JP5861599B2 - 原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents
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2×Ts≦TH≦3×Ts (1)
ここで、Tsには、準最終の固溶化熱処理の場合、準最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入され、最終の固溶化熱処理の場合、最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入される。
本実施形態による原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼は、以下の化学組成を有する。
炭素(C)は、原子炉水温度域(300℃近傍)での鋼の強度を高める。C含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、C含有量が高すぎれば、鋼の耐SCC性、より具体的には、耐粒界応力腐食割れ(IGSCC)性が低下する。したがって、C含有量は0.005%以上0.035%未満である。C含有量の好ましい下限は、0.005%よりも高く、さらに好ましくは0.008%である。C含有量の好ましい上限は、0.025%未満であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%である。
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。Si含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、シグマ(σ)相に代表される金属間化合物が析出し、鋼が脆化する。Si含有量が高すぎればさらに、溶接時にオーステナイト凝固した場合に、凝固割れ感受性が高くなる。したがって、Si含有量は0.2%以上1.0%未満である。Si含有量の好ましい下限は、0.2%よりも高く、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.30%である。Si含有量の好ましい上限は0.65%であり、さらに好ましくは0.50%である。
マンガン(Mn)は、オーステナイト相を安定化する。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼において、Mnは、Cr、Ni及びNとの適正な組み合わせにより、鋼の強度及び溶接性を高める。Mn含有量が低すぎれば、上記効果は有効に得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、Mnが溶接部の表面に優先的に濃化し、鋼の耐食性を低下する。したがって、Mn含有量は4.0%以上7.0%未満である。Mn含有量の好ましい下限は、4.0%よりも高く、さらに好ましくは4.5%である。Mn含有量の好ましい上限は6.0%であり、さらに好ましくは5.5%である。
原子炉水温度域は300℃近傍の高温であるため、炉水中の溶存酸素濃度が高い場合、鋼の腐食が加速する。クロム(Cr)は、このような原子炉水温度域における鋼の耐食性を高める。さらに、Crはフェライト生成元素であるため、凝固時において鋼がアルファ(α)相から凝固する。そのため、凝固時のオーステナイト粒が微細になり、母材結晶粒の成長を抑制し,細粒化に有効である.また,HAZ割れも抑制される。Cr含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、σ相に代表される金属間化合物が析出し、鋼が脆化する。したがって、Cr含有量は20〜25%である。Cr含有量の好ましい下限は20%よりも高く、さらに好ましくは21%であり、さらに好ましくは21.5%である。Cr含有量の好ましい上限は、25%未満であり、さらに好ましくは23%であり、さらに好ましくは22.5%である。
ニッケル(Ni)は、オーステナイト相を安定化し、原子炉水温度域での鋼の耐食性を高める。Ni含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、溶接凝固時において、鋼がガンマ(γ)相から凝固するため、母材でのHAZ割れが発生しやすくなる。したがって、C、N及びMn等との相乗効果も考慮して、Ni含有量は11〜14%である。Ni含有量の好ましい下限は11%よりも高く、さらに好ましくは11.5%であり、さらに好ましくは12.5%である。Ni含有量の好ましい上限は14%未満であり、さらに好ましくは13.5%であり、さらに好ましくは13.0%である。
モリブデン(Mo)は、鋼の不働態皮膜を安定化し、鋼の耐全面腐食性を高める。Mo含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、Mo含有量が高すぎれば、σ相に代表される金属間化合物が析出して鋼が脆化する。したがって、Mo含有量は1.5〜3.0%である。Mo含有量の好ましい下限は、1.5%よりも高く、さらに好ましくは1.8%である。Mo含有量の好ましい上限は3.0%未満であり、さらに好ましくは2.5%であり、さらに好ましくは2.3%である。
窒素(N)は、固溶強化により鋼の強度を高める。Nはさらに、炭窒化物を形成して鋼の高温強度を高める。N含有量が低すぎれば、上記効果が有効に得られない。一方、N含有量が高すぎれば、炭窒化物に粒内に過剰に生成されて結晶粒が硬くなり過ぎ、溶接時にHAZ割れが発生しやすくなったり、粒界にCr炭窒化物が生成して鋼の耐応力腐食割れ性が低下したりする。したがって、N含有量は0.2〜0.4%である。N含有量の好ましい下限は0.2%よりも高く、さらに好ましくは0.28%であり、さらに好ましくは0.30%である。N含有量の好ましい上限は0.4%未満であり、さらに好ましくは0.36%であり、さらに好ましくは0.34%である。
V:0.15〜0.28%
ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)はいずれも、鋼の高温強度を高める。Nb及びVは、結晶粒内で炭窒化物として析出し、鋼を析出強化する。Nb及びVの炭窒化物はさらに、ピンニング作用により結晶粒を微細化し、さらに高温強度を高める。Nb及びV含有量が低すぎれば、上記効果が得られにくい。一方、Nb及びV含有量が高すぎれば、結晶粒が硬くなり過ぎ、溶接時にHAZ割れが発生しやすくなる。したがって、Nb含有量は0.15〜0.28%であり、V含有量は0.15〜0.28%である。Nb含有量の好ましい下限は0.15%よりも高く、さらに好ましくは0.18%である。Nb含有量の好ましい上限は0.28%未満であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。V含有量の好ましい下限は0.15%よりも高く、さらに好ましくは0.18%である。V含有量の好ましい上限は0.28%未満であり、さらに好ましくは0.23%である。
燐(P)は不純物である。PはHAZの割れ感受性を高める。したがって、P含有量はなるべく低い方が好ましい。P含有量は0.018%以下である。好ましいP含有量は0.018%未満であり、さらに好ましくは0.015%以下であり、さらに好ましくは0.013%以下である。
硫黄(S)は不純物である。S含有量が高すぎれば、粒界脆化が発生し、鋼の耐食性も低下する。本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼は、Cを粒内炭窒化物として粒内に固定し、粒界鋭敏化を抑制する。粒内での炭窒化物の析出が促進すれば、粒内強度が高まる。そのため、S含有量が高すぎれば、Sの偏析により脆化した粒界と、炭窒化物により強度が高まった粒内との強度差が大きくなる。その結果、HAZでの延性低下割れ感受性が増大する。したがって、S含有量はなるべく低い方が好ましい。S含有量は0.002%以下である。好ましS含有量は0.002%未満であり、さらに好ましくは0.001%以下であり、さらに好ましくは0.0008%以下である。
コバルト(Co)は不純物である。鋼中のCoは、59Coである。しかしながら、仮に、Coが部材の摩耗により炉水に取り込まれ、炉心まで搬送された場合、Coは炉心で放射化して60Coに変換される。60Coの半減期は272年と長いため、原子力発電所作業員の放射線被ばく線源となり得る。したがって、Co含有量はなるべく低い方が好ましい。Co含有量は0.05%以下である。ステンレス鋼を電気炉で溶製する場合、Co含有量を0.05%以下にするにはコストが掛かる。一方、ステンレス鋼を高炉により溶製する場合、Co含有量を0.05%以下にしやすい。好ましいCo含有量は0.05%未満であり、さらに好ましくは0.02%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。
本実施形態のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法の一例を説明する。上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。たとえば、電気炉やAOD(Argon Oxygen Decarburization)炉、VOD(Vacuum Oxygen Decarburization)炉を用いて、上記溶鋼を製造する。
準最終固溶化熱処理では、熱処理温度を1120〜1230℃にする。この場合、鋼中の合金元素が十分に均質化する。熱処理温度が低すぎれば、鋼中の元素の均一な固溶が不十分になり、後の最終固溶化熱処理工程において、炭窒化物の析出が不足する。そのため、上述の高温強度(300℃での0.2%耐力及び引張強度)が得られにくい。一方、熱処理温度が高すぎても、結晶粒が粗大化し、高温強度が得られない。したがって、準最終固溶化熱処理において、熱処理温度は1120〜1230℃である。熱処理温度の好ましい下限は1150℃であり、好ましい上限は1200℃である。
準最終固溶化熱処理を実施した後、オーステナイト系ステンレス鋼材に対して最終の冷間加工を実施する。冷間加工はたとえば、冷間圧延や、冷間抽伸である。冷間加工による断面減少率RAは20〜40%にする。ここで、断面減少率RA(%)は、次の式(A)で定義される。
断面減少率RAが低すぎれば、鋼材に付与された加工歪が少なすぎるため、最終固溶化熱処理工程で微細な炭窒化物が析出しにくい。そのため、上述の高温強度が得られにくい。
最終固溶化熱処理工程では、微細な炭窒化物を析出し、微細な炭窒化物及び再結晶により、結晶粒を微細化する。
準最終及び最終固溶化熱処理における熱処理時間TH(min)は、次の式(1)を満たす。
2×Ts≦TH≦3×Ts (1)
ここで、Tsは、準最終固溶化熱処理又は最終固溶化熱処理が実施される鋼材の厚さ(mm)である。より具体的には、Tsには、準最終の固溶化熱処理の場合、準最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入され、最終の固溶化熱処理の場合、最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入される。
[試験方法]
JIS G0567に基づいて、試験素材から、平行部の長さが50mmの丸棒引張試験片を作製した。丸棒引張試験片を用いて、300℃にて引張試験を実施し、0.2%耐力(MPa)及び引張強度(MPa)を得た。引張速度は、0.2%耐力までは0.3%/min、それ以降は7.5%/minとした。
溶接後の耐HAZ割れ性を評価するため、ロンジバレストレイン試験を実施した。試験素材から板厚10mm、幅50mm、長さ300mmの板状試験片を作製した。
各試験番号の試験素材に対して、700℃で5時間の鋭敏化処理を実施した。その後、試験素材から、厚さ2mm、幅10mm、長さ75mmの短冊試験片を2枚作製した。2枚の短冊試験片を重ねて、JIS G0576に準拠したダブルUベンド試験片を作製した。
表2を参照して、試験番号1〜7の化学組成は適切であり、準最終及び最終固溶化熱処理における熱処理温度も適切であり、準最終及び最終固溶化熱処理における熱処理時間THはいずれも式(1)を満たした。さらに、最終冷間加工工程での断面減少率RAも適切であった。そのため、試験番号1〜7では、高温(300℃)での0.2%耐力は265〜325MPa、引張強度は560〜610MPaの範囲内であり、ロンジバレストレイン試験においてHAZ割れは観察されなかった。さらに、288℃の高温でのSCC試験において、SCCは確認されなかった。
20 板状試験片
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.005%以上0.035%未満、
Si:0.2%以上1.0%未満、
Mn:4.0%以上7.0%未満、
Cr:20〜25%、
Ni:11〜14%、
Mo:1.5〜3.0%、
N:0.2〜0.4%、
Nb:0.15〜0.28%、及び、
V:0.15〜0.28%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記不純物のうち、P、S及びCoはそれぞれ、
P:0.018%以下、
S:0.002%以下、
Co:0.05%以下であり、
300℃において、0.2%耐力が265〜325MPaであり、引張強度が560〜610MPaである、原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼。 - 請求項1に記載の原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法であって、
準最終の固溶化熱処理を実施し、前記準最終の固溶化熱処理後に最終の冷間加工を実施し、前記最終の冷間加工後に最終の固溶化熱処理を実施し、
前記準最終の固溶化熱処理での熱処理温度は1120〜1230℃であり、前記最終の冷間加工での断面減少率は20〜40%であり、前記最終の固溶化熱処理での熱処理温度は1020℃以上1120℃未満であり、
前記準最終及び最終の固溶化熱処理での熱処理時間TH(min)はそれぞれ、式(1)を満たす、原子炉用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
2×Ts≦TH≦3×Ts (1)
ここで、Tsには、準最終の固溶化熱処理の場合、準最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入され、最終の固溶化熱処理の場合、最終の固溶化熱処理が実施されるときの前記オーステナイト系ステンレス鋼の厚さ(mm)が代入される。
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