JP5691841B2 - 易溶解性三酸化モリブデン粒子およびその製造方法 - Google Patents
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廃触媒からバナジウムやモリブデンを回収する方法として、有価金属を水に溶解する可溶性塩としてから回収することが行われている(例えば、特許文献1)。
具体的には、廃触媒と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩(以下、両者を含めてソーダ灰という)とを、酸素が存在する雰囲気においてロータリーキルンによって焙焼する。すると、廃触媒中のモリブデンは、酸化しかつソーダ灰と反応(ソーダ化反応)して可溶性塩(水溶性化合物)となる。この可溶性塩となった有価金属を含む焙焼物を水浸出すると、モリブデンおよびバナジウムを含有する水溶液が得られるので、この水溶液について溶媒抽出を行えば、バナジウム、モリブデンをそれぞれ分離できる。そして、モリブデンを含有する水相について、塩析・酸沈法などを適用すればモリブデン酸アンモニウムなどのモリブデン酸塩の沈殿を生じさせることができ、このモリブデン酸塩の沈殿を焼成することによって、三酸化モリブデン(MoO3)の製品(固形物)を得ることができる。
水素化脱硫触媒の性質は、担持処理に使用する多成分混合溶解液における各化合物の混合割合などの影響を受けるので、この混合割合を適切に維持するためにも、三酸化モリブデンには高い溶解性が要求される。
また、本発明は、前記方法によって製造された多成分混合溶液などの溶液への溶解性が高い三酸化モリブデン粒子を提供することを目的とする。
第1発明の易溶解性三酸化モリブデン粒子の製造方法は、モリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させた後、得られたアンモニア添加モリブデン酸塩粒子を焼成することを特徴とする。
第2発明の易溶解性三酸化モリブデンの製造方法は、第1発明において、モリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を噴霧することによってモリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させることを特徴とする。
第3発明の易溶解性三酸化モリブデンの製造方法は、第1または第2発明において、モリブデン酸塩粒子中のモリブデンに対するアンモニア溶液中のアンモニアのモル比が0.5以上となるようにモリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させることを特徴とする。
第4発明の易溶解性三酸化モリブデンの製造方法は、第1、第2または第3発明において、アンモニア添加モリブデン酸塩粒子を炉内で焼成し、焼成の際に発生したアンモニアガスを炉内から除去しながらアンモニア添加モリブデン酸塩粒子を焼成することを特徴とする。
(易溶解性三酸化モリブデン)
第5発明の易溶解性三酸化モリブデン粒子は、第1発明〜第4発明のいずれかの製造方法によって得られたものであることを特徴とする。
第1発明によれば、モリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させた後、得られたアンモニア添加モリブデン酸塩粒子を焼成する。すると、アンモニア添加モリブデン酸塩粒子は多量にアンモニアを含有するので、製造された三酸化モリブデン粒子は多孔質構造体となるから、多成分混合溶液などの溶液に溶解しやすくなる。
第2発明によれば、モリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を噴霧することによってモリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させるので、適切な量のアンモニア溶液をモリブデン酸塩粒子に付着させることができる。したがって、製造される三酸化モリブデン粒子の構造を、適切な多孔質構造とすることができる。
第3発明によれば、モリブデン酸塩粒子中のモリブデンに対するアンモニア溶液中のアンモニアのモル比が0.5以上となるようにモリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させることから、モリブデン酸塩粒子に対して十分な量のアンモニアが供給されるので、高アンモニア含有率のモリブデン酸塩粒子を得ることができる。
第4発明によれば、アンモニア添加モリブデン酸塩粒子を炉内で焼成し、焼成の際に発生したアンモニアガスを炉内から除去しながらアンモニア添加モリブデン酸塩粒子を焼成するので、アンモニア添加モリブデン酸塩粒子を焼成する際に発生するアンモニアガスによって、三酸化モリブデン粒子が還元されて二酸化モリブデン粒子となることを防ぐことができる。すると、焼成された三酸化モリブデン粒子中に、二酸化モリブデンとなっている粒子がほぼ無くなるので、製造された三酸化モリブデン粒子を多成分混合溶液などの溶液に溶解しても、残渣をほとんど無くすことができる。
(易溶解性三酸化モリブデン粒子)
第5発明によれば、モリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させた後、得られたアンモニア添加モリブデン酸塩粒子を焼成する。すると、アンモニア添加モリブデン酸塩粒子は多量にアンモニアを含有するので、製造された三酸化モリブデン粒子は多孔質構造体となるから、多成分混合溶液などの溶液に溶解しやすくなる。
本発明の易溶解性三酸化モリブデンの製造方法は、モリブデン酸塩を焼成して三酸化モリブデンを製造する方法であり、多成分混合溶液などに対する溶解性が高い三酸化モリブデンを製造できるようにしたことに特徴を有している。
例えば、石油精製に用いる水素化脱硫触媒からモリブデンをソーダ化して水浸出してモリブデン酸ナトリウムを含む溶液を形成する。この溶液について溶媒抽出などの方法を行ってモリブデン酸アンモニウムとした溶液(モリブデン酸アンモニウム溶液)を形成し、このモリブデン酸アンモニウム溶液に対して酸沈法などを適用してモリブデン酸塩を回収する。すると、このモリブデン酸塩を、本発明の方法で製造する三酸化モリブデンの原料として使用することができる。
つぎに、本発明の易溶解性三酸化モリブデンの製造方法を、図1に基づいて説明する。
まず、モリブデン酸塩の粒子に対してアンモニア溶液を供給し、アンモニア添加モリブデン酸塩を形成するアンモニア供給工程を行う。例えば、モリブデン酸塩粒子を混合容器内に入れてかき混ぜながら、モリブデン酸塩粒子に対してアンモニア溶液を供給する。すると、供給されたアンモニア溶液をモリブデン酸塩粒子の表面にほぼ均一に付着させることができる。その後、モリブデン酸塩を乾燥すれば、モリブデン酸塩粒子を、AHMなどの高アンモニア含有率のモリブデン酸塩(アンモニア添加モリブデン酸塩)の粒子とすることができる。
したがって、本発明の製造方法によって得られた三酸化モリブデンは、多成分混合溶液などの溶液に溶解しやすいものとなる。
もちろん、アンモニア供給工程において得られるアンモニア添加モリブデン酸塩が、焼成可能な程度に粒子状の形態を維持している場合には、乾燥後解砕することは必ずしも必要ではない。しかし、この場合でも、アンモニア添加モリブデン酸塩の粒子を解砕すれば、粒子の粒径を適切な大きさに調整することができる。
上述したように、アンモニア供給工程では、原料となるモリブデン酸塩に対して、アンモニア溶液を供給して、モリブデン酸塩の表面にアンモニア溶液を付着させる。モリブデン酸塩の表面にアンモニア溶液が付着すると、アンモニア添加モリブデン酸塩を、例えば、AHMなどの高アンモニア含有率のモリブデン酸アンモニウムとすることができる。
まず、モリブデン酸塩は、一次粒子が結合して二次粒子となった構造を有しているので、モリブデン酸塩粒子(二次粒子)は多孔質の構造を有している。つまり、モリブデン酸塩粒子には、その表面から内部までつながる空隙が多数存在する。
かかるモリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を供給すると、アンモニア溶液は、粒子表面に付着するとともに、上述した空隙を通って粒子の内部に侵入し、粒子内部の一次粒子の表面にも付着する。一次粒子の表面に付着したアンモニア溶液は、一次粒子の表面を溶かして半溶解の状態とするので、一次粒子とアンモニアとが結合した状態となり、この一次粒子はアンモニア含有率が高くなる。すると、モリブデン酸塩粒子はアンモニア含有率が高い一次粒子を多数含む二次粒子となるので、モリブデン酸塩粒子(二次粒子)全体のアンモニア含有率も高くなるのである。
アンモニア供給工程において、モリブデン酸塩に対してアンモニア溶液を供給する方法はとくに限定されない。
例えば、モリブデン酸塩をアンモニア溶液に浸漬してもよいし、モリブデン酸塩にアンモニア溶液のシャワーを浴びせてもよい。
モリブデン酸塩に対して供給するアンモニア溶液の量はとくに限定されないが、モリブデン酸塩中のモリブデンに対して、モリブデン(Mo)とアンモニア(NH3)のモル比(Mo/NH3)が0.5以上となる量を供給することが好ましい。かかる量を供給すれば、各モリブデン酸塩粒子に対して十分な量のアンモニアを供給できるので、高アンモニア含有率のモリブデン酸塩を得ることができる。
モリブデン酸塩に供給するアンモニア溶液におけるアンモニア濃度はとくに限定されない。
焼成工程における焼成温度はとくに限定されないが、焼成温度が高くなると、製造される三酸化モリブデン粒子の結晶性が高くなり、溶解度が低下する。また、焼成温度が低くなると、モリブデン酸塩粒子が十分に分解されずモリブデン酸塩粒子に含まれるアンモニアが焼成された三酸化モリブデン粒子に残留してしまう。また、モリブデン酸塩粒子に付着したアンモニアも焼成された三酸化モリブデン粒子に残留してしまう可能性がある。かかるアンモニアの残留は、製品の純度を低下させる上、三酸化モリブデン粒子の溶解度を低下させる。
また、モリブデン酸塩の再焼成は、焼成炉内の気体を排出しながら、言い換えれば、焼成炉内からアンモニアガスを除去しながら、モリブデン酸塩を焼成することが好ましい。
例えば、モリブデン酸塩粒子が分解するとアンモニアガスが発生するが、アンモニアガスが存在する状態でモリブデン酸塩粒子を焼成すると、焼成によって製造された三酸化モリブデン粒子が還元されて二酸化モリブデン粒子となる可能性がある。二酸化モリブデンは溶解性が低いので、二酸化モリブデン粒子が混入していると、三酸化モリブデン全体の溶解性が低くなる。
したがって、二酸化モリブデンが生成されることを防ぐために、焼成炉内からアンモニアガスを除去しながら、モリブデン酸塩を焼成することが好ましい。
また、得られたアンモニア添加モリブデン酸塩を焼成して三酸化モリブデンを形成し、この三酸化モリブデンについて、溶解性を確認した。
まず、トレイ上に載せたモリブデン酸塩にアンモニア溶液を噴霧しながらさじで掻き混ぜて(混練時間:20min)、スラリー状としたアンモニア添加モリブデン酸塩を形成した。
スラリー状となったアンモニア添加モリブデン酸塩をトレイ上で熱風乾燥(熱風温度60〜90℃)して固化したのち、スプーンで破砕することによって、アンモニア添加モリブデン酸塩粒子を形成した。そして、形成されたアンモニア添加モリブデン酸塩粒子を焼成して三酸化モリブデンを形成した。
モリブデン酸塩(試料量17g):Mo62.9重量%、NH32.3重量%
アンモニア溶液:添加量(7mL/17g−モリブデン酸塩)、アンモニア濃度25%
焼成炉:マッフル炉(アドバンテック東洋社製:KM−800)
焼成温度:450℃
焼成時間:4時間
なお、焼成炉は炉内の気体を排気する条件で運転した。焼成炉の温度は、マッフル炉付設の熱電対によって測定した。
また、三酸化モリブデンの溶解性は、三酸化モリブデンを原料とする溶解液を形成して残渣率を測定した。残渣率測定に使用した溶解液は以下のとおりである。
溶解液:三酸化モリブデンと炭酸コバルトの混合溶液(有機酸添加)
溶解液温度:90℃
反応時間:60分
なお、溶解液の温度は、ガラス棒温度計によって測定した。
粒子の観察はSEM(日本電子製 JSM-6360LA)によって行った。
まず、本発明の方法により、20gのアンモニア添加モリブデン酸塩(Mo:54.7重量%、NH3:10.2重量%)を形成することができた。
このアンモニア添加モリブデン酸塩をX線回折によって確認したところ、モリブデン酸アンモニウム(AHM:((NH4)6Mo7O24・4H2O)となっていることが同定できた(図2)。つまり、本発明の方法を採用することによって、原料であるモリブデン酸塩(図4参照)をAHMとすることができたことが確認できた。
つぎに、本発明の方法によって形成されたアンモニア添加モリブデン酸塩を焼成して得られた焼成物をX線回折によって確認したところ、三酸化モリブデンとなっていることが確認できる(図6参照)。
これは、アンモニア添加モリブデン酸塩では、アンモニアの含有量が多いので、アンモニアの分解・揮発により、焼成された粒子が更に細かくなったためであると考えられる。
また、アンモニア添加モリブデン酸塩では、原料であるモリブデン酸塩と比べて結晶性が低くなっていたため、アンモニアが分解・揮発した際における粒子の細径化が進み易かったと考えられる。
なお、比較例の三酸化モリブデンでは、測定の際に二次粒子が一次粒子に十分に分解しなかったため、粒径が大きくなったとも考えられる。しかし、二次粒子が一次粒子に十分に分解しにくい場合には溶解性が低くなると考えられる。すると、この結果は、本発明の方法によって、原料であるモリブデン酸塩から三酸化モリブデンを製造すれば、三酸化モリブデンの溶解性を高くできることを裏付けていると考えられる。つまり、本発明の方法によって原料であるモリブデン酸塩をアンモニア添加モリブデン酸塩とすることによって、このアンモニア添加モリブデン酸塩から製造される三酸化モリブデン粒子を一次粒子に分解し易い二次粒子することができるので、製造される三酸化モリブデン粒子の溶解性を高くできると考えられる。
Claims (5)
- モリブデン酸塩粒子から易溶解性三酸化モリブデン粒子を製造する方法であって、モリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させた後、得られたアンモニア添加モリブデン酸塩粒子を焼成することを特徴とする易溶解性三酸化モリブデン粒子の製造方法。
- モリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を噴霧することによってモリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させる請求項1記載の易溶解性三酸化モリブデン粒子の製造方法。
- モリブデン酸塩粒子中のモリブデンに対するアンモニア溶液中のアンモニアのモル比が0.5以上となるようにモリブデン酸塩粒子の表面にアンモニア溶液を付着させる請求項1または2記載の易溶解性三酸化モリブデン粒子の製造方法。
- アンモニア添加モリブデン酸塩粒子を炉内で焼成し、焼成の際に発生したアンモニアガスを炉内から除去しながらアンモニア添加モリブデン酸塩粒子を焼成する請求項1、2または3記載の易溶解性三酸化モリブデン粒子の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって得られた易溶解性三酸化モリブデン粒子。
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