JP5879791B2 - 易溶解性三酸化モリブデン - Google Patents
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Description
廃触媒からバナジウムやモリブデンを回収する方法として、有価金属を水に溶解する可溶性塩としてから回収することが行われている(例えば、特許文献1)。
具体的には、廃触媒と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩(以下、両者を含めてソーダ灰という)とを、酸素が存在する雰囲気においてロータリーキルンによって焙焼する。すると、廃触媒中のモリブデンは、酸化しかつソーダ灰と反応(ソーダ化反応)して可溶性塩(水溶性化合物)となる。この可溶性塩となった有価金属を含む焙焼物を水浸出すると、モリブデンおよびバナジウムを含有する水溶液が得られるので、この水溶液について溶媒抽出を行えば、バナジウムとモリブデンを分離できる。そして、モリブデンを含有する水相について、塩析・酸沈法などを適用すればモリブデン酸アンモニウムの沈殿を生じさせることができ、このモリブデン酸アンモニウムの沈殿を焼成することによって、三酸化モリブデン(MoO3)の製品(固形物)を得ることができる。
水素化脱硫触媒の性質は、担持処理に使用する多成分混合溶解液における各化合物の混合割合などの影響を受けるので、この混合割合を適切に維持するためにも、三酸化モリブデンには高い溶解性が要求される。
本発明の易溶解性三酸化モリブデン(以下、単に本発明の三酸化モリブデンという)は、多成分混合溶解液などの溶液等に対する溶解性が高いものであり、高濃度で溶液等に溶解できるようにしたことに特徴を有している。
本明細書における多成分混合溶解液の清澄度を判断する方法はとくに限定されない。例えば、清澄度が高い多成分混合溶解液の場合には、一般的な視力を有する人が肉眼で清澄度を判断する方法を採用することができる。この場合、多成分混合溶解液を透明な容器(例えば、ビーカーなど)に入れた状態で、一般的な視力を有する人が肉眼で、この多成分混合溶解液を光に透かして見ることによって、透明度および浮遊物の有無を判断することが可能である。
具体的にいえば、本発明の易溶解性三酸化モリブデンを原料として形成された多成分混合溶解液(本混合溶解液)の清澄度と、本混合溶解液を形成する場合と同じ条件で従来の三酸化モリブデン(具体的には、一般的な酸沈法によって製造された三酸化モリブデン)を原料として形成された多成分混合溶解液(比較混合溶解液)の清澄度と、を比較したときに、本混合溶解液は、比較混合溶解液に比べて清澄度が高いものとなるのである。
なお、多成分混合溶解液中の浮遊物とは、溶解できなかった三酸化モリブデンや塩、有機酸化合物などである。かかる浮遊物には、多成分混合溶解液を所定の期間静置すると沈殿物となるものも含まれている。
なお、上述した所定の期間とは、多成分混合溶解液を使用する用途や多成分混合溶解液を使用する状況、多成分混合溶解液を形成してから保管しておく期間などによって異なる。
多成分混合溶解液とは、上述したように、塩や酸化物などの金属化合物、有機酸化合物などを、溶媒に溶解して形成された溶液である。以下、多成分混合溶解液を形成する際に使用される各物質を説明する。
また、金属化合物としては、本発明の三酸化モリブデンなどの酸化物や、遷移元素を含有する塩、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩(炭酸コバルトや炭酸ニッケルなど)、無機複合酸塩等の塩、を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、有機酸化合物としては、クエン酸、蟻酸、酢酸、リン酸、りんご酸などを挙げることができるが、これらに限定されない。
水素化脱硫触媒を製造する際に耐火性酸化物を含浸させるために使用される多成分混合溶解液としては、製品となった触媒における酸化物換算で、金属化合物が15〜65重量%(例えば、塩が5〜40重量%、酸化物が10〜25重量%)、有機酸化合物が0.1〜15重量%、を一例として挙げることができる。
また、上記例では、有機酸化合物を一種類だけ使用して多成分混合溶解液を形成する場合を例示したが、有機酸化合物が2種類以上を含まれていてもよいのは、いうまでもない。
本発明の三酸化モリブデンは、比表面積(BET比表面積)が、1.5〜2.5m2/gおよび/またはフィッシャーサブシーブサイザー平均粒径(Fsss平均粒径)が5〜30μm、好ましくは5〜15μmの多孔質の粒子となっていることが好ましい。
粒子の比表面積は小さすぎると溶解性が悪くなるので、溶解性を向上させる上では、粒子の比表面積は大きいほうが好ましい。かかる理由から、比表面積の下限は、1.5m2/gが好ましく、2.0m2/gがより好ましい。一方、比表面積の上限は2.5m2/gが好ましい。
Fsss平均粒径は大きすぎると溶解性が悪くなるので、Fsss平均粒径の上限は30μmが好ましく、20μmがより好ましい。また、液体との接触面積を向上させる上では、Fsss平均粒径は小さい方が好ましい。一方、粒子は、ある程度の粒径を有しているほうが、粒子を液体に添加した際に、液体中に沈降させやすくなる。つまり、粒子を液体に添加したときに、粒子を液体に浸漬した状態にできるので、粒子が溶解性しやすくなる。すると、取り扱い性や実際に液体に粒子を添加したときの溶解性などを考慮すると、Fsss平均粒径の下限は5μm程度が好ましい。
本発明の三酸化モリブデンを製造する方法はとくに限定されない。例えば、以下のごとく、モリブデン含有液を原料として、モリブデン酸塩回収工程、焼成工程、溶解工程、晶析工程、再焼成工程を順に行うことによって製造することができる。
本発明の易溶解性三酸化モリブデンの原料となるモリブデン含有液はとくに限定されないが、アンモニアを含有するモリブデン含有液が好ましい。
例えば、アンモニアを含有するモリブデン含有液としては、石油精製に用いる水素化脱硫触媒からモリブデンをソーダ化し水浸出してモリブデン酸ナトリウムの液とし溶媒抽出などの方法でモリブデン酸アンモニウムとした溶液(モリブデン酸アンモニウム溶液)などを挙げることができる。かかるモリブデン酸アンモニウム溶液は、そのまま使用してもよいが、モリブデン以外の不純物(例えば、リンやバナジウムなど)を除去する除去工程を行ったものが好ましい。具体的には、モリブデン酸アンモニウム溶液に含まれる除去すべき不純物がリンやバナジウムの場合、鉄塩、マグネシウム塩を供給し、pHおよび温度等を適切な条件する。すると、不純物であるリンおよびバナジウムが鉄塩またはマグネシウム塩を形成して沈殿し除去されるので、不純物の少ないモリブデン酸アンモニウム溶液を得ることができる。
なお、以下では、モリブデン酸塩とアンモニアを含有するモリブデン含有液をモリアン溶液という。
また、モリブデン含有液はアンモニアを含有していないものでもよく、この場合には、モリブデン酸塩回収工程を行う前に、モリブデン含有液にアンモニア溶液を添加して、モリブデン含有液がアンモニアを含有するようにすればよい。
図1に示すように、モリブデン含有液(モリブデン始液)から本発明の易溶解性三酸化モリブデンを製造する場合には、まず、モリブデン含有液からモリブデン酸塩を沈殿分離するモリブデン酸塩回収工程を行う。このモリブデン酸塩回収工程では、処理槽内に収容されているモリブデン含有液に対して、酸を添加する。すると、処理槽内にモリブデン酸塩の沈殿物が形成されるので、沈殿生成後の液と沈殿物とに分離すれば、モリブデン酸塩が沈殿物として回収される。
モリブデン酸塩回収工程において回収されたモリブデン酸塩の沈殿物は、焼成炉において焼成される。すると、モリブデン酸塩が分解して、固体の三酸化モリブデンが製造される。
焼成工程において三酸化モリブデンが生成されると、この三酸化モリブデンをアンモニアによって溶解する溶解工程が行われる。溶解工程では、アンモニア溶液が収容された溶解槽に三酸化モリブデンを供給する。すると、アンモニア溶液によって三酸化モリブデンが溶解されて、モリブデン酸アンモニウム溶液が形成される。
一方、アンモニア溶液のアンモニア濃度が高くなりすぎると、溶解工程において三酸化モリブデンが溶解しにくくなるという問題が生じる。
したがって、溶解工程において、三酸化モリブデンを溶解させるアンモニア溶液のアンモニア濃度は高いほうが好ましいものの、モリブデン酸アンモニウムが析出しない程度(モリブデン酸アンモニウムの飽和濃度)となるアンモニア濃度であって、飽和濃度に近いアンモニア濃度がよい。
溶解工程において溶解液が得られると、この溶解液からアンモニアを含有するモリブデン酸塩を析出させる晶析が行われる。晶析工程では、溶解液を加熱・濃縮後、冷却することによって、モリブデン酸塩の溶解度を低くして、モリブデン酸塩を結晶化する。すると、モリブデン酸塩の沈殿物が形成されるので、溶解液と沈殿物とに分離すれば、モリブデン酸塩が沈殿物として回収される。
溶解液を冷却する温度は、モリブデン酸塩が結晶となって析出する温度であればとくに限定されない。
晶析工程において回収されたモリブデン酸塩の沈殿物は、例えば、ロータリーキルンなどの焼成炉において焼成される。すると、モリブデン酸塩が分解して、固体の三酸化モリブデンが製造される。モリブデン酸塩は、アンモニアを含有しているので、焼成されたときに、モリブデン酸塩が分解するとともに、アンモニアガスが粒子から放出されるので、形成された三酸化モリブデンは多孔質の粒子となる。
しかも、再焼成される晶析物はアンモニア含有率が高いので、三酸化モリブデンの比表面積を大きくすることができる。例えば、晶析物のアンモニア含有率が5%以上であれば、焼成された三酸化モリブデン粒子の比表面積を1.6m2/g以上とすることができる。また、晶析物のアンモニア含有率が8.3%以上であれば、焼成された三酸化モリブデン粒子の比表面積を2.0m2/g以上とすることができる。
再焼成工程における焼成温度はとくに限定されないが、焼成温度が高過ぎると、製造される三酸化モリブデンの結晶性が高くなり、溶解度が低下する。また、焼成温度が低過ぎると、モリブデン酸塩の分解が不十分となり、モリブデン酸塩に含まれるアンモニアが焼成された三酸化モリブデンに残留してしまう。かかるアンモニアの残留は、製品(三酸化モリブデン)の純度を低下させる上、三酸化モリブデンの溶解度を低下させる。
したがって、溶解性が高くしかも高品質に維持された三酸化モリブデンを製造するのであれば、焼成炉内の温度が、400〜550度、好ましくは420〜480度で、3時間以上(好ましくは4時間程度)の期間、モリブデン酸塩を焼成することが好ましい。
また、モリブデン酸塩の再焼成は、焼成炉内の気体を排出しながら、言い換えれば、焼成炉内からアンモニアガスを除去しながら、モリブデン酸塩を焼成することが好ましい。
モリブデン酸塩が分解するとアンモニアガスが発生するが、アンモニアガスが存在する状態でモリブデン酸塩を焼成すると、焼成によって製造された三酸化モリブデンが還元されて二酸化モリブデンとなる可能性がある。二酸化モリブデンは溶解性が低いので、二酸化モリブデンが混入した三酸化モリブデンは、全体の溶解性が低くなる。
したがって、二酸化モリブデンが生成されることを防ぐために、焼成炉内からアンモニアガスを除去しながら、モリブデン酸塩を焼成することが好ましい。
上記例では、モリブデン酸塩回収工程、焼成工程、溶解工程、晶析工程、再焼成工程を順に行うことによって本発明の三酸化モリブデンを製造する場合を説明した。
しかし、モリブデン酸塩回収工程ののち、焼成工程を行わずに、モリブデン酸塩回収工程で得られたモリブデン酸塩をアンモニアによって溶解して(溶解工程)、その後晶析工程を行ってもよい。この場合には、一旦焼成した焼成物をアンモニアで溶解する場合に比べて、作業工数を少なくできるので、生産効率を高くすることができる。
また、一旦焼成した焼成物をアンモニアで溶解する場合には、焼成工程を経ることによて溶解液中の不純物が少なくなるので、最終的に得られる焼成物の品質を高くすることができるという利点がある。一方、焼成工程を行わない方法を採用した場合には、焼成物が過剰に高品質とならないので、製造コスト等を抑えることができる。この場合でも、多成分混合溶解液における各成分をある程度広い範囲で調整することは可能である。
焼成温度:450℃
焼成時間:2時間
また、一次粒子の粒径は、マイクロトラック(日機装株式会社製、マイクロトラック9220−FRA)によって測定した。なお、図6では、ヒストグラムによって一次粒子の全粒子数に占める各粒径の粒子数の割合(頻度)を示している。
溶解液:焼成物(三酸化モリブデン)と炭酸コバルトの混合溶解液(有機酸添加)
溶解液温度:90℃
反応時間:60分
なお、溶解液の温度は、ガラス棒温度計によって測定した。
AHM晶析物は、以下の手順で形成した。
まず、25%アンモニア水(100ml)、水(100ml)、三酸化モリブデン(170g、NH3:2.2重量%、H2O:5.0重量%)を混合して、三酸化モリブデンを溶解した。溶解液をろ過して残渣を除去したのち、90℃で溶解液を35%重量減となるまで加熱濃縮して、その後15℃になるまで冷却した。すると、モリブデン酸塩が結晶となって沈殿し、110gのモリブデン酸塩と母液130mlが回収された。
回収されたモリブデン酸塩(図3参照)について上記方法によって結晶分析したところ、モリブデン酸塩中の各成分は、Mo:55.3重量%、NH3:8.3重量%となっており、回収されたモリブデン酸塩がAHMであることが確認された。
なお、回収されたモリブデン酸塩をX線回折(PANalytical社製:PertPRO)によって確認しても、AHMであることが同定された(図7)。
しかも、実施例の三酸化モリブデンの一次粒子の粒度分布を確認すると、ピークを一つしか有さず、頻度分布におけるd50が2μm以下、かつ、d90が10μm以下となっていることが確認できる(図6(A))。
また、この多成分混合溶解液を3日静置した後に析出物を確認しても、浮遊物を肉眼では確認できなかった。
また、図6(B)からも一次粒子の粒径が全体に大きいことが確認でき、しかも、粒度分布が2山になっているおり、一次粒子のばらつきが大きいことが確認できる。
なお、比較例の三酸化モリブデンにおいて、粒度分布が2山になっているのは、一次粒子間に空隙が無く密で強固に結合して2次粒子を形成しているからである。
Claims (1)
- モリブデン含有液から易溶解性三酸化モリブデンを製造する方法であって、
モリブデン含有液に酸を添加し、生成したモリブデン酸塩を沈殿させて回収するモリブデン酸塩回収工程、
前記モリブデン酸塩回収工程で回収されたモリブデン酸塩を焼成させて焼成物を得る焼成工程、
前記焼成工程で得られた焼成物をアンモニアで溶解させて溶解液を得る溶解工程、
前記溶解工程で得られた溶解液に含まれる溶解物を晶析させて晶析物を得る晶析工程、および
前記晶析工程で得られた晶析物を焼成する再焼成工程
を順に行うことを特徴とする易溶解性三酸化モリブデンの製造方法。
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