それぞれの単一銘柄の石炭から得られるコークス自体の強度や、単一銘柄の石炭同士の接着強度も反映したものとなるが、石炭を微粉砕して界面を増大させていることおよび、確率的に石炭粒子の接触点の1/2が異種石炭間の界面となることから、界面の接着性を反映した強度となるものと考えられる。
また、組み合わせた石炭の各々から得られたセミコークスについて、ラマン分光測定で得られたピーク強度比であるR値の差(ΔR)を表2に示し、このR値の差(ΔR)と接着強度との関係を示したものが図2である。図2では、ΔRが小さいほど、強度が高く2種の石炭間の接着性が良好であることが示され、ΔRが大きい組み合わせでは接着性が悪いことが示されている。
以上のようにして、2種の石炭を熱処理して得られる2種のセミコークス間におけるR値の差と、その2種の石炭からなる配合炭から得られるコークスの強度とに相関関係があることが確認され、これらのR値の差に基づいて、2種の石炭の接着性を評価可能であることが確認された。
次に、RoとlogMFが同じ石炭(複数の銘柄の石炭を混合した配合炭を用い、本実施例では、以降「混合炭」と称する)に対して、他の石炭を混合して新たな配合炭としたときにその新たな配合炭から得られるコークスの強度に与えるR値の差(ΔR)の影響を調査した。
実施例1に記載の方法で測定したRoが0.71〜1.62[%]、logMFが0.95〜4.43[log ddpm]の範囲にあり、実施例1に記載の方法で測定したR値が0.485〜0.603になるセミコークスが得られる5〜8種類の石炭を混合して、RoとlogMFが等しくかつセミコークスのR値が異なる3種類の混合炭A、B、Cを調製した。混合炭A、B、CのRo、logMF、および、それぞれのセミコークスのR値を表3に示す。混合炭とは異なる石炭Jを用意した。石炭Jについても、Ro、logMF、および、石炭Jから得られるセミコークスのR値を、混合炭A、B、Cと同様に表3に示してある。
Figure 0005895963
表3における混合炭のRoおよびlogMFは、混合炭を構成する単一銘柄の石炭のRoとlogMFを、その石炭の各々の配合率を重みにして加重平均した値である。R値は実施例1に記載の方法により、それぞれの混合炭から得られるセミコークスについて実測した値である。
次いで、石炭Jと、混合炭A、混合炭B、混合炭Cのうちから選択される1つを、30%:70%[乾燥基準質量%]で混合して、配合炭a、b、cを調製した。表3には、各配合炭における石炭Jと、混合炭A、混合炭B、混合炭Cと、の配合率を示してある。そして、用いた石炭Jの実施例1に記載の方法で測定したRo、logMF、および、石炭Jから実施例1に記載の方法で作製され測定される、セミコークスのR値を表3に示してある。
調製した配合炭16kgを、粒度3mm以下にし、水分以外が100mass%に対して水分8mass%に調整し、嵩密度750kg/mになるように乾留缶に充填し、電気炉で乾留した。乾留は炉壁温度1100℃で6時間行ない、窒素冷却してコークスを得た。生成したコークスの強度は、JIS K2151の回転強度試験法に基づくドラム強度DI150/15および、ISO18894に基づくCO反応後強度CSRで評価した。これらコークス強度の測定結果も表3に示してある。表3より、配合炭を構成する石炭Jと混合炭のセミコークスのR値の差ΔRが小さいほど、配合炭から得られたコークスの強度が高く、ひいては石炭間の接着性が高くなることがわかる。
実施例1によれば、様々な値となるRo及びlogMFの2種の石炭において、各石炭間の接着強度は、2種の石炭それぞれから得られるセミコークスのR値の差(ΔR)が小さいほど大きいことがわかった。また、実施例2によれば、Ro及びlogMFが同じ混合炭と、混合炭とは別の1種類の石炭Jと、からなる配合炭の強度は、混合炭及び石炭Jそれぞれから得られるセミコークスのR値の差(ΔR)が小さいほど、大きいことがわかった。つまり、Ro及びlogMFをそれぞれ同じとした複数の混合炭の各々と、石炭Jとの接着強度もまた、混合炭と石炭Jそれぞれから得られるセミコークスのR値の差(ΔR)が小さいほど大きくなることがわかる。

Claims (6)

  1. 互いに接する2種の石炭を乾留した際の前記石炭間の接着性を評価する方法であって、
    前記2種の石炭のラマン分光測定を行い、又は、該2種の石炭を熱処理して得られる2種のセミコークスのラマン分光測定を行い、
    前記前記ラマン分光測定により得られる2つのスペクトルの各々におけるGバンドピークの強度に対するDバンドピークの強度比であるR値を2つ算出し、算出された2つのR値の差をとり、
    その差の値が閾値よりも小さければ2種の石炭間の接着性についての相性が良いと評価し、その値の差が閾値以上であれば2種の石炭間の接着性についての相性が悪いと評価することを特徴とする石炭間の接着性の評価方法。
  2. 前記閾値は、0.06であることを特徴とする請求項1に記載の石炭間の接着性の評価方法。
  3. 請求項1又は2に記載の石炭間の接着性の評価方法を用いて、石炭を混合して製造されるコークスの強度を推定することを特徴とする、コークス強度の推定方法。
  4. 請求項3に記載のコークス強度の推定方法を用いてコークスの強度を推定し、接着性についての相性が良いと評価された石炭を配合することを特徴とするコークス製造用石炭の配合方法。
  5. 請求項3に記載のコークス強度の推定方法を用いてコークスの強度を推定し、接着性についての相性が良いと評価されたコークス用石炭を選定することを特徴とするコークス製造用石炭の選定方法。
  6. 請求項4に記載のコークス製造用石炭の配合方法で配合された石炭を乾留してコークスを製造することを特徴とする、コークスの製造方法。
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