1.複合半透膜の概要
複合半透膜は分離膜の一種であり、分離膜とは、分離膜表面に供給される原流体中の成分を分離し、分離膜を透過した透過流体を得ることができる膜である。複合半透膜は、例えば、分離機能層、多孔性支持層、基材を備えることができる。分離機能層としては、孔径制御、耐久性の点で架橋高分子が好ましく使用され、成分の分離性能の点で、多孔性支持層上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなる分離機能層、有機無機ハイブリッド機能層などが好適に用いることができる。
また、セルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルスルホン、またはポリスルホンを主成分として含有する層であって、分離機能と支持体機能との両方を有する層が設けられてもよい。つまり、分離機能と多孔性支持機能とが、単一の層で実現されてもよい。このような層も分離機能層に含まれる。つまり、「分離機能層」とは、少なくとも分離機能を備える層を指す。
なお、本書において、「XがYを主成分として含有する」とは、XにおけるYの含有率が、50重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、又は95重量%以上であることを意味する。また、Yに該当する複数の成分が存在する場合は、それら複数の成分の合計量が、上述の範囲を満たせばよい。
本書において、「供給側の面」とは、複合半透膜の2つの表面のうち、原流体が供給される側の表面を意味する。「透過側の面」とは、その逆側の面を意味する。基材及び分離機能層を備える複合半透膜においては、一般的に、分離機能層側の面が供給側の面であり、基材側の面が透過側の面である。
2.分離機能層
分離機能層の厚みとしては限定されないが、分離性能と透過性能の点で5〜3000nmであることが好ましい。特に逆浸透膜、正浸透膜、ナノろ過膜では5〜300nmであることが好ましい。
分離機能層の厚みは、公知の膜厚測定法に準ずることができ、例えば複合半透膜を樹脂による包埋後に、超薄切片を作製し、染色などの処理を行った後に、透過型電子顕微鏡により観察することで測定することができる。主な測定法としては、分離機能層がひだ構造を有する場合、多孔性支持層より上に位置するひだ構造の断面長さ方向に50nm間隔で測定し、ひだの数を20個測定し、その平均から求めることができる。
<ポリアミド分離機能層>
分離機能層はポリアミドを主成分として含有するポリアミド膜であってもよい。ポリアミド膜は、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有し、そのアミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基であるアミンをいい、例えば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3−アミノベンジルアミン、4−アミノベンジルアミンなどの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族多官能アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4−アミノピペリジン、4−アミノエチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDAと記す)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。2種以上を同時に用いる場合、上記アミン同士を組み合わせてもよく、上記アミンと一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンを組み合わせてもよい。一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとして、例えば、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン等を挙げることができる。
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物としては、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いられても、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合には、公知の方法が適用される。例えば、多孔性支持層に多官能アミン水溶液を塗布し、余分なアミン水溶液をエアーナイフなどで除去する。その後、さらに、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液を塗布することで、ポリアミド分離機能層を形成させる。多官能酸ハロゲン化物を含有する溶液の有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し、多孔性支持層を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。
<有機無機ハイブリッド分離機能層>
分離機能層は、Si元素などを有する有機−無機ハイブリッド構造を有してもよい。このような分離機能層を備える複合半透膜を有機無機ハイブリッド膜と称する。有機無機ハイブリッド膜は、成形性および耐薬品性の点で優れる。有機無機ハイブリッド構造を有する分離機能層の組成は、特に限定されないが、分離機能層は、例えば、(A)エチレン性不飽和基を有する反応性基および加水分解性基がケイ素原子に直接結合したケイ素化合物、ならびに(B)前記化合物(A)以外の化合物であってエチレン性不飽和基を有する化合物を含有することができる。具体的には、分離機能層は、化合物(A)の加水分解性基の縮合物ならびに化合物(A)および/または(B)のエチレン性不飽和基の重合物を含有してもよい。すなわち、分離機能層は、
・化合物(A)のみが縮合および/または重合することで形成された重合物、
・化合物(B)のみが重合して形成された重合物、並びに
・化合物(A)と化合物(B)との共重合物
のうちの少なくとも1種の重合物を含有することができる。なお、重合物には縮合物が含まれる。また、化合物(A)と化合物(B)との共重合体中で、化合物(A)は、加水分解性基を介して縮合していてもよい。
分離機能層において、化合物(A)の含有率は、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは20重量%〜50重量%である。また、分離機能層における化合物(B)の含有率は、好ましくは90重量%以下であり、より好ましくは50重量%〜80重量%である。また、化合物(A):化合物(B)の重量比率は、1:9〜1:1であってもよい。これらの範囲においては、分離機能層に含まれる縮重合体において比較的高い架橋度が得られるので、膜ろ過時に分離機能層からの成分の溶出が抑制され、その結果、安定なろ過性能が実現される。
なお、化合物(A)、化合物(B)及びその他の化合物は、重合物(縮合物を含む)等の化合物を形成していることがある。よって、例えば「分離機能層における化合物(A)の含有率」を論じる場合、化合物(A)には、縮重合物中で、化合物(A)に由来する成分の量も含まれる。化合物(B)およびその他の化合物についても同様である。
また、分離機能層は、化合物(A)の他に、エチレン性不飽和基を有する反応性基を有しないが、加水分解性基を有するケイ素化合物(C)を含有してもよい。このような化合物(C)の例については後述する。化合物(C)は、化合物(C)のみの縮合物として含まれてもよいし、化合物(A)と化合物(B)の重合物との縮合物として含まれてもよい。
まず、化合物(A)について説明する。
化合物(A)において、エチレン性不飽和基を有する反応性基はケイ素原子に直接結合している。このような反応性基としては、ビニル基、アリル基、メタクリルオキシエチル基、メタクリルオキシプロピル基、アクリルオキシエチル基、アクリルオキシプロピル基、スチリル基が例示される。重合性の観点から、メタクリルオキシプロピル基、アクリルオキシプロピル基、スチリル基が好ましい。
化合物(A)の縮合物は、化合物(A)においてケイ素原子に直接結合している加水分解性基が水酸基に変化するなどのプロセスを経て、化合物(A)同士がシロキサン結合で結ばれることにより形成されていてもよい。
化合物(A)における加水分解性基としてはアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、アミノヒドロキシ基、ハロゲン原子およびイソシアネート基などの官能基が例示される。アルコキシ基の炭素数は、1〜10が好ましく、1〜2がさらに好ましい。アルケニルオキシ基の炭素数は、2〜10が好ましく、2〜4がより好ましく、3がさらに好ましい。カルボキシ基の炭素数は、2〜10が好ましく、2がより好ましい。炭素数が2のカルボキシ基とは、すなわちアセトキシ基である。ケトオキシム基としては、メチルエチルケトオキシム基、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基が例示される。アミノヒドロキシ基は、酸素を介してアミノ基が酸素原子を介してケイ素原子に結合しているものである。このようなものとしては、ジメチルアミノヒドロキシ基、ジエチルアミノヒドロキシ基、メチルエチルアミノヒドロキシ基が例示される。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましく使用される。
分離機能層の形成にあたっては、上記加水分解性基の一部が加水分解し、シラノール構造をとっているケイ素化合物も使用できる。また2以上のケイ素化合物が、加水分解性基の一部が加水分解、縮合し架橋しない程度に高分子量化したものも使用できる。
ケイ素化合物(A)としては下記一般式(a)で表されるものであることが好ましい。
Si(R1)m(R2)n(R3)4−m−n ・・・(a)
(R1はエチレン性不飽和基を含む反応性基を示す。R2はアルコキシ基、アルケニルオキシ基、カルボキシ基、ケトオキシム基、ハロゲン原子またはイソシアネート基のいずれかを表す。R3はHまたはアルキル基を表す。m、nはm+n≦4を満たす整数であり、m≧1、n≧1を満たすものとする。R1、R2、R3それぞれにおいて2以上の官能基がケイ素原子に結合している場合、同一であっても異なっていてもよい。)
R1はエチレン性不飽和基を含む反応性基であり、上で説明したとおりである。
R2は加水分解性基であり、これらは上で説明したとおりである。R3に当てはまるアルキル基の炭素数としては1〜10のものが好ましく、さらに1〜2のものが好ましい。
加水分解性基としては、アルコキシ基が好ましい。加水分解性基がアルコキシ基であることで、分離機能層の形成のために調製される反応液が、粘性を持つからである。
このようなケイ素化合物(A)としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
化合物(A)の他、上述したように、エチレン性不飽和基を有する反応性基を有しないが、加水分解性基を有するケイ素化合物(C)を併せて使用することもできる。このような化合物(C)としては、一般式(a)においてmがゼロである化合物が例示される。このような化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが例示される。
次に(A)のケイ素化合物以外のものであって、エチレン性不飽和基を有する化合物(B)について説明する。
エチレン性不飽和基は付加重合性を有する。このような化合物としてはエチレン、プロピレン、メタアクリル酸、アクリル酸、スチレンおよびこれらの誘導体が例示される。
また、この化合物は、複合半透膜を水溶液の分離などに用いたときに水の選択的透過性を高め、塩の阻止率を上げるために、酸基を有するアルカリ可溶性の化合物であることが好ましい。
好ましい酸の構造としては、カルボン酸、ホスホン酸、リン酸およびスルホン酸であり、これらの酸の構造としては、酸の形態、エステル化合物、および金属塩のいずれの状態で存在してもよい。これらのエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物は、2つ以上の酸を含有し得るが、中でも1個〜2個の酸基を含有する化合物が、好ましい。
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でカルボン酸基を有する化合物としては、以下のものが例示される。マレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸および対応する無水物、10−メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−N−フェニルグリシンおよび4−ビニル安息香酸が挙げられる。
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でホスホン酸基を有する化合物としては、ビニルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2−メタクリルアミドエチルホスホン酸、4−メタクリルアミド−4−メチル−フェニル−ホスホン酸、2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサ−ブチル]−アクリル酸および2−[2−ジヒドロキシホスホリル)−エトキシメチル]−アクリル酸−2,4,6−トリメチル−フェニルエステルが例示される。
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でリン酸エステルの化合物としては、2−メタクリロイルオキシプロピル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシプロピル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル一水素リン酸および2−メタクリロイルオキシエチル二水素リン酸、2−メタクリロイルオキシエチル−フェニル−水素リン酸、ジペンタエリトリトール−ペンタメタクリロイルオキシホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシル−二水素リン酸、ジペンタエリトリトールペンタメタクリロイルオキシホスフェート、リン酸モノ−(1−アクリロイル−ピペリジン−4−イル)−エステル、6−(メタクリルアミド)ヘキシル二水素ホスフェートならびに1,3−ビス−(N−アクリロイル−N−プロピル−アミノ)−プロパン−2−イル−二水素ホスフェートが例示される。
上記のエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物の中でスルホン酸基を有する化合物としては、ビニルスルホン酸、4−ビニルフェニルスルホン酸または3−(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸が挙げられる。
次に、有機無機ハイブリッド分離機能層を多孔質支持層上に形成する方法について説明する。なお、複合半透膜は、本書に記載された製造方法および各層の形成方法に限定されない。
分離機能層を形成するために、化合物(A)以外に、エチレン性不飽和基を1個以上有する化合物、および重合開始剤を含んだ反応液を用いることができる。具体的には、分離機能層は、この反応液を多孔質膜上に塗布し、さらに加水分解性基を縮合することに加えて、エチレン性不飽和基の重合によって、これら化合物を高分子量化することで形成可能である。化合物(A)を単独で縮合させた場合、ケイ素原子に架橋鎖の結合が集中し、ケイ素原子周辺とケイ素原子から離れた部分との密度差が大きくなるため、分離機能層中の孔径が不均一となる場合がある。一方、化合物(A)自身の高分子量化および架橋に加え、化合物(B)を共重合させることで、加水分解性基の縮合による架橋点とエチレン性不飽和基の重合による架橋点が適度に分散される。このように適度に架橋点を分散させることで、均一な孔径を有する分離機能層が構成され、透水性能と除去性能のバランスが取れた複合半透膜を得ることができる。また、エチレン性不飽和基を1個以上有する化合物は、高分子量化していることで、複合半透膜使用時に溶出しにくくなるので、膜性能低下を引き起こしにくい。
分離機能層において、化合物(A)の含有量は、反応液に含有される固形分量100重量部に対し10重量部以上であることが好ましく、さらに好ましくは20重量部〜50重量部である。ここで、反応液に含有される固形分とは、反応液に含有される全成分のうち、溶媒および縮合反応で生成する水やアルコールなどの留去成分を除いた、得られる複合半透膜に最終的に分離機能層として含まれる成分のことを指す。化合物(A)の量が少ないと、架橋度が不足する傾向があるので、膜ろ過時に分離機能層が溶出し分離性能が低下するなどの不具合が発生するおそれがある。
化合物(B)の含有量は、反応液に含有される固形分量100重量部に対し90重量部以下であることが好ましく、さらに好ましくは50重量部〜80重量部である。化合物(B)の化合物の含有量がこれらの範囲にあるとき、得られる分離機能層は架橋度が高くなるため、分離機能層が溶出することなく安定に膜ろ過ができる。
次に、分離機能層を多孔質支持層上に形成する工程について説明する。
分離機能層は、化合物(A)および化合物(B)を含有する反応液を塗布する工程、溶媒を除去する工程、エチレン性不飽和基を重合させる工程、加水分解性基を縮合させる工程をこの順に行うことで形成可能である。エチレン不飽和基を重合させる工程において、加水分解性基が同時に縮合してもよい。
まず、化合物(A)および化合物(B)を含有する反応液を多孔性支持層に接触させる。かかる反応液は、通常溶媒を含有する溶液であるが、かかる溶媒は多孔性支持層を破壊せず、化合物(A)および化合物(B)、および必要に応じて添加される重合開始剤を溶解するものであれば特に限定されない。この反応液には、化合物(A)のモル数に対して1〜10倍モル量、好ましくは1〜5倍モル量の水を無機酸または有機酸と共に添加して、化合物(A)の加水分解を促すことが好ましい。
反応液の溶媒としては、水、アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒および、これらを混ぜ合わせたものが好ましい。例えば、アルコール系有機溶媒として、メタノール、エトキシメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)、エチレングリコールモノアセトエステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、メトキシブタノール等が挙げられる。また、エーテル系有機溶媒として、メチラール、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジエチルアセタール、ジヘキシルエーテル、トリオキサン、ジオキサン等が挙げられる。また、ケトン系有機溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルシクロヘキシルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、トリメチルノナノン、アセトニトリルアセトン、ジメチルオキシド、ホロン、シクロヘキサノン、ダイアセトンアルコール等が挙げられる。また、溶媒の添加量としては、反応液に含有される固形分量100重量部に対し50〜99重量部が好ましく、さらには80〜99重量部が好ましい。溶剤の添加量が多すぎると膜中に欠点が生じやすい傾向があり、少なすぎると得られる複合半透膜の透水性が低くなる傾向がある。
多孔性支持層と反応液との接触は、多孔性支持層面上で均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、反応液をスピンコーター、ワイヤーバー、フローコーター、ダイコーター、ロールコーター、スプレーなどの塗布装置を用いて多孔性支持層にコーティングする方法があげられる。また多孔性支持層を、反応液に浸漬する方法を挙げることができる。
浸漬させる場合、多孔性支持層と反応液との接触時間は、0.5〜10分間の範囲内であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であるとさらに好ましい。反応液を多孔性支持層に接触させたあとは、膜上に液滴が残らないように十分に液切りすることが好ましい。十分に液切りすることで、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、反応液接触後の多孔性支持層を垂直方向に把持して過剰の反応液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの風を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させ、反応液の溶媒分の一部を除去することもできる。
ケイ素の加水分解性基を縮合させる工程は、多孔性支持層上に反応液を接触させた後に加熱処理することによって行われる。このときの加熱温度は、多孔性支持層が溶融し半透膜としての性能が低下する温度より低いことが要求される。縮合反応を速やかに進行させるために通常0℃以上で加熱を行うことが好ましく、20℃以上がより好ましい。また、前記反応温度は、150℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。反応温度が0℃以上であれば、加水分解および縮合反応が速やかに進行し、150℃以下であれば、加水分解および縮合反応の制御が容易になる。また、加水分解または縮合を促進する触媒を添加することで、より低温でも反応を進行させることが可能である。さらに、縮合反応が適切に進行することで分離機能層が細孔を有するように、加熱条件および湿度条件を選定することができる。
化合物(A)および化合物(B)のエチレン性不飽和基の重合方法としては、熱処理、電磁波照射、電子線照射、プラズマ照射により行うことができる。ここで電磁波とは赤外線、紫外線、X線、γ線などを含む。重合方法は適宜最適な選択をすればよいが、ランニングコスト、生産性などの点から電磁波照射による重合が好ましい。電磁波の中でも赤外線照射や紫外線照射が簡便性の点からより好ましい。実際に赤外線または紫外線を用いて重合を行う際、これらの光源は選択的にこの波長域の光のみを発生する必要はなく、これらの波長域の電磁波を含むものであればよい。しかし、重合時間の短縮、重合条件の制御などのしやすさの点から、これらの電磁波の強度がその他の波長域の電磁波に比べ高いことが好ましい。
電磁波は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、UVランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプ、希ガス蛍光ランプ、水銀灯などから発生させることができる。電磁波のエネルギーは重合できれば特に制限しないが、中でも高効率で低波長の紫外線は薄膜を形成するのに適している。このような紫外線は低圧水銀灯、エキシマレーザーランプにより発生させることができる。分離機能層の厚み、形態はそれぞれの重合条件によっても大きく変化することがあり、電磁波による重合であれば電磁波の波長、強度、被照射物との距離、処理時間により大きく変化することがある。そのためこれらの条件は適宜最適化されてもよい。
重合速度を速める目的で分離機能層形成の際に重合開始剤、重合促進剤等を添加することが好ましい。ここで、重合開始剤、重合促進剤とは特に限定されるものではなく、用いる化合物の構造、重合手法などに合わせて適宜選択されるものである。
重合開始剤を以下例示する。電磁波による重合の開始剤としては、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチルキノン、フリルキノン、アニシルキノン、4,4’−ジクロロベンジルキノンおよび4,4’−ジアルコキシベンジルキノン、およびショウノウキノンが、例示される。熱による重合の開始剤としては、アゾ化合物(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)もしくはアゾビス−(4−シアノバレリアン酸))、または過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチルもしくはジ−(tert−ブチル)ペルオキシド)、さらに芳香族ジアゾニウム塩、ビススルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アルキルリチウム、クミルカリウム、ナトリウムナフタレン、ジスチリルジアニオンが例示される。なかでもベンゾピナコールおよび2,2’−ジアルキルベンゾピナコールは、ラジカル重合のための開始剤として特に好ましい。
過酸化物およびα−ジケトンは、開始を加速するために、好ましくは、芳香族アミンと組み合わせて使用される。この組み合わせはレドックス系とも呼ばれる。このような系の例としては、過酸化ベンゾイルまたはショウノウキノンと、アミン(例えば、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチル−アミノ安息香酸エチルエステルまたはその誘導体)との組み合わせである。さらに、過酸化物を、還元剤としてのアスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸と組み合わせて含有する系もまた好ましい。
次いで、これを約100〜200℃で加熱処理すると重縮合反応が起こり、多孔性支持層表面にシランカップリング剤由来の分離機能層が形成された複合半透膜を得ることができる。加熱温度は多孔性支持層の素材にもよるが、高すぎると溶解が起こり多孔性支持層の細孔が閉塞するため、複合半透膜の造水量が低下する。一方低すぎた場合には、重縮合反応が不十分となり機能層の溶出により除去率が低下するようになる。
なお上記の製造方法において、シランカップリング剤とエチレン性不飽和基を1個以上有する化合物とを高分子量化する工程は、シランカップリング剤の重縮合工程の前に行っても良いし、後に行っても良い。また、同時に行っても良い。
このようにして得られた複合半透膜はこのままでも使用できるが、使用する前に例えばアルコール含有水溶液、アルカリ水溶液によって膜の表面を親水化させることが好ましい。
3.多孔性支持層
多孔性支持層として、分離機能層を支持する機能を有する膜を用いることができる。
多孔性支持層に使用される材料やその形状は特に限定されないが、例えば、多孔性樹脂によって基板上に形成されてもよい。多孔性支持層としては、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂あるいはそれらを混合、積層したものが使用され、化学的、機械的、熱的に安定性が高く、孔径が制御しやすいポリスルホンを使用することが好ましい。
次に、多孔性支持層の形成方法について説明する。
多孔性支持層は、例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(以降、DMFと記載)溶液を、後述する基材、例えば密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、製造することができる。
多孔性支持層は、多孔性樹脂層とも言い換えられる。多孔性支持層は、”オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造可能であり、ポリマー濃度、溶媒の温度、貧溶媒等の条件は、上述した形態を得るために変更可能である。例えば、所定量のポリスルホンをDMFに溶解し、所定濃度のポリスルホン樹脂溶液を調製する。次いで、このポリスルホン樹脂溶液をポリエステル布あるいは不織布からなる基材上に略一定の厚さに塗布した後、一定時間空気中で表面の溶媒を除去した後、凝固液中でポリスルホンを凝固させることによって得ることが出来る。この時、凝固液と接触する表面部分などは溶媒のDMFが迅速に揮散するとともにポリスルホンの凝固が急速に進行し、DMFの存在した部分を核とする微細な連通孔が生成される。
また、上記の表面部分から基材側へ向かう内部においては、DMFの揮散とポリスルホンの凝固は表面に比べて緩慢に進行するので、DMFが凝集して大きな核を形成しやすく、したがって、生成する連通孔が大径化する。勿論、上記の核生成の条件は、膜表面からの距離によって徐々に変化するので、明確な境界のない、滑らかな孔径分布を有する支持膜が形成される。この形成工程において用いるポリスルホン樹脂溶液の温度及びポリスルホンの濃度、塗布を行う雰囲気の相対湿度、塗布してから凝固液に浸漬するまでの時間、並びに凝固液の温度及び組成等を調節することにより、平均空隙率と平均孔径とが制御されたポリスルホン膜を得ることができる。
多孔性支持層は、複合半透膜に機械的強度を与え、かつイオン等の分子サイズの小さな成分に対して分離機能層のような分離性能を有さない。多孔性支持層の有する孔のサイズおよび孔の分布は特に限定されないが、例えば、多孔性支持層は、均一で微細な孔を有してもよいし、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面にかけて径が徐々に大きくなるような微細孔を有してもよい。また、径の大きさが均一な場合でも変化する場合でも、分離機能層が形成される側の表面で原子間力顕微鏡または電子顕微鏡などを用いて測定された細孔の投影面積円相当径は、1nm以上100nm以下であってもよい。特に界面重合反応性および分離機能層の保持性の点で、多孔性支持層において分離機能層が形成される側の表面における孔は、3〜50nmの投影面積円相当径を有することが好ましい。
多孔性支持層の厚みは特に限定されないが、複合半透膜に強度を与えるため、20μm以上500μm以下の範囲にあることが好ましく、30μm以上300μm以下であることがより好ましい。
多孔性支持層の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材から多孔性支持層を剥がした後、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3〜6kVの加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。得られた電子顕微鏡写真から多孔性支持層の膜厚や表面の投影面積円相当径を決定する。多孔性支持層の厚み、孔径は、平均値であり、多孔性支持層の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向に20μm間隔で測定し、20点測定の平均値である。また、孔径は、孔を200個カウントし、各投影面積円相当径の平均値である。
4.基材
さらに複合半透膜の強度、寸法安定性、の点で、複合半透膜は基材を備えてもよい。基材としては、強度、流体透過性の点で繊維状基材を用いることが好ましい。基材としては、長繊維不織布及び短繊維不織布のいずれも好ましく用いることができる。特に、長繊維不織布は、優れた製膜性を有するので、高分子重合体の溶液を流延した際に、その溶液が過浸透により裏抜けすること、多孔性支持層が剥離すること、さらには基材の毛羽立ち等により膜が不均一化すること、及びピンホール等の欠点が生じたりすることを抑制できる。また、基材が熱可塑性連続フィラメントより構成される長繊維不織布からなることにより、短繊維不織布を用いたときに起こる、毛羽立ちによって生じる高分子溶液流延時の不均一化や、膜欠点を抑制することができる。また、複合半透膜を連続製膜する場合は、製膜方向に対し張力がかけられることからも、基材にはより寸法安定性に優れる長繊維不織布を用いることが好ましい。
長繊維不織布は、強度の点で、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維が、多孔性支持層側の表層の繊維よりも縦配向であることが好ましい。そのような構造によれば、強度を保つことで膜破れ等を防ぐ高い効果が実現されるので好ましい。より具体的に、該長繊維不織布の、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度は、0°〜25°であることが好ましく、また、多孔性支持層側表層における繊維配向度との配向度差が10°〜90°であることが好ましい。
複合半透膜の製造工程やエレメントの製造工程においては加熱する工程が含まれるが、加熱により多孔性支持層または分離機能層が収縮する現象が起きる。特に連続製膜において張力が付与されていない幅方向において顕著である。収縮することにより、寸法安定性等に問題が生じるため、基材としては熱寸法変化率が小さいものが望まれる。不織布において多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度と多孔性支持層側表層における繊維配向度との差が10°〜90°であると、熱による幅方向の変化を抑制することもでき、好ましい。
ここで、繊維配向度とは、多孔性支持層を構成する不織布基材の繊維の向きを示す指標であり、連続製膜を行う際の製膜方向を0°とし、製膜方向と直角方向、すなわち不織布基材の幅方向を90°としたときの、不織布基材を構成する繊維の平均の角度のことを言う。よって、繊維配向度が0°に近いほど縦配向であり、90°に近いほど横配向であることを示す。
繊維配向度は、以下の手順で求められる。不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、該サンプルの表面を走査型電子顕微鏡で100〜1000倍で撮影する。各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維について、不織布の長手方向(縦方向、製膜方向)を0°とし、不織布の幅方向(横方向)を90°としたときの角度を測定する。それらの平均値を算出し、さらに小数点以下第一位を四捨五入して得られる値が繊維配向度である。
5.ポリグリセリン類およびグリセリン
本発明の複合半透膜は、ポリグリセリン類またはポリグリセリン類およびグリセリンを含んでいる。ポリグリセリン類またはポリグリセリン類およびグリセリンは、複合半透膜の表面にだけ塗布されていても、内部にまで浸透していても構わない。また、複合半透膜の表面とは、平膜であればその片側又は両側の表面を、中空糸膜であれば外表面と内表面の片方又は両方を示す。複合半透膜の内部のうち、特に水等の液体が触れる部分にポリグリセリン類が含まれていればよい。
また、本発明の複合半透膜は高温で乾燥させても透水性と溶質除去性の低下が小さいことを特徴とする。ここで、乾燥させるとは、複合半透膜の含水率を20%以下にすることを意味する。複合半透膜の含水率は、(絶乾処理前の複合半透膜重量−絶乾状態の複合半透膜重量)/絶乾状態の複合半透膜重量×100(%)で表される。ここで、絶乾状態の複合半透膜は、105℃で2時間、複合半透膜を乾燥させることで得られるものとする。
複合半透膜にポリグリセリン類を付着させる方法は任意であるが、たとえば、ポリグリセリン類を水、又は水とアルコールやケトン類との混合液に溶解し、その溶液に形成後の複合半透膜を接触処理することで、複合半透膜にポリグリセリン類を付着させる。
なお、形成後の複合半透膜とは、ポリグリセリン類が付与される以外の膜としての形状が完成していることを意味する。すなわち、形成後の複合半透膜とは、2層構造の複合半透膜であれば、2つの層が形成された後の膜であり、3層以上の構造を有する複合半透膜であれば、それらの層が形成された後の膜である。
また、本発明に用いるポリグリセリン類とはジグリセリン誘導体、ポリグリセリン脂肪酸エステルやポリグリセリンなどであり、ポリグリセリンが特に好ましく、これらの群から選択される少なくとも1種を使用することができる。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルは水に可溶であれば特に限定されないが、ステアリン酸、オレイン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、エルカ酸のエステルなどが挙げられる。
特に、上記ポリグリセリンに加え、グリセリンや糖類を同時または別途複合半透膜に付着させることで、複合半透膜をより高温で乾燥させても、透水性と溶質除去性の低下を抑制することができる。より高温で乾燥させることができると、乾燥にかかる時間が短縮できると共に、殺菌効果も得られるので好ましい。
なお、ポリグリセリン類およびグリセリンの重量比が10:90〜90:10であると、乾燥複合半透膜の造水量や安定性が特に向上するため好ましい。グリセリンおよび糖類は、ポリグリセリン類との混合溶液として複合半透膜に接触してもよいし、ポリグリセリン類溶液とは別に調製された溶液として複合半透膜に接触してもよい。混合溶液が用いられるときは、混合溶液における重量%比が上述の範囲であればよく、個別の溶液が用いられるときは、各溶液におけるポリグリセリン類の重量%とグリセリンの重量比%とが上述の範囲であればよい。
複合半透膜をポリグリセリン類の溶液に接触させるにあたって、接触処理時間は特に限定されないが、常温付近においては5秒以上5分以下が好ましく、10秒以上3分以下が特に好ましい。接触処理時間が短いと接触処理液の成分が膜中に到達せず、再通水性が低下してしまう。逆に、接触処理時間が長くなると処理効率が低下する。
ポリグリセリン類を溶媒に溶解し、得られた液を複合半透膜に接触させる場合の溶液中のポリグリセリン類濃度は、得ようとする効果と膜と溶媒と溶質の組み合わせによって変動するが0.1〜50重量%の範囲にあり、より適切な濃度範囲は事前にテストを行うことによって容易に決定できる。例えばポリグリセリンの場合であれば3重量%〜30重量%以下が好ましく、5重量%〜15重量%が特に好ましい。また、アルコール類や界面活性剤、酸化防止剤等をポリグリセリン類水溶液に共存させることも可能である。この場合、目的とする性能範囲を逸脱しない範囲であれば、アルコール類や界面活性剤、酸化防止剤等は特に限定されない。
接触処理温度は膜を劣化させない範囲であれば特に限定されないが、例えば、0℃未満での処理では膜中に含まれる水分の凍結により膜が破損する恐れが高く、また、あまりに高温であると膜が劣化して複合半透膜としての機能は果たせなくなる。高温側の制限は、処理対象とされる複合半透膜素材によって異なり、複合半透膜がポリエチレンテレフタレート製基材、ポリスルホン製の多孔性樹脂および架橋ポリアミドからなる分離機能層で構成される場合であれば、接触処理温度は5℃以上95℃以下が好ましく、15℃以上40℃以下がより好ましい。
接触処理に先立ち、複合半透膜を十分に洗浄することが好ましい。複合半透膜の洗浄が不十分であると複合半透膜形成工程における未反応物や添加剤等がポリグリセリン類の溶液中に不純物として存在することになり、浸漬処理の効率が低下する原因となる。洗浄方法は特に限定されないが、純水、酸水溶液、アルカリ水溶液、還元剤水溶液、酸化剤水溶液、アルコール水溶液等に浸漬または加圧通水することが例として挙げられる。最も好適な例は、水または炭素数1〜4のアルコールまたはその水溶液と接触させることである。洗浄温度は特に限定されないが、膜性能に悪影響を与えない範囲で高い温度としたほうが、高効率で洗浄できる。
接触処理後の乾燥方法については、従来公知のあらゆる方法を使用することができる。好適な乾燥方法の例としては、常温または加熱された気体の流通下におく、乾燥された気体の流通下におく、赤外線を照射する、マイクロ波を照射する、加熱ローラーと接触させる等の方法があり、また複数の乾燥方法を同時並行的に、あるいは時系列的に併用することも可能である。また、乾燥させる領域は、複合半透膜全体であっても、接着封止部付近に限定しても、いずれであってもよい。なお、接着封止部はエレメントの形状に異なるが、スパイラル型エレメントの場合では膜リーフの4辺の内、筒状集水管に近接する1辺を除いた3辺に塗布することが一般的である。また、乾燥に先だって、接触処理溶液を自然流下、遠心脱液等の方法によって概略除去することは、乾燥工程の負荷を下げるために有効な方法である。
複合半透膜を乾燥する時期および乾燥時の膜の形状は、最終的な膜分離素子の形状に近い形状、例えば複合半透膜の形態が平膜の場合では複合半透膜表面に機能層を形成させて十分に洗浄した後に実施できる。中空糸膜や管状膜である場合には、糸束あるいは糸束を複合半透膜素子のケースに挿入した状態等に成形した後であってもよく、あるいはそれ以前の状態、すなわち振り落とし玉やボビン巻きの状態であっても差し支えない。
乾燥を行う複合半透膜の範囲は特に限定されないが、乾燥処理によって膜性能の向上を狙う場合には、当然ながら膜全体を乾燥することが好ましい。
乾燥する際の温度および時間は、その膜の耐熱性を考慮して決める必要がある。例えば、複合半透膜がポリエチレンテレフタレート製基材、ポリスルホン製の多孔性樹脂および架橋ポリアミドからなる分離機能層で構成される場合であれば、乾燥温度は50℃以上180℃以下とすることができ、100℃を超える場合でも優れた透水性と溶質除去性を示すことができる。ただし、乾燥温度が180℃を超えると、複合半透膜中に水を保持し難くなる。なお、本発明の目的を損なわない範囲であれば乾燥時間を適宜調整できる。
本発明によって乾燥された複合半透膜は、親水化処理等の前処理を行わなくても通水可能であるが、炭素数1〜4のアルコールまたはその水溶液と接触させることによって、更に高い透水性能を発揮させることができる。
このようにして得られる本発明の複合半透膜は、乾燥による透水性能低下を抑制できる。乾燥によって透水性能が実質的に低下しているか否かについては、透水量と阻止性能を評価して判断する。すなわち、複合半透膜が乾燥することで疎水化や細孔が小さくなり透水量が低下することがないか、また、複合半透膜が乾燥することでクラックが発生して透水量は大きくなるが阻止性能が低下することがないかを評価する。
また、複合半透膜をネットなどの供給水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
さらに上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに供給水を供給するポンプや、その供給水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
6.複合半透膜エレメント
複合半透膜エレメントは、上述した複合半透膜のいずれかを備えることができる。複合半透膜エレメントの構成の一例について、図1を参照しながら説明する。
図1に示すように、複合半透膜エレメント100は、複合半透膜2、ネット3、トリコット4、集水管6、第1端板7および第2端板8を備える。
複合半透膜2としては、上述した複合半透膜のいずれも適用可能である。複合半透膜2は、貼り合わされることで封筒状膜20を形成している。封筒膜20は、集水管6の周囲にスパイラル状に巻き付けられることで、巻囲体28を形成している。巻囲体28の外周には、巻囲体28の保護のため、フィルム等の他部材が巻き付けられていてもよい。
ネット3は、複合半透膜2の供給側面に対向するように配置され、かつ複合半透膜2と共に集水管6の周囲に巻き付けられる。
トリコット4は、複合半透膜2の透過側面に対向するように配置あれ、かつ複合半透膜2と共に集水管6の周囲に巻き付けられる。
なお、ネット3およびトリコット4の一方または両方は、省略可能である。
集水管6は、中空の筒状部材であり、側面に複数の孔を有する。
第1端板7は、複数の供給口を備える円盤状の部材である。第1端板7は、巻囲体28の第1端に配置される。
第2端板8は、濃縮流体の排出口と透過流体の排出口とを備える。第2端板8は、巻囲体28の第2端に配置される。
複合半透膜エレメント100による流体の分離について説明する。供給水101は、第1端板7の供給口から巻囲体28に供給される。供給水101は、複合半透膜2の供給側面において、ネット3で形成された供給側流路内を移動する。複合半透膜2を透過した流体(図中に透過流体102として示す)は、トリコット4によって形成された透過側流路内を移動する。集水管6に到達した透過流体102は、集水管6の孔を通って集水管6の内部に入る。集水管6内を流れた透過流体102は、第2端板8から外部へと排出される。一方、複合半透膜2を透過しなかった流体(図中に濃縮流体103として示す)は、供給側流路を移動して、第2端板8から外部へと排出される。こうして、供給水101が透過流体102と濃縮流体103とに分離される。
次に、複合半透膜エレメントの製造方法について説明する。
スパイラル型複合半透膜エレメントは複合半透膜、および、必要に応じて供給側流路材および/または透過側流路材の積層体の単数または複数が、有孔の中空状集水管の周りに巻きつけられたものである。本発明の複合半透膜エレメントの製造方法は限定されないが、ポリアミド分離機能層を多孔性支持層、基材に積層し、複合半透膜を得た後に透過側流路材を配置してエレメントを製造する代表的な方法について述べる。
良溶媒に樹脂を溶解し、得られた樹脂溶液を基材にキャストして純水中に浸漬して多孔性支持層と基材を複合させる。その後、上述したように、多孔性支持層上に分離機能層を形成する。さらに、必要に応じて分離性能、透過性能を高めるべく、塩素、酸、アルカリ、亜硝酸などの化学処理を施し、さらにモノマー等を洗浄し複合半透膜の連続シートを作製する。
該シートを親水性分子に接触させることで、親水性分子を含有する複合半透膜が作製される。親水性分子の付与の前又は後に、エンボス加工又は異素材配置などにより、複合半透膜に高低差が付与される。
従来のエレメント製作装置を用いて、例えば、リーフ数26枚、リーフ有効面積37m2の8インチエレメントを作製する。エレメント作製方法としては、参考文献(特公昭44−14216、特公平4−11928、特開平11−226366)に記載される方法を用いることができる。
本発明のエレメントの一形態において、供給側の面に溝を有するリーフ同士を、一方のリーフの溝ともう一方のリーフの溝が供給側の流路を構成するように対向させてもよい。
本発明の複合半透膜は低含水率であるので、リーフ同士を接着させる接着剤の吸湿がほとんどなく、接着剤の吸湿による発泡を抑制できる。接着剤が発泡すると接着剤の単位体積あたりの空隙率が高くなり強度が低下する。そうすると、エレメントを加圧運転した際に発泡部からのリークが生じてしまい複合半透膜エレメントとしての機能を果たさなくなるので、複合半透膜エレメントの回収率が低下してしまう。
7.複合半透膜エレメントの利用
このように製造される複合半透膜エレメントは、さらに、直列または並列に接続して圧力容器に収納されることで、複合半透膜モジュールとして使用されてもよい。
また、上記の複合半透膜エレメント、モジュールは、それらに流体を供給するポンプ、およびその流体を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、例えば供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
流体分離装置の操作圧力は高い方が脱塩率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜エレメントの供給流路、透過流路の保持性を考慮すると、膜モジュールに被処理水を透過する際の操作圧力は、0.2MPa以上5MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩脱塩率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
複合半透膜エレメントによって処理される流体は特に限定されないが、水処理に使用する場合、供給水としては、海水、かん水、廃水等の500mg/L〜100g/LのTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5〜40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
(造水量)
供給水(かん水)の膜エレメント透過水量について、膜エレメントあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)を造水量(m3/日)として表した。なお、加圧ろ過開始から1時間後の測定値と8時間後の測定値が1m3/日以上あった場合に、8時間後の測定値を付記した。
(脱塩率(TDS脱塩率))
TDS脱塩率(%)=100×{1−(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}として算出した。
なお、加圧ろ過開始から1時間後の測定値と8時間後の測定値で0.1%以上の変化をした場合に、8時間後の測定値を付記した。
(再通水性)
複合半透膜をポリグリセリン類またはポリグリセリン類およびグリセリンを含む溶液に接触させて乾燥して得られた膜エレメントについて、加圧ろ過開始から8時間後の膜エレメント透過水量について膜エレメントあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)を乾燥処理後の造水量(m3/日)とした。再通水性は乾燥処理前後における造水量の変化率であり、(乾燥処理後の造水量)/(乾燥処理前の造水量)×100(%)で表現され、数値が100%に近い膜ほど乾燥による影響が小さい膜であり、再通水性が高い膜となる。
(複合半透膜の含水率測定)
複合半透膜を10cm×10cmに切り取って重量測定し、絶乾処理前の複合半透膜重量とした。次に、この複合半透膜を105℃で2時間乾燥し、その時の複合半透膜重量を絶乾状態の複合半透膜重量として、(絶乾処理前の複合半透膜重量−絶乾状態の複合半透膜重量)/絶乾状態の複合半透膜重量×100(%)を含水率とした。
(安定性)
複合半透膜をポリグリセリン類またはポリグリセリン類およびグリセリンを含む溶液に接触させて乾燥して得られた膜エレメントについて、加圧ろ過開始から8時間後と100時間後の膜エレメント透過水量について膜エレメントあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)を測定した。この測定結果に基づいて、安定性として、(加圧ろ過開始から100時間後の造水量)/(加圧ろ過開始から1時間後の造水量)×100(%)を算出した。数値が100%に近い膜ほど造水量の経時変化が小さく、安定性が高い膜である。
(参考例)乾燥前エレメントの造水量と脱塩率
ポリエステル繊維からなる不織布(糸径:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm2/sec)上にポリスルホンの15.0重量%、ジメチルホルムアミド(N,N−ジメチルホルムアミド)溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる多孔性支持膜(厚さ130μm)ロールを作製した。
その後、多孔性支持膜ロールを巻きだし、ポリスルホン表面に、m−PDAの1.8重量%、ε−カプロラクタム4.5重量%水溶液中を塗布し、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.06重量%を含む25℃のn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布した。その後、膜から余分な溶液をエアブロー除去し、80℃の熱水で洗浄し、エアブローで液切して複合半透膜ロールを得た。
そして、折り畳み断裁加工により複合半透膜のリーフ状物を複合半透膜エレメントでの有効面積が37m2になるように、ネット(厚み:900μm、ピッチ:3mm×3mm)を供給側流路材、トリコット(厚み:300μm、溝幅:200μm、畦幅:300μm、溝深さ:105μm)を透過側流路材として幅930mmで26枚のリーフ状物を作製した。
その後、透過側流路材の端部を集水管に巻き付けながら26枚のリーフ状物をスパイラル状に巻き付けた複合半透膜エレメントを作製し、外周にフィルムを巻き付け、テープで固定した後に、エッジカット、端板取りつけ、フィラメントワインディングを行い、8インチエレメントを作製した。
該エレメントを圧力容器に入れて、供給水500mg/L食塩、運転圧力0.7MPa、運転温度25℃、pH7で運転(回収率15%)したところ、造水量および脱塩率は41.7m3/dayおよび98.0%であった。
(実施例1)
参考例1と同じ方法で複合半透膜ロールを作製した後、25℃の7%ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)水溶液に2分間浸漬処理し、さらに80℃で5分間の乾燥処理を行い実施例1の複合半透膜ロールを得た。なお、乾燥処理後の複合半透膜ロールの含水率は5.0%であった。
実施例1の複合半透膜ロールについて、参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は37.7m3/dayおよび98.3%であった。安定性は91.5%、再通水性は90.4%であり、乾燥後も高い造水量を維持することができた。
以下、各実施例および比較例の浸漬処理条件、乾燥処理条件およびエレメント性能を、表1〜3に示す。
(実施例2)
7%ポリグリセリン水溶液を3%ポリグリセリン水溶液へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は35.4m3/dayおよび98.0%であった。安定性は88.9%、再通水性は84.9%であり、乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例3)
7%ポリグリセリン水溶液を14%ポリグリセリン水溶液へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は40.8m3/dayおよび98.3%であった。安定性は91.7%、再通水性は97.8%であり、乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例4)
7%ポリグリセリン水溶液を30%ポリグリセリン水溶液へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は41.1m3/dayおよび98.3%であった。安定性は91.9%、再通水性は98.6%であり、乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例5)
乾燥処理温度を80℃から120℃へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は32.5m3/dayおよび97.8%であった。安定性は91.3%、再通水性は77.9%であり、乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例6)
乾燥処理温度を80℃から160℃へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は28.4m3/dayおよび97.8%であった。安定性は90.5%、再通水性は68.1%であり、乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例7)
ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)をポリグリセリン(10量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL 10)へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は37.0m3/dayおよび98.4%であった。安定性は89.5%、再通水性は88.7%であり、乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例8)
ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)をポリグリセリン(6量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL 06)へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は36.1m3/dayおよび98.4%であった。安定性は88.9%、再通水性は86.6%であり、乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例9)
ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)をポリグリセリン脂肪酸(ステアリン酸)エステル(阪本薬品工業社製、商品名:TS−7S)へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は33.1m3/dayおよび98.3%であった。安定性は85.0%、再通水性は79.4%であり、乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例10)
ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)を7%ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)および7%グリセリン(和光純薬工業社製)混合水溶液へと変更したこと以外は、全て実施例5と同様に複合半透膜ロールを作製した。なお、ポリグリセリンおよびグリセリンの濃度は、混合水溶液における濃度である。また、表のとおり、120℃という高温で乾燥を行った。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は36.6m3/dayおよび98.2%であった。安定性は91.0%、再通水性は87.8%であり、高温で乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例11)
ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)を7%ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)および3%グリセリン(和光純薬工業社製)混合水溶液へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は33.1m3/dayおよび98.3%であった。安定性は91.1%、再通水性は79.6%であり、高温で乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例12)
7%ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)および3%グリセリン(和光純薬工業社製)水溶液をそれぞれ調整し、7%ポリグリセリンを実施例1と同様の条件で浸漬を行い、その後、3%グリセリンを実施例1と同様の条件で浸漬して乾燥させた以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は32.8m3/dayおよび98.1%であった。安定性は90.0%、再通水性は78.7%であり、高温で乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例13)
3%グリセリン(和光純薬工業社製)水溶液および7%ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)をそれぞれ調整し、3%グリセリンを実施例1と同様の条件で浸漬を行い、その後、7%ポリグリセリンを実施例1と同様の条件で浸漬して乾燥させた以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は33.0m3/dayおよび98.0%であった。安定性は90.4%、再通水性は79.1%であり、高温で乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例14)
ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)を3%ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)および7%グリセリン(和光純薬工業社製)混合水溶液へと変更したこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は30.9m3/dayおよび98.2%であった。安定性は86.5%、再通水性は74.1%であり、高温で乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(実施例15)
基材をポリエステル長繊維からなる不織布(糸径:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm2/sec、繊維配向度:多孔性支持層側表層40°、多孔性支持層とは反対側の表層20°)に変更した以外は全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は39.1m3/dayおよび98.1%であった。安定性は91.6%、再通水性は93.8%であり、高温で乾燥後も高い造水量を維持することができた。
(比較例1)
7%ポリグリセリン水溶液に接触させなかったこと以外は、全て実施例1と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は10.2m3/dayおよび98.1%であった。安定性は56.9%、再通水性は24.5%であり、乾燥後に造水量が大幅に低下してしまった。
(比較例2)
ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)を和光純薬工業社製グリセリンへと変更したこと以外は、全て実施例5と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は17.7m3/dayおよび98.0%であった。安定性は78.0%、再通水性は42.4%であり、乾燥後に造水量が大幅に低下した。
(比較例3)
ポリグリセリン(20量体)(ダイセル化学社製、商品名:PGL X)を和光純薬工業社製ポリエチレングリコール200へと変更したこと以外は、全て実施例5と同様に複合半透膜ロールを作製した。
参考例1と同じ方法で8インチエレメントを作製し、参考例1と同じ条件で運転したところ、造水量および脱塩率は13.9m3/dayおよび98.1%であった。安定性は61.2%、再通水性は33.3%であり、乾燥後に造水量が大幅に低下してしまった。
以上のように、実施例により得られた複合半透膜エレメントは、高造水性能、優れた除去性能および再通水性を有している。