JP5867260B2 - 光学素子用成形型及び光学素子の成形方法 - Google Patents

光学素子用成形型及び光学素子の成形方法 Download PDF

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本発明は、ガラスレンズなどの光学素子のプレス成形に用いる光学素子用成形型及び光学素子の成形方法に係り、特に、得られる光学素子の偏心精度を向上できる光学素子用成形型及びそれを用いた光学素子の成形方法に関する。以下、光学素子用成形型は単に成形型ともいう。
ガラス材料等の光学素子成形素材を、加熱により軟化させ、光学素子の形状に対応させて精密加工した上型と下型の間でプレス成形し、これを冷却固化させるようにした光学素子の成形方法が知られている。以下、光学素子成形素材は単に成形素材ともいう。
ところで、光学素子は、撮像機器、光ピックアップなどに多用され、その画素数や記録密度の増大に伴い、偏心精度などの要求精度が極度にきびしくなってきている。光学素子の偏心精度は、光学素子における第一面の中心軸と第二面の中心軸との一致を要求する精度であり、平行偏心(ディセンタ)、傾き偏心(チルト)などによって評価されている。
このような光学素子の偏心精度を向上できる成形型としては、例えば、胴型内に短筒状のリング部材を内挿するとともに、上下型を、それぞれ胴型に収容される大径部と先端に成形面が形成され前記リング部材内に摺動自在に内挿される小径部とで構成したモールドプレス成形用の成形型が知られている。これは、大径部を胴型の内周に、小径部をリング部材の内周にそれぞれ収容させることで上下型の成形面の位置合わせを精度良く行うものである(特許文献1及び2参照)。
特開2006−143483号公報 特開2005−343760号公報
しかしながら、特許文献1及び2に開示された成形型では、上下型の大径部が摺動可能な胴型と、胴型内に配置され、上下型が摺動可能な内径を有するリング状部材と、を用意し、これら部材を組み立てて成形型を構成しなければならない。また、使用する上型及び下型においても、それぞれ大径部と小径部という胴部に段差を有する形状としなければならない。
しかしながら、このような特殊形状とすると、成形型の製造過程において、上型、下型及び胴型の全ての部材で大径部と小径部とを形成しなければならず加工工程が増え、その製造には手間がかかっている。また、リング部材は胴型と別部材であるため、所定の位置に固定する場合には、工程が煩雑になる。そして、このように製造された上型、下型、胴型は全て対応させた形状となっているため、全て専用の成形型として製造しなければならない。
そこで、本発明は、従来頻繁に使用されている段差を有しない円柱状の上型、下型を有効活用しながら、上下型の中心軸を高い精度で確保して光学素子の偏心精度を高められる光学素子用成形型及び光学素子の成形方法の提供を目的とする。
本発明の光学素子用成形型は、円柱状の胴部からなり、それぞれ対向する面に成形面を有する一対の上型及び下型と、前記上型及び下型の胴部がそれぞれ摺動可能に嵌合され、前記成形面の中心軸の位置合わせを行う円筒状の内胴と、該内胴の外周に間隙を設けて配置され、前記上型及び下型の上下方向の間隔を規制する円筒状の外胴と、を有するプレス成形用の光学素子用成形型であって、前記内胴は、その内周面の所定の高さ領域に、プレス時に前記上型及び下型の成形面側の外周側面と摺接可能な内径を有する段差を設け、前記高さ領域外の内径を、前記段差の内径よりも0.1〜10μm大径としたことを特徴とする。
また、本発明の光学素子の成形方法は、本発明の光学素子用成形型に光学素子成形素材を収容し、前記光学素子用成形型を加熱して該光学素子用成形型内の光学素子成形素材をも加熱する加熱工程と、前記上型及び下型の胴部側面と前記内胴の段差とを接触させながら、加熱した光学素子成形素材を前記光学素子用成形型により加圧して光学素子形状を付与するプレス工程と、プレス工程後、前記光学素子用成形型を冷却し、光学素子形状を付与した光学素子成形素材を固化させる冷却工程と、を有することを特徴とする。
本発明の成形型及び光学素子の成形方法によれば、上型及び下型の胴部側面と内胴の内周面に形成された微小な段差とを接触させながらプレス成形でき、これにより上型及び下型の中心軸のずれが抑制され、得られる光学素子の偏心精度を向上できる。
さらに、本発明は、内胴の形状に特徴を有するが、従来使用していた上型及び下型をそのまま使用できるため、部材の有効活用が図れ、廃棄物等を少なくしつつ、製造する光学素子の精度を向上でき、環境負荷の少ない光学素子の成形型及び製造方法である。
本発明の一実施形態である成形型を模式的に示した側断面図である。 図1の成形型の上型、下型及び内胴の形状を説明する図である。 本発明の光学素子用成形方法の加熱工程を説明する図である。 本発明の光学素子用成形方法のプレス工程を説明する図である。 本発明の成形型のディセンタが生じる状態を説明する図である。 本発明の成形型のチルトが生じる状態を説明する図である。 従来の成形型のディセンタが生じる状態を説明する図である。 従来の成形型のチルトが生じる状態を説明する図である。 本発明の他の一実施形態である成形型の側断面図である。
以下、本発明について図面を参照しながら説明する。ここで、図1は本発明の一実施形態である成形型を模式的に示した側断面図であり、図2は、上型、下型及び内胴の形状を説明する図であり、図3A及びBは光学素子の成形方法を説明する図であり、図4A及びBは、図1の成形型によるディセンタ及びチルトの低減効果を説明する図である。
まず、図1に示した成形型1は、成形素材をプレス成形可能であり、光学素子の上面を成形する上型2、光学素子の下面を成形する下型3、上型2及び下型3と摺動させて、光学素子の中心軸の位置合わせを行う円筒状の内胴4と、内胴4の外周に配置されており、上型及び下型の上下方向の距離を規制するための円筒状の外胴5と、からなる。
本実施形態において、上型2及び下型3はそれぞれ円柱状の胴部を基本形状とする部材であり、これらの上型2及び下型3には、使用時にこれらの型が安定するように上型の上端にはフランジ2aが、下型の下端にはフランジ3aがそれぞれ設けられている。また、これらの上型及び下型は光学素子を形成するため、上型2には光学素子の上面を形成する成形面が、下型3には光学素子の下面を形成する成形面が形成されており、上型2及び下型3は、これら成形面を互いに対向させて一対の部材として使用する。
また、内胴4は、中空円筒形状に形成されており、その中空部分は上記した上型2及び下型3の円柱状の胴部が嵌合可能なようになっている。なお、この内胴4の内周面の所定の高さ領域には、プレス時に上型2及び下型3の成形面側の外周側面と摺接可能に形成された段差4aが設けられ、その高さ領域以外は、段差4aの内径よりも0.1〜10μm大径となっている。この段差4aは、プレス成形時に、上型2及び下型3と接触しながら位置規制ができるように、内胴4の内周面に沿って輪環状に形成されている。
この内胴4は、上型2及び下型3を嵌合してプレスする際に、これら上型2及び下型3を摺動させながら光学素子の中心軸を位置合わせして、上型2及び下型3で形成される光学素子の光学機能面を同軸上に規制する。
また、外胴5は、内胴4と同様に中空円筒形状であって、内胴4と同一の中心軸を有しており、内胴4を内挿可能とし、上型2及び下型3間の距離を規制する。具体的には、上型2及び下型3をそれぞれプレス手段で押圧してプレス成形する際に、プレス手段間の距離を、この外胴5で規制することで上型2及び下型3の距離を規制する。
そして、本発明は、内胴4の形状に特徴を有するものであり、さらに、内胴4と上型2及び下型3との寸法を特定の関係にすれば、製造される光学素子の偏心精度をさらに向上できる。この点について図2を参照しながら説明する。
図2は、図1の上型2、下型3及び内胴4のみを抜き出したもので、さらに、これら部材がプレス成形による成形素材を押し切ったときの位置関係を示している。この図2において、上型2の胴部直径をD1、下型3の胴部直径をD2、内胴4の上型挿入側の内径をD3、内胴4の段差4aの内径をD4、内胴4の下型挿入側の内径をD5とし、上型2の内胴4へ挿入される勘合長をL1、下型3の内胴4へ挿入される勘合長をL2、勘合長L1から上型2と内胴4の段差4aとの接触長さを引いた長さをL3、内胴4の段差4aの長さ(幅)をL4、勘合長L2から下型3と内胴4の段差4aとの接触長さを引いた長さをL5、とした。
ここで、段差4aの内径はD4で、それ以外の内胴内周面の内径はD3及びD5であるため、段差4aの高さは(D3−D4)及び(D5−D4)で表わされ、この段差が上記したように0.1〜10μmの範囲にあり、0.5〜5μmが好ましい。この段差が、10μmを超えると内胴4の内面の加工が困難となり、内胴4を1つの部材での形成ができなくなってしまう。また、このように段差が大きくなりすぎると、従来の上型2及び下型3のように胴部が段差のない円柱状に形成された部材の内胴4への挿入時における傾きが大きくなってしまい、内胴4の内部への挿入を円滑にできない場合が生じてしまう。そして、0.1μm未満の場合、チルトはTAN−1{{(D4−D1)/2}/L1}とほぼ同等となり、L1の勘合長が確保できれば高精度のチルトが出せるものの高精度のディセンタが出しづらい。高精度のディセンタを得るためにはD4とD1、D2のクリアランスを小さくする必要があり、そうすると金型挿抜が困難になる。
そして、この段差4aは、内胴4の内周面の所定の高さ領域に形成されているが、この高さ領域は、上型2の成形面と成形素材30との接触時に、段差4aと上型2との接触長さが1mm以上、好ましくは1〜5mm、段差4aと下型3との接触長さが0.5mm以上、好ましくは0.5〜2mmとなるように形成する。
また、L4の長さは成形後のレンズ厚さ+2mm以上が望ましい。
また、内胴4における上型挿入側の内径D3と下型挿入側の内径D5とは同じ内径が好ましく、さらに、上型2の胴部直径D1と下型3の胴部直径D2とは同じ直径が好ましい。
ここで、上型2及び下型3と胴型4のクリアランスは、胴型4における型挿入側において、それぞれ{(D3−D1)/2}、{(D5−D2)/2}で表わされ、これらは共に10μm以下が好ましい。また、段差4aにおけるクリアランスは、それぞれ{(D4−D1)/2}、{(D4−D2)/2}で表わされ、これらは共に3μm以下が好ましい。
そして、勘合長L1、L2はL1≧L2の関係を満たすことが好ましく、L1=L2であってもよい。また、同様に、内胴4において、上型挿入側の上型2との非接触部分の長さL3と下型挿入側の下型3との非接触部分の長さL5とは、L3≧L5の関係を満たすことが好ましく、L3=L5であってもよい。
さらに、図2に示した成形型である場合に、成形される光学素子の上型側のチルトの最大値はTAN−1{{(D4−D1)/2+(D3−D1)/2}/L1}、下型側のチルトの最大値はTAN−1{{(D5−D2)/2+(D4−D2)/2}/L2}で計算できる。ここで、このチルトの最大値は両者共、0.016度以下とすると偏りの少ない光学素子となるため好ましい。
また、成形される光学素子のディセンタの最大値は、上記した上型2及び下型3と胴型4の段差4aとのクリアランス{(D4−D1)/2}、{(D4−D2)/2}で表わされ、上記のとおり3μm以下の範囲とするのが好ましい。
なお、それぞれの型挿入側の内径から段差4aへの接続部分は、傾斜をもったテーパ形状のように徐々に内径が狭まるように形成する。このような形状は、内胴4の加工の際にも容易に対応でき、また、プレス成形時に上型2及び下型3が内胴4に嵌合され、摺動する際に、円滑に所定の位置まで動作させられ、好ましい。
このように上記説明した成形型は、超硬合金やセラミックス等の素材からなり、上型2及び下型3には、成形する光学素子の面形状を転写するための成形面がそれぞれ対向する面に形成されている。図1及び図2では、成形型として両凸形状の光学素子を製造するものを図示したが、光学素子形状はこれに限定されるものではなく、両凹、平凸、平凹、凸メニスカス、凹メニスカス形状のいずれの形状を成形する成形型であっても使用できる。
なお、外胴5は、上記セラミックス以外にも、ステンレス、インコネル(大同スペシャルメタル株式会社製、商品名)等の耐熱性のある金属も使用でき、ステンレス製とすると、加工が容易で、熱膨張量が大きく安価である点で好ましい。また、このとき、室温からプレス成形の成形温度における、外胴の上下方向における熱膨張量を、成形素材の上下方向の熱膨張量よりも大きくすることが、成形操作において光学素子に圧力が抜ける時間を生じさせることなく、安定して成形できる点から好ましい。
次に、この成形型1を用いた光学素子の成形方法について、図3A及びBを参照しながら説明する。
まず、成形型の内部に成形素材30を収容し、成形型を加熱して、予め所定の温度まで熱して予備加熱を行っておく。次いで、成形型をプレス手段20b上に移動させプレス手段20bを下型3に接触させる(図3A)。その後、プレス手段20aを押し下げてプレス手段20a及び20bをそれぞれ上型2及び下型3に接触させ、さらに加熱させると、その内部に収容されている成形素材30も加熱され、これにより成形素材が軟化する。
成形素材は、変形が容易な屈伏点以上に加熱するが、一般的には、軟化点まで温度を上げるとレンズ表面が白濁するので屈伏点(At)から軟化点の間の温度に設定する。
この加熱温度は、用いる成形素材が加圧変形できる温度であればよく、屈伏点と軟化点との中間付近の温度が好ましい。プレス手段20a及び20bを所定の温度に設定して、この加熱工程を行うと、上型2及び下型3は、温度が昇温していきプレス手段の設定温度と同じ温度にまで加熱される。
上型2及び下型3が加熱され、成形素材がプレス成形するのに十分な温度となったところで、プレス手段20aは、これを下降させプレス手段20a及び20b間の距離を狭めることにより、上型2と下型3との距離を狭めて、成形型の内部に収容された成形素材30に圧力をかけて変形させてプレス成形を行う。このとき、上型2及び下型3の間の上下方向の距離は、外胴5の高さにより所定の距離に規制される。
このプレス工程では、上記したように成形型の上下から圧力をかけることで成形素材30のプレス成形を行い、これにより成形素材には上型2及び下型3の光学形成面が転写され、光学素子形状が付与される(図3B)。
このプレス工程におけるプレス時の圧力は、1〜30N/mmとすることが好ましく、例えば、5〜15N/mmが特に好ましい。ここで言うプレス時の圧力とは、成形素材に加わる圧力を指す。
そして、このようにプレス工程で成形素材に光学素子形状を付与した後、成形型1を、今度は冷却手段上に移動させて、冷却手段と成形型1を接触させて、成形型1を冷却することによって、成形素材の冷却、固化を行う。
この冷却工程においては、成形された成形素材30が、歪点以下になるまで冷却することが好ましい。この冷却工程においても、成形素材30への加圧は継続して行うことが好ましく、上記歪点以下の温度になるまで加圧を続けることが好ましい。
さらに、この冷却中に、成形素材の温度がガラス転移点以下になったところで、成形素材に加圧する圧力を変化させることもでき、例えば、成形素材30の温度が、ガラス転移点以上のときにはプレス時の圧力と同じ圧力としておき、ガラス転移点よりも低い温度になってからは圧力を高くして、段階的に加圧してもよい。
ガラス転移点以上の温度を低圧にするのは、肉厚バラツキを抑えるためであり、それ以下の温度域では押込み量がほとんど無いので増圧しても問題ない。すなわち、成形素材が硬化状態に近づくガラス転移点(Tg)付近までは低い圧力で保圧し、ガラス転移点(Tg)付近からそれ以下の温度となり成形素材が固化するまで、より高い圧力をかける。このように冷却工程において圧力を継続してかけることにより光学素子の面形状が安定する。
なお、ここで、低い圧力とは2.5N/mm以下、高い圧力とは2.5N/mm超である。また、成形素材が歪点以下となり、固化した後は、さらに20N/mm超となるような高い圧力をかけてもよい。このように段階的に圧力を高めることで光学素子の面ワレが生じる等の不具合が生じることを抑制し、形状精度を高めることができる。また、固化した後の圧力としては、ガラス素材にワレが生じる等の不具合が生じない限りはどのような圧力でもよいが、通常、30N/mm程度が上限である。上記では2段階又は3段階に圧力を増加させていく例を説明したが、それ以上の多段階として増圧してもよい。本明細書において、面ワレとは、光学素子が成形型から離型する際に、一部だけが先に離型し、その後に残りが離型した場合に、曲率が不連続な光学面が形成されて非球面形状精度が悪化する不良が生じる離型異常のことを言う。
そして、このように冷却工程が完了した成形型は、さらに冷却させるために、例えば、水冷手段上へ移動させる。この水冷手段による冷却は、冷却工程で冷却された成形素材をさらに急冷させ、成形素材を歪点付近の温度から成形型が酸化しない温度の200℃以下まで冷却させる。
このように、従来と同様の操作によりプレス成形をするが、本発明においては図4A及び4Bに示したように、ディセンタ及びチルトを有効に抑え、精度の高い光学素子を成形できる。
すなわち、図4Aに示したように、段差4aにより上型2の成形面の位置は強制的に中央に寄せられて、ずれが非常に小さくなる。一方、従来良く用いられている成形型の場合には、図5Aに示したように、内胴54と上型2とが、そのクリアランスの分だけ水平方向にずれ、ディセンタが大きくなってしまう。
また、同様に、図4Bに示したように、段差4aにより上型2が内胴4内で傾斜した場合でも、その傾斜角度が抑えられずれが非常に小さくなる。一方、従来良く用いられている成形型の場合には、図5Bに示したように、内胴54と上型2とが、より角度をもって傾斜する余地があるため、その分、軸が傾いてチルトが大きくなってしまう。
このように、本発明の成形型においては、ディセンタ及びチルトが効果的に抑制され、精度の高い光学素子を成形できる。また、図4及び図5では、内胴と上型との関係のみを示したが、下型についても同様の効果を奏し、本発明を用いて得られる光学素子は精度が非常に良好なものとなる。
なお、ここで用いたプレス手段20a及び20bは、これらの間の距離を狭めることにより成形型の上型2と下型3との距離を狭めることができ、成形型内に収容された成形素材30を軟化状態のまま押圧して変形させ、上型2及び下型3の光学形成面形状を成形素材30に付与することにより光学素子の成形を行う。すなわち、このプレス手段であるプレス手段20a及び20bは、成形型の加熱状態を維持しながらプレス操作ができるもので、その内部にはヒータが埋め込まれている。
このプレス手段20a及び20bは、成形素材をプレスする際に、成形型の外胴5の高さによりプレス手段20a及び20b間の距離を規制することで、上型2及び下型3の距離を調整する。これにより成形される光学素子の厚みが調整される。
このようにして冷却、固化して得られた光学素子は、その外周部を切削等により所望の径を有する光学素子形状に加工し、さらに、アニール工程等に付されて歪み等を除去する等の後処理を施して最終的な製品とされる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明するが、この実施形態における成形型11は、図6に示したように、成形素材をプレス成形可能であり、光学素子の上面を成形する上型2、光学素子の下面を成形する下型3、上型2及び下型3と摺動させて、光学素子の中心軸の位置合わせを行う円筒状の内胴14と、内胴の外周に配置されており、上型及び下型の上下方向の距離を規制するための円筒状の外胴15と、からなる。
ここで、本実施形態の成形型11は、内胴14の下端にフランジ14bを設け、このフランジ14bが下型3のフランジ3aに対し上方向から重なり、プレス時には外胴15により内胴14のフランジ14bが下方向に押圧されて、下型3と互いに圧接できる。すなわち、図1の成形型1とは、内胴14が下型3を押圧でき、さらに、外胴15の高さは内胴14がフランジ14bを有する分、高さが調整されている。それ以外は、第1の実施形態と同様に構成され、それらの機能は全く同一である。
そして、この内胴14がその円筒形状の外周の下端にフランジ14bを有しているため、成形素材をプレスする際に、外胴15がそのフランジ14bの上部から押圧して、内胴14のフランジ14bと下型3のフランジ3aとを互いに圧接させる。
このように内胴14が下型3に圧接されると、内胴14のフランジ14bは、下型3のフランジ3a部分に押しつけられ、その上面に隙間なく重なることとなり、内胴14のフランジ14b部分を強制的に水平面と平行にできる(下型3が載置されるプレス手段は、その下型3との接触面を厳密に水平になるように管理されている)。そして、この内胴14のフランジ14b部分が水平となると、その円筒形状の本体は、鉛直方向に立った形となり、それに伴い、その内部に嵌挿されている上型2及び下型3の中心軸を鉛直方向に一致させる方向に補正する力が働くのである。
このフランジ14bは、内胴14の内径に対して、その直径を1.1〜6倍の範囲にすることが好ましく、径を大きくすることにより圧接された際の下型3の配置が安定し、光学素子の中心軸の位置合わせの精度を向上できる。
この成形型11によるプレス成形は、第1の実施形態等同様に操作すればよいが、この第2の実施形態では、プレス工程において、内胴14はそのフランジ14bが、外胴15とプレス手段20bに挟まれる形となり、外胴15により上部から押圧されるため、下型3のフランジ3aに上から圧接することとなる。
このように圧接された内胴14は、そのフランジ14bが、下型3のフランジ3aと隙間なく重なり、これらフランジ3a及び14bは、互いに平行となる。このとき、プレス手段20bは、その上面が水平面となるように厳密に管理・調整されているため、その上に載置された下型3のフランジ3aも水平面に平行となっており、この圧接動作によって内胴14のフランジ14bも水平面と平行になる。
このようにフランジ14bが水平面となると、内胴14の円筒形状である本体部分の中心軸は、鉛直方向に対するずれが極めて小さくなる。すなわち、この内胴14で中心の位置を規制される上型2及び下型3の中心軸が一致するように力が働くのである。
したがって、この第2の実施形態においては、成形される光学素子の上型側のチルトの最大値であるTAN−1{{(D4−D1)/2+(D3−D1)/2}/L1}、下型側のチルトの最大値であるTAN−1{{(D5−D2)/2+(D4−D2)/2}/L2}で計算される値が0.016度よりも大きい場合でも、実際のプレス成形時にずれを小さくする力が働く。そのため、例えば、上記計算式で算出される値が、0.04度程度であっても、フランジ14bの水平面と内径の直角度が0.002度以下であれば第1の実施形態と同程度の偏りの少ない光学素子が得られる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
(実施例1)
図6の成形型を用いて、光学素子の成形を以下のとおり行った。
ここで用いた成形型は、タングステンカーバイドからなる超硬合金製のものであり、プレス成形により、直径12.2mm、中心厚さ1.5mm、周辺厚さ0.9mmの両凸形状の光学素子が得られる。ここで、上型は胴部の直径がφ14.995〜14.9985mm、フランジの直径がφ20mm、フランジの厚みが3mmであり、下型は胴部の直径がφ14.995〜14.9985mm、フランジの直径がφ26mm、厚みが3mmであり、内胴はその円筒状の内径がφ15.0025mmで精度を出す段差の内周面は上型及び下型とはクリアランスを最大で2.5μm、最小で0.5μm設け、段差から各型の挿入口までの内周面は上型及び下型とはクリアランスを最大で4μm、最小で2μmとし、外径がφ20mm、高さが24.5mm、フランジの直径が25.8mm、フランジの厚みが3mmであり、フランジの水平面と内径との直角度が 0.001度である。なお、外胴はSUS316L製で、その円筒状の内径がφ20.6mm、外径がφ25.6mm、長さが25.5mmのものを用いた。
ここで、図2における成形型の関係は、D1が14.995〜14.9985mm、D2が14.995〜14.9985mm、D3が15.0025mm、D4が15.001mm、D5が15.0025mm、L1が13.96mm、L2が7mm、L3が11mm、L4が8.5mm、L5が5mmであり、このときの上型の最大チルトが0.0133度、最大ディセンタが1.25μm、下型の最大チルトが0.0266度、最大ディセンタが1.25μmである。
この成形型の内部に直径φ5.1mmの球状のリン酸系の成形素材を収容し、成形型を550℃に加熱した。なお、この成形素材の歪点は445℃、ガラス転移点(Tg)は484℃、屈伏点(At)は517℃である。
成形素材を収容した成形型を、520℃程度に予備加熱した後、搬送手段により550℃に加熱されたプレス手段20b上に搬送して載置すると同時に、プレス手段20bと同じ温度に維持されたプレス手段20aを、下降させて上型2に接触させ、上型2、下型3及び成形素材30を55秒間十分に加熱し、昇温させて成形素材を軟化状態とした。
次に、上型2、下型3及び成形素材30が十分に加熱され、プレス手段20a及び20bと同程度の温度(550℃程度)となったところで、プレス手段20aをさらに下降させ、上型2及び下型3により成形素材30のプレス成形を行った。成形時の圧力を22N/mmとし、55秒程度押圧して押切った。
次に、成形型1を搬送手段により冷却手段上に搬送して載置させ、成形型全体を冷却した。この冷却の際にも、成形素材30へ22N/mmの圧力をかけるようにして、成形素材の歪点以下になるまで冷却した。
成形素材が歪点以下の温度となったところで、成形型を冷却手段から水冷手段上に搬送させて載置し、成形素材を室温になるまで冷却した。成形素材が十分に冷却したところで、成形型から取り出し、光学素子を得た。
この光学素子の成形操作を15ショット行い、得られた光学素子のディセンタに対する工程能力指数(cpk)と標準偏差及びチルトに対する工程能力指数(cpk)と標準偏差を求め、その結果を表1に示した。
(比較例1)
成形型として、図1の内胴の内周面に段差を有しておらず、ストレートな内周面を有し、この内周面において上型及び下型とのクリアランスが最大で4μm、最小で2μmとなっている内胴を用いた以外は、実施例1と同様の操作により光学素子の成形操作を行った。
この光学素子の成形操作を15ショット行い、得られた光学素子のディセンタに対する工程能力指数(cpk)と標準偏差及びチルトに対する標準偏差と工程能力指数(cpk)を同一基準で求め、その結果を表1に示した。工程能力指数を求める際に使用した限界値はディセンタが5μm、チルトが60″とした。
Figure 0005867260
以上に示したように、本発明の光学素子の成形方法により、特に、内胴による光学素子の中心軸を、従来に比べて精度よく合わせることができ、形状精度の高い光学素子を得ることができる。
本発明の光学素子の成形方法及び成形装置は、プレス成形による光学素子の製造に使用できる。
1…光学素子用成形型(成形型)、2…上型、3…下型、2a,3a…フランジ、4…内胴、4a…段差、5…外胴、30…光学素子成形素材(成形素材)

Claims (8)

  1. 円柱状の胴部からなり、それぞれ対向する面に成形面を有する一対の上型及び下型と、前記上型及び下型の胴部がそれぞれ摺動可能に嵌合され、前記成形面の中心軸の位置合わせを行う円筒状の内胴と、該内胴の外周に間隙を設けて配置され、前記上型及び下型の上下方向の間隔を規制する円筒状の外胴と、を有するプレス成形用の光学素子用成形型であって、
    前記内胴は、その内周面の所定の高さ領域に、プレス時に前記上型及び下型の成形面側の外周側面と摺接可能な内径を有する段差を設け、前記高さ領域外の内径を、前記段差の内径よりも0.1〜10μm大径としたことを特徴とする光学素子用成形型。
  2. 前記段差と前記上型との接触長さが、前記上型の成形面と光学素子成形素材との接触時に1mm以上であり、前記段差と前記下型との接触長さが、0.5mm以上である請求項1記載の光学素子用成形型。
  3. 前記上型の胴部直径をD1、前記下型の胴部直径をD2、前記内胴の上型挿入側の内径をD3、前記内胴の段差の内径をD4、前記内胴の下型挿入側の内径をD5とし、前記上型の内胴へ挿入される勘合長をL1、前記下型の内胴へ挿入される勘合長をL2としたとき、
    TAN−1{{(D4−D1)/2+(D3−D1)/2}/L1}とTAN−1{{(D5−D2)/2+(D4−D2)/2}/L2}とで表わされる上型のチルトと下型のチルトが、共に0.016度以下である請求項1又は2記載の光学素子用成形型。
  4. {(D3−D1)/2}及び{(D5−D2)/2}が10μm以下、{(D4−D1)/2}及び{(D4−D2)/2}が3μm以下である請求項3記載の光学素子用成形型。
  5. 前記下型の下端と内胴の下端に、プレス成形時に互いに圧接されるフランジをそれぞれ有し、かつ、プレス成形時に前記外胴が、前記内胴のフランジを上部から押圧する請求項1〜4のいずれか1項記載の光学素子用成形型。
  6. 前記内胴のフランジの直径が、前記内胴の内径の1.1〜6倍であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の光学素子用成形型。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項記載の光学素子用成形型に光学素子成形素材を収容し、前記光学素子用成形型を加熱して該光学素子用成形型内の光学素子成形素材をも加熱する加熱工程と、
    前記上型及び下型の成形面側の外周側面と前記内胴の段差とを接触させながら、加熱した光学素子成形素材を前記光学素子用成形型により加圧して光学素子形状を付与するプレス工程と、
    プレス工程後、前記光学素子用成形型を冷却し、光学素子形状を付与した光学素子成形素材を固化させる冷却工程と、
    を有することを特徴とする光学素子の成形方法。
  8. 前記冷却工程において、前記光学素子成形素材の加圧状態を維持する請求項7記載の光学素子の成形方法。
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